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特許7508932画像処理装置、画像処理方法、及び画像処理システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理方法、及び画像処理システム
(51)【国際特許分類】
   H04N 1/60 20060101AFI20240625BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
H04N1/60
G06T1/00 510
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020131204
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022027294
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】相▲崎▼ 友保
【審査官】橋爪 正樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-111801(JP,A)
【文献】特開2018-098630(JP,A)
【文献】特開2016-201620(JP,A)
【文献】特開2016-015647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 1/46- 1/64
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の画像出力機手段が原稿画像データを出力した第一の出力結果の色を、第二の画像出力機手段が前記原稿画像データを出力した第二の出力結果において再現する画像処理装置であって、
読取装置が前記第一の出力結果を読み取った第一の出力画像データと前記原稿画像データの位置を合わせる第一の幾何学変換パラメータを推定し、読取装置が前記第二の出力結果を読み取った第二の出力画像データと前記原稿画像データの位置を合わせる第二の幾何学変換パラメータを推定する幾何学変換パラメータ推定部と、
前記第一の幾何学変換パラメータと前記第二の幾何学変換パラメータとに基づいて、前記原稿画像データの画素に対応する、前記第一の出力画像データ及び前記第二の出力画像データの色成分の組合せが対応付けられた画素値対応付けデータを生成する画素値対応付け部と、
前記画素値対応付けデータに基づいて、前記原稿画像データから前記第一の出力画像データと前記第二の出力画像データとの色ズレを推定する単一の色ズレ特性を決定する色ズレ特性決定部と、
前記単一の色ズレ特性に基づいて、前記原稿画像データに色変換を施す色変換部と、を有する
画像処理装置。
【請求項2】
前記色ズレ特性決定部は、前記原稿画像データの複数の色成分値を基にした多次元のデータを用いて前記単一の色ズレ特性を決定する
請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
画像データをデバイス非依存の色空間に変換する色空間変換部を有し、
前記色ズレ特性決定部は、前記色空間変換部により前記デバイス非依存の色空間に変換された前記第一の出力画像データ及び前記第二の出力画像データを用いて前記単一の色ズレ特性を決定する
請求項1、又は2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記画素値対応付け部は、前記画素値対応付けデータから、前記原稿画像データ、前記第一の出力画像データ、又は前記第二の出力画像データにおけるコンテンツの輪郭部分を除外する
請求項1乃至3の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記画素値対応付け部は、前記画素値対応付けデータをデータクレンジングする
請求項1乃至4の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記画素値対応付け部は、前記原稿画像データの色空間全域にダミーデータを追加する請求項1乃至5の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記画素値対応付けデータの色空間を複数の部分色空間に分割する色空間分割部を有し、
前記色ズレ特性決定部は、前記画素値対応付けデータに基づいて、前記複数の部分色空間ごとに前記単一の色ズレ特性を決定する
請求項1乃至6の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記色空間分割部は、前記画素値対応付けデータの色空間を所定の間隔で分割する
請求項7に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記色空間分割部は、前記画素値対応付けデータの色空間における画素値の出現頻度分布又は画素値の累積出現頻度に基づき分割する
請求項7、又は8に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記色空間分割部は、前記画素値対応付けデータの色空間をクラスタ分析により分割する
請求項7乃至9の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項11】
前記色空間分割部は、前記画素値対応付けデータの色空間を、色相、明度、及び彩度が表現可能な色空間に変換し、変換後のそれぞれの色空間を、色相、明度、又は彩度のうち少なくとも1つを用いて分割する
請求項7乃至10の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項12】
前記色空間分割部は、前記変換後の色空間を、色相、明度、又は彩度のうち少なくとも1つを用いたクラスタ分析により分割する
請求項11に記載の画像処理装置。
【請求項13】
分割された前記画素値対応付けデータの複数の部分色空間ごとに、画素値対応付け代表データを決定する代表データ決定部を有し、
前記色ズレ特性決定部は、前記画素値対応付け代表データに基づいて、前記単一の色ズレ特性を決定する
請求項7乃至12の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項14】
前記代表データ決定部は、前記色空間分割部が分割した複数の部分色空間に含まれるデータ数に応じて、前記画素値対応付け代表データのデータ数を決定する
請求項13に記載の画像処理装置。
【請求項15】
前記第一の出力結果の地色を表す第一の地色と、前記第二の出力結果の地色を表す第二の地色の少なくとも一つに基づいて、前記第一の出力画像データ又は前記第二の出力画像データを補正する地色補正部を有し、
前記画素値対応付け部は、前記第一の幾何学変換パラメータと前記第二の幾何学変換パラメータとに基づいて、前記原稿画像データの画素に対応する前記地色補正部により補正された前記第一の出力画像データ、及び前記地色補正部により補正された前記第二の出力画像データの色成分の組合せが対応付けられた前記画素値対応付けデータを生成する
請求項1乃至14の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項16】
前記第一の幾何学変換パラメータに基づき前記第一の地色を検出するとともに、前記第二の幾何学変換パラメータに基づき前記第二の地色を検出する地色検出部を有し、
前記地色補正部は、前記第一の地色、又は前記第二の地色の少なくとも一つに基づいて、前記第一の出力画像データ又は前記第二の出力画像データを補正する
請求項15に記載の画像処理装置。
【請求項17】
前記地色補正部は、前記第一の地色と前記原稿画像データの白色点とが一致するように前記第一の出力画像データを補正し、前記第二の地色と前記原稿画像データの白色点とが一致するように前記第二の出力画像データを補正する
請求項15、又は16に記載の画像処理装置。
【請求項18】
前記地色補正部は、前記第一の地色と前記第二の地色とが一致するように、前記第一の出力画像データ又は前記第二の出力画像データを補正する
請求項15乃至17の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項19】
第一の画像出力機手段が原稿画像データを出力した第一の出力結果の色を、第二の画像出力機手段が前記原稿画像データを出力した第二の出力結果において再現する画像処理装置による画像処理方法であって、
読取装置が前記第一の出力結果を読み取った第一の出力画像データと前記原稿画像データの位置を合わせる第一の幾何学変換パラメータを推定し、読取装置が前記第二の出力結果を読み取った第二の出力画像データと前記原稿画像データの位置を合わせる第二の幾何学変換パラメータを推定する工程と、
前記第一の幾何学変換パラメータと前記第二の幾何学変換パラメータとに基づいて、前記原稿画像データの画素に対応する、前記第一の出力画像データ及び前記第二の出力画像データの色成分の組合せが対応付けられた画素値対応付けデータを生成する工程と、
前記画素値対応付けデータに基づいて、前記原稿画像データから前記第一の出力画像データと前記第二の出力画像データとの色ズレを推定する単一の色ズレ特性を決定する工程と、
前記単一の色ズレ特性に基づいて、前記原稿画像データに色変換を施す工程と、を行う
画像処理方法。
【請求項20】
原稿画像データから第一の出力結果を出力する第一の画像出力機手段と、前記原稿画像データから第二の出力結果を出力する第二の画像出力機手段と、前記第一の出力結果及び前記第二の出力結果を読み取る読み取り装置と、前記第二の出力結果の色を前記第一の出力結果の色に近づけるため単一の色ズレ特性を決定する情報処理装置と、を有する画像処理システムであって、
読取装置が前記第一の出力結果を読み取った第一の出力画像データと前記原稿画像データの位置を合わせる第一の幾何学変換パラメータを推定し、読取装置が前記第二の出力結果を読み取った第二の出力画像データと前記原稿画像データの位置を合わせる第二の幾何学変換パラメータを推定する幾何学変換パラメータ推定部と、
前記第一の幾何学変換パラメータと前記第二の幾何学変換パラメータとに基づいて、前記原稿画像データの画素に対応する、前記第一の出力画像データ及び前記第二の出力画像データの色成分の組合せが対応付けられた画素値対応付けデータを生成する画素値対応付け部と、
前記画素値対応付けデータに基づいて、前記原稿画像データから前記第一の出力画像データと前記第二の出力画像データとの色ズレを推定する単一の色ズレ特性を決定する色ズレ特性決定部と、
前記単一の色ズレ特性に基づいて、前記原稿画像データに色変換を施す色変換部と、を有する
画像処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置、画像処理方法、及び画像処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷装置や表示装置等の画像出力機手段で出力画像の色合わせを行う際に、画像出力機手段で出力したカラーチャートの測色結果に基づき、画像出力機手段の色特性を更新する方法が知られている。
【0003】
また、カラーチャートを用いずに出力画像の色合わせを行うために、2つの画像出力機手段のそれぞれの色特性を示す2つの写像の決定結果に基づき、出力画像の色変換を行う構成が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、出力画像の色合わせを高精度に行えない場合がある。
【0005】
本発明は、出力画像の色合わせを高精度に行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る画像処理装置は、第一の画像出力機手段が原稿画像データを出力した第一の出力結果の色を、第二の画像出力機手段が前記原稿画像データを出力した第二の出力結果において再現する画像処理装置であって、読取装置が前記第一の出力結果を読み取った第一の出力画像データと前記原稿画像データの位置を合わせる第一の幾何学変換パラメータを推定し、読取装置が前記第二の出力結果を読み取った第二の出力画像データと前記原稿画像データの位置を合わせる第二の幾何学変換パラメータを推定する幾何学変換パラメータ推定部と、前記第一の幾何学変換パラメータと前記第二の幾何学変換パラメータとに基づいて、前記原稿画像データの画素に対応する、前記第一の出力画像データ及び前記第二の出力画像データの色成分の組合せが対応付けられた画素値対応付けデータを生成する画素値対応付け部と、前記画素値対応付けデータに基づいて、前記原稿画像データから前記第一の出力画像データと前記第二の出力画像データとの色ズレを推定する単一の色ズレ特性を決定する色ズレ特性決定部と、前記単一の色ズレ特性に基づいて、前記原稿画像データに色変換を施す色変換部と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、出力画像の色合わせを高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る画像処理システムの全体構成例の図である。
図2】第1実施形態に係る画像処理システムのハードウェア構成例の図である。
図3】実施形態に係るコンピュータのハードウェア構成例の図である。
図4】第1実施形態に係る画像処理システムの機能構成例のブロック図である。
図5】第1実施形態に係る画像処理システムによる処理例のフローチャートである。
図6】不安定な色ズレ特性決定結果例の図である。
図7】ダミーデータを追加した色ズレ特性決定結果例の図である。
図8】第2実施形態に係る画像処理システムの全体構成例の図である。
図9】第2実施形態に係る画像処理システムの機能構成例のブロック図である。
図10】第2実施形態に係る画像処理システムによる処理例のフローチャートである。
図11】第3実施形態に係る画像処理システムの機能構成例のブロック図である。
図12】第3実施形態に係る画像処理システムによる処理例のフローチャートである。
図13】等間隔で分割する場合を説明する図である。
図14】不等間隔で分割する場合を説明する図である。
