(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】焼成冷凍パン類用品質改良剤、焼成冷凍パン類の品質改良方法、および焼成冷凍パン類の製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 15/02 20060101AFI20240621BHJP
A21D 2/18 20060101ALI20240621BHJP
【FI】
A21D15/02
A21D2/18
(21)【出願番号】P 2020177149
(22)【出願日】2020-10-22
【審査請求日】2023-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】石部 栄美
(72)【発明者】
【氏名】西口 みゆ
(72)【発明者】
【氏名】池田 千紘
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/152099(WO,A1)
【文献】特開2017-143746(JP,A)
【文献】国際公開第2020/145371(WO,A1)
【文献】特開2019-198273(JP,A)
【文献】特開2008-136460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アラビアガム
およびタマリンドシードガ
ムからなる群から選択される1種以上の増粘多糖類と、(B)グルコシルトランスフェラーゼと、(C)穀粉発酵物と、を含有する
焼成冷凍パン類用品質改良剤であって、
小麦粉を主体とする穀粉原料100質量%に対して、前記(A)増粘多糖類0.1~2.0質量%、前記(B)グルコシルトランスフェラーゼ10~2,000単位、および前記(C)穀粉発酵物0.02~1質量%の配合量で用いられることを特徴とする焼成冷凍パン類用品質改良剤。
【請求項2】
前記(B)グルコシルトランスフェラーゼが、4-α-グルカノトランスフェラーゼである請求項1に記載の焼成冷凍パン類用品質改良剤。
【請求項3】
前記(C)穀粉発酵物が、小麦粉および/またはライ麦粉のパン酵母と乳酸菌の共発酵物である請求項1または2に記載の焼成冷凍パン類用品質改良剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の焼成冷凍パン類用品質改良剤を用いることを特徴とする焼成冷凍パン類の品質改良方法。
【請求項5】
請求項1~3のいずれかに記載の焼成冷凍パン類用品質改良剤を用いることを特徴とする焼成冷凍パン類の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成冷凍パン類用品質改良剤、焼成冷凍パン類の品質改良方法、および焼成冷凍パン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、美味なパン類を消費者に提供するために種々の方法が採用されている。例えば自家焼成により少量生産し短時間のうちに消費者に販売する方法、焼成前のパン生地を冷凍しておいて必要量だけ随時焼成して販売する方法、焼成したパンを冷凍して保存し販売時に解凍を行う方法等がある。これらの方法はいずれも一長一短があるが、なかでも工業的規模で実施できるものとしては焼成後のパンを冷凍し、これを解凍して販売する方法が挙げられる。
【0003】
しかしながら、焼成後に冷凍するパン類(以下、「焼成冷凍パン類」と称することがある。)においては、冷凍保存中での気泡の体積減少によるクラムの縮みによる体積の低下、クラムの縮みとクラスト周辺の水分減少によるクラスト周辺の硬化とに起因する「皮剥がれ」(クラストとクラムの境界に空隙が生じること)やクラストのシワ、冷凍保存中の水分減少と澱粉の老化に起因するパサつきや硬化による食感の悪化、冷凍保存中の風味の減少、といった課題があった。
【0004】
従来、上記の問題を解消するために、例えば焼成時間を短縮することで、パン中の水分を多く残し、冷凍中のパンの収縮を抑制するために比容積を小さく焼成する等の対応がとられてきた。ところが、こうしたパン類は、パンボリュームが小さい、比容積が小さいために硬くなりやすく食感が劣る、焼成が不十分なために特にソフトなパンでは解凍後に腰折れや潰れが生じやすくなる等の欠点があった。また、焼成冷凍パン類用にオペレーションを組み替える必要も生じる。
【0005】
