(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】予測方法及び予測プログラム、並びに環境制御情報出力方法及び環境制御情報出力プログラム
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20240620BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20240620BHJP
G06Q 50/02 20240101ALI20240620BHJP
【FI】
A01G7/00 603
G06Q10/04
G06Q50/02
(21)【出願番号】P 2024508994
(86)(22)【出願日】2023-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2023027644
【審査請求日】2024-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2022168386
(32)【優先日】2022-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田 篤
(72)【発明者】
【氏名】杉山 智美
(72)【発明者】
【氏名】礒▲崎▼ 真英
(72)【発明者】
【氏名】東出 忠桐
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-48551(JP,A)
【文献】特開2017-51125(JP,A)
【文献】特開2020-53038(JP,A)
【文献】特開2019-176766(JP,A)
【文献】石上清,根域を制限した循環式養液栽培装置による高濃度トマトの生産,静岡県農業試験場研究報告,静岡県農業試験場,1994年02月,vol.38,p.61-72
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
G06Q 10/04
G06Q 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
果菜類における開花から果実の収穫が可能になるまでの栽培期間を分割した複数のステージそれぞれにおける積算日射量と、日中平均二酸化炭素濃度と、の実測値又は予測値を取得し、
前記複数のステージそれぞれにおける積算日射量と日中平均二酸化炭素濃度とに基づいて、前記複数のステージそれぞれにおける前記果実の糖度又は重量に関する第1の指標を算出し、
前記複数のステージそれぞれの前記第1の指標と、前記果菜類の品種ごと、前記ステージごと、に定められた重み係数と、の積を積算した値に基づいて、前記果実の糖度又は重量を予測する、
処理をコンピュータが実行する、ことを特徴とする予測方法。
【請求項2】
前記果菜類の葉面積指数に基づいて前記第1の指標を算出することを特徴とする請求項1に記載の予測方法。
【請求項3】
前記栽培期間を予測する処理を前記コンピュータが更に実行し、
前記予測する処理では、前記開花以降の前記果菜類の果実表面の温度である果実温度を取得又は推定し、前記果実温度に基づいて、前記複数のステージそれぞれの期間を算出し、算出した前記複数のステージそれぞれの期間を合計して、前記栽培期間を予測し、
前記複数のステージそれぞれの期間を算出する際に、前記複数のステージそれぞれの期間の算出結果に対する前記果実温度の寄与度がステージごとに定められている、ことを特徴とする請求項1に記載の予測方法。
【請求項4】
前記果実が栽培されている環境の温度と、日射量と、に基づいて前記果実温度を推定することを特徴とする請求項3に記載の予測方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の予測方法を用いて予測された前記果実の糖度又は重量の予測結果を取得し、
前記予測結果が目標範囲に含まれるように、前記栽培期間、前記積算日射量、及び前記日中平均二酸化炭素濃度の少なくとも1つを調整し、調整後の情報を出力する、処理を前記コンピュータが実行することを特徴とする環境制御情報出力方法。
【請求項6】
果菜類における開花から果実の収穫が可能になるまでの栽培期間を分割した複数のステージそれぞれにおける積算日射量と、日中平均二酸化炭素濃度と、の実測値又は予測値を取得し、
前記複数のステージそれぞれにおける積算日射量と日中平均二酸化炭素濃度とに基づいて、前記複数のステージそれぞれにおける前記果実の糖度又は重量に関する第1の指標を算出し、
前記複数のステージそれぞれの前記第1の指標と、前記果菜類の品種ごと、前記ステージごと、に定められた重み係数と、の積を積算した値に基づいて、前記果実の糖度又は重量を予測する、
処理をコンピュータに実行させる、ことを特徴とする予測プログラム。
【請求項7】
果菜類における開花から果実の収穫が可能になるまでの栽培期間を分割した複数のステージそれぞれにおける積算日射量と、日中平均二酸化炭素濃度と、の実測値又は予測値を取得し、
前記複数のステージそれぞれにおける積算日射量と日中平均二酸化炭素濃度とに基づいて、前記複数のステージそれぞれにおける前記果実の糖度又は重量に関する第1の指標を算出し、
前記複数のステージそれぞれの前記第1の指標と、前記果菜類の品種ごと、前記ステージごと、に定められた重み係数と、の積を積算した値に基づいて、前記果実の糖度又は重量を予測し、
前記予測した結果が目標範囲に含まれるように、前記栽培期間、前記積算日射量、及び前記日中平均二酸化炭素濃度の少なくとも1つを調整し、調整後の情報を出力する、処理をコンピュータに実行させることを特徴とする環境制御情報出力プログラム。
【請求項8】
果菜類における開花から果実の収穫が可能になるまでの栽培期間を分割した複数のステージそれぞれにおける積算日射量の実測値又は予測値を取得し、
前記複数のステージそれぞれにおける積算日射量に基づいて、前記複数のステージそれぞれにおける前記果実の糖度に関する第1の指標を算出し、
前記複数のステージそれぞれの前記第1の指標と、前記果菜類の品種ごと、前記ステージごと、に定められた重み係数と、の積を積算した値に基づいて、前記果実の糖度を予測する、
処理をコンピュータが実行する、ことを特徴とする予測方法。
【請求項9】
前記重み係数は、前記複数のステージそれぞれにおける前記果菜類の乾物増加量に基づいて定められる、ことを特徴とする請求項8に記載の予測方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の予測方法を用いて予測された前記果実の糖度の予測結果を取得し、
前記予測結果が目標範囲に含まれるように、前記栽培期間及び前記積算日射量の少なくとも一方を調整し、調整後の情報を出力する、処理を前記コンピュータが実行することを特徴とする環境制御情報出力方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予測方法及び予測プログラム、並びに環境制御情報出力方法及び環境制御情報出力プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