図15】画素数の累積頻度を用いる場合を説明する図である。
図16】画素数の頻度分布を用いる場合を説明する図である。
図17】色数が同数となるように分割する場合を説明する図である。
図18】クラスタ分析を用いて分割する場合を説明する図であり、(a)は2次元空間にプロットした図(b)は3次元空間にプロットした図である。
図19】第4実施形態に係る画像処理システムによる処理例のフローチャートである。
図20】色相を用いて分割する場合を説明する図である。
図21】明度を用いて分割する場合を説明する図である。
図22】彩度を用いて分割する場合を説明する図である。
図23】クラスタ分析を用いて分割する場合を説明する図である。
図24】第5実施形態に係る画像処理システムの機能構成例のブロック図である。
図25】第5実施形態に係る画像処理システムによる処理例のフローチャートである。
図26】第6実施形態に係る色変換処理例のフローチャートである。
図27】R軸、G軸、B軸をそれぞれ等間隔で2分割した場合の図である。
図28】R軸、G軸、B軸をそれぞれ不等間隔で2分割した場合の図である。
図29】256階調を不等間隔で2分割した場合の説明図である。
図30】第7実施形態に係る画像処理システムの機能構成例のブロック図である。
図31】第7実施形態に係る画像処理システムによる処理例のフローチャートである。
図32】基準読取画像データの地色補正前後のRGB値を示す図である。
図33】第8実施形態に係る画像処理システムによる処理例のフローチャートである。
図34】ユーザ読取画像データの地色補正前後のRGB値を示す図である。
図35】第9実施形態に係る画像処理システムによる処理例のフローチャートである。
図36】ユーザ読取画像データの地色補正前後のRGB値を示す図である。
図37】第10実施形態に係る画像処理システムの機能構成例のブロック図である。
図38】第10実施形態に係る画像処理システムによる処理例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部には同一符号を付し、重複した説明を適宜省略する。また以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための画像処理装置を例示するものであって、本発明を以下に示す実施形態に限定するものではない。
【0010】
実施形態では、第一と第二の画像出力機器間の色を合わせるために原稿画像データに色変換を施す。この際に、第一の画像出力機手段の第一の出力画像データ及び第二の画像出力機手段の第二の出力画像データのそれぞれと、原稿画像データとの色ズレを推定する1つの写像を決定し、この写像に基づき、原稿画像データに色変換を施す。複数の写像を用いずに色変換を施すことで、色ズレの推定誤差を抑制して高精度に色合わせを行う。
【0011】
[第1実施形態]
本実施形態では、第一と第二の画像出力機器間の色を合わせるために原稿画像データに色変換を施す流れを、以下の機器の組合せを例として説明する。
・第一の画像出力機器:プリンタ (「基準プリンタ」と呼ぶ)
・第二の画像出力機器:プリンタ (「ユーザプリンタ」と呼ぶ)
・画像読取装置:スキャナ
また、以降で使用する用語を以下のように定義する。
・基準プリンタ:第一の画像出力機手段の一例に対応し、色が合わせられる目標となるプリンタ
・ユーザプリンタ:第二の画像出力機手段の一例に対応し、基準プリンタに色を合わせたいプリンタ
・スキャナ:読取装置の一例に対応
・原稿画像データ:プリンタが印刷物を出力する際に用いる画像データ
・基準印刷物:原稿画像データを基準プリンタで出力した、色合わせの目標とされる印刷物
・基準読取画像データ:第一の出力画像データの一例に対応し、基準印刷物を画像読取装置で読み取って得られる画像データ
・ユーザ印刷物:原稿画像データをユーザプリンタで出力した、基準印刷物に色を合わせたい印刷物
・ユーザ読取画像データ:第二の出力画像データの一例に対応し、ユーザ印刷物を画像読取装置で読み取って得られる画像データ
実施形態では、基準印刷物とユーザ印刷物とを用い、ユーザプリンタに与える原稿画像データに色変換を行うことによって、基準印刷物の色と同等の色のユーザ印刷物が得られるようにする。
【0012】
色変換を行う装置は、第二の画像出力機器でもスキャナでもよいし、これらとは別体のコンピュータでもよい。本実施形態では、コンピュータが色変換を行うものとして説明する。このコンピュータは、情報処理装置の一例に対応し、また画像処理装置の一例に対応する。
【0013】
<画像処理システム600の全体構成例>
図1は、本実施形態に係る画像処理システム600の全体構成の一例を示す図である。 図1に示すように、画像処理システム600は、ネットワーク500を介して接続された、コンピュータ100と、ユーザプリンタ200と、スキャナ300とを有する。なお、ユーザプリンタ200の代わりにオフセット印刷機やグラビア印刷機などを用いてもよく、また、スキャナ300の代わりに分光測色器やカメラを用いてもよい。
【0014】
基準プリンタ400は、画像処理システム600のユーザ側に存在していないためにネットワークに接続されていないが、接続されていてもよい。画像処理システム600のユーザは、基準プリンタ400が基準読取画像データを出力した基準印刷物をすでに取得しているか、取得することができる。
【0015】
ネットワークは、社内LAN、広域LAN(WAN)、IP-VNP(Virtual Private Network)、インターネットVPN、又は、インターネットなどである。これらが組み合わされたネットワーク等、コンピュータ100、ユーザプリンタ200、及び、スキャナ300が通信可能であればよい。一部に電話回線を含んでいてもよく、また、有線接続か無線接続は問わない。
【0016】
なお、同じ一台のプリンタで過去と現在の色を合わせる場合など、基準プリンタ400とユーザプリンタ200はそれぞれ異なる装置である必要はない。また、基準プリンタ400及びユーザプリンタ200は、プリンタ機能を有していれば、スキャナ機能、FAX機能及びコピー機能の1つ以上を有していてもよい。同様に、スキャナ300は、スキャナ機能を有していれば、プリンタ機能、FAX機能及びコピー機能の1つ以上を有していてもよい。複数の機能を有する装置はMFP(Multifunction Peripheral)と称されることがある。
【0017】
コンピュータ100は、基準プリンタ400が基準印刷物の出力に使用した原稿画像データ、基準印刷物をスキャナ300が読み取った基準読取画像データ、及び、ユーザプリンタ200が原稿画像データを出力したユーザ印刷物をスキャナ300が読み取ったユーザ読取画像データ、の3つの画像データから基準読取画像データとユーザ読取画像データとの色ズレを推定する写像を決定する。原稿画像データは、ユーザプリンタ200が予め記憶しておいてもよいし、基準プリンタ400から取得してもよい。コンピュータ100、ユーザプリンタ200、及びスキャナ300は一台のMFPに搭載することもできる。
【0018】
<ハードウェア構成>
図2は、画像処理システム600のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。画像処理システム600は、画像入力部601と、画像出力部602と、画像記憶部603と、画像解析部604と、パラメータ記憶部605と、画像処理部606とを有する。
【0019】
画像入力部601は、画像出力機器により出力された画像を入力するものであり、図1ではスキャナ300が相当する。画像記憶部603は、画像入力部601が入力を受け付けた画像データを記憶するものであり、図1ではコンピュータ100が相当する。画像解析部604は、基準読取画像データ、ユーザ読取画像データ、及び、原稿画像データを解析して基準読取画像データとユーザ読取画像データとの色ズレを推定する写像を決定するもので、図1ではコンピュータ100が相当する。パラメータ記憶部605は、画像を解析して得られた基準読取画像データとユーザ読取画像データとの色ズレを推定する写像を記憶するもので、図1ではコンピュータ100が相当する。画像処理部606は、得られた基準読取画像データとユーザ読取画像データとの色ズレを推定する写像に基づいて画像データを色変換するもので、図1ではユーザプリンタ200が相当する。画像出力部602は、色変換された画像を出力するもので、図1ではユーザプリンタ200が相当する。
【0020】
(コンピュータ100)
図3は、コンピュータ100のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。コンピュータ100はそれぞれバスで相互に接続されているCPU101と、RAM102と、ROM103と、記憶媒体装着部104と、通信装置105と、入力装置106と、描画制御部107と、HDD108とを有する。CPU101は、OS(Operating System)やプログラムをHDD108から読み出して実行することで種々の機能を提供すると共に、基準読取画像データとユーザ読取画像データとの色ズレを推定する写像を決定する。
【0021】
RAM102はCPU101がプログラムを実行する際に必要なデータを一時保管する作業メモリ(主記憶メモリ)になり、ROM103はBIOS(Basic Input Output System)やOSを起動するためのプログラム、静的なデータが記憶されている。
【0022】
記憶媒体装着部104には記憶媒体110が着脱可能であり、記憶媒体110に記録されたデータを読み込み、HDD108に記憶させる。また、記憶媒体装着部104は、HDD108に記憶されたデータを記憶媒体110に書き込むこともできる。記憶媒体110は例えば、USDメモリ、SDカード等である。プログラム111は、記憶媒体110に記憶された状態や不図示のサーバからダウンロードすることで配布される。
【0023】
入力装置106は、キーボードやマウス、トラックボールなどであり、コンピュータ100へのユーザの様々な操作指示を受け付ける。
【0024】
HDD108は、SSD等の不揮発メモリでもよく、OS、プログラム、画像データなどの各種のデータが記憶されている。
【0025】
通信装置105は、インターネットなどのネットワークに接続するためのNIC(Network Interface Card)であり、例えば、イーサネット(登録商標)カードである。
【0026】
描画制御部107は、CPU101がプログラム111を実行してグラフィックメモリに書き込んだ描画コマンドを解釈して、画面を生成しディスプレイ109に描画する。
【0027】
<画像処理システム600の機能構成例>
図4は、画像処理システム600の機能構成の一例を示すブロック図である。なお、図4に示す機能をMFPが実現する構成にしてもよい。この点は、以降で示す他の実施形態に係る画像処理システムにおいても同様である。
【0028】
画像処理システム600は、画像読み取り部301と、幾何学変換パラメータ推定部302と、画素値対応付け部303と、色ズレ特性決定部304と、色変換部305とを有する。
【0029】
画像読み取り部301は原稿画像データの出力結果である基準印刷物及びユーザ印刷物を読み取り、基準読取画像データ及びユーザ読取画像データを取得する。また画像読み取り部301は、スキャナ300のカラープロファイルを用いて、基準読取画像データ及びユーザ読取画像データのそれぞれをデバイス非依存の色空間に変換する色空間変換部の一例である。
【0030】
幾何学変換パラメータ推定部302は、原稿画像データと基準読取画像データ、原稿画像データとユーザ読取画像データのそれぞれの幾何学変換パラメータを推定する。原稿画像データと基準読取画像データの幾何学変換パラメータは、第一の幾何学変換パラメータに対応し、原稿画像データとユーザ読取画像データの幾何学変換パラメータは第二の幾何学変換パラメータに対応する。
【0031】
幾何学変換パラメータとしては、変位量や回転角、変倍率等が挙げられる。これらのパラメータの推定には、マーカーを用いる方法や、マーカーを用いない特徴点マッチング法や位相限定法等の公知の技術を適用可能である。
【0032】
ここで、マーカーを用いる方法は、「トンボ」と呼ばれるマーカーを原稿画像データの四隅や各辺の中央に配置したうえで出力し、基準読取画像データを読み取った際に、このマーカーの位置ずれを用いて変位量や回転角、変倍率を求める方法である。
【0033】
特徴点マッチング法は、SIFT(Scale-Invariant Feature Transform)やSURF(Speeded Up Robust Features)、KAZE(日本語で「風」を意味する)等の特徴点を二枚の画像から抽出する方法である。なお、抽出する特徴点は上記に限定されるものではなく、画像から抽出できる特徴点であれば、いかなる特徴点でもよい。得られた特徴点同士を対応付け、対応点の位置のずれを用いて、変位量や回転角、変倍率を求めることができる。
【0034】
位相限定相関法は、画像に対して離散フーリエ変換を実行して得られる位相画像を用い、比較対象の二枚の画像から得られる二つの位相画像の相関が最も高くなる位置を検出して変位量を求める方法である。また、回転不変位相限定相関法は、上記位相画像を対数極座標変換することにより、回転角と変倍率を変換された位相画像上での変位量として検出可能にするものである。
【0035】
幾何学変換パラメータを取得後、幾何学変換パラメータ推定部302は、基準読取画像データに幾何学変換する。変換に際して、サブピクセル精度の移動や何らかの回転又は実数値での変倍等に起因して、変換前後の画素が一対一で対応付かない場合には、適宜、画素補間法を用いて画素値を算出することができる。画素補間法には、バイリニア法やバイキュービック法等が挙げられる。
【0036】
画素値対応付け部303は、幾何学変換パラメータを用いて、原稿画像データの画素に対応する位置の基準読取画像データの画素を検出し、それらの画素値を色成分の組合せごとに対応付けて画素値対応付けデータを作成する。同様に、幾何学変換パラメータを用いて、原稿画像データの画素に対応する位置のユーザ読取画像データの画素を検出し、それらの画素値を色成分の組合せごとに対応付けて画素値対応付けデータを作成する。
