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  • 特許-複合粒子、その製造方法およびその用途 図1
  • 特許-複合粒子、その製造方法およびその用途 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】複合粒子、その製造方法およびその用途
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20240625BHJP
   C01B 32/00 20170101ALI20240625BHJP
   C01B 33/029 20060101ALI20240625BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240625BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240625BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
C01B32/00
C01B33/029
H01M4/36 A
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M4/587
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022526680
(86)(22)【出願日】2021-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2021020500
(87)【国際公開番号】W WO2021241751
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2020093710
(32)【優先日】2020-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐司
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩文
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-534720(JP,A)
【文献】国際公開第2019/031597(WO,A1)
【文献】特開2018-163776(JP,A)
【文献】特開2005-025991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
H01M 4/36
H01M 4/587
C01B 33/029
C01B 32/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料およびシリコンを含むSi-C複合粒子の表面に、炭素質層が存在する炭素被覆Si-C複合粒子であって、
前記Si-C複合粒子の表面の前記炭素質層による被覆率(炭素被覆率)が70%以上であり、
BET比表面積が200m2/g以下であり、
前記炭素被覆Si-C複合粒子のラマンスペクトルにおいて、
R値(ID/IG)が0.30以上1.10以下であり、
Siに起因するピークが450~495cm-1に存在し、そのピークの強度をISiとすると、
Si/IGが0.15以下であり、
前記炭素被覆Si-C複合粒子のCu-Kα線を用いた粉末XRD測定によるXRDパターンにおいて、
Si111面のピークの半値幅が3.00deg.以上、
(SiC111面のピーク強度)/(Si111面のピーク強度)が0.01以下
である、炭素被覆Si-C複合粒子。
【請求項2】
Heピクノメーターによる真密度が2.00~2.20g/cm3である、請求項1に記載の炭素被覆Si-C複合粒子。
【請求項3】
体積基準の累積粒度分布における50%粒子径DV50が2.0~30.0μmである、請求項1または2に記載の炭素被覆Si-C複合粒子。
【請求項4】
シリコンの含有率が20~70質量%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭素被覆Si-C複合粒子。
【請求項5】
酸素含有率が10.0質量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の炭素被覆Si-C複合粒子。
【請求項6】
酸素含有率が4.0質量%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の炭素被覆Si-C複合粒子。
【請求項7】
前記炭素質層の平均厚みが5~100nmである、請求項1~6のいずれか1項に記載の炭素被覆Si-C複合粒子。
【請求項8】
前記R値(ID/IG)が0.30以上1.00未満である、請求項1~7のいずれか1項に記載の炭素被覆Si-C複合粒子。
【請求項9】
BET比表面積が6.0m2/g以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の炭素被覆Si-C複合粒子。
【請求項10】
BET比表面積が5.0~200.0m2/gである、請求項1~8のいずれか1項に記載の炭素被覆Si-C複合粒子。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の炭素被覆Si-C複合粒子の表面の少なくとも一部に、
黒鉛とカーボンブラックとから選択される1種以上からなる無機粒子と、ポリマーとを含み、ポリマー含有量が0.1~10.0質量%であるポリマーコート層を有する、ポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子。
【請求項12】
多孔質炭素にシリコン含有ガスを作用させて、多孔質炭素の細孔内および表面にシリコンを堆積させ、Si-C複合粒子を得る工程(A)、および
アセチレンおよびエチレンから選択される少なくとも1種を炭素源とした、600~750℃での化学気相成長(CVD)法により、前記Si-C複合粒子の表面に炭素質層を形成する工程(B)
を有し、請求項1~10のいずれか1項に記載の炭素被覆Si-C複合粒子を製造する、炭素被覆Si-C複合粒子の製造方法。
【請求項13】
前記工程(A)と、前記工程(B)とを、連続して行う、請求項12に記載の炭素被覆Si-C複合粒子の製造方法。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか1項に記載の炭素被覆Si-C複合粒子を含む、負極合剤層。
【請求項15】
請求項11に記載のポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子を含む、負極合剤層。
【請求項16】
請求項14または15に記載の負極合剤層を含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合粒子、その製造方法、およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやタブレットPCなどのIT機器、掃除機、電動工具、電気自転車、ドローン、自動車に使用される二次電池には、高容量および高出力を兼ね備えた負極活物質が必要とされる。負極活物質として、現在使用されている黒鉛(理論比容量:372mAh/g)よりも高い理論比容量を有するシリコン(理論比容量:4200mAh/g)が注目されている。
【0003】
しかし、シリコン(Si)は電気化学的なリチウム挿入・脱離に伴って、最大で約3~4倍まで体積が膨張・収縮する。これによりシリコン粒子が自壊したり、電極から剥離したりするため、シリコンを用いたリチウムイオン二次電池はサイクル特性が著しく低いことが知られている。このため、シリコンを単に黒鉛から置き換えて使うのではなく、負極材全体として膨張・収縮の程度を低減させた構造にして用いることが、現在盛んに研究されている。中でも炭素質材料との複合化が多く試みられている。
【0004】
高容量かつ長寿命な負極材としては、例えば特許文献1には、高温下で多孔質炭素粒子とシランガスとを接触させることによって、多孔質炭素の細孔内にケイ素を生成させる方法によって得られた、シリコン-カーボン複合材料(Si-C複合材料)が開示されている。特許文献1には、前記Si-C複合材料を、さらに化学気相成長(CVD)法により、炭素質層で被覆した材料についても開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2018-534720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された、Si-C複合材料に炭素質層を被覆した材料を負極活物質に用いた場合、本発明者らの検討によると低温でSi-C複合材料を炭素質層で被覆した場合には、Si-C複合材料の炭素被覆率が低く表面Siの露出が抑制されず、経時でSi-C複合材料が酸化してしまい初期効率が低下した、また高温でSi-C複合材料を炭素質層で被覆した場合には、高温側では炭化ケイ素(Si-C)生成に伴いリチウムイオン二次電池のSi利用率は低下してしまった。
【0007】
本発明では、リチウムイオン二次電池の高いSi利用率の達成と経時酸化による初回クーロン効率の劣化の抑制を両立することが可能な炭素被覆Si-C複合粒子を提供することを課題とする。
【0008】
特許文献1ではカーボンコートに関する炭素質の議論はされていない。特許文献1において、低温側については実験例についての記載はあるものの効果については記載がなく不明である。良質な炭素質層を形成するためには、一般的には高温で炭素CVD法を行う必要がある。
【0009】
一方、炭素とシリコンが接触している状態で高温にさらすと、炭化ケイ素(SiC)が生成すると考えられる。炭化ケイ素にはリチウムの挿入・脱離反応が起こらないため、負極活物質中で炭化ケイ素の割合が増えると、負極活物質の比容量の低下を招く。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、SiCの生成を抑え、良質な炭素質層を得るために、炭素CVD法を行う際の温度、および炭素源について検討を行った。その結果、炭素質層の品質が良好であるために炭素被覆Si-C複合粒子を2か月間保管した後もリチウムイオン二次電池の初回クーロン効率が高く、またSiCが生成していないために、同電池のSi利用率が高くなる炭素CVD法の条件を見つけ、新たな炭素被覆Si-C複合粒子を見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は例えば以下の構成からなる。
〔1〕
炭素材料およびシリコンを含むSi-C複合粒子の表面に、炭素質層が存在する炭素被覆Si-C複合粒子であって、
前記Si-C複合粒子の表面の前記炭素質層による被覆率(炭素被覆率)が70%以上であり、
BET比表面積が200m2/g以下であり、
前記炭素被覆Si-C複合粒子のラマンスペクトルにおいて、
R値(ID/IG)が0.30以上1.10以下であり、
Siに起因するピークが450~495cm-1に存在し、そのピークの強度をISiとすると、
Si/IGが0.15以下であり、
前記炭素被覆Si-C複合粒子のCu-Kα線を用いた粉末XRD測定によるXRDパターンにおいて、
Si111面のピークの半値幅が3.00deg.以上、
(SiC111面のピーク強度)/(Si111面のピーク強度)が0.01以下
である、炭素被覆Si-C複合粒子。
〔2〕
Heピクノメーターによる真密度が2.00~2.20g/cm3である、〔1〕に記載の炭素被覆Si-C複合粒子。
〔3〕
体積基準の累積粒度分布における50%粒子径DV50が2.0~30.0μmである、〔1〕または〔2〕に記載の炭素被覆Si-C複合粒子。
〔4〕
シリコンの含有率が20~70質量%である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の炭素被覆Si-C複合粒子。
〔5〕
酸素含有率が10.0質量%以下である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の炭素被覆Si-C複合粒子。
〔6〕
酸素含有率が4.0質量%以下である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の炭素被覆Si-C複合粒子。
〔7〕
前記炭素質層の平均厚みが5~100nmである、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の炭素被覆Si-C複合粒子。
〔8〕
前記R値(ID/IG)が0.30以上1.00未満である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の炭素被覆Si-C複合粒子。
〔9〕
BET比表面積が6.0m2/g以下である、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の炭素被覆Si-C複合粒子。
〔10〕
BET比表面積が5.0~200.0m2/gである、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の炭素被覆Si-C複合粒子。