これまでに、焼成冷凍パン類の品質改良に関する製造技術については、いくつかの技術が提案されている。
例えば、適当量の水分を保持した状態で冷凍保存することができて、クラスト状態を良好に保持するとともに剥離の発生を回避し良好な官能状態を保持して長時間冷凍保存し得る焼成食品の冷凍保存方法として、焼成パン等の焼成食品を加湿雰囲気内で冷凍保存する際に、20~28℃、65%以上の高湿度状態で芯温度を30~35℃に冷却処理した後、冷凍保存する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、前記提案では、高湿状態を維持するための専用の設備が必要となり、また、冷凍処理に時間がかかるという問題がある。
【0006】
また、焼成後のパンの品質(食味、食感、風味等)を向上し、保存による品質劣化を抑制する技術として、α-1,4結合をα-1,6結合へと変換する糖転移活性を有する酵素(トランスグルコシダーゼ)を用いる技術(例えば、特許文献2参照)、パンその他穀物粉膨化食品の凝集性(くちゃつきなど)を改善する技術として、ブランチングエンザイム(EC 2.4.1.18、6-α-グルカノトランスフェラーゼ)を用いる技術(例えば、特許文献3参照)、焼成後冷凍パン類において、冷凍前の品質を維持するために、保存・流通時の外観の品質を保ちつつ、再加熱後の喫食時における食感の低下を防止する技術として、α化澱粉と、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ガム質から選ばれる一種以上の増粘剤とを用いる技術(例えば、特許文献4参照)などが提案されている。
【0007】
しかしながら、従来の製パン方法を変更することなく焼成冷凍パン類を調製し、得られた焼成冷凍パン類において解凍後に十分なボリュームを維持し、冷凍保管中に生じるクラストのシワや皮剥がれ、パンのパサつきや硬化、風味の減少を抑制できる技術は未だ提供されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2005/107480号
【文献】国際公開第2005/096839号
【文献】国際公開第2015/152099号
【文献】特開2019-198273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような要望に応え、現状を打破し、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、パン類用生地の製造時に添加・配合するだけで、焼成後冷凍保存中のパン類の体積低下やパン類中の水分量の低下、澱粉の老化を抑制し、冷凍保存によるパンのパサつき、硬化等を抑制でき、また、冷凍保存中に生じるクラストのシワや皮剥がれ、冷凍保存中の風味の減少を抑制することができ、更に、十分に水分を保持していても解凍後のパン類の腰折れや潰れを防止できる、焼成冷凍パン類用品質改良剤、焼成冷凍パン類の品質改良方法、および焼成冷凍パン類の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、パン類用生地の製造時に特定の増粘多糖類と、グルコシルトランスフェラーゼと、穀粉発酵物とを添加・配合することにより、前記課題を解決できることを知見した。
【0011】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> (A)アラビアガム、タマリンドシードガム、グアーガム、キサンタンガム、およびカラギーナンからなる群から選択される1種以上の増粘多糖類と、(B)グルコシルトランスフェラーゼと、(C)穀粉発酵物と、を含有することを特徴とする焼成冷凍パン類用品質改良剤である。
<2> 小麦粉を主体とする穀粉原料100質量%に対して、前記(A)増粘多糖類0.1~2.0質量%、前記(B)グルコシルトランスフェラーゼ10~2,000単位、および前記(C)穀粉発酵物0.02~1質量%の配合量で用いられる前記<1>に記載の品質改良剤である。
<3> 前記(A)増粘多糖類が、アラビアガムおよび/またはタマリンドシードガムである前記<1>または<2>に記載の品質改良剤である。
<4> 前記(B)グルコシルトランスフェラーゼが、4-α-グルカノトランスフェラーゼである前記<1>~<3>のいずれかに記載の品質改良剤である。