【0037】
色ズレ特性決定部304は、画素値対応付けデータを用いて、基準読取画像データとユーザ読取画像データとの色ズレを推定する色ズレ特性(写像)を決定する写像決定部の一例である。
【0038】
色変換部305は、基準読取画像データとユーザ読取画像データとの色ズレ特性を用いて、原稿画像データに色変換を施す。
【0039】
<画像処理システム600による処理例>
図5は、画像処理システム600による処理の一例を示すフローチャートである。
【0040】
まず、ステップS51において、画像読み取り部301は、基準プリンタ400が原画像データに基づいて印刷した基準印刷物を読み取り、基準読取画像データを取得する。基準読取画像データは、スキャナ300のカラープロファイルを用いてデバイス非依存の色空間に変換される。
【0041】
続いて、ステップS52において、画像読み取り部301は、ユーザプリンタ200が原画像データに基づいて印刷したユーザ印刷物を読み取り、ユーザ読取画像データを取得する。ユーザ読取画像データは、スキャナ300のカラープロファイルを用いてデバイス非依存の色空間に変換される。
【0042】
なお、デバイス非依存の色空間の例としては、デバイス非依存のRGB色空間やXYZ色空間、L*a*b*色空間等が挙げられる。また本実施形態では、画像読み取り部301にスキャナを用いるため、カラープロファイルを用いて基準読取画像データ及びユーザ読取画像データをそれぞれデバイス非依存の色空間に変換するが、スキャナ300の代わりに分光測色器等を用いて、直接、デバイス非依存の色空間の画像データを取得可能な場合には、このような変換は不要である。また、ステップS51とステップS52の順番は入替可能である。
【0043】
続いて、ステップS53において、幾何学変換パラメータ推定部302は、原稿画像データと基準読取画像データの位置を合わせる。2つの画像データの位置合わせを行うに先立って、幾何学変換パラメータ推定部302は、原稿画像データを基準とした場合の基準読取画像データの幾何学変換パラメータを取得する。
【0044】
なお、幾何学変換は必須ではなく、次ステップにおいて原稿画像データと基準読取画像データにおいて同じ位置の画素を取得する際に、幾何学変換パラメータを用いて座標変換を行ない、同じ位置であるか否かを判断することで代替してもよい。この場合は、各画像の原点を基準とする座標系では異なる座標値を保持していても、幾何学変換の結果、同じ座標値となる画素を「同じ位置の画素」とみなすことになる。
【0045】
原稿画像データに基づく印刷物には、画像の周囲に余白が存在する場合がある。この場合、幾何学変換の変位量に余白部分の高さや幅が含まれるため、余白部分を参照することはないが、基準読取画像データにおいて余白部分を排除するように必要な領域を切り出し、各画像における原点の位置を一致させることができる。
【0046】
続いて、ステップS54において、幾何学変換パラメータ推定部302は、原稿画像データとユーザ読取画像データの位置を合わせる。この位置合わせに関しては、ステップS53で説明したものと同様であるため、説明を省略する。
【0047】
続いて、ステップS55において、画素値対応付け部303は、原稿画像データと基準読取画像データの位置合わせ、並びに原稿画像データとユーザ読取画像データの位置合わせの完了後、三つの画像データにおいて対応する画素の画素値を取得し、これらを色成分の組合せごとに対応付けて、画素値対応付けデータを生成する。
【0048】
なお、画像データを幾何学変換して位置合わせを行う場合には、「対応する画素」は「同じ位置にある画素」である。一方、画像データを幾何学変換しない場合には、座標変換によって同じ座標値となる位置を「同じ位置」とし、その位置に存在する画素を「対応する画素」と見なす。
【0049】
画素値を色成分の組合せごとに対応付けて画素値対応付けデータを生成する方法としては、リスト形式で生成する方法等が挙げられる。本実施形態では、原稿画像データがCMYK画像データであり、基準読取画像データ及びユーザ読取画像データがデバイス非依存のL*a*b*画像データであるとして説明を行う。なお、CMYK画像データとは、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の色で表現される画像データをいう。
【0050】
ここで、リスト形式で記録する方法について説明する。画素値のリスト形成での生成は次の(1)乃至(4)の手順で行う。
(1)リストを一枚用意する
(2)原稿画像データのある座標を選択する
(3)上記(2)で選択された原稿画像データの画素のC成分値(Cin)と、M成分値(Min)と、Y成分値(Yin)と、K成分値(Kin)と、基準読取画像データの対応する画素のL*成分値(L*out1)、a*成分値(a*out1)と、b*成分値(b*out1)と、ユーザ読取画像データの対応する画素のL*成分値(L*out2)、a*成分値(a*out2)と、b*成分値(b*out2)と、を束ねてリストに追加する
(4)これを原稿画像データの全ての座標について繰り返す
これらのリストは必要に応じて昇順や降順に並び替えてもよい。処理を簡略化するために、原稿画像データの全ての座標について繰り返すのではなく、特定の範囲に限定したり、所定の刻み幅で座標を移動したりしてもよい。リスト形式で生成したデータの一例を以下の表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
(色ズレ特性の決定精度の向上例I)
画素値対応付けデータを生成する際には、画像データのコンテンツの輪郭部分を除外することが望ましい。これは、位置合わせにおいて、輪郭部分を完全に合わせることが困難であり、画素値の対応付けに誤りが発生してしまう可能性があるためである。画素値対応付けに誤りが発生してしまうと、色ズレ特性の決定精度が低下する場合がある。
【0053】
輪郭部分を検出する方法の例としては、二値化を用いる方法や、エッジ検出を用いる方法等が挙げられる。二値化を用いる方法としては、画像データを所定の閾値で白黒に二値化し、白い領域と黒い領域とが隣接する箇所を輪郭部分として判断する方法等が挙げられる。エッジ検出を用いる方法としては、画像データからSobel法等を用いてエッジ画像を生成し、これを所定の閾値で二値化して閾値以上の画素を輪郭部分として判断する方法等が挙げられる。
【0054】
輪郭部分を除去せずに、色ズレ特性の決定精度の低下を抑制する方法もある。例えば、画像データを平滑化して輪郭部分を滑らかにし、輪郭部分で出現する色差を低減するものである。平滑化には、平均化フィルタやローパスフィルタ等の公知技術を適用できる。
【0055】
(色ズレ特性の決定精度の向上例II)
また、画素値対応付けデータを生成する際には、データクレンジングを行う事が望ましい。データクレンジングとは、画素値対応付けデータの誤りや重複を洗い出し、異質データを取り除いて整理することをいう。データクレンジングによりデータの品質を高めることができる。
【0056】
ここで、「データの誤り」とは、画素値の対応付けに誤りが発生しているデータのことをいう。画素値対応付けに誤りが発生しているデータが含まれていると、色ズレ特性の決定精度が低下する場合がある。
【0057】
画素値対応付けデータの中から「データの誤り」を検出する方法としては、同じ原稿画像データの画素に対応する基準読取画像データとユーザ読取画像データとの色差を用いる方法等が挙げられる。また他に、色相差を用いる方法や、各色成分の差の絶対値を用いる方法等もある。
【0058】
ここで、色差を用いる方法について説明する。色差とは、L*a*b*色空間又はL*u*v*色空間における二つの色の距離である。本実施形態では、画像出力機手段としてプリンタを用いているため、L*a*b*色空間を用いて説明する。
【0059】
L*a*b*色空間の色差ΔE*abは以下の(1)式で定義される。
【0060】
【数1】
ここで、(ΔL*,Δa* ,Δb*)は、L*a*b*色空間における二色の色度差である。同じ原稿画像データの画素に対応する基準読取画像データの画素(L*out1、a*out1、b*out1)とユーザ読取画像データの画素(L*out2、a*out2、b*out2)ごとの色差を上式により算出する。
【0061】
対応する画素同士の色差が求まったら、対応付けに誤りが発生しているかを定量的に評価することができる。つまり、色差が所定の値を超える場合は、基準読取画像データとユーザ読取画像データが対応する位置にはない画素同士であると判断される。画素値の対応付けに誤りが発生していると判断されたデータは、画素値対応付けデータから除外する事でデータの品質を高めることができる。
【0062】
また、本実施形態では色差式にCIE1976色差式を用いて説明したが、この色差式に限定されるものではなく、CCIE1994色差式やCIE20000色差式、CMC(1:C)色差式等を用いることもできる。
【0063】
次に、色相差を用いる方法について説明する。L*a*b*色空間の色相差ΔH*abは次の(2)式で定義される。
【0064】
【数2】
ここで、ΔE*abは色差、(ΔL*,Δa*,Δb*)は二色の色度差、ΔC*abはクロマの差ある。クロマC*abは次の(3)式で定義される。
【0065】
【数3】
同じ原稿画像データの画素に対応する基準読取画像データの画素とユーザ読取画像データの画素との色相差を求める手順は色差を求める手順と同じであるが、色差ではなく色相差を算出する。また判定方法も同様である。
【0066】
次に、各色成分の差の絶対値を用いる方法について説明する。所定の色空間において、同じ原稿画像データの画素に対応する基準読取画像データの画素とユーザ読取画像データの画素との各色成分の差の絶対値を取り、評価を行う方法である。L*a*b*色空間を例に取れば、L*成分値の絶対値の差、a*成分値の絶対値の差、b*成分値の絶対値の差を使用できる。
【0067】
ここで、「データの重複」について説明する。「データの重複」とは、画素値対応付けデータにおいて原稿画像データの色成分値の組合せ(Cin、Min、Yin、Kin)が同一であるデータの事を指す。重複データの一例を以下の表2に示す。
【0068】
【表2】
このように重複したデータによっても、色ズレ特性の決定精度が低下する場合があり、さらにはデータ数が増加することで処理速度を低下させる場合もある。そのため、本実施形態では重複データを統合し、データ数を削減する。
【0069】
重複データを統合する方法として、重複データの平均値を用いる方法、重複データの中央値を用いる方法、重複データの最頻値を用いる方法等が挙げられる。表2の重複データを平均値で統合した例を表3に示す。
【0070】
【表3】
この例では重複した6件のデータを1件に統合することで5件のデータ削減が行われている。
【0071】
(色ズレ特性の決定精度の向上例III)
また、画素値対応付けデータは、原稿画像データの色空間全域に分布している事が望ましい。原稿画像データに含まれていない色に関しては、色ズレ特性を推定する必要はないが、「色ズレ特性の決定精度の向上例I」や「色ズレ特性の決定精度の向上例III」でデータを除外したことにより、原稿画像データに含まれている色が画素値対応付けデータに含まれなくなる場合がある。この場合には、画素値対応付けデータに含まれていない色に関しては、色ズレ特性の決定が不安定になる。
【0072】
ここで図6は、色ズレ特性の決定が不安定になる場合の一例を説明する図である。図6の横軸は原稿画像データの色を示し、縦軸は色ズレ量を表す。ここで色ズレ量とは、原稿画像データの画素ごとに、目標の色味である基準読取画像データの色味に対して、ユーザ読取画像データの色味がどれくらい異なっているかを示す量をいう。
【0073】
図6における黒丸のプロット「●」は画素値対応付けデータに含まれているデータを表している。また図6における点線のグラフは、画素値対応付けデータから4次の多項式近似で色ズレ特性を決定した結果を表している。
【0074】
図6から、画素値対応付けデータにデータが含まれていない領域(原稿画像データの色が70より上)では、色ズレ特性の決定が不安定となっていることが分かる。原稿画像データにこの領域のデータが含まれなければ色ズレ特性の決定が不安定であっても色合わせに影響はないが、原稿画像データにこの領域のデータが含まれると、意図しない色合わせ結果が得られる。
【0075】
このような意図しない色合わせを抑制するため、原稿画像データの色空間全域に画素値対応付けデータが分布するようにダミーデータを追加する方法が挙げられる。ここでダミーデータとは、原稿画像データの色空間全域に配置した色ズレ量0のデータの事を指す。
【0076】
図7は、ダミーデータを追加した一例を示す図である。図7における菱形のプロット「◆」は、追加したダミーデータを表している。図7から、ダミーデータを追加することで、画素値対応付けデータにデータが含まれていない領域(70より上)でも、色ズレ特性の決定が不安定とならず、色ズレ量0近傍に安定化できていることが分かる。
【0077】
色ズレ量0近傍であれば、色合わせ前後の色変動量は少なく、意図しない色合わせ結果を抑制することができる。
【0078】
ここで、図5に戻り、画像処理システム600による処理の説明を続ける。
【0079】
図5のステップS56において、色ズレ特性決定部304は、ステップS55で生成された画素値対応付けデータに基づいて色ズレ量を算出して画素値対応付けデータに追記する。この色ズレ量は次の(4)式で算出される。
【0080】
【数4】
(4)式におけるL*out1(n) は画素値対応付けデータに登録されているn番目の基準読取画像データのL* 成分値を表し、L*out2(n) は画素値対応付けデータに登録されているn番目のユーザ読取画像データのL* 成分値を表している。同様にa*out1(n) は画素値対応付けデータに登録されているn番目の基準読取画像データのa* 成分値を表し、a*out2(n)は画素値対応付けデータに登録されているn番目のユーザ読取画像データのa* 成分値を表している。またb*out1(n)は、画素値対応付けデータに登録されているn番目の基準読取画像データのb* 成分値を表し、b*out2(n)は画素値対応付けデータに登録されているn番目のユーザ読取画像データのb* 成分値を表している。
