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特許7509146室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び自動車ロングライフクーラントシール材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び自動車ロングライフクーラントシール材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/10 20060101AFI20240625BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240625BHJP
   C08K 5/5425 20060101ALI20240625BHJP
   C08L 83/06 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C09K3/10 G
C08K3/013
C08K5/5425
C08L83/06
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021533922
(86)(22)【出願日】2020-07-08
(86)【国際出願番号】 JP2020026628
(87)【国際公開番号】W WO2021014968
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2021-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2019133221
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】打它 晃
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-165663(JP,A)
【文献】特開平02-206654(JP,A)
【文献】特開昭56-077230(JP,A)
【文献】特開昭63-192791(JP,A)
【文献】特開昭63-063684(JP,A)
【文献】米国特許第03472888(US,A)
【文献】特表2010-530023(JP,A)
【文献】特開平02-218755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00- 83/16
C08K 3/00- 13/08
C09J183/00-183/16
C09D183/00-183/16
C09K 3/10
C08G 77/00- 77/62
C07F 7/02- 7/21
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で示される23℃における粘度が2,000mPa・s以上のオルガノポリシロキサン:100質量部、
HO-(SiR1 2O)a-H (1)
(式(1)中、R1は炭素数1~10の非置換又は置換一価炭化水素基であり、各R1は互いに同一であっても異種の基であってもよい。aは100以上の整数である。)
(B)無機質充填剤:1~500質量部、
(C)下記構造式(5)で示される、ケイ素原子に結合したイソプロペノキシ基を分子中に3個以上有する加水分解性有機ケイ素化合物、及び/又はその部分加水分解縮合物:0.1~40質量部、
【化1】
(D)下記一般式(4)で示されるシランカップリング剤及び/又はその部分加水分解縮合物:0.01~10質量部、
45 dSiX3-d (4)
(式(4)中、R4は、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれるいずれか1種以上の原子を含む、グアニジル基を除く官能性基を少なくとも1個有する炭素数1~20の一価炭化水素基であり、R5は炭素数1~10の非置換一価炭化水素基であり、Xは加水分解性基である。dは0、1又は2である。)、及び
(E)硬化触媒:0.01~20質量部
を含有する、自動車ロングライフクーラントシール用である室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
(B)成分の無機質充填剤が、カーボンブラック、表面処理剤により疎水化処理された炭酸カルシウム、表面処理剤により疎水化処理された煙霧質シリカ、表面処理剤により疎水化処理された沈降性シリカ及び表面処理剤により疎水化処理された酸化アルミニウムから選択される少なくとも1種である請求項1に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項3】
(B)成分の無機質充填剤が、カーボンブラック及び/又は表面処理剤により疎水化処理された炭酸カルシウムを含むものである請求項1又は2に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項4】
組成物中のVOC残存量が5,000ppm以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項5】
初期状態と比較して、自動車ロングライフクーラントに120℃、240時間浸漬する耐LLC試験後の引張り強度、切断時伸びそれぞれの変化率が-50%以上100%以下であり、120℃、1,000時間の耐熱試験後の引張り強度、切断時伸びそれぞれの変化率が-50%以上20%以下である硬化物を与えるものである請求項1~4のいずれか1項に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の自動車ロングライフクーラントシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物である自動車ロングライフクーラントシール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物、特には、自動車ロングライフクーラント(Long Life Coolant、以下、LLC)シール材として好適に用いられる自動車LLCシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物等に関する。本発明は、特に、耐LLC性能及び耐熱性に優れると共に、良好な接着性と硬化性を与える、該自動車LLCシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び自動車ロングライフクーラントシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のLLC周辺のシール材については、従来、コルク、有機ゴム、アスベストなどで作られたガスケット、パッキング材が使用されている。しかしこれらの従来のガスケットやパッキング材は在庫管理及び作業工程が煩雑であるという不利があり、さらに、それらのシール性能には信頼性がないという欠点がある。そのため、LLCシールの用途では、液体ガスケットとして、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を利用したFormed In Place Gasket(FIPG)方式が採用されている。
【0003】