〔11〕
〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の炭素被覆Si-C複合粒子の表面の少なくとも一部全部に、
黒鉛とカーボンブラックとから選択される1種以上からなる無機粒子と、ポリマーとを含み、ポリマー含有量が0.1~10.0質量%であるポリマーコート層を有する、ポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子。
〔12〕
多孔質炭素にシリコン含有ガスを作用させて、多孔質炭素の細孔内および表面にシリコンを堆積させ、Si-C複合粒子を得る工程(A)、および
アセチレンおよびエチレンから選択される少なくとも1種を炭素源とした、600~750℃での化学気相成長(CVD)法により、前記Si-C複合粒子の表面に炭素質層を形成する工程(B)
を有する、炭素被覆Si-C複合粒子の製造方法。
〔13〕
前記工程(A)と、前記工程(B)とを、連続して行う、〔12〕に記載の炭素被覆Si-C複合粒子の製造方法。
〔14〕
〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の炭素被覆Si-C複合粒子を製造する、〔12〕または〔13〕に記載の炭素被覆Si-C複合粒子の製造方法。
〔15〕
〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の炭素被覆Si-C複合粒子を含む、負極合剤層。
〔16〕
〔11〕に記載のポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子を含む、負極合剤層。
〔17〕
〔15〕または〔16〕に記載の負極合剤層を含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明の炭素被覆Si-C複合粒子によれば、高いSi利用率を持ち、2か月間空気中で保管した後も高い初回クーロン効率を保てるリチウムイオン二次電池を提供できる。また、Si-C複合粒子が炭素で被覆されているため、シリコンの酸化を防止できるため、耐酸化性に優れたリチウムイオン二次電池用の負極材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)実施例1の炭素被覆Si-C複合粒子のラマンスペクトルと、(b)比較例2の炭素被覆を行っていないSi-C複合粒子のラマンスペクトルとを示す図である。
図2】(a)実施例1の炭素被覆Si-C複合粒子のXRDパターンと、(b)実施例4の炭素被覆Si-C複合粒子のXRDパターンと、(c)比較例3の炭素被覆Si-C複合粒子のXRDパターンを示す図である。
図3】実施例1の炭素被覆Si-C複合粒子の断面SEM写真である。
図4】実施例1の炭素被覆Si-C複合粒子の断面SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明について具体的に説明する。なお、本発明において「ピーク強度」は「ピークの高さ」を意味する。
[1]炭素被覆Si-C複合粒子
本発明に係る炭素被覆Si-C複合粒子は、炭素材料およびシリコンを含むSi-C複合粒子の表面の少なくとも一部に、炭素質層が存在する。
【0015】
Si-C複合粒子は、炭素材料およびシリコンを含む複合粒子であって、通常は炭素材料の表面および細孔内に、シリコン(Si)が析出した複合粒子である。Si-C複合粒子は、例えばシラン(SiH4)等のケイ素源を用いた化学気相成長(CVD)法により、多孔質炭素に通常はアモルファス状のSiを析出させることにより得ることができる。
【0016】
本発明に係る炭素被覆Si-C複合粒子は、前記Si-C複合粒子の表面の少なくとも一部を炭素質層で覆った構造を有している。前記炭素被覆Si-C複合粒子は、例えば後述の炭素源を用いた化学気相成長(CVD)法(C-CVD法)により、Si-C複合粒子から得ることができる。本発明に係る炭素被覆Si-C複合粒子は、実質的に空隙(細孔)部を有さない態様であってもよく、また、空隙(細孔)部を有する態様であってもよい。ここで、実質的に空隙(細孔)部を有さない態様としては、Si-C複合粒子の細孔が炭素源により実質的にすべて充填された態様等が挙げられる。また空隙(細孔)部を有する態様としては、Si-C複合粒子の細孔内の表面等に、C-CVD法等により炭素被覆層が形成されていても、細孔の全容積が炭素で充填されてはいない態様、あるいは、炭素による被覆がなされていない細孔を有する態様等が挙げられる。本発明に係る炭素被覆Si-C複合粒子は、いずれの場合においても、Si-C複合粒子が炭素で被覆されていることにより、シリコンの酸化が抑制され、負極材等の用途に好適である。
【0017】
前記炭素被覆Si-C複合粒子は、ラマンスペクトルによるDバンドの強度(1360cm-1付近のピーク強度)IDとGバンドの強度(1600cm-1付近のピーク強度)IGの比であるR値(ID/IG)が、0.30以上1.10以下である。R値が0.30以上であると、反応抵抗が充分に低いので、電池のレート特性の向上につながる。一方、R値が1.10以下であることは、炭素質層に欠陥が少ないことを意味する。R値が1.10以下であることにより、副反応が低減されるため、クーロン効率が向上する。同様の観点からR値は、0.50以上であることが好ましく、0.70以上であることがより好ましい。
【0018】
また本発明に係る炭素被覆Si-C複合粒子の一態様において、R値は、1.00未満であることが好ましく、0.98以下であることがより好ましく、0.95以下であることがさらに好ましい。特に炭素被覆Si-C複合粒子が、実質的に空隙(細孔)部を有さない態様である場合においては、このようなR値を満たすことが好ましい。
【0019】
前記炭素被覆Si-C複合粒子は、ラマンスペクトルにおいてSi(シリコン)に起因するピークが450~495cm-1に存在する。なお、シリコンに起因する450~495cm-1に現れるピークの強度を、ISiと記す。通常、結晶性のSi(シリコン)は520cm-1付近にピークが現れるが、アモルファスのシリコンはそれよりも低いラマンシフトにピークが現れる。すなわち、前記炭素被覆Si-C複合粒子はアモルファス状のシリコンを有する。シリコンのアモルファス性が高いと、比較的充放電時の膨張・収縮が等方的に行われるので、サイクル特性を向上させることができる。波数が上がってくるとアモルファス性が低くなり、結晶性が上がってくるためサイクル特性が悪くなる。
【0020】
前記炭素被覆Si-C複合粒子は、ラマンスペクトルによる前記シリコンに起因するピークの強度ISiと前記Gバンドの強度IGの比、ISi/IGが0.15以下である。ラマンスペクトルにおいてシリコンのピークが現れていることは、炭素被覆Si-C複合粒子の表面近傍にシリコンが堆積していることを示している。この値が前記範囲内であれば、多孔質炭素の表面に析出しているシリコンが少ないことや、炭素被覆Si-C複合粒子表面近くの炭素の細孔内にシリコン量が少ないことを示す。このことは、電解液に直接接触するシリコンの割合が少なくなる点で、サイクル特性の向上につながる。ISi/IGは、0.12以下であることが好ましく、0.10以下であることがより好ましい。また、ISi/IGの下限としては特に制限はなく、通常は0であり、好ましくは0.001である。
【0021】
前記炭素被覆Si-C複合粒子は、Cu-Kα線を用いた粉末XRD測定によるXRDパターンにおいて、Siの111面のピークの半値幅が3.00deg.以上である。Siの111面のピークの半値幅が3.00deg.以上であることにより、結晶子の大きさが小さいことになり、充放電に伴うシリコン領域の破壊の抑制につながる。同様の観点から、半値幅は、3.10deg.以上であることが好ましく、3.20deg.以上であることがより好ましく、4.50deg.以上であることがさらに好ましい。また、半値幅は、10.00deg.以下であることが好ましく、7.00deg.以下であることがより好ましく、5.85deg.以下であることがより好ましい。
【0022】
前記炭素被覆Si-C複合粒子は、Cu-Kα線を用いた粉末XRD測定によるXRDパターンにおいて、(SiC111面のピーク強度)/(Si111面のピーク強度)が0.01以下である。上記の比が0.01以下であることにより、炭素被覆Si-C複合粒子中にはSiC(炭化ケイ素)が含まれていない、あるいはSiCの含有量が極めて低いことになるため、シリコンの電池活物質としての利用率が向上する。なお、前記(SiC111面のピーク強度)/(Si111面のピーク強度)を、ISiC111/ISi111とも表記する。ISiC111/ISi111の下限としては、0である。すなわち、SiCのピーク強度が観察されないことが好ましい。なお、SiCのピーク強度とは、SiCに由来する2θで35°付近に現れるピークを意味する。またSiのピーク強度とはSiに由来する2θで28°付近に現れるピークを意味する。
【0023】
前記炭素被覆Si-C複合粒子は、Heピクノメーターによる真密度が、好ましくは2.00~2.20g/cm3、より好ましくは2.03~2.18g/cm3である。真密度が前記範囲にある場合には、炭素被覆Si-C複合粒子をリチウムイオン電池の負極合剤層等の負極材料に用いた場合に、大電流で充電を行える容量が急激に少なくなるといった問題を抑制することができるため好ましい。
【0024】
真密度は、気相置換法により測定することができる。気相置換法は、一定温度に保たれた環境内で、一定の容積中に占めるヘリウムガスの体積から真密度を算出するものである。気相置換法の装置としては、例えばmicromeritics社製のAccuPycII 1340 Gas Pycnometerを使用することができる。
【0025】
前記炭素被覆Si-C複合粒子は、体積基準の累積粒度分布における50%粒子径DV50が好ましくは2.0~30.0μmである。DV50はレーザー回折法によって測定することができる。前記複合粒子のDV50が2.0μm以上であれば、炭素被覆Si-C複合粒子の粉体がハンドリング性に優れ、塗工に適した粘度や密度のスラリーを調製しやすく、また電極とした際の密度が上げやすい。この観点から、DV50は3.0μm以上がより好ましく、4.0μm以上がさらに好ましい。
【0026】
前記炭素被覆Si-C複合粒子のDV50は30.0μm以下であれば、1つ1つの粒子におけるリチウムの拡散長が短くなるためリチウムイオン電池のレート特性が優れるほか、スラリーとして集電体に塗工する際に筋引きや異常な凹凸を発生しない。この観点から、DV50は25.0μm以下がより好ましく、20.0μm以下がさらに好ましい。
【0027】
前記炭素被覆Si-C複合粒子は、シリコン(Si元素)の含有率が20~70質量%であることが好ましい。シリコンの含有率が20質量%以上であることにより、理論的には840mAh/g程度以上の、黒鉛の理論比容量を大きく超える比容量を得ることができる。この観点から、前記含有率は30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。
【0028】
前記炭素被覆Si-C複合粒子は、前記シリコンの含有率が70質量%以下であることにより、担体となっている炭素材料、好ましくは多孔質炭素由来の炭素材料によってその膨張・収縮による体積変化を吸収させることができる。この観点から、前記含有率は65質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。
【0029】
前記炭素被覆Si-C複合粒子におけるシリコンの含有率は、前記複合粒子を、ファンダメンタル・パラメーター法(FP法)等を用いて蛍光X線分析することによって求めることができる。また炭素被覆Si-C複合粒子を燃焼して炭素分を除去し、燃え残り灰分を酸やアルカリに完全に溶解させたのち、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-AES)等によって定量することもできる。
【0030】
前記炭素被覆Si-C複合粒子は、酸素含有率が10.0質量%以下であることが好ましい。前記複合粒子の酸素含有率が10.0質量%以下であれば、リチウムイオン二次電池用の負極材の不可逆容量を減らすことができる。酸素含有率は、同様の観点から、9.0質量%以下であることが好ましく、8.0質量%以下であることがより好ましい。酸素含有率の下限としては、特に制限はないが、好ましくは0.0質量%、より好ましくは0.5質量%である。前記炭素被覆Si-C複合粒子は、Siが炭素で被覆されているため、経時的に酸化されづらく、酸素含有率を低く維持することができる。
【0031】
また本発明に係る炭素被覆Si-C複合粒子の一態様において、酸素含有率は、4.0質量%以下であることも好ましく、さらに3.8質量%以下であることも好ましい。特に、炭素被覆Si-C複合粒子が、空隙(細孔)部を有する態様である場合においては、このような酸素含有率を満たすことが好ましい。本発明において、炭素被覆Si-C複合粒子の酸素含有率は、特別な記載の無い限り、製造後2日以内あるいは非酸化雰囲気で保管したものの酸素含有率のことをいう。工程の都合上等で製造後2日以内に測定できない場合にはアルゴン等の不活性雰囲気下で保管しておき、後日に測定しても、その値は製造後2日以内と同等として良い。これは不活性雰囲気下で保管した場合は、酸化が進まないためである。
