(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】細胞の検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20240624BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20240624BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240624BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20240624BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
G01N33/48 M
G01N33/68
G01N33/53 D
C12Q1/04
A61P37/06
(21)【出願番号】P 2020568624
(86)(22)【出願日】2020-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2020003628
(87)【国際公開番号】W WO2020158914
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2019017293
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 新
(72)【発明者】
【氏名】入口 翔一
(72)【発明者】
【氏名】関谷 敬子
(72)【発明者】
【氏名】葛西 義明
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/062827(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0043483(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御性樹状細胞を検出する方法であって、以下の工程:
工程a:制御性樹状細胞を含む細胞集団において、細胞の表面上の
2種以上の分子の存在又は非存在を検出する工程、及び
工程b:該
2種以上の分子の存在又は非存在に基づき制御性樹状細胞を同定する工程
を含み、前記
2種以上の分子が、
CD99及びCD183(N(ネガティブ):P(ポジティブ), P:P, P:N, N:N)、CD99及びCD107a(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD99及びCD366(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD99及びCD200R(N:P, P:P, N:N)、CD99及びCD44(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD99及びCD300c(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD99及びCD50(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD99及びCD84(N:P, P:P, N:N)、CD183及びCD107a(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD183及びCD366(N:P, P:N, N:N)、CD183及びCD44(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD107a及びCD366(N:P, P:P, N:N)、CD107a及びCD200R(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD172a及びCD206(N:P, P:N, N:N)、CD172a及びCD200R(N:P, P:P, N:N)、CD172a及びCD44(N:P, P:N, N:N)、CD200R及びCD44(P:P, P:N, N:N)、CD200R及びCD206(P:P, P:N)、CD44及びCD206(N:P, P:P, N:N)、CD44及びCD300c(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD44及びCD50(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD44及びCD84(N:P, P:P, N:N)、CD181及びCD354(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD300c及びCD50(N:P, P:P, P:N, N:N)、並びにCD50及びCD84(N:P, P:P, P:N, N:N)の組み合せから選択され
る、方法。
【請求項2】
前記制御性樹状細胞を含む細胞集団が、多能性幹細胞を分化誘導することにより得られる細胞集団である、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記多能性幹細胞が、ヒト人工多能性幹細胞である、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
制御性樹状細胞が富化された細胞集団を製造する方法であって、以下の工程:
工程1:制御性樹状細胞を含む細胞集団において、細胞の表面上の
2種以上の分子の存在又は非存在を検出する工程、及び
工程2:該
2種以上の分子の存在又は非存在に基づき制御性樹状細胞が富化された細胞集団を得る工程
を含
み、前記2種以上の分子が、CD99及びCD183(N:P, P:P, P:N)、CD99及びCD107a(P:P, P:N, N:N)、CD99及びCD366(N:N)、CD99及びCD200R(N:P, P:P)、CD99及びCD44(N:P, P:P, P:N)、CD99及びCD300c(P:P, P:N, N:N)、CD99及びCD50(N:P, P:P, P:N)、CD99及びCD84(N:P, P:P)、CD183及びCD107a(P:N, N:N)、CD183及びCD366(P:N, N:N)、CD183及びCD44(N:P, P:P)、CD107a及びCD366(N:P, N:N)、CD107a及びCD200R(N:P, P:P)、CD172a及びCD206(N:N)、CD172a及びCD200R(N:P, P:P)、CD172a及びCD44(N:N)、CD200R及びCD44(P:P, P:N)、CD200R及びCD206(P:P, P:N)、CD44及びCD206(N:N)、CD44及びCD300c(P:P, P:N, N:N)、CD44及びCD50(N:P, P:P, P:N)、CD44及びCD84(P:P, N:P)、CD181及びCD354(N:P, P:P)、CD300c及びCD50(N:P, P:P, N:N)、並びにCD50及びCD84(P:N, P:P)の組み合せから選択される、方法。
【請求項5】
制御性樹状細胞を富化する方法であって、以下の工程:
工程A:制御性樹状細胞を含む細胞集団において、細胞の表面上の
2種以上の分子の存在又は非存在を検出する工程、及び
工程B:該
2種以上の分子の存在又は非存在に基づき制御性樹状細胞を選択する工程
