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  • 特許-ホモファルネシル酸の酵素的環化 図1A
  • 特許-ホモファルネシル酸の酵素的環化 図1B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】ホモファルネシル酸の酵素的環化
(51)【国際特許分類】
   C12P 17/04 20060101AFI20240621BHJP
   C12N 15/61 20060101ALN20240621BHJP
   C12N 9/90 20060101ALN20240621BHJP
   C12N 15/70 20060101ALN20240621BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20240621BHJP
【FI】
C12P17/04
C12N15/61 ZNA
C12N9/90
C12N15/70 Z
C12N1/21
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021195857
(22)【出願日】2021-12-02
(62)【分割の表示】P 2018543595の分割
【原出願日】2017-02-20
(65)【公開番号】P2022033873
(43)【公開日】2022-03-02
【審査請求日】2021-12-24
(31)【優先権主張番号】16156410.9
(32)【優先日】2016-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブルーアー,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】シーゲル,ウォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】ルーデナウアー,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ペルツァー,ラルフ
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-528578(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0237991(US,A1)
【文献】ChemBioChem,2013年,Vol. 14 ,pp. 436-439,Supporting Information
【文献】squalene-hopene cyclase [Zymomonas mobilis],2016年02月07日,GenBank Accession No.WP_011241313,[online](retrieved on 2021 Mar 17) retrieved from the Internet <URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/499560530?sat=46&satkey=100387665>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体異性的に純粋な形態での、又は立体異性体の混合物としての一般式II
【化1】
(式中、R1、R2、R3及びR4は、互いに独立して、H又はC1~C4アルキルを表する)
の化合物の生物触媒製造のための方法であって、
一般式I
【化2】
(式中、R1、R2、R3及びR4は上述の意味を有する)
の多価不飽和カルボン酸を、多価不飽和カルボン酸を環化することができる、スクアレン-ホペンシクラーゼ(SHC)の酵素活性を持つタンパク質(EC5.4.99.17)と接触させ、
前記SHCが、大腸菌のトランスジェニックなSHC過剰発現細菌LU15568から生産される、方法。
【請求項2】
前記タンパク質が、ホモファルネシル酸を環化することができる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式Ia
【化3】
のホモファルネシル酸が、出発物質として立体異性的に純粋な形態で、存在するホモファルネシル酸異性体の総量に基づいて、少なくとも70モル%、或いは少なくとも75、80又は85モル%、或いは90、95又は99モル%の(3E,7E)-ホモファルネシル酸の割合で使用される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
式IIa
【化4】
のスクラレオリドが、立体異性的に純粋な形態で、又は立体異性体の混合物として得られる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記SHCが、
a)配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むタンパク質、
b)配列番号2によるアミノ酸配列に対して、少なくとも90%の配列同一性を有するポリペプチドを含む、a)に由来したタンパク質の欠失、挿入、置換、付加、逆位、又は組合せによるタンパク質、及び
c)a)又はb)と機能的に同等であり、ホモファルネシル酸のスクラレオリドへの環化を触媒し、且つ配列番号3から326から選択されるタンパク質
から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
生物触媒による変換が、
a)4~5.8、或いは4.5~5.5の範囲内の反応媒体のpH値で行われ、以下のさらなる条件:
b)少なくとも15mM、或いは15~30mMの基質濃度、
c)少なくとも5mg/mlの酵素濃度、
d)32~40℃、或いは35~38℃の範囲内の反応温度、
e)1~20mMのMgCl2を含むクエン酸ナトリウム緩衝液中、及び/又は
f)10~100mMの緩衝液濃度
のうちの少なくとも1つの下で行われる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
SHCの活性が:
a)遊離の、部分的又は完全に精製された天然又は組換え的に生成されたシクラーゼ、
b)固定化された形態のa)によるシクラーゼ、
c)少なくとも1つのシクラーゼを含む完全な細胞、
d)c)による細胞の細胞溶解物又は細胞ホモジネートから選択される形態で存在する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
変換が、1相の水性系又は2相の水-有機系又は固体-液体系で行われる、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
変換が、37℃の範囲内の温度及び5~5.2の範囲内のpH値で行われる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
3a,6,6,9a-テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1-b]フラン(アンブロキシド)の製造方法であって、
a)ホモファルネシル酸を、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法によってスクラレオリドに変換し、
b)工程a)の生成物をアンブロキシドールに化学的に還元し、
c)工程b)からのアンブロキシドールを化学的にアンブロキシドに環化する、方法。
【請求項11】
アンブロキシドが、(-)-アンブロキシド((3aR,5aS,9aS,9bR)-3a,6,6,9a-テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1-b]フラン[CAS 6790-58-5])である、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ不飽和カルボン酸化合物、特にホモファルネシル酸及び関連化合物の生物触媒的環化によるスクラレオリド及び関連化合物の製造方法に関し、ホモファルネシル酸のスクラレオリドへの生物触媒的環化によるアンブロキシドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドデカヒドロナフト[2,1-b]フラン骨格を有する化合物は、香料化学物質として高い経済的関心が持たれている。本件では、化合物(-)-2、すなわちアンブロキサンの左旋性立体異性体として公知の(3aR,5aS,9aS,9bR)-3a,6,6,9a-テトラメチルドデカヒドロナフト-[2,1-b]-フランについて述べるものとする。
【0003】
アンブロキサンは元々マッコウクジラの竜涎香から得られるもので、現在、主に2つの経路で製造することができる。クラリーセージ(サルビア・スクラレア、Salvia sclarea)の成分であるスクラレオール(3)は、化合物((-)-2)の光学情報を既に含んでいるため、半合成材料の適切な出発原料として頻繁に使用される。ここで、酸化分解は、クロム酸、過マンガン酸塩、H2O2又はオゾンを用いて行うことができる[Stollら; Helv Chim Acta (1950), 33: 1251]。次に、得られたスクラレオリド(4)を(例えば、LiAlH4又はNaBH4を用いて)アンブロクス-1,4-ジオール(5)に変換する[Mookherjeeら; Perfumer and Flavourist (1990), 15: 27]。スクラレオール(3)からの化合物(4)の製造は、ハイフォザイマ・ロセオニジャー(Hyphozyma roseoniger) [EP 204009]による生体内変換によっても達成させることができる。
【0004】
【化1】
【0005】
最終的に、アンブロクス-1,4-ジオール(5)を一連の化学プロセスで環化させて化合物((-)-2)を得ることができる。とりわけホモファルネシル酸[US 513,270; Luciusら; Chem Ber(1960), 93: 2663]及び4-(2,6,6-トリメチルシクロヘキセ-1-エニル)ブタン-2-オン[Buchiら; Helv Chim Acta(1989), 72: 996]を介したアンブロキサン(rac-2)のラセミ体の製造が研究されている。
【0006】
2002年、アンブロキサンの市場規模は平均して年間20トンであった。これには、年間約33トンのスクラレオールの出発基質が必要である。1トンのアンブロキサンの生産には、207トンの様々な個々の物質が必要であり、その結果、206トンの廃棄物が発生する。蓄積する物質は、健康と環境に対して、異なるが全体的に比較的強力な効果を有する[ドイツ連邦環境財団(German Federal Foundation Environment)]。したがって、この合成は、多量のエネルギーを消費し、汚染化学物質の使用が必要とされる。
【0007】
化合物((-)-2)の生物触媒合成は、文献[Neumannら; Biol Chem Hoppe Seyler (1986), 367:723]に記載されている。ここで、分子はホモファルネソール(化合物(1a)、(3Z,7E)-4,8,12-トリメチルトリデカ-3,7,11-トリエン-1-オール)から得られる。使用した触媒は、アリシクロバチルス・アシドカルダリウス(Alicyclobacillus acidocaldarius)(旧バチルス・アシドカルダリウス、Bacillus acidocaldarius)の酵素スクアレン-ホペンシクラーゼ(SHC)であった。ホモファルネソールのアンブロキサンへの環化を触媒するためのさらなる酵素は、特許明細書(例えばWO2012/066059)及び文献[Neumannら; loc. cit.]に記載されている。
【0008】
Seitz, M.らは、ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)からのスクアレン-ホペンシクラーゼ(Zm SHCI)を用いたホモファルネシル酸からのスクラレオリドの酵素的製造方法をChemBioChem 2013, 14, 436~439に記載している。しかしながら、そこで得られる生成物の収率はおよそ7.7~22.9%に過ぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】EP 204009
【文献】US 513,270
【文献】WO2012/066059
【非特許文献】
【0010】
【文献】Stollら; Helv Chim Acta (1950), 33: 1251
【文献】Mookherjeeら; Perfumer and Flavourist (1990), 15: 27
【文献】Luciusら; Chem Ber(1960), 93: 2663
【文献】Buchiら; Helv Chim Acta(1989), 72: 996
【文献】Neumannら; Biol Chem Hoppe Seyler (1986), 367:723
【文献】Seitz, M.ら;ChemBioChem 2013, 14, 436~439
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、アンブロキシド前駆体、特にスクラレオリド及び関連化合物の改善された製造方法を提供することであった。これは従来の化学的な方法よりも技術的に簡単で経済的な様式で行うことができる(例えば、必要な反応ステップ数の減少、及び/又はより便利な出発原料)。さらなる目的は、容易に入手可能な出発原料を使用することによって、及び化学反応(又は工程)の数を減らすことによって、生じるコストをさらに低減することであった。特に、スクラレオリドの製造のための改善された生物触媒プロセスが提供されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は、以下により詳細に説明されるように、ホモファルネシル酸誘導体、特に一般式のホモファルネシル酸(引用元)を生物触媒的に環化することを特徴とする、一般式(4)のアンブロキシド前駆体、好ましくはスクラレオリドの製造方法を提供することにより達成された。
【0013】
【化2】
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】本発明に従って調製されたホモファルネシル酸環化生成物のガスクロマトグラフィー(GC)スペクトル(A)を、市販のスクラレオリド調製物のGC(B)と比較して示す図である。
