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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】水素希釈装置および水素希釈方法
(51)【国際特許分類】
   B01F 23/10 20220101AFI20240620BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
B01F23/10
G03F7/20 503
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020148053
(22)【出願日】2020-09-03
(65)【公開番号】P2022042602
(43)【公開日】2022-03-15
【審査請求日】2023-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】荒井 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 一知
(72)【発明者】
【氏名】石川 敬一
(72)【発明者】
【氏名】松島 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】関口 信一
【審査官】加藤 幹
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-517432(JP,A)
【文献】特開2021-62316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 23/10
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極端紫外線露光装置から排出される水素を希釈するための水素希釈装置であって、
前記極端紫外線露光装置から排出された水素を吸い込むための真空ポンプと、
前記真空ポンプの排出口に連結された第1エジェクタと、
前記第1エジェクタの排気ポートに連結されたポンプ排気管と、
前記第1エジェクタの駆動流体ポートに連結された不活性ガス供給ラインと、
前記真空ポンプおよび前記第1エジェクタを覆う筐体と、
前記筐体に連結された筐体排気管と、
前記筐体排気管に取り付けられ、前記筐体内の空気を吸い込むための第2エジェクタと、
前記第2エジェクタの駆動流体ポートに連結された駆動ガス供給ラインを備え、
前記ポンプ排気管は前記筐体排気管に接続されている、水素希釈装置。
【請求項2】
前記ポンプ排気管と前記筐体排気管との接続点よりも下流側の位置において、前記筐体排気管に取り付けられた気体混合器をさらに備えている、請求項1に記載の水素希釈装置。
【請求項3】
前記第2エジェクタの上流側の位置において、前記筐体排気管に接続された圧縮空気注入ラインをさらに備えている、請求項2に記載の水素希釈装置。
【請求項4】
前記ポンプ排気管に取り付けられた酸素検出器と、
前記酸素検出器によって測定された酸素の濃度がしきい値よりも高いときに警報信号を生成する酸素濃度監視装置をさらに備えている、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の水素希釈装置。
【請求項5】
前記筐体は、その長手方向に沿って分布する複数の空気取り入れ口を有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の水素希釈装置。
【請求項6】
前記真空ポンプは、複数の真空ポンプであり、
前記第1エジェクタは、前記複数の真空ポンプの排出口にそれぞれ連結された複数の第1エジェクタであり、
前記ポンプ排気管は、前記複数の第1エジェクタの排気ポートに連結された集合管である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の水素希釈装置。
【請求項7】
極端紫外線露光装置から排出される水素を希釈するための水素希釈方法であって、
前記極端紫外線露光装置から排出された水素を真空ポンプにより吸い込み、
前記真空ポンプの排出口に連結された第1エジェクタの駆動流体ポートに不活性ガスを供給することで、前記真空ポンプから排出された水素を前記第1エジェクタ内に吸引させて、前記水素と前記不活性ガスとの第1混合体を形成する第1希釈工程を実行し、
