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特許7508275研磨用組成物、研磨方法および半導体基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】研磨用組成物、研磨方法および半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20240624BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240624BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20240624BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550C
C09K3/14 550Z
H01L21/304 622A
B24B37/00 H
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020095479
(22)【出願日】2020-06-01
(65)【公開番号】P2021127442
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2019165111
(32)【優先日】2019-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020032253
(32)【優先日】2020-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】前 僚太
(72)【発明者】
【氏名】大西 正悟
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/132676(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C09G 1/02
H01L 21/304
H01L 21/463
B24B 3/00 - 3/60
B24B 21/00 - 39/06
C01B 33/00 - 33/193
C01F 1/00 - 17/00
G11B 5/84 - 5/858
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、塩基性無機化合物と、アニオン性水溶性高分子と、分散媒とを含み、
前記砥粒のゼータ電位が、マイナスであり、
前記砥粒のアスペクト比が1.1を超え、
レーザー回折散乱法により求められる前記砥粒の粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径D90と、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の50%に達するときの粒子の直径D50との比D90/D50が、1.3を超
酸化剤をさらに含む、研磨用組成物。
【請求項2】
酸化ケイ素を含む研磨対象物を研磨する用途で用いられる、請求項1に記載の研磨用組成物
【請求項3】
砥粒と、塩基性無機化合物と、アニオン性水溶性高分子と、分散媒とを含み、
前記砥粒のゼータ電位が、マイナスであり、
前記砥粒のアスペクト比が1.1を超え、
レーザー回折散乱法により求められる前記砥粒の粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径D90と、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の50%に達するときの粒子の直径D50との比D90/D50が、1.3を超え、
酸化ケイ素を含む研磨対象物を研磨する用途で用いられる、研磨用組成物。
【請求項4】
前記アニオン性水溶性高分子が、ポリアクリル酸系高分子およびポリメタクリル酸系高分子からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記アニオン性水溶性高分子の分子量が、5,000以上6,000,000以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
pHが、9以上である、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記砥粒が、コロイダルシリカを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
レーザー回折散乱法により求められる前記砥粒の粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の50%に達するときの粒子の直径D50が、50nm以上である、請求項に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
前記砥粒が、アルミナを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項10】
レーザー回折散乱法により求められる前記砥粒の粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の50%に達するときの粒子の直径D50が、100nm以上である、請求項に記載の研磨用組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、研磨対象物を研磨する工程を含む、研磨方法。
【請求項12】
請求項11に記載の研磨方法を有する、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物、研磨方法および半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、物理的に半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカやアルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法であり、具体的には、シャロートレンチ分離(STI)、層間絶縁膜(ILD膜)の平坦化、タングステンプラグ形成、銅と低誘電率膜とからなる多層配線の形成などの工程で用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルキレンオキシド付加された水溶性高分子と、ポリアクリル酸と、砥粒とを含む研磨用組成物が開示されている。この技術によれば、高い研磨速度で研磨しつつ、かつ研磨に伴う研磨対象物の研磨表面における傷の発生を抑制することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-185516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、研磨速度の向上が未だ不十分であるという問題があることがわかった。
【0006】
したがって、本発明は、研磨対象物を高い研磨速度で研磨することができる研磨用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を積み重ねた。その結果、砥粒と、塩基性無機化合物と、アニオン性水溶性高分子と、分散媒とを含み、前記砥粒のゼータ電位が、マイナスであり、前記砥粒のアスペクト比が、1.1を超え、レーザー回折散乱法により求められる前記砥粒の粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径D90と、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の50%に達するときの粒子の直径D50との比D90/D50が、1.3を超える、研磨用組成物により、上記課題が解決することを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、研磨対象物を高い研磨速度で研磨できる研磨用組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。なお、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、「X以上Y以下」を意味する。
【0010】
<研磨用組成物>
本発明は、研磨対象物を研磨するために用いられる研磨用組成物であって、砥粒と、塩基性無機化合物と、アニオン性水溶性高分子と、分散媒とを含み、前記砥粒のゼータ電位が、マイナスであり、前記砥粒のアスペクト比が1.1を超え、レーザー回折散乱法により求められる前記砥粒の粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径D90と、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の50%に達するときの粒子の直径D50との比D90/D50が、1.3を超える、研磨用組成物である。
【0011】
本発明の研磨用組成物により、上記効果を奏する理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
【0012】
研磨用組成物は、一般に、基板表面を摩擦することによる物理的作用および砥粒以外の成分が基板の表面に与える化学的作用、ならびにこれらの組み合わせによって研磨対象物を研磨するものである。これにより、砥粒の形態や種類は研磨速度に大きな影響を与えることとなる。
【0013】
