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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】耐火構造
(51)【国際特許分類】
   F16L 5/02 20060101AFI20240624BHJP
   F16L 5/10 20060101ALI20240624BHJP
   F16L 5/00 20060101ALI20240624BHJP
   E04B 1/94 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
F16L5/02 D
F16L5/10
F16L5/00 J
E04B1/94 F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021173027
(22)【出願日】2021-10-22
(65)【公開番号】P2023062871
(43)【公開日】2023-05-09
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505142964
【氏名又は名称】株式会社クボタケミックス
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】森 大志郎
(72)【発明者】
【氏名】秀島 有
(72)【発明者】
【氏名】飯田 英邦
(72)【発明者】
【氏名】芳谷 勉
(72)【発明者】
【氏名】大長 理子
(72)【発明者】
【氏名】八木 博史
【審査官】広瀬 雅治
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-112345(JP,A)
【文献】特開2005-264466(JP,A)
【文献】特開2016-220955(JP,A)
【文献】特開2016-153569(JP,A)
【文献】特開2012-037036(JP,A)
【文献】特開2020-034162(JP,A)
【文献】特開2005-264465(JP,A)
【文献】特開2005-068747(JP,A)
【文献】特開2017-153364(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00964196(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 5/02
F16L 5/10
F16L 5/00
E04B 1/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火部材を用いた防火構造であって、
前記耐火部材は、
外周部にフランジ部を有する略筒状の本体部と、
前記本体部の軸方向に対し、少なくとも前記本体部の一端側の内面に配置される略筒状の熱膨張性部材と、
前記本体部の内面であって、前記熱膨張性部材以外の部位に少なくとも周方向に配置される水膨張性部材と、
前記本体部の前記一端側の前記フランジ部の表面の少なくとも一部に、設置対象に固定するための固定部と、
を具備し、
複数の分割部材に周方向に分割可能であり、
前記分割部材同士の前記本体部の合わせ面に、前記水膨張性部材が配置され、
前記防火構造は、
区画部に形成された貫通孔と、
前記貫通孔に前記耐火部材の前記熱膨張性部材が挿入された状態で、前記固定部で前記区画部に固定された前記耐火部材と、
前記貫通孔および前記耐火部材に挿通される長尺体と、
前記区画部と前記耐火部材とで囲まれた前記貫通孔の内部に充填される不燃材と、
を具備し、
前記水膨張性部材は、前記長尺体と前記耐火部材との隙間から前記不燃材が漏れ出すことを抑制することができることを特徴とする防火構造。
【請求項2】
前記耐火部材の前記水膨張性部材は、水膨張性不織布であることを特徴とする請求項記載の防火構造
【請求項3】
前記耐火部材の前記水膨張性部材における内径は、前記熱膨張性部材における内径よりも小さいことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の防火構造
【請求項4】
耐火部材を用いた防火構造であって、
前記耐火部材は、
外周部にフランジ部を有する略筒状の本体部と、
前記本体部の軸方向に対し、少なくとも前記本体部の一端側の内面に配置される略筒状の熱膨張性部材と、
前記本体部の内面であって、前記熱膨張性部材以外の部位に少なくとも周方向に配置される水膨張性部材と、