果菜類(例えば、イチゴやトマト)を購入する需要者にとって、果実の糖度や果実重は重要である。したがって、果菜類の生産者は、多くの需要者に求められている糖度、果実重の果実を出荷できれば、高値で取引でき、収益を上げることができる。このため、従来、生産者は、長年の経験や勘に基づいて、適度な塩分ストレスを与えて高糖度の果実を生産したり、灌水量を調整して適度な果実重の果実を生産することとしていた。
【0003】
これに対し、近年においては、予測糖度と目標糖度とに基づいて適切な肥料濃度、養液の供給量、供給回数を出力することで、栽培者の技能に依存せずに栽培を自動化する技術が知られている(特許文献1等参照)。また、品質及び色味が最適な作物を収穫できるようにするため、積算水ストレスと積算温度を制御する技術が知られている(特許文献2等参照)。また、日射量が作物の糖度に与える影響を予測し、糖度と気温との関係に基づいて環境を制御する技術も知られている(特許文献3等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-54573号公報
【文献】特開2018-38322号公報
【文献】特開2020-48551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来においても果菜類の糖度や果実重を予測する方法は存在しているが、より高精度な予測を実現するためには、植物生理学的な観点など種々の観点から予測方法を見直すことが必要である。
【0006】
本発明は、果菜類の糖度や果実重を精度よく予測することが可能な予測方法及び予測プログラムを提供することを目的とする。また、本発明は、果菜類の糖度や果実重を目標範囲内にするための情報を出力することが可能な環境制御情報出力方法及び環境制御情報出力プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の予測方法は、果菜類における開花から果実の収穫が可能になるまでの栽培期間を分割した複数のステージそれぞれにおける積算日射量と、日中平均二酸化炭素濃度と、の実測値又は予測値を取得し、前記複数のステージそれぞれにおける積算日射量と日中平均二酸化炭素濃度とに基づいて、前記複数のステージそれぞれにおける前記果実の糖度又は重量に関する第1の指標を算出し、前記複数のステージそれぞれの前記第1の指標と、前記果菜類の品種ごと、前記ステージごと、に定められた重み係数と、の積を積算した値に基づいて、前記果実の糖度又は重量を予測する、処理をコンピュータが実行する予測方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の予測方法及び予測プログラムは、果菜類の糖度や果実重を精度よく予測することができるという効果を奏する。また、本発明の環境制御情報出力方法及び環境制御情報出力プログラムは、果菜類の糖度や果実重を目標範囲内にするための情報を出力することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る処理システムの構成を示す図である。
【
図2】
図2(a)は、処理サーバ、仲介サーバのハードウェア構成を示す図であり、
図2(b)は、利用者端末のハードウェア構成を示す図である。
【
図5】環境制御情報表示画面の一例を示す図である。
【
図7】処理サーバの処理を示すフローチャートである。
【
図8】
図7のステップS14の詳細処理を示すフローチャートである。
【
図9】
図7のステップS26の詳細処理を示すフローチャートである。
【
図10】開花から収穫までの期間を分割したステージと、各ステージの日平均果実温度、各ステージの閾値を説明するための図である。
【
図11】ステージと温度感受性の関係を模式的に示すグラフである。
【
図12】
図12(a)は、積算日射量と糖度の関係を模式的に示すグラフであり、
図12(b)は、日中平均二酸化炭素濃度と糖度の関係を模式的に示すグラフである。
【
図13】
図13(a)は、積算日射量と果実重の関係を模式的に示すグラフであり、
図13(b)は、日中平均二酸化炭素濃度と果実重の関係を模式的に示すグラフである。
【
図14】
図14(a)~
図14(e)は、具体例に係る収穫日の予測処理について説明するための図である。
【
図15】
図15(a)~
図15(d)は、具体例において糖度を目標値に近づける場合の処理について説明するための図である。
【
図16】
図16(a)~
図16(d)は、具体例において果実重を目標値に近づける場合の処理について説明するための図である。
【
図17】実施例において、開花後積算温度380℃から475℃までの期間の積算日射量と糖度との関係をプロットしたグラフである。
【
図18】
図18(a)は、開花からの積算温度と果実の乾物量の関係をプロットしたグラフであり、
図18(b)は、積算温度95℃ごとの乾物量、乾物増加量、及び乾物増加比率をまとめた表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、予測システムの一実施形態について、
図1~
図16に基づいて詳細に説明する。
図1には、一実施形態に係る予測システム100の構成が概略的に示されている。本実施形態の予測システム100は、果菜類(本実施形態ではイチゴとする)の生産者が利用するシステムである。この予測システム100は、イチゴの収穫時期に関する予測や、収穫される果実の糖度及び果実重の予測を行い、予測した糖度や果実重を目標値と一致させたり目標範囲内にするために調整が必要な栽培環境の情報(以下、環境制御情報と呼ぶ)を生産者に提供するシステムである。
【0011】
予測システム100は、
図1に示すように、処理サーバ10と、仲介サーバ12と、利用者端末70と、を備える。なお、処理サーバ10、仲介サーバ12、利用者端末70は、インターネットなどのネットワーク80を介して接続されており、予め定められた装置間(本実施形態では処理サーバ10と仲介サーバ12の間、仲介サーバ12と利用者端末70の間)において情報のやり取りが可能となっている。
【0012】
処理サーバ10は、利用者端末70において入力された情報を仲介サーバ12を介して取得し、取得した情報に基づいて、イチゴの収穫日や、糖度、果実重を予測する処理を実行する。また、処理サーバ10は、予測した糖度や果実重が目標値と一致する又は近づくようにするために、どのように栽培環境を調整すればよいかを特定する。更に、処理サーバ10は、仲介サーバ12を介して、利用者端末70に対し、予測したイチゴの収穫日や糖度、果実重の情報や、予測した糖度、果実重を目標値と一致させる又は近づけるための環境制御情報を出力する。
【0013】
図2(a)には、処理サーバ10のハードウェア構成が概略的に示されている。
図2(a)に示すように、処理サーバ10は、CPU(Central Processing Unit)90、ROM(Read Only Memory)92、RAM(Random Access Memory)94、ストレージ(例えばSSD(Solid State Drive)やHDD(Hard Disk Drive))96、ネットワークインタフェース97、及び可搬型記憶媒体用ドライブ99等を備えている。これら処理サーバ10の構成各部は、バス98に接続されている。処理サーバ10では、ROM92あるいはHDD96に格納されているプログラム、或いは可搬型記憶媒体用ドライブ99が可搬型記憶媒体91から読み取ったプログラムをCPU90が実行することにより、
図6に示す各部の機能が実現される。なお、