本発明の研磨用組成物は、所定の形状と所定の粒度分布とを有する砥粒を含有する。すなわち、研磨用組成物に用いられる砥粒は、アスペクト比が1.1を超えることから異形状の粒子からなり、さらにD90/D50が1.3を超えることにより粒度分布が広い粒子からなる。砥粒が異形状の粒子であることから、研磨面における転がりが抑制され、研磨面に留まり、機械的力を十分に加えることができ、好適に研磨することができる。さらに、砥粒の粒度分布が広いことから、相対的に小さなサイズの砥粒と、相対的に大きなサイズの砥粒とが存在する。相対的に小さなサイズの砥粒は、相対的に大きなサイズの砥粒と接触することで研磨面における転がりが抑制される。その結果、相対的に小さなサイズの砥粒は、研磨の際に、研磨対象物へと機械的力を十分に加えることができるようになり、研磨対象物の研磨速度をより向上させることができる。
【0014】
また、本発明の研磨用組成物に含まれる砥粒は、ゼータ(ζ)電位がマイナスである。換言すれば、研磨用組成物中、ゼータ電位がマイナスである砥粒が用いられる。ここで、本発明の研磨用組成物に含まれるアニオン性水溶性高分子は、高分子であるため研磨パッド(例えば、ポリウレタン)表面に付着しやすい。アニオン性水溶性高分子が研磨パッド表面に付着することにより、研磨パッド表面のゼータ電位はマイナスとなる。具体的には、パット表面のゼータ電位がプラス側だった場合はアニオン性水溶性高分子の付着によりゼータ電位がマイナス側に移行し、パット表面のゼータ電位がマイナス側だった場合はアニオン性水溶性高分子の付着によりそのゼータ電位の絶対値が増大する。よって、研磨対象物を研磨するために研磨用組成物が用いられる際には、研磨用組成物と接した研磨パッドと、研磨用組成物中の砥粒との間に負電荷同士による斥力が働き、この反発により研磨対象物に対する研磨速度がさらに向上すると推測される。
【0015】
さらに、本発明の研磨用組成物は、塩基性無機化合物を含む。例えば、塩基性無機化合物は、塩基性有機化合物よりも研磨用組成物の電気伝導度を上げる。これにより、研磨用組成物による研磨速度はさらに向上すると考えられる。
【0016】
以上のように、本発明の研磨用組成物は、所定の形状と所定の粒度分布とを有する研磨力の高い砥粒を、アニオン性水溶性高分子と塩基性無機化合物と組み合わせて含むことにより、砥粒の研磨特性がさらに向上したものと考えられる。ただし、かかるメカニズムは推測に過ぎず、本発明の技術的範囲を制限しないことは言うまでもない。
【0017】
[研磨対象物]
本発明の研磨用組成物が研磨する研磨対象物に含まれる材料としては、特に制限されず、例えば、酸化ケイ素(SiO)、窒化ケイ素(SiN)、炭窒化ケイ素(SiCN)、多結晶シリコン(ポリシリコン)、非晶質シリコン(アモルファスシリコン)、金属、SiGe等が挙げられる。
【0018】
本発明に係る研磨対象物は、酸化ケイ素または窒化ケイ素を含むことが好ましく、酸化ケイ素を含むことがより好ましい。よって、本発明の研磨用組成物は、酸化ケイ素または窒化ケイ素を含む研磨対象物を研磨する用途で用いられるのが好ましく、酸化ケイ素を含む研磨対象物を研磨する用途で用いられるのがより好ましい。
【0019】
酸化ケイ素を含む膜の例としては、例えば、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOS(Tetraethyl Orthosilicate)タイプ酸化ケイ素膜(以下、単に「TEOS膜」とも称する)、HDP(High Density Plasma)膜、USG(Undoped Silicate Glass)膜、PSG(Phosphorus Silicate Glass)膜、BPSG(Boron-Phospho Silicate Glass)膜、RTO(Rapid Thermal Oxidation)膜等が挙げられる。
【0020】
金属を含む膜としては、例えば、タングステン(W)膜、窒化チタン(TiN)膜、ルテニウム(Ru)膜、白金(Pt)膜、金(Au)膜、ハフニウム(Hf)膜、コバルト(Co)膜、ニッケル(Ni)膜、銅(Cu)膜、アルミニウム(Al)膜、タンタル(Ta)膜などが挙げられる。導電率を向上させるという観点からは、好ましくはW膜、TiN膜、Ru膜、Pt膜またはAu膜が用いられ、特に好ましくはW膜またはTiN膜が用いられ、最も好ましくはW膜が用いられる。本発明の研磨用組成物は、一実施形態において、金属(例えばタングステン)を含む研磨対象物に対しても、好適に研磨できる。
【0021】
[砥粒]
本発明の研磨用組成物は、砥粒を含む。本発明の研磨用組成物に使用される砥粒の種類としては、特に制限されず、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の酸化物が挙げられる。該砥粒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。該砥粒は、それぞれ市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。砥粒の種類としては、好ましくはシリカまたはアルミナである。すなわち、本発明の研磨用組成物は、砥粒として、シリカ(好ましくは、後述するコロイダルシリカ)またはアルミナを含む。
【0022】
本発明の研磨用組成物において、砥粒は、マイナス(負)のゼータ電位を示すものであり、砥粒のアスペクト比は、1.1を超え、レーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径D90と、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の50%に達するときの粒子の直径D50との比D90/D50が、1.3を超える。これらの砥粒の特性は、用いられる砥粒の種類によって好ましい形態が異なる場合がある。以下、砥粒の種類によって好ましい形態が異なる場合は、その都度説明するが、砥粒の種類を特に言及しない形態は、砥粒の種類によらず、共通の好ましい形態であることを意味する。
【0023】
本発明の研磨用組成物に使用される砥粒は、マイナスのゼータ電位を示すものである。ここで、「ゼータ(ζ)電位」とは、互いに接している固体と液体とが相対運動を行なったときの両者の界面に生じる電位差のことである。本発明の研磨用組成物においては、砥粒がマイナス側の電荷を有することによって研磨対象物に対する研磨速度を向上させることができる。砥粒のゼータ電位は、-80mV以上-20mV以下であるのが好ましく、-60mV以上-30mV以下であるのがより好ましい。砥粒がこのような範囲のゼータ電位を有していることにより、研磨対象物に対する研磨速度をより向上させることができる。
【0024】
砥粒がシリカの場合、砥粒のゼータ電位は、-80mV以上-20mV以下であるのが好ましく、-60mV以上-30mV以下であるのがより好ましい。砥粒(シリカ)がこのような範囲のゼータ電位を有していることにより、研磨対象物に対する研磨速度をより向上させることができる。
【0025】
砥粒がアルミナの場合、砥粒のゼータ電位は、-80mV以上-5mV以下であるのが好ましく、-60mV以上-20mV以下であるのがより好ましい。砥粒(アルミナ)がこのような範囲のゼータ電位を有していることにより、研磨対象物に対する研磨速度をより向上させることができる。
【0026】
研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位は、研磨用組成物を大塚電子株式会社製ELS-Z2に供し、測定温度25℃でフローセルを用いてレーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)で測定し、得られるデータをSmoluchowskiの式で解析することにより、算出する。
【0027】
本発明の研磨用組成物に使用される砥粒のアスペクト比は、1.1を超える。アスペクト比が1.1を超える砥粒を用いることにより、研磨面における転がりが抑制され、研磨速度が向上する。砥粒のアスペクト比が1.1以下であると、研磨速度が低下する。砥粒のアスペクト比は、好ましくは1.2以上であり、より好ましくは1.2を超える。砥粒のアスペクト比の上限は、特に制限されないが、5未満であることが好ましく、4.5以下であることがより好ましく、4以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨速度をより向上させることができる。なお、砥粒のアスペクト比は、走査型電子顕微鏡により砥粒粒子の画像に外接する最小の長方形をとり、その長方形の長辺の長さ(長径)を同じ長方形の短辺の長さ(短径)で除することにより得られる値の平均であり、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立ハイテク製 製品名:SU8000)で測定した画像からランダムで100個の砥粒を選び、これらの平均長径および平均短径を測定、算出した上で、式「平均長径/平均短径」により算出することができる。砥粒のアスペクト比の測定、算出方法の詳細は実施例に記載する。
【0028】
砥粒がシリカの場合、砥粒のアスペクト比は、好ましくは1.2以上であり、より好ましくは1.2を超える。砥粒がシリカの場合、砥粒のアスペクト比の上限は、特に制限されないが、2.0未満であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。砥粒(シリカ)のアスペクト比がこのような範囲であれば、研磨速度をより向上させることができる。
