(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】鉱石に含まれる有用鉱物を分析する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/24 20060101AFI20240625BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
G01N33/24 A
G01N21/17 A
(21)【出願番号】P 2020190336
(22)【出願日】2020-11-16
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】渡部 庸介
(72)【発明者】
【氏名】中村 公二
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-174473(JP,A)
【文献】特開2004-347330(JP,A)
【文献】特開2013-072971(JP,A)
【文献】国際公開第2013/021968(WO,A1)
【文献】特開2016-050918(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0051993(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/24
G01N 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不透明な鉱物(不透明鉱物)である有用鉱物と、透明な鉱物(透明鉱物)である不用鉱物及び脈石鉱物とを含む鉱石から得られる選鉱処理産物を分析対象とし、該選鉱処理産物に含まれる有用鉱物の存在比率を分析する方法であって、
分析対象である前記選鉱処理産物を、顕微鏡観察用の樹脂に埋包し、鏡面研磨して、顕微鏡観察用試料を作製する試料作製工程と、
前記顕微鏡観察用試料を、光学顕微鏡を用いて観察し、得られる観察画像に基づいて画像解析装置により前記有用鉱物の存在比率を分析する分析工程と、を有し、
前記分析工程では、
前記光学顕微鏡により観察される暗視野画像と、該光学顕微鏡により観察される明視野画像とをそれぞれ前記画像解析装置に取り込み、
前記画像解析装置により、前記暗視野画像と前記明視野画像とのそれぞれで所定閾値の明度で示される部分の合計面積を比較する、
分析方法。
【請求項2】
前記暗視野画像で前記所定閾値の明度で示される部分は前記
不透明鉱物を示し、前記明視野画像で該所定閾値の明度で示される部分は前
記透明鉱物を示し、
前記分析工程では、
前記画像解析装置により、前記暗視野画像と前記明視野画像とのそれぞれの前記合計面積の比に基づいて、前記有用鉱物の存在比率を算出する、
請求項1に記載の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱石に含まれる有用鉱物を分析する方法であり、有用鉱物の存在比率を効果的にかつ効率的に分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱山から採掘された鉱石中には、有用鉱物(鉱脈の中で目的金属を多く含む鉱物)以外に、不用鉱物(目的金属をほとんど含まない鉱物)や鉱脈以外の脈石鉱物が多く含まれている。
【0003】
採掘した鉱石に対する最初の処理として、選鉱がある。選鉱とは、有用鉱物と不用鉱物及び脈石鉱物とが、それぞれ単一の粒子となることを目指して粉砕され、各種鉱物の混合物粉粒体とされたのちに、各種鉱物の比重や磁性、濡れ性等の物理的性状を利用して、精鉱(有用鉱物の比率を高めた粉粒体産物)と尾鉱(不用物残渣としての粉粒体産物)に分離する処理のことである。
【0004】
選鉱のうち、浮遊選鉱では、鉱石の粉砕後に得られる混合物粉粒体に水を加えて鉱物スラリーとし、添加剤(浮選剤)の添加、気泡の導入、及び撹拌の操作により、濡れ性の低い粒子を泡に付着させて浮上させることで浮鉱(精鉱)として回収する。一方、濡れ性の高い粒子を、沈降させて沈鉱(尾鉱)として分離する。また、浮遊選鉱では、通常、多段階での処理が行われ、例えば第1段で得られた浮鉱を第2段に供給するというような処理が行われる。
【0005】