<5> 前記(C)穀粉発酵物が、小麦粉および/またはライ麦粉のパン酵母と乳酸菌の共発酵物である前記<1>~<4>のいずれかに記載の品質改良剤である。
<6> 前記<1>~<5>のいずれかに記載の焼成冷凍パン類用品質改良剤を用いることを特徴とする焼成冷凍パン類の品質改良方法である。
<7> 前記<1>~<5>のいずれかに記載の焼成冷凍パン類用品質改良剤を用いることを特徴とする焼成冷凍パン類の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決することができ、パン類用生地の製造時に添加・配合するだけで、焼成後冷凍保存中のパン類の体積低下やパン類中の水分量の低下、澱粉の老化を抑制し、冷凍保存によるパンのパサつき、硬化等を抑制でき、また、冷凍保存中に生じるクラストのシワや皮剥がれ、冷凍保存中の風味の減少を抑制することができ、更に、十分に水分を保持していても解凍後のパン類の腰折れや潰れを防止できる、焼成冷凍パン類用品質改良剤、焼成冷凍パン類の品質改良方法、および焼成冷凍パン類の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(焼成冷凍パン類用品質改良剤)
本発明の焼成冷凍パン類用品質改良剤(以下、「品質改良剤」と称することがある)は、(A)アラビアガム、タマリンドシードガム、グアーガム、キサンタンガム、およびカラギーナンからなる群から選択される1種以上の増粘多糖類と、(B)グルコシルトランスフェラーゼと、(C)穀粉発酵物とを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の成分を含む。
【0014】
<(A)増粘多糖類>
前記(A)増粘多糖類は、焼成冷凍パン類の水分保持に効果的である。
前記(A)増粘多糖類は、食品用途に使用できるもの(グレード)であれば、特に制限はなく、適宜選択することができ、アラビアガム、タマリンドシードガム、グアーガム、キサンタンガム、およびカラギーナンからなる群から選択される1種以上の増粘多糖類である。前記(A)増粘多糖類の中でも、パン類中の水分の保持力が優れている点で、アラビアガムおよび/またはタマリンドシードガムが好ましい。前記(A)増粘多糖類は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記(A)増粘多糖類は市販されており、市販品を適宜使用することができる。
【0015】
前記(A)増粘多糖類の前記品質改良剤における含有量としては、特に制限はなく、焼成冷凍パン類中における含有量(以下、「配合量」と称することがある。)などに応じて適宜選択することができる。
前記(A)増粘多糖類の焼成冷凍パン類中における配合量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、小麦粉を主体とする穀粉原料100質量%に対して、0.1~2.0質量%が好ましく、0.3~2.0質量%がより好ましい。前記配合量が0.1質量%未満であると、配合効果がほとんど得られないことがあり、2.0質量%を超えると、パン類が硬化することがある。
【0016】
<(B)グルコシルトランスフェラーゼ>
前記(B)グルコシルトランスフェラーゼは、澱粉に作用し、澱粉を高分岐構造に変化させることによる澱粉の老化抑制に効果的である。
前記(B)グルコシルトランスフェラーゼは、食品用途に使用できるもの(グレード)であれば、特に制限はなく、適宜選択することができるが、冷凍保管後のパン類の食感維持効果が優れている点で、4-α-グルカノトランスフェラーゼ(EC2.4.1.25;1,4-α-グルカンの一部分を他の部分に転移させる)が好ましい。前記(B)グルコシルトランスフェラーゼは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記(B)グルコシルトランスフェラーゼは市販されており、市販品を適宜使用することができる。前記市販品としては、例えば、グライコトランスフェラーゼ「アマノ」L(天野エンザイム製)、デナチームBBR LIGHT(ナガセケムテックス製)などが挙げられる。
【0017】
前記(B)グルコシルトランスフェラーゼの前記品質改良剤における含有量としては、特に制限はなく、焼成冷凍パン類中における含有量や酵素活性などに応じて適宜選択することができる。