【0029】
砥粒がアルミナの場合、砥粒のアスペクト比は、好ましくは2以上であり、より好ましくは2.5を超える。砥粒がアルミナの場合、砥粒のアスペクト比の上限は、特に制限されないが、5未満であることが好ましく、4.5以下であることがより好ましく、4以下であることがさらに好ましい。砥粒(アルミナ)のアスペクト比がこのような範囲であれば、研磨速度をより向上させることができる。
【0030】
本発明の研磨用組成物に使用される砥粒は、レーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径D90と、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の50%に達するときの粒子の直径D50との比D90/D50が、1.3を超える。これにより、研磨用組成物中には、相対的に小さなサイズの砥粒と、相対的に大きなサイズの砥粒とが存在する。相対的に小さなサイズの砥粒は、相対的に大きなサイズの砥粒と接触することで研磨面における転がりが抑制される。その結果、相対的に小さなサイズの砥粒は、研磨の際に、研磨対象物へと機械的力を十分に加えることができるようになり、研磨対象物の研磨速度をより向上させることができる。当該D90/D50が1.3以下である場合、研磨速度が低下する。
【0031】
D90/D50は、好ましくは1.35以上であり、さらに好ましくは、1.4以上であり、より好ましくは1.6以上である。このような範囲であれば、研磨速度をより向上させることができる。また、研磨用組成物中の砥粒における、レーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径(D90)と、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の50%に達するときの粒子の直径(D50)との比D90/D50の上限は特に制限されないが、4以下であることが好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に発生しうるスクラッチ等のディフェクトを抑えることができる。
【0032】
砥粒がシリカの場合、D90/D50は、好ましくは1.35以上であり、さらに好ましくは、1.4以上であり、より好ましくは1.6以上である。このような範囲であれば、研磨速度をより向上させることができる。また、D90/D50の上限は特に制限されないが、砥粒がシリカの場合、2以下であることが好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に発生しうるスクラッチ等のディフェクトを抑えることができる。
【0033】
砥粒がアルミナの場合、D90/D50は、好ましくは1.4以上であり、さらに好ましくは、1.5以上であり、より好ましくは2以上である。このような範囲であれば、研磨速度をより向上させることができる。また、D90/D50の上限は特に制限されないが、砥粒がアルミナの場合、4以下であることが好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に発生しうるスクラッチ等のディフェクトを抑えることができる。
【0034】
砥粒の大きさは特に制限されないが、走査型電子顕微鏡の観察写真から画像解析により求められる砥粒の平均一次粒子径の下限は、10nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、砥粒の平均一次粒子径の上限は、3000nm以下が好ましく、2500nm以下がより好ましく、2000nm以下がさらに好ましいく、1500nm以下が特に好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に発生しうるスクラッチ等のディフェクトを抑えることができる。すなわち、砥粒の平均一次粒子径は、10nm以上3000nm以下であることが好ましく、30nm以上2500nm以下であることがより好ましく、50nm以上2000nm以下であることがさらに好ましく、50nm以上1500nm以下であることが特に好ましい。なお、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて算出される。
【0035】
砥粒がシリカの場合、砥粒の平均一次粒子径の下限は、10nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、砥粒の平均一次粒子径の上限は、砥粒がシリカの場合、120nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、80nm以下がさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に発生しうるスクラッチ等のディフェクトを抑えることができる。すなわち、砥粒がシリカの場合、砥粒の平均一次粒子径は、10nm以上120nm以下であることが好ましく、30nm以上100nm以下であることがより好ましく、50nm以上80nm以下であることがさらに好ましい。
【0036】
砥粒がアルミナの場合、砥粒の平均一次粒子径の下限は、100nm以上であることが好ましく、250nm以上であることがより好ましく、300nm以上であることがさらに好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、砥粒の平均一次粒子径の上限は、砥粒がアルミナの場合、3000nm以下が好ましく、2500nm以下がより好ましく、2000nm以下がさらに好ましく、1500nm以下が特に好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に発生しうるスクラッチ等のディフェクトを抑えることができる。すなわち、砥粒がアルミナの場合、砥粒の平均一次粒子径は、100nm以上3000nm以下であることが好ましく、250nm以上2500nm以下であることがより好ましく、300nm以上2000nm以下であることがさらに好ましく、300nm以上1500nm以下であることが特に好ましい。
【0037】
本発明の研磨用組成物中、砥粒の平均二次粒子径の下限は、15nm以上であることが好ましく、45nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましく、70nm以上であることがさらにより好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、砥粒の平均二次粒子径の上限は、4000nm以下が好ましく、3500nm以下がより好ましく、3000nm以下がさらに好ましく、2500nm以下がさらにより好ましく、2000nm以下が最も好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に発生しうるスクラッチ等のディフェクトを抑えることができる。すなわち、砥粒の平均二次粒子径は、15nm以上4000nm以下であることが好ましく、5nm以上3500nm以下であることがより好ましく、50nm以上3000nm以下であることがさらに好ましく、70nm以上2500nm以下であることがさらにより好ましく、70nm以上2000nm以下であることが最も好ましい。なお、砥粒の平均二次粒子径は、例えば、レーザー回折散乱法に代表される動的光散乱法により測定することができる。すなわち、砥粒の平均二次粒子径は、レーザー回折散乱法により求められる砥粒の粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の50%に達するときの粒子の直径D50に相当する。
【0038】
砥粒がシリカの場合、本発明の研磨用組成物中、砥粒の平均二次粒子径の下限は、15nm以上であることが好ましく、45nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましく、70nm以上であることがさらにより好ましい。また、砥粒がシリカの場合、本発明の研磨用組成物中、砥粒の平均二次粒子径の上限は、250nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、150nm以下がさらに好ましく、120nm以下がさらにより好ましく、100nm以下が最も好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に発生しうるスクラッチ等のディフェクトを抑えることができる。すなわち、砥粒がシリカの場合、砥粒の平均二次粒子径は、15nm以上250nm以下であることが好ましく、45nm以上200nm以下であることがより好ましく、50nm以上150nm以下であることがさらに好ましく、70nm以上120nm以下であることがさらにより好ましく、70nm以上100nm以下であることが最も好ましい。
【0039】
砥粒がアルミナの場合、本発明の研磨用組成物中、砥粒の平均二次粒子径の下限は、100nm以上であることが好ましく、200nm以上であることがより好ましく、300nm以上であることがさらに好ましく、500nm以上であることがさらにより好ましい。また、砥粒がアルミナの場合、本発明の研磨用組成物中、砥粒の平均二次粒子径の上限は、4000nm以下が好ましく、3500nm以下がより好ましく、3000nm以下がさらに好ましく、2500nm以下がさらにより好ましく、2000nm以下が最も好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に発生しうるスクラッチ等のディフェクトを抑えることができる。すなわち、砥粒がアルミナの場合、砥粒の平均二次粒子径は、100nm以上4000nm以下であることが好ましく、200nm以上3500nm以下であることがより好ましく、300nm以上3000nm以下であることがさらに好ましく、400nm以上2500nm以下であることがさらにより好ましく、500nm以上2000nm以下であることが最も好ましい。