近年、クーラントの性能向上を目的として、LLCには種々の添加剤が配合されている。そしてFIPGには、より高い耐LLC性能が要求されている。LLCは基本的に水と混合させて使用される。そのため自動車LLCシール材は、LLCと水の混合物という、FIPGに対して攻撃性の高い薬品存在下で高温条件に耐える必要がある。
【0004】
特開2002-226708号公報(特許文献1)においては、二液混合型FIPGに疎水化処理を行った充填剤を添加することにより、耐LLC性能が向上することが報告されている。しかし、二液混合型FIPGでは混合工程が追加されることから、生産工程での管理が煩雑になるという欠点がある。また、特開2016-199687号公報(特許文献2)においては、耐水性の高い接着性付与剤を添加することで、耐LLC性能の向上が報告されている。しかし、近年、100℃、168時間の浸漬条件より厳しい条件での耐LLC性能向上が要求されている。さらに他の公知技術として、有機溶剤に溶解した三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂を組成物中に添加することで、耐LLC性能を向上できることが知られている。しかし、三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂を添加した組成物は残存シラノール基が縮合反応してしまうため、高温環境にさらされるとゴムの伸び率低下が避けられない。また、近年の環境保護の高まりや現場作業員の健康管理の観点から、組成物中の揮発性有機化学物質(Volatile Organic Compounds、以下、VOC)を含む材料は好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-226708号公報
【文献】特開2016-199687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、とりわけ、自動車LLCシールとして好適に用いられる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に関する。特に、本発明は、耐LLC性能及び耐熱性に優れると共に、良好な接着性と硬化性を与え、さらにVOC含有量を低減した、FIPG用の材料として好適な、自動車LLCシール用の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び自動車ロングライフクーラントシール材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、縮合硬化型組成物の架橋成分として、分子内にシルエチレン(-Si-CH2CH2-Si-)結合を有する脱アセトンタイプの多官能硬化剤を用いることにより、耐LLC性及び硬化性が大幅に向上することを見出した。また、本発明においては三次元網状構造のオルガノポリシロキサン樹脂(いわゆるシリコーンレジン)を用いなくても十分な耐LLC性が得られ、耐熱性(高温暴露時の伸び率低下)も大きく改善する。
【0008】
従って、本発明は、下記の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び自動車ロングライフクーラントシール材を提供するものである。
1. (A)下記一般式(1)で示される23℃における粘度が2,000mPa・s以上のオルガノポリシロキサン:100質量部、
HO-(SiR1 2O)a-H (1)
(式(1)中、R1は炭素数1~10の非置換又は置換一価炭化水素基であり、各R1は互いに同一であっても異種の基であってもよい。aは100以上の整数である。)
(B)無機質充填剤:1~500質量部、
(C)下記構造式(5)で示される、ケイ素原子に結合したイソプロペノキシ基を分子中に3個以上有する加水分解性有機ケイ素化合物、及び/又はその部分加水分解縮合物:0.1~40質量部、
【化1】
(D)下記一般式(4)で示されるシランカップリング剤及び/又はその部分加水分解縮合物:0.01~10質量部、
45 dSiX3-d (4)
(式(4)中、R4は、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれるいずれか1種以上の原子を含む、グアニジル基を除く官能性基を少なくとも1個有する炭素数1~20の一価炭化水素基であり、R5は炭素数1~10の非置換一価炭化水素基であり、Xは加水分解性基である。dは0、1又は2である。)、及び
(E)硬化触媒:0.01~20質量部
を含有する、自動車ロングライフクーラントシール用である室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
2. (B)成分の無機質充填剤が、カーボンブラック、表面処理剤により疎水化処理された炭酸カルシウム、表面処理剤により疎水化処理された煙霧質シリカ、表面処理剤により疎水化処理された沈降性シリカ及び表面処理剤により疎水化処理された酸化アルミニウムから選択される少なくとも1種である1に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
3. (B)成分の無機質充填剤が、カーボンブラック及び/又は表面処理剤により疎水化処理された炭酸カルシウムを含むものである1又は2に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
4. 組成物中のVOC残存量が5,000ppm以下である1~3のいずれかに記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
5. 初期状態と比較して、自動車ロングライフクーラントに120℃、240時間浸漬する耐LLC試験後の引張り強度、切断時伸びそれぞれの変化率が-50%以上100%以下であり、120℃、1,000時間の耐熱試験後の引張り強度、切断時伸びそれぞれの変化率が-50%以上20%以下である硬化物を与えるものである1~4のいずれかに記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
6. 1~5のいずれかに記載の自動車ロングライフクーラントシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物である自動車ロングライフクーラントシール材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組成物は、特に、耐LLC性能及び耐熱性能に優れると共に、良好な接着性や硬化性を有する硬化物(シリコーンゴム)を与え、VOC含有量が抑制された自動車ロングライフクーラントシール用の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明につきさらに詳細に説明する。
[室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物]
本発明に係る室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、下記(A)~(E)成分を含有するものである。なお、室温とは、25℃±10℃をいい、好ましくは20~25℃をいう。
【0011】
[(A)成分 オルガノポリシロキサン]
