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特許7508174正極活物質に導入されたホウ素の含量及び分布の分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】正極活物質に導入されたホウ素の含量及び分布の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/73 20060101AFI20240624BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240624BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240624BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240624BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20240624BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
G01N21/73
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/36 A
H01M4/36 C
G01N1/10 F
G01N1/28 X
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022571855
(86)(22)【出願日】2021-09-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-22
(86)【国際出願番号】 KR2021011794
(87)【国際公開番号】W WO2022139118
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】10-2020-0181058
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0107445
(32)【優先日】2021-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・へ・ウォン
(72)【発明者】
【氏名】スン・ハグ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ミン・ファン・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ウン・ソン
(72)【発明者】
【氏名】キョンラク・キム
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特許第6685002(JP,B2)
【文献】国際公開第2019/182064(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/039567(WO,A1)
【文献】特開2018-045802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/958
H01M 4/00-4/98
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素が導入された正極活物質試料を準備するステップS1と、
前記正極活物質試料を水に溶解させて第1液層と第1沈殿物とを分離した後、第1液層に酸処理して得た溶液を誘導結合プラズマ分光法(ICP‐OES)で分析してホウ素濃度を測定するステップS2と、
前記第1沈殿物を水に溶解させて第2液層と第2沈殿物とを分離した後、前記第2液層に酸処理して得た溶液をICP‐OESで分析してホウ素濃度を測定するステップS3と、
前記第2沈殿物に酸及び過酸化水素を添加して得た溶液をICP‐OESで分析してホウ素濃度を測定するステップS4と、
を含む、正極活物質に導入されたホウ素の含量の分析方法。
【請求項2】
前記正極活物質試料は、ホウ素含有化合物と正極活物質とを乾式混合した後、焼成を行ったものであり、正極活物質粒子の表面、粒子間境界または粒子内部にホウ素が存在する、請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記ホウ素含有化合物は、HBO、B、CB(OH)、(CO)B、[CH(CHO]B、C119BO、C、及び(CO)Bからなる群から選択される1つ以上の化合物を含む、請求項2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記正極活物質は、下記化学式1で表されるリチウム遷移金属酸化物を含み、
[化学式1]
Li[NiMnCo]O
前記化学式1において、Mは、Al、Zr、Zn、Ti、Mg、Ga及びInからなる群から選択される何れか1つまたは2以上の元素であり、0≦x≦1.0、0≦y≦0.6、0≦z≦0.6及び0≦v≦0.1である、請求項2または3に記載の分析方法。
