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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20240621BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20240621BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
H01L21/304 622D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019545151
(86)(22)【出願日】2018-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2018036320
(87)【国際公開番号】W WO2019065994
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2017189363
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100154449
【弁理士】
【氏名又は名称】谷 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100174159
【弁理士】
【氏名又は名称】梅原 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】今 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】野口 直人
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-023198(JP,A)
【文献】特開2010-023199(JP,A)
【文献】国際公開第2016/072370(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/063632(WO,A1)
【文献】特開2012-079886(JP,A)
【文献】特許第5095228(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C09G 1/02
H01L 21/304
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨対象物の研磨に用いられる研磨用組成物であって、
メタバナジン酸ナトリウムと過酸化水素とシリカ砥粒とを含み、
前記メタバナジン酸ナトリウムの含有量C1が0.9重量%~1.8重量%であり、
前記過酸化水素の含有量C2が1.1重量%~3重量%であり、
前記シリカ砥粒の含有量C3が20重量%~50重量%であり、
前記メタバナジン酸ナトリウムの含有量C1に対する前記シリカ砥粒の含有量C3の比(C3/C1)が、重量基準で12.5以上20以下であり、
前記シリカ砥粒の平均一次粒子径は、30nm以上85nm以下であり、
前記シリカ砥粒の平均二次粒子径は、70nm以上110nm以下である、研磨用組成物。
【請求項2】
前記メタバナジン酸ナトリウムの含有量C1に対する前記過酸化水素の含有量C2の比(C2/C1)が重量基準で0.5以上2以下である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
水溶性高分子をさらに含む、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記研磨対象物の構成材料は、1500Hv以上のビッカース硬度を有する、請求項1~3の何れか一つに記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記研磨対象物の構成材料が炭化ケイ素である、請求項1~4の何れか一つに記載の研磨用組成物。
【請求項6】
研磨対象物に請求項1~5の何れか一つに記載された研磨用組成物を供給して該研磨対象物を研磨することを含む、研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物に関する。詳しくは、研磨対象材料の研磨に用いられる研磨用組成物に関する。本出願は、2017年9月29日に出願された日本国特許出願2017-189363号に基づく優先権を主張しており、その出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンド、サファイア(酸化アルミニウム)、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タングステン、窒化ケイ素、窒化チタン等の研磨対象材料の表面は、通常、研磨定盤にダイヤモンド砥粒を供給して行う研磨(ラッピング)によって加工される。しかし、ダイヤモンド砥粒を用いるラッピングでは、スクラッチの発生、残存等のため、欠陥や歪みが生じやすい。そこで、ダイヤモンド砥粒を用いたラッピングの後に、あるいは当該ラッピングに代えて、研磨パッドを用いて当該研磨パッドと研磨対象物との間に研磨スラリーを供給して行う研磨(ポリシング)が検討されている。この種の従来技術を開示する文献として、特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特許第5095228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、炭化ケイ素等の研磨物(例えば半導体基板その他の基板)について、より高品質の表面が要求されるようになってきている。このため、研磨レート(単位時間当たりに研磨対象物の表面を除去する量)に関する実用的な要求レベルを満足しつつ、面品質のよい(例えばスクラッチ数の少ない)研磨後の表面を実現可能な研磨用組成物が求められている。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、高い研磨レートと面品質とを両立し得る研磨用組成物を提供することである。関連する他の目的は、上記研磨用組成物を用いて研磨物を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、研磨対象物の研磨に用いられる研磨用組成物が提供される。この研磨用組成物は、メタバナジン酸ナトリウムと過酸化水素とシリカ砥粒とを含む。前記メタバナジン酸ナトリウムの含有量C1が0.7重量%~3.5重量%である。前記過酸化水素の含有量C2が0.3重量%~3重量%である。前記シリカ砥粒の含有量C3が12重量%~50重量%である。このようにメタバナジン酸ナトリウムと過酸化水素とシリカ砥粒とを特定の含有量となるように組み合わせて用いることにより、高い研磨レートと優れた面品質とが高いレベルで両立され得る。
