(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】給電システム、光出力装置及び給電方法
(51)【国際特許分類】
H02J 50/30 20160101AFI20240625BHJP
H02J 50/80 20160101ALI20240625BHJP
H02S 10/00 20140101ALI20240625BHJP
【FI】
H02J50/30
H02J50/80
H02S10/00
(21)【出願番号】P 2020034337
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2022-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2019052009
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊一
【審査官】清水 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-169369(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0091778(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0136335(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0227922(US,A1)
【文献】国際公開第2014/156465(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 50/00 - 50/90
H02S 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長が異なる複数の光源と、
前記複数の光源の各々に流れる電流値を変化させることで前記光源から出射される光の出力を制御する光出力制御部と、
光出力側通信部と、を有する光出力装置と、
異なるバンドギャップを有する複数の光電変換セルが直列接続され、前記複数の光源から出射された光を吸収し電力に変換する光電変換素子
と、前記光出力側通信部に前記光電変換素子において得られた出力電流量の情報を送信する受光側通信部と、を有する受光装置と、
を有し、
前記光出力制御部は、前記光源から出射される光の出力を各々個別に変化させ、
前記受光側通信部は、前記光の出力を変化させたときの前記出力電流量の情報を前記光出力側通信部へ送信し、
前記光出力制御部は、
前記光の出力を変化させたときの前記出力電流量に基づき、前記複数の光源から出射される光の出力を各々個別に設定することを特徴とする給電システム。
【請求項2】
前記光出力制御部は、
前記光の出力を変化させたときの前記出力電流量に基づき、前記複数の光源に流れる電流値を各々の最適電流値に固定し、
前記複数の光源に流れる電流値を各々の前記最適電流値から個別に変化させ、
前記複数の光源に流れる電流値を各々の前記最適電流値から個別に変化させたときの前記出力電流量に基づき、前記複数の光源に流れる電流値を各々個別に設定する請求項1に記載の給電システム。
【請求項3】
前記光出力制御部は、
前記複数の光源の第1の光源に流れる電流値を変化させ、
前記第1の光源に流れる電流値を変化させたときの前記出力電流量に基づき、前記第1の光源に流れる電流値を第1の電流値に固定し、
前記第1の光源に流れる電流値を前記第1の電流値に固定した状態で、前記複数の光源の第2の光源に流れる電流値を変化させ、
前記第2の光源に流れる電流値を変化させたときの前記出力電流量に基づき、前記第2の光源に流れる電流値を第2の電流値に固定する請求項1又は2に記載の給電システム。
【請求項4】
前記光出力制御部は、
前記複数の光源の各々に流れる電流値を、前記複数の光源の各々に流れる電流値を変化させたときの前記出力電流量が最大となる電流値のうち最も低い電流値に固定する請求項1から3のいずれかに記載の給電システム。
【請求項5】
前記光電変換素子は、
前記複数の光電変換セルが積層されており、
前記光電変換素子における各々の前記光電変換セルは、前記複数の光源より出射された光のうち対応する波長の光を吸収するものであることを特徴とする請求項1
から4のいずれかに記載の給電システム。
【請求項6】
前記受光装置は、受光制御部を有し、
前記受光制御部は、前記光電変換素子において得られた
前記出力電流量に基づき、前記複数の光源から出射される各々の光の出力を判断し、
前記光出力制御部は、前記受光制御部の判断に基づき、前記複数の光源から出射される光の出力を各々個別に設定することを特徴とする請求項1から
5のいずれかに記載の給電システム。
【請求項7】
前記光電変換素子に照射される光のエネルギー密度は、1kW/m
2以上であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の給電システム。
【請求項8】
前記光電変換素子には、前記光源から出射された光とともに、環境光も入射するものであって、
前記光出力制御部は、前記環境光の変化に伴い、前記複数の光源から出射される光の出力を各々個別に設定することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の給電システム。
【請求項9】
前記光出力装置は、
前記受光装置を認識しその位置を確認するアライメント用撮像部と、
アライメント用の光を出射するアライメント用光源と、
前記光源から出射される光及び前記アライメント用光源より出射された光の出射方向を
調整する角度調整部と、を備え、
前記受光装置は、アライメント用光源から出射された光を受光するアライメント用受光素子を備え、
前記光出力制御部は、前記アライメント用受光素子における電流量が最大となるように、前記角度調整部により前記光の出射方向を調整することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の給電システム。
【請求項10】
前記光源は半導体レーザであることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の給電システム。
【請求項11】
前記光源の出射部近傍に、前記光源から出射された光のアイセーフ性を高めるための光学素子を配置したことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の給電システム。
【請求項12】
前記受光装置には、前記光出力装置の複数の光源より出射された光を集光して、前記光電変換素子に入射させる集光素子が設けられていることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の給電システム。
【請求項13】
前記受光装置は、前記光電変換素子と前記集光素子との対を複数含むことを特徴とする請求項12に記載の給電システム。
