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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】マルチコアファイバおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/02 20060101AFI20240624BHJP
   C03B 37/012 20060101ALI20240624BHJP
   C03B 37/027 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
G02B6/02 461
G02B6/02 471
C03B37/012 A
C03B37/027 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020118790
(22)【出願日】2020-07-09
(65)【公開番号】P2022015746
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武笠 和則
【審査官】奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103399374(CN,A)
【文献】国際公開第2011/114795(WO,A1)
【文献】特開2015-087614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02- 6/10
G02B 6/44
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心コア部と、前記中心コア部の外周を囲む中間層と、前記中間層の外周を囲むトレンチ層とを有する、前記トレンチ層の間隔が2μm以下で隣接する複数のコア部と、
前記複数のコア部の外周を囲むクラッド部と、
を備え、
前記複数のコア部のそれぞれにおいて、前記クラッド部に対する、前記中心コア部の平均の最大比屈折率差をΔ1、前記中間層の平均比屈折率差をΔ2、前記トレンチ層の平均比屈折率差をΔ3とすると、Δ1>Δ2>Δ3かつ0%>Δ3が成り立ち、
長手方向に垂直な断面において、複数の前記中心コア部のうちの隣接する2つの中心を結ぶ直線上での前記トレンチ層と、隣接する前記中心コア部の前記直線上における前記トレンチ層の厚さと、を含んだ第1厚さが、前記2つの中心のいずれかから前記クラッド部の外周に向かう最短の直線上での前記トレンチ層の第2厚さよりも厚く、
各前記コア部のカットオフ波長は1550nm以下であり、
使用波長帯における、長さ10m以上での、隣接する2つの前記コア部のコア間クロストークが-10dB以下であり、カットオフ波長が1000nm以上1249nm以下であり、Δ1が0.20%以上0.60%以下であり、Δ2が-0.1%以上0.1%以下であり、Δ3が-0.7%以上-0.10%以下であり、前記中心コア部の外径をa、前記中間層の外径をb、前記トレンチ層の外径をcとしたとき、b/aが1.2以上3.0以下、c/aが1.4以上4.4以下であ
マルチコアファイバ。
【請求項2】
前記第1厚さは、前記第2厚さの1.2倍である
請求項1に記載のマルチコアファイバ。
【請求項3】
前記第1厚さは、前記第2厚さの1.5倍である
請求項1に記載のマルチコアファイバ。
【請求項4】
前記使用波長帯における、長さ1kmでの、隣接する前記コア部のコア間クロストークが-10dB以下である
請求項1~3のいずれか一つに記載のマルチコアファイバ。
【請求項5】
前記使用波長帯における、長さ100kmでの、隣接する前記コア部のコア間クロストークが-10dB以下である
請求項1~3のいずれか一つに記載のマルチコアファイバ。
【請求項6】
前記カットオフ波長が前記使用波長帯に含まれる波長以下である
請求項1~5のいずれか一つに記載のマルチコアファイバ。
【請求項7】
前記複数のコア部のそれぞれにおいて、直径20mmで曲げた場合の波長1550nmにおける曲げ損失が1.59dB/m以下である
請求項1~のいずれか一つに記載のマルチコアファイバ。
【請求項8】
前記複数のコア部に外周を囲まれる内側コア部を含み、
前記内側コア部は、該内側コア部を囲む前記コア部よりもカットオフ波長が短く設計されている