浮遊選鉱の操業条件としては、粉砕粒度、添加剤の選定や添加のタイミング、気泡サイズや流量、適切な段数というように非常に多くのパラメータがある。浮遊選鉱においては、最も効率よく分離が可能な選鉱条件を定めるための試験が行われ、その試験では、浮選産物として得られる精鉱中又は尾鉱中の有用鉱物、不用鉱物、及び脈石鉱物の存在比率を測定することが重要となる。そのなかでも、少なくとも有用鉱物の存在比率を測定することは特に重要となる。
【0006】
例えば、精鉱を化学分析することにより、回収対象の金属組成を確認することは可能であるが、選鉱は前述のとおり物理的な分離処理であるため、化学的な分析結果だけで選鉱条件を定めることは難しい。また、並行して熟練した作業者により精鉱粉末を顕微鏡観察することにより対象粒子の分離状況を確認する必要もあった。
【0007】
一方で、近年では一般的となった鉱物粒子解析装置(Mineral Liberation Analyzer, MLA)は、鉱石中に含まれる鉱物の種類、粒度、及び結合状態を解析する装置であり、選鉱試験で得られる各種産物の重量及び品位を組合わせて解析することで、各種産物中の鉱物粒子が選鉱試験によってどのように分離しているかを把握することが可能である。
【0008】
公知技術として、例えば特許文献1には、メタルや酸化物成分を含む鉱物の分布を定量分析する際に、鉱物試料を樹脂に埋包して光学顕微鏡で目視観察する方法が開示されている。また、特許文献2には、MLA解析用の観察試料の作成方法として、鉱物粉粒体を所定の埋包方法を適用することにより、鉱石粒子の比重差に起因する鉱物の存在状態の偏りを観察する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-347330号公報
【文献】特開2016-050918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、浮遊選鉱の試験において少なくとも有用鉱物の存在比率を測定するにあたり、特許文献1に開示の方法を適用した場合には、目視による顕微鏡観察が必要となるため、測定精度を向上させることが難しかった。また、上述のように、基本的な技術を適用した場合には、化学的な分析が必要であるため、一定の時間が掛かるだけでなく、熟練した作業員による分析観察を要し、効率的な測定ができなかった。
【0011】
MLA装置を適用することにより、化学分析よりは効率性が向上し、熟練した作業員による分析観察も不用となるため、測定精度の向上も図ることができる。
【0012】
ところが、化学分析よりは所要時間を短縮することは可能であるものの、例えば、有用鉱物が不透明鉱物であり、不用鉱物および脈石鉱物が透明鉱物であることが判っている鉱石を対象とする場合、MLA装置で測定するのはオーバースペックとなる場合が多い。すなわち、鉱石中に含まれる鉱物の種類、粒度、及び結合状態を解析する必要は無く、MLA装置の処理能力を低下させてしまう。
【0013】
また、MLA装置は、エネルギー分散型X線分析器を有する走査電子顕微鏡をベースとした鉱物分析装置であるため、各操業現場に配置することは難しく、分析機器をそろえた分析部門に限られた台数が配置されることが一般的である。
【0014】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、例えば選鉱処理試験の方法として適用することができ、有用鉱物とそれ以外の不用鉱物及び脈石鉱物とを含む鉱石を対象として、その鉱石に含まれる有効鉱物の存在比率を、効果的にかつ効率的に分析することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、不透明な鉱物である有用鉱物と、透明な鉱物である不用鉱物及び脈石鉱物とを含む鉱石を分析対象として、光学顕微鏡により観察して暗視野画像と明視野画像とを得ることで、暗視野画像において有用鉱物を認識でき、明視野画像において不用鉱物及び脈石鉱物を認識できることがわかった。そして、それら画像からそれぞれの鉱物の面積比を算出することで、有用鉱物の存在比率を効率的に分析できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
