(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-20
(45)【発行日】2024-06-28
(54)【発明の名称】ダイシング用保護膜組成物、ウエハの製造方法、及びウエハの加工方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20240621BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20240621BHJP
【FI】
H01L21/78 L
H01L21/78 B
B23K26/53
(21)【出願番号】P 2023222778
(22)【出願日】2023-12-28
【審査請求日】2024-02-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 明日香
(72)【発明者】
【氏名】木下 哲郎
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-66666(JP,A)
【文献】特開2014-49761(JP,A)
【文献】特開2006-140311(JP,A)
【文献】特開2016-66768(JP,A)
【文献】特開2021-197482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B23K 26/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物(1)を含む紫外線吸収剤と、水溶性樹脂と、ギ酸イオンと、水と、を含有し、
前記ギ酸イオンの含有量が、300~6000質量ppmである、
ダイシング用保護膜組成物。
【化1】
(式中、Xは、水素原子、-OR
1を表す。R
1は、置換又は無置換の炭素数1~5のアルキル基を表す。nは、1~5の数を表し、mは、0~4の数を表す。)
【請求項2】
前記紫外線吸収剤は、フェルラ酸、2-ヒドロキシけい皮酸、4-ヒドロキシけい皮酸、2,3-ジヒドロキシけい皮酸、及び3,4-ジヒドロキシけい皮酸からなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項1に記載のダイシング用保護膜組成物。
【請求項3】
前記水溶性樹脂は、下記式(2a-1)で表される構成単位と下記式(2a-2)で表される構成単位とを含む樹脂(2a)、及び下記式(2b)で表される構成単位を含む樹脂(2b)からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂である、
請求項1又は2に記載のダイシング用保護膜組成物。
【化2】
【請求項4】
さらに、水系有機溶剤を含有する、
請求項1又は2に記載のダイシング用保護膜組成物。
【請求項5】
前記水系有機溶剤は、グリコール系溶剤、及びアルコール系溶剤からなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項4に記載のダイシング用保護膜組成物。
【請求項6】
前記水系有機溶剤として、2種以上の水系有機溶剤を含有する、
請求項5に記載のダイシング用保護膜組成物。
【請求項7】
固形分濃度が、1~90質量%である、
請求項1又は2に記載のダイシング用保護膜組成物。
【請求項8】
ウエハの加工面に、請求項1又は2に記載のダイシング用保護膜組成物を塗布して保護膜を形成する成膜工程と、
前記保護膜を介して加工面にレーザー光を照射して加工を施す加工工程と
を含む、ウエハの製造方法。
【請求項9】
前記ウエハには、格子状のストリートにより区画された複数の半導体チップが形成されており、
前記加工工程は、前記保護膜を介して前記ストリートにレーザー光が照射することによって溝を形成する工程である、
請求項8に記載のウエハの製造方法。
【請求項10】
前記加工工程の後に、前記保護膜を水洗により除去する工程を含む、
請求項8に記載のウエハの製造方法。
【請求項11】
ウエハの加工面に、請求項1又は2に記載のダイシング用保護膜組成物を塗布して保護膜を形成する成膜工程と、
前記保護膜を介して加工面にレーザー光を照射して加工を施す加工工程と
を含む、ウエハの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイシング用保護膜組成物、ウエハの製造方法、及びウエハの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造工程において形成されるウエハは、シリコン等の半導体基板の表面に絶縁膜と機能膜が積層された積層体を、ストリートと呼ばれる格子状の分割予定ラインによって区画したものであり、ストリートで区画されている各領域が、IC、LSI等の半導体チップとなっている。即ち、このストリートに沿ってウエハを加工・切断するによって複数の半導体チップが得られる。
【0003】
ウエハの加工・切断は、例えば、レーザーダイシング等によって行われている。レーザーダイシングを行う際には、デブリの付着を防ぐために、ウエハの表面にダイシング用保護膜を設ける。このようなダイシング用保護膜に関する技術として、例えば、特許文献1には、水溶性樹脂と、水溶性染料、水溶性色素及び水溶性紫外線吸収剤からなる群より選択された少なくとも1種の水溶性のレーザー光吸収剤とが溶解した溶液からなることを特徴とするレーザーダイシング用保護膜剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ダイシング用保護膜は、上述したようにダイシング時に発生するデブリの付着を防ぐものであるが、その性能について、未だ改善の余地がある。
【0006】
まず、ダイシング用保護膜を形成するための組成物(ダイシング用保護膜組成物)には、ダイシング時に使用するレーザー光を吸収する吸収剤を配合するものがあるが、保管日数の経過に伴い、経時的に吸光度が低下してしまうという問題がある。意図せずに吸光度が低下してしまうと、ストリートラインに沿った精度の高いレーザー光による切断ができなくなったり、均一な線幅のレーザー加工が困難になったりする。
【0007】
次に、ダイシング用保護膜によって保護されたウエハをレーザーダイシングによって切断した後に、洗浄によってダイシング用保護膜を除去することが行われる。近年、精密な構造体を作製するため、基板上の欠陥管理が厳しくなってきており、そのため保護膜洗浄後の表面欠陥もこれまで以上に改善することが求められている。しかし、従来のダイシング用保護膜組成においては、基板洗浄後の残渣が経時的に悪化するという問題があった。