を含
み、前記2種以上の分子が、CD99及びCD183(N:P, P:P, P:N)、CD99及びCD107a(P:P, P:N, N:N)、CD99及びCD366(N:N)、CD99及びCD200R(N:P, P:P)、CD99及びCD44(N:P, P:P, P:N)、CD99及びCD300c(P:P, P:N, N:N)、CD99及びCD50(N:P, P:P, P:N)、CD99及びCD84(N:P, P:P)、CD183及びCD107a(P:N, N:N)、CD183及びCD366(P:N, N:N)、CD183及びCD44(N:P, P:P)、CD107a及びCD366(N:P, N:N)、CD107a及びCD200R(N:P, P:P)、CD172a及びCD206(N:N)、CD172a及びCD200R(N:P, P:P)、CD172a及びCD44(N:N)、CD200R及びCD44(P:P, P:N)、CD200R及びCD206(P:P, P:N)、CD44及びCD206(N:N)、CD44及びCD300c(P:P, P:N, N:N)、CD44及びCD50(N:P, P:P, P:N)、CD44及びCD84(P:P, N:P)、CD181及びCD354(N:P, P:P)、CD300c及びCD50(N:P, P:P, N:N)、並びにCD50及びCD84(P:N, P:P)の組み合わせから選択される、方法。
【請求項6】
請求項
4又は5に記載の方法により得られる制御性樹状細胞が富化された細胞集団。
【請求項7】
CD99及びCD183(N:P, P:P, P:N)、CD99及びCD107a(P:P, P:N, N:N)、CD99及びCD366(N:N)、CD99及びCD200R(N:P, P:P)、CD99及びCD44(N:P, P:P, P:N)、CD99及びCD300c(P:P, P:N, N:N)、CD99及びCD50(N:P, P:P, P:N)、CD99及びCD84(N:P, P:P)、CD183及びCD107a(P:N, N:N)、CD183及びCD366(P:N, N:N)、CD183及びCD44(N:P, P:P)、CD107a及びCD366(N:P, N:N)、CD107a及びCD200R(N:P, P:P)、CD172a及びCD206(N:N)、CD172a及びCD200R(N:P, P:P)、CD172a及びCD44(N:N)、CD200R及びCD44(P:P, P:N)、CD200R及びCD206(P:P, P:N)、CD44及びCD206(N:N)、CD44及びCD300c(P:P, P:N, N:N)、CD44及びCD50(N:P, P:P, P:N)、CD44及びCD84(P:P, N:P)、CD181及びCD354(N:P, P:P)、CD300c及びCD50(N:P, P:P, N:N)、並びにCD50及びCD84(P:N, P:P)の組み合わせから選択される
2種以上の分子を発現する、又は発現しない制御性樹状細胞が富化された細胞集団。
【請求項8】
CD99、CD183、CD107a、CD366、CD172a、CD200R、CD44、CD206、CD181、CD354、CD300c、CD50及びCD84からなる群から選択される少なくとも
2種の分子の各々に対する抗体を含む、
請求項1に記載の方法に使用するための制御性樹状細胞の検出用試薬。
【請求項9】
請求項
6又は7に記載の制御性樹状細胞が富化された細胞集団を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御性樹状細胞を検出する方法、制御性樹状細胞が富化された細胞集団を製造する方法、制御性樹状細胞を富化する方法、制御性樹状細胞が富化された細胞集団、制御性樹状細胞の検出用試薬、及び該制御性樹状細胞が富化された細胞集団を含む医薬組成物に関する。
【0002】
(発明の背景)
樹状細胞は、樹状突起を有しており、主要組織適合性抗原(MHC)クラスII分子を発現する免疫応答の開始時に抗原提示細胞として働く細胞である。樹状細胞は、造血幹細胞よりミエロイド系分化経路を経て未熟樹状細胞へ分化し、更に成熟樹状細胞に至る。
【0003】
微生物、ウイルス、異物等の外来抗原に侵襲された末梢炎症組織では、未熟樹状細胞がこれらを貪食して成熟樹状細胞へ分化し、所属二次リンパ組織に移行する。さらに、成熟樹状細胞は、ナイーブT細胞に抗原刺激と共刺激を与え、抗原特異的エフェクターT細胞を分化誘導し一次免疫応答を惹起する(このような樹状細胞(conventional dendritic cell)は、以後、conDCと称することもある)。
【0004】
一方、炎症環境下においても共刺激分子の発現が低下している樹状細胞が存在し、これらの樹状細胞がT細胞を抑制的に制御して自己組織などに対する免疫寛容を誘導していることが示唆されている。このような樹状細胞は、制御性樹状細胞(regulatory dendritic cell; 以後、regDCと称することもある)と呼ばれている。
【0005】
上述のように、制御性樹状細胞は免疫寛容を誘導することが示唆されているので、制御性樹状細胞の補充及び再生をすることができれば、臓器移植の際の免疫抑制(例えば、免疫抑制剤フリーでの臓器移植の達成)、自己免疫疾患(例えば、炎症性腸疾患)等の幅広い臨床応用が期待できる。そのため、iPS細胞から造血前駆細胞(Hematopoietic Progenitor Cell; 以後、HPCと称することもある)を誘導し、その後、当該HPCからミエロイド前駆細胞(Myeloid Progenitor; 以後、MPと称することもある)を誘導し、次に当該MPから樹状細胞を誘導するなどの試みが行われている。
【0006】
例えば、非特許文献1には、アカゲザルのCD14+単球をGM-CSF、IL-4、ビタミンD3及びIL-10が添加された培地で培養することで、単球由来の未熟樹状細胞を誘導したことが記載されている。また、非特許文献2には、ヒトiPS細胞から樹状細胞を誘導したこと、更には動物由来の成分を含まない(xeno-free)培養でiPS細胞から樹状細胞を誘導する方法を確立したことが記載されている。さらに、非特許文献3には、マウスiPS細胞から制御性樹状細胞を誘導したこと、得られた制御性樹状細胞はインビトロ及びインビボの両方で免疫反応制御作用を示し、インビトロで制御性T細胞の生成能を示したことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】AF Zahorchak et al., Transplantation, 84 (2007);196-206
【文献】S Senju et al., Gene Therapy, 18 (2011), 874-883
【文献】Q Zhang et al., Scientific Reports, 4:3979, DOI:10.1038/srep03979
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、アカゲザルの単球、マウスiPS細胞などから制御性樹状細胞を誘導する方法は報告されているが、このような方法により得られる細胞群にはconDCも含まれている。臨床応用などを考えた場合は、純粋な制御性樹状細胞を用いることが望ましいが、制御性樹状細胞に関する特異的マーカーはこれまで知られておらず、制御性樹状細胞を同定及び分離する方法は未だ確立されていない。
【0009】
