(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】セメント組成物の製造方法及び固化材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20240625BHJP
C04B 24/12 20060101ALI20240625BHJP
C04B 24/02 20060101ALI20240625BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20240625BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/12 A
C04B24/02
C04B22/14 B
C04B18/14 A
(21)【出願番号】P 2021035456
(22)【出願日】2021-03-05
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翔平
(72)【発明者】
【氏名】小堺 規行
(72)【発明者】
【氏名】金井 謙介
(72)【発明者】
【氏名】今津 大貴
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-218228(JP,A)
【文献】特開2000-203909(JP,A)
【文献】特開2017-210398(JP,A)
【文献】特開2017-057120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 28/02
C04B 24/12
C04B 24/02
C04B 22/14
C04B 18/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリンカを含むセメント成分とアルカノールアミンとを混合して混合物を製造する工程と、
前記混合物と脂肪族多価アルコールとを混合して、セメント組成物を製造する工程と、を含み、
前記アルカノールアミンの添加量が、前記セメント成分100質量部に対して0.002質量部以上0.06質量部以下であり、
前記脂肪族多価アルコールの添加量が、前記セメント成分100質量部に対して2.0質量部以上5.0質量部以下である、セメント組成物の製造方法。
【請求項2】
前記脂肪族多価アルコールの添加量及び前記アルカノールアミンの添加量の合計に対する前記アルカノールアミンの添加量の割合が、0.05%以上2.0%以下である、請求項1に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項3】
前記アルカノールアミンが、ジエタノールイソプロパノールアミンまたはトリイソプロパノールアミンである、請求項1または2に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項4】
前記脂肪族多価アルコールが、グリセリンまたはジエチレングリコールである、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のセメント組成物の製造方法により得られるセメント組成物と、無水石膏と、高炉スラグと、を混合する工程を含む、固化材の製造方法。
【請求項6】
セメント組成物と、無水石膏と、高炉スラグと、アルカノールアミンとを混合し、混合物を製造する工程と、
前記混合物と脂肪族多価アルコールとを混合して、固化材を製造する工程と、を含み、
前記アルカノールアミンの添加量が、前記セメント組成物、前記無水石膏及び前記高炉スラグの合計100質量部に対して0.002質量部以上0.06質量部以下であり、
前記脂肪族多価アルコールの添加量が、前記セメント組成物、前記無水石膏及び前記高炉スラグの合計100質量部に対して2.0質量部以上5.0質量部以下である、固化材の製造方法。
【請求項7】
前記脂肪族多価アルコールの添加量及び前記アルカノールアミンの添加量の合計に対する前記アルカノールアミンの添加量の割合が、0.05%以上2.0%以下である、請求項6に記載の固化材の製造方法。
【請求項8】
前記アルカノールアミンが、ジエタノールイソプロパノールアミンまたはトリイソプロパノールアミンである、請求項6または7に記載の固化材の製造方法。
【請求項9】
前記脂肪族多価アルコールが、グリセリンまたはジエチレングリコールである、請求項6乃至請求項8のいずれか1項に記載の固化材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発塵抑制処理が施されたセメント組成物の製造方法及び固化材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントの製造過程あるいはセメントを用いた作業の過程において、セメントから粉塵が発生し、作業環境の悪化や安全衛生上の弊害が発生することが懸念される。このため、従来より、発塵抑制剤を添加することにより、粒子を凝集させてセメントからの発塵を防止することが行われている。例えば特許文献1には、クリンカ製造時に発生するクリンカダスト抑制対策として、脂肪族多価アルコール類を添加するクリンカの発塵抑制方法が開示されている。
【0003】
一方、セメントの強度を増進させる方法として、特許文献2に開示されるように、トリアルカノールアミン(TIPA)などのアルカノールアミンを添加することが知られている。特許文献3には、アルカノールアミン化合物と奇数個の水酸基を有する多価アルコールとをセメント組成物に添加することにより、相乗的に長期強度が向上することが開示されている。
特許文献4には、多価アルコールとトリアルカノールアミンとを含有するセメント粉砕助剤をセメント組成物の製造に用いることにより、モルタルの長期強度を増進させるとともに、粉砕後のセメントの粉体特性を改質し、発塵を抑制することができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-73924号公報
【文献】特開2000-313648号公報