【0008】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、経時的な吸光度の低下を抑制でき、かつ、経時的なディフェクト数の増加を抑制できるダイシング用保護膜組成物、並びに、これを用いたウエハの製造方法及びウエハの加工方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述した目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の構造を有する化合物(1)を含む紫外線吸収剤と、水溶性樹脂と、ギ酸イオンと、水と、を含有し、ギ酸イオンの含有量が、300~6000質量ppmである、ダイシング用保護膜組成物とすることに知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
<1>
下記一般式(1)で表される化合物(1)を含む紫外線吸収剤と、水溶性樹脂と、ギ酸イオンと、水と、を含有し、前記ギ酸イオンの含有量が、300~6000質量ppmである、ダイシング用保護膜組成物である。
【0011】
【0012】
(式中、Xは、水素原子、-OR1を表す。R1は、置換又は無置換の炭素数1~5のアルキル基を表す。nは、1~5の数を表し、mは、0~4の数を表す。)
<2>
前記紫外線吸収剤は、フェルラ酸、2-ヒドロキシけい皮酸、4-ヒドロキシけい皮酸、2,3-ジヒドロキシけい皮酸、及び3,4-ジヒドロキシけい皮酸からなる群より選択される少なくとも1種である、<1>に記載のダイシング用保護膜組成物である。
<3>
前記水溶性樹脂は、下記式(2a-1)で表される構成単位と下記式(2a-2)で表される構成単位とを含む樹脂(2a)、及び下記式(2b)で表される構成単位を含む樹脂(2b)からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂である、<1>又は<2>に記載のダイシング用保護膜組成物である。
【0013】
【0014】
<4>
さらに、水系有機溶剤を含有する、<1>~<3>のいずれかに記載のダイシング用保護膜組成物である。
<5>
前記水系有機溶剤は、グリコール系溶剤、及びアルコール系溶剤からなる群より選択される少なくとも1種である、<4>に記載のダイシング用保護膜組成物である。
<6>
前記水系有機溶剤として、2種以上の水系有機溶剤を含有する、<4>又は<5>に記載のダイシング用保護膜組成物である。
<7>
固形分濃度が、1~90質量%である、<1>~<6>のいずれかに記載のダイシング用保護膜組成物である。
<8>
ウエハの加工面に、<1>~<7>のいずれかに記載のダイシング用保護膜組成物を塗布して保護膜を形成する成膜工程と、前記保護膜を介して加工面にレーザー光を照射して加工を施す加工工程とを含む、ウエハの製造方法である。
<9>
前記ウエハには、格子状のストリートにより区画された複数の半導体チップが形成されており、前記加工工程は、前記保護膜を介して前記ストリートにレーザー光が照射することによって溝を形成する工程である、<8>に記載のウエハの製造方法である。
<10>
前記加工工程の後に、前記保護膜を水洗により除去する工程を含む、<8>又は<9>に記載のウエハの製造方法である。
<11>
ウエハの加工面に、<1>~<7>のいずれかに記載のダイシング用保護膜組成物を塗布して保護膜を形成する成膜工程と、前記保護膜を介して加工面にレーザー光を照射して加工を施す加工工程とを含む、ウエハの加工方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、経時的な吸光度の低下を抑制でき、かつ、経時的なディフェクト数の増加を抑制できるダイシング用保護膜組成物、並びに、これを用いたウエハの製造方法及びウエハの加工方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0017】
<ダイシング用保護膜組成物>
【0018】
本実施形態に係るダイシング用保護膜組成物は、下記一般式(1)で表される化合物(1)を含む紫外線吸収剤と、水溶性樹脂と、ギ酸イオンと、水と、を含有し、ギ酸イオンの含有量が、300~6000質量ppmである、ダイシング用保護膜組成物である。
【0019】
【0020】
(式中、Xは、水素原子、-OR1を表す。R1は、置換又は無置換の炭素数1~5のアルキル基を表す。nは、1~5の数を表し、mは、0~4の数を表す。)
【0021】
一般式(1)という構造を有する紫外線吸収剤と水溶性樹脂とを含有した上で、ギ酸イオンの含有量を制御することによって、少なくとも、経時的な吸光度の低下を抑制でき、かつ、経時的なディフェクト数の増加を抑制できる。例えば、吸光度が変動すると吸収波長が変わってしまうが、本実施形態に係るダイシング用保護膜組成物においてギ酸イオンの含有量を制御することによって、かかる不具合を抑制することもできる。また、レーザーダイシング後に水等によってデブリを洗浄除去した際に、洗浄で取り切れずに、ウエハの表面に付着したデブリが残存すると、これが原因となり、経時的にディフェクト数が増加してしまうといった不具合も起こり得るが、本実施形態に係るダイシング用保護膜組成物によれば、かかる不具合も抑制できる。
【0022】
以下、本実施形態に係るダイシング用保護膜組成物の各種成分等について、説明する。
【0023】
(紫外線吸収剤)
【0024】
化合物(1)は一般式(1)の構造を有する。一般式(1)のヒドロキシ基(-OH)は、溶液である組成物中で解離して存在していてもよい。また、化合物(1)は、その塩として配合されていてもよい。化合物(1)の塩の種類は、特に限定されないが、水溶性及び他の成分との相溶性等の観点から、アルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)、及びその水和物からなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。かかる構造を有する化合物(1)を用いることによって、レーザー加工時の膜剥がれを抑制できるため、デブリが付着するのを効果的に防止することができる。例えば、レーザー光を照射すると、保護膜の熱分解に先立って基板の熱分解が進行し、その熱分解物であるシリコン蒸気等の圧力によって保護膜とチップ表面の周縁部分(ストリートライン近傍)に空隙が形成され(すなわち、保護膜の部分的な剥がれが周縁部分に生じる)、この結果、チップ表面の周縁部分にデブリの付着が生じるものと考えられる。この点、本実施形態によれば、上記の化合物(1)を、水溶性樹脂及び特定の含有量のギ酸イオン等と併用することによって、このようなデブリの付着を効果的に抑制できる。