前記真空ポンプおよび前記第1エジェクタを覆う筐体の内部に連通する第2エジェクタの駆動流体ポートに駆動ガスを供給することで、前記筐体内の空気を前記第2エジェクタ内に吸引させて、前記空気と前記駆動ガスとの第2混合体を形成し、
前記第1混合体と前記第2混合体を混合させることで、前記第1混合体中の前記水素を前記第2混合体でさらに希釈する第2希釈工程を実行する、水素希釈方法。
【請求項8】
前記第1混合体と前記第2混合体を気体混合器により混合させる、請求項7に記載の水素希釈方法。
【請求項9】
前記第2エジェクタの上流側の位置において、前記第2混合体に圧縮空気を注入する工程をさらに含む、請求項8に記載の水素希釈方法。
【請求項10】
前記第1混合体内の酸素の濃度がしきい値よりも高いときに警報信号を生成する工程をさらに含む、請求項7乃至9のいずれか一項に記載の水素希釈方法。
【請求項11】
前記駆動ガスは、不活性ガスおよび圧縮空気のいずれか1つである、請求項7乃至10のいずれか一項に記載の水素希釈方法。
【請求項12】
前記第1混合体と前記第2混合体との混合体である希釈水素含有ガス中の水素の濃度は4%以下である、請求項7乃至11のいずれか一項に記載の水素希釈方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素ガスを爆発下限界以下の濃度になるまで希釈する水素希釈装置および水素希釈方法に関し、特に、EUV(Extreme Ultra Violet)露光装置から排出される大量の水素ガスを希釈するための水素希釈装置および水素希釈方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、極めて短い波長でウェーハなどの基板の露光処理を実行するEUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外線)露光装置が実用化されようとしている。EUV露光装置は超精密機器であり、特に光学系への異物の進入によって性能が急激に低下する。EUV露光装置は、EUVを発生させる光源部と、光源部で発生させたEUVで基板の露光を行う露光部から構成されている。光源部ではターゲットへのレーザー照射によって生成するスズ(Sn)の酸化物が、露光部では感光性物質(レジスト)から脱離する有機物質が、それぞれ代表的な汚染源として知られている。
【0003】
これらへの汚染対策として、水素ガスを用いる方法がある。光源部では水素ガスを数百L/分使用してスズの酸化物をガス状の水素化物として除去し、また露光部では同じく水素ガスを数十L/分使用して有機物質をガス化させて除去する。使用された水素ガスは大半が未反応ではあるが、除去された汚染物質のキャリアとして装置から排出される。したがって、EUV露光装置からは数百L/分という大量の水素ガスを含む排ガスが排出される。
【0004】
EUV露光装置から排出される水素ガスを処理するための装置として、水素ガスを火炎に接触させて燃焼処理する燃焼式排ガス処理装置がある。EUV露光装置からは大量の水素ガスが排出されるため、別途燃料を供給することなく、支燃性ガス(例えば、空気などの酸素含有ガス)を供給するだけで水素ガスを燃焼処理できる。そのため、EUV露光装置の下流側に、燃焼式排ガス処理装置を配置して、水素ガスを低コストで燃焼処理することが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-27776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水素は燃焼速度が速く、燃焼範囲が広い(高濃度でも低濃度でも燃焼する)特徴を持つ。そのため、水素が燃焼室内に流入した直後急速に燃焼して局所的な高温部が形成され、燃焼室が熱損傷する可能性がある。熱損傷の可能性は水素の流入量が多いほど高くなるため、従来の燃焼式排ガス処理装置では、EUV露光装置から大量に排出される水素を処理できないおそれがある。また、水素の燃焼のために、燃料と酸化用ガス、燃焼後のガス等の冷却、それらを供給するシステムのコストは、処理すべき水素が増えるにつれて増大する。それに加え、燃焼させることによりCO等の温室効果ガスを発生させる。
【0007】