図1B】本発明に従って調製されたホモファルネシル酸環化生成物のガスクロマトグラフィー(GC)スペクトル(A)を、市販のスクラレオリド調製物のGC(B)と比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
A.一般的な定義
「ホモファルネシル酸」(化合物(1b))は、「(3E,7E)-4,8,12-トリメチルトリデカ-3,7,11-トリエン酸」と等価である。
【0016】
「スクラレオリド」(化合物(4))は、「(3aR,5aS,9aS,9bR)-3a,6,6,9a-テトラメチル-1,4,5,5a,7,8,9,9b-オクタヒドロベンゾ[e]ベンゾフラン-2-オン」と等価である。
【0017】
左旋性スクラレオリド(又は化合物(-)-4)は、以下の式を有する:
【化3】
【0018】
「アンブロックス(Ambrox)」、「アンブロキサン(Ambroxan)」及び「アムロキシド(Amroxide)」は、本明細書において同義語として使用される。それらは、特に(+)-アンブロックス、3a-エピ-(-)アンブロックス、9b-エピ-(-)アンブロックス、特に(-)アンブロックスのような全ての立体異性体を含む。
【0019】
本発明の目的のために、「シクラーゼ」は、一般に、ホモファルネシル酸シクラーゼの活性を特に示す酵素又は酵素変異体である。ホモファルネシル酸シクラーゼの活性を有する好適な酵素は、イソメラーゼのサブクラスからの分子間トランスフェラーゼ、すなわち、EC番号EC5.4を有するタンパク質である(Eur. J. Biochem. 1999, 264, 610~650による酵素コード)。それらは、特に、EC5.4.99.17の表示である。ホモファルネシル酸シクラーゼの活性を有する適切な酵素は、特に、ホモファルネシル酸のスクラレオリドへの環化及び/又はスクアレンからホペンへの環化も引き起こすシクラーゼ(したがって時には「SHC」、スクアレン-ホペンシクラーゼという名称でもある)であり、これは本明細書に明示的に引用される国際出願PCT/EP2010/057696に詳細に記載されている。その突然変異体は、例えば、本明細書に明示的に引用されるWO2012/066059号に記載されている。
【0020】
酵素反応の可逆性のために、本発明は、両方の反応方向における、本明細書に記載の酵素反応に関する。
【0021】
「シクラーゼ」の「機能的突然変異体」は、本明細書において以下に定義されるそのような酵素の「機能的等価物」を含む。
【0022】
「生物触媒プロセス」という用語は、本発明に係る「シクラーゼ」の触媒活性又は「シクラーゼ活性」を有する酵素の存在下で行われる任意のプロセス、すなわち粗製の、若しくは精製された、溶解された、分散されたか若しくは固定化された酵素の存在下でのプロセス、又はそのような酵素活性を有するか又は発現するインタクトな微生物細胞の存在下でのプロセスに関する。したがって、生物触媒プロセスは、酵素及び微生物プロセスを含む。
【0023】
用語「立体異性体」は、立体配座異性体、特に鏡像異性体及びジアステレオ異性体のような立体配置異性体を含む。
【0024】
本発明によれば、また、本明細書に記載の化合物の全ての立体異性体、例えば構造異性体、特に立体異性体及び混合立体異性体、例えば光学異性体又は幾何異性体、例えばE異性体及びZ異性体、及びこれらの組合せが、一般に、包含される。複数の不斉中心が分子内に存在する場合、本発明は、例えば鏡像異性体の対のようなこれらの不斉中心の異なる立体配座の全ての組合せを含む。
【0025】
「立体特異的」という用語は、本発明に従って製造された少なくとも1つの不斉中心を有する化合物のいくつかの可能な立体異性体のうちの1つが、本発明に係る酵素の活性の結果として、例えば少なくとも90%ee、特に少なくとも95%ee、又は少なくとも98%ee、又は少なくとも99%eeなどの、高い「鏡像異性体過剰」又は「鏡像異性体純度」で生産される。ee%値は、次の式:
ee%=[XA-XB]/[XA+XB]*100,
を使用して計算され、式中XA及びXBはそれぞれ鏡像異性体A及びBのモル分率である。
【0026】
「標準条件下での参照基質」上で決定された「シクラーゼ活性」は、例えば、非環状基質からの環状生成物の形成を記載する酵素活性である。標準条件の例は、10mM~0.2M、特に15~100mM、例えばおよそ20~25mMの基質濃度、pH4~8、例えば15~30又は20~25℃の温度である。ここで、この決定は、組換えシクラーゼ発現細胞、破壊されたシクラーゼ発現細胞、その画分、又は富化した若しくは精製したシクラーゼ酵素を用いて行うことができる。参照基質は、特に、式(Ia)のホモファルネシル酸であり、標準条件は、特に、実施例においてもより詳細に記載されているように、およそ20~25mMの式(Ia)のホモファルネシル酸、20~25℃及びpH4~6、例えば4.5である。
【0027】
本発明に係る反応の「収率」及び/又は「変換率」は、例えば、4、6、8、10、12、16、20、24、36又は48時間の規定された期間にわたって決定され、その間ホモファルネシル酸は本発明に係るシクラーゼによってスクラレオリドに変換される。特に、変換は、例えば、25、30、40、50又は60℃の厳密に規定された条件下で行われる。特に、本発明に係るシクラーゼを用いて30℃で16時間にわたってホモファルネシル酸をスクラレオリドに変換する反応を行うことにより、収率及び/又は変換を決定する。
【0028】
収率及び/又は変換率を決定するために、特に10mMホモファルネシル酸溶液をシクラーゼ溶液と反応させるが、この酵素は、(例えば、[Ochs Dら; J. Bacteriol, (1992), 174: 298]に記載されるように単離された)膜タンパク質抽出物シクラーゼ発現細胞として0.08重量%のタンパク質含量濃度で存在する。
【0029】
本発明に係るシクラーゼはまた、ホモファルネシル酸が同じ条件下でスクラレオリドに変換されるとき、それがアリシクロバチルス・アシドカルダリウス(旧バチルス・アシドカルダリウス)からのスクアレン-ホペンシクラーゼ(SHC)と比較して、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、200、500、1000倍若しくはそれ以上の収率及び/又は変換率を示すことにも特徴付けられ得る。ここで、「条件」という用語は、基質濃度、酵素濃度、反応時間及び/又は温度などの反応条件を指す。
【0030】
「カルボン酸」という用語は、遊離酸及びその塩形態、例えば、そのアルカリ又はアルカリ土類金属塩の両方を含む。これは、例えば、ホモファルネシル酸のような、本明細書で述べられる全てのカルボン酸と同様に適用される。
【0031】
「およそ」という用語は、規定値の±25%、特には±15%、±10%、好ましくは±5%、±2又は±1%の起こり得る変動を示す。
【0032】
「本質的に」という用語は、85~99.9%、特に90~99.9%、好ましくは95~99.9%又は98~99.9%、特に99~99.9%などの、およそ80%から100%を含む値の範囲に及ぶ。
【0033】
他に示されない限り、本明細書において、以下の一般的な化学物質の定義が適用される:
「アルキル」は、1~6個、特に1~4個の、炭素原子を有する飽和直鎖又は分枝鎖、特に直鎖炭化水素基を表し、例えば、C1~C4アルキルの代表例として、例えば、メチル、エチル、プロピル、1-メチルエチル、ブチル、1-メチルプロピル、2-メチルプロピル及び1,1-ジメチルエチル、並びにペンチル、1-メチルブチル、2-メチルブチル、3-メチルブチル、2,2-ジメチルプロピル、1-エチルプロピル、ヘキシル、1,1-ジメチルプロピル、1,2-ジメチルプロピル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、4-メチルペンチル、1,1-ジメチルブチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、2,3-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、1-エチルブチル、2-エチルブチル、1,1,2-トリメチルプロピル、1,2,2-トリメチルプロピル、1-エチル-1-メチルプロピル及び1-エチル-2-メチルプロピル、特にメチル、エチル、n-プロピル及びn-ブチルがある。
【0034】
B.本発明の特定の実施形態
本発明は、特に以下の特定の実施形態に関する:
【0035】
1. 立体異性的に純粋な形態での、又は立体異性体の混合物としての一般式II
【化4】
(式中、R1、R2、R3及びR4は、互いに独立して、H又はC1~C4アルキル、特にメチル又はエチル、好ましくはメチルを表する)
の化合物の生物触媒製造のための方法であって、
前記化合物を、多価不飽和カルボン酸、特にホモファルネシル酸を環化することができるタンパク質、特にシクラーゼ活性を有するタンパク質と接触させる、方法。
【0036】
2. 式Iの化合物を、スクアレン-ホペンシクラーゼ(SHC)の酵素活性を持つタンパク質と接触させる、実施形態1による方法。
【0037】
3. 使用される基質が、特には本質的に立体異性的に純粋な形態の一般式I
【化5】
(式中、R1、R2、R3及びR4は上述の意味を有する)
の多価不飽和カルボン酸である、実施形態1又は2による方法。
【0038】
4. 式Ia
【化6】
のホモファルネシル酸が、出発物質として、特に本質的に立体異性的に純粋な形態で、好ましくは、存在するホモファルネシル酸異性体の総量に基づいて、少なくとも70モル%、特に好ましくは少なくとも75、80又は85モル%、最も好ましくは90、95又は99又は99.9モル%の(3E、7E)-ホモファルネシル酸の割合で使用される、上記の実施形態による方法。
【0039】
5. 式IIa
【化7】
のスクラレオリドが、立体異性的に純粋な形態で、又は立体異性体の混合物として得られる、実施形態4による方法。
【0040】
6. 前記SHCが、
a)配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むタンパク質、
b)配列番号2によるアミノ酸配列に対して、少なくとも45%、50%、55%、60%、65%、70%、特に少なくとも75%又は80%、好ましくは少なくとも85%、例えば少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98又は99%の配列同一性を有するポリペプチドを含む、a)に由来したタンパク質の欠失、挿入、置換、付加、逆位、又は組合せによるタンパク質、及び
c)a)又はb)と機能的に同等であり、ホモファルネシル酸のスクラレオリドへの環化を触媒するタンパク質
から選択される、上記の実施形態のいずれか1つによる方法。
【0041】
7. 機能的に等価なタンパク質が、以下から選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む、実施形態6による方法:
a)配列番号3~326及び
b)欠失、挿入、置換、付加、逆位又は組合せによりそれから誘導され、少なくとも60%、65%、70%、特に少なくとも75%又は80%、好ましくは少なくとも85%、例えば少なくとも90、91、92、93、94、95、96、97、98又は99%の同一性の程度を有するアミノ酸配列。
【0042】
8. 酵素シクラーゼ活性、特にSHCの活性が、以下から選択される形態で存在する、上記の実施形態のいずれか1つによる方法:
a)遊離の、場合により部分的又は完全に精製された天然又は組換え的に生成されたシクラーゼ、
b)固定化された形態のa)によるシクラーゼ、
c)少なくとも1つのシクラーゼを含むインタクトな細胞、
d)c)による細胞の細胞溶解物又は細胞ホモジネート。
【0043】
9. 変換が、1相の水性系又は2相の水-有機系又は固体-液体系で行われる、上記の実施形態のいずれかによる方法。
【0044】
10. 変換が、0~60℃、特に10~50℃、好ましくは20~40℃の温度及び/又は4~8の範囲、特に5~7の範囲のpH値で行われる、上記の実施形態のいずれかによる方法。
【0045】
11. SHCが、メチロコッカス・カプサラツス(Methylococcus capsalatus)、ロドシュードモナス・パルストリス(Rhodopseudomonas palustris)、ブラジリゾビウム・ジャポニカム(Bradyrhizobium japonicum)、フランキア属(Frankia)の種、ストレプトマイセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)、特にザイモモナス・モビリスから選択される微生物から単離される、上記の実施形態のいずれかによる方法。
【0046】
12. SHCが、エシェリキア属、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、ラルストニア属(Ralstonia)、クロストリジウム属(Clostridium)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バチルス属(Bacillus)、ザイモモナス属(Zymomonas)、ロドバクター属(Rhodobacter)、ストレプトマイセス属(Streptomyces)、バークホルデリア属(Burkholderia)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)及びラクトコッカス属(Lactococcus)の細菌の中から選択されるSHCを過剰発現する微生物から単離される、上記の実施形態のいずれかによる方法。
【0047】
13. SHCは、大腸菌(Escherichia coli)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、バークホルデリア・グルマエ(Burkholderia glumae)、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)、ストレプトマイセス・セリカラー及びザイモモナス・モビリスの種のトランスジェニックなSHC過剰発現細菌から単離される、上記の実施形態のいずれかによる方法。
【0048】
14. 変換が、回分モード、流加回分モード又は連続モードで行われる、上記の実施形態のいずれかによる方法。
【0049】
15. 生物触媒による変換が、以下の条件:
a)およそ4~5.9又は5.8又は4.5~5.8、特に4.5~5.5又は5~5.5の反応媒体のpH値、
