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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】溶接装置及び溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/095 20060101AFI20240621BHJP
   B23K 9/127 20060101ALI20240621BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20240621BHJP
【FI】
B23K9/095 505B
B23K9/095 510E
B23K9/095 505Z
B23K9/127 508B
B23K26/21 F
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020142623
(22)【出願日】2020-08-26
(65)【公開番号】P2022038237
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴原 正和
(72)【発明者】
【氏名】前田 新太郎
(72)【発明者】
【氏名】生島 一樹
(72)【発明者】
【氏名】織田 祐輔
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-281282(JP,A)
【文献】特開2008-264845(JP,A)
【文献】特開平07-080643(JP,A)
【文献】特開2016-083701(JP,A)
【文献】特開2017-030014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/095
B23K 9/127
B23K 26/21
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向における第1部材の端面である第1端面と前記第1方向における第2部材の端面である第2端面とが対向している状態で前記第1部材及び前記第2部材を溶接する溶接装置であって、
前記第1方向に交差している第2方向に沿って前記第1部材と前記第2部材とが溶接される溶接部上を移動する溶接トーチと、
前記溶接トーチとともに前記第2方向に沿って移動しながら前記第1端面及び前記第2端面がなしている開先の前記第1方向における幅を測定するセンサとを備え、
前記溶接装置は、前記幅の変位が所定の閾値未満である場合に前記溶接装置に第1溶接条件に沿った溶接を行うとともに、前記幅の変位が前記閾値以上である場合に前記第1溶接条件とは異なる第2溶接条件に沿った溶接を行うように構成されており、
前記第2溶接条件における前記幅の変位は、前記第1溶接条件における前記幅の変位よりも小さく、
前記第2溶接条件における前記溶接トーチの出力は、前記第1溶接条件における前記溶接トーチの出力よりも小さい、溶接装置。
【請求項2】
前記センサは、前記溶接トーチの前方において、前記幅の変位を測定する、請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記第2溶接条件における前記溶接トーチの移動速度は、前記第1溶接条件における前記溶接トーチの移動速度よりも小さい、請求項1又は請求項2に記載の溶接装置。
【請求項4】
前記第2溶接条件においては、前記溶接トーチは、前記第1方向又は前記第2方向に沿ってウィービングされる、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の溶接装置。
【請求項5】
第1方向における第1部材の端面である第1端面と前記第1方向における第2部材の端面である第2端面とが対向している状態で前記第1部材及び前記第2部材を溶接する溶接装置であって、
前記第1方向に交差している第2方向に沿って前記第1部材と前記第2部材とが溶接される溶接部上を移動する溶接トーチと、
前記溶接トーチとともに前記第2方向に沿って移動しながら前記第1端面及び前記第2端面がなしている開先の前記第1方向における幅を測定するセンサとを備え、
前記溶接装置は、前記幅の変位が所定の閾値未満である場合に前記溶接装置に第1溶接条件に沿った溶接を行うとともに、前記幅の変位が前記閾値以上である場合に前記第1溶接条件とは異なる第2溶接条件に沿った溶接を行うように構成されており、
前記第2溶接条件における前記幅の変位は、前記第1溶接条件における前記幅の変位よりも小さく、
前記溶接装置は、記憶装置と、プロセッサとをさらに備え、
前記記憶装置には、学習済みモデルが格納されており、
前記学習済みモデルには、強化学習が行われており、
前記強化学習においては、複数の学習用溶接条件のいずれかが選択された際に、第1報酬が付与され、
前記第1報酬は、前記溶接部における高温割れの生じやすさの指標である高温割れ指標が小さくなるにしたがって、大きくなり、
前記強化学習においては、前記第1報酬に基づいて、価値関数の更新が行われ、
前記プロセッサは、前記価値関数に基づいて前記第1溶接条件を決定する溶接装置。
【請求項6】
前記複数の学習用溶接条件の各々が選択された際の前記高温割れ指標は、有限要素法解析に基づいて算出される、請求項に記載の溶接装置。
【請求項7】