前記本体部の前記一端側の前記フランジ部の表面の少なくとも一部に、設置対象に固定するための固定部と、
を具備し、
前記水膨張性部材は、水膨張性不織布であり、
前記水膨張性部材における内径は、前記熱膨張性部材における内径よりも小さく、
前記防火構造は、
区画部に形成された貫通孔と、
前記貫通孔に前記耐火部材の前記熱膨張性部材が挿入された状態で、前記固定部で前記区画部に固定された前記耐火部材と、
前記貫通孔および前記耐火部材に挿通される長尺体と、
前記区画部と前記耐火部材とで囲まれた前記貫通孔の内部に充填される不燃材と、
を具備し、
前記水膨張性部材における内径を前記長尺体の外径よりも小さくし、前記熱膨張性部材における内径を前記長尺体の外径以上とすることを特徴とする防火構造。
【請求項5】
前記耐火部材は、複数の分割部材に周方向に分割可能であることを特徴とする請求項記載の防火構造
【請求項6】
前記耐火部材は、前記分割部材同士の前記本体部の合わせ面に、前記水膨張性部材が配置されることを特徴とする請求項に記載の防火構造
【請求項7】
前記耐火部材の前記固定部は、少なくとも前記フランジ部の外周部に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の防火構造
【請求項8】
前記耐火部材は、前記フランジ部に対して、前記一端側に突出する略筒状の突出部を有し、
前記熱膨張性部材は、前記突出部の先端からさらに突出することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の防火構造
【請求項9】
前記耐火部材の前記固定部は両面テープであり、
前記分割部材同士の前記本体部の合わせ面に配置された前記水膨張性部材の端部が、隣り合う前記分割部材に配置された前記両面テープ同士の突合せ部の間に配置されることを特徴とする請求項1又は請求項5のいずれかに記載の防火構造
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、配管やケーブルなどの区画部への貫通部に対して防火性能を確保するための耐火構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建造物等において、区画部で区画された各部屋に配管やケーブル(以下、単に長尺体と称する場合がある)が敷設される場合がある。この場合、貫通孔に挿通された長尺体の周囲の隙間を確実に塞ぐ必要がある。
【0003】
例えば、床に形成された貫通孔に配管を挿通する場合の隙間閉塞体としては、床スラブの下面側(天井面)に、放射状に切れ込み線を設けた隙間閉塞体を配置し、切れ込み線によって形成されたフラップによって長尺体の周囲を覆うとともに、貫通孔を塞ぐ方法が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-44660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような隙間閉塞体を配置し、貫通孔と配管との間にモルタルなどの不燃材を充填することで、隙間を完全に塞ぐことが可能である。
【0006】
一方、このような区画部を貫通する長尺体が敷設される場合に、例えば一方の部屋で火災が発生すると、長尺体を伝って、火災が建造物全体に広がり、甚大な被害をもたらすおそれがある。このため、長尺体の周囲に、熱膨張性部材を巻き付ける方法が提案されている。
【0007】
この場合には、まず、貫通孔の内部に位置する長尺体の周囲に熱膨張性部材を巻き付け、熱膨張性部材が巻き付けられた長尺体に、特許文献1のような隙間閉塞体を配置し、貫通孔の内部にモルタル等が充填される。このようにすることで、貫通孔を確実に塞ぐことができるとともに、火災時において、長尺体が焼失する際には、熱膨張性部材によって穴が塞がれて、火災の延焼を抑制することができる。
【0008】
しかし、このような防火構造を構築するためには、長尺体への熱膨張性部材の固定と、隙間閉塞体の取り付け作業を別々に行う必要があるため、作業性が悪い。また、熱膨張性部材を取り付けた後、隙間閉塞体を固定する前に、長尺体の位置調整があると、熱膨張性部材の取り付け位置を再度修正する必要がある。
【0009】