【0025】
化合物(1)のベンゼン環に結合しているヒドロキシ基(-OH)は、アクリル酸基(-C=C-COOH)のパラ位及び/又はオルト位の位置にあることが好ましい。ヒドロキシ基が2以上ある場合には、少なくともそのうちの1以上がパラ位及び/又はオルト位の位置にあることが好ましい。このような構造であることによって、吸光度の経時的な低下を効果的に抑制できる共鳴構造又は二量体を形成しやすくなる(ただし、本実施形態に係る作用及び効果はこれらに限定されない。)。
【0026】
一般式(1)のXは、水素原子又は-OR1のいずれであってもよいが、水素原子であることが好ましい。
【0027】
一般式(1)のXが-OR1である場合、R1は、置換又は無置換の炭素数1~5のアルキル基である。この炭素数の下限は、2以上であってもよい。炭素数の上限は、4以下であってもよい。
【0028】
R1が置換のアルキル基(置換基を有するアルキル基)である場合の置換基としては、例えば、ハロゲン原子(クロロ基、ブロモ基、ヨード基等)、ヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基等が挙げられる。
【0029】
R1が置換又は無置換のアルキル基である場合のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基等が挙げられる。これらの中でも、メチル基が好ましい。Xが-OR1である場合の好適例としては、例えば、メトキシ基(-OCH3)が挙げられる。
【0030】
nは、1~5の数であり、1~4であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1又は2であることが更に好ましい。
【0031】
mは、0~4の数であるが、Xが-OR1基である場合のmは、0~3であることが好ましく、0~2であることがより好ましく、0又は1であることが更に好ましい。なお、Xが全て水素原子である場合は、n+m=5であることが好ましい。
【0032】
一般式(1)の構造としては、Xはアルコキシ基(例えば、メトキシ基等)であり、nは1又は2であり、mは4又は3であり、かつ、n+m=5であることが好ましい。かかる構造であることによって、レーザー加工時の膜剥がれを抑制できるため、デブリが付着するのを一層効果的に防止することができる。
【0033】
また、紫外線吸収剤の種類の好適例としては、フェルラ酸、2-ヒドロキシけい皮酸、4-ヒドロキシけい皮酸、2,3-ジヒドロキシけい皮酸、及び3,4-ジヒドロキシけい皮酸からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。かかる化合物であることによって、レーザー加工時の膜剥がれを抑制できるため、デブリが付着するのを一層効果的に防止することができる。
【0034】
紫外線吸収剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
本実施形態に係るダイシング用保護膜組成物おける紫外線吸収剤の含有量は、本実施形態の目的を阻害しない範囲であれば特に限定されないが、ダイシング用保護膜組成物中の水溶性樹脂100質量部に対して1~10質量部であることが好ましい。ダイシング用保護膜組成物中の水溶性樹脂100質量部に対する紫外線吸収剤の含有量の下限は、1.5質量部以上であることがより好ましく、2質量部以上であることが更に好ましい。また、ダイシング用保護膜組成物中の水溶性樹脂100質量部に対する紫外線吸収剤の含有量の上限は、8質量部以下であることがより好ましく、7質量部以下であることが更に好ましい。
【0036】
(水溶性樹脂)
【0037】
水溶性樹脂を含有する。水や水性媒体等の溶剤に溶解させて塗布・乾燥することによって、効果的に保護膜を成膜することができる。また、例えば、レーザーアブレーションをはじめとするレーザー加工等、所定の加工を行った後に、水洗によって保護膜を容易に除去することもできる。
【0038】
本明細書における水溶性樹脂の「水溶性」とは、特に断りが無い限り、25℃の水100gに対して、溶質(当該樹脂)が0.5g以上溶解するこという。なお、水溶性樹脂には、加水分解反応や、水性媒体中での塩基による処理を施すことによって、水に対して可溶化させた樹脂も含まれる。例えば、このような反応や処理を施された結果、25℃の水100gに対して、溶質(当該樹脂)が0.5g以上溶解可能となった樹脂も、本明細書でいう「水溶性樹脂」に該当する。
【0039】
ウエハ表面に形成されるダイシング用保護膜は、通常、加工溝の形成後の適切な時点で、水洗によってその表面から除去される。このため、ダイシング用保護膜の水洗性の観点から、水との親和性の高い水溶性樹脂であることが好ましい。そのような観点から、水溶性樹脂の好適例としては、ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、及びセルロース系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、ビニル系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0040】
水溶性樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、通常、100~300000であることが好ましい。この重量平均分子量の下限は、1000以上であることがより好ましく、10000以上であることが更に好ましい。また、この重量平均分子量の上限は、200000以下であることがより好ましく、150000以下であることが更に好ましい。なお、特に断りがない限り、本明細書の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析により得られる、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)をいう。
【0041】