本発明に用いられる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の(A)成分は、下記一般式(1)で示される。
HO-(SiR1 2O)a-H (1)
(式(1)中、R1は炭素数1~10の非置換又は置換一価炭化水素基であり、各R1は互いに同一であっても異種の基であってもよい。aは100以上の整数である。)
【0012】
式(1)に示すように(A)成分は、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)で封鎖されている、23℃における粘度が2,000mPa・s以上の、直鎖状のジオルガノポリシロキサンであり、本発明の組成物の主剤(ベースポリマー)として作用するものである。
【0013】
上記式(1)中、R1は炭素数1~10、特に炭素数1~6の非置換又は置換一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基が挙げられる。あるいはこれらの炭化水素基の水素原子が部分的に塩素、フッ素、臭素といったハロゲン原子等で置換された基、例えばトリフルオロプロピル基などが挙げられる。R1の非置換又は置換一価炭化水素基としては、脂肪族不飽和結合を含まないものが好ましく、具体的には、メチル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基が好ましく、メチル基が特に好ましい。このR1は同一の基であっても異種の基であってもよい。
【0014】
式(1)中において、主鎖を構成する2官能性のジオルガノシロキサン単位(SiR1 22/2)の繰り返し数(又は重合度)を示すaは100以上の整数であればよく、好ましくは100~2,000の整数であり、より好ましくは150~1,000の整数であり、特に好ましくは200~800の整数である。
【0015】
(A)成分のオルガノポリシロキサンの23℃における粘度は2,000mPa・s以上であり、2,000~500,000mPa・sの範囲が好ましく、3,000~500,000mPa・sの範囲がより好ましく、5,000~100,000mPa・sの範囲が特に好ましい。なお、本発明において、粘度は回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型等)により測定した値である。
【0016】
また、本発明において、重合度(又は分子量)は、例えば、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)等を展開溶媒としたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めることができる。
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
[(B)成分 無機質充填剤]
次に、(B)成分である無機質充填剤は、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に優れたゴム物性を付与するための補強性充填剤や非補強性充填剤である。
【0018】
(B)成分の無機質充填剤としては、表面処理(疎水化処理)された又は表面無処理の無機質充填剤を例示できる。すなわち、焼成シリカ、煙霧質シリカ(ヒュームドシリカ)等の乾式シリカ、沈降性シリカ、ゾル-ゲル法シリカ等の湿式シリカなどのシリカ系充填剤;カーボンブラック、タルク、ベントナイト、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム等が例示される。その中でも炭酸カルシウム、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、カーボンブラック、酸化アルミニウムが好ましく、より好ましくは無機質充填剤の表面が表面処理剤で疎水化処理された、炭酸カルシウム、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、カーボンブラック、酸化アルミニウムである。この場合、これらの無機質充填剤は、水分量が少ないことが好ましい。なお、該表面処理剤の種類、量や処理方法等について特に制限はないが、代表的には、クロロシラン、アルコキシシラン、オルガノシラザン等の有機ケイ素化合物や、脂肪酸、パラフィン、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等の処理剤による公知の処理方法を適用できる。
【0019】
(B)成分の無機質充填剤は、1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して1~500質量部の範囲であり、好ましくは20~300質量部の範囲である。(B)成分の配合量が1質量部未満では、得られる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物が十分なゴム強度を得られないため、自動車LLCシール用の使用用途に適さないという問題が生じる。一方、500質量部を超えると、カートリッジからの吐出が悪化し、並びに、保存安定性が低下するほか、得られるゴム物性の機械特性も低下してしまう。
【0020】
[(C)成分 分子中にシルエチレン結合を有すると共に、ケイ素原子に結合したイソプロペノキシ基を分子中に3個以上有する加水分解性有機ケイ素化合物及び/又はその部分加水分解縮合物]
本発明の(C)成分である加水分解性有機ケイ素化合物(加水分解性オルガノシラン化合物又はオルガノシロキサン化合物)は、架橋剤として機能し、一般に硬化剤と呼ばれる成分である。すなわち(C)成分は、得られる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に、密閉条件下では良好な保存安定性を付与し、開封後又は非密閉状態では該室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を空気中の湿気(水分)と反応させてゴム化(三次元的に架橋し硬化)させるものである。さらに本発明の(C)成分(硬化剤)においては、下記一般式(2)又は(3)に示すように分子中にシルエチレン構造(≡Si-CH2CH2-Si≡)を1個又は2個有するため、本発明の組成物を硬化したゴム硬化物に良好な耐LLC性を付与することが可能となり、又、分子中に加水分解性に優れたイソプロペノキシ基を3個以上(3~6個)有することにより多官能化することで、硬化性を向上させることが可能となっている。
【化3】
【化4】
(式(2)、(3)中、R2、R3はそれぞれ独立に炭素数1~10の非置換又は置換一価炭化水素基である。b、cはそれぞれ独立に0~2の整数であり、bとcの和が3以下となるような整数である。nは0~50の整数を示す。)
【0021】
