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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】光ファイバ母材の製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/018 20060101AFI20240624BHJP
【FI】
C03B37/018 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021031177
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022131925
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100114915
【弁理士】
【氏名又は名称】三村 治彦
(74)【代理人】
【識別番号】100125139
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 洋
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-182668(JP,A)
【文献】特表2007-510611(JP,A)
【文献】特開2012-051322(JP,A)
【文献】国際公開第2020/116523(WO,A1)
【文献】特開2005-225702(JP,A)
【文献】特開平10-259034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/018
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ母材の液体原料を気化し、原料ガスを生成する気化器と、
前記原料ガスから生成したガラススートを含む火炎を出発基材上に吹き付けるバーナと、
前記出発基材の長手方向に沿って前記気化器を移動させる移動機構と、
前記移動機構を制御して加速度の絶対値が700mm/sec以上となるように前記気化器を加速又は減速させる制御装置と、
を備えることを特徴とする光ファイバ母材の製造装置。
【請求項2】
前記気化器に前記液体原料を供給する配管内の圧力値を検出する圧力計を更に備え、
前記制御装置は、前記圧力値に基づいて前記加速度を制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ母材の製造装置。
【請求項3】
前記移動機構は、前記長手方向に沿って前記気化器及び前記バーナを一体的に往復移動させる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバ母材の製造装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記ガラススートの形成工程の実行時間のうちの一部の時間において700mm/sec以上の前記加速度を生じさせる、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光ファイバ母材の製造装置。
【請求項5】
前記加速度の絶対値は、1000mm/sec以上である、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光ファイバ母材の製造装置。
【請求項6】
光ファイバ母材の液体原料を気化器で気化し、原料ガスを生成する工程と、
前記原料ガスから生成されたガラススートを含む火炎をバーナから出発基材上に吹き付ける工程と、
前記出発基材の長手方向に沿って前記気化器を移動させる工程と、
加速度の絶対値が700mm/sec以上となるように前記気化器を加速又は減速させる工程と、
を備えることを特徴とする光ファイバ母材の製造方法。
【請求項7】
前記気化器に前記液体原料を供給する配管内の圧力値を検出する工程を更に備え、
前記気化器を加速又は減速させる工程では、前記圧力値に基づいて前記加速度を制御する、
ことを特徴とする請求項6に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項8】
前記気化器を移動させる工程では、前記長手方向に沿って前記気化器及び前記バーナを一体的に往復移動させる、
ことを特徴とする請求項6又は7に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項9】
前記気化器を加速又は減速させる工程では、前記ガラススートの形成工程の実行時間のうちの一部の時間において700mm/sec以上の前記加速度を生じさせる、
ことを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【請求項10】
