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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】スピンドルユニットおよび加工装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 32/06 20060101AFI20240621BHJP
   B24B 41/047 20060101ALI20240621BHJP
   B24B 49/16 20060101ALI20240621BHJP
   B24B 7/04 20060101ALI20240621BHJP
   B23B 19/02 20060101ALI20240621BHJP
   F16C 41/00 20060101ALI20240621BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
F16C32/06 C
B24B41/047
B24B49/16
B24B7/04 A
B23B19/02 A
F16C41/00
H01L21/304 622R
H01L21/304 631
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020143348
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2022038715
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 裕之
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-085253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00 -17/26,
32/00 -32/06,
33/00 -33/28,
41/00 -41/04
B24B 41/00 -51/00
B23B 19/00 -19/02,
23/00 -23/04
H01L 21/304-21/304,
21/463
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に加工具を装着するスピンドルと、該スピンドルを回転可能にエアによって非接触で支持するスラストベアリングおよびラジアルベアリングを含むスピンドルハウジングと、を備えるスピンドルユニットであって、
該スラストベアリングは、
該スピンドルの軸方向に直交する方向の該スピンドルの外側面と、該スピンドルハウジングの内側面との隙間にエアを供給するエア供給部と、
該スピンドルの外側面に垂直な方向における該隙間の距離を調整可能な調整部と、
を備え、
該調整部は、
該スピンドルに配置され、該スラストベアリングを形成する該スピンドルの外側面を該スピンドルの軸方向に移動させる圧電アクチュエータを備える、
スピンドルユニット。
【請求項2】
加工具を先端に装着したスピンドルが回転可能に支持されている請求項記載のスピンドルユニットと、被加工物を保持する保持手段とを備え、該スピンドルを回転させて、被加工物を該加工具によって加工する加工装置であって、
該スラストベアリングが形成されている該隙間のエア圧力を測定する圧力測定部と、
該圧力測定部が測定した圧力値が予め設定された値になるように該隙間の距離を調整するために、該圧電アクチュエータに供給する直流電力の電圧を制御する電圧制御部と、
を備える加工装置。
【請求項3】
加工具を先端に装着したスピンドルが回転可能に支持されているスピンドルユニットと、被加工物を保持する保持手段とを備え、該スピンドルを回転させて、被加工物を該加工具によって加工する加工装置であって、
該スピンドルユニットは、先端に加工具を装着するスピンドルと、該スピンドルを回転可能にエアによって非接触で支持するスラストベアリングおよびラジアルベアリングを含むスピンドルハウジングと、を備え、
該スラストベアリングは、該スピンドルの軸方向に直交する方向の該スピンドルの外側面と、該スピンドルハウジングの内側面との隙間にエアを供給するエア供給部と、該スピンドルの外側面に垂直な方向における該隙間の距離を調整可能な調整部と、を備え、
該調整部は、該スピンドルハウジングに配置され、該スラストベアリングを形成する該スピンドルハウジングの内側面を該スピンドルの軸方向に移動させる圧電アクチュエータを備え、