また、放射状に切れ込み線を設けた隙間閉塞体を用い、モルタル等を貫通孔に充填すると、隙間からモルタル等が下方に流出するおそれがある。このようになると、貫通孔内部のモルタル量が減少して、所望の防火性能を確保できないおそれがある。また、モルタルが長尺体を伝って下方に流れるため、最後に漏れたモルタルを除去する必要がある。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、取り付け作業性に優れた耐火構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、耐火部材を用いた防火構造であって、前記耐火部材は、外周部にフランジ部を有する略筒状の本体部と、前記本体部の軸方向に対し、少なくとも前記本体部の一端側の内面に配置される略筒状の熱膨張性部材と、前記本体部の内面であって、前記熱膨張性部材以外の部位に少なくとも周方向に配置される水膨張性部材と、前記本体部の前記一端側の前記フランジ部の表面の少なくとも一部に、設置対象に固定するための固定部と、を具備し、複数の分割部材に周方向に分割可能であり、前記分割部材同士の前記本体部の合わせ面に、前記水膨張性部材が配置され、前記防火構造は、区画部に形成された貫通孔と、前記貫通孔に前記耐火部材の前記熱膨張性部材が挿入された状態で、前記固定部で前記区画部に固定された前記耐火部材と、前記貫通孔および前記耐火部材に挿通される長尺体と、前記区画部と前記耐火部材とで囲まれた前記貫通孔の内部に充填される不燃材と、を具備し、前記水膨張性部材は、前記長尺体と前記耐火部材との隙間から前記不燃材が漏れ出すことを抑制することができることを特徴とする防火構造である。
前記水膨張性部材は、水膨張性不織布であってもよい。
前記水膨張性部材における内径は、前記熱膨張性部材における内径よりも小さくてもよい。
第2の発明は、耐火部材を用いた防火構造であって、前記耐火部材は、外周部にフランジ部を有する略筒状の本体部と、前記本体部の軸方向に対し、少なくとも前記本体部の一端側の内面に配置される略筒状の熱膨張性部材と、前記本体部の内面であって、前記熱膨張性部材以外の部位に少なくとも周方向に配置される水膨張性部材と、前記本体部の前記一端側の前記フランジ部の表面の少なくとも一部に、設置対象に固定するための固定部と、を具備し、前記水膨張性部材は、水膨張性不織布であり、前記水膨張性部材における内径は、前記熱膨張性部材における内径よりも小さく、前記防火構造は、区画部に形成された貫通孔と、前記貫通孔に前記耐火部材の前記熱膨張性部材が挿入された状態で、前記固定部で前記区画部に固定された前記耐火部材と、前記貫通孔および前記耐火部材に挿通される長尺体と、前記区画部と前記耐火部材とで囲まれた前記貫通孔の内部に充填される不燃材と、を具備し、前記水膨張性部材における内径を前記長尺体の外径よりも小さくし、前記熱膨張性部材における内径を前記長尺体の外径以上とすることを特徴とする防火構造である。
前記耐火部材は、複数の分割部材に周方向に分割可能であってもよい。
前記耐火部材は、前記分割部材同士の前記本体部の合わせ面に、前記水膨張性部材が配置されてもよい。
【0012】
第1、第2の発明において、前記固定部は、少なくとも前記フランジ部の外周部に配置されていてもよい。
【0013】
第1、第2の発明において、前記フランジ部に対して、前記一端側に突出する略筒状の突出部を有し、前記熱膨張性部材は、前記突出部の先端からさらに突出してもよい。
【0018】
前記固定部は両面テープであり、前記分割部材同士の前記本体部の合わせ面に配置された前記水膨張性部材の端部が、隣り合う前記分割部材に配置された前記両面テープ同士の突合せ部の間に配置されてもよい。
【0019】
第1の発明によれば、耐火部材に熱膨張性部材が一体化されているため、長尺体の周囲に耐火部材を取り付けるだけで、前述した隙間閉塞体と熱膨張性部材との両方の機能を発揮させることができる。また、長尺体の周囲に水膨張性部材が配置されるため、前述したように、貫通孔の内部にモルタル等の不燃材を充填する際に、不燃材が本体部と長尺体の隙間から漏れることを抑制することができる。すなわち、簡単な取り付け作業で防火構造を得ることができる。
また、第2の発明によれば、耐火部材は、水膨張性部材の摩擦によって長尺体の外周に仮固定することができる。この状態からであっても、水膨張性部材を、水膨張性不織布のように、長尺体に対して滑りやすい材質とすることで、耐火部材を長尺体に対して容易にスライドさせることができる。また、一般的に、熱膨張性部材は、水膨張性不織布と比較して、他の部材に対する滑りが悪いが、熱膨張性部材における内径を長尺体の外径以上とすることで、長尺体と熱膨張性部材との付着を抑制することができる。
【0020】
