(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-21
(45)【発行日】2024-07-01
(54)【発明の名称】抗-LILRB1抗体およびその用途
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20240624BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240624BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240624BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240624BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240624BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240624BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240624BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240624BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240624BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240624BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240624BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240624BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240624BHJP
【FI】
C07K16/28
C12N15/63 Z
C12N15/62 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61P35/00
A61P37/02
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K48/00
C12N15/13 ZNA
(21)【出願番号】P 2023503488
(86)(22)【出願日】2021-07-27
(86)【国際出願番号】 KR2021009696
(87)【国際公開番号】W WO2022025585
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】10-2020-0094053
(32)【優先日】2020-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ユン・ア・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ハン・ビョル・キム
(72)【発明者】
【氏名】シンヨン・カン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ア・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヒハン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ミンスン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジュンヘン・チョ
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/144052(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/181438(WO,A2)
【文献】特表2017-517259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/13
C07K 16/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の相補性決定領域(complementarity determining region;CDRs)を含む、抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片:
配列番
号97のアミノ酸配列を含むCDR-L1、
配列番
号98のアミノ酸配列を含むCDR-L2、
配列番
号99のアミノ酸配列を含むCDR-L3、
配列番
号10
0のアミノ酸配列を含むCDR-H1、
配列番
号10
1のアミノ酸配列を含むCDR-H2、および
配列番
号10
2のアミノ酸配列を含むCDR-H3
(Kabat numberingを基準とする。)
【請求項2】
配列番
号10
3のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、および
配列番
号10
5のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
ヒトIgG1またはIgG4抗体である、請求項1に記載の抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
前記抗原結合断片は、前記抗-LILRB1抗体のscFv、(scFv)
2、Fab、Fab’、F(ab’)
2、scFvが免疫グロブリンのFcと融合した融合ポリペプチド、またはscFvが軽鎖の不変領域と融合した融合ポリペプチドである、請求項1に記載の抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片を含む、癌の予防または治療用薬学組成物。
【請求項6】
前記癌は、MHCクラスIが過剰発現される特性を有する、請求項
5に記載の薬学組成物。
【請求項7】
前記組成物は、癌細胞の免疫回避を阻害する活性を有する、請求項
5に記載の薬学組成物。
【請求項8】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片をコードする、核酸分子。
【請求項9】
請求項
8に記載の核酸分子を含む、組換えベクター。
【請求項10】
請求項
8に記載の核酸分子またはこれを含む組換えベクターを含む、組換え細胞。
【請求項11】
請求項
10に記載の組換え細胞を培養する段階を含む、抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片の製造方法。
【請求項12】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片を含む、癌細胞の免疫回避阻害用薬学組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2020年7月28日付の韓国特許出願第10-2020-0094053号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、抗-LILRB1抗体およびその用途に関し、具体的には、抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片、およびその癌治療用途に関する。
【背景技術】
【0003】
Leukocyte immunoglobulin-like receptor subfamily B member 1(LILRB1、またはILT2、CD85j、LIR-1)はB細胞、T細胞、NK細胞、樹状細胞、マクロファージおよびその他の免疫細胞などに発現する活性抑制受容体(inhibitory receptor)である。LILRB1は、classicalおよびnon-classical MHC class-Iと結合して、免疫細胞の活性を抑制させるシグナル伝達作用を有する。