本発明は、制御性樹状細胞を検出する方法、制御性樹状細胞が富化された細胞集団を製造する方法、制御性樹状細胞を富化する方法、制御性樹状細胞が富化された細胞集団、制御性樹状細胞の検出用試薬、及び該制御性樹状細胞が富化された細胞集団を含む医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、制御性樹状細胞を含む細胞集団において、特定の細胞の表面上の分子の存在又は非存在を検出し、その結果に基づいて制御性樹状細胞を同定及び分離することが可能となるという知見を得た。
【0011】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の制御性樹状細胞を検出する方法、制御性樹状細胞が富化された細胞集団を製造する方法、制御性樹状細胞を富化する方法、制御性樹状細胞が富化された細胞集団、制御性樹状細胞の検出用試薬、及び医薬組成物を提供するものである。
【0012】
[1] 制御性樹状細胞を検出する方法であって、以下の工程:
工程a:制御性樹状細胞を含む細胞集団において、細胞の表面上の1種以上の分子の存在又は非存在を検出する工程、及び
工程b:該1種以上の分子の存在又は非存在に基づき制御性樹状細胞を同定する工程
を含む方法。
[2] 前記1種以上の分子が、CD99、CD183、CD107a、CD366、CD172a、CD200R、CD44、CD206、CD181、CD354、CD300c、CD50及びCD84からなる群から選択される少なくとも1種の分子である、[1]に記載の方法。
[3] 前記1種以上の分子が、CD99、CD183、CD107a、CD366、CD172a、CD200R、CD44、CD206、CD181、CD354、CD300c、CD50及びCD84からなる群から選択される2種以上の分子である、[1]に記載の方法。
[3-1] 前記1種以上の分子が、CD200R及びCD44である、[1]に記載の方法。
[4] 前記制御性樹状細胞を含む細胞集団が、多能性幹細胞を分化誘導することにより得られる細胞集団である、[1]~[3-1]のいずれか一つに記載の方法。
[5] 前記多能性幹細胞が、ヒト人工多能性幹細胞である、[4]に記載の方法。
[6] 制御性樹状細胞が富化された細胞集団を製造する方法であって、以下の工程:
工程1:制御性樹状細胞を含む細胞集団において、細胞の表面上の1種以上の分子の存在又は非存在を検出する工程、及び
工程2:該1種以上の分子の存在又は非存在に基づき制御性樹状細胞が富化された細胞集団を得る工程
を含む方法。
[7] 前記1種以上の分子が、CD99、CD183、CD107a、CD366、CD172a、CD200R、CD44、CD206、CD181、CD354、CD300c、CD50及びCD84からなる群から選択される少なくとも1種の分子である、[6]に記載の方法。
[8] 前記1種以上の分子が、CD99、CD183、CD107a、CD366、CD172a、CD200R、CD44、CD206、CD181、CD354、CD300c、CD50及びCD84からなる群から選択される2種以上の分子である、[6]に記載の方法。
[8-1] 前記1種以上の分子が、CD200R及びCD44である、[6]に記載の方法。
[9] 制御性樹状細胞を富化する方法であって、以下の工程:
工程A:制御性樹状細胞を含む細胞集団において、細胞の表面上の1種以上の分子の存在又は非存在を検出する工程、及び
工程B:該1種以上の分子の存在又は非存在に基づき制御性樹状細胞を選択する工程
を含む方法。
[9-1] 前記1種以上の分子が、CD99、CD183、CD107a、CD366、CD172a、CD200R、CD44、CD206、CD181、CD354、CD300c、CD50及びCD84からなる群から選択される少なくとも1種の分子である、[9]に記載の方法。
[9-2] 前記1種以上の分子が、CD99、CD183、CD107a、CD366、CD172a、CD200R、CD44、CD206、CD181、CD354、CD300c、CD50及びCD84からなる群から選択される2種以上の分子である、[9]に記載の方法。
[9-3] 前記1種以上の分子が、CD200R及びCD44である、[9]に記載の方法。
[10] [6]~[9-3]のいずれか一項に記載の方法により得られる制御性樹状細胞が富化された細胞集団。
[11] CD99、CD183、CD107a、CD366、CD172a、CD200R、CD44、CD206、CD181、CD354、CD300c、CD50及びCD84からなる群から選択される少なくとも1種以上の分子を発現する、又は発現しない制御性樹状細胞が富化された細胞集団。
[12] CD99、CD183、CD107a、CD366、CD172a、CD200R、CD44、CD206、CD181、CD354、CD300c、CD50及びCD84からなる群から選択される2種以上の分子を発現する、又は発現しない制御性樹状細胞が富化された細胞集団。
[12-1] CD200R及びCD44を発現する、又は発現しない制御性樹状細胞が富化された細胞集団。
[13] CD99、CD183、CD107a、CD366、CD172a、CD200R、CD44、CD206、CD181、CD354、CD300c、CD50及びCD84からなる群から選択される少なくとも1種の分子の各々に対する抗体を含む、制御性樹状細胞の検出用試薬。
[13-1] CD99、CD183、CD107a、CD366、CD172a、CD200R、CD44、CD206、CD181、CD354、CD300c、CD50及びCD84からなる群から選択される2種以上の分子の各々に対する抗体を含む、制御性樹状細胞の検出用試薬。
[13-2] CD200R及びCD44の各々に対する抗体を含む、制御性樹状細胞の検出用試薬。
[14] [10]~[12-1]のいずれか一つに記載の制御性樹状細胞が富化された細胞集団を含む、医薬組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、制御性樹状細胞を含む細胞集団において制御性樹状細胞を検出すること、制御性樹状細胞を含む細胞集団において制御性樹状細胞を富化することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
なお、本明細書において「含む(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。
【0016】
本発明の制御性樹状細胞を検出する方法は、以下の工程を含むことを特徴とする。
工程a:制御性樹状細胞を含む細胞集団において、細胞の表面上の1種以上の分子の存在又は非存在を検出する工程、及び
工程b:該1種以上の分子の存在又は非存在に基づき制御性樹状細胞を同定する工程。
【0017】
本発明の制御性樹状細胞が富化された細胞集団を製造する方法は、以下の工程を含むことを特徴とする。
工程1:制御性樹状細胞を含む細胞集団において、細胞の表面上の1種以上の分子の存在又は非存在を検出する工程、及び
工程2:該1種以上の分子の存在又は非存在に基づき制御性樹状細胞が富化された細胞集団を得る工程。
【0018】
本発明の制御性樹状細胞を富化する方法は、以下の工程を含むことを特徴とする。
工程A:制御性樹状細胞を含む細胞集団において、細胞の表面上の1種以上の分子の存在又は非存在を検出する工程、及び