【0007】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、前記メタバナジン酸ナトリウムの含有量C1に対する前記過酸化水素の含有量C2の比(C2/C1)が重量基準で0.5以上2以下である。前記メタバナジン酸ナトリウムの含有量C1に対する前記シリカ砥粒の含有量C3の比(C3/C1)が重量基準で5以上40以下である。かかる構成によると、本発明による効果がより好ましく発揮され得る。
【0008】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、前記メタバナジン酸ナトリウムの含有量C1に対する前記シリカ砥粒の含有量C3の比(C3/C1)が、重量基準で12.5以上である。かかる構成によると、本発明による効果がより好ましく発揮され得る。
【0009】
好ましい一態様に係る研磨用組成物は水溶性高分子をさらに含む。かかる構成によると、本発明の適用効果がより好適に発揮され得る。
【0010】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、前記研磨対象物の構成材料は、1500Hv以上のビッカース硬度を有する。研磨対象材料が高硬度材料である研磨用組成物において、本発明の適用効果がより好適に発揮され得る。
【0011】
ここに開示される研磨用組成物の好ましい一態様では、前記研磨対象物の構成材料が炭化ケイ素である。上記研磨用組成物を炭化ケイ素に適用すると、研磨後の面品質が改善され、かつ高い研磨レートが達成され得る。
【0012】
また、本発明によると、研磨対象物の研磨方法が提供される。この研磨方法は、研磨対象物に、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を供給して、該研磨対象物を研磨することを含む。かかる研磨方法によると、高品位な表面を有する研磨対象物(研磨物)を効率的に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0014】
<研磨対象物>
ここに開示される研磨用組成物は、構成元素に酸素を含まない材料からなる研磨対象物の研磨に適用され得る。研磨対象物の構成材料は、例えば、シリコン、ゲルマニウム、ダイヤモンド等の単元素半導体もしくは単元素絶縁体;窒化ケイ素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料;テルル化カドミウム、セレン化亜鉛、硫化カドミウム、テルル化カドミウム水銀、テルル化亜鉛カドミウム等のII-VI族化合物半導体基板材料;窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、リン化ガリウム、リン化インジウム、ヒ化アルミニウムガリウム、ヒ化ガリウムインジウム、ヒ化窒素インジウムガリウム、リン化アルミニウムガリウムインジウム等のIII-V族化合物半導体基板材料;炭化ケイ素、ケイ化ゲルマニウム等IV-IV族化合物半導体基板材料;等であり得る。これらのうち複数の材料により構成された研磨対象物であってもよい。なかでも、500Hv以上のビッカース硬度を有する材料の研磨に好ましく用いられる。研磨対象材料のビッカース硬度は、好ましくは700Hv以上(例えば1000Hv以上、典型的には1500Hv以上)である。ビッカース硬度の上限は特に限定されないが、凡そ7000Hv以下(例えば5000Hv以下、典型的には3000Hv以下)であってもよい。なお、本明細書において、ビッカース硬度は、JIS R 1610:2003に基づいて測定することができる。上記JIS規格に対応する国際規格はISO 14705:2000である。
【0015】
1500Hv以上のビッカース硬度を有する材料としては、ダイヤモンド、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ガリウム等が挙げられる。ここに開示される研磨用組成物は、機械的かつ化学的に安定な上記材料の単結晶表面に対して好ましく適用することができる。なかでも、研磨対象物表面は、ダイヤモンド、炭化ケイ素および窒化ガリウムのうちのいずれかから構成されていることが好ましく、炭化ケイ素から構成されていることがより好ましい。炭化ケイ素は、電力損失が少なく耐熱性等に優れる半導体基板材料として期待されており、その表面性状を改善することの実用上の利点は特に大きい。ここに開示される研磨用組成物は、炭化ケイ素の単結晶表面に対して特に好ましく適用される。
【0016】
<研磨用組成物>
ここに開示される研磨用組成物は、メタバナジン酸ナトリウム(NaVO)と過酸化水素(H)とシリカ砥粒とを含む。メタバナジン酸ナトリウムの含有量C1が0.7重量%~3.5重量%であり、過酸化水素の含有量C2が0.3重量%~3重量%であり、シリカ砥粒の含有量C3が12重量%~50重量%である。このようにメタバナジン酸ナトリウムと過酸化水素とシリカ砥粒とを特定の含有量となるように組み合わせて用いることにより、高い研磨レートと優れた面品質とが高レベルで両立され得る。
【0017】
このような効果が得られる理由としては、例えば以下のように考えられる。すなわち、メタバナジン酸ナトリウムと過酸化水素とシリカ砥粒とを含む研磨用組成物を用いた研磨では、メタバナジン酸ナトリウムの電離により生じたバナジン酸イオンが過酸化水素からの酸素の供与を受けることによってペルオキソバナジン酸イオンを生成し、該ペルオキソバナジン酸イオンが研磨対象材料表面を変質(例えば炭化ケイ素の場合、Si‐C結合を酸化開裂)させ、その変質した層がシリカ砥粒によって機械的に除去される。上記構成の研磨用組成物によると、メタバナジン酸ナトリウムと過酸化水素とシリカ砥粒とを特定の含有量となるように組み合わせて用いることにより、メタバナジン酸ナトリウムおよび過酸化水素によって研磨対象材料表面が変質する速度と、該変質した層がシリカ砥粒によって削られる速度とが適切なバランスにあるので、シリカ砥粒が変質前の研磨対象材料表面を削ったり変質後の表面を大きく削りすぎたりすることなく(ひいては未変質の高硬度表面が削られることに起因するスクラッチ等の研磨傷の発生を抑えつつ)該表面が効率的に削られる。このことが研磨レートおよび面品位の向上に寄与するものと考えられる。ただし、この理由のみに限定解釈されるものではない。
【0018】
(メタバナジン酸ナトリウム)