そこで、本発明は、従来の燃焼式に代えて、水素を爆発下限界以下の濃度になるまで希釈して大気放出することを可能とする水素希釈装置および水素希釈方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、極端紫外線露光装置から排出される水素を希釈するための水素希釈装置であって、前記極端紫外線露光装置から排出された水素を吸い込むための真空ポンプと、前記真空ポンプの排出口に連結された第1エジェクタと、前記第1エジェクタの排気ポートに連結されたポンプ排気管と、前記第1エジェクタの駆動流体ポートに連結された不活性ガス供給ラインと、前記真空ポンプおよび前記第1エジェクタを覆う筐体と、前記筐体に連結された筐体排気管と、前記筐体排気管に取り付けられ、前記筐体内の空気を吸い込むための第2エジェクタと、前記第2エジェクタの駆動流体ポートに連結された駆動ガス供給ラインを備え、前記ポンプ排気管は前記筐体排気管に接続されている、水素希釈装置が提供される。
【0009】
一態様では、前記水素希釈装置は、前記ポンプ排気管と前記筐体排気管との接続点よりも下流側の位置において、前記筐体排気管に取り付けられた気体混合器をさらに備えている。
一態様では、前記水素希釈装置は、前記第2エジェクタの上流側の位置において、前記筐体排気管に接続された圧縮空気注入ラインをさらに備えている。
一態様では、前記水素希釈装置は、前記ポンプ排気管に取り付けられた酸素検出器と、前記酸素検出器によって測定された酸素の濃度がしきい値よりも高いときに警報信号を生成する酸素濃度監視装置をさらに備えている。
一態様では、前記筐体は、その長手方向に沿って分布する複数の空気取り入れ口を有する。
一態様では、前記真空ポンプは、複数の真空ポンプであり、前記第1エジェクタは、前記複数の真空ポンプの排出口にそれぞれ連結された複数の第1エジェクタであり、前記ポンプ排気管は、前記複数の第1エジェクタの排気ポートに連結された集合管である。
【0010】
一態様では、極端紫外線露光装置から排出される水素を希釈するための水素希釈方法であって、前記極端紫外線露光装置から排出された水素を真空ポンプにより吸い込み、前記真空ポンプの排出口に連結された第1エジェクタの駆動流体ポートに不活性ガスを供給することで、前記真空ポンプから排出された水素を前記第1エジェクタ内に吸引させて、前記水素と前記不活性ガスとの第1混合体を形成する第1希釈工程を実行し、前記真空ポンプおよび前記第1エジェクタを覆う筐体の内部に連通する第2エジェクタの駆動流体ポートに駆動ガスを供給することで、前記筐体内の空気を前記第2エジェクタ内に吸引させて、前記空気と前記駆動ガスとの第2混合体を形成し、前記第1混合体と前記第2混合体を混合させることで、前記第1混合体中の前記水素を前記第2混合体でさらに希釈する第2希釈工程を実行する、水素希釈方法が提供される。
【0011】
一態様では、前記第1混合体と前記第2混合体を気体混合器により混合させる。
一態様では、前記水素希釈方法は、前記第2エジェクタの上流側の位置において、前記第2混合体に圧縮空気を注入する工程をさらに含む。
一態様では、前記水素希釈方法は、前記第1混合体内の酸素の濃度がしきい値よりも高いときに警報信号を生成する工程をさらに含む。
一態様では、前記駆動ガスは、不活性ガスおよび圧縮空気のいずれか1つである。
一態様では、前記第1混合体と前記第2混合体との混合体である希釈水素含有ガス中の水素の濃度は4%以下である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、極端紫外線露光装置から排出された水素を2段階で希釈することができる。すなわち、第1希釈工程では水素を第1エジェクタ内で不活性ガスにより希釈し、第2希釈工程では水素を空気により希釈する。このように不活性ガスと空気による2段階希釈により、水素を爆発下限界以下の濃度になるまで希釈することができる。したがって、希釈された水素を大気放出することができる。本発明は、従来の燃焼式排ガス処理とは異なり、水素を燃焼させないので、大量の水素を処理することが可能である。
【0013】
さらに、本発明によれば、第1エジェクタは、真空ポンプの背圧を低下させることができる。結果として、第1エジェクタの運転により真空ポンプの電力消費を低減させることができる。
