(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質とその製造方法、及び、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240625BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240625BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
(21)【出願番号】P 2021508821
(86)(22)【出願日】2020-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2020007120
(87)【国際公開番号】W WO2020195432
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2019060883
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(74)【代理人】
【識別番号】100134441
【氏名又は名称】廣田 由利
(72)【発明者】
【氏名】小鹿 裕希
(72)【発明者】
【氏名】金田 治輝
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/082268(WO,A1)
【文献】特開2017-045651(JP,A)
【文献】国際公開第2017/204164(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の一次粒子が凝集した二次粒子で構成されたリチウムニッケルマンガン複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
前記リチウムニッケルマンガン複合酸化物は、六方晶系の層状構造を有し、金属元素として、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、Co、V、Mg、Mo、Nb、Ca、Cr、Zr、TaおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素である元素M(M)と、チタン(Ti)とを含有し、
前記金属元素の物質量の比がLi:Ni:Mn:M:Ti=a:(1-x-y-z):x:y:z(ただし、0.97≦a≦1.25、0.05≦x≦0.15、0≦y≦0.15、0.01≦z≦0.05)で表わされ、
前記正極活物質のXRD測定において、六方晶系の層状構造の最強線である(003)回折ピーク強度に対する、チタン化合物の最強線のピーク強度の合計量の比が0.2以下であり、
圧粉抵抗測定により求められる4.0g/cm
3まで圧縮した時の体積抵抗率が、1.0×10
2Ω・cm以上1.0×10
4Ω・cm以下である、
リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記金属元素の物質量の比がLi:Ni:Mn:M:Ti=a:(1-x-y-z):x:y:z(ただし、0.97≦a≦1.25、0.05≦x≦0.15、0≦y≦0.15、0.03≦z≦0.05)で表わされる、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
レーザー回折散乱法による粒度分布における体積基準のD90及びD10と、体積平均粒径(Mv)とによって算出される粒径のばらつき指数を示す[(D90-D10)/Mv]が、0.80以上1.20以下である、請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項4】
体積平均粒径Mvが8μm以上20μm以下である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項5】
BET法によって測定される比表面積が、0.1m
2/g以上0.5m
2/g以下である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項6】
複数の一次粒子が凝集した二次粒子で構成されたリチウムニッケルマンガン複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法であって、
少なくとも、ニッケルマンガン複合化合物と、チタン化合物と、リチウム化合物とを混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を酸素濃度80体積%以上100体積%以下の酸化雰囲気中、750℃以上1000℃以下で焼成して前記リチウムニッケルマンガン複合酸化物を得る焼成工程と、
を有し、
前記ニッケルマンガン複合化合物は、金属元素として、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、Co、V、Mg、Mo、Nb、Ca、Cr、Zr、TaおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素である元素M(M)とを含有し、前記金属元素の物質量の比がNi:Mn:M=(1-x-y):x:y(ただし、0.05≦x≦0.15、0≦y≦0.15)であり、
前記混合物は、含有されるニッケルと、マンガンと、元素Mと、チタンとの物質量の合計(Me)に対する、リチウムの物質量(Li)の比(Li/Me)が0.97以上1.25以下であり、チタンの物質量(Ti)の比(Ti/Me)が0.01以上0.05以下であり、
前記正極活物質のXRD測定において、六方晶系の層状構造の最強線である(003)回折ピーク強度に対する、チタン化合物の最強線のピーク強度の合計量の比が0.2以下である、
リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記チタン化合物の体積平均粒径Mvが、0.01μm以上5μm以下である、請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記チタン化合物が酸化チタンである、請求項6又は請求項7に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
正極、負極、及び、非水系電解質を備え、前記正極は、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の正極活物質を含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質とその製造方法、及び、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話端末やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度や耐久性を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。また、電動工具やハイブリッド自動車をはじめとする電気自動車用電池として、高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池などの非水系電解質二次電池がある。層状又はスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0004】
リチウム金属複合酸化物としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn2O4)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5O2)などが提案されている。
【0005】
ところで、リチウムイオン二次電池は、電池材料として非水系電解質を用いる場合、高い熱安定性が求められている。例えば、リチウムイオン二次電池の内部で短絡した場合、急激な電流による発熱が生じることから、より高い熱安定性が要求される。
【0006】
そこで、熱安定性に優れるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)や、リチウムニッケルマンガン複合酸化物が注目されている。リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物やリチウムニッケル複合酸化物などと同じく、層状化合物であり、遷移金属サイトにおけるニッケルと、コバルトと、マンガンの組成比が1:1:1の割合であるものを三元系正極活物質という。
【0007】
さらに、近年、高容量化を狙いとして三元系正極活物質や、リチウムニッケルマンガン複合酸化物のニッケル比率を増加させた、ニッケル比率の高い正極活物質(Hi-Ni正極材)が注目されている。しかしながら、ニッケル比率による電池容量増加は、熱安定性の低下とのトレードオフが生じるため、リチウムイオン二次電池として高い性能(高サイクル特性、高容量、高出力)と耐短絡性や熱安定性とを両立した正極活物質が求められている。
【0008】
熱安定性等の電池特性を向上させることを目的として、リチウム金属複合酸化物にニオブなどの異種元素を添加する技術がいくつか提案されている。例えば、特許文献1には、一般式:LiaNi1-x-y-zCoxMyNbzOb(但し、MはMn、FeおよびAlよりなる群から選ばれる一種以上の元素、1≦a≦1.1、0.1≦x≦0.3、0≦y≦0.1、0.01≦z≦0.05、2≦b≦2.2)で示されるリチウムとニッケルとコバルトと元素Mとニオブと酸素からなる少なくとも一種以上の化合物で構成される組成物からなる非水系二次電池用正極活物質が提案されている。特許文献1によれば、粒子の表面近傍または内部に存在するLi-Nb-O系化合物が高い熱安定性を有していることから、高い熱安定性と大きな放電容量を有する正極活物質が得られるとされている。
【0009】
また、特許文献2には、ニオブ被覆工程及び焼成工程を含む製造方法によって得られたリチウム遷移金属複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質であって、多孔質構造を有し、比表面積が2.0~7.0m2/gである正極活物質が提案されている。この正極活物質を用いることによって、高い安全性と電池容量および優れたサイクル特性を有する非水系電解質二次電池を得ることができるとされている。
【0010】
また、特許文献3には、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、一次粒子およびその凝集体である二次粒子の一方又は両方からなる粒子の形態で存在し、前記粒子の少なくとも表面に、モリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する化合物を有する非水電解質二次電池用正極活物質が提案されている。粒子の表面に上記化合物を有することにより、導電性が向上するとされている。
【0011】
また、特許文献4には、リチウムイオンの挿入・脱離が可能な機能を有するリチウム遷移金属系化合物を主成分とし、主成分原料に、B及びBiから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物と、Mo、W、Ti、Ta及びReから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物をそれぞれ1種併用添加した後、焼成されてなるリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体が提案されている。添加元素を併用添加した後、焼成することにより、レートや出力特性が改善されるとともに、取り扱いや電極調製の容易なリチウム含有遷移金属系化合物粉体を得ることができるとしている。
【0012】