上記研磨用組成物におけるメタバナジン酸ナトリウムの含有量C1は、概ね0.7重量%以上である。研磨効率等の観点から、メタバナジン酸ナトリウムの含有量C1は、好ましくは0.8重量%以上、より好ましくは0.9重量%以上である。いくつかの態様において、メタバナジン酸ナトリウムの含有量C1は、例えば1.2重量%以上であってもよく、典型的には1.5重量%以上であってもよい。また、研磨レートと面品質とを高レベルで両立する等の観点から、メタバナジン酸ナトリウムの含有量C1は、概ね3.5重量%以下である。メタバナジン酸ナトリウムの含有量C1は、好ましくは3.2重量%以下、より好ましくは3重量%以下である。いくつかの態様において、メタバナジン酸ナトリウムの含有量C1は、例えば2.5重量%以下であってもよく、典型的には2.2重量%以下であってもよい。ここに開示される技術は、研磨用組成物におけるメタバナジン酸ナトリウムの含有量C1が0.9重量%以上3重量%以下である態様で好ましく実施され得る。メタバナジン酸ナトリウムは、メタバナジン酸アンモニウム等のバナジン酸塩に比べて水に対する溶解度が高く、上記高濃度でも研磨用組成物中に均質に溶けるため、本発明の目的に適したバナジン酸塩として好適である。また、メタバナジン酸ナトリウムは、メタバナジン酸カリウム等に比べて安価であるため、コスト面でも有利である。
【0019】
(過酸化水素)
上記研磨用組成物における過酸化水素の含有量C2は、概ね0.3重量%以上である。研磨効率等の観点から、過酸化水素の含有量C2は、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは0.8重量%以上である。いくつかの態様において、過酸化水素の含有量C2は、例えば1重量%以上であってもよく、典型的には1.1重量%以上であってもよい。また、研磨レートと面品質とを高いレベルで両立する等の観点から、過酸化水素の含有量C2は、概ね3重量%以下である。過酸化水素の含有量C2は、好ましくは2.8重量%以下、より好ましくは2.7重量%以下である。いくつかの態様において、過酸化水素の含有量C2は、例えば2.2重量%以下であってもよく、典型的には1.8重量%以下(例えば1.5重量%以下)であってもよい。ここに開示される技術は、研磨用組成物における過酸化水素の含有量C2が1.2重量%以上2.7重量%以下である態様で好ましく実施され得る。過酸化水素は、メタバナジン酸ナトリウムの電離により生じたバナジン酸イオンに酸素を供与する作用を発揮するのに十分な酸化還元電位を有するため、本発明の目的に適した酸素供与剤として好適である。
【0020】
メタバナジン酸ナトリウムと過酸化水素とを併用することによる効果をより良く発揮させる観点から、メタバナジン酸ナトリウムおよび過酸化水素の含有量の比(C2/C1)は重量基準で0.5以上2以下であることが適当であり、0.6以上1.9以下であることが好ましく、0.7以上1.8以下であることがより好ましい。メタバナジン酸ナトリウムと過酸化水素とを特定の含有量比となるように組み合わせて用いることにより、研磨レートと面品質との両立がより高いレベルで実現され得る。いくつかの態様において、メタバナジン酸ナトリウムおよび過酸化水素の含有量の比(C2/C1)は、例えば0.7以上1.5以下であってもよく、典型的には0.7以上1.2以下であってもよい。
【0021】
研磨効率等の観点からは、メタバナジン酸ナトリウムの含有量C1は、過酸化水素の含有量C2よりも大きいことが好ましい(すなわちC1>C2)。メタバナジン酸ナトリウムの含有量C1は、過酸化水素の含有量C2よりも0.3重量%以上大きいことが好ましく、0.5重量%以上大きいことがより好ましい。また、メタバナジン酸ナトリウムの含有量C1から過酸化水素の含有量C2を減じた値(すなわちC1-C2)は、好ましくは2重量%以下であり、より好ましくは1.5重量%以下であり、さらに好ましくは1.2重量%以下である。いくつかの態様において、C1-C2は、例えば1重量%以下であってもよく、典型的には0.8重量%以下であってもよい。
【0022】
特に限定されるものではないが、メタバナジン酸ナトリウムの含有量C1と過酸化水素の含有量C2とを合わせた合計含有量(すなわちC1+C2)は、1重量%以上であることが好ましい。C1+C2は、より好ましくは1.5重量%以上、さらに好ましくは2重量%以上、特に好ましくは2.5重量%以上(例えば2.8重量%以上)である。また、C1+C2は、6.5重量%以下であることが好ましく、6重量%以下であることがより好ましく、5.5重量%以下であることがさらに好ましい。いくつかの態様において、C1+C2は、例えば4.5重量%以下であってもよく、典型的には4重量%以下であってもよい。
【0023】
(砥粒)
ここに開示される研磨用組成物は、シリカ砥粒を含有する。シリカ砥粒は、公知の各種シリカ粒子のなかから適宜選択して使用することができる。そのような公知のシリカ粒子としては、コロイダルシリカ、乾式法シリカ等が挙げられる。なかでも、コロイダルシリカの使用が好ましい。コロイダルシリカを含むシリカ砥粒によると、高い研磨レートと良好な面精度とが好適に達成され得る。ここでいうコロイダルシリカの例には、Na、K等のアルカリ金属とSiOとを含有するケイ酸アルカリ含有液(例えばケイ酸ナトリウム含有液)を原料に用いて製造されるシリカや、テトラエトキシシランやテトラメトキシシラン等のアルコキシシランの加水分解縮合反応により製造されるシリカ(アルコキシド法シリカ)が含まれる。また、乾式法シリカの例には、四塩化ケイ素やトリクロロシラン等のシラン化合物を典型的には水素火炎中で燃焼させることで得られるシリカ(フュームドシリカ)や、金属シリコンと酸素の反応により生成するシリカが含まれる。
【0024】
シリカ砥粒の形状(外形)は、球形であってもよく、非球形であってもよい。非球形をなすシリカ砥粒の具体例としては、ピーナッツ形状(すなわち、落花生の殻の形状)、繭型形状、金平糖形状、ラグビーボール形状等が挙げられる。ここに開示される技術において、研磨用組成物中に含まれるシリカ砥粒は、一次粒子の形態であってもよく、複数の一次粒子が会合した二次粒子の形態であってもよい。また、一次粒子の形態のシリカ砥粒と二次粒子の形態のシリカ砥粒とが混在していてもよい。好ましい一態様では、少なくとも一部のシリカ砥粒が二次粒子の形態で研磨用組成物中に含まれている。
【0025】
シリカ砥粒としては、その平均一次粒子径(以下、単に「D1」と表記することがある。)が5nmよりも大きいものを好ましく採用することができる。研磨効率等の観点から、D1は、好ましくは15nm以上、より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは25nm以上、特に好ましくは30nm以上である。D1の上限は特に限定されないが、概ね120nm以下にすることが適当であり、好ましくは100nm以下、より好ましくは85nm以下である。例えば、研磨効率および面品質をより高いレベルで両立させる観点から、D1が12nm以上80nm以下のシリカ砥粒が好ましく、15nm以上60nm以下のシリカ砥粒が好ましく、20nm以上50nm以下のものが特に好ましい。例えば、D1が25nm以上40nm以下(例えば35nm以下)のシリカ砥粒であってもよい。