(C)成分の上記一般式(2)又は(3)で示される加水分解性有機ケイ素化合物(即ち、加水分解性オルガノシラン化合物又はオルガノシロキサン化合物)は、分子鎖のそれぞれの末端に1個ずつ(即ち、分子中に2個)、シルエチレン構造を形成する炭素原子の片側又は両側に隣接するケイ素原子に結合した加水分解性シリル基を有するものであり、なおかつ、分子中に2個存在する各加水分解性シリル基の全体(合計)について加水分解性基を分子中に3個以上(通常、分子中に3~6個、好ましくは、それぞれの加水分解性シリル基1個当たり2個又は3個ずつ、即ち、分子中に4~6個)有するものである。また、(C)成分としての、上記式(2)又は(3)で示される加水分解性有機ケイ素化合物(加水分解性オルガノシラン化合物又はオルガノシロキサン化合物)の部分加水分解縮合物は、該加水分解性オルガノシラン化合物又はオルガノシロキサン化合物の末端加水分解性シリル基を部分的に加水分解・縮合して生成する、残存加水分解性基を分子中に3個以上有するオルガノシロキサンオリゴマーである。さらに該残存加水分解性基を分子中に2個有するオルガノシロキサンオリゴマーを併用してもよい。
【0022】
(C)成分の加水分解性オルガノシラン化合物又はオルガノシロキサン化合物やそれらの部分加水分解縮合物が有する加水分解性基としては、イソプロペノキシ基である。イソプロペノキシ基を有する架橋剤は後述する触媒と組み合わせて使用することで、耐LLC性と硬化性に優れるシール材を与えることができる。
【0023】
上記加水分解性基以外の、すなわち、加水分解性有機ケイ素化合物やその部分加水分解縮合物中に存在するケイ素原子の加水分解性基が結合しない部位に結合する有機基としては、非置換又は置換の、炭素数は1~10、好ましくは炭素数1~6の一価炭化水素基が挙げられる。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基の、好ましくは脂肪族不飽和結合を含有しない炭化水素基が挙げられる。また、これらの炭化水素基の炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子又はシアノ基で置換したものでもよい。例えば、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等が挙げられる。中でも、有機基として、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基が好ましい。
【0024】
(C)成分の有機ケイ素化合物としては、例えば、以下の構造の化合物が挙げられる。
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【0025】
(C)成分の加水分解性オルガノシラン化合物又はオルガノシロキサン化合物の部分加水分解縮合物、すなわちシロキサンオリゴマーの数平均分子量は特に制限されるものでないが、通常、500~20,000であり、700~10,000が好ましい。また、上記の加水分解性有機ケイ素化合物が2~100個、好ましくは2~20個重合したオリゴマーであることが好ましい。該シロキサンは、異なる重合度を有する複数種のオリゴマーの混合物であってもよい。
【0026】
(C)成分は、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、本発明の組成物には、本発明の効果を妨げない範囲で、(C)成分以外の一般的な湿気硬化型室温硬化性シリコーン組成物(オルガノポリシロキサン組成物)に使用される汎用の硬化剤(架橋剤)を併用してもよい。汎用の硬化剤(架橋剤)としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のアルコキシシラン;メチルトリス(ジメチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、エチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(メチルイソブチルケトオキシム)シラン、ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン等のケトオキシムシラン;メチルトリ(メトキシメトキシ)シラン、エチルトリ(メトキシメトキシ)シラン、ビニルトリ(メトキシメトキシ)シラン、フェニルトリ(メトキシメトキシ)シラン、メチルトリ(エトキシメトキシ)シラン、エチルトリ(エトキシメトキシ)シラン、ビニルトリ(エトキシメトキシ)シラン、フェニルトリ(エトキシメトキシ)シラン、テトラ(メトキシメトキシ)シラン、テトラ(エトキシメトキシ)シラン等のアルコキシアルコキシシラン;メチルトリス(N,N-ジエチルアミノキシ)シラン等のアミノキシシラン;メチルトリス(N-メチルアセトアミド)シラン、メチルトリス(N-ブチルアセトアミド)シラン、メチルトリス(N-シクロヘキシルアセトアミド)シラン等のアミドシラン;メチルトリイソプロペノキシシラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、フェニルトリイソプロペノキシシラン等のアルケノキシシラン;メチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のアセトキシシランが挙げられる。
【0027】
(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1~40質量部であり、好ましくは1~20質量部である。(C)成分の配合量が上記下限値の0.1質量部未満では、硬化性や保存性の低下を招くおそれがある。また、上記上限値の40質量部を超えると、価格的に不利になるばかりか、硬化物の伸びが低下したり、耐久性の悪化を招いたりするおそれがある。特に、(C)成分中の加水分解性基の個数が(A)成分中の水酸基の個数を上回るような量とすることが好ましい。
【0028】
<式(2)で示される加水分解性オルガノシラン化合物の合成方法>
式(2)で示される加水分解性オルガノシラン化合物は、例えば、分子中にイソプロペノキシ基及びSi-H基を有するシラン化合物と分子中にイソプロペノキシ基及びSi-CH=CH2基を有するシラン化合物とを白金触媒下で付加反応(いわゆるヒドロシリル化付加反応)により2量化することで目的物を合成することができる。
【0029】
<式(3)で示される加水分解性オルガノシロキサン化合物の合成方法>
式(3)で示される加水分解性オルガノシロキサン化合物は、例えば、分子鎖両末端にSi-H基(またはSi-CH=CH2)を有するジメチルポリシロキサン化合物と分子中にイソプロペノキシ基及びSi-CH=CH2(またはSi-H基)を有するシラン化合物とを白金触媒下で付加反応(いわゆるヒドロシリル化付加反応)させることにより目的物を合成することができる。この場合、シロキサン化合物とシラン化合物の反応点はSi-H基とSi-CH=CH2基となる組み合わせである。
【0030】
[(D)成分 シランカップリング剤及び/又はその部分加水分解縮合物]
次に、(D)成分は、下記一般式(4)で示されるシランカップリング剤(即ち、官能性基含有一価炭化水素基を有する加水分解性オルガノシラン化合物又はカーボンファンクショナルシラン)及び/又はその部分加水分解縮合物であり、本発明のLLC用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物に良好な接着性を発現させるための必須成分である。
45 dSiX3-d (4)
(式(4)中、R4は、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれるいずれか1種以上の原子を少なくとも1個有する炭素数1~20の一価炭化水素基であり、R5は炭素数1~10の非置換又は置換一価炭化水素基であり、Xは加水分解性基である。dは0、1又は2である。)