【0032】
前記炭素被覆Si-C複合粒子中の酸素含有率は、例えば酸素窒素同時測定装置によって測定することができる。
前記炭素被覆Si-C複合粒子は、前記Si-C複合粒子の表面の前記炭素質層による被覆率(炭素被覆率)が70%以上である。前記Si-C複合粒子の表面の大半が炭素質で覆われていることにより、シリコンの酸化を防止できるため、耐酸化性に優れたリチウムイオン二次電池用の負極材として、前記炭素被覆Si-C複合粒子を用いることができる。前記炭素被覆率は、80%以上であることが好ましい。炭素被覆率の上限としては100%である。
【0033】
前記炭素被覆率は、前記炭素被覆Si-C複合粒子の断面SEM写真あるいは断面TEM写真から測定することができる。具体的には、たとえば、断面SEM写真あるいは断面TEM写真から、Si-C複合粒子の粒子外周長さ、および、Si-C複合粒子を覆う炭素質層の長さを算出し、両者の割合から算出することが可能である。また、炭素被覆Si-C複合粒子の表面のうち、内部よりも炭素濃度の高い部位の割合を、炭素被覆率として求めることもできる。たとえば、粒子の断面SEM-EDSにおいて、断面外周を等間隔に10分割した外周上の10点を粒子表面の測定点として、中心点と粒子表面の測定点との炭素濃度を測定し、粒子表面の測定点のうち中心点よりも炭素濃度が高い点が7点以上存在することにより、炭素被覆率が70%以上であることを確認することができる。このような分析は断面SEMに限らず断面TEMからも行うことができ、炭素被覆Si-C複合粒子が空隙(細孔)部を有するなど、構造が微細で断面SEM写真からの長さ測定が困難な場合に有効である。
【0034】
本発明に係る炭素被覆Si-C複合粒子の一態様において、前記炭素質層の平均厚みは5~100nmである。特に、炭素被覆Si-C複合粒子が、実質的に空隙(細孔)部を有さない態様である場合、および、炭素被覆Si-C複合粒子の炭素被覆率が70%以上である場合には、このような平均厚みを有することが好ましい。
【0035】
炭素質層の平均厚みが5nm以上であると、上記のSi-炭素複合粒子の完全な被覆が可能となるため、初回クーロン効率の高い電池を得ることができる。一方、炭素質層の平均厚みが100nm以下であると、リチウムの拡散距離が小さいため、レート特性の良い電池を得ることができる。同様の観点から、炭素質層の平均厚みは7nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましい、さらに好ましくは15nm以上である。また、炭素質層の平均厚みは90nm以下であることが好ましく、80nm以下であることがより好ましい。
【0036】
前記炭素被覆Si-C複合粒子の炭素質層の平均厚みは、前記炭素被覆Si-C複合粒子の断面SEM写真から測定することができる。
本発明に係る炭素被覆Si-C複合粒子の一態様においては、前記炭素質層の平均厚みは5~100nmであり、かつ、前記Si-C複合粒子の表面の前記炭素質層による被覆率(炭素被覆率)が70%以上であることも好ましい。このような炭素被覆Si-C複合粒子は、充分な厚さの炭素質層を粒子表面の大部分に有することから、表面Siの露出が高度に抑制され、シリコン(Si)と外界との接触が特に少なく、経時酸化を抑制することができる。このためこのような炭素被覆Si-C複合粒子を負極活物質等に用いた場合には、初回クーロン効率の劣化を特に好適に抑制することができる。
【0037】
本発明に係る炭素被覆Si-C複合粒子は、BET比表面積が200m2/g以下である。炭素被覆Si-C複合粒子が、表面に充分な炭素質層を有する場合、BET比表面積は通常、200m2/g以下となる。
【0038】
本発明に係る炭素被覆Si-C複合粒子の一態様においては、BET比表面積が好ましくは6.0m2/g以下である。特に、炭素被覆Si-C複合粒子が、実質的に空隙(細孔)部を有さない態様である場合には、このようなBET比表面積を有することが好ましい。BET比表面積が6.0m2/g以下であれば、副反応である電解液の分解反応が起こりづらいため好ましい。この観点から、前記炭素被覆Si-C複合粒子のBET比表面積は5.5m2/g以下がより好ましく、5.0m2/g以下がさらに好ましい。BET比表面積を測定する際の吸着ガスは、窒素である。前記炭素被覆Si-C複合粒子のBET比表面積の下限としては、通常は0.5m2/gであり、好ましくは1.0m2/gである。
【0039】
また、本発明に係る炭素被覆Si-C複合粒子の一態様においては、BET比表面積が好ましくは5.0~200.0m2/gである。特に、炭素被覆Si-C複合粒子が、空隙(細孔)部を有する態様である場合においては、このようなBET比表面積を有することが好ましい。この場合の前記炭素被覆Si-C複合粒子のBET比表面積は、より好ましくは6.5m2/g以上、さらに好ましくは8m2/g以上であり、また、より好ましくは180.0m2/g以下、さらに好ましくは170.0m2/g以下である。本発明の一態様の炭素被覆Si-C複合粒子は、このようなBET比表面積を有し、空隙(細孔)部を有する態様であっても、細孔内部等の表面に炭素質層が存在することにより、シリコンの酸化が防止できる。また、表面に露出したSi量が少なく、Siが炭素質で被覆されていることにより、Siと電解液との直接接触による反応を抑制することができ、負極材等として好適に用いることができる。また、本発明に係る炭素被覆Si-C複合粒子が空隙(細孔)部を有する態様である場合においては、Si-C複合粒子の膨張を抑制することができる。
[2]ポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子
本発明に係る複合粒子は、前記[1]で述べた炭素被覆Si-C複合粒子の表面の少なくとも一部に、ポリマーコート層を有する、ポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子であってもよい。本発明に係るポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子は、炭素被覆Si-C複合粒子の表面の少なくとも一部に、ポリマーコート層を有する複合粒子、すなわち、炭素被覆Si-C複合粒子の炭素質層の上に、さらにポリマーコート層を有する複合粒子である。
【0040】
前記ポリマーコート層は、黒鉛とカーボンブラックとから選択される1種以上からなる無機粒子と、ポリマーとを含み、ポリマー含有量が0.1~10.0質量%である。
前記ポリマーコート層は、導電助剤として作用する無機粒子を含むことにより、複合粒子の表面に導電性の突起構造を付与することができる。このため、本発明のポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子を負極合剤層に用いると、複合粒子が膨張及び収縮しても、隣り合う負極材料同士の導通が図られ易くなる。また、負極材料全体の抵抗値の低減化も図ることができる。
【0041】
(無機粒子)
ポリマーコート層に含まれる無機粒子は、黒鉛とカーボンブラックとから選択される1種以上からなり、通常、導電性を有する粒子である。
【0042】
無機粒子の含有率は、サイクル特性を向上させる点から、ポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子中の1.0質量%~10.0質量%であることが好ましく、2.0質量%~9.0質量%であることがより好ましく、3.0質量%~8.0質量%であることがさらに好ましい。
【0043】
無機粒子の粒子径はポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子の1/2以下であることが好ましい。無機粒子が炭素被覆Si-C複合粒子の表面に存在しやすくなるためである。
【0044】
前記無機粒子の粒子径は、ポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)観察により測定することができる。
無機粒子としては、粒状黒鉛及びカーボンブラックよりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、サイクル特性向上の観点からは粒状黒鉛が好ましい。粒状黒鉛としては、人造黒鉛、天然黒鉛、MC(メソフェーズカーボン)等の粒子が挙げられる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック等が挙げられ、導電性の観点からはアセチレンブラックが好ましい。
【0045】
粒状黒鉛は、電池容量及び充放電効率がともに向上する点から、炭素被覆Si-C複合粒子の表面に存在する炭素よりも結晶性が高いことが好ましい。具体的には、粒状黒鉛は、学振法に基づいて測定して得られる平均面間隔(d002)の値が0.335nm~0.347nmであることが好ましく、0.335nm~0.345nmであることがより好ましく、0.335nm~0.340nmであることがさらに好ましく、0.335nm~0.337nmであることが特に好ましい。粒状黒鉛の平均面間隔を0.347nm以下とすると、粒状黒鉛の結晶性が高く、電池容量及び充放電効率がともに向上する傾向がある。一方、黒鉛結晶の理論値は0.335nmであることから、粒状黒鉛の平均面間隔がこの値に近いと、電池容量及び充放電効率がともに向上する傾向がある。
【0046】
粒状黒鉛の形状は特に制限されず、扁平状黒鉛であっても球状黒鉛であってもよい。サイクル特性向上の観点からは、扁平状黒鉛が好ましい。
本開示において扁平状黒鉛とは、平均アスペクト比が1ではない、すなわち短軸と長軸が存在する黒鉛を意味する。扁平状黒鉛としては、鱗状、鱗片状、塊状等の形状を有する黒鉛が挙げられる。
【0047】
無機粒子の平均アスペクト比は特に制限されないが、無機粒子間の導通の確保しやすさ及びサイクル特性向上の観点からは、平均アスペクト比が0.3以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましい。無機粒子の平均アスペクト比は、0.001以上であることが好ましく、0.01以上であることがより好ましい。
【0048】
無機粒子のアスペクト比は、SEMによる観察により測定される値である。具体的には、SEM画像において任意に選択した100個の無機粒子のそれぞれについて長軸方向の長さをA、短軸方向の長さ(扁平状黒鉛の場合は厚み方向の長さ)をBとしたときにB/Aとして計算される値である。平均アスペクト比は、100個の無機粒子のアスペクト比の算術平均値である。
【0049】
無機粒子は、一次粒子(単数粒子)であっても、複数の一次粒子から形成された二次粒子(造粒粒子)のいずれであってもよい。また、扁平状黒鉛は、多孔質状の黒鉛粒子であってもよい。
【0050】
(ポリマー)
ポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子は、炭素被覆Si-C複合粒子の表面の少なくとも一部に存在しているポリマーコート層を含み、該ポリマーコート層はポリマーを含む。
【0051】
ポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子中のポリマーの含有率は、0.1質量%以上である。0.1質量%以上であると、電池のサイクル耐久性を向上させることができる。この観点から、前記ポリマーの含有率は、0.2質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましい。
【0052】
また、ポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子中のポリマーの含有率は、10.0質量%以下である。10.0質量%以下であると、前記ポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子の導電性の低下が小さく、電池のレート特性を向上させることができる。この観点から、ポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子中のポリマーの含有率は7.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以下であることがより好ましい。
【0053】
ポリマーコート炭素被覆Si-C複合材料のポリマーの含有率は、例えば、充分に乾燥させたポリマーコート炭素被覆Si-C複合材料を、ポリマーが分解する温度以上であり、かつ炭素被覆Si-C複合粒子及び無機粒子が分解する温度よりも低い温度(例えば300℃)に加熱して、ポリマーが分解した後のポリマーコート炭素被覆Si-C複合材料の質量を測定することで確認することができる。具体的には、加熱前のポリマーコート炭素被覆Si-C複合材料の質量をAg、加熱後のポリマーコート炭素被覆Si-C複合材料の質量をBgとすると、(A-B)がポリマーの含有量である。したがって前記ポリマーの含有率は[(A-B)/A}×100で算出できる。