【請求項14】
前記光電変換素子の周囲には、補助用光電変換素子が設けられていることを特徴とする請求項1から13のいずれかに記載の給電システム。
【請求項15】
前記補助用光電変換素子を形成する材料のバンドギャップは、前記光電変換素子を形成している光電変換セルのうち、最もバンドギャップの小さい光電変換セルのバンドギャップ以下のバンドギャップを有する材料により形成されていることを特徴とする請求項14に記載の給電システム。
【請求項16】
光を電力に変換する光電変換素子を有する受光装置に光を出射する光出力装置であって、
波長が異なる複数の光源と、
前記複数の光源の各々に流れる電流値を変化させることで前記光源から出射される光の出力を制御する光出力制御部と、
光出力側通信部と、
を有し、
前記光出力制御部は、前記光源から出射される光の出力を各々個別に変化させ、
前記光出力側通信部は、前記光の出力を変化させたときの前記光電変換素子において得られた出力電流量の情報を前記受光装置から受信し、
前記光出力制御部は、
前記光の出力を変化させたときの前記出力電流量に基づき、前記複数の光源から出射される光の出力を各々個別に設定することを特徴とする光出力装置。
【請求項17】
前記光出力制御部は、
前記光の出力を変化させたときの前記出力電流量に基づき、前記複数の光源に流れる電流値を各々の最適電流値に固定し、
前記複数の光源に流れる電流値を各々の前記最適電流値から個別に変化させ、
前記複数の光源に流れる電流値を各々の前記最適電流値から個別に変化させたときの前記出力電流量に基づき、前記複数の光源に流れる電流値を各々個別に設定する請求項16に記載の光出力装置。
【請求項18】
前記光出力制御部は、
前記複数の光源の第1の光源に流れる電流値を変化させ、
前記第1の光源に流れる電流値を変化させたときの前記出力電流量に基づき、前記第1の光源に流れる電流値を第1の電流値に固定し、
前記第1の光源に流れる電流値を前記第1の電流値に固定した状態で、前記複数の光源の第2の光源に流れる電流値を変化させ、
前記第2の光源に流れる電流値を変化させたときの前記出力電流量に基づき、前記第2の光源に流れる電流値を第2の電流値に固定する請求項16又は17に記載の光出力装置。
【請求項19】
波長が異なる複数の光
源から出射される光の出力を
、前記複数の光源の各々に流れる電流値を変化させることで制御する
工程と、
異なるバンドギャップを有する複数の光電変換セルが直列接続され、前記複数の光源から出射された光を吸収し電力に変換する光電変換素子
において出力電流量の情報を得る工程と、
前記光の出力を変化させたときの前記出力電流量に基づき、前記複数の光源から出射される光の出力を各々個別に設定する
工程と、
を有することを特徴とする給電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給電システム、光出力装置及び給電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電話(携帯、スマートフォン)、パソコン等における情報通信では、無線化がなされているが、現状、電力伝送はほとんど有線のままである。無線給電技術としては、電磁誘導等による方法があるが、供給電力量、伝送距離、給電・受電の位置合わせ、装置サイズ、電磁波の漏れによる人体への安全性や機器・装置への電磁妨害等の課題がある。このため、レーザ光など光ビームを受光素子である太陽電池に照射して電力を取り出す光無線給電が検討されている。光ビームを用いた給電は長距離給電可能であり、高周波の影響もない。
【0003】
光エネルギーを電気エネルギーに変える受光素子としては、光電変換セルからなる太陽電池があり、普及している。太陽光は紫外から赤外に渡る広いスペクトルを有しており、光電変換セルにより効率よくエネルギー変換効率を行うことは困難であった。これに対し光無線給電においては、光電変換セルのバンドギャップと光源の波長を適切に選択することが可能であり、より高いエネルギー変換効率を達成できることが期待される。
【0004】
特許文献1では、送電装置において電力を光に変えて、その光を受電装置に向けて照射し、受電装置において受光した光を電力に変えることにより、送電装置から受電装置に電力を送電する電力送電システムが開示されている。この電力送電システムでは、複数波長の光源を用い、バンドギャップの異なる異種材料の光電変換セルを多接合化し直列接続されたものが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、受電装置として多接合光電変換セルを用いた場合、照射される複数波長の光の各々の強度によっては、電力を高効率に送電できない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施の形態の一観点によれば、給電システムは、波長が異なる複数の光源と、前記複数の光源の各々に流れる電流値を変化させることで前記光源から出射される光の出力を制御する光出力制御部と、光出力側通信部と、を有する光出力装置と、異なるバンドギャップを有する複数の光電変換セルが直列接続され、前記複数の光源から出射された光を吸収し電力に変換する光電変換素子と、前記光出力側通信部に前記光電変換素子において得られた出力電流量の情報を送信する受光側通信部と、を有する受光装置と、を有し、前記光出力制御部は、前記光源から出射される光の出力を各々個別に変化させ、前記受光側通信部は、前記光の出力を変化させたときの前記出力電流量の情報を前記光出力側通信部へ送信し、前記光出力制御部は、前記光の出力を変化させたときの前記出力電流量に基づき、前記複数の光源から出射される光の出力を各々個別に設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
開示の給電システムによれば、光出力装置から受光装置へ電力を高効率に給電することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施の形態における給電システムの構造図
【
図2】第1の実施の形態における光電変換素子の構造図
【
図3】第1の実施の形態における給電システムの変形例の構造図
【
図4】第1の実施の形態における給電システムの電流マッチングのフローチャート
【
図5】第2の実施の形態における光電変換素子の構造図
【
図6】第3の実施の形態における光電変換素子の構造図
【
図7】第4の実施の形態における給電システムの受光部の説明図
【
図8】第4の実施の形態において二次元に配置された複数の受光部の説明図
【
図9】第5の実施の形態における給電システムの受光部の説明図
【
図10】第5の実施の形態における給電システムの受光部の変形例1の説明図
【
図11】第5の実施の形態における給電システムの受光部の変形例2の説明図
【
図12】第6の実施の形態における給電システムの光出力部の説明図
