(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-19
(45)【発行日】2024-06-27
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20240620BHJP
C08K 5/49 20060101ALI20240620BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240620BHJP
C08J 3/205 20060101ALI20240620BHJP
【FI】
C08L67/02
C08K5/49
C08K3/22
C08J3/205 CFD
(21)【出願番号】P 2021524792
(86)(22)【出願日】2020-05-27
(86)【国際出願番号】 JP2020020897
(87)【国際公開番号】W WO2020246335
(87)【国際公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019103728
(32)【優先日】2019-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松崎 流成
(72)【発明者】
【氏名】坂田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】五島 一也
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/225778(WO,A1)
【文献】特開2006-219626(JP,A)
【文献】特開平11-049937(JP,A)
【文献】特開2003-055540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/02
C08K 5/49
C08K 3/22
C08J 3/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂を合計100質量部、及びリン化合物を0.1~1.0質量部含有し、以下の式I及び式II:
式I: 結晶化温度Tc1(℃)≦195℃
式II: [結晶化温度Tc1(℃)]-[結晶化温度Tc3(℃)]≦15℃
(式中、Tc1は、JIS K7121に基づいて昇温速度10℃/分で40℃から280℃まで昇温させ、降温速度10℃/分で280℃から40℃まで降温させるサイクルを3サイクル行なったときの、1サイクル目の降温での、示差走査熱量測定(DSC)におけるDSC曲線の最大吸熱ピークのピーク温度(℃)を表し、Tc3は、3サイクル目の降温での、示差走査熱量測定(DSC)におけるDSC曲線の最大吸熱ピークのピーク温度(℃)を表す)
を満たし、
三酸化アンチモンを含むエステル交換促進剤をさらに含有し、
エステル交換促進剤の含有量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対して0.01~2質量部である、樹脂組成物。
【請求項2】
ポリエチレンテレフタレート樹脂の含有量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して50~80質量部である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
自動車用内装部品及び/又は自動車用外装部品の製造に用いられる、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
リン化合物が有機リン化合物を含有し、
有機リン化合物の含有量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対して0.1~0.2質量部である、請求項1から3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
ハロゲン系難燃剤を含まない、又はハロゲン系難燃剤の含有量が全樹脂組成物中に5質量%以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法であり、
ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂とを以下の式IIIを満たす条件で熱処理して樹脂混合物を得、該樹脂混合物とリン化合物とを混合して樹脂組成物を得る、樹脂組成物の製造方法。
式III: 12000(℃・s)≦温度(℃)×時間(s)≦180000(℃・s)
【請求項7】
ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂とを加熱容器内で溶融し滞留させることにより熱処理し、引き続き加熱容器内にリン化合物を添加して加熱混合し樹脂組成物を得る、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂とを溶融押出しすることにより、熱処理された樹脂混合物を得、次いで該樹脂混合物とリン化合物とを加熱混合し樹脂組成物を得る、請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1から5のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法であり、
ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂を混合し樹脂混合物を得ること、
前記樹脂混合物を以下の式IIIを満たす条件で熱処理すること、
式III: 12000(℃・s)≦温度(℃)×時間(s)≦180000(℃・s)
及び、熱処理された前記樹脂混合物とリン化合物とを混合すること、を含む、樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1から5のいずれか一項に記載の樹脂組成物を用いた成形品。
【請求項11】
自動車用内装部品又は自動車用外装部品である、請求項10に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)は、機械的特性、電気的特性、耐熱性、耐薬品性及び耐溶剤性等の諸特性に優れるため、エンジニアリングプラスチックとして、自動車用部品、電気・電子部品等の種々の用途に広く利用されている。
