(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】通気孔の孔壁の保護構造の構築方法
(51)【国際特許分類】
E21D 11/04 20060101AFI20240624BHJP
【FI】
E21D11/04 Z
(21)【出願番号】P 2020196958
(22)【出願日】2020-11-27
【審査請求日】2023-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 直也
(72)【発明者】
【氏名】山下 寛人
(72)【発明者】
【氏名】武本 信也
(72)【発明者】
【氏名】矢野 安則
(72)【発明者】
【氏名】内田 昌志
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 哲也
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 功
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-255289(JP,A)
【文献】特開2005-248821(JP,A)
【文献】特開平08-151894(JP,A)
【文献】特開2019-090209(JP,A)
【文献】特開平07-293172(JP,A)
【文献】特開平06-272469(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111794772(CN,A)
【文献】特開平11-022356(JP,A)
【文献】特開2016-030942(JP,A)
【文献】特開昭58-135297(JP,A)
【文献】特開2010-248714(JP,A)
【文献】特開2011-140804(JP,A)
【文献】特開昭54-087923(JP,A)
【文献】実開平02-073500(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部坑道と、前記下部坑道の上方に設けられた上部坑道とを連通させる通気孔の孔壁の保護構造の構築方法であって、
(A)前記上部坑道内に複数のパイプを用意するステップと、
(B)1つ又は互いに連結された複数の前記パイプを吊り降ろしパイプとして前記通気孔内に吊り降ろすステップと、
(C)前記吊り降ろしパイプの上端に他の前記パイプの下端を連結して前記吊り降ろしパイプを延長することと、前記吊り降ろしパイプを前記通気孔内に更に吊り降ろすこととを、前記吊り降ろしパイプの下端が前記通気孔の下端に至るまで又は前記通気孔の前記下端を超えるまで繰り返すステップと、
(D)前記吊り降ろしパイプの外周面と前記通気孔の内周面との間に裏込材を充填するステップとを備え
、
ステップB及びCにおいて、前記吊り降ろしパイプの前記下端には、ベース架台が取り付けられており、前記吊り降ろしパイプを吊り降ろすワイヤーは、前記吊り降ろしパイプの周壁の外周面と前記孔壁の内周面との間を通るように、前記ベース架台に固定されることを特徴とする方法。
【請求項2】
各々の前記パイプは、円筒状の本体部と、前記本体部の上端及び下端から半径方向の外側に延出する円環状のフランジとを含み、
前記吊り降ろしパイプにおける、所定数の前記パイプ毎の前記パイプ同士の連結箇所の内周面には、鋼板が固定されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
下部坑道と、前記下部坑道の上方に設けられた上部坑道とを連通させる通気孔の孔壁の保護構造の構築方法であって、
(A)前記上部坑道内に複数のパイプを用意するステップと、
(B)1つ又は互いに連結された複数の前記パイプを吊り降ろしパイプとして前記通気孔内に吊り降ろすステップと、
(C)前記吊り降ろしパイプの上端に他の前記パイプの下端を連結して前記吊り降ろしパイプを延長することと、前記吊り降ろしパイプを前記通気孔内に更に吊り降ろすこととを、前記吊り降ろしパイプの下端が前記通気孔の下端に至るまで又は前記通気孔の前記下端を超えるまで繰り返すステップと、
(D)前記吊り降ろしパイプの外周面と前記通気孔の内周面との間に裏込材を充填するステップとを備え、
各々の前記パイプは、円筒状の本体部と、前記本体部の上端及び下端から半径方向の外側に延出する円環状のフランジとを含み、
前記吊り降ろしパイプにおける、所定数の前記パイプ毎の前記パイプ同士の連結箇所の内周面には、鋼板が固定されており、
