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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】ジルコニア粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/02 20060101AFI20240625BHJP
   H01M 8/1253 20160101ALI20240625BHJP
   H01M 8/126 20160101ALI20240625BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20240625BHJP
【FI】
C01G25/02
H01M8/1253
H01M8/126
H01M8/12 101
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019183149
(22)【出願日】2019-10-03
(65)【公開番号】P2021059463
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】細井 浩平
(72)【発明者】
【氏名】松井 光二
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-139436(JP,A)
【文献】特開2006-240928(JP,A)
【文献】特開平07-149522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00-25/02
H01M 8/12- 8/126
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリア、カルシア、マグネシア及びセリアの群から選ばれる1以上の安定化剤を含み、該安定化剤の含有量が4mol%を超え12mol%以下であり、結晶相に占める単斜晶の割合が0.5%以下であり、平均粒子径が0.5μm未満であり、体積粒子径分布において1μm以下の粒子が占める割合が100%であることを特徴とするジルコニア粉末。
【請求項2】
体積粒子径分布における0.2μm以下の粒子の占める割合が10%以上90%以下である請求項1に記載のジルコニア粉末。
【請求項3】
体積粒子径分布において、0.3~0.5μmにピークトップを有する粒子径ピークを有する請求項1又は請求項2に記載のジルコニア粉末。
【請求項4】
BET比表面積が11m/g以上20m/g以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のジルコニア粉末。
【請求項5】
イオン半径がジルコニウムイオンより小さいカチオン、及び、価数が4価以外のカチオン、の少なくともいずれかを含む化合物である請求1乃至4のいずれか一項に記載のジルコニア粉末。
【請求項6】
前記化合物が、アルミニウム、珪素及びゲルマニウムの群から選ばれる1以上のカチオンを含む請求項5に記載のジルコニア粉末。
【請求項7】
前記化合物の含有量が、0質量%を超え1質量%以下である請求項5又は6に記載のジルコニア粉末。
【請求項8】
平均顆粒径が30μm以上80μm以下、軽装嵩密度が1.00g/cm以上1.40g/cm以下である請求項1乃至7のいずれか一項に記載のジルコニア粉末。
【請求項9】
以下の式で求められるジルコニウム元素量が2質量%以下であるジルコニアゾルと、イットリウム、カルシウム、マグネシウム及びセリウムの群から選ばれる1以上の化合物と、を混合する工程、及び、ジルコニアゾルを仮焼温度900℃以上1200℃以下で処理する工程、を有することを特徴とする請求項1乃至8記載のいずれか一項に記載のジルコニア粉末の製造方法。
Zr=(m/m)×100
上記式において、WZrは吸着ジルコニウム量(質量%)である。mはジルコニアゾルを純水に分散させたスラリーを、分画分子量が500以上300万以下である限外濾過膜を使用した限外濾過で得られる濾液中のジルコニウム量をジルコニア(ZrO)換算した質量(mg)である。mは、限外濾過前のジルコニアゾルを大気雰囲気下、1000℃、1時間で熱処理した後の質量(mg)である。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載のジルコニア粉末を使用することを特徴とするジルコニア焼結体の製造方法。
【請求項11】
前記ジルコニアゾルと、イットリウム、カルシウム、マグネシウム及びセリウムの群から選ばれる1以上の化合物と、を混合する工程の後に、ジルコニアゾルを乾燥する工程を有する、請求項9に記載のジルコニア粉末の製造方法。
【請求項12】
前記ジルコニアゾルを仮焼温度900℃以上1200℃以下で処理する工程の後に、ジルコニア粉末を粉砕する工程を有する、請求項9又は請求項11に記載のジルコニア粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ジルコニア粉末、特に固体電解質に適したジルコニア焼結体を与えるジルコニア粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニア系の固体電解質は、固体酸化物型燃料電池(SOFC)等に使用されている。例えば、特許文献1では、イットリア(Y)及びセリア(CeO)を含むジルコニア焼結体を粉砕した後、これにランタノイド酸化物及び、二酸化マンガンや酸化鉄を混合したものを1450℃で焼結させて得られた固体電解質が報告されている。また、特許文献2では、8mol%又は10mol%イットリア含有ジルコニアからなる固体電解質層と、燃料極及びバリア層を備えた成形体を1400℃で共焼結して得られた燃料極と一体化された固体電解質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2012/105580号