【0004】
したがって、LILRB1を標的とする物質の開発が求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一実施形態は、LILRB1に結合する抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片を提供する。前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、癌細胞の免疫回避を阻害する活性を有し得る。また、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は優れた抗癌活性を有し得る。前記癌は、表面にMHCクラスIを発現または過剰発現するものであり得る。
【0006】
本発明の他の実施形態は、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片を含む薬学的癌の治療および/または予防用薬学組成物を提供する。他の実施形態は、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片の薬学的有効量を癌の治療および/または予防を必要とする対象に投与する段階を含む、癌の治療および/または予防方法を提供する。他の実施形態は、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片の癌の治療および/または予防に用いるための用途または癌の治療および/または予防用薬学組成物の製造に用いるための用途を提供する。
【0007】
本発明の他の実施形態は、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片を含む癌細胞の免疫回避阻害用薬学組成物を提供する。他の実施形態は、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片の薬学的有効量を癌細胞の免疫回避阻害を必要とする対象に投与する段階を含む、癌細胞の免疫回避阻害方法を提供する。他の実施形態は、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片の癌細胞の免疫回避阻害に用いるための用途または癌細胞の免疫回避阻害用薬学組成物の製造に用いるための用途を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態は、LILRB1に結合する抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片を提供する。前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、癌細胞の免疫回避を阻害する活性を有するものであり得る。また、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は優れた抗癌活性を有するものであり得る。
【0009】
前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、以下の相補性決定領域(CDR)を含むものであり得る:
【0010】
Kabat numberingによるCDR定義(Kabat,E.A.,Wu,T.T.,Perry,H.,Gottesman,K.and Foeller,C.(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition.NIH Publication No.91-3242;http://www.abysis.org/)を基準にして、
配列番号1、13、25、37、49、61、73、85、97、109、121、133、145、157、169、181、193、205または217のアミノ酸配列を含むCDR-L1、
配列番号2、14、26、38、50、62、74、86、98、110、122、134、146、158、170、182、194、206または218のアミノ酸配列を含むCDR-L2、
配列番号3、15、27、39、51、63、75、87、99、111、123、135、147、159、171、183、195、207または219のアミノ酸配列を含むCDR-L3、
配列番号4、16、28、40、52、64、76、88、100、112、124、136、148、160、172、184、196、208または220のアミノ酸配列を含むCDR-H1、
配列番号5、17、29、41、53、65、77、89、101、113、125、137、149、161、173、185、197、209または221のアミノ酸配列を含むCDR-H2、および
配列番号6、18、30、42、54、66、78、90、102、114、126、138、150、162、174、186、198、210または222のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むものであり得る。
【0011】
一実施形態において、本明細書で提供される抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片に含むことが可能な6個のCDR(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3、CDR-H1、CDR-H2およびCDR-H3)の組み合わせを下記の表1に示す:
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【0012】
一例において、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、前記のような、
CDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含む軽鎖可変領域、並びに
CDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3を含む重鎖可変領域を含むものであり得る。
【0013】
実施形態において、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、
配列番号7、19、31、43、55、67、79、91、103、115、127、139、151、163、175、187、199、211または223のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、および
配列番号9、21、33、45、57、69、81、93、105、117、129、141、153、165、177、189、201、213または225のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含むものであり得る。
【0014】
本明細書で提供される抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片に含むことが可能な軽鎖可変領域および重鎖可変領域の組み合わせを下記の表2に示す:
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【0015】
本明細書において、抗体(例えば、CDR、可変領域、または重鎖/軽鎖)が「特定のアミノ酸配列を含むまたは特定のアミノ酸配列からなる」とは、前記アミノ酸配列を必ず含む場合、および/または前記アミノ酸配列に抗体活性に影響を与えない無意味な変異(例えば、アミノ酸残基の置換、欠失、および/または付加)が導入された場合を全て意味するものであり得る。