【0081】
ここで、色ズレ量を追記した画素値対応付けデータの一例を、以下の表4に示す。
【0082】
【表4】
なお、ステップS56の処理は画素値対応付け部303が行ってもよい。
【0083】
続いて、ステップS57において、色ズレ特性決定部304は、画素値対応付けデータを用いて、原稿画像データの色成分値(Cin, Min, Yin, Kin)から色ズレの色成分値(L*diff, a*diff, b*diff)への変換を行う際の対応関係を表す色ズレ特性を決定する。
【0084】
色ズレ特性を決定する方法としては、次の(5)式のような多項式関数近似等が挙げられる。
【0085】
【数5】
(5)式におけるXは原稿画像データの色成分値[Cin, Min, Yin, Kin]tを表し、Yは色ズレの色成分値[L*diff, a*diff, b*diff]tを表し、MSは補正係数行列を表し、f(X) は補正関数を表している。補正関数f(X)は、f(X)=[Cin, Min, Yin, Kin, Cin2, Min2, Yin2, Kin2, CinMin, CinYin, CinKin, MinYin, MinKin, YinKin, Cin3, Min3, Yin3, Kin3, ・・・, 1]t等が用いられる。
【0086】
原稿画像データと色ズレとの間に線形歪みが含まれる場合には、補正関数f(X)=[Cin, Min, Yin, Kin]tの4項に、4×3の補正係数行列MSを操作した線形変換による決定で十分な決定精度が得られる。しかし、原稿画像データと色ズレとの間に複雑な非線形歪みが含まれる場合には、高次の関数項を用いて高精度の色ズレ特性の決定が求められる場合がある。
【0087】
補正係数行列MSは、最小二乗法により算出できる。つまり、画素値対応付けデータに記憶されたN個の色ズレの色成分値Y(n)(n=1~N)に対応する原稿画像データの色成分値X(n)(n=1~N)を用いて、(6)式の平均二乗誤差の最小条件により、(7)式で算出できる。
【0088】
【数6】
【0089】
【数7】
YN及びXNはN個のデータ行列を表している。(8)式に示すYNは色ズレの色成分値行列であり、(9)式に示すXNは原稿画像データの色成分値行列である。
【0090】
【数8】
【0091】
【数9】
L*diff(n) は画素値対応付けデータに登録されているn番目の色ズレのL*成分値を表し、Cin(n) は画素値対応付けデータに登録されているn番目の原稿画像データのC成分値を表している。同様に、a*diff(n) は画素値対応付けデータに登録されているn番目の色ズレのa*成分値を表し、b*diff(n) は画素値対応付けデータに登録されているn番目の色ズレのb*成分値を表している。またMin(n) は画素値対応付けデータに登録されているn番目の原稿画像データのM成分値を表し、Yin(n) は画素値対応付けデータに登録されているn番目の原稿画像データのY成分値を表し、Kin(n) は画素値対応付けデータに登録されているn番目の原稿画像データのK成分値を表している。
【0092】
f(XN) は、原稿画像データの色成分値の関数項行列で、二次関数の場合を例にとれば、次の(10)式に示すような15×Nの行列となる。
【0093】
【数10】
なお、色ズレ特性に決定に用いる関数項は、複数の色成分値を基にした多次元のデータであれば、上述したものに限定されるものではない。また、色ズレ特性の決定方法の例として多項式近似を挙げたが、その他にも画素値対応付けデータを学習データに用いたサポートベクトル回帰やニューラルネットワーク等により色ズレ特性を決定することも可能である。
【0094】
また、ステップS55で生成された画素値対応付けデータにおいて、原稿画像データの全ての座標について対応関係を生成した場合には、色ズレをそのまま色ズレ特性として用いることもできる。
【0095】
続いて、ステップS58において、色変換部305は、決定された色ズレ特性を用いて色変換を施す。決定した色ズレ特性Msf(X)を用いて色変換を施す手順を以下の(1)乃至(3)に示す。
(1)ユーザプリンタ200でユーザ印刷物を印刷した際に使用した入力プロファイルを用いて、原稿画像データの色oからデバイス非依存の色o'を得る。ここで、入力プロファイルとは、デバイスに依存する色空間(RGB色空間、CMYK色空間等)からデバイス非依存の色空間への色変換特性が記述されたファイルである。
(2)原稿画像データの色o が対応付く色ズレ量d=Msf(o)を得る 。
(3)原稿画像データの色o を色(o'+d)に変換する。この色変換は、原稿画像データに直接反映させてもよいし、原稿画像データではなく印刷時の入力プロファイルに反映させてもよい。入力プロファイルに反映させる場合は、入力プロファイルの色変換テーブルの各格子点における入力値がo で、出力値が(o'+d)となることを表す。
【0096】
このようにして画像処理システム600は、出力画像の色合わせを行うことができる。
【0097】
<画像処理システム600の作用効果>
従来、印刷装置やディスプレイを初めとする画像出力機手段の色を合わせる際には、画像出力機手段を用いてカラーチャートを出力し、そのカラーチャートを測色して、各画像出力機手段のカラープロファイルを更新する方法が知られている。色を合わせる方法として、大きく二つの方法が考えられる。印刷装置を一例として、二つの方法(1)及び(2)を説明する。
【0098】
・方法(1):標準のカラーチャートに色を合わせる
標準として規定されたカラーチャートを印刷装置で印刷し、カラーチャートを構成する各カラーパッチを測色装置により測色して、得られた測色値と期待される値との差が所定の範囲に収まるように印刷装置のカラープロファイルを更新する。
【0099】
・方法(2):基準の印刷装置に色を合わせる
一例としては、プルーファの出力の色を印刷装置の出力画像の色に一致させるような方法が挙げられる。この場合、カラーチャートをプルーファと印刷装置のそれぞれで印刷し、それぞれのカラーチャートの各カラーパッチを測色装置により測色して、得られた測色値の差が所定の範囲に収まるようにプルーファのカラープロファイルを更新する。
【0100】
上記のパターン(1)及び(2)では、何れも基準となるカラーチャートが得られることが前提となっている。
【0101】
しかし、異なる画像出力機手段の出力結果の色を合わせる上記の方法(1)及び(2)は、基準のカラーチャートを利用できない条件下では適用できない場合がある。例えば、印刷業者が顧客から印刷業務を受注した際に、顧客のプリンタの出力結果に色を合わせるように要求される場合に、色を合わせる目標となる画像出力機手段からカラーチャートを出力できず、基準のカラーチャートを利用できなくなる。
【0102】
顧客側でカラーマネージメントが適切に行われていれば、印刷業者はこの様な条件下でも顧客の要求に応えることは可能である。しかしながら、顧客がカラーマネージメントに精通していない場合も少なくない。カラーマネージメントが適切に行われている例としては、画像出力機手段のキャリブレーションが定期的に行われている場合や、画像データの色がICCプロファイル等の標準化された仕組みに基づいて管理されている場合等が挙げられる。
【0103】
カラーチャートを利用できない条件下では、印刷業者は手作業により色合わせを行わなければならない。この作業は試行錯誤で行われるため、多大な時間を要すると共に、作業者の経験と勘に依存する。さらに、色合わせの結果は逐次印刷して確認されるため、用紙等の大量の記録媒体を浪費し、印刷業者にとって損失となる場合がある。なお、廃棄される紙は「損紙」と呼ばれる。
【0104】
仮にカラーチャートを利用できる条件下であっても、出力されたカラーチャートを構成するカラーパッチを測色する工程は非常に手間がかかる。以上のような背景から、異なる画像出力機手段の出力結果の色を、カラーチャートを用いずに合わせる機能が望まれている。
【0105】
また、カラーチャートを用いずに出力画像の色合わせを行うために、2つの画像出力機手段のそれぞれの色特性を示す2つの写像の決定結果に基づき、出力画像の色変換を行う構成が開示されている。
【0106】
しかし、写像の決定には少なからず誤差を含んでおり、決定する写像の個数分だけ誤差が積み上がり、高い精度で色を合わせることができない場合がある。また写像の決定処理を2回行うため、処理時間がかかり、高速に色合わせをできない場合がある。
【0107】
本実施形態では、基準プリンタ(第一の画像出力機手段)の基準読取画像データ(第一の出力画像データ)、並びにユーザプリンタ(第二の画像出力機手段)のユーザ読取画像データ(第二の出力画像データ)のそれぞれと、原稿画像データとの色ズレを推定する1つの写像を決定し、この写像に基づき、原稿画像データに色変換を施す。複数の写像を用いず、1つの写像を用いて色変換を施すため、色ズレの推定誤差を抑制して高精度に色合わせを行うことができる。また、写像の決定処理を1回行えばよいため、写像の決定処理を複数回行う場合と比較して処理時間を短縮でき、色合わせを高速に行うことも可能になる。
【0108】
また本実施形態では、印刷原稿を利用して色合わせを行うため、カラーチャートを用いずに色合わせを行うことができる。また手作業で色合わせを行わないため、色合わせ時間を短縮でき、作業者の熟練度に依存せず色合わせを行うことができる。さらに色合わせ処理の実行により、人による目視での確認回数が減るため、損紙を削減できる。
【0109】
また本実施形態では、色ズレ特性決定部(写像決定部)は、原稿画像データの複数の色成分値を基にした多次元のデータを用いて前記写像を決定する。これにより、画像出力機手段間の色の差が各色成分と連動している場合にも高精度に色合わせを行うことができる。
【0110】
また本実施形態では、画像データをデバイス非依存の色空間に変換する画像読み取り部(色空間変換部)を有し、色ズレ特性決定部(写像決定部)は、画像読み取り部によりデバイス非依存の色空間に変換された基準読取画像データ(第一の出力画像データ)及びユーザ読取画像データ(第二の出力画像データ)を用いて色ズレ特性(写像)を決定する。これにより、スキャナ(読取装置)のデバイス依存性をなくし、高精度に色ズレ特性(写像)を決定することができる。
【0111】
また本実施形態では、画素値対応付け部による画素値対応付けデータから、原稿画像データ、基準読取画像データ(第一の出力画像データ)、又はユーザ読取画像データ(第二の出力画像データ)におけるコンテンツの輪郭部分を除外して色ズレ特性(写像)を決定する。誤差を低減して位置合わせを行うことが困難であるコンテンツの輪郭部分を除外することで、画素値対応付けを正確に行い、色ズレ特性の決定精度を向上させることができる。
【0112】
また本実施形態では、画素値対応付けデータにデータクレンジングすることで、画素値対応付けデータの品質を向上させ、色ズレ特性の決定精度を向上させることができる。
【0113】
また本実施形態では、原稿画像データの色空間全域にダミーデータを追加することで、画素値対応付けデータにデータが含まれていない領域でも、色ズレ特性(写像)を安定して決定することができる。
【0114】
[第2実施形態]
<画像処理システム600の全体構成例>
図8は、本実施例の画像処理システム600aの全体構成の一例を示す図である。図8に示すように、画像処理システム600aは、ネットワークを介して接続された、コンピュータ100と、プロジェクタ800と、デジタルカメラ900とを有する。
【0115】
画像処理システム600aを第1実施形態に係る画像処理システム600と比較すると、
a)ディスプレイ109が基準プリンタ400に対応し、第一の画像出力機手段の一例に対応する。
b)ディスプレイ109の基準表示画面が基準印刷物に対応する。
c)プロジェクタ800がユーザプリンタ200に対応し、第二の画像出力機手段の一例に対応する。
d)プロジェクタ800が投影したユーザ表示画面がユーザ印刷物に対応する。
e)デジタルカメラ900がスキャナ300に対応し、読取装置の一例に対応する。
【0116】
また、第1実施形態では画像出力機手段としてプリンタを採用したため、均等色空間としてL*a*b*色空間を用いたが、本実施形態では画像出力機手段としてディスプレイ109やプロジェクタ800を採用するため、均等色空間としてL*u*v*色空間を用いる。
【0117】
図9は、画像処理システム600aの機能構成の一例を示すブロック図である。第1実施形態に係る画像処理システム600の機能構成(図4参照)と比較して、スキャナに対応する画像読み取り部301が、デジタルカメラ900に対応する画像撮影部301aに代わっている点のみが異なる。
【0118】
画像撮影部301aは、原稿画像データをディスプレイ109が表示した基準表示画面を撮影し、第一の出力画像データに対応する基準撮影画像データを取得する。また原稿画像データをプロジェクタ800が投影したユーザ表示画面を撮影し、第二の出力画像データに対応するユーザ撮影画像データを取得する。
【0119】
他の機能は、処理対象が基準読取画像データから基準撮影画像データに代わる点と、またユーザ読取画像データからユーザ撮影画像データに代わる点が異なり、他は図4と同様であるため、ここでは重複する説明を省略する。
【0120】
<画像処理システム600aによる処理例>
図10は、画像処理システム600aによる処理の一例を示すフローチャートである。
【0121】
まず、ステップS101において、画像撮影部301aは、ディスプレイ109が表示した基準表示画面を撮影して基準撮影画像データを取得する。基準撮影画像データは、デジタルカメラ900のカラープロファイルを用いて、デバイス非依存の色空間に変換される。
【0122】