前記(B)グルコシルトランスフェラーゼの焼成冷凍パン類中における配合量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、小麦粉を主体とする穀粉原料100質量%に対して、10~2,000単位(以下、「U」と称することがある。)が好ましく、20~1,000単位がより好ましい。前記配合量が10単位未満であると、配合効果がほとんど得られないことがあり、2,000単位を超えると、パンが柔らかくなりすぎることがある。
【0018】
本発明において、前記グルコシルトランスフェラーゼの活性単位の定義は、以下の条件下、1分間に反応液2.5mL中に1μmolのグルコースを生成する酵素量を1Uとする。
-条件-
1%マルトテトラオースを含む10mmol/L MES緩衝液(pH6.5)2mLに酵素溶液0.5mLを添加して、40℃で60分間放置する。放置後、沸騰水浴中で5分間加熱した後、流水中で冷却し、生成したグルコースを定量する。
【0019】
<(C)穀粉発酵物>
前記(C)穀粉発酵物(「発酵種」と称することもある。)は、焼成冷凍パン類の風味の向上に効果的である。
前記(C)穀粉発酵物としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、小麦粉および/またはライ麦粉のパン酵母と乳酸菌の共発酵物の粉末や、従来、製パンに用いられている発酵種の粉末を用いることができる。前記発酵種としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、各種サワー種(小麦サワー種、ライサワー種)、ルヴァン種、ホップス種、パネトーネ種、酒種などが挙げられる。前記(C)穀粉発酵物の中でも、冷凍保管中も香りが継続する点で、小麦粉および/またはライ麦粉のパン酵母と乳酸菌の共発酵物が好ましい。前記(C)穀粉発酵物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記パン酵母としては、Saccharomyces cerevisiaeが挙げられ、前記乳酸菌としては、Lactobacillus brevis、Lactobacillus plantarum、Lactobacillus sanfranciscensisなどが挙げられる。
前記(C)穀粉発酵物は市販されているものを使用してもよいし、常法に従って製造したものを使用してもよい。
【0020】
前記(C)穀粉発酵物の前記品質改良剤における含有量としては、特に制限はなく、焼成冷凍パン類中における含有量などに応じて適宜選択することができる。
前記(C)穀粉発酵物の焼成冷凍パン類中における配合量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、小麦粉を主体とする穀粉原料100質量%に対して、0.02~1質量%が好ましく、0.05~0.5質量%がより好ましい。前記配合量が0.02質量%未満であると、配合効果がほとんど得られないことがあり、1質量%を超えると、十分なパン体積が得られなくなることがある。なお、本明細書において、前記(C)穀粉発酵物の量は、乾物換算した値である。
【0021】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、食塩、澱粉などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記その他の成分の前記品質改良剤における含有量としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0022】
<品質改良剤の配合量>
前記品質改良剤の焼成冷凍パン類中における配合量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、小麦粉を主体とする穀粉原料100質量%に対する添加量が、0.1~5質量%が好ましく、0.2~2質量%がより好ましい。前記配合量が0.1質量%未満であると、配合効果がほとんど得られないことがあり、5質量%を超えると、パンが硬くなることがある。
なお、本明細書において、品質改良剤および各成分の配合量は、ベーカーズパーセント(小麦粉を主体とする穀粉原料の量を100質量%とした場合の量、「対粉%」と称することがある。)で表したものである。
【0023】