また、本体部に形成されたフランジ部に固定部を設け、貫通孔の周囲の区画部に当接させることで、容易に区画部に本体部を固定することができる。この際、固定部がフランジ部の外周側に配置されていることで、貫通孔の中心に対して長尺体の位置がずれているような場合に対しても、確実に固定部を区画部に当接させることができる。
【0021】
また、フランジ部に対して、一端側に突出する略筒状の突出部を設けることで、熱膨張性部材を外側から支持して、熱膨張性部材の形態を保持することができる。この際、熱膨張性部材を突出部の先端からさらに突出させることで、熱膨張性部材の先端部近傍の外周部に突出部が存在せず、熱膨張性部材が膨張する際に、突出部が膨張の妨げとなることを抑制することができる。
【0022】
また、水膨張性部材が水膨張性不織布であれば、長尺体の外周に耐火部材を配置して、耐火部材を長尺体の表面で滑らせて貫通孔に挿入する際に、長尺体に対して滑りやすく、作業が容易である。
【0023】
また、水膨張性部材における内径を、熱膨張性部材における内径よりも小さくすることで、水膨張性部材よりも相対的に滑りの悪い熱膨張性部材が長尺体に対して押し付けられて、耐火部材を長尺体の表面で滑らせて貫通孔に挿入することが困難となることを抑制することができる。
【0024】
また、耐火部材を、複数の分割部材に周方向に分割可能とすることで、貫通孔に長尺体を挿通した後に、耐火部材を長尺体の外周に取り付けることができる。
【0025】
この場合、分割部材同士の本体部の合わせ面に、水膨張性部材をさらに配置することで、前述した不燃材が、分割部材同士の合わせ面から漏れることを抑制することができる。
【0026】
また、固定部が両面テープであれば、本体部を区画部に固定するのが容易である。また、分割部材同士の本体部の合わせ面に配置された水膨張性部材の端部を、隣り合う分割部材に配置された両面テープ同士の突合せ部の間に配置するようにすることで、両面テープ同士の突合せ部から不燃材が漏れることを抑制することができる。
【0028】
第1、第2の発明によれば、水膨張性部材によって、不燃材の漏れを抑制して、不燃材を確実に受けることができるとともに、熱膨張性部材を配置することができるため、簡単な取り付け作業で防火構造を得ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、取り付け作業性に優れた耐火部材等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】耐火部材1を示す斜視図。
図2】(a)は分割部材15の側面図、(b)は分割部材15を示す底面図。
図3図2(a)のA-A線断面図。
図4】(a)は、分割部材15を分割した状態を示す側面図、(b)は、分割部材15を連結した状態を示す側面図。
図5図4(b)のF-F線断面図。
図6】(a)は、図4(b)のD-D線断面図、(b)は、図4(b)のE部における断面図。
図7】耐火部材1を取り付ける工程を示す断面図。
図8】耐火部材1を取り付ける工程を示す断面図。
図9】耐火部材1を取り付ける工程を示す断面図。
図10】防火構造20を示す断面図。
図11】耐火部材1aを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明にかかる耐火部材1を示す斜視図である。耐火部材1は、略筒状の部材であるが、周方向に対して、複数の分割部材15に分割可能である。図示した例では、耐火部材1は、一対の半割の分割部材15で構成される。耐火部材1(分割部材15)は、主に、本体部3、熱膨張性部材5、水膨張性部材7a、7b、両面テープ9等から構成される。
【0032】
図2(a)は、分割部材15の側面図であり、図2(b)は、分割部材15の底面図である。一対の分割部材15同士は互いに組わせることで、耐火部材1となる。なお、以下の説明では、一対の分割部材15を組み合わせた状態である耐火部材1について説明する。例えば、それぞれの分割部材15の本体部3同士を組み合わせることで、耐火部材1の本体部3は、外周部にフランジ部11を有する略筒状となる。
【0033】
図3は、図1のA-A線断面図(分割部材15を組み合わせた状態の部分断面図)である。本体部3のフランジ部11に対して一端側(図1図3の上方向)には、軸方向に突出する略筒状の突出部17が形成される。突出部17を含む本体部3の内面側には、熱膨張性部材5が配置される。すなわち、本体部3の軸方向に対して、少なくとも本体部3の一端側(図1図3の上方向)の内面には、略筒状の熱膨張性部材5が配置される。なお、熱膨張性部材5は、突出部17の先端からさらに突出するように配置される。