該スラストベアリングが形成されている該隙間のエア圧力を測定する圧力測定部と、
該圧力測定部が測定した圧力値が予め設定された値になるように該隙間の距離を調整するために、該圧電アクチュエータに供給する直流電力の電圧を制御する電圧制御部と、
を備える加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドルユニットおよび加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チャックテーブルに保持されたウェーハを研削加工する研削装置は、スピンドルを含むスピンドルユニットを有している。この研削装置では、環状の研削砥石を配置した研削ホイールが、スピンドルの先端に装着されている。スピンドルを回転させることによって回転する研削砥石によって、ウェーハを研削している。
【0003】
特許文献1に開示のように、スピンドルユニットは、スピンドルの外周面を、隙間を形成して囲繞するスピンドルハウジングと、隙間にエアを供給するエア供給部とを備えている。隙間にエアを充満させ加圧することによって、エアベアリングが形成される。
【0004】
また、スピンドルは、特許文献2に開示のように、隙間のエアの圧力を測定することによって、研削砥石にかかる荷重を測定することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-132232号公報
【文献】特開2008-049445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなスピンドルユニットでは、スピンドルの先端に装着した研削ホイールの研削砥石をウェーハに押し付けウェーハを研削する研削加工によってスピンドルを傾ける方向に荷重がかかり、その荷重によってスピンドルが傾くことを抑制するために、隙間を狭くしている。つまり、狭い隙間に供給したエアの圧力を高めることによって、研削砥石が荷重を受けた際にスピンドルが傾かないような研削荷重に耐える高剛性のエアベアリングを形成している。
【0007】
しかし、隙間が狭いために、装置の起動当初に、エアベアリングを形成するためのエアの供給や、冷却水の通水などによって、ハウジングまたはスピンドルが熱変形する場合がある。この場合、スピンドルとハウジングとが接触する接触箇所ができ、スピンドルを回転させると、その接触箇所が擦れ凹凸が形成され、スピンドルが回転しなくなることがある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、高剛性のエアベアリングを形成するとともに、熱変形が起きそうな状況であっても、スピンドルを連続的に回転させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスピンドルユニット(本スピンドルユニット)は、先端に加工具を装着するスピンドルと、該スピンドルを回転可能にエアによって非接触で支持するスラストベアリングおよびラジアルベアリングを含むスピンドルハウジングと、を備えるスピンドルユニットであって、該スラストベアリングは、該スピンドルの軸方向に直交する方向の該スピンドルの外側面と、該スピンドルハウジングの内側面との隙間にエアを供給するエア供給部と、該スピンドルの外側面に垂直な方向における該隙間の距離を調整可能な調整部と、を備え、該調整部は、該スピンドルに配置され、該スラストベアリングを形成する該スピンドルの外側面を該スピンドルの軸方向に移動させる圧電アクチュエータを備える。
【0012】
本発明の加工装置は、加工具を先端に装着したスピンドルが回転可能に支持されている本スピンドルユニットと、被加工物を保持する保持手段とを備え、該スピンドルを回転させて、被加工物を該加工具によって加工する加工装置であって、該スラストベアリングが形成されている該隙間のエア圧力を測定する圧力測定部と、該圧力測定部が測定した圧力値が予め設定された値になるように該隙間の距離を調整するために、該圧電アクチュエータに供給する直流電力の電圧を制御する電圧制御部と、を備える。