【文献】特開2019-218228号公報
【文献】特開2017-210398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、短期強度を発現しつつ、長期でも高強度を維持することができるとともに、作業時の発塵を防止することができるセメント組成物の製造方法を提供することを目的とする。また本発明は、短期強度を発現しつつ、長期でも高強度を維持することができるとともに、発塵を防止することができる固化材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
例えば特許文献4に開示される粉砕助剤のように、脂肪族多価アルコール及びアルカノールアミンは、混合物としてクリンカ等に添加されることが一般的であった。しかしながら本発明者らは、セメント組成物の製造過程で、クリンカにアルカノールアミンを添加し混合粉砕した後で、脂肪族多価アルコールを添加して混合することによって、例えば特許文献4のように脂肪族多価アルコール及びアルカノールアミンの混合物としてクリンカに同時に添加する場合よりも、硬化物の短期強度及び長期強度の両方を大幅に増進させることができることを見出し、本発明を完成させた。
更に、本発明者らは、固化材の製造過程においても同様に、セメントにアルカノールアミンを添加して混合した後で、脂肪族多価アルコールを添加して混合することによって、硬化物の短期強度及び長期強度の両方を増進させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の<1>~<9>を提供する。
<1> クリンカを含むセメント成分とアルカノールアミンとを混合して混合物を製造する工程と、前記混合物と脂肪族多価アルコールとを混合して、セメント組成物を製造する工程と、を含み、前記アルカノールアミンの添加量が、前記セメント成分100質量部に対して0.002質量部以上0.06質量部以下であり、前記脂肪族多価アルコールの添加量が、前記セメント成分100質量部に対して2.0質量部以上5.0質量部以下である、セメント組成物の製造方法。
<2> 前記脂肪族多価アルコールの添加量及び前記アルカノールアミンの添加量の合計に対する前記アルカノールアミンの添加量の割合が、0.05%以上2.0%以下である、<1>に記載のセメント組成物の製造方法。
<3> 前記アルカノールアミンが、ジエタノールイソプロパノールアミンまたはトリイソプロパノールアミンである、<1>または<2>に記載のセメント組成物の製造方法。
<4> 前記脂肪族多価アルコールが、グリセリンまたはジエチレングリコールである、<1>~<3>のいずれかに記載のセメント組成物の製造方法。
<5> <1>~<4>のいずれかに記載のセメントの製造方法により得られるセメント組成物と、無水石膏と、高炉スラグと、を混合する工程を含む、固化材の製造方法。
【0008】
<6> セメント組成物と、無水石膏と、高炉スラグと、アルカノールアミンとを混合し、混合物を製造する工程と、前記混合物と脂肪族多価アルコールとを混合して、固化材を製造する工程と、を含み、前記アルカノールアミンの添加量が、前記セメント組成物、前記無水石膏及び前記高炉スラグの合計100質量部に対して0.002質量部以上0.06質量部以下であり、前記脂肪族多価アルコールの添加量が、前記セメント組成物、前記無水石膏及び前記高炉スラグの合計100質量部に対して2.0質量部以上5.0質量部以下である、固化材の製造方法。
<7> 前記脂肪族多価アルコールの添加量及び前記アルカノールアミンの添加量の合計に対する前記アルカノールアミンの添加量の割合が、0.05%以上2.0%以下である、<6>に記載の固化材の製造方法。
<8> 前記アルカノールアミンが、ジエタノールイソプロパノールアミンまたはトリイソプロパノールアミンである、<6>または<7>に記載の固化材の製造方法。
<9> 前記脂肪族多価アルコールが、グリセリンまたはジエチレングリコールである、<6>~<8>のいずれかに記載の固化材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、短期強度を発現しつつ、長期でも高強度を維持することができるとともに、作業時の発塵を防止することができるセメント組成物及び固化材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】添加順を変えたセメント組成物から作製されたモルタルについて、DEIPA添加割合と3日材齢での圧縮強度との関係を示す図である。
【
図2】添加順を変えたセメント組成物から作製されたモルタルについて、DEIPA添加割合と7日材齢での圧縮強度との関係を示す図である。
【
図3】添加順を変えたセメント組成物から作製されたモルタルについて、DEIPA添加割合と28日材齢での圧縮強度との関係を示す図である。
【
図4】DEIPA添加量が異なるセメント組成物から作製されたモルタルについて、DEIPA添加量と各材齢での圧縮強度との関係を示す図である。
【
図5】DEIPA添加量が異なる固化材から作製された供試体について、DEIPA添加量と各材齢での圧縮強度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のセメント組成物の製造方法、及び、固化材の製造方法について、詳細に説明する。なお、本明細書中の「AA~BB」との数値範囲の表記は、「AA以上BB以下」であることを意味する。
【0012】
[セメント組成物の製造方法]
本発明のセメント組成物の製造方法は、クリンカを含むセメント成分とアルカノールアミンとを混合して混合物を製造する工程と、前記混合物と脂肪族多価アルコールとを混合して、セメント組成物を製造する工程と、を含み、前記アルカノールアミンの添加量が、前記セメント成分100質量部に対して0.002質量部以上0.06質量部以下であり、前記脂肪族多価アルコールの添加量が、前記セメント成分100質量部に対して2.0質量部以上5.0質量部以下である。
