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特許7508805共重合体の製造方法およびポジ型レジスト組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】共重合体の製造方法およびポジ型レジスト組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 222/32 20060101AFI20240625BHJP
   G03F 7/039 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C08F222/32
G03F7/039
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020031760
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021134283
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】葉 信甫
(72)【発明者】
【氏名】星野 学
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-154754(JP,A)
【文献】特開昭53-021287(JP,A)
【文献】特開昭58-108213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 222/32
G03F 7/039
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表されるモノマー(a)と、下記式(II)で表されるモノマー(b)とを含み、重合開始剤を含まないモノマー組成物を10℃以上50℃以下の重合温度で共重合する工程を含む、共重合体の製造方法。
【化1】
〔式(I)中、Xは、ハロゲン原子、シアノ基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基、ニトロ基、アシル基、アルキルエステル基またはハロゲン化アルキル基であり、Lは、フッ素原子の含有数が3以上10以下の2価の連結基であり、Arは、置換基を有していてもよい芳香環基であり、式(I)中に含まれるフッ素原子の合計数は3以上10以下である。
式(II)中、Rは、アルキル基であり、Rは、アルキル基、ハロゲン原子またはハロゲン化アルキル基であり、pは、0以上5以下の整数であり、Rが複数存在する場合、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。〕
【請求項2】
前記重合温度が30℃以上40℃以下である、請求項1に記載の共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記式(I)中、Xは、塩素原子であり、Arは、フェニル基であり、
前記式(II)中、Rは、メチル基であり、pは、0である、請求項1または2に記載の共重合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の共重合体の製造方法を用いて共重合体を製造する工程と、
前記共重合体と、溶剤とを混合してポジ型レジスト組成物を調製する工程と、
を含む、ポジ型レジスト組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体およびポジ型レジスト組成物の製造方法に関し、特には、ポジ型レジストとして好適に使用し得る共重合体の製造方法、および、当該共重合体を含むポジ型レジスト組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造等の分野において、電子線などの電離放射線や紫外線などの短波長の光(以下、電離放射線と短波長の光とを合わせて「電離放射線等」と称することがある。)の照射により主鎖が切断されて現像液に対する溶解性が増大する重合体が、主鎖切断型のポジ型レジストとして使用されている。
【0003】
具体的には、例えば特許文献1には、電離放射線等に対する感度および耐熱性に優れる主鎖切断型のポジ型レジストとして、α-クロロアクリル酸-1-フェニル-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル単位と、α-メチルスチレン単位とを含有する共重合体よりなるポジ型レジストが開示されている。
【0004】