b)少なくとも15mM、例えば100mMまで、特に50mMまで、特に15~30mM、とりわけ15~25mMの基質濃度、
c)少なくとも5mg/ml、特に5~100、好ましくは10~50又は15~40又は15~30mg/mlの酵素濃度、
d)32~40℃、特に35~38℃の反応温度、
e)特に1~20mM又は5~10mMのMgCl2を含む、クエン酸緩衝液内、特にクエン酸ナトリウム緩衝液中、
f)およそ10~100、特に20~50mMの緩衝液濃度
の少なくとも1つの下で行われる、上記の実施形態のいずれかによる方法。
【0050】
本発明に係る方法は、好ましくは上記条件a)~b)又はa)~c)又はa)~d)又はa)~e)又はa)~f)を同時に実現して行う。ここでは、個別の範囲の個々の好ましさの度合いとは独立して、パラメータ範囲の任意の組合せが本開示の一部である。
【0051】
16. 3a,6,6,9a-テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1-b]フラン(アンブロキシド)の製造方法であって、
a)ホモファルネシル酸を、請求項1~13のいずれかによる方法によってスクラレオリドに変換する工程、
b)工程a)の生成物が、公知の方法でそれ自体がアンブロキシドールに化学的に還元される工程、及び
c)工程b)からのアンブロキシドールが、公知の方法でそれ自体が化学的にアンブロキシドに環化される工程
である、方法。
【0052】
17. アンブロキシドが、(-)-アンブロキシド((3aR,5aS,9aS,9bR)-3a,6,6,9a-テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1-b]フラン[CAS 6790-58-5])である、実施形態16による方法。
【0053】
C.発明のさらなる実施形態
1. 特に好適なシクラーゼ配列
本発明における有用なシクラーゼは、SHCであり、その対応する野生型配列の配列番号、供給源生物及びGenbank参照番号を以下の表にまとめた。
【0054】
【表1】
【0055】
配列番号2は、本明細書においてZm-SHC-1とも呼ばれるシクラーゼのアミノ酸配列である。
【0056】
2. 本発明に係るさらなるタンパク質/酵素変異体
本発明は、本明細書に具体的に開示されるシクラーゼ活性を有するタンパク質に限定されず、むしろその機能的等価物にも及ぶ。
【0057】
具体的に開示された酵素、特に配列番号2~6の「機能的等価物」又は類似体は、本発明の範囲内であり、それらとは異なるが、所望の生物学的活性、例えば、特に、シクラーゼ活性をなお保持するポリペプチドである。
【0058】
したがって、例えば、「機能的等価物」は、本発明の意味における(すなわち、標準条件下での参照基質を用いた)「シクラーゼ活性」についての使用された試験において、本明細書において具体的に定義されるアミノ酸配列(特に配列番号2~6)を含む酵素の少なくとも1%、特に少なくともおよそ5~10%、例えば少なくとも10%又は少なくとも20%、例えば少なくとも50%又は75%又は90%、より高いか又はより低い活性を有する酵素及び突然変異体を意味すると理解される。
【0059】
本明細書中において、機能的等価物についての活性データは、他に特定しない限り、本明細書で定義される標準条件下で参照基質により行われる活性測定のことを言う。
【0060】
本発明の意味における「シクラーゼ活性」は、様々な公知の試験を用いて検出することができる。これに限定されるものではないが、例えば本明細書の上に記載し、実験部分で説明した標準条件下で、ホモファルネシル酸のような参照基質を用いる試験を挙げるべきである。
【0061】
さらに、機能的等価物は、例えばpH4~11の間で安定であり、pH5~10、特には6.5~9.5又は7~8の範囲又はおよそ7.5などの最適pHが有用であり、及び最適温度は、15℃~80℃又は20℃~70℃の範囲、例えばおよそ30~60℃又は約35~45℃、例えば40℃である。
【0062】
本発明によれば、「機能的等価物」は、特に、配列番号2~326、特に配列番号2~6に由来し、上述のアミノ酸配列の少なくとも1つの配列位置において、具体的に挙げたアミノ酸以外であるが、なお上述の生物学的活性の1つを有するアミノ酸を示す「突然変異体」を意味するとも理解される。
【0063】
「機能的等価物」は、アミノ酸の付加、置換、欠失及び/又は逆位などの1つ以上の、例えば1から50、2から30、2から15、4から12又は5から10の突然変異によって得られる突然変異体を含む。ここで、本発明による特性プロファイルを有する突然変異体が導かれる限り、上述の修飾は、任意の配列位置で起きてもよい。機能的等価性は、特に、変異ポリペプチドと非修飾ポリペプチドとの間の反応性パターンが品質に関して一致する場合、すなわち、例えば、同一基質が異なる速度で変換される場合にも存在する。
【0064】
適切なアミノ酸置換の非限定的な例を以下の表にまとめた:
【0065】
【表2】
【0066】
上記の意味における「機能的等価物」はまた、記載されるポリペプチドの「前駆体」であり、ポリペプチドの「機能的誘導体」及び「塩」でもある。
【0067】
ここでの「前駆体」は、所望の生物学的活性を有するか又は有さないポリペプチドの天然又は合成前駆体である。
【0068】
「塩」という用語は、カルボキシル基の塩だけでなく、本発明に係るタンパク質分子のアミノ基の酸付加塩も意味すると理解される。カルボキシル基の塩はそれ自体公知の方法で調製することができ、無機塩、例えばナトリウム、カルシウム、アンモニウム、鉄及び亜鉛塩、並びに有機塩基、例えばトリエタノールアミンのようなアミン、アルギニン、リシン、ピペリジンなどとの塩が含まれる。酸付加塩、例えば、塩酸又は硫酸などの鉱酸との塩、並びに酢酸及びシュウ酸などの有機酸との塩も同様に本発明の対象である。
【0069】
同様に、本発明に係るポリペプチドの「機能的誘導体」は、公知の技術を用いて、機能性のアミノ酸側鎖又はそのN又はC末端で調製することができる。そのような誘導体は、例えば、カルボン酸基の脂肪族エステル、アンモニア又は第一級若しくは第二級アミンとの反応によって得ることができるカルボン酸基のアミド、アシル基との反応によって調製された遊離アミノ基のN-アシル誘導体、又はアシル基との反応によって調製される遊離ヒドロキシル基のO-アシル誘導体を含む。
【0070】
もちろん「機能的等価物」は、他の生物及び天然に存在する変異体から得ることができるポリペプチドもまた含む。配列比較により、例えば、相同配列領域のエリアを確立することができ、本発明の特定の情報に基づいて相当する酵素を決定することができる。
【0071】
「機能的等価物」は、例えば所望の生物学的機能を有する本発明に係るポリペプチドの断片、好ましくは個々のドメイン又は配列モチーフを同様に含む。
【0072】
「機能的等価物」はさらに、上述のポリペプチド配列又はそれから誘導される機能的等価物の1つ、及び官能性N末端又はC末端結合における機能的に異なる異種配列(すなわち、融合タンパク質部分の相互的な実質的機能障害)のさらなる少なくとも1つを有する融合タンパク質である。この種の異種配列の非限定的な例は、例えば、シグナルペプチド、ヒスチジンアンカー又は酵素である。
【0073】
本発明に含まれる「機能的等価物」は、具体的に開示されたタンパク質に対するホモログである。これらは、具体的に開示されたアミノ酸配列の1つに対して、例えば、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%のような、少なくとも60%、好ましくは少なくとも75%、特に少なくとも85%のPearson及びLipman、Proc. Natl. Acad, Sci.(USA)85(8)、1988、2444~2448のアルゴリズムによって計算された相同性(同一性)を有する。百分率で表現された、本発明による相同ポリペプチドの相同性又は同一性は、本明細書に具体的に記載されるアミノ酸配列の1つの全長に基づいたアミノ酸残基の百分率で表現された同一性を特に意味する。
【0074】
百分率として表現される同一性データはまた、BLASTアライメント、アルゴリズムblastp(タンパク質-タンパク質BLAST)の助けを借りて、又は以下の明細書に明記されるClustal設定を適用することによって決定され得る。
【0075】
タンパク質グリコシル化が可能である場合、本発明に係る「機能的等価物」は、脱グリコシル化又はグリコシル化形態の上述のタイプのタンパク質、及びグリコシル化パターンを改変することによって利用可能な修飾形態を含む。
【0076】
本発明に係るタンパク質又はポリペプチドのホモログは、突然変異誘発、例えば、タンパク質の点突然変異、伸長又は切断によって生成され得る。
【0077】
本発明に係るタンパク質のホモログは、例えば切断型突然変異体のような変異体のコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって同定することができる。例えば、タンパク質変異体の多彩なライブラリーは、核酸レベルでのコンビナトリアル突然変異誘発によって、例えば、合成オリゴヌクレオチドの混合物を酵素的にライゲートすることによって生成することができる。縮重オリゴヌクレオチド配列から生じる得るホモログのライブラリーを生成するために使用することができる多くの方法が存在する。縮重遺伝子配列の化学合成は、自動DNA合成装置内で行ってもよく、その後、合成遺伝子を適切な発現ベクターにライゲートすることができる。遺伝子の縮重セットの使用により、生じる得るタンパク質配列の所望のセットをコードする全ての配列を混合物中に提供することが可能となる。縮重オリゴヌクレオチドを合成するためのプロセスは、当業者に公知である(例えば、Narang, S.A.(1983)Tetrahedron 39:3; Itakuraら(1984)Annu. Rev. Biochem. 53:323; Itakuraら、(1984)Science 198:1056; Ikeら(1983)Nucleic Acids Res. 11:477)。
【0078】
点突然変異又は切断によって生成されたコンビナトリアルライブラリーの遺伝子産物をスクリーニングするための、又は選択された特性を有する遺伝子産物についてcDNAライブラリーをスクリーニングするための複数の技術が、当該技術分野で公知である。これらの技術は、本発明に係るホモログのコンビナトリアル突然変異誘発によって生成された遺伝子ライブラリーの迅速スクリーニングに適合させることができる。ハイスループット分析の基礎として、大型遺伝子ライブラリーをスクリーニングするために最も頻繁に使用される技術は、遺伝子ライブラリーを複製可能な発現ベクターにクローニングし、得られたベクターライブラリーを用いて適切な細胞を形質転換し、そして所望の活性の検出によりその産物が検出された遺伝子をコードするベクターの単離が容易となるような条件下で、コンビナトリアル遺伝子を発現させることを含む。ライブラリー中の機能的突然変異体の頻度を増加させる技術である再帰的アンサンブル突然変異誘発(Recursive Ensemble Mutagenesis、REM)は、ホモログを同定するためのスクリーニング試験と組み合わせて用いることができる(Arkin及びYourvan(1992)PNAS 89:7811~7815;Delgraveら(1993)Protein Engineering 6(3):327~331)。
【0079】
3. 核酸及び構築物
3.1 核酸
上記のようにシクラーゼ活性を有する酵素をコードする核酸もまた本発明の対象である。
【0080】
本発明はまた、本明細書に記載の特定の配列とある程度の同一性を有する核酸に関する。
【0081】
2つの核酸間の「同一性」は、各々の場合における核酸の全長にわたるヌクレオチドの同一性、特に、以下のパラメータを設定し、Clustal法(Higgins DG、Sharp PM、マイクロコンピュータ上の高速かつ高感度の複数配列アライメント、Comput Appl. Biosci. 1989 Apr; 5(2):151~1)を用いたInformax(USA)からのVector NTI Suite 7.1ソフトウェアの支援による比較によって計算される同一性を意味すると理解される。
複数のアライメントパラメータ:
ギャップオープニングペナルティ 10
ギャップ延長ペナルティ 10
ギャップ分離ペナルティ範囲 8
ギャップ分離ペナルティ オフ
アライメント遅延の%同一性 40
残基特異的ギャップ オフ
親水性残基ギャップ オフ
遷移加重 0
ペアワイズアライメントパラメータ:
FASTアルゴリズム オン
K-tupleサイズ 1
ギャップペナルティ 3
ウィンドウサイズ 5
最良対角線の数 5
【0082】
或いは、同一性は、ウェブサイト:http://www.ebi.ac.uk/Tools/clustalw/index.html#に従って、Chenna、Ramu、Sugawara、Hideaki、Koike、Tadashi、Lopez、Rodrigo、Gibson、Toby J、Higgins、Desmond G、Thompson、Julie D. Clustal系列のプログラムを用いた複数配列アラインメント(Multiple sequence alignment with the Clustal series of programs)。(2003) Nucleic Acids Res 31 (13):3497~500の方法に従い、下記のパラメータを用いて決定してもよい。
DNAギャップオープンペナルティ 15.0
DNAギャップ延長ペナルティ 6.66
DNAマトリックス アイデンティティ
プロテインギャップオープンペナルティ 10.0
タンパク質ギャップ延長ペナルティ 0.2
タンパク質マトリックス Gonnet
タンパク質/DNA ENDGAP -1
タンパク質/DNA GAPDIST 4
【0083】
本明細書で言及される全ての核酸配列(例えばcDNA及びmRNAのような一本鎖及び二本鎖DNA並びにRNA配列)は、例えば、二重らせんの個々の重複した相補的な核酸基本単位のフラグメント縮合のような、ヌクレオチド基本単位の化学的な合成により、それ自体公知の方法で調製される。オリゴヌクレオチドの化学的な合成は、例えばホスホアミダイト法(Voet、Voet、2nd ed.、Wiley Press New York、896~897)によってそれ自体公知の方法で達成することができる。合成オリゴヌクレオチドの添加及びDNAポリメラーゼのクレノウ断片の支援によるギャップの充填及びライゲーション反応並びに一般的なクローニング法は、Sambrookら(1989)、Molecular Cloning:A laboratory manual、Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載されている。