水溶性樹脂の種類は、特に限定されないが、ポリビニルアルコール系樹脂、ビニル系樹脂、及びセルロース系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。かかる水溶性樹脂は、水溶性が高いだけでなく、ダイシング用保護膜組成物中の他の成分との相溶性も高いため、吸光度の経時的な変化及びディフェクト数の経時的な変化を一層効果的に抑制することができる。
【0042】
ポリビニルアルコール系樹脂の具体例としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセタール(酢酸ビニル共重合体も含む)、ブテンジオール・ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアルコールポリアクリル酸ブロック共重合体、ポリビニルアルコールポリアクリル酸エステルブロック共重合体等が挙げられる。これらの中でも、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0043】
ビニル系樹脂としては、ビニル基を有する単量体の単独重合体、又は、ビニル基を有する単量体の共重合体であって、水溶性の樹脂であることが好ましい。ビニル系樹脂の具体例としては、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ-N-ビニルアセトアミド、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリルアミド、ポリ(N-アルキルアクリルアミド)、ポリアリルアミン、ポリ(N-アルキルアリルアミン)、部分アミド化ポリアリルアミン、ポリ(ジアリルアミン)、アリルアミン・ジアリルアミン共重合体、及びポリアクリル酸等からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0044】
セルロース系樹脂としては、セルロース又はセルロース誘導体であり、水溶性を有することが好ましい。セルロース誘導体としては、例えば、セルロースをアルキル基(例えば、メチル基、エチル基等)で修飾したものや、セルロースをヒドロキシアルキル基(例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等)で修飾したもの等が挙げられる。セルロース誘導体の具体例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロース等からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0045】
また、水溶性樹脂の構造としては、下記式(2a-1)で表される構成単位と下記式(2a-2)で表される構成単位とを含む樹脂(2a)、及び下記式(2b)で表される構成単位を含む樹脂(2b)からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂であることが好ましい。これらは、水との親和性が高い官能基を構成単位中に有しており、水溶性が高いだけでなく、ダイシング用保護膜組成物中の他の成分との相溶性も高いため、吸光度の経時的な変化及びディフェクト数の経時的な変化を一層効果的に抑制することができる。
【0046】
【0047】
水溶性樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の好適例としては、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、ビニル系樹脂、及びセルロース系樹脂からなる群より選択される少なくとも2種を含有することが挙げられる。そして、上記した各種樹脂を用いることができる。なお、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂とビニル系樹脂とを2種以上を併用する場合の一例としては、ポリビニルアルコール系樹脂とビニル系樹脂とを含有する場合が挙げられる。そして、ポリビニルアルコール系樹脂とビニル系樹脂とを含有する場合の配合比(質量比)は、特に限定されないが、ポリビニルアルコール:ビニル系樹脂は、10:90~90:10であってもよく、20:80~80:20であってもよい。
【0048】
(ギ酸イオン)
【0049】
本実施形態に係るダイシング用保護膜組成物は、ギ酸イオンを含有し、その含有量が300~6000質量ppmである。ギ酸イオンの含有量の下限は、例えば、ディフェクトの増加の抑制という観点から、300質量ppm以上であることが好ましいが、400質量ppm以上でもよく、350質量ppm以上でもよい。また、この含有量の上限は、例えば、経時安定性の観点から、6000質量ppm以下であることが好ましいが、5900質量ppm以下でもよく、5950質量ppm以下でもよい。なお、上述したディフェクトの増加は、電気特性を悪化させる一因となり得るものであり、ディフェクトの増加を抑制できることは、このような電気特性の悪化を効果的に抑制できるという点でも好ましい。ギ酸イオンの含有量の制御方法は、特に限定されないが、例えば、ギ酸、その塩、及びその他の誘導体等を添加する方法を用いてもよい。
【0050】
(添加剤等)
【0051】
本実施形態に係るダイシング用保護膜組成物は、必要に応じて、その他の公知の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、塩基性化合物、染料、色素、可塑剤、防腐剤、界面活性剤、その他の種々の添加剤が挙げられる。
【0052】
(塩基性化合物)
【0053】
本実施形態に係るダイシング用保護膜組成物は、固形分をより溶解させやすくする目的で塩基性化合物を含んでいてもよい。塩基性化合物としては、無機化合物、及び有機化合物のいずれも用いることができる。
【0054】
塩基性化合物の具体例としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、アンモニア、エチルアミン、n-プロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、ピロール、ピペリジン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセン、1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]-5-ノナン等が挙げられる。
【0055】
(染料)
【0056】