【0026】
なお、ここに開示される技術において、砥粒の平均一次粒子径とは、BET法により測定される比表面積(BET値)から、平均一次粒子径(nm)=6000/(真密度(g/cm)×BET値(m/g))の式により算出される粒子径をいう。例えば、シリカ砥粒の場合、平均一次粒子径(nm)=2727/BET値(m/g)により平均一次粒子径を算出することができる。比表面積の測定は、例えば、マイクロメリテックス社製の表面積測定装置、商品名「Flow Sorb II 2300」を用いて行うことができる。
【0027】
シリカ砥粒の平均二次粒子径(以下、単に「D2」と表記することがある。)は特に限定されないが、研磨効率等の観点から、好ましくは20nm以上、より好ましくは50nm以上、さらに好ましくは70nm以上である。また、より高品位の表面を得るという観点から、シリカ砥粒の平均二次粒子径D2は、500nm以下が適当であり、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、さらに好ましくは130nm以下、特に好ましくは110nm以下(例えば90nm以下)である。
【0028】
なお、ここに開示される技術において、砥粒の平均二次粒子径は、例えば、日機装社製の型式「UPA-UT151」を用いた動的光散乱法により、体積平均粒子径(体積基準の算術平均径;Mv)として測定することができる。
【0029】
研磨用組成物におけるシリカ砥粒の含有量C3は、概ね12重量%以上である。研磨効率等の観点から、シリカ砥粒の含有量C3は、好ましくは15重量%以上である。いくつかの態様において、シリカ砥粒の含有量C3は、例えば20重量%以上であってもよく、典型的には24重量%以上(例えば28重量%以上)であってもよい。また、研磨レートと面品質とを高いレベルで両立する等の観点から、シリカ砥粒の含有量C3は、概ね50重量%以下である。シリカ砥粒の含有量C3は、好ましくは48重量%以下、より好ましくは45重量%以下である。いくつかの態様において、シリカ砥粒の含有量C3は、例えば42重量%以下であってもよく、典型的には38重量%以下(例えば35重量%以下)であってもよい。ここに開示される技術は、研磨用組成物におけるシリカ砥粒の含有量C3が12重量%以上45重量%以下(さらには12重量%以上40重量%以下)である態様で好ましく実施され得る。
【0030】
メタバナジン酸ナトリウムとシリカ砥粒とを併用することによる効果をより良く発揮させる等の観点から、メタバナジン酸ナトリウムおよびシリカ砥粒の含有量の比(C3/C1)は重量基準で2以上50以下であることが適当であり、5以上40以下であることが好ましく、8以上35以下であることがより好ましい。メタバナジン酸ナトリウムとシリカ砥粒とを特定の含有量比となるように組み合わせて用いることにより、研磨レートと面品質との両立がより高いレベルで実現され得る。いくつかの態様において、メタバナジン酸ナトリウムおよびシリカ砥粒の含有量の比(C3/C1)は、例えば10以上30以下であってもよく、12.5以上25以下であってもよく、典型的には15以上20以下であってもよい。このような含有量の比の範囲内であると、研磨レート向上効果がより好適に発揮され得る。
【0031】
特に限定されるものではないが、メタバナジン酸ナトリウムの含有量C1と過酸化水素の含有量C2とを合わせた合計含有量に対するシリカ砥粒の含有量C3の比の値(C3/(C1+C2))は、2以上であることが好ましい。上記比の値は、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上である。いくつかの態様において、上記比の値は、例えば6以上であってもよく、典型的には8以上(例えば10以上)であってもよい。また、上記比の値は、30以下であることが好ましく、25以下であることがより好ましく、20以下であることがさらに好ましい。
【0032】
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記シリカ以外の材質からなる砥粒(以下、非シリカ砥粒ともいう。)を含有してもよい。そのような非シリカ砥粒の例として、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、酸化鉄粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩等のいずれかから実質的に構成される砥粒が挙げられる。
【0033】
上記非シリカ砥粒の含有量は、研磨用組成物に含まれる砥粒の全重量のうち、例えば30重量%以下とすることが適当であり、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。
ここに開示される技術は、研磨用組成物に含まれる砥粒の全重量のうちシリカ砥粒の合計割合が90重量%よりも大きい態様で好ましく実施され得る。上記シリカ砥粒の割合は、より好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは98重量%以上、特に好ましくは99重量%以上である。なかでも、研磨用組成物に含まれる砥粒の100重量%がシリカ粒子である研磨用組成物が好ましい。
【0034】
また、ここに開示される研磨用組成物は、砥粒としてダイヤモンド粒子を実質的に含まないものであってもよい。ダイヤモンド粒子はその高硬度ゆえ、平滑性向上の制限要因となり得る。また、ダイヤモンド粒子は概して高価であることから、コストパフォーマンスの点で有利な材料とはいえず、実用面からは、ダイヤモンド粒子等の高価格材料への依存度は低くてもよい。
【0035】
(水溶性高分子)
ここに開示される研磨用組成物は、水溶性高分子を含有してもよい。ここに開示される水溶性高分子の重量平均分子量(Mw)は特に限定されず、例えば2000以上であり、典型的には重量平均分子量(Mw)が5000超の化合物である。一般に水溶性高分子のMwが大きくなると面質改善効果が高くなる傾向にあることから、例えば、Mwが7000超、9000超または1×10以上の水溶性高分子を好ましく選択し得る。水溶性高分子のMwの上限は特に制限されない。例えば、Mwが200×10以下の水溶性高分子を用いることができる。凝集物の発生を防止する観点から、通常は、Mwが150×10以下の水溶性高分子が好ましく、Mwはより好ましくは100×10以下、さらに好ましくは50×10以下である。
【0036】