真空ポンプおよび第1エジェクタを覆う筐体内の空気は第2エジェクタにより吸引される。したがって、仮に配管損傷などに起因して水素が筐体内に漏洩したとしても、漏洩した水素は第2エジェクタによって吸引され、筐体外には流出しない。さらに、第1エジェクタおよび第2エジェクタは、電力を必要としないので、着火源とはなりえない。結果として、安全な運用が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】水素希釈装置の一実施形態を説明する模式図である。
図2】水素、酸素、および窒素を含む混合ガスの可燃領域を示す図である。
図3】水素、酸素、および窒素を含む混合ガスの可燃領域を示す図である。
図4】水素希釈装置の他の実施形態を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下に説明する実施形態に係る水素希釈装置および水素希釈方法は、極端紫外線露光装置(以下、EUV(Extreme Ultra Violet)露光装置という)で使用された水素を希釈する用途に使用される。EUV露光装置は、一般に、極端紫外線(EUV)を発生させる光源部と、光源部で発生させた極端紫外線(EUV)で基板、ウェーハ、パネルなどのワークピースの露光を行う露光部を備えている。上述したように、光源部および露光部では大量の水素ガスが使用される。この水素ガスは、以下に説明する水素希釈装置に送られ、ここで希釈される。
【0016】
図1は、水素希釈装置の一実施形態を説明する模式図である。図1に示すように、本実施形態に係る水素希釈装置は、EUV露光装置の光源部で使用された水素を希釈するための第1水素希釈部1と、EUV露光装置の露光部で使用された水素を希釈するための第2水素希釈部2を備えている。第1水素希釈部1と第2水素希釈部2は、基本的に同じ構成要素を有している。
【0017】
図1に示すように、第1水素希釈部1は、EUV露光装置の光源部から排出された水素を吸い込むための複数の真空ポンプVPと、これら真空ポンプVPの排出口にそれぞれ連結された複数の第1エジェクタ5と、これら第1エジェクタ5の排気ポートに連結されたポンプ排気管7と、複数の第1エジェクタ5の駆動流体ポートにそれぞれ連結された複数の不活性ガス供給ライン9を備えている。
【0018】
本実施形態では、各真空ポンプVPには、容積式ドライ真空ポンプが使用されており、その具体的な構成は特に限定されない。複数の真空ポンプVPの吸気口は、多岐管(インテークマニホールド)12に接続されている。この多岐管12は、EUV露光装置の光源部から延びる水素移送管(図示せず)に接続されている。これらの真空ポンプVPが運転されると、EUV露光装置の光源部で使用された水素(より具体的には水素ガス)は多岐管12を通って真空ポンプVPに吸い込まれる。
【0019】
複数の第1エジェクタ5の吸込みポートは、複数の真空ポンプVPの排出口にそれぞれ連結されている。これら第1エジェクタ5は、複数の真空ポンプVPの排出口に連結管を通じて連結されてもよく、あるいは複数の真空ポンプVPの排出口に直接連結されてもよい。本実施形態では、各第1エジェクタ5は、不活性ガスの一例である窒素ガスからなる駆動流体の供給に伴って作動し、その上流側の真空ポンプVPから排出された水素を吸い込む。すなわち、不活性ガス供給ライン9は、窒素ガス供給ラインであり、不活性ガスとしての窒素ガスは、第1エジェクタ5の駆動流体ポートに供給される。一実施形態では、窒素ガス以外の不活性ガスを用いてもよいが、水素希釈装置の運転コストの観点から、安価な窒素ガスが好ましく使用される。
【0020】
真空ポンプVPが運転しながら、不活性ガス供給ライン9は窒素ガスを第1エジェクタ5の駆動流体ポートに供給する。第1エジェクタ5は、真空ポンプVPから排出された水素を吸い込み、第1エジェクタ5内で水素と窒素が混合されて第1混合体を形成する。水素は窒素によって希釈される(第1希釈工程)。水素と窒素を含む第1混合体は、第1エジェクタ5に接続されたポンプ排気管7を通って移送される。本実施形態では、ポンプ排気管7は、複数の第1エジェクタ5の排気ポートに連結された集合管(エグゾーストマニホールド)から構成されている。
【0021】
第1エジェクタ5は、真空ポンプVPの背圧を低下させることができる。結果として、第1エジェクタ5の運転により真空ポンプVPの電力消費を低減させることができる。
【0022】