前記加速度の絶対値は、1000mm/sec以上である、
ことを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載の光ファイバ母材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ母材の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、バーナと気化器とが同期し、一体となって出発基材の長手方向に対して平行に移動できる光ファイバ用多孔質ガラス母材の製造装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-182668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に例示されているような従来の装置では、気化器の内部において有機ケイ素化合物材料等の液体原料が長時間滞留した場合に生じる問題については想定されていなかった。
【0005】
そこで、本発明は、上述の従来技術の問題に鑑み、気化器の内部における液体原料の滞留を防止できる光ファイバ母材の製造装置及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によれば、光ファイバ母材の液体原料を気化し、原料ガスを生成する気化器と、前記原料ガスから生成したガラススートを含む火炎を出発基材上に吹き付けるバーナと、前記出発基材の長手方向に沿って前記気化器を移動させる移動機構と、前記移動機構を制御して加速度の絶対値が700mm/sec以上となるように前記気化器を加速又は減速させる制御装置と、を備えることを特徴とする光ファイバ母材の製造装置が提供される。
【0007】
本発明の他の観点によれば、光ファイバ母材の液体原料を気化器で気化し、原料ガスを生成する工程と、前記原料ガスから生成されたガラススートを含む火炎をバーナから出発基材上に吹き付ける工程と、前記出発基材の長手方向に沿って前記気化器を移動させる工程と、加速度の絶対値が700mm/sec以上となるように前記気化器を加速又は減速させる工程と、を備えることを特徴とする光ファイバ母材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、気化器の内部における液体原料の滞留を防止できる光ファイバ母材の製造装置及び製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る製造装置の全体構成を示す概略図である。
図2】一実施形態に係る製造装置が備える気化器の内部構造の一例を示す図である。
図3】一実施形態に係る製造装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。
図4】一実施形態に係る製造装置におけるガラススート形成時の処理の一例を示すフローチャートである。
図5】気化器に生じた加速度と重合物の発生有無との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。また、本明細書における“光ファイバ母材”の語句は、光ファイバ用の多孔質ガラス母材(多孔質光ファイバ母材)及び多孔質ガラス部材を焼結ガラス化した母材の総称を意味する。
【0011】
図1は、本実施形態に係る製造装置100の全体構成を示す概略図である。図1に示すように、製造装置100は、反応容器101と、スピンドル機構102と、ターゲットロッド103と、バーナ104と、気化器105と、トラバースモータ106と、ガイドレール107とを備える。
【0012】
また、製造装置100は、液体原料供給装置108と、マスフローコントローラ109と、弁110と、液体原料供給ライン111と、圧力計112と、燃焼ガス供給装置113と、マスフローコントローラ114と、燃焼ガス供給ライン115と、キャリアガス供給装置116と、マスフローコントローラ117と、キャリアガス供給ライン118と、排気機構120と、弁121とを更に備える。
【0013】
スピンドル機構102は、反応容器101の天井側に設置されている。スピンドル機構102は、出発基材としてのターゲットロッド103に接続される。ターゲットロッド103は、光ファイバ母材10を形成するためのターゲットとなる円柱棒状の芯材である。スピンドル機構102は、後述の制御部200からの指示に従ってターゲットロッド103を鉛直方向に駆動することにより、反応容器101内で光ファイバ母材10を昇降させる。
【0014】
また、スピンドル機構102は、制御部200からの指示に従ってターゲットロッド103の長手方向を回転軸として回転方向Rにターゲットロッド103を回転させる。
【0015】