本発明の他の加工装置は、加工具を先端に装着したスピンドルが回転可能に支持されているスピンドルユニットと、被加工物を保持する保持手段とを備え、該スピンドルを回転させて、被加工物を該加工具によって加工する加工装置であって、該スピンドルユニットは、先端に加工具を装着するスピンドルと、該スピンドルを回転可能にエアによって非接触で支持するスラストベアリングおよびラジアルベアリングを含むスピンドルハウジングと、を備え、該スラストベアリングは、該スピンドルの軸方向に直交する方向の該スピンドルの外側面と、該スピンドルハウジングの内側面との隙間にエアを供給するエア供給部と、該スピンドルの外側面に垂直な方向における該隙間の距離を調整可能な調整部と、を備え、該調整部は、該スピンドルハウジングに配置され、該スラストベアリングを形成する該スピンドルハウジングの内側面を該スピンドルの軸方向に移動させる圧電アクチュエータを備え、該スラストベアリングが形成されている該隙間のエア圧力を測定する圧力測定部と、該圧力測定部が測定した圧力値が予め設定された値になるように該隙間の距離を調整するために、該圧電アクチュエータに供給する直流電力の電圧を制御する電圧制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本スピンドルユニットでは、調整部によって、スピンドルの軸方向に直交する方向のスピンドルの外側面と、スピンドルハウジングの内側面との隙間(スラスト隙間)の距離を調整することが可能である。したがって、たとえば、スピンドルの温度が安定する前のアイドリング時に、スラスト隙間を広げることができる。このため、アイドリング時に、熱変形したスピンドルとスピンドルハウジングとが接触するような事態の発生を、抑制することができる。したがって、スピンドルを連続的に回転させることが可能である。
また、本スピンドルユニットでは、調整部により、研削加工の際にスラスト隙間を通常の距離となるように狭めることができる。したがって、スピンドルユニットに、高剛性のスラストベアリングを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】研削装置の構成を示す斜視図である。
図2】スピンドルユニットの構成を示す説明図である。
図3】調整部の構成を示す説明図である。
図4】スピンドルユニットの他の構成を示す説明図である。
図5】調整部の他の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示すように、本実施形態にかかる研削装置1は、加工装置の一例であり、被加工物としてのウェーハ100を研削するための装置である。ウェーハ100は、たとえば半導体ウェーハである。
【0016】
研削装置1は、直方体状の基台10、および、上方に延びるコラム11を備えている。
基台10の上面側には、開口部13が設けられている。そして、開口部13内には、保持手段としてのチャックテーブル31が配置されている。チャックテーブル31は、ウェーハ100を保持する保持面32を備えている。
【0017】
チャックテーブル31の保持面32は、ポーラス材からなり、吸引源(図示せず)に連通されることにより、ウェーハ100を吸引保持する。すなわち、チャックテーブル31は、保持面32によってウェーハ100を保持する。
【0018】
また、チャックテーブル31は、下方に設けられた図示しない支持部材により、保持面32によってウェーハ100を保持した状態で、保持面32の中心を通りZ軸方向に延在するテーブル中心軸を中心として回転可能である。したがって、ウェーハ100は、保持面32に保持されて保持面32の中心を回転軸として回転される。
【0019】
チャックテーブル31の周囲には、チャックテーブル31とともにY軸方向に沿って移動されるカバー板39が設けられている。また、カバー板39には、Y軸方向に伸縮する蛇腹カバー12が連結されている。そして、チャックテーブル31の下方には、図示しないY軸方向移動手段が配設されている。Y軸方向移動手段は、チャックテーブル31をY軸方向に沿って移動させる。
【0020】
本実施形態では、チャックテーブル31は、大まかにいえば、保持面32にウェーハ100を載置するための前方(-Y方向側)の載置位置と、ウェーハ100が研削される後方(+Y方向側)の研削位置との間を、Y軸方向移動手段によって、Y軸方向に沿って移動される。
【0021】
また、図1に示すように、基台10上の後方(+Y方向側)には、コラム11が立設されている。コラム11の前面には、ウェーハ100を研削する研削手段70、および、研削送り手段50が設けられている。
【0022】
研削送り手段50は、チャックテーブル31と研削手段70とを、相対的に、保持面32に垂直なZ軸方向(研削送り方向)に移動させる。本実施形態では、研削送り手段50は、チャックテーブル31に対して、研削手段70をZ軸方向に移動させるように構成されている。