なお、本明細書において、水溶性高分子のMwとしては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)に基づく値(水系、ポリエチレンオキサイド換算)を採用することができる。GPC測定装置としては、東ソー株式会社製の機種名「HLC-8320GPC」を用いるとよい。測定条件は以下のとおりとするとよい。後述の実施例についても同様の方法が採用される。
[GPC測定条件]
サンプル濃度:0.1重量%
カラム:TSKgel GMPWXL
検出器:示差屈折計
溶離液:0.1mol/L NaNO水溶液
流速:0.6mL/分
測定温度:40℃
サンプル注入量:100μL
【0037】
上記水溶性高分子は、分子中に、カチオン性基、アニオン性基およびノニオン性基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するものであり得る。上記水溶性高分子は、例えば、分子中に水酸基、カルボキシ基、スルホ基、アミド構造、イミド構造、ビニル構造、複素環構造等を有するものであり得る。凝集物の低減や洗浄性向上等の観点から、ノニオン性のポリマーを好ましく選択し得る。
【0038】
ここに開示される技術における水溶性高分子は、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、セルロース誘導体、デンプン誘導体、多糖類、等から選択され得る。
【0039】
PVAは、通常、ポリビニルエステルをけん化することによって製造される。ポリビニルエステルの合成に用いられるビニルエステルとしては、例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、カプリル酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられる。これらのビニルエステルは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも酢酸ビニルが好ましく、例えば、合成に用いられる単量体の50~100モル%、75~100モル%または90~100モル%が酢酸ビニルであるポリビニルエステルのけん化物であるPVAが好ましい。例えば、ポリ酢酸ビニルのけん化物であるPVAが好ましい。
PVAのけん化度は、特に限定されないが、80%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上であり、特に好ましくは98%以上である。例えば、けん化度が98%以上であるPVA(いわゆる完全けん化PVA)が好ましい。ここに開示される技術のいくつかの態様において、ポリ酢酸ビニルの完全けん化物であるPVAを好ましく採用し得る。
【0040】
上記PVAは、変性されていないPVA、すなわち非変性PVAであってもよく、分子中の少なくとも一部が変性された変性PVAであってもよい。例えば、PVAを構成する全単量体のうちの少なくとも一部(例えば0.1モル%以上10モル%以下)が変性基を有する単量体である変性PVAであってもよい。上記変性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基等のアニオン性基が例示される。
【0041】
セルロース誘導体の例としては、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。デンプン誘導体の例としては、アルファ化デンプン、プルラン、カルボキシメチルデンプン、デキストリン、シクロデキストリン等が挙げられる。多糖類の例としては、ペクチン、アラビアガム、ラムダカラギーナン、カッパカラギーナン、イオタカラギーナン、デンプン、ローカストビーンガム、キサンタンガム、グアーガム、トレハロース、グリコーゲン、アガロース等が挙げられる。
【0042】
水溶性高分子としては、上述した水溶性高分子のなかから適切なものを選択することができる。水溶性高分子として好ましく使用し得る材料として、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等が例示される。
【0043】
水溶性高分子としてPVAを用いる場合、そのMwは、例えば2000以上であってよく、通常は5000以上であることが好ましい。いくつかの態様において、Mwは、1×10以上でもよく、3×10以上でもよく、4×10以上、5×10以上または6×10以上(例えば6.5×10以上)でもよい。Mwの上限は特に制限されない。研磨後の洗浄性の観点から、Mwは、通常、100×10以下であることが有利であり、30×10以下でもよく、20×10以下でもよく、15×10以下または10×10以下でもよい。いくつかの態様において、Mwは、8×10以下でもよく、7.5×10以下でもよい。また水溶性高分子としてHECを用いる場合、そのMwは、1×10以上であることが好ましく、5×10以上でもよく、10×10以上でもよい。いくつかの態様において、Mwは、20×10以上でもよく、25×10以上でもよい。また、砥粒の凝集抑制や研磨後の洗浄性の観点から、Mwは、通常、200×10以下であることが好ましく、150×10以下であることがより好ましく、100×10以下であることがさらに好ましく、70×10以下であることが特に好ましい。いくつかの態様において、Mwは、50×10以下でもよく、40×10以下でもよい。例えば、Mwが20×10以上50×10以下の水溶性高分子を好ましく選択し得る。
【0044】
水溶性高分子を用いる場合、該水溶性高分子の研磨用組成物における含有量C4(2種以上の水溶性高分子を使用する場合は、それらの合計含有量)は特に制限されない。水溶性高分子としてPVAを用いる場合、その含有量C4は、面質改善効果の観点から、例えば0.001重量%以上とすることができ、好ましくは0.002重量%以上であり、より好ましくは0.005重量%以上である。また、研磨用組成物における水溶性高分子の含有量C4は、研磨レート低下抑制の観点から、通常、5重量%以下とすることが好ましく、3重量%以下とすることがより好ましく、1.5重量%以下でもよく、1重量%以下でもよい。また水溶性高分子としてHECを用いる場合、その含有量C4は、面質改善効果の観点から、研磨用組成物において例えば0.001重量%以上とすることができ、好ましくは0.002重量%以上であり、より好ましくは0.005重量%以上である。また、研磨用組成物における水溶性高分子の含有量C4は、研磨レート低下抑制の観点から、通常、5重量%以下とすることが好ましく、3重量%以下とすることがより好ましく、1重量%以下でもよく、0.5重量%以下でもよい。
【0045】