【0016】
本明細書で提供される抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、LILRB1(例えば、ヒトLILRB1)に対する結合親和性(KD)は、例えば、表面プラズモン共鳴(Surface plasmon resonance、SPR)で測定したものを基準にして、10mM以下、5mM以下、1mM以下、0.5mM以下、0.2mM、または0.15mM以下であり得、例えば、0.001nM~10mM、0.005nM~10mM、0.01nM~10mM、0.05nM~10mM、0.1nM~10mM、0.5nM~10mM、1nM~10mM、0.001nM~5mM、0.005nM~5mM、0.01nM~5mM、0.05nM~5mM、0.1nM~5mM、0.5nM~5mM、1nM~5mM、0.001nM~1mM、0.005nM~1mM、0.01nM~1mM、0.05nM~1mM、0.1nM~1mM、0.5nM~1mM、1nM~1mM、0.001nM~0.5mM、0.005nM~0.5mM、0.01nM~0.5mM、0.05nM~0.5mM、0.1nM~0.5mM、0.5nM~0.5mM、1nM~0.5mM、0.001nM~0.2mM、0.005nM~0.2mM、0.01nM~0.2mM、0.05nM~0.2mM、0.1nM~0.2mM、0.5nM~0.2mM、1nM~0.2mM、0.001nM~0.15mM、0.005nM~0.15mM、0.01nM~0.15mM、0.05nM~0.15mM、0.1nM~0.15mM、0.5nM~0.15mM、または1nM~0.15mMであり得る。
【0017】
他の例は、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片を含む薬学組成物を提供する。例えば、前記薬学組成物は、癌の治療および/または予防のための薬学組成物であり得る。一例において、前記薬学組成物は、癌細胞の免疫回避を阻害する活性を有するものであり得る。前記癌細胞は、表面にMHCクラスIを発現または過剰発現したものであり得る。
【0018】
他の例は、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片の薬学的有効量を癌の治療および/または予防を必要とする対象(例えば、ヒトを含む哺乳類)に投与(経口または非経口投与)する段階を含む、癌を治療および/または予防する方法を提供する。
【0019】
本明細書で提供される方法は、前記投与する段階前に、癌の治療および/または予防を必要とする対象、および/または癌細胞の免疫回避阻害を必要とする対象を確認する段階をさらに含み得る。
【0020】
他の例は、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片の癌の治療および/または予防に用いるための用途または癌の治療および/または予防用薬学組成物の製造に用いるための用途を提供する。さらに他の例は、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片の癌細胞の免疫回避阻害に用いるための用途または癌細胞の免疫回避阻害用薬学組成物の製造に用いるための用途を提供する。
【0021】
他の例は、前記抗-LILRB1抗体のCDR(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、またはCDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3の組み合わせ、またはCDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3の組み合わせ);CDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含む軽鎖可変領域;CDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3を含む重鎖可変領域;前記軽鎖可変領域を含む軽鎖;および前記重鎖可変領域を含む重鎖からなる群より選択される1つ以上のポリペプチドをコードする核酸分子を提供する。
【0022】
他の例は、前記核酸分子を含む組換えベクターを提供する。一例において、前記組換えベクターは、前記軽鎖可変領域または軽鎖、および前記重鎖可変領域または重鎖を(例えば、2つのベクターに)をそれぞれ含むか、(例えば、1つのベクターに)共に含むものであり得る。前記組換えベクターは、前記軽鎖可変領域または軽鎖、および前記重鎖可変領域または重鎖を適切な細胞で発現させるための発現ベクターであり得る。
【0023】
他の例は、前記組換えベクターを含む組換え細胞を提供する。
【0024】
他の例は、前記組換え細胞を発現させる段階を含む、抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片の製造方法を提供する。
【0025】
本明細書に記載された抗-LILRB1抗体の抗原結合断片は、前記抗-LILRB1抗体に由来し、抗原(LILRB1)に対する結合力を保有する断片を意味し、前記抗-LILRB1抗体の6個のCDRを含む任意のポリペプチド、例えば、scFv、scFv-Fc、scFv-Ck(カッパ不変領域)、scFv-Cλ(ラムダ不変領域)、(scFv)2、Fab、Fab’またはF(ab’)2であり得るが、これらに限定されるものではない。
【0026】
前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、LILRB1タンパク質に対して調節作用、例えば、拮抗作用(antagonism)または作働作用(agonism)を有するものであり得る。また、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、癌細胞の免疫回避を阻害する活性を有するものであり得る。また、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、優れた抗癌活性を有するものであり得る。
【0027】
本明細書で提供される抗体または抗原結合断片の抗原として作用するLILRB1は哺乳類由来のものであり得、例えば、ヒト由来LILRB1(例えば、GenBank accession numbers NP_001265328.2、NP_001265327.2、NP_001075108.2、NP_001075107.2、NP_001075106.2、NP_006660.4、NM_001081637.2、NM_001081638.3、NM_001081639.3、NM_001278398.2、NM_001278399.2など)であり得るが、これらに限定されるものではない。
【0028】
本明細書に記載されたMHCクラスIは、major histocompatibility complex(MHC)分子の一分類である。一例において、前記MHCクラスIはヒト由来のものであり得、HLA(human leukocyte antigen)-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、およびHLA-Gからなる群より選択される1種以上であり得るが、これらに限定されるものではない。
【0029】
本明細書において「抗体」とは、特定の抗原に特異的に結合するタンパク質の総称であって、免疫系で抗原刺激によって作られるタンパク質またはこれを組換えまたは化学的合成で製造したタンパク質であり得、その種類は特に限定されない。前記抗体は非天然に生成されたもの、例えば、組換えまたは合成的に生成されたものであり得る。前記抗体は、動物抗体(例えば、マウス抗体など)、キメリック抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体であり得る。前記抗体は、単クローン抗体または多クローン抗体であり得る。