本発明により製造されるセメント組成物は、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント等のポルトランドセメント;高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ質混合材(ポゾラン)等が混合された混合セメント;アルミナセメント等の特殊セメント;などに該当する。特に本発明は、フェライト相が4質量%以上のセメント組成物の製造に好適である。
【0013】
<セメント成分>
本発明におけるセメント成分は、クリンカを含む。本発明で使用されるクリンカは、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」に規定されている品質を満たすものであれば特に限定されるものではない。
本発明において、セメント成分は、更に石膏及び石灰石を含んでいても良い。石膏としては、無水石膏、半水石膏、二水石膏のいずれも使用することができる。
【0014】
<アルカノールアミン>
本発明では、強度増進剤としてアルカノールアミンが使用される。アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールイソプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルイソプロパノールアミン、メチルジエタノールアミン、メチルジイソプロパノールアミン、ジエタノールイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールエタノールアミン、テトラヒドロキシエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、トリス(2-ヒドロキシブチル)アミンなどが例示できる。中でも、本発明においては、アルカノールアミンとして、ジエタノールイソプロパノールアミン(DEIPA)、トリイソプロパノールアミン(TIPA)、N-メチルジエタノールアミン(MEDA)の中から選択される1種を用いることが好ましい。中でも、ジエタノールイソプロパノールアミンまたはトリイソプロパノールアミンを用いることが特に好ましい。
【0015】
<脂肪族多価アルコール>
本発明では、防塵剤として脂肪族多価アルコールが使用される。脂肪族多価アルコールの炭素数は、3~20であることが好ましく、3~10であることがより好ましい。脂肪族多価アルコールの水酸基数は、2~8であることが好ましく、2~4であることがより好ましい。脂肪族多価アルコールは、分子量が70~420であることが好ましく、70~210であることがより好ましい。
脂肪族多価アルコールとしては、具体的に、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのグリコール類;グリセリンなどを用いることが好ましい。中でも、本発明においては、脂肪族多価アルコールとして、ジエチレングリコールまたはグリセリンを用いることが好ましく、グリセリンを用いることが特に好ましい。
【0016】
以下、本発明のセメント組成物の製造方法を詳細に説明する。
第1工程は、クリンカを含むセメント成分にアルカノールアミンを添加し、セメント成分とアルカノールアミンとを混合して、混合物を製造する工程である。
アルカノールアミンの添加量は、セメント成分100質量部に対して、0.002質量部以上0.06質量部以下である。アルカノールアミンの添加量が0.002質量部未満である場合、十分な短期強度及び長期強度を有する硬化物(モルタルあるいはコンクリート)を得ることができない。一方、アルカノールアミンの添加量が0.06質量部を超えて添加しても、添加量に応じた強度向上効果を得ることができず、材料コストが増加してしまう。強度と材料コストとのバランスを考慮すると、アルカノールアミンの添加量は、セメント成分100質量部に対して0.005質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることがより好ましく、0.05質量部以下であることが好ましく、0.03質量部以下であることがより好ましい。
【0017】
本発明において、脂肪族多価アルコールの添加量及びアルカノールアミンの添加量の合計に対するアルカノールアミンの添加量の割合(以下、単に「添加割合」と称することがある)が、0.05%以上2.0%以下であることが好ましい。上記添加割合とすることにより、十分な短期強度及び長期強度を有する硬化物を得ることができる。添加割合は、0.1%以上であることがより好ましく、0.15%以上であることが更に好ましく、1.5%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることが更に好ましい。なお、ここでいう%は質量比を意味する。
【0018】
本工程において、クリンカに石膏が添加されて、混合が行われても良い。本発明のセメント組成物における石膏の含有量は、SO3換算量で好ましくは1.0~4.5質量%、より好ましくは1.5~3.0質量%である。石膏の割合を上記範囲とすることにより、硬化物の乾燥収縮を適切にすることができるとともに、発現する強度を高くすることができる。石膏中のSO3の割合は、JIS R 5202:2010「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて測定することができる。
【0019】
本工程において、微粉末化による短期強度の向上とCO2排出量削減を目的として、クリンカに石灰石が添加されて、混合が行われても良い。セメント組成物中の石灰石の含有量は、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」で規定されているが、本発明においては該JIS規格に規定されている範囲を超えて石灰石が添加されていてもよい。本発明のセメント組成物における石灰石の含有量は、0~20質量%であることが好ましく、0~10質量%であることがより好ましく、2~5質量%であることが更に好ましい。なお、石灰石の含有量が0質量%とは、石灰石を添加しない場合であることを意味する。