図6の各部の機能は、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の集積回路により実現されてもよい。
図6の各部の機能の詳細については、後述する。
【0014】
図1に戻り、仲介サーバ12は、利用者端末70において入力された情報(処理サーバ10における予測処理に必要な情報)を取得して、処理サーバ10に送信する。また、仲介サーバ12は、処理サーバ10から出力された情報を取得して、利用者端末70に送信する。なお、仲介サーバ12は、処理サーバ10と同様のハードウェア構成を有している(
図2(a)参照)。
【0015】
利用者端末70は、イチゴの生産者が利用するスマートフォンやPC(Personal Computer)などの端末である。生産者は、利用者端末70に必要な情報を入力する。利用者端末70は、入力された情報を仲介サーバ12に送信する。また、利用者端末70は、仲介サーバ12を介して、処理サーバ10から出力される情報を取得し、表示する。
【0016】
ここで、利用者端末70は、一例として、
図2(b)に示すようなハードウェア構成を有する。
図2(b)に示すように、利用者端末70は、CPU190、ROM192、RAM194、ストレージ196、ネットワークインタフェース197、表示部193、入力部195、及び可搬型記憶媒体191に格納されたデータを読み取り可能な可搬型記憶媒体用ドライブ199等を備えている。表示部193は、液晶ディスプレイ等を含み、入力部195はタッチパネルや、キーボード、マウス等を含む。これら利用者端末70の構成各部は、バス198に接続されている。
【0017】
図3には、利用者端末70の表示部193に表示される入力画面の一例が示されている。
図3に示すように、入力画面には、範囲A、範囲Bが設けられている。範囲Aには、生産者が、果菜類の品目や品種を入力したり、圃場の情報(名称や位置等)を入力するための入力欄が設けられている。また、範囲Aには、生産者が暖房の開始・終了時期や、側窓の解放・閉鎖時期を入力するための入力欄が設けられている。範囲Bには、実際に圃場に定植した苗の開花日の情報や、その開花日における開花数の情報を生産者等が入力するための入力欄が設けられている。
【0018】
図4には、処理サーバ10が予測処理を行った後に、利用者端末70の表示部193に表示される予測結果表示画面の一例が示されている。
図4の予測結果表示画面には、
図3と同様の範囲Aが設けられているほか、範囲C、範囲Dが設けられている。範囲Cには、処理サーバ10の予測結果(収穫日、個数、糖度、果実重)が表示される。範囲Dには、予測された糖度や果実重を調整したいか否かや、調整したい場合にはどのように調整したいかを生産者が入力する入力欄が設けられている。具体的には、範囲Dには、糖度又は果実重の調整有無を入力する欄(チェックボックス)、目標糖度及び目標果実重のいずれかを入力する欄、収穫日を遅らせてもよいかどうかを入力する欄(チェックボックス)、収穫日を遅らせてもよい場合には、遅らせてもよい最大日数を入力する欄、及び送信ボタンが設けられている。
【0019】
図5には、処理サーバ10が特定した、糖度や果実重を目標値に近づけるための環境制御情報が表示される環境制御情報表示画面の一例が示されている。具体的には、
図5の環境制御情報表示画面には、
図3と同様の範囲Aが設けられているほか、範囲Eが設けられている。範囲Eには、糖度又は果実重を目標値に近づけるために、日中平均二酸化炭素濃度や、日射量、気温をどのように制御すべきかが表示される。
【0020】
(処理サーバ10が有する機能について)
図6には、処理サーバ10の機能ブロック図が示されている。処理サーバ10においては、CPU90がプログラムを実行することにより、
図6に示すような各機能が実現されている。具体的には、処理サーバ10は、情報受付部30と、環境情報取得部32と、ステージ期間算出部34と、栽培期間予測部36と、果実情報予測部37と、調整部38と、出力部40と、を有している。
【0021】
なお、
図6には、処理サーバ10のストレージ196等に格納されている環境情報DB50及びパラメータテーブル52についても図示されている。環境情報DB50には、圃場の過去の環境情報(気温や日射量、日中平均二酸化炭素濃度の情報)が蓄積されている。また、環境情報DB50には、外部のサーバ(例えば国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)が管理するサーバ)から取得した、将来の環境情報の予測値(メッシュ農業気象データ)や、過去の環境情報の平年値(将来の環境情報の予測値として用いる)が蓄積されている。なお、環境情報DB50は、外部のデータベースサーバに格納されていてもよい。
【0022】
パラメータテーブル52は、ステージ期間算出部34や果実情報予測部37が用いるパラメータを格納するテーブルである。パラメータテーブル52に格納されているパラメータの詳細については、後述する。
【0023】
情報受付部30は、生産者が利用者端末70を操作して、
図3の入力画面に入力した情報や、
図4の予測結果表示画面に入力した情報を仲介サーバ12から取得し、取得した情報を環境情報取得部32、ステージ期間算出部34、栽培期間予測部36、果実情報予測部37、調整部38に受け渡す。
【0024】
環境情報取得部32は、
図3の入力画面の範囲Aに入力された圃場における気温の情報(過去データ、予測データ、平年気温データなど)、日射量の情報(過去データ、予測データ、平年日射量データなど)、日中平均二酸化炭素濃度を、環境情報DB50から取得する。具体的には、環境情報取得部32は、生産者が入力した開花日以降の気温、日射量及び日中平均二酸化炭素濃度の情報を環境情報DB50から取得する。また、環境情報取得部32は、環境情報DB50から取得した気温の情報(予測データや平年気温データ)を、生産者等が入力した暖房や側窓の情報に基づいて補正する。なお、環境情報取得部32は、生産者がLED照明の情報や遮光の情報を設定した場合には、これらの情報に基づいて日射量の情報を補正してもよい。環境情報取得部32は、取得(及び補正)したデータをステージ期間算出部34や果実情報予測部37に送信する。
【0025】
ステージ期間算出部34は、各日の気温と日射量の情報から、各日における果実温度(果実表面の温度)を算出する。また、ステージ期間算出部34は、算出した各日の果実温度に基づいて、イチゴが開花から収穫に至るまでの栽培期間を分割した複数のステージそれぞれに要する日数(複数のステージそれぞれの期間)を算出する。なお、ステージ期間算出部34による、果実温度の算出方法及び各ステージの期間の算出方法については、後述する。
【0026】
栽培期間予測部36は、ステージ期間算出部34が算出した各ステージの期間を合算して、栽培期間を予測する。また、栽培期間予測部36は、開花日と栽培期間とに基づいて、果実の収穫日(成熟日)を予測する。
【0027】
果実情報予測部37は、ステージ期間算出部34が算出した各ステージの期間における圃場の日中平均二酸化炭素濃度や日射量に基づいて、収穫される果実の糖度や果実重を予測する。なお、果実情報予測部37による糖度や果実重の予測方法の詳細については、後述する。
【0028】
