(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】植物成長促進又は植物保護の能力を有する微生物
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240624BHJP
A01N 63/27 20200101ALI20240624BHJP
A01G 13/00 20060101ALI20240624BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20240624BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20240624BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N1/20 E
A01N63/27
A01G13/00 A
A01G7/00 605Z
C12N15/31 ZNA
(21)【出願番号】P 2020206870
(22)【出願日】2020-12-14
【審査請求日】2023-05-15
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和2年4月7日、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsme2/35/2/35_ME19155/_article https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsme2/35/2/35_ME19155/_pdf/-char/en https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsme2/35/2/35_ME19155/_html/-char/en を通じて発表
【微生物の受託番号】NPMD NITE P-03303
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】竹内 香純
(72)【発明者】
【氏名】染谷 信孝
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-247423(JP,A)
【文献】国際公開第2018/185139(WO,A1)
【文献】特開2017-000088(JP,A)
【文献】Curr. Microbiol.,2016年,Vol.73,pp.346-353
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/20
A01N 63/27
A01G 13/00
A01G 7/00
C12N 15/31
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュードモナス(Pseudomonas)sp. Sm006株(受託番号NITE P-03303)である、微生物。
【請求項2】
請求項
1に記載の微生物を含む、農薬。
【請求項3】
植物成長促進剤または植物保護剤である、請求項
2に記載の農薬。
【請求項4】
リゾクトニア(Rhizoctonia)属菌に関連する植物病に対する植物保護剤である、請求項
3に記載の農薬。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の微生物を植物に接触させる工程を含む、植物の成長促進または植物の保護を行う方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物成長促進又は植物保護の能力を有する新規微生物に関する。より具体的には、本発明は、特定の塩基配列からなる核酸を含む微生物、当該微生物を含む農薬、及び当該微生物を利用した植物の成長促進又は植物の保護を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、植物の成長促進や病原菌からの植物の防除を行うために、化学薬品が多くの場面において使用されている。化学薬品は即効性があるものの、長期使用においては適さない場合も多く、例えば、土壌汚染等のように環境に対する負荷が大きいことであったり、耐性菌の出現や有用微生物への悪影響であったりと、様々な問題点も指摘されている。
【0003】
化学薬品における問題点から、近年では、植物への生物利用が着目されている。植物に対して農業上有用な微生物は土壌中に存在しており、特に植物の根圏において多く生息していることが知られている。有用微生物の利用に関してはこれまでにもいくつかの報告がなされており、例えば、特許文献1~3に示されるような微生物の利用が挙げられる。