【0030】
本明細書で提供される抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片で先に定義した重鎖CDRおよび軽鎖CDR部位、または重鎖可変領域および軽鎖可変領域を除いた残りの部位は、すべてのサブタイプの免疫グロブリン(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)、IgMなど)に由来するものであり得、例えば、前記すべてのサブタイプの免疫グロブリンのフレームワーク部位、および/または軽鎖不変領域および/または重鎖不変領域に由来するものであり得る。一例において、本明細書で提供される抗-LILRB1抗体はヒトIgG型抗体、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4形態の抗体であり得るが、これらに限定されるものであはない。
【0031】
完全な抗体(例えば、IgG型)は、2本の全長(full length)軽鎖および2本の全長重鎖を有する構造であり、それぞれの軽鎖は、重鎖と二硫化結合で連結されている。抗体の不変領域は、重鎖不変領域と軽鎖不変領域に分けられ、重鎖不変領域は、ガンマ(γ)、ミュー(μ)、アルファ(α)、デルタ(δ)およびイプシロン(ε)タイプを有し、サブクラスとしてガンマ1(γ1)、ガンマ2(γ2)、ガンマ3(γ3)、ガンマ4(γ4)、アルファ1(α1)およびアルファ2(α2)を有する。軽鎖の不変領域は、カッパ(κ)およびラムダ(λ)タイプを有する。
【0032】
用語「重鎖(heavyc hain)」は、抗原に特異性を付与するために十分な可変領域配列を有するアミノ酸配列を含む可変領域ドメインVHおよび3個の不変領域ドメインCH1、CH2およびCH3とヒンジ(hinge)を含む全長重鎖およびその断片を全て含む意味に解釈される。また、用語「軽鎖(light chain)」は、抗原に特異性を付与するための十分な可変領域配列を有するアミノ酸配列を含む可変領域ドメインVLおよび不変領域ドメインCLを含む全長軽鎖およびその断片を全て含む意味に解釈される。
【0033】
用語「CDR(complementarity determining region)」は、抗体の可変部位中で抗原との結合特異性を付与する部位を意味し、免疫グロブリン重鎖および軽鎖の高可変領域(hypervariable region)のアミノ酸配列を意味する。重鎖および軽鎖は、それぞれ3個のCDRを含み得る(CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3およびCDR-L1、CDR-L2、CDR-L3)。前記CDRは、抗体が抗原またはエピトープに結合するにあたって主な接触残基を提供することができる。一方、本明細書において、用語「特異的に結合」または「特異的に認識」は、当業者に通常知られている意味と同じであり、抗原および抗体が特異的に相互作用して免疫学的に反応することを意味する。
【0034】
本明細書において、抗体は、特別な言及がない限り、抗原結合能を持った抗体の抗原結合断片を含むものとして理解され得る。
【0035】
用語「抗原結合断片」は、抗原と結合できる部分(例えば、本明細書において定義された6個のCDR)を含むすべての形態のポリペプチドを意味する。例えば、抗体のscFv、(scFv)2、Fab、Fab’またはF(ab’)2であり得るが、これらに限定されない。また、上述した通り、前記抗原結合断片はscFv、またはscFvが免疫グロブリン(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgMなど)のFc部位または軽鎖不変領域(例えば、カッパまたはラムダ)と融合した融合ポリペプチドであり得る。
【0036】
前記抗原結合断片のうち、Fabは、軽鎖および重鎖の可変領域と軽鎖の不変領域および重鎖の最初の不変領域(CH1)を有する構造であって、1個の抗原結合部位を有する。
【0037】
Fab’は、重鎖CH1ドメインのC-末端に1つ以上のシステイン残基を含むヒンジ領域(hinge region)を有するという点でFabと異なる。
【0038】
F(ab’)2抗体は、Fab’のヒンジ領域のシステイン残基がジスルフィド結合を形成しながら生成される。Fvは、重鎖可変部位および軽鎖可変部位のみを有している最小の抗体断片であり、Fv断片を生成する組換え技術は当業界に幅広く知られている。
【0039】
二重鎖Fv(two-chain Fv)は、非共有結合で重鎖可変部位と軽鎖可変部位とが連結されており、単鎖Fv(single-chain Fv)は、一般にペプチドリンカーを介して重鎖の可変領域と軽鎖の可変領域とが共有結合で連結されるか、またはC-末端で直接連結されているので、二重鎖Fvと同様に、ダイマーのような構造を形成することができる。
【0040】
前記抗原結合断片は、タンパク質加水分解酵素を用いて得ることができ(例えば、全体抗体をパパインで制限切断すればFabを得ることができ、ペプシンで切断すればF(ab’)2断片を得ることができる。)、遺伝子組換え技術を用いて作られる。
【0041】
用語「ヒンジ領域(hinge region)」は、抗体の重鎖に含まれている領域であって、CH1とCH2領域の間に存在し、抗体内抗原結合部位の柔軟性(flexibility)を提供する機能を果たす領域を意味する。
【0042】
前記抗-LILRB1抗体は、単クローン抗体であり得る。単クローン抗体は、当業界で公知の方法により製造することができる。例えば、phage display技法を利用して製造することができる。または、抗-LILRB1抗体は、通常の方法によってマウス由来の単クローン抗体で製造することができる。
【0043】
一方、典型的なELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)フォーマットを利用してLILRB1との結合能に基づいて個別の単クローン抗体をスクリーニングすることができる。結合体に対して分子的相互作用を検定するための競合ELISA(Competitive ELISA)のような機能性分析またはセルベースアッセイ(cell-based assay)のような機能性分析により阻害活性に対して検定することができる。その後、強い阻害活性に基づいて選択された単クローン抗体メンバーに対してLILRB1に対するそれぞれの親和性(Kd values)を検定することができる。
【0044】
最終的に選択された抗体は、抗原結合部を除いた残りの部分がヒト免疫グロブリンの抗体化された抗体だけでなく、ヒト化抗体として製造して使用することができる。ヒト化抗体の製造方法は当業界でよく知られている。
【0045】
本明細書で提供される薬学組成物は、薬学的に許容可能な担体をさらに含み得る。前記薬学的に許容可能な担体は、製剤時に通常利用されるものであり、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム、およびミネラルオイルなどからなる群より選択される1種以上であり得るが、これらに限定されるものではない。前記薬学組成物はまた、薬学組成物の製造に通常使用される希釈剤、賦形剤、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などからなる群より選択される1種以上をさらに含み得る。
【0046】