PBT樹脂は、結晶化速度が比較的高い性質を有している。そのため、成形時に金型内での樹脂の固化速度を遅くして金型面の転写性を高め、それにより成形品の外観性を向上させる目的で、PBT樹脂をポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)等の低結晶性のポリエステル樹脂とアロイ化して用いることがある。例えば、特許文献1には、アロイ樹脂として特定のPET樹脂を含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PBT樹脂とPET樹脂とを含むポリエステル系樹脂組成物は、溶融時にPBT樹脂とPET樹脂との間でエステル交換反応が進行し易い。エステル交換反応が進行し過ぎると、樹脂組成物の融点や結晶化温度が大きく変化してしまうことがある。そうした場合は成形品の物性が低下したり、金型からの離型性などの成形性が悪化したりする等の熱安定性が低下するという問題が起こる場合がある。
【0005】
本発明は、外観性が優れかつ熱安定性にも優れている成形品の製造に適した樹脂組成物、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、樹脂組成物の結晶化温度が特定の条件を満たす場合に、成形品の良外観性及び熱安定性を両立できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下に関するものである。
[1]ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂を合計100質量部、及びリン化合物を0.1~1.0質量部含有し、以下の式I及び式IIを満たす、樹脂組成物。
式I: 結晶化温度Tc1(℃)≦195℃
式II: [結晶化温度Tc1(℃)]-[結晶化温度Tc3(℃)]≦15℃
(式中、Tc1は、JIS K7121に基づいて昇温速度10℃/分で40℃から280℃まで昇温させ、降温速度10℃/分で280℃から40℃まで降温させるサイクルを3サイクル行なったときの、1サイクル目の降温での、示差走査熱量測定(DSC)におけるDSC曲線の最大吸熱ピークのピーク温度(℃)を表し、Tc3は、3サイクル目の降温での、示差走査熱量測定(DSC)におけるDSC曲線の最大吸熱ピークのピーク温度(℃)を表す。)
[2]ポリエチレンテレフタレート樹脂の含有量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して50~80質量部である、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]自動車用内装部品及び/又は自動車用外装部品の製造に用いられる、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4]リン化合物が有機リン化合物を含有し、有機リン化合物の含有量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対して0.1~0.2質量部である、[1]から[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]エステル交換促進剤をさらに含有し、エステル交換促進剤の含有量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対して0.01~2質量部である、[1]から[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]ハロゲン系難燃剤を含まない、又はハロゲン系難燃剤の含有量が全樹脂組成物中に5質量%以下である、[1]から[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7][1]から[6]のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であり、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂とを以下の式IIIを満たす条件で熱処理して樹脂混合物を得、該樹脂混合物とリン化合物とを混合して樹脂組成物を得る、樹脂組成物の製造方法。
式III: 12000(℃・s)≦温度(℃)×時間(s)≦180000(℃・s)
[8]ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂とを加熱容器内で溶融し滞留させることにより熱処理し、引き続き加熱容器内にリン化合物を添加して加熱混合し樹脂組成物を得る、[7]に記載の製造方法。
[9]ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂とを溶融押出しすることにより、熱処理された樹脂混合物を得、次いで該樹脂混合物とリン化合物とを加熱混合し樹脂組成物を得る、[7]に記載の製造方法。
[10][1]から[6]のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法であり、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂を混合し樹脂混合物を得ること、前記樹脂混合物を以下の式IIIを満たす条件で熱処理すること、
式III: 12000(℃・s)≦温度(℃)×時間(s)≦180000(℃・s)
及び、熱処理された前記樹脂混合物とリン化合物とを混合すること、を含む、樹脂組成物の製造方法。
[11][1]から[6]のいずれかに記載の樹脂組成物を用いた成形品。
[12]自動車用内装部品又は自動車用外装部品である、[11]に記載の成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、外観性が優れかつ熱安定性にも優れている成形品の製造に適した樹脂組成物、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】外観性の評価に用いた射出成形品(自動車アウタードアハンドルエスカッション)の形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0010】