工程B:該1種以上の分子の存在又は非存在に基づき制御性樹状細胞を選択する工程。
【0019】
本明細書において、「細胞集団(population)」とは、同じ種類又は異なる種類の1以上細胞を意味する。「細胞集団(population)」は、同じ種類又は異なる種類の細胞の一塊(mass)をも意味する。
【0020】
本明細書において、「富化する(enrich)」及び「富化すること(enrichment)」とは、細胞の組成物などの組成物中の特定の構成成分の量を増加させることを指し、「富化された(enriched)」とは、細胞の組成物、例えば、細胞集団を説明するために使用される場合、特定の構成成分の量が、富化される前の細胞集団におけるそのような構成成分の割合と比較して増加している細胞集団を指す。例えば、細胞集団などの組成物を、標的細胞型に関して富化することができ、したがって、標的細胞型の割合は、富化される前の細胞集団内に存在する標的細胞の割合と比較して増加する。本発明の特定の実施形態では、標的細胞集団を富化する方法により、細胞集団が標的細胞集団に関して、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は95%富化される(すなわち、標的細胞集団の割合が増加する)。また、本発明の特定の実施形態では、標的細胞集団を富化する方法により、富化された細胞集団は標的細胞集団を少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%若しくは90%、又は100%含むことになる。
【0021】
本明細書において、「細胞の表面上の1種以上の分子の存在又は非存在」とは、分子が2種以上の場合には、各分子ごとに存在又は非存在が判断されること(例えば、ある分子は存在について、別の分子は非存在について判断される場合など)を意味する(類似の表現についても同様の意味を有する)。
【0022】
本明細書において、「多能性幹細胞(pluripotent stem cell)」とは、胚性幹細胞(ES細胞)及びこれと同様の分化多能性、すなわち生体の様々な組織(内胚葉、中胚葉、外胚葉の全て)に分化する能力を潜在的に有する細胞を指す。ES細胞と同様の分化多能性を有する細胞としては、「人工多能性幹細胞」(本明細書中、「iPS細胞」と称することもある)が挙げられる。
【0023】
本発明において、「制御性樹状細胞」とは、炎症環境下においても共刺激分子の発現が低下している樹状細胞であって、T細胞を抑制的に制御して自己組織などに対する免疫寛容を誘導している細胞を意味し、好ましくはCD11b及びCD11cを発現する(CD11b/cダブルポジティブ)「樹状細胞」の中でインターロイキン10 (IL-10)産生能を発現する細胞である。IL-10産生能を発現する細胞とは、IL-10を実質的に産生する細胞であり、細胞のIL-10の産生は、フローサイトメトリーなど公知の方法で検出することができる。
【0024】
本発明に用いる制御性樹状細胞は、特に制限されず、例えば、公知の手法(例えば、非特許文献1及び3に記載の手法)に従いin vitroで誘導された制御性樹状細胞(例えば、多能性幹細胞を分化誘導することにより得られる制御性樹状細胞)であってもよく、又は生体組織から公知の手法により単離した制御性樹状細胞であってもよい。
【0025】
前記多能性幹細胞としては、例えば、胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)、胚性腫瘍細胞(EC細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)が挙げられ、好ましくはiPS細胞(より好ましくは、ヒトiPS細胞)である。上記多能性幹細胞がES細胞又はヒト胚に由来する任意の細胞である場合、その細胞は胚を破壊して作製された細胞であっても、又は胚を破壊することなく作製された細胞であってもよく、好ましくは、胚を破壊することなく作製された細胞である。
【0026】
「ES細胞」としては、マウスES細胞であれば、inGenious targeting laboratory社、理研(理化学研究所)等が樹立した各種マウスES細胞株が利用可能であり、ヒトES細胞であれば、ウィスコンシン大学、NIH、理研、京都大学、国立成育医療研究センター、Cellartis社などが樹立した各種ヒトES細胞株が利用可能である。たとえば、ヒトES細胞株としては、ESI Bio社が分譲するCHB-1~CHB-12株、RUES1株、RUES2株、HUES1~HUES28株等、WiCell Researchが分譲するH1株、H9株等、理研が分譲するKhES-1株、KhES-2株、KhES-3株、KhES-4株、KhES-5株、SSES1株、SSES2株、SSES3株等を利用することができる。
【0027】
「人工多能性幹細胞」とは、哺乳動物体細胞又は未分化幹細胞に、特定の因子(核初期化因子)を導入して再プログラミングすることにより得られる細胞を指す。現在、「人工多能性幹細胞」には様々なものがあり、山中らにより、マウス線維芽細胞にOct3/4・Sox2・Klf4・c-Mycの4因子を導入することにより、樹立されたiPS細胞(Takahashi K, Yamanaka S., Cell, (2006) 126: 663-676)のほか、同様の4因子をヒト線維芽細胞に導入して樹立されたヒト細胞由来のiPS細胞(Takahashi K, Yamanaka S., et al. Cell, (2007) 131: 861-872.)、上記4因子導入後、Nanogの発現を指標として選別し、樹立したNanog-iPS細胞(Okita, K., Ichisaka, T., and Yamanaka, S. (2007). Nature 448, 313-317.)、c-Mycを含まない方法で作製されたiPS細胞(Nakagawa M, Yamanaka S., et al. Nature Biotechnology, (2008) 26, 101-106)、ウイルスフリー法で6因子を導入して樹立されたiPS細胞(Okita K et al. Nat. Methods 2011 May;8(5):409-12, Okita K et al. Stem Cells. 31(3):458-66.)も用いることができる。また、Thomsonらにより作製されたOCT3/4・SOX2・NANOG・LIN28の4因子を導入して樹立された人工多能性幹細胞(Yu J., Thomson JA. et al., Science (2007) 318: 1917-1920.)、Daleyらにより作製された人工多能性幹細胞(Park IH, Daley GQ. et al., Nature (2007) 451: 141-146)、桜田らにより作製された人工多能性幹細胞(日本国特開2008-307007号公報)等も用いることができる。
【0028】