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施するための形態について、以下に説明する。尚、同じ部材等については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0010】
〔第1の実施の形態〕
(給電システム)
第1の実施の形態における給電システムについて、
図1に基づき説明する。本実施の形態における給電システムは、送電線等を用いることなく光により電力を送電する光無線給電システムであり、光出力装置100と受光装置200を有している。即ち、光出力装置100は電力を光に変換し、受光装置200に向けて光を出射し、受光装置200は、光出力装置100より出射された光を受光し、受光した光を電力に変換する。これにより、光出力装置100と受光装置200とが離間して配置されていても、送電線等を用いることなく、光出力装置100から受光装置200に電力を送電することができる。
【0011】
(光出力装置)
最初に、本実施の形態における光出力装置100について説明する。光出力装置100は、光出力部110、電源部120、アライメント用撮像部130、アライメント用光源140、光出力側通信部150、角度調整部160、光出力制御部170等を有している。
【0012】
光出力部110は、第1のレーザ光源111、第2のレーザ光源112、第3のレーザ光源113を有している。本実施の形態においては、第1のレーザ光源111は、波長が653nm(1.90eV)の半導体レーザにより形成されている。第2のレーザ光源112は、波長が873nm(1.42eV)の半導体レーザにより形成されている。第3のレーザ光源113は、波長が1060nm(1.17eV)の半導体レーザにより形成されている。半導体レーザは小型でありシステムの小型化が可能である。
【0013】
電源部120は、第1の電源121、第2の電源122、第3の電源123を有している。第1の電源121は第1のレーザ光源111に電力を供給し、第2の電源122は第2のレーザ光源112に電力を供給し、第3の電源123は第3のレーザ光源113に電力を供給する。
【0014】
アライメント用撮像部130は、受光装置200の位置を調べるため画像を撮像する。アライメント用光源140は、受光装置200の位置の調整を行うため、受光装置200に向けてレーザ光を出射する。光出力側通信部150は、受光装置200における受光側通信部250との間で情報の通信を行う送受信器である。
【0015】
角度調整部160は、光出力部110、アライメント用撮像部130、アライメント用光源140、光出力側通信部150等により形成される光出力側出射部101の角度を調整することができる。従って、角度調整部160により、光出力部110より出射されるレーザ光の角度等を調整することができる。
【0016】
光出力制御部170は、電源部120における第1の電源121、第2の電源122、第3の電源123を制御するとともに、アライメント用光源140、光出力側通信部150、角度調整部160等の制御を行う。光出力制御部170は、アライメント用撮像部130に接続されており、アライメント用撮像部130において撮像された画像は光出力制御部170に送信される。
【0017】
(受光装置)
次に、本実施の形態における受光装置200について説明する。受光装置200は、受光部210、アライメント用受光素子240、受光側通信部250、受光制御部270等を有している。アライメント用受光素子240は、光出力装置100のアライメント用光源140より出射されたレーザ光を受光する。受光側通信部250は、光出力装置100における光出力側通信部150との間で情報の通信を行う送受信器である。
【0018】
受光部210は、いわゆる多接合太陽電池と呼ばれる光電変換素子を有している。本実施の形態においては、受光部210には、
図2に示されるような光電変換素子220が設けられている。光電変換素子220は、Ge基板221の上に、Geセル(0.67eV)222、GaInAsセル(1.40eV)223、GaInPセル(1.88eV)224が順に配置されている。尚、Geセル222とGaInAsセル223との間にはトンネル接合層が形成されており、GaInAsセル223とGaInPセル224との間にはトンネル接合層が形成されている。
図2に示される光電変換素子220は、Geセル222、GaInAsセル223、GaInPセル224の3つのセルが形成されており、3接合太陽電池と呼ばれるものである。
【0019】
多接合太陽電池は、バンドギャップの異なる光電変換セルがトンネル接合層を介して接続されているものであり、異なる波長の光が、各々に対応する光電変換セルより受光することができるように形成されている。
【0020】
化合物半導体は、材料組成によりバンドギャップエネルギーや格子定数が異なるので、異なる波長を分担してエネルギー変換効率を高くすることのできる多接合太陽電池を作製することが可能である。現在、太陽光を受光させる多接合太陽電池としては、GaAsとほぼ同じ格子定数であるGe基板上に、格子整合系材料を用いたGaInPセル/GaInAsセル/Geセルからなる3接合太陽電池(1.88eV/1.40eV/0.67eV)が一般的である。Si系太陽電池に比べて2倍程度の高い変換効率を得ることができる。
【0021】
前述のGe基板を用いた格子整合型の3接合太陽電池は、太陽光を受光する太陽電池としては電流バランスの観点からバンドギャップバランスが最適ではない。このため、バンドギャップの最も小さいセルのバンドギャップを大きくした構造が有望である。高効率化の例としては、GaInPセル/GaAsセル/GaInAsセルからなる3接合太陽電池(1.9eV/1.42eV/1.0eV)がある。
【0022】
太陽光を受光させる太陽電池の場合、広い波長範囲の太陽光を効率よく受光するように設計されているが、本実施の形態におけるレーザ光を用いた給電では、光電変換素子の光電変換セルごとに、単一波長の光を受光させることができる。光電変換セルのバンドギャップよりエネルギーの大きな波長の光は、その差分のエネルギーは熱になってしまい電力にならない。バンドギャップに近づくにつれて吸収係数が小さくなり、バンドギャップより長波長の光は透過してしまう。この場合、太陽電池材料のバンドギャップを適切にするとエネルギー変換効率は高くなる。具体的には、送電用の光のエネルギーは、受電用の太陽電池を形成している光電変換セルの材料のバンドギャップと一致するか、バンドギャップよりも大きくかつバンドギャップ近傍にあるエネルギーが好ましい。
【0023】
本実施の形態では、レーザ光源より出射されるレーザ光の波長を多数にし、光電変換素子における各々の光電変換セルは、それぞれの波長の光を効率よく吸収するようなバンドギャップを有している。また、光電変換素子における各々の光電変換セルに対応する波長の光をその光電変換セルで十分に吸収させるため、極力、その光電変換セルを透過して下の光電変換セルで吸収されることを防ぐため、光電変換セルを形成している光吸収層の厚さ等が所望の厚さとなるように形成されている。これにより、吸収されるべき光電変換セルを透過して、下のバンドギャップの小さい光電変換セルで吸収されてしまい、エネルギーのロスが大きくなることを防ぐことができる。