【請求項5】
前記焼成は、130~300℃の温度で行われる、請求項2から4のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項6】
前記ステップS2と前記ステップS3と前記ステップS4それぞれで使われる酸の含量は、処理対象物1gを基準に0.01~10mLの範囲である、請求項1から5のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項7】
前記ステップS2と前記ステップS3と前記ステップS4それぞれで使われる酸は、塩酸を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の分析方法。
【請求項8】
前記ステップS2から測定されたホウ素濃度を用いて正極活物質粒子の表面にコーティングされたホウ素含量(A)を算出し、
前記ステップS3から測定されたホウ素濃度を用いて正極活物質の粒子間境界に存在するホウ素含量(B)を算出し、
前記ステップS4から測定されたホウ素濃度を用いて正極活物質の粒子内部にドーピングされたホウ素含量(C)を算出することを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2020年12月22日付の大韓民国特許出願10-2020-0181058号及び2021年8月13日付の大韓民国特許出願10-2021-0107445に基づいた優先権の利益を主張し、前記特許文献に開示されたあらゆる内容は、本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、リチウム二次電池に適用される正極活物質に導入されたホウ素の分布態様及び位置別の含量を分析する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウム二次電池は、一般的にリチウムイオンを挿入/放出することができる電極活物質を含む正極と負極、前記2つの電極を分離するための分離膜で構成された電極組立体にリチウムイオンの伝達媒質である電解液が含浸されている構造からなっており、リチウムイオンが電解液を通じて負極と正極との間を往復し、電池の充電と放電とが起こる。
【0004】
このような二次電池は、充放電を繰り返すことによって寿命が落ち、電池内部で電解質が分解されるか、活物質が劣化される問題などが発生する。また、二次電池の電極製造時に、活物質表面に不純物が存在する場合、経時変化及び不純物と電解液との反応によってスウェリング現象が発生する。
【0005】
前記のような問題を克服するために、電極活物質は、多様な物質でコーティングまたはドーピングされる。例えば、リチウム‐ニッケル‐マンガン‐コバルト系酸化物のようなリチウム遷移金属酸化物が正極活物質として使われる場合、ホウ素(boron)をコーティングまたはドーピングして酸素密閉構造を形成することにより、容量減少を遅らせることができる。また、前記正極活物質に含有されたホウ素は、遷移金属と酸素との結合を強化させて構造的安定性を向上させうる。一般的に、正極活物質にホウ素の導入は、正極活物質とホウ酸(HBO)とを混合して高温で焼成して進行し、この際、ホウ素は、正極活物質の内部まで浸透するか、表面と外部とにLi‐B‐O化合物の状態で残る。
【0006】
正極活物質の性能に対するホウ素の影響を評価するためには、活物質の内部及び外部にわたってホウ素の分布態様を把握し、特に、内部まで浸透したホウ素の含量を測定することが重要である。現在、正極活物質の成分分析方法は、酸で前処理した後、誘導結合プラズマ分光法(Inductively Coupled Plasma Optical Emission spectroscopy、ICP‐OES)測定を行うものであって、この場合、酸を用いて構造的に安定した正極活物質の1次粒子の内部に浸透されたホウ素までも定量が可能である。
【0007】
しかし、いまだには正極活物質の内部及び外部を分離して分析する技術は開発されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、リチウム二次電池に適用される正極活物質の性能改善のために導入されたホウ素の分布位置による含量を分析する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面によれば、(ステップS1)ホウ素が導入された正極活物質試料を準備する段階;(ステップS2)前記正極活物質試料を水に溶解させて第1液層と第1沈殿物とを分離した後、第1液層に酸処理して得た溶液を誘導結合プラズマ分光法(ICP‐OES)で分析してホウ素濃度を測定する段階;(ステップS3)前記第1沈殿物を水に溶解させて第2液層と第2沈殿物とを分離した後、前記第2液層に酸処理して得た溶液をICP‐OESで分析してホウ素濃度を測定する段階;及び(ステップS4)前記第2沈殿物に酸及び過酸化水素を添加して得た溶液をICP‐OESで分析してホウ素濃度を測定する段階;を含む正極活物質に導入されたホウ素の含量分析方法が提供される。