【文献】特許5770400号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2のジルコニア系の固体電解質は、いずれも、実用的な導電性を発現させるために1400℃以上の高い焼結温度を必要としていた。
【0005】
これに対し、本開示では、低温で焼結した場合であっても高い導電率を示すジルコニア焼結体を与えるジルコニア粉末及びその製造方法、並びに、当該ジルコニア粉末により得られるジルコニア焼結体、その製造方法及びこれを用いた固体電解質、の少なくとも1つを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の要旨は以下の通りである。
[1] イットリア、カルシア、マグネシア及びセリアの群から選ばれる1以上の安定化剤を含み、結晶相に占める単斜晶の割合が0.5%以下であり、平均粒子径が0.5μm未満であり、体積粒子径分布において1μm以下の粒子が占める割合が100%であることを特徴とするジルコニア粉末。
[2] 体積粒子径分布における0.2μm以下の粒子の占める割合が10%以上90%以下である上記[1]に記載のジルコニア粉末。
[3] 体積粒子径分布において、0.3~0.5μmにピークトップを有する粒子径ピークを有する上記[1]又は[2]に記載のジルコニア粉末。
[4] 安定化剤の含有量が4mol%を超え12mol%以下である[1]乃至[3]のいずれかひとつに記載のジルコニア粉末。
[5] イオン半径がジルコニウムイオンより小さいカチオン、及び、価数が4価以外のカチオン、の少なくともいずれかを含む化合物である上記[1]乃至{4}のいずれかひとつに記載のジルコニア粉末。
[6] 前記化合物が、アルミニウム、珪素及びゲルマニウムの群から選ばれる1以上のカチオンを含む上記[5]に記載のジルコニア粉末。
[7] 前記化合物の含有量が、0質量%を超え1質量%以下である上記[5]又は[6]に記載のジルコニア粉末。
[8] 平均顆粒径が30μm以上80μm以下、軽装嵩密度が1.00g/cm以上1.40g/cm以下ある上記[1]乃至[7]のいずれかひとつに記載のジルコニア粉末。
【0007】
[9] 以下の式で求められるジルコニウム元素量が2質量%以下であるジルコニアゾルと、イットリウム、カルシウム、マグネシウム及びセリウムの群から選ばれる1以上の化合物と、を混合する工程、及び、ジルコニアゾルを仮焼温度900℃以上1200℃以下で処理する工程、を有することを特徴とする上記[1]乃至[8]記載のいずれかひとつに記載のジルコニア粉末の製造方法。
Zr=(m/m)×100
上記式において、WZrは吸着ジルコニウム量(質量%)である。mはジルコニアゾルを純水に分散させたスラリーを、分画分子量が500以上300万以下である限外濾過膜を使用した限外濾過で得られる濾液中のジルコニウム量をジルコニア(ZrO)換算した質量(mg)である。mは、限外濾過前のジルコニアゾルを大気雰囲気下、1000℃、1時間で熱処理した後の質量(mg)である。
[10] 上記[1]乃至[8]のいずれかひとつに記載のジルコニア粉末を使用することを特徴とするジルコニア焼結体の製造方法。
[11] イットリア、カルシア、マグネシア及びセリアの群から選ばれる1以上の安定化剤を含み、600℃における導電率が5.0×10-3S/cm以上であることを特徴とするジルコニア焼結体。
[12] 上記[11]に記載のジルコニア焼結体を含む固体電解質。
【発明の効果】
【0008】
本開示によって、低温で焼結した場合であっても高い導電率を示すジルコニア焼結体を与えるジルコニア粉末及びその製造方法、並びに、当該ジルコニア粉末により得られるジルコニア焼結体、その製造方法及びこれを用いた固体電解質、の少なくとも1つを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示のジルコニア粉末について実施形態の一例を示して説明する。
【0010】
「平均粒子径」は、レーザー回折法による体積粒子径分布測定で得られる累積体積粒子径分布曲線の体積割合が50%に相当する粒子径(メジアン径)である。
【0011】
「結晶子径」とは、粉末X線回折(XRD)法で測定される回折線のブラッグ角(θ)と機械的広がり幅を補正した回折線の半値幅(β)をそれぞれ求めて、以下の式3により算出されたものの値をいう。
Dx = κλ/(β・cosθ)
上式において、κはシェーラー定数(κ=1)、λは測定波長、βは。ジルコニア微粉末の結晶子径は、強度の最も強い回折線により求める。
【0012】
「BET比表面積」とは、JIS R 1626-1996に準じ、吸着物質を窒素(N)としたBET法1点法により求められる値である。
【0013】
「安定化剤含有量」とは、ジルコニアと酸化物換算した安定化剤に対する、安定化剤のモル割合である。
【0014】