請求項1~のいずれか一つに記載のマルチコアファイバ。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一つに記載のマルチコアファイバの製造方法であって、
前記複数のコア部となる部分をそれぞれ含む、複数のコア母材を準備し、
前記複数のコア母材をジャケット管の内部にスタックし、
前記複数のコア母材を内部にスタックした状態のジャケット管を線引きする、
ことを備えるマルチコアファイバの製造方法。
【請求項10】
前記複数のコア母材をVAD(Vapor-phase Axial Deposition)法、OVD(Outside Vapor Deposition)法、MCVD(Modified Chemical Vapor Deposition)法、またはプラズマCVD法によって形成する
請求項に記載のマルチコアファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチコアファイバおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
データコムやテレコムの分野において、高密度光ファイバケーブルを実現する光ファイバとして、マルチコアファイバが知られている。特許文献1、2に記載のマルチコアファイバは、コア間クロストークを抑制するためにトレンチ構造を採用したコア部を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-118495号公報
【文献】特開2016-075938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、トレンチ構造の設計において、コア間クロストークをより一層抑制しようとすると、カットオフ波長が増大することが多い。光ファイバのカットオフ波長が増大すると、シングルモード性が低下し、マルチモード光ファイバとなるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、コア間クロストークの抑制とカットオフ波長の増大の抑制とを両立するマルチコアファイバおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様は、中心コア部と、前記中心コア部の外周を囲む中間層と、前記中間層の外周を囲むトレンチ層とを有する、複数のコア部と、前記複数のコア部の外周を囲むクラッド部と、を備え、前記複数のコア部のそれぞれにおいて、前記クラッド部に対する、前記中心コア部の平均の最大比屈折率差をΔ1、前記中間層の平均比屈折率差をΔ2、前記トレンチ層の平均比屈折率差をΔ3とすると、Δ1>Δ2>Δ3かつ0%>Δ3が成り立ち、長手方向に垂直な断面において、複数の前記中心コア部のうちの隣接する2つの中心を結ぶ直線上での前記トレンチ層の第1厚さが、前記2つの中心のいずれかから前記クラッド部の外周に向かう最短の直線上での前記トレンチ層の第2厚さよりも厚く、各前記コア部のカットオフ波長は1550nm以下であり、使用波長帯における、長さ10m以上での、隣接する2つの前記コア部のコア間クロストークが-10dB以下である、マルチコアファイバである。
【0007】
前記第1厚さは、前記第2厚さの1.2倍であるものでもよい。
【0008】
前記第1厚さは、前記第2厚さの1.5倍であるものでもよい。
【0009】
前記使用波長帯における、長さ1kmでの、隣接する前記コア部のコア間クロストークが-10dB以下であるものでもよい。
【0010】
前記使用波長帯における、長さ100kmでの、隣接する前記コア部のコア間クロストークが-10dB以下であるものでもよい。
【0011】
前記カットオフ波長が前記使用波長帯に含まれる波長以下であるものでもよい。
【0012】
前記Δ1が0.20%以上0.60%以下であり、前記Δ3が-0.7%以上-0.10%以下であるものでもよい。
【0013】
前記複数のコア部のそれぞれにおいて、直径20mmで曲げた場合の波長1550nmにおける曲げ損失が1.59dB/m以下であるものでもよい。
【0014】
前記複数のコア部に外周を囲まれる内側コア部を含み、前記内側コア部は、該内側コア部を囲む前記コア部よりもカットオフ波長が短く設計されているものでもよい。
【0015】