【0040】
砥粒の平均会合度は、6.0以下であることが好ましく、5.0以下であることがより好ましく、4.0以下であることがさらに好ましい。砥粒の平均会合度が小さくなるにつれて、研磨対象物表面の欠陥発生をより低減することができる。また、砥粒の平均会合度は、1.0以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましい。砥粒の平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨速度が向上する利点がある。なお、砥粒の平均会合度は、砥粒の平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる。
【0041】
砥粒がシリカの場合、砥粒の平均会合度は、2.0以下であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましく、1.6以下であることがさらに好ましい。砥粒の平均会合度が小さくなるにつれて、研磨対象物表面の欠陥発生をより低減することができる。また、砥粒がシリカの場合、砥粒の平均会合度は、1.0以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましい。砥粒の平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨速度が向上する利点がある。
【0042】
砥粒がアルミナの場合、砥粒の平均会合度は、6.0以下であることが好ましく、5.0以下であることがより好ましく、4.0以下であることがさらに好ましい。砥粒の平均会合度が小さくなるにつれて、研磨対象物表面の欠陥発生をより低減することができる。また、砥粒がアルミナの場合、砥粒の平均会合度は、1.0以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2.0以上が最も好ましい。砥粒の平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨速度が向上する利点がある。
【0043】
砥粒の大きさ(平均粒子径、アスペクト比、D90/D50等)は、砥粒の製造方法の選択等により適切に制御することができる。
【0044】
砥粒として、シリカを用いる場合、コロイダルシリカであるのが好ましい。コロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法が挙げられ、いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカであっても、本発明の砥粒として好適に用いられる。しかしながら、金属不純物低減の観点から、ゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。ゾルゲル法によって製造されたコロイダルシリカは、半導体中に拡散性のある金属不純物や塩化物イオン等の腐食性イオンの含有量が少ないため好ましい。ゾルゲル法によるコロイダルシリカの製造は、従来公知の手法を用いて行うことができ、具体的には、加水分解可能なケイ素化合物(例えば、アルコキシシランまたはその誘導体)を原料とし、加水分解・縮合反応を行うことにより、コロイダルシリカを得ることができる。
【0045】
コロイダルシリカは、カチオン性基を有してもよい。カチオン性基を有するコロイダルシリカとして、アミノ基が表面に固定化されたコロイダルシリカが好ましく挙げられる。このようなカチオン性基を有するコロイダルシリカの製造方法としては、特開2005-162533号公報に記載されているような、アミノエチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤を砥粒の表面に固定化する方法が挙げられる。これにより、アミノ基が表面に固定化されたコロイダルシリカ(アミノ基修飾コロイダルシリカ)を得ることができる。
【0046】
コロイダルシリカは、アニオン性基を有してもよい。アニオン性基を有するコロイダルシリカとして、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アルミン酸基等のアニオン性基が表面に固定化されたコロイダルシリカが好ましく挙げられる。このようなアニオン性基を有するコロイダルシリカの製造方法としては、特に制限されず、例えば、末端にアニオン性基を有するシランカップリング剤とコロイダルシリカとを反応させる方法が挙げられる。
【0047】
具体例として、スルホン酸基をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Sulfonic acid-functionalized silica through of thiol groups”,Chem.Commun.246-247(2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸基が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0048】
あるいは、カルボン酸基をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”,Chemistry Letters,3,228-229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2-ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸基が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0049】
砥粒として、アルミナを用いる場合、公知の各種アルミナのなかから適宜選択して使用することができる。公知のアルミナとしては。例えば、α-アルミナ、γ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナ、η-アルミナ、およびκ-アルミナから選択される少なくとも1種を含むアルミナ等が挙げられる。また、製法による分類に基づきヒュームドアルミナと称されるアルミナ(典型的にはアルミナ塩を高温焼成する際に生産されるアルミナ微粒子)を使用してもよい。さらに、コロイダルアルミナまたはアルミナゾルと称されるアルミナ(例えばベーマイト等のアルミナ水和物)も、上記公知のアルミナの例に含まれる。本発明の研磨用組成物の砥粒として用いられるアルミナは、このようなアルミナ粒子の1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて含むものであり得る。これらのなかでも、結晶相としてα相を含むアルミナ(α-アルミナを含むアルミナ)であることが好ましく、主となる結晶相としてα相を含むアルミナ(主成分としてα-アルミナを含むアルミナ)であることがより好ましい。
【0050】
本明細書において、粉末X線回折装置を用いて得たアルミナの粉末X線回折スペクトルから、2θ=25.6°の位置に現れるα相のピークが確認される場合、アルミナが「結晶相としてα相を含む」と判断する。また、本明細書において、後述するα化率が50%超である場合、アルミナが「主となる結晶相としてα相を含む」と判断する(上限100%)。ここで、α化率〔%〕は、粉末X線回折装置を用いて得た粉末X線回折スペクトルから、2θ=25.6°の位置に現れるα相(012)面のピーク高さ(I25.6)と、2θ=46°の位置に現れるγ相のピーク高さ(I46)とから、下記式によって算出することができる。
【0051】
【数1】
【0052】
また、上記測定に基づいて算出されるα化率は、研磨用組成物の原料である粉末状のアルミナの状態で測定しても、調製された研磨用組成物からアルミナを取り出して測定しても、値は同等となる。
【0053】
アルミナの製造方法は、特に制限されず、公知の方法を適宜使用することができるが、ベーマイトなどのα相以外のアルミナを焼結して、主となる結晶相としてα相を含むアルミナを得る方法が好ましい。すなわち、アルミナとしては、焼結工程を経て製造されたアルミナであることが好ましい。焼結工程を経て得られたアルミナを所望のサイズに粉砕してもよい。
【0054】
なお、本発明の効果を損なわない限りにおいて、砥粒としてのアルミナは非晶質アルミナを含んでもよい。
【0055】
本発明において、砥粒の形状は、非球形状であるのが好ましい。非球形状の具体例としては、三角柱や四角柱等の多角柱状、円柱状、円柱の中央部が端部よりも膨らんだ俵状、円盤の中央部が貫通しているドーナツ状、板状、中央部にくびれを有するいわゆる繭型形状、複数の粒子が一体化しているいわゆる会合型球形状、表面に複数の突起を有するいわゆる金平糖形状、ラグビーボール形状等、種々の形状が挙げられ、特に制限されない。
【0056】
