(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】電子聴診器
(51)【国際特許分類】
A61B 7/04 20060101AFI20240621BHJP
【FI】
A61B7/04 N
A61B7/04 H
(21)【出願番号】P 2020169556
(22)【出願日】2020-10-07
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂田 大輔
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】実公昭47-028550(JP,Y1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0013747(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/0538
5/24-5/398
7/00-7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内蔵されたバッテリーから電源が供給され、集音部で集音した生体音をセンサ素子で生体音信号に変換し、該生体音信号を信号処理回路で信号処理する電子聴診器において、
被聴診者に接触する前記集音部の表面に第1の電極を配置し、
前記信号処理回路に設定される高電源電位又は低電源電位を、前記第1の電極で検知される電位の変化に同期して変動させることで、被聴診者を介して前記生体音信号に重畳するノイズを低減することを特徴とする電子聴診器。
【請求項2】
請求項1記載の電子聴診器において、
前記集音部は、把持部を備え、
聴診者が把持する前記把持部の表面に第2の電極を配置し、
前記信号処理回路に設定される高電源電位又は低電源電位を、前記第1の電極および前記第2の電極で検知される電位の変化に同期して変動させることで、被聴診者および聴診者それぞれを介して前記生体音信号に重畳するノイズを低減することを特徴とする電子聴診器。
【請求項3】
請求項1又は2いずれか記載の電子聴診器において、
前記第1の電極は、導電性ゲルからなることを特徴とする電子聴診器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子聴診器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子聴診器は、集音部の内部に配置したマイクロフォン等のセンサ素子により生体音を生体音信号に変換し、信号処理回路により増幅やフィルタリング等の信号処理を行いイヤホーン等に出力する。センサ素子や信号処理回路を駆動する電源は、内蔵するバッテリーから供給される(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、生体内で発生する小さな音や振動を検出するため、電子聴診器に高感度のセンサ素子を搭載すると周囲環境のノイズも検知してしまう。例えば、室内の商用電源配線から放射されるノイズは、電気的にフローティングの被聴診者や聴診者が受信し、被聴診者や聴診者を介してセンサ素子で検知されてしまう。本発明は、被聴診者等を介してセンサ素子に検知される周囲環境のノイズの影響を低減することができる電子聴診器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、内蔵されたバッテリーから電源が供給され、集音部で集音した生体音をセンサ素子で生体音信号に変換し、該生体音信号を信号処理回路で信号処理する電子聴診器において、被聴診者に接触する前記集音部の表面に第1の電極を配置し、前記信号処理回路に設定される高電源電位又は低電源電位を、前記第1の電極で検知される電位の変化に同期して変動させることで、被聴診者を介して前記生体音信号に重畳するノイズを低減することを特徴とする。
【0006】
本願請求項2に係る発明は、請求項1記載の電子聴診器において、前記集音部は、把持部を備え、聴診者が把持する前記把持部の表面に第2の電極を配置し、前記信号処理回路に設定される高電源電位又は低電源電位を、前記第1の電極および前記第2の電極で検知される電位の変化に同期して変動させることで、被聴診者および聴診者それぞれを介して前記生体音信号に重畳するノイズを低減することを特徴とする。