バーナ104は、制御部200からの指示に従い、マスフローコントローラ114及び燃焼ガス供給ライン115を介して燃焼ガス供給装置113から供給される燃焼ガスにより火炎を形成する。
【0016】
そして、バーナ104は、気化器105から供給される気体状態のガラス原料を火炎内で加水分解してガラススート(ガラス微粒子)を形成し、ガラススートを含む火炎(ガラス原料ガスG1)をターゲットロッド103に吹きつける。これにより、バーナ104は、ターゲットロッド103上にガラススートを堆積させ光ファイバ母材(光ファイバ用多孔質ガラス母材)10を形成する。
【0017】
製造装置100において製造される光ファイバ母材10は、ターゲットロッド103及び堆積スート103aからなる。OVD工程では、出発基材としてのターゲットロッド103は光ファイバのコア部とクラッド部の一部になる部分である。堆積スート103aは、ターゲットロッド103の外周に形成される。堆積スート103aは、光ファイバのクラッド部になる。
【0018】
気化器105は、液体原料供給ライン111から供給された液体原料を内部でキャリアガスと混合し、気化温度以上に加熱してバーナ104に供給する。気化器105の加熱温度は、気化された原料ガスの再液化を防止するために、原料ガスの分圧から計算される液化温度以上に設定すると好適である。
【0019】
例えば、有機ケイ素化合物原料としてオクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)を用いる場合には、液体原料を効率よく気化する観点から、気化器105における加熱温度は例えば150~250℃に設定すると好適である。
【0020】
また、気化器105の近傍には、液体原料供給ライン111ごとに圧力計112が設置されている。制御部200は、圧力計112により検出された圧力値に基づいて液体原料供給ライン111内の圧力の変化をモニタする。これにより、制御部200は、液体原料供給ライン111内における詰まりの発生有無をリアルタイムで確認できる。
【0021】
トラバースモータ106は、回転駆動し、ガイドレール107に沿ってバーナ104及び気化器105を往復運動させる。ガイドレール107は、光ファイバ母材10の長手方向と平行に設置された部材である。ガイドレール107は、複数のバーナ104の各々に対応するように、複数本設置される。トラバースモータ106及びガイドレール107は、バーナ104及び気化器105の移動機構を構成する。
【0022】
図2は、本実施形態に係る製造装置100が備える気化器105の内部構造の一例を示す図である。図2に示すように、気化器105は、加熱源105aと、加熱源105bと、配管105cとを備える。
【0023】
液体原料はキャリアガスと混合された状態で気化器105(配管105c)に供給される(矢印A方向参照)。そして、キャリアガスと混合された液体原料は、配管105c内で気化され、混合原料ガスとしてバーナ104へ供給される(矢印B方向参照)。しかしながら、配管105c内の曲部等でキャリアガスの乱流が発生すると、当該部分で液体原料の滞留が生じ、配管105c内に重合物が生成され易くなる。
【0024】
そこで、本実施形態に係る製造装置100では、気化器105の内部における液体原料の滞留を防止するために、制御部200は、例えばトラバースモータ106がターゲットロッド103の端でトラバースするタイミング、あるいは圧力計112が検出した圧力値が所定の値を超えたタイミングで、気化器105とバーナ104とを一体的に所定の加速度で加速又は減速するようにトラバースモータ106の回転を制御する。
【0025】
本実施形態に係る製造装置100では、加速度の絶対値は700mm/sec以上(好ましくは1000mm/sec以上。更に好ましくは2000mm/sec以上。)に制御される。当該加速度は、製造装置100における気化器105及び配管のサイズや流量、温度条件等によっても任意に変更され得る。
【0026】
これにより、気化器105の配管105c内に存在する液体原料が急激な減速、加速により液体原料の停滞を回避できる。詳述すると、従来の装置ではキャリアガスの乱流などにより気化器105の配管105c内で液体原料が滞留する場合があった。これに対し、本実施形態の製造装置100では、液体原料が気化器105の配管101c内で急激に加速又は減速しながら動くため、滞留に起因する重合物の生成及び重合物のゲル化を回避できる。その結果、気化器105からバーナ104に向けて原料ガスとキャリアガスとの混合原料ガスを効率的に供給できる。
【0027】
液体原料供給装置108は、後述の制御部200からの指示に従い、マスフローコントローラ109及び液体原料供給ライン111を介して、光ファイバ母材合成の原料として液体状態の有機ケイ素化合物を気化器105に供給する。マスフローコントローラ109は、液体原料供給ライン111における液体原料の流量を制御する。