【0023】
研削送り手段50は、Z軸方向に平行な一対のZ軸ガイドレール51、このZ軸ガイドレール51上をスライドするZ軸移動テーブル53、Z軸ガイドレール51と平行なZ軸ボールネジ52、Z軸モータ54、および、Z軸移動テーブル53の前面(表面)に取り付けられた支持ケース56を備えている。支持ケース56は、研削手段70を支持している。
【0024】
Z軸移動テーブル53は、Z軸ガイドレール51にスライド可能に設置されている。Z軸移動テーブル53の後面側(裏面側)には、図示しないナット部が固定されている。このナット部には、Z軸ボールネジ52が螺合されている。Z軸モータ54は、Z軸ボールネジ52の一端部に連結されている。
【0025】
研削送り手段50では、Z軸モータ54がZ軸ボールネジ52を回転させることにより、Z軸移動テーブル53が、Z軸ガイドレール51に沿って、Z軸方向に移動する。これにより、Z軸移動テーブル53に取り付けられた支持ケース56、および、支持ケース56に支持された研削手段70も、Z軸移動テーブル53とともにZ軸方向に移動する。
【0026】
研削手段70は、スピンドルハウジング71、スピンドル72および回転モータ73を含む、スピンドルユニット78を備えている。スピンドルユニット78は、支持ケース56に固定されている。
【0027】
スピンドルハウジング71は、Z軸方向に延びるように支持ケース56に保持されている。スピンドル72は、チャックテーブル31の保持面32と直交するようにZ軸方向に延び、スピンドルハウジング71に回転可能に支持されている。回転モータ73は、スピンドル72の上端側に連結されている。この回転モータ73により、スピンドル72は、Z軸方向に延びる回転軸を中心として回転する。
【0028】
研削手段70は、さらに、スピンドル72の下端に取り付けられたホイールマウント74、および、ホイールマウント74に支持された研削ホイール75を備えている。
【0029】
ホイールマウント74は、円板状に形成されており、スピンドル72の下端(先端)に固定されている。ホイールマウント74は、研削ホイール75を支持している。
【0030】
研削ホイール75は、外径がホイールマウント74の外径と略同径を有するように形成されている。研削ホイール75は、金属材料から形成された円環状のホイール基台(環状基台)76を含む。ホイール基台76の下面には、全周にわたって、加工具の一例である研削砥石77が固定されている。
【0031】
研削砥石77は、環状に形成されており、その中心を通りZ軸方向に延びる回転軸を中心として、スピンドル72、ホイールマウント74、およびホイール基台76を介して、回転モータ73によって回転され、研削位置に配置されているチャックテーブル31に保持されたウェーハ100を研削する。
【0032】
このように、研削装置1では、研削砥石77が、ホイールマウント74、およびホイール基台76を介して、スピンドル72の先端に装着されている。そして、スピンドルユニット78では、研削砥石77を先端に装着したスピンドル72が、回転可能に支持されている。研削装置1は、このようなスピンドル72を回転させて、被加工物であるウェーハ100を研削砥石77によって加工する。
【0033】
次に、本実施形態のスピンドルユニット78について、より詳細に説明する。
【0034】
図2に示すように、スピンドルユニット78は、直立姿勢のスピンドル72、スピンドル72を覆っており、スピンドル72を支持するスピンドルハウジング71、スピンドル72の下端部分を覆うスピンドルカバー66、および、スピンドル72を回転駆動する回転モータ73を備えている。
【0035】
スピンドル72は、Z軸方向に延びている。スピンドル72の中間部分には、大径の第1円板部81が形成されている。また、スピンドル72の下端部分にも、大径の第2円板部82が形成されている。
【0036】
スピンドル72の上端には、回転モータ73が連結されている。回転モータ73は、スピンドル72の上端部分に設けられたロータ85と、ステータ86とを有している。ステータ86に所定の電圧を印加することにより、ロータ85が回転し、スピンドル72が、その軸心を中心として回転する。
【0037】
また、ステータ86は、冷却ジャケット87を介して、スピンドルハウジング71の内周面に設けられている。冷却ジャケット87内には、多数の冷却水路88が形成されている。これらの冷却水路88によって、回転モータ73が冷却される。