このほか、公開されているすべての論文(例えば、Shi Y., Ding S., et al., Cell Stem Cell, (2008) Vol3, Issue 5,568-574;Kim JB., Scholer HR., et al., Nature, (2008) 454, 646-650;Huangfu D., Melton, DA., et al., Nature Biotechnology, (2008) 26, No 7, 795-797)、あるいは特許(例えば、日本国特開2008-307007号公報、日本国特開2008-283972号公報、米国特許出願公開第2008/2336610号明細書、米国特許出願公開第2009/047263号明細書、国際公開第2007/069666号、国際公開第2008/118220号、国際公開第2008/124133号、国際公開第2008/151058号、国際公開第2009/006930号、国際公開第2009/006997号、国際公開第2009/007852号)に記載されている当該分野で公知の人工多能性幹細胞のいずれも用いることができる。
【0029】
人工多能性細胞株としては、NIH、理研、京都大学等が樹立した各種iPS細胞株が利用可能である。例えば、ヒトiPS細胞株であれば、理研のHiPS-RIKEN-1A株、HiPS-RIKEN-2A株、HiPS-RIKEN-12A株、Nips-B2株、京都大学の253G1株、201B7株、409B2株、454E2株、606A1株、610B1株、648A1株等が挙げられる。
【0030】
多能性幹細胞を自体公知の方法に供することにより、制御性樹状細胞を製造することができる。多能性幹細胞がiPS細胞である場合、例えば、国際公開第2017/221975号及びCell Reports 2(2012)1722-1735に記載された方法により、造血前駆細胞を製造することができる。そして、例えば、非特許文献1~3に記載された方法により、当該造血前駆細胞からミエロイド前駆細胞を誘導し、次に当該ミエロイド前駆細胞から樹状細胞を誘導することで制御性樹状細胞を製造することができる。
【0031】
また、上記の制御性樹状細胞が単離される生体組織としては、制御性樹状細胞を含有する限り制限されないが、例えば、リンパ節、胸腺、脾臓、腸管、皮膚などが挙げられる。
【0032】
本発明で用いる制御性樹状細胞及び多能性幹細胞は、治療への適用の観点からは、GMP (Good Manufacturing Practice)規格の細胞であることが好ましい。
【0033】
本明細書において、制御性樹状細胞の検出、富化及び/又は分離を可能とする細胞の表面上の分子を「regDCマーカー」と称する。
【0034】
regDCマーカーとしては、CD99、CD183(CXCR3)、CD107a、CD366(Tim3)、CD172a(SIRPa)、CD200R、CD44、CD206(MR)、CD181(CXCR1)、CD354(TREM1)、CD300c、CD50及びCD84からなる群から選択される少なくとも1種の分子が好ましい。regDCマーカーの組み合わせとしては、例えば、2種、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種、10種、11種、12種又は13種の分子の任意の組み合わせが挙げられる。中でも、CD99、CD183、CD107a、CD366、CD172a、CD200R、CD44、CD206、CD181、CD354、CD300c、CD50及びCD84からなる群から選択される2種以上の分子の組み合わせが好ましい。
【0035】
本明細書において、細胞の表面での存在を指標とするマーカーを「regDCポジティブマーカー」と称することがあり、細胞の表面での非存在を指標とするマーカーを「regDCネガティブマーカー」と称することがある。また、本発明において、前記regDCポジティブマーカーが存在する細胞を、regDCマーカー陽性細胞と呼ぶことがあり、例えば、CD200R分子を発現する細胞の場合、CD200R陽性細胞と呼ぶことがある。また、本発明において、前記regDCネガティブマーカーが存在しない細胞を、regDCマーカー陰性細胞と呼ぶことがあり、例えば、CD44分子を発現しない細胞の場合、CD44陰性細胞と呼ぶことがある。
【0036】
本発明において、各regDCマーカーは、regDCポジティブマーカー及びregDCネガティブマーカーのいずれか一方としての使用にのみ限定されるものではない。regDCポジティブマーカー及びregDCネガティブマーカーの両方として使用できる場合としては、例えば、あるregDCマーカーについて、制御性樹状細胞の検出の場合はregDCポジティブマーカーとして使用することができ、制御性樹状細胞の富化の場合はregDCネガティブマーカーとして使用することができることが挙げられる。また、2種のregDCマーカーを組み合わせた検出及び富化の場合には、regDCポジティブマーカー及びregDCネガティブマーカーの組み合わせは4種となるが、この内、制御性樹状細胞の検出及び富化に2種以上の組み合わせが使用できる場合もある(例えば、regDCマーカーA, BについてはA+B+、A-B-、A+B-、A-B+の4種の組み合わせとなるが、この内、2種以上の組み合わせ(例えば、A+B+及びA+B-)が使用可能である場合がある)。また、検出と富化とでは異なる組み合わせが使用できることも挙げられる。これは、3種以上のregDCマーカーの組み合わせを使用する場合にも同様である。
【0037】
regDCマーカーの2種の分子の組み合わせとしては、具体的に以下のものが挙げられる。CD99及びCD183、CD99及びCD107a、CD99及びCD366、CD99及びCD172a、CD99及びCD200R、CD99及びCD44、CD99及びCD206、CD99及びCD181、CD99及びCD354、CD99及びCD300c、CD99及びCD50、CD99及びCD84、CD183及びCD107a、CD183及びCD366、CD183及びCD172a、CD183及びCD200R、CD183及びCD44、CD183及びCD206、CD183及びCD181、CD183及びCD354、CD183及びCD300c、CD183及びCD50、CD183及びCD84、CD107a及びCD366、CD107a及びCD172a、CD107a及びCD200R、CD107a及びCD44、CD107a及びCD206、CD107a及びCD181、CD107a及びCD354、CD107a及びCD300c、CD107a及びCD50、CD107a及びCD84、CD366及びCD172a、CD366及びCD200R、CD366及びCD44、CD366及びCD206、CD366及びCD181、CD366及びCD354、CD366及びCD300c、CD366及びCD50、CD366及びCD84、CD172a及びCD200R、CD172a及びCD44、CD172a及びCD206、CD172a及びCD181、CD172a及びCD354、CD172a及びCD300c、CD172a及びCD50、CD172a及びCD84、CD200R及びCD44、CD200R及びCD206、CD200R及びCD181、CD200R及びCD354、CD200R及びCD300c、CD200R及びCD50、CD200R及びCD84、CD44及びCD206、CD44及びCD181、CD44及びCD354、CD44及びCD300c、CD44及びCD50、CD44及びCD84、CD206及びCD181、CD206及びCD354、CD206及びCD300c、CD206及びCD50、CD206及びCD84、CD181及びCD354、CD181及びCD300c、CD181及びCD50、CD181及びCD84、CD354及びCD300c、CD354及びCD50、CD354及びCD84、CD300c及びCD50、CD300c及びCD84、CD50及びCD84