また、特許文献5には、リチウム遷移金属複合酸化物と、少なくともホウ素元素及び酸素元素を含むホウ素化合物とを含む非水電解液二次電池用正極組成物が提案されている。ニッケル及びタングステンを必須とするリチウム遷移金属複合酸化物と、特定のホウ素化合物とを含む正極組成物を用いることにより、リチウム遷移金属複合酸化物を用いた正極組成物において出力特性及びサイクル特性を向上させることができるとしている。
【0013】
また、特許文献6には、層状構造を有する六方晶系リチウム含有複合酸化物により構成されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物からなる正極活物質であって、平均粒径が2~8μmであり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90-d10)/平均粒径〕が0.60以下であり、凝集した一次粒子が焼結している外殻部と、その内側に存在する中空部とからなる中空構造を備えることを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質が提案されている。この正極活物質は、非水系二次電池に用いた場合に高容量でサイクル特性が良好で、高出力を可能とするとされている。
【0014】
また、特許文献7には、リチウムコバルト複合酸化物にジルコニウムをコバルトに対するモル比で1~10%添加することにより、リチウムコバルト複合酸化物粒子の表面が酸化ジルコニウムもしくはリチウムとジルコニウムの複合酸化物に覆われ、二次電池の正極に用いた場合、高電位における電解液の分解反応や結晶破壊が抑制され、優れたサイクル特性、保存特性を示すとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2002-151071号公報
【文献】国際公開第2014/034430号
【文献】特開2005-251716号公報
【文献】特開2011-108554号公報
【文献】特開2013-239434号公報
【文献】国際公開第2012/131881号
【文献】特開平4-319260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記提案は、いずれも電池容量、出力特性、耐久性に対して改善はみられるものの、耐短絡性および熱安定性の改善については十分ではなく、さらなる熱安定性の向上が求められている。
【0017】
過充電時の耐短絡性と熱安定性を高める方法として、例えば、正極活物質表面をSiO2、Al2O3、ZrO2などの酸化物で被覆する方法が提案されている。しなしながら、この方法では、初期の容量低下が大きかったり、被覆層が抵抗となり出力特性が低下したりする。また、プロセスが煩雑でスケールアップが困難なため、工業規模の生産が困難である場合が多い。
【0018】
また、正極活物質中に異種元素を添加し、過充電時の耐短絡性と熱安定性を高める方法も提案されているが、ニッケル比率の高い正極活物質では、ニッケル等の金属元素がリチウムイオンのサイトに移行するカチオンミキシングが生じやすいため、ニッケル比率の低い正極活物質よりも焼成温度を低くする必要があり、異種元素が正極活物質中に固溶しにくい。
【0019】
本発明は、これらの事情を鑑みてなされたものであり、ニッケル比率の高いリチウムニッケルマンガン複合酸化物を含む正極活物質において、二次電池に用いられた際に、高い電池容量と、高い耐短絡性および過充電時の熱安定性とを高次元で両立することができる正極活物質を提供することを目的とするものである。また、本発明は、このような正極活物質を、工業規模の生産において容易に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の第1の態様では、複数の一次粒子が凝集した二次粒子で構成されたリチウムニッケルマンガン複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、リチウムニッケルマンガン複合酸化物は、六方晶系の層状構造を有し、金属元素として、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、Co、V、Mg、Mo、Nb、Ca、Cr、Zr、TaおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素である元素M(M)と、チタン(Ti)とを含有し、金属元素の物質量の比がLi:Ni:Mn:M:Ti=a:(1-x-y-z):x:y:z(ただし、0.97≦a≦1.25、0.05≦x≦0.15、0≦y≦0.15、0.01≦z≦0.05)で表わされ、正極活物質のXRD測定において、六方晶系の層状構造の最強線である(003)回折ピーク強度に対する、チタン化合物の最強線のピーク強度の合計量の比が0.2以下であり、圧粉抵抗測定により求められる4.0g/cm3まで圧縮した時の体積抵抗率が、1.0×102Ω・cm以上1.0×104Ω・cm以下である、リチウムイオン二次電池用正極活物質が提供される。
【0021】
また、金属元素の物質量の比がLi:Ni:Mn:M:Ti=a:(1-x-y-z):x:y:z(ただし、0.97≦a≦1.25、0.05≦x≦0.15、0≦y≦0.15、0.03≦z≦0.05)で表わされることが好ましい。また、レーザー回折散乱法による粒度分布における体積基準のD90及びD10と、体積平均粒径(Mv)とによって算出される粒径のばらつき指数を示す[(D90-D10)/Mv]が、0.80以上1.20以下であることが好ましい。また、体積平均粒径Mvが8μm以上20μm以下であることが好ましい。また、BET法によって測定される比表面積が、0.1m2/g以上0.5m2/g以下であることが好ましい。
【0022】
本発明の第2の態様では、複数の一次粒子が凝集した二次粒子で構成されたリチウムニッケルマンガン複合酸化物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法であって、少なくとも、ニッケルマンガン複合化合物と、チタン化合物と、リチウム化合物とを含む混合物を添加する混合工程と、混合物を酸素濃度80体積%以上100体積%以下の酸化雰囲気中、750℃以上1000℃以下で焼成してリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得る焼成工程と、を有し、ニッケルマンガン複合化合物は、金属元素として、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、Co、V、Mg、Mo、Nb、Ca、Cr、Zr、TaおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素である元素M(M)とを含有し、金属元素の物質量の比がNi:Mn:M=(1-x-y):x:y(ただし、0.05≦x≦0.15、0≦y≦0.15)であり、混合工程で得られる混合物は、含有されるニッケルと、マンガンと、元素Mと、チタンとの物質量の合計(Me)に対する、リチウムの物質量(Li)の比(Li/Me)が0.97以上1.25以下であり、チタンの物質量(Ti)の比(Ti/Me)が0.01以上0.05以下であり、正極活物質のXRD測定において、六方晶系の層状構造の最強線である(003)回折ピーク強度に対する、チタン化合物の最強線のピーク強度の合計量の比が0.2以下である、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
【0023】
また、チタン化合物の体積平均粒径Mvが、0.01μm以上5μm以下であることが好ましい。また、チタン化合物がチタン酸化合物又は酸化チタンであることが好ましい。
【0024】
本発明の第3の態様では、正極、負極、及び、非水系電解質を備え、正極は、上記の正極活物質を含む、リチウムイオン二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、高い電池容量と、高い耐短絡性および熱安定性とを高次元で両立させたリチウムイオン二次電池が得られる正極活物質を提供することができる。また、本発明は、このような正極活物質を、工業規模の生産において容易に製造することが可能であり、工業的価値は極めて大きいものといえる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、比較例1、2、実施例2で得られた正極活物質の体積抵抗率(お(上段)と、最大酸素発生ピーク強度(下段)を示したグラフである。
【
図2】
図2は、比較例2、実施例2で得られた正極活物質の初期放電容量を示したグラフである。
【
図3】
図3は、比較例1、3、実施例1、2、4、5、6で得られた正極活物質の最大酸素発生ピーク強度と初期充電容量を示したグラフである。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る正極活物質の製造方法の一例を示す図である。
【
図5】
図5(A)及び
図5(B)は、本実施形態に係るニッケルマンガン複合化合物の製造方法の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、電池評価に使用したコイン型電池の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本実施形態について、リチウムイオン二次電池用正極活物質とその製造方法、及びリチウムイオン二次電池について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更が可能である。また、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0028】
1.リチウムイオン二次電池用正極活物質
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、「正極活物質」ともいう。)は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子で構成されたリチウムニッケルマンガン複合酸化物を含む。すなわち、リチウムニッケルマンガン複合酸化物は、多結晶構造の粒子で構成される。
【0029】
リチウムニッケルマンガン複合酸化物は、六方晶系の層状構造を有し、金属元素として、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、Co、V、Mg、Mo、Nb、Ca、Cr、Zr、TaおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素である元素M(M)と、チタン(Ti)とを特定の範囲で含有する。
【0030】
リチウムイオン二次電池は、構成材料として可燃性の非水系電解質を用いる場合、特に高い熱安定性が要求される。例えば、充電状態において、金属異物等の混入により正極と負極とが短絡した場合には、短絡電流が発生し、短絡電流による発熱で正極活物質が分解して結晶中から酸素を放出し、電解質と反応することで熱暴走を起こすことが知られている。
【0031】
二次電池の充電時の耐短絡性と熱安定性を高める方法として、上述したように、正極活物質表面をSiO2、Al2O3、ZrO2などの酸化物で被覆する方法が提案されている。しかしながら、この方法では、初期の容量低下が大きかったり、被覆層が抵抗となり出力特性が低下したりする。また、正極活物質中に異種元素を添加し、過充電時の耐短絡性と熱安定性を高める方法も提案されているが、ニッケル比率の高い正極活物質では、ニッケル等の金属元素がリチウムイオンのサイトに移行するカチオンミキシングが生じやすいため、ニッケル比率の低い正極活物質よりも焼成温度を低くする必要があり、異種元素が正極活物質中に固溶しにくく、異種元素を添加した場合、高い電池容量を維持しつつ、過充電時の耐短絡性と熱安定性を高めるのは困難であった。