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、及びリン化合物を含有する。
【0011】
(ポリブチレンテレフタレート樹脂)
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)は、少なくともテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステルや酸ハロゲン化物等)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素原子数4のアルキレングリコール(1,4-ブタンジオール)又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を含むグリコール成分とを重縮合して得られるポリブチレンテレフタレート樹脂である。本実施形態において、ポリブチレンテレフタレート樹脂はホモポリブチレンテレフタレート樹脂(つまりブチレンテレフタレート単位が100モル%)に限らず、ブチレンテレフタレート単位を60モル%以上含有する共重合体であればよく、ブチレンテレフタレート単位を75モル%以上95モル%以下含有する共重合体とすることもできる。ポリブチレンテレフタレート単位が60モル%未満の場合、結晶化速度が遅く、離型性が低下する。
【0012】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、30meq/kg以下が好ましく、25meq/kg以下がより好ましい。
【0013】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)は本発明の目的を阻害しない範囲で特に制限されないが、0.60dL/g以上1.2dL/g以下であるのが好ましく、さらに好ましくは0.65dL/g以上0.9dL/g以下である。かかる範囲の固有粘度のポリブチレンテレフタレート樹脂を用いる場合には、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が特に成形性に優れたものとなる。また、異なる固有粘度を有するポリブチレンテレフタレート樹脂をブレンドして、固有粘度を調整することもできる。例えば、固有粘度1.0dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂と固有粘度0.7dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂とをブレンドすることにより、固有粘度0.9dL/gのポリブチレンテレフタレート樹脂を調製することができる。ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)は、例えば、o-クロロフェノール中で温度35℃の条件で測定することができる。
【0014】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分としてテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を用いる場合、例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC4-16のアルカンジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等のC5-10のシクロアルカンジカルボン酸;これらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)を用いることができる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0015】
これらのジカルボン酸成分の中では、イソフタル酸等のC8-12の芳香族ジカルボン酸、及び、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸等のC6-12のアルカンジカルボン酸がより好ましい。
【0016】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の調製において、コモノマー成分として1,4-ブタンジオール以外のグリコール成分を用いる場合、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)を用いることができる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0017】
これらのグリコール成分の中では、エチレングリコール、トリメチレングリコール等のC2-6のアルキレングリコール、ジエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール、又は、シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール等がより好ましい。
【0018】
ジカルボン酸成分及びグリコール成分の他に使用できるコモノマー成分としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4-カルボキシ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(ε-カプロラクトン等)等のC3
-12ラクトン;これらのコモノマー成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体、酸ハロゲン化物、アセチル化物等)が挙げられる。
【0019】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の結晶化温度Tc1PBT は、樹脂組成物の外観性をより高める点で、100℃~200℃であることが好ましく、140℃~198℃であることがより好ましく、160℃~195℃であることがさらに好ましく、180~195℃であることが特に好ましい。なお、結晶化温度Tc1PBTは、JIS K7121に基づいてDSC(示差走査熱量測定)により測定される、40℃から昇温速度10℃/分で260℃まで昇温後、降温速度-10℃/分にて40℃まで降温する操作を3回繰り返した際の、1サイクル目の結晶化温度のピークとする。なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂は溶融混練により結晶化温度が上昇することがある。例えばIVが0.70dL/gのホモポリブチレンテレフタレート樹脂について重合直後は結晶化温度が176℃だったものを溶融混練すると押出条件次第で198℃まで上昇することなどがある。したがって、前記温度は溶融混練後の値であり、例えば日本製鋼所製TEX30の2軸押出機を用いた場合、260℃、15kg/hr、130rpmの条件で溶融混練した後のポリブチレンテレフタレート樹脂の結晶化温度を指す。