【0004】
その一方で、有用微生物の存在は認められるものの、実際に有効利用されているものは極めて限定的である。また、生物機能を利用するが故に、化学農薬と比較して効果が持続的に発揮されないことや農薬としての取り扱いが難しいことなど、生物素材ならではの問題点も多く、使用する微生物の生態や表現型に理解を深めつつ、更なる改良を加えることが望まれている。化学薬品の代替利用が期待されてはいるものの、実際のところは農業現場における微生物利用の普及は進んでいないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-333829号公報
【文献】特表2018-503626号公報
【文献】特表2016-519572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点等に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、優れた植物成長促進能力または植物保護能力を有しており、且つ実用化において利用価値の高い新規な微生物を提供することにある。また、本発明が解決しようとする課題は、当該微生物を利用した効果的な植物の成長促進技術または植物の保護技術を提供することにある。
【課題を解決しようとする手段】
【0007】
本発明者はこれまで、シュードモナス(Pseudomonas)属菌の植物の病害防除を有する系統を明らかにしてきた。かかる知見を利用して、本発明者は、日本国内の植物根圏から分離した3000株を超えるPseudomonas属菌をスクリーニングし、既知の抗菌性物質合成遺伝子の特定の組み合わせから、これまでには報告されていないきわめて有効性の高い新規微生物を単離することに成功した。この新規に得られた微生物を利用して、本発明者は、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、好ましくは以下に記載するような態様により行われるが、これに限定されるものではない。
[態様1]配列番号1で表される塩基配列と95%以上の同一性を有する塩基配列からなる核酸を含む、微生物。
[態様2]シュードモナス(Pseudomonas)属菌である、態様1に記載の微生物。
[態様3]phl遺伝子クラスターを有する、態様1又は2に記載の微生物。
[態様4]hcn遺伝子クラスター、plt遺伝子クラスター、及びprn遺伝子クラスターを有さない、態様1~3のいずれか1に記載の微生物。
[態様5]phz遺伝子クラスターを有さない、態様1~4のいずれか1に記載の微生物。
[態様6]シュードモナス(Pseudomonas)sp. Sm006株(受託番号NITE P-03303)である、態様1~5のいずれか1に記載の微生物。
[態様7]態様1~6のいずれか1に記載の微生物を含む、農薬。
[態様8]植物成長促進剤または植物保護剤である、態様7に記載の農薬。
[態様9]リゾクトニア(Rhizoctonia)属菌に関連する植物病に対する植物保護剤である、態様8に記載の農薬。
[態様10]態様1~6のいずれか1に記載の微生物を植物に接触させる工程を含む、植物の成長促進または植物の保護を行う方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、優れた植物成長促進能力または植物保護能力を有する微生物を提供することができる。また、植物に対するその有用性を利用して、従前の微生物農薬と同等、或いはそれよりも優れた微生物農薬を提供することができる。さらに、本発明の微生物を利用することによって、効果的な植物の成長促進方法または植物の保護方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、シュードモナス属菌処理後4週間目の植物(キュウリ幼苗)の様子を示す写真である。
【
図2】
図2は、シュードモナス属菌処理後4週間目の植物(キュウリ幼苗)の根の重量(左)および長さ(右)示すグラフである(n=18)。
【
図3】
図3は、シュードモナス属菌処理後2週間目の植物(キャベツ幼苗)における苗立枯病(Rhizoctonia solani)の発病率を示すグラフである。左から順に、無処理のコントロール、苗立枯病のみを処理したコントロール、苗立枯病処理区にSm006を処理したものの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明について詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本明細書で特段に定義されない限り、本発明に関連して用いられる科学用語及び技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有するものである。