本発明の一実施形態による研磨用組成物中の砥粒の含有量(濃度)の下限は、研磨用組成物に対して、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、砥粒の含有量の上限は、研磨用組成物に対して、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましく、12質量%以下であることがよりさらに好ましい。このような範囲であると、研磨速度をより向上させることができる。なお、研磨用組成物が2種以上の砥粒を含む場合には、砥粒の含有量はこれらの合計量を意味する。
【0057】
[塩基性無機化合物]
本発明の研磨用組成物は、塩基性無機化合物を含む。ここで塩基性無機化合物とは、研磨用組成物に添加されることによって該組成物のpHを上昇させる機能を有する無機化合物を指す。塩基性無機化合物は、研磨対象物の面を化学的に研磨する働き、および研磨用組成物の分散安定性を向上させる働きを有する。また、本発明の研磨用組成物に含有される塩基性無機化合物は、塩基性有機化合物よりも研磨用組成物の電気伝導度を上げる。これにより、研磨用組成物による研磨速度はさらに向上すると考えられる。
【0058】
また、塩基性無機化合物は塩基性有機化合物に比べて立体的な嵩高さがなく、これにより塩基性無機化合物とアニオン性水溶性高分子とは凝集体を形成しにくい。よって、本発明の研磨用組成物は、アニオン性水溶性高分子が安定した分散状態であるため、アニオン性水溶性高分子が効率よく研磨パッドへ付着できる。
【0059】
塩基性無機化合物としては、カリウム化合物、ナトリウム化合物などのアルカリ金属化合物、アンモニアが挙げられる。アルカリ金属化合物として、具体的には、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、塩化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが挙げられる。これらのうち、塩基性無機化合物としては、pHとスラリーの安定性との観点から、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、アンモニアが好ましく、水酸化カリウム、アンモニアがより好ましい。
【0060】
本発明の実施形態において、研磨用組成物中の塩基性無機化合物の含有量は、研磨用組成物に対して、好ましく0.001質量%以上であり、より好ましくは0.01質量%以上であり、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、特に好ましくは1.0質量%以上であり、最も好ましくは1.5質量%以上である。かような下限であることによって、研磨速度がより向上する。研磨用組成物中の塩基性無機化合物の含有量は、研磨用組成物に対して、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは8質量%以下であり、さらに好ましくは6質量%以下である。かような上限であることによって、凝集のない安定なスラリーを得ることができる。
【0061】
[アニオン性水溶性高分子]
本発明の研磨用組成物は、アニオン性水溶性高分子を含む。アニオン性水溶性高分子は、分子内にアニオン基を有する、水溶性の高分子である。本明細書中、「水溶性」とは、水(25℃)に対する溶解度が1g/100mL以上であることを意味する。アニオン性水溶性高分子は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0062】
研磨対象物を研磨するために本発明の研磨用組成物を用いた場合、研磨用組成物に含有されるアニオン性水溶性高分子は研磨パッドに付着する。このとき、パット表面のゼータ電位がプラス側だった場合はアニオン性水溶性高分子の付着によりゼータ電位がマイナス側に移行し、パット表面のゼータ電位がマイナス側だった場合はアニオン性水溶性高分子の付着によりそのゼータ電位の絶対値が増大する。例えば、研磨パッドがポリウレタンである場合、ポリウレタンの表面のゼータ電位は-45mV程度であるが、研磨パッドが本発明の研磨用組成物と接することにより(すなわち、アニオン性水溶性高分子が付着することにより)、研磨パッド表面のゼータ電位が-80mVまで増大しうる。よって、アニオン性水溶性高分子は、研磨パッド表面に付着することにより、研磨パッドの表面電荷をマイナス側とするか、研磨パッドのマイナス側の表面電荷の絶対値を大きくすることにより、研磨パットと砥粒とがより反発するよう導き、これにより研磨速度が向上する。
【0063】
本発明の実施形態によれば、アニオン性水溶性高分子としては、分子中に、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基およびホスホン酸基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含むものが好適である。中でも、アニオン性水溶性高分子が、カルボキシル基を含むと好ましい。かような基がアニオン性水溶性高分子に含まれることで、本発明の所期の効果を効率的に奏する。
【0064】
また、本発明の実施形態によれば、アニオン性水溶性高分子は、エチレン性不飽和結合を有する単量体由来の構成単位を有することが好適である。例えば、アニオン性水溶性高分子は、単量体由来の構成単位として、アクリル酸およびメタクリル酸からなる群から選択される1種以上を含むのが好ましい。よって、アニオン性水溶性高分子は、ポリアクリル酸系高分子およびポリメタクリル酸系高分子からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。かかる実施形態であることによって、研磨用組成物において、カルボキシル基が塩基性無機化合物と相互作用して、砥粒が安定に分散された状態となると推測される。
【0065】
アニオン性水溶性高分子は、一分子中にエチレン性不飽和結合を有する単量体由来の構成単位と、他の単量体由来の構成単位とを含む共重合体であってもよい。このような共重合体としては、(メタ)アクリル酸とビニルアルコールとの共重合体、(メタ)アクリル酸と2-ヒドロキシ-2-ホスホノ酢酸(HPAA)との共重合体、(メタ)アクリル酸とアクリロイルモルフォリン(ACMO)との共重合体などが挙げられる。なお、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタアクリル酸を包括的に指す意味である。
【0066】
また、アニオン性水溶性高分子は、オキシアルキレン単位を含んでいてもよい。アニオン性水溶性高分子が含みうるオキシアルキレン単位の例としては、ポリエチレンオキサイド(PEO)、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とのブロック共重合体、EOとPOとのランダム共重合体などが挙げられる。EOとPOとのブロック共重合体は、ポリエチレンオキサイド(PEO)ブロックとポリプロピレンオキサイド(PPO)ブロックとを含むジブロック体、トリブロック体などであり得る。上記トリブロック体には、PEO-PPO-PEO型トリブロック体およびPPO-PEO-PPO型トリブロック体が含まれる。
【0067】
本発明の実施形態において、アニオン性水溶性高分子の分子量(質量平均分子量)の下限は、1,000以上、5,000以上、10,000以上、50,000以上、100,000以上、300,000以上、500,000以上、800,000以上が順に好ましい。アニオン性水溶性高分子の分子量(質量平均分子量)の上限は、8,500,000以下、6,000,000以下、4,000,000以下、2,000,000以下、1,500,000以下の順に好ましい。すなわち、アニオン性水溶性高分子の分子量(質量平均分子量)は、例えば、1,000以上8,500,000以下、5,000以上6,000,000以下、10,000以上4,000,000以下、50,000以上4,000,000以下、100,000以上2,000,000以下の順で好ましい。このような範囲であれば、研磨速度をより向上させることができる。アニオン性水溶性高分子の分子量(質量平均分子量)は、GPC法によって測定した値を採用することができる。
【0068】
本発明の実施形態において、研磨用組成物中のアニオン性水溶性高分子の含有量は、研磨用組成物に対して、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上、さらにより好ましくは0.05質量%以上、最も好ましくは0.08質量%以上である。また、研磨用組成物中のアニオン性水溶性高分子の含有量は、研磨用組成物に対して、0.8質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、特に好ましくは0.4質量%以下である。かような範囲であれば、高い研磨速度を維持できる。なお、研磨用組成物が2種以上のアニオン性水溶性高分子を含む場合には、アニオン性水溶性高分子の含有量はこれらの合計量を意味する。
【0069】
本発明の実施形態において、砥粒がシリカの場合、研磨用組成物中のアニオン性水溶性高分子の含有量は、研磨用組成物に対して、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上、さらにより好ましくは0.15質量%以上、最も好ましくは0.2質量%以上である。また、砥粒がシリカの場合、研磨用組成物中のアニオン性水溶性高分子の含有量は、研磨用組成物に対して、0.8質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、特に好ましくは0.4質量%以下である。かような範囲であれば、高い研磨速度を維持できる。
