IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 一般財団法人電力中央研究所の特許一覧 ▶ 株式会社電力テクノシステムズの特許一覧

<>
  • 特許-気中塩分の測定方法及び測定装置 図1
  • 特許-気中塩分の測定方法及び測定装置 図2
  • 特許-気中塩分の測定方法及び測定装置 図3
  • 特許-気中塩分の測定方法及び測定装置 図4
  • 特許-気中塩分の測定方法及び測定装置 図5
  • 特許-気中塩分の測定方法及び測定装置 図6
  • 特許-気中塩分の測定方法及び測定装置 図7
  • 特許-気中塩分の測定方法及び測定装置 図8
  • 特許-気中塩分の測定方法及び測定装置 図9
  • 特許-気中塩分の測定方法及び測定装置 図10
  • 特許-気中塩分の測定方法及び測定装置 図11
  • 特許-気中塩分の測定方法及び測定装置 図12
  • 特許-気中塩分の測定方法及び測定装置 図13
  • 特許-気中塩分の測定方法及び測定装置 図14
  • 特許-気中塩分の測定方法及び測定装置 図15
  • 特許-気中塩分の測定方法及び測定装置 図16
  • 特許-気中塩分の測定方法及び測定装置 図17
  • 特許-気中塩分の測定方法及び測定装置 図18
  • 特許-気中塩分の測定方法及び測定装置 図19
  • 特許-気中塩分の測定方法及び測定装置 図20
  • 特許-気中塩分の測定方法及び測定装置 図21
  • 特許-気中塩分の測定方法及び測定装置 図22
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】気中塩分の測定方法及び測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/02 20060101AFI20240624BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20240624BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
G01N1/02 A
G01N27/04 E
G01N1/28 X
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020127161
(22)【出願日】2020-07-28
(65)【公開番号】P2022024518
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2023-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】598023425
【氏名又は名称】株式会社電力テクノシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】亘 真澄
(72)【発明者】
【氏名】鳴滝 浩史
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第10684213(US,B1)
【文献】特開2011-038956(JP,A)
【文献】特開2004-170331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
27/00-27/10
27/14-27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定外気中の海塩粒子を塩分捕集液に溶解させて捕集し、前記塩分捕集液の電気伝導度を計測することで前記海塩粒子の経時変化を求める気中塩分の測定方法において、前記塩分捕集液として液体中の硫酸、硝酸の量の変動に起因する前記液体の電気伝導度の変化を抑制/緩和し得る緩衝液を用いることを特徴とする気中塩分の測定方法。
【請求項2】
吸入管を含む外気流通部に前記被測定外気を通過させて前記吸入管の内面に前記海塩粒子を付着させ、前記緩衝液を溜める気中塩分捕集部と前記吸入管との間を前記緩衝液を塩分捕集液として循環させて前記海塩粒子を洗い流し、前記気中塩分捕集部に前記緩衝液を回収して電気伝導度を測定して気中塩分の経時的変化を求めることを特徴とする請求項1記載の気中塩分の測定方法。
【請求項3】
さらに、循環中の前記緩衝液に酢酸ガスを接触させることを特徴とする請求項1または2記載の気中塩分の測定方法。
【請求項4】
前記緩衝液が炭酸セシウム水溶液であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の気中塩分の測定方法。
【請求項5】
前記酢酸ガスは0.5~8vol%の濃度の酢酸溶液から気化させたものであることを特徴とする請求項3記載の気中塩分の測定方法。
【請求項6】
被測定外気中の海塩粒子を塩分捕集液に溶解させて捕集し、前記塩分捕集液の電気伝導度を計測することによって気中塩分の経時変化を測定する気中塩分測定装置において、液体中の硫酸、硝酸の量の変動に起因する前記液体の電気伝導度の変化を抑制/緩和し得る緩衝液を前記塩分捕集液として、前記被測定外気を流通させ前記海塩粒子を内面に付着させる吸引管を循環させることを特徴とする気中塩分の測定装置
【請求項7】
前記吸引管と、前記吸引管の出口を囲い緩衝液を貯留する気中塩分捕集部と、前記気中塩分捕集部内を負圧にして前記吸引管に前記被測定外気を吸引させる吸引ポンプとを含む外気流通部と、
前記気中塩分捕集部と前記吸引管の吸引部付近とを接続して前記気中塩分捕集部内の前記緩衝液を塩分捕集液として前記吸引管を経由させて循環させる循環部と、
前記気中塩分捕集部内の前記緩衝液の電気伝導度を計測する電気伝導度計とを備え、 前記緩衝液を定期的にあるいは間欠的に若しくは連続的に循環させ、前記緩衝液によって前記吸引管内に付着した前記海塩粒子を洗い流すと共に溶解させて前記気中塩分捕集部内に捕集し、電気伝導度の経時的変化を測定することを特徴とする
請求項6記載の気中塩分の測定装置。
【請求項8】
前記吸引管の一部をシリコンチューブまたはシリコン膜とし、前記シリコンチューブまたは前記シリコン膜の周囲を包囲して酢酸ガスを溜める空間を形成する酢酸ガス供給容器を備え、前記空間に前記酢酸ガスを溜め、前記酢酸ガスが前記シリコンチューブまたは前記シリコン膜を透過して前記吸引管を循環中の前記緩衝液と接触させる酢酸ガス供給部を更に有することを特徴とする請求項6または7記載の気中塩分の測定装置。
【請求項9】
前記緩衝液が炭酸セシウム水溶液であることを特徴とする請求項6から8のいずれか1つに記載の気中塩分の測定装置。
【請求項10】
前記酢酸ガス供給容器には0.5~8vol%の濃度の酢酸溶液が貯留され、前記酢酸ガスは前記酢酸溶液から気化させたものであることを特徴とする請求項記載の気中塩分の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気中塩分の測定方法および当該方法を実施し得る気中塩分の測定装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、電気伝導度の計測値から大気中の塩分を測定する気中塩分の測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大気中の塩分を測定する従来の気中塩分測定方法として、図22に示すように、一定量の蒸留水(純水)102を封入した密閉容器101内に、霧吹装置103を介して吸引した大気104によって、密閉容器101の内壁に衝突するように霧を発生させて大気104中の塩分を蒸留水102中に溶解させ、この蒸留水102の電気伝導度の測定値から大気中の塩分の増減を連続的に測定するものがある(特許文献1)。なお、図22において、符号105は塩分溶解後の蒸留水102の電気伝導度を測定する際に用いられる測定電極を表し、また、符号106は蒸留水タンクを表す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平5-8982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の発明によると、気中塩分とは別の要因で蒸留水のバックグランドとしての電気伝導度を高くして、塩分の電気伝導度の変化を見えにくくするという問題がある。
【0005】
加えて、特許文献1記載の発明によると、バックグランドの影響が大きくなり過ぎて気中塩分の経時的変化を長期に亙って継続的に測定を行うことができにくい問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、被測定外気中の塩分を精度良く測定することができ且つ比較的長期に亙って継続的に測定を行うことができる気中塩分の測定方法および当該方法を実施し得る気中塩分の測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、本発明者らが種々研究・実験した結果、大気中の海塩粒子を純水に溶け込ませて当該純水の電気伝導度の変化から大気中の塩分濃度の変化を観測したり塩分濃度を推定したりする際に、大気中には二酸化硫黄や二酸化窒素などのガスや海塩粒子以外の粒子を含む浮遊粒子状物質が存在し、これらのうち水溶性のものは前記純水の電気伝導度の変化に影響を与える(言い換えると、前記純水のpHを変化させることによって前記純水の電気伝導度を変化させる)ため、観測対象物質は海塩粒子のみであるものの、実際には電気伝導度に寄与する様々な物質の影響を受けた値を測定していることを、具体的には様々な物質が溶け込んだ結果として純水は海塩粒子の影響のみの場合よりもpH値が変化して電気伝導度の変化に大きく寄与していることを突き止めた。
【0008】