【0032】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、高いニッケル比率を有し特定量のマンガンを含むリチウムニッケルマンガン複合酸化物に、特定量のチタンを添加し、高酸素濃度に雰囲気制御して焼成することで、高い電池特性(例えば、電池容量)を維持しつつ、電子伝導性の低減(体積抵抗率の増加)と過充電時の酸素放出の抑制による、高い耐短絡性および熱安定性との両立が可能であるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0033】
以下、本実施形態に係るリチウムニッケルマンガン複合酸化物において、チタン(Ti)を特定の形態で含有することによる効果の一例について、
図1、2を参照して説明する。なお、
図1、2は、後述する実施例及び比較例で得られた正極活物質及び二次電池の評価結果に基づいて作成されている。
【0034】
図1は、チタンの含有量、又は、焼成雰囲気の酸素濃度が異なる以外は、同様の製造条件で得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物(正極活物質)を用いて、圧縮時の体積抵抗率(上段)、及び、最大酸素発生ピーク強度(下段)の評価結果を示したグラフである。
【0035】
なお、体積抵抗率は、正極活物質を4g/cm3に圧縮した時の値を示し、体積抵抗率が大きいほど、正極中の圧縮された条件下で、短絡が生じた際の急激な電流の上昇を抑制することができるため、耐短絡性に優れることを示す。
【0036】
また、最大酸素発生ピーク強度は、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(正極活物質)を過充電状態とし、室温から450℃まで昇温した際の酸素量を測定した際の酸素発生量の相対強度(比較例1を100とする)であり、この値が低いほど、酸素発生量が少なく、過充電時の熱安定性が高いことを示す。
【0037】
図1(上段、及び、下段)のグラフに示されるように、チタンを含有する比較例2、及び実施例2の正極活物質では、チタンを含有しない比較例1の正極活物質と比較して、体積抵抗率が増加し、かつ、最大酸素発生ピーク強度が低減され、耐短絡性、及び過充電時の熱安定性が向上することが明らかである。
【0038】
図2は、同量のチタンを含有した比較例2及び実施例2の正極活物質を用いて、初期放電容量の評価結果を示したグラフである。
図2に示されるように、ピーク強度比が0.2以下である実施例2では、ピーク強度比が0.2を超える比較例2と比較して、初期放電容量が高く、電池容量が向上することが示された。なお、ピーク強度比は、後述するように、六方晶系の層状構造の最強線である(003)回折ピーク強度に対する、各チタン化合物(酸化チタン、チタン酸リチウム等)に由来する回折ピークの最強線のピーク強度の合計量の比をいい、ピーク強度比が0.2以下である場合、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子にチタンがほぼ固溶していることを示し、ピーク強度比が0.2を超える場合、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の粒子表面にチタン化合物が形成されることを示す。
【0039】
以上の結果から、本実施形態に係るリチウムニッケルマンガン複合酸化物を含む正極活物質は、ニッケル比率が高いにも関わらず、一次粒子にチタンが固溶しているため、二次電池において、電池容量(初期充放電容量)が高いことが明らかである。
【0040】
また、後述するように、特定量のマンガンを含有し、かつ、焼成工程(S20)における焼成雰囲気を、高酸素濃度に制御することにより、一次粒子にチタンを固溶させることができる。したがって、本実施形態に係る正極活物質は、ニッケル比率の高い正極活物質中に、特定量のチタン及びマンガンを含有することにより、熱安定性を向上することができ、かつ、一次粒子にチタンがほぼ固溶しているため、高い電池容量と、高い耐短絡性および熱安定性を高次元で両立させることができる。以下、本実施形態に係る正極活物質の構成について、詳細を説明する。
【0041】
[リチウムニッケルマンガン複合酸化物]
本実施形態に係る正極活物質に含まれるリチウムニッケルマンガン複合酸化物は、複数の一次粒子が凝集した二次粒子で構成される。
【0042】
リチウムニッケルマンガン複合酸化物は、六方晶系の層状構造を有し、金属元素として、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、Co、V、Mg、Mo、Nb、Ca、Cr、Zr、TaおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素である元素M(M)と、チタン(Ti)とを含有する。また、金属元素の物質量の比がLi:Ni:Mn:M:Ti=a:(1-x-y-z):x:y:z(ただし、0.97≦a≦1.25、0.05≦x≦0.15、0≦y≦0.15、0.01≦z≦0.05)で表わされる。
【0043】
また、本実施形態に係る正極活物質は、X線回折(XRD)測定において、六方晶系の層状構造以外の回折ピークがほとんど検出されないことから、チタンが一次粒子にほぼ全量固溶しているといえる。また、圧粉抵抗測定により求められる4.0g/cm3まで圧縮した時の体積抵抗率が、1.0×102Ω・cm以上1.0×104Ω・cm以下である。
【0044】
このような正極活物質は、例えば、後述する製造方法において、晶析工程(S1)から焼成工程(S20)までの条件を調整することで、作製することができる。また、混合工程(S10)において、特定の範囲内の平均粒径をもつチタン化合物を用いるのも有効である。以下、リチウムニッケルマンガン複合酸化物に含有される各金属元素について説明する。
【0045】
(リチウム)
上記物質量の比(モル比)において、Liの物質量の比を示すaの範囲が、0.97≦a≦1.25、好ましくは1.00≦a≦1.15である。aの範囲が上記範囲である場合、正極の反応抵抗が低下して電池の出力が向上する。aの値が0.97未満であったり、1.25を超えたりする場合、反応抵抗が大きくなり、電池の出力が低下することがある。
【0046】
(マンガン)
上記物質量の比(モル比)において、含有する金属元素の物質量に対するMnの物質量の比を示すxの範囲が、0.05≦x≦0.15、好ましくは0.05≦x≦0.10である。xの値が上記範囲である場合、高容量および高熱安定性を有することができる。一方、xの値が0.05未満である場合、熱安定性の改善効果が得られない。また、xの値が0.15を超える場合、電池容量が低下する。また、後述する焼成工程(S2)において、マンガンを含むことにより、焼成温度を高くすることができ、チタン等の分散を促進することができる。
【0047】
(元素M)
上記物質量の比において、元素Mは、Co、V、Mg、Mo、Nb、Ca、Cr、Zr、TaおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素である。元素Mの物質量の比を示すyの範囲は、0≦y≦0.15である。yが0以上の場合、熱安定性や保存特性改善及び電池特性等を改善することができる。yが0.15を超える場合、構造が不安定となり、層状の結晶構造を有する化合物が形成されない場合や、相対的にNiやMnの比率が低下することで電池容量が低下することがある。例えば、MがCoを含む場合、電池容量及び出力特性により優れる。MがCoの場合、好ましくは0≦y≦0.10である。また、上記物質量の比において、元素Mに含まれるCoの物質量の比をy1とする場合、好ましくは0≦y1≦0.10であり、より好ましくは0.01≦y1≦0.10である。
【0048】
(チタン)
上記物質量の比において、Tiの物質量を示すzの範囲は、0.01≦z≦0.05である。zの範囲が上記範囲である場合、二次電池の正極に用いた際に酸素放出を抑制し、高い熱安定性を得ることができる。一方、zの値が0.01未満である場合、チタンの固溶量が十分ではないため、熱安定性改善効果が不十分である。また、zの値が0.05を超える場合、相対的にNiやMnの比率が低下するほか、結晶構造が安定せず、カチオンミキシングが生じやすくなるため、電池容量が大幅に低下する。
【0049】
ここで、
図3は、比較例1、3、実施例1、2、4、5、6の正極活物質を用いて、チタン(Ti)の物質量比に対する、最大酸素発生ピーク強度と初期充電容量の評価結果を示したグラフである。
図3に示されるように、初期充電容量はTiの物質量比が高くなるにつれてほぼ直線的に低下する傾向がある。これはTiの物質量比が増加するに従い、主としてNiの物質量比が低下するために生じる。一方、最大酸素発生ピーク強度は、Tiの物質量比が高くなるに従い低下するが、徐々に低下の度合いは緩やかになり、Tiの物質量比で0.05を超えるとほぼ一定の値を示している。以上より、zの値を0.01≦z≦0.05とすることで高い電池容量と熱安定性を両立することができるが、より高い電池容量の観点から、zの値を0.01≦z≦0.03とするのが好ましく、より高い熱安定性の観点から、zの値を0.03≦z≦0.05とするのが好ましい。
【0050】
(ニッケル)
上記物質量の比において、Niの物質量の比を示す(1-x-y-z)の下限は、0.65以上であり、好ましくは0.70以上、より好ましくは0.80以上である。ニッケルの物質量比が上記範囲である場合、高い電池容量の二次電池を得ることができる。ニッケルの物質量の比が高い場合、電池容量は向上するものの、熱安定性が低下することがある。しかしながら、本実施形態に係る正極活物質は、特定量のTiが一次粒子に固溶することにより、高いニッケル比に関わらず、高い熱安定性を有することができる。
【0051】
(チタンの分布)
本実施形態に係る正極活物質は、XRD測定において、チタンを含む化合物に由来する回折ピークが検出されない、もしくは極めて微弱であり、かつ、六方晶系の層状構造の強い回折ピークが検出される。すなわち、リチウムニッケルマンガン複合酸化物中、一次粒子にほぼ全量固溶していることが好ましい。
【0052】
例えば、後述するような好適な製造条件を用いずに、チタンを含むリチウムニッケルマンガン複合酸化物を製造した場合、一次粒子にチタンが固溶せずに、一次粒子の表面や、一次粒子間の粒界にチタンが析出することがある。一次粒子の表面等に析出する場合のチタンの形態としては、例えば、原料として用いたチタン化合物に由来し、焼成工程で未反応物として残留したTiO2、チタン化合物とリチウム化合物が反応して生成するLiTiO2などのチタン酸リチウムが挙げられる。
【0053】
ここで、チタンがリチウムニッケルマンガン複合酸化物の粒子に固溶するとは、XRD測定において、チタン化合物に由来するピークが検出されない、又は、検出されたとしてもそのピークが微弱であり、実質的に得られる正極活物質の電池特性に影響を与えない状態をいう。
【0054】
具体的には、CuKα線を用いたXRD測定において、六方晶系の層状構造の最強線である(003)回折ピーク強度(I(003))に対する、チタン化合物の最強線のピーク強度の合計量(ITi化合物)の比(ITi化合物/I(003):以下、「ピーク強度比」という)が0.2以下であることが好ましく、0以上0.1以下であることがより好ましく、0であってもよい。ピーク強度比が0.2を超える場合、チタン化合物が一定量以上析出しており、電池容量が低下することがある。なお、それぞれの回折ピークが検出限界以下の場合には、回折ピーク強度は0(ゼロ)とする。
【0055】