【0070】
本発明の実施形態において、砥粒がアルミナの場合、研磨用組成物中のアニオン性水溶性高分子の含有量は、研磨用組成物に対して、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上、さらにより好ましくは0.05質量%以上、最も好ましくは0.08質量%以上である。また、砥粒がアルミナの場合、研磨用組成物中のアニオン性水溶性高分子の含有量は、研磨用組成物に対して、0.8質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、特に好ましくは0.4質量%以下である。かような範囲であれば、高い研磨速度を維持できる。
【0071】
[分散媒]
研磨用組成物は、研磨用組成物を構成する各成分の分散のために分散媒(溶媒)を含む。分散媒は、各成分を分散または溶解させる機能を有する。分散媒としては、有機溶媒、水が挙げられるが、水を含むことが好ましく、水であることがより好ましい。
【0072】
研磨対象物の汚染や他の成分の作用を阻害することを抑制するという観点から、分散媒としては不純物をできる限り含有しない水が好ましい。このような水としては、例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水等を用いることが好ましい。通常は、研磨用組成物に含まれる分散媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上が水であることがより好ましく、99体積%以上が水であることがさらに好ましく、100体積%が水であることが特に好ましい。
【0073】
また、分散媒は、各成分の分散または溶解のために、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。この場合、用いられる有機溶媒としては、水と混和する有機溶媒であるアセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。また、これらの有機溶媒を水と混合せずに用いて、各成分を分散または溶解した後に、水と混合してもよい。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0074】
[その他の添加剤]
本発明の研磨用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、pH調整剤、キレート剤、増粘剤、酸化剤、分散剤、表面保護剤、濡れ剤、界面活性剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤等の公知の添加剤をさらに含有してもよい。上記添加剤の含有量は、その添加目的に応じて適宜設定すればよい。
【0075】
(酸化剤)
本発明の研磨用組成物は、酸化剤を含有していてもよい。酸化剤は、研磨における効果を増進する成分であり、典型的には水溶性のものが用いられる。酸化剤は、特に限定的に解釈されるものではないが、研磨において研磨対象物表面を酸化変質させる作用を示し、研磨対象物表面の脆弱化をもたらすことで、砥粒による研磨に寄与していると考えられる。
【0076】
本発明の研磨用組成物において、砥粒としてシリカを用いる場合、酸化剤が含有されていることにより、窒化ケイ素(SiN)膜に対する研磨速度を向上させることができる。また、本発明の研磨用組成物において、砥粒としてシリカを用いる場合、酸化剤が含有されていることにより、金属に対する研磨速度を向上させることができる。
【0077】
酸化剤の例としては、過酸化水素等の過酸化物;硝酸、その塩である硝酸鉄、硝酸銀、硝酸アルミニウム、その錯体である硝酸セリウムアンモニウム等の硝酸化合物;ペルオキソ一硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸等の過硫酸、その塩である過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸化合物;塩素酸やその塩、過塩素酸、その塩である過塩素酸カリウム等の塩素化合物;臭素酸、その塩である臭素酸カリウム等の臭素化合物;ヨウ素酸、その塩であるヨウ素酸アンモニウム、過ヨウ素酸、その塩である過ヨウ素酸ナトリウム、過ヨウ素酸カリウム等のヨウ素化合物;鉄酸、その塩である鉄酸カリウム等の鉄酸類;過マンガン酸、その塩である過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム等の過マンガン酸類;クロム酸、その塩であるクロム酸カリウム、ニクロム酸カリウム等のクロム酸類;バナジン酸、その塩であるバナジン酸アンモニウム、バナジン酸ナトリウム、バナジン酸カリウム等のバナジン酸類;過ルテニウム酸またはその塩等のルテニウム酸類;モリブデン酸、その塩であるモリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸二ナトリウム等のモリブデン酸類;過レニウムまたはその塩等のレニウム酸類;タングステン酸、その塩であるタングステン酸二ナトリウム等のタングステン酸類;が挙げられる。
【0078】
これら酸化剤は、単独でもまたは2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。なかでも、研磨効率等の観点から、過酸化物、過マンガン酸またはその塩、バナジン酸またはその塩、過ヨウ素酸またはその塩が好ましく、過酸化水素、過マンガン酸カリウムがより好ましく、過酸化水素がさらに好ましい。
【0079】
本発明の研磨用組成物において、砥粒としてシリカ(好ましくはコロイダルシリカ)を含む研磨用組成物の場合、酸化剤(好ましくは過酸化水素)を含有することにより、酸化ケイ素膜および窒化ケイ素膜に対する研磨速度を向上させ、金属膜(例えばタングステン膜)に対する研磨速度も向上させることができる。より詳しくは、本発明の研磨用組成物において、砥粒としてシリカと、塩基性無機化合物(好ましくは水酸化カリウム)と、酸化剤(好ましくは過酸化水素)とを組み合わせることにより、酸化ケイ素膜、窒化ケイ素膜および金属膜(例えばタングステン膜)に対する研磨速度を向上させることができる。
【0080】
このような効果を奏する理由は明らかではないが、以下のように推測される。研磨用組成物が酸化剤を含有することにより、上述のように、研磨対象物表面が酸化変質し、研磨対象物表面が脆弱化する。さらに、研磨用組成物が酸化剤を含有する場合、酸化剤を含有しない研磨用組成物に比べて、(同じpHとするためには)塩基性無機化合物の含有量が増加する。この場合、研磨用組成物の電気伝導度が増加し、研磨対象物と砥粒との間の静電反発力が低下することが考えられる。これにより、砥粒と研磨対象物との衝突確率が向上する。よって、酸化剤により脆弱化した研磨対象物表面に、砥粒が効率的に衝突することにより、酸化ケイ素膜、窒化ケイ素膜、および金属膜(例えばタングステン膜)に対する研磨を効率的に行うことができるものと考えられる。ただし、かかるメカニズムは推測に過ぎず、本発明の技術的範囲を制限しないことは言うまでもない。
【0081】
よって、好ましい一実施形態において、研磨用組成物は、砥粒としてシリカ(好ましくはコロイダルシリカ)と、塩基性無機化合物(好ましくは水酸化カリウム)と、アニオン性水溶性高分子と、酸化剤(好ましくは過酸化水素)と、分散媒とを含み、前記砥粒のゼータ電位が、マイナスであり、前記砥粒のアスペクト比が1.1を超え、レーザー回折散乱法により求められる前記砥粒の粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径D90と、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の50%に達するときの粒子の直径D50との比D90/D50が、1.3を超える、研磨用組成物である。
【0082】
研磨用組成物における酸化剤の含有量(濃度)は、0.03質量%以上が好ましい。研磨速度を向上させるという観点から、酸化剤の含有量は0.5質量%以上がより好ましく、0.8質量%以上がさらに好ましく、2.5質量%以上特に好ましい。また、研磨対象物の平滑性の観点から、酸化剤の含有量は、10質量%以下が好ましく、9質量%以下がより好ましく、8質量%以下がさらに好ましく、7質量%以下がより特に好ましい。
【0083】
(pH調整剤)
本発明の研磨用組成物は、塩基性無機化合物によってpHを所望の範囲内に調整することができるが、塩基性無機化合物以外のpH調整剤をさらに含んでいてもよい。
【0084】
pH調整剤としては、公知の酸、塩基性無機化合物以外の塩基、またはこれらの塩を使用することができる。pH調整剤として使用できる酸の具体例としては、例えば、塩酸、硫酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸、およびリン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2-フランカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、3-フランカルボン酸、2-テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸、およびフェノキシ酢酸等の有機酸が挙げられる。
【0085】