本発明の一態様は、前記マルチコアファイバの製造方法であって、前記複数のコア部となる部分をそれぞれ含む、複数のコア母材を準備し、前記複数のコア母材をジャケット管の内部にスタックし、前記複数のコア母材を内部にスタックした状態のジャケット管を線引きする、ことを備えるマルチコアファイバの製造方法である。
【0016】
前記複数のコア母材をVAD法、OVD法、MCVD法、またはプラズマCVD法によって形成するものでもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、マルチコアファイバにおいて、コア間クロストークの抑制とカットオフ波長の増大の抑制とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施形態1に係るマルチコアファイバの模式的な断面図である。
図2図2は、図1のマルチコアファイバの2つのコア部とその周辺の屈折率プロファイルの模式図である。
図3図3は、図1に示すマルチコアファイバの製造方法の説明図である。
図4図4は、コア間隔と2コア間XTとの関係の一例を示す図である。
図5図5は、実施形態2に係るマルチコアファイバの模式的な断面図である。
図6図6は、実施形態3に係るマルチコアファイバの模式的な断面図である。
図7図7は、実施形態4に係るマルチコアファイバの模式的な断面図である。
図8図8は、実施形態5に係るマルチコアファイバの模式的な断面図である。
図9図9は、トレンチ型と見なせる屈折率プロファイルの第1例の説明図である。
図10図10は、トレンチ型と見なせる屈折率プロファイルの第2例の説明図である。
図11図11は、トレンチ型と見なせる屈折率プロファイルの第3例の説明図である。
図12図12は、トレンチ型と見なせる屈折率プロファイルの第4例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する構成要素には適宜同一の符号を付している。また、本明細書においては、カットオフ波長または実効カットオフ波長とは、ITU(国際通信連合)-T G.650.1で定義するケーブルカットオフ波長をいう。また、その他、本明細書で特に定義しない用語についてはG.650.1およびG.650.2における定義、測定方法に従うものとする。
【0020】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るマルチコアファイバの模式的な断面図であって、長手方向に垂直な面での断面図である。マルチコアファイバ10は、複数のコア部として、それぞれが中心コア部11と中間層12とトレンチ層13とを備える4つのコア部15a、15b、15c、15dと、コア部15a、15b、15c、15dの外周を囲むクラッド部14とを備える。4つのコア部15a、15b、15c、15dは、クラッド部14の中心軸を中心として正方形状に配列されている。以下、コア部15a、15b、15c、15dを区別しない場合は、コア部15と記載する場合がある。
【0021】
マルチコアファイバ10は、クラッド部14の外周に形成されたコーティング層を備えていてもよい。このようなコーティング層は、光ファイバのコーティング層として使用されうる樹脂等からなる。
【0022】
コア部15とクラッド部14とは、いずれも石英系ガラスからなる。クラッド部14は、断面が略円形であり、コア部15の最大屈折率よりも低い屈折率を有する。クラッド部14の外径はクラッド径Dである。
【0023】
コア部15は、断面が略円形である。コア部15において、中間層12は、中心コア部11の外周を囲み、トレンチ層13は、中間層12の外周を囲む。中心コア部11、中間層12、トレンチ層13は、略同心円状となっている。
【0024】
なお、コア部15の中心コア部11の中心からクラッド部14の外周までの最短の直線の長さ、たとえば図1に示す厚さTを、クラッド厚と規定する。
【0025】
図2は、マルチコアファイバ10のうち、隣接するコア部15a、15bとその周辺のクラッド部14の屈折率プロファイルの模式図である。図2において、プロファイルP11、P12、P13はコア部15aに関する屈折率プロファイルを示している。プロファイルP21、P22、P23はコア部15bに関する屈折率プロファイルを示している。プロファイルP11、P21は中心コア部11の屈折率プロファイルを示し、プロファイルP12、P22は中間層12の屈折率プロファイルを示し、プロファイルP13、P23はトレンチ層13の屈折率プロファイルを示す。プロファイルP14はクラッド部14の屈折率プロファイルを示す。
