(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】薬注制御方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20240625BHJP
B01D 65/02 20060101ALI20240625BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20240625BHJP
B01D 61/12 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C02F1/44 C
B01D65/02 500
B01D61/02
B01D61/12
(21)【出願番号】P 2020569607
(86)(22)【出願日】2020-01-27
(86)【国際出願番号】 JP2020002698
(87)【国際公開番号】W WO2020158645
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2019012435
(32)【優先日】2019-01-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】大塚 雄太
(72)【発明者】
【氏名】早川 邦洋
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-211327(JP,A)
【文献】特開2018-114473(JP,A)
【文献】特開2018-012062(JP,A)
【文献】特開2018-012061(JP,A)
【文献】特開2016-221427(JP,A)
【文献】特開2002-143849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/44
B01D61/00-71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆浸透膜装置に供給される被処理水に添加されるスライムコントロール剤の薬注量を制御する方法において、
該逆浸透膜装置のファウリングに関する指標値の変化速度に基づいて前記薬注量を制御する薬注制御方法であって、
前記指標値は、前記逆浸透膜装置の非透過側の差
圧であり、
該非透過側の差圧は、該逆浸透膜装置に流入する被処理水の圧力と該逆浸透膜装置から流出する濃縮水の圧力との差であり、
設定されたサンプリング期間における前記指標値の平均変化速度が閾値A以下である場合、薬注量を規定量低下させることを特徴とする薬注制御方法。
【請求項2】
前記逆浸透膜装置に供給される被処理水に存在するスライムコントロール剤の濃度を変更するよう、前記薬注量の制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の薬注制御方法。
【請求項3】
前記スライムコントロール剤の被処理水への添加が添加工程と休止工程とを有する間欠添加であって、
該添加工程と休止工程の少なくとも一方の時間を変更することで、前記薬注量の制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の薬注制御方法。
【請求項4】
薬注量が異なる薬注レベルが複数レベル設定されており、制御開始当初は、予め設定した所定の薬注レベルで薬注を開始し、前記サンプリング期間が経過する度に、該サンプリング期間における指標値の平均変化速度と前記閾値Aとを比較し、
該平均変化速度が前記閾値A以下である場合には、薬注量を1段階以上少ないレベルに低下させる工程を繰り返し実施し、
前記平均変化速度が前記閾値Aを超えた場合には、その薬注レベルをそのまま維持するか、または薬注量を1段階以上多いレベルとし、この薬注レベルを最適薬注レベルとする最適薬注レベル探索モードを有することを特徴とする請求項1に記載の薬注制御方法。
【請求項5】
前記最適薬注レベル探索モードで最適薬注レベルを決定した後、前記最適薬注レベルで運転を継続する安定運転モードを有することを特徴とする請求項4に記載の薬注制御方法。
【請求項6】
前記安定運転モードでは、