【0038】
中でも好ましいregDCマーカーの2種の分子の組み合わせとしては、CD99及びCD183、CD99及びCD107a、CD99及びCD366、CD99及びCD200R、CD99及びCD44、CD99及びCD300c、CD99及びCD50、CD99及びCD84、CD183及びCD107a、CD183及びCD366、CD183及びCD44、CD107a及びCD366、CD107a及びCD200R、CD172a及びCD206、CD172a及びCD200R、CD172a及びCD44、CD200R及びCD44、CD200R及びCD206、CD44及びCD206、CD44及びCD300c、CD44及びCD50、CD44及びCD84、CD181及びCD354、CD300c及びCD50、CD50及びCD84が挙げられる。
【0039】
制御性樹状細胞の富化の場合、好ましいregDCマーカーの2種の分子の組み合わせとしては、CD99及びCD183(N(ネガティブ):P(ポジティブ), P:P, P:N)、CD99及びCD107a(P:P, P:N, N:N)、CD99及びCD366(N:N)、CD99及びCD200R(N:P, P:P)、CD99及びCD44(N:P, P:P, P:N)、CD99及びCD300c(P:P, P:N, N:N)、CD99及びCD50(N:P, P:P, P:N)、CD99及びCD84(N:P, P:P)、CD183及びCD107a(P:N, N:N)、CD183及びCD366(P:P, P:N, N:N)、CD183及びCD44(N:P, P:P)、CD107a及びCD366(N:P, N:N)、CD107a及びCD200R(N:P, P:P)、CD172a及びCD206(N:N)、CD172a及びCD200R(N:P, P:P)、CD172a及びCD44(N:N)、CD200R及びCD44(P:P, P:N)、CD200R及びCD206(P:P, P:N)、CD44及びCD206(N:N)、CD44及びCD300c(P:P, P:N, N:N)、CD44及びCD50(N:P, P:P, P:N)、CD44及びCD84(P:P, N:P)、CD181及びCD354(N:P, P:P)、CD300c及びCD50(N:P, P:P, N:N)、CD50及びCD84(P:N, P:P)が挙げられる。なお、括弧内はポジティブマーカー(P)とネガティブマーカー(N)としての好ましい組み合わせを示している(以下も同様である)。例えば、CD99及びCD183(N:P)との記載は、CD99がregDCネガティブマーカー、CD183がregDCポジティブマーカーとして使用されることが好ましいことを示している。
【0040】
より好ましいregDCマーカーの2種の分子の組み合わせとしては、CD99及びCD107a(N:N)、CD99及びCD200R(P:P)、CD99及びCD44(P:P, P:N)、CD99及びCD50(N:P, P:P)、CD183及びCD107a(P:N)、CD107a及びCD366(N:P)、CD172a及びCD200R(N:P, P:P)、CD200R及びCD44(P:N)、CD200R及びCD206(P:N)、CD44及びCD50(N:P, P:P)、CD44及びCD84(N:P)、CD300c及びCD50(N:P, P:P)、CD50及びCD84(P:N, P:P)が挙げられる。
【0041】
更に好ましいregDCマーカーの2種の分子の組み合わせとしては、CD99及びCD50(N:P, P:P)、CD172a及びCD200R(N:P)、CD200R及びCD44(P:N)、CD200R及びCD206(P:N)、CD44及びCD50(N:P, P:P)、CD44及びCD84(N:P)、CD300c及びCD50(N:P, P:P)、CD50及びCD84(P:N, P:P)が挙げられる。
【0042】
更により好ましいregDCマーカーの2種の分子の組み合わせとしては、CD99及びCD50(N:P, P:P)、CD200R及びCD44(P:N)、CD200R及びCD206(P:N)、CD44及びCD50(N:P, P:P)、CD300c及びCD50(N:P, P:P)、CD50及びCD84(P:P)が挙げられる。
【0043】
更により一層好ましいregDCマーカーの2種の分子の組み合わせとしては、CD200R及びCD44(P:N)の組み合わせが挙げられる。
【0044】
制御性樹状細胞の検出の場合、好ましいregDCマーカーの2種の分子の組み合わせとしては、CD99及びCD183(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD99及びCD107a(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD99及びCD366(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD99及びCD200R(N:P, P:P, N:N)、CD99及びCD44(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD99及びCD300c(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD99及びCD50(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD99及びCD84(N:P, P:P, N:N)、CD183及びCD107a(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD183及びCD366(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD183及びCD44(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD107a及びCD366(N:P, P:P, N:N)、CD107a及びCD200R(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD172a及びCD206(N:P, P:N, N:N)、CD172a及びCD200R(N:P, P:P, N:N)、CD172a及びCD44(N:P, P:N, N:N)、CD200R及びCD44(P:P, P:N, N:N)、CD200R及びCD206(P:P, P:N)、CD44及びCD206(N:P, P:P, N:N)、CD44及びCD300c(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD44及びCD50(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD44及びCD84(N:P, P:P, N:N)、CD181及びCD354(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD300c及びCD50(N:P, P:P, P:N, N:N)、CD50及びCD84(N:P, P:P, P:N, N:N)が挙げられる。
【0045】