前記高温割れ指標は、前記溶接部の凝固脆性温度領域における引張塑性歪み、前記凝固脆性温度領域における温度勾配ベクトル及び前記幅の変位の少なくともいずれかである、請求項に記載の溶接装置。
【請求項8】
前記強化学習においては、前記複数の学習用溶接条件のいずれかが選択された際に、第2報酬がさらに付与され、
前記第2報酬は、前記溶接トーチの平均移動速度が大きくなるにしたがって、大きくなり、
前記強化学習においては、前記第1報酬及び前記第2報酬に基づいて、前記価値関数の更新が行われる、請求項~請求項のいずれか1項に記載の溶接装置。
【請求項9】
前記学習済みモデルには、Q学習が行われている、請求項~請求項のいずれか1項に記載の溶接装置。
【請求項10】
第1方向における第1部材の端面である第1端面と前記第1方向における第2部材の端面である第2端面とが対向している状態で前記第1部材及び前記第2部材を溶接する溶接装置であって、
前記第1方向に交差している第2方向に沿って前記第1部材と前記第2部材とが溶接される溶接部上を移動する溶接トーチと、
前記溶接トーチとともに前記第2方向に沿って移動しながら前記第1端面及び前記第2端面がなしている開先の前記第1方向における幅を測定するセンサとを備え、
前記溶接装置は、前記幅の変位が所定の閾値未満である場合に前記溶接装置に第1溶接条件に沿った溶接を行うとともに、前記幅の変位が前記閾値以上である場合に前記第1溶接条件とは異なる第2溶接条件に沿った溶接を行うように構成されており、
前記第2溶接条件における前記幅の変位は、前記第1溶接条件における前記幅の変位よりも小さく、
前記溶接装置は、記憶装置と、プロセッサとをさらに備え、
前記記憶装置には、学習済みモデルが格納されており、
前記学習済みモデルは、溶接条件が入力された際に、前記溶接条件を適用した際の前記溶接部における高温割れの生じやすさの指標である高温割れ指標を出力し、
前記学習済みモデルには、学習用溶接条件と前記学習用溶接条件を適用した際の前記高温割れ指標とを含む教師データを用いて教師あり学習が行われており、
前記プロセッサは、前記学習済みモデルから出力される前記高温割れ指標に基づいて前記第1溶接条件を決定する溶接装置。
【請求項11】
第1方向における第1部材の端面である第1端面と前記第1方向における第2部材の端面である第2端面とが対向している状態で前記第1部材及び前記第2部材を溶接する溶接装置であって、
前記第1方向に交差している第2方向に沿って前記第1部材と前記第2部材とが溶接される溶接部上を移動する溶接トーチと、
前記溶接トーチとともに前記第2方向に沿って移動しながら前記第1端面及び前記第2端面がなしている開先の前記第1方向における幅を測定するセンサとを備え、
前記溶接装置は、前記幅の変位が所定の閾値未満である場合に前記溶接装置に第1溶接条件に沿った溶接を行うとともに、前記幅の変位が前記閾値以上である場合に前記第1溶接条件とは異なる第2溶接条件に沿った溶接を行うように構成されており、
前記第2溶接条件における前記幅の変位は、前記第1溶接条件における前記幅の変位よりも小さく、
前記溶接装置は、記憶装置と、プロセッサとをさらに備え、
前記記憶装置には、溶接条件が入力された際に前記溶接条件の評価値を出力する評価関数が格納されており、
前記評価値には、前記溶接条件を適用した際の前記溶接部における高温割れの生じやすさの指標である高温割れ指標が含まれており、
前記プロセッサは、前記評価値に基づいて遺伝的アルゴリズムを適用することにより、前記第1溶接条件を決定する溶接装置。
【請求項12】
第1方向における第1部材の端面である第1端面と前記第1方向における第2部材の端面である第2端面とが対向している状態で前記第1部材及び前記第2部材を溶接する溶接方法であって、
前記第1方向に交差している第2方向に沿って溶接トーチを移動させることにより、前記第1部材と前記第2部材とを溶接する工程と、
前記溶接トーチとともに前記第2方向に沿って移動するセンサにより、前記第1端面及び前記第2端面がなしている開先の前記第1方向における幅を測定する工程とを備え、
前記第1部材と前記第2部材との溶接は、前記幅の変位が所定の閾値未満である場合に第1溶接条件に沿って行われるとともに、前記幅の変位が前記閾値以上である場合に前記第1溶接条件とは異なる第2溶接条件に沿って行われ、
前記第2溶接条件における前記幅の変位は、前記第1溶接条件における前記幅の変位よりも小さ
前記第2溶接条件における前記溶接トーチの出力は、前記第1溶接条件における前記溶接トーチの出力よりも小さい、溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接装置及び溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば非特許文献1(成田圀郎、「溶接後の処理と検査」、溶接学会誌第50巻第9号第875頁、1981年)に記載されているように、溶接を行った後には、溶接部の非破壊検査が行われ、割れ等が生じている欠陥箇所の補修(再溶接)が行われる。特に、大型の構造物においては、溶接部に高温割れが生じやすく、欠陥箇所に対する再溶接が不可欠であった。なお、高温割れとは、溶接中又は溶接後の冷却過程において溶接部に生じる割れである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】成田圀郎、「溶接後の処理と検査」、溶接学会誌第50巻第9号第875頁、1981年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような欠陥箇所に対する再溶接を可能な限り行わないようにするためには、溶接時の高温割れの発生を抑制することが必要である。しかしながら、高温割れの発生に関わる溶接条件は多岐にわたり、その最適化が困難である結果、溶接時の高温割れの発生が十分抑制されていなかった。