そして、特許文献1では、α-クロロアクリル酸-1-フェニル-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチルと、α-メチルスチレンと、重合開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリルと、溶媒としてのシクロペンタノンとを含む単量体組成物を温度78℃で6時間反応させて上記共重合体を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-154754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、電離放射線等が照射された部分と未照射部分との現像液に対する溶解度の差を大きくし、得られるレジストパターンの明瞭性を高める観点から、主鎖切断型のポジ型レジストとして用いられる共重合体としては、高分子量の共重合体が求められている。また、共重合体の製造においては、短時間かつ高いモノマー転化率で効率的に共重合体を製造することも求められている。
【0007】
しかし、α-クロロアクリル酸-1-フェニル-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル等のフッ素原子を含有するモノマーを用いて共重合体を製造する場合には、フッ素原子同士の反発によってポリマー鎖間で副反応や架橋反応が起こり難く、高分子量体を効率的に製造することが困難であった。
【0008】
そこで、本発明は、フッ素原子を含有するモノマーを使用し、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体を効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、明瞭性の優れるレジストパターンの形成が可能なポジ型レジスト組成物を効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、所定のモノマーを所定の重合温度で共重合させれば、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体を効率的に製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の共重合体の製造方法は、下記式(I):
【化1】
〔式(I)中、Xは、ハロゲン原子、シアノ基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基、ニトロ基、アシル基、アルキルエステル基またはハロゲン化アルキル基であり、Lは、単結合または2価の連結基であり、Arは、置換基を有していてもよい芳香環基であり、式(I)中に含まれるフッ素原子の合計数は3以上10以下である。〕
で表されるモノマー(a)と、下記式(II):
【化2】
〔式(II)中、R1は、アルキル基であり、R2は、アルキル基、ハロゲン原子またはハロゲン化アルキル基であり、pは、0以上5以下の整数であり、R2が複数存在する場合、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。〕
で表されるモノマー(b)とを含むモノマー組成物を10℃以上50℃以下の重合温度で共重合する工程を含むことを特徴とする。このように、所定のモノマーを10℃以上50℃以下の重合温度で共重合させれば、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体を短時間かつ高いモノマー転化率で製造することができる。
【0011】
ここで、本発明の共重合体の製造方法は、前記モノマー組成物中の重合開始剤の量が0.002当量以下であることが好ましく、前記モノマー組成物が重合開始剤を含まないことがより好ましい。重合開始剤の量が0.002当量以下、特にはゼロであれば、得られる共重合体の分子量を更に高めることができる。
なお、本発明において、重合開始剤の「当量」とは、モノマー(a)の量に対するモル当量を指す。
【0012】
また、本発明の共重合体の製造方法は、前記重合温度が30℃以上40℃以下であることが好ましい。重合温度が30℃以上40℃以下であれば、共重合体の高分子量化と、共重合体の効率的な製造とを高いレベルで両立させることができる。
【0013】
そして、本発明の共重合体の製造方法において、前記式(I)中、Xは、塩素原子であり、Lは、フッ素原子の含有数が3以上10以下の2価の連結基であり、Arは、フェニル基であり、前記式(II)中、R1は、メチル基であり、pは、0であることが好ましい。このようなモノマーを使用すれば、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体をより効率的に製造し易い。
【0014】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のポジ型レジスト組成物の製造方法は、上述した共重合体の製造方法の何れかを用いて共重合体を製造する工程と、前記共重合体と、溶剤とを混合してポジ型レジスト組成物を調製する工程とを含むことを特徴とする。このように、上述した共重合体の製造方法を用いれば、明瞭性の優れるレジストパターンの形成が可能なポジ型レジスト組成物を効率的に製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の共重合体の製造方法によれば、フッ素原子を含有するモノマーを使用し、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体を効率的に製造することができる。