前記吊り降ろしパイプを吊り降ろすワイヤーは、前記吊り降ろしパイプの下端部を支持するとともに、前記鋼板が固定された前記連結箇所に前記吊り降ろしパイプの自重を支持するように固定されていることを特徴と
する方法。
【請求項4】
前記パイプの前記本体部はワインディングパイプを含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
下部坑道と、前記下部坑道の上方に設けられた上部坑道とを連通させる通気孔の孔壁の保護構造の構築方法であって、
(A)前記上部坑道内に複数のパイプを用意するステップと、
(B)1つ又は互いに連結された複数の前記パイプを吊り降ろしパイプとして前記通気孔内に吊り降ろすステップと、
(C)前記吊り降ろしパイプの上端に他の前記パイプの下端を連結して前記吊り降ろしパイプを延長することと、前記吊り降ろしパイプを前記通気孔内に更に吊り降ろすこととを、前記吊り降ろしパイプの下端が前記通気孔の下端に至るまで又は前記通気孔の前記下端を超えるまで繰り返すステップと、
(D)前記吊り降ろしパイプの外周面と前記通気孔の内周面との間に裏込材を充填するステップと、
(E)少なくともステップCと並行して行われる、上下方向に沿って複数の注入孔が形成された注入管を、前記上下方向に延在するように前記吊り降ろしパイプの前記外周面に取り付けるステップ
とを更に備え、
ステップDは、前記注入管内にホースを挿入し、前記ホースから吐出された前記裏込材を前記注入孔から漏出させて、下方から上方に向かって段階的に前記裏込材を充填することを含むことを特徴と
する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、下部坑道と下部坑道の上方に設けられた上部坑道とを連通させる通気孔の孔壁の保護構造の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
立孔の孔壁の保護工法として、例えば、特許文献1には、立孔内に作業員が入り、ライナープレートを組み立てて鋼管を構築し、鋼管の外周面と立孔の内周面との間に裏込め材を注入することが記載されている。また、特許文献2には、場所打ち杭の杭孔掘削作業と同時並行して、円筒管を複数繋ぎ合わせて孔壁に沿って落とし込み、杭口元から孔壁と円筒管との隙間に裏込め材を注入し自重によって充填することが記載されている。特許文献3には、孔壁にコンクリートを吹き付ける工法が記載されている。
【0003】
一方、鉱山における下部坑道と上部坑道とを連通させる通気孔内においては、孔壁を保護せず、地山を露出させた状態にしておくことが一般的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭58-135297号公報
【文献】特開2010-248714号公報
【文献】特開2011-140804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、下部坑道と上部坑道とを連通させる通気孔においても、孔壁の地山が長期間の露出によって風化し、岩や浮石等が剥落するおそれがあり、孔壁の保護が求められる場合がある。
【0006】
坑道の通気孔は、比較的小さい直径を有するため、作業員が通気孔内に入ってライナープレートの組み立て作業やコンクリート吹き付け作業を行うことは困難である。また、坑道の通気孔は、比較的長い全長を有するため、杭口元から裏込め材を注入してその自重によって裏込め材を充填するとムラが生じるおそれがある。このため、特許文献1~3に記載の工法を適用することができなかった。また、作業を行う坑道は、上方が開放されていないため、使用する資材の上下方向長さが制限される。
【0007】
このような問題に鑑み、本発明は、坑道内に運搬可能な資材を用い、比較的小さい直径と長い全長とを有する坑道の通気孔に適用可能な、通気孔の孔壁の保護構造の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある実施形態は、下部坑道(2)と、前記下部坑道(2)の上方に設けられた上部坑道(3)とを連通させる通気孔(4)の孔壁の保護構造(1)の構築方法であって、(A)前記上部坑道(3)内に複数のパイプ(16)を用意するステップと、(B)1つ又は互いに連結された複数の前記パイプ(16)を吊り降ろしパイプ(8)として前記通気孔(4)内に吊り降ろすステップと、(C)前記吊り降ろしパイプ(8)の上端に他の前記パイプ(16)の下端を連結して前記吊り降ろしパイプ(8)を延長することと、前記吊り降ろしパイプ(8)を前記通気孔(4)内に更に吊り降ろすこととを、前記吊り降ろしパイプ(8)の下端が前記通気孔(4)の下端に至るまで又は前記通気孔の前記下端を超えるまで繰り返すステップと、(D)前記吊り降ろしパイプ(8)の外周面と前記通気孔(4)の内周面との間に裏込材(6)を充填するステップとを備えることを特徴とする。