つまり、大気中には、観測対象物質である海塩粒子(具体的には、海塩粒子由来の塩素,ナトリウム,及びマグネシウム)の他に、大気汚染物質と呼ばれる硫酸,硝酸,及びアンモニアが多く含まれている(例えば、上野広行「都内のPM2.5環境の現状と発生源調査の状況について」,公益財団法人東京都環境公社東京都環境科学研究所)ことから、蒸留水102には、塩分のみならず、硫酸,硝酸,及びアンモニアが溶解されることとなる。他方、蒸留水102への塩分の溶け込みによる電気伝導度の上昇は概ね200 mS/cmで頭打ちとなる。しかも、硫酸および硝酸は塩分(NaCl)よりも電気伝導度に対する感度が高く、これら硫酸および硝酸を蒸留水102に取り込んでしまうと、塩分の電気伝導度の変化が見えにくくなる。
【0009】
本発明者等が大気汚染物質によるpHの変化と電気伝導度の変化とを計測したところ、図18に示すように、時間経過とともにpHが全体的に低下(酸性化)し、それに反して電気伝導度が上昇し、かつpHに変化がない部分では電気伝導度も変化しない傾向があることを知見するに至った。ここで、全体傾向が酸性化していることから、pHに影響を与えるのは主に硫酸ガスや硝酸ガスなどの酸性の大気汚染物質であると思われる。そこで、塩化ナトリウムの電気伝導度の計測の阻害成分に対して緩衝作用を及ぼす緩衝剤を用いることで塩化ナトリウムの電気伝導度の変化分だけを取り出せると考えた。このことから、本発明者らは、大気中の塩分濃度の測定においては、様々な物質が溶け込んだ影響を受けている水溶液の電気伝導度について、海塩粒子以外の物質のpHに与える影響をできる限り排除することで、海塩粒子の増減による電気伝導度の変化を把握し易くすることを見出した。
【0010】
本発明は、かかる知見に基づいて為されたものであり、被測定外気中の海塩粒子を塩分捕集液に溶解させて捕集し、塩分捕集液の電気伝導度を計測することで海塩粒子の経時変化を求める気中塩分の測定方法において、塩分捕集液として液体中の硫酸、硝酸の量の変動に起因する液体の電気伝導度の変化を抑制/緩和し得る緩緩衝液を用いるようにしている。
【0011】
また、本発明の気中塩分の測定方法は、吸入管を含む外気流通部に被測定外気を通過させて吸入管の内面に海塩粒子を付着させ、緩衝液を溜める気中塩分捕集部と吸入管との間を緩衝液を塩分捕集液として循環させて海塩粒子を洗い流し、気中塩分捕集部に緩衝液を回収して電気伝導度を測定して気中塩分の経時的変化を求めるようにしても良い。
【0012】
また、本発明の気中塩分の測定方法は、さらに、循環中の前記緩衝液に酢酸ガスを接触させることが好ましい。
【0013】
ここで、緩衝液は例えば炭酸セシウム水溶液であることが好ましい。
【0014】
さらには、酢酸ガスは0.5~8vol%の濃度の酢酸溶液から気化させたものであることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、被測定外気中の海塩粒子を塩分捕集液に溶解させて捕集し、塩分捕集液の電気伝導度を計測することによって気中塩分の経時変化を測定する気中塩分測定装置において、液体中の硫酸、硝酸の量の変動に起因する前記液体の電気伝導度の変化を抑制/緩和し得る緩衝液を前記塩分捕集液として、前記被測定外気を流通させ前記海塩粒子を内面に付着させる吸引管を循環させるようにしている。
【0016】
また、本発明の気中塩分の測定装置は、吸引管と、吸引管の出口を囲い緩衝液を貯留する気中塩分捕集部と、気中塩分捕集部内を負圧にして吸引管に被測定外気を吸引させる吸引ポンプとを含む外気流通部と、気中塩分捕集部と前記吸引管の吸引部付近とを接続して気中塩分捕集部内の緩衝液を塩分捕集液として吸引管を経由させて循環させる循環部と、気中塩分捕集部内の緩衝液の電気伝導度を計測する電気伝導度計とを備え、緩衝液を定期的にあるいは間欠的に若しくは連続的に循環させ、緩衝液によって吸引管内に付着した海塩粒子を洗い流すと共に溶解させて気中塩分捕集部内に捕集し、電気伝導度の経時的変化を測定するようにしても良い。
【0017】
また、本発明の気中塩分の測定装置は、前記吸引管の一部をシリコンチューブまたはシリコン膜とし、前記シリコンチューブまたは前記シリコン膜の周囲を包囲して酢酸ガスを溜める空間を形成する酢酸ガス供給容器を備え、前記空間に前記酢酸ガスを溜め、前記酢酸ガスが前記シリコンチューブまたは前記シリコン膜を透過して前記吸引管を循環中の前記緩衝液と接触させる酢酸ガス供給部を更に有することが好ましい。
【0018】
ここで、緩衝液は例えば炭酸セシウム水溶液であることが好ましい。
【0020】
さらには、酢酸ガス供給容器には0.5~8vol%の濃度の酢酸溶液が貯留され、酢酸ガスは酢酸溶液から気化させたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の気中塩分の測定方法や測定装置によれば、観測対象外の特に酸性の物質によるpH値への影響を低減・抑制することができるので、気中の例えば海塩粒子などの塩分の増減による電気伝導度の変化を正確に把握することが可能になり、延いては気中塩分の測定精度を向上させることが可能になる。
【0022】
また、本発明においてさらに循環中の緩衝液に酢酸ガスを接触させるようにした場合には、観測対象外の硝酸イオンによるpH値への影響を低減・抑制することができるので、気中海塩粒子などの塩分の増減による電気伝導度の変化を一層正確に把握することが可能になり、延いては気中塩分の測定精度を一層向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る気中塩分の測定方法の概略を説明する概念図である。
図2】本発明に係る気中塩分の測定装置の実施形態の一例を示す概略構成図である。
図3】検証実験1における酢酸濃度別の電気伝導度の計測結果を示す図であり、酢酸水溶液の濃度が0.5vol%の場合の結果である。
図4】検証実験1における酢酸濃度別の電気伝導度の計測結果を示す図であり、酢酸水溶液の濃度が2vol%の場合の結果である。
図5】検証実験1における酢酸濃度別の電気伝導度の計測結果を示す図であり、酢酸水溶液の濃度が5vol%の場合の結果である。
図6】検証実験1における酢酸濃度別の電気伝導度の計測結果を示す図であり、酢酸水溶液の濃度が8vol%の場合の結果である。
図7】検証実験1における酢酸濃度別の電気伝導度の計測結果を示す図であり、酢酸水溶液の濃度が9vol%の場合の結果である。
図8】検証実験1における酢酸濃度別の電気伝導度の計測結果を示す図であり、酢酸水溶液の濃度が10vol%の場合の結果である。
図9】検証実験2における硫酸/硝酸濃度別の電気伝導度の計測結果を示す図であり、緩衝液がリンゴ酸の場合の結果である。
図10】検証実験2における硫酸/硝酸濃度別の電気伝導度の計測結果を示す図であり、緩衝液がヒスチジンの場合の結果である。
図11】検証実験2における硫酸/硝酸濃度別の電気伝導度の計測結果を示す図であり、緩衝液がイミダゾールの場合の結果である。
図12】検証実験2における硫酸/硝酸濃度別の電気伝導度の計測結果を示す図であり、緩衝液がトリスヒドロキシメチルアミノメタンの場合の結果である。
図13】検証実験2における硫酸/硝酸濃度別の電気伝導度の計測結果を示す図であり、緩衝液がジエタノールアミンの場合の結果である。
図14】検証実験2における硫酸/硝酸濃度別の電気伝導度の計測結果を示す図であり、緩衝液が炭酸セシウム(無水)の場合の結果である。
図15】検証実験2における塩化ナトリウム濃度別の電気伝導度の計測結果を示す図である。
図16】検証実験3における、本発明に係る気中塩分の測定装置(即ち、検証装置)に関する結果であり、混合液の電気伝導度の経時変化を示す図である。
図17】検証実験3における、比較装置に関する結果であり、純水の電気伝導度の経時変化を示す図である。
図18】大気汚染物質によるpHの変化と電気伝導度の変化との計測結果を示すグラフである。
図19】塩分捕集液の性状毎の大気汚染物質の低減効果実験の結果を比較して示すグラフで、(A)は純水の塩分捕集液に対する炭酸セシウム・緩衝液を塩分捕集液としたケースの比較結果を示し、(B)は純水の塩分捕集液に対する炭酸セシウム・緩衝液+酢酸5vol%ユニットを付加したケースとの比較結果を示す。
図20】吸引管内を通過する被測定外気および塩分捕集液の状態を示す図で、(A)は内面が乾燥した状態、(B)は内面が濡れた状態、(C)は内部を気液二層流で流れる状態、(D)は内部を塩分捕集液の塊で流れる状態を示す。
図21】本発明に係る気中塩分の測定装置(「検証装置A」、「検証装置B」)と比較装置とで、塩分捕集液の電気伝導度の経時変化に与える大気中ガスによるバックグランド上昇の影響を測定した実験結果を示すグラフであり、(A)は比較装置、(B)は検証装置A、(C)は検証装置Bの結果をそれぞれ示す。
図22】従来の気中塩分測定装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0025】
下記の記載において、「A~B%程度」との表記は、Aについて「A%以上」,「A%より大きい」,及び「大凡A%」のうちのいずれの意も含み(言い換えると、前記のうちのいずれかの意を表し)、また、Bについて「B%以下」,「B%未満」,及び「大凡B%」のうちのいずれの意も含む(言い換えると、前記のうちのいずれかの意を表す)。
【0026】
本発明に係る気中塩分の測定方法は、被測定外気中の海塩粒子を塩分捕集液に溶解させて捕集し、塩分捕集液の電気伝導度を計測することで海塩粒子の経時変化を求めるものであり、その塩分捕集液として緩衝液を用いるものである。具体的には、例えば、吸入管を含む外気流通部に被測定外気を通過させて吸入管の内面に海塩粒子を付着させ、緩衝液を溜める気中塩分捕集部と吸入管との間を緩衝液を塩分捕集液として循環させて海塩粒子を洗い流し気中塩分捕集部に回収し(気中塩分捕集工程)、気中塩分捕集部に回収した緩衝液の電気伝導度を測定して気中塩分の経時的変化を求める(電気伝導度測定工程)ものである。
【0027】
図1及び図2に、本発明に係る気中塩分の測定方法および測定装置の実施形態の一例を示す。
【0028】
〈気中塩分捕集工程〉
本実施形態にかかる気中塩分の測定方法は、被測定外気1の塩分濃度の経時変化を、被測定外気1中の塩分を液体即ち塩分捕集液へと溶け込ませた上で塩分捕集液中の塩分量の変動に起因する塩分捕集液の電気伝導度の変化を介して把握するものである。