栽培期間予測部36や果実情報予測部37による予測結果は、出力部40が仲介サーバ12を介して利用者端末70に出力する。利用者端末70の表示部193上には、
図4の予測結果表示画面が表示される。
図4の予測結果表示画面の範囲Dにおいて生産者が情報を入力し、送信ボタンを押すと、範囲Dに入力された情報は仲介サーバ12を介して利用者端末70から処理サーバ10に送信される。処理サーバ10に送信された情報は、情報受付部30が受け付け、調整部38に受け渡す。
【0029】
調整部38は、生産者が
図4の予測結果表示画面(範囲D)において、糖度又は果実重を調整する旨を入力した場合に、範囲Dに入力された情報に基づいて、糖度又は果実重を目標値に近づけるための環境制御情報を特定する。なお、調整部38は、単独で環境制御情報を特定する場合もあるが、ステージ期間算出部34及び栽培期間予測部36と協働して、環境制御情報を特定する場合もある。
【0030】
調整部38が特定した環境制御情報は、出力部40が仲介サーバ12を介して利用者端末70に出力する。利用者端末70の表示部193上には、
図5の環境制御情報表示画面が表示される。
【0031】
(処理サーバ10の処理について)
次に、処理サーバ10の処理について、
図7~
図9のフローチャートに沿って、その他図面を適宜参照しつつ、詳細に説明する。
【0032】
図7の処理が開始されると、まずステップS10において、情報受付部30は、仲介サーバ12から情報の入力があるまで待機する。すなわち、情報受付部30は、利用者端末70において
図3の入力画面に生産者が入力した情報が仲介サーバ12を介して送信されてくるまで待機する。情報受付部30は、仲介サーバ12から情報の入力があると、ステップS12に移行する。
【0033】
ステップS12に移行すると、情報受付部30は、仲介サーバ12から入力された情報を取得する。情報受付部30は、取得した情報を環境情報取得部32、ステージ期間算出部34、栽培期間予測部36、果実情報予測部37及び調整部38に受け渡す。
【0034】
次いで、ステップS14において、栽培期間及び収穫日の予測処理が実行される。具体的には、
図8の処理が実行される。
【0035】
図8の処理が開始されると、まず、ステップS50において、環境情報取得部32が、必要な環境情報を取得し、栽培環境を推定する。具体的には、環境情報取得部32は、開花日以降の気温、日射量及び日中平均二酸化炭素濃度の情報(実測値や予測値)を取得する。また、環境情報取得部32は、生産者が入力した暖房や側窓の情報に基づいて気温の情報を圃場の状況に合わせて補正し、施設内気温(℃)を推定する。なお、生産者がLED照明の情報や遮光の情報を設定している場合には、環境情報取得部32は、これらの情報に基づいて日射量の情報を補正し、施設内日射量(MJ)を推定する。環境情報取得部32は、取得(及び推定)したデータをステージ期間算出部34や果実情報予測部37に送信する。
【0036】
次いで、ステップS52において、ステージ期間算出部34が、後述するステップS54、S56の処理に用いるパラメータをパラメータテーブル52から取得する。なお、パラメータの詳細については後述する。
【0037】
次いで、ステップS54において、ステージ期間算出部34は、各日の果実温度を算出する。具体的には、ステージ期間算出部34は、次式(1)を用いて、各日の果実温度を算出する。
果実温度(℃)=施設内気温×(α・ln施設内日射量+β) …(1)
【0038】
ここで、α,βは、圃場(ハウス)ごとに予め定められたパラメータ(係数)である。α,βは、パラメータテーブル52において圃場ごとに定義されている。
【0039】
次いで、ステップS56において、ステージ期間算出部34は、各ステージの期間(各ステージに要する日数)を算出する。
【0040】
ここで、本実施形態においては、
図10に示すように、開花日から収穫日までの期間を複数に区切り、それぞれの期間をステージ(発育ステージ)と呼ぶものとする。また、各ステージをs1、s2、…snと記述し、各ステージs1、s2、…snの日平均果実温度をt1、t2、…tnとする。更に、各ステージs1、s2、…snの閾値をCTs1、CTs2、…、CTsnとする。なお、値n、t1~tn、CTs1~CTsnについては、品種ごとに予め定められ、パラメータテーブル52に格納されているものとする。
【0041】
ステージ期間算出部34は、各ステージskの期間Tkを、次式(2)から算出する。
Tk=CTsk/(γk・tk+δk) …(2)
【0042】
上式(2)において、γk、δkは、品種ごとに定められたパラメータ(係数)であり、パラメータテーブル52に格納されている。
図11は、ステージとイチゴの成熟における温度感受性との関係を模式的に示すグラフである。
図11に示すように、イチゴの場合、ステージが進めば進むほど、温度感受性が大きくなる。したがって、この温度感受性を表現するために、ステージが収穫日に近いほど、パラメータγkの値が大きく設定され、パラメータδkの値が小さく設定される。すなわち、ステージが収穫日に近いほど、上式(2)の分母(γk・tk+δk)の値が、温度tkの値の変化による影響を受けやすくなっている。なお、分母(γk・tk+δk)は1日の温度関連指標値であり、上式(2)は、1日の温度関連指標値の積算値が閾値CTskに達するまでの期間(日数)がステージskの期間Tkであることを意味している。
【0043】
次いで、ステップS58において、栽培期間予測部36は、栽培期間及び収穫日を予測する。栽培期間予測部36は、開花日ごとに得られた各ステージskの期間Tkを次式(3)のように合算して、栽培期間(完熟日数)を予測する。
栽培期間=T1+T2+…+Tn
=CTs1/(γ1・t1+δ1)+CTs2/(γ2・t2+δ2)+…
…+CTsn/(γn・tn+δn) …(3)
【0044】
また、栽培期間予測部36は、次式(4)を用いて、開花日ごとに収穫日を予測する。
収穫日=開花日+栽培期間 …(4)
【0045】
以上により、
図8の処理が終了する。
図8の処理が終了すると、
図7のステップS16に移行する。
【0046】
図7のステップS16に移行すると、果実情報予測部37は、予測した収穫日に収穫される果実の糖度及び果実重を予測する。ここで、
図12(a)は、積算日射量と糖度との関係を模式的に示すグラフであり、
図12(b)は、日中平均二酸化炭素濃度と糖度との関係を模式的に示すグラフである。
【0047】
ここで、従来においては、日中平均二酸化炭素濃度が一定であれば、糖度は次式(5)から算出することができた。なお、uは積算日射量であり、wは、葉面積指数である。また、a,b,cは係数である。
糖度=a・ln(u)・{1-exp(-w・b)+c} …(5)
【0048】
また、従来においては、積算日射量が一定であれば、糖度は次式(6)から算出することができた。なお、vは日中平均二酸化炭素濃度であり、d,e,fは係数である。
糖度=d・ln(v)・{1-exp(-w・e)+f} …(6)
【0049】
更に、従来においては、日中平均二酸化炭素濃度と、積算日射量が変化する場合には、糖度は次式(7)から算出することができた。なお、vは日中平均二酸化炭素濃度であり、g、h、i、j、kは係数である。
糖度={g・ln(u)+h}・{i・ln(v)+j}・{1-exp(-w・h)}+k
…(7)
【0050】
一方、本願発明者は、