続いて、ステップS102において、画像撮影部301aは、プロジェクタ800が投影したユーザ表示画面を撮影してユーザ撮影画像データを取得する。ユーザ撮影画像データは、デジタルカメラ900のカラープロファイルを用いて、デバイス非依存の色空間に変換される。
【0123】
なお本実施形態では、画像撮影部301aにデジタルカメラ900を用いているため、カラープロファイルを用いて基準撮影画像データ及びユーザ撮影画像データをそれぞれデバイス非依存の色空間に変換しているが、デジタルカメラ900の代わりにXYZカメラ等を用いて、直接、デバイス非依存の色空間の画像データを取得できる場合には、色空間の変換は不要である。また、ステップS101とステップS102の処理は、順序が入れ替わってもよい。
【0124】
ステップS103乃至ステップS108の処理は、処理対象が基準読取画像データから基準撮影画像データに代わり、またユーザ読取画像データからユーザ撮影画像データに代わる点のみが異なり、他は図5のステップS53乃至ステップS58の処理と同様であるため、ここでは重複する説明を省略する。
【0125】
<画像処理システム600aの作用効果>
本実施形態では、ディスプレイ109(第一の画像出力機手段)の基準撮影画像データ(第一の出力画像データ)、並びにプロジェクタ800(第二の画像出力機手段)のユーザ撮影画像データ(第二の出力画像データ)のそれぞれと、原稿画像データとの色ズレを推定する1つの写像を決定し、この写像に基づき、原稿画像データに色変換を施す。複数の写像を用いず、1つの写像を用いて色変換を施すため、色ズレの推定誤差を抑制して高精度に色合わせを行うことができる。また、写像の決定処理を1回行えばよいため、写像の決定処理を複数回行う場合と比較して処理時間を短縮でき、色合わせを高速に行うことも可能になる。
【0126】
なお、他の効果は、第1実施形態で説明したものと同様であるため、ここでは重複する説明を省略する。
【0127】
[第3実施形態]
本実施形態では、第1実施形態のように画素値対応付けデータをそのまま使用して色ズレ特性を決定するのではなく、画素値対応付けデータを複数の部分色空間に分割し、分割された色空間ごとに色ズレ特性を決定する。このようにすることで、色ズレ特性が色空間の領域において異なる(色ズレの傾向が色空間全体で均一でない)場合にも、高精度な色合わせを行う。なお、第1実施形態及び第2実施形態と共通する図の説明は省略する。
【0128】
本実施形態に係る画像処理システム600bには、第1実施形態に係る画像処理システム600、又は第2実施形態に係る画像処理システム600aの何れの構成も適用可能である。
【0129】
<画像処理システム600bの機能構成例>
図11は、画像処理システム600bの機能構成の一例を示すブロック図である。図11に示すように、画像処理システム600bは、色空間分割部306と、色ズレ特性決定部304bとを有する。
【0130】
色空間分割部306は、画素値対応付けデータの色空間を所定の間隔で分割する。また色空間分割部306は、画素値対応付けデータの色空間における画素値の出現頻度分布又は画素値の累積出現頻度に基づき分割でき、さらに画素値対応付けデータの色空間をクラスタ分析により分割できる。
【0131】
色ズレ特性決定部304bは、画素値対応付けデータに基づき、基準読取画像データとユーザ読取画像データとの色ズレ特性を分割された色空間ごとに決定する。
【0132】
<画像処理システム600bによる処理例>
次に図12は、画像処理システム600bによる処理の一例を示すフローチャートである。図12は、図5と比較して、ステップS126の処理と、ステップS128の処理が追加されている点が異なる。そのため以下では、ステップS121~S125、ステップS127及びステップS129の処理の説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0133】
ステップS126において、色空間分割部306は、ステップS125で生成された画素値対応付けデータを原稿画像データの色成分値に応じて分割する。
【0134】
分割の基準としては次のようなものが挙げられる。ここでは原稿画像データがRGB画像で各色成分が256階調である場合を一例として説明する。
【0135】
(A)等間隔で分割する
画素値対応付けデータ内の原稿画像データの色空間におけるRGBの各軸を予め決定された間隔で分割するか、予め決定された分割数で間隔を決定することにより、同一体積の部分色空間を作成する。ここで図13はR軸,G軸,B軸をそれぞれ等間隔で2分割した例である。
【0136】
(B)不等間隔で分割する
画素値対応付けデータ内の原稿画像データの色空間におけるRGBの各軸の各階調に属するデータ数を用いて、分割された際の各軸のデータ数が所定の数か割合となるように分割幅を適応的に決定する。ここで図14は、R軸,G軸,B軸をそれぞれ不等間隔で2分割した例である。不等間隔で分割する方法としては、各軸の各階調に属するデータ数の頻度分布を用いる方法等が挙げられる。
【0137】
(B1)各軸の各階調に属するデータ数の累積頻度を用いる方法
各軸の各階調に属するデータ数の累積頻度を等間隔で区切り、区切り位置に対応する階調で分割する方法である。ここで図15は、0から255までの256階調を不等間隔で2分割する例である。縦軸の累積頻度の最大値を1.0としたときに、区切り位置として0.5となる階調を求めることで分割位置を決定する。この例では、R軸の累積頻度が0.5となる階調a、G軸の累積頻度が0.5となる階調b、B軸の累積頻度が0.5となる階調cが求まる。
【0138】
(B2)各軸の各階調に属するデータ数の頻度分布を用いる方法
図16のように各軸の各階調に属するデータ数の頻度分布を作成し、極小となる階調で分割する方法である。この例では、R軸の頻度分布が極小となる階調a、G軸の頻度分布が極小となる階調b、B軸の頻度分布が極小となる階調cが求まる。
【0139】
(C)色数同数で分割する
画素値対応付けデータ内の原稿画像データの色空間を部分色空間に分割するとき、各部分色空間に含まれる色数が同数になるように分割領域を決定する。ここで図17は、各部分色空間に含まれる色数が同数になるように分割した例である。色数が同数となるように分割する方法の一例を以下に示す。
(STEP1)
原稿画像データの色数(32)が半数(16)となるR軸の階調aを求める。
【0140】
(STEP2)
R軸の階調が0からa-1の階調に含まれる色数(16)が半数(8)となるG軸の階調bと、R軸の階調aから255の階調に含まれる色数(16)が半数(8)となるG軸の階調b'を求める。
【0141】
(STEP3)
領域i(R軸の階調が0からa-1)で、且つG軸の階調が0から(b-1)に含まれる色数(8)が半数(4)となるB軸の階調cと、領域ii(R軸の階調が0から(a-1)で、且つG軸の階調がbから255)に含まれる色数(8)が半数(4)となるB軸の階調c'と、領域iii(R軸の階調がaから255で、且つG軸の階調が0から(b'-1)に含まれる色数(8)が半数(4)となるB軸の階調c''と、領域iv(R軸の階調がaから255で、且つG軸の階調がb'から255)に含まれる色数(8)が半数(4)となるB軸の階調c'''とを求める。ここで、各軸の分割する順番に関しては、特に上記の順番(R軸→G軸→B軸の順番)に限定されるものではない。
【0142】
(D)クラスタ分析を用いて分割する
画素対応付けデータ内の原稿画像データの色空間を部分色空間に分割する方法として、原稿画像データに含まれる各画素に対してクラスタ分析を用いて分割領域を決定する。ここでクラスタリング処理する方法の例としては、K-meansアルゴリズム等があげられる。K-meansアルゴリズムとは、あらかじめ定めたクラスタ数KとそのK個のクラスタ中心をランダムに決め、サンプル点をK個のクラスタ中心との距離を計算し、最も近いクラスタに分類することで、クラスタリングを行う手法である。
【0143】
クラスタリング時に同一クラスタに該当するサンプル点の重心を計算し、クラスタ中心の更新を繰り返し、クラスタ中心の更新が収束したら処理を終了させる。分割数(クラスタ数K)は、予め決定しておいた分割数を使用するか、または画素数などに応じて経験的に決定する方法等が挙げられる。
【0144】
ここで、図18はK-meansアルゴリズムを用いて原稿画像データの各画素を8個のクラスタに分割した例を示す図である。(a)はR軸とG軸と2次元空間にプロットしたものと、R軸とB軸の2次元にプロットしたものであり、(b)はR軸とG軸とB軸の3次元空間にプロットしたものである。何れもデータは同じである。各図の数値はクラスタ番号(1~8)を表している。色空間分割部306による分割結果としての色空間分割情報は、画素値対応付けデータに追記され、記憶される。
【0145】
ここで、図12に戻って、画像処理システム600bによる処理について説明を続ける。
【0146】
ステップS128において、色ズレ特性決定部304bは、部分色空間ごとに色ズレ特性を決定する。具体的には、色ズレ特性決定部304bは、画素値対応付けデータを用いて、原稿画像データの色成分値(Cin, Min, Yin, Kin)から色ズレ量の色成分値(L*diff, a*diff, b*diff)への色変換を行う際の対応関係を表す色ズレ特性(写像)を、部分色空間ごとに決定する。色ズレ特性を決定する処理方法は、図5のステップS57で説明したものと同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0147】
続いて、ステップS129において、色変換部305は、決定された色ズレ特性を用いて、部分色空間毎に原稿画像データに色変換を施す。色ズレ特性Msf(X)を用いて色変換を施す手順を以下の(1)乃至(4)に示す。
(1)基準プリンタ400で印刷した際に使用した入力プロファイルを用いて、原稿画像データの色oからデバイス非依存の色o'を得る。
(2)原稿画像データの色oが所属する部分色空間の色ズレ特性から、原稿画像データの色oが対応付く色ズレ量d=Msf(o)を得る。
(3)原稿画像データの色oを(o'+d)に変換する。
【0148】
(3)の色変換は、原稿画像データに直接反映させてもよいし、原稿画像データではなく印刷時の入力プロファイルに反映させてもよい。入力プロファイルに反映させる場合は、入力プロファイルの色変換テーブルの各格子点における入力値がoで、出力値が(o'+d)となることを表している。
【0149】
このようにして画像処理システム600bは、出力画像の色合わせを行うことができる。
【0150】
<画像処理システム600bの作用効果>
本実施形態では、画素値対応付けデータを複数の部分色空間に分割し、分割された色空間ごとに色ズレ特性を決定する。これにより、色ズレ特性が色空間の領域において異なる(色ズレの傾向が色空間全体で均一でない)場合にも、高精度な色合わせを行うことができる。
【0151】
なお、他の効果は、第1実施形態で説明したものと同様であるため、ここでは重複する説明を省略する。
【0152】
[第4実施形態]
本実施形態では、画素値対応付けデータの色空間を部分色空間に分割する際に(第3実施形態参照)、原稿画像データの色空間をそのまま使用するのではなく、色相、明度、彩度を表現可能な色空間に変換した後、部分色空間に分割する。このようにすることで、色相又は明度、或いは彩度の領域で異なる(色ズレの傾向が色空間全体で均一でない)場合にも高精度な色合わせを行う。
【0153】
本実施形態に係る画像処理システム600cには、第1実施形態に係る画像処理システム600、又は第2実施形態に係る画像処理システム600aの何れの構成も適用可能である。また画像処理システム600cの機能構成は、色空間分割部306の機能が一部異なる点を除き、図11に示したものと同様であるため、ここでは重複した説明を省略する。
【0154】
<画像処理システム600cによる処理例>
図19は、画像処理システム600cによる処理の一例を示すフローチャートである。
【0155】
図19は、図12と比較して、ステップS196の処理が追加されている点と、ステップS197の処理内容が異なる。そのため以下では、ステップS191~S195、ステップS198~S200の処理の重複する説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0156】
ステップS196において、色空間分割部306は、画素値対応付けデータの色空間を色相、明度、及び彩度が表現可能な色空間に変換する。ここで、色相、明度、彩度を表現可能な色空間としては、HSV色空間、HLS色空間、YCbCr色空間、L*a*b*色空間、L*u*v*色空間等が挙げられる。
【0157】
続いて、ステップS197において、色空間分割部306は、ステップS196での変換後のそれぞれの色空間を色相、明度、又は彩度のうち少なくとも1つを用いて分割する。
【0158】
分割の基準としては次のようなものが挙げられる。ここでは原稿画像データの色空間をL*a*b*色空間に変換した場合一例として説明する。L*a*b*色空間における色相hは次の(11)式で、彩度C*は次の(12)式でそれぞれ定義される。
【0159】
【数11】
【0160】
【数12】
【0161】
(A)色相で分割する
L*a*b*色空間における彩度C*と色相hの値を用いて、色相で部分色空間に分割する方法である。ここで図20は、L*a*b*色空間において、色相ごとに色空間を分割した例を示す図である。領域(1)は彩度C*がある閾値以下の無彩色を表す領域であり、領域(2)は色相hがある範囲内の"red"を表す領域であり、領域(3)は"yellow"を、領域(4)は"green"を、領域(5)は"cyan"を、領域(6)は"blue"を、領域(7)は"magenta"を表す領域である。分割数や分割するための彩度C*の閾値や色相hは、例えば、経験的に決められた所定の値を用いる方法や、各領域に色数が同数となるように決定する方法等が挙げられる。
【0162】
(B)明度で分割する
L*a*b*色空間における明度L*の値を用いて、明度で部分色空間に分割する方法である。図21はL*a*b*色空間において、明度ごとに色空間を分割した例を示す図である。分割数や分割するためのL*の閾値は、例えば、経験的に決められた所定の値を用いる方法や、各領域に色数が同数となるように決定する方法等が挙げられる。