【0084】
本発明の対象はまた、上記ポリペプチドの1つ及びそれらの機能的等価物をコードする核酸配列(例えばcDNA及びmRNAのような一本鎖及び二本鎖のDNA並びにRNA配列)であり、これは、例えば、人工ヌクレオチド類似体を使用して入手可能である。
【0085】
本発明は、本発明に係るポリペプチド又はタンパク質又はその生物学的活性セグメントをコードする単離された核酸分子、及び例えばハイブリダイゼーションプローブとして又は本発明に係るコード化核酸を同定若しくは増幅するためのプライマーとして使用され得る核酸フラグメントの両方に関する。
【0086】
本発明に係る核酸分子は、コード遺伝子領域の3'末端及び/又は5'末端に、非翻訳配列をさらに含み得る。
【0087】
本発明はさらに、具体的に記載されたヌクレオチド配列又はそのセグメントに相補的である核酸分子を含む。
【0088】
本発明に係るヌクレオチド配列により、他のタイプの細胞及び生物における相同配列を同定及び/又はクローニングするために使用され得るプローブ及びプライマーを生成することが可能となる。このようなプローブ又はプライマーは、通常、「ストリンジェントな」条件(下記参照)下で、本発明に係る核酸配列のセンス鎖又は対応するアンチセンス鎖の少なくともおよそ12個、好ましくは少なくともおよそ25個、例えばおよそ40、50又は75個の連続するヌクレオチドにハイブリダイズするヌクレオチド配列領域を含む。
【0089】
「単離された」核酸分子は、核酸の天然供給源に存在する他の核酸分子から分離され、さらに、組換え技術によって調製された場合には、他の細胞材料又は培養媒体を本質的に含まなくてもよいし、化学合成された場合には、化学前駆体又は他の化学物質を本質的に含まなくてもよい。
【0090】
本発明に係る核酸分子は、分子生物学の標準的な技術及び本発明により提供される配列情報を用いて単離することができる。例えば、cDNAは、ハイブリダイゼーションプローブ及び標準ハイブリダイゼーション技術として、具体的に開示された完全配列又はそのセグメントの1つを使用することにより、適切なcDNAライブラリーから単離することができる(例えば、Sambrook, J.、Fritsch, E.F.及びManiatis, T.、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、2nd ed.、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、1989に記載されるように)。さらに、開示された配列の1つ又はそのセグメントを含む核酸分子は、使用されるこの配列に基づいて生成されたオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応によって単離することができる。こうして増幅された核酸は、適切なベクターにクローニングされ、DNA配列分析によって特徴付けられ得る。本発明に係るオリゴヌクレオチドは、さらに、例えば自動DNA合成機を用いて、標準的な合成方法によって製造することができる。
【0091】
本発明に係る核酸配列又はその誘導体、これらの配列のホモログ又は部分は、例えばゲノムライブラリー又はcDNAライブラリーなどの通常のハイブリダイゼーション法又はPCR技術を用いて他の細菌から単離することができる。これらのDNA配列は、標準条件下で本発明に係る配列にハイブリダイズする。
【0092】
「ハイブリダイズする」とは、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドが標準条件下でほぼ相補的な配列に結合する能力を意味すると理解されるが、これらの条件下では非相補的パートナー間の非特異的結合は起こらない。この目的のために、配列は90~100%相補的であり得る。互いに特異的に結合することができる相補的配列の特性は、例えば、ノーザンブロット若しくはサザンブロット技術又はPCR若しくはRT-PCRにおけるプライマー結合において活用される。
【0093】
ハイブリダイゼーションのためには、保存領域の短いオリゴヌクレオチドが有利に使用される。しかしながら、本発明に係る核酸のより長い断片又は完全な配列もまたハイブリダイゼーションのために使用され得る。これらの標準条件は、核酸(オリゴヌクレオチド、より長い断片又は完全な配列)に依存して変化するし、又はハイブリダイゼーションにどのタイプの核酸、DNA若しくはRNAが使用されているかに依存して変化する。したがって、例えば、DNA:DNAハイブリッドの融解温度は、同じ長さのDNA:RNAハイブリッドの融解温度よりも約10℃低い。
【0094】
核酸に依存して、標準条件は、例えば0.1~5×SSC(1×SSC = 0.15M NaCl、15mM クエン酸ナトリウム、pH7.2)の間の濃度を有する水性緩衝液中で42~58℃の間の温度、又は、加えて、例えば5×SSC、50%ホルムアミド中42℃のような50%ホルムアミドの存在下を意味すると理解される。有利には、DNA:DNAハイブリッドのハイブリダイゼーション条件は、0.1×SSC及びおよそ20℃~45℃、好ましくはおよそ30℃~45℃の間の温度である。DNA:RNAハイブリッドにおいては、ハイブリダイゼーション条件は、有利には0.1×SSC及びおよそ30℃~55℃、好ましくはおよそ45℃~55℃の間の温度である。ハイブリダイゼーションのこれらに述べた温度は、およそ100ヌクレオチドの長さ及びホルムアミドの非存在下で50%のG+C含量を有する核酸の計算融点値の例である。DNAハイブリダイゼーションの実験条件は、例えばSambrookら、「Molecular Cloning」、Cold Spring Harbor Laboratory、1989などの関連する遺伝学の教科書に記載されており、当業者公知の式を用いて、例えば、核酸の長さ、ハイブリッドのタイプ又はG+C含量の関数として、計算することができる。ハイブリダイゼーションについてのさらなる情報は、以下の教科書から当業者によって得ることができる:Ausubelら(eds)、1985、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、New York; Hames及びHiggins (eds)、1985、Nucleic Acids Hybridization: A Practical Approach, IRL Press at Oxford University Press、Oxford; Brown (ed)、1991、Essential Molecular Biology: A Practical Approach、IRL Press at Oxford University Press、Oxford。
【0095】
「ハイブリダイゼーション」は、特にストリンジェントな条件下で行うことができる。このようなハイブリダイゼーション条件は、例えば、Sambrook, J.、Fritsch, E.F.、Maniatis, T.、Molecular Cloning(A Laboratory Manual)第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989、9.31~9.57又はCurrent Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、N.Y. (1989)、6.3.1~6.3.6に記載されている。
【0096】
「ストリンジェントな」ハイブリダイゼーション条件は、特に、50%ホルムアミド、5×SSC(750mM NaCl、75mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%デキストラン硫酸及び20μg/mlの変性した剪断サケ精子DNAからなる溶液中で42℃にて一晩インキュベーションし、続いて65℃で0.1×SSCでフィルターを洗浄する工程を意味するものとして解釈される。
【0097】
本発明の対象はまた、具体的に開示又は誘導される核酸配列の誘導体である。
【0098】
したがって、例えば、本発明に係るさらなるシクラーゼ-突然変異体をコードする核酸配列は、例えば配列番号1又は配列番号2~326、特に配列番号2~6のコード配列に由来してもよく、F486突然変異又はF486類似突然変異によるものであってもよく、個々又はいくつかのヌクレオチドの付加、置換、挿入又は欠失によって異なるが、所望の特性プロファイルを有するポリペプチドをコードし続けるものであってよい。
【0099】
また、本発明によれば、核酸配列として、いわゆるサイレント突然変異を含むか、又は特定の供給源若しくは宿主生物のコドン使用に従って具体的に述べた配列を参照して修飾され、例えば、それらのスプライス変異体又は対立遺伝子変異体のような天然に存在する変異体であるようなものもまた含む。
【0100】
対象は同様に、保存的ヌクレオチド置換によって得られる配列である(すなわち、問題のアミノ酸は同じ電荷、サイズ、極性及び/又は溶解度を有するアミノ酸で置換される)。
【0101】
本発明の対象はまた、配列多型によって具体的に開示された核酸に由来する分子でもある。これらの遺伝的多型は、天然の変異のために集団内の個体間に存在し得る。これらの天然の変異は、通常、遺伝子のヌクレオチド配列において1~5%の変動をもたらす。
【0102】
配列番号1の配列又は配列番号2~326、特に配列番号2~6のコード配列の1つに由来する本発明に係るシクラーゼをコードする核酸配列の誘導体は、例えば、配列領域全体にわたって、誘導されたアミノ酸レベルで少なくとも60%の相同性、好ましくは少なくとも80%の相同性、特に好ましくは少なくとも90%の相同性を有する対立遺伝子変異体を意味するものと理解される(アミノ酸レベルでの相同性については、ポリペプチドに関連して上記に言及したものを参照することができる)。好都合には、相同性は、配列の部分領域よりも高くなり得る。
【0103】
さらに、誘導体は、本発明に係る核酸配列のホモログ、例えば、菌類又は細菌ホモログ、切断された配列、コード及び非コードDNA配列の一本鎖DNA又はRNAを意味するものと理解される。
【0104】
さらに、誘導体は、例えばプロモーターとの融合物を意味するものと理解される。特定のヌクレオチド配列の上流に配置されたプロモーターは、プロモーターの機能/活性に悪影響を及ぼすことなく、少なくとも1つのヌクレオチド置換、少なくとも1つの挿入、逆位及び/又は欠失により変化したものでもよい。さらに、プロモーターの効力は、その配列を改変することによって増強され得るか、又はプロモーターは、より効果的なプロモーターのために、異なる種由来の生物からも完全に交換され得る。
【0105】
3.2 機能的突然変異体の生成
さらに、当業者は、本発明に係る酵素の機能的突然変異体を生成するためのプロセスに精通している。
【0106】
用いられる技術に依存して、当業者は、完全にランダムな又はより標的化された突然変異を遺伝子又は(例えば、発現調節に重要なものである)非コード核酸部位に導入し、続いて遺伝子ライブラリーを構築することができる。この目的のために必要とされる分子生物学の方法は、当業者公知であり、例えばSambrook and Russell、Molecular Cloning第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001に記載されている。
【0107】
遺伝子を改変し、それによりそれらによってコードされるタンパク質を改変する方法は、長い間当業者公知であり、例えば、
- 遺伝子の個々の又は複数のヌクレオチドが標的化された様式で置換される、部位特異的突然変異誘発(Trower MK(Ed.)1996; In vitro mutagenesis protocols、Humana Press、New Jersey)、
- 任意のアミノ酸のコドンが任意の遺伝子座で置換又は付加され得る、飽和突然変異誘発(Kegler-Ebo DM、Docktor CM、DiMaio D(1994)Nucleic Acids Res 22:1593; Barettino D、Feigenbutz M、Valcarel R、Stunnenberg HG(1994)Nucleic Acids Res 22:541; Barik S(1995)Mol. Biotechnol. 3:1)、
- 誤って作用するDNAポリメラーゼによってヌクレオチド配列が突然変異される、エラープローンポリメラーゼ連鎖反応(エラープローンPCR、error-prone PCR)(Eckert KA、Kunkel TA(1990)Nucleic Acids Res. 18:3739)、
- 優先的な置換がポリメラーゼによって妨げられる、SeSaM法(配列飽和法)。Schenkら、Biospektrum、vol.3、2006、277~279
- 例えば、ヌクレオチド配列の突然変異率の増加がDNA修復機構の欠陥のために起きるような、突然変異株における遺伝子の継代(Greener A、Callahan M、Jerpseth B(1996)An efficient random mutagenesis technique using an E. coli mutator strain. In: Trower MK (Ed.) In vitro mutagenesis protocols. Humana Press, New Jersey)、又は
- 密接に関連する遺伝子のプールが形成され、消化され、その断片がポリメラーゼ連鎖反応の鋳型として使用され、鎖分離及び再アニーリングの繰り返しによって全長のモザイク遺伝子が最終的に生成される、DNAシャッフリング。(Stemmer WPC(1994)Nature 370:389;Stemmer WPC(1994)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:10747)。
【0108】