図11の温度感受性と同様、日射量や日中平均二酸化炭素濃度の糖度に対する感受性もステージごとに異なるという知見に基づいて、糖度の予測においても、感受性を考慮すべきであるという考えに至った。この考えの下、本願発明者は、ステージ1、2、…nそれぞれの重み係数をm
1、m
2、…m
nとし、各ステージの積算日射量をu
1、u
2、…、u
nとし、各ステージの日中平均二酸化炭素濃度の平均をv
1、v
2、…、v
nとして、糖度の予測に次式(8)を用いることとした。
糖度=m
1・{g・ln(u
1)+h}・{i・ln(v
1)+j}・{1-exp(-w・h)}
+m
2・{g・ln(u
2)+h}・{i・ln(v
2)+j}・{1-exp(-w・h)}
…
+m
n・{g・ln(u
n)+h}・{i・ln(v
n)+j}・{1-exp(-w・h)}
+k …(8)
【0051】
なお、nの値やmnの値、その他のパラメータの値は、品種ごとに異なる。nの値、mの値、g,i,j,h,kの値は、パラメータテーブル52に格納されているので、果実情報予測部37は、各値をパラメータテーブル52から読み出し、環境情報取得部32から受け取った各ステージの積算日射量u1、u2、…、unと日中平均二酸化炭素濃度の平均をv1、v2、…、vnを上式(8)に代入する。果実情報予測部37は、上式(8)を用いることで、果実の糖度を精度よく予測することができる。
【0052】
なお、上式(8)においては、各ステージにおける{g・ln(un)+h}・{i・ln(vn)+j}・{1-exp(-w・h)}の値が、糖度に関する第1の指標である。また、上式(8)は、各ステージの第1の指標と、各ステージの重み係数mnとの積を積算した値に基づいて、糖度を予測していると言える。
【0053】
図13(a)は、積算日射量と果実重との関係を模式的に示すグラフであり、
図13(b)は、日中平均二酸化炭素濃度と果実重との関係を模式的に示すグラフである。
【0054】
ここで、従来においては、日中平均二酸化炭素濃度が一定であれば、果実重は次式(9)から算出することができた。なお、uは積算日射量であり、wは、葉面積指数である。また、a’,b’,c’は係数である。
果実重=a’・ln(u)・{1-exp(-w・b’)+c’} …(9)
【0055】
また、従来においては、積算日射量が一定であれば、果実重は次式(10)から算出することができた。なお、vは日中平均二酸化炭素濃度であり、d’,e’,f’は係数である。
果実重=d’・ln(v)・{1-exp(-w・e’)+f’} …(10)
【0056】
更に、従来においては、日中平均二酸化炭素濃度と、積算日射量が変化する場合には、果実重は次式(11)から算出することができた。なお、vは日中平均二酸化炭素濃度であり、g’、h’、i’、j’、k’は係数である。
糖度={g’・ln(u)+h’}・{i’・ln(v)+j’}・{1-exp(-w・h’)}+k’
…(11)
一方、本願発明者は、
図11の温度感受性と同様、日射量や日中平均二酸化炭素濃度の果実重に対する感受性もステージごとに異なるという知見に基づいて、果実重の予測においても、感受性を考慮すべきであるという考えに至った。この考えの下、本願発明者は、ステージ1、2、…nそれぞれの重み係数をm
1’、m
2’、…m
n’として、果実重の予測に次式(12)を用いることとした。
果実重=m
1’・{g’・ln(u
1)+h’}・{i’・ln(v
1)+j’}・{1-exp(-w・h’)}+m
2’・{g’・ln(u
2)+h’}・{i’・ln(v
2)+j’}・{1-exp(-w・h’)}…m
n’・{g’・ln(u
n)+h’}・{i’・ln(v
n)+j’}・{1-exp(-w・h’)}+k’
…(12)
【0057】
nの値やmnの値、その他のパラメータの値は、品種ごとに異なる。果実情報予測部37は、上式(12)のパラメータの値をパラメータテーブル52から読み出し、各ステージの積算日射量u1、u2、…、unと日中平均二酸化炭素濃度の平均をv1、v2、…、vnを上式(12)に代入する。これにより、果実情報予測部37は、果実重を算出する。
【0058】
なお、上式(12)においては、各ステージにおける{g’・ln(un)+h’}・{i’・ln(vn)+j’}・{1-exp(-w・h’)}の値が、果実重に関する第1の指標である。また、上式(12)は、各ステージの第1の指標と、各ステージの重み係数mn’との積を積算した値に基づいて、果実重を予測していると言える。
【0059】
次いで、
図7のステップS18において、出力部40は、ステップS14で予測された収穫日、ステップS16で予測された果実の糖度及び果実重を利用者端末70に向けて出力する。これにより、利用者端末70の表示部193上には、
図4に示すような予測結果表示画面が表示される。
【0060】
次いで、ステップS20において、情報受付部30は、仲介サーバ12から情報の入力があるまで待機する。すなわち、情報受付部30は、
図4の予測結果表示画面において、生産者が必要事項を入力し、送信ボタンを押すまで待機する。生産者が送信ボタンを押すと、情報受付部30は、ステップS22に移行する。
【0061】
ステップS22に移行すると、情報受付部30は、仲介サーバ12から送信されてきた情報(
図4の範囲Dに入力された情報)を取得する。また、情報受付部30は、取得した情報を調整部38に受け渡す。
【0062】
次いで、ステップS24において、調整部38は、糖度又は果実重の調整が必要か否かを判断する。この場合、調整部38は、
図4の予測結果表示画面の範囲Dにおいて、「糖度又は果実重を調整しますか?」の回答として、「はい」のチェックボックスにチェックが入っていたかを判断する。このステップS24の判断が否定された場合には、調整部38は、
図7の全処理を終了する。
【0063】
一方、ステップS24の判断が肯定された場合には、調整部38はステップS26に移行する。
【0064】
ステップS26に移行すると、調整部38は、環境制御情報の特定処理を実行する。具体的には、
図9のフローチャートに沿った処理が実行される。
【0065】
図9の処理が開始されると、まず、ステップS70において、調整部38は、収穫日を遅らせてもよいか否かを判断する。具体的には、調整部38は、
図4の予測結果表示画面の範囲Dにおいて、「収穫日を遅らせてもよい?」の回答として、「はい」のチェックボックスにチェックが入っていたかを判断する。このステップS70の判断が否定された場合、すなわち、生産者は、収穫日を遅らせることなく糖度や果実重を目標値に近づけたいと考えている場合には、調整部38は、ステップS72に移行する。
【0066】
ステップS72に移行すると、調整部38は、イチゴの苗の光合成をより活発にするため、所定のルールに従って、各ステージの日中平均二酸化炭素濃度を高くする。所定のルールとしては、例えば収穫日に最も近いステージの日中平均二酸化炭素濃度を所定値ずつ高くし、高くできる範囲に達した場合に、次に収穫日に近いステージの日中平均二酸化炭素濃度を所定値ずつ高くし、…というルールを採用してもよい。また、所定のルールとして、全ステージの日中平均二酸化炭素濃度を所定値ずつ高くするようなルールを採用してもよい。
【0067】
次いで、ステップS74において、調整部38は、新たに設定した日中平均二酸化炭素濃度を用いて、糖度及び果実重を再度予測する。