pH調整剤として使用できる塩基性無機化合物以外の塩基としては、エタノールアミン、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール等の脂肪族アミン、芳香族アミン、水酸化第四アンモニウム等の塩基性有機化合物等が挙げられる。
【0086】
上記pH調整剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
【0087】
pH調整剤の添加量は、特に制限されず、研磨用組成物のpHが所望の範囲内となるよう適宜調整すればよい。
【0088】
研磨用組成物のpHの下限は、特に制限されないが、9以上であることが好ましく、9.5以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましく、11以上であることが最も好ましい。かような下限とすることによって、研磨対象物の研磨速度を向上させることができる。また、pHの上限としても特に制限はないが、13以下であることが好ましく、12.5以下であることがより好ましく、12以下であることがさらに好ましい。かような上限とすることによって、研磨用組成物の安定性を向上させることができる。
【0089】
なお、研磨用組成物のpHは、例えばpHメータにより測定することができる。
【0090】
<研磨用組成物の製造方法>
本発明の研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、砥粒、塩基性無機化合物、アニオン性水溶性高分子および必要に応じて他の添加剤を、分散媒中で攪拌混合することにより得ることができる。各成分の詳細は上述した通りである。したがって、本発明は、砥粒と、塩基性無機化合物、アニオン性水溶性高分子と、分散媒と、を混合することを有する、研磨用組成物の製造方法を提供する。
【0091】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0092】
<研磨方法および半導体基板の製造方法>
本発明は、本発明の一実施形態に係る研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する工程を含む研磨方法を提供する。また、本発明は、上記研磨方法を有する、半導体基板の製造方法を提供する。
【0093】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0094】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0095】
研磨条件については、例えば、研磨定盤の回転速度は、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.3s-1)以下が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0096】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、金属を含む層を有する基板が得られる。
【0097】
本発明の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水等の希釈液を使って、例えば10倍以上に希釈することによって調製されてもよい。
【実施例
【0098】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行われた。
【0099】
各研磨用組成物の物性測定は、下記の方法に従って行った。
【0100】
[ゼータ電位測定]
下記で調製した各研磨用組成物を大塚電子株式会社製ELS-Z2に供し、測定温度25℃でフローセルを用い、レーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)により測定を行った。得られたデータをSmoluchowskiの式で解析することにより、研磨用組成物中のコロイダルシリカのゼータ電位を算出した。
【0101】
[アスペクト比]
各研磨用組成物中の砥粒について、走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立ハイテク製 製品名:SU8000)を用いて粒子形状を観測した。SEMで観測された画像からランダムで100個の砥粒を選び、これらの平均長径および平均短径を測定、算出した。続いて、平均長径および平均短径の値を用いて、下記式に従い、砥粒のアスペクト比を算出した。
【0102】
【数2】
【0103】
[平均一次粒子径の測定]
砥粒の平均一次粒子径は、マイクロメリテックス社製の“Flow SorbII 2300”を用いて測定されたBET法による砥粒の比表面積と、砥粒の密度とから算出した。
【0104】
[平均二次粒子径の測定]
砥粒の平均二次粒子径は、レーザー光を用いた光散乱法によって測定し、測定機器としてはマイクロトラックMT3000II(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いた。なお、粉末状の砥粒は水に分散させて測定し、研磨用組成物は、そのままか、または水で希釈して平均二次粒子径の測定を行った。同時に、測定機器による解析により、砥粒の平均二次粒子径の粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径D90と、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の50%に達するときの粒子の直径D50との比D90/D50が算出された。
【0105】
[研磨用組成物の調製]
(実施例1)
砥粒としてコロイダルシリカ(平均一次粒子径70nm、平均二次粒子径100nm、平均会合度1.4)7.5質量%、水溶性高分子として分子量(質量平均分子量)1,000,000のポリアクリル酸(PAA)0.24質量%および塩基性化合物として水酸化カリウム1.7質量%の最終濃度となるよう、前記成分およびイオン交換水を室温(25℃)で30分攪拌混合し、研磨用組成物を調製した。pHメータにより測定した研磨用組成物のpHは、11であった。なお、得られた研磨用組成物中のコロイダルシリカのゼータ電位は、上記方法により測定したところ、-47mVであった。なお、研磨用組成物中の砥粒(コロイダルシリカ)の粒子径は、上記のコロイダルシリカの粒子径と同様であった。
【0106】
(実施例2~13、比較例1~10)
砥粒、水溶性高分子、塩基性化合物の種類および含有量を表1のように変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2~13および比較例1~10に係る研磨用組成物を調製した。なお、表1中、TMAHはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、PVPはポリビニルピロリドン、HECはヒドロキシエチルセルロース、PEIはポリエチレンイミンを表す。得られた研磨用組成物のpH、ならびに研磨用組成物中の砥粒(コロイダルシリカ)のゼータ電位、アスペクト比、粒子径およびD90/D50は、下記表1に示す。なお、研磨用組成物中の砥粒(コロイダルシリカ)の粒子径は、研磨用組成物を調製する前に測定したコロイダルシリカの粒子径と同様であった。
【0107】
また、表1中の粒度分布の欄の「ブロード」とはD90/D50が1.3を超えることを表し、「シャープ」とはD90/D50が1.3以下を表す。さらに、表1中の粒子形状の欄の「異形」とはアスペクト比1.1を超えることを表し、「球形」とはアスペクト比1.1以下を表す。表1中の「-」は、その成分を含まないことを表す。
【0108】
(実施例14~18、比較例11)
砥粒として、焼結粉砕α-アルミナを準備した。具体的には、特開2006-36864号公報の段落「0013」に記載のように、水酸化アルミニウムを、か焼温度を1100~1500℃の範囲内とし、か焼時間を1~5時間の範囲内とする条件でか焼した後、20000μm径の酸化アルミニウムポールを用いて粉砕した。このようなか焼し、その後必要に応じて粉砕することによるアルミナ粒子の製造方法(粉砕法)によって、砥粒(焼結粉砕α-アルミナ)を製造した。これらの砥粒の製造においては、下記表2に記載の平均粒子径の値が得られるよう粉砕時間を制御した。
【0109】
得られた焼結粉砕α-アルミナを用いて、実施例14~18、比較例11の研磨用組成物を調製した。各研磨用組成物で用いた焼結粉砕α-アルミナの平均一次粒子径、平均二次粒子径、D90/D50、アスペクト比は表2に示した。また、砥粒、水溶性高分子、塩基性化合物の種類および含有量を表2のように変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例14~18および比較例11に係る研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物のpH、ならびに研磨用組成物中の砥粒(焼結粉砕α-アルミナ)のゼータ電位、アスペクト比、粒子径およびD90/D50は、下記表2に示す。研磨用組成物中の砥粒(焼結粉砕α-アルミナ)の粒子径、D90/D50、アスペクト比は、研磨用組成物を調製する前に測定した焼結粉砕α-アルミナの粒子径、D90/D50、アスペクト比と同様であった。なお、表2における粒度分布の欄の「ブロード」、粒子形状の欄の「異形」、水溶性高分子の欄の「-」の意味は、表1と同じである。
【0110】
(実施例19)