「定方向進化(directed evolution)」(とりわけReetz MT及びJaeger K-E(1999)、Topics Curr. Chem. 200:31;Zhao H、Moore JC、Volkov AA、Arnold FH(1999)、Methods for optimizing industrial enzymes by directed evolution、:Demain AL, Davies JE (Ed.) Manual of industrial microbiology and biotechnology. American Society for Microbiologyに記載される)を用いて、当業者は、選択的な様式で、また大規模に機能的突然変異体を生成することができる。ここで、第1のステップにおいて、それぞれのタンパク質の遺伝子ライブラリーが最初に作製され、例えば上記に示した方法を用いることが可能である。遺伝子ライブラリーは、適切な様式で、例えば細菌又はファージディスプレイシステムによって発現される。
【0109】
所望の特性にほぼ対応する特性を有する機能的突然変異体を発現する宿主生物の関連遺伝子は、さらなる突然変異のラウンドに供され得る。突然変異及び選択又はスクリーニングのステップは、存在する機能的突然変異体が適切な手段で所望の特性を有するまで繰り返して反復され得る。この繰り返し手順の結果として、限定された数の突然変異、例えば1、2、3、4又は5の突然変異を段階的に実行し、それぞれの酵素特性に対するそれらの効果について評価及び選択してもよい。次いで、選択された突然変異体は、同様の方法でさらなる突然変異工程に供され得る。それによって、研究される個々の突然変異体の数を有意に減少させることができる。
【0110】
本発明による結果はまた、所望の改変された特性を有するさらなる酵素を標的化された様式で生成するために必要とされる、それぞれの酵素の構造及び配列に関して重要な情報を提供する。特に、いわゆる「ホットスポット」、すなわち標的突然変異の導入を介して酵素特性を改変するために適している可能性のある配列セグメントを規定することが可能である。
【0111】
同様に、酵素活性にほとんど影響を与えないと予想される突然変異が周辺でなされている可能性があるアミノ酸配列の位置に関しての情報を導き出すこともでき、このような突然変異は、生じ得る「サイレント突然変異」と呼ぶことができる。
【0112】
3.3 構築物
さらに、本発明の対象は、特には、調節核酸配列の遺伝子的な制御下に、本発明に係るポリペプチドをコードする核酸配列を含む、組換え発現構築物であり、これらの発現構築物の少なくとも1つを含む、特には組換えの、ベクターである。
【0113】
本発明によれば、「発現ユニット」は、発現活性を有し、本明細書に定義されるプロモーターを含み、発現される核酸又は遺伝子に機能的に結合した後に、この核酸又はこの遺伝子の発現、換言すれば転写及び翻訳を調節する核酸のことを意味すると理解される。これは、この文脈において「調節核酸配列」とも呼ばれる理由である。プロモーターに加えて、例えばエンハンサーのようなさらなる調節エレメントが存在してもよい。
【0114】
本発明によれば、「発現カセット」又は「発現構築物」は、発現される核酸又は発現される遺伝子に機能的に連結された発現ユニットを意味すると理解される。したがって、発現ユニットとは対照的に、発現カセットは、転写及び翻訳を調節する核酸配列だけでなく、転写及び翻訳の結果としてタンパク質として発現される核酸配列も含む。
【0115】
本発明の文脈の中においては、用語「発現」又は「過剰発現」は、対応するDNAによってコードされた微生物中の1つ以上の酵素の細胞内活性の生成又は上昇を表す。この目的のために、例えば、遺伝子を生物に導入すること、既存の遺伝子を異なる遺伝子で置換すること、遺伝子のコピー数を増加させること、強力なプロモーターを使用すること、又は高い活性を有する対応する酵素をコードする遺伝子を使用することが可能であり、これらの手段は任意に組み合わせることができる。
【0116】
好ましくは、本発明に係るそのような構築物は、それぞれのコード配列の5'上流にプロモーター配列及び3'下流にターミネーター配列、場合によってはさらなる通常の調節エレメントを含み、いずれの場合においてもコード配列に作動可能に連結されている。
【0117】
本発明によれば、「プロモーター」、「プロモーター活性を有する核酸」又は「プロモーター配列」は、転写されるべき核酸と機能的に結合して、この核酸の転写を調節する核酸を意味すると理解される。
【0118】
この文脈において、「機能的な」又は「作動可能な」連結とは、例えば、プロモーター活性を有する核酸の1つと転写されるべき核酸配列との連続配列、並びに場合によって、さらに、例えば核酸の転写を確実にする核酸配列及び、例えばターミネーターのような、各々が核酸配列の転写時にその機能を果たすことができるような調節エレメントを意味すると理解される。この目的のために化学的意味での直接的な連結は必ずしも必要ではない。例えば、エンハンサー配列のような遺伝子制御配列は、より遠く離れた距離の位置からの標的配列、又は実際に他のDNA分子に位置する場所からの標的配列上にそれらの機能を発揮することもできる。好ましい配列は、2つの配列が互いに共有結合するように、転写される核酸配列がプロモーター配列の後ろ(すなわち、3 '末端)に位置するものである。この文脈において、プロモーター配列とトランスジェニックに発現される核酸配列との間の距離は、200塩基対未満又は100塩基対未満又は50塩基対未満であり得る。
【0119】
プロモーター及びターミネーターに加えて、他の調節要素の例としては:ターゲティング配列、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、選択マーカー、増幅シグナル、複製起点などが挙げられる。適切な調節配列は、例えばGoeddel、Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185、Academic Press、San Diego、CA(1990)に記載されている。
【0120】
本発明による核酸構築物は、特に、例えば配列番号1のようなシクラーゼをコードする配列、又は配列番号2~326のようなシクラーゼをコードする配列又はその誘導体及びホモログ、並びにそれから誘導され、1つ以上の調節シグナルと作動可能なように又は機能的に連結している核酸配列を、有利には遺伝子発現を制御する、例えば増加させるために含む。
【0121】
これらの調節配列に加えて、これらの配列の天然の調節が依然として実際の構造遺伝子の前に存在してもよく、場合によって、天然の調節がスイッチオフされ、遺伝子の発現が増強されるように遺伝的に改変されていてもよい。しかしながら、核酸構築物は、より簡単な構築、すなわち、コード配列の前に追加の調節シグナルが挿入されておらず、その調節を有する天然のプロモーターが除去されていないものであってもよい。代わりに、天然の調節配列は、もはや調節が起こらず、遺伝子発現が増加するように突然変異される。
【0122】
好ましい核酸構築物は、有利には、プロモーターと機能的に連結している核酸配列の増強された発現を可能にする既に述べた1つ以上の「エンハンサー」配列も含む。さらなる有利な配列は、さらなる調節エレメント又はターミネーターなどのDNA配列の3 '末端に挿入されてもよい。本発明に係る核酸の1個以上のコピーは、構築物中に存在し得る。構築物において、栄養要求性又は抗生物質耐性を補完する遺伝子などの他のマーカーもまた、構築物を選択するために任意に存在し得る。
【0123】
適切な調節配列の例は、cos、tac、trp、tet、trp-tet、lpp、lac、lpp-lac、lacIq、T7、T5、T3、gal、trc、ara、rhaP(rhaPBAD)SP6、lambda-PR又はlambda-PLプロモーターのようなプロモーターに存在し、これらはグラム陰性菌に有利に用いられる。さらなる有利な調節配列は、例えば、グラム陽性プロモーターにおけるamy及びSPO2、酵母又は菌類プロモーターにおけるADC1、MFalpha、AC、P-60、CYC1、GAPDH、TEF、rp28、ADH中に存在する。人工プロモーターもまた、調節のために使用され得る。
【0124】
宿主生物における発現のために、核酸構築物は、例えば、宿主中の遺伝子の最適な発現を可能にするプラスミド又はファージのようなベクターに有利に挿入される。ベクターはまた、プラスミド及びファージに加えて、当業者公知の全ての他のベクター、すなわち、例えば、SV40、CMV、バキュロウイルス及びアデノウイルスのようなウイルス、トランスポゾン、ISエレメント、ファスミド、コスミド及び直鎖又は環状DNAを意味すると理解される。これらのベクターは、宿主生物において自律的に複製され得るか、又は染色体的に複製され得る。これらのベクターは本発明のさらなる進歩である。
【0125】
適当なプラスミドは、例えば、大腸菌におけるpLG338、pACYC184、pBR322、pUC18、pUC19、pKC30、pRep4、pHS1、pKK223-3、pDHE19.2、pHS2、pPLc236、pMBL24、pLG200、pUR290、pIN-III113-B1、λgt11若しくはpBdCI、ストレプトマイセスにおけるpIJ101、pIJ364、pIJ702若しくはpIJ361、バチルスにおけるpUB110、pC194若しくはpBD214、コリネバクテリウムにおけるpSA77若しくはpAJ667、菌類におけるpALS1、pIL2若しくはpBB116、酵母における2alphaM、pAG-1、YEp6、YEp13若しくはpEMBLYe23又は植物におけるpLGV23、pGHlac+、pBIN19、pAK2004若しくはpDH51である。上記のプラスミドは可能なプラスミドのわずかな選択範囲である。さらなるプラスミドは当業者周知であり、例えば書籍「クローニングベクター」(Eds. Pouwels P. H.らElsevier、Amsterdam-New York-Oxford、1985、ISBN 0 444 904018)に見出すことができる。
【0126】
ベクターのさらなる開発において、本発明に係る核酸構築物又は本発明に係る核酸を含むベクターはまた、線状DNAの形態で微生物に有利に導入され、異種又は相同組換えを介して宿主生物のゲノムに組み込むことができる。この線状DNAは、プラスミドなどの線状化ベクター、又は本発明に係る核酸構築物又は核酸のみからなることができる。
【0127】
生物体における異種遺伝子の最適な発現のためには、生物体において使用される特異的な「コドン使用頻度」に一致するように核酸配列を改変することが有利である。「コドン使用頻度」は、問題の生物の他の公知の遺伝子のコンピュータ評価によって容易に決定することができる。
【0128】
本発明に係る発現カセットは、適切なプロモーターを適切なコードヌクレオチド配列及びターミネーター又はポリアデニル化シグナルに融合させることによって生成される。この目的における慣習的な組換え及びクローニング技術は、例えば、T. Maniatis、E.F. Fritsch及びJ. Sambrook、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、NY(1989)、T.J. Silhavy、M.L. Berman及びL.W. Enquist、Experiments with Gene Fusions、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、NY(1984)並びにAusubel、F.M.ら、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing Assoc.及びWiley Interscience(1987)に記載されている。
【0129】
適切な宿主生物における発現のために、組換え核酸構築物又は遺伝子構築物は、宿主内で遺伝子の最適な発現を可能にする宿主特異的ベクターに有利に挿入される。ベクターは当業者周知であり、例えば、「Cloning Vectors」(Pouwels P.H.ら、Ed.、Elsevier、Amsterdam-New York-Oxford、1985)に見出すことができる。
【0130】
4. 微生物
文脈に応じて、用語「微生物」は、野生型微生物、又は遺伝子改変された組換え微生物、又はその両方のことを呼び得る。
【0131】
本発明に係るベクターの助けとともに、例えば本発明に係る少なくとも1つのベクターで形質転換され、本発明に係るポリペプチドの生産に使用することができる組換え微生物を生成することが可能である。有利には、本発明に係る上記組換え構築物は、適切な宿主系に導入され、その中で発現される。この文脈において、好ましくは、例えば、共沈、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、レトロウイルストランスフェクションなどの当業者公知の慣習的なクローニング及びトランスフェクション方法が、問題の発現系における上述の核酸を発現させるために使用される。適切な系は、例えばCurrent Protocols in Molecular Biology、F.Ausubelら、Ed.、Wiley Interscience、New York 1997又はSambrookら、Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2nd Ed.、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、1989に記載されている。
【0132】
本発明に係る核酸又は核酸構築物のための適切な組換え宿主生物は、原理的には全ての原核生物又は真核生物である。細菌、菌類又は酵母のような微生物は、宿主生物として有利に使用される。グラム陽性菌又はグラム陰性菌、好ましくは腸内細菌科、シュードモナス科、リゾビウム科、ストレプトマイセス科又はノカルディア科からの細菌、特に好ましくはエシェリキア、シュードモナス、ストレプトマイセス、ノカルディア、バークホルデリア、サルモネラ、アグロバクテリウム、クロストリジウム又はロドコッカス属の細菌が有利に使用される。非常に特に好ましいのは、大腸菌属及び種である。さらなる有利な細菌は、アルファ-プロテオバクテリア、ベータ-プロテオバクテリア又はガンマ-プロテオバクテリアの群にさらに見出すことができる。
【0133】