また、本発明のポジ型レジスト組成物の製造方法によれば、明瞭性の優れるレジストパターンの形成が可能なポジ型レジスト組成物を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
なお、本発明において、「置換基を有していてもよい」とは、「無置換の、または、置換基を有する」を意味する。
【0017】
ここで、本発明の共重合体の製造方法に従い製造される共重合体は、電子線などの電離放射線や紫外線などの短波長の光の照射により主鎖が切断されて低分子量化する、主鎖切断型のポジ型レジストとして良好に使用することができる。また、本発明のポジ型レジスト組成物の製造方法に従い製造されるポジ型レジスト組成物は、本発明の製造方法に従い製造された共重合体をポジ型レジストとして含むものである。そして、ポジ型レジスト組成物は、特に限定されることなく、例えば、半導体、フォトマスク、モールドなどの製造プロセスにおいてレジストパターンを形成する際に用いることができる。
【0018】
(共重合体の製造方法)
本発明の共重合体の製造方法は、下記式(I)で表されるモノマー(a)と、下記式(II)で表されるモノマー(b)とを含むモノマー組成物を10℃以上50℃以下の重合温度で共重合する工程(共重合工程)を含み、任意に、得られた共重合体を回収する工程(回収工程)を更に含み得る。また、本発明の共重合体の製造方法は、回収した共重合体を精製する工程(精製工程)を更に含んでいてもよい。
【化3】
〔式(I)中、Xは、ハロゲン原子、シアノ基、アルキルスルホニル基、アルコキシ基、ニトロ基、アシル基、アルキルエステル基またはハロゲン化アルキル基であり、Lは、単結合または2価の連結基であり、Arは、置換基を有していてもよい芳香環基であり、式(I)中に含まれるフッ素原子の合計数は3以上10以下である。
式(II)中、R1は、アルキル基であり、R2は、アルキル基、ハロゲン原子またはハロゲン化アルキル基であり、pは、0以上5以下の整数であり、R2が複数存在する場合、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。〕
【0019】
<共重合工程>
共重合工程では、所定のモノマーを含むモノマー組成物を所定の重合温度で共重合し、共重合体を合成する。そして、共重合工程では、所定のモノマーを含むモノマー組成物を所定の重合温度で共重合しているので、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体を効率的に製造することができる。
【0020】
[モノマー組成物]
ここで、モノマー組成物は、モノマー(a)およびモノマー(b)を含み、任意に、その他のモノマー、溶媒および重合開始剤からなる群より選択される少なくとも一種を更に含み得る。
【0021】
〔モノマー(a)〕
モノマー(a)は、上記式(I)で表される構造を有する化合物である。そして、モノマー組成物に含まれている全モノマー中のモノマー(a)の割合は、特に限定されることなく、例えば30mol%以上70mol%以下とすることができる。
【0022】
ここで、式(I)中のXを構成し得るハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子またはアスタチン原子などが挙げられる。また、式(I)中のXを構成し得るアルキルスルホニル基としては、例えば、メチルスルホニル基またはエチルスルホニル基などが挙げられる。更に、式(I)中のXを構成し得るアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基またはプロポキシ基などが挙げられる。また、式(I)中のXを構成し得るアシル基としては、ホルミル基、アセチル基またはプロピオニル基などが挙げられる。更に、式(I)中のXを構成し得るアルキルエステル基としては、メチルエステル基またはエチルエステル基などが挙げられる。そして、式(I)中のXを構成し得るハロゲン化アルキル基としては、例えば、ハロゲン原子の数が1個以上3個以下のハロゲン化メチル基などが挙げられる。
中でも、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体をより効率的に製造する観点からは、Xは、ハロゲン原子であることが好ましく、塩素原子であることがより好ましい。
【0023】
式(I)中のLを構成し得る、2価の連結基としては、特に限定されることなく、例えば、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアルケニレン基などが挙げられる。
【0024】