【0054】
上記ポリマーの含有率の測定は熱重量測定(TG:Thermogravimetry)を用いても実施できる。測定に必要なサンプル量が少なく、高精度に測定ができるので好ましい。
【0055】
ポリマーの種類は、特に制限されない。例えば、多糖、セルロース誘導体、動物性水溶性ポリマー、リグニンの誘導体及び水溶性合成ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0056】
多糖として具体的には、酢酸デンプン、リン酸デンプン、カルボキシメチルデンプン、ヒドロキシエチルデンプン等のヒドロキシアルキルデンプン類などのデンプンの誘導体、デキストリン、デキストリンの誘導体、シクロデキストリン、アルギン酸、アルギン酸の誘導体、アルギン酸ナトリウム、アガロース、カラギーナン、キシログルカン、グリコーゲン、タマリンドシードガム、プルラン、ペクチン等が挙げられる。
【0057】
セルロース誘導体としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
動物性水溶性ポリマーとして、カゼイン、ゼラチン等が挙げられる。
【0058】
水溶性合成ポリマーとしては、水溶性アクリルポリマー、水溶性エポキシポリマー、水溶性ポリエステル、水溶性ポリアミド、水溶性ポリエーテル等が挙げられ、より具体的には、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリビニルスルホン酸、ポリビニルスルホン酸塩、ポリ4-ビニルフェノール、ポリ4-ビニルフェノール塩、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアニリンスルホン酸、ポリアクリル酸アミド、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。ポリマーは金属塩、アルキレングリコールエステル等の状態で使用してもよい。
【0059】
ポリマーは、第一成分として多糖、セルロース誘導体、ゼラチン、カゼイン及び水溶性ポリエーテルからなる群より選ばれる1つ以上と、第二成分として単糖、二糖、オリゴ糖、アミノ酸、没食子(もっしょくし)酸、タンニン、サッカリン、サッカリンの塩及びブチンジオールからなる群より選ばれる1つ以上とを含むことが好ましい。本発明において多糖は単糖分子が10個以上結合した構造を有する化合物を意味し、オリゴ糖は単糖分子が3個~10個結合した構造を有する化合物を意味する。なお、本発明においては、これらの第二成分もポリマーとして扱う。
【0060】
多糖として具体的には、前述した多糖が挙げられる。
セルロース誘導体として具体的には、前述したセルロース誘導体が挙げられる。
水溶性ポリエーテルとして具体的には、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール類が挙げられる。
【0061】
単糖として具体的には、アラビノース、グルコース、マンノース、ガラクトース等を挙げることができる。
二糖として具体的には、スクロース、マルトース、ラクトース、セロビオース、トレハロース等を挙げることができる。
【0062】
オリゴ糖として具体的には、ラフィノース、スタキオース、マルトトリオース等を挙げることができる。
アミノ酸として具体的には、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、シスチン、メチオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、アルギニン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン、プロリン、オキシプロリン、グリシルグリシン等を挙げることができる。
【0063】
タンニンとして具体的には、茶カテキン、柿カテキン等を挙げることができる。
第一成分は多糖類の少なくとも1種を含むことが好ましく、デンプン、デキストリン及びプルランからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。第一成分は、ポリマーコート炭素被覆Si-C複合材料の表面の少なくとも一部を被覆するように存在することで、電池においてはポリマーコート炭素被覆Si-C複合材料と電解液との反応が抑制され、サイクル性能を向上させることができる。
【0064】
第二成分は二糖及び単糖からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、マルトース、ラクトース、トレハロース及びグルコースからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましい。第二成分は、第一成分中に取り込まれ、第一成分から形成される沈殿膜の水又は電解液への溶解性を抑制すると考えられる。第一成分と第二成分を併用することにより、炭素被覆Si-C複合材料の表面これらを強く付着させることができ、また、無機粒子の結着力も向上できる。そのため、電池のサイクル性能を向上させることができる。
【0065】
上記の観点から、ポリマーが第一成分と第二成分とを含む場合、その質量比(第一成分:第二成分)は1:1~25:1であることが好ましく、3:1~20:1であることがより好ましく、5:1~15:1であることがさらに好ましい。
【0066】
(製造方法)
ポリマーを炭素被覆Si-C複合粒子の表面の少なくとも一部に存在させる方法は特に制限されない。例えば、ポリマーを溶解又は分散させた液体に炭素被覆Si-C複合粒子を入れ、必要に応じて撹拌することにより、ポリマーを炭素被覆Si-C複合粒子に付着させることができる。その後、ポリマーが付着した炭素被覆Si-C複合粒子を液体から取り出し、必要に応じて乾燥することで、ポリマーが表面に付着した炭素被覆Si-C複合粒子を得ることができる。
【0067】
撹拌時の溶液あるいは分散液(以下、総称して溶液ともいう)の温度は特に制限されず、例えば5℃~95℃から選択することができる。溶液を加温する場合は、溶液に用いる溶媒または分散媒(以下、総称して溶媒ともいう)が留去することにより、溶液濃度が変化する可能性がある。それを避けるためには、閉鎖系の容器内で前記溶液を調製するか、溶媒を還流するようにする必要がある。均一にポリマーを炭素被覆Si-C複合粒子の表面の少なくとも一部に存在させる事ができれば、溶媒を留去しながら処理してもよい。ポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子の性能を損なわない限り、撹拌雰囲気は特に制限されない。
【0068】
乾燥時の温度は、ポリマーが分解して留去しない限り特に制限されず、例えば50℃~200℃から選択することができる。不活性雰囲気での乾燥や、真空下での乾燥を実施してもよい。
【0069】
溶液中のポリマーの含有率は特に制限されず、例えば0.1質量%~20質量%から選択することができる。
溶液に用いる溶媒は、ポリマー及びポリマーの前駆体を溶解、分散可能な溶媒であれば特に制限されない。例えば、水、アセトニトリルやメタノール、エタノール、2-プロパノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸n-ブチルなどのエステル類など溶媒として使用されるものが挙げられ、これらのうちの2種以上を混合して使用してもよい。また、必要に応じて、酸や塩基を加えて溶液のpHを調整しても構わない。酸や塩基は公知の物を選択して使用することができる。
【0070】
[3]炭素被覆Si-C複合粒子の製造方法
本発明に係る炭素被覆Si-C複合粒子の製造方法は下記工程(A)および工程(B)を有する。本発明の炭素被覆Si-C複合粒子の製造方法によって、前述の本発明の炭素被覆Si-C複合粒子、すなわち、前記[1]で述べた炭素被覆Si-C複合粒子を得ることができる。
【0071】
工程(A):多孔質炭素にシリコン含有ガスを作用させて、多孔質炭素の細孔内および表面にシリコンを堆積させ、Si-C複合粒子を得る工程。
工程(B):アセチレンおよびエチレンから選択される少なくとも1種を炭素源とした、600~750℃での化学気相成長(CVD)法により、前記Si-C複合粒子の表面に炭素質層を形成する工程。
【0072】
前記炭素被覆Si-C複合粒子の製造方法により、本発明の炭素被覆Si-C複合粒子、すなわち、前記[1]で述べた炭素被覆Si-C複合粒子を得ることができる。
また、前記炭素被覆Si-C複合粒子の製造方法では、多孔質炭素の入手方法としては特に制限はない。例えば、下記多孔質炭素を準備する工程(α)によって、多孔質炭素を得ることができる。
【0073】
(工程(α))
多孔質炭素を準備する工程(α)は、多孔質炭素を得ることができればよく、特に制限はない。多孔質炭素としては、微細なシリコンをその細孔内部に析出させることができ、リチウムの挿入・脱離に伴い、中のシリコンが膨張・収縮しても、細孔の構造を保とうとする応力が働いたり、シリコンが占有していない空間が存在して、それがつぶれたりすることにより、負極材全体として膨張・収縮の程度を小さくできればよく、特に限定されない。多孔質炭素の具体的な例としては、活性炭や、樹脂や有機物を熱分解することにより得られる炭素、モレキュラーシービングカーボン、活性炭素繊維、気相成長炭素繊維の凝集体やCNT(カーボンナノチューブ)の凝集体、無機テンプレートカーボンが挙げられる。
【0074】
本明細書において多孔質炭素とは、BET比表面積が200m2/g以上の炭素質材料のことである。本発明に係る炭素被覆Si-C複合粒子の原料として用いられる多孔質炭素としては、好ましくはBET比表面積が800m2/g以上、より好ましくは1000m2/g以上の炭素質材料が好適である。本発明に係る炭素被覆Si-C複合粒子の原料として用いられる多孔質炭素のBET比表面積の上限値は特に限定されるものではないが、たとえば4000m2/g以下、好ましくは3800m2/g以下である。
【0075】
多孔質炭素の細孔分布を調べるには、例えばガス吸着法による吸脱着等温線を公知の方法で解析する。吸着ガスは特に限定されないが、通常は窒素ガス、二酸化炭素、アルゴンが用いられる。本発明では吸着ガスとして窒素を用いる。
【0076】
多孔質炭素は、例えば特定の細孔分布を持った市販されているものを使ってもよいが、例えば細孔分布の変化を上記の方法で調べながら、樹脂を熱分解する条件を調整して、所望の細孔分布を持つ多孔質炭素を製造してもよい。
【0077】
(工程(A))
工程(A)は、多孔質炭素にシリコン含有ガス、好ましくはシランガスを作用させて、多孔質炭素の細孔内および表面にシリコンを堆積させ、Si-C複合粒子を得る工程である。
【0078】
工程(A)では、例えば粒子状の多孔質炭素をCVD装置のチャンバー内に置き、加熱した状態で多孔質炭素にシリコン含有ガス(好ましくはシランガス)を作用させる。高温でシリコン含有ガスに多孔質炭素粒子を曝露することによって、前記多孔質炭素の表面および細孔内にシリコンを析出(堆積)させることができる。多孔質炭素の細孔の内部にシリコン含有ガスが入り込むことにより、細孔の内部の少なくとも一部にシリコンを析出させることができる。このための方法として、例えば特許文献1に示された装置や方法を用いることができる。
【0079】
(工程(B))
工程(B)は、アセチレンおよびエチレンから選択される少なくとも1種を炭素源とした、600~750℃での化学気相成長(CVD)法により、前記Si-C複合粒子の表面に炭素質層を形成する工程である。
【0080】
工程(B)では、例えば前記工程(A)で得られたSi-C複合粒子をCVD装置のチャンバー内に置き、加熱した状態でアセチレンおよびエチレンから選択される少なくとも1種を炭素源として導入し、アセチレンやエチレンの熱分解反応によって炭素を生成させ、Si-C複合粒子の表面に炭素を析出させることができる。アセチレンのみを炭素源として使用することがより好ましい。反応機としては、固定床、あるいは流動床を用いることができる。反応ガス以外に、キャリアガスとして、水素、窒素、アルゴン、ヘリウムを用いることができる。
【0081】
本発明では、前記炭素源を用いて、比較的低温で炭素のCVD(以後、C-CVDと呼ぶことがある)法を行うことにより、炭化ケイ素(SiC)の生成を抑えている。また、炭化ケイ素(SiC)の生成を抑えることが可能な温度の中で、比較的高温で炭素源を熱分解させることにより、良質の炭素質層を析出させることができる。その具体的な温度が600~750℃である。前記温度は、同様の理由から650~700℃であることがより好ましい。
【0082】
本発明の製造方法においては、前記工程(A)と前記工程(B)とを連続して実施することが好ましく、また、前記工程(A)で得たSi-C複合粒子を、不活性ガスで置換した後に、前記工程(B)に供することも好ましい。ここで不活性ガスとは、非酸化性ガスを意味し、水素等を含有してもよい。また不活性ガスでの置換では、加熱を伴ってもよい。
【0083】