【0005】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。より具体的には、本発明は、高温割れの発生を抑制することが可能な溶接装置及び溶接方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の溶接装置は、第1方向における第1部材の端面である第1端面と第1方向における第2部材の端面である第2端面とが対向している状態で第1部材及び第2部材を溶接する。溶接装置は、第1方向に交差している第2方向に沿って第1部材と第2部材とが溶接される溶接部上を移動する溶接トーチと、溶接トーチとともに第2方向に沿って移動しながら第1端面及び第2端面がなしている開先の第1方向における幅を測定するセンサとを備える。溶接装置は、開先の幅の変位が所定の閾値未満である場合に溶接装置に第1溶接条件に沿った溶接を行うとともに、開先の幅の変位が閾値以上である場合に第1溶接条件とは異なる第2溶接条件に沿った溶接を行うように構成されている。第2溶接条件における開先の幅の変位は、第1溶接条件における開先の幅の変位よりも小さい。
【0007】
上記の溶接装置では、センサが、溶接トーチの前方において、開先の幅の変位を測定してもよい。
【0008】
上記の溶接装置では、第2溶接条件における溶接トーチの移動速度が、第1溶接条件における溶接トーチの移動速度よりも小さくてもよい。
【0009】
上記の溶接装置では、第2溶接条件における溶接トーチの出力が、第1溶接条件における溶接トーチの出力よりも小さくてもよい。
【0010】
上記の溶接装置では、溶接トーチは、第2溶接条件において、第1方向又は第2方向に沿ってウィービングされてもよい。
【0011】
上記の溶接装置は、記憶装置と、プロセッサとをさらに備えていてもよい。記憶装置には、学習済みモデルが格納されていてもよい。学習済みモデルには、強化学習が行われていてもよい。強化学習においては、複数の学習用溶接条件のいずれかが選択された際に、第1報酬が付与されてもよい。第1報酬は、溶接部における高温割れの生じやすさの指標である高温割れ指標が小さくなるにしたがって、大きくなってもよい。強化学習においては、第1報酬に基づいて、価値関数の更新が行われてもよい。プロセッサは、価値関数に基づいて第1溶接条件を決定してもよい。
【0012】
上記の溶接装置では、複数の学習用溶接条件の各々が選択された際の高温割れ指標が、有限要素法解析に基づいて算出されてもよい。
【0013】
上記の溶接装置では、高温割れ指標が、溶接部の凝固脆性温度領域における引張塑性歪み、凝固脆性温度領域における温度勾配ベクトル及び開先の幅の変位の少なくともいずれかであってもよい。
【0014】
上記の溶接装置では、強化学習において、複数の学習用溶接条件のいずれかが選択された際に、第2報酬がさらに付与されてもよい。第2報酬は、溶接トーチの平均移動速度が大きくなるにしたがって、大きくなってもよい。強化学習においては、第1報酬及び第2報酬に基づいて、価値関数の更新が行われてもよい。
【0015】
上記の溶接装置では、学習済みモデルには、Q学習が行われてもよい。
上記の溶接装置は、記憶装置と、プロセッサとをさらに備えていてもよい。記憶装置には、学習済みモデルが格納されていてもよい。学習済みモデルは、溶接条件が入力された際に、溶接条件を適用した際の溶接部における高温割れの生じやすさの指標である高温割れ指標を出力してもよい。学習済みモデルには、学習用溶接条件と学習用溶接条件を適用した際の高温割れ指標とを含む教師データを用いて教師あり学習が行われていてもよい。プロセッサは、学習済みモデルから出力される高温割れ指標に基づいて第1溶接条件を決定してもよい。
【0016】
上記の溶接装置は、記憶装置と、プロセッサとをさらに備えていてもよい。記憶装置には、溶接条件が入力された際に溶接条件の評価値を出力する評価関数が格納されていてもよい。評価値には、溶接条件を適用した際の溶接部における高温割れの生じやすさの指標である高温割れ指標が含まれていてもよい。プロセッサは、評価値に基づいて遺伝的アルゴリズムを適用することにより、第1溶接条件を決定してもよい。
【0017】
本発明の溶接方法は、第1方向における第1部材の端面である第1端面と第1方向における第2部材の端面である第2端面とが対向している状態で第1部材及び第2部材を溶接する方法である。溶接方法は、第1方向に交差している第2方向に沿って溶接トーチを移動させることにより、第1部材と第2部材とを溶接する工程と、溶接トーチとともに第2方向に沿って移動するセンサにより、第1端面及び第2端面がなしている開先の第1方向における幅を測定する工程とを備える。第1部材と第2部材との溶接は、幅の変位が所定の閾値未満である場合に第1溶接条件に沿って行われるとともに、幅の変位が閾値以上である場合に第1溶接条件とは異なる第2溶接条件に沿って行われる。第2溶接条件における幅の変位は、第1溶接条件における幅の変位よりも小さい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の溶接装置によると、高温割れの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】溶接装置100のブロック図である。