前記設定されたサンプリング期間が経過する度に、前記サンプリング期間における前記平均変化速度と前記閾値Aとを比較し、前記平均変化速度が前記閾値A以下である場合には、同じ薬注レベルでの運転を継続する工程を繰り返し実施し、同じ薬注レベルでの運転において、前記平均変化速度と前記閾値Aとの比較を連続してn回実施した場合には、薬注量を1段階以上少ないレベルに低下させることを特徴とする請求項5に記載の薬注制御方法。
【請求項7】
薬注量が異なる薬注レベルが複数レベル設定されており、所定の薬注レベルで薬注を実施し、前記サンプリング期間が経過する度に、前記サンプリング期間における前記平均変化速度と前記閾値Aとを比較し、前記平均変化速度が前記閾値A以下である場合には、同じ薬注レベルでの運転を継続する工程を繰り返し実施し、同じ薬注レベルでの運転において、前記平均変化速度と前記閾値Aとの比較を連続してn回実施した場合には、薬注量を1段階以上少ないレベルに低下させることを特徴とする安定運転モードを有することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の薬注制御方法。
【請求項8】
前記安定運転モードでは、前記サンプリング期間が経過する毎に、前記平均変化速度と閾値Aとを比較し、前記平均変化速度が閾値Aよりも大きい場合には、薬注量をj段階多いレベル(jは1以上の整数)に増加させることを特徴とする請求項5~7のいずれかに記載の薬注制御方法。
【請求項9】
前記安定運転モードでは、閾値を前記閾値Aよりも大きい閾値Bを設定し、
前記サンプリング期間が経過する毎に前記平均変化速度と閾値Bとを対比し、
前記平均変化速度が前記閾値Bよりも大きい場合には、薬注量をm段階多いレベル(mは2以上の整数)に増加させることを特徴とする請求項8に記載の薬注制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水系へのスライムコントロール剤の注入量を制御する薬注制御方法に関するものであり、好適には逆浸透膜(RO膜)システムにおけるスライムを抑制して逆浸透膜のファウリングを防止する薬注制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海水淡水化プラントや排水回収プラントでは、電解質や中低分子の有機成分を効率的に除去することができるRO膜装置が広く用いられている。RO膜装置を含む水処理装置では、通常、RO膜装置の前段に圧力濾過装置、重力濾過装置、凝集沈澱処理装置、加圧浮上濾過装置、浸漬膜装置、膜式前処理装置などの前処理装置が設けられ、被処理水はこれらの前処理装置により前処理された後、RO膜装置に供給されてRO膜分離処理される。
【0003】
このような水処理装置においては、被処理水中に含まれる微生物が、装置配管内や膜面で増殖してスライムを形成し、系内の微生物繁殖による臭気発生、RO膜の透過水量低下といった障害を引き起こすことがある。微生物による汚染を防止するためには、被処理水に殺菌剤を常時又は間欠的に添加し、被処理水又は装置内を殺菌しながら処理する方法が一般的である。
【0004】
特にRO膜でのトラブルを解決するために、クロラミンやクロロスルファミン酸ナトリウムといった結合塩素系酸化剤のほか、結合臭素系酸化剤、イソチアゾロン系化合物などの微生物増殖を抑制する化合物を含有するスライムコントロール剤を添加して微生物増殖を抑制する方法が採られている。
【0005】
スライムコントロール剤の添加量制御方法として、特許文献1には、RO膜ユニットの非透過側の差圧を測定し、この差圧が基準値よりも低いときと高いときとで薬注量を異ならせることが記載されている。
【0006】
特許文献2には、薬注された水系のスライムと微生物の呼吸活性を測定し、この測定値に応じて薬注量を制御することが記載されている。
【0007】
特許文献3には、スライムコントロール剤を添加する時間(添加期間)と添加しない時間(無添加期間)とを設ける、所謂、間欠添加することで、薬剤使用量(薬注量)を低減する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2011-224543号公報