【0163】
(C)彩度で分割する
L*a*b*色空間における彩度C*の値を用いて、彩度で部分色空間に分割する方法である。図22は、L*a*b*色空間において、彩度ごとに色空間を分割した例を示す図である。分割数や分割するためのC*の閾値は、例えば、経験的に決められた所定の値を用いる方法や、各領域に色数が同数となるように決定する方法等が挙げられる。
【0164】
ここで、上記の(A)、(B)、(C)の方法だけでなく、それぞれを組合せた方法で分割してもよい。例えば、(A)の方法で色相を分割した後、各色相において、(B)又は(C)の方法でさらに色空間を分割してもよい。
【0165】
(D)クラスタ分析を用いて分割する
L*a*b*色空間における原稿画像データに含まれる各画素に対してクラスタ分析を用いて分割領域を決定する。分割数は、予め決定しておいた分割数を使用するか、または画素数などに応じて経験的に決定する方法等が挙げられる。
【0166】
原稿画像データの色空間を分割する方法として、原稿画像データをL*a*b*色空間に変換した各画素に対してクラスタ分析を用いて分割領域を決定する。ここでクラスタリング処理する方法の例としては、K-meansアルゴリズム等が挙げられる。
【0167】
図23は、原稿画像データの各画素のa*とb*の値をK-meansアルゴリズムを用いて8個のクラスタに分割した例を示す図である。図23ではa*軸とb*軸の二次元空間にプロットしてい。図23上の数値はクラスタ番号(1~8)を表している。
【0168】
このようにして画像処理システム600cは、出力画像の色合わせを行うことができる。
【0169】
<画像処理システム600cの作用効果>
本実施形態では、画素値対応付けデータの色空間を部分色空間に分割する際に、原稿画像データの色空間をそのまま使用するのではなく、色相、明度、彩度を表現可能な色空間に変換した後、部分色空間に分割する。このようにすることで、色相又は明度、或いは彩度の領域で異なる(色ズレの傾向が色空間全体で均一でない)場合にも高精度な色合わせを行うことができる。
【0170】
なお、他の効果は、第1実施形態で説明したものと同様であるため、ここでは重複する説明を省略する。
【0171】
[第5実施形態]
本実施形態では、画素値対応付けデータをそのまま使用して色ズレ特性を決定せず、画素値対応付けデータを複数の部分色空間に分割し、分割された色空間ごとに代表データを決定して、分布の偏りを軽減した画素値対応付け代表データを使用して、分割された色空間ごとに色ズレ特性を決定する。このようにすることで、画素値対応付けデータが色空間の狭い範囲に集まっている(偏りなく均一に分布していない)場合でも高速且つ高精度な色合わせを行う。
【0172】
なお、本実施形態では、第3実施形態のように色空間を分割する際に、画素値対応付けデータの色空間をそのまま使用する例を説明するが、第4実施形態のように、色相、明度、彩度を表現可能な色空間に変換した後、部分色空間に分割してもよい。
【0173】
本実施形態に係る画像処理システム600dには、第1実施形態に係る画像処理システム600、又は第2実施形態に係る画像処理システム600aの何れの構成も適用可能である。
【0174】
図24は、画像処理システム600dの機能構成の一例を示すブロック図である。図245に示すように、画像処理システム600dは、代表データ決定部307と、色ズレ特性決定部304dとを有する。
【0175】
代表データ決定部307は、分割された画素値対応付けデータの複数の部分色空間ごとに、画素値対応付け代表データを決定する。また代表データ決定部307は、分割された複数の部分色空間に含まれるデータ数に応じて、画素値対応付け代表データのデータ数を決定できる。
【0176】
色ズレ特性決定部304dは、画素値対応付け代表データに基づき、基準読取画像データとユーザ読取画像データとの色ズレ特性を決定できる。
【0177】
<画像処理システム600dによる処理例>
図25は、画像処理システム600dによる処理の一例を示すフローチャートである。
【0178】
図25は、図12と比較して、ステップS257の処理が追加されている点と、ステップS259の処理内容が異なる。そのため以下では、ステップS251~S256、ステップS258、ステップS260の処理の重複する説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0179】
ステップS257において、代表データ決定部307は、分割された画素値対応付けデータの複数の部分色空間ごとに、画素値対応付け代表データを決定し、画素値対応付け代表データを生成する。
【0180】
代表データを決定する方法としては、同じ部分色空間に属するデータの平均値を用いる方法、同じ部分色空間に属するデータの中央値を用いる方法、又は同じ部分色空間に属するデータの最頻値を用いる方法等が挙げられる。決定した部分色空間ごとの代表データを、画素値対応付け代表データとして生成できる。
【0181】
ステップS259において、色ズレ特性決定部304dは、画素値対応付け代表データに基づき、基準読取画像データとユーザ読取画像データとの色ズレ特性を決定する。
【0182】
このようにして画像処理システム600dは、出力画像の色合わせを行うことができる。
【0183】
<画像処理システム600dの作用効果>
本実施形態では、画素値対応付けデータをそのまま使用して色ズレ特性を決定せず、画素値対応付けデータを複数の部分色空間に分割し、分割された色空間ごとに代表データを決定して、分布の偏りを軽減した画素値対応付け代表データを使用して、分割された色空間ごとに色ズレ特性を決定する。このようにすることで、画素値対応付けデータが色空間の狭い範囲に集まっている(偏りなく均一に分布していない)場合でも高速且つ高精度な色合わせを行うことができる。
【0184】
なお、他の効果は、第1実施形態で説明したものと同様であるため、ここでは重複する説明を省略する。
【0185】
[第6実施形態]
本実施形態では、第5実施形態のように部分色空間ごと代表データを1つ決定するのではなく、部分色空間に含まれるデータ数に応じて代表データ数を決定する。このようにすることで、元々の分布も考慮しながら画素値対応付けデータの色空間での分布の偏りを軽減する。
【0186】
なお本実施形態では、第3実施形態のように色空間を分割する際に、画素値対応付けデータの色空間をそのまま使用する例を示すが、第4実施形態のように、色相、明度、彩度を表現可能な色空間に変換した後、部分色空間に分割することもできる。
【0187】
本実施形態に係る画像処理システム600eには、第1実施形態に係る画像処理システム600、又は第2実施形態に係る画像処理システム600aの何れの構成も適用可能である。また画像処理システム600eの機能構成は、代表データ決定部307の機能が一部異なる点を除き、図24に示したものと同様であるため、ここでは重複した説明を省略する。
【0188】
<画像処理システム600eによる処理例>
図26は、画像処理システム600eによる処理の一例を示すフローチャートである。
【0189】
図26は、図15と比較して、ステップS267の処理が追加されている点と、ステップS268の処理内容が異なる。そのため以下では、ステップS261~S266、ステップS269~S271の処理の重複する説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0190】
ステップS267において、代表データ決定部307は、ステップS266で分割された部分色空間内に含まれるデータ数に応じて、代表データ数を決定する。代表データ数の決定方法としては、予め部分色空間内のデータ数と代表データ数との関係をルックアップテーブル(LUT)に記憶しておく方法等が挙げられる。
【0191】
図27乃至29にLUTの例を示す。図27の場合には、部分色空間内のデータ数と代表データ数が同一であり、部分色空間内の全データが代表データとして使用される。図28の場合には、部分色空間内のデータ数が所定の閾値aまでは部分色空間内のデータ数と代表データ数が同一であるが、部分色空間内のデータ数が閾値a以上の場合には、代表データ数は全てaとする。図29の場合には、部分色空間内のデータ数が所定の閾値aまでは部分色空間内のデータ数と代表データ数が同一であるが、部分色空間内のデータ数が閾値a以上の場合には、代表データ数の増やし方の傾きを緩やかにする。図29の例では、傾きは0.5である。
【0192】
このような方法で代表データ数を決定することで、元々の分布も考慮しながら画素値対応付けデータの分布の偏りを軽減する事が可能となる。つまり、図28図29に示す例のように、元々色数が少ない0から閾値aまでの領域ではデータ数を保持し、色数が多い閾値a以上の領域ではデータ数を削減することで、分布の偏りを軽減することができる。
【0193】
図26に戻り、画像処理システム600eによる処理の説明を続ける。
【0194】
ステップS268において、代表データ決定部307は、部分色空間ごとに代表データを決定し、画素値対応付け代表データを生成する。代表データを決定する方法としては以下の方法等が挙げられる。
【0195】
(A)代表データ数が1の場合
図25のステップS257と同様の処理で代表データを決定する。
【0196】
(B)部分色空間内のデータ数と代表データ数が同一である場合
部分色空間内の全データを代表データとする。
【0197】
(C)部分色空間内のデータ数よりも代表データ数が少ない場合
部分色空間内をさらに代表データ数で分割する。分割する方法は、図12のステップS126における(C)の色数と同数で分割する方法や、(D)のクラスタ分析を用いて分割する方法等が挙げられる。また代表データ数で分割した色空間から代表データを決定する方法は、図25のステップS257の処理による方法と同様である。
【0198】
このようにして画像処理システム600eは、出力画像の色合わせを行うことができる。
【0199】
<画像処理システム600eの作用効果>
本実施形態では、第5実施形態のように部分色空間ごと代表データを1つ決定するのではなく、部分色空間に含まれるデータ数に応じて代表データ数を決定する。このようにすることで、元々の分布も考慮しながら画素値対応付けデータの色空間での分布の偏りを軽減することができる。
【0200】
なお、他の効果は、第1実施形態で説明したものと同様であるため、ここでは重複する説明を省略する。
【0201】
[第7実施形態]
本実施形態では、第1実施形態のように基準読取画像データとユーザ読取画像データをそのまま使用して色ズレ特性を決定するのではなく、基準読取画像データの用紙色(以下、地色という)が原稿画像データの白色点と一致するように、ユーザ読取画像データの地色が原稿画像データの白色点と一致するように補正する。これにより、基準読取画像データの地色とユーザ読取画像データの地色との差を吸収し、地色が異なる場合にも、色かぶりを抑制した色合わせを行う。なお、色かぶりとは、色が重複することをいう。
【0202】
本実施形態に係る画像処理システム600fには、第1実施形態に係る画像処理システム600、又は第2実施形態に係る画像処理システム600aの何れの構成も適用可能である。
【0203】
図30は、画像処理システム600fの機能構成の一例を示すブロック図である。図30に示すように、画像処理システム600fは、地色補正部308を有する。
【0204】
地色補正部308は、基準読取画像データの地色(第一の地色の一例)と、ユーザ読取画像データの地色(第二の地色の一例)の少なくとも一つに基づいて、基準読取画像データの画素値又はユーザ読取画像データの画素値を補正する。具体的には、地色補正部308は、予め与えられた基準読取画像データの地色と、予め与えられたユーザ読取画像データの地色を用いて、地色に応じた補正処理を行う。
【0205】
幾何学変換パラメータ推定部302は原稿画像データと地色補正済みの基準読取画像データ、並びに原稿画像データと地色補正済みのユーザ読取画像データのそれぞれの幾何学変換パラメータを推定する。
【0206】
画素値対応付け部303は、幾何学変換パラメータを用いて、原稿画像データの画素に対応する位置の地色補正済みの基準読取画像データと地色補正済みのユーザ読取画像データの画素を検出し、それらの画素値を色成分の組合せごとに対応付けて画素値対応付けデータを生成する。
【0207】
色ズレ特性決定部304は、画素値対応付けデータを用いて、地色補正済みの基準読取画像データと地色補正済みのユーザ読取画像データとの色ズレ特性を決定する。
【0208】
<画像処理システム600fによる処理例>
図31は、画像処理システム600fによる処理の一例を示すフローチャートである。
【0209】
図31は、図5と比較して、ステップS313とステップS314の処理が追加されている点が異なる。そのため以下では、ステップS311~S312、ステップS315~S320の処理の重複する説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0210】
ステップS312において、地色補正部308は、予め与えられた基準読取画像データの地色を用いて、地色に応じた色補正処理を行う。本実施形態では、基準読取画像データの地色が原稿画像データの白色点と一致するように、基準読取画像データ全体に対して色の補正を行なう。
【0211】
基準読取画像データの地色は、RGB,XYZ,L*a*b*等の所定の色空間における色値として与えられる。これらの値には、予め地色を測色計で測色した値や、基準印刷物を読み取ったものと同じスキャナでスキャンした値を用いることができる。また、スキャナのカラープロファイルを用いてデバイス非依存の色空間に変換できる条件の元で、基準印刷物を読み取ったスキャナとは異なるスキャナで読み取った値を用いてもよい。
【0212】
基準読取画像データの地色が原稿画像データの白色点と一致するように、基準画像データ全体に対して色補正を行なう方法としては次のようなものが挙げられる。