【0012】
(1)本発明の微生物
本発明は、新規な微生物を提供するものであり、本発明の微生物は、配列番号1で表される塩基配列と95%以上の同一性を有する塩基配列からなる核酸を含むことを特徴とする。
【0013】
本明細書において核酸とは、ヌクレオチドがリン酸エステル結合で連結した高分子を意味し、ポリヌクレオチド及びオリゴヌクレオチドの用語と互換可能に使用される。核酸の構造は、1本鎖及び2本鎖のいずれであってもよく、好ましくは2本鎖である。核酸には、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)及びこれらの混成物(例えば、DNA-RNAのハイブリッド2本鎖、DNA及びRNAが1本鎖に連結されたキメラ核酸)が含まれる。本発明における核酸は、好ましくはデオキシリボ核酸(DNA)である。核酸の構成単位には、主としてアデニン(A)、グアニン(G)等のプリン塩基及びチミン(T)、シトシン(C)、ウラシル(U)等のピリミジン塩基が含まれ、これらの修飾物も含まれる。
【0014】
本発明における核酸は、配列番号1で表される塩基配列と95%以上の同一性を有する塩基配列を含むことを特徴とし、その配列同一性は、好ましくは96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上である。また、本発明の微生物は、上記の核酸を含み、さらに植物成長促進活性または植物保護活性を有することが好ましい。
【0015】
本明細書において塩基配列の同一性とは、対象とする2つの核酸間の塩基配列の同一性をいい、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて作成された塩基配列の最適なアラインメントにおいて一致する塩基の割合(%)によって表される。塩基配列の同一性は、視覚的検査及び数学的計算により決定することができる。また、コンピュータープログラムを用いて同一性を決定することもできる。配列比較コンピュータープログラムとしては、当業者に周知のホモロジー検索プログラム(例えば、BLAST、FASTA)や配列整列プログラム(例えば、Clustal W))、あるいは遺伝情報処理ソフトウェア(例えば、GENETYX(登録商標))などを用いることができる。本明細書における塩基配列の同一性は、具体的には、JSpieciesのウェブサイト(http://imedea.uib-csic.es/jspecies/)で公開されている解析プログラム(BLASTソフトウェアに基づいたJSpeciesプログラム(Richter, M., and Rossello-Mora, R. 2009. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 106:19126-19131.))を用いて、デフォルトの設定条件で求めることができる。
【0016】
本発明の微生物には、細菌、真菌(酵母、糸状菌等)等のあらゆる微生物が含まれる。本発明の微生物は、好ましくは細菌であり、より好ましくはシュードモナス(Pseudomonas)属菌である。シュードモナス属菌としては、シュードモナス フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス プロテゲンス(Pseudomonas protegens)、シュードモナス シリンゲ(Pseudomonas syringae)、シュードモナス クロロラフィス(Pseudomonas chlororaphis)、シュードモナス シンキサンタ(Pseudomonas synxantha)、又はシュードモナス ブラシカセアルム(Pseudomonas brassicacearum)等が挙げられる。本発明の微生物は、既存の種類に属さない新種のシュードモナス属菌であってもよい。
【0017】
本発明における核酸には、好ましくはphl遺伝子クラスターが含まれる。phl遺伝子クラスターは、2,4-ジアセチルフロログルシノール(2,4-Diacetylphloroglucinol(DAPG))の生合成遺伝子phlを含む遺伝子クラスターである。
【0018】