前記薬学組成物、または前記抗体またはその抗原結合断片の有効量は、経口または非経口で投与することができる。非経口投与の場合には、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、内皮投与、鼻内投与、肺内投与、直腸内投与、または病変部位への局所投与などで投与可能である。経口投与時、タンパク質またはペプチドは消化されるため、経口用組成物は、活性薬剤をコーティングするか、胃での分解から保護されるように剤形化されなければならない。また、前記組成物は、活性物質が標的細胞に移動できる任意の装置により投与することができる。
【0047】
前記薬学組成物中の抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片の含有量、または抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片の投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、飲食、投与時間、投与間隔、投与経路、排泄速度、反応感応性などの要因によって多様に処方可能である。例えば、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片の1日投与量は、0.005μg/kg~1000mg/kg、0.005μg/kg~500mg/kg、0.005μg/kg~250mg/kg、0.005μg/kg~100mg/kg、0.005μg/kg~75mg/kg、0.005μg/kg~50mg/kg、0.01μg/kg~1000mg/kg、0.01μg/kg~500mg/kg、0.01μg/kg~250mg/kg、0.01μg/kg~100mg/kg、0.01μg/kg~75mg/kg、0.01μg/kg~50mg/kg、0.05μg/kg~1000mg/kg、0.05μg/kg~500mg/kg、0.05μg/kg~250mg/kg、0.05μg/kg~100mg/kg、0.05μg/kg~75mg/kg、または0.05μg/kg~50mg/kgの範囲であり得るが、これらに限定されるものではない。前記1日投与量は、単位容量形態で1つの製形で製剤化するか、または適切に分量して製剤化するか、または多用量容器内に入れ込んで製造することができる。
【0048】
前記薬学組成物は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液、シロップ剤または乳化液形態であるか、エキス剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤などの形態に剤形化されてもよいし、剤形化のために分散剤または安定化剤をさらに含み得る。
【0049】
本発明の適用対象患者は、ヒト、サルなどを含む霊長類、マウス、ラットなどを含む齧歯類などを含む哺乳類であり得る。
【0050】
前記癌は、固形癌または血液癌であってもよく、これらに限定されないが、肺癌(例えば、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌、肺扁平上皮癌など)、腹膜癌、皮膚癌、皮膚または眼内黒色腫、直膓癌、肛門部癌、食道癌、小腸癌、内分泌腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、尿道癌、白血病(例えば、慢性または急性白血病)、リンパ腫、肝細胞癌、胃癌、膵臓癌、膠芽腫、頸部癌、卵巣ガン、肝癌、膀胱癌、肝腫瘍、乳癌、結腸癌、大腸癌、子宮内膜または子宮癌、唾液腺癌、腎細胞癌、腎臓癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、頭頸部癌、脳癌、骨肉腫などからなる群より選択される1種以上であり得る。前記癌は、原発性癌または転移性癌であり得る。前記癌は、表面にMHCクラスIが発現または過剰発現されたものであり得、例えば、大腸癌(colon adenocarcinoma)、小細胞肺癌(small cell lung carcinoma)、非小細胞肺癌(Non-small-cell lung carcinoma)、乳癌(breast cancer)、膵臓癌(pancreatic cancer)、皮膚癌(malignant melanoma)、骨肉腫(bone osteosarcoma)、腎細胞癌(renal cell carcinoma)、胃癌(gastric cancer)であり得る。前記MHCクラスIの過剰発現は、正常細胞と比較して、前記抗体適用対象癌細胞で過剰発現されたものを意味する。一例において、前記癌は、T-細胞媒介免疫治療で抗癌効果が現れない(抵抗性がある)癌腫であり得る。
【0051】
本明細書において癌の治療は、癌細胞増殖の抑制、癌細胞死滅、転移抑制などの癌の症状の悪化を防止するか緩和または好転させるか、または癌を部分的または全部を消滅させるすべての抗癌作用を意味する。
【0052】
本明細書で提供される抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は他の薬物、例えば、通常使用可能な免疫治療剤、抗癌剤、細胞毒性製剤などからなる群より選択される1種以上と併用することができる。したがって、一例として、(1)抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片、および(2)免疫治療剤、抗癌剤、細胞毒性製剤などからなる群より選択される1種以上の薬物を含む、癌の予防および/または治療のための併用投与用薬学組成物を提供する。他の例は、癌の予防および/または治療を必要とする患者に(1)抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片、および(2)免疫治療剤、抗癌剤、細胞毒性製剤などからなる群より選択される1種以上の薬物を投与する段階を含む、癌の予防および/または治療方法が提供される。前記免疫治療剤、抗癌剤および細胞毒性製剤は、通常、癌治療、および/または細胞毒性活性を有するすべての薬物を包括するもので、抗体などのタンパク質、siRNAなどの核酸分子、および/またはパクリタキセル、ドセタキセルなどの小分子化合物の中から1種以上選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
他の例として、先に説明した抗-LILRB1抗体の重鎖相補性決定領域(CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、またはこれらの組み合わせ)、軽鎖相補性決定領域(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3、またはこれらの組み合わせ)、またはこれらの組み合わせ;または重鎖可変領域、軽鎖可変領域、またはこれらの組み合わせを含むポリペプチド分子が提供される。前記ポリペプチド分子は、抗体の前駆体として抗体作製に用いられるだけでなく、抗体と類似した構造を有するタンパク質骨格(protein scaffold;例えば、ペプチボディ)、二重特異抗体、多重特異抗体の構成成分として含まれる。さらに他の例として、前記抗-LILRB1抗体の重鎖相補性決定領域(CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、またはこれらの組み合わせ)、軽鎖相補性決定領域(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3、またはこれらの組み合わせ)、またはこれらの組み合わせ;または重鎖可変領域、軽鎖可変領域、またはこれらの組み合わせを含むポリペプチド分子は、CAR-Tなどの標的細胞治療剤において標的(抗原)認識部、分泌される抗体、前記抗-LILRB1抗体を分泌するように作製された細胞治療剤などとして使用可能である。