染料としては、水溶性染料であることが好ましい。水溶性染料の具体例としては、例えば、アゾ染料(モノアゾ及びポリアゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、スチルベンアゾ染料、チアゾールアゾ染料)、アントラキノン染料(アントラキノン誘導体、アントロン誘導体)、インジゴイド染料(インジゴイド誘導体、チオインジゴイド誘導体)、フタロシアニン染料、カルボニウム染料(ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、アクリジン染料)、キノンイミン染料(アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料)、メチン染料(シアニン染料、アゾメチン染料)、キノリン染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、ナフタルイミド染料、ペリノン染料、その他の染料等が挙げられる。
【0057】
(色素)
【0058】
色素としては、水溶性色素であることが好ましい。水溶性色素の具体例としては、例えば、食用赤色2号、食用赤色40号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号、食用黄色NY、食用黄色4号タートラジン、食用黄色5号、食用黄色5号サンセットイエローFCF、食用オレンジ色AM、食用朱色No.1、食用朱色No.4、食用朱色No.101、食用青色1号、食用青色2号、食用緑色3号、食用メロン色B、食用タマゴ色No.3等の食品添加用色素が挙げられる。食品添加用色素は、環境負荷が低い観点等から好適である。
【0059】
(可塑剤)
【0060】
可塑剤を用いることで、保護膜のクラックの発生をより効果的に抑制でき、かつ、保護膜の柔軟性、弾性、レーザー加工性等をより効果的に向上させることができる。可塑剤の具体例としては、例えば、単糖類、二糖類等が挙げられる。
【0061】
(防腐剤)
【0062】
本実施形態に係るダイシング用保護膜組成物の防腐効果をより向上させ、かつ、半導体ウエハ洗浄後の廃液の処理負荷をより軽減させる観点から、防腐剤を使用することが好ましい。
【0063】
(界面活性剤)
【0064】
界面活性剤は、例えば、ダイシング用保護膜組成物製造時の消泡性、ダイシング用保護膜組成物の安定性、及びダイシング用保護膜組成物の塗布性等を高めるために使用される。ダイシング用保護膜組成物の製造時の消泡性の観点から、界面活性剤を使用してもよい。界面活性剤としては、水溶性の界面活性剤が好ましく使用できる。界面活性剤としては、例えば、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。
【0065】
保護膜は、例えば、ダイシング用保護膜組成物をスピンコートすることによって成膜される。しかし、保護膜を形成する際に気泡に起因する凹凸が発生する場合がある。このような凹凸の発生を抑制するために、界面活性剤等の消泡剤を使用することができる。
【0066】
(水、有機溶剤)
【0067】
本実施形態に係るダイシング用保護膜組成物は、上述した固形成分を溶解させる観点や、ダイシング用保護膜を水洗によって除去する観点から、水を含有する。水としては、純水、超純水(DIW)、イオン水、蒸留水、精製水等を使用できる。
【0068】
そして、本実施形態に係るダイシング用保護膜組成物は、必要に応じて、水系有機溶剤を更に含有することが好ましい。溶剤としては、水と水系有機溶剤を含有する混合溶剤であることがより好ましい。
【0069】
水系有機溶剤としては、特に限定されないが、グリコール系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、ラクトン系溶剤、エステル系溶剤、スルホン酸系溶剤、アミド系溶剤、及びピロリドン系溶剤からなる群より選択される1種以上であることが好ましく、グリコール系溶剤、及びアルコール系溶剤からなる群より選択される1種以上であることがより好ましい。
【0070】
グリコール系溶剤としては、例えば、グリコール類、グリコールエーテル系溶剤、グリコールエステル系溶剤等が挙げられる。
【0071】
グリコール類の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、フルフリルアルコール、ヘキシレングリコール等が挙げられる。
【0072】
グリコールエーテル系溶剤の具体例としては、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、アルキレングリコールジアルキルエーテル、高分子タイプのポリアルキレングリコールエーテル系溶剤等が挙げられる。
【0073】
アルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル等のエチレン系グリコールモノアルキルエーテル;プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM)、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等のプロピレン系グリコールモノアルキルエーテル等が挙げられる。
【0074】
アルキレングリコールジアルキルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールジヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジヘキシルエーテル等のエチレン系グリコールジアルキルエーテル;プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジプロピルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジブチルエーテル等のプロピレン系グリコールジアルキルエーテル等が挙げられる。
【0075】
ポリアルキレングリコールエーテルとしては、例えば、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン-2-エチルヘキシルエーテル等のポリアルキレングリコールエーテル等が挙げられる。
【0076】
これらの中でも、エチレン系グリコールモノアルキルエーテル、プロピレン系グリコールモノアルキルエーテル、エチレン系グリコールジアルキルエーテル、プロピレン系グリコールジアルキルエーテル等が好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)等がより好ましい。