【0038】
スピンドルハウジング71におけるスピンドル72の上端近傍には、回転検知センサ89が設けられている。回転検知センサ89は、スピンドル72の上端に取り付けられた被検知部90に対向可能に設けられている。回転検知センサ89は、被検知部90の回転移動を検知することにより、スピンドル72の回転を検知するように構成されている。
【0039】
スピンドル72の先端(下端)には、上述したホイールマウント74が連結されている。ホイールマウント74には、研削砥石77を含む研削ホイール75が装着されている。
【0040】
スピンドル72の上端には、研削水源130に連通される研削水導入路131が取り付けられている。また、研削水導入路131は、スピンドル72、ホイールマウント74およびホイール基台76内に設けられている研削水路132に連通されている。このような構造により、研削水源130からの研削水が、研削水導入路131および研削水路132を介して、研削砥石77に供給される。
【0041】
スピンドルハウジング71は、スピンドル72の外側面を囲繞し、エアベアリングによりスピンドル72を回転自在に支持するように構成されている。
【0042】
スピンドルハウジング71は、その下端部分に、環状部91を備えている。環状部91は、スピンドル72の第1円板部81と第2円板部82との間に入り込むように、かつ、第1円板部81および第2円板部82と環状部91との間に僅かな隙間が形成されるように、スピンドルハウジング71に設けられている。
【0043】
また、スピンドルハウジング71は、エア供給源110に接続されたエア供給路111に連通されている、ラジアルベアリングを構成する複数のラジアル側エア噴出口93を備えている。
【0044】
エア供給路111は、スピンドルユニット78の外部から環状部91を含むスピンドルハウジング71内に延びるように形成されており、開閉バルブ112および逆止弁113を備えている。
【0045】
ラジアル側エア噴出口93は、環状部91に、スピンドル72における第1円板部81と第2円板部82との間に延びるラジアル側面84に対向するように設けられており、エア供給路111に接続されている。
【0046】
ラジアル側エア噴出口93は、スピンドル72のラジアル側面84とスピンドルハウジング71の環状部91との間の隙間であるラジアル隙間300に向けて開口されている。ラジアル側エア噴出口93が、このラジアル隙間300に向けてラジアル方向に高圧のエアを噴出することにより、スピンドルハウジング71とスピンドル72との間であるラジアル隙間300に、スピンドル72を回転可能にエアによって非接触で支持するラジアルベアリングが形成される。
【0047】
また、スピンドルハウジング71は、スラストベアリングを構成する複数の調整部120を備えている。
調整部120は、スピンドルハウジング71のスラスト凹部95内に設けられている。スラスト凹部95および調整部120は、スピンドルハウジング71の環状部91に、スピンドル72の第1円板部81および第2円板部82に対向するように形成されている。
【0048】
図3に、第1円板部81に対向する調整部120の構成を示す。図3に示すように、調整部120は、スラスト凹部95の底面96に固定されている圧電アクチュエータ121、スラスト方向(スピンドル72の軸方向)に可動する可動部122、および、可動部122とスラスト凹部95の側面97との間に配されているシール材125、を備えている。
【0049】
可動部122は、圧電アクチュエータ121の表面に設けられており、第1円板部81に対向する可動部表面124を備えている。この可動部表面124は、スピンドルハウジング71における、スピンドル72の軸方向(Z軸方向)に直交する方向の内側面の一例である。
この可動部表面124には、第1円板部81(第2円板部82)の表面である円板部表面83が対向している。この円板部表面83は、スピンドル72の軸方向に直交する方向のスピンドル72の外側面の一例である。
【0050】
可動部122は、この可動部表面124に、エア供給路111に接続されている複数のスラスト側エア噴出口123を備えている。スラスト側エア噴出口123は、エア供給部の一例である。すなわち、スラスト側エア噴出口123は、スピンドルハウジング71の可動部表面124とスピンドル72の円板部表面83との間の隙間であるスラスト隙間301に向けて開口されており、このスラスト隙間301に向けてエアを供給する。