【0026】
中心コア部11の中心コア径は2aであり、クラッド部14に対する中心コア部11の平均の最大比屈折率差はΔ1である。ここで、中心コア部11の屈折率プロファイルは、幾何学的に理想的な形状のステップ型である場合だけでなく、頂部の形状が平坦ではなく製造特性により凹凸が形成されたり、頂部から裾を引くような形状となっていたりする場合がある。この場合、製造設計上の中心コア径2aの範囲内における、屈折率プロファイルの頂部で略平坦である領域の屈折率が、Δ1を決定する指標となる。
【0027】
中間層12の外径は2bであり、クラッド部14に対する中間層12の平均比屈折率差はΔ2である。トレンチ層13の内径は2b、外径は2cであり、クラッド部14に対するトレンチ層13の平均比屈折率差はΔ3ある。
【0028】
ここで、マルチコアファイバ10では、各コア部において、Δ1>Δ2>Δ3かつ0%>Δ3が成り立っている。すなわち、マルチコアファイバ10では、各コア部がトレンチ型の屈折率プロファイルを有する。たとえば、中心コア部11がゲルマニウム(Ge)のような屈折率を高めるドーパントが添加された石英ガラスからなり、中間層12が屈折率を変化させるドーパントを殆ど含まず、トレンチ層13がフッ素(F)のような屈折率を低くするドーパントが添加された石英ガラスからなり、クラッド部14が純石英ガラスからなる場合、上記不等式が成り立つ。なお、純石英ガラスとは、屈折率を変化させるドーパントを実質的に含まず、波長1550nmにおける屈折率が約1.444である、きわめて高純度の石英ガラスである。
【0029】
また、図1、2に示すように、隣接するコア部15a、15bにおいて、トレンチ層13同士は接している。すなわち、コア部15a、15bのそれぞれの中心コア部11の中心間の距離であるコア間隔Pは、2cに等しい。同様に、隣接するコア部15b、15cにおいて、トレンチ層13同士は接しており、隣接するコア部15c、15dにおいて、トレンチ層13同士は接している。したがって、中心コア部11のうちの隣接する2つの中心を結ぶ直線上でのトレンチ層13の厚さを第1厚さT1とすると、第1厚さT1は2(c-b)である。
【0030】
一方、たとえば、コア部15aの中心コア部11の中心からクラッド部14の外周に向かう最短の直線上でのトレンチ層13を第2厚さT2とすると、第2厚さT2は(c-b)である。また、他のコア部15b、15c、15dにおいても、第2厚さT2は(c-b)である。
【0031】
したがって、マルチコアファイバ10では、第1厚さT1が第2厚さT2より厚く、具体的には2倍厚い。その結果、隣接するコア部の間では、トレンチ層13が実質的にお互いに接続された構造になっている。これにより、隣接するコア部の間でのコア間クロストーク(XT)に影響する第1厚さT1は、個々のトレンチ層13の厚さである第2厚さT2の2倍になる。これにより、マルチコアファイバ10では、コア間クロストークを効果的に抑制することができる。また、各コア部に対して、第2厚さT2はトレンチ層13の1層分の厚さなので、各コア部を伝搬する光の高次モードは、図1に波線矢印で示すように、1層分の厚さの領域から漏洩する。したがって、マルチコアファイバ10では、カットオフ波長の増大を実質的に伴わずに、コア間クロストークを効果的に抑制することができ、コア間クロストークの抑制とカットオフ波長の増大の抑制とを両立することができる。
【0032】
マルチコアファイバ10の特性としては、たとえば、各コア部のカットオフ波長が1550nm以下である。これにより、少なくとも1550nm以上の波長にてマルチコアファイバ10のシングルモード性を確保できる。好ましくは、カットオフ波長は使用波長帯に含まれる波長以下である。ここで、使用波長帯とは、マルチコアファイバ10を光ファイバ通信に使用する際の信号光として伝搬させる光の波長帯である。使用波長帯は、たとえば1530nm~1625nmに含まれる。これにより、マルチコアファイバ10の使用波長帯にてシングルモード性を確保できる。また、各コア部のカットオフ波長が1530nm以下であれば、G.654規格を満たすことができる。
【0033】