(1)本発明の第1の発明は、不透明な鉱物(不透明鉱物)である有用鉱物と、透明な鉱物(透明鉱物)である不用鉱物及び脈石鉱物とを含む鉱石から得られる選鉱処理産物を分析対象とし、該選鉱処理産物に含まれる有用鉱物の存在比率を分析する方法であって、分析対象である前記選鉱処理産物を、顕微鏡観察用の樹脂に埋包し、鏡面研磨して、顕微鏡観察用試料を作製する試料作製工程と、前記顕微鏡観察用試料を、光学顕微鏡を用いて観察し、得られる観察画像に基づいて画像解析装置により前記有用鉱物の存在比率を分析する分析工程と、を有し、前記分析工程では、前記光学顕微鏡により観察される暗視野画像と、該光学顕微鏡により観察される明視野画像とをそれぞれ前記画像解析装置に取り込み、前記画像解析装置により、前記暗視野画像と前記明視野画像とのそれぞれで所定閾値の明度で示される部分の合計面積を比較する、分析方法である。
【0017】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記暗視野画像で前記所定閾値の明度で示される部分は前記透明鉱物を示し、前記明視野画像で該所定閾値の明度で示される部分は前記不透明鉱物を示し、前記分析工程では、前記画像解析装置により、前記暗視野画像と前記明視野画像とのそれぞれの前記合計面積の比に基づいて、前記有用鉱物の存在比率を算出する、分析方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、従来のようにMLA装置を用いることなく、鉱石に含まれる有用鉱物の存在比率を効果的にかつ効率的に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】光学顕微鏡による観察して得られた暗視野画像の写真図である。
【
図2】光学顕微鏡による観察して得られた明視野画像の写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」ともいう)について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0021】
本実施の形態に係る分析方法は、有用鉱物と、不用鉱物及び脈石鉱物とを含む鉱石について浮遊選鉱等の選鉱処理を施して得られる選鉱処理産物を分析対象として、その選鉱処理産物に含まれる有用鉱物の存在比率(割合)を分析する方法である。
【0022】
上述したように、浮遊選鉱等の選鉱処理においては、粉砕粒度、添加剤の選定や添加のタイミング、気泡サイズや流量、適切な段数というように非常に多くのパラメータがある。選鉱処理においては、最も効率よく精鉱(有用鉱物の比率を高めた粉粒体産物)と尾鉱(不用物残渣としての粉粒体産物)とを分離することが可能な条件(選鉱条件)を、予め確認して設定しておく必要がある。そして、その選鉱条件を調べるために選鉱処理試験が行われる。選鉱処理試験では、浮選産物(選鉱処理産物)として得られる精鉱中又は尾鉱中の有用鉱物、不用鉱物、及び脈石鉱物の存在比率を測定することが重要となる。
【0023】
本実施の形態に係る分析方法によれば、その選鉱処理試験での方法に適用でき、効果的に有用鉱物の存在比率を分析することができ、各種パラメータの選鉱条件の適切な設定に寄与する。また、従来では鉱物粒子解析装置(MLA装置)を用いて行っていた分析を、光学顕微鏡という比較的簡易な装置を用いて行うことができるため、オンサイトでの分析も可能となり、操作的にも経済的にも効率性の高い分析を行うことができる。
【0024】
ここで、「有用鉱物」とは、鉱脈鉱物のうちの所望とする金属(目的金属)が含まれる鉱物をいう。また、「不用鉱物」とは、有用鉱物とは反対に、鉱脈鉱物のうちの目的金属をほとんど含まない鉱物をいう。また、「脈石鉱物」とは、鉱脈鉱物ではない鉱物であり、目的金属を含まない鉱物をいう。
【0025】
また、この分析方法においては、有用鉱物が不透明な鉱物(以下、「不透明鉱物」ともいう)であり、不用鉱物及び脈石鉱物(有用鉱物以外の鉱物)が透明な鉱物(以下、「透明鉱物」ともいう)である場合に、特に好適となる。
【0026】
具体的に、本実施の形態に係る分析方法は、分析対象である選鉱処理産物から顕微鏡観察用試料を作製する試料作製工程と、前記顕微鏡観察用試料を、光学顕微鏡を用いて観察し、得られる観察画像に基づいて有用鉱物の存在比率を分析する分析工程と、を有する。