【0028】
有機ケイ素化合物原料としては、例えば、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメトキシメチルシラン、テトラメトキシシラン等を用いることができる。これらの沸点は300℃以下であるため、気化した原料ガスをバーナ104へ供給する配管(不図示)としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の樹脂製のものを用いると好適である。
【0029】
また、液体原料供給装置108とマスフローコントローラ109との間には、マスフローコントローラ109とともに液体原料の流量を制御する弁110が設置されている。
【0030】
液体原料供給ライン111は、液体原料が凝固しない程度に加熱すると好適である。また、液体原料供給ライン111は、図1のように1本が気化器105の近傍まで延び、そこから気化器105毎に分岐しても良いし、気化器105ごとに用意しても良い。
【0031】
燃焼ガス供給装置113は、後述の制御部200からの指示に従い、マスフローコントローラ114及び燃焼ガス供給ライン115を介してバーナ104に燃焼ガスを供給する。燃焼ガスには、例えば、水素(H)、酸素(O)が含まれる。マスフローコントローラ114は、燃焼ガス供給ライン115における燃焼ガスの流量を制御する。
【0032】
キャリアガス供給装置116は、後述の制御部200からの指示に従い、マスフローコントローラ117及びキャリアガス供給ライン118を介して気化器105にキャリアガスを供給する。キャリアガスは、例えば、気化器105の内部で液体原料を気化した原料ガスと混合され、混合ガスとしてバーナ104に供給される。また、キャリアガスは気化器105の前段で液体原料と混合されても良い。マスフローコントローラ117は、キャリアガス供給ライン118におけるキャリアガスの流量を制御する。
【0033】
キャリアガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスや、酸素と不活性ガスとの混合ガス、酸素を用いることができる。キャリアガスは、気化器105内で液体原料を効率良く気化させるために、その供給流量に応じて予備加熱を行ってもよい。
【0034】
キャリアガスとして不活性ガスを用いることで安全に原料を移送することができる。一方で、反応に無関係な不活性ガスの割合を過度に増やすことは望ましくない。このため、不活性ガスの割合は適切な値に調整されると好適である。
【0035】
バーナ104に対して原料ガス等のガスを供給する各配管は、光ファイバ母材10と平行に往復移動を繰り返すバーナ104に追従した動きを行う。このため、少なくとも圧力計112と気化器105の間の配管には可動性を持たせると好適である。
【0036】
排気機構120は、ターゲットロッド103を介してガイドレール107に対向するようにガイドレール107の側を向いて設置されている。排気機構120は、複数のバーナ104による火炎の燃焼後の排気を排気口119に集めるために、排気フード120aを有している。排気フード120aは、複数のバーナ104の鉛直方向に沿った可動範囲の全てにわたって設けられている。また、排気機構120は、弁121と図示しないポンプを有しており、制御部200からの指示に従って該ポンプを駆動することにより、反応容器101の給気側から排気側(排気口119)に向う気体(排気ガスG2)の流れを形成し、反応容器101内の排気を行う。すなわち、ターゲットロッド103上に堆積できなかった余剰なガラススートは排気フード120aを通してポンプにより集められ、排気機構120により排気される。これにより、複数のバーナ104の火炎を安定化させることができる。
【0037】
図3は、本実施形態に係る制御系の概略構成を示すブロック図である。制御部200は、種々の演算、制御、判別などの処理動作を実行するCPU(Central Processing Unit)201と、CPU201によって実行される様々な制御プログラムなどを格納するROM(Read Only Memory)202とを有する制御装置である。
【0038】
また、制御部200は、CPU201の処理動作中のデータや入力データなどを一時的に格納するRAM(Random Access Memory)203と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの不揮発性メモリ204とを更に有する。
【0039】
また、制御部200には、所定の指令あるいはデータなどを入力するキーボードあるいは各種スイッチなどを含む入力操作部205と、製造装置100の入力・設定状態などをはじめとする種々の表示を行う表示部206(例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ)とが接続されている。