【0034】
熱膨張性部材5は、熱膨張部材、形状保持材、無機充填材とベース樹脂等からなる。熱膨張部材は、加熱によって膨張し、体積を増すことで火災の火炎や熱で焼失した箇所を塞ぐものであり、例えば、熱膨張性黒鉛、ひる石(バーミキュライト)、熱膨張性マイクロカプセルなどが適用可能である。形状保持材は、例えば、ポリフェニレンエーテル、リン酸エステル、赤燐、及びポリリン酸アンモニウムからなる群より選ばれる1種又は2種以上を適用可能である。無機充填材は、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク、クレー、炭酸カルシウム、無機バルーン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、及びシリカからなる群から選ばれる1種又は2種類以上を適用可能である。また、ベース樹脂としては、熱可塑性樹脂、ブチルゴム、ポリブタジエンゴム、ポリウレタン等を適用可能である。なお、熱膨張性部材5を構成する材料は、特に限定されず、形態もシート状やパテ状等特に限定されない。
【0035】
また、本体部3の内面であって、熱膨張性部材5以外の部位には、少なくとも周方向に水膨張性部材7aが配置される。すなわち、本体部3の軸方向に対して、少なくとも本体部3の他端側(図1図3の下方向)の内面には、略筒状の水膨張性部材7aが配置される。水膨張性部材7aは、防火構造体を構成する際に、フランジ部11の上方に充填されるモルタル等の不燃材の漏れを防ぐための物である。
【0036】
水膨張性部材7aは、例えば水膨張性の不織布である。水膨張性の不織布は、例えば、ポリエステル繊維等の基材に吸水性ポリマー繊維を配合した不織布である。水膨張性部材7aは、水分を吸収すると膨張して隙間を塞ぎ、止水性を確保することができる。例えば、不燃材として、水分を含むようなモルタル等を用いた際に、モルタルが流れる隙間を水膨張性部材7aで塞ぐことで、モルタルの流出を抑制することができる。なお、熱膨張性部材5及び水膨張性部材7aは、接着剤や両面テープ等によって本体部3の内面に接着されて固定される。
【0037】
ここで、図3に示すように、筒状の本体部3における水膨張性部材7aの内径(図中C)は、熱膨張性部材5の内径(図中B)よりも小さい。例えば、本体部3は、水膨張性部材7aが配置される部位が、熱膨張性部材5が配置される部位と比較して縮径される。または、水膨張性部材7aの厚みを、熱膨張性部材5の厚みよりも厚くしてもよい。このようにすることで、水膨張性部材7aを熱膨張性部材5よりも中心側に張り出すように形成することができる。
【0038】
また、本体部3の一端側のフランジ部11の表面(図1図3の上側の面)の少なくとも一部には、周方向に両面テープ9が配置される。両面テープ9は、設置対象に耐火部材1を固定するための固定部として機能する。なお、両面テープ9は、少なくともフランジ部11の外周部に配置されていることが望ましい。このようにすることで、貫通孔の中心に対して耐火部材1の位置がずれるような場合でも、確実に両面テープ9を固定対象に接着することができる。なお、耐火部材1の固定構造については詳細を後述する。
【0039】
図4(a)は、分割部材15同士を分解した状態の側面図であり、図4(b)は、分割部材15同士を組み合わせた状態を示す側面図である。半割状の分割部材15の本体部3の両端部には、連結部13a、13bが設けられる。連結部13a、13bは、例えば、互いに対向する平面部と、一方の連結部13aの先端側に形成された係合爪と、他方の連結部13bに形成された係合部とからなる。分割部材15の連結部13a、13bを互いに連結することで、略筒状の耐火部材1が形成される。
【0040】
図5は、図4(b)のF-F線断面図である。前述したように、本体部3の内面には、水膨張性部材7aが全周にわたって形成される。また、連結部13a、13bの合わせ面には、水膨張性部材7bが配置される。すなわち、分割部材15同士の本体部3の合わせ面に、水膨張性部材7bが配置される。水膨張性部材7bは、水膨張性部材7aと同様に、例えば水膨張性不織布である。
【0041】
このように、本体部3の内面全周と、分割部材15の合わせ面に水膨張性部材7a、7bを配置することで、防火構造体を構成する際に、フランジ部11の上方に充填されるモルタル等の不燃材の漏れを防ぐことができる。
【0042】