【0010】
さらに、本発明は、前記分析方法でホウ素含量が確認された二次電池用正極活物質であって、リチウム遷移金属酸化物にホウ素が導入されて、前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面、粒子間境界及び粒子内部の1つ以上にホウ素が存在する二次電池用正極活物質を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リチウム二次電池用正極活物質の性能改善のために導入されたホウ素を分布位置による水及び酸の溶解度の差を用いて順次に抽出及び分析することにより、正極活物質に対するホウ素の分布態様を通じて正極活物質の性能改善に必要なホウ素の最適含量を確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】正極活物質に導入されたホウ素の分布態様を例示した図面である。
図2】実施例による分析過程で正極活物質試料の水に対する溶解時間によるホウ素及びリチウムの抽出結果を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を図面を参照して詳しく説明する。本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語や単語は、通常の、または辞書的な意味として限定して解釈されてはならず、発明者は、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義できるという原則を踏まえて、本発明の技術的思想に符合する意味と概念として解釈されなければならない。
【0014】
また、本明細書に記載の実施例と図面とに示された構成は、本発明の最も望ましい一実施例に過ぎず、本発明の技術的思想をいずれも代弁するものではないので、本出願時点において、これらを代替しうる多様な均等物と変形例とがあるということを理解しなければならない。
【0015】
本発明の一実施形態は、リチウム二次電池用正極活物質の性能改善のために導入されたホウ素の分布位置による含量を分析する方法に関したものである。
【0016】
以下、前記方法を段階別に詳しく説明する。
【0017】
まず、ホウ素が導入された正極活物質試料を準備する(ステップS1)。
【0018】
具体的に、前記正極活物質試料は、ホウ素含有化合物と正極活物質とを乾式混合した後、高温で焼成して製造することができる。
【0019】
前記ホウ素含有化合物は、HBO、B、CB(OH)、(CO)B、[CH(CHO]B、C119BO、C、及び(CO)Bからなる群から選択される1つ以上の化合物を含みうる。
【0020】
前記正極活物質は、下記化学式1で表されるリチウム遷移金属酸化物を含みうる。
【0021】
[化学式1]
Li[NiMnCoMv]O
【0022】
前記化学式1において、Mは、Al、Zr、Zn、Ti、Mg、Ga及びInからなる群から選択される何れか1つまたは2以上の元素であり、0≦x≦1.0、0≦y≦0.6、0≦z≦0.6及び0≦v≦0.1である。
【0023】
また、前記焼成は、ホウ素含有化合物の融点付近である130~300℃、具体的に、130~200℃で3~10時間行われる。前記焼成温度を満足して初めてホウ素含有化合物が十分に溶融されながら、過度な温度による不均一な反応を防止することができる。
【0024】
前記焼成過程を経れば、ホウ素は、正極活物質の表面にコーティングされるか、内部まで浸透して正極活物質の1次粒子または2次粒子の間に分散される。図1を参照する時、ホウ素は、正極活物質に導入されて表面のコーティング層(A)、粒子間境界(grain boundary)(B)または粒子内部(lattice)(C)に存在しながら、LiBO、LiBのようなホウ素リチウム酸化物を形成しうる。
【0025】
このようなホウ素は、正極活物質内の分布位置によって水に対する溶解度が変わりうる。例えば、前記正極活物質のコーティング層(A)に存在するホウ素は、水に溶解されやすく、粒子間境界(B)に存在するホウ素は、長時間にわたって水に溶解され、粒子内部(C)までドーピングされたホウ素は、水に溶解されにくくて、酸処理を通じて溶解させることができる。したがって、本発明では、前記正極活物質試料に存在するホウ素を分布位置別の溶解度の差を用いて順次に抽出する。
【0026】
具体的に、前記正極活物質試料を水に溶解させて第1液層と不溶分である第1沈殿物とを分離した後、第1液層を酸で処理する(ステップS2)。この際、前記試料の水に対する溶解は、常温で1~10分間行われる。
【0027】
前記第1液層は、正極活物質の表面にコーティングされたホウ素が水に早く溶解された結果物であり、前記第1液層の酸処理は、残余ホウ素の溶解を誘導するために行う。また、前記酸処理を通じてホウ素の単一抽出時と均等な酸濃度及び溶液粘度を保持することができる。
【0028】
前記第1液層の酸処理された溶液を誘導結合プラズマ分光法(ICP‐OES)で分析してホウ素濃度を測定することができる。前記ICP‐OESは、当分野で通常の方式、例えば、下記の実施例に例示された条件下で行われる。前記測定されたホウ素濃度を用いて正極活物質粒子の表面にコーティングされたホウ素含量(A)を算出することができる。