【0027】
[試料作製工程]
試料作製工程では、分析対象である選鉱処理産物を、顕微鏡観察用の樹脂に埋包し、鏡面研磨することによって、顕微鏡観察用試料を作製する。
【0028】
ここで、分析対象である「選鉱処理産物」とは、浮遊選鉱等の選鉱処理を任意の条件で行って得られる処理産物(粒状鉱石)であり、精鉱であっても、尾鉱であってもよい。上述のように、本実施の形態に係る分析方法は、精鉱と尾鉱とを効率よく分離するための最適な選鉱条件を確認し設定するための選鉱処理試験に好ましく適用することができる。例えば、選鉱処理産物である尾鉱を分析対象として、後述する分析工程にて光学顕微鏡を用いて観察し、その観察画像から有用鉱物の存在比率を分析することで、その任意な選鉱条件で行った選鉱処理の有効性を判断することができる。具体的には、分析対象の尾鉱において有用鉱物の存在比率が大きい場合には、浮鉱として分離されるべき有用鉱物が尾鉱に多く含まれることになった結果を把握することができ、例えば、鉱物の粉砕条件や、添加剤の選定及び添加タイミングの調整の指標とすることができる。
【0029】
試料作製工程では、分析対象の選鉱処理産物を、顕微鏡観察用の樹脂と混合することによって、その樹脂で埋包する。このように選鉱処理産物を樹脂で埋包することで、粉粒状である分析対象を固定化することができ、その後の鏡面研磨によって試料の断面を容易に露出させて、明確な観察分析を行うことが可能となる。
【0030】
樹脂としては、特に限定されない。例えば、熱硬化性樹脂(熱間樹脂)を用いることができる。このように熱硬化性樹脂により選鉱処理産物を埋包して固定することで、顕微鏡観察する際に切断の処理が不要となり、鏡面研磨して断面を露出させるだけで良好な観察分析が可能となる。熱硬化性樹脂としては、公知のものを用いることができ、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ジアリル樹脂等が例示される。
【0031】
樹脂の混合量は、選鉱処理産物を埋包できる量であれば特に限定されず、例えば、選鉱処理産物の容積に対して5倍量~25倍量程度とすることができる。
【0032】
選鉱処理産物と樹脂との混合の操作は、選鉱処理産物をバイアル瓶等の容器に入れ、そこに熱硬化性樹脂等の樹脂を添加して、ロッキングミル等の混合機により所定時間混合することにより行うことができる。
【0033】
また、例えば樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合、樹脂で埋包した選鉱処理産物に対して加熱処理を施すことでその樹脂を硬化させる。加熱処理の条件(硬化条件)は、使用する熱硬化性樹脂の種類に応じて適宜設定することが好ましく、その熱硬化性樹脂の硬化温度以上の加熱温度で処理する。また、加熱時間は、特に限定されないが、後に行う鏡面研磨の機械的加工に耐え得る強度が得られるまで硬化される時間とすればよく、長くても1時間程度とすれば十分である。
【0034】
加熱処理においては、熱硬化性樹脂の硬化温度未満、好ましくはより低い温度(例えば硬化温度の75%程度の温度、好ましくは70%程度の温度)まで加熱して、その温度で一定時間保持し、その後に硬化温度以上の温度(設定した加熱温度)まで昇温させるように処理してもよい。このように、硬化温度よりも低い温度で一定時間保持する処理を行うことで、樹脂を選鉱処理産物の空隙に浸透させることができ、より良好な顕微鏡観察用試料を作製することができる。
【0035】
鏡面研磨は、公知の方法により行うことができる。例えば、バフ研磨や研磨紙を用いた研磨等の機械研磨により行うことができる。このように、試料の所定の表面を研磨することによって、選鉱処理産物(粒状鉱石)の断面を露出させた平滑な面(研磨面)を形成する。これにより、顕微鏡観察用試料を得ることができる。そして、得られた顕微鏡観察用試料は次工程の分析工程に供され、顕微鏡観察用試料の研磨面において光学顕微鏡による観察及び画像解析が行われる。
【0036】
[分析工程]
分析工程では、顕微鏡観察用試料を、光学顕微鏡を用いて観察し、得られる観察画像に基づき画像解析装置によって有用鉱物の存在比率を分析する。
【0037】