【0020】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量は、樹脂組成物の全質量の5~80質量%であることが好ましく、10~70質量%であることがより好ましく、15~60質量%であることがさらに好ましい。
【0021】
(ポリエチレンテレフタレート樹脂)
ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)としては、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6アルキルエステルや酸ハロゲン化物等)と、ジオール成分としてエチレングリコール又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)とを、公知の方法に従って重縮合して得られるポリエチレンテレフタレート樹脂を用いることができる。
【0022】
ポリエチレンテレフタレート樹脂は、変性成分としてテレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体以外の他の芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体(C1-6アルキルエステルや酸ハロゲン化物等)に由来する繰り返し単位を、例えばジカルボン酸成分由来の全繰り返し単位に対して、0モル%を超え15モル%以下有していてもよい。
また、ポリエチレンテレフタレート樹脂は、変性成分としてエチレングリコール又はそのエステル形成性誘導体以外の他のジオール又はそのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)に由来する繰り返し単位を、例えばジオール成分由来の全繰り返し単位に対して0モル%を超え1モル%以下有していてもよい。
【0023】
テレフタル酸以外の他の芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体としては、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル等のC8-14の芳香族ジカルボン酸、又はこれらのジカルボン酸成分のエステル形成性誘導体(C1-6のアルキルエステル誘導体や酸ハロゲン化物等)が挙げられる。これらのジカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0024】
エチレングリコール以外の他のグリコール又はそのエステル形成性誘導体としては、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-オクタンジオール等のC2-10のアルキレングリコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のポリオキシアルキレングリコール;シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等の脂環式ジオール;ビスフェノールA、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール;ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加体、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド3モル付加体等の、ビスフェノールAのC2-4のアルキレンオキサイド付加体;又はこれらのグリコールのエステル形成性誘導体(アセチル化物等)が挙げられる。これらのグリコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
ポリエチレンテレフタレート樹脂の結晶化温度Tc1PETは、樹脂組成物の外観性をより高める点で、210℃以下であることが好ましく、205℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。なお、結晶化温度Tc1PETは、JIS K7121に基づいてDSC(示差走査熱量測定)により測定される、40℃から昇温速度10℃/分で280℃まで昇温後、降温速度-10℃/分にて40℃まで降温する操作を3回繰り返した際の、1サイクル目の結晶化温度のピークとする。
【0026】
ポリエチレンテレフタレート樹脂の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂100質量部に対して、ポリエチレンテレフタレート樹脂50~80質量部であることが好ましく、55~75質量部であることがより好ましく、60~70質量部であることがさらに好ましい。ポリエチレンテレフタレート樹脂の含有量を上記範囲にすることで、成形性を高めることができるとともに、成形時に金型面の転写性をより高めて成形品の外観性をより高めることができる。
【0027】
一実施形態において、樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂を主成分とすることが好ましい。「主成分」とは、樹脂組成物中にポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂を合計50質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上含有することを意味している。
【0028】