そして、置換基を有していてもよいアルキレン基のアルキレン基としては、特に限定されることなく、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基などの鎖状アルキレン基、および、1,4-シクロヘキシレン基などの環状アルキレン基が挙げられる。中でも、アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基などの炭素数1~6の鎖状アルキレン基が好ましく、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、n-ブチレン基などの炭素数1~6の直鎖状アルキレン基がより好ましく、メチレン基、エチレン基、プロピレン基などの炭素数1~3の直鎖状アルキレン基が更に好ましい。
【0025】
また、置換基を有していてもよいアルケニレン基のアルケニレン基としては、特に限定されることなく、例えば、エテニレン基、2-プロペニレン基、2-ブテニレン基、3-ブテニレン基などの鎖状アルケニレン基、および、シクロヘキセニレン基などの環状アルケニレン基が挙げられる。中でも、アルケニレン基としては、エテニレン基、2-プロペニレン基、2-ブテニレン基、3-ブテニレン基などの炭素数2~6の直鎖状アルケニレン基が好ましい。
【0026】
上述した中でも、得られる共重合体の電離放射線等に対する感度を十分に向上させる観点からは、2価の連結基としては、置換基を有していてもよいアルキレン基が好ましく、置換基を有していてもよい炭素数1~6の鎖状アルキレン基がより好ましく、置換基を有していてもよい炭素数1~6の直鎖状アルキレン基が更に好ましく、置換基を有していてもよい炭素数1~3の直鎖状アルキレン基が特に好ましい。
【0027】
また、得られる共重合体の電離放射線等に対する感度を更に向上させる観点からは、式(I)中のLを構成し得る2価の連結基は、電子吸引性基を1つ以上有することが好ましい。中でも、2価の連結基が置換基として電子吸引性基を有するアルキレン基または置換基として電子吸引性基を有するアルケニレン基である場合、電子吸引性基は、式(I)中のカルボニル炭素に隣接するOと結合する炭素に結合していることが好ましい。
【0028】
なお、電離放射線等に対する感度を十分に向上させ得る電子吸引性基としては、特に限定されることなく、例えば、フッ素原子、フルオロアルキル基、シアノ基およびニトロ基からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。また、フルオロアルキル基としては、特に限定されることなく、例えば、炭素数1~5のフルオロアルキル基が挙げられる。中でも、フルオロアルキル基としては、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。
【0029】
そして、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体をより効率的に製造する観点からは、式(I)中のLとしては、フッ素原子の含有数が3以上10以下の2価の連結基が好ましく、フッ素原子の含有数が3以上6以下の2価の連結基がより好ましく、トリフルオロメチルメチレン基、ペンタフルオロエチルメチレン基またはビス(トリフルオロメチル)メチレン基が更に好ましい。
【0030】
また、式(I)中のArとしては、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基および置換基を有していてもよい芳香族複素環基が挙げられる。
【0031】
そして、芳香族炭化水素環基としては、特に限定されることなく、例えば、ベンゼン環基、ビフェニル環基、ナフタレン環基、アズレン環基、アントラセン環基、フェナントレン環基、ピレン環基、クリセン環基、ナフタセン環基、トリフェニレン環基、o-テルフェニル環基、m-テルフェニル環基、p-テルフェニル環基、アセナフテン環基、コロネン環基、フルオレン環基、フルオラントレン環基、ペンタセン環基、ペリレン環基、ペンタフェン環基、ピセン環基、ピラントレン環基などが挙げられる。
【0032】
また、芳香族複素環基としては、特に限定されることなく、例えば、フラン環基、チオフェン環基、ピリジン環基、ピリダジン環基、ピリミジン環基、ピラジン環基、トリアジン環基、オキサジアゾール環基、トリアゾール環基、イミダゾール環基、ピラゾール環基、チアゾール環基、インドール環基、ベンゾイミダゾール環基、ベンゾチアゾール環基、ベンゾオキサゾール環基、キノキサリン環基、キナゾリン環基、フタラジン環基、ベンゾフラン環基、ジベンゾフラン環基、ベンゾチオフェン環基、ジベンゾチオフェン環基、カルバゾール環基等が挙げられる。
【0033】
更に、Arが有し得る置換基としては、特に限定されることなく、例えば、アルキル基、フッ素原子およびフルオロアルキル基が挙げられる。そして、Arが有し得る置換基としてのアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基などの炭素数1~6の鎖状アルキル基が挙げられる。また、Arが有し得る置換基としてのフルオロアルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、ペンタフルオロプロピル基などの炭素数1~5のフルオロアルキル基が挙げられる。