この文脈において、本発明に係る宿主生物は、本発明に記載され、上記に定義のフェニルエタノールデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素をコードする核酸配列、核酸構築物又はベクターの少なくとも1つを、好ましくは含む。
【0134】
宿主生物に依存して、本発明に係る方法において使用される生物は、当業者が精通したやり方で増殖又は培養される。原則として、微生物は、0から100℃の間、好ましくは10から60℃の間の温度で、酸素ガスを通過させながら、通常は糖の形態の炭素源、通常は酵母抽出物などの有機窒素源又は硫酸アンモニウムなどの塩の形態の窒素源、鉄塩、マンガン塩、マグネシウム塩のような微量元素及び場合によってはビタミンを含む液体媒体中で増殖させる。液体媒体のpHは、固定した値で維持することができ、すなわち、培養中に調節してもしなくてもよい。培養は回分式、半回分式又は連続式で行うことができる。栄養素は、発酵の開始時に提供されてもよく、半連続的又は連続的に供給されてもよい。
【0135】
5. 本発明の酵素の組換え生産
本発明はさらに、ポリペプチド産生微生物を培養し、場合によりポリペプチドの発現を誘導し、ポリペプチドを培養物から単離する、本発明のポリペプチド又はその機能的に生物学的活性な断片の組換え産生方法に関する。所望の際は、このようにして工業的規模でポリペプチドを製造することもできる。
【0136】
本発明に従って製造された微生物は、回分法又は流加回分法又は反復流加回分法により連続的又は不連続的に培養してもよい。公知の栽培方法の概要は、Chmielによる教科書(Bioprozesstechnik 1. Einfuhrung in die Bioverfahrenstechnik [Bioprocess technology 1. Introduction to bioprocess technology] (Gustav Fischer Verlag, Stuttgart, 1991))又はStorhasによる教科書(Bioreaktoren und periphere Einrichtungen [Bioreactors and peripheral equipment] (Vieweg Verlag, Braunschweig/Wiesbaden, 1994))に見出すことができる。
【0137】
使用される培養媒体は、それぞれの株の要求を適切に満たす必要がある。種々の微生物の培養媒体の説明は、米国細菌学会(ワシントンD.C.、米国、1981)のマニュアル「一般細菌学の方法マニュアル(Manual of Methods for General Bacteriology)」に記載されている。
【0138】
本発明に従って使用することができるこれらの媒体は、通常、1個以上の炭素源、窒素源、無機塩、ビタミン及び/又は微量元素を含む。
【0139】
好ましい炭素源は、単糖類、二糖類又は多糖類のような糖類である。非常に良好な炭素源は、例えば、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、リボース、ソルボース、リブロース、ラクトース、マルトース、スクロース、ラフィノース、デンプン又はセルロースである。糖はまた、糖蜜又は糖精製の他の副生成物のような複合化合物を介して媒体に添加することもできる。また、異なる炭素源の混合物を添加することも有利であり得る。他の可能な炭素源は、油脂、例えば大豆油、ヒマワリ油、ピーナッツ油、及びココナッツ油、脂肪酸、例えばパルミチン酸、ステアリン酸又はリノール酸、アルコール、例えばグリセロール、メタノール又はエタノール、及び有機酸、例えば酢酸又は乳酸である。
【0140】
窒素源は、通常、有機又は無機の窒素化合物又はこれらの化合物を含む材料である。窒素源の例は、アンモニアガス又はアンモニウム塩、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム又は硝酸アンモニウム、硝酸塩、尿素、アミノ酸又は複合窒素源、例えばコーンスティープリカー、大豆粉、大豆タンパク質、酵母エキス、肉エキス等が挙げられる。窒素源は、個々に又は混合物として使用することができる。
【0141】
媒体中に存在し得る無機塩化合物は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、コバルト、モリブデン、カリウム、マンガン、亜鉛、銅及び鉄の塩化物、リン酸塩又は硫酸塩を含む。
【0142】
硫黄源としては、無機硫黄含有化合物、例えば硫酸塩、亜硫酸塩、亜ジチオン酸塩、テトラチオン酸塩、チオ硫酸塩、硫化物並びに有機硫黄化合物、例えばメルカプタン及びチオールを使用することができる。
【0143】
リン源として、リン酸、リン酸二水素カリウム又はリン酸水素二カリウム又は対応するナトリウム含有塩を使用することができる。
【0144】
金属イオンを溶液中に保持するために、キレート剤を媒体に添加してもよい。特に適切なキレート剤は、カテコール又はプロトカテキン酸などのジヒドロキシフェノール、又はクエン酸のような有機酸を含む。
【0145】
本発明に従って使用される発酵媒体は、例えば、ビオチン、リボフラビン、チアミン、葉酸、ニコチン酸、パントテン酸及びピリドキシンを含むビタミン又は成長促進剤のような他の成長因子も通常、含む。成長因子及び塩は、しばしば、酵母エキス、糖蜜、コーンスティープリカーなどの複合媒体の成分に由来する。さらに、適切な前駆体を培養媒体に添加することができる。媒体中の化合物の正確な組成は、それぞれの実験に大きく依存しており、特定の場合ごとに個別に決定される。媒体の最適化に関する情報は、教科書「Applied Microbiol. Physiology、A Practical Approach」(Ed. P.M. Rhodes、P.F.Stanbury、IRL Press(1997)、53~73、ISBN 0 19 963577 3)に見出すことができる。増殖媒体は、Standard 1(Merck)又はBHI(脳心臓注入、DIFCO)などのような商業的供給業者から得ることもできる。
【0146】
全ての媒体成分は、加熱(1.5bar及び121℃で20分間)又はフィルター滅菌により滅菌される。これらの成分は、一緒に又は必要に応じて個別に滅菌してもよい。全ての媒体成分は、培養の開始時に存在してもよく、又は連続的に又はバッチ式に添加してもよい。
【0147】
培養温度は通常15℃~45℃、好ましくは25℃~40℃であり、実験中は変化させたり一定に保つようにしたりすることができる。媒体のpHは、5~8.5の範囲、好ましくは7.0の周辺とするべきである。増殖のためのpHは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア若しくはアンモニア水のような塩基性化合物、又はリン酸若しくは硫酸のような酸性化合物を添加することによって、増殖中に制御することができる。消泡剤、例えば脂肪酸ポリグリコールエステルを、発泡を制御するために使用してもよい。プラスミドの安定性を維持するために、適切な選択的に作用する物質、例えば抗生物質を媒体に添加することができる。好気的条件を維持するために、酸素又は酸素含有ガス混合物、例えば周辺空気を培養物に通す。培養温度は普通20℃から45℃の範囲である。最大限の所望の生成物が形成されるまで、培養を続ける。この標的は普通10時間から160時間以内に到達する。
【0148】
次いで、発酵液をさらに処理する。必要に応じて、バイオマスは分離技術、例えば遠心分離、濾過、デカンテーション、又はこれらの方法の組合せによって完全に又は部分的に発酵液から除去されてもよく、又は完全にその中に残されてもよい。
【0149】
ポリペプチドが培養媒体に分泌されない場合、細胞を破砕してもよく、生成物は公知のタンパク質単離法によって溶解産物から得ることができる。細胞は、場合によって、高周波超音波、高圧、例えばフレンチプレス、浸透圧溶解、界面活性剤、溶菌酵素又は有機溶媒の作用、ホモジナイザーにより、又は前述の方法のいくつかの組合せにより破砕することができる。
【0150】
ポリペプチドは、Q-セファロースクロマトグラフィーなどの分子ふるいクロマトグラフィー(ゲル濾過)、イオン交換クロマトグラフィー及び疎水性クロマトグラフィーなどの公知のクロマトグラフィー技術、及び限外濾過、結晶化、塩析、透析及びネイティブゲル電気泳動などの他の通常の技術を用いて精製してもよい。適切な方法は、例えば、Cooper、T.G.、Biochemische Arbeitsmethoden [Biochemical methods]、Verlag Walter de Gruyter、Berlin、New York、又はScopes、R.、Protein Purification、Springer Verlag、New York、Heidelberg、Berlinに記載されている。
【0151】
組換えタンパク質の単離のためには、定義されたヌクレオチド配列によってcDNAを伸長し、したがって例えば精製を容易にする修飾ポリペプチド又は融合タンパク質をコードするベクター系又はオリゴヌクレオチドを使用することが有利であり得る。このタイプの適切な修飾は、例えば、ヘキサヒスチジンアンカーとして公知の修飾のようなアンカー、又は抗体の抗原として認識され得るエピトープとして機能する、いわゆる「タグ」である(例えば、Harlow、E.及びLane、D.、1988、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor(N.Y.)Pressに記載されている)。これらのアンカーは、固体支持体、例えば、クロマトグラフィーカラムにおける充填物として使用され得るか、又はマイクロタイタープレート若しくは他の担体上で使用され得るポリマーマトリックスへのタンパク質の結合に役立つことができる。
【0152】
同時に、これらのアンカーはまた、タンパク質の認識のためにも使用され得る。タンパク質の認識のために、基質との反応後に検出可能な反応生成物を形成する蛍光色素、酵素マーカー、又は放射性マーカーのような通常のマーカーを、単独で又はタンパク質の誘導体化のためのアンカーと組み合わせて使用することもまた可能である。
【0153】
本発明に係る突然変異体を発現させるために、本明細書で明示的に引用されるWO2005/108590及びWO2006/094945における、野生型酵素EbN1の発現、並びにそのために有用な発現系の説明を参照してもよい。
【0154】
6. 酵素固定化
本発明に従って使用される酵素は、本明細書に記載の方法において遊離又は固定化された形態で使用することができる。固定化された酵素は、不活性担体に固定された酵素として理解されるべきである。適切な担体材料及びその上に固定された酵素は、EP-A-1149849、EP-A-1069183及びDE-A 100193773及びそこに引用されている参考文献から公知である。これに関して、これらの文献の開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。適切な担体材料としては、例えば、粘土、カオリナイトなどの粘土鉱物、珪藻土、パーライト、シリカ、酸化アルミニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、セルロース粉末、アニオン交換体材料、ポリスチレンやアクリル樹脂などの合成ポリマー、フェノール/ホルムアルデヒド樹脂、ポリウレタン並びにポリエチレン及びポリプロピレンのようなポリオレフィンが挙げられる。担持された酵素を作成するために、担体材料は、通常、微細に分割された粒状形態で使用され、多孔質形態が好ましい。担体材料の粒径は、通常、5mm以下、特に2mm以下(粒度分布曲線)である。同様に、全細胞触媒としてデヒドロゲナーゼを使用する場合、遊離形態又は固定形態を選択することができる。担体材料は、例えば、アルギン酸カルシウム及びカラゲナンである。酵素だけでなく細胞もまた、グルタルアルデヒドで直接架橋され得る(CLEAへの架橋)。対応する及び他の固定化技術は、例えば、J.Lalonde及びA.Margolin、「酵素の固定化(Immobilization of Enzymes)」、K. Drauz及びH. Waldmann、Enzyme Catalysis in Organic Synthesis 2002、Vol. III、991-1032、Wiley-VCH、Weinheimに記載されている。本発明に係る方法を行うためのバイオ形質転換及びバイオリアクターに関するさらなる情報は、例えば、Rehmら(Ed.)Biotechnology、2nd Edn.、Vol. 3、Chapter 17、VCH、Weinheimにおいても与えられる。
【0155】
7. 多価不飽和カルボン酸の酵素的環化
7.1 一般的な態様
本発明に係る環化プロセスは、特に、酵素の存在下で行われる。ここで、酵素は、配列番号1の核酸配列又はその機能的等価物によってコードされ、核酸配列は、遺伝子構築物又はベクターの構成物である。そのような遺伝子構築物又はベクターは、国際出願PCT/EP2010/057696の16~20頁に詳細に記載されており、これは本明細書において明示的に引用される。
【0156】
所望の活性を有する酵素をコードする核酸配列が存在する遺伝子構築物又はベクターを含む宿主細胞は、トランスジェニック生物とも呼ばれる。そのようなトランスジェニック生物の生成は原則的に公知であり、例えば、本明細書において明示的に引用される国際出願PCT/EP2010/057696の20頁に議論されている。
【0157】
細菌、シアノバクテリア、菌類及び酵母を含む群からの細胞は、好ましくはトランスジェニック生物として選択される。細胞は、好ましくは、ピキア属の菌類又はエシェリキア属、コリネバクテリウム属、ラルストニア属、クロストリジウム属、シュードモナス属、バチルス属、ザイモモナス属、ロドバクター属、ストレプトマイセス属、バークホルデリア属、ラクトバチルス属若しくはラクトコッカス属の細菌から選択される。細胞は、特に好ましくは、大腸菌、シュードモナス・プチダ、バークホルデリア・グルマエ、ストレプトマイセス・リビダンス、ストレプトマイセス・セリカラー又はザイモモナス・モビリスの菌種から選択される。
【0158】