【0029】
引き続き、前記正極活物質試料の粒子間境界に存在するホウ素を抽出するために、前記第1沈殿物を水に溶解させて第2液層と不溶分である第2沈殿物とを分離した後、前記第2液層を酸で処理する(ステップS3)。この際、前記第1沈殿物の水に対する溶解は、常温で1~10時間行われる。
【0030】
前記第2液層の酸処理された溶液をICP‐OESで分析してホウ素濃度を測定し、該測定されたホウ素濃度を用いて正極活物質の粒子間境界に存在するホウ素含量(B)を算出することができる。
【0031】
次いで、前記正極活物質試料の粒子内部にドーピングされたホウ素を抽出するために、前記第2沈殿物に酸及び過酸化水素を添加して溶解させる(ステップS4)。この際、前記第2沈殿物の溶解は、1~5時間行われる。
【0032】
前記第2沈殿物の酸及び過酸化水素処理された溶液をICP‐OESで分析してホウ素濃度を測定し、該測定されたホウ素濃度を用いて正極活物質の粒子内部にドーピングされたホウ素含量(C)を算出することができる。
【0033】
このような順次的な過程で抽出及びICP‐OES分析を経て算出された活物質粒子内部のホウ素含量(C)は、下記数式1による値に相応する:
【0034】
[数式1]
粒子内部のホウ素含量(C)=試料に含まれた全ホウ素含量(D)-(コーティング層のホウ素含量(A)+粒子間境界のホウ素含量(B))
【0035】
前記分布位置別にホウ素を抽出する段階で、前記第1液層、第2液層及び第2沈殿物に使用可能な酸は、塩酸であり、前記酸は、各処理対象物1gを基準に0.01~10mL、望ましくは、5~10mLの範囲で使われる。
【0036】
一方、前記過酸化水素は、酸によってまだ溶解されていない残量のホウ素を抽出するために使用したものであって、酸と過酸化水素は、1:0.3~1:0.7、例えば、1:0.5の体積比で使われる。
【0037】
前記のように、正極活物質に導入されたホウ素を水及び酸の溶解度の差を用いて順次に抽出して分析する場合、正極活物質内のホウ素の分布態様によって位置別に存在するホウ素の定量が可能であって、ホウ素の投入量に比べて、性能改善の相関性を把握することができ、これにより、実際の正極材の性能改善に寄与するホウ素の最適含量を確認することができる。
【0038】
したがって、本発明は、前記分析方法でホウ素含量が確認された二次電池用正極活物質であって、リチウム遷移金属酸化物にホウ素が導入されて、前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面、粒子間境界及び粒子内部の1つ以上にホウ素が存在する二次電池用正極活物質をさらに提供する。
【0039】
本発明による正極活物質で、前記リチウム遷移金属酸化物粒子の表面には、導入された全ホウ素の重量を基準に80~100%のホウ素、粒子間境界に0~1%のホウ素、及び粒子内部に0~20%のホウ素が存在する。
【0040】
以下、本発明の理解を助けるために、実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明による実施例は、いろいろ他の形態に変形され、本発明の範囲が、下記の実施例に限定されるものと解釈されてはならない。本発明の実施例は、当業者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0041】
実施例1:正極活物質に導入されたホウ素の分布位置別の抽出及び含量分析
(段階1)正極活物質試料の準備
正極活物質としてLiNi0.78Mn0.11Co0.11及びホウ素含有化合物でHBOを乾式混合機(CYCLOMIX、HOSOKAWA Micron Coorporation)に入れて混合した後、得られた粉末を150℃で5時間焼成した。このような過程で正極活物質にホウ素が導入された試料3個を収得し、各試料には、正極活物質及びホウ素含有化合物を下記表1に示した含量を適用した。
【0042】
(段階2)正極活物質のコーティング層に存在するホウ素の抽出及び含量測定
前記段階1から得た3個の試料のそれぞれに対して0.1gを分取してバイアルに入れ、これに超純水20gを添加した後、常温で5分間振って溶解させた。生成された溶液を静置させて第1液層と第1沈殿物(不溶分)とを分離し、0.45μmのフィルターで濾過した。
【0043】
濾過後、前記第1液層10gに濃い塩酸0.5mL及び内部標準溶液(Sc 1000μg/mL)0.1mLを添加して得た溶液をICP‐OESで分析した。この際、ICP‐OES(AVIO500、Perkin Elmer)を下記の条件で作動させた:純方向電力(Forward Power)1300W;トーチ高さ(Torch Height)15mm;プラズマガス流れ15.00L/min;試料ガス流れ0.8L/min;補助ガス流れ0.20L/min及びポンプ速度1.5mL/min。
【0044】