「結晶相に占める単斜晶の割合」(以下、「単斜晶相率」ともいう。)とは、ジルコニアの結晶相に占める、単斜晶の割合である。粉末については、粉末の粉末X線回折(以下、「XRD」ともいう。)パターンを使用し、一方、焼結体については、鏡面研磨後の焼結体の表面のXRDパターンを使用し、以下の式から求めることができる。
【0015】
={I(111)+I(11-1)}/[I(111)
+I(11-1)+I(111)+I(111)]×100
【0016】
上式において、fは単斜晶相率(%)、I(111)及びI(11-1)は、それぞれ、単斜晶の(111)面及び(11-1)面に相当するXRDピークの面積強度、I(111)は正方晶の(111)面に相当するXRDピークの面積強度、並びにI(111)は立方晶の(111)面に相当するXRDピークの面積強度である。
【0017】
XRDパターンの測定の条件として、以下の条件を挙げることができる。
線源 : CuKα線(λ=0.15418nm)
測定モード : 連続スキャン
スキャンスピード : 4°/分
ステップ幅 : 0.02°
測定範囲 : 2θ=26°~33°
【0018】
上述のXRDパターン測定において、好ましくは、ジルコニアの各結晶面に相当するXRDピークは、以下の2θにピークトップを有するピークとして測定される。
【0019】
単斜晶の(111)面に相当するXRDピーク : 2θ=31±0.5°
単斜晶の(11-1)面に相当するXRDピーク: 2θ=28±0.5°
正方晶及び立方晶の(111)面に相当するRDピークは重複して測定され、その2θは、2θ=30±0.5°である。
【0020】
各結晶面のXRDピークの面積強度は、計算プログラムに“PRO-FIT”を使用し、H. Toraya,J. Appl. Crystallogr.,19,440-447(1986)に記載の方法で、各XRDピークを分離した上で求めることができる。
【0021】
「イオン半径」は、Acta.Crystallogr.,A32,751-67(1976).(以下、「参考文献」ともいう。)に記載されている値である。
【0022】
「添加物含有量」とは、添加物/(ZrO+安定化剤+添加物)の比率を質量%として表した値をいう。ここで、添加物は酸化物に換算した値である。
【0023】
「平均ゾル粒径」とは、動的光散乱式粒子径分布測定により得られる累積体積粒子径分布曲線の体積割合が50%に相当するゾル径(メジアン径)である。
【0024】
「焼結体の実測密度」は、アルキメデス法を用いて測定できる。
【0025】
本実施形態のジルコニア粉末は、イットリア、カルシア、マグネシア及びセリアの群から選ばれる1以上の安定化剤を含む。該安定化剤は、イットリア及びセリアの少なくともいずれかであることが好ましい。固体電解質として適した特性を有するジルコニア焼結体が得られるため、安定化剤はイットリアであることがより好ましい。
【0026】
安定化剤の種類及び含有量は、目的とするジルコニア焼結体の特性に応じて適宜変更すればよい。例えば、安定化剤がイットリアである場合、イットリアの含有量が4mol%を超え12mol%以下であることが好ましく、6mol%以上10mol%以下であることがより好ましい。
【0027】
本実施形態のジルコニア粉末は、結晶相に占める単斜晶の割合(以下、「単斜晶相率」ともいう。)が0.5%以下であり、0%以上0.2%以下であることが好ましい。単斜晶相率がこの範囲を超えると、緻密化に必要とされる焼結温度が高くなり、また、緻密化が進行しても粗大な気孔が残留しやすい。単斜晶相率が0.5%以下であれば、他の結晶相は任意であり、正方晶及び立方晶、好ましくは立方晶であることが挙げられる。本実施形態のジルコニア粉末の結晶相は立方晶及び単斜晶からなることが好ましい。
【0028】
本実施形態のジルコニア粉末は、平均粒子径が0.5μm未満である。平均粒子径この範囲以外では、硬く粗大な凝集粒子が多くなり、ジルコニア粉末の成形性及び焼結性が低くなる。成形性及び焼結性が高くなる傾向があるため、平均粒子径は、好ましくは0.05μm以上0.4μm以下、より好ましくは0.05μm以上0.35μm以下、更に好ましくは0.1μm以上0.3μm以下である。
【0029】
同様な理由により、本実施形態のジルコニア粉末は、体積粒子径分布において1μm以下の粒子が占める割合(以下、「粒子比率」ともいう。)が100%であり、体積粒子径分布において1μmを超える粒子を含まない粉末である。そのため、本実施形態のジルコニア粉末は、ジルコニア微粉末とみなすこともできる。
【0030】
成形性が向上する傾向があるため、本実施形態のジルコニア粉末は、好ましくは体積粒子径分布における0.2μm以下の粒子の占める割合(以下、「微小粒子比率」ともいう。)が10%以上90%以下、より好ましくは20%以上80%以下、更に好ましくは30%以上70%以下である。
【0031】
より低温での焼結温度であっても緻密な焼結体が得られやすくなるため、本実施形態のジルコニア粉末は、体積粒子径分布において、0.3~0.5μmにピークトップを有する粒子径ピークを有することが好ましい。また、当該粒子径ピークの幅が0.05μm以上0.2μm以下であることが好ましい。
【0032】
粒子比率及び微粒子比率は、レーザー回折法による体積粒子径分布測定で得られる累積体積粒子径分布曲線において、累積値100%に対する各粒子径の粒子が占める割合であり、粒子径ピークは、レーザー回折法による体積粒子径分布測定で得られる粒子径分布におけるピークである。