図2】互いに突き合わされた状態の第1部材110及び第2部材120の平面図である。
図3図2のIII-IIIにおける断面図である。
図4】液相線温度と固体相線温度との間における凝固脆性温度領域の模式的な高温延性曲線である。
図5】溶接部の凝固脆性温度領域における引張塑性歪みと幅Wの変位量との関係を示す模式的なグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、実施形態の詳細を、図面を参照しながら説明する。ここでは、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0021】
(第1実施形態)
以下に、第1実施形態に係る溶接装置(以下「溶接装置100」とする)を説明する。
【0022】
<溶接装置100の構成>
図1は、溶接装置100のブロック図である。図1に示されるように、溶接装置100は、溶接トーチ10と、駆動機構20と、電源装置30と、センサ40と、コントローラ50とを有している。
【0023】
溶接装置100は、第1部材110と、第2部材120とを溶接する。図2は、互いに突き合わされた状態の第1部材110及び第2部材120の平面図である。図3は、図2のIII-IIIにおける断面図である。図2及び図3に示されるように、第1部材110及び第2部材120は、第1方向DR1において、互いに隣り合うように配置されている。
【0024】
第1部材110は、端面110aと、端面110bとを有している。端面110a及び端面110bは、第1方向DR1における第1部材110の端面である。第2部材120は、端面120aと、端面120bとを有している。端面120a及び端面120bは、第1方向DR1における第2部材120の端面である。第1部材110及び第2部材120は、端面110a及び端面120bが第1方向DR1において互いに対向するように配置されている。
【0025】
第1部材110は、第1主面110cと、第2主面110dとを有している。第1主面110c及び第2主面110dは、厚さ方向における第1部材110の端面である。第2部材120は、第1主面120cと、第2主面120dとを有している。第1主面120c及び第2主面120dは、厚さ方向における第2部材120の端面である。
【0026】
端面110a及び端面120aは、開先をなしている。図2及び図3に示されている例では、開先の形状は、V形開先である。すなわち、端面110aは、第1主面110c側から第2主面110d側に向かうにしたがって端面110bとの距離が大きくなるように傾斜しており、端面120aは、第1主面120c側から第2主面120d側に向かうにしたがって端面120bとの距離が大きくなるように傾斜している。
【0027】
但し、開先の形状は、これに限られるものではない。端面110a及び端面120aがなしている開先は、I形開先であってもよい。すなわち、端面110a及び端面120aは、傾斜していなくてもよい。
【0028】
端面110aと端面120aとがなしている開先の第1方向DR1における幅を、幅Wとする。幅Wは、第1方向DR1における端面110aと端面120aとの間の距離の最大値である。図2及び図3に示されている例では、幅Wは、端面110aの第1主面110c側の端と端面120aの第1主面120c側の端との間の距離である。
【0029】
第1部材110及び第2部材120は、例えば、平板状の部材である。第1部材110及び第2部材120は、例えば、鋼製である。第1部材110及び第2部材120は、例えば、JIS規格(JIS G 3106:2008)に規定されている溶接構造用圧延鋼板(SM材)である。
【0030】
第1部材110及び第2部材120は、例えば、同一材料により形成されている。第1部材110及び第2部材120は、互いに異なる材料により形成されていてもよい。第1部材110及び第2部材120は、鋼製である必要はない。第1部材110及び第2部材120は、例えばアルミニウム(Al)合金等の非鉄合金であってもよい。
【0031】
溶接トーチ10は、例えば、アーク溶接用の溶接トーチである。但し、溶接トーチ10は、これに限られない。溶接トーチ10は、レーザ溶接用の溶接トーチであってもよい。溶接トーチ10は、駆動機構20により、第2方向DR2に沿って移動される。より具体的には、溶接トーチ10は、第1部材110と第2部材120とが溶接される部分(溶接部)上を、第2方向DR2における一方側から第2方向DR2における他方側に向かって移動する。溶接トーチ10は、第1主面110c及び第1主面120c側から、第1部材110及び第2部材120を溶接する。なお、第2方向DR2は、第1方向DR1に交差している(好ましくは、直交している)方向である。
【0032】
好ましくは、駆動機構20は、第1方向DR1及び第2方向DR2の少なくとも一方に沿って溶接トーチ10を揺動させることができる。このことを別の観点から言えば、駆動機構20は、溶接トーチ10をウィービングさせることができる。