【0024】
多接合太陽電池は各セルが直列接続されているため、各セルには同一の電流が流れる。それぞれのセルが同じ電流値を出力するような光量をそれぞれ照射することが好ましい。この状態で1セルだけ光量を増やしても出力電流は増えず無駄になる。あらかじめ各々の波長の光量と電流量の関係を求めておくと、各々の光電変換セルで発生する電流量が同じとなるような光源の出力の関係を得ることができる。よって、各々の波長の光源の光量を調整することにより、各々の光電変換セルで発生する電流量を調節することができるため、各々の光電変換セルで発生する電流量が同一になる条件を設定することが容易になる。これにより、熱に変換され無駄となる光を減らすことができ、高効率の給電システムを提供することができる。
【0025】
つまり、各々の光電変換セルが独立して各々に対応する波長の光を吸収するため、多接合太陽電池の各々の光電変換セルに対応する光源の光出力を調整することにより、電流量を合わせやすい。もちろん、同一の光電変換セルに複数波長のレーザ光を照射する給電システムであってもよく、同一波長で複数の光源を用いた給電システムであってもよい。
【0026】
なお、本開示における光源は受光装置で吸収可能な波長の光を出力すればよく、発光ダイオード(LED:light emitting diode)等の半導体レーザ以外の光源を用いることもできる。
【0027】
(給電システムによる給電方法)
次に、本実施の形態における給電システムにおける給電方法について説明する。最初に、光出力装置100に設けられたアライメント用撮像部130による撮像により、受光装置200を認識して、その位置を確認し、アライメント用光源140の出射方向を角度調整部160により調整する。次に、アライメント用光源140より、受光装置200のアライメント用受光素子240に向けて、所定のアイセーフ出力のアライメント用光源の光を照射する。アライメント用光源140より出射される光は、波長が940nm帯、1.5μm帯等の近赤外光が好ましい。アライメント用撮像部130による撮像や、アライメント用光源140より出射される光により、光出力装置100と受光装置200との間に人や障害物が存在しないか確認することもできる。
【0028】
光出力装置100のアライメント用光源140より光を出射し、出射された光を受光装置200のアライメント用受光素子240が受光すると、アライメント用受光素子240では、受光された光量に対応した出力電流が流れる。この出力電流の情報は、受光装置200の受光側通信部250より、光出力装置100の光出力側通信部150に向けて送信される。光出力装置100の光出力制御部170では、光出力側通信部150において受信された情報に基づき、受光装置200のアライメント用受光素子240の出力電流をモニタする。このように、アライメント用受光素子240の出力電流をモニタし、アライメント用受光素子240の出力電流が最大となるように、角度調整部160により、アライメント用光源140より出射される光の出射方向を調整する。これにより、光の出射方向を調整した状態で、光出力装置100の光出力部110よりレーザ光が出射され、このレーザ光を受光装置200の受光部210において受光され、電力に変換されることにより受電される。このようにして、光出力装置100から受光装置200への給電が行われる。光出力装置100と受光装置200との間で給電が行われている状態では、光出力装置100の光出力側通信部150と受光装置200の受光側通信部250との間で通信を行い、アライメント用光源140より出射される光の出射方向を調整する。この出射方向の調整は、光出力制御部170により、角度調整部160を制御することにより行われる。
【0029】
また、光出力装置100と受光装置200との間で給電が行われている状態では、光出力部110の各々のレーザ光源を出力を受光部210における光電変換素子220において得られた電流量が極大値となるように、光出力制御部170により制御が継続される。即ち、光電変換素子220において得られた電流量の情報を受光側通信部250及び光出力側通信部150を介し、光出力制御部170に送信し、光出力制御部170により、光電変換素子220における電流量が極大となるように、電源部120が制御される。
【0030】
このように、本実施の形態においては、光電変換素子220における電流量をモニタし、この電流量が極大となるように、光出力部110における各々のレーザ光源の光出力を微調整する制御を行うフィードバック機構が設けられている。このようなフィードバック機構を設けることにより、光出力装置100と受光装置200との間における環境変化や経時変化等で電流マッチングがずれた場合であっても、最適な状態で給電をするように調整することができる。これにより、高いエネルギー伝送効率による給電を維持することができる。
【0031】
また、後からでも容易に電流マッチングによる調整が可能であるため、光電変換素子220となる多接合太陽電池に膜厚や組成など多少ばらつきがあっても、調整により給電システムに用いることが可能である。具体的には、例えば、光出力装置100の光出力部110における各々のレーザ光源より出射される光量をわずかに変動させ、受光装置200の、光電変換素子220に流れる電流量が最大になるように調整することを各々のレーザ光源ごとに順次行う。これにより、製造された複数の光電変換素子に多少ばらつきがあっても、システム毎に光出力装置100を最適化することができるため、受光装置200に用いることが可能な光電変換素子が多くなる。これにより、光電変換素子220の歩留まりを高くすることができる。
【0032】
本実施の形態においては、光電変換素子220には多接合太陽電池が用いられており、多接合化することで出力電流を減らして出力電圧を高くしている。ここで、発熱量はI2R(I:電流、R:抵抗)に依存する。そのため、出力電流を減らすことで、発熱により電力に変換されず損失されるエネルギーを減らすことができる。
【0033】
本実施の形態は、更に高いエネルギー密度の光を照射しても効率を落とさずに電力伝送ができ、小さな受光面積で大きな電力を伝送できる。通常の太陽電池は太陽光の基準的なエネルギー1Sun(1kW/m2)を受光し電力に変換しているが、電力伝送の目的から、狭い受光面積で多くの電力に変換できることが好ましい。よって、受光部210に対し1Sun(1kW/m2)以上のエネルギー密度の光を照射し給電を行うシステムであることが好ましい。
【0034】