【0033】
本実施形態のジルコニア粉末の他の物性は任意であるが、例えば、BET比表面積は、好ましくは11m/g以上20m/g以下、より好ましくは13m/g以上19m/g以下であること、平均結晶子径は26nm以上50nm以下、好ましくは30nm以上45nm以下、より好ましくは35nm以上40nm以下であること、が挙げられる。
【0034】
本実施形態のジルコニア粉末は、安定化剤を含み、残部がジルコニアであればよいが、緻密化速度の促進による焼結性の改善効果が得られるため、本実施形態のジルコニア粉末はイオン半径がジルコニウムイオンより小さいカチオン、及び、価数が4価以外のカチオン、の少なくともいずれかを含む化合物(以下、「添加剤」ともいう。)を含むことが好ましい。これにより、より低い焼結温度であっても密度の高いジルコニア焼結体が得られやすくなる。添加剤は、アルミニウム、ケイ素及びゲルマニウムの群から選ばれる1以上のカチオンを含む化合物であることが好ましく、アルミニウム及びゲルマニウムの少なくともいずれかのカチオンを含む化合物であることがより好ましく、アルミニウムカチオン及びゲルマニウムカチオンを含む化合物であることが更に好ましい。具体的な添加剤として、アルミナ(Al)、シリカ(SiO)及びゲルマニア(Ge)の群から選ばれる1以上、好ましくはアルミナ及びゲルマニアの少なくともいずれかが例示できる。本実施形態のジルコニア粉末は、イオン半径がジルコニウムイオン以上であり、なおかつ、価数が4のカチオンを含まないことが好ましい。
【0035】
なお、参考文献において、ジルコニウムカチオンはイオン半径が0.86Å及び価数が4、アルミニウムカチオンはイオン半径が0.68Å及び価数が3、ケイ素カチオンはイオン半径が0.54Å及び価数が4、及び、ゲルマニウムカチオンはイオン半径が0.67Å及び価数が4、である。
【0036】
添加物の含有量は、ジルコニア粉末の質量に対する酸化物換算した添加物の質量割合として0質量%以上1質量%以下であることが例示でき、添加物を含有する場合、0質量%を超え1質量%以下、更には0.05質量%以上0.8質量%以下が例示できる。
【0037】
本実施形態のジルコニア粉末は、緩慢凝集した粒子、いわゆる顆粒、であってもよい。本実施形態のジルコニア粉末が顆粒である場合、平均顆粒径は30μm以上80μm以下、及び係争嵩密度が1.10g/cm以上1.40g/cmであることが例示できる。
【0038】
本実施形態のジルコニア粉末は、固体電解質用ジルコニア焼結体を得るための、固体電解質用ジルコニア粉末として供することが好ましい。
【0039】
本実施形態のジルコニア粉末は、以下の式で求められるジルコニウム元素量が2質量%以下であるジルコニアゾルと、イットリウム、カルシウム、マグネシウム及びセリウムの群から選ばれる1以上の化合物と、を混合する工程、を有することを特徴とする製造方法、によって得ることができる。
Zr=(m/m)×100
【0040】
上記式において、WZrは吸着ジルコニウム量(質量%)である。mはジルコニアゾルを純水に分散させたスラリーを、分画分子量が500以上300万以下である限外濾過膜を使用した限外濾過で得られる濾液中のジルコニウム量をジルコニア(ZrO)換算した質量(mg)である。mは、限外濾過前のジルコニアゾルを大気雰囲気下、1000℃、1時間で熱処理した後の質量(mg)である。濾液中のジルコニウム量はICP分析で測定すればよい。
【0041】
ジルコニアゾルとイットリウム等の化合物を混合する工程(以下、「混合工程」ともいう。)に供するジルコニアゾルは、以下の式で求められるジルコニウム元素量(以下、「吸着ジルコニウム量」ともいう。)が2質量%以下であり、0質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0質量%以上0.5質量%以下であることがより好ましく、0質量%以上0.01質量%以下であることが更に好ましい。
Zr=(m/m)×100
【0042】
上記式において、WZrは吸着ジルコニウム量(質量%)である。mはジルコニアゾルを純水に分散させたスラリーを、分画分子量が500以上300万以下である限外濾過膜を使用した限外濾過することで得られる濾液中のジルコニウム量をジルコニア(ZrO)換算した質量(mg)である。濾液中のジルコニウム量はICP分析で測定すればよい。mは、限外濾過前のジルコニアゾルを大気雰囲気下、1000℃、1時間で熱処理した後の質量(mg)である。m及びmの測定は、それぞれ、限外濾過前のジルコニアゾルを同量用意して行えばよい。
【0043】
吸着ジルコニウム量が2質量%を超えると、仮焼時に粉末粒子同士が強固に焼結し、硬い凝集粒子を含む粗粒が多くなる。その結果、成形性及び焼結性のいずれもが低くなる。
【0044】
成形性が高くなるため、ジルコニアゾルは平均ゾル粒径が0.05μm以上0.2μm以下であることが好ましい。
【0045】
ジルコニアゾルは、上述の特徴を有していればよく、その製造方法は任意である。ジルコニアゾルの製造方法として水熱合成法及び加水分解法の少なくともいずれかが例示できる。水熱合成法では、溶媒存在下でジルコニウム塩とアルカリ等とを混合して得られる共沈物を100~200℃で熱処理することでジルコニアゾルが得られる。また、加水分解法では、溶媒存在下でジルコニウム塩を加熱することで該ジルコニウム塩が加水分解してジルコニアゾルが得られる。このように、ジルコニアゾルは水熱合成法又は加水分解法で得られるジルコニアゾルであることが例示でき、加水分解法で得られるジルコニアゾルであることが好ましい。