ステップB及びCにおいて、前記吊り降ろしパイプ(8)の前記下端には、ベース架台(9)が取り付けられており、前記吊り降ろしパイプ(8)を吊り降ろすワイヤー(10)は、前記吊り降ろしパイプ(8)の周壁の外周面と前記孔壁の内周面との間を通るように、前記ベース架台(9)に固定されも良い。
【0009】
この構成によれば、上下方向に長い吊り降ろしパイプは、複数のパイプを継ぎ足すことによって形成されるため、上部坑道内に運搬可能である。また、作業員が通気孔内に入ることなく、保護構造を構築できる。
【0010】
本発明のある実施形態は、上記構成において、各々の前記パイプ(16)は、円筒状の本体部と(17)、前記本体部(17)の上端及び下端から半径方向の外側に延出する円環状のフランジ(18)とを含み、前記吊り降ろしパイプ(8)における、所定数の前記パイプ(16)毎の前記パイプ(16)同士の連結箇所の内周面には、鋼板(21)が固定されていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、フランジ及び鋼板によって吊り降ろしパイプが補強されて、吊り降ろしパイプの変形及び座屈を抑制できる。
【0012】
本発明のある実施形態は、上記構成において、前記吊り降ろしパイプ(8)を吊り降ろすワイヤー(10)は、前記吊り降ろしパイプ(8)の下端部を支持するとともに、前記鋼板(21)が固定された前記連結箇所に前記吊り降ろしパイプ(8)の自重を支持するように固定されていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、所定の間隔でワイヤーが吊り降ろしパイプの自重を支持するため、吊り降ろしパイプの座屈が抑制される。また、ワイヤーが吊り降ろしパイプの自重を支持するべく固定される個所は鋼板によって保護されているため、吊り降ろしパイプの変形が抑制される。
【0014】
本発明のある実施形態は、上記のパイプ(16)が本体部(17)を含む構成の何れかにおいて、前記パイプの前記本体部はワインディングパイプを含むことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、パイプの本体部がワインディングパイプを含むことによって、吊り降ろしパイプを軽量化できる。
【0016】
本発明のある実施形態は、上記構成の何れかにおいて、(E)少なくともステップCと並行して行われる、上下方向に沿って複数の注入孔(31)が形成された注入管(26)を、前記上下方向に延在するように前記吊り降ろしパイプ(8)の前記外周面に取り付けるステップを更に備え、ステップDは、前記注入管(26)内にホース(32)を挿入し、前記ホース(32)から吐出された前記裏込材(6)を前記注入孔(31)から漏出させて、下方から上方に向かって段階的に前記裏込材(6)を充填することを含むことを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、注入管によってホースの下降がガイドされ、裏込材は注入管を介して充填されるため均等に充填される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、坑道内に運搬可能な資材を用い、比較的小さい直径と長い全長とを有する坑道の通気孔に適用可能な、通気孔の孔壁の保護構造の構築方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施形態に係る孔壁の保護構造を示す図(A:縦断面の概略図、B:横断面の概略図、C:縦断面の拡大図)
【
図2】実施形態に係る孔壁の保護構造の施工手順を示す説明図
【
図3】実施形態に係る吊り降ろし装置を示す図(A:吊り降ろし装置及びその近傍の側面図、B:平面図)
【
図4】実施形態に係る吊り降ろしパイプの下端部を示す図(A:正面図、B:A図におけるB-B断面を示す図)
【