また、本発明における核酸には、hcn遺伝子クラスター、plt遺伝子クラスター、及びprn遺伝子クラスターが含まれないことが好ましい。hcn遺伝子クラスターは、シアン化水素(hydrogen cyanide(HCN))の生合成遺伝子hcnを含む遺伝子クラスターである。また、plt遺伝子クラスターは、ピオルテオリン(pyoluteorin)の生合成遺伝子pltを含む遺伝子クラスターである。また、prn遺伝子クラスターは、ピロールニトリン(pyrrolnitrin)の生合成遺伝子prnを含む遺伝子クラスターである。
【0019】
本発明の微生物は、上述の通り、好ましくはシュードモナス属菌であり、より好ましくは、新規に単離されたシュードモナス(Pseudomonas)sp. Sm006株である。Pseudomonas sp. Sm006株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(National Institute of Technology and Evaluation(NITE)) バイオテクノロジーセンター 特許微生物寄託センター(NPMD) 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8において、受託番号NITE P-03303として寄託されている(受託日:2020年10月21日)。なお、配列番号1で表される塩基配列はPseudomonas sp. Sm006株の全ゲノム配列に相当する。
【0020】
本発明の微生物は、液体培地又は固体培地(寒天培地)を用いて培養することができる。かかる液体培地又は固体培地は、本発明の微生物が増殖可能なものであれば特に限定されず、当業者に周知の培地材料を用いて作製することができる。そのような培地材料としては、例えば、ペプトン類(カゼインペプトン、獣肉ペプトン、心筋ペプトン、ゼラチンペプトン、大豆ペプトン等)、エキス類(肉エキス、酵母エキス等)、無機物(塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、硫酸マグネシウム等)、ビタミン類等が挙げられる。本発明の微生物の培地は、微生物の種類等に応じて適宜含有量を調整して自体公知の方法により作製することができる。また、本発明の微生物の培地には、既に調製済みの市販の液体培地又は固体培地を用いることもできる。本発明の微生物の培養に関する条件(温度、湿度、時間等)も当業者の周知技術に基づいて適宜設定することができる。
【0021】
本発明の微生物の培地の具体例としては、液体培地としてLB培地、NYB培地等が挙げられ、固体培地としてLB寒天培地、キングB培地、NA培地等が挙げられる。また、本発明の微生物は、通常10~40℃の範囲、好ましくは25~30℃の範囲で培養することができ、その培養時間は、通常12時間~2週間、好ましくは1~2日間である。
【0022】
(2)農薬
本発明はまた、上記(1)で説明した本発明の微生物を含む農薬を提供することができる。本発明の農薬は、植物に対して農業上有益な効果をもたらすことができる。本発明の農薬は、本発明の微生物を利用することから微生物農薬又は生物農薬と称することもできる。
【0023】
本発明の農薬は、本発明の微生物の植物成長促進作用を利用することから、植物成長促進剤として有用である。本発明における植物成長促進としては、例えば、植物個体の全体又は一部(当該部分は地上部又は地下部であってよく、個別器官としては、例えば、根、茎、葉、果実、種子、胚、胚珠、子房、茎頂、葯、花粉、又は穂等が挙げられる)の大きさ、重さ、数、長さ、幅、面積又は体積等を増加させることが挙げられるが、特にこれらに限定されない。本発明においては、植物成長の対象とする器官は、根、茎、又は葉であることが好ましく、また、それらの器官の大きさ、重さ、数、長さ、又は幅を増加させることが好ましい。特に、対象器官が根のような地下部の器官であれば、当該器官の成長を促進させることは栄養分の吸収促進につながり、ひいては地上部器官の成長促進にも寄与することとなるため好適である。なお、本明細書において植物成長促進は、植物成長調整の用語と互換可能に用いることができ、それゆえ、本発明における植物成長促進剤は、植物成長調整剤と称することもできる。
【0024】
本発明の微生物の植物成長促進作用(植物成長促進活性)は、上記のような植物成長に関する指標が、本発明の微生物を用いない場合よりも増加したときに当該作用(活性)があると判定することができる。植物成長に関する指標が数値化可能であれば、数値を比較した上で、例えば、1%以上、3%以上、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、又は100%以上の増加が見られた場合に植物成長促進作用(植物成長促進活性)を有すると判定することができる。