ホモファルネシル酸シクラーゼの活性を有する酵素が、ザイモモナス・モビリス、メチロコッカス・カプスラツス(Methylococcus capsulatus) 、ロドシュードモナス・パストリス(Rhodopseudomonas palustris)、ブラディリゾビウム・ジャポニクム(Bradyrhizobium japonicum) 、フランキア属の種、ストレプトマイセス・セリカラー及びアセトバクター・ペストゥリアヌス(Acetobacter pasteurianus)から選択される微生物から単離された遺伝子によってコードされていることを特徴とする、本発明に係る方法が好ましい。ザイモモナス・モビリス、ストレプトマイセス・セリカラー、ブラディリゾビウム・ジャポニクム及びアセトバクター・ペストゥリアヌス由来の関連遺伝子が特に言及される。
【0159】
さらに、シクラーゼ活性を有する酵素が、酵素を過剰に生産し、かつエシェリキア属、コリネバクテリウム属、ラルストニア属、クロストリジウム属、シュードモナス属、バチルス属、ザイモモナス属、ロドバクター属、ストレプトマイセス属、バークホルデリア属、ラクトバチルス属及びラクトコッカス属からなる微生物の群から選択される、微生物によって生成されることを特徴とする、本発明に係る方法が好ましい。
【0160】
シクラーゼ活性を有する酵素が、シクラーゼ活性を有する酵素を過剰生産する大腸菌、シュードモナス・プチダ、バークホルデリア・グルマエ、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、出芽酵母、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ストレプトマイセス・リビダンス、ストレプトマイセス・セリカラー、バチルス・ズブチリス又はザイモモナス・モビリスの種のトランスジェニック微生物により生産されることを特徴とする、本発明に係る方法が特に言及される。
【0161】
本発明に係る生物触媒環化方法を行うためのさらなる実施形態。
【0162】
本発明に係る方法は、酵素が以下の形態の少なくとも1つで存在することを特徴とする:a)遊離の、場合により精製されたか又は部分的に精製されたポリペプチド、
b)固定されたポリペプチド、
c)a)又はb)のような細胞から単離されたポリペプチド、
d)インタクトな細胞、場合によっては、少なくとも1つのこのようなポリペプチドを含む休止細胞又は増殖細胞、
e)d)のような細胞の溶解物又はホモジネート。
【0163】
本発明に係る方法のさらなる実施形態は、細胞が微生物であって、好ましくはシクラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする少なくとも1つの異種核酸分子を発現するトランスジェニック微生物であることに特徴付けられる。
【0164】
本発明に係る方法の好ましい実施形態は、少なくとも以下の工程a)、b)及びd)を含む:a)天然源からシクラーゼ活性を有する酵素を生産する微生物を単離するか又は組換えにより生成させること、
b)この微生物を増殖させること、
c)必要に応じて、微生物からシクラーゼ活性を有する酵素を単離するか、又はこの酵素を含むタンパク質画分を調製し、
d)基質、例えば一般式(Ia)のホモファルネシル酸を含む媒体中に、工程b)の微生物又は工程c)の酵素を移すこと。
【0165】
本発明に係る方法において、基質、例えばホモファルネシル酸を酵素の存在下で反応させてスクラレオリドを得るように、基質を、シクラーゼ活性を有する酵素と媒体中で接触させ、及び/又はインキュベートする。媒体は、水性反応媒体であることが好ましい。
【0166】
本発明に係る方法が好ましく行われる水性反応媒体のpHは、有利にはpH4から12の間、好ましくはpH4.5から9の間、特に好ましくはpH5から8の間に維持される。
【0167】
水性反応媒体は、概して、好ましくは5~8のpHを有する緩衝溶液である。使用することができる緩衝液は、クエン酸塩、リン酸塩、TRIS(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)又はMES緩衝液(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)であり得る。反応媒体は、さらに、例えば、界面活性剤(例えば、タウロデオキシコール酸塩)などのさらなる添加剤をさらに含み得る。
【0168】
基質、例えばホモファルネシル酸は、好ましくは2~200mM、特に好ましくは5~25mMの濃度で酵素反応に導入され、連続的又はバッチ式に補充され得る。
【0169】
概して、酵素の環化は、使用される酵素の失活温度より低い-10℃を超える反応温度で起こる。好ましくは、本発明に係る方法は、0℃から95℃の間の温度、特に好ましくは15℃から60℃の間の温度、特に20℃から40℃の間、例えば約25℃から30℃の間で行われる。
【0170】
ホモファルネシル酸とスクラレオリドとの反応を、20~40℃の範囲の温度及び/又は4~8の範囲のpHで行う、本発明に係る方法が特に好ましい。
【0171】
これらの1相の水性系に加えて、本発明の別の変形では、2相の系もまた使用される。ここでは、水相と同様に、有機非水混和性反応媒体が第2相として使用される。結果として、反応生成物は有機相に蓄積する。反応後、有機相中の生成物は生体触媒を含む水相から容易に分離することができる。
【0172】
ホモファルネシル酸の変換を1相の水性系又は2相の系で行うか、又は難溶性ホモファルネシル酸塩の変換を2相の水性/固体系中で行うことに特徴付けされる、本発明に係る方法が好ましい。
【0173】
反応生成物は有機溶媒を用いて抽出することができ、場合によって精製のために蒸留することができる。
【0174】
好適な有機溶媒の例は、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン若しくはシクロオクタンのような好ましくは5~8個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン若しくはテトラクロロエタンのような好ましくは1個又は2個の炭素原子を有するハロゲン化脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン若しくはジクロロベンゼンのような芳香族炭化水素、エタノール、イソプロパノール、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、エチルtert-ブチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフランのような好ましくは4~8個の炭素原子を有する脂肪族非環式及び環式エーテル又はアルコール、又は酢酸エチル若しくは酢酸n-ブチルのようなエステル、又はメチルイソブチルケトン若しくはジオキサンのようなケトン、又はこれらの混合物である。上述のヘプタン、メチルtert-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチルが特に好ましく用いられる。
【0175】
本発明に従って使用されるシクラーゼは、上に既に記載したように、遊離又は固定化された酵素として本発明に係る方法において使用することができる。
【0176】
本発明に係る方法のために、シクラーゼをコードする核酸、核酸構築物又はベクターを含む休止細胞又は増殖細胞、遊離細胞又は固定化細胞を使用することが可能である。細胞溶解物又は細胞ホモジネートなどの破砕された細胞もまた使用され得る。破砕細胞は、例えば、溶媒による処理によって透過処理された細胞、又は酵素処理、機械的処理(例えば、フレンチプレス又は超音波)又はいくつかの他の方法によって破砕された細胞を意味すると理解される。このようにして得られた粗抽出物は、有利には、本発明に係る方法に適している。精製された酵素又は部分的に精製された酵素もこの方法に使用することができる。
【0177】
遊離の生物又は酵素が本発明に係る方法のために使用される場合、抽出の前に、例えば濾過又は遠心分離によって、便宜上、分離される。
【0178】
本発明に係る方法は、バッチ式、半バッチ式又は連続式で操作することができる。
【0179】
7.2 ホモファルネシル酸のスクラレオリドへの好ましい変換
特に、本発明は、スクラレオリドの製造方法であって、
a)ホモファルネシル酸をホモファルネソールアンブロキサンシクラーゼと接触させ及び/又はインキュベートし、
b)スクラレオリドが単離される、方法に関する。
【0180】
本発明の一実施形態では、シクラーゼの存在下でホモファルネシル酸のスクラレオリドへの変換が起こるように、ホモファルネシル酸を媒体中でシクラーゼと共に接触させ、及び/又はインキュベートさせる。好ましくは、媒体は水性反応媒体である。好ましくは、水性反応媒体は、概して、好ましくは5~8のpHを有する緩衝溶液である。クエン酸塩、リン酸塩、TRIS(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、MES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)緩衝液が緩衝液として使用され得る。さらに、反応媒体は、例えば、界面活性剤(例えば、タウロデオキシコール酸塩)のような他の添加物をさらに含んでいてもよい。
【0181】
基質は、好ましくは5~100mM、特に好ましくは15~25mMの濃度で酵素的変換に使用され、連続的又はバッチ式で供給され得る。
【0182】
概して、酵素的環化は、使用されるシクラーゼの失活温度より低い、-10℃を超える反応温度で行われる。それは、特に好ましくは0~100℃、特に15~60℃、具体的には20~40℃、例えばおよそ30℃である。
【0183】
反応生成物のスクラレオリドは、以下に述べるものの群から選択される有機溶媒で抽出することができ、場合により精製のために蒸留することができる。
【0184】
これらの1相の水性系に加えて、2相の系も本発明のさらなる変形で使用される。ここでは、第2相としてイオン性液体が使用されるが、好ましくは水と混和しない有機反応媒体が第2相として適用される。それにより、反応生成物は有機相中に蓄積する。反応後、有機相中に存在するアンブロキサンは、生体触媒を含有する水相から容易に分離することができる。
【0185】
非水性反応媒体は、液体反応媒体の総重量に基づいて、1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満の水を含む反応媒体を意味すると理解される。変換は、特に有機溶媒中で行うことができる。
【0186】
好適な有機溶媒の例は、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン若しくはシクロオクタンのような好ましくは5~8個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン若しくはテトラクロロエタンのような好ましくは1個又は2個の炭素原子を有するハロゲン化脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン若しくはジクロロベンゼンのような芳香族炭化水素、エタノール、イソプロパノール、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、エチルtert-ブチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフランのような好ましくは4~8個の炭素原子を有する脂肪族非環式及び環式エーテル又はアルコール、又は酢酸エチル若しくは酢酸n-ブチルのようなエステル、又はメチルイソブチルケトン若しくはジオキサンのようなケトン、又はこれらの混合物である。上述のヘプタン、メチルtert-ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチルが特に好ましく用いられる。
【0187】
ホモファルネシル酸のスクラレオリドへの変換は、1相の水性系だけでなく、2相系でも行うことができる。2相系の場合、上記に述べたものが使用される。第2相として水と混和しない上述の有機溶媒を使用することが好ましい。それにより、反応生成物が有機相に蓄積する。反応後、無機相にあるアンブロキサンは、生体触媒を含む水相から容易に分離することができる。
【0188】
本発明のさらなる対象は、酵素が、以下からなる群から選択される少なくとも1つの核酸分子を含む核酸分子によってコードされるポリペプチドであることに特徴付けられる、スクラレオリドの生物触媒製造のための方法である:
a)配列番号2に示される配列を含むポリペプチドをコードする核酸分子、
b)少なくとも1つの配列番号1に示される配列のポリヌクレオチドを含む核酸分子、
c)その配列が配列番号2の配列に対して少なくとも45%の同一性を有するポリペプチドをコードする核酸分子、
d)配列番号2に記載の配列の機能的に等価なポリペプチド又は断片をコードする(a)~(c)に記載の核酸分子、
e)配列番号327及び328に記載のプライマーを用いてcDNAライブラリー又はゲノムDNAから核酸分子を増幅することによって得られるホモファルネシル酸シクラーゼの活性を有する機能的に等価なポリペプチドをコードする核酸分子、又はde-novo合成によって化学的に合成された核酸分子、
f)(a)~(c)に記載の核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、ホモファルネシル酸シクラーゼの活性を有する機能的に等価なポリペプチドをコードする核酸分子、
g)(a)~(c)に記載の核酸分子又は少なくとも15nt、好ましくは20nt、30nt、50nt、100nt、200nt又は500ntのそのサブ断片(subfragment)をプローブとしてストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で用いてDNAライブラリーから単離することができる、ホモファルネシル酸シクラーゼの活性を有する機能的に等価なポリペプチドをコードする核酸分子、並びに
h)ホモファルネシル酸シクラーゼの活性を有する機能的に等価なポリペプチドをコードする核酸分子であって、そのポリペプチドの配列が配列番号2の配列に対して少なくとも30%の同一性を有する核酸分子、
i)ホモファルネシル酸シクラーゼの活性を有する機能的に等価なポリペプチドをコードする核酸分子であって、前記ポリペプチドがa)~h)に記載の核酸の群から選択される核酸分子によってコードされる、核酸分子、
j)ホモファルネシル酸シクラーゼの活性を有する機能的に等価なポリペプチドをコードする核酸分子であって、前記ポリペプチドが、a)~h)に記載のものの群から選択される核酸分子によってコードされるポリペプチドと類似又は同様の結合部位を有する、核酸分子。