例えば、チタン化合物としてTiO2およびLiTiO2が検出された場合、ピーク強度比は、六方晶系の層状構造の最強線である(003)回折ピーク強度(I(003))に対する、TiO2の最強線の回折ピーク強度(ITiO2)とLiTiO2の最強線の回折ピーク強度(ILiTiO2)との合計量の比[(ITiO2+ILiTiO2)/I(003)]となる。
【0056】
なお、TiO2には、ルチル型とアナターゼ型がある。よって、TiO2の回折ピークの強度とは、ルチル形TiO2の最強線である(110)回折ピーク強度(ITiO2Rutile(110))と、アナターゼ形TiO2の最強線である(101)の回折ピークの積分強度(ITiO2Anatase(101))との合計をいう。ここで、ルチル型TiO2の最強線である(110)回折ピーク位置は2θ=27.9°(JCPDS番号:01-088-1175より)であり、アナターゼ型TiO2の最強線である(101)回折ピーク位置は2θ=25.3°(JCPDS番号:01-084-1286より)である。
【0057】
また、異なる組成を有する複数のチタン酸リチウムが同時に検出された場合、チタン酸リチウムの最強線のピーク強度は、検出されたそれぞれのチタン酸リチウムの最強線ピーク強度の合計として算出する。チタン酸リチウムには、例えば、LiTiO2、Li2TiO3、Li4TiO4、Li4Ti5O12等がある。
【0058】
また、XRD測定において、その他のチタン化合物(例えば、TiO、Ti2O3、TiC等)の回折ピークが検出される場合は、ピーク強度比は、I(003)に対する、それらの検出されるすべてのチタン化合物の最強線の回折ピーク強度の合計となる。例えば、チタン化合物として、TiO2、LiTiO2と、それ以外のチタン化合物Aとが検出された場合、チタン化合物Aの最強線のピーク強度をIチタン化合物Aとすると、ピーク強度比は、[(ITiO2+ILiTiO2+Iチタン化合物A)/I(003)]となる。
【0059】
[ばらつき指数:[(D90-D10)/Mv]]
本実施形態に係る正極活物質は、レーザー回折散乱法による粒度分布におけるD90及びD10(粒度分布曲線における粒子量の体積積算で90%での粒径と10%での粒径)と体積平均粒径(Mv)とによって算出される粒径のばらつき指数を示す[(D90-D10)/Mv]が、0.80以上1.20以下であることが好ましい。
【0060】
正極活物質の粒度分布が広範囲になっている場合には、平均粒径に対して粒径が小さい微粒子や、平均粒径に対して粒径の大きい粗大粒子が多く存在することになる。これら微粒子や粗大粒子が混在すれば、充填密度が高くなり、体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。よって、粒径のばらつき指数が0.80未満では、体積エネルギー密度が低下することがある。後述する製造方法を用いれば上限は1.20である。後述する焼成温度が1000℃を超えると粒径のばらつき指数が1.20を超えることがあるが、正極活物質を形成したときに比表面積が低下して正極の抵抗が上昇して電池容量が低下することがある。
【0061】
[体積平均粒径(Mv)]
本実施形態に係る正極活物質は、体積平均粒径(Mv)が8μm以上20μm以下であることが好ましく、10μm以上20μm以下であることがより好ましい。体積平均粒径(Mv)が上記範囲である場合、正極活物質を二次電池の正極に用いた際、高い出力特性および電池容量と、正極への高い充填性とを両立させることができる。二次粒子の平均粒径が8μm未満になると、正極への高い充填性が得られないことがあり、平均粒径が20μmを超えると、高い出力特性や電池容量が得られないことがある。なお、平均粒径は、例えば、レーザー回折散乱式粒度分布計により測定される体積積算値から求めることができる。
【0062】
[比表面積]
本実施形態に係る正極活物質は、BET法によって測定される比表面積が、0.1m2/g以上0.5m2/g以下であることが好ましい。ニッケル比率の高い正極活物質では、比表面積が0.5m2/gを超えると大気中の水分と反応しやすくなり、表面に溶出したリチウム由来のアルカリ成分が増加し、正極活物質をペースト化した際に、ペーストがゲル化し極板作製が困難になる場合がある。特に、焼成工程(S20)後に得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物を水洗を行わずに正極活物質として用いる場合、比表面積は上記範囲であることが好ましい。後述する製造方法を用いる場合、比表面積の下限は0.1m2/g以上である。
【0063】
[体積抵抗率]
本実施形態に係る正極活物質は、圧粉抵抗測定により求められる4.0g/cm3まで圧縮した時の体積抵抗率が、1.0×102Ω・cm以上1.0×104Ω・cm以下であることが好ましい。本実施形態に係る正極活物質は、構成する金属元素の物質量の比であるLi:Ni:Mn:Mが同一で、かつ、チタンを含まない正極活物質を用いた場合と比較して、粉体圧縮時の体積抵抗率が高くなり、短絡した時の耐性が向上する。詳細は明らかではないが、チタンが一次粒子に固溶することにより、正極活物質中のニッケルの平均価数が低下し、バルクとしての導電率が低下することで、高い体積抵抗率を有するものと考えられる。粉体圧縮時の体積抵抗率は、チタンの形態やチタンを含めた正極活物質を構成する金属元素の物質量比により影響を受けるが、4.0g/cm3まで圧縮した時に1.0×102Ω・cm以上1.0×104Ω・cmの範囲であれば、耐短絡性が良好であるとともに電池特性は維持されるので、耐短絡性と電池容量とを高次元で両立することができる。
【0064】
2.リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法
次に、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、「正極活物質」ともいう。)の製造方法について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明は、製造方法の一例であって、製造方法を限定するものではない。
【0065】
図4、
図5(A)、(B)は、本実施形態に係る正極活物質の製造方法の一例の概略を示す工程図である。
図4に示すように、正極活物質の製造方法は、少なくとも、ニッケルマンガン複合化合物と、チタン化合物と、リチウム化合物とを混合して混合物を得る混合工程(S10)と焼成工程(S20)とを備える。また、例えば、
図5(A)、
図5(B)に示すように、混合工程(S10)に用いられるニッケルマンガン複合化合物は、晶析工程(S1)、及び/又は、熱処理工程(S2)を備える方法により得られてもよい。
【0066】
本実施形態に係る製造方法により得られる正極活物質は、高いニッケル比率を有し、かつ、特定量のマンガンとチタンを含み、チタンを不純物相を析出させずに固溶させることで高容量を得るとともに、マンガンとチタンを含むことで耐短絡性と熱安定性を高めることができる。以下、工程ごとに詳細に説明する。
【0067】
[晶析工程(S1)]
図5(A)に示すように、晶析工程(S1)は、晶析によりニッケルマンガン複合水酸化物(ニッケルマンガン複合化合物)を得る工程である。
【0068】
晶析工程(S1)で得られるニッケルマンガン複合水酸化物(以下、「複合水酸化物」とすることもある。)は、金属元素として、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、Co、V、Mg、Mo、Nb、Ca、Cr、Zr、TaおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素である元素M(M)とを含有し、金属元素の物質量の比(モル比)がNi:Mn:M=1-x-y:x:y(ただし、0.05≦x≦0.15、0≦y≦0.15)で表されることが好ましい。また、ニッケルマンガン複合水酸化物中の金属(Ni、Mn、M)の含有量(組成)は、リチウムニッケルマンガン複合酸化物中でもほぼ維持されるため、各金属(Ni、Mn、M)の含有量は、最終的に得られるリチウムニッケルマンガン複合酸化物中の含有量と同様の範囲であることが好ましい。
【0069】
晶析工程(S1)は、上記物質量の比を有する複合水酸化物が得られるものであれば公知の方法により行うことができ、例えば、反応槽内において、少なくともニッケルとマンガンとを含む混合水溶液を、一定速度にて攪拌しながら、中和剤を加えて、中和することによりpHを制御して、ニッケルマンガン複合水酸化物を共沈殿により生成させる。
【0070】
ニッケルとマンガンを含む混合水溶液は、例えば、ニッケル及びマンガンの硫酸塩溶液、硝酸塩溶液、塩化物溶液を用いることができる。また、後述するように、混合水溶液は、元素Mを含んでもよい。混合水溶液に含まれる金属元素の組成は、得られる複合水酸化物に含まれる金属元素の組成とほぼ一致する。したがって、目的とする複合水酸化物の金属元素の組成と同じになるように混合水溶液の金属元素の組成を調製することができる。中和剤は、アルカリ水溶液を用いることができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いることができる。
【0071】
また、中和剤と併せて、錯化剤を混合水溶液に添加することが好ましい。錯化剤は、反応槽内の水溶液(以下、「反応水溶液」という。)中でニッケルイオンやその他金属イオンと結合して錯体を形成可能なものであれば特に限定されず、公知のものを用いることができ、例えば、アンモニウムイオン供給体を用いることができる。アンモニウムイオン供給体としては、とくに限定されないが、例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウムなどを用いることができる。錯化剤を添加することにより、反応水溶液中の金属イオンの溶解度を調整することができる。
【0072】
晶析工程(S1)において、錯化剤を使用しない場合、反応水溶液の温度は、温度(液温)を、60℃を越えて80℃以下の範囲とすることが好ましく、かつ、上記温度における反応水溶液のpHが10以上12以下(25℃基準)であることが好ましい。反応水溶液のpHが12を超える場合、得られる複合水酸化物が細かい粒子となり、濾過性も悪くなり、球状粒子が得られないことがある。一方、反応水溶液のpHが10よりも小さい場合、複合水酸化物の生成速度が著しく遅くなり、濾液中にNiが残留し、Niの沈殿量が目的組成からずれて、目的の比率の複合水酸化物が得られなくなることがある。
【0073】
また、反応水溶液の温度が60℃を越える場合、Niの溶解度が上がり、Niの沈殿量が目的組成からずれ、共沈にならない現象を回避できる。一方、反応水溶液の温度が80℃を越えると、水分の蒸発量が多いためにスラリー濃度(反応水溶液濃度)が高くなり、Niの溶解度が低下する上、濾液中に硫酸ナトリウム等の結晶が発生し、不純物濃度が上昇する等、正極活物質の充放電容量が低下する可能性が生じる。
【0074】
晶析工程において、アンモニウムイオン供給体(錯化剤)を使用する場合、反応水溶液の温度は、反応水溶液中のNiの溶解度が上昇するため、30℃以上60℃以下であることが好ましく、かつ、反応水溶液のpHが10以上13以下(25℃基準)であることが好ましく、12以上13以下であることがより好ましい。
【0075】
また、反応水溶液中のアンモニア濃度は、3g/L以上25g/L以下の範囲内で一定値に保持することが好ましい。アンモニア濃度が3g/L未満である場合、金属イオンの溶解度を一定に保持することができないため、形状及び粒径が整った複合水酸化物の一次粒子が形成されないことがある。また、ゲル状の核が生成しやすいため、得られる複合水酸化物の粒度分布も広がりやすい。一方、アンモニア濃度が25g/Lを越えると、金属イオンの溶解度が大きくなりすぎ、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増えて、得られる複合水酸化物の組成のずれなどが起きやすくなる。なお、アンモニア濃度が変動すると、金属イオンの溶解度が変動し、均一な水酸化物粒子が形成されないため、一定値に保持することが好ましい。例えば、アンモニア濃度は、上限と下限の幅を5g/L程度として所望の濃度に保持することが好ましい。