【0077】
グリコールエステル系溶剤の具体例としては、アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート等が挙げられる。
【0078】
アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートしては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエチレン系グリコールエーテルアセテート類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート等のプロピレン系グリコールエーテルアセテート類等が挙げられる。
【0079】
これらの中でも、エチレン系グリコールエーテルアセテート類、プロピレン系グリコールエーテルアセテート類が好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等がより好ましい。
【0080】
アルコール系溶剤の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、変性エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、n-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール等の脂肪族アルコール類等が挙げられる。
【0081】
ケトン系溶剤の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ダイアセトンアルコール、1-ヘキサノン、2-ヘキサノン、4-ヘプタノン、2-ヘプタノン、1-オクタノン、2-オクタノン、1-ノナノン、2-ノナノン、アセチルアセトン、アセトニルアセトン、フェニルアセトン、アセトフェノン、メチルナフチルケトン、メチルシクロヘキサノン、イオノン、イソホロン、プロピレンカーボネート(炭酸プロピレン)、ジアセトニルアルコール、アセチルカルビノール等が挙げられる。
【0082】
ラクトン系溶剤の具体例としては、γ-ブチロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン、β-プロピオラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-ラウロラクトン、ヘキサノラクトン等が挙げられる。
【0083】
エステル系溶剤の具体例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、メトキシ酢酸エチル、エトキシ酢酸エチル、酢酸2-メトキシブチル(2-メトキシブチルアセテート)、酢酸3-メトキシブチル(3-メトキシブチルアセテート)、酢酸4-メトキシブチル(4-メトキシブチルアセテート)、酢酸3-メトキシ-3-メチルブチル(3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート)、酢酸3-エチル-3-メトキシブチル(3-エチル-3-メトキシブチルアセテート)、4-メチル-4-メトキシペンチルアセテート、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル等が挙げられる。
【0084】
スルホン酸系溶剤の具体例としては、例えば、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、テトラメチレンスルホン、ジプロピルスルホン、スルホラン(別名:テトラメチレンスルホン)、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン、3,4-ジメチルスルホラン、ジフェニルスルホラン、3,4-ジフェニルメチルスルホラン、スルホレン、3-メチルスルホレン、3-エチルスルホレン等が挙げられる。
【0085】
アミド系溶剤の具体例としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド(DEF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチルピロリジン(MPD)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)等が挙げられる。
【0086】
ピロリドン系溶剤の具体例としては、例えば、N-メチルピロリドン(NMP)、2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン等が挙げられる。
【0087】
本実施形態に係るダイシング用保護膜組成物は、上述した水系有機溶剤を1種含有してもよいし、2種以上を含有してもよいが、2種以上の水系有機溶剤を含有することが好ましい。2種以上の水系有機溶剤を含有する場合の好適例としては、上述した各有機溶剤を2種以上選択することができる。
【0088】
なお、水と水系有機溶剤との混合溶剤における組み合わせの一例としては、水と、グリコール系溶剤及びアルコール系溶剤からなる群より選択される少なくとも1種と、を含む混合溶剤であることが好ましく;水と、グリコールエーテル系溶剤、グリコールエステル系溶剤、及びアルコール系溶剤からなる群より選択される少なくとも1種と、を含む混合溶剤であることがより好ましく;水と、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、メタノール、エタノール、変性エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、n-ブタノール、及び3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、からなる群より選択される少なくとも1種と、を含む混合溶剤であることが更に好ましく;水と、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)と、を含む混合溶剤であることがより更に好ましい。
【0089】
そして、水と水系有機溶剤との混合溶剤における両者の混合割合は、特に限定されないが、水と水系有機溶剤の総量100質量部中における水の含有量は、30~99質量部であることが好ましい。この水の含有量の下限は、40質量部以上であることがより好ましく、50質量部以上であることが更に好ましく、60質量部以上であることがより更に好ましく、70質量部以上であることが一層更に好ましい。また、この水の含有量の上限は、95質量部以下であることがより好ましく、90質量部以下であることが更に好ましい。