【0046】
なお、加水分解でジルコニアゾルを得る場合、反応終了時のpHを制御することが好ましい。これにより、ジルコニアゾルの平均ゾル粒径が制御しやすくなる。例えば、平均ゾル粒径0.05~0.2μmの水和ジルコニアゾルを得るため、反応終了時のpHを酸性及び塩基性の少なくともいずれかとすることが好ましく、具体的に0.3以上0.6以下及び0.8以上1.4以下の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0047】
ジルコニアゾルの製造に使用するジルコニウム塩は、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニル、塩化ジルコニウム及び硫酸ジルコニウムの群から選ばれる1以上が挙げられ、塩化ジルコニウム及びオキシ塩化ジルコニウムの少なくともいずれかが好ましく、オキシ塩化ジルコニウムがより好ましい。別の実施形態として、ジルコニム塩は、水酸化ジルコニウムと酸との混合物であることが挙げられる。酸は、無機酸及び有機酸の少なくともいずれかがであり、酢酸、クエン酸、塩酸、硝酸及び硫酸の群から選ばれる1以上が好ましく、塩酸、硝酸及び硫酸の群から選ばれる1以上がより好ましい。
【0048】
ジルコニアゾルの製造に使用するアルカリは、アンモニア、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの群から選ばれる1以上が例示できる。別の実施形態として、アルカリは、分解して塩基性を示す化合物、例えば尿素、である。
【0049】
本実施形態の製造方法に供するイットリウム、カルシウム、マグネシウム及びセリウムの群から選ばれる1以上の化合物(以下、「安定化剤源」ともいう。)は、イットリウム、カルシウム、マグネシウム及びセリウムの群から選ばれる1以上を含む、塩化物、フッ化物、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、酸化物及び水酸化物の群から選ばれる1以上が例示でき、塩化物、フッ化物、酸化物及び水酸化物の群から選ばれる1以上が好ましく、塩化物及び酸化物の少なくともいずれかであることがより好ましい。
【0050】
ジルコニアゾルと安定化剤源とは、両者が均一になるように混合すればよい。混合方法は任意であるが、例えば、ジルコニアゾル水溶液に安定化剤源を添加する方法が挙げられる。
【0051】
ジルコニアゾルと混合する安定化剤源の濃度は、ジルコニアゾル中のジルコニアに対する酸化物換算した安定化剤源が、目的とするジルコニア粉末の安定化剤含有量となるようにすればよい。例えば、安定化剤源がイットリア源である場合、4mol%を超え12mol%以下、好ましくは6mol%以上10mol%以下が挙げられる。
【0052】
本実施形態の製造方法は、安定化剤源と混合後のジルコニアゾルを乾燥する工程(以下、「乾燥工程」ともいう。)を有することが好ましい。乾燥方法は、溶媒、ジルコニアゾルの水和水や吸着水を除去できる方法であればよく、例えば、大気中、120~200℃で処理することが挙げられる。
【0053】
本実施形態の製造方法は、ジルコニアゾルを仮焼温度900℃以上1200℃以下で処理する工程(以下、「仮焼工程」ともいう。)を有するこれにより、本実施形態のジルコニア粉末が得られる。仮焼温度がこの範囲内であると、ジルコニア粉末粒子同士の凝集が強くならなない、又は、強固に凝集した粗大粒子が生成しにくくなる。これにより、粉砕等により本実施形態のジルコニア粉末の平均粒子径等を制御しやすくなる。好ましい仮焼条件として、900℃以上1100℃以下が挙げられる。
【0054】
添加物を含むジルコニア粉末を製造する場合、混合工程及び仮焼工程の少なくともいずれかで、ジルコニアゾルに添加物を混合すればよい。ジルコニアゾルと混合する添加物は任意であるが、アルミナ、水和アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、シリカ、シリカゾル、ケイ酸、酸化ゲルマニウム及び水酸化ゲルマニウムの群から選ばれる1以上が例示でき、アルミナ、水和アルミナ、アルミナゾル、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、酸化ゲルマニウム及び水酸化ゲルマニウムの群から選ばれる1以上であることが好ましく、アルミナ、水和アルミナ、アルミナゾル、酸化ゲルマニウム及び水酸化ゲルマニウムの群から選ばれる1以上であることがより好ましく、アルミナ及び酸化ゲルマニウムの少なくともいずれかであることが更に好ましい。
【0055】
本実施形態のジルコニア粉末の平均粒子径及び粒子径比とするため、ジルコニア粉末を粉砕する工程(以下、「粉砕工程」ともいう。)を含んでいてもよい。粉砕方法は、乾式粉砕又は湿式粉砕のいずれであってもよく、湿式粉砕であることが好ましい。特に好ましい粉砕方法として、粉砕媒体としてジルコニアボール、好ましくは直径3mm以下のジルコニアボール、より好ましくは直径2mm以下のジルコニアボール、を使用した湿式粉砕、が挙げられる。具体的な湿式粉砕として、振動ミル、連続式媒体撹拌ミル及びボールミルの群から選ばれる1以上を使用した粉砕を上げることができる。