【0034】
中でも、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体をより効率的に製造する観点からは、式(I)中のArとしては、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基が好ましく、非置換の芳香族炭化水素環基がより好ましく、ベンゼン環基(フェニル基)が更に好ましい。
【0035】
また、式(I)中に含まれるフッ素原子の合計数は、3以上10以下であることが必要であり、3以上6以下であることが好ましい。フッ素原子の合計数が上記下限値以上であれば、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な共重合体が得られる。また、フッ素原子の合計数が上記上限値以下であれば、高分子量の共重合体をより効率的に製造し得る。
【0036】
そして、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体をより効率的に製造する観点からは、上述した式(I)で表されるモノマー(a)としては、α-クロロアクリル酸-1-フェニル-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル、α-クロロアクリル酸-1-フェニル-2,2,2-トリフルオロエチルまたはα-クロロアクリル酸-1-フェニル-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルが好ましい。
【0037】
〔モノマー(b)〕
モノマー(b)は、上記式(II)で表される構造を有する化合物である。そして、モノマー組成物に含まれている全モノマー中のモノマー(b)の割合は、特に限定されることなく、例えば30mol%以上70mol%以下とすることができる。
【0038】
ここで、式(II)中のR1~R2を構成し得るアルキル基としては、特に限定されることなく、例えば非置換の炭素数1~5のアルキル基が挙げられる。中でも、R1~R2を構成し得るアルキル基としては、メチル基またはエチル基が好ましい。
【0039】
また、式(II)中のR2を構成し得るハロゲン原子としては、特に限定されることなく、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、アスタチン原子などが挙げられる。中でも、ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
【0040】
更に、式(II)中のR2を構成し得るハロゲン化アルキル基としては、特に限定されることなく、例えば炭素数1~5のフルオロアルキル基が挙げられる。中でも、ハロゲン化アルキル基としては、炭素数1~5のパーフルオロアルキル基が好ましく、トリフルオロメチル基がより好ましい。
【0041】
そして、共重合体の調製の容易性および電離放射線等を照射した際の主鎖の切断性を向上させる観点からは、式(II)中のR1は、炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0042】
また、共重合体の調製の容易性および電離放射線等を照射した際の主鎖の切断性を向上させる観点からは、式(II)中のpは、0または1であることが好ましく、0であることがより好ましい。
【0043】
そして、上述した式(II)で表されるモノマー(b)としては、特に限定されることなく、例えば、以下の(b-1)~(b-12)等のα-メチルスチレンおよびその誘導体が挙げられる。
【化4】
【0044】
なお、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体をより効率的に製造する観点からは、モノマー(b)は、α-メチルスチレンであることが好ましい。
【0045】
〔その他のモノマー〕
その他のモノマーとしては、モノマー(a)およびモノマー(b)と共重合可能な任意のモノマーが挙げられる。但し、モノマー組成物に含まれている全モノマー中のその他のモノマーの割合は、10mol%以下であることが好ましく、0mol%である(即ち、モノマー組成物はモノマーとしてモノマー(a)およびモノマー(b)のみを含む)ことがより好ましい。
【0046】
〔溶媒〕
溶媒としては、特に限定されることなく、シクロペンタノンなどを用いることができる。
なお、モノマー組成物は、溶媒を含むことが好ましい。そして、溶媒を含むモノマー組成物を用いた場合、共重合工程では、共重合体を含む重合体溶液が得られる。
【0047】
〔重合開始剤〕
重合開始剤としては、特に限定されることなく、例えばアゾビスイソブチロニトリルなどのラジカル重合開始剤を用いることができる。
【0048】
なお、モノマー組成物中の重合開始剤の量は、特に限定されることなく、0.01当量以下であることが好ましく、0.002当量以下であることがより好ましく、ゼロである(即ち、モノマー組成物は重合開始剤を含まない)ことが更に好ましい。重合開始剤の量が上記上限値以下であれば、得られる共重合体の分子量を更に高めることができる。