【0025】
また、本発明の農薬は、本発明の微生物の植物保護作用を利用することから、植物保護剤として有用である。本明細書において植物保護とは、病原微生物、害虫及び雑草等の有害生物からの植物の保護を意味する。そのため、前記の植物保護剤は、有害生物からの植物の保護剤、又は有害生物の防除剤と換言することもできる。なお、本発明における植物保護能力については、抗菌性のみならず、植物(例えば、根圏、茎、葉等)への定着性や細菌の運動性等も含めた上でその効果の程度が決定される。そのため、たとえ抗菌性が著しく高いとしても、必ずしも植物保護能力も高くなるとは限らない。
【0026】
本発明で対象とされる有害生物は、好ましくは病原微生物であり、より好ましくは糸状菌である。そのような糸状菌としては、例えば、リゾクトニア(Rhizoctonia)属菌(リゾクトニア ソラニ(Rhizoctonia solani)等)、ピシウム(Pythium)属菌(ピシウム ウルティマム(Pythium ultimum)、ピシウム アファニデルマタム(Pythium aphanidermatum)、ピシウム メガラカンタム(Pythium megalacanthum)等)、フザリウム(Fusarium)属菌(フザリウム オキシスポラム(Fusarium oxysporum)、フザリウム グラミネアラム(Fusarium graminearum)、フザリウム ソラニ(Fusarium solani)等)、ティエラビオプシス(Thielaviopsis)属菌等が挙げられる。本発明では、特に限定されないが、リゾクトニア属菌を対象とすることが好ましく、上記の植物保護剤は、リゾクトニア属菌に関連する植物病に対する植物保護剤とすることができる。なお、リゾクトニア属菌の中ではR. solaniを対象とすることが好ましい。
【0027】
リゾクトニア属菌に関連する植物病としては、例えば、根腐病、茎腐病、葉腐病、芽腐病、株腐病、立枯病、苗立枯病、紋枯病、くもの巣病、亀裂褐変症、すそ枯病、せん孔葉枯病、リゾクトニア根腐病、リゾクトニア病、芽枯病、褐色あざ病、乾性根腐病、疑似葉腐病、球茎腐敗病、黒あざ病、腰折病、実腐病、尻腐病、及び白色葉腐病等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明の農薬が適用される植物(成長を促進させる植物または保護する植物)は、特に限定されないが、農産物であることが好ましい。そのような農産物の種類としては、例えば、野菜、穀物、果物、花、及び豆類等が挙げられるが、特にこれらに限定されない。また、その具体例としては、ウリ類(キュウリ、スイカ、カボチャ、ズッキーニ、ヒョウタン、ヘチマ、トウガン、テッポウウリ、ユウガオ、ツルレイシ(ニガウリ、ゴーヤ)、メロン等)、イモ類(ジャガイモ、サツマイモ、サトイモ、ナガイモ、ヤマノイモ等)、根菜類(カブ、ダイコン、ハツカダイコン、ワサビ、ホースラディッシュ、ゴボウ、チョロギ、ショウガ、ニンジン、ラッキョウ、レンコン、ユリ根等)、葉菜類(カラシナ、キャベツ、クレソン、ケール(ハゴロモカンラン)、コマツナ、サイシン、サンチュ、山東菜、シュンギク、シロナ、セリ、セロリ、タアサイ、ダイコンナ(スズシロ)、タカナ、チンゲンサイ、ニラ、菜の花、野沢菜、白菜、パセリ、ハルナ、フダンソウ(スイスチャード)、ホウレンソウ、ミズナ、ミブナ、ミツバ、メキャベツ、ルッコラ、レタス(チシャ)、はなっこりー、ワサビナ等)、果菜類(ナス、ペピーノ、トマト(ミニトマト、フルーツトマト等)、タマリロ、タカノツメ、トウガラシ、シシトウガラシ、ハバネロ、ピーマン(パプリカ、カラーピーマンを含む)、カボチャ、ズッキーニ、キュウリ、ツノニガウリ(キワノ)、シロウリ、ツルレイシ(ゴーヤ、ニガウリ)、トウガン、ヘチマ、ユウガオ、オクラ等)、穀物類(トウモロコシ等)、マメ類(アズキ、インゲンマメ、エンドウ、枝豆(エダマメ)、ササゲ、シカクマメ、ソラマメ、ダイズ、ナタマメ、ラッカセイ、レンズマメ、ゴマ等)、菌茸類(エノキタケ、エリンギ、キクラゲ、キヌガサタケ、シイタケ、シメジ、シロキクラゲ、タモギタケ、チチタケ、ナメコ、ナラタケ、ハタケシメジ、ヒラタケ、ブナシメジ、ブナピー、ポルチーニ、ホンシメジ、マイタケ、マッシュルーム、マツタケ、ヤマブシタケ等)等が挙げられる。
【0029】
本発明の農薬は、好適には種子や幼苗等の生育初期の段階の植物に適用される。また、本発明の農薬は、植物の根、葉、茎、枝、幹又は種子等のいずれの部位にも適用可能であるが、好ましくは根(根圏)又は種子に適用される。
【0030】