【0031】
上記式(4)中、R4は窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれる原子を含む、グアニジル基を除く官能性基(例えば、非置換又は置換アミノ基、非置換又は置換イミノ基、アミド基、ウレイド基、メルカプト基、エポキシ基、(メタ)アクリロキシ基等)を少なくとも1個有する炭素数1~20の一価炭化水素基であり、具体的には、β-(2,3-エポキシシクロヘキシル)エチル基、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、γ-グリシドキシプロピル基、γ-(メタ)アクリロキシプロピル基、γ-アクリロキシプロピル基、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピル基、γ-アミノプロピル基、N-フェニル-γ-アミノプロピル基、γ-ウレイドプロピル基、γ-メルカプトプロピル基、γ-イソシアネートプロピル基等の窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれる原子の少なくとも1つを含む好ましくは炭素数3~20、より好ましくは炭素数8~14の一価炭化水素基が挙げられる。
【0032】
また、R5は、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が好ましい。
【0033】
一般式(4)中、加水分解性基Xとしては、例えば、ケトオキシム基、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アシロキシ基、アルケニルオキシ基等が挙げられる。具体的には、ジメチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、メチルイソブチルケトオキシム基等の炭素数3~8のケトオキシム基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等の炭素数1~4、好ましくは1又は2のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基等の炭素数2~4のアルコキシアルコキシ基、アセトキシ基、プロピオノキシ基等の炭素数2~4のアシロキシ基、ビニルオキシ基、アリルオキシ基、プロペノキシ基、イソプロペノキシ基等の炭素数2~4のアルケニルオキシ基などが例示できる。
【0034】
(D)成分のシランカップリング剤としては、具体的には、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-2-(アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン類、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン類、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリルシラン類、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン類、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等のイソシアネートシラン類などが挙げられる。
(D)成分のシランカップリング剤及び/又はその部分加水分解縮合物は、1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
上記(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.01~10質量部であり、好ましくは0.1~8質量部である。0.01質量部未満では、硬化物が十分な接着性能を示さないものとなり、10質量部を超えて配合すると、硬化後のゴム強度が低下したり、硬化性が低下したりする。
【0036】
[(E)成分 硬化触媒]
(E)成分は硬化触媒である。硬化触媒としては、組成物の硬化促進剤として従来から一般的に使用されている縮合触媒を使用できる。例えばジブチルスズメトキサイド、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクテート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジオクテート、ジメチルスズジメトキサイド、ジメチルスズジアセテート等の有機スズ化合物;テトラプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラ-2-エチルヘキシルチタネート、ジメトキシチタンジアセチルアセトナート等の有機チタン化合物;ヘキシルアミン、テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン等のアミン化合物やこれらの塩などが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
(E)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.01~20質量部であり、好ましくは0.05~5質量部であり、さらに好ましくは0.1~2質量部である。(E)成分の配合量が上記下限値の0.01質量部未満であると、触媒効果が得られない。また、(E)成分の配合量が上記上限値の20質量部を超えると、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の接着性が低下したり、保存性が悪化する場合がある。
【0038】
また、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物には、(A)~(E)成分以外に一般に知られている添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で使用しても差し支えない。添加剤としては、チクソ性向上剤としてのポリエーテル、可塑剤としてのシリコーンオイル、イソパラフィン等が挙げられ、必要に応じて顔料、染料、蛍光増白剤等の着色剤、防かび剤、抗菌剤、海洋生物忌避剤等の生理活性添加剤を添加できる。さらに、ブリードオイルとしてのフェニルシリコーンオイル、フロロシリコーンオイル、シリコーンと非相溶の有機液体等の表面改質剤、トルエン、キシレン、溶剤揮発油、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、低沸点イソパラフィン等の溶剤も添加できる。また、一般的に耐LLC性能向上のために使用されているシリコーンレジン及びその溶液を添加することも可能である。
【0039】
本発明のオルガノポリシロキサン組成物は、室温硬化性の組成物であり、その硬化条件は本発明の作用効果を得られる限り限定されない。例えば、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を深さ2mmの型枠に流し込み、23℃、50%RHで5日間養生することによって、厚さ2mmの本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物(シリコーンゴムシート)を得ることができる。