【文献】特開2012-210612号公報
【文献】国際公開WO2013/005787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、水系へのスライムコントロール剤の最適添加量の決定を迅速化し、またスライム負荷の変動や被処理水の流量の変動に対応して安定したスライム抑制を達成することができる薬注制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は次の通りである。
【0011】
[1] 逆浸透膜装置に供給される被処理水に添加されるスライムコントロール剤の薬注量を制御する方法において、
該逆浸透膜装置のファウリングに関する指標値の変化速度に基づいて前記薬注量を制御することを特徴とする薬注制御方法。
【0012】
[2] 前記逆浸透膜装置に供給される被処理水に存在するスライムコントロール剤の濃度を変更するよう、前記薬注量の制御を行うことを特徴とする[1]に記載の薬注制御方法。
【0013】
[3] 前記スライムコントロール剤の被処理水への添加が添加工程と休止工程とを有する間欠添加であって、
該間欠工程と休止工程の少なくとも一方の時間を変更することで、前記薬注量の制御を行うことを特徴とする[1]に記載の薬注制御方法。
【0014】
[4] 前記指標値の変化速度は、ファウリングの進行速度と正の相関を有するものであって、
設定されたサンプリング期間における前記指標値の平均変化速度が閾値A以下である場合、薬注量を規定量低下させることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の薬注制御方法。
【0015】
[5] 薬注量が異なる薬注レベルが複数レベル設定されており、制御開始当初は、予め設定した所定の薬注レベルで薬注を開始し、前記サンプリング期間が経過する度に、該サンプリング期間における指標値の平均変化速度と前記閾値Aとを比較し、
該平均変化速度が前記閾値A以下である場合には、薬注量を1段階以上少ないレベルに低下させる工程を繰り返し実施し、
前記平均変化速度が前記閾値Aを超えた場合には、その薬注レベルをそのまま維持するか、または薬注量を1段階以上多いレベルとし、この薬注レベルを最適薬注レベルとする最適薬注レベル探索モードを有することを特徴とする[4]に記載の薬注制御方法。
【0016】
[6] 前記最適薬注レベル探索モードで最適薬注レベルを決定した後、前記最適薬注レベルで運転を継続する安定運転モードを有することを特徴とする[5]の薬注制御方法。
【0017】
[7] 前記安定運転モードでは、
前記設定されたサンプリング期間が経過する度に、前記サンプリング期間における前記平均変化速度と前記閾値Aとを比較し、前記平均変化速度が前記閾値A以下である場合には、同じ薬注レベルでの運転を継続する工程を繰り返し実施し、同じ薬注レベルでの運転において、前記平均変化速度と前記閾値Aとの比較を連続してn回実施した場合には、薬注量を1段階以上少ないレベルに低下させることを特徴とする[6]の薬注制御方法。
【0018】
[8] 薬注量が異なる薬注レベルが複数レベル設定されており、所定の薬注レベルで薬注を実施し、前記サンプリング期間が経過する度に、前記サンプリング期間における前記平均変化速度と前記閾値Aとを比較し、前記平均変化速度が前記閾値A以下である場合には、同じ薬注レベルでの運転を継続する工程を繰り返し実施し、同じ薬注レベルでの運転において、前記平均変化速度と前記閾値Aとの比較を連続してn回実施した場合には、薬注量を1段階以上少ないレベルに低下させることを特徴とする安定運転モードを有する[1]から[4]に記載の薬注制御方法。
[9] 前記安定運転モードでは、前記サンプリング期間が経過する毎に、前記平均変化速度と閾値Aとを比較し、前記平均変化速度が閾値Aよりも大きい場合には、薬注量をj段階多いレベル(jは1以上の整数)に増加させることを特徴とする[6]から[8]に記載の薬注制御方法。
【0019】
[10] 前記安定運転モードでは、閾値を前記閾値Aよりも大きい閾値Bを設定し、
前記サンプリング期間が経過する毎に前記平均変化速度と閾値Bとを対比し、