本発明の農薬は、賦形剤、増粘剤、結合剤、安定化剤、防腐剤、pH調整剤、着色剤、着香剤等の添加剤を用いて組成物(農薬組成物)とすることができる。各種の添加剤は、農薬の技術分野において公知の材料を用いることができ、その配合量は、当業者の周知技術に基づいて適宜調整することができる。また、本発明の農薬の形態は、液体、固体、ゲル、ペースト等のいずれの形態であってもよく、使用状況等に応じて適宜設定することができる。
【0031】
本発明の農薬における微生物の含有量は、例えば、製剤100g当たり104~1020CFU、好ましくは108~1012CFUであるが、特に限定されない。当該含有量は、微生物の種類、微生物の性質(耐乾燥性など)、適用する植物の種類、製剤の形態等に応じて適宜設定することができる。本発明の農薬には、本発明の微生物をそのまま添加すればよく、その添加方法は特に限定されない。例えば、上述した方法で本発明の微生物を培養し、液体培地であれば遠心分離等で回収し、固体培地であれば形成コロニーを白金耳等で回収して、本発明の農薬に添加することができる。或いは、液体中に保存していた状態から自体公知の方法で凍結乾燥処理を行い、本発明の微生物を固体物として本発明の農薬に添加することができる。
【0032】
(3)植物の成長促進または植物の保護を行う方法
本発明はまた、上記(1)で説明した本発明の微生物を利用した植物の成長促進または植物の保護を行う方法を提供することができる。本発明の方法は、本発明の微生物又は農薬を植物に接触させる工程を含むことを特徴とする。
【0033】
本発明の微生物を植物に接触させる態様は、最終的に本発明の微生物と植物とが接触する限り、如何なる態様も取り得る。その一つの態様は、本発明の微生物を含む液体を目的の植物に接触させることである。当該液体は、目的の植物に対して全体的に散布してもよいし、部分的に塗布を行ってもよい。このとき、例えば粘性が高い液体を利用すれば、植物への定着性が高まり、それにより植物の成長促進効果または保護効果が高くなり得る。特に、種子へのコーティング剤として当該液体を利用すれば、種子の植え始めから長時間にわたって植物の成長促進効果または保護効果を得ることができる。また、本発明の微生物を含む液体は、植物を栽培する土を介して目的の植物に接触させることもできる。例えば、植物が土中にある状態で、その土の上から本発明の微生物を含む液体をかけて、土中にしみ込んだ当該液体を目的の植物に接触させることができる。或いは、本発明の微生物を含む液体と植物を栽培する土とをあらかじめ混合して、その混合物となる土を植物の栽培に用いて本発明の微生物を当該植物に接触させることができる。前述したコーティング剤、及び本発明の微生物を含む液体と植物を栽培する土との混合物は、いずれも本発明の農薬として利用可能である。
【0034】
本発明の微生物を植物に接触させる別の一態様は、本発明の微生物又はこれを含む組成物を固体物として利用して、かかる固体物を目的の植物に接触させることである。例えば、当該固体物は粉体であり、これを噴霧して植物に接触させることができる。粉体は、本発明の微生物を含む液体を自体公知の方法により凍結乾燥処理するなどして作製することができる。
【0035】
本発明の微生物の使用量、接触時間、接触温度等のあらゆる条件は、保護対象とする植物の種類や使用状況等に応じて任意に設定することができ、特に制限されない。
【実施例】
【0036】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の技術的範囲を限定するためのものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾及び変更を加えることができ、それらも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0037】
(1)新規Pseudomonas属菌のスクリーニング
まず、日本国内の圃場から単離された3000株を超えるPseudomonas属菌を準備し、DAPG(2,4-diacetylphloroglucinol)を生産する細菌を調べた。その方法は、DAPG合成遺伝子であるphlDの特異的プライマーPhl2a(5'-GAGGACGTCGAAGACCACCA-3'(配列番号2)及びPhl2b(5'-ACCGCAGCATCGTGTATGAG-3'(配列番号3))を用いてPCRを行った。phlD陽性単離株はdNBYG培地(Duffy and Defago 1999)上で培養し、DAPGの産生はTLC(Keel et al. 1992)により評価した。その結果、全体の菌株の中から47株がスクリーニングされた。