【0090】
(固形分濃度)
【0091】
本実施形態に係るダイシング用保護膜組成物における固形分濃度は、特に限定されないが、1~90質量%であることが好ましい。固形分濃度の下限は、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましい。また、固形分濃度の上限は、80質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることが更に好ましく、40質量%以下であることがより更に好ましく、30質量%以下であることが一層更に好ましい。なお、固形分濃度の計測においては、ダイシング用保護膜組成物の総量から、溶剤(水、有機溶剤等)を除く成分を「固形分」とする。そして、「固形分濃度」は、ダイシング用保護膜組成物の総量における、ダイシング用保護膜組成物に含有される溶剤以外の成分の総量の割合(ダイシング用保護膜組成物に含有される溶剤以外の成分の総量/ダイシング用保護膜組成物の総量(質量%))である。
【0092】
<ウエハの製造方法、加工方法>
【0093】
本実施形態によれば、上述したダイシング用保護膜組成物を、保護対象である基板等の上に塗布して保護膜(ダイシング用保護膜)を形成させた後、ダイシングを行うことによって、ウエハを製造することができる。かかるウエハの製造方法としては、ウエハの加工面に、上述したダイシング用保護膜組成物を塗布して保護膜を形成する成膜工程と、保護膜を介して加工面にレーザー光を照射して加工を施す加工工程とを含む、ウエハの製造方法であることが好ましい。さらに、加工工程の後に、保護膜を水洗により除去する工程を含むことがより好ましい。
【0094】
そして、本実施形態によれば、上述したダイシング用保護膜組成物を用いたウエハの加工方法としても好適である。かかるウエハの加工方法としては、上述したダイシング用保護膜組成物を塗布して保護膜を形成する成膜工程と、保護膜を介して加工面にレーザー光を照射して加工を施す加工工程とを含む、ウエハの加工方法であることが好ましい。
【0095】
製膜工程における塗布の方法は、特に限定されないが、基板の形状や材質等に応じて、スピンコート、スプレーコート、ダイコート、ロールコート、フローコート、カーテンコート等を採用することができるが、スピンコートによって塗布することが好ましい。さらに、塗布後に、自然乾燥や熱風乾燥等の乾燥工程や、紫外線照射等の光照射工程等の後処理を行ってもよい。
【0096】
スピンコートによって塗布する場合、例えば、(a)スピンコーターのステージ上に固定された塗布対象物(半導体ウエハ等)にダイシング用保護膜組成物を塗布する工程(吐出工程)、(b)ステージを回転させることによって、余分なダイシング用保護膜組成物を遠心力で除去して、薄い膜を成膜する工程(回転処理工程)、(c)スピンコーターからワークを取り外して、自然乾燥、熱風乾燥等によって、薄膜を作製する工程(乾燥工程)を行う。スピンコートは、膜厚偏差が少ない成膜が可能であるという利点や、真空でなくても実施可能であるので成膜コストや成膜速度に優れるという利点等を有するため、好適である。
【0097】
保護膜の膜厚は、特に限定されないが、加工後の水洗による保護膜の除去を容易にすることや、後述するレーザー光の照射に対する保護膜の耐久性を確保すること等から、通常、0.1~100μmであることが好ましい。膜厚の下限は、1μm以上であることがより好ましく、3μm以上であることが更に好ましい。また、膜厚の上限は、50μm以下であることがより好ましく、30μm以下であることが更に好ましく、20μm以下であることがより更に好ましく、10μm以下であることが一層更に好ましい。これに関して、例えば、スピンコートによって保護膜を成膜した場合、上記範囲の膜厚について、成膜性と選択比に優れる成膜をより効果的に行うことが可能である。
【0098】
加工工程では、加工面にレーザー光を照射するレーザーダイシングを行うことが好ましい。レーザーダイシングは、加工対象であるウエハに接触せずに加工を行うことができるため、クラックやチッピング等の不具合を効果的に抑制できる。具体的には、ウエハには、格子状のストリートにより区画された複数の半導体チップが形成されており、加工工程は、保護膜を介してストリートにレーザー光が照射することによって溝を形成する工程であることがより好ましい。この溝は、半導体チップの形状に応じたパターンの加工溝となる。
【0099】
本実施形態に係るダイシング用保護膜組成物及び保護膜によれば、成膜性、加工溝の直進性(加工溝を構成する保護膜の側壁の直進性)、及び、加工溝の断面の矩形性(加工溝を構成する保護膜の断面の矩形性)を良好なものにすることが期待される。加工性に優れると、所望の位置からずれることなく正確に加工することができるので、より高い位置精度で加工することも可能となる。
【0100】
なお、レーザー光は強度の観点から、波長100~400nmである紫外線レーザーであることが好ましい。また、波長266nm、355nm等のYVO4レーザー、YAGレーザーであることが好ましい。
【0101】
加工溝形成工程における上記レーザー光照射は、例えば、以下の加工条件で行うことができる。なお、集光スポット径は加工溝の幅を勘案して、適宜選択できる。
レーザー光の光源 :YVO4レーザー又はYAGレーザー
波長 :355nm
繰り返し周波数:50~100kHz
出力 :0.1~4.0W
加工送り速度 :1~800mm/秒
【0102】
そして、所定のストリートに沿ってレーザー光を照射した後、チャックテーブルに保持されている半導体ウエハをストリートの間隔だけ割り出し移動し、再びレーザー光を照射することができる。このようにして、所定方向に延在する全てのストリートについてレーザー光の照射と割り出し移動とを遂行した後、チャックテーブルに保持されている半導体ウエハを90度回動させる。そして、所定方向に対して直角に延びる各ストリートに沿って、上記と同様にレーザー光の照射と割り出し移動とを実行する。このようにして、半導体ウエハ上の積層体に形成されているストリートに沿って、加工溝を形成することができる。
【0103】
さらに、ウエハの加工面上に設けられた加工溝の位置(ストリートの位置に対応する位置)を切断する切断工程まで行ってもよい。切断工程まで行う場合は、半導体チップの製造方法に好適である。