水素希釈装置は、複数の真空ポンプVPおよび複数の第1エジェクタ5を覆う筐体20と、筐体20に連結された筐体排気管22と、筐体20内の空気を吸い込むための第2エジェクタ25と、第2エジェクタ25の駆動流体ポートに連結された駆動ガス供給ライン28をさらに備えている。第2エジェクタ25は、筐体排気管22に取り付けられている。
【0023】
筐体20は、複数の真空ポンプVPおよび複数の第1エジェクタ5の全体を囲む箱形状を有しており、上壁20a、側壁20b、前面壁(図示せず)、背面壁20c、および底壁20dを有している。筐体排気管22は、筐体20の上壁20aに接続されており、筐体20の内部に連通している。筐体排気管22は、筐体20の長手方向に沿って分布する複数の入口22aを有する集合管(エグゾーストマニホールド)から構成されている。筐体20は、その長手方向に沿って分布する複数の空気取り入れ口27を有している。これらの空気取り入れ口27は、筐体20の底壁20dに設けられている。一実施形態では、空気取り入れ口27は、側壁20bの下部に設けられてもよい。さらに一実施形態では、筐体排気管22の複数の入口22aは筐体20の底壁20dまたは側壁20bに接続され、複数の空気取り入れ口27は筐体20の上壁20aに設けられてもよい。
【0024】
第2エジェクタ25の吸込みポートおよび排気ポートは、筐体排気管22に接続されている。駆動ガス供給ライン28は、駆動ガスを第2エジェクタ25の駆動流体ポートに供給する。第2エジェクタ25は、筐体20内の空気を吸込み、第2エジェクタ25内で空気と駆動ガスが混合されて第2混合体を形成する。この第2混合体は、第2エジェクタ25から排出され、筐体排気管22をさらに流れる。
【0025】
第2エジェクタ25の動作に伴い、空気は、空気取り入れ口27から筐体20内に流入し、筐体20内を流れ、そして筐体排気管22に流入する。結果として、筐体20内には負圧(大気圧よりも低い圧力)が形成される。仮に配管損傷などに起因して水素が筐体20内に漏洩したとしても、漏洩した水素は筐体排気管22を通じて第2エジェクタ25によって吸引されるので、筐体20の外には流出しない。
【0026】
上述したように、空気取り入れ口27は、筐体20の長手方向に沿って分布しているので、空気の流れは、筐体20の内部全体に形成される。すなわち、筐体20内の空気の全体は、外部の空気に連続的に置換され、筐体20内に空気の淀みが形成されない。したがって、万が一、水素が筐体20内に漏洩したとしても、漏洩した水素は空気の流れとともに速やかに筐体排気管22内に流入する。
【0027】
駆動ガスは、不活性ガスまたは圧縮空気である。一例では、不活性ガスは窒素ガスであり、圧縮空気は圧縮された乾燥空気である。駆動ガスとして、不活性ガスまたは圧縮空気のどちらを使用するかは、最終的に得られる希釈水素含有ガス中の水素の燃焼リスク、および水素希釈装置のランニングコストに基づいて決められる。すなわち、希釈水素含有ガス中の不活性ガスの濃度が高いほど、水素の燃焼リスクは低下する。したがって、水素の燃焼リスクを低下させる観点から、駆動ガスに不活性ガス(例えば窒素ガス)を使用することができる。その一方で、不活性ガスの使用はある程度のコストを伴う。したがって、処理コスト低下の観点から、駆動ガスに圧縮空気を使用することもある。
【0028】
ポンプ排気管7は、第2エジェクタ25の下流側の位置において、筐体排気管22に接続されている。したがって、ポンプ排気管7を流れる第1混合体(水素と窒素を含む)は、筐体排気管22を流れる第2混合体(空気と駆動ガスを含む)と混合され、希釈水素含有ガスを形成する(第2希釈工程)。この第2希釈工程では、第1混合体中の水素は、空気を含む第2混合体によってさらに希釈される。
【0029】
このように、本実施形態に係る水素希釈装置は、EUV露光装置から排出された水素を2段階で希釈することができる。すなわち、第1希釈工程では水素を第1エジェクタ5内で不活性ガスにより希釈し、第2希釈工程では水素を空気により希釈する。このように不活性ガスと空気による2段階希釈により、水素を爆発下限界以下の濃度になるまで希釈することができる。したがって、希釈された水素を大気放出することができる。水素希釈装置は、従来の燃焼式排ガス処理とは異なり、水素を燃焼させないので、大量の水素を処理することが可能である。
【0030】