【0076】
また、ニッケルマンガン複合水酸化物は、後述する式に示されるように、Co、V、Mg、Mo、Nb、Ca、Cr、Zr、TaおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素である元素Mを含んでもよい。複合水酸化物中に、元素Mを配合する方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができ、例えば、生産性を高めるという観点から、ニッケルとマンガンとを含む混合水溶液に、元素Mを含む水溶液を添加し、元素Mを含む複合水酸化物を共沈させる方法が好ましい。
【0077】
元素Mを含む水溶液としては、たとえば、硫酸コバルト、タングステン酸ナトリウム、酸化タングステン、酸化モリブデン、硫化モリブデン、五酸化バナジウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、酸化ニオブ、ニオブ酸、塩化クロム、硫酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、タンタル酸ナトリウム、タンタル酸などを含む水溶液を用いることができる。
【0078】
また、晶析条件を最適化して組成比の制御を容易にするという観点から、晶析により複合水酸化粒子を得た後、さらに、得られた複合水酸化物に元素Mを被覆する工程を設けてもよい。元素Mを被覆方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0079】
以下に、元素Mの被覆方法の一例について説明する。まず、晶析により得られたニッケルマンガン複合水酸化物を純水に分散させ、スラリーとする。次いで、このスラリーに狙いの被覆量見合いの元素Mを含有する溶液を混合し、所定のpHになるように、酸またはアルカリを滴下し、調整する。酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸などが用いられる。アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが用いられる。次いで、スラリーを所定の時間で混合した後、スラリーのろ過及び乾燥を行い、元素Mが被覆されたニッケルマンガン複合水酸化物を得ることができる。なお、他の被覆方法としては、元素Mを含む化合物を含有する溶液をニッケルマンガン複合水酸化物に噴霧した後乾燥させるスプレードライ法、元素Mを含む化合物を含有する溶液をニッケルマンガン複合水酸化物に含浸させる方法などが挙げられる。
【0080】
なお、元素Mをニッケルマンガン複合水酸化物に配合する方法は、上記の混合水溶液に元素Mを混合することと、複合水酸化物に元素Mを被覆することと、の一方又は両方を含んでもよく、例えば、1)ニッケル及びマンガンを含む混合水溶液(ただし、元素Mを除く)にアルカリ水溶液を加えて晶析させたニッケルマンガン複合水酸化物に、元素Mを被覆してもよく、2)ニッケル、マンガン及び元素Mの一部を含む混合水溶液を作製し、ニッケルマンガン複合水酸化物(元素Mを含む)を共沈させ、さらに共沈物に元素Mを被覆してMの含有量を調整してもよい。
【0081】
なお、晶析工程(S1)は、1)バッチ式の晶析による製法(バッチ式晶析法)を用いてよく、2)連続式の晶析による製法(連続晶析法)を用いてもよい。例えば、バッチ式晶析法の場合、反応槽内の反応水溶液が定常状態になった後に沈殿物を採取し、濾過、水洗して複合水酸化物を得ることができる。また、連続晶析法の場合、混合水溶液とアルカリ水溶液、場合によってはアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を連続的に供給して反応槽からオーバーフローさせて沈殿物を採取し、濾過、水洗して複合水酸化物を得ることができる。
【0082】
本実施形態に係る正極活物質の製造方法においては、二次電池に用いた際に高い体積エネルギー密度を示す正極活物質を得るという観点から、連続晶析法を用いることが好ましい。連続晶析法では、ばらつき指数が高く、粒度分布幅がブロードであり、充填性が高い正極活物質を容易に得ることができる。また、連続晶析法はバッチ式の晶析よりも生産性が高く、工業的規模で生産するのに適している。
【0083】
[熱処理工程(S2)]
図5(B)に示すように、晶析工程(S1)により得られた複合水酸化物は、晶析工程(S1)は、さらに、熱処理工程(S2)を施してもよい。熱処理工程(S2)は、複合水酸化物に含まれる水分の少なくとも一部を熱処理により除去する工程である。熱処理工程(S2)を有することによって、複合水酸化物中に残留する水分の少なくとも一部を除去することにより、後述する焼成工程(S20)で得られる正極活物質のLi/Meのばらつくことを防ぐことができる。
【0084】
熱処理工程(S2)における熱処理は、Li/Meのばらつきをより低減させるという観点から、複合水酸化物を、十分に酸化させ、複合酸化物粒子まで転換するようにすることが好ましい。なお、正極活物質のLi/Meにばらつきが生じない程度に水分が除去できればよいので、必ずしも全ての複合水酸化物中の水酸化物(複合水酸化物)を複合酸化物に転換する必要はない。すなわち、複合水酸化物を熱処理することにより、ニッケルマンガン複合水酸化物、及びニッケルマンガン複合酸化物の少なくとも一方を含む、ニッケルマンガン複合化合物を得ることができる。
【0085】
また、熱処理工程(S2)を行う場合、
図5(B)に示すように、混合工程(S10)には、熱処理工程(S2)により得られたニッケルマンガン複合化合物を用いてもよい。また、複合水酸化物が元素Mを含む場合、元素Mを含む化合物を複合水酸化物に被覆した後、熱処理工程(S2)を行ってもよく、熱処理工程(S2)後の複合水酸化物及び/又は複合酸化物の粒子に、元素Mを含む化合物を被覆してもよい。
【0086】
熱処理工程(S2)の熱処理は、複合水酸化物中の残留水分が除去される温度まで加熱すればよく、例えば、熱処理の温度は、105℃以上700℃以下とすることが好ましい。複合水酸化物を105℃以上で加熱した場合、残留水分の少なくとも一部を除去することができる。なお、熱処理の温度が105℃未満の場合、残留水分を除去するために長時間を要するため工業的に適当でない。一方、熱処理の温度が700℃を超える場合、複合酸化物粒子に転換された粒子が焼結して凝集することがある。例えば、複合水酸化物の大部分を複合酸化物粒子まで転換する場合、熱処理の温度は、350℃以上700℃以下とすることが好ましい。
【0087】
熱処理を行う雰囲気は、特に限定されず、例えば、容易に操作が行えるという観点から、空気気流中において行うことが好ましい。また、熱処理の時間は、特に限定されず、例えば、1時間以上とすることができる。熱処理の時間が1時間未満である場合、複合水酸化物中の残留水分の除去が十分に行われない場合がある。また、熱処理の時間は、好ましくは5時間以上15時間以下である。また、熱処理に用いられる設備は、特に限定されず、複合水酸化物を空気気流中で加熱できるものであればよく、例えば、送風乾燥器、ガス発生がない電気炉などが好適に使用できる。
【0088】
なお、
図5(B)では、晶析工程(S1)後のニッケルマンガン複合水酸化物を熱処理しているが、晶析工程(S1)以外の工程で得られたニッケルマンガン複合水酸化物を熱処理して、ニッケルマンガン複合化合物として、混合工程(S10)で用いてもよい。この場合でも、ニッケルマンガン複合水酸化物中の水分の少なくとも一部を除去することにより、上述した効果を得ることができる。
【0089】
[混合工程(S10)]
次に、混合工程(S10)について説明する。
図1に示すように、混合工程(S10)では、ニッケルマンガン複合化合物と、チタン化合物と、リチウム化合物とを混合して、混合物(以下、「リチウムチタン混合物」とすることもある。)を得る。混合工程(S10)では、例えば、複合水酸化物に、リチウム化合物及びチタン化合物の混合物を、粉末(固相)で添加し、混合してリチウムチタン混合物を得てもよい。以下、混合工程(S10)について詳細に説明する
【0090】
(ニッケルマンガン複合化合物)
混合工程(S10)で用いられるニッケルマンガン複合化合物は、金属元素として、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、任意に、Co、V、Mg、Mo、Nb、Ca、Cr、Zr、TaおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素である元素M(M)とを含有し、これらの金属元素の物質量の比がNi:Mn:M=(1-x-y):x:y(ただし、0.05≦x≦0.15、0≦y≦0.15)で表される。
【0091】
ニッケルマンガン複合化合物中の金属(Ni、Mn、M)の含有量(組成)は、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の粒子中でもほぼ維持されるため、各金属(Ni、Mn、元素M)の含有量は、上述のリチウムニッケルマンガン複合酸化物中の含有量と同様の範囲であることが好ましい。なお、本実施形態で用いられるニッケルマンガン複合化合物は、上述した金属元素(Ni、Mn、元素M)、水素及び酸素以外の元素を、本発明の効果を阻害しない範囲で少量含んでもよい。
【0092】
ニッケルマンガン複合化合物は、マンガンを上記範囲で含むことにより、得られる正極活物質の複数の一次粒子内で、マンガンを均一に分布させることができる。複数の一次粒子内にマンガンとチタンとが含有(固溶)された正極活物質は、高い熱安定性を有し、かつ、体積抵抗率が増加して、耐短絡性が向上する。
【0093】
また、一次粒子内にマンガンが含有されることにより、リチウムチタン混合物を比較的高い温度で焼成することが可能となる。そして、高い温度で焼成することにより、チタン化合物中のチタンを、一次粒子に、より均一に固溶させることができる。
【0094】
ニッケルマンガン複合化合物の製造方法は、特に限定されないが、
図5(A)、及び
図5(B)に示すように、晶析工程(S1)及び/熱処理工程(S2)により、得られた複合水酸化物及び/又は複合酸化物を用いることが好ましく、晶析工程(S1)により得られたニッケルマンガン複合水酸化物を用いることがより好ましい。これにより、後述する焼成工程(S20)において、一次粒子にチタンが固溶したリチウムニッケルマンガン複合酸化物を容易に得ることができる。
【0095】
なお、ニッケルマンガン複合化合物は、この粒子内にニッケルとマンガンとがそれぞれ均一に含まれることが好ましい。例えば、ニッケル水酸化物の粒子とマンガン化合物とを別々に混合した混合物や、マンガン化合物で被覆されたニッケル水酸化物の粒子などを、原料として用いた場合、得られる正極活物質中のマンガンの分布が不均一になって、マンガンを含有させることによって得られる効果が十分に得られないことがある。
【0096】
(チタン化合物)
混合工程(S10)で用いられるチタン化合物としては、チタンを含む公知の化合物を用いることができ、例えば、酸化チタン、硫酸チタン、四臭化チタン、四塩化チタン、珪化チタンなどを用いることができる。なお、チタン化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0097】