また、マルチコアファイバ10の特性としては、たとえば、使用波長帯における、長さ10m以上でのコア間クロストークが-10dB以下である。好ましくは、使用波長帯における長さ1kmでのコア間クロストークが-10dB以下であり、より好ましくは、長さ100kmでのコア間クロストークが-10dB以下である。これらの長さでのコア間クロストークは、-30dB以下がより好ましい。なお、本明細書では、コア間クロストークとは、隣接する2つのコア部のコア間クロストークを意味する。
【0034】
また、マルチコアファイバ10の特性としては、たとえば、コア部15において、直径20mmで曲げた場合の波長1550nmにおける曲げ損失が1.59dB/m以下である。この1.59dB/mという値は、光ファイバのITU規格であるG.657 A2規格における0.1dB/turnの値を、単位を変換して表したものである。
【0035】
マルチコアファイバ10の構造パラメータについては、たとえば、Δ1は0.20%以上0.60%以下であり、Δ3は-0.7%以上-0.10%以下である。また、Δ2は-0.1%以上0.1%以下である。また、b/aが1.2以上3.0以下、c/aが1.4以上4.4以下である。また、2aはカットオフ波長が1000nm以上1260nm以下になるように設定される。本発明者の網羅的な検討によれば、構造パラメータを上記の範囲で適宜に設計することによって、G.652規格、G.654規格、G.657規格などに適合するような良好な特性を得ることができることが分かった。
【0036】
マルチコアファイバ10の製造方法は、特に限定はされないが、たとえば公知のスタック法によって製造できる。図3はマルチコアファイバ10の製造方法の一例の説明図である。本例では、まず、複数のコア母材として、4つのコア母材115を準備する。コア母材115は、それぞれ、マルチコアファイバ10のコア部15となる部分を含む。具体的には、中心コア部111が中心コア部11となる部分である。中心コア部111の外周を囲む中間層12が中間層112となる部分である。中間層112の外周を囲むトレンチ層113がトレンチ層13となる部分である。トレンチ層113はコア母材115の最外周を構成している。なお、コア母材115は、公知のVAD(Vapor-phase Axial Deposition)法、OVD(Outside Vapor Deposition)法、MCVD(Modified Chemical Vapor Deposition)法、またはプラズマCVD法によって形成することができる。
【0037】
つづいて、4つのコア母材115をガラスからなるジャケット管114aの内部に挿入し、スタックする。ジャケット管114aはクラッド部14となる部分である。その後、ジャケット管114aの内部における4つのコア母材115の隙間を埋めるために、多数のガラス棒114bを挿入する。隙間を埋めるためには粉末状のガラスを用いてもよい。これにより光ファイバ母材100を作製する。
【0038】
つづいて、光ファイバ母材100を公知の線引炉にセットし、下端を加熱溶融し、マルチコアファイバ10を線引きする。このとき、線引きされたマルチコアファイバ10にコーティング層を形成してもよい。
【0039】
(公知のマルチコアファイバにおける光学特性)
比較例として、トレンチ構造を採用した公知のマルチコアファイバにおける光学特性のシミュレーション計算結果について説明する。表1は、マルチコアファイバにおいて、Δ1を0.37%、中心コア径2aを8μmのステップ型として、Δ2が0%、b/aが2になるように中間層及びトレンチ層を設け、Δ3とc/aとを変化させた場合の光ファイバの光学特性を示す。光学特性は、波長1310nmモードフィールド径(MFD)、カットオフ波長(λcc)、必要クラッド厚、長さ100kmでのコア間クロストーク(XT)である。必要クラッド厚とは、波長1625nmにおける過剰損失を0.001dB/km以下に抑制するために必要な最低限のクラッド厚である。なお、コア間隔は40μmに設定した。
【0040】
表1に示すように、c/aを増やし、トレンチ層の幅を広げていくことで、XTが劇的に良くなっていくことが分かる。また、MFDはあまり変化がない。これに対して、カットオフ波長は、トレンチ層の幅を広げていくことで増大してしまう。たとえば、Δ3が-0.2%の場合、c/aを4.5まで大きくすると、カットオフ波長は、G.652規格やG.657規格のケーブルカットオフ波長の上限である1260nmに近い。また、Δ3が-0.25%の場合は1260nmを超えてしまう。このように、公知のマルチコアファイバでは、コア間XTとカットオフ波長はトレードオフの関係にある。