前記ICP‐OESで測定されたホウ素の濃度から正極活物質のコーティング層に存在するホウ素の含量(A)を算出した。
【0045】
(段階3)正極活物質の粒子間境界に存在するホウ素の抽出及び含量測定
前記段階2から分離された第1沈殿物(不溶分)0.1gをバイアルに入れ、これに超純水20gを添加した後、常温で5時間振って溶解させた。生成された溶液を静置させて第2液層と第2沈殿物(不溶分)とを分離し、0.45μmのフィルターで濾過した。
【0046】
濾過後、前記第2液層10gに濃い塩酸0.5mL及び内部標準溶液(Sc 1000μg/mL)0.1mLを添加して得た溶液に対して段階2と同じ条件でICP‐OES分析を行った。
【0047】
前記ICP‐OESで測定されたホウ素の濃度から正極活物質の粒子間境界に存在するホウ素の含量(B)を算出した。
【0048】
(段階4)正極活物質の粒子内部に存在するホウ素の抽出及び含量測定
前記段階3から分離された第2沈殿物(不溶分)0.1gをバイアルに入れ、濃い塩酸1mL及び過酸化水素0.5mLを添加した後、常温で3時間溶解させ、溶解過程で気泡と熱とが発生した。
【0049】
前記得られた溶液に内部標準溶液(Sc 1000μg/mL)0.1mLを添加し、段階2と同じ条件でICP-OES分析を行った。
【0050】
前記ICP-OESで測定されたホウ素の濃度から正極活物質の粒子内部に存在するホウ素の含量(C)を算出した。
【0051】
比較例1:正極活物質に導入されたホウ素の単一抽出及び含量分析
実施例の段階1から得た3個の試料に対して、それぞれ0.1gを分取してバイアルに入れ、濃い塩酸1mL及び過酸化水素0.5mLを添加した後、常温で3時間溶解させ、溶解過程で気泡と熱とが発生した。
【0052】
前記得られた溶液に内部標準溶液(Sc 1000μg/mL)0.1mLを添加し、段階2と同じ条件でICP‐OES分析を行った。
【0053】
前記ICP‐OESで測定されたホウ素の濃度から正極活物質に導入されたホウ素の含量(D)を算出した。
【0054】
前記実施例及び比較例による分析結果を下記表1に示した。
【0055】
【表1】
【0056】
前記表1から、試料製造時に使用したホウ素含量が同一であるとしても、ホウ素と活物質との間の反応性によって、各試料内のコーティングまたはドーピングされたホウ素含量が変わり(特に、試料1の場合には、ホウ素原料の秤量時に、重量誤差またはホウ素の純度によってホウ素導入量に比べて、活物質内の含量が異なると把握される)、このようなホウ素を活物質内の分布位置による水及び酸の溶解度の差を用いて順次に抽出することにより、内部まで浸透したホウ素の含量を測定することができた。すなわち、試料1は、正極活物質に導入されたホウ素のほとんどが表面のコーティング層(A)に存在し、試料2及び試料3は、導入されたホウ素がコーティング層(A)、粒子間境界(B)及び粒子内部(C)に分散されて分布されているということを確認することができ、このようなホウ素の分布態様を通じて正極活物質の性能改善に必要なホウ素の最適含量を確認することができる。
【0057】
また、比較例の結果を参照する時、正極活物質の粒子内部に存在するホウ素含量(C)は、下記数式1による値に相応すると確認された。
【0058】
[数式1]
粒子内部のホウ素含量(C)=試料に含まれた全ホウ素含量(D)-(コーティング層のホウ素含量(A)+粒子間境界のホウ素含量(B))
【0059】
したがって、実施例1でのように、正極活物質に導入されたホウ素を分布位置別に抽出して分析する場合、正極活物質内のホウ素の分布態様によって位置別に存在するホウ素の定量が可能であって、ホウ素の投入量に比べて、性能改善の相関性を把握することができ、これにより、実際の正極材の性能改善に寄与するホウ素の最適含量を確認することができる。
【0060】
実施例2:
ホウ素が導入された正極活物質の水に対する溶解時間によるホウ素及びリチウムの抽出含量を確認するために、LiNi0.78Mn0.11Co0.11及びHBOを実施例1の段階1のような乾式混合及び焼成で試料(ホウ素1000mg/正極活物質1kg)を製造した後、前記試料0.1gを分取してバイアルに入れ、これに超純水20gを添加した後、常温で溶解させ、溶出時間別に実施例1と同じ条件でICP‐OES分析を行った。
【0061】
その結果として、溶解時間によるホウ素及びリチウムの含量を表2及び図2に示した。
【0062】
【表2】
【0063】
前記表2及び図2から、ホウ素は、溶出時間による含量(抽出濃度)の差が大きくなくて、ほとんどがコーティングの形態で存在する一方、リチウムは、溶出時間による含量(抽出濃度)の勾配が3段階に区分されることを確認することができ、リチウムの結果は、実施例1で使われた試料2及び試料3の結果と類似している。このような結果は、正極活物質に高濃度で適用されたリチウムは、溶解速度によって活物質粒子内に分布する態様が他の間接的証拠として活用される。リチウム成分の溶解速度が区分されることは、NCM系正極活物質(Li[Ni/Co/Mn]O)の構造からリチウムが一部脱離されて溶解されたと推定される。
図1
図2