これらの中でも、入手のしやすさや、リチウムニッケルマンガン複合酸化物中への不純物の混入を避けるという観点から、酸化チタンが好ましい。なお、リチウムニッケルマンガン複合酸化物中に不純物が混入した場合、得られる二次電池の熱安定性や電池容量、サイクル特性の低下を招くことがある。
【0098】
チタン化合物は、粒子(固相)で混合されることが好ましい。チタンを固相添加する場合、チタン化合物の粒径により、後の焼成工程(S20)における、反応性が変化するため、用いるチタン化合物の粒径が重要な要素の一つとなる。
【0099】
チタン化合物の平均粒径は、好ましくは0.01μm以上5μm以下であり、より好ましくは0.05μm以上3μm以下であり、さらに好ましくは0.08μm以上3μm以下である。平均粒径が0.01μmより小さい場合、粉末の取り扱いが非常に困難になるという問題や、混合工程(S10)及び焼成工程(S20)において、チタン化合物が飛散し、狙い通りの組成を活物質中に添加できない問題が生じることがある。一方で、平均粒径が5μmより大きい場合、焼成後のリチウムニッケルマンガン複合酸化物中にチタンが均一に分布せず、電池容量が低下することがある。なお、平均粒径は、体積平均粒径Mvであり、例えば、レーザー回折散乱式粒度分布計により測定される体積積算値から求めることができる。
【0100】
チタン化合物は、予め、ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル・ナノジェットミル、ビーズミル、ピンミルなど各種粉砕機を用いて、上記範囲の粒径となるように粉砕してもよい。また、チタン化合物は、必要に応じて、乾式分級機や篩がけにより分級してもよい。例えば、乾式分級機を用いて、1μmに近い粒子を得ることができる。
【0101】
(リチウム化合物)
リチウム化合物は、特に限定されず、リチウムを含む公知の化合物を用いることができ、例えば、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、又は、これらの混合物などが用いられる。これらの中でも、残留不純物の影響が少なく、焼成温度で溶解するという観点から、炭酸リチウム、水酸化リチウム、又は、これらの混合物が好ましい。
【0102】
(混合方法)
ニッケルマンガン複合化合物とリチウム化合物とチタン化合物との混合方法は、特に限定されず、複合水酸化物等の形骸が破壊されない程度で、複合水酸化物とリチウム化合物とチタン化合物とが十分に混合されればよい。混合方法としては、例えば、一般的な混合機を使用して混合することができ、例えばシェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いて混合することができる。なお、リチウムチタン混合物は、後述する焼成工程の前に十分混合しておくことが好ましい。混合が十分でない場合、正極活物質の個々の粒子間でLiとLi以外の金属元素Me(すなわち、Ni+Mn+元素M+Ti)との物質量の比(Li/Me、後述する物質量比中のaに対応、原子%比)がばらつき、十分な電池特性が得られない等の問題が生じることがある。
【0103】
リチウム化合物は、リチウムチタン混合物中のLi/Meが、0.97以上1.25以下となるように、混合される。つまり、リチウムチタン混合物におけるLi/Meが、得られる正極活物質におけるLi/Meと同じになるように混合される。これは、後述する焼成工程(S20)前後で、Li/Me及び各金属元素のモル比が変化しないので、上記混合時における、リチウムチタン混合物のLi/Meが、正極活物質のLi/Meとなるからである。
【0104】
チタン化合物は、リチウムチタン混合物中のLi以外の金属元素(Ni、Mn、元素M、Ti)の合計に対して、リチウムチタン混合物中のチタンの物質量(Ti)の比(Ti/Me)が、0.01以上0.05以下となるように混合される。
【0105】
[焼成工程(S20)]
焼成工程(S20)は、混合工程(S10)で得られた上記リチウムチタン混合物を、酸素濃度80体積%以上100体積%以下の酸化雰囲気中、750℃以上1000℃以下の温度で焼成して、リチウムニッケルマンガン複合酸化物を得る工程である。
【0106】
リチウムチタン混合物を焼成すると、ニッケルマンガン複合化合物の粒子にリチウム化合物中のリチウムが拡散するので、多結晶構造の粒子からなるリチウムニッケルマンガン複合酸化物の粒子(二次粒子)が形成される。リチウム化合物は、焼成時の温度で溶融し、ニッケルマンガン複合化合物の粒子内に浸透して、リチウムニッケルマンガン複合酸化物を形成する。この際、チタン化合物は、溶融したリチウム化合物とともに二次粒子内部まで浸透する。また、一次粒子においても結晶粒界などがあれば浸透する。リチウム化合物及びチタン化合物が浸透することにより、一次粒子内部における拡散が促進されチタンが一次粒子内で均一に固溶する。本発明者らが検討した結果、例えば、焼成雰囲気中の酸素濃度と焼成温度とを制御することで、チタンを一次粒子内部に均一に固溶させ、チタン化合物相としての析出や、一次粒子間の界面への偏析が抑制される。
【0107】
焼成雰囲気は、酸素濃度80体積%以上100体積%以下であり、好ましくは酸素濃度90体積%以上100体積%以下である。ニッケル比率の高いリチウムニッケルマンガン複合酸化物は、層状化合物におけるLiサイトにNi等の遷移金属元素が配列する、いわゆるカチオンミキシングが生じやすい。また、層状化合物の結晶性が低下し、原子分布に乱れが生じやすい。これらの構造の乱れにより、チタンがMeサイト(遷移金属サイト)に固溶できず、チタン化合物等の不純物相(異相)として析出し、電池容量が低下する恐れがある。一方、上記酸素濃度範囲で焼成する場合、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の層状化合物への相転移が促進され、チタンが層状化合物中の遷移金属サイトに固溶しやすくなる。よって、上記チタン含有量の範囲においても、不純物相を析出させずにチタンを一次粒子内へ均一固溶させることができる。これにより、高い熱安定性を維持しつつ、電池容量の向上や体積抵抗率を低下させ、電池特性と耐短絡性および熱安定性を両立した正極活物質を得ることができる。
【0108】
焼成温度は、酸化雰囲気中750℃以上1000℃以下であり、好ましくは750℃以上950℃以下であり、800℃以上950℃以下であってもよい。上記温度で焼成する場合、リチウム化合物の溶融が生じ、チタンの浸透と拡散が促進される。また、リチウムチタン混合物は、マンガンを含むことにより、焼成温度を高くすることができる。焼成温度を高くすることで、チタンの拡散が促進され、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の粒子中へチタンが固溶しやすくなる。さらに、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の結晶性が高くなり、電池容量をより向上させることができる。
【0109】
一方、焼成温度が750℃未満である場合、複合水酸化物中へのリチウムおよびチタンの拡散が十分に行われなくなり、余剰のリチウムや未反応の粒子が残ったり、結晶構造が十分整わなくなったりして、十分な電池特性が得られないという問題が生じる。また、チタンの一次粒子内へ固溶が不十分となり、十分な耐短絡性や熱安定性が得られないことがある。さらに、焼成温度が1000℃を超えると、形成されたリチウムニッケルマンガン複合酸化物の粒子間で激しく焼結が生じるとともに、異常粒成長を生じる可能性がある。異常粒成長が生じると、焼成後の粒子が粗大となってしまい、正極活物質を形成したときに充填性が低下するほか、結晶構造の乱れにより反応抵抗が増加し、放電容量が低下するという問題が生じる。
【0110】
焼成時間は、少なくとも3時間以上とすることが好ましく、より好ましくは、6時間以上24時間以下である。焼成時間が3時間未満である場合、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の生成が十分に行われないことがある。また、焼成に用いられる炉は、特に限定されず、酸素気流中でリチウムチタン混合物を焼成できるものであればよいが、ガス発生がない電気炉を用いることが好ましく、バッチ式又は連続式の炉のいずれも用いることができる。
【0111】
[仮焼]
焼成工程は、750℃以上1000℃以下の温度で焼成する前に、この焼成温度より低い温度で仮焼する工程をさらに含んでもよい。仮焼は、リチウムチタン混合物中のリチウム化合物が溶融し、複合水酸化物と反応し得る温度で行うことが好ましい。仮焼の温度は、例えば、350℃以上、かつ、焼成温度より低い温度とすることができる。また、仮焼の温度の下限は、好ましくは400℃以上である。上記の温度範囲でリチウムチタン混合物を保持(仮焼)することにより、ニッケルマンガン複合化合物の粒子中にリチウム化合物及び/又はチタン化合物が浸透して、リチウムとチタンの拡散が十分に行われ、均一なリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得ることができる。例えば、リチウム化合物として水酸化リチウムを使用する場合、仮焼は、400℃以上550℃以下の温度で1時間以上10時間程度保持して行うことが好ましい。
【0112】
[解砕]
なお、焼成工程(S20)後に得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物は、粒子間の焼結は抑制されているが、弱い焼結や凝集により粗大な粒子を形成していることがある。このような場合には、解砕により上記焼結や凝集を解消して粒度分布を調整することができる。
【0113】
3.リチウムイオン二次電池
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)は、上述した正極活物質を含む正極と、負極と、非水系電解質とを備える。二次電池は、例えば、正極、負極、及び非水系電解液を備える。また、二次電池は、例えば、正極、負極、及び固体電解質を備えてもよい。また、二次電池は、リチウムイオンの脱離及び挿入により、充放電を行う二次電池であればよく、例えば、非水系電解液二次電池であってもよく、全固体リチウム二次電池であってもよい。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、リチウムイオン二次電池は、下記実施形態をはじめとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0114】
[正極]
上述した正極活物質を用いて、二次電池の正極を作製する。以下に正極の製造方法の一例を説明する。
【0115】
まず、上記の正極活物質(粉末状)、導電材および結着剤(バインダー)を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製する。
【0116】
正極合材中のそれぞれの材料の混合比は、リチウムイオン二次電池の性能を決定する要素となるため、用途に応じて、調整することができる。材料の混合比は、公知のリチウム二次電池の正極と同様とすることができ、例えば、溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量%とした場合、正極活物質を60~95質量%、導電材を1~20質量%、結着剤を1~20質量%含有することができる。
【0117】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して溶剤を飛散させ、シート状の正極が作製される。必要に応じ、電極密度を高めるべくロールプレス等により加圧することもある。このようにして得られたシート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等し、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、前記例示のものに限られることなく、他の方法に依ってもよい。