【0041】
【表1】
【0042】
(実施例1)
つぎに、実施例1として、図1に示す実施形態1の構造のマルチコアファイバを製造した。製造の前に、シミュレーション計算にて構造パラメータ(Δ1、Δ2、Δ3、b/a、c/a、2a)の設計を行った。表2は、設定した構造パラメータとそれによって計算にて得られた光学特性を示す。表2に示すように、Δ3を-0.2%(サンプルNo.1)または-0.25%(サンプルNo.2)とした。
【0043】
【表2】
【0044】
つぎに、スタック法を用いてマルチコアファイバを製造した。まず、VAD法によって直径16mm、長さ500mmのコア母材を4本作製した。つづいて、コア母材を外径62.5mmで内径38.6mmのシリカガラスのジャケット管の内部にスタックした。ジャケット管の隙間に適切なサイズのシリカ棒を挿入し、隙間を埋めた。このように作製して光ファイバ母材を線引きしてクラッド径が125μmのマルチコアファイバを製造した。この場合のコア間隔は32μmであった。
【0045】
製造した実施例1のマルチコアファイバの光学特性を表3に示す。表3にてλ0は零分散波長であり、曲げ損失は直径20mmで曲げたときの曲げ損失である。サンプルNo.1、2のいずれについても、カットオフ波長が計算で得られた値とあまり変わらないにも関わらず、100kmのXT特性が計算で得られた値に比べて、格段に低いことが分かる。また、過剰損失も適切に設計したことで、伝送損失も十分に低いことが確認された。分散特性や曲げ損失などの特性も、G.652規格やG.657規格に適合するものであることも確認された。この実施例から、コア間XTを本来の設計の値よりもより効果的に抑制でき、かつシングルモード性(カットオフ波長特性)が損なわれないことを実際に確認することができた。
【0046】
【表3】
【0047】
図4は、コア間隔とコア間XTとの関係の一例を示す図である。図4において、直線は表1の計算に用いた手法にて予測した結果である。たとえば、コア間隔が40μmでは、表1に示すようにコア間XTは-37.8dBである。この直線から予測されるコア間隔が32μmの場合のコア間XTは-13dB程度であるが、実施例1によれば、白丸で示すように-30.2dBと、格段に低くなっている。
【0048】
なお、表1のマルチコアファイバにおいて、Δ3を-0.25%、c/aを4.0として、クラッド径を、[(コア間隔)+(必要クラッド厚み)]×2とすると、クラッド径は150μm~160μm程度となり、多くの光ファイバにて標準の125μmよりも大きくなる。しかし、クラッド径を125μmにするためにコア間隔を33.5μmとしなければならない。この場合、図4によればコア間XTは-13.1dB程度と予想されるところ、実施例1によれば、クラッド径を125μmとしつつもコア間XTを-30.2dBにできる。すなわち、本発明の実施例1によればクラッド径に対する制限が緩和される。
【0049】
(実施形態2)
図5は、実施形態2に係るマルチコアファイバの模式的な断面図である。マルチコアファイバ10Aは、実施形態1に係るマルチコアファイバ10において、クラッド部14をクラッド部14Aに置き換えた構成を有する。
【0050】
クラッド部14Aは、クラッド部14に空孔14Aaを設けた構成を有する。マルチコアファイバ10Aでは、中心軸とその周囲の4か所の位置に、5つの空孔14Aaが設けられている。
【0051】
マルチコアファイバ10Aでは、マルチコアファイバ10と同様に、コア間クロストークの抑制とカットオフ波長の増大の抑制とを両立することができる。また、空孔14Aaにより、中心コア部11のうちの隣接する2つの中心を結ぶ直線上以外の領域におけるコア間クロストークも効果的に抑制できる。特に、中心軸に位置する空孔14Aaにより、最隣接ではない対角の位置にあるコア部の間のコア間クロストークを抑制することができる。なお、本発明者らの検討によれば、マルチコアファイバ10Aのように空孔14Aaを設けても、マルチコアファイバ10に対するカットオフ波長の増大は10%未満であり、空孔によるカットオフ波長の増加は少ないことが確認された。なお、5つの空孔14Aaの空孔径は中心軸にあるものを除き等しいが、等しくてもよく、互いに異なっていてもよい。