【0029】
ここで、被測定外気1中の塩分を液体へと溶け込ませる手法としては、特定の手法に限られず、被測定外気1中の海塩粒子(言い換えると、被測定外気由来の塩分)を液体へ溶け込ませて捕集し得るあらゆる気中塩分捕集手法が適用可能であり、例えば従来技術として例示した図22の気中塩分測定装置および方法によっても実施可能であるが、好ましくは処理量が把握できる状態で被測定外気1中の海塩粒子を液体へと溶け込ませて捕集し得る図2の手法の採用である。
【0030】
本実施形態の場合、被測定外気1中の海塩粒子は、例えば吸入管12を含む外気流通部に被測定外気1を通過させて吸入管12の内面に付着させることにより捕捉される。吸入管12を被測定外気1が通過する間に、管の内面に海塩粒子の大部分が付着する。この吸引管12には、緩衝液4が塩分捕集液5として定期的にあるいは間欠的若しくは連続的に流されることによって付着した海塩粒子が洗い流される。海塩粒子は、塩分捕集液5即ち緩衝液に溶解されてから気中塩分捕集部11に回収される。そこで、気中塩分捕集部11に回収された塩分捕集液(即ち緩衝液)5の電気伝導度を測定すれば気中塩分の経時的変化を求めることができる。
【0031】
吸入管12は、具体的には例えば、単一の中空部(別言すると、流路)を有する管状の形態を備えるものとして構成されたり、被測定外気1が流通する方向に沿って配設される隔壁によって仕切られて形成される複数の区画(別言すると、流路)を有するものとして構成されたり、或いは、複数の細管が各々の長手方向が揃えられて束ねられたものとして構成されたりすることが考えられ、また、これらが組み合わせられたものとして構成されたりすることが考えられる。
【0032】
吸入管12のうちの、少なくとも被測定外気1に含まれていた海塩粒子が付着する部分には、気中塩分捕集部11の塩分捕集液5が流れる循環流路が構成されている。そして、吸引管12内に定期的に緩衝液を流してそれ以外の大部分の間は外気を通過している間に付着した海塩粒子が洗い流される。ここで、緩衝液を定期的に流す場合にも、図20に示すように、多くの時間で吸引管12の内部を被測定外気1が通過しながら海塩粒子を管内面に付着させている状況(図20(A)参照)を形成しているが、緩衝液5が流れる際には吸引管12の内面(管内壁)を濡らす状況(図20(B)参照)と、また管内に気液二相流を形成する程度に緩衝液と被測定外気1とが混在しながら流れる状況(図20(C)参照)と、管内を塊で緩衝液が間欠的にあるいは連続的に流れる状況(図20(D)参照)とが形成され、付着海塩粒子の洗い流しと同時に大気汚染物質が取り込まれてしまう。
【0033】
また、本実施形態では、外気流通部を構成する吸引管12の内面に付着した海塩粒子を定期的に循環させる塩分捕集液で洗い流すようにしているが、これに特に限られるものではなく、例えば吸引管12へと付着した塩分を擦り落とす機素(具体的には例えば、ブラシ,刷毛)が用いられるようにしても良いし、さらには被測定外気1と塩分捕集液5とが吸引管12を一緒(別言すると、同時)に流通/流動するようにし、被測定外気1と塩分捕集液5とが混ざり合い接触しつつ流通/流動する間に被測定外気1中の塩分を塩分捕集液5へと溶け込ませるようにしても良い。
【0034】
また、緩衝液を定期的に流すのではなく、常時吸引管12の内面(管内壁)を濡らす程度に緩衝液を流す(図20(B)参照)、あるいは常時管内に気液二相流を形成する程度に緩衝液を流す(図20(C)参照)、場合によっては常時管内を塊で緩衝液を間欠的に流す(図20(D)参照)といういずれかの方式によっても付着海塩粒子の洗い流しは可能である。いずれにしても吸引管12内ではガスと緩衝液との接する界面が存在し、海塩粒子の取り込みが行われることとなる。
【0035】
本発明者等の大気汚染物質によるpHの変化と電気伝導度の変化との関係を測定した実験によると、図18に示すように、時間経過とともに蒸留水のpHが全体的に下がって行く(酸性化している)傾向を示していることから、pHと電気伝導度に影響を与えるのは主に硫酸ガスや硝酸ガスなどの酸性の大気汚染物質であると思われた。そこで、塩化ナトリウムの電気伝導度の計測の阻害成分に対して緩衝作用を及ぼす緩衝剤を用いることで塩化ナトリウムの電気伝導度の変化分だけを取り出せると考えた。つまり、緩衝液は、塩化ナトリウムの電気伝導度の計測における阻害成分に対して緩衝作用を及ぼすものである。具体的には、緩衝液4は、液体中の酸性物質(具体的には例えば、硫酸,硝酸)の量の変動に起因する前記液体の電気伝導度の変化を抑制/緩和するものである。
【0036】
緩衝液4は、液体中の酸性物質(具体的には例えば、硫酸,硝酸)の量の変動に起因する前記液体の電気伝導度の変化を抑制/緩和し得るものであれば、特定の種類の緩衝液(特に、pH緩衝液)に限定されるものではなく、必要に応じて例えば安全性が考慮されるなどした上で、適当なものが適宜選択される。
【0037】
緩衝液4としては、具体的には例えば、あくまで例として挙げると(尚、各物質名の後ろの括弧内は25℃の水(25℃以外のものは、*1:20℃、*2:18℃で示す)におけるpK値であり、酸の解離が段階的に起こるものは複数のpK値をもつ)、リン酸(2.15,7.20,12.33),ジグリコール酸(2.96,4.43),フマル酸(3.03),馬尿酸(3.63),グリコール酸(3.83),バルビツール酸(4.04),安息香酸(4.2),リンゴ酸(3.4,5.13),ピペラジン(5.55),コハク酸(4.21,5.64),マロン酸(2.88,5.68),ヒスチジン(5.96),マレイン酸(2.00,6.26),3,3-ジメチルグルタル酸(3.7,6.34),ビストリス(2-ヒドロキシエチル)アミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(6.46)*1,N-(2-アセトアミド)イミノ二酢酸(6.62)*1,エチレンジアミン(6.85),イミダゾール(6.95),2,4,6-トリメチルビリジン(7.43),4-メチルイミダゾール(7.52),N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N’-2-エタンスルホン酸(7.55)*1,N-エチルモルホリン(7.67),トリエタノールアミン(7.76),トリイソプロパノールアミン(7.86),トリスヒドロキシメチルアミノメタン(8.06),1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン(8.1)*2,トリシン(8.15)*1,ビシン(8.35)*1,トリス(ヒドロキシメチル)メチル-アミノプロパンスルホン酸(8.4)*1,N-メチルジエタノールアミン(8.52),2-アミノ-2-メチル-1,3プロパンジオール(8.79),2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール(8.8),ジエタノールアミン(8.88),アラニン(2.17,9.1,9.87),4-アミノピリジン(9.11),セリン(9.21),ホウ酸(9.23),炭酸(6.35,10.33),アンモニア(9.25),リン酸二水素アンモニウム,炭酸セシウム(無水),リン酸ナトリウム,イオン交換水,ホウ酸セシウム,リン酸セシウム,クエン酸セシウム,水酸化リチウム,または水酸化バリウムが用いられ得る。
【0038】
緩衝液4として、複数の物質が用いられるようにしても良い。具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、リン酸と炭酸セシウムとが混合されて用いられるようにしても良い。
【0039】
発明者らの知見によると、緩衝液4として、pK値が凡そ5(具体的には例えば、リンゴ酸(pK値:5.13))から12(具体的には例えば、リン酸(pK値:12.33))までの範囲に入っている物質が用いられることが好ましく、pK値が凡そ6(具体的には例えば、ヒスチジン(pK値:5.96))から10(具体的には例えば、炭酸(pK値:10.33))までの範囲に入っている物質が用いられることが一層好ましく、pK値が凡そ8(具体的には例えば、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(pK値:8.06))から10(具体的には例えば、炭酸(pK値:10.33))までの範囲に入っている物質が用いられることが特に好ましい。pH値が4未満及び12以上では緩衝作用が不安定となる。
【0040】
発明者らの知見によると、さらに、緩衝液4として、炭酸セシウムなどの炭酸塩が用いられることが好ましく、特に炭酸セシウムは溶解度が高く析出や沈殿が起こらず溶液濃度が長期間安定しているのでより好ましい。
【0041】
ここで、本発明に係る技術は、被測定外気1の塩分濃度の経時変動を、被測定外気1中の塩分を液体へと溶け込ませた上で前記液体中の塩分量の変動に起因する前記液体の電気伝導度の変化を介して把握する。これに関連し、緩衝液4の濃度を高めるに従って塩分捕集液5としての電気伝導度が上昇する。また、液体(具体的には、純水)への塩分の溶け込みによる電気伝導度は所定の上限値(具体的には、概ね200 mS/cm)で上昇が止まる。
【0042】
したがって、緩衝液4の濃度は、緩衝液4が良好に機能を発揮し得る程度には十分な高濃度であることが好ましく、一方で、塩分捕集液5へと溶け込む塩分の多寡による電気伝導度の変動を適切に観測するため、すなわち、塩分捕集液5へと溶け込む塩分の増加に応じて電気伝導度が上昇する余地を残しておくため、緩衝液4が加えられた状態の塩分捕集液5の電気伝導度が液体への塩分の溶け込みによる電気伝導度の上限値(即ち、概ね200 mS/cm)よりも小さい値であることが確保される濃度であることが必要とされる。
【0043】