第2水素希釈部2は、第1水素希釈部1よりも少ない数の真空ポンプVPおよび第1エジェクタ5を備えている。第2水素希釈部2の多岐管12は、EUV露光装置の露光部から延びる水素移送管(図示せず)に接続されている。第2水素希釈部2の真空ポンプVPが運転されると、EUV露光装置の露光部で使用された水素(より具体的には水素ガス)は多岐管12を通って第2水素希釈部2の真空ポンプVPに吸い込まれる。第2水素希釈部2の基本的な構成および動作は第1水素希釈部1と同じであるので、その重複する説明を省略する。
【0031】
図1に示す実施形態では、第1水素希釈部1は5つの真空ポンプVPおよび対応する5つの第1エジェクタ5を備えているが、真空ポンプVPの数および第1エジェクタ5の数は本実施形態に限定されない。一実施形態では、光源部から排出される水素ガスの流量がある程度低い場合は、第1水素希釈部1は、単一の真空ポンプVPおよび対応する単一の第1エジェクタ5を備えてもよい。複数の真空ポンプVPのうちの1つ、および複数の第1エジェクタ5のうちの1つは、それぞれスペアポンプおよびスペアエジェクタとして使用してもよい。具体的には、スペアポンプおよびスペアエジェクタは、通常は運転されず、他の真空ポンプVPおよび/または他の第1エジェクタ5が故障したときに、スペアポンプおよびスペアエジェクタが運転されてもよい。このような運転によれば、第1水素希釈部1から排出される希釈水素含有ガスの流量を一定に保つことができる。
【0032】
同様に、第2水素希釈部2は3つの真空ポンプVPおよび対応する3つの第1エジェクタ5を備えているが、真空ポンプVPの数および第1エジェクタ5の数は本実施形態に限定されない。一実施形態では、露光部から排出される水素ガスの流量がある程度低い場合は、第2水素希釈部2は、単一の真空ポンプVPおよび対応する単一の第1エジェクタ5を備えてもよい。複数の真空ポンプVPのうちの1つ、および複数の第1エジェクタ5のうちの1つは、それぞれスペアポンプおよびスペアエジェクタとして使用してもよい。通常、EUV露光装置の露光部から排出される水素ガスの流量は、光源部から排出される水素ガスの流量よりも低い。したがって、第2水素希釈部2の真空ポンプVPの数および第1エジェクタ5の数は、第1水素希釈部1の真空ポンプVPの数および第1エジェクタ5の数よりも少ない。
【0033】
筐体排気管22は、種々の処理装置を経由してスクラバ30に連通している。スクラバ30は、水素希釈装置から排出された希釈水素含有ガスを引き込み、希釈水素含有ガスから微小なパーティクルを除去する装置である。スクラバ30は、その上流側に負圧を形成するように構成されており、結果として筐体排気管22およびポンプ排気管7内には負圧が形成される。したがって、筐体排気管22および/またはポンプ排気管7に損傷があっても、筐体排気管22および/またはポンプ排気管7から水素を含むガスが漏洩することが防止される。
【0034】
水素希釈装置は、ポンプ排気管7に取り付けられた酸素検出器35と、酸素検出器35によって測定された酸素の濃度がしきい値よりも高いときに警報信号を生成する酸素濃度監視装置36をさらに備えている。酸素検出器35は、真空ポンプVPおよび第1エジェクタ5の下流側に配置されている。酸素検出器35は、例えば、酸素の濃度を測定するセンサである。ポンプ排気管7または多岐管12の損傷などに起因して空気がポンプ排気管7内に流入すると、酸素検出器35はポンプ排気管7内に存在する酸素を検出し、その酸素濃度を測定する。酸素濃度の測定値は酸素濃度監視装置36に送られる。酸素濃度監視装置36は、測定された酸素の濃度を予め設定されたしきい値と比較し、しきい値よりも高ければ、警報信号を生成する。警報信号は、上流側のEUV露光装置に送られ、EUV露光装置の運転が強制停止される。
【0035】
図2は、水素、酸素、および窒素を含む混合ガスの可燃領域を示す図である。図2における可燃領域は、着火源がある条件下で混合ガスが燃焼しうる領域である。図2から分かるように、水素の濃度[Vol%]が4%以下であるとき、酸素の濃度にかかわらず混合ガスは燃焼しない。同様に、酸素の濃度[Vol%]が5.3%以下であるとき、水素の濃度にかかわらず混合ガスは燃焼しない。
【0036】