【0118】
導電材としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
【0119】
結着剤(バインダー)としては、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂およびポリアクリル酸などを用いることができる。
【0120】
必要に応じ、正極活物質、導電材および活性炭を分散させて、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加する。溶剤としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することができる。
【0121】
[負極]
負極は、金属リチウム、リチウム合金等を用いることができる。また、負極は、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを用いてもよい。
【0122】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0123】
[セパレータ]
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、公知のものを用いることができ、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
【0124】
[非水系電解質]
非水系電解質としては、例えば非水系電解液を用いることができる。
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。また、非水系電解液として、イオン液体にリチウム塩が溶解したものを用いてもよい。なお、イオン液体とは、リチウムイオン以外のカチオンおよびアニオンから構成され、常温でも液体状の塩をいう。
【0125】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0126】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO2)2、およびそれらの複合塩などを用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0127】
また、非水系電解質としては、固体電解質を用いてもよい。固体電解質は、高電圧に耐えうる性質を有する。固体電解質としては、無機固体電解質、有機固体電解質が挙げられる。
【0128】
無機固体電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等が挙げられる。
【0129】
酸化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば酸素(O)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。酸化物系固体電解質としては、例えば、リン酸リチウム(Li3PO4)、Li3PO4NX、LiBO2NX、LiNbO3、LiTaO3、Li2SiO3、Li4SiO4-Li3PO4、Li4SiO4-Li3VO4、Li2O-B2O3-P2O5、Li2O-SiO2、Li2O-B2O3-ZnO、Li1+XAlXTi2-X(PO4)3(0≦X≦1)、Li1+XAlXGe2-X(PO4)3(0≦X≦1)、LiTi2(PO4)3、Li3XLa2/3-XTiO3(0≦X≦2/3)、Li5La3Ta2O12、Li7La3Zr2O12、Li6BaLa2Ta2O12、Li3.6Si0.6P0.4O4等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0130】
硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば硫黄(S)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。硫化物系固体電解質としては、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-B2S3、Li3PO4-Li2S-Si2S、Li3PO4-Li2S-SiS2、LiPO4-Li2S-SiS、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0131】
なお、無機固体電解質としては、上記以外のものを用いてよく、例えば、Li3N、LiI、Li3N-LiI-LiOH等を用いてもよい。
【0132】
有機固体電解質としては、イオン伝導性を示す高分子化合物であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含んでいてもよい。
【0133】
なお、非水系電解液に代わり固体電解質を用いて二次電池を構成することも可能である。固体電解質は高電位でも分解しないので、非水系電解液で見られるような充電時の電解液の分解によるガス発生や熱暴走が無いため、高い熱安定性を有している。そのため、本発明による正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池に用いた場合、より熱安定性の高い二次電池を得ることができる。
【0134】
[二次電池の形状、構成]
二次電池の構成は、特に限定されず、上述したように正極、負極、セパレータ、非水系電解質などで構成されてもよく、正極、負極、固体電解質などで構成されもよい。また、二次電池の形状は、特に限定されず、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。
【0135】
例えば、二次電池が非水系電解液二次電池である場合、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して、二次電池を完成させる。
【0136】
なお、本実施形態に係る二次電池は非水系電解質として非水系電解液を用いた形態に限定されるものではなく、例えば固体の非水系電解質を用いた二次電池、すなわち全固体電池とすることもできる。全固体電池とする場合、正極活物質以外の構成は必要に応じて変更することができる。
【0137】
本実施形態に係る二次電池は、高い熱安定性を低コストで実現できる。また、二次電池に用いられる正極活物質は、上述した工業的な製造方法で得ることができる。また、二次電池は、常に高容量を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適である。また、二次電池は、従来のリチウムコバルト系酸化物あるいはリチウムニッケル系酸化物の正極活物質を用いた電池との比較においても、容量のみならず、耐久性及び過充電時の熱安定性に優れている。そのため、小型化、高容量化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源として好適である。なお、二次電池は、純粋に電気エネルギーで駆動する電気自動車用の電源のみならず、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用するいわゆるハイブリッド車用の電源としても用いることができる。
【実施例】
【0138】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における正極活物質に含有される金属の分析方法及び正極活物質の各種評価方法は、以下の通りである。
【0139】
(A)組成の分析:ICP発光分析法で測定した。
【0140】
(B)結晶構造と不純物相有無の定性評価および(003)結晶子径の算出:
XRD回折装置(パナリティカル社製、X‘Pert PRO)にて、Cu-Kα線を用いたXRD回折パターンで評価した。測定条件は、出力を45kV、40mAとし、ステップサイズ:0.0168°、スキャンスピード:0.0508°/secとした。
【0141】
回折パターンから、六方晶系の層状構造以外の異相の有無と、ピーク強度比(ITi化合物/I(003))を求めた。なお、検出限界以下のピークについては、そのピーク強度=0として計算した。具体的には、後述する比較例において、Ti化合物としてLiTiO2が検出された場合、LiTiO2の最強線である(200)回折ピーク強度ILiTiO2を用いて、ピーク強度比を(ILiTiO2/I(003))として求めた。ここで、LiTiO2の最強線である(200)回折ピーク位置は、2θ=43.7°付近であり、六方晶系の層状構造の最強線である(003)回折ピーク位置は、2θ=18.7°付近である。
【0142】
(C)体積抵抗率:得られた正極活物質を4.0g/cm3まで圧縮した状態で、圧粉抵抗測定装置(三菱化学アナリテック社製ロレスター)により体積抵抗率を測定した。
【0143】
(D)体積平均粒径Mv、および粒径のばらつき指数〔(D90-D10)/体積平均粒径〕:
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)により、体積基準で行なった。
【0144】
(E)比表面積:比表面積・細孔分布測定装置(マウンテック社製 型式:マックソーブHM1200シリーズ)を用い、窒素吸着によるBET法により測定した。
【0145】
(F)初期充電容量及び初期放電容量:
初期充電容量及び初期放電容量は、
図6に示す2032型コイン型電池CBAを作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cm
2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電して初期充電容量とし、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。放電容量の測定には,マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。
【0146】
コイン型電池CBAは、正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形し、正極(評価用電極)PEを作製した。作製した正極PEを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した後、この正極PEを用いてコイン型電池CBAを、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0147】
負極NEには、直径17mm厚さ1mmのリチウム(Li)金属を用い、電解液には、1MのLiClO4を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。セパレータSEには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。また、コイン型電池は、ガスケットGAとウェーブワッシャーWWを有し、正極缶PCと負極缶NCとでコイン型の電池に組み立てた。
【0148】
(G)熱安定性評価
正極の熱安定性評価は、正極活物質を過充電状態とし、加熱することで放出される酸素量の定量により行った。上記コイン型電池CBAを用い、カットオフ電圧4.3Vまで0.05CレートでCC充電(定電流―定電圧充電)した。その後、コイン型電池CBAを解体し、短絡しないよう慎重に正極のみ取り出して、DMC(ジメチルカーボネート)で洗浄し、乾燥した。乾燥後の正極をおよそ2mg量りとり、ガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS、島津製作所、QP-2010plus)を用いて、昇温速度10℃/minで室温から450℃まで昇温した。キャリアガスにはヘリウムを用いた。加熱時に発生した酸素(m/z=32)の発生挙動を測定し、得られた最大酸素発生ピーク高さとピーク面積から酸素発生量の半定量を行い、これらを熱安定性の評価指標とした。なお、酸素発生量の半定量値は、純酸素ガスを標準試料としてGCMSに注入し、その測定結果から得た検量線を外挿して算出した。