このため、緩衝液4の濃度は、緩衝液4が加えられた状態の塩分捕集液5の電気伝導度が少なくとも凡そ200 mS/cm を下回るように調節されることが必要であり、前記電気伝導度が150μS/cm 以下(若しくは、未満)であるように調節されることが好ましく、前記電気伝導度が150~100μS/cm 程度であるように調節されることが一層好ましく、前記電気伝導度が120~100 μS/cm 程度であるように調節されることが更に一層好ましい。なお、前記電気伝導度が100 μS/cm を下回っていても問題はない。
【0044】
緩衝液4の濃度が検討される際には、必要に応じ、本発明に係る気中塩分の測定方法や気中塩分の測定装置が適用される地域(別言すると、観測対象とされた地域)に於いて想定される気中塩分濃度や設定される調査期間(別言すると、設置されたままメンテナンスが行われることなく装置が自立して計測を行う期間)に基づく、前記想定濃度や前記設定期間における塩分濃度の上昇の程度が見込まれた上で、前記塩分濃度の上昇の程度に応じて上昇した結果の電気伝導度が凡そ200 mS/cm を上回らないようにすることが考慮されるようにしても良い。具体的には、緩衝液4は濃くなる程に緩衝効果はあるがバックグランドが高くなるので塩化ナトリウムの測定レンジが狭くなることから、0.2~3mmol/L程度とすることが好ましい。
【0045】
また、緩衝液4の濃度検討の際には、必要に応じ、塩分捕集液5の電気伝導度を計測する機序の計測範囲や計測精度などの計測に纏わる性能/仕様が考慮されるようにしても良い。
【0046】
なお、緩衝液4の溶媒としては、例えば電気伝導度による塩分の測定に影響を与える量の金属イオン等を実質的に含まない蒸留水・純水や、脱イオン水、超純水などのいわゆる精製水の使用が好ましいが、これに特に限られるものではない。
【0047】
以上、緩衝液を塩分捕集液として用いることにより、大気中の酸性物質(具体的には例えば、硝酸ガス,硫酸ガス)とアルカリ性物質(具体的には例えば、アンモニアガス)とが取り込まれたとしても、緩衝効果の発揮によってpHの変動が抑制されて塩分の電気伝導度の計測におけるバックグランドが抑えられ、塩分の電気伝導度の変化を明らかなものとすることができる。
【0048】
〈電気伝導度測定工程〉
吸引管12の内面(管内)を洗い流した塩分捕集液5が溜まる気中塩分捕集部11では、電気伝導度計20で塩分捕集液5の電気伝導度が計測される。
【0049】
塩分捕集液5の電気伝導度の計測は、特定の器具を用いる手法に限定されるものでなく、適当な手法が適宜選択されて行われるが、本実施形態では例えば、塩分捕集液5に浸漬された電極が用いられて行われることが考えられる。
【0050】
〈前処理工程〉
緩衝液を塩分捕集液5として用いることによって、被測定外気1の塩分濃度を電気伝導度の変化として測定する際の阻害成分の影響を抑えることができるが、まだ阻害物質の影響が僅かに残り改善の余地があるように思えた。
【0051】
つまり、被測定外気1中の気体物質には、酸性のもの(具体的には例えば、硝酸ガス,硫酸ガス)とアルカリ性のもの(具体的には例えば、アンモニアガス)とがあることから、緩衝液4を塩分捕集液5として用いることにより液体中の酸性物質(具体的には例えば、硫酸,硝酸)の量の変動に起因する塩分捕集液5の電気伝導度の変化を抑制/緩和することはできたものと思われたが、アンモニアガスの影響が残っていると考えられた。即ち、被測定外気1のアルカリ性物質(具体的には例えば、アンモニアガス)の濃度が変動した場合にもpHの変動に起因して塩分捕集液の電気伝導度は変化する。
【0052】
そこで、被測定外気1に含まれるアルカリ性物質(具体的には例えば、アンモニア)が液体の電気伝導度の変化に与える影響を低減・抑制するため、アンモニアを酸性ガスと接触させて中和反応させることを考えた。ここで酸性ガスとしては、被測定外気1にはもとより塩素が比較的多く含まれていることから酸性ガスとして塩酸(塩化水素)が用いられることは好ましくなく、また硝酸も比較的多く含まれていることから酸性ガスとして硝酸が用いられることは好ましくないことから、電気伝導度に影響を与えにくい(感度が悪い)酢酸を選択して中和反応実験を行った。しかしながら、予想もしなかった結果が得られた。
【0053】
本発明者等は、図2に示す酢酸ガス供給部14を追加した測定システムで、被測定外気中のアンモニアガスあるいは塩分捕集液5と酢酸ガスとが接触して、以下の反応によってアンモニアガスが捕捉され、電気伝導度の測定値にアンモニアガスが与える影響が抑えられると考えた。
(化1) CHCOOH + NH → CHCOONH
【0054】
そして、実験の結果、バックグランドの低減効果が得られたことから、上記中和反応によるものと考え、確認のための分析を行った。上記中和反応生成物は水溶性であるため、気中塩分捕集部(容器)11の塩分捕集液5をイオンクロマトグラフィで分析した。しかしながら、アンモニアイオンは変化していなかった。硝酸イオンが減少していることが確認された。また、気中塩分捕集部(容器)11の塩分捕集液5に白色固体の何らかの物質(非水溶性)が生成されたという現象が確認された。この白色固定物はEDX分析を行ったが成分不明だった。また、白色固体物の生成量がかなり微量であるため他の手法でも分析できなかった。しかし、硝酸イオンが減少していること、さらに白色固体の何らかの物質(非水溶性)が生成された結果、緩衝効果が得られたことから、硝酸成分が何らかの反応を起こして白色固体として沈殿したものと推測される。固体化された硝酸を含む物質は電気伝導度測定においては電気伝導度に影響を与えないことから、電気伝導度に硝酸ガスが与える影響が抑えられたものと推測される。
【0055】
また、実験室において、純水に0.3mmol/Lの固体の炭酸セシウムを混合した緩衝液を塩分捕集液として、その中に硝酸、硫酸、塩素、ナトリウムを添加した試料を用意し、酢酸ガス供給部14を備えないシステムで測定したところ、炭酸セシウムの緩衝液を塩分捕集液として用いるだけでは、純水を塩分捕集液として用いる場合と比べて硝酸イオンの低減効果は得られなかった(図19(A)参照)。他方、酢酸ガス供給部14を備える図2のシステムで測定したところ、純水を塩分捕集液とする場合と比べてアンモニアイオンへの低減効果は無かったものの、硝酸イオンが低減しているという結果が得られた(図19(B)参照)。このことからも、白色個体物は硝酸が酢酸ガスとの間で何らかの反応を起こして生成されたものと考えられる。
【0056】
この白色個体物質が酢酸ガス供給部14のシリコンチューブ内で生成され、捕集容器に流れていったか、あるいはチューブ内の何かしらの反応物が捕集容器内の物質とさらに反応して白色固定になったかは不明であるが、いずれにしても電気伝導度に影響を与えていた気中の汚染物質ガスが不溶化(固体化)されることで、電気伝導度に与える影響が抑えられたことは事実である。ちなみに、0.3mmol/Lの炭酸セシウムに酢酸(原液)および硝酸原液を1000倍希釈した溶液を滴下したビーカー実験を行ったが、白色個体は生成しなかった。また、気中塩分捕集部11に、酸性ガス(硝酸ガス、硫酸ガスなど)に対して緩衝効果を持つ緩衝液例えば0.3mmol/Lの炭酸セシウムを混合した純水から成る塩分捕集液と5vol%の酢酸水溶液を混合する実験を行ったが、白色個体が生成されなかったばかりか、電気伝導度の計測にも良いデータが得られなかったことが確認された。このことから、酢酸は気体状態で吸引管内に導入され、塩分捕集液5に含まれる硝酸イオンと酢酸ガス2あるいは酢酸イオン(塩分捕集液5に取り込まれ溶け込んでイオン化している酢酸)状態で反応されるものと推定される。
【0057】
これらのことから、塩分捕集液5と酢酸ガス2とが接触することにより、塩分捕集液5に含まれる硝酸イオンが何らかの不溶化反応を起こして白色個体物質(非水溶性)を生成したものと推定される。そして、緩衝液を塩分捕集液として用いるだけでは、十分でなかった硝酸イオンの低減効果による電気伝導度の変動を抑えられること、換言すれば塩分の電気伝導度の測定の阻害成分の除去効果が塩分捕集液5と酢酸ガスとを接触させることにより一層向上させ得ることが確認された。
【0058】
塩分捕集液5と酢酸ガス2との接触の態様としては、例えば、あくまで一例として挙げると、酢酸溶液が揮発することによって発生するガスを滞留させた上でシリコンチューブあるいはシリコン膜を透過させて塩分捕集液5と酢酸ガス2とを接触させる態様が挙げられる。
【0059】
ここで、塩分捕集液5と接触させる酢酸ガス2の濃度は、本発明の工程において酢酸ガス2が塩分捕集液5へと溶け込んで溶存しない(若しくは、殆ど溶存しない)範囲で、塩分捕集液5に取り込まれた硝酸イオンを良好に不溶化させ得る程度には十分な濃度であることが好ましい。
【0060】
酢酸は元々電気伝導度に影響を与えにくい(感度が悪い)ものであるが、9vol%を越えると電気伝導度に影響を与えることが考えられる。そこで、酢酸ガス2を揮発させる酢酸溶液としては、本実施形態の場合、例えば、酢酸溶液の濃度が、0.5~8vol%程度に調節されることが考えられ、1~6vol%程度に調節されることが好ましく、2~5vol%程度に調節されることがより好ましく、4~5vol%程度に調節されることがさらに好ましく、5vol%程度に調節されることが一層好ましい。酢酸は5vol%程度では水溶液中に含まれても電気伝導度に影響を与えない。また、酢酸は揮発しやすい。したがって、塩分捕集液に混合されたとしても、気中塩分捕集部内で吸引管の外に出た時点で揮発して吸引ポンプによる誘引送風で系外に排出されるものと考えられる。
【0061】
図2に、本発明に係る気中塩分の測定方法および測定装置の実施形態の一例を示す。
【0062】
上記の気中塩分の測定方法は、本発明に係る気中塩分の測定装置によって実施され得る。本発明に係る気中塩分測定装置10は、緩衝液を塩分捕集液として循環させることで被測定外気中の海塩粒子を塩分捕集液に溶解させて捕集し、塩分捕集液の電気伝導度を計測することによって気中塩分の経時変化を測定するものである。
【0063】