【0038】
次に、これら47株について、他のバイオコントロール因子をコードする遺伝子の有無をさらにPCRにて確認した。当該遺伝子は、prn、plt、hcnとし、PCRに用いたプライマーは下表の通りとした。なお、PRND1及びPRND2はSouza, J. T., and Raaijmakers, J. M. 2003. FEMS Microbiol. Ecol. 43:21-34.、PltBf及びPltBrはMavrodi, O. V., McSpadden Gardener, B. B., Mavrodi, D. V., Bonsall, R. F., Weller, D. M., and Thomashow, L. S. 2001. Phytopathology 91:35-43.、PM2及びPM7-26RはSvercel, M., Duffy, B., and Defago, G. 2007. J. Microbiol. Methods 70:209-213.をそれぞれ参照することができる。
【0039】
【0040】
その結果、全ての因子がポジティブとなったものは7菌株であり、全因子のうちprn及びpltのみがネガティブとなったものは38菌株であった。過去の研究では全ての因子がポジティブとなった菌株を既に入手しており(Cab57株)、これについては全ゲノム解析を実施している。スクリーニングすべき菌株は、本来的には全因子がポジティブである菌株が好ましいように考えられるが、新規なバイオコントロール因子を備えているのではないかという可能性を考えて、prn、plt及びhcnがネガティブとなった2菌株に着目した。そして、後述の通り高い植物保護能力を有する点から、そのうちの1つの菌株を選択した。
【0041】
得られた菌株について全ゲノム解読を行ったところ、全長は6,661,285 bpで、GC量は66.3%であった。近年、全ゲノム配列の比較に基づく細菌種の同定が基準化されており(Richter M, Rossello-Mora R. Shifting the genomic gold standard for the prokaryotic species definition. Proc Natl Acad Sci USA. 2009; 106(45):19126-19131. doi:10.1073/pnas.0906412106およびRodriguez-R LM, Gunturu S, Harvey WT, et al. The Microbial Genomes Atlas (MiGA) webserver: taxonomic and gene diversity analysis of Archaea and Bacteria at the whole genome level. Nucleic Acids Res. 2018; 46(W1):W282‐W288. doi:10.1093/nar/gky467)、分類基準であるAverage Nucleotide Identity (ANI)の値が95%以上であれば同一種と判定されるが、今回ゲノム解読した菌株であるPseudomonas sp. Sm006は、既知の細菌種の中で最も高い値を示したものがPseudomonas resinovorans、Pseudomonas otitidisであり、ANI値は90%以下であった。このことから、本菌株は新種であることが示された。今回得られたPseudomonas属菌(Pseudomonas sp. Sm006株)について、さらに16S rRNAの配列を解析したところ、16S rRNA配列に基づく分類では最も近縁な細菌種はPseudomonas alcaligenesであった。
【0042】
(2)新規単離菌株の植物成長促進能力
新規に単離されたシュードモナス属菌Sm006株の植物成長促進作用を調べるため、以下の通り、植物成長促進能力検定試験を実施した。
【0043】
植物としてキュウリ(品種:新ときわ地這)を用いた。滅菌水をしみ込ませた濾紙の上にキュウリの種子(100粒で2.47 g)を並べ、26℃、24時間、暗黒下に置いた。シュードモナス属菌としてはPseudomonas protegens Cab57株又はPseudomonas sp. Sm006株を使用した。それぞれの菌株について、NAプレート(Blood agar base(Oxoid):40 g、Yeast extract(Oxoid):5 g、H2O:1000 ml)上で得られたシングルコロニーをつまようじでつついて試験管入り2 mL NYB培地(Nutrient broth(Oxoid):25 g、Yeast extract(Oxoid):5 g、H2O:1000 ml)に植菌し、30℃、180 rpm、24時間の条件で振とう培養した。シュードモナス属菌の培養液は、遠心分離して上清を取り除き、OD600 = 0.1になるよう滅菌水で懸濁した。