より好ましいregDCマーカーの2種の分子の組み合わせとしては、CD99及びCD183(N:P)、CD99及びCD107a(N:N)、CD99及びCD366(N:P)、CD99及びCD200R(N:P)、CD99及びCD44(N:N)、CD99及びCD300c(N:N)、CD99及びCD50(N:P)、CD99及びCD84(N:N)、CD183及びCD107a(P:N)、CD183及びCD44(P:N)、CD172a及びCD206(N:N)、CD172a及びCD200R(N:P)、CD172a及びCD44(N:N)、CD200R及びCD44(P:N)、CD200R及びCD206(P:N)、CD44及びCD206(N:N)、CD44及びCD50(N:P)、CD44及びCD84(N:P)、CD181及びCD354(N:P)、CD300c及びCD50(N:P)、CD50及びCD84(P:N)が挙げられる。
【0046】
更に好ましいregDCマーカーの2種の分子の組み合わせとしては、CD99及びCD183(N:P)、CD99及びCD107a(N:N)、CD99及びCD200R(N:P)、CD99及びCD44(N:N)、CD99及びCD50(N:P)、CD183及びCD107a(P:N)、CD183及びCD44(P:N)、CD172a及びCD206(N:N)、CD172a及びCD200R(N:P)、CD172a及びCD44(N:N)、CD200R及びCD44(P:N)、CD200R及びCD206(P:N)、CD44及びCD206(N:N)、CD181及びCD354(N:P)が挙げられる。
【0047】
更により好ましいregDCマーカーの2種の分子の組み合わせとしては、CD172a及びCD200R(N:P)、CD172a及びCD44(N:N)、CD200R及びCD44(P:N)が挙げられる。
【0048】
更により一層好ましいregDCマーカーの2種の分子の組み合わせとしては、CD200R及びCD44(P:N)の組み合わせが挙げられる。
【0049】
本明細書における検出、選択及び同定は、制御性樹状細胞のみを特異的に検出、選択及び同定することを意味するものではなく、regDCマーカーを有する他の種類の細胞も同時に検出、選択及び同定されることも許容されるものである。
【0050】
本発明において、分子が存在するとは、細胞を検出する際に使用する方法で分子を検出できることを意味し、分子が非存在であるとは、細胞を検出する際に使用する方法の検出感度では分子を検出できないことを意味する。
【0051】
制御性樹状細胞を含む細胞集団において、1種以上のregDCポジティブマーカーが存在する、及び/又は1種以上のregDCネガティブマーカーが存在しない細胞を検出及び分離する方法としては、フローサイトメトリー及びマスサイトメトリーを用いた方法、磁気細胞分離法などが挙げられ、これらの方法は、公知の方法を用いて実施することができる。例えば、1種以上のregDCポジティブマーカーが存在する細胞、及び/又は1種以上のregDCネガティブマーカーが存在しない細胞は、当該細胞と各regDCマーカーに特異的に結合する物質(例えば、抗体)とを接触させる工程を含む方法により検出及び分離することができる。上記物質には、それ自体に検出可能な標識(例:GFP)が付加されているもの、及びそれ自体には標識が付加されていないものも含まれる。上記物質が、それ自体に標識が付加されていないものである場合、当該物質を直接又は間接的に認識する検出可能な標識が付加された物質を更に使用することで上記検出及び分離が可能となる。例えば、当該物質が抗体である場合には、蛍光色素、金属同位体又はビーズ(例:磁気ビーズ)を当該抗体に直接的又は間接的に担持させ、それにより細胞表面のregDCマーカーを標識することが可能であり、当該標識に基づいて細胞を検出することが可能である。この際用いる抗体は、1種類のみ、又は2種類以上の抗体であってもよい。
【0052】
また、本発明における「制御性樹状細胞が富化された細胞集団を得る」、「制御性樹状細胞を選択する」とは、制御性樹状細胞を含む細胞集団から、regDCマーカーに基づいて制御性樹状細胞を分離することと同義である。
【0053】
本発明の方法によれば、regDCマーカーを使用することにより、制御性樹状細胞を含む細胞集団において制御性樹状細胞を検出すること、制御性樹状細胞を含む細胞集団において制御性樹状細胞を富化することが可能となる。
【0054】
本発明の細胞集団は、CD99、CD183、CD107a、CD366、CD172a、CD200R、CD44、CD206、CD181、CD354、CD300c、CD50及びCD84からなる群から選択される少なくとも1種以上の分子を発現する、又は発現しない制御性樹状細胞が富化されていることを特徴とする。
【0055】
当該細胞集団は、例えば、前述する本発明の制御性樹状細胞が富化された細胞集団を製造する方法、及び本発明の制御性樹状細胞を富化する方法により得ることができる。
【0056】
本発明において、分子が発現するとは、細胞を検出する際に使用する方法で分子を検出できることを意味し、分子が発現しないとは、細胞を検出する際に使用する方法の検出感度では分子を検出できないことを意味する。
【0057】
本発明の細胞集団における「制御性樹状細胞が富化された」とは、1種以上のregDCポジティブマーカーを発現する、及び/又は1種以上のregDCネガティブマーカーを発現しない制御性樹状細胞の割合(該制御性樹状細胞数/細胞集団に含まれる全細胞数)が、従来の細胞集団よりも高い割合であることを意味する。中でも制御性樹状細胞の割合が、1%以上、2%以上、3以上%、4%以上、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、又は100%であることが好ましい。
【0058】
本発明の細胞集団は、制御性樹状細胞が富化されていることから、優れた免疫寛容誘導作用を有している。
【0059】
本発明の制御性樹状細胞の検出用試薬は、CD99、CD183、CD107a、CD366、CD172a、CD200R、CD44、CD206、CD181、CD354、CD300c、CD50及びCD84からなる群から選択される少なくとも1種の分子の各々に対する抗体を含むことを特徴とする。
【0060】
本発明の検出用試薬が2種以上のregDCマーカーに対する抗体を含む場合、該試薬は、各抗体を別個の試薬中に含む試薬キットとして提供され得る。本発明の検出用試薬に含まれる抗体は、例えば、蛍光色素、金属同位体又はビーズ(例:磁気ビーズ)に結合した形態で提供され得る。また、本発明の試薬は、上記以外の抗体(例えば、制御性樹状細胞を検出可能な他の抗体)などを含み得る。
【0061】
本発明の制御性樹状細胞の検出用試薬は、regDCマーカーに対する抗体を含むので、上記の本発明の制御性樹状細胞を検出する方法、制御性樹状細胞が富化された細胞集団を製造する方法、及び制御性樹状細胞を富化する方法に使用することができる。
【0062】
本発明の医薬組成物は、上記制御性樹状細胞が富化された細胞集団を含むことを特徴とする。
【0063】
本発明の医薬組成物は、このような制御性樹状細胞が富化された細胞集団を含むので、亢進した免疫反応を抑制又は回避することが可能である。
【0064】
本発明の医薬組成物は、公知の手段に従って、有効量の上記制御性樹状細胞が富化された細胞集団を薬学的に許容される担体と混合するなどして、経口/非経口製剤として製造することができる。本発明の医薬組成物は、通常は、注射剤、懸濁剤、点滴剤等の非経口製剤として製造される。薬学的に許容される担体としては、例えば、賦形剤、無痛化剤、緩衝剤、保存料、安定剤、懸濁剤、等張化剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0065】