【0007】
本願請求項3に係る発明は、請求項1又は2いずれか記載の電子聴診器において、前記第1の電極は、導電性ゲルからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電子聴診器は、聴診時に被聴診者の体表面と第1の電極が接触可能で、信号処理回路の所定の定電位となる信号配線に第1の電極で検知された信号を重畳する構成とすることで、被聴診者の電位と信号処理回路の定電位とを同電位にすることができる。その結果、被聴診者から得られる生体音信号に被聴診者を介するノイズが重畳したとしても、信号処理回路の所定の定電位もそのノイズとともに変動してノイズの影響を低減し、小さな生体音の検知が可能となる。
【0009】
さらに、聴診時に聴診者と第2の電極が接触可能で、信号処理回路の所定の定電位となる信号配線に第2の電極で検知された信号を重畳する構成とすることで、聴診者の電位と信号処理回路の定電位とを同電位にすることができる。その結果、被聴診者から得られる生体音信号に聴診者を介するノイズが重畳したとしても、信号処理回路の所定の定電位もそのノイズとともに変動してノイズの影響を低減し、さらに小さな生体音も検知することが可能となる。
【0010】
被聴診者に接触する第1の電極を導電性ゲルで形成すると、被聴診者の体表面に隙間なく接触でき、空気を介するノイズの影響も軽減することができ好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施例の電子聴診器の説明図である。
【
図2】本発明の第1の実施例の電子聴診器の一部断面図である。
【
図3】本発明の第2の実施例の電子聴診器の説明図である。
【
図4】本発明の第2の実施例の電子聴診器の一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の電子聴診器は、内蔵されたバッテリーから電源が供給され、集音部に配置されたマイクロフォン等のセンサ素子で生体音を生体音信号に変換し、さらにこの生体音信号を信号処理回路で増幅やフィルタリング等の信号処理を行い、イヤーチップ等へ出力する電子聴診器である。特に本発明の電子聴診器は、集音部に第1の電極を備え、あるいはさらに集音部の把持部に第2の電極を備える構成とすることで、被聴診者や聴診者を介するノイズが重畳された生体音信号の信号処理において、ノイズの影響を低減できる構成としている。以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は第1の実施例の電子聴診器の説明図で、主要な構成のブロック図である。本実施例の電子聴診器は、一般的な電子聴診器同様、被聴診者の体表面に接触して生体音を収集する集音部1と、集音部1の内部に生体音を生体音信号に変換するマイクロフォン等のセンサ素子2と、センサ素子2から出力された生体音信号が入力し、増幅やフィルタリング等の信号処理を行う信号処理回路3と、信号処理回路3やセンサ素子2に電源を供給するバッテリー4とを備えている。また特に本実施例の電子聴診器は、集音部1の被聴診者に接触する表面部分に第1の電極5を配置している。6は信号処理回路3から出力される信号処理された生体音信号の出力端子で、通常の電子聴診器同様、図示しないイヤホーン、スピーカー、イヤーチップ等と接続され、聴診者が生体音信号を聞くことができる構成となっている。
【0014】
バッテリー4から供給される電源電位は、信号処理回路3に印加され、そのままあるいは昇圧されて信号処理回路3を構成する所望の回路素子に供給される。バッテリー4を内蔵する電子聴診器では、信号処理回路3には低電源電位、高電源電位等の定電位が設定されることになる。
【0015】
図1に示す例ではバッテリー4は、負極を信号処理回路3の一方の端子に接続し、正極を信号処理回路3のもう一方の端子に接続している。信号処理回路3内では、バッテリー4の負極に接続する信号配線が低電源電位となり、バッテリー4の正極に接続する信号配線が高電源電位となる。第1の電極5はバッテリー4の負極に接続しているので、第1の電極5は低電源電位となる信号配線に接続する構成となる。
【0016】