【0056】
本実施形態の製造方法は、ジルコニア粉末を顆粒とする場合、公知の方法でこれを顆粒化することができる。顆粒化方法として、噴霧造粒による顆粒化が例示できる。
【0057】
本実施形態のジルコニア粉末は、これを使用する焼結体の製造方法に供することができる。本実施形態のジルコニア粉末を使用する焼結体の製造方法は任意であり、例えば、本実施形態のジルコニア粉末を成形し、得られた成形体を焼結する方法や、本実施形態のジルコニア粉末を成形し、得られた成形体を仮焼し、得られた仮焼体を焼結する方法、などが挙げられる。
【0058】
成形方法は任意であるが、金型プレス成形、シート成形、ドクターブレード法、カレンダーロール法、射出成形及び冷間静水圧プレス(CIP)の群から選ばれる1以上が例示できる。具体的な成形方法として、例えば、20MPa以上100MPa以下、好ましくは30MPa以上80MPa以下の金型プレス成形、及び、30MPa以上250MPa以下、好ましくは50MPa以上200MPa以下のCIP法、の少なくともいずれかが挙げられる。成形に供するジルコニア粉末は、ジルコニア粉末、又は、ジルコニア粉末を含む組成物であればよい。
【0059】
焼結方法は、常圧焼結、加圧焼結及び真空焼結の群から選ばれる1以上が例示でき、常圧焼結及び加圧焼結の少なくともいずれかが好ましい。簡便であるため、常圧焼結が好ましく、特に大気雰囲気下の常圧焼結であることが好ましい。常圧焼結の条件としては、焼結温度として1200℃以上1600℃以下、更には1250℃以上1500℃以下、焼結時間として1時間以上24時間以下、好ましくは2時間以上20時間以下、が挙げられる。しかしながら、本実施形態のジルコニア粉末は、従来より低い焼結温度であっても、高い伝導利を有するジルコニア焼結体が得られるため、焼結温度は1200℃以上1400℃未満がより好ましく、1200℃以上1325℃以下が特に好ましい。
【0060】
本実施形態のジルコニア粉末から得られるジルコニア焼結体(以下、「本実施形態のジルコニア焼結体」ともいう。)は、イットリア、カルシア、マグネシア及びセリアの群から選ばれる1以上の安定化剤を含む。該安定化剤は、イットリア及びセリアの少なくともいずれかであることが好ましく、イットリアであることがより好ましい。
【0061】
安定化剤の種類及び含有量は、目的とするジルコニア焼結体の特性に応じて適宜変更すればよい。例えば、安定化剤がイットリアである場合、イットリアの含有量が4mol%を超え12mol%以下であることが好ましく、6mol%以上10mol%以下であることがより好ましい。
【0062】
本実施形態のジルコニア焼結体は、安定化剤を含み、残部がジルコニアであればよいが、アルミナ(Al)、シリカ(SiO)及びゲルマニア(Ge)の群から選ばれる1以上、好ましくはアルミナ及びゲルマニアの少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【0063】
本実施形態のジルコニア焼結体は、結晶相に少なくとも立方晶を含み、立方晶を主相とすることが好ましく、立方晶のみであることがより好ましい。これにより、導電性が高くなる傾向がある。本実施形態のジルコニア焼結体において、「立方晶を主相とする」とは、ジルコニアの結晶相に占める立方晶の割合が最も多いことである。
【0064】
本実施形態のジルコニア焼結体は、実測密度が5.76g/cm以上であることが挙げられ、好ましくは5.82g/cm以上、より好ましくは5.94g/cm以上である。
【0065】
実測密度の上限値は理論密度になるが、本実施形態のジルコニア焼結体が常圧焼結で得られる焼結体(常圧焼結体)である場合、実測密度は6.02g/cm以下、更には6.01g/cm以下であることが挙げられる。
【0066】
本実施形態のジルコニア焼結体は、JIS R 1601に準じた方法で測定される三点曲げ強度が350MPa以上であることが挙げられ、380MPa以上であることが好ましく、400MPa以上であることがより好ましい。本実施形態のジルコニア焼結体が常圧焼結で得られる焼結体(常圧焼結体)である場合、三点曲げ強度は600MPa以下、更には500MPa以下であることが挙げられる。
【0067】
本実施形態のジルコニア焼結体は、固体電解質として適した導電率、特に800℃未満で作動する低温型の固体電解質として適した導電率を有することが好ましい。具体的な導電率として、600℃における導電率が5.0×10-3S/cm以上であることが挙げられ、6.5×10-3S/cm以上であることが好ましい。本実施形態のジルコニア焼結体が常圧焼結で得られる焼結体(常圧焼結体)である場合、導電率は1.0×10-2S/cm以下あることが挙げられる。
【0068】
本実施形態のジルコニア焼結体は、高い導電率を示すため、固体電解質、更には固体酸化物型燃料電池(SOFC)用固体電解質、として供することができる。
【0069】
本実施形態のジルコニア焼結体を備えたSOFCは、燃料極、空気極及び本実施形態のジルコニア焼結体を備えたSOFCであればよい。
【0070】
燃料極は、公知の材料からなる燃料極であればよく、例えば、ニッケル60質量%-ジルコニア40質量%で構成されるNi-ジルコニアサーメット材料が例示できる。
【0071】
空気極は、公知の材料からなる空気極であればよく、例えば、ランタンストロンチウムマンガネイト(La(Sr)MnO)が例示できる。