【0040】
また、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、自動車LLCシール材として好適に用いられ、特に、耐LLC性能に及び耐熱性能に優れると共に、良好な接着性と硬化性を与える。
【0041】
また、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、組成物中のVOC残存量が5,000ppm以下であることが好ましく、1,000ppm以下であることがより好ましく、検出限界以下(実質的に0ppm)であることが特に好ましい。なお、組成物中のVOC残存量とは、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を100℃、20分間加熱した際にガスクロマトグラフィーで揮発分として測定されるトルエンなどの特定の有機化学物質の量である。
さらに、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、硬化させた場合、初期状態と比較して、自動車ロングライフクーラントに120℃、240時間浸漬する耐LLC試験後の引張り強度、切断時伸びそれぞれの変化率が-50%以上100%以下、特には-20%以上70%以下であり、120℃、1,000時間の耐熱試験後の引張り強度、切断時伸びそれぞれの変化率が-50%以上20%以下、特には-20%以上18%以下である硬化物を与えるものであることが好ましい。この場合、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は自動車ロングライフクーラントシール用として特に好適である。
【0042】
[室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法]
上述した本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、例えば次のような手順で製造するとよい。
即ち、まず上記(A)成分100質量部、(B)成分1~500質量部を混合した後、この(A)、(B)混合物に上記(C)成分0.1~40質量部、(E)成分0.01~20質量部を添加して(汎用硬化剤やその他の添加剤を添加する場合にはこのときに添加して)、減圧下で混合する。そして、さらに上記(D)成分0.01~10質量部を添加して減圧下で混合して、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を得る。
【実施例
【0043】
以下、合成例、実施例、参考例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0044】
以下に本発明に使用する、分子内にシルエチレン結合を有すると共に、ケイ素原子に結合したイソプロペノキシ基を分子中に3個以上有する加水分解性有機ケイ素化合物の合成例について示す。なお、合成された化合物は1H-NMRにて同定を行い、合成を確認した。
【0045】
[合成例1]
撹拌機、温度計、滴下ロート、減圧蒸留装置を備えた4つ口フラスコにビニルトリイソプロペノキシシラン119g(0.53mol)、0.5質量%カールステッド触媒(白金オレフィン化合物錯体)トルエン溶液を0.3g仕込み、60℃に加温した。滴下ロートよりトリイソプロペノキシシラン100g(0.5mol)を温度が60~80℃の間となるよう調整しながら滴下した。次に80℃で4時間熟成したのち、170℃、300Paの条件で蒸留精製し、下記構造式(5)で示される硬化剤1を得た(収量143g、収率65%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ4.31(-C(CH3)=C 2 ,m,12H),1.91(-C 3 ,s,18H),1.04(-Si-C 2 2 -Si-,t,4H)
【化11】
【0046】
[合成例2]
撹拌機、温度計、滴下ロート、減圧蒸留装置を備えた4つ口フラスコにビニルトリイソプロペノキシシラン119g(0.53mol)、0.5質量%カールステッド触媒(白金オレフィン化合物錯体)トルエン溶液を0.3g仕込み、60℃に加温した。滴下ロートよりメチルジイソプロペノキシシラン79g(0.5mol)を温度が60~80℃の間となるよう調整しながら滴下した。次に80℃で4時間熟成したのち、150℃、300Paの条件で蒸留精製し、下記構造式(6)で示される硬化剤2を得た(収量141g、収率71%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ4.34(-C(CH3)=C 2 ,m,10H),1.91(-C 3 ,s,15H),1.04(-Si-C 2 2 -Si-,t,4H),0.34(-Si-C 3 ,s,3H)
【化12】
【0047】
[合成例3]
撹拌機、温度計、滴下ロート、減圧蒸留装置を備えた4つ口フラスコにビニルトリイソプロペノキシシラン119g(0.53mol)、0.5質量%カールステッド触媒(白金オレフィン化合物錯体)トルエン溶液を0.3g仕込み、60℃に加温した。滴下ロートよりフェニルジイソプロペノキシシラン110g(0.5mol)を温度が60~80℃の間となるよう調整しながら滴下した。次に80℃で4時間熟成したのち、180℃、300Paの条件で蒸留精製し、下記構造式(7)で示される硬化剤3を得た(収量150g、収率66%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ6.21(-Si-C5 5 ,m,5H),4.42(-C(CH3)=C 2 ,m,10H),1.95(-C 3 ,s,15H),1.06(-Si-C 2 2 -Si-,t,4H)
【化13】
【0048】
[合成例4]
撹拌機、温度計、滴下ロート、減圧蒸留装置を備えた4つ口フラスコにビニルトリイソプロペノキシシラン119g(0.53mol)、0.5質量%カールステッド触媒(白金オレフィン化合物錯体)トルエン溶液を0.3g仕込み、60℃に加温した。滴下ロートより1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン34.8g(0.26mol)を温度が60~80℃の間となるよう調整しながら滴下した。次に80℃で4時間熟成したのち、150℃、300Paの条件で蒸留精製し、下記構造式(8)で示される硬化剤4を得た(収量138g、収率90%)。
1H-NMR(400MHz,CDCl3)δ4.31(-C(CH3)=C 2 ,m,12H),1.91(-C 3 ,s,18H),1.00(-Si-C 2 2 -Si-,t,8H),0.21(-Si-C 3 ,s,12H)
【化14】
【0049】
次に、上記合成物(硬化剤1~4)を用いて室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を調製した。以下にその実施例、参考例及び比較例を示す。なお、実施例、参考例及び比較例はすべて適切な混合機として、プラネタリミキサー((株)井上製作所製)を用いた。混合は、温度条件25℃で、成分が均質に混合されるまで所要時間行われた。また、特に記載のない限り、粘度などの物性値は、23℃での値を示した。粘度は、回転粘度計による測定値である。