メタバナジン酸ナトリウムと水溶性高分子とを併用することによる効果をより良く発揮させる等の観点から、メタバナジン酸ナトリウムおよび水溶性高分子の含有量の比(C4/C1)は重量基準で10以下が適当であり、5以下が好ましく、2.5以下がより好ましい。いくつかの態様において、メタバナジン酸ナトリウムおよび水溶性高分子の含有量の比(C4/C1)は1.0以下でもよく、0.75以下でもよく、0.5以下であってもよい。また、メタバナジン酸ナトリウムおよび水溶性高分子の含有量の比(C4/C1)の下限に制限はないが、重量基準で、例えば1×10-4以上でもよく、5×10-3以上でもよく、1×10-3以上でもよい。メタバナジン酸ナトリウムと水溶性高分子とを特定の含有量比となるように組み合わせて用いることにより、研磨レートと面品質との両立がより高いレベルで実現され得る。いくつかの態様において、メタバナジン酸ナトリウムおよび水溶性高分子の含有量の比(C4/C1)は、例えば1×10-4以上10以下であってもよく、1×10-4以上5以下であってもよく、5×10-3以上1.0以下であってもよい。このような含有量の比の範囲内であると、研磨レート向上効果がより好適に発揮され得る。
【0046】
(その他の成分)
ここに開示される研磨用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、キレート剤、増粘剤、分散剤、表面保護剤、濡れ剤、pH調整剤、界面活性剤、有機酸、無機酸、防錆剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物(典型的には高硬度材料研磨用組成物、例えば炭化ケイ素基板ポリシング用組成物)に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。上記添加剤の含有量は、その添加目的に応じて適宜設定すればよく、本発明を特徴づけるものではないため、詳しい説明は省略する。
【0047】
(溶媒)
研磨用組成物に用いられる溶媒は、シリカ砥粒、メタバナジン酸ナトリウムおよび過酸化水素を分散または溶解させることができるものであればよく、特に制限されない。溶媒としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。ここに開示される研磨用組成物は、必要に応じて、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)をさらに含有してもよい。通常は、研磨用組成物に含まれる溶媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上(典型的には99~100体積%)が水であることがより好ましい。
【0048】
(酸化剤)
ここに開示される研磨用組成物は、メタバナジン酸ナトリウムおよび過酸化水素以外の酸化剤を含んでもよい。そのような酸化剤の例として、硝酸、その塩である硝酸鉄、硝酸銀、硝酸アルミニウム、その錯体である硝酸セリウムアンモニウム等の硝酸化合物;ペルオキソ一硫酸、ペルオキソ二硫酸等の過硫酸、その塩である過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸化合物;塩素酸やその塩、過塩素酸、その塩である過塩素酸カリウム等の塩素化合物;臭素酸、その塩である臭素酸カリウム等の臭素化合物;ヨウ素酸、その塩であるヨウ素酸アンモニウム、過ヨウ素酸、その塩である過ヨウ素酸ナトリウム、過ヨウ素酸カリウム等のヨウ素化合物;鉄酸、その塩である鉄酸カリウム等の鉄酸類;過マンガン酸、その塩である過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム等の過マンガン酸類;クロム酸、その塩であるクロム酸カリウム、二クロム酸カリウム等のクロム酸類;過ルテニウム酸またはその塩等のルテニウム酸類;モリブデン酸、その塩であるモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸二ナトリウム等のモリブデン酸類;過レニウム酸またはその塩等のレニウム酸類;タングステン酸、その塩であるタングステン酸二ナトリウム等のタングステン酸類;が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0049】
研磨用組成物におけるメタバナジン酸ナトリウムおよび過酸化水素以外の酸化剤の含有量は、通常は3重量%以下とすることが適当である。上記酸化剤の含有量は1重量%以下が好ましく、0.5重量%以下がより好ましい。いくつかの態様において、上記酸化剤の含有量は、例えば0.1重量%以下であってもよく、典型的には0.05重量%以下であってもよい。ここに開示される技術は、研磨用組成物がメタバナジン酸ナトリウムおよび過酸化水素以外の酸化剤を実質的に含まない態様で好ましく実施され得る。
【0050】
研磨用組成物のpHは、通常は2~12程度とすることが適当である。研磨用組成物のpHが上記範囲内であると、実用的な研磨レートが達成されやすい。ここに開示される技術の適用効果をよりよく発揮する観点から、研磨用組成物のpHは、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは5.5以上である。pHの上限は特に限定されないが、好ましくは12以下、より好ましくは10以下、さらに好ましくは9.5以下である。上記pHは、好ましくは3~11、より好ましくは4~10、さらに好ましくは5.5~9.5である。研磨用組成物のpHは、例えば9以下、典型的には7.5以下であってもよい。
【0051】
<研磨用組成物の調製>
ここに開示される研磨用組成物の製造方法は特に限定されない。例えば、翼式攪拌機、超音波分散機、ホモミキサー等の周知の混合装置を用いて、研磨用組成物に含まれる各成分を混合するとよい。これらの成分を混合する態様は特に限定されず、例えば全成分を一度に混合してもよく、適宜設定した順序で混合してもよい。
【0052】
ここに開示される研磨用組成物は、一剤型であってもよいし、二剤型を始めとする多剤型であってもよい。例えば、該研磨用組成物の構成成分(典型的には、溶媒以外の成分)のうち一部の成分を含むパートAと、残りの成分を含むパートBとが混合されて研磨対象物の研磨に用いられるように構成されていてもよい。
【0053】
<濃縮液>
ここに開示される研磨用組成物は、研磨対象物に供給される前には濃縮された形態(すなわち、研磨液の濃縮液の形態)であってもよい。このように濃縮された形態の研磨用組成物は、製造、流通、保存等の際における利便性やコスト低減等の観点から有利である。濃縮倍率は、例えば、体積換算で2倍~5倍程度とすることができる。
【0054】