【0044】
バーミキュライトに水を加えてなじませた。準備したバーミキュライトを、底部に穴があり水が透過可能な育苗用トレイ(1区画あたり5 cm四方、深さ5 cm)に50 mLずつ均等に分けた。発根が確認されたキュウリの種子を2又は3粒ずつバーミキュライトの上にまいた。
【0045】
シュードモナス属菌をキュウリ種子及びその近辺の土に付与した。具体的には、1区画の育苗用トレイに対してシュードモナス属細菌の調整済み水溶液を4 mLずつ、キュウリ種子にめがけて添加し、バーミキュライトをキュウリ種子の上から15 mLずつかぶせた。その後、育苗用トレイを、バットに入った水(育苗用トレイ1区画につき10 mL)の中に浸した。
【0046】
育苗用トレイは、25℃に設定した植物用インキュベーターに入れた。なお、明期は16時間、暗期は8時間に設定した。インキュベーターでの栽培期間は4週間とし、3日おきにバット中の水を交換した。
【0047】
栽培後、キュウリの根の長さ及び重さを測定した。なお、根に付着したバーミキュライトは十分に洗い流した。
【0048】
本実験例の結果を
図1及び
図2に示す。
図1の写真に示される通り、Sm006処理区では根の分量および長さが増大していることが明らかである。また、
図2に示される通り、Sm006処理区では実際に根の重量及び長さが増加していた。
【0049】
(3)新規単離菌株の植物保護能力
新規に単離されたシュードモナス属菌Sm006株の植物保護作用を調べるため、以下の通り、植物病害防除効果検定試験を実施した。
【0050】
苗立枯病菌(Rhizoctonia solani MAFF 726551)をPSA培地(ジャガイモ煮汁(ジャガイモ200 gを800 mlのH2Oで煮たもの)、スクロース:20 g、寒天:20 g)にて、25℃、暗所で7日間培養した。PSA培地上に形成されたコロニーの外縁部を、4 mm径コルクポーラーで打ち抜き、55 mm径ペトリ皿に分注したWA培地(寒天:20 g、H2O:1000 ml)の中心に置床した。その後、WA培地を、25℃、暗所で2週間培養した。
【0051】
植物としてキャベツ(品種:初秋)を用いた。キャベツの種子(100粒で0.54 g)を70%エタノールおよび0.1%次亜塩素酸ナトリウム溶液で表面殺菌し、滅菌ろ紙で水分を除いた。キングB培地(キングB培地“栄研”(栄研化学):38 g、グリセリン:10 g、H2O:1000 ml)上で、暗所、28℃で3日間培養したSm006株のコロニー上に、表面殺菌済みのキャベツ種子を転がして、種子のバクテリゼーション(細菌処理)を行った(1種子あたり、約108~109 CFUの細菌が付着する)。
【0052】
2週間培養した苗立枯病菌の菌叢を含有するWA培地上に、ペトリ皿1枚当たり8粒ずつ、バクテリゼーションされた種子を置床し、滅菌バーミキュライトを覆土した。バクテリゼーションされていない種子を対照区として設定した。各処理区において3枚のペトリ皿(24種子分)を1反復として、3回の反復試験を行った。
【0053】
滅菌したプラントボックス内にペトリ皿を置床して、植物用インキュベーター(28℃)に入れた。なお、明期は16時間、暗期は8時間に設定した。
【0054】
2週間の栽培を行い、栽培を開始してから3日後、5日後、7日後および14日後の時点で、発芽株数および発病程度を確認した。発病程度は以下の式に従って算出した。
発病インデックス:0=無病徴、1=胚軸変色、2=立枯、3=枯死
発病度=(0×n0+1×n1+2×n2+3×n3)/24
(n0、n1、n2及びn3はそれぞれ、発病インデックスが0、1、2及び3の個数を示す)
対照区の発病度を発病率100%として、バクテリゼーション区の発病率を算出した。
【0055】
本実験例の結果を
図3に示す。
図3に示される通り、Sm006処理区は苗立枯病のみを処理したコントロールよりも発病率が低く、Sm006株は優れた植物保護能力を有することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明により提供される技術は、植物として農産物の成長を促進させること、或いは農産物を効果的に有害生物から保護できることの観点から農業分野において有用である。本発明により提供される微生物は農薬分野において利用することができる。
【配列表】