【0068】
次いで、ステップS76において、調整部38は、糖度又は果実重が目標値になったか否かを判断する。なお、ステップS76においては、糖度又は果実重が目標値と一致した場合のほか、目標値に所定以上近づいた場合(目標値に基づく所定範囲に含まれた場合)に判断が肯定されるものとする。このステップS76の判断が否定された場合には、ステップS72に戻り、再度日中平均二酸化炭素濃度を調整する。その後、ステップS76の判断が肯定された場合には、
図7のステップS28に戻る。
【0069】
一方、ステップS70の判断が肯定された場合、すなわち、
図4の範囲Dにおいて、「収穫日を遅らせてもよい?」の回答として、「はい」のチェックボックスにチェックが入っていた場合には、調整部38は、ステップS78に移行する。
【0070】
ステップS78に移行すると、調整部38は、収穫日までの期間を長くして光合成量を増やすために、果実温度を低下させる。ここで、果実温度は、前述のように日射量と気温に関連するが、日射量を下げると光合成量が減るため、気温を下げるように調整することが好ましい。したがって、調整部38は、所定のルールに従って、気温を低くする。なお、所定のルールとしては、例えば収穫日に最も近いステージの気温を所定値ずつ低くし、低くできる範囲に達した場合に、次に収穫日に近いステージの気温を所定値ずつ低くし、…というルールを採用してもよい。また、所定のルールとして、全ステージの気温を所定値ずつ低くするようなルールを採用してもよい。
【0071】
次いで、ステップS80において、調整部38は、ステージ期間算出部34、栽培期間予測部36と協働して、新たな条件の下、各ステージ期間及び収穫日を再度予測するとともに、予測した各ステージ期間と収穫日に基づいて、糖度及び果実重を再度予測する。
【0072】
次いで、ステップS82では、糖度又は果実重が目標値になったか否かを判断する。なお、このステップS82においても、ステップS76と同様、糖度又は果実重が目標値と一致した場合のほか、目標値に所定以上近づいた場合(目標値に基づく所定範囲に含まれた場合)に判断が肯定されるものとする。このステップS82の判断が否定された場合には、調整部38は、ステップS70に戻る。ステップS70に戻ると、調整部38は、収穫日を遅らせてもよいかを再度判断する。このステップS70においては、ステップS80において再予測された収穫日と、最初に予測された収穫日との差が、
図4の範囲Dにある「何日遅らせてもよい?」の回答欄に入力された日数を超えていないかを判断する。このステップS70の判断が肯定された場合には、調整部38は、再度ステップS78、S80、S82の処理を実行する。一方、ステップS70の判断が否定された場合には、調整部38は、ステップS72、S74、S76の処理を実行する。そして、ステップS82又はS78の判断が肯定された段階で、調整部38は、
図7のステップS28に戻る。なお、ステップS76、S82の判断を所定回数繰り返しても糖度又は果実重が目標値に所定以上近づかない場合もある。このような場合、
図8の処理を終了(強制終了)して、
図7のステップS28に戻ってもよい。
【0073】
図7のステップS28に戻ると、出力部40は、環境制御情報を仲介サーバ12を介して利用者端末70に対して出力する。これにより、利用者端末70の表示部193には、
図5に示すような環境制御情報表示画面が表示されることになる。例えば、
図9のステップS72を経た場合には、
図5の範囲Eには、「〇月〇日~○月○日までは、日中平均二酸化炭素濃度を〇ppmに上げてください」などと表示される。また、
図9のステップS78を経た場合には、「〇月〇日~○月○日までは、気温を〇℃に下げてください」などと表示される。なお、
図8の処理が強制終了された場合には、「糖度又は果実重を入力された目標値にすることができません。」などと表示される。
【0074】
なお、本実施形態においては、ステップS72において日中平均二酸化炭素濃度を調整し、ステップS78において気温を調整する場合について説明したが、ステップS72、S78において、日射量を調整をしてもよい。
【0075】
(具体例)
次に、具体例について説明する。
【0076】
図14(a)には、生産者が、入力画面(
図3)の範囲Bに、開花日11月1日に500個が開花したことを入力した状態が示されている。この例において、環境情報取得部32が取得した気温や日射量の情報から、ステージ期間算出部34が各日の果実温度を算出した結果、
図14(b)に示すような果実温度の値が得られたとする。また、本例では、イチゴの栽培期間が4つのステージs1~s4に分かれており、各ステージs1~s4の日平均果実温度t1~t4が
図14(c)のように求められたとする。なお、
図14(c)の日平均果実温度t1~t4を求める段階で、ステージs1~s4の期間を設定する必要があるが、最初の段階では、日平均果実温度t1~t4を求めるためのステージs1~s4の期間は予め定めておいたおおよその期間を用いる。そして、ステージ期間算出部34は、設定した日平均果実温度を用いて各ステージの期間を求めた後に、求めた各ステージの期間の日平均果実温度t1~t4を再計算し、更に、再計算後の日平均果実温度t1~t4を用いて各ステージの期間を再度求める、という処理を繰り返すようにすればよい。
【0077】
そして、ステージ期間算出部34は、上式(2)に基づいて、各ステージの期間T1~T4を算出する。例えば、開花日が11月1日の果実について各ステージの期間T1~T4を求めたところ、
図14(d)のようになったとする。なお、本例においては、上式(2)のパラメータCTs1~CTs4が150であり、γ1、γ2、γ3、γ4が0.15、0.6、0.9、1.0であり、δ1、δ2、δ3、δ4が15、5、0、0である。
【0078】
そして、栽培期間予測部36は、各ステージの期間T1~T4を合算し、栽培期間を予測する。その結果、
図14(e)に示すように、栽培期間は、44日と予測されたものとする。この場合、栽培期間予測部36は、11月1日に開花した花(果実)の収穫日を、開花日から44日後の12月15日と予測する。
【0079】
(糖度を調整する場合)
この例において、糖度を調整したい場合に、上式(8)のパラメータm
n、g,h,i,j,kが
図15(a)に示すような値であったとする。また、葉面積指数を一定で管理することにより、上式(8)の{1-exp(-w・h)は、1とみなすこととする。
【0080】
この場合において、調整部38が調整する前の各ステージの積算日射量u
nと、日中平均二酸化炭素濃度の平均v
nが、
図15(b)で示すような値であったとすると、上式(8)を計算した結果、糖度=10.2となる。
【0081】
これに対し、生産者が
図4の範囲Dに目標糖度として「11.0度」と入力し、かつ収穫日を遅らせたくない旨を入力したとする。この場合、調整部38は、
図9のステップS72を繰り返すことにより、
図15(c)に示すように、ステージ3、4の日中平均二酸化炭素濃度を600ppmとする。この結果、予測糖度は、目標糖度11.0度と一致した。この場合、出力部40は、11月21日~12月15日までの期間の日中平均二酸化炭素濃度を600ppmにするように、
図5の環境制御情報表示画面の範囲Eに出力する。
【0082】
一方、生産者が