【0033】
電源装置30から溶接トーチ10に電流が供給されることにより、溶接トーチ10にアークが発生し、当該アークにより第1部材110及び第2部材120の溶接が行われる。より具体的には、第1部材110と第2部材120との間に溶接金属130が形成されることにより、第1部材110と第2部材120との溶接が行われる。
【0034】
溶接金属130は、溶接トーチ10により溶融された第1部材110及び第2部材120が混合(溶接材料が用いられる場合は、溶融した当該溶接材料もさらに混合される)され、冷却されることにより形成される。溶接トーチ10の出力は、電源装置30から供給される電流を変化させることにより、調整される。
【0035】
センサ40は、幅Wの変位を測定する。センサ40は、例えば、光学式変位センサ等の変位センサである。但し、センサ40は、これに限られない。センサ40は、例えば、撮像素子であり、撮像素子が撮影した画像に基づいて幅Wの変位を画像処理により算出してもよい。
【0036】
センサ40は、例えば駆動機構20により、溶接トーチ10とともに第2方向DR2に沿って移動される。好ましくは、センサ40は、溶接トーチ10よりも前方で(溶接トーチ10よりも第2方向DR2における他方側で)幅Wの変位を測定することが好ましい。但し、センサ40は、溶接トーチ10よりも後方で(溶接トーチ10よりも第2方向DR2における一方側で)幅Wの変位を測定してもよい。
【0037】
コントローラ50は、例えば、パーソナルコンピュータである。但し、コントローラ50は、これに限られない。コントローラ50は、入出力インターフェース(図示せず)を介して駆動機構20に対して制御信号を送信するとともに、入出力インターフェースを介して電源装置30に対して制御信号を送信する。また、コントローラ50は、入出力インターフェースを介してセンサ40から出力される幅Wの変位を示す出力信号を受信する。
【0038】
コントローラ50は、記憶装置51と、CPU(Central Processing Unit)52とを有している。記憶装置51には、所定の閾値が格納されている。CPU52は、この閾値とセンサ40により測定された幅Wの変位との大小関係を比較する。
【0039】
この比較結果に基づき、コントローラ50(CPU52)は、溶接装置100の溶接条件を変更する。より具体的には、幅Wの変位が上記の閾値未満である場合、溶接装置100は、第1溶接条件にしたがって溶接を行う。また、幅Wの変位が上記の閾値以上である場合、溶接装置100は、第2溶接条件にしたがって溶接を行う。第2溶接条件は、第1溶接条件とは異なる溶接条件である。第2溶接条件によると、第1溶接条件よりも幅Wの変位が小さくなる。
【0040】
第1溶接条件と第2溶接条件とでは、例えば、溶接トーチ10の移動速度が異なる。この場合、第2溶接条件における溶接トーチ10の移動速度は、第1溶接条件における溶接トーチ10の移動速度が小さい。コントローラ50は、例えば、幅Wの変位が上記の閾値未満である場合と幅Wの変位が上記の閾値以上である場合とで駆動機構20に送信する制御信号を変更することにより、溶接トーチ10の移動速度の変更を行う。
【0041】
第1溶接条件と第2溶接条件とでは、溶接トーチ10の出力(すなわち、溶接トーチ10から溶接部への入熱量)が異なっていてもよい。この場合、第2溶接条件における溶接トーチ10の出力は、第1溶接条件における溶接トーチ10の出力よりも小さい。コントローラ50は、例えば、幅Wの変位が上記の閾値未満である場合と幅Wの変位が上記の閾値以上である場合とで電源装置30に送信する制御信号を変更することにより、溶接トーチ10の出力の変更を行う。
【0042】
第1溶接条件と第2溶接条件とでは、溶接トーチ10のウィービングの有無が異なっていてもよい。この場合、第2溶接条件においては溶接トーチ10のウィービングが行われる一方で、第1溶接条件においては溶接トーチ10のウィービングが行われない。コントローラ50は、例えば、幅Wの変位が上記の閾値未満である場合と幅Wの変位が上記の閾値以上である場合とで駆動機構20に送信する制御信号を変更することにより、溶接トーチ10のウィービングの有無を切り替える。
【0043】
なお、第1溶接条件と第2溶接条件との違いは、溶接トーチ10の動作の違い以外であってもよい。要するに、第2溶接条件は、幅Wの変位が小さくなるように決定された溶接条件であれば、特に限定されない。
【0044】
図2に示されるように、第1部材110及び第2部材120は、第2方向DR2に沿って、n(n:2以上の自然数)個の領域に区分することができる。これらの領域を、領域R~領域Rとする。溶接トーチ10が領域R(k:2以上n以下の自然数)を通過する際の第1溶接条件は、溶接トーチ10が領域R(l:kとは異なる2以上n以下の自然数)を通過する際の第1溶接条件と異なっていてもよい。すなわち、第1溶接条件は、溶接トーチ10が第2方向DR2に沿って移動するに伴って変化していてもよい。
【0045】
なお、第1溶接条件から第2溶接条件に切り替えられた後に幅Wの変位が再び上記の閾値未満となった場合には、第2溶接条件から第1溶接条件に戻されてもよい。
【0046】
<溶接装置100の効果>
溶接トーチ10からの溶接部への入熱により、溶接トーチ10の直下近傍には、溶融池が形成される。溶融池は、溶融混合された第1部材110及び第2部材120(溶接材料が用いられている場合、溶融池には、さらに、溶融した溶接材料も含まれる)により構成されている。