樹脂組成物は、発明の効果を阻害しない範囲で、PBT樹脂及びPET樹脂以外に、ポリカーボネート樹脂(PC樹脂)、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(PTT樹脂)、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂(PCT樹脂)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体(ABS樹脂)、ポリスチレン樹脂(PS樹脂)等の他の非晶性樹脂を含んでいてもよい。これらの非晶性樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
但し、非晶性樹脂がポリエステル系樹脂である場合、PBT樹脂やPET樹脂とのエステル交換により、成形性や機械的物性に影響を与える可能性があるため、ポリエステル系の非晶性樹脂を含有する場合は、樹脂組成物全体の10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0030】
(リン化合物)
リン化合物としては、有機リン化合物(例えば、有機ホスフェート、有機ホスファイト、有機ホスホネート、及び/又は有機ホスホナイト等)、及び無機リン化合物(アルカリ金属リン酸塩、及び/又はアルカリ土類金属リン酸塩等)等が挙げられ、これらから選択された少なくとも1種を用いることができる。リン化合物は、液状又は固体状のいずれであってもよい。リン化合物を含有することで、熱安定性を高め、良外観性と優れた熱安定性とを両立することができる。
【0031】
有機ホスフェートとしては、リン酸のモノ乃至トリアルキルエステル(例えば、モノステアリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート等のモノ乃至ジC6
-24アルキルエステル等)、リン酸のモノ乃至トリアリールエステル(モノ又はジフェニルホスフェート等のモノ又はジC6-10アリールエステル等)等が挙げられる。
【0032】
有機ホスファイトとしては、例えば、ビス(2,4-ジ-t-4メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0033】
有機ホスホネートとしては、ジステアリルホスホネート等のモノ又はジアルキルホスホネート(C6-24アルキルホスホネート等);ジフェニルホスホネート、ジ(ノニルフェニル)ホスホネート等のアリール基に置換基を有していてもよいアリールホスホネート(C6-10アリールホスホネート等);ジベンジルホスホネート等のモノ又はジアラルキルホスホネート((C6-10アリール-C1-6アルキル)ホスホネート等)等が挙げられる。
【0034】
有機ホスホナイトとしては、例えば、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンホスホナイト等が挙げられる。
【0035】
アルカリ金属リン酸塩としては、リン酸塩又は対応するリン酸水素塩(例えば、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム[(リン酸一ナトリウム(リン酸二水素ナトリウム)、リン酸二ナトリウム(リン酸水素ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム)等)]等のアルカリ金属塩を例示することができる。
アルカリ土類金属リン酸塩としては、リン酸カルシウム[第一リン酸カルシウム(リン酸二水素カルシウム、ビス(リン酸二水素)カルシウム一水和物等)、第二リン酸カルシウム(リン酸水素カルシウム、リン酸水素カルシウム二水和物等)等]、リン酸マグネシウム(リン酸水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム等)等のアルカリ土類金属塩が例示できる。アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩は、無水物又は含水物のいずれであってもよい。
【0036】
これらのリン化合物のうち、より優れた外観性の観点では有機リン系安定剤を用いることが好ましい。
【0037】
リン化合物の含有量は、PBT樹脂とPET樹脂の含有量の合計100質量部に対して0.1~1.0質量部であり、より好ましくは0.1~0.9質量部である。リン化合物の含有量を上記範囲内にすることで、熱安定性をより高めることができる。リン化合物が無機リン化合物を含有する場合、無機リン化合物の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対して、好ましくは0.2~0.8質量部であり、より好ましくは0.3~0.6質量部である。リン化合物が有機リン化合物を含有する場合、有機リン化合物の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対して好ましくは0.1~0.2質量部である。
【0038】
(エステル交換促進剤)
樹脂組成物は、エステル交換促進剤を含有することができる。エステル交換促進剤を含有することで、樹脂組成物がリン化合物として無機リン化合物(アルカリ金属リン酸塩、アルカリ土類金属リン酸塩等)を含有する場合に優れた外観性を維持することができる。
【0039】
エステル交換促進剤としては、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、ピロアンチモン酸ナトリウム等のアンチモン化合物;二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物;テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等のチタン化合物;ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸等のスズ化合物;酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド、燐酸水素マグネシウム等のマグネシウム化合物;酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、カルシウムアルコキサイド、燐酸水素カルシウム等のカルシウム化合物等のアルカリ土類金属化合物の他、マンガン化合物、亜鉛化合物等を挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