また、光電変換素子220となる多接合太陽電池においては、太陽電池への光密度を高くするとエネルギー変換効率が高くなる効果がある。即ち、開放電圧(Voc)の増加により、エネルギー変換効率が高くなる効果がある。尚、Jsc:短絡電流密度(電圧0の時の電流)、Voc:開放電圧(電流0の時の電圧)、FF:曲線因子(I-V特性の直角度)、Pin:光入力としたとき、「エネルギー変換効率=Jsc×Voc×FF/Pin」と示される。
【0035】
ところで、通常の太陽電池、例えば、Si太陽電池では、太陽電池の直列抵抗値にも依存するが、太陽光の10倍のエネルギー密度である10Sun(10kW/m2)を照射すると発電効率が落ちてしまう。これに対して、多接合太陽電池では、10Sunはもとより、100Sun(100kW/m2)でも、直列抵抗値を低くすると効率を落とすことなく発電可能である。このような多接合太陽電池としては、例えば、GaInP(1.88eV)/GaInAs(1.40eV)/Ge(0,67eV)の3接合太陽電池が挙げられる。
【0036】
このように、光電変換セルのバンドギャップを大きくし発電の電流量を減らすことや、更には、光電変換セル接合数を増やしてより多接合にして電流量を減らすことで、100Sunを超えても発電効率を落とすことなく送電することが可能となる。従って、本実施の形態においては、上記の観点からは、受光部210に対し照射される光のエネルギー密度は、10kW/m2以上であることが好ましく、更には、100kW/m2以上であることが好ましい。また、熱の影響を抑えできるだけ光密度を高めるために、ヒートシンクを設けるなど放熱構造を設けることが好ましい。
【0037】
尚、本実施の形態においては、光出力装置100の光出力部110には、複数のレーザ光源が用いられているが、複数の発光ダイオード(LED:light emitting diode)を用いてもよい。しかしながら、太陽電池には効率の波長依存性があるため、半導体レーザは発光ダイオードよりも、波長単一性が高く、材料組成を制御することで適した波長にすることが可能であり、小型でありエネルギー変換効率が高い。このため、光出力装置100の光出力部110には、複数の半導体レーザが用いられている。
【0038】
上記における説明では、光出力装置100の光出力部110に3つの半導体レーザを用いた場合について説明したが、半導体レーザの数は、2つでもよく、また、3よりも多いN個であってもよい。具体的には、
図3に示されるように、光出力装置100の光出力部110には、波長λ1の第1のレーザ光源111、波長λ2の第2のレーザ光源112、・・・、波長λNの第Nのレーザ光源11Nを有するものであってもよい。この場合、電源部120における電源もN個設けられる。具体的には、電源部120は、第1の電源121、第2の電源122、・・・、第Nの電源12Nを有している。第1の電源121は第1のレーザ光源111に電力を供給し、第2の電源122は第2のレーザ光源112に電力を供給し、第Nの電源12Nは第Nのレーザ光源11Nに電力を供給する。
【0039】
(給電状態における電流マッチング方法)
次に、本実施の形態における給電システムにおいて、給電している状態の電流マッチング方法について、
図4に基づき説明する。
【0040】
最初に、ステップ102(S102)に示されるように、第1のレーザ光源~第Nのレーザ光源に電流を流しレーザ光を出射し、出射したレーザ光を受光装置200の受光部210に入射させる。具体的には、第1のレーザ光源~第Nのレーザ光源より出射されるレーザ光の出力が所定の出力となるように、第1の電源~第Nの電源より電流を供給し、レーザ光を出射し、出射したレーザ光を受光装置200の受光部210に入射させる。受光部210に入射したレーザ光は、受光部210においてモニタされ電流量が測定される。
【0041】
次に、ステップ104(S104)に示されるように、受光装置200の受光部210に、第1のレーザ光源~第Nのレーザ光源より出射されたレーザ光が入射したことの情報を受光側通信部250及び光出力側通信部150を介し、光出力装置100に送信する。
【0042】
次に、ステップ106(S106)に示されるように、Iの値を1に設定する。
【0043】
次に、ステップ108(S108)に示されるように、光出力装置100において、光出力部110における第Iの電源により第Iのレーザ光源に流れる電流値を変化させる。
【0044】
次に、ステップ110(S110)に示されるように、受光部210の光電変換素子220より出力される電流量を測定し、得られた電流量の情報を光出力装置100に送信する。
【0045】
次に、ステップ112(S112)に示されるように、第Iの電源の電流値を変動させることにより得られた最適電流値を第Iの電源の電流値として固定する。具体的には、第Iの電源より第Iのレーザ光源に供給される電流値を所定のシーケンスで前後させながら、光電変換素子220より出力される電流量を随時モニタし、得られた電流量の情報を光出力装置100に送信する。光出力制御部170では、受信した電流量が最大となる第Iの電源の電流値のうち、最も低い値を最適電流値とし、この最適電流値を第Iの電源の電流値として固定する。これは、光電変換素子220に入射させるレーザ光のパワーをある値以上に増加させても、光電変換素子220より出力される電流量は増えず、ある値を超えて入射させたレーザ光のエネルギーが無駄になるので、このエネルギーロスを低減する目的である。
【0046】
次に、ステップ114(S114)に示すように、Iに1を加えた値を新たなIとする。
【0047】
次に、ステップ116(S116)に示すように、Iの値がN以下であるか否かを判断する。Iの値がN以下である場合には、ステップ108に移行し、Iの値がN以下でない場合には、ステップ106に移行し、上記工程を繰り返す。
【0048】
上記における電流マッチングは、給電が終了するまで行われる。
【0049】
尚、上記における電流マッチングを行う前に、光電変換素子220の検査の時点で、あらかじめ各々の光電変換セルの電流量が同様になる所定の光出力を確認しておくことが好ましい。また、上記におけるレーザ光源の順序は任意であってもよい。
【0050】
また、最適電流値の判断は、光出力制御部170に代えて、受光制御部270において行ってもよい。この場合には、最適電流値の情報は、受光装置200より、受光側通信部250及び光出力側通信部150を介し、光出力装置100に送信される。
【0051】
また、光電変換素子220に入射する光は、光出力装置100の光出力部110より出射されるレーザ光以外に、太陽光等の環境光が入射するものであってもよい。この場合にも、上記と同様の工程により、電流マッチングを行うことができる。
【0052】
(給電システムの適用例)
ところで、現在、蓄電池に充電した電力で駆動する無人のドローンを郵便や宅配に用いる構想が検討されている。交通ルールに関連して、電力送電線の上を空の道とするドローンハイウエイ構想や河川の上空を空の道とするアクアスカイウエイ構想がある。蓄電池の電力ではドローンは30分程度しか飛行できなく、途中で充電する必要がある。電磁誘導を利用した電磁誘導型の充電システムの場合、充電に時間を要し、この間、充電システムより遠くに離れることができず、郵便や宅配等の配達を効率的に行うことができない。