【0047】
溶融池の後方端(第2方向DR2における一方側の端)に隣接して、凝固脆性温度領域(BTR:Brittle Temperature Region)が形成される。凝固脆性温度領域は、固相と液相とが共存している領域である。すなわち、凝固脆性温度領域は、その温度が母材(第1部材110及び第2部材120)の固相線温度を超えて母材の液相線温度未満となっている領域である。
【0048】
図4は、液相線温度と固体相線温度との間における凝固脆性温度領域の模式的な高温延性曲線である。図4中において、横軸は凝固脆性温度領域の温度であり、縦軸は凝固脆性温度領域に加わる引張塑性歪みである。図4中の高温延性曲線(実線)は、所定の温度における高温割れが発生する限界の歪みを示している。また、図4中のT及びTは、それぞれ液相線温度及び固相線温度を示している。
【0049】
図4に示されるように、凝固脆性温度領域においては、溶融している金属の凝固に伴い(すなわち、温度が低下するに伴い)、引張塑性歪みが増加する(図4中の点線参照)。この点線が高温延性曲線の上方にある領域(図4中のハッチングされた領域を参照)を通過する場合、凝固脆性温度領域に高温割れが生じることになる。すなわち、凝固脆性温度領域における引張塑性歪みは、溶接部に高温割れを生じさせる1つの要因である。
【0050】
しかしながら、第1部材110と第2部材120との溶接を行っている過程で溶接部の凝固脆性温度領域における引張歪みを測定することは、困難である。
【0051】
図5は、溶接部の凝固脆性温度領域における引張塑性歪みと幅Wの変位との関係を示す模式的なグラフである。図5中において、横軸が溶接部の凝固脆性温度領域における引張塑性歪みであり、縦軸が幅Wの変位量である。本発明者らが見出した知見によると、溶接部の凝固脆性温度領域における引張塑性歪みと幅Wの変位とは、概ね線形の関係にある。すなわち、幅Wの変位を小さくすれば、溶接部の凝固脆性温度領域における引張塑性歪みが小さくなり、溶接部に高温割れが生じにくくなる。
【0052】
溶接装置100においては、幅Wの変位が所定の閾値以上となる場合に、溶接条件が第1溶接条件から第2溶接条件へと切り替えられる。溶接条件が第1溶接条件から第2溶接条件に切り替えられることにより、幅Wの変位は、小さくなる。
【0053】
このように、溶接装置100においては、幅Wの変位をモニタリングすることにより溶接部の凝固脆性温度領域における引張塑性歪みを間接的にモニタリングすることができ、そのモニタリング結果に基づいて幅Wの変位が小さくなるように溶接条件が調整されるため、溶接部に高温割れが発生することを抑制できる。
【0054】
(第2実施形態)
以下に、溶接装置200を説明する。ここでは、溶接装置100と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0055】
<溶接装置200の構成>
溶接装置200は、溶接装置100と同様に、溶接トーチ10と、駆動機構20と、電源装置30と、センサ40と、コントローラ50とを有している。溶接装置200は、学習済みモデルを有している。学習済みモデルは、コントローラ50の記憶装置51に格納されている。溶接装置200においては、コントローラ50(CPU52)が学習済みモデルに基づいて、第1溶接条件を決定する。これらの点に関して、溶接装置200の構成は、溶接装置100の構成と異なっている。
【0056】
学習済みモデルには、例えば、強化学習が行われている。溶接部における高温割れの生じやすさを示す指標を、高温割れ指標とする。高温割れ指標は、例えば、溶接部の凝固脆性温度領域における引張塑性歪みである。高温割れ指標は、溶接部の凝固脆性温度領域における温度勾配ベクトル又は幅Wの変位であってもよい。高温割れ指標には、上記のパラメータが組み合わせて用いられてもよい。
【0057】
なお、溶接部の凝固脆性温度領域における温度勾配ベクトルは、凝固脆性温度領域における溶接金属の結晶成長方向と対応している。溶接部における高温割れは、凝固脆性温度領域における溶接金属の結晶成長方向にも影響されるため、溶接部の凝固脆性温度領域における温度勾配ベクトルは、高温割れ指標となり得る。
【0058】
上記の高温割れ指標は、有限要素法(FEM:Finite Element Method)解析に基づいて算出されてもよく、実際の溶接施工時に測定を行うことにより取得してもよい。
【0059】
強化学習が行われる際に用いられる溶接条件(学習用溶接条件)には、例えば、溶接トーチ10の移動速度が含まれる。学習用溶接条件には、溶接トーチ10の出力が含まれていてもよい。学習用溶接条件には、その他に、第1部材110と第2部材120との間の仮付けの有無、第1部材110と第2部材120との間の仮付けの寸法、第1部材110と第2部材120との間の仮付けの数、第1部材110の寸法、第2部材120の寸法、開先の形状等が含まれていてもよい。学習用溶接条件の数は、複数である。複数の学習用溶接条件の各々は、上記のパラメータのうちの少なくとも1つに関して、互いに異なっている。
【0060】
強化学習においては、学習用溶接条件の選択に伴って、報酬が付与される。報酬は、複数の学習用溶接条件のうちのいずれを選択するかにより異なる。強化学習においては、学習用溶接条件の選択に伴って付与された報酬に基づいて価値関数を更新することにより行われる。