前記平均変化速度が前記閾値Bよりも大きい場合には、薬注量をm段階多いレベル(mは2以上の整数)に増加させることを特徴とする[9]に記載の薬注制御方法。
【0020】
[11] 前記指標値は、前記逆浸透膜装置の非透過側の差圧又は給水圧であることを特徴とする[1]~[10]のいずれかに記載の薬注制御方法。
【0021】
[12] 前記指標値の平均変化速度は、ファウリングの進行速度と負の相関を有するものであって、前記指標値の設定されたサンプリング期間の平均変化速度が閾値A以上である場合、薬注量を規定量低下させることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の薬注制御方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、スライムコントロール剤の添加開始時に薬注量が自動的に最適量に調整される。
【0023】
本発明の一態様によると、薬注量が安定した後に差圧上昇が認められた場合は、自動的に薬注量が適正値に切り替えられる。
【0024】
また、本発明の一態様によると、薬注量が安定した後に、薬注量を1段階以上下げることにより、薬品使用量を削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図3】本発明の一例を説明するフローチャートである。
【
図4】本発明の一例を説明するフローチャートである。
【
図5】本発明の一例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明方法では、逆浸透膜装置に供給される被処理水に添加されるスライムコントロール剤の薬注量を、該逆浸透膜装置のファウリングに関する指標値の変化速度に基づいて前記薬注量を制御する。
【0027】
前記指標値の変化速度は、ファウリングの進行速度と正の相関を有するもの(例えば差圧)であってもよく、負の相関を有するものであってもよい。
【0028】
以下に、指標値がファウリングの進行速度と正の相関を有する場合を説明する。この場合の一態様では、設定されたサンプリング期間における前記指標値の平均変化速度が閾値A以下である場合、薬注量を規定量低下させる。
【0029】
この態様の一例では、薬注量が異なる薬注レベルが複数レベル設定されており、制御開始当初は、予め設定した所定の薬注レベルで薬注を開始し、前記サンプリング期間が経過する度に、該サンプリング期間における指標値の平均変化速度と前記閾値Aとを比較し、該平均変化速度が前記閾値A以下である場合には、薬注量を1段階以上少ないレベルに低下させる工程を繰り返し実施し、前記平均変化速度が前記閾値Aを超えた場合には、その薬注レベルをそのまま維持するか、または、薬注量を1段階以上多いレベルとし、この薬注レベルを最適薬注レベルとする最適薬注レベル探索モードを行う。
【0030】
本発明の一例では、前記最適薬注レベル探索モードで最適薬注レベルを決定した後、前記最適薬注レベルで運転を継続する安定運転モードを行う。
【0031】
前記安定運転モードの一例では、前記設定されたサンプリング期間が経過する度に、前記サンプリング期間における前記平均変化速度と前記閾値Aとを比較し、前記平均変化速度が前記閾値A以下である場合には、同じ薬注レベルでの運転を継続する工程を繰り返し実施し、同じ薬注レベルでの運転において、前記平均変化速度と前記閾値Aとの比較を連続してn回実施した場合には、薬注量を1段階以上少ないレベルに低下させる。
【0032】
前記安定運転モードの別の一例では、前記サンプリング期間が経過する毎に、前記平均変化速度と閾値Aとを比較し、前記平均変化速度が閾値Aよりも大きい場合には、薬注量をj段階多いレベル(jは1以上の整数)に増加させる。また、前記閾値Aよりも大きい閾値Bを設定し、前記サンプリング期間が経過する毎に前記平均変化速度と閾値Bとを対比し、前記平均変化速度が前記閾値Bよりも大きい場合には、薬注量をm段階多いレベル(mは2以上の整数)に増加させる。
【0033】
以下、図面を参照して実施の形態について詳細に説明する。
【0034】
図1はROシステムの構成図であり、被処理水が配管4を介してRO装置5に供給され、透過水が配管6から取り出され、濃縮水が配管7から取り出される。