具体的には、光学顕微鏡による観察で得られる暗視野画像と、光学顕微鏡による観察で得られる明視野画像とを、それぞれ画像解析装置に取り込む。そして、その画像解析装置によって、暗視野画像と明視野画像とのそれぞれで所定閾値の明度で示される部分の合計面積を比較する。
【0038】
まず、分析工程においては、顕微鏡観察用試料を光学顕微鏡により観察し、暗視野画像と明視野画像の観察画像を得る。
【0039】
上述したように本実施の形態に係る分析方法は、不透明鉱物である有用鉱物と、透明鉱物である不用鉱物及び脈石鉱物とを含む鉱石から得られる選鉱処理産物を分析対象としている。そのため、光学顕微鏡においては、不透明な有用鉱物については暗視野で明るく観察され、透明な不用鉱物及び脈石鉱物については明視野で明るく観察されることになる。このような性質を利用し、光学顕微鏡を用いた観察によって暗視野画像と明視野画像とを得ることで、顕微鏡観察用試料の観察面における有用鉱物の存在と、有用鉱物以外の不用鉱物及び脈石鉱物の存在を、明示的に確認することができる。
【0040】
暗視野画像及び明視野画像においてはそれぞれ、所定の閾値の明度を設定し、その明度による観察画像によって、有用鉱物、不用鉱物及び脈石鉱物を明示するようにする。明度の設定については、特に限定されず、暗視野画像であれば不透明鉱物である有用鉱物の存在が十分に確認できるような設定とすればよい。明視野画像であれば透明鉱物である不用鉱物及び脈石鉱物の存在が十分に確認できるような設定とすればよい。また、後述するように、画像解析装置に観察画像を取り込むにあたり、例えば暗視野画像であれば有用鉱物が存在する範囲(面積)、明視野画像であれば不用鉱物及び脈石鉱物の存在する範囲(面積)が適切に算出可能な程度に明度を設定することが好ましい。
【0041】
次に、分析工程では、得られた暗視野画像と明視野画像とをそれぞれ画像解析装置に取り込み、暗視野画像及び明視野画像のそれぞれにおいて所定の閾値の明度で示される部分、つまり、暗視野画像であれば有用鉱物が存在する部分、明視野画像であれば不用鉱物及び脈石鉱物が存在する部分の合計面積を比較する。
【0042】
具体的には、光学顕微鏡による観察で得られた、有用鉱物の存在を示す暗視野画像を画像解析装置に取り込み、また、不用鉱物及び脈石鉱物の存在を示す明視野画像を画像解析装置に取り込む。そして、画像解析装置において、取り込んだ暗視野画像から、その画像に明示される有用鉱物の粒子部分の面積の合計を算出し、同様に、取り込んだ明視野画像から、その画像に明示される不用鉱物及び脈石鉱物の粒子部分の面積の合計を算出する。これにより、顕微鏡観察用試料の観察面における有用鉱物の存在割合と、不用鉱物及び脈石鉱物の存在割合とが、数値として定量的に算出される。
【0043】
このように、画像解析装置において、暗視野画像の有用鉱物の面積と、明視野画像の不用鉱物及び脈石鉱物の面積とを算出することで、その面積比に基づいて、例えば有用鉱物と不用鉱物及び脈石鉱物との存在比率を算出することができる。
【0044】
上述したように、例えば、選鉱処理産物である尾鉱を分析対象としたとき、光学顕微鏡での観察で得られた暗視野画像と明視野画像とから、有用鉱物の存在比率を算出することで、浮鉱として分離されるべき有用鉱物が尾鉱に含まれる割合を適切に把握することができる。これにより、選鉱処理における条件(選鉱条件)を適切に設定することができる。
【0045】
画像解析装置は、顕微鏡画像の解析を行うことができるものであれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。また、その画像解析装置は、例えば解析ソフトウエアの形態で、光学顕微鏡の装置に組み込まれているものであってもよい。なお、画像解析装置が組み込まれた光学顕微鏡であれば、手間が少なく、解析に要する時間も短縮することができる。
【0046】
以上詳述したように、本実施の形態に係る分析方法によれば、選鉱処理試験に有効に適用可能であって、少なくとも有用鉱物の存在比率を効果的に分析することができ、各種パラメータの選鉱条件の適切な設定に寄与する。また、従来では鉱物粒子解析装置(MLA装置)を用いて行っていた分析を、光学顕微鏡という比較的簡易な装置を用いて行うことができるため、オンサイトでの分析も可能となり、操作的にも経済的にも効率性の高い分析を行うことができる。
【0047】