【0149】
(実施例1)
[晶析工程]
反応槽(60L)に純水を所定量入れ、攪拌しながら槽内温度を49℃に設定した。このとき反応槽内に、反応槽液中の溶存酸素濃度が0.8mg/LとなるようにN2ガスを流した。この反応槽内にニッケル:マンガン:コバルトのモル比が85:10:5となるように、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルトの2.0Mの混合水溶液と、アルカリ溶液である25質量%水酸化ナトリウム溶液、錯化剤として25質量%アンモニア水を反応槽に同時に連続的に添加した。
【0150】
このとき混合水溶液の滞留時間は8時間となるように流量を制御し、反応槽内のpHを12.0~12.6に、アンモニア濃度を10~14g/Lに調整した。反応槽が安定した後、オーバーフロー口からニッケルマンガンコバルト複合水酸化物を含むスラリーを回収した後、濾過を行いニッケルマンガンコバルト複合水酸化物のケーキを得た(晶析工程)。濾過を行ったデンバー内にあるニッケルマンガンコバルト複合水酸化物140gに対して1Lの純水を通液することで、不純物の洗浄を行った。濾過後の粉を乾燥し、ニッケル、マンガン、コバルトの物質量の比がNi:Mn:Co=0.85:0.10:0.05で表されるニッケルマンガンコバルト複合水酸化物を得た。
【0151】
[混合工程]
得られたニッケルマンガンコバルト複合水酸化物と、水酸化リチウムと、平均粒径が2.5μmの酸化チタン(TiO2)とを、リチウム:ニッケル:マンガン:コバルト:チタンの物質量の比が1.01:0.83:0.10:0.05:0.02になるように秤量した後、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて十分に混合し、リチウム混合物を得た。
【0152】
[焼成工程]
得られたリチウム混合物を酸素(酸素濃度:90容量%)気流中にて830℃で10時間保持して焼成し、その後、解砕してリチウムニッケルマンガンコバルトチタン複合酸化物からなる正極活物質を得た。
【0153】
[評価]
得られた正極活物質の4.0g/cm3圧縮状態での体積抵抗率、体積平均粒径Mv、粒径のばらつき指数および比表面積を表1に示す。XRD測定の結果、六方晶系の層状構造以外の異相は、検出されなかった。
【0154】
また
図6に示すコイン型電池CBAを作製し、初期充放電容量と熱安定性を評価した。なお、最大酸素発生ピーク強度は、チタンを含まない比較例1に対する相対値(比較例1を100とした相対値)とした。これらの結果を表2に示す。
【0155】
(実施例2)
混合工程で、得られたニッケルマンガンコバルト複合水酸化物と、水酸化リチウムと、平均粒径が2.5μmの酸化チタン(TiO2)とを、リチウム:ニッケル:マンガン:コバルト:チタンの物質量の比が1.01:0.82:0.10:0.05:0.03になるように秤量したこと以外は実施例1と同様に正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0156】
(実施例3)
焼成工程で、焼成温度を850℃としたこと以外は実施例2と同様に正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0157】
(実施例4)
混合工程で、得られたニッケルマンガンコバルト複合水酸化物と、水酸化リチウムと、平均粒径が2.5μmの酸化チタン(TiO2)と、酸化ジルコニウムと、を、リチウム:ニッケル:マンガン:コバルト:チタン:ジルコニウムの物質量の比が1.05:0.825:0.095:0.047:0.030:0.003になるように秤量し、焼成工程で、焼成温度を800℃としたこと以外は実施例1と同様に正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0158】
(実施例5)
混合工程で、得られたニッケルマンガンコバルト複合水酸化物と、水酸化リチウムと、平均粒径が2.5μmの酸化チタン(TiO2)と、酸化ジルコニウムと、を、リチウム:ニッケル:マンガン:コバルト:チタン:ジルコニウムの物質量の比が1.01:0.818:0.095:0.048:0.036:0.003になるように秤量し、焼成工程で、焼成温度を820℃としたこと以外は実施例1と同様に正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0159】
(実施例6)
混合工程で、得られたニッケルマンガンコバルト複合水酸化物と、水酸化リチウムと、平均粒径が2.5μmの酸化チタン(TiO2)と、酸化ジルコニウムと、を、リチウム:ニッケル:マンガン:コバルト:チタン:ジルコニウムの物質量の比が1.05:0.815:0.094:0.047:0.041:0.003になるように秤量し、焼成工程で、焼成温度を820℃としたこと以外は実施例1と同様に正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0160】
(比較例1)
混合工程で、酸化チタンを準備せず、得られたニッケルマンガンコバルト複合水酸化物をリチウム:ニッケル:マンガン:コバルトの物質量の比が1.02:0.85:0.10:0.05になるように秤量し、焼成工程で、焼成温度を800℃としたこと以外は実施例1と同様に正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0161】
(比較例2)
焼成工程で、リチウム混合物を酸素(酸素濃度:60容量%)気流中にて焼成したこと以外は実施例2と同様に正極活物質を得るとともに評価した。またXRD測定の結果、LiTiO2に帰属されるピークが確認された。評価結果を表1および表2に示す。
【0162】
(比較例3)
混合工程で、得られたニッケルマンガンコバルト複合水酸化物と、水酸化リチウムと、平均粒径が2.5μmの酸化チタン(TiO2)とを、リチウム:ニッケル:マンガン:コバルト:チタンの物質量の比が1.01:0.79:0.08:0.05:0.08になるように秤量したこと以外は実施例1と同様に正極活物質を得るとともに評価した。またXRD測定の結果、LiTiO2に帰属されるピークが確認された。評価結果を表1および表2に示す。
【0163】
(比較例4)
晶析工程で、反応槽内にニッケル:マンガン:コバルトのモル比が60:20:20となるように、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、硫酸コバルトの2.0Mの混合水溶液を添加して、ニッケル、マンガン、コバルトの物質量の比がNi:Mn:Co=0.60:0.20:0.20で表されるニッケルマンガンコバルト複合水酸化物をえたことと、混合工程で、得られたニッケルマンガンコバルト複合水酸化物と、水酸化リチウムと、平均粒径が2.5μmの酸化チタン(TiO2)とを、リチウム:ニッケル:マンガン:コバルト:チタンの物質量の比が1.03:0.58:0.20:0.20:0.02になるように秤量したことと、焼成工程で、焼成温度を900℃とした以外は実施例1と同様に正極活物質を得るとともに評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0164】
【0165】
【0166】
【0167】
表1~3に示すように、実施例で得られた正極活物質は、熱安定性が極めて良好であり、体積抵抗率も高く、初期充放電容量も高い。実施例で得られた正極活物質はいずれも、チタンが結晶相中に固溶しており、不純物相(異相)の析出が無い。一方、比較例1の正極活物質では、チタンを添加していないため、熱安定性、体積抵抗率ともに劣っている。
【0168】
比較例2の正極活物質では、焼成時の酸素濃度が低いため、チタンの一部が正極活物質中に固溶できず、不純物相が形成している。そのため、熱安定性および体積抵抗率は良好であるが、活物質中のリチウム欠乏やカチオンミキシングにより、初期充放電容量が著しく低下している。
【0169】
比較例3の正極活物質では、チタンの添加量が多いため、熱安定性および体積抵抗率は良好であるが、過度なチタン添加によってTi化合物が多く析出しており、初期充放電容量が著しく悪化している。レドックスに寄与するNi量が低減したことも、容量低下に影響しており、低い電気化学特性のために熱安定性は見かけ上良化したと推定される
【0170】
比較例4の正極活物質では、正極活物質のニッケル比率が実施例と比較して低いため、熱安定性および体積抵抗率は良好であるが、初期充放電容量が著しく悪化している。
【0171】
以上より、本発明の一実施形態に係る非水系電解質二次電池用正極活物質、非水系二次電池用正極活物質の製造方法及び非水系電解質二次電池は、高い熱安定性と優れた耐短絡性、および高い電池特性とを高次元で両立させた非水系電解質二次電池が得られる正極活物質を提供することができる。また、本発明は、このような正極活物質を、工業規模の生産において容易に製造することが可能であり、工業的価値は極めて大きいものといえる。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本実施形態では、高い熱安定性と優れた耐短絡性、および優れた電池特性とを高次元で両立させた非水系電解質二次電池用正極活物質を工業的な製造方法で得ることができる。この非水系電解質二次電池は、常に高容量・高寿命を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適である。
【0173】
また、本発明の一実施形態に係る二次電池は、従来のリチウムニッケル系酸化物の正極活物質を用いた電池との比較においても、安全性に優れており、さらに容量・耐久性の点で優れている。そのため、小型化、高寿命化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源として好適である。
【0174】
また、本発明の一実施形態に係る正極活物質及びそれを用いた二次電池は、純粋に電気エネルギーで駆動する電気自動車用の電源のみならず、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用するいわゆるハイブリッド車用の電源や定置型蓄電池としても用いることができる。
【0175】
なお、上記のように本発明の各実施形態及び各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0176】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また非水系電解質二次電池用正極活物質、非水系電解質二次電池及び非水系二次電池用正極活物質の製造方法の構成、動作も本発明の各実施形態及び各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【0177】
上述の実施形態などで説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態などで説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、日本特許出願である特願2019-060883、及び本明細書で引用した全ての文献の内容を援用して本文の記載の一部とする。
【符号の説明】
【0178】
CBA…コイン型電池
PE…正極(評価用電極)
NE…負極(リチウム金属)
SE…セパレータ
GA…ガスケット
WW…ウェーブワッシャー
PC…正極缶
NC…負極缶