図6】実施形態に係るワイヤー及び注入管を示す図(A:パイプ接合部とワイヤーとを示す拡大正面図、B:他のパイプ接合部とワイヤーとを示す拡大正面図、C:注入管の配置を示す横断面図)
【
図7】実施形態に係るワイヤー及び注入管を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0021】
図1は、実施形態に係る保護構造1を示す。なお、
図1では、保護構造1を構築するために使用されて埋め殺された部材の図示は省略している。
【0022】
保護構造1は、下部坑道2と、下部坑道2の上方に設けられた上部坑道3とを連通させる通気孔4の孔壁を保護する構造である。下部坑道2及び上部坑道3の各々の高さ(上下方向長さ)は約4m~6mである。通気孔4は、上下方向に延在する貫通孔である。通気孔4の直径は、500mm~2500mmであることが好ましく、約1400mmであることが更に好ましい。通気孔4の全長(上下方向長さ)は、80m~90mが好ましい。下部坑道2及び上部坑道3の各々の高さ、通気孔4の直径、及び通気孔4の全長は、上記の値に限定されるものではない。
【0023】
保護構造1は、通気孔4内に挿入されたパイプ部5と、パイプ部5の外周面と通気孔4の内周面との間に充填されたグラウト等の裏込材6とを備える。
【0024】
図2は、保護構造1の施工手順を示す。
図2では、一部の部材の図示を省略している。まず、
図2(A)に示すようにレイズボーラー等の掘削機7によって、地山を掘削して通気孔4を形成する。レイズボーラー工法では、まず、通気孔4の直径よりも小さい直径を有する小径のビットで通気孔4の中心部を上部坑道3から下方に向かって掘削し、下部坑道2まで掘削したら、ビットを通気孔4の直径に相当する直径を備える大径のビットに交換し、上方に向かって地山を掘削する。掘削された地山は下部坑道2に落下し、下部坑道2から搬出される。
【0025】
次に、
図2(B)に示すように、吊り降ろしパイプ8(
図2(C)参照)の下端に取り付けるベース架台9にワイヤー10を取り付け、チルクライマー等の吊り降ろし装置11で、上部坑道3から下部坑道2まで吊り降ろす。この予備試験によって、通気孔4内に吊り降ろしパイプ8を設置できるスペースがあることを確認する。
【0026】
図3は、上部坑道3において、通気孔4の上端近傍に配置される吊り降ろし装置11を示す。吊り降ろし装置11は、平面視で、通気孔4を囲むように設置された装置架台12上に4つ設置される。吊り降ろし装置11は、通気孔4を中心に互いに90°ずれた位置に設置される。装置架台12は、H鋼等を組み合わせて形成されて吊り降ろし装置11を支持する架台部14と、架台部14に支持されてワイヤー10を通気孔4の上方で支持するローラー部13とを含む。架台部14は、平面視で2重の矩形をなし、各々の吊り降ろし装置11は、2重の矩形の内側の部分と外側の部分とに跨るように設置される。吊り降ろし装置11は、ワイヤー10を巻き上げ、また、解き下ろす。
【0027】
図4は、
図2(D)におけるベース架台9周辺の拡大正面図である。ベース架台9は、平面視で十字状に組み合わされたH形鋼を含む。十字状の中心からH形鋼の端部までの距離は互いに等しく、その端部は下方に向かうにつれて内側に向かうように傾斜している。H形鋼の端部には鋼板が溶接されており、鋼板は、外側に向かって湾曲していることが好ましく、平面視でH形鋼の端部に接する円に沿って湾曲していることが更に好ましい。例えば、通気孔4の直径が1400mmならば、ベース架台9の十字形の縦横2方向において、上部長さは1.333m、下部長さは1.246mとしてもよい。ベース架台9には複数のロープ15が取り付けられている。ロープ15は、通気孔4の全長よりも長く、その下端は、下部坑道2内に位置する。ベース架台9が通気孔4の孔壁に引っ掛かった時、下部坑道2にいる作業員がロープ15を引っ張って引っ掛かりを解く。
【0028】
予備試験で問題が生じなければ、上部坑道3内に