エステル交換促進剤の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対して0.01~2質量部であることが好ましく、0.02~1質量部であることがより好ましく、0.04~0.5質量部であることがさらに好ましい。
【0041】
一実施形態において、樹脂組成物は、リン化合物として無機リン化合物を含む場合、さらにエステル交換促進剤を含有することが好ましく、エステル交換促進剤としてアンチモン化合物を含有することがより好ましい。例えば、樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、無機リン化合物、及びアンチモン化合物を含有するように構成することができる。この場合の各成分の含有量等は上記のとおりである。
【0042】
一実施形態において、樹脂組成物は、リン化合物として有機リン化合物を含む場合、エステル交換促進剤を含まないか、樹脂組成物中に0.01質量%以下とするように構成することができる。なお、この記載は、樹脂組成物がリン化合物として有機リン化合物を含む場合に、さらにエステル交換促進剤を含むことを排除するものではない。
【0043】
(ハロゲン系難燃剤)
樹脂組成物は、ハロゲン系難燃剤を含まない、又はハロゲン系難燃剤の含有量が全樹脂組成物中に5質量%以下、又は1質量%以下であるように構成することができる。上記したエステル交換促進剤として用いられるアンチモン化合物は、一般的に、ハロゲン系難燃剤と共に用いられる難燃助剤としてポリブチレンテレフタレート樹脂を含む樹脂組成物に添加されることがある。しかし、本実施形態において、アンチモン化合物は難燃助剤ではなくエステル交換促進剤として用いることを主たる目的とするので、樹脂組成物はハロゲン系難燃剤を含んでいなくともよい。なお、本実施形態において、ハロゲン系難燃剤を含有することを排除するものではなく、樹脂組成物は所望の特性に応じてハロゲン系難燃剤等の公知の難燃剤を含有していてもよい。ハロゲン系難燃剤を含有する場合は、アンチモン化合物は、エステル交換促進剤として作用する他に、難燃助剤として作用することもできる。
【0044】
ハロゲン系難燃剤としては、有機ハロゲン化物が挙げられる。有機ハロゲン化物としては、ハロゲン含有アクリル系樹脂、ハロゲン含有スチレン系樹脂、ハロゲン含有ポリカーボネート系樹脂、ハロゲン含有エポキシ化合物、ハロゲン含有フェノキシ樹脂、ハロゲン含有リン酸エステル、ハロゲン含有トリアジン化合物、ハロゲン含有イソシアヌル酸化合物、ハロゲン化ポリアリールエーテル化合物、ハロゲン化芳香族イミド化合物等が挙げられる。
【0045】
(その他の添加剤)
樹脂組成物は、必要に応じて、樹脂組成物の流動性を向上させるための高流動化剤を含有することができる。流動性を向上させることで、成形性を高めることができる。
高流動化剤としては、多価水酸基含有化合物が挙げられる。多価水酸基含有化合物としては、多価アルコールと脂肪酸の部分エステルを用いることができ、例えばグリセリンモノ12ヒドロキシステアレート、グリセリンモノステアレート、トリグリセリンモノステアレート、ペンタエリスリトールやジペンタエリスリトールの脂肪酸エステル等が挙げられ、これらから選択される1以上を用いることができる。
高流動化剤の含有量は、ポリエチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対して、0.1~4.0質量部であることが好ましく、0.5~3.0質量部であることがより好ましい。
【0046】
樹脂組成物は、必要に応じて、無機充填剤を含有することができる。無機充填剤を含有することで、高い機械的強度を付与することができる。
無機充填剤としては、ガラス繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維等の繊維状充填剤;カーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、炭酸カルシウム等の粉粒状充填剤;マイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔等の板状充填剤等が挙げられる。無機充填剤の添加量は特に限定されず、ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂の合計100質量部に対して200質量部以下であることが好ましく、150質量部以下であることがより好ましい。
【0047】
樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、離型剤、酸化防止剤、耐候安定剤、分子量調整剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、染料、顔料、潤滑剤、結晶化促進剤、結晶核剤、近赤外線吸収剤、有機充填剤等を含有することができるが、添加剤はこれらに限定されない。添加剤の含有量は、特に限定されず、樹脂組成物中、10質量%以下、又は5質量%以下とすることができる。
【0048】
(結晶化温度)
樹脂組成物は、以下の式I及び式IIを満たす。
式I: 結晶化温度Tc1(℃)≦195℃
式II: 結晶化温度Tc1(℃)-結晶化温度Tc3(℃)≦15℃
式I,II中のTc1は、JIS K7121に基づいて昇温速度10℃/分で40℃から280℃まで昇温させ、降温速度10℃/分で280℃から40℃まで降温させるサイクル試験を3サイクル行なったときの、1サイクル目の降温での、示差走査熱量測定(DSC)におけるDSC曲線の最大吸熱ピークのピーク温度(℃)を表し、式II中のTc3は、上記サイクル試験における3サイクル目の降温での、示差走査熱量測定(DSC)におけるDSC曲線の最大吸熱ピークのピーク温度(℃)を表す。なお、式Iにおいて、Tc1の値は小数点第1位を四捨五入したものとする。同様に、式IIにおいて、Tc1-Tc3の値は小数点第1位を四捨五入したものとする。
【0049】
式Iに関し、結晶化温度Tc1は、195℃以下であり、好ましくは190℃以下であり、より好ましくは185℃以下である。結晶化温度Tc1を195℃以下にすることで、成形品の外観性を高めることができる。