【0104】
ダイシング工程を行った後、半導体チップの表面を被覆する保護膜を除去する。本実施形態に係るダイシング用保護膜組成物は水溶性樹脂を含有するため、保護膜を水によって効率よく洗い流すことができる。
【0105】
以上、半導体ウエハの製造方法及び加工方法の一例を説明した。本実施形態に係る上記方法によれば、本実施形態に係るダイシング用保護膜組成物により成膜された保護膜を用いることで、ダイシング後の洗浄によってデブリを効果的に洗浄除去できる。特に水によって洗浄する際に好適である。本実施形態に係るダイシング用保護膜組成物は、所定の紫外線吸収剤と、水溶性樹脂とを含有した上で、ギ酸イオンの含有量を所定の割合となるよう制御しているため、ウエハ上に成膜された保護膜が剥がれたり、欠損したりすることを効果的に抑制できる。そして、経時的な吸光度の低下を抑制でき、かつ、経時的なディフェクト数の増加を抑制することもできる。よって、レーザー加工を行う際に意図せず保護膜が剥がれてしまうことも効果的に抑制できる。
【実施例】
【0106】
以下の実施例及び比較例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下において特に断りがない限り、数量は質量基準であり、実験は25℃、大気圧の条件下で行った。
【0107】
<成分>
【0108】
実施例及び比較例で使用した成分の一覧を示す。
・PVA:ポリビニルアルコール(ケン化度75%、クラレ社製、「ポバール(登録商標)PVA5-74LLA」)
・PVP:ポリビニルピロリドン(第一工業製薬社製、「PVP K90」)
・フェルラ酸
・水:DIW(超純水)
・PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル
・ギ酸イオン:所定のギ酸イオン濃度となるようにギ酸を添加した。
【0109】
<ダイシング用保護膜組成物の調製>
【0110】
表1に示す各組成となるように各成分を混合して、ダイシング用保護膜組成物(以下、「薬液」という場合がある。)を調製した。なお、表1中の固形分濃度とは、得られた薬液の含有成分のうち、溶剤を除いた成分の濃度をいう。例えば、実施例1は、PVA100質量部とフェルラ酸5質量部とを含有し、かつ、固形分濃度が20質量%となるように、水とPGMEの混合比(水/PGME)が質量比で80:20である混合溶剤に溶解させた液状のダイシング用保護膜組成物であり、ギ酸イオンの含有量が6000質量ppmであった。また、例えば、実施例13は、PVAとPVPの混合比(PVA/PVP)が質量比で50:50である樹脂100質量部とフェルラ酸5質量部とを含有し、かつ、固形分濃度が15質量%となるように、水とPGMEの混合比(水/PGME)が質量比で80:20である混合溶剤に溶解させた液状のダイシング用保護膜組成物であり、ギ酸イオンの含有量が2000質量ppmであった。
【0111】
(固形分濃度の測定)
【0112】
固形分濃度は、「薬液」に含有される溶剤以外の成分の総量/「薬液」の総量(質量%)とした。
【0113】
(ギ酸イオンの測定)
【0114】
ダイシング用保護膜組成物中のギ酸イオンは、イオンクロマトグラフィーによって定量した。
【0115】
<吸光度の評価>
【0116】
各実施例及び各比較例の薬液を、40℃かつ遮光された環境下でポリエチレン製タンクに所定の期間(初期、2週間、1か月)保管した。そして、吸光度は、紫外可視分光光度計(UV-vis)を用いて、グラム吸光係数(単位:L/g・cm)を採用した。
【0117】
<ディフェクト数の評価>
【0118】
まず、各実施例及び各比較例の薬液を、スピンナーを用いて、シリコン基板(12インチのSi基板)の表面に、2000rpmで120秒間の条件で塗布した。その後、室温で10分間、自然乾燥させて、膜厚1μmの保護膜を形成させた。
【0119】
続いて、保護膜を、純水を用いて300秒間、水リンスした後、乾燥させた。
【0120】
なお、ウエハ欠陥検査装置(KLA-Tencor社製、「Surfscan SP5」)を用いて、最大長径が300nmよりも大きい異物の数をカウントしてディフェクト数とした。計測は、薬液を調製した直後(「初期」)、薬液調製から1週間経過後(「1W」)、及び薬液調製から1か月経過後(「1M」)に、それぞれ行った。そして、実施例1の「初期」(調製直後)のディフェクト数を基準値「1」とし、これに対する相対比として、各実施例及び各比較例のディフェクト数を求めた。なお、「1M(1か月経過後)」の値が、実施例1の「初期」の値の3倍以下に抑えることができていれば、電気特性等の観点から実用に耐え得る程度の特性を期待できるとして、「〇」(合格)と判断した。
【0121】
例えば、実施例2の場合、「初期」のディフェクト数は実施例1の「初期」の1.1倍であり、「2W(2週間経過後)」のディフェクト数は実施例1の「初期」の1.2倍であり、「1M(1か月経過後)」のディフェクト数は実施例1の「初期」の1.3倍であることを示しており、「〇」(合格)であったことを示す。
【0122】
例えば、比較例1の場合、「初期」のディフェクト数は実施例1の「初期」の1.3倍であり、「2W(2週間経過後)」のディフェクト数は実施例1の「初期」の2.2倍であり、「1M(1か月経過後)」のディフェクト数は実施例1の「初期」の3.2倍であることを示しており、「×」(不合格)であったことを示す。
【0123】
各実施例及び各比較例の組成を表1に示し、各実施例及び各比較例の評価結果を表2に示す。
【0124】
【0125】
【0126】
以上より、本実施例に係るダイシング用保護膜組成物によれば、経時的な吸光度の低下を抑制でき、かつ、経時的なディフェクト数の増加を抑制できることが少なくとも確認された。
【要約】 (修正有)
【課題】経時的な吸光度の低下を抑制でき、かつ、経時的なディフェクト数の増加を抑制できるダイシング用保護膜組成物、並びに、これを用いたウエハの製造方法及びウエハの加工方法を提供する。
【解決手段】ダイシング用保護膜組成物は、下記一般式(1)で表される化合物(1)を含む紫外線吸収剤と、水溶性樹脂と、ギ酸イオンと、水と、を含有し、ギ酸イオンの含有量が、300~6000質量ppmである。
式中、Xは、水素原子、-OR
1を表す。R
1は、置換又は無置換の炭素数1~5のアルキル基を表す。nは、1~5の数を表し、mは、0~4の数を表す。
【選択図】なし