【0051】
すなわち、スラスト側エア噴出口123が、スラスト隙間301に向けてスラスト方向に高圧のエアを噴出することにより、スピンドルハウジング71の可動部表面124とスピンドル72の円板部表面83との間であるスラスト隙間301に、スピンドル72を回転可能にエアによって非接触で支持するスラストベアリングが形成される。
【0052】
このように、スピンドルハウジング71は、スピンドル72を回転可能にエアによって非接触で支持するスラストベアリングおよびラジアルベアリングを含む。また、スラストベアリングは、エア供給部としてのスラスト側エア噴出口123および調整部120を含む。
【0053】
また、可動部122は、スラスト凹部95内において、スラスト方向に沿って移動可能に設けられている。シール材125は、可動部122の移動の際に、可動部122の側面を封止するためのものである。
【0054】
圧電アクチュエータ121には、図2および図3に示すように、電力線142が接続されている。この電力線142は、図1および図2に示すように、直流電源140、および、この直流電源140を制御するための電圧制御部141に接続されている。すなわち、電圧制御部141は、電力線142を介して、各圧電アクチュエータ121に電気的に接続されている。電圧制御部141は、直流電源140からの直流電力を、その電圧値を調整しながら、電力線142を介して、圧電アクチュエータ121に伝達する。
【0055】
圧電アクチュエータ121は、電圧制御部141から供給された直流電力の電圧値に応じて、スラスト方向に伸縮する。すなわち、圧電アクチュエータ121は、スラスト方向に伸縮することにより、その表面に設けられている可動部122を、スラスト方向に移動させる。可動部122がスラスト方向に沿って移動することにより、スピンドル72の円板部表面83に垂直な方向におけるスラスト隙間301の距離(幅)、すなわち、可動部表面124と円板部表面83との間の距離が変動される。
【0056】
このように、圧電アクチュエータ121は、スピンドルハウジング71に配置され、スラストベアリングを形成するスピンドルハウジング71の可動部表面124をスピンドル72の軸方向に移動させるものである。
【0057】
また、調整部120の可動部122には、図2および図3に示すように、その第1円板部81(第2円板部82)に対向する可動部表面124に、圧力素子115が備えられている。この圧力素子115は、スピンドルユニット78の外部の圧力測定部116に接続されている。
【0058】
圧力素子115は、可動部表面124とスピンドル72の円板部表面83との間のスラスト隙間301のエア圧力に応じた電気信号を生成し、圧力測定部116に伝達する。圧力測定部116は、この電気信号に基づいて、このスラスト隙間301のエア圧力、すなわち、スラストベアリングが形成されているスラスト隙間301のエア圧力を測定する。
【0059】
本実施形態では、ウェーハ100に対する研削加工の際に、スラスト隙間301の距離が調整される。すなわち、電圧制御部141は、各圧力測定部116によって測定されるスラスト隙間301のエア圧力の圧力値が予め設定された圧力値になるように、各圧力測定部116に対応する圧電アクチュエータ121を用いて、スラスト隙間301の距離を調整する。このために、電圧制御部141は、各圧電アクチュエータ121に供給する直流電力の電圧を制御する。なお、スラスト隙間301のエア圧力は、実質的に、スラスト隙間301の距離に対応する。
【0060】
たとえば、研削装置1では、スピンドル72を回転させた後、スピンドル72の温度が安定するまではアイドリング状態であり、スピンドル72の温度が安定したアイドリング終了後、加工を開始する。
【0061】
したがって、本実施形態では、予め設定されているスラスト隙間301のエア圧力は、スピンドル72の温度が安定する過程にある加工前のアイドリング時においては小さい値であり、スピンドル72の温度が安定したアイドリング終了後では大きい値とされる。
【0062】
この場合、電圧制御部141は、アイドリング時においてはスラスト隙間301の距離を広くする。これにより、圧力測定部116によって測定されるエア圧力が、予め設定された比較的に小さい圧力値となる。
なお、予め所定の圧力値を設定した設定値を備え、アイドリング開始時に圧力測定部116によって測定されるエア圧力が設定値になるようスラスト隙間301の距離を調整してもよい。