【0049】
[重合温度]
共重合工程においてモノマー組成物を共重合させる際の重合温度は、10℃以上50℃以下であることが必要であり、20℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましく、40℃以下であることが好ましい。重合温度が上記下限値以上であれば、短時間かつ高いモノマー転化率で効率的に共重合体を製造することができる。また、重合温度が上記上限値以下であれば、フッ素原子を含有するモノマーを使用した場合であっても、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体を製造することができる。
【0050】
[その他の重合条件]
また、モノマー組成物を共重合させる時間(反応時間)は、特に限定されることなく、10時間以上であることが好ましく、30時間以上であることがより好ましく、40時間以上であることが更に好ましく、360時間以下であることが好ましく、120時間以下であることがより好ましく、76時間以下であることが更に好ましい。反応時間が上記下限値以上であれば、得られる共重合体を十分に高分子量化することができる。また、反応時間が上記上限値以下であれば、共重合体の合成に要する時間を十分に短くすることができる。
【0051】
そして、共重合工程におけるモノマー転化率は、50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましい。
なお、モノマー転化率は、実施例に記載の方法を用いて求めることができる。
【0052】
[共重合体]
共重合工程で得られる共重合体は、下記式(III)で表される、モノマー(a)に由来する繰り返し単位と、下記式(IV)で表される、モノマー(b)に由来する繰り返し単位とを含み、任意に、その他のモノマーに由来する繰り返し単位を更に含有する。
【化5】
〔式(III)中、X、LおよびArは、式(I)と同様であり、式(III)中に含まれるフッ素原子の合計数は3以上10以下である。〕
【化6】
〔式(IV)中、R1およびR2、並びに、pは、式(II)と同様である。〕
【0053】
そして、共重合体は、上記式(III)で表される繰り返し単位および上記式(IV)で表される繰り返し単位の双方を含んでいるので、電離放射線等(例えば、電子線、KrFレーザー、ArFレーザー、EUVレーザーなど)が照射された際に主鎖が切断され易く(即ち、電離放射線等に対する感度が高く)、且つ、耐熱性に優れている。従って、共重合体は、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用である。
【0054】
なお、共重合工程で得られる共重合体の重量平均分子量は、70000以上であることが好ましく、80000以上であることがより好ましく、100000以上であることが更に好ましく、500000以下であることが好ましく、200000以下であることがより好ましい。重量平均分子量が上記下限値以上であれば、共重合体を主鎖切断型のポジ型レジストとして用いた際に、得られるレジストパターンの明瞭性を高めることができる。また、重量平均分子量が上記上限値以下であれば、共重合体の合成に要する時間を十分に短くすることができる。
なお、共重合工程で得られる共重合体の重量平均分子量は、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0055】
<回収工程>
任意に実施し得る回収工程では、例えば共重合工程において溶媒の存在下で共重合を行った場合等に、共重合工程で得られる反応生成物(例えば、共重合体を含む重合体溶液)から共重合体を回収する。
【0056】
具体的には、回収工程では、例えば、共重合体を含む重合体溶液にテトラヒドロフラン等の良溶媒を添加した後、良溶媒を添加した溶液をメタノール等の貧溶媒中に滴下して共重合体を凝固させることにより、共重合体を回収することができる。
【0057】
なお、回収工程で回収された共重合体の重量平均分子量は、100000以上であることが好ましく、130000以上であることがより好ましく、500000以下であることが好ましく、250000以下であることがより好ましい。
なお、回収工程で回収された共重合体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーを使用し、標準ポリスチレン換算値として測定することができる。
【0058】
<精製工程>
任意に実施し得る精製工程では、特に限定されることなく、再沈殿法やカラムクロマトグラフィー法などの既知の精製方法を用いて共重合体を精製し得る。中でも、精製方法としては、再沈殿法を用いることが好ましい。
なお、共重合体の精製は、複数回繰り返して実施してもよい。
【0059】