また、顕微鏡観察の画像を得るようにしているため、同一試料、同一視野について、従来通りのMLA装置によって解析することが可能となり、光学顕微鏡による分析結果について妥当性を確認することもできる。さらに、本実施の形態に係る分析方法と、従来のようなMLA装置を用いた分析とで、仮に測定絶対値の差異が発生しても、双方の結果を比較して検量線的な補正をすることができる。
【0048】
なお、選鉱処理産物を解析して選鉱条件を探索するうえで、つまり選鉱処理試験において、本実施の形態に係る分析方法で得られる値(有用鉱物の存在比率)とMLA装置による解析値とで結果に差異があっても、それほど大きな問題にはならない。鉱物の分離程度について有用鉱物の存在比率の数値が得られることが重要であって、選鉱条件を種々変化させたときに、選鉱による分離程度が変化するかの指標として利用することもできるためである。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0050】
[実施例1]
(分析対象について)
分析対象の試料粉末として、有用鉱物が不透明な鉱物であり、不用鉱物及び脈石鉱物が透明な鉱物である鉱石を、粒径100μm(P80)となるように粉砕して浮遊選鉱(浮選)処理に付し、その浮選処理産物である尾鉱の粉末を回収して用いた。なお、有用鉱物は、黄銅鉱(硫化銅鉱物を主成分とする不透明鉱物)であり、不用鉱物及び脈石鉱物はアルミナ、シリカ等の酸化鉱物を主成分とする鉱物(透明鉱物)であった。
【0051】
(試料作製工程)
乾燥させた試料粉末(選鉱処理産物)を、計量スプーンで0.5cc計り取り、ヘラを用いて5分程度軽く叩いて乾燥時に発生する弱い凝集を解砕した。続いて、解砕後の粉粒混合物を、ポリプロピレン製のバイアル瓶に入れ、フェノール系熱硬化性樹脂(ベークライトPR50252,住友ベークライト社製)を添加して、ロッキングミル(RM-05,セイワ技研社製)で10分間混合することにより、試料粉末を樹脂で埋包した。
【0052】
樹脂で埋包した試料粉末に対して加熱処理を施し、樹脂を硬化させた。加熱処理は、加圧加熱装置(CitoPress-20,丸本ストルアス社製)を用い、90℃まで昇温させて4分間保持した後、180℃まで加熱して75barの加圧下で5分間保持することによって行った。その後、試料の観察面を研磨、鏡面状仕上げして、顕微鏡観察用試料を得た。
【0053】
(分析工程)
次に、顕微鏡観察試料を、光学顕微鏡(マイクロスコープ VHX-6000,キーエンス社製)を用いて倍率300倍で観察し、暗視野画像と明視野画像とを得た。
図1は、暗視野画像の写真図であり、(A)は所定閾値の明度で不透明鉱物である有用鉱物の粒子を明示させた写真図であり、(B)は(A)の有用鉱物の粒子の箇所を色付けした写真図である。また、
図2は、明視野画像の写真図であり、(A)は所定閾値の明度で透明鉱物である不用鉱物及び脈石鉱物の粒子を明示させた写真図であり、(B)は(A)の不用鉱物及び脈石鉱物の粒子の箇所を色付けした写真図である。
【0054】
続いて、得られた暗視野画像と明視野画像とを、画像解析装置(画像解析ソフト(WinROOF2018,三谷商事社製を搭載したPC)に取り込み、各画像で得られた粒子の面積値を算出した。得られた暗視野画像の粒子の面積値と明視野画像の粒子の面積値に基づき、不透明鉱物である有用鉱物と透明鉱物である不用鉱物及び脈石鉱物の存在比率を算出した。
【0055】
その結果、有用鉱物の存在比率は24%であることがわかった。
【0056】
[参考例1]
参考例1として、同一試料を用い、同一視野において、鉱物粒子解析装置(Mineral Liberation Analyzer, MLA装置)により、有用鉱物の存在比率を解析した。
図3は、MLA装置による解析画像を示す写真図である。
【0057】
解析の結果、有用鉱物の存在比率は33%であることが分かった。
【0058】
なお、実施例1と参考例1の結果から、実施例1の分析方法で得られた有用鉱物の存在比率は、MLA装置での解析による割合(参考例1の結果)と差異があるものであったが、算出した面積の絶対値で比べると10%程度の差異であり、定期的に結果を比較して検量線的な補正を行うことで差異を縮小させることもでき、有効な分析結果であると判断できた。