水素希釈装置によって生成された希釈水素含有ガスが大気に放出されたときに希釈水素含有ガス中の水素が燃焼しないようにするために、水素希釈装置は、第1希釈工程および第2希釈工程を実施して、希釈水素含有ガス中の水素の濃度を4%以下、好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下にする。
【0037】
第1希釈工程では、水素は窒素のみによって希釈される。したがって、図2に示すように、第1混合体中の水素と酸素の濃度は可燃領域から外れている。これに対し、第2希釈工程では、水素は空気を含む第2混合体によって希釈される。したがって、水素が空気によって希釈される過程で、希釈水素含有ガス(第1混合体と第2混合体との混合ガス)中の水素と酸素の濃度は可燃領域に入る可能性がある。
【0038】
第2希釈工程中に希釈水素含有ガス中の水素と酸素の濃度が可燃領域を通過する距離は、できるだけ短いことが好ましい。図2には、第2希釈工程中に希釈水素含有ガス中の水素と酸素の濃度が可燃領域を全く通過しない第1例が示されている。この第1例では、第1希釈工程において、水素の流量に対して窒素の流量が高く、第1混合体中の窒素の濃度が約90%に達している。このため、第2希釈工程では、相対的に低い流量の空気が水素と混合され、水素を希釈する。第1例では、第2希釈工程中に希釈水素含有ガス中の水素と酸素の濃度は可燃領域の外にあるので、燃焼リスクは実質的になく、安全が確保される。
【0039】
一方、図3には、第2希釈工程中に希釈水素含有ガス中の水素と酸素の濃度が可燃領域を一時的に通過する第2例が示されている。この第2例では、第1例に比べて、第1希釈工程で使用される窒素の流量が低い。このため、第2希釈工程中において、希釈水素含有ガス中の水素と酸素の濃度は、可燃領域を一時的に通過する。結果として、燃焼リスクはやや上昇するが、使用される窒素の量は少ないので、処理コストが低減できる。このように、燃焼リスクと処理コストの観点から、第1希釈工程で供給すべき窒素(不活性ガス)の流量が決められる。
【0040】
図4は、水素希釈装置の他の実施形態を示す模式図である。特に説明しない本実施形態の構成および動作は、図1乃至図3を参照して説明した実施形態と同じであるので、その重複する説明を省略する。図4に示す実施形態は、第2エジェクタ25の下流側に気体混合器51を備えている点で、図1に示す実施形態と異なっている。
【0041】
気体混合器51は、ポンプ排気管7と筐体排気管22との接続点よりも下流側の位置において、筐体排気管22に取り付けられている。気体混合器51は、第1混合体(水素と窒素を含む)と第2混合体(空気を含む)とを積極的に混合することで、局所的に高い濃度の水素の存在をなくすために設けられている。本実施形態では、気体混合器51は、筐体排気管22に接続されたインラインミキサである。気体混合器51の構成は特に限定されないが、具体例としてスクリューブレード型、邪魔板型、多孔板型などが挙げられる。
【0042】
気体混合器51は、その構成上、必然的に圧力損失を生じさせ、結果として水素希釈装置から排出される希釈水素含有ガスの流量を低下させる。そこで、希釈水素含有ガスの流量低下を回復させるために、水素希釈装置は、筐体排気管22に接続された圧縮空気注入ライン52を備えている。図4に示すように、圧縮空気注入ライン52は、第2エジェクタ25の上流側の位置において筐体排気管22に接続されている。
【0043】
圧縮空気注入ライン52は、圧縮空気(例えば、圧縮された乾燥空気)を筐体排気管22内に注入する。より具体的には、圧縮空気注入ライン52は、第2エジェクタ25の上流側(一次側)の圧力が大気圧よりも低い状態に維持される限りにおいて、圧縮空気を筐体排気管22内に注入する。その結果、第2エジェクタ25を通過する空気の流量が増加し、希釈水素含有ガスの流量低下が回復される。
【0044】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0045】
1 第1水素希釈部
2 第2水素希釈部
5 第1エジェクタ
7 ポンプ排気管
9 不活性ガス供給ライン
12 多岐管(インテークマニホールド)
20 筐体
22 筐体排気管
25 第2エジェクタ
27 空気取り入れ口
28 駆動ガス供給ライン
30 スクラバ
35 酸素検出器
36 酸素濃度監視装置
51 気体混合器
52 圧縮空気注入ライン
VP 真空ポンプ
図1
図2
図3
図4