具体的には、本実施形態の気中塩分測定装置は、例えば図2に示すように、被測定外気1を流通させ気中海塩粒子を内面に付着させる吸引管12と、吸引管12の出口を囲い緩衝液4を貯留する気中塩分捕集部11と、気中塩分捕集部11内を負圧にして吸引管12に被測定外気1を吸引させる吸引ポンプ15とを含む外気流通部と、気中塩分捕集部11と吸引管12の吸引部12a付近とを接続して気中塩分捕集部11内の緩衝液4を塩分捕集液として吸引管12を経由させて循環させる循環部16と、気中塩分捕集部11内の緩衝液4の電気伝導度を計測する電気伝導度計20とを備え、緩衝液4を定期的にあるいは間欠的に若しくは連続的に循環させ、緩衝液4によって吸引管12内に付着した海塩粒子を洗い流すと共に溶解させて気中塩分捕集部11内に捕集し、電気伝導度の経時的変化を測定するようにしている。
【0064】
気中塩分捕集部11は、塩分捕集液5としての緩衝液4を溜めておく容器であり、吸引管12の一方の開口端(即ち出口)を挿入して密封された構造を成す。本実施形態の場合、気中塩分捕集部11は、上部空間に吸引ポンプ15が接続されており、吸引ポンプ15によって上部空間を吸引して負圧にすることで吸引管12の吸引部12aから被測定外気1を気中塩分捕集部11の上部空間に吸引してから系外に排気する誘引通風の外気流通部を構成している。吸引管12に吸引された外気1は気中塩分捕集部11の内部空間で出口12bから放出された後、気液分離されて吸引ポンプ15を経由して大気中に放出される。尚、吸引ポンプ15の吸引/排出能力は、特定の水準に限定されるものではなく、具体的には例えば5~20 L/分 程度に設定されることが考えられる。
【0065】
また、気中塩分捕集部11は、下部の液溜まり(緩衝液4が溜められている部分)に吸引管12の他方の開口端(即ち吸引部12a)の付近に接続された管路が接続されており、気中塩分捕集部11と吸引管12の吸引部12a付近とを接続して気中塩分捕集部11内の緩衝液4を塩分捕集液として吸引管12を経由させて循環させる循環部16が構成されている。循環部16には送液ポンプ17が備えられ、本実施形態の場合定期的に気中塩分捕集部11内の緩衝液4を塩分捕集液として吸引管12を経由させて循環させる。これによって気中の海塩粒子を含んだ緩衝液5は塩分捕集部11に溜められ、電気伝導度計20によって電気伝導度の経時的変化が計測される。他方、吸引ポンプ15を経由して大気中に放出される吸引空気流量は図示していない流量計で求められることから、電気伝導度の経時変化と検量線から導き出される塩分量と吸引空気流量とから気中塩分濃度が求められる。
【0066】
気中塩分捕集部11は、塩分や緩衝液4による腐食・劣化などが起こり難い材質であることが考慮されるなどした上で、適当な材質が適宜選択されて形成される。気中塩分捕集部11は、具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、アクリル樹脂製の容器として形成される。
【0067】
吸引管12は、被測定外気1を通過させている間に被測定外気1中の塩分を付着させ、また、塩分捕集液5を当該吸引管12に対して流動させて前記付着した塩分を洗い流して塩分捕集液5へと溶け込ませるためのものであり、図に示す例では塩分捕集液5と共に前記付着した塩分を塩分捕集部11内へと導くものとしても機能する。
【0068】
吸引管12の働きとして、当該吸引管12内に被測定外気1と塩分捕集液5とを一緒(別言すると、同時)に流通/流動させて被測定外気1と塩分捕集液5とを混ぜ合わせ接触させつつ流通/流動させる間に被測定外気1中の塩分を塩分捕集液5へと溶け込ませるようにしても良い。
【0069】
吸引管12は、被測定外気1が流通・通過し得るものであれば特定の態様に限定されるものではなく、被測定外気1と吸引管12とが十分に接触して被測定外気1中の塩分が吸引管12へと良好に付着し得ることが考慮されるなどした上で、適当な形状・形態などが適宜選択される。
【0070】
吸引管12は、具体的には例えば、両端が開口している管状に形成されて被測定外気1が管内を流通して通過するものとして構成される。なお、吸引管12の形態としての管状には、例えばガラス製の管のように形状が固定されたものだけでなく、形状が変化し得る可撓性を備えるチューブも含まれる。
【0071】
図に示す例では、吸引管12は、管状に形成されて一方の端部側が塩分捕集部11へと差し込まれ、塩分捕集部11の外側に位置する開口部を外気吸引部12aとすると共に塩分捕集部11の内側に位置する開口部を外気排出部12bとしている。
【0072】
図に示す例では、吸引管12の外気排出部12b(即ち、吸引管12のうちの塩分捕集部11内側の端面)は、塩分捕集部11内の塩分捕集液5とは接触しない位置に配置される。
【0073】
被測定外気1に含まれる夾雑物が塩分捕集部11内へと進入したり被測定外気1に含まれる固形物によって吸引管12に対する被測定外気1の流通が阻害されたりすることがないように前記固形物を除去するため、吸引管12へと至る被測定外気1の経路や吸引管12内にフィルタ部材13が設けられるようにしても良い。なお、被測定外気1に含まれる固形物としては、具体的には例えば土埃や植物片などのごみや昆虫などが挙げられる。
【0074】
酢酸ガス供給部14は、被測定外気1に接触したあるいは接触中の塩分捕集液5と酢酸ガス2とを接触させ、塩分捕集液5に含まれる硝酸イオンと酢酸ガス2あるいは酢酸イオン(塩分捕集液5に取り込まれ溶け込んでイオン化している酢酸)とを反応させるためのものである。酢酸ガス供給部14の働きにより、塩分捕集液5中の硝酸イオンの量の変動に起因する前記塩分捕集液5の電気伝導度の変化が抑制/緩和される。
【0075】
酢酸ガス供給部14は、酢酸ガス2が滞留する空間としてのガス滞留部14aと、当該ガス滞留部14a内の酢酸ガス2と接触しながら被測定外気1および塩分捕集液5とが通過する流路としての反応流通部14bとを有する。
【0076】
ガス滞留部14aは、酢酸ガス2による腐食・劣化などが起こり難い材質であることが考慮されるなどした上で、適当な材質が適宜選択されて形成される。ガス滞留部14aは、具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、ガラス製の容器として形成される。
【0077】
ガス滞留部14aは、酢酸ガス2が充満するものとして構成される。具体的には例えば、ガス滞留部14a内に酢酸溶液6が溜められて揮発することによって発生する酢酸ガス2が上部のガス滞留部14a内に充満するようにしている。勿論、ガス滞留部14aに対して一定濃度の酢酸ガス2が外部から供給されることによってガス滞留部14a内を酢酸ガス2で充満させるようにしても良い。
【0078】
図に示す例では、ガス滞留部14a内に酢酸溶液6が溜められて酢酸が揮発することによって発生する酢酸ガスがガス滞留部14a内に充満するようにしている。
【0079】
本実施形態では、被測定外気1が通過する吸引管12の途中に(言い換えると、吸引管12の一部として)ガス滞留部14aを貫通するように反応流通部14bが設けられる。
【0080】
反応流通部14bは、液体は透過させない一方で気体透過性が高い材質であることが考慮されるなどした上で、適当な材質が適宜選択されて形成される。本実施形態の場合、反応流通部14bは、具体的には例えば、あくまで一例として挙げると、ガス透過性に優れるシリコンチューブによって形成される。本実施形態の場合、ガラス管からなる吸引管12の一部をシリコンチューブに置換して反応流通部14bを構成することで、底部がシリコンチューブで構成されたU形に屈曲する管路が形成されている。これによって、酢酸ガス供給部14のガス滞留部14a内に溜まった酢酸ガスが吸引管12内に透過して、塩分捕集液5と接触する。
【0081】
循環部16は、塩分捕集部11内に溜められる塩分捕集液5を再び吸引管12の上流側例えば外気吸引部12aの付近へ還流させて、吸引管12及び酢酸ガス供給部14と塩分捕集部11とを経由する塩分捕集液5の循環路を形成するためのものである。
【0082】
なお、塩分捕集液5は酢酸ガス供給部14を流通・通過するので、塩分捕集液5が酢酸ガス供給部14を流通・通過する際に塩分捕集液5に含まれる硝酸イオンが不溶化を起こすことも考えられる。
【0083】
吸引管12に対してフィルタ部材13が設けられる場合には、外気吸引部12aから吸い込まれる被測定外気1中の塩分がフィルタ部材13に付着することが考えられるので、フィルタ部材13に付着した被測定外気1由来の塩分を塩分捕集液5へと溶け込ませて回収するため、塩分捕集液5がフィルタ部材13を通過し得るように吸引管12と循環部16とが連通する位置が調整される(具体的には例えば、吸引管12の外気吸引部12aとフィルタ部材13との間の位置へと循環部16の他端が連通する)。
【0084】
ここで、被測定外気1中の塩分の吸引管12への付着は、被測定外気1と吸引管12(具体的には、図に示す例では、吸引管12の内面)との接触時間が長いほど起こり易くなって良好に行われることになる。このため、吸引管12の外気吸引部12a(特に、吸引管12へと循環部16が接続されて両者が連通する位置)から外気排出部12bまでの距離ができる限り長くなるように構成されることが好ましい。
【0085】
例えば、吸引管12について、外気吸引部12a(特に、吸引管12へと循環部16が接続されて両者が連通する位置)から外気排出部12bまでの区間が螺旋状に形成されることにより、コンパクトでありながらも被測定外気1と吸引管12との接触時間を長くして被測定外気1中の塩分を吸引管12へと付着させ易くすることができる。本実施形態では細管で長い管が吸引管12として採用されているが、これに特に限定されるものではない。
【0086】
また、被測定外気1中の塩分の吸引管12への付着は、被測定外気1と吸引管12との接触面積が大きいほど起こり易くなって良好に行われることになる。このため、吸引管12の内部構造として、被測定外気1と吸引管12との接触面積ができる限り大きくなるように構成されることが好ましい。
【0087】