図5に示すパイプ16を複数用意する。パイプ16は、円筒状の本体部17と、本体部17の上端及び下端から半径方向の外側に延出する円環状のフランジ18とを含む。パイプ16は、地山から浸出する鉱水による腐食を防ぐため、エポキシ粉体塗装されていることが好ましい。本体部17は、周壁にらせん状に延びる凹凸を有するワインディングパイプを含む。湾曲させた山形鋼の一辺をワインディングパイプの上端部及び下端部に溶接等により固定することにより、山形鋼の他辺がフランジ18となる。例えば、通気孔4の直径が1400mmの場合、本体部17の外径は1100mmとしてもよく、フランジ18の半径方向の延出長は30mmとしてもよい。パイプ16は、トラック等の運送機械(図示せず)によって、パイプ16の軸線が上下方向に平行な状態で運搬されることが好ましい。パイプ16は、予備試験の前又は実施中に上部坑道3内に運搬されてもよく、また、一度にすべてのパイプ16を用意するのではなく、後述する吊り降ろしパイプ8の吊り降ろし作業と並行して、段階的に所定数のパイプ16を上部坑道3内に運搬してもよい。
【0029】
次いで、
図2(C)及び(D)に示すように、吊り降ろしパイプ8を通気孔4内に挿入する。まず、1つのパイプ16を吊り降ろしパイプ8として通気孔4内に吊り降ろす。吊り降ろしパイプ8の吊り降ろしは、4台の吊り降ろし装置11を同調させてワイヤー10を解き下げることによってなされる。
図4に示すように、吊り降ろし装置11のワイヤー10の先端部が、ベース架台9に固定されており、吊り降ろしパイプ8の下端部は、ベース架台9にボルト19によって固定される。従って、吊り降ろしパイプ8の下端部は、ベース架台9を介してワイヤー10に支持される。パイプ16の外径は、ベース架台9の十字形の縦横2方向の上部長さよりも小さい。なお、上部坑道3の内部の作業スペース(上下方向の長さ)で実施可能ならば、互いに連結された複数のパイプ16を最初の吊り降ろしパイプ8としてもよい。
【0030】
再び、
図2(C)及び(D)を参照する。上端部の所定の範囲を残して吊り降ろしパイプ8が通気孔4に挿入されたら、吊り降ろし装置11による吊り降ろしパイプ8の吊り降ろしを停止する。吊り降ろしパイプ8の上端に他のパイプ16の下端を連結して吊り降ろしパイプ8を延長する。その後、吊り降ろしパイプ8を通気孔4内に更に吊り降ろす。このような吊り降ろしパイプ8の延長と、吊り降ろしパイプ8の吊り降ろしとを吊り降ろしパイプ8の下端が通気孔4の下端を超えて下部坑道2に突入するまで繰り返す。なお、上記作業の繰り返しは、吊り降ろしパイプ8の下端が通気孔4の下端を超えるまでに代えて、吊り降ろしパイプ8の下端が通気孔4の下端に至るまで行われてもよい。
【0031】
上部坑道3に運搬されたパイプ16は、上部坑道3の上壁に固定された電動チェーンブロック20によって吊り降ろしパイプ8の上方まで移動する。吊り降ろしパイプ8におけるパイプ16同士の連結は、互いのフランジ18(
図5参照)をボルト等の締結具(図示せず)による固定によってなされる。
図6(B)に示すように所定数のパイプ16毎に、パイプ16同士の連結部の内周面には、鋼板21が固定される。例えば、全長2000mmのパイプ16の3つ毎、すなわち6m毎にパイプ16同士の連結部が鋼板21によって補強される。
【0032】
図6(A)及び(B)に示すように、ワイヤー10は、吊り降ろしパイプ8におけるパイプ16同士の連結部の各々に、
図6(A)及び(B)に示す2つの手段の何れかによって固定される。
図6(A)に示す固定手段では、ワイヤー10は、吊り降ろしパイプ8との相対的な位置がずれないように、吊り降ろしパイプ8におけるパイプ16同士の連結部に針金22によって固縛されている。この針金22は、フランジ18に設けられた上下方向に貫通する孔(図示せず)に挿通されて、フランジ18とワイヤー10とを縛っている。この固定手段は、吊り降ろしパイプ8の自重を実質的に支持していない。
【0033】
図6(B)に示す固定手段では、ワイヤー10は吊り降ろしパイプ8の自重を支持するように、固定用ワイヤー23を介してパイプ16同士の連結部に固定されている。固定用ワイヤー23は、フランジ18に設けられた上下方向に貫通する孔(図示せず)に挿通され、この孔の上下に部分において、ワイヤークリップ24によってワイヤー10に固定されている。固定用ワイヤー23によるワイヤー10の吊り降ろしパイプ8への固定は、
図7に示すように所定数のパイプ16毎になされることが好ましく、
図6(B)に示すように鋼板21が固定されている連結部に対してなされることが更に好ましい。
【0034】
吊り降ろしパイプ8の下端部が通気孔4の下端を超えたら、
図2(E)及び(F)に示すように、裏込材6を下方から上方に向かって段階的に注入する。通気孔4の下端における吊り降ろしパイプ8の外周面と通気孔4の内周面との隙間はコンクリート吹き付けによって塞がれる(図の符号25は吹き付けられたコンクリートを示す)。
図6(C)及び