【0213】
(A)基準読取画像データの地色を原稿画像データの白色点へシフトする方法
基準読取画像データがL*a*b*色空間である場合を一例として説明する。基準読取画像データの地色を、L*a*b*色空間における規格上の白色点である(L*=100.0,a*=0.0,b*=0.0)にシフトさせる処理を基準読取画像データ全体に対して施す。これにより、基準読取画像データの地色を原稿画像データの白色点と一致させることができる。この方法は以下の(13)乃至(15)式で表される。
【0214】
【数13】
【0215】
【数14】
【0216】
【数15】
ここで、(Lref*,aref*,bref*)は地色補正前の基準読取画像データのL*a*b*値を表し、(LrefW*,arefW*,brefW*)は基準読取画像データの地色のL*a*b*値を表し、(Lref'*,aref'*,bref'*)は地色補正後の基準読取画像データのL*a*b*値を表す。
【0217】
(B)比率変換を用いる方法
基準読取画像データが256階調のRGB色空間である場合を一例として説明する。原稿画像データの白色点(R=255,G=255,B=255)を、基準読取画像データの地色のRGB値でそれぞれ除した値を、基準読取画像データのRGB値に乗ずることで、基準読取画像データの地色を原稿画像データの白色点と一致させる。この方法は以下の(16)乃至(18)式で表される。
【0218】
【数16】
【0219】
【数17】
【0220】
【数18】
ここで、(Rref,Gref,Bref)は地色補正前の基準読取画像データのRGB値を表し、(RrefW,GrefW,BrefW)は基準読取画像データの地色のRGB値を表し、(Rref',Gref',Bref')は地色補正後の基準読取画像データのRGB値を表す。
【0221】
ここで図32は、基準読取画像データの地色がRrefW=210,GrefW=220,BrefW=230であるときの基準読取画像データの地色補正前のRGB値と地色補正後のRGB値を示す図である。
【0222】
次に、基準読取画像データがデバイス非依存のXYZ色空間である場合について説明する。XYZ色空間上で原稿画像データの白色点(D50等)のXYZ値を定め、基準読取画像データの地色のXYZ値でそれぞれ除した値を、基準読取画像データのXYZ値に乗ずる方法がある。この方法は以下の(19)乃至(21)式で表される。
【0223】
【数19】
【0224】
【数20】
【0225】
【数21】
ここで、(Xref,Yref,Zref)は地色補正前の基準読取画像データのXYZ値を表し、(X,Y,Z)は原稿画像データの白色点のXYZ値を表し、(XrefW,YrefW,ZrefW)は基準読取画像データの地色のXYZ値を表し、(Xref',Yref',Zref')は地色補正後の基準読取画像データのXYZ値を表す。
(C)色知覚モデルを用いる方法
異なる光源下での色の見えを一致させる、所謂、色知覚モデルを用いる。色知覚モデルの一例として、Von Kries変換を用いて、基準読取画像データの地色が原稿画像データの白色点と一致するように色補正する方法について説明する。
【0226】
Von Kries変換は、光源W1下でのXYZ値を光源W2下のXYZ値に変換するために、人間の色知覚空間PQR上でW2'/W1'の比率変換を施す方法である。人間の色知覚が光源の白色点に順応するというよりも、地色に順応すると解釈することで、Von Kries変換を用いて基準読取画像データの色が原稿画像データの白色点と一致するように色補正を行なう。基準読取画像データがデバイス非依存のXYZ色空間である場合、Von Kries変換によれば次の(22)乃至(26)式に示す関係が得られる。
【0227】
【数22】
【0228】
【数23】
【0229】
【数24】
【0230】
【数25】
【0231】
【数26】
以上は、Von Kries変換を用いる例を説明したが、この色知覚モデルに限定されるものではなく、Bradford変換や、CIECAM97s、CIECAM02等を用いてもよい。
【0232】
図31に戻り、画像処理システム600fによる処理についての説明を続ける。
【0233】
ステップS314において、地色補正部308は、予め与えられたユーザ読取画像データの地色を用いて、地色に応じた色補正処理を行う。色補正処理の方法は、ステップS313と同様であるため、重複する説明を省略する。
【0234】
ステップS314以降では、地色補正済みの基準読取画像データと、地色補正済みのユーザ読取画像データに対して、各ステップの処理が実行される。
【0235】
このようにして画像処理システム600fは、出力画像の色合わせを行うことができる。
【0236】
<画像処理システム600fの作用効果>
本実施形態では、第1実施形態のように基準読取画像データとユーザ読取画像データをそのまま使用して色ズレ特性を決定するのではなく、基準読取画像データの地色が原稿画像データの白色点と一致するように、ユーザ読取画像データの地色が原稿画像データの白色点と一致するように補正する。これにより、基準読取画像データの地色とユーザ読取画像データの地色との差を吸収し、地色が異なる場合にも、色かぶりを抑制した色合わせを行うことができる。
【0237】
なお、他の効果は、第1実施形態で説明したものと同様であるため、ここでは重複する説明を省略する。
【0238】
[第8実施形態]
第7実施形態では、基準読取画像データの地色が原稿画像データの白色点と一致するようにユーザ読取画像データの地色が原稿画像データの白色点と一致するように補正したが、本実施形態では、ユーザ読取画像データの地色が基準読取画像データの地色と一致するように補正する。
【0239】
本実施形態に係る画像処理システム600gには、第1実施形態に係る画像処理システム600、又は第2実施形態に係る画像処理システム600aの何れの構成も適用可能である。また画像処理システム600gの機能構成は、地色補正部308が基準読取画像データの地色の補正を行わない点を除き、画像処理システム600fと同様であるため、重複する説明を省略する。
【0240】
<画像処理システム600gによる処理例>
図33は、画像処理システム600gによる処理の一例を示すフローチャートである。
【0241】
図33は、図31と比較して、基準読取画像データの地色の補正を行わない点が異なる。以下では、相違点を中心に説明する。
【0242】
ステップS333において、地色補正部308は、予め与えられた基準読取画像データ、及びユーザ読取画像データの地色を用いて、地色に応じた色補正処理を行う。本実施形態では、ユーザ読取画像データの地色が、基準読取画像データの地色と一致するように、ユーザ読取画像データ全体に対して色補正を行なう。
【0243】
基準読取画像データ、及びユーザ読取画像データの地色は、RGB、XYZ、L*a*b*等の所定の色空間における色値として与えられる。これらの値には、予め地色を測色計で測色した値やユーザ印刷物を読み取ったものと同じスキャナで読み取った値を用いることができる。また、スキャナのカラープロファイルを用いてデバイス非依存の色空間に変換できる条件の元で、ユーザ印刷物を読み取ったスキャナとは異なるスキャナで読み取った値を用いてもよい。
【0244】
ユーザ読取画像データの地色が基準読取画像データの地色と一致するように、ユーザ読取画像データ全体に対して色補正を行なう方法としては次のようなものが挙げられる。
【0245】
(A)ユーザ読取画像データの地色を基準読取画像データの地色へシフトする方法
基準読取画像データ、及びユーザ読取画像データがL*a*b*色空間である場合を一例として説明する。ユーザ読取画像データの地色を基準読取画像データの地色にシフトする処理をユーザ読取画像データ全体に対して施すことで、ユーザ読取画像データの地色を基準読取画像データの地色と一致させる。この方法は以下の(27)乃至(29)式で表される。
【0246】
【数27】
【0247】
【数28】
【0248】
【数29】
ここで、(Ltgt*,atgt*,btgt*)は地色補正前のユーザ読取画像データのL*a*b*値を表し、(LrefW*,arefW*,brefW*)は基準読取画像データの地色のL*a*b*値を表し、(LtgtW*,atgtW*,btgtW*)はユーザ読取画像データの地色のL*a*b*値を表し、(Ltgt'*,atgt'*,btgt'*)は地色補正後のユーザ読取画像データのL*a*b*値を表す。
【0249】
(B)比率変換を用いる方法
基準読取画像データ、及びユーザ読取画像データが256階調のRGB色空間である場合を一例として説明する。基準読取画像データの地色のRGB値を、ユーザ読取画像データの地色のRGB値でそれぞれ除した値を、ユーザ読取画像データのRGB値に乗ずることで、ユーザ読取画像データの地色を基準読取画像データの地色と一致させる。この方法は以下の(30)乃至(32)式で表される。
【0250】
【数30】
【0251】
【数31】
【0252】
【数32】
ここで、 (Rtgt,Gtgt,Btgt)は地色補正前のユーザ読取画像データのRGB値を表し、(RrefW,GrefW,BrefW)は基準読取画像データの地色のRGB値を表し、(RtgtW,GtgtW,BtgtW)はユーザ読取画像データの地色のRGB値を表し、(Rtgt',Gtgt',Btgt') は地色補正後のユーザ読取画像データのRGB値を表す。
【0253】
基準読取画像データの地色がRrefW=210,GrefW=230,BrefW=220であり、ユーザ読取画像データの地色がRtgtW=230,GtgtW=220,BtgtW=210であるときの、ユーザ読取画像データの地色補正前のRGB値と地色補正後のRGB値を図34に示す。
【0254】
次に、基準読取画像データ、及びユーザ読取画像データがデバイス非依存のXYZ色空間である場合についても説明する。XYZ色空間上で基準読取画像データの地色のXYZ値を、ユーザ読取画像データの地色のXYZ値でそれぞれ除した値を、ユーザ読取画像データのXYZ値に乗ずる方法がある。この方法は以下の(33)乃至(35)式で表される。
【0255】
【数33】
【0256】
【数34】
【0257】
【数35】
ここで、(Xtgt,Ytgt,Ztgt)は地色補正前のユーザ読取画像データのXYZ値を表し、(XrefW,YrefW,ZrefW)は基準読取画像データの地色のXYZ値を表し、(XtgtW,YtgtW,ZtgtW)はユーザ読取画像データの地色のXYZ値を表し、(Xtgt',Ytgt',Ztgt')は地色補正後のユーザ読取画像データのXYZ値を表す。
【0258】
(C)色知覚モデルを用いる方法
異なる光源下での色の見えを一致させる、所謂、色知覚モデルを用いる。色知覚モデルの一例として、Von Kries変換を用いて、ユーザ読取画像データの地色が基準読取画像データの地色と一致するように色補正する方法について説明する。
【0259】
Von Kries変換を用いてユーザ読取画像データの地色が基準読取画像データの地色と一致するように色補正を行なう。基準読取画像データ、及びユーザ読取画像データが共にデバイス非依存のXYZ色空間である場合について説明すると、Von Kries変換によれば次の(36)乃至(39)式の関係が得られる。
【0260】
【数36】
【0261】
【数37】
【0262】
【数38】
【0263】
【数39】
【0264】
【数40】
以上は、Von Kries変換を用いる例を説明したが、この色知覚モデルに限定されるものではなく、Bradford変換や、CIECAM97s、CIECAM02等を用いてもよい。
【0265】
図33に戻り、画像処理システム600gによる処理についての説明を続ける。
【0266】
ステップS334以降では、基準読取画像データと、地色補正済みのユーザ読取画像データに対して、各ステップの処理が実行される。
【0267】
このようにして画像処理システム600gは、出力画像の色合わせを行うことができる。
【0268】
<画像処理システム600gの作用効果>
本実施形態では、ユーザ読取画像データの地色が基準読取画像データの地色と一致するように補正する。これにより、基準読取画像データの地色とユーザ読取画像データの地色との差を吸収し、地色が異なる場合にも、色かぶりを抑制した色合わせを行うことができる。
【0269】
なお、他の効果は、第1実施形態で説明したものと同様であるため、ここでは重複する説明を省略する。
【0270】
[第9実施形態]
第7実施形態では、基準読取画像データの地色が原稿画像データの白色点と一致するように、ユーザ読取画像データの地色が原稿画像データの白色点と一致するように補正した。本実施形態では、基準読取画像データの地色がユーザ読取画像データの地色と一致するように補正する。
【0271】
本実施形態に係る画像処理システム600hには、第1実施形態に係る画像処理システム600、又は第2実施形態に係る画像処理システム600aの何れの構成も適用可能である。また画像処理システム600hの機能構成は、地色補正部308がユーザ読取画像データの地色の補正を行わない点を除き、画像処理システム600fと同様であるため、重複する説明を省略する。
【0272】
<画像処理システム600hによる処理例>
図35は、画像処理システム600hによる処理の一例を示すフローチャートである。
【0273】
図35は、図31と比較して、ユーザ読取画像データの地色の補正を行わない点が異なる。以下では、相違点を中心に説明する。
ステップS353において、地色補正部308は、予め与えられた基準読取画像データ、及びユーザ読取画像データの地色を用いて、地色に応じた色補正処理を行う。本実施例では、基準読取画像データの地色がユーザ読取画像データの地色と一致するように、基準読取画像データ全体に対して色補正を行なう。
【0274】