式IIに関し、結晶化温度Tc1と結晶化温度Tc3との差[結晶化温度Tc1(℃)]-[結晶化温度Tc3(℃)]は、15℃以下であり、好ましくは10℃以下であり、より好ましくは5℃以下である。結晶化温度Tc1と結晶化温度Tc3との差を15℃以下にすることで、熱安定性を高めることができる。
【0050】
樹脂組成物の結晶化温度Tc1,Tc3の調整は、PET樹脂の結晶化温度及び/又は含有量で調整することの他、リン化合物の種類及び/又は含有量、及び/又はPBT樹脂とPET樹脂とのエステル交換反応を促進する添加剤(エステル交換促進剤)を添加する等により行うことができる。
【0051】
例えば、リン化合物の含有量を少なくすると、結晶化温度Tc1は低くなる傾向にある。また、例えば、リン化合物として無機リン化合物を用いると、結晶化温度Tc3は高くなる傾向にある。さらに、エステル交換促進剤として三酸化アンチモンを用いると、結晶化温度Tc1とTc3との差が大きくなる傾向にある。
【0052】
或いは、樹脂組成物の製造方法を工夫することによって、得られる樹脂組成物の結晶化温度Tc1,Tc3を調整することもできる。製造方法については、後述する。
【0053】
(用途)
樹脂組成物は、外観性が優れかつかつ熱安定性にも優れている成形品を製造することができるので、自動車用内装部品及び/又は外装部品、例えばドアミラーステー、インナー又はアウタードアハンドル、ベンチレーターフィン等の、外観面に露出する成形品用途に好適に用いることができる。こうした成形品の製造方法は、特に限定されず、例えば従来公知の射出成形、圧縮成形等によって形成することができる。
【0054】
[製造方法]
樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、当該技術分野で知られている設備及び方法を用いて製造することができる。例えば、必要な成分を混合し、1軸又は2軸の押出機又はその他の溶融混練装置を使用して混練し、成形用ペレットとして調製することができる。押出機又はその他の溶融混練装置は複数使用してもよい。また、全ての成分をホッパから同時に投入してもよいし、一部の成分はサイドフィード口から投入してもよい。
【0055】
本実施形態に係る樹脂組成物の製造方法において、得られる樹脂組成物の結晶化温度Tc1,Tc3を製造方法で調整する観点から、ポリブチレンテレフタレート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂とを以下の式IIIを満たす条件で熱処理して樹脂混合物を得、その後、該樹脂混合物とリン化合物とを混合して樹脂組成物を得るように構成することができる。
【0056】
式III: 12000(℃・s)≦温度(℃)×時間(s)≦180000(℃・s)
なお、式IIIにおいて、温度(℃)は、加熱容器内の温度又は押出温度とし、時間(s)は、加熱容器内に樹脂を滞留させる時間とする。
【0057】
熱処理の温度(℃)及び時間(s)の積が12000℃・s以上となる条件でPBT樹脂とPET樹脂とを加熱処理した後にリン化合物を添加することで、Tc1が高くなり過ぎることを防ぐことができる。
熱処理の温度(℃)及び時間(s)の積が180000℃・s以下となる条件でPBT樹脂とPET樹脂とを加熱処理した後にリン化合物を添加することで、分解により粘度が低下し過ぎるのを防ぐことができる。
PBT樹脂とPET樹脂とを熱処理する際の樹脂の流量Q(kg/h)は、例えば、10~20kg/hとすることができ、回転数N(rpm)は、例えば、100~150rpmとすることができる。
【0058】
PBT樹脂及びPET樹脂を含む樹脂混合物とリン化合物とを混合する際の条件は、特に限定されず、例えば、PBT樹脂又はPET樹脂の示差走査熱量計で測定される融点よりも10~30℃高い温度で60~240秒間溶融混錬することができる。
溶融混錬する際の樹脂の流量Q(kg/h)は、例えば、10~20kg/hとすることができ、回転数N(rpm)は、例えば、100~150rpmとすることができる。
【0059】
PBT樹脂及びPET樹脂を事前に熱処理して樹脂混合物を得る方法、及び樹脂混合物とリン化合物とを混合する方法は、特に限定されず、公知の押出機又は溶融混練装置を用いて行うことできる。熱処理して樹脂混合物を得る工程は、通常は、加熱混錬(加熱混合)しながら行われ、PBT樹脂とPET樹脂との樹脂アロイが得られる。PBT樹脂とPET樹脂とを熱処理して樹脂混合物を得る工程(以下、「熱処理する工程」ともいう。)と、樹脂混合物とリン化合物とを混合して樹脂組成物を得る工程(以下、「溶融混錬する工程」ともいう。)とは、一連の工程としてもよく、別々の工程としてもよい。
【0060】
熱処理する工程と溶融混錬する工程とを一連の工程とする方法としては、例えば、プラストミル等を用いてPBT樹脂とPET樹脂とを加熱容器内で溶融滞留させることにより熱処理した後、次いで加熱容器内にリン化合物を添加して溶融混錬することにより樹脂組成物を得る方法が挙げられる。
【0061】
熱処理する工程と溶融混錬する工程とを別々の工程とする方法としては、例えば、押出機を用いてPBT樹脂とPET樹脂とを溶融押出しすることによりPBT樹脂及びPET樹脂を含む組成物ペレットを得た後、押出機又は溶融混練装置を用いて該組成物ペレットとリン化合物とを溶融混錬して樹脂組成物を得る方法が挙げられる。熱処理する工程においてPBT樹脂とPET樹脂とを溶融押出しする回数は、得られる組成物の固有粘度の観点から選択することができ、例えば、1~10回とすることができる。
【0062】
なお、その他の樹脂、無機充填及び/又はその他の添加剤等を添加するタイミングは、特に限定されず、PBT樹脂及びPET樹脂を事前に熱処理する工程で樹脂組成物に添加してもよいし、リン化合物を添加して溶融混錬する工程で樹脂組成物に添加してもよい。
【0063】
一実施形態において、製造方法は、以下の工程を有するように構成することもできる。
i)ポリブチレンテレフタレート樹脂及びポリエチレンテレフタレート樹脂を混合し樹脂混合物を得る工程、
ii)前記樹脂混合物を以下の式IIIを満たす条件で熱処理する工程、
式III: 12000(℃・s)≦温度(℃)×時間(s)≦180000(℃・s)
iii)熱処理された前記樹脂混合物とリン化合物とを混合する工程
【0064】