【0063】
また、電圧制御部141は、スピンドル72の温度が安定したアイドリング終了後では、スラスト隙間301の距離を狭めるように、圧電アクチュエータ121に供給する直流電力の電圧を制御する。これにより、圧力測定部116によって測定されるエア圧力が、予め設定された比較的に大きい圧力値となる。その後、研削装置1では、ウェーハ100に対する研削加工が開始される。
【0064】
また、たとえば、予め設定されているスラスト隙間301の圧力値は、研削加工中では一定である。したがって、電圧制御部141は、研削加工中におけるスラスト隙間301の距離が一定となるように、圧電アクチュエータ121に供給する直流電力の電圧を制御する。これにより、圧力測定部116によって測定される研削加工中のエア圧力が、予め設定された一定の圧力値となる。
なお、電圧制御部141は、圧電アクチュエータ121に供給する直流電力の電圧を各々制御し、スピンドルハウジング71の環状部91の上面に形成されるスラストベアリングのスラスト隙間301の距離と下面に形成されるスラストベアリングのスラスト隙間301の距離とを均一にする。
【0065】
以上のように、本実施形態では、電圧制御部141の制御により、調整部120の圧電アクチュエータ121が伸縮することにより、スラスト隙間301の距離を調整することが可能である。したがって、たとえば、スピンドル72の温度が安定する前のアイドリング時に、スラスト隙間301を広げることができる。このため、本実施形態では、アイドリング時に、熱変形したスピンドル72とスピンドルハウジング71とが接触するような事態の発生を、抑制することができる。したがって、本実施形態では、スピンドル72を連続的に回転させることが可能である。
【0066】
また、本実施形態では、アイドリング時に、スラスト隙間301を広げることにより、スピンドル72を円滑に回転させることができる。したがって、アイドリング時間を短縮することも可能である。
【0067】
また、本実施形態では、電圧制御部141の制御により圧電アクチュエータ121が伸縮することにより、研削加工の際に、スラスト隙間301を、通常の距離となるように狭めることができる。したがって、スピンドルユニット78に、高剛性のスラストベアリングを形成することができる。
【0068】
なお、上述の実施形態では、スラスト隙間301の距離を調整可能な調整部120が、スピンドルハウジング71のスラスト凹部95内に設けられている。これに関し、スラスト隙間301の距離を調整可能な調整部は、スピンドル72に設けられてもよい。
【0069】
すなわち、スピンドルユニット78は、図4に示すような構成を有していてもよい。図4に示すスピンドルユニット78は、図2に示す構成において、スピンドルハウジング71の環状部91に設けられる調整部120に代えて、スピンドル72の第1円板部81および第2円板部82に設けられる調整部150を備えた構成を有している。
【0070】
図4に示すように、この構成でも、スピンドル72のラジアル側面84とスピンドルハウジング71の環状部91との間の隙間であるラジアル隙間300に向けて、ラジアル側エア噴出口93が開口されている。したがって、ラジアル隙間300に、スピンドル72を回転可能にエアによって非接触で支持するラジアルベアリングが形成される。
【0071】
また、スピンドル72は、スラストベアリングを構成する複数の調整部150を備えている。
調整部150は、スピンドル72のスラスト凹部151内に設けられている。スラスト凹部151および調整部150は、スピンドル72の第1円板部81および第2円板部82に、スピンドルハウジング71の環状部91に対向するように形成されている。
【0072】
図5に、第1円板部81に形成された調整部150の構成を示す。図5に示すように、調整部150は、スラスト凹部151の底面152に固定されている圧電アクチュエータ121、スラスト方向(Z軸方向)に可動する可動部122、および、可動部122とスラスト凹部151の側面153との間に配されているシール材125、を備えている。
【0073】
可動部122は、圧電アクチュエータ121の表面に設けられており、環状部91に対向する可動部表面124を備えている。この可動部表面124は、スピンドル72の軸方向に直交する方向のスピンドル72の外側面の一例である。
【0074】
この可動部表面124には、環状部91の表面である環状部表面92が対向している。この環状部表面92は、スピンドルハウジング71における、スピンドル72の軸方向に直交する方向の内側面の一例である。