図4の範囲Dに目標糖度として「11.0度」と入力し、かつ収穫日を7日まで遅らせてもよい旨を入力したとする。この場合、調整部38は、
図9のステップS78を繰り返す。この処理の結果、ステージ2~4の気温を所定温度下げた段階で、
図15(d)に示すように、ステージ2~4の期間が変更され、これに伴い、積算日射量u
2~u
4も変更され、予測糖度が、11.1度となった。この場合、出力部40は、11月10日~12月20日までの期間の気温を所定温度下げるように、
図5の環境制御情報表示画面の範囲Eに出力する。
【0083】
(果実重を調整する場合)
また、
図14(a)~
図14(e)の例において、果実重を調整したい場合に、上式(12)のパラメータm
n’、g’,h’,i’,j’,k’が
図16(a)に示すような値であったとする。また、葉面積指数を一定で管理することにより、上式(12)の{1-exp(-w・h)は、1とみなすこととする。
【0084】
この場合において、調整部38が調整する前の各ステージの積算日射量u
nと、日中平均二酸化炭素濃度の平均v
nが、
図16(b)で示すような値であったとすると、上式(12)を計算した結果、果実重=18.7となる。
【0085】
これに対し、生産者が
図4の範囲Dに目標果実重として「20.0g」と入力し、かつ収穫日を遅らせたくない旨を入力したとする。この場合、調整部38は、
図9のステップS72を繰り返すことにより、
図16(c)に示すように、ステージ3、4の日中平均二酸化炭素濃度を600ppmとする。この結果、予測果実重は、目標果実重20.0gと一致した。この場合、出力部40は、11月21日~12月15日までの期間の日中平均二酸化炭素濃度を600ppmにするように、
図5の環境制御情報表示画面の範囲Eに出力する。
【0086】
一方、生産者が
図4の範囲Dに目標糖度として「20.0g」と入力し、かつ収穫日を7日まで遅らせてもよい旨を入力したとする。この場合、調整部38は、
図9のステップS78を繰り返す。この処理の結果、ステージ2~4の気温を所定温度下げた段階で、
図16(d)に示すように、ステージ2~4の期間が変更され、これに伴い、積算日射量u
2~u
4も変更され、果実重が、20.3gとなった。この場合、出力部40は、11月10日~12月20日までの期間の気温を所定温度下げるように、
図5の環境制御情報表示画面の範囲Eに出力する。
【0087】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によると、果実情報予測部37は、果菜類の栽培期間を分割した複数のステージそれぞれにおける積算日射量と、日中平均二酸化炭素濃度と、の実測値又は予測値を取得する。また、果実情報予測部37は、複数のステージそれぞれにおける積算日射量と日中平均二酸化炭素濃度とに基づいて、各ステージにおける糖度や果実重に関する第1の指標({g・ln(un)+h}・{i・ln(vn)+j}・{1-exp(-w・h)}や{g’・ln(un)+h’}・{i’・ln(vn)+j’}・{1-exp(-w・h’)})を算出する。そして、果実情報予測部37は、複数のステージそれぞれの第1の指標と、果菜類の品種ごと、前記ステージごと、に定められた重み係数mnやmn’と、の積をそれぞれ求め、求めた積を積算した値に基づいて糖度や果実重を予測する。これにより、果実情報予測部37は、糖度や果実重の温度感受性がステージごとに異なることを考慮して、上式(8)や(9)に基づいて糖度や果実重を予測するため、精度よく糖度や果実重を予測することができる。
【0088】
また、本実施形態では、果実情報予測部37は、果菜類の葉面積指数(w)に基づいて第1の指標({g・ln(un)+h}・{i・ln(vn)+j}・{1-exp(-w・h)}や{g’・ln(un)+h’}・{i’・ln(vn)+j’}・{1-exp(-w・h’)})を算出する。これにより、各苗の光合成特性を考慮して、糖度や果実重を精度よく予測することができる。
【0089】
また、本実施形態では、処理サーバ10のステージ期間算出部34は、イチゴの開花日以降の果実温度を算出し、果実温度に基づいて、開花から収穫に至るまでの期間を分割した複数のステージそれぞれの期間T1~T4を算出する。また、栽培期間予測部36は、ステージ期間算出部34が算出した各ステージの期間T1~T4を合計して栽培期間を予測する。また、ステージ期間算出部34が各ステージの期間T1~T4を算出する式(式(2))において、各ステージの期間の算出結果に対する果実温度の寄与度がステージごとに定められている。これにより、本実施形態では、ステージごとの温度感受性を考慮して、各ステージの期間T1~T4を精度よく求めることができる。また、精度よく求められた各ステージの期間T1~T4を合算して栽培期間や収穫日を予測するため、栽培期間や収穫日を精度よく予測することができる。
【0090】
また、本実施形態では、果実温度を推定する際に、果実が栽培されている環境の温度と、日射量と、に基づいて推定する(上式(1)参照)。このように果実温度を推定することで、実際に果実温度を測定する必要がなくなる。また、果実温度を用いることで、単に施設内気温を用いる場合と比べ、精度よく各ステージの期間や栽培期間、収穫日を予測することができる。
【0091】
また、本実施形態では、果実情報予測部37が予測した糖度又は果実重が、目標値に近づくようにするための、栽培期間や、積算日射量、日中平均二酸化炭素濃度の情報(環境制御情報)を特定し、出力する。これにより、生産者は、どのように環境を制御すれば、目標とする糖度又は果実重の果実を収穫できるかを知ることができる。また、利用者端末70が、栽培環境を調整する機器を制御する場合には、自動的に栽培環境を適切に調整することができる。このように適切な栽培環境に調整することにより、収益の高い果実を出荷することができるようになるため、生産者は、イチゴを高値で取引でき、収益を上げることができる。
【0092】
また、本実施形態では、温度感受性(式(2)のパラメータγk、δkや、式(8)のmn、式(12)のmn’)は、品目や品種ごとに定められているため、品目や品種に関わらず、精度よく各ステージの期間や栽培期間、収穫日、糖度、果実重を予測することができる。
【0093】
また、本実施形態の処理サーバ10は、上記のように予測された収穫日の情報(予測収穫日)や、糖度や果実重を目標値に一致させる又は近づけるための環境制御情報を、利用者端末70に出力する。これにより、調整情報を見た生産者は、調整情報に基づいて栽培環境を適切に調整することができる。
【0094】
なお、上記実施形態では、開花日と開花数を生産者が入力画面に手入力する場合について説明したが、これに限られるものではない。例えば、圃場に設置したカメラや圃場内を移動する移動装置に設けられたカメラを用いて撮影された画像を解析し、解析結果に基づいて、開花日と開花数を自動的に検出してもよい。これにより、生産者が圃場内を歩き回って開花日と開花数を把握し、手入力する作業を無くすことができる。
【0095】
なお、上記実施形態では、
図4の画面が表示された段階で、範囲Dの情報を入力する場合について説明したが、これに限らず、
図4の範囲Dの情報を
図3の入力画面で入力できるようにしてもよい。この場合、
図4の範囲Dの「何日遅らせてもよい?」の入力欄を「何月何日までに収穫できればよい?」などと変更してもよい。