【0054】
他の例として、抗-LILRB1抗体の重鎖相補性決定領域(CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、またはこれらの組み合わせ)、重鎖可変領域または重鎖をコードする核酸分子を提供する。
【0055】
他の例として、抗-LILRB1抗体の軽鎖相補性決定領域(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3、またはこれらの組み合わせ)、軽鎖可変領域または軽鎖をコードする核酸分子を提供する。
【0056】
他の例として、前記抗-LILRB1抗体の重鎖相補性決定領域、重鎖可変領域または重鎖をコードする核酸分子および抗-LILRB1抗体の軽鎖相補性決定領域、軽鎖可変領域または軽鎖をコードする核酸分子を1つのベクターに共に含むか、それぞれ別個のベクターに含む組換えベクターを提供する。
【0057】
他の例として、前記組換えベクターを含む組換え細胞を提供する。
【0058】
用語「ベクター(vector)」は、宿主細胞で目的遺伝子を発現させるための発現手段を意味する。例えば、プラスミドベクター、コスミドベクター、およびバクテリオファージベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクターおよびアデノ-関連ウイルスベクターなどのウイルスベクターを含む。前記組換えベクターに使用可能なベクターは、当業界で頻用されるプラスミド(例えば、pSC101、pGV1106、pACYC177、ColE1、pKT230、pME290、pBR322、pUC8/9、pUC6、pBD9、pHC79、pIJ61、pLAFR1、pHV14、pGEXシリーズ、pETシリーズおよびpUC19など)、ファージ(例えば、λgt4λB、λ-Charon、λΔz1およびM13など)またはウイルス(例えば、SV40など)を操作して作製することができる。
【0059】
前記組換えベクターで前記核酸分子は、プロモーターに作動的に連結され得る。用語「作動可能に連結された(operatively linked)」は、ヌクレオチド発現調節配列(例えば、プロモーター配列)と他のヌクレオチド配列との間の機能的な結合を意味する。前記調節配列は「作動可能に連結(operatively linked)」されることで他のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳を調節することができる。
【0060】
前記組換えベクターは、典型的にクローニングのためのベクターまたは発現のためのベクターとして構築することができる。前記発現用ベクターは当業界において植物、動物または微生物で外来のタンパク質を発現するのに使用される通常のものを使用することができる。前記組換えベクターは、当業界に公知の多様な方法により構築することができる。
【0061】
前記組換えベクターは、原核細胞または真核細胞を宿主として構築することができる。例えば、使用されるベクターが発現ベクターであり、原核細胞を宿主とする場合には、転写を進行させる強力なプロモーター(例えば、pLλプロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、tacプロモーター、T7プロモーターなど)、翻訳の開始のためのリボゾーム結合サイトおよび転写/翻訳終結配列を含むことが一般的である。真核細胞を宿主とする場合には、ベクターに含まれる真核細胞で作動する複製起点は、f1複製起点、SV40複製起点、pMB1複製起点、アデノ複製起点、AAV複製起点およびBBV複製起点などを含むが、これらに限定されるものではない。また、哺乳動物細胞のゲノムに由来するプロモーター(例えば、メタロチオニンプロモーター)、または哺乳動物ウイルスに由来するプロモーター(例えば、アデノウイルス後期プロモーター、ワクチニアウイルス7.5Kプロモーター、SV40プロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、HSVのtkプロモーターなど)が用いられ、転写終結配列としてポリアデニル化配列を一般的に有する。
【0062】
他の例として、前記組換えベクターを含む組換え細胞を提供する。
【0063】
前記組換え細胞は、前記組換えベクターを適切な宿主細胞に導入させることによって得られたものであり得る。前記宿主細胞は、前記組換えベクターを安定的かつ連続的にクローニングまたは発現させる細胞であって当業界に公知されているいかなる宿主細胞も用いることができ、原核細胞としては、例えば、E.coli JM109、E.coli BL21、E.coli RR1、E.coli LE392、E.coli B、E.coli X1776、E.coli W3110、バチルスサブティリス、バチルスチューリンゲンシスなどのバチルス属菌株、そしてサルモネラチフィリウム、セラチアマルセッセンスおよび多様なシュードモナス種などの腸内菌と菌株などがあり、真核細胞に形質転換させる場合には宿主細胞として、酵母(Saccharomyces cerevisiae)、昆虫細胞、植物細胞、および動物細胞、例えば、Sp2/0、CHO(Chinese hamster ovary)K1、CHO DG44、CHO S、CHO DXB11、CHO GS-KO、PER.C6、W138、BHK、COS-7、293、HepG2、Huh7、3T3、RIN、MDCK細胞株などが用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0064】
前記核酸分子またはこれを含む組換えベクターの宿主細胞内への運搬(導入)は、当業界に広く知られた運搬方法を使用することができる。前記運搬方法は、例えば、宿主細胞が原核細胞の場合、CaCl2方法または電気穿孔方法などを使用することができ、宿主細胞が真核細胞の場合には、微細注入法、カルシウムホスフェート沈殿法、電気穿孔法、リポゾーム-媒介形質感染法および遺伝子ボンバードメントなどを使用することができるが、これらに限定されない。
【0065】
前記形質転換された宿主細胞を選別する方法は、選択標識によって発現する表現型を用いて、当業界に広く知られた方法により容易に実施可能である。例えば、前記選択標識が特定の抗生剤耐性遺伝子の場合には、前記抗生剤が含有された培地で形質転換体を培養することによって、形質転換体を容易に選別することができる。
【0066】
他の例として、前記核酸分子またはこれを含む組換えベクターを宿主細胞で発現させる段階を含む抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片の製造方法を提供する。前記製造方法は、前記組換えベクターを含む組換え細胞を培養する段階、および任意に培養培地から抗体または抗原結合断片を分離および/または精製する段階を含むものであり得る。
【発明の効果】
【0067】
本発明で提供される抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、癌細胞の免疫回避作用を阻害し、免疫細胞の抗癌効能を阻害せずによく発揮できるようにすることによって優れた抗癌活性を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【
図1】一実施形態において精製された抗-LILRB1抗体のSDS-PAGEゲル分析結果を示す電気泳動写真である。
【
図2】一実施形態による抗-LILRB1抗体13に対するSPR(surface plasmon resonance)sensorgram結果を示す図である。
【
図3】一実施形態による抗-LILRB1抗体8、抗体10、抗体11、抗体13、および抗体18のLILRB1過剰発現CHO細胞に対する結合力を示すグラフである。