【0075】
環状部91は、この環状部表面92に、エア供給路111に接続されている複数のスラスト側エア噴出口123を備えている。各スラスト側エア噴出口123は、エア供給部の一例であり、スピンドル72の可動部表面124とスピンドルハウジング71の環状部表面92との間の隙間であるスラスト隙間301に向けてエアを供給する。これにより、可動部表面124と環状部表面92との間のスラスト隙間301に、スピンドル72を回転可能にエアによって非接触で支持するスラストベアリングが形成される。
【0076】
可動部122は、スラスト凹部151内において、スラスト方向に沿って移動可能に設けられている。シール材125は、可動部122の移動の際に、可動部122の側面を封止する。
【0077】
圧電アクチュエータ121には、図4および図5に示すように、電力線143が接続されている。この電力線143は、スピンドル72に設けられた第1接点146、スピンドルハウジング71に設けられて第1接点146に電気的に接続されている第2接点145、および、第2接点145に接続された電力線142を介して、直流電源140および電圧制御部141に接続されている。
【0078】
このように、電圧制御部141は、図2に示した構成と同様に、各圧電アクチュエータ121に電気的に接続されており、直流電源140からの直流電力を、その電圧値を調整しながら、圧電アクチュエータ121に伝達する。
なお、第1接点146と第2接点145との接点構造は、たとえば、直流モータの接点構造と同様であってよい。
【0079】
圧電アクチュエータ121は、電圧制御部141から供給された直流電力の電圧値に応じて、スラスト方向に伸縮することにより、その表面に設けられている可動部122を、スラスト方向に移動させる。可動部122がスラスト方向に沿って移動することにより、スピンドル72の可動部表面124に垂直な方向におけるスラスト隙間301の距離、すなわち、可動部表面124と環状部表面92との間の距離が変動される。
【0080】
このように、図4および図5に示す構成では、圧電アクチュエータ121は、スピンドル72に配置され、スラストベアリングを形成するスピンドル72の可動部表面124を、スピンドル72の軸方向に移動させる。
【0081】
また、図4および図5に示す構成では、スピンドルハウジング71の環状部91の環状部表面92に、スラスト隙間301のエア圧力に応じた電気信号を生成する圧力素子115が備えられている。この電気信号に基づいて、圧力測定部116が、スラストベアリングが形成されているスラスト隙間301のエア圧力を測定する。
【0082】
このように、図4および図5に示す構成のスピンドルユニット78でも、ウェーハ100に対する研削加工の際に、スラスト隙間301の距離を調整することが可能である。すなわち、電圧制御部141は、図2および図3に示した構成と同様に、各圧力測定部116によって測定されるスラスト隙間301のエア圧力が予め設定された圧力値になるように、各圧力測定部116に対応する圧電アクチュエータ121を用いて、スラスト隙間301の距離を調整することができる。
【符号の説明】
【0083】
1:研削装置、10:基台、11:コラム、
31:チャックテーブル、32:保持面、
50:研削送り手段、78:スピンドルユニット、
70:研削手段、71:スピンドルハウジング、74:ホイールマウント、
75:研削ホイール、76:ホイール基台、77:研削砥石、
72:スピンドル、81:第1円板部、82:第2円板部、
83:円板部表面、84:ラジアル側面、
73:回転モータ、85:ロータ、86:ステータ、
87:冷却ジャケット、88:冷却水路、
91:環状部、92:環状部表面、
93:ラジアル側エア噴出口、
95:スラスト凹部、96:底面、97:側面、
110:エア供給源、111:エア供給路、
115:圧力素子、116:圧力測定部、
120:調整部、121:圧電アクチュエータ、125:シール材、
122:可動部、124:可動部表面、123:スラスト側エア噴出口、
130:研削水源、131:研削水導入路、132:研削水路、
140:直流電源、141:電圧制御部、142:電力線、143:電力線、
145:第2接点、146:第1接点、
150:調整部、151:スラスト凹部、152:底面、153:側面、
300:ラジアル隙間、301:スラスト隙間
図1
図2
図3
図4
図5