【0020】
クリンカにアルカノールアミン、石膏及び石灰石を添加するタイミングは特に制限されない。例えば、クリンカに石膏及び石灰石を添加し混合してから、更にアルカノールアミンを添加して混合を行っても良く、クリンカにアルカノールアミンを添加してから石膏及び石灰石を添加しても良い。
【0021】
本工程における混合の手段としては特に限定されない。例えば、ボールミル、ロッシェミルなどが挙げられる。
【0022】
本工程において、所定のブレーン比表面積となるように粉砕が行われてもよい。第1工程終了後の混合物のブレーン比表面積は、2500~4500cm2/gであることが好ましく、2800~3800cm2/gであることがより好ましい。上記ブレーン比表面積を満たすように、粉砕条件が適宜設定される。
【0023】
次いで第2工程では、上記第1工程で得られた混合物に脂肪族多価アルコールを添加し、混合物と脂肪族多価アルコールを混合する工程により、本発明におけるセメント組成物が製造される。
脂肪族多価アルコールの添加量は、セメント成分100質量部に対して2.0質量部以上5.0質量部以下である。脂肪族多価アルコールの添加量が2.0質量部未満である場合、十分な防塵性を得ることができない。一方、脂肪族多価アルコールの添加量が多すぎると、十分な圧縮強度が得られない。また、セメント粒子同士が凝集し、分散性及び流動性が低下する。このため、セメント組成物の搬送などの際に作業性が悪化する。上記事情を考慮し、本発明では脂肪族多価アルコールの添加量の上限を、セメント成分100質量部に対して5.0質量部とする。防塵性、作業性及び強度のバランスを考慮すると、脂肪族多価アルコールの添加量は、セメント成分100質量部に対して3.0質量部以上であることが好ましく、4.0質量部以下であることが好ましい。
【0024】
第2工程における混合手段としては、特に限定されない。例えば、ミキサー、ボールミル、ロッシェミル、エアーブレンディングサイロなどが挙げられる。
混合条件としては特に限定されない。混合時間は、通常のセメント組成物の製造において十分に混合が行われたと判断される範囲で設定することができる。
【0025】
第2工程において、高炉スラグ、シリカ質混合材及びフライアッシュをさらに添加することができる。
本発明では、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」に規定される高炉スラグ及びシリカ質混合材を使用することができる。フライアッシュに関しては、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」に規定されるフライアッシュI種及びフライアッシュII種の他、フライアッシュIII種及びフライアッシュIV種も使用することができる。本発明においては、高炉スラグ、シリカ質混合材、フライアッシュを、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」に規定される合計量を超えて添加することもできる。この場合は、コンクリート強度低下を考慮すると、高炉スラグ、シリカ質混合材、フライアッシュの各添加量の合計は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0026】
本発明により、モルタルやコンクリートとした場合に短期強度及び長期強度の両方を向上させることができ、防塵性に優れるセメント組成物を製造することができる。短期強度及び長期強度の両方を向上させることができる理由は定かではないが、以下のように推測される。
アルカノールアミンがクリンカの近傍に存在することにより、クリンカのフェライト相に作用して水和を促進し、この結果、長期強度の増進に効果があると考えられる。上記したように、アルカノールアミンの添加量は、脂肪族多価アルコールの添加量に比べてかなり少ない。また、アルカノールアミンは高粘度であることから、脂肪族多価アルコールと均一に混合しにくい。このため、アルカノールアミンと脂肪族多価アルコールとを同時に添加すると、脂肪族多価アルコールに阻害され、アルカノールアミンがクリンカ表面に付着しにくくモルタルやコンクリートを製造する際に、クリンカのフェライト相にアルカノールアミンが作用しにくい状況にあると考えられる。アルカノールアミンの添加量を増加させたとしても、同時添加の場合には、やはり脂肪族多価アルコールによってクリンカ表面への付着が阻害されることから、添加量の増加に見合った効果を得ることができず、材料コストも増大してしまう。一方、本発明の製造方法では、最初にアルカノールアミンのみをクリンカに添加して混合するので、クリンカ粒子の表面へのアルカノールアミンの付着量を多くすることができると考えられる。このため、少ない添加量であっても、アルカノールアミンによる強度増進作用をより効果的に発揮させることができるとか推測される。
【0027】
[固化材の製造方法]
〔製造方法1〕
本発明の固化材の製造方法の一態様は、上述の方法により製造されたセメント組成物と、無水石膏と、高炉スラグと、を混合する工程を含む。製造方法1により製造される固化材を、以下では「固化材A」と称する。
【0028】
上記固化材Aの製造方法における無水石膏の割合は、SO3換算量で好ましくは2.0~20.0質量%、より好ましくは4.0~12.5質量%である。無水石膏の割合を上記範囲とすることにより、強度発現性を向上させることができる。無水石膏中のSO3の割合は、JIS R 5202:2010「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて測定することができる。
【0029】
上記固化材Aの製造方法における高炉スラグの添加量は、好ましくは0.1~50.0質量%、より好ましくは0.1~35.0質量%である。高炉スラグの割合を上記範囲とすることにより、還元効果による六価クロムの溶出を抑制することができる。