前記工程(A)と前記工程(B)とを連続して実施するか、または、前記工程(A)で得たSi-C複合粒子を不活性ガスで置換した後に前記工程(B)に供すると、前記工程(A)で得たSi-C複合粒子を、酸化させずに、前記工程(B)に供することができるため好ましい。
【0084】
本発明において、『前記工程(A)と前記工程(B)とを連続して実施する』とは、前記工程(A)の後に、炉から取り出すことなく前記工程(B)を行う、という意味である。すなわち、上記のようなガス置換の工程を含む態様が含まれる。
【0085】
[4]負極合剤層
本発明に係る負極合剤層は、前記炭素被覆Si-C複合粒子を含む。負極合剤層に含まれる炭素被覆Si-C複合粒子は、前述の本発明の炭素被覆Si-C複合粒子、すなわち、前記[1]で述べた炭素被覆Si-C複合粒子である。また、負極合剤層は、炭素被覆Si-C複合粒子に代えて、前記[2]で述べたポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子を含んでもよい。
【0086】
負極合剤層において、前記炭素被覆Si-C複合粒子、あるいはポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子は、負極材として作用する。本発明の負極合剤層は、リチウムイオン二次電池用の負極合剤層として用いることができる。負極合剤層は一般に、負極材、バインダー、任意成分としての導電助剤とからなる。ここで、本発明において負極材とは、負極活物質および、負極活物質とその他の材料との複合化物を指す。
【0087】
負極合剤層の製造方法は例えば以下に示すような公知の方法を用いることができる。負極材、バインダー、任意成分としての導電助剤および、溶媒を用い、負極合剤層形成用のスラリーを調製する。スラリーを銅箔などの集電体に塗工し、乾燥させる。これをさらに真空乾燥させたのち、ロールプレスし、その後必要な形状および大きさに裁断し、あるいは打ち抜く。ロールプレスの際の圧力は通常は100~500MPaである。得られたものを負極シートと呼ぶことがある。負極シートは、プレスにより得られ、負極合剤層と集電体とからなる。電極密度(負極合剤層密度)は特に制限はないが、0.7g/cm3以上が好ましく、1.9g/cm3以下が好ましい。
【0088】
負極材として、本発明の炭素被覆Si-C複合粒子あるいはポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子を単体で使用してもよいが、他の負極材を一緒に用いてもよい。他の負極材としては、リチウムイオン二次電池の負極活物質として一般的に用いられる活物質を用いることができる。他の負極材を用いる場合には、通常は炭素被覆Si-C複合粒子あるいはポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子と、他の負極材とを混合して用いる。
【0089】
他の負極材としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、チタン酸リチウム(Li4Ti512)、シリコン、スズなどの合金系活物質およびその複合材料等が挙げられる。これらの負極材は通常粒子状のものが用いられる。炭素被覆Si-C複合粒子以外の負極材としては、一種を用いても、二種以上を用いてもよい。その中でも特に黒鉛(黒鉛粒子)やハードカーボンが好ましく用いられる。本発明の負極合剤層は、炭素被覆Si-C複合粒子および黒鉛粒子を含む態様が、好適態様の一つである。
【0090】
負極材が、炭素被覆Si-C複合粒子と、他の負極材とから形成されている場合には、負極材100質量%あたり、炭素被覆Si-C複合粒子を好ましくは2~99質量%、より好ましくは4~70質量%含む。
【0091】
上記は、炭素被覆Si-C複合粒子の一部またはすべてをポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子に置き換えた場合でも同様である。
バインダーとしては、リチウムイオン二次電池の負極合剤層において一般的に用いられるバインダーであれば自由に選択して用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンターポリマー、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、ポリフッ化ビニリデン、ポリ四フッ化エチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロルヒドリン、ポリフォスファゼン、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロース及びその塩、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミドなどが挙げられる。バインダーは一種単独で用いても、二種以上を用いてもよい。バインダーの量は、負極材100質量部に対して、好ましくは0.5~30質量部である。
【0092】
導電助剤は、電極に対し導電性や寸法安定性(リチウムの挿入・脱離における体積変化を吸収する作用)を付与する役目を果たすものであれば特に限定されない。例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、気相成長法炭素繊維(例えば、「VGCF(登録商標)-H」昭和電工社製)、導電性カーボンブラック(例えば、「デンカブラック(登録商標)」電気化学工業社製、「SUPER C65」イメリス・グラファイト&カーボン社製、「SUPER C45」イメリス・グラファイト&カーボン社製)、導電性黒鉛(例えば、「KS6L」イメリス・グラファイト&カーボン社製、「SFG6L」イメリス・グラファイト&カーボン社製)などが挙げられる。また、前記導電助剤を2種類以上用いることもできる。導電助剤の量は、負極材100質量部に対して、好ましくは1~30質量部である。
【0093】
導電助剤は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、気相法炭素繊維を含むことが好ましく、これら導電助剤の繊維長は複合粒子のDV50の1/2以上であることが好ましい。この長さであると、複合粒子を含む負極活物質間にこれらの導電助剤が橋掛けし、サイクル特性を向上することができる。繊維径が15nm以下のシングルウォールタイプやマルチウォールタイプのカーボンナノチューブやカーボンナノファイバーは、それよりも太い繊維状炭素に比べて、同量の添加量で、より橋掛けの数が増えるため好ましい。また、より柔軟であるため、電極密度を向上する観点からもより好ましい。
【0094】
導電助剤の量は、炭素被覆Si-C複合粒子及び/又はポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子100質量部に対して、好ましくは1~30質量部である。
電極塗工用のスラリーを調製する際の溶媒としては、特に制限はなく、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、イソプロパノール、水などが挙げられる。溶媒として水を使用するバインダーの場合は、増粘剤を併用することも好ましい。溶媒の量はペーストが集電体に塗工しやすい粘度となるように調整される。
【0095】
[5]リチウムイオン二次電池
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、前記負極合剤層を含む。前記リチウムイオン二次電池は、通常は前記負極合剤層および集電体からなる負極と、正極合剤層および集電体からなる正極、その間に存在する非水系電解液および非水系ポリマー電解質の少なくとも一方、並びにセパレータ、そしてこれらを収容する電池ケースを含む。前記リチウムイオン二次電池は、前記負極合剤層を含んでいればよく、それ以外の構成としては、従来公知の構成を含め、特に制限なく採用することができる。
【0096】
正極合剤層は通常、正極材、導電助剤、バインダーからなる。前記リチウムイオン二次電池における正極は、通常のリチウムイオン二次電池における一般的な構成を用いることができる。
【0097】
正極材としては、電気化学的なリチウム挿入・脱離が可逆的に行えて、これらの反応が負極反応の標準酸化還元電位よりも充分に高い材料であれば特に制限されない。例えばLiCoO2、LiNiO2、LiMn24、LiCo1/3Mn1/3Ni1/32、炭素被覆されたLiFePO4、またこれらの混合物を好適に用いることができる。
【0098】
導電助剤、バインダー、スラリー調製用の溶媒としては、負極の項で挙げたものを用いることができる。集電体としては、アルミニウム箔が好適に用いられる。
リチウムイオン電池に用いられる非水系電解液および非水系ポリマー電解質は特に制限されない。非水系電解液としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSO3CF3、CH3SO3Liなどのリチウム塩を、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、γ-ブチロラクトンなどの非水系溶媒に溶かしてなる有機電解液が挙げられる。
【0099】
非水系ポリマー電解質としては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルニトリル、ポリフッ化ビリニデン、及びポリメチルメタクリレートなどを含有するゲル状のポリマー電解質;エチレンオキシド結合を有するポリマーなどを含有する固体状のポリマー電解質が挙げられる。
【0100】
また、前記非水系電解液には、リチウムイオン二次電池の電解液に用いられる添加剤を少量添加してもよい。該物質としては、例えば、ビニレンカーボネート(VC)、ビフェニール、プロパンスルトン(PS)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンサルトン(ES)などが挙げられる。好ましくはVC及びFECが挙げられる。添加量としては、前記非水系電解液100質量%に対して、0.01~20質量%が好ましい。
【0101】
セパレータとしては、一般的なリチウムイオン二次電池において用いることのできる物から、その組み合わせも含めて自由に選択することができ、ポリエチレンあるいはポリプロピレン製の微多孔フィルム等が挙げられる。またこのようなセパレータに、SiO2やAl23などの粒子をフィラーとして混ぜたもの、表面に付着させたセパレータも用いることができる。
【0102】
電池ケースとしては、正極および負極、そしてセパレータおよび電解液を収容できるものであれば、特に制限されない。通常市販されている電池パックや18650型の円筒型セル、コイン型セル等、業界において規格化されているもののほか、アルミ包材でパックされた形態のもの等、自由に設計して用いることができる。
【0103】
各電極は積層したうえでパックして用いることができる。また、単セルを直列につなぎ、バッテリーやモジュールとして用いることができる。
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、スマートフォン、タブレットPC、携帯情報端末などの電子機器の電源;電動工具、掃除機、電動自転車、ドローン、電気自動車などの電動機の電源;燃料電池、太陽光発電、風力発電などによって得られる電力の貯蔵などに用いることができる。
【実施例
【0104】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。物性値の測定および電池評価は下記のように行った。
[ラマン分光法測定]
以下の条件で実施例、比較例で得た粒子のラマン分光法測定を行った。
【0105】
顕微ラマン分光測定装置:株式会社堀場製 LabRAM HR Evolution
励起波長:532nm
露光時間:5秒
積算回数:2回
回折格子:300本/mm(600nm)
測定範囲:縦80μm×横100μm
ポイント数:縦送り17.8μm、横送り22.2μmで100ポイント評価
ピークの強度に関してはベースラインからピークトップの高さを強度とした。測定されたスペクトルから1360cm-1付近のピークの強度ID(非晶質成分由来)と1600cm-1付近のピークの強度IG(黒鉛成分由来)の比(ID/IG)を算出した。2箇所測定しその平均値をR値として、炭素質層の炭素の質の評価の指標とした。
【0106】
また、450~495cm-1に現れるアモルファスシリコン由来のピークの強度ISiと前記IGの比(ISi/IG)を算出した。2箇所測定しその平均値をISi/IGとして、これを炭素質材料による被覆の指標とした。
【0107】
実施例1および比較例2のラマンスペクトルを図1に示す。
[粉末XRD測定]
実施例、比較例で得た粒子をガラス製試料板(窓部縦×横:18×20mm、深さ:0.2mm)に充填し、以下のような条件で測定を行った。
【0108】
XRD装置:株式会社リガク製 SmartLab(登録商標)
X線種:Cu-Kα線
Kβ線除去方法:Niフィルター
X線出力:45kV、200mA
測定範囲:10.0~80.0deg.