このように濃縮液の形態にある研磨用組成物は、所望のタイミングで希釈して研磨液を調製し、その研磨液を研磨対象物に供給する態様で使用することができる。上記希釈は、典型的には、上記濃縮液に前述の溶媒を加えて混合することにより行うことができる。また、上記溶媒が混合溶媒である場合、該溶媒の構成成分のうち一部の成分のみを加えて希釈してもよく、それらの構成成分を上記溶媒とは異なる量比で含む混合溶媒を加えて希釈してもよい。また、後述するように多剤型の研磨用組成物においては、それらのうち一部の剤を希釈した後に他の剤と混合して研磨液を調製してもよく、複数の剤を混合した後にその混合物を希釈して研磨液を調製してもよい。
【0055】
<研磨方法>
ここに開示される研磨用組成物は、例えば以下の操作を含む態様で、研磨対象物の研磨に使用することができる。
すなわち、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を含む研磨液を用意する。上記研磨液を用意することには、研磨用組成物に、濃度調整(例えば希釈)、pH調整等の操作を加えて研磨液を調製することが含まれ得る。あるいは、上記研磨用組成物をそのまま研磨液として使用してもよい。また、多剤型の研磨用組成物の場合、上記研磨液を用意することには、それらの剤を混合すること、該混合の前に1または複数の剤を希釈すること、該混合の後にその混合物を希釈すること、等が含まれ得る。
次いで、その研磨液を研磨対象物表面に供給し、常法により研磨する。例えば、一般的な研磨装置に研磨対象物をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて該研磨対象物の表面(研磨対象面)に上記研磨液を供給する。典型的には、上記研磨液を連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかるポリシング工程を経て研磨対象物の研磨が完了する。
【0056】
この明細書によると、研磨対象材料を研磨する研磨方法および該研磨方法を用いた研磨物の製造方法が提供される。上記研磨方法は、ここに開示される研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する工程を含むことによって特徴づけられる。好ましい一態様に係る研磨方法は、予備ポリシングを行う工程(予備ポリシング工程)と、仕上げポリシングを行う工程(仕上げポリシング工程)と、を含んでいる。ここでいう予備ポリシング工程とは、研磨対象物に対して、予備ポリシングを行う工程である。典型的な一態様では、予備ポリシング工程は、仕上げポリシング工程の直前に配置されるポリシング工程である。予備ポリシング工程は、1段のポリシング工程であってもよく、2段以上の複数段のポリシング工程であってもよい。また、ここでいう仕上げポリシング工程は、予備ポリシングが行われた研磨対象物に対して仕上げポリシングを行う工程であって、ポリシング用組成物を用いて行われるポリシング工程のうち最後に(すなわち、最も下流側に)配置される研磨工程のことをいう。このように予備ポリシング工程と仕上げポリシング工程とを含む研磨方法において、ここに開示される研磨用組成物は、予備ポリシング工程で用いられてもよく、仕上げポリシング工程で用いられてもよく、予備ポリシング工程および仕上げポリシング工程の両方で用いられてもよい。
【0057】
好ましい一態様において、上記研磨用組成物を用いるポリシング工程は、仕上げポリシング工程である。ここに開示される研磨用組成物は、研磨後の表面においてスクラッチ等を効果的に低減し得ることから、研磨対象材料表面の仕上げポリシング工程に用いられる研磨用組成物(仕上げポリシング用組成物)として特に好ましく使用され得る。
【0058】
他の好ましい一態様において、上記研磨用組成物を用いるポリシング工程は、予備ポリシング工程であり得る。ここに開示される研磨用組成物は、高い研磨レートを実現し得ることから、研磨対象材料表面の予備ポリシング工程に用いられる研磨用組成物(予備ポリシング用組成物)として好適である。予備ポリシング工程が2段以上の複数段のポリシング工程を含む場合、それらのうち2段以上のポリシング工程を、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を用いて実施することも可能である。ここに開示される研磨用組成物は、前段(上流側)の予備ポリシングに好ましく適用することができる。例えば、後述するラッピング工程を経た最初の予備ポリシング工程(典型的には1次研磨工程)においても好ましく使用され得る。
【0059】
予備ポリシングおよび仕上げポリシングは、片面研磨装置による研磨、両面研磨装置による研磨のいずれにも適用可能である。片面研磨装置では、セラミックプレートにワックスで研磨対象物を貼りつけたり、キャリアと呼ばれる保持具を用いて研磨対象物を保持し、ポリシング用組成物を供給しながら研磨対象物の片面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させることにより研磨対象物の片面を研磨する。両面研磨装置では、キャリアと呼ばれる保持具を用いて研磨対象物を保持し、上方よりポリシング用組成物を供給しながら、研磨対象物の対向面に研磨パッドを押しつけ、それらを相対方向に回転させることにより研磨対象物の両面を同時に研磨する。
【0060】
ここに開示される各ポリシング工程で使用される研磨パッドは、特に限定されない。例えば、不織布タイプ、スウェードタイプ、硬質発泡ポリウレタンタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等のいずれを用いてもよい。
【0061】
ここに開示される方法により研磨された研磨物は、典型的にはポリシング後に洗浄される。この洗浄は、適当な洗浄液を用いて行うことができる。使用する洗浄液は特に限定されず、公知、慣用のものを適宜選択して用いることができる。
【0062】
なお、ここに開示される研磨方法は、上記予備ポリシング工程および仕上げポリシング工程に加えて任意の他の工程を含み得る。そのような工程としては、予備ポリシング工程の前に行われるラッピング工程が挙げられる。上記ラッピング工程は、研磨定盤(例えば鋳鉄定盤)の表面を研磨対象物に押し当てることにより研磨対象物の研磨を行う工程である。したがって、ラッピング工程では研磨パッドは使用しない。ラッピング工程は、典型的には、研磨定盤と研磨対象物との間に砥粒(典型的にはダイヤモンド砥粒)を供給して行われる。また、ここに開示される研磨方法は、予備ポリシング工程の前や、予備ポリシング工程と仕上げポリシング工程との間に追加の工程(洗浄工程やポリシング工程)を含んでもよい。
【0063】
<研磨物の製造方法>