【0050】
すべての実施例、参考例及び比較例において、単に分子量と記載される場合、数平均分子量を意味する。分子量の測定は、下記の方法で行った。テトラヒドロフランを展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィー分析において、東ソー(株)製のカラム:TSKgel Super H2500(1本)及びTSKgel Super HM-N(1本)、溶媒:テトラヒドロフラン、流量:0.6mL/min、検出器:RI(40℃)、カラム温度40℃、注入量50μL、サンプル濃度0.3質量%の条件にて測定した標準ポリスチレン換算での数平均分子量を示す。
【0051】
[実施例1]
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基(ケイ素原子に結合した水酸基)で封鎖されたジメチルポリシロキサン(数平均重合度:約620)100質量部に、(B-1)表面が脂肪酸にて処理された重質炭酸カルシウム(商品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)100質量部と、(B-2)粉状カーボンブラック(デンカブラックLi-100、デンカ(株)製)10質量部を加えて混合した後、(C-1)硬化剤1を6質量部及び(E)テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシランを0.5質量部加え、減圧下で混合した。最後に(D)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン1質量部を加え、全体が均一になるまで混合し、組成物1を得た。
【0052】
参考例1
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(数平均重合度:約620)100質量部に、(B-1)表面が脂肪酸にて処理された重質炭酸カルシウム(商品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)100質量部と、(B-2)粉状カーボンブラック(デンカブラックLi-100、デンカ(株)製)10質量部を加えて混合した後、(C-2)硬化剤2を6質量部及び(E)テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン0.5質量部を加え、減圧下で混合した。最後に(D)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン1質量部を加え、全体が均一になるまで混合し、組成物2を得た。
【0053】
参考例2]
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(数平均重合度:約620)100質量部に、(B-1)表面が脂肪酸にて処理された重質炭酸カルシウム(商品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)100質量部と、(B-2)粉状カーボンブラック(デンカブラックLi-100、デンカ(株)製)10質量部を加えて混合した後、(C-3)硬化剤3を6質量部及び(E)テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン0.5質量部を加え、減圧下で混合した。最後に(D)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン1質量部を加え、全体が均一になるまで混合し、組成物3を得た。
【0054】
参考例3]
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(数平均重合度:約620)100質量部に、(B-1)表面が脂肪酸にて処理された重質炭酸カルシウム(商品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)100質量部と、(B-2)粉状カーボンブラック(デンカブラックLi-100、デンカ(株)製)10質量部を加えて混合した後、(C-4)硬化剤4を8質量部及び(E)テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン0.5質量部を加え、減圧下で混合した。最後に(D)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン1質量部を加え、全体が均一になるまで混合し、組成物4を得た。
【0055】
[参考例
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(数平均重合度:約620)100質量部に、(B-1)表面が脂肪酸にて処理された重質炭酸カルシウム(商品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)100質量部と、(B-2)粉状カーボンブラック(デンカブラックLi-100、デンカ(株)製)10質量部を加えて混合した後、(C-2)硬化剤2を4質量部、(汎用硬化剤)ビニルトリイソプロペノキシシラン4質量部及び(E)テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン0.5質量部を加え、減圧下で混合した。最後に(D)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン1質量部を加え、全体が均一になるまで混合し、組成物5を得た。
【0056】
[比較例1]
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(数平均重合度:約620)100質量部に、(B-1)表面が脂肪酸にて処理された重質炭酸カルシウム(商品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)100質量部と、(B-2)粉状カーボンブラック(デンカブラックLi-100、デンカ(株)製)10質量部を加えて混合した後、(汎用硬化剤)ビニルトリイソプロペノキシシランを6質量部及び(E)テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン0.5質量部を加え、減圧下で混合した。最後に(D)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン1質量部を加え、全体が均一になるまで混合し、組成物6を得た。
【0057】
[比較例2]