スキャンスピード:10.0deg./min
得られたXRDパターンに対し、解析ソフト(PDXL2、株式会社リガク製)を用い、バックグラウンドの除去、Kα2成分の除去を行い、スムージングを行った後に、ピークフィットを行い、ピーク位置と強度を求めた。また、Si111面のピークの半値幅、(SiC111面のピーク強度)/(Si111面のピーク強度)を求めた。ピークの強度に関してはベースラインからピークトップの高さを強度とした。
【0109】
[真密度測定]
試料を180℃で12時間真空乾燥した後、乾燥アルゴン雰囲気下のグローブボックス内にて、測定セルの4~6割になる様に充填し、セルを100回以上タッピングした後サンプルの重量を測定した。その後試料を大気下に取り出し、以下の条件で測定を行い、真密度を算出した。
・装置:micromeriticssha AccuPycII 1340 Gas Pycnometer
・測定セル:アルミ製、深さ39.3mm、内径18mm
・キャリアガス:ヘリウムガス
・ガス圧:21.5psig(148.2kPag)
・測定時パージ回数:200回
・温度:25℃±1℃
[断面SEM写真の取得及び断面SEM-EDSによる炭素濃度分析]
実施例、比較例で得た粒子の断面SEM写真及び断面SEM-EDSによる炭素濃度は、以下の条件で取得した。なお、SEMは走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope)、EDSはエネルギー分散型X線分析装置(Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)を意味する。
【0110】
サンプルをカーボンテープ上に担持し、粒子の観察の場合はそのまま観察を実施する。断面の観察の場合は、日本電子株式会社製クロスセクションポリッシャを用いて断面加工したものを観察した。観察・測定は、以下の装置及び条件により行った。
・SEM:走査型電子顕微鏡装置:Regulus8220(株式会社日立ハイテク製)
・EDS:XFlash(登録商標)5060FlatQUAD(ブルカー株式会社製)
・加速電圧:1~20kV
・観察倍率:500~5,000倍(粒子の大きさに合わせて適宜選択)
炭素質層(カーボン層)の平均厚みは、1粒子につき3か所、カーボンコート部の厚みを測定し、ランダムに選出した6粒子に対しての平均値とした。
【0111】
炭素被覆率に関しては、実施例1-5および比較例1-4では、ランダムに選出した6粒子の断面SEMから算出されるSi-C複合粒子の粒子外周長さ、Si-C複合粒子を覆う炭素質層(カーボン層)の長さを算出し、その割合(Si-C複合粒子を覆う炭素質層(カーボン層)の長さ/Si-C複合粒子の粒子外周長さ×100)として求めた。また、実施例6-13および比較例5-8では、ランダムに選出した6粒子の断面SEM-EDSにおいて、断面外周を等間隔に10分割した外周上の10点を粒子表面の測定点として、中心点と粒子表面の測定点との炭素濃度を測定し、粒子表面の測定点のうち中心点よりも炭素濃度が高い点の割合を求めた。
【0112】
実施例1の炭素被覆Si-C複合粒子の断面SEM写真を、図3、4に示す。図3、4において、符号1は炭素質層を示し、符号2:はSi-C複合粒子を示す。
[BET比表面積測定、細孔容積測定]
サンプルセル(9mm×135mm)にサンプルの合計表面積が2~60m2となるようにサンプルを入れ、300℃、真空条件下で1時間乾燥後、サンプル重量を測定し、以下の方法で測定を行った。
・装置:カンタクローム・インスツルメンツ(Quantachrome)社製NOVA4200e(登録商標)
・測定ガス:窒素
・測定範囲の相対圧の設定値:0.005~0.995
(計算方法)
(BET比表面積の算出方法)
多孔質炭素材のBET比表面積は相対圧0.005近傍から0.08未満の吸着等温線データーからBET多点法にて算出した。
複合粒子のBET比表面積は相対圧0.1近傍、0.2近傍と0.3近傍の3点の吸着等温線データーからBET多点法にて算出した。
(細孔容積の算出方法)
細孔容積は相対圧0.99前後2点の吸着等温線データーから直線近似で相対圧0.99での吸着量を算出して求めた。このとき、窒素液体密度0.808g/cc、窒素の標準状態の1molの体積を22.4133L、窒素原子量を14.0067として計算した。
【0113】
[粒度分布測定]
実施例、比較例で得た粒子を極小型スパーテル1杯分、及び非イオン性界面活性剤(SIRAYA ヤシの実洗剤ハイパワー)の原液(32質量%)の100倍希釈液2滴を水15mLに添加し、3分間超音波分散させた。この分散液をセイシン企業社製レーザー回折式粒度分布測定器(LMS-2000e)に投入し、体積基準累積粒度分布を測定し、50%粒子径DV50を決定した。
【0114】
[酸素含有率測定]
以下の条件で実施例、比較例で得た粒子の酸素含有率測定を行った。
・酸素/窒素/水素分析装置:株式会社堀場製作所製 EMGA-920
・キャリアガス:アルゴン
実施例、比較例で得た粒子約20mgをニッケルカプセルに秤量し、酸素窒素同時分析装置(不活性ガス融解→赤外線吸収法)により測定した。
【0115】
なお、酸素含有量の測定は、炭素被覆Si-C複合粒子を、C-CVDにより製造後2日以内(比較例2、5、6、7は、Si-C複合粒子製造後2日以内)および2ヵ月保管後に行った。2ヵ月保管条件はチャック付きの厚さ0.04mmポリエチレン製の袋(株式会社生産日本社製ユニパック)に炭素被覆Si-C複合粒子(比較例2、5、6、7は、Si-C複合粒子)を入れ恒温室(温度23℃、湿度50%)に保管とした。なお、製造直後2日以内の酸素含有率を、「CVD処理後酸素含有率」とも記し、2ヵ月保管後の酸素含有率を、「経時2ヵ月後酸素含有率」とも記す。
【0116】
[Si(シリコン)含有率測定]
以下の条件で実施例、比較例で得た粒子のシリコン含有率測定を行った。
[蛍光X線分析によるサンプル中のSi元素の含有率(質量%)]
サンプルカップにサンプルを充填し、以下の方法で測定を行い、ファンダメンタル・パラメーター法(FP法)を用いてSi元素の含有率を質量%にて算出した。
・蛍光X線装置:株式会社リガク製 NEX CG
・管電圧:50kV
・管電流:1.00mA
・サンプルカップ:Φ32 12mL CH1530
・サンプル重量:2~4g
・サンプル高さ:5~18mm
なお、FP法は装置付属の解析ソフトにて実施した。
【0117】
[TG(ポリマー含有量分析)]
ポリマー含有量は、以下の装置及び条件により測定した。
・測定装置:TG-DTA2000SE(NETZSCH Japan株式会社製)
・測定温度:室温~1000℃
・試料量:13~15mg
・昇温速度:10℃/min
・雰囲気ガス:Ar
・流量:100ml/min
200℃から350℃の熱分解による減量をポリマー含有量して、ポリマー含有率を算出した。
【0118】
[負極シートの作製]
バインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)を用いた。
【0119】
具体的には、固形分40質量%のSBRを分散したSBR水分散液、およびCMC粉末を溶解した2質量%のCMC水溶液を用いた。
混合導電助剤として、カーボンブラック(SUPER C 45、イメリス・グラファイト&カーボン社製)および気相成長法炭素繊維(VGCF(登録商標)-H、昭和電工株式会社製)を3:2の質量比で混合したものを調製した。
【0120】
後述の実施例及び比較例で製造した負極材90質量部、混合導電助剤5質量部、CMC固形分2.5質量部、SBR固形分2.5質量部となるように、負極材、混合導電助剤、2質量%CMC水溶液、40質量%SBR水分散液を混合し、これに粘度調整のための水を適量加え、自転・公転ミキサー(シンキー社製)にて混練し、負極合剤層形成用スラリーを得た。
【0121】
前記の負極合剤層形成用スラリーを、厚さが20μmの銅箔上に、ドクターブレードを用いて厚さが150μmとなるよう均一に塗布し、ホットプレートにて乾燥後、真空乾燥させて負極シートを得た。乾燥した負極シートを300MPaの圧力で一軸プレス機によりプレスして電池評価用負極シートを得た。得られた負極シートの厚みは、銅箔の厚みを含めて62μmであった。
【0122】
[電極密度の測定]
プレス後の負極シート(集電体+負極合剤層)を直径16mmの円形状に打ち抜き、その質量と厚さを測定した。これらの値から、別途測定しておいた集電体(直径16mmの円形状)の質量と厚さを差し引いて負極合剤層の質量と厚さを求め、負極合剤層の質量と厚さ、および直径(16mm)から、目付(前述の負極合剤層の質量を電極面積で除したもの)、電極密度(負極合剤層密度)を算出した。
【0123】
[コイン電池(リチウム対極セル)の作製]
負極シートを16mmφに打ち抜き、一軸プレス機により加圧成形し、負極合剤層密度を1.4g/ccとなるように調整して負極を得た。
ポリプロピレン製の絶縁ガスケット(内径約18mm)内において、前述した負極と17.5mmφに打ち抜いた厚みが1.7mmの金属リチウム箔で電解液を含浸させたセパレータ(ポリプロピレン製マイクロポーラスフィルム)を挟み込んで積層した。この際、負極の負極合剤層の面はセパレータを挟んで金属リチウム箔と対向するように積層した。これを2320コイン型セルに設置し、カシメ機で封止して試験用セル(リチウム対極セル)とした。
【0124】
なお、リチウム対極セルにおける電解液は、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、およびジエチルカーボネートを3:5:2の体積比で混合した溶媒100質量部に、ビニレンカーボネート(VC)を1質量部、フルオロエチレンカーボネート(FEC)を10質量部混合し、さらにこれに、電解質LiPF6を1mol/Lの濃度になるように溶解して得られた液である。
【0125】
[初回挿入比容量、初回クーロン効率の測定試験]
リチウム対極セルを用いて試験を行った。最初に0.005Vまで、0.1C相当の電流値でCC(コンスタントカレント:定電流)放電を行った。次に0.005VでCV(コンスタントボルテージ:定電圧)放電に切り替え、カットオフ電流値0.005Cで放電を行った。このときの比容量を初回挿入比容量とする。次に、上限電圧を1.5VとしてCCモードで0.1C相当の電流値で充電を行った。このときの比容量を初回脱離比容量とする。
【0126】
試験は25℃に設定した恒温槽内で行った。この際、比容量とは容量を負極材の質量で除した値である。また、本試験において『1C相当の電流値』とは、負極に含まれる負極活物質のSiと炭素(黒鉛を含む)の質量、および理論比容量(それぞれ、4200mAh/gと372mAh/g)から見積もられる、負極の容量を、1時間で放電し終えることのできる電流の大きさである。
【0127】
初回脱離比容量/初回挿入比容量を百分率で表した結果を初回クーロン効率とした。