【0035】
配管4には流量計1が設けられており、その測定値が制御ユニット10に入力される。配管4に対し、貯留槽2内のスライムコントロール剤溶液が薬注ポンプ3を介して添加される。薬注ポンプ3は制御ユニット10によって制御される。配管4,7にそれぞれ圧力計8,9が設けられている。該圧力計8,9の検出値が制御ユニット10に入力され、両者の差からRO装置5の非透過側の差圧ΔPが演算される。
【0036】
本発明では、差圧の平均上昇速度(単位時間当りの差圧の上昇値)に基づいてステップの薬注量(添加量)が制御される。
【0037】
本発明の一実施の形態では、薬注量が少ない側から多い方へ複数段階(レベル)、特に限定するものではないが2~100段階、好ましくは3~80段階特に好ましくは4~50段階、とりわけ好ましくは5~10段階設定されており、差圧の上昇速度が所定の範囲以下の場合には、薬注レベルを順次に引き下げる。そして、差圧の上昇速度が所定の範囲以下の場合で最も少ないレベルにて薬注を継続する。なお、この設定された段階(レベル)の数をxと表わすことがある。
【0038】
なお、差圧の平均上昇速度は、サンプリング期間Sの差圧-時間グラフにおける傾きを最小二乗法によって求めることができる。
【0039】
上記のサンプリング期間Sは0.5~720h特に24~336hとりわけ72~168hが好ましい。差圧の測定間隔は72~1008min特に216~504min程度が好ましい。
【0040】
【0041】
はじめに最も添加量の多いレベルで薬注を開始する(ステップ30)。設定したサンプリング期間S経過後に該期間中の差圧の平均上昇速度(dΔP/dt)を算出する。差圧の平均上昇速度が閾値Aを超えているときには、最も多い薬注量にて薬注を継続する(ステップ31)。平均上昇速度がA以下であれば、1段階下の薬注レベルに変更する(ステップ31→32)。次いで、同様に、設定したサンプリング期間Sを経過する毎に、差圧平均上昇速度が閾値Aを超えていないかを判定し(ステップ33)、Aを超えていなければさらに1段階下の薬注レベルに変更する(ステップ33→32)。この操作を繰り返し、差圧の平均上昇速度が閾値Aを超えた場合には、薬注レベルを1段階上のレベルとする(ステップ33→34)。なお、差圧の平均上昇速度が閾値Aを超えた場合には、その薬注レベルをそのまま維持してもよい。
【0042】
その後は、
図3の破線で示すように、ステップ31に戻って同様の制御を行うか、又は、ステップ34で設定された薬注量を基準とした、
図4又は
図5に示す安定運転モードにて薬注を行う。
【0043】
ステップ34で設定された薬注量は、複数レベル設定した薬注レベルのうち、差圧の平均上昇速度が閾値A以下となる最少の薬注レベル(最適薬注レベル)である。したがって、スタートからステップ34までのステップは、最適薬注レベルを探索するための最適薬注レベル探索モードの一例となる。
【0044】
上記の最適薬注レベル探索モードでは、ステップ31、ステップ34ではレベルを1段階変化させているが、特にこれに限定されるものではなく、設定した段階の数xよりも小さい範囲で、適宜設定することができる。例えば、予め設定した段数をx、変化させる段数をyとした場合、y/xは0.05以上、特に0.3以上で且つ0.5以下、特に0.4以下であることが好ましい。これを式で表わすと、y/xは以下のような範囲となるよう設定することができる。なお、xは、前述の通り、好ましくは2~100、さらに好ましくは3~80、さらに好ましくは4~50、さらに好ましくは5~10である。
(0.05~0.3)≦y/x≦(0.4~0.5)
【0045】
【0046】
上記のステップ34で設定された薬注レベルで、設定したサンプリング期間S経過後に、差圧平均上昇速度と閾値Aとを比較し(ステップ41)、平均上昇速度が閾値A以下であれば、再度、同じ薬注レベルで運転を継続し、再びサンプリング期間S経過後に、差圧平均上昇速度と閾値Aとを比較する(ステップ41→42→41)。この操作を繰り返し実行し、同じ薬注レベルで、連続してn回、差圧平均上昇速度が閾値A以下の場合には、薬注レベルを1段少ないレベルに低下させ(ステップ41→42→43)、その薬注レベルで運転を継続する(ステップ43→41)。なお、上記nはあらかじめ設定した2以上(例えば2~20、特に2~10)の数である。