前記品質改良剤は、前記(A)アラビアガム、タマリンドシードガム、グアーガム、キサンタンガム、およびカラギーナンからなる群から選択される1種以上の増粘多糖類と、前記(B)グルコシルトランスフェラーゼと、前記(C)穀粉発酵物と、必要に応じて前記その他の成分とを同一の包材に含むものであってもよいし、前記各成分を別々の包材に入れ、使用時に混合するものであってもよい。
また、前記品質改良剤は、他のパン品質改良剤と共に使用することもできる。
【0024】
<焼成冷凍パン類>
前記焼成冷凍パン類は、焼成したパン類を冷凍したものである。前記焼成冷凍パン類は、販売時や喫食時に解凍される。
前記焼成冷凍パン類の種類としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、食パン、ロールパン、菓子パン、惣菜パン、クロワッサン、デニッシュ、ブリオッシュ、フランスパン、ドイツパン(カイザーゼンメル、ライ麦パン等)、フォカッチャ、パネトーネなどが挙げられる。
【0025】
前記焼成冷凍パン類用品質改良剤によれば、パン類用生地の製造時に添加・配合するだけで、焼成後冷凍保存中のパン類の体積低下やパン類中の水分量の低下、澱粉の老化が抑制され、冷凍保存によるパンのパサつき、硬化等が抑制され、また、冷凍保存中に生じるクラストのシワや皮剥がれ、冷凍保存中の風味の減少が抑制され、更に、十分に水分を保持していても解凍後の腰折れや潰れが防止された焼成冷凍パン類を製造することができる。
【0026】
(焼成冷凍パン類の製造方法)
本発明の焼成冷凍パン類の製造方法は、本発明の品質改良剤を用いる限り、特に制限はなく、公知の製パン方法を適宜選択することができる。製パン方法の種類としては、例えば、中種製法、ストレート製法、湯種製法などが挙げられる。前記中種製法の場合の前記品質改良剤の使用時期としては、中種工程時であってもよいし、本捏工程時であってもよいし、両工程で使用してもよい。
製パン方法の具体例としては、小麦粉を主体とする穀粉原料を主原料とし、これに水分、イースト、乳、卵、油脂、塩、糖類などの他の原料、および本発明の品質改良剤を添加して混捏し、発酵、成型、焼成する方法などが挙げられる。前記焼成したパン類を冷凍することで、焼成冷凍パン類を製造することができる。
前記焼成したパン類を冷凍する際の条件としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。
また、前記冷凍したパン類を解凍する際の条件としても、特に制限はなく、適宜選択することができる。
【0027】
<小麦粉を主体とする穀粉原料>
前記小麦粉を主体とする穀粉原料とは、小麦粉を含む穀粉、澱粉類およびその加工澱粉をいう。前記小麦粉を主体とする穀粉原料は、小麦粉を単独で使用してもよいし、小麦粉と他の穀粉や澱粉類などを併用してもよい。
【0028】
前記穀粉としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、小麦粉、ライ麦粉、そば粉、米粉、大麦粉、大豆粉、コーンフラワーなどが挙げられる。前記穀粉は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
前記澱粉類としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ、甘藷澱粉などが挙げられる。前記澱粉類は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
前記加工澱粉としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、熱処理澱粉、α化澱粉、酸処理澱粉、架橋澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉などが挙げられる。前記加工澱粉は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
<品質改良剤の配合量>
前記品質改良剤および前記品質改良剤に含まれる各成分の配合量は、上記した本発明の(焼成冷凍パン類用品質改良剤)の項目に記載したものと同様である。
【0032】
前記焼成冷凍パン類の製造方法によれば、前記品質改良剤をパン類用生地の製造時に添加・配合するだけで、焼成後冷凍保存中のパン類の体積低下やパン類中の水分量の低下、澱粉の老化が抑制され、冷凍保存によるパンのパサつき、硬化等が抑制され、また、冷凍保存中に生じるクラストのシワや皮剥がれ、冷凍保存中の風味の減少が抑制され、更に、十分に水分を保持していても解凍後の腰折れや潰れが防止された焼成冷凍パン類を製造することができる。