【
図4】一実施形態による抗-LILRB1抗体(抗体10、抗体11および抗体13)またはhuman IgG4 isotype control抗体(陰性対照群)の処理時のNK細胞KHYG-1によるHLA-G過剰発現HEK293細胞死滅能をIncuCyte S3で分析した結果を示すグラフである。
【
図5】一実施形態による抗-LILRB1抗体10、抗体11および抗体13のin vivo抗腫瘍効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0069】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これは例示的なものに過ぎず本発明の範囲を制限しようとするものではない。以下に記載された実施例は発明の本質的な要旨を逸脱しない範囲で変形できることは当業者にとって自明である。
【0070】
実施例1.LILRB1に対するヒト抗体の生産
1.1.ファージディスプレイ(phage display)を用いたLILRB1に対するヒト抗体の選別
ヒトLILRB1を特異的に認識する抗体を選別するために、ヒト合成Fab抗体からなるライブラリーを用いてファージディスプレイ選別法を行った。抗原は、RnD systems社製のhuman LILRB1-Fc(Cat.No.2017-T2)を用いてファージパニングを4ラウンドまで行った。さらに、抗原がFc fusion形態であるため、パニング段階でFc binderを除去するFc controlパニングも併行した。選別された産出物は、ファージELISAによって抗原に対する結合を確認した。
【0071】
1.2.単クローンファージELISA
前記実施例1.1でパニングにより得られたファージの中に抗原に特異的に結合するクローンを選別するために単クローンファージELISAを行った。前記実施例1.1の抗原に対して吸光度(A450nm)がカットオフ値0.4以上を決定して陽性であるクローンを確認し、当該遺伝子の配列を分析した。抗原の特異性を確認するために、抗原に対するunique Fabクローンのpurified phage ELISAを行い、EC50(pfu)値を求めた。
【0072】
1.3.単クローンsoluble Fab分析
前記実施例1.2でパニングにより得られた抗原に結合する47種の特異的クローン(unique clone)の中で、phage specificity ELISAでのEC50基準上位19種のクローンFabをコードする遺伝子をPCRで増幅して発現ベクターを作製した。TB mediaを利用して抗体を発現した後、periplasmic extractionによってsolubleタンパク質を確保した。Affinity chromatographyを用いて精製した後、ELISAを行い、抗原に対する結合を確認した。
【0073】
実施例2.選別された抗体のIgGへの変換
前記実施例1.3で選別されたFab形態のファージディスプレイライブラリーで選別された遺伝子に対して、それぞれの重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)に相当する配列をPCRで増幅した。一部の発現量が低いクローンの場合、軽鎖可変領域(VL)は同様にPCRで増幅し、重鎖可変領域(VH)に相当する遺伝子配列は、発現量が高いクローンの構造形成部位(FR)に相当する配列にCDRを移植して作製した。作製された重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)の遺伝子配列は、IgG4形態のヒト抗体(IgG4 Fc:配列番号229、Kappa不変領域:配列番号230)をコードするように作製された発現ベクター(pCB-LIR-mAB、その他にもCMV promoter、またはCMV/CHO beta-actin融合プロモーター(KR10-1038126B1)を有し、human IgG4のheavy chain constant regionとkappa light chainのconstant region配列を含むベクターの中でどちらを用いても構わない)に挿入した。前記発現ベクターは、sequencingによってそのDNA配列を確認した。
【0074】
下記表3~表21に選別された抗体19種のCDR-L1、CDR-L2、CDR-L3、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、軽鎖可変領域、重鎖可変領域、軽鎖および重鎖のアミノ酸配列と、軽鎖可変領域遺伝子と重鎖可変領域遺伝子の核酸配列を示した。各クローンに対してクローン番号を付与した。以下、単純にクローン番号のみを表記した。
【表3-1】
【表3-2】
【表4-1】
【表4-2】
【表5-1】
【表5-2】
【表6-1】
【表6-2】
【表7-1】
【表7-2】
【表8-1】
【表8-2】
【表9-1】
【表9-2】
【表10-1】
【表10-2】
【表11-1】
【表11-2】
【表12-1】
【表12-2】
【表13-1】
【表13-2】
【表14-1】
【表14-2】
【表15-1】
【表15-2】
【表16-1】
【表16-2】
【表17-1】
【表17-2】
【表18-1】
【表18-2】
【表19-1】
【表19-2】
【表20-1】
【表20-2】
【表21-1】
【表21-2】
【0075】
実施例3.選別された抗体の製造
前記実施例2で構築されたベクターは、Plasmid Plus Maxi kit(Qiagen)を用いて増幅された。該ベクターは、ExpiCHO-STM細胞を用いて抗体の発現に使用された。該ベクターをExpiCHO-STM細胞(Gibco)(1.2×109cells/Culture Volume 200mL)にExpiFectamineTM CHO reagent(Thermo Fisher)を640μL添加してトランスフェクション(transfection)した。Transfection1日後、ExpiCHOTM Expression Media(Thermo Fisher)で32℃、5%CO2の条件下で7~11日間培養した。一日目にExpiCHOTM Enhancer(Thermo Fisher)1200μLとExpiCHOTM Feed(Thermo Fisher)48mLを添加した。
前記培養した細胞を4℃、3500rpmで20分間遠心分離した後、0.22umのbottle-top filter system(Corning)を用いてろ過した。回収した培養液をAKTA Pure L(GE healthcare)を用いて精製した。AKTA Pure LにHitrap MabSelectSure 5mLカラム(GE healthcare)を装着し、培養液を5mL/minの流速で流した後、1X PBSで10 column volume(CV)で洗浄した。溶出バッファー(0.1M sodium citrate pH3.4 buffer)を流して目的タンパク質を溶出させた。溶出液はAmicon Ultra Filter Device(MWCO 10K、Merck)と遠心分離機を用いて濃縮を行った後、1X PBS緩衝溶液でバッファー交換を実施した。
【0076】
精製した抗体試料は、1X PBSで希釈して約1mg/mLとなるように用意した。Reducing Loading Buffer(3X)またはNon-reducing Loading Buffer(3X)10ulと精製した抗体試料20uLを混合した後、95℃のheating bathに2分間静置した後、取り出して冷却させた。SDS-PAGE Gradient Gel(4~12%)を電気泳動装置に装着した後、well当たり10μgの試料を注入し、gelを展開した。試料の分子量分析のためにPrecision Plus Protein