【0189】
本発明の目的のために、類似又は同様の結合部位は、同じ基質、特にホモファルネシル酸の結合を確実にする80%、特に好ましくは85%、86%、87%、88%、89%、90%、特に91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%又は100%の相同性を有するアミノ酸配列の保存されたドメイン又はモチーフである。
【0190】
好ましくは、核酸分子c)は、配列番号1に対して少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、特に好ましくは85%、86%、87%、88%、89%、90%、特には91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する。
【0191】
同様に、機能的に等価なポリペプチドは、配列番号2に対して少なくとも50%、60%、65%、70%、75%、80%、特に好ましくは85%、86%、87%、88%、89%、90%、特に91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有する。用語「同一性」の代わりに、用語「相同性」又は「相同」もまた同義語として使用することができる。
【実施例
【0192】
これから本発明を以下の非限定的な実施例を参照して説明する。
【0193】
実験部分
下に続く例において特定の情報が与えられない限り、下記の一般情報が適用される。
【0194】
A. 一般情報
使用される全ての物質及び微生物は、市販されている製品である。
【0195】
他に特定されない限り、組換えタンパク質は、例えば、Sambrook, J.、Fritsch, E.F.及びManiatis, T.、Molecular cloning:A Laboratory Manual、2nd Edition、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、1989に記載されるような一般的な方法によって、クローニングされ、発現される。
【0196】
B. 実施例
[実施例1]
Zm-SHCのクローニング及び大腸菌における発現
シクラーゼの遺伝子は、オリゴヌクレオチドZm-SHC_fw及びZm-SHC_revの支援を受けてザイモモナス・モビリスから増幅され得る。
【0197】
【表3】
【0198】
各々の場合において、100ngのプライマーZm-SHC_fw及びZm-SHC_revを等モル比で混合した。Z. mobilis(ATCC31821)由来のゲノムDNAを用いたPCRを、Pwo-ポリメラーゼ(Roche Applied Science)及び以下の温度勾配プログラムを使用して製造業者の取扱説明書に従って行った:95℃で3分間、30サイクルの95℃で30秒間、50℃で30秒間及び72℃で3分間、72℃で10分間、使用するまで4℃。アガロースゲル電気泳動(1.2%電気泳動ゲル、Invitrogen)及びカラムクロマトグラフィー(GFX Kit、Amersham Pharmacia)によりPCR産物(約2.2kb)を単離し、続いて配列決定した(配列決定プライマー:Zm-SHC_fw及びZm-SHC_rev)。得られた配列は公開された配列と一致する。
【0199】
PCR産物を制限エンドヌクレアーゼNdeI及びBamHIで消化し、適切に消化したベクターpDHE19.2[9]に連結した。得られたプラスミドを配列決定して、配列番号1に示される核酸配列を得た。対応するアミノ酸配列を以下のテキスト/(配列番号2)に示す。
【0200】
【表4】
【0201】
プラスミドpDHE-Zm-SHC-1を大腸菌TG10 pAgro4 pHSG575株に形質転換した[Takeshitaら、Gene 1987, 61:63~74;Tomoyasuら、Mol Microbiol 2001, 40:397~413]。組換え大腸菌を大腸菌LU15568と命名した。
【0202】
[実施例2]
Z.モビリス由来の組換えホモファルネソールシクラーゼの提供
適切な2mlの前培養から播種した大腸菌LU15568を100mlの三角フラスコ(バッフル付き)に、20mlのLB-Amp/Spec/Cm(100μg/lアンピシリン、100μg/lスペクチノマイシン、20μg/lクロラムフェニコール)、0.1mMのIPTG、0.5g/lのラムノース中、37℃で16時間増殖させ、5000×g/10分で遠心分離し、4℃で保存した。細胞ペレットを15mlの破砕緩衝液(0.2Mトリス/HCl、0.5M EDTA、pH8.0)、375Uのベンゾナーゼ(例えば、Novagen、25U/μL)、40μLのPMSF(100mM、i-PropOHに溶解したもの)、0.8gのスクロース、及びおよそ0.5mgのリゾチーム内に懸濁することにより、タンパク質抽出物を調製した。反応混合物を混合し、氷上で30分間インキュベートした。その後、-20℃で凍結させた。
【0203】
反応混合物を解凍した後、蒸留水でおよそ40mlに希釈し、再び氷上で30分間インキュベートした。
【0204】
その後、超音波(HTU-Soni 130、G. Heinemann、Schwabisch-Hall、振幅80%、15"パルス/15"休止)を用いて細胞を3分間3回破砕した。破砕後、細胞破片を4℃及び26900×gで60分間遠心分離することによって除去した。上清を捨て、ペレットを100mlの可溶化緩衝液(50mM Tris/HCl、10mM MgCl2×6H2O、1%Triton X-100、pH8.0)に再懸濁し、ポッターでおよそ5分間粉砕した。その後、懸濁液を氷上で30分間維持した。
【0205】
ホモジナイズした抽出物を4℃、26900×gで1時間再度遠心分離し、ペレットを廃棄した。この抽出物を酵素アッセイに用い、活性損失が起きることなく-20℃で数週間保存することができる。タンパク質含量は1mg/mlの範囲であった。
【0206】
[実施例3]
大腸菌LU15568由来の組換えシクラーゼの活性測定
ホモファルネシル酸(1b、(3E、7E)-4,8,12-トリメチルトリデカ-3,7,11-トリエン酸))を実施例2に記載のタンパク質調製物と共にインキュベートした。具体的には、0.0412gのホモファルネシル酸を秤量し(反応混合物中20mM、Z,Z 0.44%、E,Z 10.13%、E,E 74.93%からなる純度85.1%)、2.913mlの水、0.350mlのクエン酸ナトリウム緩衝液(1Mクエン酸ナトリウムpH5.4)、0.560mlのMgCl2(0.5M溶液)をピペットで入れ、混合物を37℃で30分間撹拌しながら加温した。反応は、大腸菌LU15568ホモジネート(タンパク質含量35mg/ml)を添加して開始し、37℃に加温した。反応混合物を、pH5.0、37℃で24時間、油浴中にマグネチックスターラー上、最大撹拌速度で撹拌した。反応中、pHを0.5M HClを用いて調整した。24時間のインキュベーション後、反応混合物からの0.500mlを1000mlのn-ヘプタン/n-プロパノール 3:2を用いて30秒間ボルテックスすることにより抽出した。相分離後の有機上清をGC分析に用いた(図1参照)。
【0207】
以下により詳細に記載する分析を用いて、E,E異性体から合計82.7%における74.5%の変換が測定された。
【0208】
ホモファルネシル酸(引用元)のスクラレオリドへの変換(引用元)は、以下のGCシステムを用いて決定することができる:
【0209】
カラム:10m Optima 1
温度プロファイル:
0分: 100℃
5℃/分で200℃まで
5分後: 30℃/分で320℃まで
その後、一定
手法の継続時間:30分
インジェクター温度:280℃
保持時間(RT):
ホモファルネシル酸:11.7分においてピーク1、12.1分においてピーク2、
スクラレオリド:およそ13.5分
【0210】
未知試料の濃度を決定するためのキャリブレーション系列が、標準物質(Sigma、カタログ番号:358002)を用いて確立される。
【0211】
本明細書で引用した刊行物の開示を明示的に参照する。
本発明は、以下の実施形態を包含する。
(実施形態1)
立体異性的に純粋な形態での、又は立体異性体の混合物としての一般式II
【化8】
(式中、R 1 、R 2 、R 3 及びR 4 は、互いに独立して、H又はC 1 ~C 4 アルキルを表する)
の化合物の生物触媒製造のための方法であって、
前記化合物を、多価不飽和カルボン酸、特にホモファルネシル酸を環化することができるタンパク質と接触させる、方法。
(実施形態2)
式Iの化合物を、スクアレン-ホペンシクラーゼ(SHC)の酵素活性を持つタンパク質と接触させる、実施形態1に記載の方法。
(実施形態3)
使用される基質が、特に本質的に立体異性的に純粋な形態の一般式I
【化9】
(式中、R 1 、R 2 、R 3 及びR 4 は上述の意味を有する)
の多価不飽和カルボン酸である、実施形態1又は2に記載の方法。
(実施形態4)
式Ia
【化10】
のホモファルネシル酸が、出発物質として、特に本質的に立体異性的に純粋な形態で、好ましくは、存在するホモファルネシル酸異性体の総量に基づいて、少なくとも70モル%、特に好ましくは少なくとも75、80又は85モル%、最も好ましくは90、95又は99モル%の(3E,7E)-ホモファルネシル酸の割合で使用される、実施形態1から3のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態5)
式IIa
【化11】
のスクラレオリドが、立体異性的に純粋な形態で、又は立体異性体の混合物として得られる、実施形態4に記載の方法。
(実施形態6)
前記SHCが、
a)配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むタンパク質、
b)配列番号2によるアミノ酸配列に対して、少なくとも45%の配列同一性を有するポリペプチドを含む、a)に由来したタンパク質の欠失、挿入、置換、付加、逆位、又は組合せによるタンパク質、及び
c)a)又はb)と機能的に同等であり、ホモファルネシル酸のスクラレオリドへの環化を触媒するタンパク質
から選択される、実施形態1から5のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態7)
生物触媒による変換が、
a)およそ4~5.8、特に4.5~5.5の範囲内の反応媒体のpH値で行われ、以下のさらなる条件:
b)少なくとも15mM、特に15~30mMの基質濃度、
c)少なくとも5mg/mlの酵素濃度、
d)32~40℃、特に35~38℃の範囲内の反応温度、
e)1~20mMのMgCl 2 を含むクエン酸ナトリウム緩衝液中、及び/又は
f)およそ10~100mMの緩衝液濃度
のうちの少なくとも1つの下で行われる、実施形態1から6のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態8)
酵素のシクラーゼ活性、特にSHCの活性が:
a)遊離の、場合により部分的又は完全に精製された天然又は組換え的に生成されたシクラーゼ、
b)固定化された形態のa)によるシクラーゼ、
c)少なくとも1つのシクラーゼを含む完全な細胞、
d)c)による細胞の細胞溶解物又は細胞ホモジネートから選択される形態で存在する、実施形態1から7のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態9)
変換が、1相の水性系又は2相の水-有機系又は固体-液体系で行われる、実施形態1から8のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態10)
変換が、37℃の範囲内の温度及び5~5.2の範囲内のpH値で行われる、実施形態1から9のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態11)
SHCが、メチロコッカス・カプサラツス、ロドシュードモナス・パルストリス、ブラジリゾビウム・ジャポニカム、フランキア属の種、ストレプトマイセス・セリカラー、特にザイモモナス・モビリスから選択される微生物から単離される、実施形態1から10のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態12)
SHCが、エシェリキア属、コリネバクテリウム属、ラルストニア属、クロストリジウム属、シュードモナス属、バチルス属、ザイモモナス属、ロドバクター属、ストレプトマイセス属、バークホルデリア属、ラクトバチルス属及びラクトコッカス属、特にエシェリキア属の細菌の中から選択されるSHCを過剰発現する微生物から単離される、実施形態1から11のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態13)
SHCが、大腸菌、シュードモナス・プチダ、バークホルデリア・グルマエ、ストレプトマイセス・リビダンス、ストレプトマイセス・セリカラー及びザイモモナス・モビリス、特に大腸菌の種のトランスジェニックなSHC過剰発現細菌から単離される、実施形態1から12のいずれか一項に記載の方法。
(実施形態14)
3a,6,6,9a-テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1-b]フラン(アンブロキシド)の製造方法であって、
a)ホモファルネシル酸を、実施形態1から13のいずれか一項に記載の方法によってスクラレオリドに変換し、
b)工程a)の生成物をアンブロキシドールに化学的に還元し、
c)工程b)からのアンブロキシドールを化学的にアンブロキシドに環化する、方法。
(実施形態15)
アンブロキシドが、(-)-アンブロキシド((3aR,5aS,9aS,9bR)-3a,6,6,9a-テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1-b]フラン[CAS 6790-58-5])である、実施形態14に記載の方法。
【0212】
配列
配列番号1~326 種々のSHC遺伝子の核酸/アミノ酸配列
配列番号327~328 PCRプライマー
【0213】
以下に本発明に従って特に有用なSHC酵素配列のリストを示す:
【0214】
【表5】
図1A
図1B
【配列表】
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