本発明の医薬組成物の投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。本発明の医薬組成物は、ヒトを含む哺乳動物に対して適用されるものである。
【0066】
本発明の医薬組成物は、臓器移植における拒絶反応、自己免疫疾患(例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎、セリアック病、リウマチ関節炎、全身性エリテマトーデス、乾癬、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、ナルコレプシー、パーキンソン病)、アレルギー疾患(例えば、花粉症、食品アレルギー、薬剤アレルギー、喘息、アトピー性皮膚炎、湿疹、食物過敏症、蕁麻疹、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎)、並びに移植片対宿主病の治療及び/又は予防に有用である。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0068】
実施例1:Ff-I01s04株を用いた検討
造血前駆細胞(HPC)を含む細胞集団として、iPS細胞(Ff-I01s04株)を公知の方法(例えば、Cell Reports, 2(2012), 1722-1735及び国際公開第2017/221975号に記載された方法)に準じて分化させた浮遊細胞集団を用いた。具体的には、超低接着処理された6ウェルプレートにFf-I01s04株を3×105個/ウェルで播種し(Day0)、EB培地(StemPro34に10μg/mlヒトインスリン、5.5μg/mlヒトトランスフェリン、5 ng/ml亜セレン酸ナトリウム、2 mM L-グルタミン、45 mM α-モノチオグリセロール、及び50μg/mlアスコルビン酸を添加)に10 ng/ml BMP4、5 ng/ml bFGF、15 ng/ml VEGF、2μM SB431542を加えて、低酸素条件下(5% 02)にて5日間培養を行った(Day5)。続いて、50 ng/ml SCF、30 ng/ml TPO、10 ng/ml Flt3Lを添加し、さらに5~9日間培養を行い(~Day14)、浮遊細胞集団を得た。なお、培養期間中は2日又は3日ごとに培地交換を行った。
【0069】
次に、制御性樹状細胞(regDC)を含む細胞集団として、上記で得られたHPCを公知の方法(例えば、Transplantation 84: 196-206, 2007, Gene Therapy 18: 874-883, 2011, Scientific Reports 4: 3979, 2014)に準じて分化させた細胞集団を用いた。具体的には6ウェルプレートにHPCを1×105個/ウェルで播種し、DC培地(Macrophage-SFMとCTS OpTmizer T Cell Expansion SFMとを1:1で混合したもの)に20 ng/ml GM-CSF、20 ng/ml M-CSFを加え、11日間培養し(Day14~25)、ミエロイド前駆細胞を得た。なお、培養期間中は3日又は4日ごとに培地交換を行った。得られたミエロイド前駆細胞を6ウェルプレートに1×106個/ウェルで播種し、DC培地に20 ng/ml GM-CSF、20 ng/ml IL-4、20 ng/ml IL-10、20 nM Vitamine D3を加えて、7~8日間培養し(Day25~32、33)、regDCを含む細胞集団を得た。なお、培養期間中に上記サイトカインを2回(Day27とDay28)添加した。regDCを含む上記細胞集団のうち、IL-10産生細胞を同定するために、表1に示す抗体セットを用いて染色した。
【0070】
細胞を96ウェルV底プレートに分注し、300 gにて5分間、室温で遠心した。上清を除去した後に、表面分子に対する抗体と細胞染色バッファー(autoMACS Rinsing Solution、Miltenyi)の混合液100μlとを添加し、4℃にて20分間静置した。その後、細胞染色バッファーを150μl添加し、300 gにて5分間、室温で遠心した。上清を除去し、細胞固定液(Fixation buffer, Biolegend)を100μl添加し、室温にて15分静置した後、細胞内染色バッファー(Intracellular Staining Permeabilization Wash Buffer, Biolegend)を100μl添加し、300 gにて5分間、室温で遠心した。上清を除去し、IL-10抗体と細胞内染色バッファーの混合液とを100μl添加し、室温にて20分静置した。その後、細胞内染色バッファーを150μl添加し、300 gにて5分間、室温で遠心した。上清を除去し、細胞染色バッファーを200μl添加し、5 mlチューブに移し、フローサイトメーターでの解析に用いた。フローサイトメーターFACS LSR Fortessa X20を用いてデータを取得し、FlowJoソフトウェアにてデータを解析した。
【0071】
【0072】
regDCを含む細胞集団中のDCマーカー(CD11b及びCD11c)陽性細胞におけるIL-10産生細胞(regDC)における各表面マーカーの発現分布を解析した。具体的にはそれぞれの抗体セット中の2つのマーカーによってregDCを含む細胞集団を4つ(陰性+陽性、陽性+陽性、陽性+陰性、陰性+陰性)に分画し、その分画中にIL-10産生細胞が含まれる割合を算出した。マーカー候補とそれぞれの分画中のIL-10産生細胞率(それぞれの分画にIL-10産生細胞が含まれる割合)、IL-10産生細胞が各分画中に存在する割合(各分画中におけるIL-10産生細胞のうち、各マーカーを発現する、又は発現しない細胞の割合)、分画割合とを以下の表2~4に示す。表2~4は、それぞれ抗体セット1~3の結果である。
【0073】
分画全体のIL-10産生率は、抗体セット1~3において、それぞれ3.82%、4.06%、1.58%であった。すなわち、分画中のIL-10産生率が分画全体のIL-10産生率より大きければ、IL-10産生細胞(regDC)が富化できていることを示す。また、IL-10産生細胞が各分画中に存在する割合が大きいほど、IL-10産生細胞(regDC)を高精度で検出可能なことを示している。
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
実施例2:TKT3V1-7株を用いた検討
抑制性樹状細胞を含む細胞集団として、iPS細胞(TKT3V1-7株)を実施例1に記載された方法に供して得られた細胞集団を用いた。regDCを含む細胞集団は、以下の表5に示す抗体セットを用いて染色した。
【0078】
【0079】
実施例1と同様の方法で解析し、マーカー候補とそれぞれの分画中のIL-10産生細胞率、IL-10産生細胞が各分画中に存在する割合、分画割合とを以下の表6~10に示す。表6~10は、それぞれ抗体セット4~8の結果である。
【0080】
分画全体のIL-10産生率は、抗体セット4~8において、それぞれ1.77%、2.01%、2.3%、3.48%、3.56%であった。
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】