【0052】
(実施形態3)
図6は、実施形態3に係るマルチコアファイバの模式的な断面図である。マルチコアファイバ10Bは、実施形態1に係るマルチコアファイバ10において、コア部15をコア部15Bに置き換えた構成を有する。
【0053】
コア部15Bは、コア部15のトレンチ層13をトレンチ層13Bに置き換えた構成を有する。図6に示すように、隣接するコア部15Bのトレンチ層13Bの一部が互いに重なりあっている。このようにトレンチ層13Bの一部が互いに重なり合っていても、マルチコアファイバ10と同様に、コア間クロストークの抑制とカットオフ波長の増大の抑制とを両立することができる。なお、本発明者の鋭意検討によれば、第1厚さが第2厚さの1.2倍であれば、コア間クロストークの抑制とカットオフ波長の増大の抑制とを両立することができ、1.5倍であればさらに好適な両立が実現される。
【0054】
(実施形態4)
図7は、実施形態4に係るマルチコアファイバの模式的な断面図である。マルチコアファイバ10Cは、複数のコア部としての6つのコア部15と、6つのコア部15に外周を囲まれる内側コア部であるコア部15Cと、クラッド部14とを備える。6つのコア部15は外側コア部と記載する場合がある。
【0055】
コア部15Cは、コア部15の中心コア部11を中心コア部11Cに置き換えた構成を有する。コア部15Cは、外側コア部である6つのコア部15よりもカットオフ波長が短くなるように設計されている。本実施形態では、当該カットオフ波長の条件を満たすようにΔ1や中心コア径2aが調整され、中心コア部11Cが設計されている。
【0056】
マルチコアファイバ10Cでは、6つのコア部15については、トレンチ層13同士は接している。その結果、第1厚さが第2厚さより厚く、具体的には2倍厚くなっているので、コア間クロストークの抑制とカットオフ波長の増大の抑制とを両立することができる。
【0057】
また、コア部15Cは、コア部15に囲まれ、実効的なトレンチ層の厚さが厚いため、コア部15Cを伝搬する光の高次モードは漏洩することができない。そこで、マルチコアファイバ10Cでは、外側コア部であるコア部15よりもカットオフ波長を短く設計されている。また、コア部15Cはコア部15とは異種のため、同種のコア部が隣接している場合よりも、比較的コア間クロストークの増大は抑制される。その結果、コア部15Cとコア部15との全てにおいて、コア間クロストークの抑制とカットオフ波長の増大の抑制とを両立することができる。
【0058】
(実施形態5)
図8は、実施形態5に係るマルチコアファイバの模式的な断面図である。マルチコアファイバ10Dは、図7に示す実施形態4に係るマルチコアファイバ10Cにおいて、コア部15Cを内側コア部としてのコア部15Dに置き換えた構成を有する。
【0059】
コア部15Dは、中心コア部11Dと中心コア部11Dの外周を囲む中間層16Dとを備える。すなわち、コア部15Dは、トレンチ型ではなくステップ型の屈折率プロファイルを有する。コア部15Dは、コア部15を囲む6つのコア部15よりもカットオフ波長が短くなるように設計されている。中心コア部11DのΔ1や中心コア径2aは、たとえば、中心コア部11CのΔ1や中心コア径2aと同じである。中間層16DのΔ2は、たとえば、中間層12のΔ2と同じである。中間層16Dの外径は、たとえば、コア部15のトレンチ層13の外径と同じである。
【0060】
マルチコアファイバ10Dでは、マルチコアファイバ10Cと同様に、コア部15Dとコア部15との全てにおいて、コア間クロストークの抑制とカットオフ波長の増大の抑制とを両立することができる。
【0061】
(実施例2)
つぎに、実施例2として、図7に示す実施形態4の構造のマルチコアファイバを製造した。製造の前に、シミュレーション計算にて構造パラメータ(Δ1、Δ2、Δ3、b/a、c/a、2a)の設計を行った。表4は、G.654規格を想定して設定した構造パラメータとそれによって計算にて得られた光学特性を示す。なお、表4において、サンプルNo.3(外側)は外側コア部の構造パラメータおよび光学特性を示し、サンプルNo.3(中心)は内側コア部の構造パラメータおよび光学特性を示す。なお、コア間隔は27.9μmに設計した。
【0062】
【表4】
【0063】