【0030】
混合手段は特に限定されず、上述した混合手段を採用することができる。また、混合条件としては特に限定されない。混合時間は、通常のセメント組成物の製造において十分に混合が行われたと判断される範囲で設定することができる。
【0031】
本発明のセメント組成物の製造方法では、上記で説明したように、クリンカ粒子の表面にアルカノールアミンが効率的に付着されていると推測され、この結果、本発明の方法により製造されたセメント組成物を固化材Aに用いた場合でも、アルカノールアミンによる強度増進作用をより効果的に発揮させることができると考えられる。また、上記方法により製造されたセメント組成物は、脂肪族多価アルコールが添加されているために、発塵が抑制されている。従って、発塵が抑制された固化材Aを得ることができる。
【0032】
〔製造方法2〕
本発明の固化材の製造方法の別の態様は、セメント組成物と、無水石膏と、高炉スラグと、アルカノールアミンとを混合し、混合物を製造する工程と、前記混合物と脂肪族多価アルコールとを混合して、固化材を製造する工程と、を含み、前記アルカノールアミンの添加量が、前記セメント組成物、前記無水石膏及び前記高炉スラグの合計100質量部に対して0.002質量部以上0.06質量部以下であり、前記脂肪族多価アルコールの添加量が、前記セメント組成物、前記無水石膏及び前記高炉スラグの合計100質量部に対して2.0質量部以上5.0質量部以下である、固化材の製造方法である。製造方法2により製造される固化材を、以下では「固化材B」と称する。
【0033】
<セメント組成物>
本態様に適用されるセメント組成物とは、上記した方法により製造されたセメント組成物以外のセメント組成物であり、市販のセメント組成物を用いることができる。具体的に、本態様に適用されるセメント組成物は、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント等のポルトランドセメント;高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ質混合材(ポゾラン)等が混合された混合セメント;アルミナセメント等の特殊セメント;などに該当する、
【0034】
<アルカノールアミン>
本態様では、強度増進剤としてアルカノールアミンが使用される。アルカノールアミンとしては、上述の「セメント組成物の製造方法」で挙げたものが使用できる。中でも、ジエタノールイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N-メチルジエタノールアミンの中から選択される1種を用いることが好ましく、ジエタノールイソプロパノールアミンまたはトリイソプロパノールアミンを用いることが特に好ましい。
【0035】
<脂肪族多価アルコール>
本態様では、防塵剤として脂肪族多価アルコールが使用される。脂肪族多価アルコールの炭素数は、3~20であることが好ましく、3~6であることがより好ましい。脂肪族多価アルコールの水酸基数は、2~8であることが好ましく、2~3であることがより好ましい。脂肪族多価アルコールは、分子量が70~420であることが好ましく、70~110であることがより好ましい。
脂肪族多価アルコールとしては、上述の「セメント組成物の製造方法」で挙げたものが使用できる。中でも、脂肪族多価アルコールとして、ジエチレングリコールまたはグリセリンを用いることが好ましく、グリセリンを用いることが特に好ましい。
【0036】
以下、製造方法2の固化材Bの製造方法を詳細に説明する。
第1工程は、セメント組成物にアルカノールアミン、無水石膏、高炉スラグを添加して混合し、混合物を製造する工程である。
アルカノールアミンは、セメント組成物の製造時の粉砕助剤として使用される場合がある。しかしながら、市販品ではアルカノールアミンの添加の有無及び添加量が不明である。また、セメント組成物にアルカノールアミンが含まれていたとしても、強度増進剤としての効果が弱まる場合がある。このため本態様では、セメント組成物の製造時に粉砕助剤としてアルカノールアミンが使用されていたか否かに依らず、セメント組成物に対して更にアルカノールアミンを添加することにより、短期強度及び長期強度を確実に増進させることができる固化材Bを得ることができる。
アルカノールアミンの添加量は、セメント組成物、無水石膏及び高炉スラグの合計100質量部に対して、0.002質量部以上0.06質量部以下である。アルカノールアミンの添加量が0.002質量部未満である場合、硬化物に十分な短期強度及び長期強度を付与することができない。一方、アルカノールアミンの添加量が0.06質量部を超えて添加しても、添加量に応じた強度向上効果を得ることができず、材料コストが増加してしまう。強度と材料コストとのバランスを考慮すると、アルカノールアミンの添加量は、セメント組成物、無水石膏及び高炉スラグの合計100質量部に対して0.005質量部以上であることが好ましく、0.01質量部以上であることがより好ましく、0.05質量部以下であることが好ましく、0.03質量部以下であることがより好ましい。
【0037】
本態様において、脂肪族多価アルコール及びアルカノールアミンの添加量の合計に対するアルカノールアミンの添加量の割合が、0.05%以上2.0%以下であることが好ましい。上記添加割合とすることにより、十分な短期強度及び長期強度を有する硬化物を得ることができる。アルカノールアミンの添加割合は、0.10%以上であることがより好ましく、0.15%以上であることが更に好ましく、1.5%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることが更に好ましい。なお、ここでいう%は質量比を意味する。
【0038】
本態様の固化材Bの製造方法における無水石膏の割合は、SO3換算量で好ましくは2.0~20.0質量%、より好ましくは4.0~12.5質量%である。無水石膏の割合を上記範囲とすることにより、強度発現性を向上させることができる。無水石膏中のSO3の割合は、JIS R 5202:2010「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて測定することができる。