なお、初回クーロン効率の測定は、炭素被覆Si-C複合粒子を、C-CVDにより製造後2日以内(比較例2、5、6、7は、Si-C複合粒子製造後2日以内)に負極シートを作製し、その後コイン電池作製及び初回クーロン効率測定は1週間以内に行った。チャック付きの厚さ0.04mmポリエチレン製の袋(株式会社生産日本社製ユニパック)に炭素被覆Si-C複合粒子(比較例2、5、6、7は、Si-C複合粒子)を入れ恒温室(温度23℃、湿度50%)に2ヵ月保管した保管品に関しても、2ヵ月経過後2日以内に負極シートを作製し、その後コイン電池作製及び初回クーロン効率測定は1週間以内に行った。なお、製造後2日以内の初回クーロン効率を、単に「初回クーロン効率」と記し、2ヵ月保管後の初回クーロン効率を、「初回クーロン効率2ヵ月経時保管後」とも記す。
【0128】
また、初回クーロン効率に対する、初回クーロン効率2ヵ月経時保管後の割合を、2ヵ月間の初回クーロン効率の維持率(%)として求めた。
[Si利用率の計算]
リチウム対極セルによる初回挿入比容量の値および黒鉛の容量から算出した炭素被覆Si-C複合粒子の初回挿入比容量を炭素被覆Si-C初回挿入比容量とした。すなわち、次式により炭素被覆Si-C初回挿入比容量を算出した。
【0129】
(炭素被覆Si-C初回挿入比容量)={(初回挿入比容量)-(黒鉛初回挿入比容量×黒鉛質量比)}/(炭素被覆Si-C質量比)
ここで、黒鉛初回挿入比容量には、炭素の理論比容量である372mAh/gを用いた。
【0130】
またここで、黒鉛質量比とは、負極材全体に占める黒鉛の質量比である。炭素被覆Si-C質量比とは、負極材全体に占める炭素被覆Si-C複合粒子の質量比である。本実施例および比較例ではこれらの和は1である。
【0131】
炭素被覆Si-C初回挿入比容量から、炭素被覆Si-C複合粒子中の炭素の初回挿入比容量を引き、試料中のシリコン含有率で除し、Si初回挿入比容量を算出した。すなわち、次式によりSi初回挿入比容量を算出した。
【0132】
(Si初回挿入比容量)={(炭素被覆Si-C初回挿入比容量)-(炭素被覆Si-C複合粒子中の炭素の初回挿入比容量)}/Si含有率
そしてSi初回挿入比容量を、シリコンの挿入比容量の理論値(4200mAh/g)で除して100倍することにより、Si利用率(%)を求めた。すなわち、次式によりSi利用率を算出した。
【0133】
(Si利用率)= 100×(Si初回挿入比容量)/4200(%)
なお、炭素被覆Si-C複合粒子中の炭素の初回挿入比容量は、炭素の理論容量を372mAh/gとし、そこに炭素の含有率(100-Si含有率-酸素含有率)を乗じ、100で除することにより求めた。
【0134】
以下に、負極材の原料(多孔質炭素、Si-C複合粒子、炭素被覆Si-C複合粒子、黒鉛粒子)について、調製方法および入手先、物性値を示す。
[多孔質炭素]
BET比表面積が1700m2/g、粒度DV50が9.2μmの市販活性炭を多孔質炭素(1)として使用した。
【0135】
BET比表面積が1700m2/g、粒度DV50が7.0μmの市販活性炭を多孔質炭素(2)として使用した。
[Si-C複合粒子]
(Si-C複合粒子(1))
前記BET比表面積が1700m2/g、粒度DV50が9.2μmの多孔質炭素(1)に対して、窒素ガスと混合された1.3体積%のシランガス流を有する管炉で設定温度450℃、圧力760torr、流量100sccm、8時間処理して得られた多孔質炭素の表面及び内部にシリコンを析出させ、Si-C複合粒子(1)を得た。このSi-C複合粒子(1)は、DV50が9.2μm、BET比表面積が3.2m2/g、シリコン含有率は48質量%であった。
(Si-C複合粒子(2))
前記BET比表面積が1700m2/g、粒度DV50が7.0μmの多孔質炭素(2)に対して、窒素ガスと混合された1.3体積%のシランガス流を有する管炉で設定温度450℃、圧力760torr、流量100sccm、7.5時間処理して得られた多孔質炭素の表面及び内部にシリコンを析出させ、Si-C複合粒子(2)を得た。このSi-C複合粒子(2)は、DV50が7.0μm、BET比表面積が14.2m2/g、シリコン含有率は46質量%であった。
【0136】
[炭素被覆Si-C複合粒子の調製法]
得られたSi-C複合粒子を横型管状炉CVD装置のチャンバー内に置き、真空Ar置換を行った後、管状炉を目的の温度まで25分で昇温し加熱した状態でアセチレンガス、エチレンガスまたはメタンガスを炭素源として導入し、熱分解反応によってSi-C複合粒子に炭素被覆を施した。
【0137】
なお、炭素源、温度等の条件は各実施例、比較例に示す。
[黒鉛粒子]
BET比表面積=2.7m2/g、粒度DV10=7.0μm、粒度DV50=14.0μm、粒度DV90=27.0μm、タップ密度=0.98g/ccの市販の人造黒鉛を使用した。
【0138】
[負極材]
本発明に係る炭素被覆Si-C複合粒子(但し、比較例2、5、6、7ではSi-C複合粒子)と黒鉛粒子とを混合することにより、電池評価用の混合負極材を調製した。この際、混合負極材中のシリコンの含有率が4.9~5.7質量%となるように黒鉛粒子を混合した。
【0139】
[実施例1]
前記方法で得られたSi-C複合粒子(1)に対し、アセチレンガスを炭素源として、650℃で120分間C-CVDを行い、炭素被覆Si-C複合粒子を調製した。その物性値を表1に示す。
【0140】
得られた炭素被覆Si-C複合粒子は、ラマンスペクトルのR値が0.78、良質な炭素により100%被覆されていることと、XRDパターンにおけるISiC111/ISi111が0.00であるためにSiCが存在しないということを両立できた新しい炭素被覆Si-C複合粒子であった。
【0141】
この炭素被覆Si-C複合粒子と黒鉛粒子を混合して混合負極材とした。混合負極材全体に占める質量比はそれぞれ、0.114と0.886であった。その電池特性を表2に示す。この負極材は従来技術よりもシリコンの利用率が高く、初回クーロン効率が高いことが分かった。
【0142】
[実施例2]
前記方法で得られたSi-C複合粒子(1)に対し、アセチレンガスを炭素源として、650℃で60分間、C-CVDを行い、炭素被覆Si-C複合粒子を調製した。その物性値を表1に示す。
【0143】
実施例1と同様に、ラマンスペクトルによるR値が1.00未満であることと、XRDによるISiC111/ISi111が0.00であることが両立されていた。
炭素質層の平均厚みは17.2nmと薄かった。この炭素被覆Si-C複合粒子と黒鉛粒子を混合して混合負極材とした。混合負極材全体に占める質量比はそれぞれ、0.108と0.892であった。その電池特性を表2に示す。電池特性としては良好であることが分かった。
【0144】
[実施例3]
前記方法で得られたSi-C複合粒子(2)に対し、アセチレンガスを炭素源として650℃、120分間という条件でC-CVDを行い、炭素被覆Si-C複合粒子を調製した。その物性値を表1に示す。
【0145】
ラマンスペクトルによるISi/IG値が0.01と小さく、ラマンスペクトルによるR値が1.00未満であることと、XRDによるISiC111/ISi111が0.00であることを両立できている点は実施例1と同じであった。炭素被覆後のBET比表面積に関しては、実施例3は実施例1と比べて炭素被覆前のBET比表面積が大きいため、炭素被覆後もBET比表面積が実施例1と比べて大きいという結果となった。
【0146】
この炭素被覆Si-C複合粒子と黒鉛粒子を混合して混合負極材とした。混合負極材全体に占める質量比はそれぞれ、0.119と0.881であった。その電池特性を表2に示す。電池特性としては良好であることが分かった。
【0147】
[実施例4]
前記方法で得られたSi-C複合粒子(1)に対し、アセチレンを炭素源として、700℃で16分間という条件でC-CVDを行い、炭素被覆Si-C複合粒子を調製した。その物性値を表1に示す。
【0148】
実施例1と比べて、ラマンスペクトルによるR値が0.84であることと、XRDによるISiC111/ISi111が0.00である点は実施例1と同じであった。
XRDによるSi111面ピークの半値幅は3.36deg.と実施例1の5.02deg.よりもやや小さく、Siのアモルファス性は実施例1と比べて、やや低いと考えられた。
【0149】
この炭素被覆Si-C複合粒子と黒鉛粒子を混合して混合負極材とした。混合負極材全体に占める質量比はそれぞれ、0.114と0.886であった。その電池特性を表2に示す。電池特性は良好であることが分かった。
【0150】
[実施例5]
前記方法で得られたSi-C複合粒子(2)に対し、アセチレンを炭素源として、700℃で16分間という条件でC-CVDを行い、炭素被覆Si-C複合粒子を調製した。
【0151】
その物性値を表1に示す。実施例1と比べて、ラマンスペクトルによるR値が0.83であることと、XRDによるISiC111/ISi111が0.00である点は実施例1と同等であった。
【0152】
XRDによるSi111面ピークの半値幅は4.73deg.と実施例1の5.02deg.よりもやや小さく、Siのアモルファス性は実施例1と比べて、やや低いと考えられた。
【0153】
この炭素被覆Si-C複合粒子と黒鉛粒子を混合して混合負極材とした。混合負極材全体に占める質量比はそれぞれ、0.119と0.881であった。その電池特性を表2に示す。電池特性は良好であることが分かった。
【0154】
[比較例1]
前記方法で得られたSi-C複合粒子(1)に対し、炭素源としてアセチレンを用い、550℃、60分間という条件でC-CVDを行い、炭素被覆Si-C複合粒子を調製した。その物性値を表1に示す。
【0155】
炭素被覆率は9%であり、実施例と比べると大幅に被覆率が低いことが分かった。
この炭素被覆Si-C複合粒子と黒鉛粒子を混合して混合負極材とした。混合負極材全体に占める質量比はそれぞれ、0.108と0.892であった。その電池特性を表2に示す。Si利用率や初回クーロン効率が低く、2か月保管後の初回クーロン効率は低下しているなど、電池特性は悪いことが分かった。
【0156】
[比較例2]
前記方法で得られたSi-C複合粒子(1)に対し、C-CVDを行わず、Si-C複合粒子(1)と黒鉛粒子を混合して混合負極材とした。混合負極材全体に占める質量比はそれぞれ、0.118と0.882であった。Si-C複合粒子の物性値を表1に示し、負極材の電池特性を表2に示す。
【0157】
実施例1と比べて、炭素質層がないため経時による酸化が抑制されておらず、2か月保管後の初回クーロン効率が低かった。
[比較例3]
前記方法で得られたSi-C複合粒子(1)に対し、エチレンを炭素源に用いて800℃、15分間という条件でC-CVDを行い、炭素被覆Si-C複合粒子を調製した。その物性値を表1に示す。
【0158】
実施例1と比べると、ラマンスペクトルのR値は1.06と質の悪い炭素による炭素質層であることが示唆された。またISiのピークトップが518cm-1にシフトしアモルファスSiではなく結晶性Siになっていることが示唆された。またXRDにおけるISiC111/ISi111が0.19であり、SiCの生成を示唆していた。また、この試料は800℃で熱処理を行ったため、結晶子が大きくなり、2.20deg.というXRDによるSi111面ピークの低い半値幅が得られたと考えられる。
【0159】