【0072】
本実施形態のジルコニア焼結体を備えたSOFCの製造方法は任意である。例えば、本実施形態のジルコニア焼結体の一方の面に燃料極及びその前駆体化合物の少なくともいずれかを塗布し、他方の面に空気極及びその前駆体化合物の少なくともいずれかを塗布した後、これを一体として焼結する方法が挙げられる。さらに、本実施形態のジルコニア粉末は、燃料極及び空気極と同程度の焼結温度であっても、高い導電率を示すジルコニア焼結体を与える。そのため、燃料極及びその前駆体化合物の少なくともいずれか、本実施形態のジルコニア粉末、並びに、空気極及びその前駆体化合物の少なくともいずれか、を積層させ、これを一体として成形及び焼結する方法、により、一度の焼結により燃料極、固体電解質及び空気極が一体となったSOFCを得ることができる。
【実施例
【0073】
以下、実施例により本実施形態を具体的に説明する。しかしながら、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
(平均ゾル粒径)
ジルコニアゾルの平均ゾル粒径は、動的光散乱式粒子径分布測定装置(装置名:UPA-UT151、マイクロトラック・ベル社製)を用いて測定した。試料の前処理として、水和ジルコニアゾル含有溶液を純水に懸濁させ、超音波ホモジナイザーを用いて3分間分散させた。
(吸着ジルコニウム量)
加水分解後のジルコニアゾルを含有するスラリーを一部回収し、その半分について、分画分子量が500~300万である限外濾過膜を使用した限外濾過することで濾液中を得た。残った半分のスラリーは大気雰囲気下、1000℃、1時間で熱処理した後の質量(mg)である。ICP分析で、それぞれのジルコニウム量を測定してm及びmを求め、以下の式から吸着ジルコニウム量を求めた。
Zr=(m/m)×100
【0074】
(粒子径分布測定)
マイクロトラック粒度分布計(商品名:MT3000II、マイクロトラック・ベル社製)のHRAモードにより、粉末試料の体積粒子径分布曲線及び累積体積粒子径分布曲線を得、付属の解析ソフトによって、平均粒子径、粒子比率、微粒子比率、粒子径ピーク及び粒子径ピークの幅を測定した。測定に先立ち、粉末試料を純水に懸濁させ、超音波ホモジナイザーを用いて10分間分散させ、前処理とした。
(単斜晶相率)
一般的なX線回折装置(商品名:UltimaIIV、リガク社製)を使用し、粉末試料のXRDパターンを得た。XRD測定の条件は以下のとおりである。
線源 : CuKα線(λ=0.15418nm)
測定モード : 連続スキャン
スキャンスピード : 4°/分
ステップ幅 : 0.02°
測定範囲 : 2θ=26°~33°
得られたXRDパターン及び計算プログラムとして“PRO-FIT”を使用し、上述の式により、単斜晶相率を求めた。
【0075】
(BET比表面積)
一般的な流動式比表面積自動測定装置(装置名:フローソーブIII2305、島津製作所社製)、及び吸着ガスとして窒素を使用し、粉末試料のBET比表面積を測定した。測定に先立ち、粉末試料は大気中、250℃で30分間の脱気処理を施し、前処理とした。
(平均顆粒径)
ジルコニア顆粒の平均粒径は、ふるい分け試験方法によって求めた。
(成形体密度)
成形体試料の質量を天秤で測定し、また、体積をノギスで測定して寸法から求めた。得られた質量及び体積から実測密度を求めた。
(焼結体密度)
焼結体試料の実測密度をアルキメデス法により測定した。測定に先立ち、乾燥後の焼結体の質量を測定した後,焼結体を水中に配置し、これを1時間煮沸し、前処理とした。
(三点曲げ強度)
焼結体試料の曲げ強度は、JIS R1601に準じた三点曲げ試験で測定した。の測定は、支点間距離30mmで、幅4mm、厚さ3mmの柱形状の焼結体試料を使用して行い、10回測定した平均値をもって曲げ強度とした。
(導電率)
導電率は測定装置に周波数応答アナライザー(装置名:1260、Solartron社製)、及び、ポテンショスタット(装置名:1286A、Solartron社製)を使用した交流インピーダンス法により測定した。測定条件を以下に示す。
測定試料 :縦4mm×横3mm、長さ35mmの直方体状焼結体
測定雰囲気 :大気雰囲気
測定温度 :600℃
測定方法 :四端子法
電極端子 :Pt線(直径0.2mm)
電圧端子間距離 :15mm
測定周波数 :1MHz~0.1Hz
印可電流 :1mA
【0076】
実施例1
2mol/Lのオキシ塩化ジルコニウム水溶液に、2mol/Lのアンモニア水、及び、純水を添加及び混合し、ジルコニア換算濃度0.8mol/Lのオキシ塩化ジルコニウム水溶液を得た。得られた水溶液を攪拌しながら200時間、煮沸温度で加水分解し、ジルコニアゾルを得た。得られたジルコニアゾルは吸着ジルコニウム量が0.5質量%で、平均ゾル粒径が0.1μmであった。
【0077】
イットリア濃度が8mol%となるように塩化イットリウムをジルコニアゾルに添加及び混合し、大気中、160℃で乾燥させた後、大気中、980℃、2時間で仮焼してジルコニア粉末を得た。
【0078】
得られたジルコニア粉末を十分量の純水で洗浄した後、スラリーとし、粉砕媒体として直径2mmのジルコニアボールを備えた振動ミルで24時間粉砕した。粉砕後、大気中、130℃で乾燥し、本実施例のジルコニア粉末とした。
【0079】