【0039】
上記固化材Bの製造方法における高炉スラグの添加量は、好ましくは0.1~50.0質量%、より好ましくは0.1~35.0質量%である。高炉スラグの割合を上記範囲とすることにより、還元効果による六価クロムの溶出を抑制することができる。
【0040】
本工程における混合手段としては、特に限定されない。例えば、ミキサー、ボールミル、ロッシェミル、エアーブレンディングサイロなどが挙げられる。
混合条件としては特に限定されない。混合時間は、通常のセメント組成物の製造において十分に混合が行われたと判断される範囲で設定することができる。
【0041】
第2工程では、上記第1工程で得られた混合物に脂肪族多価アルコールを添加し、混合物と脂肪族多価アルコールを混合する工程により、本態様の固化材が製造される。
脂肪族多価アルコールの添加量は、セメント組成物、無水石膏及び高炉スラグの合計100質量部に対して2.0質量部以上5.0質量部以下である。脂肪族多価アルコールの添加量が2.0質量部未満である場合、十分な防塵性を得ることができない。一方、脂肪族多価アルコールの添加量が多すぎると、十分な強度向上効果が得られない。また、団粒化により、固化材の搬送や混合中などの際に作業性が悪化してしまう。上記事情を考慮し、本発明では脂肪族多価アルコールの添加量の上限を、セメント組成物、無水石膏及び高炉スラグの合計100質量部に対して5.0質量部とする。防塵性、作業性及び強度のバランスを考慮すると、脂肪族多価アルコールの添加量は、セメント組成物、無水石膏及び高炉スラグの合計100質量部に対して100質量部に対して3.0質量部以上であることが好ましく、4.0質量部以下であることが好ましい。
【0042】
本工程における混合手段としては特に限定されず、上述の混合手段と同じものを使用することができる。
【0043】
固化材Bにおいても、最初にアルカノールアミンとセメント組成物とを混合することにより、セメント粒子の表面に付着するアルカノールアミン量を多くすることができ、固化材とした場合でも、アルカノールアミンによる強度増進作用をより効果的に発揮させることができると考えられる。この結果、製造方法2により製造した固化材Bを用いることにより、硬化物としたときに短期強度及び長期強度の両方を向上させることができる。また、製造方法2により得られる固化材Bは、脂肪族多価アルコールが添加されていることにより、防塵性に優れるものとなる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
1.セメント組成物の製造
セメント組成物の製造に下記の材料を使用した。
(1)クリンカ
普通ポルトランドセメントクリンカ(住友大阪セメント(株)製)。化学組成及び鉱物組成を表1に示す。クリンカの化学組成は、JIS R 5204:2019「セメントの蛍光X線分析方法」に準じて蛍光X線測定装置(PRIMUS IV、株式会社リガク製)を用いて、ガラスビード法にて成分分析を行った。鉱物組成は、得られたCaO、SiO2、Al2O3及びFe2O3の質量割合から、下記のボーグ式を用いて算出した。
C3S=(4.07×CaO)-(7.60×SiO2)-(6.72×Al2O3)-(1.43×Fe2O3)
C2S=(2.87×SiO2)-(0.754×C3S)
C3A=(2.65×Al2O3)-(1.69×Fe2O3)
C4AF=3.04×Fe2O3
【0045】
【0046】
(2)アルカノールアミン
・ジエタノールイソプロパノールアミン(DEIPA、東京化成(株)製)
・トリイソプロパノールアミン(TIPA、東京化成(株)製)
(3)脂肪族多価アルコール
・グリセリン(関東化学(株)製)
・ジエチレングリコール(DEG、関東化学(株)製)
【0047】
(4)石灰石
関東化学(株)製、炭酸カルシウム 特級、CaCO3:99.5%。
(5)石膏
半水石膏。富士フィルム和光純薬(株)製、硫酸カルシウム二水和物 1級、CaSO4:98.0+%。乾燥機内で120℃、12時間保持したものを使用した。石膏中のSO3量は、JIS R 5202:2015「セメントの化学分析法」に従って測定した。
【0048】
下記の工程により、試料1~18及び基準試料のセメント組成物を作製した。なお、表2のDEIPA及びTIPAの添加量、グリセリン及びDEGの添加量は、セメント成分(クリンカ、石灰石及び石膏の合計)100質量部に対する割合である。表2に、アルカノールアミン添加割合(アルカノールアミン添加量/(アルカノールアミン添加量+脂肪族多価アルコール添加量)×100(%))を示す。
【0049】
<試料1~11>
セメントクリンカ92質量%に対し、半水石膏3質量%及び石灰石5質量%を添加して、ミキサーで混合し、セメント成分を作製した。次いで、セメント成分に対して表2に示す配合でDEIPAまたはTIPAを添加した。次いで、ブレーン比表面積値が3300±50cm2/gの範囲となるようにボールミルで混合粉砕し、混合物を得た。
次いで、該混合物に表2に示す配合でグリセリンまたはDEGを添加し、ミキサーで混合し、セメント組成物を得た。
【0050】
<試料12>
セメントクリンカ92質量%に対し、半水石膏3質量%及び石灰石5質量%を添加して、ミキサーで混合し、セメント成分を作製した。次いで、セメント成分に対して表2に示す配合でグリセリンを添加し、ブレーン比表面積値が3300±50cm2/gの範囲となるようにボールミルで混合粉砕し、セメント組成物を得た。
【0051】
<試料13~15>
セメントクリンカ92質量%に対し、半水石膏3質量%及び石灰石5質量%を添加して、ミキサーで混合し、セメント成分を作製した。次いで、混合後のセメント成分に対して、表2に示す配合でDEIPAまたはTIPAを添加し、更にグリセリンまたはDEGを添加した。次いで、ブレーン比表面積値が3300±50cm2/gの範囲となるようにボールミルで混合粉砕し、セメント組成物を得た。