この炭素被覆Si-C複合粒子と黒鉛粒子を混合して混合負極材とした。混合負極材全体に占める質量比はそれぞれ、0.108と0.892であった。その電池特性を表2に示す。初回挿入比容量、Si利用率、初回クーロン効率などの電池特性は悪いことが分かった。
【0160】
[比較例4]
前記方法で得られたSi-C複合粒子(1)に対し、メタンを炭素源として、900℃、15分間という条件でC-CVDを行い、炭素被覆Si-C複合粒子を調製した。その物性値を表1に示す。
【0161】
XRDによるSi111面ピークの半値幅が0.50deg.と小さく、ISiC111/ISi111が1.50であり、結晶子径の増大とSiCの生成が示唆された。
この炭素被覆Si-C複合粒子と黒鉛粒子を混合して混合負極材とした。混合負極材全体に占める質量比はそれぞれ、0.108と0.892であった。その電池特性を表2に示す。初回挿入比容量やSi利用率などの電池特性は悪いことが分かった。
【0162】
【表1】
【0163】
【表2】
表2から分かるように、本発明の一実施形態に係る炭素被覆Si-C複合粒子を含む負極合剤層を有する電池は、80.0%以上の高いSi利用率と100.0%程度の高い初回クーロン効率の維持率を併せ持っている。
【0164】
[実施例6]
[炭素被覆Si-C複合粒子の調製]
内径7cmの横型管状炉(光洋サーモシステム株式会社製)においてBET比表面積が1850m2/g、粒度DV50が9.9μmの多孔質炭素に対して、シラン濃度100%のシランガスで、設定温度400℃、圧力760torr、流量65sccmの条件で、1.13時間シラン処理して、多孔質炭素の表面及び内部にシリコンを析出させ、Si-C複合粒子を得た。次いでArガスでシランガスを除き、不活性雰囲気に置換した。その後、昇温速度25℃/minで昇温しながら、アセチレン濃度20体積%のアセチレン/Ar希釈ガスを流量100sccmで導入し、650℃に到達後、650℃で0.5時間保持してアセチレン処理(C-CVD)を行った。その後Arガスを流しながら室温まで降温し、炭素被覆Si-C複合体を得た。得られた炭素被覆Si-C複合粒子の物性を表4に示す。
[電池特性の評価]
得られた炭素被覆Si-C複合粒子と黒鉛粒子を混合して混合負極材とした。混合負極材全体に占める炭素被覆Si-C複合粒子と黒鉛粒子の質量比、およびその電池特性を表5に示す。
【0165】
[実施例7~10,比較例8]
実施例6において原料として用いた多孔質炭素を、表3に記載のBET比表面積および粒度DV50の多孔質炭素に調整した後に原料として用い、シラン処理条件およびアセチレン処理条件を表3に記載の条件としたことの他は、実施例6と同様にして炭素被覆Si-C複合粒子を得た。得られた炭素被覆Si-C複合粒子の物性を表4に示す。
【0166】
得られた炭素被覆Si-C複合粒子と黒鉛粒子を混合して混合負極材とした。混合負極材全体に占める炭素被覆Si-C複合粒子と黒鉛粒子の質量比、およびその電池特性を表5に示す。
【0167】
[実施例11]
実施例6において原料として用いた多孔質炭素を用いて、シラン処理条件およびアセチレン処理条件も全て実施例6と同様にして、炭素被覆Si-C複合粒子を得た。
【0168】
水800gに対して、鱗片状黒鉛(KS-6、Timcal)を150g、アセチレンブラック(HS100、電気化学工業株式会社)を40g、カルボキシメチルセルロースを10g入れ、ビーズミルで分散及び混合し、無機粒子の分散液(固形分25質量%)を得た。
【0169】
ポリエチレン製のタイトボーイTB-1(容量:105mL,口内径×フタ外径×全高(mm):φ57×φ67×60)にマイクロピペットで純水0.500g及びプルランの4.5質量%水溶液を1.067g加えた後、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製)を使用して自転1000rpmの条件で2分間混合した。そこに炭素被覆Si-C複合粒子を2.668g加えた後、再度自転・公転ミキサーを使用して自転1000rpmの条件で2分間混合した。その後固形分を11質量%とした上記導電材分散液を1.380g加えた後、再度自転・公転ミキサーを使用して自転1000rpmの条件で2分間混合した。得られたスラリーにマイクロピペットを用いてトレハロースの4.8質量%水溶液を0.111g加え、再度自転・公転ミキサーを使用して自転1000rpmの条件で2分間混合した。得られた混合スラリーを、テフロン(登録商標)シートを敷き、110℃に保温されたホットプレート上で5時間乾燥させた。乾燥後の固形物を回収し、乳鉢で解砕し、ポリマーコート炭素被覆Si-C複合体を得た。ポリマーの含有率は2.0質量%であった。得られたポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子の物性を表4に示す。
【0170】
得られたポリマー炭素被覆Si-C複合粒子と黒鉛粒子を混合して混合負極材とした。混合負極材全体に占めるポリマー炭素被覆Si-C複合粒子と黒鉛粒子の質量比、およびその電池特性を表5に示す。
【0171】
[実施例12]
実施例6において原料として用いた多孔質炭素を用いて、シラン処理条件およびアセチレン処理条件も全て実施例6と同様にして、炭素被覆Si-C複合粒子を得た。
【0172】
水800gに対して、鱗片状黒鉛(KS-6、Timcal)を150g、アセチレンブラック(HS100、電気化学工業株式会社)を40g、カルボキシメチルセルロースを10g入れ、ビーズミルで分散及び混合し、無機粒子の分散液(固形分25質量%)を得た。
【0173】
ポリエチレン製のタイトボーイTB-1(容量:105mL,口内径×フタ外径×全高(mm):φ57×φ67×60)にマイクロピペットで純水0.500g及びタマリンドシードガムの4.5質量%水溶液を1.068g加えた後、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製)を使用して自転1000rpmの条件で2分間混合した。そこに炭素被覆Si-C複合粒子を2.667g加えた後、再度自転・公転ミキサーを使用して自転1000rpmの条件で2分間混合した。その後、固形分11質量%とした上記無機粒子の分散液を1.382g加えた後、再度自転・公転ミキサーを使用して自転1000rpmの条件で2分間混合した。得られたスラリーにマイクロピペットを用いてソルビトールの4.8質量%水溶液を0.113g加え、再度自転・公転ミキサーを使用して自転1000rpmの条件で2分間混合した。得られた混合スラリー、テフロン(登録商標)シートを敷き、110℃に保温されたホットプレート上で5時間乾燥させた。乾燥後の固形物を回収し、乳鉢で解砕し、ポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子を得た。ポリマーの含有率は2.1質量%であった。得られたポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子の物性を表4に示す。
【0174】
得られたポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子と黒鉛粒子を混合して混合負極材とした。混合負極材全体に占めるポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子と黒鉛粒子の質量比、およびその電池特性を表5に示す。
【0175】
[実施例13]
実施例6において原料として用いた多孔質炭素を用いて、シラン処理条件およびアセチレン処理条件も全て実施例6と同様にして、炭素被覆Si-C複合粒子を得た。
【0176】
水800gに対して、鱗片状黒鉛(KS-6、Timcal)を150g、アセチレンブラック(HS100、電気化学工業株式会社)を40g、カルボキシメチルセルロースを10g入れ、ビーズミルで分散及び混合し、無機粒子の分散液(固形分25質量%)を得た。
【0177】
ポリエチレン製のタイトボーイTB-1(容量:105mL、口内径×フタ外径×全高(mm):φ57×φ67×60)にマイクロピペットで純水0.500g及びペクチンの4.5質量%水溶液を1.065g加えた後、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製)を使用して自転1000rpmの条件で2分間混合した。そこに炭素被覆Si-C複合粒子を2.662g加えた後、再度自転・公転ミキサーを使用して自転1000rpmの条件で2分間混合した。その後、固形分11質量%とした上記無機粒子の分散液を1.378g加えた後、再度自転・公転ミキサーを使用して自転1000rpmの条件で2分間混合した。得られたスラリーにマイクロピペットを用いてソルビトールの4.8質量%水溶液を0.108g加え、再度自転・公転ミキサーを使用して自転1000rpmの条件で2分間混合した。得られた混合スラリーを、テフロン(登録商標)シートを敷き、110℃に保温されたホットプレート上で5時間乾燥させた。乾燥後の固形物を回収し、乳鉢で解砕し、ポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子を得た。ポリマーの含有率は1.9質量%であった。得られたポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子の物性を表4に示す。
【0178】
得られたポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子と黒鉛粒子を混合して混合負極材とした。混合負極材全体に占めるポリマーコート炭素被覆Si-C複合粒子と黒鉛粒子の質量比、およびその電池特性を表5に示す。
【0179】
[比較例5~7]
表3に記載のBET比表面積および粒度DV50の多孔質炭素に対して、表3に記載の条件でシラン処理を行い、多孔質炭素の表面及び内部にシリコンを析出させ、Si-C複合粒子を得た。得られたSi-C複合粒子の物性を表4に示す。
【0180】
得られたSi-C複合粒子と黒鉛粒子を混合して混合負極材とした。混合負極材全体に占めるSi-C複合粒子と黒鉛粒子の質量比、およびその電池特性を表5に示す。
【0181】
【表3】
【0182】
【表4】
【0183】
【表5】
上記の結果より、実施例6~13では、いずれも、複合粒子の酸素含有量が2か月後にも大きく上昇することがなく、酸化が抑制されていることがわかり、また電池特性では、いずれもSi利用率が高く、86%を超える充分な初回クーロン効率を有しており、かつ2か月経時保管後にも同等の初回クーロン効率を維持していることがわかった。
【0184】
一方、比較例5~7では、経時酸化が生じ、2か月経時保管後の初回クーロン効率が悪化していた。また比較例8では、炭素被覆Si-C複合粒子のBET比表面積が高すぎるため、初回クーロン効率が不十分であった。
【産業上の利用の可能性】
【0185】
本発明の炭素被覆Si-C複合粒子は、たとえば、リチウムイオン二次電池などの負極合剤層を構成する負極活物質として好適に使用できる。本発明のリチウムイオン二次電池は、スマートフォンやタブレットPCなどのIT機器、掃除機、電動工具、電気自転車、ドローン、自動車盗、高容量および高出力求められる用途に好適に使用できる。
図1
図2
図3
図4