図6(a)は、図4(b)のD-D線断面図であり、図6(b)は、図4(b)のE部における断面図である。図6(a)に示すように、両面テープ9は、略全周にわたって略環状に形成されるが、図6(b)に示すように、分割部材15同士の合わせ面近傍においては、両面テープ9同士の間に隙間が形成される。また、水膨張性部材7bの上端がフランジ部11の表面よりも上方に突出して、両面テープ9同士の隙間に配置される。
【0043】
すなわち、分割部材15同士の本体部3の合わせ面に配置された水膨張性部材7bの端部が、隣り合う分割部材15に配置された両面テープ9同士の突合せ部の間に配置される。このようにすることで、防火構造体を構成する際に、フランジ部11の上方に充填されるモルタル等の不燃材が、両面テープ9同士の突合せ部を伝って漏れるのを抑制することができる。
【0044】
次に、耐火部材1を用いた防火構造の施工方法について説明する。図7は、防火構造の施工工程を示す図である。例えば床材などの区画部19には、貫通孔23が形成される。貫通孔23には長尺体21が挿通される。長尺体21は、配管であってもケーブルであってもよいが、例えば、塩化ビニル製の配管などであることが望ましい。なお、貫通孔23の形状や長尺体21の径等は特に限定されず、図示した例には限られない。
【0045】
まず、区画部19の下方であって、長尺体21の側方から分割部材15を取り付ける。図8は、分割部材15同士が連結されて、耐火部材1が長尺体21の外周に配置された状態を示す図である。すなわち、長尺体21が、貫通孔23と耐火部材1に対して挿通された状態となる。
【0046】
この状態から、図9に示すように、耐火部材1を長尺体21に対してスライド移動させて(図中矢印G)、耐火部材1の一部(上部の熱膨張性部材5)を貫通孔23の内部に挿入する。貫通孔23に耐火部材1の熱膨張性部材5が挿入された状態で、両面テープ9で区画部19に耐火部材1が固定される。
【0047】
なお、前述したように、両面テープ9は、フランジ部11の外周部に配置される。このようにすることで、例えば長尺体21が貫通孔23の中心からずれた位置に配置されるような場合や、貫通孔23のサイズが異なるような場合でも、両面テープ9を区画部19の位置に配置することができる。このため、確実に耐火部材1を区画部19に固定することができる。
【0048】
また、前述したように、水膨張性部材7aにおける内径(図3のC)は、熱膨張性部材5における内径(図3のB)よりも小さい。例えば、水膨張性部材7aにおける内径を長尺体21の外径よりも小さくし、熱膨張性部材5における内径を長尺体21の外径以上とする。このようにすることで、水膨張性部材7aが圧縮されて、耐火部材1は、水膨張性部材7aの摩擦によって長尺体21の外周に仮固定することができる。この状態からであっても、水膨張性部材7aを、水膨張性不織布のように、長尺体21に対して滑りやすい材質とすることで、耐火部材1を長尺体21に対して容易にスライドさせることができる。
【0049】
一方、この場合でも、熱膨張性部材5は、長尺体21の外周面に強く押圧されることがない。一般的に、熱膨張性部材5は、水膨張性不織布と比較して、他の部材に対する滑りが悪く、例えば長尺体21の外面に押し付けると、熱膨張性部材5が長尺体21の表面にくっつく恐れがある。これに対して、熱膨張性部材5の内径を長尺体21の外径よりもわずかに大きめにしておくことで、長尺体21と熱膨張性部材5との付着を抑制することができる。
【0050】
次に、図10に示すように、区画部19と耐火部材1とで囲まれた貫通孔23の内部にモルタル等の不燃材25を充填する。なお、不燃材25の上面は、熱膨張性部材5の上端部を超えない範囲とする。この際、長尺体21と本体部3の隙間には、水膨張性部材7aが配置されるため、不燃材25が耐火部材1の下方に漏れ出すことを抑制することができる。
【0051】
また、分割部材15同士の合わせ面にも、水膨張性部材7bが配置されるため、分割部材15同士の隙間から不燃材25が耐火部材1の下方に漏れ出すことを抑制することができる。また、区画部19と耐火部材1(フランジ部11)との隙間は、両面テープ9によって塞がれるため、区画部19と耐火部材1との間から不燃材25が耐火部材1の下方に漏れ出すことを抑制することができる。この際、両面テープ9同士の突合せ部にも水膨張性部材7bが配置されるため、両面テープ9同士の突合せ部を通って、不燃材25が耐火部材1の下方に漏れ出すことを抑制することができる。
【0052】