【0033】
(焼成冷凍パン類の品質改良方法)
本発明の焼成冷凍パン類の品質改良方法は、本発明の品質改良剤を用いる限り、特に制限はなく、公知の製パン方法を適宜選択することができる。
前記公知の製パン方法は、上記した本発明の(焼成冷凍パン類の製造方法)の項目に記載したものと同様である。また、前記品質改良剤の使用方法および配合量も、上記した本発明の(焼成冷凍パン類の製造方法)の項目に記載したものと同様である。
前記焼成冷凍パン類の品質改良方法によれば、前記品質改良剤をパン類用生地の製造時に添加・配合するだけで、焼成後冷凍保存中のパン類の体積低下やパン類中の水分量の低下、澱粉の老化を抑制し、冷凍保存によるパンのパサつき、硬化等を抑制でき、また、冷凍保存中に生じるクラストのシワや皮剥がれ、冷凍保存中の風味の減少を抑制することができ、更に、十分に水分を保持していても解凍後のパン類の腰折れや潰れを防止できる。
【実施例】
【0034】
以下、試験例を示して本発明を説明するが、本発明は、これらの試験例に何ら限定されるものではない。
【0035】
(試験例1:ロールパン)
<品質改良剤>
小麦粉を主体とする穀粉原料に対する各原料の配合割合(「対粉%」)が表1~4に記載の量となるようにして、実施例1~9および比較例1~6の品質改良剤を製造した。原料には下記を用いた。
-増粘多糖類-
・ タマリンドシードガム ・・・ グリエイト(DSP五協フード&ケミカル製)
・ アラビアガム ・・・ アラビアガムJ(伊那食品工業製)
-グルコシルトランスフェラーゼ-
・ 4-α-グルカノトランスフェラーゼ ・・・ グライコトランスフェラーゼ「アマノ」L(3,000U/mL、天野エンザイム製)
-穀粉発酵物-
・ 小麦粉およびライ麦粉のパン酵母と乳酸菌の共発酵物
【0036】
<ロールパンの製造>
表1~4に記載の実施例1~9および比較例1~6の品質改良剤を用い、以下の配合および工程でロールパンを製造した。
<<配合>>
・ 強力粉(日清製粉製) ・・・ 100.0質量部
・ 生イースト(オリエンタル酵母工業製) ・・・ 3.0質量部
・ イーストフード(オリエンタル酵母工業製) ・・・ 0.3質量部
・ 品質改良剤 ・・・ 表1~4に記載の量
・ 食塩 ・・・ 1.7質量部
・ 砂糖 ・・・ 9.0質量部
・ 脱脂粉乳 ・・・ 2.0質量部
・ 全卵 ・・・ 10.0質量部
・ 油脂(植物性ショートニング) ・・・ 10.0質量部
・ 水 ・・・ 58.0質量部
【0037】
<<工程>>
・ ミキシング時間 ・・・ 低速2分間中速4分間高速1分間(油脂添加)中速3分間高速2分間
・ 捏上温度 ・・・ 27℃
・ フロア時間 ・・・ 60分間
・ 分割重量 ・・・ 45g
・ ベンチ時間 ・・・ 17分間
・ 成型 ・・・ ロール成型
・ ホイロ時間 ・・・ 35℃、相対湿度85%、60分間
・ 焼成条件 ・・・ 200℃、10分間
・ 凍結、冷凍条件 ・・・ -30℃で45分間凍結後、-20℃で6か月間保管
・ 解凍条件 ・・・ 20℃、相対湿度70%、60分間
【0038】
<評価>
-評価(1):パンの体積-
上記工程における焼成後冷凍前のパンおよび解凍後のパンの体積をレーザー体積計(AR-01、アステックス社製)により測定した。解凍後のパンの体積(V)と、焼成後冷凍前のパンの体積(W)との比(V/W)を算出し、以下の評価基準で評価した。結果を表1~4に示した。
[評価基準]
3点 : V/Wが、0.93以上である。
2点 : V/Wが、0.90以上0.93未満である。
1点 : V/Wが、0.90未満である。
【0039】
-評価(2):パンのクラスト周辺の水分量-
上記工程における焼成後冷凍前のパンおよび解凍後のパンを半分にスライスし、クラスト周辺のクラムを1g程度サンプリングして、水分量を測定した。解凍後のパンのクラスト周辺の水分量(X)と、焼成後冷凍前のパンのクラスト周辺の水分量(Y)との比(X/Y)を算出し、以下の評価基準で評価した。結果を表1~4に示した。
[評価基準]
3点 : X/Yが、0.9以上である。
2点 : X/Yが、0.8以上0.9未満である。
1点 : X/Yが、0.8未満である。
【0040】
-評価(3):パンのクラムおよびクラストの状態、官能評価-