ここに開示される技術には、上記研磨用組成物を用いたポリシング工程を含む研磨物の製造方法(例えば炭化ケイ素基板の製造方法)および該方法により製造された研磨物の提供が含まれ得る。すなわち、ここに開示される技術によると、研磨対象材料から構成された研磨対象物に、ここに開示されるいずれかの研磨用組成物を供給して該研磨対象物を研磨することを含む、研磨物の製造方法および該方法により製造された研磨物が提供される。上記製造方法は、ここに開示されるいずれかの研磨方法の内容を好ましく適用することにより実施され得る。上記製造方法によると、研磨物(例えば炭化ケイ素基板)が効率的に提供され得る。
【実施例
【0064】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明を実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「%」は、特に断りがない限り重量基準である。
【0065】
以下の実施例において使用した水溶性高分子は、次のとおりである。
PVA:Mwが7×10、けん化度が98%以上のポリビニルアルコール
HEC:Mwが28×10のヒドロキシエチルセルロース
【0066】
[実験1]
<研磨用組成物の調製>
(例1~10)
メタバナジン酸塩と過酸化水素とコロイダルシリカと脱イオン水とを混合して例1~10に係る研磨用組成物を調製した。研磨用組成物のpHは、水酸化カリウム(KOH)を用いて6.5に調整した。各例に係る研磨用組成物について、使用したメタバナジン酸塩のカチオンおよび含有量C1、過酸化水素の含有量C2、メタバナジン酸塩の含有量C1に対する過酸化水素の含有量C2の比(C2/C1)、コロイダルシリカの含有量C3、メタバナジン酸塩の含有量C1に対するコロイダルシリカの含有量C3の比(C3/C1)を表1に纏めて示す。なお、コロイダルシリカは、D1が34nm、D2が76nmの球状のものを使用した。
【0067】
<研磨レートの評価>
用意した各例の研磨用組成物をそのまま研磨液として使用して、過マンガン酸を酸化剤として用いた研磨液で予備研磨したSiCウェーハの表面に対し、下記の条件でポリシングを実施した。そして、以下の計算式(1)、(2)に従って研磨レートを算出した。結果を表1の該当欄に示す。
(1)研磨取り代[cm]=研磨前後のSiCウェーハの重量の差[g]/SiCの密度[g/cm](=3.21g/cm)/研磨対象面積[cm](=19.62cm
(2)研磨レート[nm/h]=研磨取り代[cm]×10/研磨時間(=0.5時間)
[ポリシング条件]
研磨装置:日本エンギス社製の片面研磨装置、型式「EJ-380IN」
研磨パッド:ニッタ・ハース社製「SUBA800」
研磨圧力:300g/cm
定盤回転数:80回転/分
研磨時間:1時間
ヘッド回転数:40回転/分
研磨液の供給レート:20mL/分(掛け流し)
研磨液の温度:25℃
研磨対象物:SiCウェーハ(伝導型:n型、結晶型4H 4°off)
2インチ×3枚
【0068】
<面品質>
各例に係るポリシング後の研磨物表面につき、パークシステムズ社製の原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope、型式XE-HDM)を用いて、測定領域10μm×10μmの条件でウェーハ面内22点の表面粗さRa(nm)を測定し、その平均値を求めた。また、前記22点の測定視野内において長さ1μm以上のスクラッチの数を算出した。結果を表1の「面品質」の欄に示す。ここでは、表面粗さRaが0.04nm未満でスクラッチ数が1以下であるものを「AA」、表面粗さRaが0.04nm以上0.05nm未満でスクラッチ数が1以下であるものを「A」、表面粗さRaが0.05nm以上0.06nm未満でスクラッチ数が1以下であるもの、もしくは、表面粗さRaが0.05nm未満でスクラッチ数が2以上であるものを「B」、表面粗さRaが0.05nm以上0.06nm未満でスクラッチ数が2以上、もしくは表面粗さRaが0.06nm以上であるものを「C」と評価した。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示されるように、0.7重量%~3.5重量%のメタバナジン酸ナトリウムと、0.3重量%~3重量%の過酸化水素と、12重量%~50重量%のシリカ砥粒とを組み合わせて用いた例1~5の研磨用組成物によると、例6~10に比べて研磨レートで良好な結果が得られた。また、例1~4の研磨用組成物によると、例6~10に比べて面品質が改善した。この結果から、メタバナジン酸ナトリウムと過酸化水素とシリカ砥粒とを特定の含有量となるように組み合わせて用いることにより、面品質を改善しつつ研磨レートを向上させ得ることが確認できた。
【0071】
[実験2]
<研磨用組成物の調製>
(例11~16)
例3の研磨用組成物に、種類や量を変えて水溶性高分子を混合して例11~16に係る研磨用組成物を調製した。研磨用組成物のpHは、水酸化カリウム(KOH)を用いて6.5に調整した。各例に係る研磨用組成物について、使用したメタバナジン酸塩のカチオンおよび含有量C1、過酸化水素の含有量C2、メタバナジン酸塩の含有量C1に対する過酸化水素の含有量C2の比(C2/C1)、コロイダルシリカの含有量C3、メタバナジン酸塩の含有量C1に対するコロイダルシリカの含有量C3の比(C3/C1)、水溶性高分子の種類および含有量C4を表2に纏めて示す。
【0072】
<研磨レートの評価>
用意した各例の研磨用組成物をそのまま研磨液として使用して、過マンガン酸を酸化剤として用いた研磨液で予備研磨したSiCウェーハの表面に対し、実験1と同様の条件でポリシングを実施した。そして、実験1と同様の計算式に従って研磨レートを算出した。結果を表2の該当欄に示す。
【0073】
<面品質>
各例に係るポリシング後の研磨物表面につき、実験1と同様に評価した。結果を表2の「面品質」の欄に示す。ここでは、表面粗さRaが0.04nm未満でスクラッチ数が1以下であるものを「AA」、表面粗さRaが0.04nm以上0.05nm未満でスクラッチ数が1以下であるものを「A」、表面粗さRaが0.05nm以上0.06nm未満でスクラッチ数が1以下であるもの、もしくは、表面粗さRaが0.05nm未満でスクラッチ数が2以上であるものを「B」、表面粗さRaが0.05nm以上0.06nm未満でスクラッチ数が2以上、もしくは表面粗さRaが0.06nm以上であるものを「C」と評価した。
【0074】
【表2】
【0075】
表2に示されるように、水溶性高分子もしくは界面活性剤を用いた例11~16の研磨用組成物によると、例1~4に比べて面品質がさらに改善する傾向が認められた。この結果から、水溶性高分子もしくは界面活性剤を用いることにより、面品質をさらに改善し得ることが確認できた。
【0076】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。