【0047】
途中で、サンプリング期間Sでの差圧の平均上昇速度が閾値Aを超えた場合には、薬注レベルをj段(jは1以上の整数)、例えば1段多いレベルにあげ(ステップ41→44)、この薬注レベルで運転を継続する(ステップ44→41)。
【0048】
安定運転モードの別例を
図5に示す。設定したサンプリング期間S経過後に、差圧平均上昇速度と閾値Aとを比較し(ステップ51)、平均上昇速度がA以下であれば、
図4の安定運転モード(1)と同様、再度、同じ薬注レベルで運転を継続し、再びサンプリング期間S経過後に、差圧平均上昇速度と閾値Aとを比較する(ステップ51→52→51)。この操作を繰り返し実行し、同じ薬注レベルで、連続してn回、差圧平均上昇速度が閾値A以下の場合には、薬注レベルを1段少ないレベルに低下させ(ステップ51→52→53)、その薬注レベルで運転を継続する(ステップ53→51)。
【0049】
この安全運転モード(2)では、Aよりも大きい閾値Bを設定する。途中で、サンプリング期間Sでの差圧平均上昇速度が閾値Aを超えた場合には、次に、差圧平均上昇速度と閾値Bとを比較し、閾値B以下であれば、薬注レベルを1段多いレベルにあげ(ステッ54→55)、この薬注レベルで運転を継続する(ステップ55→51)。そして、差圧平均上昇速度と閾値Bとの比較において、差圧平均上昇速度が閾値Bを超えた場合には、薬注レベルをm段(mは2以上の整数)、例えば2段多いレベルに上げ(ステップ54→56)、この薬注レベルで運転を継続する(ステップ56→51)。mは例えば2~20、特に2~10の間から選択される。
【0050】
上記閾値BとAの比B/Aは10以下特に2~5程度が好ましい。また、上記、nは20以下特に2~10程度が好ましい。nは整数でなくても良い。
【0051】
最も薬注量が少ないレベルで運転している場合には、
図3のステップ32、
図4のステップ43あるいは
図5のステップ53などにおいて、薬注レベルを下げることができない。このような場合には、薬注レベルを下げることなく、最も薬注量が少ないレベルのままで、次のステップ、
図3ではステップ33又は安定運転モードに、
図4ではステップ41、
図5ではステップ51に移行する。
【0052】
最も薬注量が多いレベルで運転している場合には、
図4のステップ44、
図5のステップ55,56などで、薬注レベルを上げることができない。場合には、薬注レベルを上げることなく、最も薬注量が多いレベルのままで、次のステップ、
図4ではステップ41に、
図5ではステップ51に移行する。
【0053】
上記の安定運転モードでは、ステップ43、ステップ44、ステップ53およびステップ55ではレベルを1段階変化させているが、特にこれに限定されるものではなく、設定した段数xよりも小さい範囲で、適宜設定することができる。例えば予め設定した段数をx、変化させる段数をzとした場合、z/xは0.05以上、特に0.3以上で且つ0.5以下、特に0.4以下であることが好ましい。
【0054】
また、上記の態様では、最適薬注レベル探索モードに引き続き、安定運転モードに移行しているが、最適薬注レベル探索モードと安定運転モードとの間に別の工程(モード)を存在させても良いし、最適薬注レベル探索モードを省略して安定運転モードから運転を実施しても良い。
【0055】
上記の制御は制御ユニット10によって行われる。スライムコントロール剤を間欠的に添加する場合の制御ユニット10の表示画面の一例を
図2に示す。なお、図示は省略するが、制御ユニット10には、各種の値を入力するために、タッチパネル、キーボード等の入力手段が設けられている。
【0056】
この画面60では、現時点における差圧上昇速度を表示する表示部61、閾値Aの表示部62、閾値Bの表示部63、サンプリング期間Sの表示部64等が設けられている。この例では、薬注レベルはNo.1~No.6の6段階設定されており、各レベルにおける薬注比の表示部65、薬注ポンプのONタイムの表示部66及びOFFタイムの表示部67が設けられている。さらに、実行されている薬注レベルを点灯により表示する点灯部68が設けられている。