【0061】
例えば、学習用溶接条件の選択に伴って、第1報酬が付与される。第1報酬は、選択された学習用溶接条件に対応する高温割れ指標が小さいほど、大きくなる。価値関数が第1報酬に基づいて更新されることにより、強化学習が進行する。
【0062】
学習用溶接条件の選択に伴って、第2報酬がさらに付与されてもよい。第2報酬は、第1報酬とは異なる報酬である。第2報酬は、溶接トーチ10の平均移動速度が大きくなるほど(すなわち、溶接効率が高くなるほど)、大きくなる。この場合、価値関数は、第1報酬及び第2報酬に基づいて更新されることになる。
【0063】
強化学習は、溶接の進行段階に応じた複数の状態に分けて行われてもよい。この複数の状態の各々は、例えば、溶接トーチ10が領域R~領域Rのいずれに位置しているかに対応している。この複数の状態の各々は、溶接トーチ10が領域R~領域Rのいずれに位置しているか及び溶接トーチ10の移動速度の履歴に対応していてもよい。強化学習が複数の状態に分けて行われる場合、学習用溶接条件の選択、報酬の付与及び価値関数の更新は、複数の状態の各々において行われることになる。
【0064】
第1溶接条件は、学習済みモデルの価値関数に基づいて決定される。より具体的に、第1溶接条件は、学習済みモデルの価値関数を複数の状態の各々において最大化するように決定される。コントローラ50は、決定された第1溶接条件に含まれる各時点での溶接トーチ10の移動速度及び出力にしたがって、溶接トーチ10を動作させる。
【0065】
上記の強化学習は、例えば、Q学習である。但し、学習済みモデルは、Q学習以外の強化学習が行われたものであってよい。Q学習は、式(1)にしたがって価値関数の更新を繰り返すことにより行われる。
【0066】
【数1】
【0067】
Q(s(t),a(t))は、時点tにおける価値関数である。s(t)は、時点tにおける状態を示している。s(t)は、時点tにおいて状態に応じて、複数の値を取り得る。a(t)は、時点tにおける行動を示している。a(t)は、時点tにおいて選択された行動に応じて、複数の値を取り得る。αは、学習率であり、0を超えて1以下の数値である。γは、割引率であり、0を超えて1以下の数値である。
【0068】
max[Q(s(i),a(i)]は、時点iにおける価値関数の最大値である。時点iは、時点tに対する過去又は未来の任意の時点である。rは、選択された行動(溶接条件)に対応して与えられる報酬である。
【0069】
Q学習においては、第1に、Q(s(t),a(t))に対して、任意の初期値が与えられる。第2に、式(1)にしたがって、Q(s(t),a(t))が繰り返し更新される。この更新を行う際、例えば、ε-greedy法が用いられる。すなわち、この更新を行う際、原則として、価値関数の値が最大となる溶接条件の選択が行われるが、一定の確率で価値関数の大小にかかわらずランダムな溶接条件の選択が行われる。この一定の確率は、学習が進むにつれて(繰り返し回数が増加するにつれて)減少する。
【0070】
s(t)は、例えば、時点tにおける溶接トーチ10の位置及び時点t以前の溶接条件の履歴に対応している。時点tにおける溶接トーチ10の位置は、溶接トーチ10が領域R~領域Rのいずれに位置しているかに対応している。時点t以前の溶接条件の履歴は、例えば、時点t以前の溶接トーチ10の移動速度の履歴又は時点t以前の溶接トーチ10の移動速度の履歴である。いくつ前の時点まで溶接条件の履歴をs(t)として考慮するかは、適宜選択される。
【0071】
a(t)は、例えば、時点tにおける溶接条件に対応している。a(t)として考慮される時点tにおける溶接条件は、例えば、時点tにおける溶接トーチ10の出力、時点tにおける溶接トーチ10の移動速度である。
【0072】
但し、a(t)として考慮する時点tにおける溶接条件は、溶接トーチ10の移動速度及び溶接トーチ10の出力に限られない。例えば、a(t)として考慮する時点tにおける溶接条件は、第1部材110と第2部材120との間の仮付けの寸法、第1部材110と第2部材120との間の仮付けの数、第1部材110の寸法、第2部材120の寸法、開先の形状等である。
【0073】
rは、例えば、時点tにおける溶接条件での高温割れ指標に基づいて付与される第1報酬を含む。rは、時点tにおける溶接条件での溶接効率を示す指標(例えば、溶接トーチ10の平均移動速度)に基づいて付与される第2報酬をさらに含んでいてもよい。
【0074】
第1溶接条件は、学習済みのQ(s(t),a(t))の値に基づいて決定される。より具体的には、各時点での第1溶接条件は、Q(s(t),a(t))の値が最大化されるa(t)に対応するように決定される。
【0075】
<溶接装置200の効果>
高温割れの発生には、多数のパラメータが関与している。そのため、実際の溶接施工を繰り返すことにより、溶接効率を維持しつつ、高温割れの発生を抑制可能な溶接条件に最適化しようとすると、困難を伴う。
【0076】
他方で、例えば強化学習を用いることにより、溶接効率を維持しつつ、高温割れの発生を抑制可能な溶接条件の最適化を容易に行うことができる。また、有限要素法解析を用いて高温割れ指標を算出することにより、強化学習に必要な多量のデータセットを容易に準備することができるため、この最適化は、さらに効率化される。