本実施形態のジルコニア粉末を圧力70MPaで金型プレス成形した後、大気中、1300℃で2時間常圧焼結して、本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0080】
実施例2
純水での洗浄後、アルミナ含有量が0.25質量%になるようアルミナゾルをジルコニア粉末に添加したこと以外は、実施例1と同様な条件で本実施例のジルコニア粉末を得た。
【0081】
焼結温度を1250℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0082】
実施例3
純水での洗浄後、アルミナ含有量が0.25質量%になるようアルミナゾルとゲルマニア含有量が0.25質量%になるようジルコニア粉末に添加したこと以外は、実施例1と同様な条件で本実施例のジルコニア粉末を得た。
【0083】
焼結温度を1200℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0084】
実施例4
実施例1と同様な方法でジルコニア粉末と純水を混合してスラリーとしたのち、これを噴霧造粒して顆粒粉末とした。ジルコニア顆粒の平均顆粒径は55μm、軽装嵩密度が1.29g/cmであった。
【0085】
得られたジルコニア顆粒を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0086】
実施例5
イットリア濃度が10mol%となるように塩化イットリウムをジルコニアゾルに添加したこと、純水での洗浄後、アルミナ含有量が0.25質量%になるようアルミナゾルをジルコニア粉末に添加したこと、及び、大気中、970℃、2時間で仮焼したこと以外は実施例1と同様亜方法で本実施例のジルコニア粉末を得た。
【0087】
得られたジルコニア粉末を使用したこと、及び、焼結温度を1250℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例のジルコニア焼結体を得た。
【0088】
比較例1
0.37mol/Lのオキシ塩化ジルコニウム水溶液を攪拌しながら160時間、煮沸温度で加水分解し、ジルコニアゾルを得た。得られたジルコニアゾルは吸着ジルコニウム量が12質量%で、平均ゾル粒径が0.1μmであった。
【0089】
イットリア濃度が8mol%となるように塩化イットリウムをジルコニアゾルに添加及び混合し、大気中、160℃で乾燥させた後、大気中、1030℃、2時間で仮焼してジルコニア粉末を得た。
【0090】
得られたジルコニア粉末を十分量の純水で洗浄した後、スラリーとし、粉砕媒体として直径10mmのジルコニアボールを備えた振動ミルで30時間粉砕した。粉砕後、大気中、130℃で乾燥し、本比較例のジルコニア粉末とした。
【0091】
本比較例のジルコニア粉末を圧力70MPaで金型プレス成形した後、大気中、1300℃で2時間常圧焼結して、本比較例のジルコニア焼結体を得た。
【0092】
比較例2
イットリア濃度が4mol%となるように塩化イットリウムをジルコニアゾルに添加したこと以外は、実施例1と同様な方法で本比較例のジルコニア粉末を得た。
【0093】
焼結温度を1350℃としたこと以外は実施例1と同様な方法でジルコニア焼結体を得た。
【0094】
比較例3
実施例1と同様な方法でジルコニアゾルを得た。得られたジルコニアゾルを十分量の水で洗浄し、得られたジルコニアゾルは吸着ジルコニウム量が0.5質量%で、平均ゾル粒径が0.1μmであった。
【0095】
イットリア濃度が8mol%となるように塩化イットリウムをジルコニアゾルに添加及び混合し、大気中、160℃で乾燥させた後、大気中、990℃、2時間で仮焼してジルコニア粉末を得た。
【0096】
得られたジルコニア粉末を十分量の純水で洗浄した後、スラリーとし、粉砕媒体として直径10mmのジルコニアボールを備えた振動ミルで24時間粉砕した。粉砕後、大気中、130℃で乾燥し、本比較例のジルコニア粉末とした。
【0097】
焼結温度を1350℃としたこと以外は実施例1と同様な方法でジルコニア焼結体を得た。
【0098】
実施例及び比較例で得られたジルコニア粉末の評価結果を下表に示す。実施例のジルコニア粉末は、いずれも体積粒子径分布において、0.3~0.5μmにピークトップを有する粒子径ピークを有し、該粒子径ピークの幅が0.1μmであった。また、比較例1は平均粒子径が0.5μmを超え、なおかつ、粒子比率が80%以下であること、比較例2及び3は、単斜晶相率が1%以上であることが確認できる。
【0099】
【表1】
【0100】
実施例及び比較例で得られたジルコニア焼結体の評価結果を下表に示す。実施例及び比較例1のジルコニア焼結体は、いずれも焼結温度が1300℃以下と低温の焼結によって得られた焼結体であるにもかかわらず、比較例1のジルコニア焼結体は、600℃における導電率が5.0×10-3S/cm未満であるのに対し、実施例のジルコニア焼結体は、導電率が8.0×10-3S/cm以上と、高い電気伝導性を有することが確認できる。
【0101】
さらに、比較例2及び3のジルコニア焼結体は1350℃と比較的高温の焼結であるにも関わらず、導電率が5.0×10-3S/cm以下と、電気伝導性が低いことが確認できる。
【0102】
なお、比較例1の成形体の実測密度は2.55g/cmであったのに対し、組成が等しい実施例1及び5の成形体の実測密度はいずれも2.76g/cmであり、これらのジルコニア粉末は高い成形性を示すことが確認できる。
【0103】
【表2】