例えば、吸引管12の内部に、当該吸引管12の断面寸法(即ち、当該吸引管12内における被測定外気1の流動方向と直交する断面の寸法)よりも外径が小さい管が並列に複数本設けられることにより、これら複数本の管のそれぞれに被測定外気1が流入して接触し、コンパクトでありながらも(具体的には、同じ外形寸法の吸引管12と比較して)被測定外気1と吸引管12との接触面積を大きくして被測定外気1中の塩分を吸引管12へと付着させ易くすることができる。
【0088】
純水供給部18は、塩分捕集液5の循環路(具体的には、塩分捕集部11,吸引管12,酢酸ガス供給部14,及び循環部16を含む)に対して純水3を供給/補給するためのものである。純水3は、主に測定リセットの際の循環路のクリーニング(定期的なクリーニング)のために使用されるが、気中塩分捕集部(容器)の塩分捕集液の液位を一定に保つために補充されたり、緩衝液の溶媒の蒸発分を補給して一定濃度に保つためにも使用される。
【0089】
純水供給部18は、純水3を溜めておく容器としての純水貯留部18aと、当該純水貯留部18a内に溜められる純水3を塩分捕集液5の循環路へと送り込む経路としての純水流通部18bとを有する。
【0090】
図に示す例では、純水貯留部18a内に溜められる純水3を吸い込み得るように純水流通部18bの一端が純水貯留部18aと連通すると共に純水貯留部18aから吸い込んだ純水3を流れ込ませ得るように純水流通部18bの他端が循環部16と連通する。なお、純水流通部18bの他端が接続される部位は、循環部16に限定されるものではなく、塩分捕集液5の循環路を構成する部位のうちの何れでも良い。
【0091】
純水供給部18による純水3の供給/補給は、塩分捕集部11内に留められる塩分捕集液5の量が規定値/規定水準を下回ったときに行われ、また、所定の期間毎に塩分捕集液5の交換が実施される場合に行われる。
【0092】
緩衝液供給部19は、塩分捕集液5の循環路(具体的には、塩分捕集部11,吸引管12,酢酸ガス供給部14,及び循環部16を含む)に対して緩衝液4を供給/補給するためのものである。
【0093】
緩衝液供給部19は、緩衝液4を溜めておく容器としての緩衝液貯留部19aと、当該緩衝液貯留部19a内に溜められる緩衝液4を塩分捕集液5の循環路へと送り込む経路としての緩衝液供給管19bとを有する。
【0094】
図に示す例では、緩衝液供給部19内に溜められる緩衝液4を吸い込み得るように緩衝液流通部19bの一端が緩衝液貯留部19aと連通すると共に緩衝液貯留部19aから吸い込んだ緩衝液4を流れ込ませ得るように緩衝液流通部19bの他端が純水流通部18bと連通される。なお、緩衝液流通部19bの他端が接続される部位は、純水流通部18bに限定されるものではなく、塩分捕集液5の循環路を構成する部位のうちの何れでも良い。
【0095】
緩衝液供給部19による緩衝液4の供給/補給は、塩分捕集部11内に留められる塩分捕集液5の量が規定値/規定水準を下回ったときに行われ、また、所定の期間毎に塩分捕集液5の交換が実施される場合に行われる。
【0096】
塩分捕集液5の循環並びに純水3の供給/補給や緩衝液4の供給/補給を制御するため、塩分捕集部11内に液面センサ25が備えられ、また、循環部16のうちの塩分捕集部11と送液ポンプ17との間の位置において循環部16と純水供給部18との間に介在するように流路切替手段26が設けられると共に、純水供給部18と緩衝液供給部19との間に介在するように流路切替手段27が設けられ、さらに、液面センサ25からの信号に基づいて流路切替手段26と流路切替手段27とのそれぞれの作動を制御するための制御手段(図示していない)が備えられる。
【0097】
液面センサ25としては、例えば、光電式液面計が用いられ得る。液面センサ25は、塩分捕集部11内の塩分捕集液5の液面の位置が規定値/規定水準よりも低下すると制御手段に対して液面位置が低下した旨の信号を送り、また、塩分捕集液5の液面の位置が規定水準であると制御手段に対して液面位置が適切である旨の信号を送る。液面センサ25による液面の検知に基づいて、塩分捕集部11内に留められる塩分捕集液5の液面の位置が常時一定に調整される。
【0098】
流路切替手段26,27としては、具体的には例えば電磁弁式の二方弁もしくは三方弁が用いられる。
【0099】
塩分捕集液5の循環や純水3及び緩衝液4の供給/補給については、まず、基本(別言すると、通常)の状態として、塩分捕集部11内に留められる塩分捕集液5の液面位置が規定水準であることを液面センサ25が検知している場合には、液面センサ25から制御手段(図示していない)へと信号が送られ、制御手段が流路切替手段26及び流路切替手段27を作動させることによって塩分捕集液5の循環路が開通させられると共に純水供給部18からの純水3及び緩衝液供給部19からの緩衝液4の供給路が遮断される。
【0100】
具体的には、流路切替手段26が作動して、塩分捕集部11から送液ポンプ17への塩分捕集液5の供給路が確保されて塩分捕集液5が供給可能とされると共に送液ポンプ17と純水供給部18及び緩衝液供給部19との供給路が遮断されて純水3や緩衝液4の供給が停止される。
【0101】
一方、塩分捕集部11内に留められる塩分捕集液5の液面位置が規定値/規定水準を下回ったことを液面センサ25が検知すると、液面センサ25から制御手段(図示していない)へと信号が送られ、制御手段が流路切替手段26及び流路切替手段27を作動させることによって塩分捕集液5の循環路が遮断されると共に純水供給部18への純水3の供給路あるいは緩衝液供給部19への緩衝液4の供給路のいずれかが開通させられる。
【0102】
具体的には、流路切替手段26,27が切り替えられて送液ポンプ17に対して緩衝液供給部19が接続され緩衝液4の供給が可能とされ、塩分捕集部11から送液ポンプ17への塩分捕集液5の供給路が遮断されると共に緩衝液供給部19から送液ポンプ17への緩衝液4の供給が行われる。
【0103】
なお、図に示す例のように循環部16のうちの塩分捕集部11と送液ポンプ17との間に純水供給部18及び緩衝液供給部19が三方弁26,27を介して接続されることにより、一台の送液ポンプ17により、塩分捕集部11内に留められる塩分捕集液5の循環と、純水供給部18内に溜められる純水3あるいは緩衝液供給部19内に溜められる緩衝液4のいずれか一方あるいは双方の供給が行われる。
【0104】
計測部20は、塩分捕集部11内に留められる塩分捕集液5に浸漬された電極を介して塩分捕集液5の電気伝導度を計測するためのものである。
【0105】
なお、上述のような仕組みの場合、酢酸ガス2は塩分捕集液5中に殆ど溶存することなく揮発するため、塩分捕集液5と酢酸ガス2とを接触させることによる塩分捕集液5の電気伝導度の変化は起こらない。
【0106】
塩分捕集液5の循環は、本実施形態の場合には定期的に実施されているが、これに特に限られず、常時間欠的に行われるようにしても、連続的に行われるようにしても良いものの、酢酸ガス供給部14の反応流通部14bに於ける塩分捕集液5と酢酸ガス2との接触が十分に行われるようにすると共に酢酸ガス2の塩分捕集液5中への溶け込み/溶存を抑制するためには定期的あるいは間欠的に行われることが好ましい。
【0107】
塩分捕集液5は吸引管12内で接触する被測定外気1に含まれる海塩粒子あるいは吸引管12の内面に付着している海塩粒子を溶け込ませながら循環路(具体的には、塩分捕集部11,吸引管12,酢酸ガス供給部14,及び循環部16を含む)を定期的あるいは随意的に循環するので、被測定外気1中に塩分が存在する限り塩分捕集液5の塩分濃度は次第に上昇し、したがって塩分捕集液5の電気伝導度は徐々に上昇する。このため、所定の時間間隔における被測定外気1中の塩分の変動は、前記時間間隔の開始時点における電気伝導度と終了時点における電気伝導度との差分として観測され把握される。
【0108】
気中塩分測定装置は、塩分捕集液5が定期的に自動で交換される仕組みを更に備えるようにしても良い。具体的には例えば、電磁弁を介在させて塩分捕集部11と接続される回収容器(図示していない)が設けられ、所定の期間毎に電磁弁が開通状態にされて塩分捕集部11内に留められている塩分捕集液5が回収容器へと回収される。この場合、塩分捕集液5が排出された後に、純水3によって循環路の洗浄が行われるようにしても良い。尚、洗浄に用いられた純水3は前記の塩分捕集液5とは別途に回収されたり廃棄されたりする。例えば、1回の測定が終了し、サンプル回収した後、純水3で内部洗浄される。そして、緩衝液供給部19から循環路を経て緩衝液4が供給された後、被測定外気1の取り込みと電気伝導度の計測とが再開される。尚、回収された塩分捕集液5は、例えば液体クロマトグラフィなどで分析され、所定期間中の累積塩分量が精密に求められるのに使用される。
【0109】
以上のように構成された気中塩分の測定方法や測定装置によれば、緩衝液4を塩分捕集液5として用いるので、観測対象外の特に酸性の物質によるpH値への影響を低減・抑制することができる。このため、被測定外気1中の例えば海塩粒子などの塩分の増減による電気伝導度の変化を正確に把握すること、延いては被測定外気1中の塩分の測定精度を向上させることが可能になる。
【0110】
さらに酢酸ガス供給部14を備える気中塩分測定装置および測定方法によれば、塩分捕集液に含まれる硝酸イオンを酢酸ガス(あるいは、酢酸ガスが塩分捕集液に溶け込んだもの)との反応で不溶化させるので、硝酸イオンによるpH値への影響を低減・抑制することができる。このため、被測定外気1中の例えば海塩粒子などの塩分の増減による電気伝導度の変化を一層正確に把握することが可能になり、延いては被測定外気1中の塩分の測定精度を一層向上させることが可能になる。
【0111】