TM Dual Color Standards(BIO-RAD)を別途のwellに注入した。Coomassie staining solutionでgelをstainingし、destainingした後、gel写真を撮影した(
図1)。
【0077】
実施例4.選別された抗体の結合親和性の分析
前記実施例3で製造された19種の抗体のLILRB1抗原に対する親和力をBiacore T200(GE healthcare)を用いて測定した。Series S Sensor Chip CM5(GE healthcare、Cat.No.BR-1005-30)上にAmine Coupling Kit(GE healthcare、Cat.No.BR-1000-508)を用いてanti-human IgG(Fc)抗体(GE healthcare、Cat.No.BR-1008-39、最終濃度25ug/mL)を5ul/minで360秒間流して約5000~7000RUで固定させた。抗原であるヒトLILRB1タンパク質(LILRB1-His、RnD systems Cat.No.8989-T2)を25nMから400nMまでの濃度範囲内で互いに異なる5個の濃度で30ul/minの速度で注入して、下記の表の通りk
aとk
d値を求め、これからK
D値を計算した。抗体10は、LILRB1抗原に対して約24.13nMの結合力を示し、抗体13は、LILRB1抗原に対して約30.27nMの結合力を示した(表22)。抗体13に対するsensorgram結果を
図2に示す。
【表22】
【0078】
実施例5:選別された抗体の生体内(in vitro)での生物学的活性分析
5.1.細胞表面結合アッセイ(Cell surface binding assay)
前記実施例4で選別された抗体が細胞表面に発現したLILRB1とも結合するかどうかを確認するために細胞表面結合アッセイ(Cell surface binding assay)を行った。LILRB1を過剰発現させたCHO細胞をChemical Defined Mediumで培養し、2×10
5cells/wellとなるようにU-bottom 96-well tissue culture plate(BD Falcon)に分注した。各well当たり最終濃度が10μg/mLとなるように抗体を加え、4℃で30分間静置した。LILRB1に特異的結合を示すために、 human IgG4 isotype control抗体(Biolegend)も同様に処理した。FACS bufferで洗浄した後、各wellにanti-human Fc-biotin抗体(life technologies)を加え、4℃で1時間静置した。FACS bufferで洗浄した後、各wellにstreptavidin PE(BD Pharmigen)を加え、4℃で30分間静置した。FACS bufferで洗浄した後、懸濁してiQue screener(Sartorius)で分析した。
図3に示すように、抗体8、抗体10、抗体11、抗体13、抗体18の場合、human IgG4 isotype control抗体に比べてより多くの結合程度を示した。
【0079】
5.2.NK細胞による癌細胞死滅能増加分析
前記実施例4で選別された抗体がNK細胞による癌細胞死滅能を増加させるかどうかを確認するために、NK細胞KHYG-1によるHLA-G過剰発現HEK293細胞の死滅率を分析した。KHYG-1細胞を4×105cells/mL(2×104cells/well)となるように96-well tissue culture plate(BD Falcon)に分注した。選別された抗体をHLA-G過剰発現HEK293細胞処理後、最終濃度が10μg/mLとなるように加え、37℃で1時間静置した。陰性対照群としてhuman IgG4 isotype control抗体(Biolegend)も同様に処理した。HLA-G過剰発現HEK293細胞をIncuCyte CytoLight Rapid Red Reagent(Sartorius)を用いて製造会社の説明書に従って染色した。1時間後、HLA-G過剰発現HEK293細胞を4×105cells/mL(2×104cells/well)となるように加えた。プレートを37℃、5%CO2培養器に設けられたIncuCyte S3(Sartorius)に入れ、72時間イメージを撮影した。
【0080】
各抗体の効能を比較するために、Isotype control antibodyのNormalized red area confluence値が1であるときのRelative cell viability(Isotype=1)を次の数式1で求めた。
[数式1]
Relative cell viability=[各抗体のNormalized red area confluence値]/[IsotypeのNormalized red area confluence値]
【0081】
上記で得られた結果を
図4に示す。
図4においてRelative cell viabilityが低いほどAnti-LILRB1 mAbによるNK Cell mediated cytotoxicityが高いと解釈され得る。
図4に示すように、試験したすべての抗体(抗体10、抗体11、抗体13)は、human IgG4 Isotype controlに比べてHLA-G過剰発現HEK293細胞の死滅を増加させた。このような結果は、本発明で提供される抗体は癌細胞に対して高いCytotoxicityを示す。
【0082】
実施例6.試験抗体の生体内(in vivo)での生物学的活性分析
前記実施例3で抗原に対する結合力が確認された3種の抗体(抗体10、抗体11、抗体13)の抗癌効能の改善要否を確認するために、Bioware Brite Cell Line HCT116 Red-Fluc大腸癌細胞(PerkinElmer)およびTHP-1由来マクロファージ(THP-1 derived macrophage)と、抗体を投与した異種移植大腸癌マウス動物モデルを対象として生体内(in vivo)で3種の抗体投与によって腫瘍の大きさが減少するかどうかを確認した。陰性対照群としてhuman IgG1 isotype control抗体(BioXcell、Cat.No.BP0297)を使用した。
【0083】
6.1.THP-1由来マクロファージ(THP-1 derived macrophage)の製造
THP-1由来マクロファージは、THP-1細胞(ATCC)に150nM phorbol 12-myristate 13-acetate(PMA、Sigma)および20ng/mL interferon gamma(Peprotech)、10pg/mL lipopolysaccharide(LPS、Sigma)を加えて分化させて使用した。
【0084】
6.2.マウス動物モデルでの抗体の抗癌効能分析
マウス動物モデルは、3×106個のHCT116 Red-Fluc大腸癌細胞と3×106個のTHP-1由来マクロファージ、および抗体(1匹当たり20μg)を5週齢の雌性CIEA NOG Mouse(NOG免疫不全マウス、公益財団法人実験動物中央研究所)に皮下注射して使用した。また、各抗体は細胞移植後、4日目から腹腔注射によって5mg/kgの用量で週2回投与した。
【0085】
抗体投与による腫瘍の大きさの変化を測定して、
図5に示す。
図5に示すように、HCT116大腸癌細胞およびTHP-1由来マクロファージを移植したマウス動物モデルにおいて、試験したすべての抗体(抗体10、抗体11、抗体13)は明確な腫瘍成長抑制効能を示し、陰性対照群と統計学的に有意な差を示した。
【配列表】