図7に示すように、吊り降ろしパイプ8の外周面には、裏込材6を注入するための注入管26が取り付けられている。吊り降ろしパイプ8を中心に互いに90°ずれた4つの注入管26が、上下方向に延在している。注入管26は、固定金具27によってフランジ18に固定される。注入管26は、
図8に示すように、複数の鋼管28を接手29で継ぐことにより形成され、吊り降ろしパイプ8にパイプ16を継ぎ足す時に、鋼管28を継ぎ足して延長される。注入管26には、上下方向に所定の間隔で裏込材6の充填状態を検知するセンサー30が設けられている。センサー30に代えて、又は加えて、水位計(図示せず)で裏込材6の充填状態を確認してもよい。
【0035】
図9に示すように、注入管26は、上下方向に沿って所定の間隔で側周壁に形成された複数個の注入孔31を有する。注入孔31は、注入管26の内部と外部とを連通させる。注入孔31は、上下方向に延在する長孔であることが好ましく、例えば、10mmの幅、100mmの長さを有し、250mm間隔で配置される。注入孔31の上下方向に沿った列は、1列でも、複数列でもよい。
【0036】
再び、
図2(E)及び(F)を参照する。ホース32が、注入管26内に上部から挿入される。ホース32の下端は、最初の裏込材6の注入時は、通気孔4の下端又はその近傍まで降下され、2回目以降の裏込材6の注入時は、注入済みの裏込材6の上面又はその近傍に配置される。ホース32から裏込材6を吐出させると、注入管26内に裏込材6が充填されるとともに、注入孔31から裏込材6が漏れ出して、吊り降ろしパイプ8の外周面と通気孔4の内周面との隙間に裏込材6が充填される。裏込材6の1回当たりの打設高は、好ましくは1~2mであり、更に好ましくは1.5mである。ワイヤー10及び注入管26は、裏込材6内に埋設される。
【0037】
通気孔4の上端まで裏込材6が充填されたら、
図2(G)に示すように、下部坑道2内に突入した吊り降ろしパイプ8の下端部を切断して、ベース架台9とともに取り除く。また、上部坑道3内に残存する吊り降ろしパイプ8を切断して取り除く。切断後の吊り降ろしパイプ8がパイプ部5となる。
【0038】
以上のように構築された保護構造1は、パイプ部5と裏込材6とによって通気孔4の孔壁を保護する。
【0039】
上下方向に長い吊り降ろしパイプ8は、複数のパイプ16を継ぎ足すことによって形成されるため、上部坑道3内に運搬可能であり、通気孔4内に設置できる。また、作業員が通気孔4内に入ることなく、保護構造1を構築できる。
【0040】
パイプ16の本体部17がワインディングパイプを含むことにより、吊り降ろしパイプ8が軽量化される。パイプ16がフランジ18を含むことや、鋼板21を連結部に取り付けることにより、吊り降ろしパイプ8が補強される。このように軽量化及び補強された吊り降ろしパイプ8に対して、吊り降ろしパイプ8の自重を支持するようにワイヤー10を所定の間隔で固定することにより、吊り降ろしパイプ8が変形することや自重によって座屈することが防止される。
【0041】
ベース架台9は下部が上部に比べて内側に位置するテーパー形状を有するため、吊り降ろしパイプ8を吊り下ろす時に、ベース架台9が通気孔4の孔壁に引っ掛かることが抑制される。更に、ベース架台9にロープ15が取り付けられているため、ベース架台9が通気孔4の孔壁に引っ掛かっても、下部坑道2にいる作業員がロープ15を引っ張ることによりその引っ掛かりを解除することができる。
【0042】
裏込材6は、ホース32から直接に吊り降ろしパイプ8の外周面と通気孔4の内周面との間に注入されるのではなく、複数の注入孔31を有する注入管26を介して注入されるため、均等に充填される。また、裏込材6が段階的に打設されるため、裏込材6によって吊り降ろしパイプ8が変形することが抑制される。また、注入管26は、ホース32を下降させる際のガイドとなる。
【0043】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。通気孔を新たに構築する場合を例に説明したが、本発明は、既存の通気孔の孔壁を保護する場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0044】
1:保護構造
2:下部坑道
3:上部坑道
4:通気孔
6:裏込材
8:吊り降ろしパイプ
10:ワイヤー
16:パイプ
17:本体部
18:フランジ
21:鋼板
26:注入管
31:注入孔
32:ホース