【0053】
本実施の形態における給電システムの場合では、ドローンが動いている間であっても充電することができるため、郵便や宅配等の配達の途中であっても給電可能であり、郵便や宅配等の配達に支障をきたすことなく、効率的に行うことができる。
【0054】
尚、非特許文献1には、吸収波長が同一である光電変換セルを複数積層した多接合太陽電池が記載されている。この多接合太陽電池は各光電変換セルが直列に接続されており、電圧は各々の光電変換セルの合計になるが、電流値は各光電変換セルで一律であり、最も発生電流の少ない光電変換セルの電流値に制約を受けてしまう。この構成では、同一波長の光が各光電変換セルにおいて吸収されるが、入射側の光電変換セルから順番に吸収していくため、各光電変換セルから同一電流量を取り出すためには基本的に奥側の光電変換セルほど光吸収層の厚さを厚くする必要がある。しかし、光吸収層の厚さの設定は容易ではなく、適した厚さからずれると電流バランスが悪くなり、電流マッチングを取るのが困難である。また、最適構造は入射する光の出力にも依存する。このように、単一波長の光を多接合太陽電池で光電変換するシステムの生産は容易ではない。一方、本実施の形態の給電システムでは、異なる波長の光をそれぞれの光の波長に対応したバンドギャップを有する光電変換セルで吸収するよう構成し、かつ異なる波長の光の出力を各々個別に設定できるよう構成しているので、高効率な光無線給電システムを均一性、再現性良く作製することが可能である。
〔第2の実施の形態〕
次に、第2の実施の形態について説明する。本実施の形態における給電システムは、光出力装置100における光出力部110に設けられている各々のレーザ光源の波長及び光電変換素子の構造が、第1の実施の形態とは異なるものである。
【0055】
具体的には、より短波長の光を出力する光出力装置と、より高エネルギーのバンドギャップを有する光電変換素子を用いて、出力電圧を増大させている。本実施の形態においては、第1のレーザ光源111は、波長が640nm(1.94eV)の半導体レーザにより形成されている。第2のレーザ光源112は、波長が681nm(1.82eV)の半導体レーザにより形成されている。第3のレーザ光源113は、波長が850nm(1.46eV)の半導体レーザにより形成されている。
【0056】
また、本実施の形態においては、受光部210には、
図5に示されるような光電変換素子320が設けられている。光電変換素子320は、GaAs基板321の上に、GaAsセル(1.42eV)322、GaInPAsセル(1.80eV)323、GaInPセル(1.92eV)324が順に配置されているものである。尚、GaAsセル322とGaInPAsセル323との間にはトンネル接合層が形成されており、GaInPAsセル323とGaInP324との間にはトンネル接合層が形成されている。セル323はGaInPAsの代わりにAlGaAsを用いてもよい。
【0057】
太陽電池の出力電圧は光吸収層のバンドギャップよりも0.3~0.5V程度低くなる。本実施の形態においても、光電変換素子320における出力電圧は各々の光電変換セルを形成している光吸収層のバンドギャップよりも0.3~0.5V程度低くなる。従って、バンドギャップが大きいほど効率的には有利である。材料のバンドギャップとしてはAlGaInN系材料が好ましいが、複数の格子整合系材料で光電変換セルを形成することが困難である。この点、GaAs系材料はAlGaInN系ほど大きなバンドギャップの材料系ではないが、複数の格子整合系材料で光電変換セルを形成することが容易であり好ましい。そこで、GaAs基板ではGaAs(1.42eV)、Ge基板ではGeに格子整合するGaInAs(1.40eV)よりバンドギャップの大きい材料を用いて多接合太陽電池を形成することで、効率の良い電力伝送ができる。
【0058】
上記においては、光電変換素子320は、GaAsセル(1.42eV)322、GaInPAsセル(1.80eV)323、GaInPセル(1.92eV)324により形成されている3接合太陽電池について説明したが、これに限定されるものではない。光電変換素子320における各々の光電変換セルのバンドギャップ、光電変換セルの接合数は、任意に設定でき、これに対応して光出力装置100の光出力部110における各々のレーザ光源の波長も任意に設定できる。
【0059】
尚、上記以外の内容については、第1の実施の形態と同様である。
〔第3の実施の形態〕
次に、第3の実施の形態について説明する。本実施の形態における給電システムは、光出力装置100における光出力部110に設けられている各々のレーザ光源の波長及び光電変換素子の構造が、第1の実施の形態及び第2の実施の形態とは異なるものである。
【0060】
具体的には、本実施の形態においては、光出力装置100における光出力部110は、波長の異なる6種類のレーザ光源、即ち、第1のレーザ光源、第2のレーザ光源、第3のレーザ光源、第4のレーザ光源、第5のレーザ光源、第6のレーザ光源を有している。
【0061】
第1のレーザ光源は、波長が639nm(1.94eV)の半導体レーザにより形成されている。第2のレーザ光源は、波長が674nm(1.84eV)の半導体レーザにより形成されている。第3のレーザ光源は、波長が713nm(1.74eV)の半導体レーザにより形成されている。第4のレーザ光源は、波長が756nm(1.64eV)の半導体レーザにより形成されている。第5のレーザ光源は、波長が805nm(1.54eV)の半導体レーザにより形成されている。第6のレーザ光源は、波長が861nm(1.44eV)の半導体レーザにより形成されている。よって、本実施の形態においては、光出力装置100における光出力部110は、波長の異なる6種類のレーザ光源を有している。尚、上記の6種類のレーザ光源、即ち、第1のレーザ光源、第2のレーザ光源、第3のレーザ光源、第4のレーザ光源、第5のレーザ光源、第6のレーザ光源は、すべてGaAs基板上に形成することが可能である。
【0062】
また、本実施の形態においては、受光部210には、
図6に示されるような6接合太陽電池である光電変換素子420が設けられている。光電変換素子420は、GaAs基板421の上に、GaAsセル(1.42eV)422、AlGaAsセル(1.52eV)423、GaInPAsセル(1.62eV)424、GaInPAs(1.72eV)425、GaInPAs(1.82eV)426、GaInPセル(1.92eV)427が順に配置されているものである。尚、GaAsセル422とAlGaAsセル423との間にはトンネル接合層が形成されており、AlGaAsセル423とGaInPAsセル424との間にはトンネル接合層が形成されている。GaInPAsセル424とGaInPAs425との間にはトンネル接合層が形成されており、GaInPAs425とGaInPAs426との間にはトンネル接合層が形成されている。GaInPAs426とGaInPセル427との間にはトンネル接合層が形成されている。尚、セル423はGaInPAsを、セル424、425、426はAlGaAsを用いてもよい。