【0052】
<試料16~18>
セメントクリンカ92質量%に対し、半水石膏3質量%及び石灰石5質量%を添加して、ミキサーで混合し、セメント成分を作製した。次いで、セメント成分に対して表2に示す配合でグリセリンまたはDEGを添加し、ミキサーで混合した。次いで、セメント成分とグリセリンまたはDEGとの混合物に対して表2に示す配合でDEIPAまたはTIPAを添加し、ブレーン比表面積値が3300±50cm2/gの範囲となるようにボールミルで混合粉砕し、セメント組成物を得た。
【0053】
<基準試料>
セメントクリンカ92質量%に対し、半水石膏3質量%及び石灰石5質量%を添加して、ブレーン比表面積値が3300±50cm2/gの範囲となるようにボールミルで混合粉砕し、セメント組成物を得た。
【0054】
【0055】
2.セメント組成物の評価
2-1.圧縮強度
試料1~18及び基準試料のセメント組成物から、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に準拠してモルタルを調整した。配合比率は、水11.1質量%、骨材66.7質量%、セメント組成物22.2質量%とした。
得られたモルタルを、40mm×40mm×160mmの金属型枠に打設し、24時間後に脱型して供試体を得た。その後、供試体を塩化ビニル樹脂シートに包み、養生した。
各供試体について、材齢3日、7日、28日の圧縮強さを、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に準拠して測定した。
【0056】
2-2.発塵特性試験
発塵特性を、舗装調査・試験法便覧「土質安定材の発塵試験方法」(F033T)に準拠して評価した。
内径39cm、高さ59cmのアクリル製樹脂の円筒容器を使用し、頂部投入口に設置した試料落下装置から各試料(セメント組成物)200gを落下させ、容器底部から高さ45cmの位置の浮遊発塵量(相対濃度CPM[Count per minutes])を散乱光式デジタル粉塵計で測定した。浮遊粉塵量の測定は、試料落下直後から1分間を連続して計測した。試験は5回行った。
試料投入前の測定値(ダークカウント)を計測値から差し引いた値の幾何平均値を、下記式(1)より求め、各試料の発塵量とした。作業時にほこり化を感じない発塵量として200CPM以下を基準として防塵性能の良否を判定した。
LogX=1/5Σlog(Xi-d)・・・(1)
Xi:計測値
d:ダークカウント
【0057】
3.セメント組成物に関する評価結果
3-1.添加順による効果
DEIPA及びグリセリンの添加順を変えた試料の評価結果を表3に示す。表3に示した試料のグリセリン添加量は、セメント成分100質量部に対し3.0質量部である。
図1に、DEIPAの添加割合と3日材齢でのモルタルの圧縮強度との関係を示す。
図2に、DEIPAの添加割合と7日材齢でのモルタルの圧縮強度との関係を示す。
図3に、DEIPAの添加割合と28日材齢でのモルタルの圧縮強度との関係を示す。
図1~3において、横軸はDEIPAの添加割合、縦軸は圧縮強度である。DEIPAの添加割合は、セメント成分100質量部に対する割合である。
図1~3中、添加割合が0のプロットは、試料12である。また、
図1~3に、基準試料から作製したモルタルの圧縮強度の値を点線で示した。
【0058】
【0059】
グリセリンを添加することにより、いずれの試料も基準試料に比べて発塵量が大幅に低下し、防塵性能が良好であった。
グリセリンのみを添加した試料12とその他の試料との対比から、DEIPA(アルカノールアミン)を添加したことによる圧縮強度の向上が確認できる。
DEIPA→グリセリンの順で添加した試料6~8は、基準試料に対して圧縮強度が高い結果となった。3日材齢の圧縮強度は、DEIPA添加割合が高くなるほど向上した。7日材齢及び28日材齢でも、添加割合が高くなるほど圧縮強度が高い傾向が見られた。
一方、同時に添加した試料13~15、及び、グリセリン→DEIPAの順で添加した試料16~18は、DEIPA添加割合に依らず、基準試料よりも圧縮強度が低い結果となった。特に28日材齢の圧縮強度は、DEIPA添加割合が高くなるほど低下する傾向が見られた。
以上の結果から、アルカノールアミン及び脂肪族多価アルコールの添加順が強度に影響を与え、アルカノールアミンを添加した後に脂肪族多価アルコールを添加することにより、短期及び長期で強度を向上させることができることが示された。
【0060】
3-2.アルカノールアミン及び脂肪族多価アルコールの種類による効果
アルカノールアミン及び脂肪族多価アルコールの種類を変えた試料の評価結果を表4に示す。
【0061】
【0062】
グリセリンを添加した場合及びDEGを添加した場合のいずれも、基準試料に比べて発塵量が大幅に低下した。また、DEIPAまたはTIPAを添加することにより、いずれの材齢でも基準試料に比べて圧縮強度が向上した。
【0063】
3-3.アルカノールアミン添加量による効果
DEIPAの添加量を変えた試料の評価結果を表5に示す。表5に示した試料のグリセリン添加量は、セメント成分100質量部に対し3.0質量部である。
図4に、DEIPA添加量と各材齢でのモルタルの圧縮強度との関係を示す。
図4において、横軸はDEIPA添加量、縦軸は圧縮強度である。DEIPAの添加量は、セメント成分100質量部に対する割合である。
図4に、基準試料から作製したモルタルについて、各材齢での圧縮強度の値を点線で示した。
【0064】
【0065】
いずれの材齢においても、DEIPAを0.002質量部以上添加することにより、基準試料よりも高い圧縮強度が得られた。DEIPA添加量が0.005質量部までは、DEIPA添加量の増加に従い圧縮強度が向上する傾向が見られたが、一定量以上のDEIPA添加量では圧縮強度はほぼ一定となった。
【0066】
3-4.脂肪族多価アルコール添加量による効果