不燃材25が硬化すると、防火構造20の施工が完了する。この状態で火災が発生すると、長尺体21の一部が焼失するが、熱膨張性部材5の膨張によって長尺体21の体積減少によって形成される穴が塞がれて、区画部19を超えて火災が延焼することを抑制することができる。
【0053】
以上説明したように、本実施の形態にかかる耐火部材1によれば、熱膨張性部材5と貫通孔23を塞ぐためのフランジ部11とが一体であり、不燃材25の受けとしての機能と、熱膨張性部材5による防火機能とを一つの部材で賄うことができるため、別個に部材を取り付ける必要がなく、取り付け作業が容易である。
【0054】
また、不燃材25の漏れ出しを水膨張性部材7a、7bで抑制することができるため、不燃材25の流出による防火性能の低下を抑制することができるとともに、施工後の掃除の手間を省くことができる。特に、水膨張性部材7aは、長尺体21の全周にわたって配置されるため、長尺体21と耐火部材1との間の隙間からの不燃材25の漏れを確実に抑制することができる。また、分割部材15同士の合わせ面においても、水膨張性部材7bが配置されるため、分割部材15同士の隙間からの不燃材25の漏れを確実に抑制することができる。
【0055】
また、フランジ部11と区画部19との間のからの不燃材25の漏れ出しは、両面テープ9によって抑制することができる。この際、水膨張性部材7bの上端を、フランジ部11の上面から突出させて、両面テープ9の突合せ部の間に挿入することで、両面テープ9の間からの不燃材25の漏れを確実に抑制することができる。
【0056】
また、水膨張性部材7aとして水膨張性不織布を用いることで、長尺体21の表面における滑りが良好であるため、耐火部材1を長尺体21の外周部に配置した後、耐火部材1を貫通孔23の方向へスライドさせるのが容易である。特に、水膨張性部材7aの内径を熱膨張性部材5の内径よりも小さくしておくことで、水膨張性部材7aよりも相対的に滑りの悪い熱膨張性部材5が長尺体21の表面に強く押し付けられることを抑制することができる。このため、耐火部材1を長尺体21に対してスライドさせるのが容易である。
【0057】
また、熱膨張性部材5の外周を突出部17によって支持することで、熱膨張性部材5の形態を保持することができる。この際、熱膨張性部材5を突出部17の先端から突出させることで、熱膨張性部材5の先端部近傍の外周部に突出部17が存在せず、熱膨張性部材5が膨張する際に、突出部17が膨張の妨げとなることを抑制することができる。
【0058】
また、両面テープ9によって耐火部材1を区画部19へ固定することができるため、耐火部材1の脱落を抑制することができる。この際、両面テープ9をフランジ部11の外周側に配置しておくことで、貫通孔23に対して長尺体21の配置がずれた場合や、貫通孔23のサイズが異なるような場合でも、確実に区画部19へ両面テープ9を張り付けることができる。
【0059】
また、耐火部材1を複数の分割部材15に分割可能としておくことで、長尺体21を設置した後にも、耐火部材1を取り付けることができる。
【0060】
なお、長尺体21を貫通孔23へ挿通する作業と同時に耐火部材1を取り付ける場合には、耐火部材1を複数に分割可能とする必要はない。例えば、図11に示す耐火部材1aのように、周方向に一体化された略筒状としてもよい。
【0061】
耐火部材1aは、分割部材に分割されないため、連結部13a、13b及び連結部13a、13bの合わせ面の止水性を確保するための水膨張性部材7bは不要である。この場合には、長尺体21を貫通孔23及び耐火部材1aに挿通して、長尺体21を固定した後、耐火部材1aを貫通孔23へスライドさせて区画部へ固定し、不燃材25を充填することで防火構造を得ることができる。
【0062】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0063】
1、1a………耐火部材
3………本体部
5………熱膨張性部材
7a、7b………水膨張性部材
9………両面テープ
11………フランジ部
13a、13b………連結部
15………分割部材
17………突出部
19………区画部
20………防火構造
21………長尺体
23………貫通孔
25………不燃材
図1
図2
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図5
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図10
図11