そして、再沈殿法による共重合体の精製は、例えば、得られた共重合体をテトラヒドロフラン等の良溶媒に溶解した後、得られた溶液を、テトラヒドロフラン等の良溶媒とメタノール等の貧溶媒との混合溶媒に滴下し、共重合体の一部を析出させることにより行うことが好ましい。このように、良溶媒と貧溶媒との混合溶媒中に共重合体の溶液を滴下して精製を行えば、良溶媒および貧溶媒の種類や混合比率を変更することにより、得られる共重合体の分子量分布、重量平均分子量および数平均分子量を容易に調整することができる。具体的には、例えば、混合溶媒中の良溶媒の割合を高めるほど、混合溶媒中で析出する共重合体の分子量を大きくすることができる。
【0060】
なお、再沈殿法により共重合体を精製する場合、共重合体としては、良溶媒と貧溶媒との混合溶媒中で析出した共重合体を用いてもよいし、混合溶媒中で析出しなかった共重合体(即ち、混合溶媒中に溶解している共重合体)を用いてもよい。ここで、混合溶媒中で析出しなかった共重合体は、濃縮乾固などの既知の手法を用いて混合溶媒中から回収することができる。
【0061】
(ポジ型レジスト組成物の製造方法)
本発明のポジ型レジスト組成物の製造方法は、本発明の共重合体の製造方法を用いて共重合体を製造する工程と、得られた共重合体と、溶剤とを混合してポジ型レジスト組成物を調製する工程とを含む。そして、本発明のポジ型レジスト組成物の製造方法に従い製造されたポジ型レジスト組成物は、上述した共重合体と、溶剤とを含み、任意に、レジスト組成物に配合され得る既知の添加剤を更に含有しており、レジスト膜の形成に好適に用いることができる。
【0062】
<溶剤>
ここで、溶剤としては、上述した共重合体を溶解可能な溶剤であれば特に限定されることはなく、例えば特許第5938536号公報に記載の溶剤などの既知の溶剤を用いることができる。中でも、適度な粘度のポジ型レジスト組成物を得てポジ型レジスト組成物の塗工性を向上させる観点からは、溶剤としては、アニソール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、 シクロペンタノン、シクロヘキサノンまたは酢酸イソアミルを用いることが好ましい。
【0063】
<ポジ型レジスト組成物の調製>
ポジ型レジスト組成物は、上述した共重合体、溶剤、および任意に用い得る既知の添加剤を混合することにより調製することができる。その際、混合方法は特に限定されず、公知の方法により混合すればよい。また、各成分を混合後、混合物を濾過して調製してもよい。
【0064】
[濾過]
ここで、混合物は、特に限定されず、例えばフィルターを用いて濾過することができる。フィルターとしては特に限定されず、例えば、フルオロカーボン系、セルロース系、ナイロン系、ポリエステル系、炭化水素系等のろ過膜が挙げられる。中でも、共重合体の調製時に使用することのある金属配管等から金属等の不純物がポジ型レジスト組成物中に混入するのを効果的に防ぐ観点からは、フィルターを構成する材料として、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、テフロン(登録商標)等のポリフルオロカーボン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ナイロン、及びポリエチレンとナイロンとの複合膜等が好ましい。フィルターとして、例えば、米国特許第6,103122号に開示されているものを使用してもよい。また、フィルターは、CUNO Incorporated製のZeta Plus(登録商標)40Q等として市販されている。さらに、フィルターは、強カチオン性もしくは弱カチオン性のイオン交換樹脂を含むものであってもよい。ここで、イオン交換樹脂の平均粒度は、特に限定されないが、好ましくは2μm以上10μm以下である。カチオン交換樹脂としては、例えば、スルホン化されたフェノール-ホルムアルデヒド縮合物、スルホン化されたフェノール-ベンズアルデヒド縮合物、スルホン化されたスチレン-ジビニルベンゼンコポリマー、スルホン化されたメタクリル酸-ジビニルベンゼンコポリマー、及び他のタイプのスルホン酸もしくはカルボン酸基含有ポリマー等が挙げられる。カチオン交換樹脂には、H+対イオン、NH4 +対イオンまたはアルカリ金属対イオン、例えばK+及びNa+対イオンが供される。そして、カチオン交換樹脂は、水素対イオンを有することが好ましい。このようなカチオン交換樹脂としては、H+対イオンを有するスルホン化されたスチレン-ジビニルベンゼンコポリマーであって、Purolite社のMicrolite(登録商標)PrCHが挙げられる。このようなカチオン交換樹脂は、Rohm and Haas社のAMBERLYST(登録商標)として市販されている。
【0065】
さらに、フィルターの孔径は、0.005μm以上1μm以下であることが好ましい。フィルターの孔径が上記範囲内であれば、ポジ型レジスト組成物中に金属等の不純物が混入するのを十分に防ぐことができる。
【実施例
【0066】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例において、モノマー転化率および共重合体の重量平均分子量は、下記の方法で測定した。
【0067】
<モノマー転化率>