【0063】
本実施の形態においては、光出力装置100の光出力部110におけるレーザ光源の波長を6波長とし、光電変換素子420における6つの各々の光電変換セルは、各々の波長のレーザ光を効率よく吸収することができるようなバンドギャップを有している。この場合、光出力装置100における各々のレーザ光源より出射されるレーザ光の波長は、受光装置200における光電変換素子420の光電変換セルの材料のバンドギャップより若干大きいバンドギャップに対応する波長である。
【0064】
また、光電変換素子420における各々の光電変換セルごとに割り当てた波長の光が、極力、対応する光電変換セルを透過して下の光電変換セルで吸収されることがないように、各々の光電変換セルとなる光吸収層の厚さ等が調整されて形成されている。また、逆に、下側の光電変換セルで吸収させる波長の光が上側の光電変換セルで吸収されることがないように、下側の光電変換セルを形成している材料のバンドギャップは、それよりも上側の光電変換セルを形成している材料よりも50meV以上、更には、100meV以上小さいことが好ましい。尚、本実施の形態においては、下側の光電変換セルを形成している材料のバンドギャップは、それよりも上側の光電変換セルを形成している材料よりも80meV小さくしている。
【0065】
更には、
図6に示される光電変換素子420のGaInPセル427の上、即ち、光が入射する側に、トンネル接合層を介して、不図示のAlGaInP(2.02eV)セルを形成して、7接合太陽電池としてもよい。この場合、このAlGaInPセルにおいて吸収されるレーザ光の波長は、608nm程度が好ましいが、GaAs系では動作させるのが困難であることから、GaN系材料による450nmや530nmの半導体レーザ等を用いてもよい。
【0066】
本実施の形態における多接合太陽電池は、各光電変換セルが直列に接続されており、波長帯を分割して光電変換する。得られる電流量は、最も電流量の小さな光電変換セルの電流量に制約を受ける。光源が太陽光の場合は、朝、晩と日中の太陽光スペクトルは異なり、気象変化や場所、時期などでも太陽光スペクトルは異なる。このため太陽光を受光する多接合太陽電池は波長分割数、接合数が多くなるほどスペクトル変化に弱くなり、各々の光電変換セルの電流量変動の影響を受ける。しかしながら、本実施の形態における給電システムでは、光電変換素子420において、接合される光電変換セルの数が多くても、対応するレーザ光源の出力を調整し最適にすることができる。このため、太陽光を受光する場合と比較して、給電システムにおいては、光電変換素子420における光電変換セルの接合数の増加は有利に働き、接合数が多いほど、高効率で給電することが可能となる。また、接合数が増えると、出力電圧が増加し出力電流が減少するので熱発生量(I2R)が減少する。これにより、より高出力の光を照射しても高効率で発電することができる。
【0067】
尚、上記以外の内容については、第1の実施の形態と同様である。
〔第4の実施の形態〕
次に、第4の実施の形態について説明する。本実施の形態は、受光装置200の受光部210は、
図7に示されるように、光電変換素子220の光が入射する側に集光素子230が設けられており、光が入射する側とは反対側のGe基板側にヒートシンク231が設けられている。
【0068】
集光素子230は、レンズ等であり、光出力装置100の光出力部110より出射されたレーザ光を集光し、光電変換素子220に入射させる。
【0069】
受光装置200においては、コスト等の観点より光電変換素子220である多接合太陽電池の面積はできるだけ小さいことが好ましことから、光出力装置100の光出力部110より出射されたレーザ光の断面積より小さい場合がある。本実施の形態では、多接合太陽電池の受光面積が小さくても、レンズ等の集光素子230を用いて集光して、多接合太陽電池に入射させることにより、光出力装置100の光出力部110より出射されたレーザ光を多接合太陽電池に入射させることができる。
【0070】
尚、光出力装置100の光出力部110より出射されるレーザ光は、平行光にして出射することが好ましいが、光出力装置100と受光装置200との距離が離れていると、多接合太陽電池に入射するまでに、レーザ光が広がってしまう場合がある。本実施の形態は、レーザ光が広がった場合であっても、レンズ等の集光素子230により、広がったレーザ光を集光して多接合太陽電池に入射させることができる。更には、安全面から意図的に、光出力装置100の光出力部110より出射されるレーザ光の光密度を低くするため、レーザ光の断面積を大きくする場合も考えられる。このような場合であっても、本実施の形態においては、レンズ等の集光素子230により、広がったレーザ光を集光して多接合太陽電池に入射させることができる。この場合、光出力部110より出射されたレーザ光が例えば1Sun(1kW/m2)未満であっても、受光装置200の光電変換素子220に入射する光のエネルギー密度を1Sun(1kW/m2)以上とすることができる。
【0071】
また、本実施の形態においては、レンズ等の集光素子230により、レーザ光を集光して多接合太陽電池に入射させるため、高い光密度のレーザ光が多接合太陽電池に入射する。このため、多接合太陽電池の温度が高くなり、放熱が必要となる場合があることから、光電変換素子220において光が入射する側の反対側に、ヒートシンク231を設け、光電変換素子220において生じた熱を放熱することができるように形成されている。
【0072】
多接合太陽電池の面積は比較的狭く、多接合太陽電池よりも面積の広いヒートシンク231を多接合太陽電池の裏面側に接合することにより、多接合太陽電池において生じた熱が、ヒートシンク231内を広がるように拡散させることができる。これにより、効率よく放熱をすることが可能となる。
【0073】
図8に、
図7に示す受光部210が複数アレイ状に配置された構成を示す。
図8は、光が入射する方向から見た概要図である。
図8では、集光素子230を省略してある。
図8に示すように、
図7に示す複数の集光型の受光部210を二次元に配置してもよい。例えば、光電変換素子220と集光素子230とを含む集光型の受光部210を二次元に配置してもよい。すなわち、光電変換素子220と集光素子230との対が複数設けられていてもよい。また、
図7に示す複数の集光型の受光部210を一次元に(直線状に)一次元に配置してもよい。複数の集光型の受光部210を用いることで、入射してくる伝搬光を複数の集光素子230で分割してそれぞれの光電変換素子220で受光することができる。一式の集光素子230と光電変換素子220とでは放熱に限界があるが、