【0057】
なお、薬注比は、最も薬注ポンプの吐出量が多いレベルのものを100%とした場合の各レベルの薬注量を表わしている。
【0058】
また、この実施の形態(間欠添加)では、薬注ポンプ3はPWM制御されており、ONタイムはポンプONの時間(デューティ)を表わし、OFFタイムにポンプOFFの時間を表わし、薬注比は全て同一の値(例えば100%)とし、ポンプONの時間及び/又はポンプOFFの時間をそれぞれ異なる時間とすることで、異なる薬注レベルを設定する。ただし、薬注ポンプ制御はPWM制御に限定されず、パルス制御でもアナログ制御であってもよい。
【0059】
画面60には、1回のサンプリング時間Sを計測するタイマーをスタートさせてからの経過時間を表示する表示部を設けてもよい。
【0060】
上記実施の形態では、RO装置5の非透過側の差圧ΔPの上昇速度を指標値としているが、RO膜給水圧(圧力計8検出値)の上昇速度を指標値としてもよい。RO膜給水圧も、ファウリングの進行速度と正の相関関係を有する。
【0061】
前述の通り、指標値は、ファウリングの進行速度と負の相関関係を有するものであってもよい。例えば、RO装置5の透過流束や透過流量等の変化速度(低下速度)を指標値としてもよい。
【0062】
透過流束や透過流量は、膜のファウリングのみならず、温度や膜間差圧によっても異なる。したがって、透過流束や透過流量を用いる場合、標準膜間差圧及び標準温度条件下に換算した、補正透過流束、補正透過流量を用いることが好ましい。
【0063】
指標値がファウリングの進行速度と負の相関関係を有するものである場合、上記のファウリングの進行速度と正の相関関係を有する場合における「A以下」等を「A以上」等と逆にすればよい。例えば、設定されたサンプリング期間における前記指標値の平均変化速度(例えば、RO装置5の補正透過流束の変化速度)が閾値A以上である場合、薬注量を規定量低下させるようにする。
【0064】
上記実施の形態では、ポンプON(添加工程)の時間とポンプOFF(休止工程)の時間の少なくとも一方を変更することで薬注量の制御を行っているが、薬注ポンプ3の吐出側と配管4とを接続する配管に設けた開閉バルブ(図示せず)の開度の変更や、薬注ポンプ3自体の吐出量の変更によって、被処理水中に注入されるスライムコントロール剤の薬注量を制御しても良い。
【0065】
また、上記実施の形態では、スライムコントロール剤の添加は添加工程と休止工程とを有する間欠添加で行っているが、休止工程を設けない連続添加であっても良い。連続添加の場合には、上述の開閉バルブの開度や薬注ポンプ3自体の吐出量自体を変更することで薬注量を制御することができる。
【0066】
スライムコントロール剤としては、結合塩素系、結合臭素系スライムコントロール剤、イソチアゾロン化合物などのいずれでもよい。結合塩素系スライムコントロール剤としてはスルファミン酸化合物を含有するものが例示される。
【0067】
本発明では、制御ユニット6に、上記以外の制御モードでの制御を行うプログラムを搭載してもよい。このようなプログラムとしては例えばスライムコントロール剤添加条件として系内でのスライムコントロール剤濃度を設定し、スライムコントロール剤濃度に相関を有する指標の測定値に基づいて添加条件通りのスライムコントロール剤濃度を維持するようスライムコントロール剤注入量制御を行うプログラムが例示される。スライムコントロール剤として結合塩素系あるいは結合臭素系スライムコントロール剤を用いる場合には、DPD法の測定により前記指標を得ることができる。
【0068】
系内のスライムコントロール剤濃度を設定する場合には、
図2の薬注比に変えて、系内のスライムコントロール剤濃度あるいはスライムコントロール剤濃度に相関する指標を用いることができる。
【0069】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2019年1月28日付で出願された日本特許出願2019-012435に基づいており、その全体が引用により援用される。
【符号の説明】
【0070】
3 薬注ポンプ
5 RO装置
8,9 圧力計
10 制御ユニット