得られた重合体溶液について、ガスクロマトグラフィーを用いて残存したモノマー(a)の量を測定し、モノマー転化率を算出した。
具体的には、ガスクロマトグラフ(島津製作所社製、GC-2010)を使用し、重合前(モノマー組成物中)と反応後(重合体溶液中)のモノマー(a)をそれぞれ定量し、モノマー転化率(=100-{(反応後のモノマー(a)の量/重合前のモノマー(a)の量)×100}(%))を算出した。
<重量平均分子量>
得られた重合体溶液を使用し、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて共重合体の重量平均分子量(Mw)を測定した。
具体的には、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー製、HLC-8220)を使用し、展開溶媒としてテトラヒドロフランを用いて、重合体溶液中の共重合体の重量平均分子量(Mw)を標準ポリスチレン換算値として求めた。
【0068】
(実施例1~18および比較例1~6)
撹拌子を入れたガラス製のアンプルに、下記式で表されるモノマー(a)としてのα-クロロアクリル酸-1-フェニル-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル5.000gと、モノマー(b)としてのα-メチルスチレン4.155gと、重合開始剤としての表1に示す量のアゾビスイソブチロニトリル(任意成分)と、溶媒としてのシクロペンタノン3.924gとを含むモノマー組成物を加えて密封し、窒素ガスで加圧、脱圧を10回繰り返して系内の酸素を除去した。
次に、系内を表1に示す温度に加温し、表1に示す時間反応を行って、共重合体を含む重合体溶液を得た。そして、得られた重合体溶液を用いてモノマー転化率および共重合体の重量平均分子量を測定した。結果を表1に示す。
なお、得られた共重合体は、α-メチルスチレン単位とα-クロロアクリル酸-1-フェニル-1-トリフルオロメチル-2,2,2-トリフルオロエチル単位とを50モル%ずつ含んでいた。また、反応させる時間は、モノマー転化率および重量平均分子量が十分に高くなる時間とした。
【化7】
【0069】
【表1】
【0070】
(実施例19~20)
撹拌子を入れたガラス製のアンプルに、下記式で表されるモノマー(a)としてのα-クロロアクリル酸-1-フェニル-2,2,2-トリフルオロエチル5.000gと、モノマー(b)としてのα-メチルスチレン5.223gと、溶媒としてのシクロペンタノン4.381gとを含むモノマー組成物を加えて密封し、窒素ガスで加圧、脱圧を10回繰り返して系内の酸素を除去した。
次に、系内を表2に示す温度に加温し、表2に示す時間反応を行って、共重合体を含む重合体溶液を得た。そして、得られた重合体溶液を用いてモノマー転化率および共重合体の重量平均分子量を測定した。結果を表2に示す。
なお、得られた共重合体は、α-メチルスチレン単位とα-クロロアクリル酸-1-フェニル-2,2,2-トリフルオロエチル単位とを50モル%ずつ含んでいた。
【化8】
【0071】
【表2】
【0072】
(実施例21~22)
撹拌子を入れたガラス製のアンプルに、下記式で表されるモノマー(a)としてのα-クロロアクリル酸-1-フェニル-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル5.000gと、モノマー(b)としてのα-メチルスチレン4.393gと、溶媒としてのシクロペンタノン4.025gとを含むモノマー組成物を加えて密封し、窒素ガスで加圧、脱圧を10回繰り返して系内の酸素を除去した。
次に、系内を表3に示す温度に加温し、表3に示す時間反応を行って、共重合体を含む重合体溶液を得た。そして、得られた重合体溶液を用いてモノマー転化率および共重合体の重量平均分子量を測定した。結果を表3に示す。
なお、得られた共重合体は、α-メチルスチレン単位とα-クロロアクリル酸-1-フェニル-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル単位とを50モル%ずつ含んでいた。
【化9】
【0073】
【表3】
【0074】
表1~3より、モノマー組成物を10℃以上50℃以下の重合温度で共重合した実施例1~22では、高分子量の共重合体を効率的に製造できることが分かる。一方、表1より、モノマー組成物を0℃で共重合した比較例1,2では高分子量の共重合体の合成に時間を要し、モノマー組成物を60℃および80℃で共重合した比較例3~6では、モノマー転化率および共重合体の分子量が低下してしまうことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の共重合体の製造方法によれば、フッ素原子を含有するモノマーを使用し、主鎖切断型のポジ型レジストとして有用な高分子量の共重合体を効率的に製造することができる。
また、本発明のポジ型レジスト組成物の製造方法によれば、明瞭性の優れるレジストパターンの形成が可能なポジ型レジスト組成物を効率的に製造することができる。