グリセリンの添加量を変えた試料の評価結果を表6に示す。表6に示した試料のDEIPA添加量は、セメント成分100質量部に対して0.005質量部である。グリセリンの添加量は、セメント成分100質量部に対する割合である。
【0067】
【0068】
グリセリン添加量が多くなるに従い、発塵量が低下する傾向が見られた。グリセリン添加量2.0質量部以上とすることにより、200CPM以下と発塵を抑えられた。
グリセリン添加量が2.0~5.0質量部の範囲で、基準試料に対して圧縮強度増進効果が得られた。一方、グリセリン添加量が6.0質量部の場合は、圧縮強度が基準試料よりも低かった。また、グリセリン添加量が6.0質量部の場合は、セメント組成物の湿り気が高く、作業が困難であった。
【0069】
4.固化材の製造
固化材の製造に下記の材料を使用した。
(1)セメント組成物
市販の普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント(株)製)。化学組成及び鉱物組成を表7に示す。セメント組成物の化学組成は、JIS R 5204:2019「セメントの蛍光X線分析方法」に準じて蛍光X線測定装置(PRIMUS IV、株式会社リガク製)を用いて、ガラスビード法にて成分分析を行った。鉱物組成は、得られたCaO、SiO2、Al2O3及びFe2O3の質量割合から、上記のボーグ式を用いて算出した。
【0070】
【0071】
(2)アルカノールアミン
ジエタノールイソプロパノールアミン(DEIPA、東京化成(株)製)
(3)脂肪族多価アルコール
グリセリン(東京化成(株)製)
【0072】
(4)石膏
無水石膏。富士フィルム和光純薬(株)製、硫酸石膏 無水、CaSO4:99%。石膏中のSO3量は、JIS R 5202:2015「セメントの化学分析法」に従って測定した。
(5)高炉スラグ
高炉スラグ微粉末4000(略号:BFS、日鉄住金スラグ製品(株)製、MgOの含有量:5.9質量%、比表面積(ブレーン値):4450cm2/g)
【0073】
下記の工程により、試料19~28及び基準試料の固化材を作製した。なお、表8のDEIPAの添加量及びグリセリンの添加量は、セメント、無水石膏及び高炉スラグの合計100質量部に対する割合である。表8に、DEIPA添加割合(DEIPA添加量/(DEIPA添加量+グリセリン添加量)×100(%))を示す。
【0074】
<試料19~27>
セメント50質量%に対し、高炉スラグ40質量%及び無水石膏10質量%を添加し、更に表8に示す配合でDEIPAを添加し、ミキサーで混合した。次いで、この混合物に対して表8に示す配合でグリセリンを添加し、ミキサーで混合して、固化材を得た。
【0075】
<試料28>
セメント50質量%に対し、高炉スラグ40質量%及び無水石膏10質量%を添加し、更に表8に示す配合でグリセリンを添加し、ミキサーで混合して、固化材を得た。
【0076】
<基準試料>
セメント50質量%に対し、高炉スラグ40質量%及び無水石膏10質量%を添加してミキサーで混合し、固化材を得た。
【0077】
【0078】
5.固化材の評価
5-1.圧縮強度
地盤工学会基準JGS0821-2009「安定処理土の締固めをしない供試体作製方法」に準拠し、供試体を作製した。試料19~28及び基準試料の各固化材200kgを、1m3の対象土(関東ローム土、湿潤密度:1.648kg/m3、自然含水比:54.3)と混錬した。添加水/固化材質量比=1とした。得られた混錬土を、内径5cmの金属型枠に打刻し、24時間後に脱型して、直径5cm×長さ10cmの供試体を得た。その後、20℃の水中で養生した。
各供試体について、材齢7日及び28日の圧縮強さを、JIS A 1216:2020「土の一軸圧縮試験方法」に準拠して測定した。
【0079】
5-2.発塵特性試験
発塵特性は、舗装調査・試験法便覧「土質安定材の発塵試験方法」(F033T)に準拠して実施した。
内径39cm、高さ59cmのアクリル製樹脂の円筒容器を使用し、頂部投入口に設置した試料落下装置から各試料(固化材)200gを落下させ、容器底部から高さ45cmの位置の浮遊発塵量(相対濃度CPM[Count per minutes])を散乱光式デジタル粉塵計で測定した。浮遊粉塵量の測定は、試料落下直後から1分間を連続して計測した。試験は5回行った。各試料の発塵量を、上記式(1)により求めた。作業時にほこり化を感じない発塵量として200CPM以下を基準として、防塵性能の良否を判定した。
【0080】
6.固化材に関する評価結果
6-1.アルカノールアミン添加量による効果
DEIPAの添加量を変えた試料の評価結果を表9に示す。表9に示した試料のグリセリン添加量は、セメント、無水石膏及び高炉スラグの合計100質量部に対し3.0質量部である。
図5に、DEIPA添加量と各材齢での供試体の圧縮強度との関係を示す。
図5において、横軸はDEIPA添加量、縦軸は圧縮強度である。DEIPA添加量は、混合物100質量部に対する割合である。
図5に、基準試料から作製した供試体の圧縮強度の値を点線で示した。
【0081】
【0082】
いずれの材齢においても、DEIPAを0.002質量部以上添加することにより、基準試料よりも高い圧縮強度が得られた。DEIPA添加量が0.005質量部までは添加量に応じた圧縮強度の向上が見られ、それ以上の添加量では圧縮強度はほぼ一定となった。
【0083】
6-2.脂肪族多価アルコール添加量による効果
グリセリンの添加量を変えた試料の評価結果を表10に示す。表10に示した試料のDEIPA添加量は、セメント、無水石膏及び高炉スラグの合計0.005質量部である。
【0084】
【0085】
グリセリン添加量が多くなるに従い、発塵量が低下する傾向が見られた。グリセリン添加量2.0質量部以上とすることにより、200CPM以下と発塵を抑えられた。
グリセリン添加量が2.0~3.0質量部の範囲で、基準試料に対して圧縮強度増進効果が得られた。一方、グリセリン添加量が6.0質量部の場合は、圧縮強度が基準試料よりも低かった。また、グリセリン添加量が6.0質量部の場合は、固化材の湿り気が高く、作業が困難であった。