解凍後のパン断面について、下記の評価基準に従い、クラストとクラムの状態を評価した。また、下記の評価基準に従い、解凍後のパンの風味および食感を評価した。結果を表1~4に示した。なお、風味および食感の評価は10名の評価者により行い、最も多かった評価を表に記載した。
[評価基準]
・ クラムの状態
3点 : 気泡の形が保たれており、クラムの収縮はみられない。
2点 : 気泡の形がややつぶれており、ややクラムの収縮がみられる。
1点 : 気泡の形がつぶれており、クラムが収縮している。
・ クラストの状態
3点 : 硬化しておらず、シワ、皮剥がれがない。
2点 : 若干硬化しており、シワ、皮剥がれが若干みられる。
1点 : 硬化しており、シワ、皮剥がれが顕著にみられる。
・ 風味
3点 : パンの風味を感じる。
2点 : パンの風味を若干感じる。
1点 : パンの風味を感じない。
・ 食感
3点 : パサつきがなく、ソフトである。
2点 : 若干パサつきと硬さがある。
1点 : パサつきがあり、硬い。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
(試験例2:各種パン類)
小麦粉を主体とする穀粉原料に対する各原料の配合割合(「対粉%」)が表5に記載の量となるようにして、試験例2-1および2-2の品質改良剤を製造した。なお、原料は試験例1と同じ物を使用した。
製造した品質改良剤を用い、以下の配合、工程で製造した菓子パン(試験例2-1)および食パン(試験例2-2)での効果を確認した。評価は、試験例1と同様にして行い、結果を表5に示した。
【0046】
<試験例2-1:菓子パンの製造>
<<配合>>
・ 強力粉(日清製粉製) ・・・ 100.0質量部
・ 生イースト(オリエンタル酵母工業製) ・・・ 3.0質量部
・ イーストフード(オリエンタル酵母工業製) ・・・ 0.1質量部
・ 品質改良剤 ・・・ 表5に記載の量
・ 食塩 ・・・ 0.8質量部
・ 砂糖 ・・・ 20.0質量部
・ 脱脂粉乳 ・・・ 3.0質量部
・ 油脂(マーガリン) ・・・ 10.0質量部
・ 全卵 ・・・ 10.0質量部
・ 水 ・・・ 60.0質量部
【0047】
<<工程>>
・ ミキシング時間 ・・・ 低速2分間中速4分間高速1分間(油脂添加)中速3分間高速2分間
・ 捏上温度 ・・・ 27℃
・ 発酵条件 ・・・ 1時間、28℃
・ 分割重量 ・・・ 50g
・ ベンチ時間 ・・・ 17分間
・ 成型方法 ・・・ パーカー成型(包餡クリーム40g)
・ ホイロ条件 ・・・ 35℃、相対湿度85%、50分間
・ 焼成条件 ・・・ 200℃、10分間
・ 凍結、冷凍条件 ・・・ -30℃で45分間凍結後、-20℃で6か月間保管
・ 解凍条件 ・・・ 20℃、相対湿度70%、60分間
【0048】
<試験例2-2:食パンの製造>
<<配合>>
中種 本捏
・ 強力粉(日清製粉製) 70.0質量部 30.0質量部
・ 生イースト 2.0質量部 -
(オリエンタル酵母工業製)
・ イーストフード 0.1質量部 -
(オリエンタル酵母工業製)
・ 品質改良剤 - 表5に記載の量
・ 食塩 - 2.0質量部
・ 砂糖 - 6.0質量部
・ 脱脂粉乳 - 2.0質量部
・ 油脂(ショートニング) - 5.0質量部
・ 水 40.0質量部 31.0質量部
【0049】
<<工程>>
中種 本捏
・ ミキシング 低速2分間中速2分間 低速2分間中速4分間高速1分間
(油脂添加)中速3分間高速2分間
・ 捏上温度 24℃ 27℃
・ 発酵条件 4時間、28℃ 15分間、28℃
・ 分割重量 - 220g
・ ベンチ時間 - 17分間
・ 成型方法 - U字詰め
・ ホイロ条件 - 35℃、相対湿度85%、40分間
・ 焼成条件 - 200℃、40分間
・ 凍結、冷凍条件 ・・・ 常温で冷却後スライスをし、-30℃で45分間凍結後、-20℃で6か月間保管
・ 解凍条件 ・・・ 20℃、相対湿度70%、60分間
【0050】
【0051】
上記試験例の結果から、本発明によれば、焼成時間を従来通りにしてパンの比容積を十分出した場合でも、冷凍保存中のパン類の体積低下や水分量低下、澱粉の老化を抑制できるので、冷凍保存によるパンのパサつき、硬化等を抑制でき、また、冷凍保存中に生じるクラストのシワや皮剥がれ、冷凍保存中の風味の減少を抑制することができ、更に、十分に水分を保持していても解凍後のパン類の腰折れや潰れを防止できることが確認された。