基準読取画像データ、及びユーザ読取画像データの地色は、RGB、XYZ、L*a*b*等の所定の色空間における色値として与えられる。これらの値には、予め地色を測色装置で測色した値や基準印刷物を読み取ったものと同じスキャナで読み取った値を用いることができる。また、スキャナのカラープロファイルを用いてデバイス非依存の色空間に変換できる条件の元で、基準印刷物を読み取ったスキャナとは異なるスキャナで読み取った値を用いてもよい。基準読取画像データの地色をユーザ読取画像データの地色と一致するように色補正を行なう例としては次のようなものが挙げられる。
【0275】
(A)基準読取画像データの地色をユーザ読取画像データの地色へシフトする方法
基準読取画像データ、及びユーザ読取画像データがL*a*b*色空間である場合を一例として説明する。基準読取画像データの地色をユーザ読取画像データの地色にシフトする処理を基準読取画像データ全体に対して施すことで、基準読取画像データの地色をユーザ読取画像データの地色と一致させる。この方法は以下の(40)乃至(42)式で表される。
【0276】
【数41】
【0277】
【数42】
【0278】
【数43】
ここで、(Lref*,aref*,bref*)は地色補正前のユーザ読取画像データのL*a*b*値を表し、(LtgtW*,atgtW*,btgtW*)は基準読取画像データの地色のL*a*b*値を表し、(LrefW*,arefW*,brefW*)はユーザ読取画像データの地色のL*a*b*値を表し、(Lref'*,aref'*,bref'*)は地色補正後のユーザ読取画像データのL*a*b*値を表す。
【0279】
(B)比率変換を用いる方法
基準読取画像データ、及びユーザ読取画像データが256階調のRGB色空間である場合を一例として説明する。ユーザ読取画像データの地色のRGB値を、基準読取画像データの地色のRGB値でそれぞれ除した値を、基準読取画像データのRGB値に乗ずることで、基準読取画像データの地色をユーザ読取画像データの地色と一致させる。この方法は以下の(44)乃至(46)式で表される。
【0280】
【数44】
【0281】
【数45】
【0282】
【数46】
ここで、(Rref,Gref,Bref)は地色補正前のユーザ読取画像データのRGB値を表し、(RrefW,GrefW,BrefW)は基準読取画像データの地色のRGB値を表し、(RtgtW,GtgtW,BtgtW)はユーザ読取画像データの地色のRGB値を表し、(Rref',Gref',Bref') は地色補正後のユーザ読取画像データのRGB値を表す。
【0283】
基準読取画像データの地色がRrefW=210,GrefW=230,BrefW=220であり、ユーザ読取画像データの地色がRtgtW=230,GtgtW=220,BtgtW=210であるときの、ユーザ読取画像データの地色補正前のRGB値と地色補正後のRGB値を図36に示す。
次に、基準読取画像データ、及びユーザ読取画像データがデバイス非依存のXYZ色空間である場合についても説明する。XYZ色空間上でユーザ読取画像データの地色のXYZ値を、基準読取画像データの地色のXYZ値でそれぞれ除した値を、基準読取画像データのXYZ値に乗ずる方法がある。この方法は以下の(47)乃至(49)式で表される。
【0284】
【数47】
【0285】
【数48】
【0286】
【数49】
ここで、(Xref,Yref,Zref)は地色補正前のユーザ読取画像データのXYZ値を表し、(XrefW,YrefW,ZrefW)は基準読取画像データの地色のXYZ値を表し、(XtgtW,YtgtW,ZtgtW)はユーザ読取画像データの地色のXYZ値を表し、(Xref',Yref',Zref')は地色補正後のユーザ読取画像データのXYZ値を表す。
【0287】
(C)色知覚モデルを用いる方法
異なる光源下での色の見えを一致させる、所謂、色知覚モデルを用いる。色知覚モデルの一例として、Von Kries変換を用いて、基準読取画像データの地色がユーザ読取画像データの地色と一致するように色補正する方法について説明する。
【0288】
Von Kries変換を用いて基準画像データの地色がユーザ読取画像データの地色と一致するように色補正を行なう。基準読取画像データ、及びユーザ読取画像データがデバイス非依存のXYZ色空間である場合について説明すると、Von Kries変換によれば次の(50)乃至(54)式の関係が得られる。
【0289】
【数50】
【0290】
【数51】
【0291】
【数52】
【0292】
【数53】
【0293】
【数54】
以上は、Von Kries変換を用いる例を説明したが、この色知覚モデルに限定されるものではなく、Bradford変換や、CIECAM97s、CIECAM02等を用いてもよい。
【0294】
図35に戻り、画像処理システム600hによる処理についての説明を続ける。
【0295】
ステップS354以降では、地色補正済みの基準読取画像データと、ユーザ読取画像データに対して、各ステップの処理が実行される。
【0296】
このようにして画像処理システム600hは、出力画像の色合わせを行うことができる。
【0297】
<画像処理システム600hの作用効果>
本実施形態では、ユーザ読取画像データの地色が基準読取画像データの地色と一致するように補正する。これにより、基準読取画像データの地色とユーザ読取画像データの地色との差を吸収し、地色が異なる場合にも、色かぶりを抑制した色合わせを行うことができる。
【0298】
なお、他の効果は、第1実施形態で説明したものと同様であるため、ここでは重複する説明を省略する。
【0299】
[第10実施形態]
本実施形態では、基準読取画像データ、及びユーザ読取画像データの地色が既知ではない条件下で、地色を検出する。検出した地色に基づいて、基準画像データの地色が原稿画像データの白色点と一致するように補正し、またユーザ読取画像データの地色が原稿画像データの白色点と一致するように補正する。
【0300】
本実施形態に係る画像処理システム600iには、第1実施形態に係る画像処理システム600、又は第2実施形態に係る画像処理システム600aの何れの構成も適用可能である。
【0301】
図37は、画像処理システム600iの機能構成の一例を示すブロック図である。図37に示すように、画像処理システム600iは、地色検出部309を有する。
【0302】
地色検出部309は、原稿画像データと基準読取画像データの幾何学変換パラメータに基づき基準読取画像データの地色を検出するとともに、原稿画像データとユーザ読取画像データの幾何学変換パラメータに基づきユーザ読取画像データの地色を検出する
地色補正部308は、地色検出部309が検出した基準読取画像データの地色と、ユーザ読取画像データの地色を用いて、地色に応じた補正処理を行う。
【0303】
<画像処理システム600iによる処理例>
図38は、画像処理システム600iによる処理の一例を示すフローチャートである。
【0304】
図38は、図31と比較して、ステップS385の処理と、ステップS386の処理が追加されている点が異なる。以下では、相違点を中心に説明する。
【0305】
ステップS385において、地色検出部309は、原稿画像データと基準読取画像データの幾何学変換パラメータに基づき基準読取画像データの地色を検出する。基準読取画像データの地色の検出方法としては次の(A)又は(B)等の方法が挙げられる。
【0306】
(A)余白の色値を用いる方法
基準印刷物における原稿画像の周囲にある余白領域の色値を、地色として検出する。本実施形態では、基準読取画像データにおける原稿画像領域よりも数画素外側の領域を余白領域と判定し、地色を特定して検出する。地色に用いる値の例としては、以下のもの等が挙げられる。
・ 余白領域の色値の平均値
・ 余白領域の色値の中央値
・ 余白領域の色値の最頻値
なお、基準印刷物を読み取り、基準読取画像データを取得する際に、基準印刷物以外も含まれている場合があるため、基準読取画像データにおける原稿画像領域以外の全てを余白領域と判定することは好適でない。例えばスキャナの場合、印刷物よりも読み取り領域が大きい場合には、所謂、プラテンバック(原稿置き台の裏当て部材のカバー面)も一緒に読み取る場合があり、この領域が基準印刷物以外の領域に該当する。
【0307】
(B)基準読取画像データにおける原稿画像領域内の色値を用いる方法
縁なし印刷等で基準印刷物の原稿画像の周囲に余白領域が無い場合には、基準読取画像データにおける原稿画像領域内の色値を用いて地色を検出する。地色に用いる値としては、原稿画像領域内で最も明るい色値等が挙げられる。
【0308】
ステップS385において、地色検出部309は、原稿画像データとユーザ読取画像データの幾何学変換パラメータに基づきユーザ読取画像データの地色を検出する。ユーザ読取画像データの地色の検出方法は、基準読取画像データの地色の検出方法と同様であるため、重複する説明を省略する。
【0309】
このようにして画像処理システム600iは、出力画像の色合わせを行うことができる。
【0310】
<画像処理システム600iの作用効果>
本実施形態では、基準読取画像データ、及びユーザ読取画像データの地色が既知ではない条件下で、地色を検出する。検出した地色に基づいて、基準画像データの地色が原稿画像データの白色点と一致するように補正し、またユーザ読取画像データの地色が原稿画像データの白色点と一致するように補正する。これにより、基準読取画像データ、及びユーザ読取画像データの地色が既知ではない条件下でも、基準読取画像データの地色とユーザ読取画像データの地色との差を吸収し、色かぶりを抑制した色合わせを行うことができる。
【0311】
なお、本実施形態では、地色の補正方法として、基準画像データの地色が原稿画像データの白色点と一致するように補正し、またユーザ読取画像データの地色が原稿画像データの白色点と一致するように補正する例を示したが、これに限定されるものではない。他に、ユーザ読取画像データの地色が基準読取画像データの地色と一致するように補正することもできるし(第8実施形態参照)、基準読取画像データの地色がユーザ読取画像データの地色と一致するように補正することもできる(第9実施形態参照)。
【0312】
なお、他の効果は、第1実施形態で説明したものと同様であるため、ここでは重複する説明を省略する。
【0313】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0314】
上述した実施形態におけるプリンタは、電子写真方式で印刷を行うものであってもよいし、インクジェット方式等の他の印刷方式を用いるものであってもよい。
【0315】
また、実施形態で用いた序数、数量等の数字は、全て本発明の技術を具体的に説明するために例示するものであり、本発明は例示された数字に制限されない。また、構成要素間の接続関係は、本発明の技術を具体的に説明するために例示するものであり、本発明の機能を実現する接続関係はこれに限定されない。
【0316】
また、機能ブロック図におけるブロックの分割は一例であり、複数のブロックを一つのブロックとして実現する、一つのブロックを複数に分割する、及び/又は、一部の機能を他のブロックに移してもよい。また、類似する機能を有する複数のブロックの機能を単一のハードウェア又はソフトウェアが並列又は時分割に処理してもよい。
【0317】
また実施形態は、画像処理方法を含む。例えば画像処理方法は、第一の画像出力機手段が原稿画像データを出力した第一の出力結果の色を、第二の画像出力機手段が前記原稿画像データを出力した第二の出力結果において再現する画像処理装置による画像処理方法であって、読取装置が前記第一の出力結果を読み取った第一の出力画像データと前記原稿画像データの位置を合わせる第一の幾何学変換パラメータを推定し、読取装置が前記第二の出力結果を読み取った第二の出力画像データと前記原稿画像データの位置を合わせる第二の幾何学変換パラメータを推定する工程と、前記第一の幾何学変換パラメータと前記第二の幾何学変換パラメータとに基づいて、前記原稿画像データの画素に対応する、前記第一の出力画像データ及び前記第二の出力画像データの色成分の組合せが対応付けられた画素値対応付けデータを生成する工程と、前記画素値対応付けデータに基づいて、前記原稿画像データから前記第一の出力画像データと前記第二の出力画像データとの色ズレを推定する写像を決定する工程と、前記写像に基づいて、前記原稿画像データに色変換を施す工程と、を行う。このような画像処理方法により、上述した画像処理システムと同様の効果を得ることができる。
【0318】
また、上述した実施形態の各機能は、一又は複数の処理回路によって実現することが可能である。ここで、本明細書における「処理回路」とは、電子回路により実装されるプロセッサのようにソフトウェアによって各機能を実行するようプログラミングされたプロセッサや、上記で説明した各機能を実行するよう設計されたASIC(Application Specific Integrated Circuit)、DSP(digital signal processor)、FPGA(field programmable gate array)や従来の回路モジュール等のデバイスを含むものとする。
【符号の説明】
【0319】
100 コンピュータ(画像処理装置の一例、情報処理装置の一例)
101 CPU
109 ディスプレイ(第一の画像出力機手段の一例)
200 ユーザプリンタ(第二の画像出力機手段の一例)
300 スキャナ(読取装置の一例)
301 画像読み取り部
302 幾何学変換パラメータ推定部
303 画素値対応付け部
304 色ズレ特性決定部(写像決定部の一例)
305 色変換部
306 色空間分割部
307 代表データ決定部
308 地色補正部
309 地色検出部
400 基準プリンタ(第一の画像出力機手段の一例)
500 ネットワーク
600 画像処理システム
601 画像入力部
602 画像出力部
603 画像記憶部
604 画像解析部
605 パラメータ記憶部
606 画像処理部
800 プロジェクタ(第二の画像出力機手段の一例)
900 デジタルカメラ(読取装置の一例)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0320】
【文献】特開2015-111801号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38