つぎに、スタック法を用いてマルチコアファイバを製造した。まず、MCVD法によって直径13.95mm、長さ500mmのコア母材を7本作製した。つづいて、コア母材を外径62.5mmで内径41.85mmのシリカガラスのジャケット管の内部にスタックした。ジャケット管の隙間に適切なサイズのシリカ棒を挿入し、隙間を埋めた。このように作製して光ファイバ母材を線引きしてクラッド径が125μmのマルチコアファイバを製造した。
【0064】
製造した実施例2のマルチコアファイバの光学特性を表5に示す。サンプルNo.3(外側)、サンプルNo.3(中心)のいずれについても、カットオフ波長が計算で得られた値とあまり変わらないにも関わらず、100kmのXT特性が計算で得られた値に比べて、格段に低いことが分かる。また、過剰損失も適切に設計したことで、伝送損失も十分に低いことが確認された。曲げ損失などの特性も、G.654規格に適合するものであることも確認された。この実施例から、コア間XTを本来の設計の値よりもより効果的に抑制でき、かつシングルモード性(カットオフ波長特性)が損なわれないことを実際に確認することができた。
【0065】
【表5】
【0066】
また、本実施例において、図4で説明したコア間隔とコア間XTとの関係について同様な考察を行った。図4は、コア間隔とコア間XTとの関係の一例を示す図である。本実施例では、コア間隔を27.9μmとしているので、コア間XTは表4に示すように-30dBよりもはるかに大きいと予測されるが、実際には-30dB程度と、格段に低くなっている。さらには、本実施例では、コア部の数が7であるにも関わらず、クラッド径を125μmと比較的細径にできた。
【0067】
(屈折率プロファイル)
図2では、屈折率プロファイルが直線から構成されているが、実際に製造されたマルチコアファイバの屈折率プロファイルは、直線から構成されない場合も多い。そのような場合にも、a、b、c、Δ1、Δ2、Δ3などの設計パラメータは、プロファイルアナライザなどで測定された屈折率プロファイルにて確認できる。
【0068】
図9図12は、トレンチ型と見なせる屈折率プロファイルの第1~4例の説明図である。図9では、実測された実線で示すプロファイルP31に対して、破線で示すプロファイルP32を特定できる。図10では、実測されたプロファイルP41に対してプロファイルP42を特定できる。図11では、実測されたプロファイルP51に対してプロファイルP52を特定できる。図12では、実測されたプロファイルP61に対してプロファイルP62を特定できる。
【0069】
図9図12のような実測の屈折率プロファイルは、少なくとも一部が直線で構成されないが、当業者であればトレンチ型の屈折率プロファイルとして認識され、その設計パラメータを特定し、その設計パラメータで表すことができる屈折率プロファイルを特定できる程度のものである。
【0070】
なお、上記実施形態では、隣接するトレンチ層同士は、接するまたは重なり合うが、ある程度のギャップであれば離れていてもよい。たとえば、ギャップが、コア部を伝搬する光がそのギャップを感じにくいまたは感じない程度のギャップであれば、当該光は、隣接するトレンチ層によるコア間クロストークの抑制効果を受けることができる。当該ギャップの程度は、たとえば当該光の波長と同程度以下であり、たとえば2μm程度以下である。
【0071】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、たとえば、コア部の数や配置は上記実施形態に限定されず、たとえば図7に示す実施形態4の構成からコア部15Cを削除してコア部の数を6にすることも可能である。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0072】
10、10A、10B、10C、10D :マルチコアファイバ
11、11C、11D、111 :中心コア部
12、16D、112 :中間層
13、13B、113 :トレンチ層
14、14A :クラッド部
14Aa :空孔
15、15a、15b、15c、15d、15B、15C、15D :コア部
100 :光ファイバ母材
114a :ジャケット管
114b :ガラス棒
115 :コア母材
P :コア間隔
T1 :第1厚さ
T2 :第2厚さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12