工程i)において樹脂を混合する方法は、特に限定されず、例えば、公知の攪拌混合装置、押出機又は溶融混練装置等を用いて行うことができる。
工程ii)において熱処理する方法、及び工程iii)において樹脂混合物とリン化合物とを混合する方法は、既に述べたPBT樹脂及びPET樹脂を事前に熱処理して樹脂混合物を得る方法、及び樹脂混合物とリン化合物とを混合する方法と、それぞれ同じ方法で行うことができる。
【0065】
[成形品]
本実施形態に係る成形品は、上記した樹脂組成物を用いて成形された成形品である。この成形品は、上記した樹脂組成物を用いているので、外観性が優れ、かつ熱安定性にも優れている。熱安定性に優れているので、成形性の悪化や溶融成形後の物性の低下を抑制することができる。成形品は、外観性及び熱安定性に優れているので、自動車用内装部品及び/又は自動車用外装部品、例えばドアミラーステー、インナー/アウタードアハンドル、ベンチレーターフィン等の、外観面に露出する成形品として好適に用いることができる。成形品の製造方法は、特に限定されず、例えば従来公知の射出成形、圧縮成形等によって形成することができる。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0067】
実施例及び比較例で用いた材料は、以下のとおりである。
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT):長春応化有限公司製、IV=0.77
ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET):Guangdong IVL PETPolymer社製、IV=0.76
有機リン化合物:ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ADEKA社製、「アデカスタブPEP36」
無機リン化合物:リン酸二水素ナトリウム、米山化学工業社製、「リン酸一ナトリム」
三酸化アンチモン:日本精鉱社製、「PATOX-M」
ガラス繊維:日本電気硝子社製、「ECS03T-187」
カーボンブラック:三菱化学社製、「♯750B」
高流動化剤:グリセリンモノ12ヒドロキシステアレート、理研ビタミン社製、「リケマール HC-100」
離型剤:ペンタエリスリトールステアリン酸エステル、日油社製、「ユニスターH476」
【0068】
[実施例1、比較例1~3]
表1に示す成分を表1に示す組成(質量部)でブレンドし、30mmφのスクリューを有する2軸押出機((株)日本製鋼所製)にホッパから供給してシリンダー温度260℃で滞留時間が50秒間となるように溶融混練し、ペレット状のPBT樹脂組成物を得た。[実施例2]
PBT、PETを表1の「熱処理1」に示す組成(質量部)でブレンドし、30mmφのスクリューを有する2軸押出機((株)日本製鋼所製)にホッパから供給して表1記載の温度で溶融混錬し、ペレット状の樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物と表1の「熱処理2」に示す成分を表1の「熱処理2」に示す組成(質量部)でブレンドし、同様の押出機でシリンダー温度260℃にて滞留時間が50秒間になるように溶融混錬し、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0069】
[実施例3~5、比較例4~13]
表1の組成、熱処理条件及び溶融混錬条件とした以外は、実施例2と同じ方法で樹脂組成物を得た。
【0070】
[実施例6]
PBT、PETを表1に示す組成(質量部)でブレンドし、東洋精機社製ラボプラストミルを用いて、シリンダー温度280℃、スクリュー回転数100rpmにて、10分間溶融混錬させた。混錬後リン化合物を表1に示す組成(質量部)となるよう添加し、2分間混錬し、樹脂組成物を得た。
【0071】
[実施例7]
表1の熱処理条件及び溶融混錬条件とした以外は、実施例6と同じ方法で樹脂組成物を得た。
【0072】
[物性]
(結晶化温度Tc1,Tc3)
上記で得られた樹脂組成物を用いて、JIS K7121に基づき、DSC(示差走査熱量測定)により、昇温速度10℃/分で40℃から280℃まで昇温させ、降温速度10℃/分で280℃から40℃まで降温させるサイクルを3サイクル行なったときの、1サイクル目の降温での、DSC曲線の最大吸熱ピークのピーク温度(℃)をTc1として求め、3サイクル目の降温での、示差走査熱量測定(DSC)におけるDSC曲線の最大吸熱ピークのピーク温度(℃)をTc3として求めた。結果を表1に示す。
なお、表1の実施例、比較例はPBTとPETアロイの組成物であり、融点Tmのピークが2つ認められたものは上段、下段と2つ記載している。また、結晶化温度Tcは何れの場合もピークが一つしか確認できなかった。
【0073】
(固有粘度:IV)
上記で得られた樹脂組成物について、フェノール/テトラクロロエタン(質量比60/40)の混合溶媒を用い、35℃でウベローデ粘度管を使用して固有粘度(IV)を測定した。結果を表1に示す。
【0074】
[評価]
(外観性)
上記により得た実施例、比較例の各樹脂組成物を、140℃で3時間乾燥させた後、住友重機械工業(株)製SG-150U SYCAP-MIVにより、シリンダー温度265℃、金型温度95℃、射出速度35mm/s、保圧力80MPaの条件で、
図1に示す自動車アウタードアハンドルエスカッションモデル(外観面に(株)棚澤八光社のシボ規格TH-113のシボ加工を施したもの)を射出成形し、成形開始から約10ショット後の成形が安定した段階での成形品について、目視によりシボの転写状態を観察した。観察結果を以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
良:シボ面全体において良好な転写状態が確認されたもの
不良:シボの転写ムラが見られたもの
【0075】
(熱安定性)
上記で測定した結晶化温度Tc1,Tc3からΔTc(Tc1-Tc3)の値を算出し、以下の基準で熱安定性を評価した。結果を表1に示す。
良:Tc1-Tc3≦15℃
不良:Tc1-Tc3>15℃
【0076】
【0077】
表1に示すように、実施例で得られた樹脂組成物を用いた成形品は、外観性が優れかつかつ熱安定性にも優れている。
【符号の説明】
【0078】
1 成形品