【0077】
<強化学習に基づく第1溶接条件の決定例>
第1部材110及び第2部材120の第1方向DR1における幅を、それぞれ、70mmとした。第1部材110及び第2部材120の第2方向DR2における長さを、それぞれ、300mmとした。第1部材110及び第2部材120は、4つの領域、すなわち、領域R、領域R、領域R及び領域Rに区分されている。
【0078】
溶接トーチ10が領域Rにある時点を時点1とし、溶接トーチ10が領域Rにある時点を時点2とし、溶接トーチ10が領域Rにある時点を時点3とし、溶接トーチ10が領域Rにある時点を時点4とした。
【0079】
a(t)として考慮する溶接条件は、溶接トーチ10の移動速度とした。a(t)として、5mm/秒、10mm/秒、15mm/秒及び20mm/秒の4種類の溶接トーチ10の移動速度が選択可能とされた。なお、溶接トーチ10の移動速度以外の溶接条件は、一定値に固定された。より具体的には、溶接トーチ10からの単位長さあたりの入熱量が70J/mmとされ、第1部材110と第2部材120との間に仮付けは設けられなかった。
【0080】
s(t)は、時点tにおける溶接トーチ10の位置(領域R~領域Rのいずれに溶接トーチ10があるか)及び時点(t-1)における溶接トーチ10の移動速度に基づいて決定された。但し、s(1)に関しては、それ以前の時点における溶接トーチ10の移動速度が存在しないため、時点(t-1)における溶接トーチ10の移動速度は考慮されなかった。
【0081】
rは、高温割れ指標に基づく第1報酬及び溶接トーチ10の平均速度に基づく第2報酬が付与された。高温割れ指標が大きい溶接条件であるほど大きな第1報酬が付与され、溶接トーチ10の平均速度が大きい溶接条件であるほど大きな第2報酬が付与された。高温割れ指標には、溶接部の凝固脆性温度領域における引張塑性歪みが用いられた。
【0082】
以上の条件の下で、式(1)を50回更新した。式(1)の更新を50回行った時点におけるQ(s(t),a(t))の値が表1に示されている。なお、時点1~時点4において、それぞれ4通りの溶接トーチ10の移動速度の選択が可能であるため、合計パターンは、4=256通り存在している。
【0083】
表1に示されるように、時点1における溶接トーチ10の移動速度を5mm/秒、時点2における溶接トーチ10の移動速度を5mm/秒、時点3における溶接トーチ10の移動速度を15mm/秒、時点4における溶接トーチ10の移動速度を20mm/秒とすることが、各時点でのQ(s(t),a(t))の値を最大化するa(t)の選択となる。
【0084】
【表1】
【0085】
上記のQ学習が行われた学習済みモデルを用いた溶接条件の決定とは別に、有限要素法解析に基づいて高温割れの有無が評価された。この解析は、上記の同様に、256通り行われた。その結果、溶接トーチ10の領域R、領域R、領域R及び領域Rにおける移動速度をそれぞれ5mm/秒、5mm/秒、15mm/秒及び20mm/秒とすることが、高温割れの発生抑止及び溶接効率の観点から、最も好ましい溶接条件であった。すなわち、有限要素法解析により得られた最適な溶接条件と学習済みモデルにより得られた最適な溶接条件とが、互いに一致した。
【0086】
このように、第1溶接条件がQ学習の行われた学習済みモデルに基づいて適切に決定され得ることが、上記の比較から明らかにされた。
【0087】
<変形例>
上記では、学習済みモデルには強化学習が適用されるとしたが、学習済みモデルに適用される学習は、これに限られない。例えば、学習済みモデルは、入力される溶接条件に対して当該溶接条件を適用した際の高温割れ指標を出力し、学習用溶接条件と当該学習用溶接条件を適用した際の高温割れ指標とを含むデータセットを教師データとして用いて教師あり学習が行われていてもよい。
【0088】
また、第1溶接条件は、遺伝的アルゴリズムを適用することにより決定されてもよい。より具体的には、記憶装置51には、溶接条件が入力された際に当該溶接条件の評価値を出力する評価関数が格納されている。この評価値には、高温割れ指標が含まれている。CPU52は、この評価値を参照して遺伝的アルゴリズムを適用する(例えば、高温割れ指標が最小となる溶接条件を遺伝的アルゴリズムで探索する)ことにより、第1溶接条件を決定してもよい。
【0089】
さらに、第1溶接条件の決定手法(最適化手法)は、上記のものに限られない。CPU52は、例えば、コンプレックスメソッド、最急降下法又はランダムサーチを適用することにより、第1溶接条件を決定してもよい。
【0090】
以上のように本発明の実施形態について説明を行ったが、上記の実施形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は、上記の実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むことが意図される。
【符号の説明】
【0091】
10 溶接トーチ、20 駆動機構、30 電源装置、40 センサ、50 コントローラ、51 記憶装置、52 CPU、100,200 溶接装置、110 第1部材、110a,110b 端面、110c 第1主面、110d 第2主面、120 第2部材、120a,120b 端面、120c 第1主面、120d 第2主面、130 溶接金属、DR1 第1方向、DR2 第2方向、W 幅。
図1
図2
図3
図4
図5