上述の気中塩分の測定方法や測定装置による計測によって取得される塩分捕集液5の電気伝導度の計測値は、例えば、観測対象とされた地域に於ける大気中の塩分の経時変動(増加や減少)の傾向の把握(定性分析)や前記地域に於ける大気中の塩分濃度の値の推定(定量分析)などに用いられ得る。定量分析が行われる場合には、例えば、上述の気中塩分の測定方法や気中塩分の測定装置による計測と同時に大気中の塩分濃度(若しくは、塩分量)を定量する計測が別途行われて塩分捕集液5の電気伝導度の計測値と定量計測の値との間の関係が予め特定され(即ち、検量線が求められ)、その後、上述の気中塩分の測定方法や測定装置による計測によって得られる塩分捕集液5の電気伝導度の計測値と前記関係(即ち、検量線)とが用いられて大気中の塩分量が求められるようにすることが考えられる。尚、流量計を併設することで、吸引空気の流量を測定すれば、海塩粒子を含んだ塩分捕集液5の電気伝導度の経時変化と吸引空気の流量から、気中塩分濃度を求めることができる。
【0112】
なお、上述の実施形態は本発明を実施する際の好適な形態の一例ではあるものの本発明の実施の形態が上述のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において本発明は種々変形実施可能である。
【0113】
例えば、上述の実施形態では被測定外気1と接触したあるいは接触中の塩分捕集液5を酢酸ガス2と接触させる工程を実施したり、被測定外気1と接触したあるいは接触中の塩分捕集液5を酢酸ガス2と接触させる酢酸ガス供給部14を備えたりしているが、被測定外気1と接触したあるいは接触中の塩分捕集液5を酢酸ガス2と接触させることは本発明において必須の処理・構成ではなく、場合によってはこれら処理・構成を省いても良い。この場合でも、緩衝液4を塩分捕集液5として用いるという構成により、観測対象外の特に酸性の物質によるpH値への影響を低減・抑制し、気中塩分量の変化に起因する電気伝導度のみを計測するという効果が発揮される。
【0114】
また、上述の実施形態では、あらかじめ所定の濃度に生成された緩衝液4だけを気中塩分捕集部11に供給し、純水は定期的なクリーニングのために使用されるようにしているが、場合によっては純水タンクと濃度の高い炭酸セシウム水溶液を貯留する緩衝液タンクとからそれぞれ供給されたものを混合させて所望の濃度の緩衝液に調整した塩分捕集液を生成して供給するようにしても良い。さらに、緩衝液の溶媒としては純水に限られず、溶質毎に適した溶媒が採用されることは言うまでも無い。
【0115】
また、上述の実施形態では本発明に係る気中塩分の測定方法を実施し得る装置構成として図2に概略構成を示す気中塩分の測定装置10を例に挙げているが、本発明に係る気中塩分の測定方法を実施し得る装置の具体的な構成は図2に示す装置構成に限定されるものではなく、その他の装置構成であっても構わない。本発明の要点は被測定外気1中の塩分を溶け込ませる液体即ち塩分捕集液として緩衝液を用いることによって被測定外気1に含まれる酸性物質が電気伝導度の計測に与える影響を低減・抑制することであり、緩衝液へ塩分を溶け込ませて前記緩衝液の電気伝導度が計測される仕組みを備えるものは本発明に係る気中塩分の測定装置の構成を備える機序であると言える。
【0116】
《検証実験1》
図2に示す本実施形態の測定装置を用いて、循環中の塩分捕集液5が酢酸ガス2と接触することによる緩衝効果を検証した。検証実験は、酢酸溶液の濃度別に行った。その検証実験の結果を図3から図8に示す。
【0117】
本実験では、気中塩分の測定装置10が屋外に設置され、外気(即ち、空気)の電気伝導度が計測された。尚、本実験では、塩分捕集液5として純水3が用いられた。
【0118】
本実験では、また、酢酸ガス供給部14について、ガス滞留部14a内に酢酸溶液6が溜められて酢酸が揮発することによってガス滞留部14a内に酢酸ガス2が充満するように構成されたものと、ガス滞留部14a内には何も溜められず空であるものとが準備された。すなわち、被測定外気1と接触したあるいは接触中の塩分捕集液5が、酢酸ガス2に接触する場合と、酢酸ガス2に接触しない場合とのそれぞれについて純水3の電気伝導度が計測された。
【0119】
本実験では、被測定外気1と接触したあるいは接触中の塩分捕集液5が酢酸ガスに接触させられる場合について、ガス滞留部14a内に溜められる酢酸溶液として、濃度が0.5vol%,2vol%,5vol%,8vol%,9vol%,及び10vol%のそれぞれに調整された酢酸溶液が用いられた。
【0120】
純水3の電気伝導度に関し、酢酸溶液の濃度が、0.5vol%の場合(図3)、2vol%の場合(図4)、5vol%の場合(図5)、8vol%の場合(図6)、9vol%の場合(図7)、及び10vol%の場合(図8)にそれぞれ示す結果が得られた。
【0121】
図3から図8に示す結果から、被測定外気1と接触したあるいは接触中の塩分捕集液5を酢酸ガスと接触させることにより、塩分捕集液5に含まれる硝酸イオンが電気伝導度の変化に与える影響が低減・抑制されることが確認された。
【0122】
また、図3から図8に示す結果から、酢酸溶液6の濃度が、0.5~8vol%である場合に電気電導率が安定的な(別言すると、細かい変動が小さく一定の傾向を示す)変化を示し、2~5vol%である場合に電気電導率が一層安定的な変化を示し、5vol%である場合に電気電導率が極めて安定的な変化を示すことが確認された。このことから、酢酸ガス2として酢酸溶液を揮発させることによって発生させた酢酸ガス2が用いられる場合に、酢酸溶液の濃度が、0.5~8vol%程度に調節されることが考えられ、1~6vol%程度に調節されることが好ましく、2~5vol%程度に調節されることがより好ましく、4~5vol%程度に調節されることがさらに好ましく、5vol%程度に調節されることが一層好ましいことが確認された。
【0123】
以上のことから、被測定外気1と接触したあるいは接触中の塩分捕集液5を酢酸ガス2と接触させることによって、塩分捕集液5に含まれる硝酸イオンの量の多寡が電気伝導度の変化に与える影響を低減・抑制し得ること、及び、酢酸ガス2として酢酸溶液を揮発させることによって発生させた酢酸ガスが用いられる場合に酢酸水溶液としての適切な濃度範囲に調節されることが好ましいことが確認された。
【0124】
《検証実験2》
本発明に係る気中塩分の測定方法や気中塩分の測定装置の妥当性を検証するために行われた他の実験を図9から図15を用いて説明する。
【0125】
本実験では、緩衝液即ち塩分捕集液5に硫酸が段階的に滴下されると共に硫酸の所定量の滴下毎(言い換えると、硫酸濃度別)に前記緩衝液の電気伝導度が計測された。本実験では、また、緩衝液に硝酸が段階的に滴下されると共に硝酸の所定量の滴下毎(言い換えると、硝酸濃度別)に前記緩衝液の電気伝導度が計測された。
【0126】
本実験では、緩衝液として、リンゴ酸(3.4,5.13),ヒスチジン(5.96),イミダゾール(6.95),トリスヒドロキシメチルアミノメタン(8.06),ジエタノールアミン(8.88),及び炭酸セシウム(無水)が用いられた。なお、各物質名の後ろの括弧内は25℃の水におけるpK値である。
【0127】
本実験では、溶媒としての純水に緩衝剤(別言すると、緩衝物質)が添加されて0.2 mmol/Lの濃度に調節された。
【0128】
硫酸あるいは硝酸の所定量の滴下毎(言い換えると、硫酸あるいは硝酸の濃度別)の上記塩分捕集液5の電気伝導度に関し、緩衝液が、リンゴ酸の場合について図9,ヒスチジンの場合について図10,イミダゾールの場合について図11,トリスヒドロキシメチルアミノメタンの場合について図12,ジエタノールアミンの場合について図13,及び炭酸セシウム(無水)の場合について図14に示す結果がそれぞれ得られた。
【0129】
図9から図14に示す結果から、緩衝液を塩分捕集液5として用いることにより、塩分捕集液5に含まれる硫酸や硝酸の量の多寡が電気伝導度の変化に与える影響が低減・抑制されることが確認された。
【0130】
ここで、大気中の硫酸濃度(具体的には、硫酸イオンの質量濃度)は、気中硫酸量が多い環境下でも6.69 μg/m3である(上野広行「都内のPM2.5環境の現状と発生源調査の状況について」,公益財団法人東京都環境公社東京都環境科学研究所)。この値に基づく発明者らの試算によると、気中塩分の測定装置が例えば10 L/分 で大気を吸引すると共に150 mL の塩分捕集液5を循環させて当該塩分捕集液5の電気伝導度の計測を行う場合には、気中塩分の測定装置による10日間での硫酸吸引量は0.0669 mmol/L になった。したがって、塩分捕集液5に含まれる硫酸が電気伝導度の変化に与える影響を、硫酸イオン濃度が0.1 mmol/L 以下の範囲で良好に抑制し得る緩衝液であれば、大凡10日間程度は塩分捕集液5の交換を行うことなく計測を行うことが可能であることが確認された。
【0131】
また、大気中の硝酸濃度(具体的には、硝酸イオンの質量濃度)は、気中硝酸量が多い環境下でも3.65 μg/m3である(上記の上野文献)。この値に基づく発明者らの試算によると、気中塩分の測定装置が例えば10 L/分 で大気を吸引すると共に150 mL の塩分捕集液5を循環させて当該塩分捕集液5の電気伝導度の計測を行う場合には、気中塩分の測定装置による10日間での硝酸吸引量は0.0565 mmol/L になった。したがって、塩分捕集液5に含まれる硝酸が電気伝導度の変化に与える影響を、硝酸イオン濃度が0.1 mmol/L 以下の範囲で良好に抑制し得る緩衝液であれば、大凡10日間程度は塩分捕集液5の交換を行うことなく計測を行うことが可能であることが確認された。
【0132】
図9から図14に示す結果から、また、種々の緩衝液により、硫酸や硝酸の量の多寡が電気伝導度の変化に与える影響が低減・抑制されることが確認された。あくまで一つの指標として、pK値が大凡5(具体的には例えば、リンゴ酸(pK値:5.13))から10(具体的には例えば、炭酸(pK値:10.33))の範囲に入っている物質を含む緩衝液によって硫酸や硝酸の量の多寡が電気伝導度の変化に与える影響が低減・抑制されることが確認され、また、pK値が大凡6(具体的には例えば、ヒスチジン(pK値:5.96))から10(具体的には例えば、炭酸(pK値:10.33))の範囲に入っている物質を含む緩衝液によって硫酸や硝酸の量の多寡が電気伝導度の変化に与える影響が一層良好に低減・抑制されることが確認され、さらに、pK値が大凡8(具体的には例えば、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(pK値:8.06))から10(具体的には例えば、炭酸(pK値:10.33))の範囲に入っている物質を含む緩衝液によって硫酸や硝酸の量の多寡が電気伝導度の変化に与える影響が特に良好に低減・抑制されることが確認された。