【0096】
また、上記実施形態では、
図3の入力画面において、開花日と開花数を1組だけ入力する場合について説明したが、これに限らず、開花日と開花数の組を複数組入力できるようにしてもよい。開花日と開花数の組を複数組入力した場合には、開花日ごとに糖度や果実重を予測して出力することができる。また、各開花日に対応する果実の糖度や果実重が適切な範囲となるようにするための環境制御情報を出力することができる。
【0097】
なお、上記実施形態では、予測システム100が、仲介サーバ12を有する場合について説明したが、これに限られるものではない。すなわち、仲介サーバ12を省略し、処理サーバ10と利用者端末70とが直接情報のやり取りを行うようにしてもよい。
【0098】
なお、上記実施形態では、処理サーバ10がイチゴの栽培期間や収穫日、糖度や果実重を予測する場合について説明したが、これに限らず、その他の果菜類(トマトなど)の栽培期間や収穫日、糖度や果実重を予測することとしてもよい。
【0099】
なお、上記実施形態で挙げた各式は一例である。果実温度を算出する式は、上式(1)以外の式であってもよいし、各ステージの期間Tkを算出する式は、ステージごとの温度感受性を考慮した式であれば、上式(2)以外の式であってもよい。また、糖度や果実重を予測する式は、ステージごとの温度感受性を考慮した式であれば、上式(8)、(12)以外の式であってもよい。
【実施例】
【0100】
以下、イチゴ品種‘かおり野’について、積算日射量(MJ)から糖度(%)を予測する糖度予測式を導き出した実施例について説明する。
【0101】
農研機構の植物工場つくば実証拠点の施設において、イチゴ品種‘かおり野’を2021年9月18日に定植し、25℃以上で換気し、10℃以下で暖房を開始するという設定にて栽培を行い、成熟した果実を収穫し、糖度を計測した。また、開花後積算温度380℃から475℃までの期間の積算日射量(透過率35%)と糖度との関係を
図17に示すグラフにプロットし、回帰式を導き出した。
【0102】
図17のグラフからは、横軸x、縦軸yとした場合に、次式(13)の回帰式が導き出された。
y=2.28×ln(x)+4.27 …(13)
【0103】
なお、
図17のグラフは、品種ごとに異なる。したがって、品種ごとに
図17と同様のグラフを生成すれば、各品種の回帰式を導出することができる。
【0104】
なお、この式(13)の回帰式は、上式(8)の{g・ln(u)+h}・{i・ln(v)+j}・{1-exp(-w・h)}(すなわち、第1の指標)に対応する。
【0105】
また、植物工場つくば実証拠点の施設において、いちご品種‘かおり野’を2022年9月30日に定植し、25℃以上で換気し、10℃以下で暖房を開始するという設定にして栽培を行い、頂果房の第2花の果実を2022年12月15日に収穫して、果実の乾物量を測定した。また、開花からの積算温度と果実の乾物量の関係を
図18(a)に示すグラフにプロットし、回帰式を導き出した。
【0106】
そして、
図18(a)の回帰式から、積算温度95℃ごとの乾物量の増加の比率(乾物増加比率)を算出した。
図18(b)には、積算温度95℃ごとの乾物量、乾物増加量、及び乾物増加比率をまとめた表が示されている。なお、乾物増加量は、積算温度が95℃増加する間に増加した乾物重の値であり、乾物増加比率は、乾物増加量それぞれを乾物増加量の合計値(0.15+0.12+0.22+0.39+0.70)で除した値である。なお、乾物増加比率の合計値は1となる。
【0107】
本実施例では、各乾物増加比率を、積算温度95℃ごとに分けられた5つのステージの重み係数m1~m5とし、上式(8)、(13)から糖度予測式(次式(14))を得た。
【0108】
【0109】
本実施例においては、上式(14)に各ステージにおける積算日射量の実測値又は予測値を代入することで、糖度を予測する。なお、本実施例においても、調整部38は、予測結果が目標範囲に含まれるように(目標値に近づくように)するための環境制御情報(栽培期間及び積算日射量の少なくとも一方の調整情報)を特定する。また、出力部40は、調整部38が特定した環境情報を仲介サーバ12を介して利用者端末70に出力する。
【0110】
なお、
図18(a)のグラフは、品種ごとに異なる。したがって、品種ごとに
図18(a)と同様のグラフを生成すれば、各品種の重み係数をステージごとに導出することができる。
【0111】
なお、上記の処理機能は、コンピュータによって実現することができる。その場合、処理装置が有すべき機能の処理内容を記述したプログラムが提供される。そのプログラムをコンピュータで実行することにより、上記処理機能がコンピュータ上で実現される。処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記憶媒体(ただし、搬送波は除く)に記録しておくことができる。
【0112】
プログラムを流通させる場合には、例えば、そのプログラムが記録されたDVD(Digital Versatile Disc)、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)などの可搬型記憶媒体の形態で販売される。また、プログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することもできる。
【0113】
プログラムを実行するコンピュータは、例えば、可搬型記憶媒体に記録されたプログラムもしくはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、自己の記憶装置に格納する。そして、コンピュータは、自己の記憶装置からプログラムを読み取り、プログラムに従った処理を実行する。なお、コンピュータは、可搬型記憶媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムに従った処理を実行することもできる。また、コンピュータは、サーバコンピュータからプログラムが転送されるごとに、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することもできる。
【0114】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0115】
10 処理サーバ
12 仲介サーバ
30 情報受付部
32 環境情報取得部
34 ステージ期間算出部
36 栽培期間予測部
37 果実情報予測部
38 調整部
40 出力部
50 環境情報DB
52 パラメータテーブル
70 利用者端末
90 CPU(コンピュータ)
100 予測システム
【要約】
果菜類の果実の糖度や果実重を精度よく予測するため、果菜類における開花から果実の収穫が可能になるまでの栽培期間を分割した複数のステージそれぞれにおける積算日射量と、日中平均二酸化炭素濃度と、の実測値又は予測値を取得し、複数のステージそれぞれにおける積算日射量と日中平均二酸化炭素濃度とに基づいて、前記複数のステージそれぞれにおける果実の糖度又は重量に関する第1の指標を算出し、複数のステージそれぞれの第1の指標と、果菜類の品種ごと、ステージごと、に定められた重み係数と、の積をそれぞれ求め、求めた積を積算した値に基づいて、果実の糖度又は重量を予測する、処理をコンピュータが実行する。