【0040】
また、制御部200には、スピンドル機構102、バーナ104、トラバースモータ106、液体原料供給装置108、燃焼ガス供給装置113、キャリアガス供給装置116及び排気機構120がそれぞれ駆動回路207a~207gを介して接続されている。このように、製造装置100の各機器は制御部200によって制御される。
【0041】
以下、上述のように構成された製造装置100の動作について図面を参照しながら説明する。
【0042】
図4は、本実施形態に係る製造装置100におけるガラススート形成時の処理の一例を示すフローチャートである。なお、この処理は一例であり、任意に変更可能である。
【0043】
先ず、制御部200は、スピンドル機構102を制御し、反応容器101内にターゲットロッド103を搬入し(ステップS101)、所定の位置にターゲットロッド103を配置する(ステップS102)。
【0044】
次に、制御部200は、ROM202又はRAM203に記憶されている製造条件を参照し、ガラススート形成工程を開始する(ステップS103)。ガラススート形成工程において、制御部200は、スピンドル機構102を制御し、ターゲットロッド103の長手方向を回転軸として回転方向Rにターゲットロッド103を回転させる。
【0045】
また、ガラススート形成工程において、制御部200は、燃焼ガス供給装置113を制御してバーナ104に燃焼ガスを供給してバーナ104で火炎を形成するとともに、気化器105からバーナ104に供給されたガラス原料ガスを火炎内で加水分解してガラススート(ガラス微粒子)を形成し、ガラススートを含む火炎をターゲットロッド103に吹きつける。これにより、制御部200は、ターゲットロッド103上にガラススートを堆積させる(ステップS104)。
【0046】
次に、制御部200は、ターゲットロッド103及び光ファイバ母材10の長手方向に沿って、バーナ104及び気化器105を移動させる(ステップS105)。
【0047】
なお、制御部200は、ターゲットロッド103及び光ファイバ母材10の長手方向(鉛直方向)に沿って移動しているバーナ104及び気化器105の位置がターゲットロッド103の上端又は下端に達すると、トラバースモータ106を制御し、移動方向を逆方向に切り替える。すなわち、バーナ104及び気化器105は、光ファイバ母材10の長手方向に沿って往復運動する。往復運動の繰り返しにより、光ファイバ母材10が長手方向において均一の厚みで生成される。
【0048】
次に、制御部200は、圧力計112が検出した圧力値が所定の閾値以上であるか否かを判定する(ステップS106)。
【0049】
ここで、制御部200は、圧力値が所定の閾値以上であると判定した場合(ステップS106:YES)には、処理はステップS107へ移行する。
【0050】
これに対し、制御部200は、圧力値が所定の閾値未満であると判定した場合(ステップS106:NO)には、処理はステップS108へ移行する。
【0051】
ステップS107において、制御部200は、トラバースモータ106を制御し、移動している気化器105及びバーナ104を所定の値以上の加速度で加速又は減速する。その後、処理はステップS108へ移行する。
【0052】
なお、制御部200は、加速度の絶対値が700mm/sec以上になるようにトラバースモータ106を制御すると好適である。特に、加速度の絶対値が1000mm/sec以上である場合には、気化器105内における液体原料の滞留を防止できる効果が更に高くなる。
【0053】
また、本実施形態では、制御部200は、ガラススートの形成工程の中で所定時間だけ加速度を生じさせる。すなわち、制御部200は、気化器105及びバーナ104に対して所定の加速度を生じさせる時間の長さは、移動時間のうちの一部でよい。ただし、加速度を生じさせる時間の長さや周期は任意に変更できる。同様に、加速度の値は、所定の値以上であればよく、適宜変更してもよい。
【0054】
次に、制御部200は、経過時間がガラススート形成工程の終了時間であるか否かを判定する(ステップS108)。ここで、制御部200は、経過時間が終了時間であると判定した場合(ステップS108:YES)には、処理はステップS109へ移行する。
【0055】
これに対し、制御部200は、経過時間が終了時間ではないと判定した場合(ステップS108:NO)には、処理はステップS104へ移行する。
【0056】
ステップS109において、制御部200は、ガラススート形成工程を終了する。具体的には、制御部200は、液体原料供給装置108、燃焼ガス供給装置113及びキャリアガス供給装置116を制御し、ガス供給を停止する。また、制御部200は、スピンドル機構102を制御し、ターゲットロッド103の回転を停止する。