【0133】
以上のことから、緩衝液4を塩分捕集液5として用いることによって塩分捕集液5に含まれる酸性物質(特に、硫酸や硝酸)の量の多寡が電気伝導度の変化に与える影響を低減・抑制し得ること、及び、塩分捕集液5として種々の緩衝液が用いられ得ること、更に緩衝液4としてpK値が大凡6から10の範囲に入っている物質を含む緩衝液が用いられることが好ましいことが確認された。
【0134】
また、緩衝液自体が電気伝導度に与える影響を確認するため、緩衝液4の一例として炭酸セシウム水溶液における塩化ナトリウムの濃度と電気伝導度の値との間の関係が、純水における塩化ナトリウムの濃度と電気伝導度の値との間の関係と比較された。
【0135】
具体的には、炭酸セシウム水溶液の塩分捕集液(以下、単に炭酸セシウム水溶液と呼ぶ)と純水の塩分捕集液(以下、単に純水と呼ぶ)とのそれぞれに塩化ナトリウムが段階的に滴下されると共に塩化ナトリウムの所定量の滴下毎(言い換えると、塩化ナトリウム濃度別)に電気伝導度が計測された。
【0136】
本実験では、濃度が0.2 mmol/L に調整された炭酸セシウム水溶液が用いられた。
【0137】
炭酸セシウム水溶液と純水とのそれぞれについて、塩化ナトリウムの濃度と電気伝導度の値との間の関係(「NaCl濃度-EC値関係」と呼ぶ)として図15に示す結果が得られた。なお、炭酸セシウム水溶液の電気伝導度の値は、塩化ナトリウムが滴下される前の初期状態における(言い換えると、炭酸セシウム水溶液としての)電気伝導度が計測され、当該の初期状態における電気伝導度の値が差し引かれた値が図15に整理されている。
【0138】
図15に示す結果から、炭酸セシウム水溶液のNaCl濃度-EC値関係は純水のNaCl濃度-EC値関係と同様であり、緩衝液(ここでは、炭酸セシウム水溶液)自体はNaCl濃度-EC値関係には影響を及ぼさないことが確認された。
【0139】
以上のことから、緩衝液4が塩分捕集液5として用いられることにより、観測対象外の阻害成分例えば大気汚染物質特に酸性の物質の量の多寡が電気伝導度の変化に与える影響が低減・抑制される一方で、緩衝液4がNaCl濃度-EC値関係には影響を及ぼさないので、被測定外気1中の塩分の増減による電気伝導度の変化だけを正確に把握し得ることが確認された。
【0140】
《検証実験3》
本発明に係る気中塩分の測定方法や測定装置の妥当性を検証するために行われた更に他の実験を図16及び図17を用いて説明する。
【0141】
本検証実験は、海洋に比較的近い場所に本発明に係る図2に示す気中塩分測定装置(以下、「検証装置」と呼ぶ)が設置され、塩分捕集液5の電気伝導度の経時変化、延いては大気中の塩分の経時変動が計測された。
【0142】
本実験では、緩衝液4として、濃度が0.2 mmol/L に調整された炭酸セシウム水溶液が用いられた。
【0143】
本実験では、また、酢酸ガス供給部14に濃度が5 vol% に調整された酢酸溶液が溜められて揮発する酢酸ガスによってガス滞留部14a内が充満されるように設けられている。
【0144】
また、比較例として、上記の検証装置の近傍に別の装置(以下、「比較装置」と呼ぶ)が設置され、塩分捕集液5の電気伝導度の経時変化が計測された。
【0145】
比較装置は、酢酸ガス供給部14と緩衝液供給部19とが空にされ、純水3が塩分捕集液5として循環させられるよう設けられている。
【0146】
塩分捕集液5の電気伝導度の経時変化に関し、検証装置について図16に示す測定結果が得られ、また、比較装置について図17に示す測定結果が得られた。
【0147】
図16図17とを対比すると、検証装置は、比較装置と比べて第1~5日目並びに第6~11日目における電気伝導度の上昇の度合いが緩やかであることが確認された。これは、比較装置では、大気中に比較的多く含まれている汚染ガス即ち硫酸,硝酸,及びアンモニアの混入の影響を反映した電気伝導度が計測されているためであると考えられた。なお、上述した通り、塩分捕集液5は被測定外気1由来の塩分を溶け込ませながら循環路(具体的には、塩分捕集部11,吸引管12,酢酸ガス供給部14,及び循環部16を含む)を定期的に循環するので、被測定外気1中に塩分が存在する限り塩分捕集液5の塩分濃度は次第に上昇し、それゆえに塩分捕集液5の電気伝導度は徐々に上昇する。したがって、図17に示す結果のように電気伝導度が上昇傾向を示すこと自体は大気中の塩分を捕捉しているためであると考えられる一方で、図17に示す結果のように電気伝導度が図16に示す結果と比べて大きく上昇する傾向は大気中に多く含まれている硫酸,硝酸,及び/又はアンモニアの混入の影響を受けているためであると考えられる。
【0148】
他方、比較装置において生じている第5日目から第6日目にかけての電気伝導度の急激な上昇は検証装置においても生じていることが確認された。そして、その前後即ち第1~5日目並びに第6~11日目における電気伝導度はほぼフラットに変化することが確認された。すなわち、検証装置では、緩衝液を含む塩分捕集液5と酢酸ガス供給部14による緩衝効果によって、汚染ガス即ち硫酸,硝酸,及びアンモニアの混入の影響を排除して塩分粒子の捕集効果のみを反映した電気伝導度の変化を計測していることが確認された。塩分が捕集されないときにはほぼフラットで、捕集されたときには急激に増加してからほぼフラットに推移するという現象がよくわかる。
【0149】
以上のことから、本発明に係る気中塩分の測定装置は、被測定外気1中の硫酸,硝酸,及びアンモニアの混入の影響を低減・抑制しつつ、被測定外気1中の塩分の変動を適切に観測し得ることが確認された。そして、酢酸ガス供給部14における酢酸ガスとの接触でさらに緩衝効果が高くなることが確認された。
【0150】
《検証実験4》
本発明に係る気中塩分の測定方法及び測定装置の効果、さらには酢酸ガス供給部14を追加することの効果を検証実験した。
【0151】
実験は、本件特許出願人の赤城試験センター(群馬線前橋市所在)に、本発明に係る気中塩分の測定装置(「検証装置A」と呼ぶ)が設置され、塩分捕集液5の電気伝導度の経時変化が計測された。尚、測定場所は海から遠く離れている地点(山中)なので、空気中の海塩粒子は少なく、近隣の市街地から運ばれる塩分計測の阻害物質となる大気汚染物質が多い環境となる。つまり、被測定外気1中に含まれる硫酸,硝酸,及びアンモニアなどの増減を示す電気伝導度の変化を測定し、被測定外気1中の塩分の変動はほとんど観測されない環境であるといえる。
【0152】
本実験では、緩衝液4として、濃度が0.2 mmol/L に調整された炭酸セシウム水溶液が用いられた。また、酢酸ガス供給部14には濃度が5vol% に調整された酢酸水溶液が溜められて揮発によってガス滞留部14aに酢酸ガスが充満するように構成された。
【0153】
実験は、図2に示す気中塩分測定装置10を3台並べて配置し、1つの測定装置は酢酸ガス供給部14及び緩衝液供給部19を空にして純水だけの気中塩分捕集液を用い(比較装置)、1つの測定装置は酢酸ガス供給部14を空にすると共に緩衝液供給部19に緩衝液を溜めて緩衝液を塩分捕集液として用い(検証装置A)、残りの1つには緩衝液を塩分捕集液として用いると同時に酢酸ガス供給部14に酢酸溶液を用意して酢酸ガスとの接触工程を付加したもの(検証装置B)とした。これら比較装置と検証装置Aおよび検証装置Bの3つの気中塩分測定装置によって、同時に電気伝導度の経時変化が計測された。
【0154】
実験の結果、純水を塩分捕集液として用いた比較装置Aの場合には、図21(A)に示す電気伝導度の測定結果が得られた。これによれば、被測定外気1中に含まれる硫酸,硝酸,及びアンモニアの阻害物質となる大気汚染物質の捕集量の増加を示す電気伝導度の変化を顕著に示した。他方、緩衝液を塩分捕集液として用いる検証装置Aの場合、図21(B)に示す電気伝導度の測定結果が得られた。即ち、被測定外気1中の大気汚染物質によるバックグランド上昇の影響が緩衝液を塩分捕集液として用いることで飛躍的に低減した。しかし、細かな変動の波形が依然として見られ、バックバランドの影響を十分に排除しているとは言えない。さらに気中塩分捕集部11の前段に酢酸ガス供給部14を設置した検証装置Bの場合、図21(C)に示す電気伝導度の変化を示した。即ち、被測定外気1中の大気汚染物質によるによるバックグランド上昇の影響が緩衝液で飛躍的に低減され、さらに酢酸ガス供給部14を設置して循環中の塩分捕集液(検証装置Bの場合緩衝液)を酢酸ガス2と接触させることにより、塩分捕集液に取り込まれた硝酸ガスの影響がさらに抑えられ(ほぼ平坦な線となり)、気中塩分粒子(NaCl)に関して検知感度の良い測定を可能とすることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0155】
1 被測定外気
2 酢酸ガス
3 純水
4 緩衝液
5 混合液
6 酢酸溶液
10 測定装置
11 気中塩分捕集部
12 外気流通部を構成する吸引管
12a 外気吸引部
12b 外気排出部
13 フィルタ部材
14 酢酸ガス供給部
14a ガス滞留部
14b 反応流通部
15 排気装置
16 循環部
17 送液ポンプ
18 純水供給部
18a 純水貯留部
18b 純水流通部
19 緩衝液供給部
19a 緩衝液貯留部
19b 緩衝液流通部
20 電気伝導度計
25 液面センサ
26 循環切替手段(循環部と純水流通部との間に介在する切替手段)
27 純水切替手段(純水流通部と緩衝液流通部との間に介在する切替手段)
101 密閉容器
102 蒸留水
103 霧吹装置
104 大気
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22