聴診者が聴診を行う場合、電子聴診器を動作状態とすると、バッテリー4から信号処理回路3等に電源が供給される。この状態で集音部1を被聴診者の体表面に接触させると、センサ素子2が生体音を生体音信号に変換して、信号処理回路3へ出力する。聴診時は、第1の電極5も被聴診者の体表面に接触した状態となる。
【0017】
ここで被聴診者の周囲に不要な変動電界からなる環境ノイズ源が存在すると、そのノイズ源から放射されるノイズを被聴診者が受信してしまう。例えば、商用電源配線があると商用電源配線から放射されたノイズを被聴診者が受信してしまう。その結果、被聴診者を介するノイズが重畳した被聴診者の生体音をセンサ素子2が検知し、ノイズが重畳した生体音信号に変換してしまう。この生体音信号は信号処理回路3に入力して信号処理が行われる。
【0018】
一方導電性材料で構成された第1の電極5は、被聴診者が受信したノイズに起因する被聴診者の体表面の電位の変動を検知する。この第1の電極5は、
図1に示すようにバッテリー4の負極と、この負極に接続する信号処理回路3の低電源電位となる信号配線に接続している。バッテリー4を内蔵する構造の電子聴診器では、バッテリー4から供給される電位により所定の定電位が設定されるため、第1の電極5を低電源電位となる信号配線に接続すると、第1の電極5で検知された電位の変化に同期して信号処理回路3の低電源電位が変動する。
【0019】
このように低電源電位を変動させることで、被聴診者に起因するノイズの影響を低減しながら所望の信号処理が可能となる。
【0020】
信号処理回路3で所定の信号処理が行われた生体音信号は出力端子6に出力される。聴診者は、出力端子6に接続されたイヤホーン等から生体音信号を聞くことができる。
【0021】
図2は第1の電極5を導電性ゲルで形成した電子聴診器の説明図で、集音部1の断面図を示す。
図2に示す電子聴診器は、ベル型の集音部1を備えた電子聴診器であり、この集音部1の開口部の全周にわたり導電性ゲルからなる第1の電極5が形成されている。この第1の電極5は、集音部1の内部を経由して信号処理回路3に接続されている。
【0022】
このように第1の電極5を導電性ゲルで形成すると、集音部1を被聴診者の体表面に隙間なく接触させることができ、第1の電極5による被聴診者を介するノイズの低減とともに、被聴診者の周囲から空気を介して集音部1に入るノイズの影響も軽減することが可能となる。
【実施例2】
【0023】
次に第2の実施例について説明する。上述の第1の実施例では、被聴診者を介するノイズの影響を軽減することが可能な電子聴診器について説明したが、周囲環境から放射されるノイズは、被聴診者に限らず、聴診者も受信してしまう。本実施例の電子聴診器は、聴診者を介するノイズの影響を軽減できる電子聴診器となる。
図3は第2の実施例の電子聴診器の説明図で、主要な構成のブロック図である。上述の第1の実施例同様、被聴診者の体表面に接触して生体音を収集する集音部1と、集音部1の内部に生体音を生体音信号に変換するマイクロフォン等のセンサ素子2と、センサ素子2から出力された生体音信号を入力し、増幅やフィルタリング等の信号処理を行う信号処理回路3と、信号処理回路3やセンサ素子2に電源を供給するバッテリー4とを備えている。また本実施例の電子聴診器は、集音部1の被聴診者に接触する表面部分に第1の電極5を配置するとともに、集音部1を把持する聴診者に接触する表面部分に第2の電極7を配置している。6は信号処理回路3から出力される信号処理された生体音信号の出力端子で、図示しないイヤホーン、スピーカー、イヤーチップ等と接続され、聴診者が生体音信号を聞くことができる構成となっている。
【0024】
バッテリー4から供給される電源電位は、信号処理回路3に印加され、そのままあるいは昇圧されて信号処理回路3を構成する所望の回路素子に供給される。バッテリー4を内蔵する電子聴診器では、信号処理回路3には低電源電位、高電源電位等の定電位が設定されることになる。
【0025】
図3に示す例では、バッテリー4は、負極を信号処理回路3の一方の端子に接続し、正極を信号処理回路3のもう一方の端子に接続している。信号処理回路3内では、バッテリー4の負極に接続する信号配線が低電源電位となり、バッテリー4の正極に接続する信号配線が高電源電位となる。第1の電極5および第2の電極7はいずれもバッテリー4の負極に接続しているので、第1の電極5および第2の電極7は低電源電位となる信号配線に接続する構成となる。