砥粒としてコロイダルシリカ(平均一次粒子径70nm、平均二次粒子径100nm、平均会合度1.4)7.5質量%、水溶性高分子として分子量(質量平均分子量)1,000,000のポリアクリル酸(PAA)0.24質量%、塩基性化合物として水酸化カリウム3.4質量%および酸化剤として過酸化水素(H)1.0質量%の最終濃度となるよう、前記成分およびイオン交換水を室温(25℃)で30分攪拌混合し、研磨用組成物を調製した。pHメータにより測定した研磨用組成物のpHは、11であった。得られた研磨用組成物のpH、ならびに研磨用組成物中の砥粒(コロイダルシリカ)のゼータ電位、アスペクト比、粒子径およびD90/D50は、下記表4に示す。研磨用組成物中の砥粒(コロイダルシリカ)の粒子径は、研磨用組成物を調製する前に測定したコロイダルシリカの粒子径と同様であった。なお、表4における粒度分布の欄の「ブロード」、粒子形状の欄の「異形」、水溶性高分子の欄の「-」の意味は、表1と同じである。
【0111】
(実施例20~25、比較例12~17)
砥粒、水溶性高分子、塩基性化合物、酸化剤の種類および含有量を表4のように変更したこと以外は実施例19と同様にして、実施例20~25および比較例12~17に係る研磨用組成物を調製した。なお、表4中、Hは過酸化水素、KMnOは過マンガン酸カリウムを示す。
【0112】
得られた研磨用組成物のpH、ならびに研磨用組成物中の砥粒(コロイダルシリカ)のゼータ電位、アスペクト比、粒子径およびD90/D50は、下記表4に示す。研磨用組成物中の砥粒(コロイダルシリカ)の粒子径は、研磨用組成物を調製する前に測定したコロイダルシリカの粒子径と同様であった。
【0113】
[評価]
[研磨速度]
研磨対象物として、表面に厚さ10000ÅのTEOS膜を形成したシリコンウェーハ(200mm、ブランケットウェーハ、アドバンテック株式会社製)と、表面に厚さ3500ÅのSiN(窒化ケイ素)膜とを形成したシリコンウェーハ(200mm、ブランケットウェーハ、アドバンテック株式会社製)と、表面に厚さ4000ÅのW(タングステン)膜を形成したシリコンウェーハ(200mm、ブランケットウェーハ、アドバンテック株式会社製)とを準備した。TEOS膜ウェーハおよびSiN膜ウェーハは、それぞれのウェーハを60mm×60mmのチップに切断したクーポンを試験片とし、W膜ウェーハは、ウェーハをそのまま試験片として、上記で得られた各研磨用組成物を用いて、3種の研磨対象物を以下の研磨条件で研磨した。なお、TEOS膜ウェーハおよびSiN膜ウェーハは、実施例1~25および比較例1~17の研磨用組成物を用いて研磨を行い、W膜ウェーハは、実施例1および19~25、ならびに比較例12~17の研磨用組成物を用いて研磨を行った。
【0114】
(研磨条件)
・TEOS膜(SiO膜)ウェーハ
研磨機としてEJ-380IN-CH(日本エンギス株式会社製)を、研磨パッドとして硬質ポリウレタンパッドIC1000(ロームアンドハース社製)を、それぞれ用いた。研磨圧力3.05psi(21.0kPa)、定盤回転数60rpm、キャリア回転数60rpm、研磨用組成物の供給速度100ml/minの条件で、研磨時間は60秒で研磨を実施した。
【0115】
・SiN膜ウェーハ
研磨機としてEJ-380IN-CH(日本エンギス株式会社製)を、研磨パッドとして硬質ポリウレタンパッドIC1000(ロームアンドハース社製)を、それぞれ用いた。研磨圧力4.0psi(27.6kPa)、定盤回転数113rpm、キャリア回転数107rpm、研磨用組成物の供給速度200ml/minの条件で、研磨時間は60秒で研磨を実施した。
【0116】
・W膜ウェーハ
研磨機としてMirra(アプライド・マテリアルズ製)を、研磨パッドとして硬質ポリウレタンパッドIC1000(ロームアンドハース社製)を、それぞれ用いた。研磨圧力4.0psi(27.6kPa)、定盤回転数110rpm、キャリア回転数107rpm、研磨用組成物の供給速度200ml/minの条件で、研磨時間は60秒で研磨を実施した。
【0117】
(研磨速度)
研磨速度(Removal Rate;RR)は、以下の式により計算した。
【0118】
【数3】
【0119】
TEOS膜、およびSiN膜の膜厚は、光干渉式膜厚測定装置(大日本スクリーン製造株式会社製、型番:ラムダエースVM-2030)によって求めて、研磨前後の膜厚の差を研磨時間で除することにより研磨速度を評価した。
【0120】
W膜の膜厚は、自動搬送式シート抵抗機(VR-120/08S:国際電気システムサービス(株)製)によって求めて、研磨前後の膜厚の差を研磨時間で除することにより研磨速度を評価した。
【0121】
研磨速度の評価結果を下記表1、表2および表5に示す。
【0122】
[スクラッチ数]
スクラッチ数の評価対象となる研磨対象物ウェーハを準備した。まず、研磨対象物として、表面に厚さ10000ÅのTEOS膜を形成したシリコンウェーハ(200mm、ブランケットウェーハ、アドバンテック株式会社製)と、表面に厚さ3500ÅのSiN膜を形成したシリコンウェーハ(200mm、ブランケットウェーハ、アドバンテック株式会社製)とを準備した。この2種の研磨対象物ウェーハに対して、上記で得られた実施例2および実施例14の研磨用組成物を用いて、以下の研磨条件で研磨した。
【0123】
研磨後の研磨対象物表面のスクラッチ数は、ケーエルエー・テンコール社製のウェーハ検査装置“Surfscan(登録商標)SP2”を用いて、研磨対象物両面の全面(ただし外周2mmは除く)の座標を測定し、測定した座標をReview-SEM(RS-6000、株式会社日立ハイテク製)で全数観察することで、スクラッチ数を測定した。なお、深さが10nm以上100nm未満、幅が5nm以上500nm未満、長さが100μm以上の基板表面の傷をスクラッチとしてカウントした。評価結果を下記表3に示す。
【0124】
(スクラッチ数評価用の研磨条件)
研磨装置:アプライド・マテリアルズ製200mm用CMP片面研磨装置 Mirra
パッド:ニッタハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:2.0psi
研磨定盤回転数:83rpm
キャリア回転数:77rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:200ml/分
研磨時間:60秒間。
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
【表3】
【0128】
【表4】
【0129】
【表5】
【0130】
表1に示すように、実施例1~13の研磨用組成物を用いた場合、TEOS膜に対する研磨速度は3500Å/minを超え、SiN膜に対する研磨速度は890Å/minを超え、どちらの研磨対象物に対しても比較例1~10の研磨用組成物と比べて研磨対象物を高い研磨速度で研磨できることがわかった。すなわち、所定の形状と所定の粒度分布とを有するシリカと、塩基性無機化合物と、アニオン性水溶性高分子とを含有する研磨用組成物により、研磨対象物であるTEOS膜およびSiN膜が効率的に研磨できることがわかった。
【0131】
また、実施例1と比較例1との比較により、研磨用組成物が塩基性無機化合物を含有しない場合には、研磨速度が著しく低下し、実施例1と比較例2との比較により、研磨用組成物がアニオン性水溶性高分子を含有しない場合には、研磨速度が明らかに低下することがわかる。
【0132】
実施例1と比較例6、7とを比較すると、研磨用組成物に含有される塩基性化合物が塩基性無機化合物でない場合には、研磨用組成物による研磨速度が著しく低下している。また、実施例1と比較例8~10とを比較すると、アニオン性水溶性高分子以外の水溶性高分子(ノニオン性水溶性高分子、カチオン性水溶性高分子)を含む比較例8~10の研磨用組成物では、研磨速度が明らかに低下している。
【0133】
表2に示すように、実施例14~18の研磨用組成物を用いた場合、TEOS膜に対する研磨速度は3000Å/minを超え、SiN膜に対する研磨速度は600Å/minを超え、どちらの研磨対象物に対しても比較例1の研磨用組成物と比べて研磨対象物を高い研磨速度で研磨できることがわかった。すなわち、所定の形状と所定の粒度分布とを有するアルミナと、塩基性無機化合物と、アニオン性水溶性高分子とを含有する研磨用組成物により、研磨対象物であるTEOS膜およびSiN膜が効率的に研磨できることがわかった。
【0134】
また、表3に示すように、実施例2と実施例14との研磨用組成物を用いて研磨を行った場合、実施例14の研磨用組成物は、実施例2の研磨用組成物に比べてスクラッチを形成しやすいことが示された。これは、砥粒が異形粒子であることによる転がり抑制の結果、シリカより硬いアルミナの場合にスクラッチが形成されやすくなったのではないかと推測される。
【0135】
このことから、研磨用組成物が塩基性無機化合物と、アニオン性水溶性高分子とを含有することにより、研磨対象物の研磨速度が向上することがわかる。
【0136】
表5に示すように、実施例19、20、22~25の研磨用組成物を用いた場合、TEOS膜に対する研磨速度は3500Å/minを超え、SiN膜に対する研磨速度は1000Å/minを超え、W膜に対する研磨速度は300Å/minを超えている。これにより、砥粒として所定の形状と所定の粒度分布とを有するシリカと、塩基性無機化合物と、アニオン性水溶性高分子とを含有する研磨用組成物において、酸化剤を含有することにより、研磨対象物であるTEOS膜、SiN膜およびW膜を効率的に研磨できることがわかった。