【0057】
そして、制御部200は、スピンドル機構102を制御してターゲットロッド103を駆動し、ガラススートが表面に堆積した光ファイバ母材10を反応容器101から搬出する(ステップS110)。
【0058】
以上のように、本実施形態に係る製造装置100では、ガラススートの形成工程中に光ファイバ母材10の長手方向に沿って一体的に移動している気化器105及びバーナ104を、加速度の絶対値が所定の値以上になるように加速又は減速させる。
【0059】
これにより、キャリアガスの乱流などによって気化器105の配管105c内に滞留した液体原料を強制的に動かせるため、配管105c内における液体原料の重合物の生成を防止できる。また、重合物の生成を防止することにより、液体原料の流動性を失わせるゲル化の発生も防止できる。すなわち、気化器105内での流動性を維持することができるため、気化器105における加熱を一様かつ十分に行え、液体原料の気化を促進できる。
【0060】
<実施例>
続いて、本発明の実施例について説明する。図5は、気化器105に生じた加速度と重合物の発生有無との関係を示す図である。気化器105及びバーナ104のトラバースの方向を変える際に、加速度を変えながらターゲットロッド103へのガラススートの吹き付けを行い、光ファイバ母材10を生成した。ここで、気化器105の内部における重合物の発生の有無は、液体原料供給ライン111にそれぞれ設置した圧力計112でモニタすることで判定した。
【0061】
具体的には、ガラススートの堆積初期において圧力計112が検出した圧力値を基準として、その約1.3倍以上の圧力値が継続して検出された場合には、気化器105内において重合物が発生しているものと判定した。例えば、加速度の絶対値が500mm/secである場合には、重合物の発生が見られた。一方、加速度の絶対値が700mm/secとなるように加速又は減速した場合には、重合物の発生は見られなくなった。特に、加速度の絶対値が1000mm/sec以上である場合には重合物の発生は見られなかった。
【0062】
なお、上述した実施形態は、本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【0063】
上述した実施形態では、気化器105及びバーナ104が一体的に移動する構成について説明したが、気化器105とバーナ104とは必ずしも一体化されなくてもよい。例えば、気化器105及びバーナ104が独立して移動でき、必要に応じて気化器105のみに700mm/sec以上の加速度を生じさせる構成としてもよい。この場合も、同様に気化器105の内部における液体原料の滞留を防止できる。
【0064】
また、上述した実施形態では、制御部200が、ガラススート形成工程の実行時間のうちの一部の時間について気化器105及びバーナ104に所定の加速度が生じるように移動機構を制御する構成について説明した。しかし、制御部200における制御方法はこれに限られない。例えば、制御部200が、ガラススート形成工程において気化器105及びバーナ104が往復移動している間、700mm/sec以上の加速度で加速及び減速を繰り返す構成としてもよい。
【0065】
更に、上述した実施形態では、圧力計112において検出された液体原料供給ライン111内の圧力値に基づいて気化器105及びバーナ104を加速又は減速させる構成について説明したが、圧力値以外の条件に基づいて気化器105及びバーナ104の加速度を制御する構成としてもよい。例えば、ガラススート形成工程の中で所定の周期で加速又は減速させてもよい。この場合、圧力計112を設置しなくても、気化器105内における液体原料の滞留を防止できる。
【符号の説明】
【0066】
10・・・光ファイバ母材
100・・・製造装置
101・・・反応容器
102・・・スピンドル機構
103・・・ターゲットロッド
104・・・バーナ
105・・・気化器
106・・・トラバースモータ
107・・・ガイドレール
108・・・液体原料供給装置
109・・・マスフローコントローラ
110・・・弁
111・・・液体原料供給ライン
112・・・圧力計
113・・・燃焼ガス供給装置
114・・・マスフローコントローラ
115・・・燃焼ガス供給ライン
116・・・キャリアガス供給装置
117・・・マスフローコントローラ
118・・・キャリアガス供給ライン
119・・・排気口
120・・・排気機構
120a・・・排気フード
200・・・制御部
201・・・CPU
202・・・ROM
203・・・RAM
204・・・不揮発性メモリ
205・・・入力操作部
206・・・表示部
207a~207g・・・駆動回路
図1
図2
図3
図4
図5