【0026】
聴診者が聴診を行う場合、電子聴診器を動作状態とすると、バッテリー4から信号処理回路3等に電源が供給される。この状態で聴診者が聴診器の一部(把持部に相当)を持ち、集音部1を被聴診者の体表面に接触させると、センサ素子2が生体音を生体音信号に変換して、信号処理回路3へ出力する。聴診時は、第1の電極5が被聴診者の体表面に接触し、第2の電極7が聴診者に接触した状態となる。
【0027】
ここで被聴診者および聴診者の周囲に不要な変動電界からなる環境ノイズ源が存在すると、そのノイズ源から放射されるノイズを被聴診者および聴診者が受信してしまう。例えば、商用電源配線があると商用電源配線から放射されたノイズを被聴診者および聴診者が受信してしまう。その結果、被聴診者を介するノイズが重畳した被聴診者の生体音をセンサ素子2が検知してしまう。また聴診者が受信したノイズも、集音部1を介してセンサ素子2が検知してしまう。このようにセンサ素子2は、被聴診者および聴診者を介したノイズが重畳した生体音を検知し、ノイズが重畳した生体音信号に変換してしまう。この生体音信号は信号処理回路3に入力し信号処理が行われる。
【0028】
一方導電性材料で構成された第1の電極5は、被聴診者が受信したノイズに起因する被聴診者の体表面の電位の変動を検知する。また第2の電極7は、聴診者が受信したノイズに起因する聴診者の電位の変動を検知する。この第1の電極5および第2の電極7は、
図3に示すようにバッテリー4の負極と、この負極に接続する信号処理回路3の低電源電位となる信号配線に接続している。バッテリー4を内蔵する構造の電子聴診器では、バッテリー4から供給される電位により所定の定電位が設定されるため、第1の電極5および第2の電極7を低電源電位となる信号配線に接続すると、第1の電極5および第2の電極7で検知された電位の変化に同期して信号処理回路3の低電源電位が変動する。
【0029】
このように低電源電位を変動させることで、被聴診者および聴診者に起因するノイズの影響を低減しながら所望の信号処理が可能となる。
【0030】
信号処理回路3で所定の信号処理が行われた生体音信号は出力端子6に出力される。聴診者は、出力端子6に接続されたイヤホーン等から生体音を聞くことができる。
【0031】
図4は第1の電極5を導電性ゲルで形成し、第2の電極7を金属板で形成した電子聴診器の説明図で、集音部1の断面図を示す。
図4に示す電子聴診器は、ベル型の集音部1を備えた電子聴診器であり、この集音部1の開口部の全周にわたり導電性ゲルからなる第1の電極5が形成されている。この第1の電極5は、集音部1の内部を経由して信号処理回路3に接続されている。また聴診者が把持する集音部1の表面に金属板からなる第2の電極7が形成されている。第2の電極7も、図示しない配線により集音部1内部を経由して信号処理回路3に接続されている。
【0032】
このように第1の電極5を導電性ゲルで形成すると、集音部1を被聴診者の体表面に隙間なく接触させることができ、第1の電極5により被聴診者を介するノイズの低減とともに、被聴診者の周囲から空気を介して集音部1に入るノイズの影響も軽減することが可能となる。
【0033】
以上本発明の実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。例えば集音部1はベル型に限定されるメンブレン型であっても良い。その際、第1の電極5は生体音の検知に影響を与えない範囲でメンブレン上に配置すれば良く、平面状、メッシュ状、ストライプ状等種々変更可能である。メンブレン上に形成される第2の電極7を、電界シールドとして機能させることも可能である。
【0034】
第1の電極5と第2の電極7と接続する信号処理回路の定電位は、低電源電位に限らず、高電源電位や信号処理回路内で設定される基準電位等に変更可能である。
【0035】
第1の電極5および第2の電極7は、適宜所望の材料で構成することができ、第1の電極5および第2の電極7と信号処理回路3の定電位との接続方法も適宜変更可能である。この接続は、有線による接続に限らず、無線送信とすることも可能である。
【符号の説明】
【0036】
1:集音部、2:センサ素子、3:信号処理回路、4:バッテリー、5:第1の電極、6:出力端子、7:第2の電極