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(数平均重合度:約620)100質量部と、SiO4/2単位及びMe3SiO1/2単位からなり、SiO4/2単位に対するMe3SiO1/2単位のモル比が0.71であり、分子量が約5,400で、かつ、シラノール基含有量が0.096mol/100gである三次元網状構造オルガノポリシロキサン樹脂の50質量%トルエン溶液20質量部を混合した後に、(B-1)表面が脂肪酸にて処理された重質炭酸カルシウム(商品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)100質量部と、(B-2)粉状カーボンブラック(デンカブラックLi-100、デンカ(株)製)10質量部を加えて混合した後、(汎用硬化剤)ビニルトリイソプロペノキシシランを6質量部及び(E)テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン0.5質量部を加え、減圧下で混合した。最後に(D)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン1質量部を加え、全体が均一になるまで混合し、組成物7を得た。
【0058】
[比較例3]
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基で封鎖されたジメチルポリシロキサン(数平均重合度:約620)100質量部と、SiO4/2単位及びMe3SiO1/2単位からなり、SiO4/2単位に対するMe3SiO1/2単位のモル比が0.71であり、分子量が約5,400で、かつ、シラノール基含有量が0.096mol/100gである三次元網状構造オルガノポリシロキサン樹脂の50質量%ジメチルシリコーンオイル溶液20質量部を混合した後に、(B-1)表面が脂肪酸にて処理された重質炭酸カルシウム(商品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)100質量部と、(B-2)粉状カーボンブラック(デンカブラックLi-100、デンカ(株)製)10質量部を加えて混合した後、(汎用硬化剤)ビニルトリイソプロペノキシシランを6質量部及び(E)テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン0.5質量部を加え、減圧下で混合した。最後に(D)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン1質量部を加え、全体が均一になるまで混合し、組成物8を得た。
【0059】
[試験方法]
上記実施例1参考例1~4と、比較例1~3で調製された組成物1~8(室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物)を、それぞれ深さ2mmの型枠に流し込み、23℃、50%RHで7日間養生して2mm厚のゴムシート(室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物含有硬化物)を得た。
【0060】
JIS A 5758に規定される方法に準じてタックフリータイム(指触乾燥時間)を測定し、JIS K 6249に準じて2mm厚シートのゴム物性(硬さ、切断時伸び、引張り強度)を測定した。
【0061】
硬化速度試験は、内径が10mmのガラスシャーレに組成物1~8をそれぞれ充填し、23℃、50%RHで1日静置後に空気に触れた部分から硬化した厚さを測定して行った。
【0062】
初期シール性(耐圧性)の試験方法は、試験装置としてJIS K 6820に規定されている耐圧試験用フランジ圧力容器に類似する圧力容器を用い、耐圧試験を行った。該圧力容器は、内径58mm、外径80mm、厚さ10mmの上側フランジを有する上側容器と、上側フランジと同寸法の下側フランジを有する下側容器からなり、下側フランジのシール面のインナー側縁部には、幅3mm、深さ3mmの環状の切り欠きが円周に沿って設けられている。この下側のフランジのシール面をトルエンにより洗浄した。その後、上記組成物をシール面が十分に満たされるだけの塗布量で下側のシール面中央部にビード状に塗布した。塗布後直ちに、上側容器を、上側フランジと下側フランジのシール面とが当接するように、下側容器に載せ、上下フランジのシール面間の距離を規定するための(上記フランジの厚さ方向の)高さ20.50mmの鉄製スペーサーを設置して4本の締め付けボルトを組み付けた。当該スペーサーによりシール面間に0.5mmの間隔が生じているが、これはシール材に対する耐圧試験をより過酷にする、いわゆる促進試験とするためである。その後、23℃、50%RHで30分間硬化させた後、上側の加圧口から気体を挿入し、上記組成物の硬化物であるシール材が耐えうる気体圧を測定した。
【0063】
また、これらの組成物より、幅25mm、長さ100mmのアルミニウムを試験片として、それぞれ同材の試験片同士を、組成物1~8を用いて、各試験片の接着面積2.5mm2、接着厚さ1mmで接着したせん断接着試験体を作製し、23℃、50%RHで7日間養生した。これらの試験体を用いてアルミニウムに対するせん断接着力と凝集破壊率をJIS K 6249に規定する方法に準じて測定し、凝集破壊率を比較した。
【0064】
また、耐LLC性能を確認するため、得られた組成物1~8の硬化物のシリコーンゴムシート及びせん断接着試験体をロングライフクーラントの水道水50質量%溶液[商品名:トヨタスーパーロングライフクーラント]に浸漬し、耐圧容器を用いて、120℃にて240時間経過させ、シートと試験体における硬化物を劣化させて、その後製造初期と同様の試験を行うことで、ゴム物性(硬さ、切断時伸び、引張り強度)、せん断接着力と凝集破壊率を測定し、耐LLC性能の確認試験を行った。
【0065】
さらに、耐熱性能を確認するため、得られた組成物1~8の硬化物のシリコーンゴムシート及びせん断接着試験体を120℃にて1,000時間加熱し、シートと試験体との硬化物を劣化させて、その後製造初期と同様の試験を行うことで、ゴム物性(硬さ、切断時伸び、引張り強度)、せん断接着力と凝集破壊率を測定し、耐熱性能の確認試験を行った。
また、得られた組成物1~8について、VOC残存量としてトルエン含有量を測定した。
ここで、トルエン含有量は、ヘッドスペースガスクロマトグラフ装置(アジレントテクノロジー社製Aglient 7697A)により、カラム;HP-5MS(長さ:30m、内径:0.25mm、膜厚:0.25μm)、キャリアガス;He(1.0mL/min)、カラム温度;50℃-10℃/min-280℃、加熱条件;100℃×20分の条件で測定した。
【0066】
これらの結果を以下の表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
実施例1参考例1~4では良好な耐LLC性能、耐熱性能、接着性、速硬化性(初期シール性)を示した。一方、比較例1では耐LLC性能を向上させる成分を含まないことから、耐LLC試験後にゴム物性、接着性が大幅に低下してしまった。また、比較例2、3においてはシリコーンレジン成分の添加により耐LLC性が向上しているが、本発明の実施例及び参考例ほどは向上せず、硬化性の低下も確認された。さらに、レジン成分の残存シラノール基の縮合反応により、耐LLC試験、耐熱試験後の伸び率が低下する結果となった。また、比較例2においては、有機溶剤(トルエン)に溶解させたシリコーンレジンを使用したため、組成物中に劇物であるトルエンが残存していることがわかった。

【0069】
以上の結果より、本発明による室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は良好な耐LLC性能、耐熱性能、接着性、速硬化性(初期シール性)を示し、自動車LLCシール用途に有効であることがわかった。