図8に示す構成によれば、発熱源となる多接合太陽電池を分割して離して配置することができ、効率的な放熱が可能となる。
【0074】
尚、上記以外の内容については、第1の実施の形態と同様である。また、本実施の形態は、第2の実施の形態及び第3の実施の形態にも適用可能である。
〔第5の実施の形態〕
次に、第5の実施の形態について説明する。本実施の形態は、
図9に示されるように、受光装置200における受光部210には、化合物半導体により形成された多接合太陽電池である光電変換素子320の周囲に、Siにより形成された補助用光電変換素子521が設けられている構造のものである。
図9は、本実施の形態における光電変換素子320及び補助用光電変換素子521において光が入射する方向から見た概要図である。補助用光電変換素子521は、光電変換素子320である多接合太陽電池を構成する光電変換セルのうち最もバンドギャップの小さい光電変換セルのバンドギャップ以下のバンドギャップを有する材料により形成されており、単接合の太陽電池である。具体的には、本実施の形態においては、GaAsよりもバンドギャップが小さいSi(1.1eV)太陽電池により形成されている。尚、補助用光電変換素子521を形成する材料は、Siに限定されることはなく、GaAs等により形成してもよい。
【0075】
本実施の形態は、光電変換素子320が補助用光電変換素子521の上に設けられていてもよく、
図10に示されるように、光電変換素子320の周囲に、光電変換素子320を囲むように、複数の補助用光電変換素子521を設けたものであってもよい。また、光電変換素子320に対して集光素子を設けたものであってもよく、設けないものであってもよい。光電変換素子320に対して集光素子が設けられた場合、太陽の散乱光など集光素子では集光できない環境光等の受光も可能となる。更に、
図11に示すように、ヒートシンク231の光電変換素子320が接合されている領域の周囲に、補助用光電変換素子521を設けたものであってもよく、補助用光電変換素子521上に光電変換素子320を配置し、補助用光電変換素子521をヒートシンク231に配置してもよい。もちろん、
図8に示す例のように、複数の受光部310を二次元に配置したものであってもよい。
【0076】
光出力装置100の光出力部110より出射されたレーザ光は、受光装置200における光電変換素子320を狙って照射するが、レーザ光が光電変換素子320の周囲に、はみ出す場合があり、この場合には、はみ出した分のレーザ光は、電力には変換されない。このため、本実施の形態においては、光電変換素子320の周囲に補助用光電変換素子521を設けることにより、光電変換素子320よりはみ出した分のレーザ光も補助用光電変換素子521において吸収し、電力に変換することができる。
【0077】
補助用光電変換素子521は、光電変換素子320である多接合太陽電池を形成している光電変換セルのうち最もバンドギャップの小さい光電変換セル以下のバンドギャップを有する材料により形成されているため、バンドギャップ差分のエネルギーの損失はあるものの、補助用光電変換素子521により光出力部110より出射されたすべての波長のレーザ光を吸収し、光電変換することができる。このような、補助用光電変換素子521を光電変換素子320の周囲に設けることにより、補助用光電変換素子521が設けられていない場合と比べて、電力伝送効率を向上させることができる。尚、補助用光電変換素子521がSiにより形成されている場合には、広い面積のものであっても比較的低価格である。
【0078】
尚、上記以外の内容については、第1の実施の形態と同様である。また、本実施の形態は、第2の実施の形態及び第3の実施の形態にも適用可能である。
〔第6の実施の形態〕
次に、第6の実施の形態について説明する。本実施の形態は、
図12に示されるように、光源610の光出射部に、安全性を確保して出射光を空間に伝搬させるために、光源610から出射された光のアイセーフ性を高めるための光学素子620を配置したものである。光源610は、例えば、光出力部110に含まれるレーザ光源である。具体的には、光源610から出射された光を並行光にして伝搬させるためのレンズ等の光学素子630が設けられており、光源610と光学素子630との間にアイセーフ性を高めるための光学素子620が、光源610に近接して配置されている。光学素子620は、例えば、光密度を下げたり、レーザ光である場合にコヒーレント性を落としたりするために、光を散乱させたり、拡散させたり、分割させたり、輝度分布をコントロールする拡散板や回折光学素子等の光学素子である。これにより、光源610から出射された光のエネルギー密度を目に安全な密度で空間を伝搬させることができるとともに、その上限出力を高くすることができる。
【0079】
この場合、受光装置200は、第4の実施の形態に示す集光素子230を含んだ受光装置であることが好ましい。この場合、光電変換素子220の面積を小さくできる。これにより、上記のようにアイセーフ性を確保するために広げた光を受光部210で集光して光束より小さな面積の光電変換素子220に入射させることができる。更に、
図8に示す例のように、複数の受光部210を二次元に配置したり、複数の受光部210を一次元に配置したりすることで、トータルで、より高出力の光を、アイセーフ性を確保して給電することができる。なお、これらは第5の実施の形態のように補助用光電変換素子521も用いた構成としてもよい。
【0080】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0081】
100 光出力装置
101 光出力側出射部
110 光出力部
111 第1のレーザ光源
112 第2のレーザ光源
113 第3のレーザ光源
120 電源部
121 第1の電源
122 第2の電源
123 第3の電源
130 アライメント用撮像部
140 アライメント用光源
150 光出力側通信部
160 角度調整部
170 光出力制御部
200 受光装置
210 受光部
220 光電変換素子
221 Ge基板
222 Geセル(0.67eV)
223 GaInAsセル(1.40eV)
224 GaInPセル(1.88eV)
240 アライメント用受光素子
250 受光側通信部
270 受光制御部
610 光源
620 光学素子
630 光学素子
【先行技術文献】
【特許文献】
【0082】
【非特許文献】
【0083】
【文献】S. Fafard, M. C. A. York, F. Proulx, C. E. Valdivia, M. M. Wilkins, R. Ares, V. Aimez, K. Hinzer, and D. P. Masson, "Ultrahigh efficiencies in vertical epitaxial heterostructure architectures", Applied Physics Letters 108, 071101 (2016).