(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】ニッケル含有水溶液用浄化剤及びニッケル含有水溶液の浄化方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/62 20230101AFI20240625BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20240625BHJP
C02F 1/52 20230101ALI20240625BHJP
【FI】
C02F1/62 Z
B01D21/01 110
B01D21/01 102
C02F1/52 Z
(21)【出願番号】P 2023032865
(22)【出願日】2023-03-03
(62)【分割の表示】P 2018180648の分割
【原出願日】2018-09-26
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2017195939
(32)【優先日】2017-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】服部 正寛
(72)【発明者】
【氏名】木佐貫 紗也佳
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-154066(JP,A)
【文献】特開2005-047966(JP,A)
【文献】特開2000-202461(JP,A)
【文献】特開平05-050055(JP,A)
【文献】特開2008-119620(JP,A)
【文献】特開平09-234450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/52-1/64
B01D21/00-21/34
B09B1/00-5/00
B09C1/00-1/10
C02F11/00-11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンジアミン四酢酸、及びニッケルを含有する水溶液に、ピペラジンと二硫化炭素とアルカリ金属水酸化物との反応生成物であるジチオカルバミン酸の塩と、ジエチレントリアミン、
又はトリエチレンテトラミ
ンと、アルカリ土類金属化合物とを添加し、次いで、生成した固形物を前記水溶液から除去することを特徴とし、更に前記の
ジエチレントリアミン、又はトリエチレンテトラミンの添加量が、前記のジチオカルバミン酸の塩の添加量 100重量部に対して、
50重量部以上であり、前記のアルカリ土類金属化合物の添加量が、前記のジチオカルバミン酸の塩の添加量 100重量部に対して、5重量部以上250,000重量部以下であることを特徴とする、エチレンジアミン四酢酸及びニッケル含有水溶液の浄化方法。
【請求項2】
前記のアルカリ土類金属化合物が、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、及び硫酸バリウムからなる群より選ばれるアルカリ土類金属化合物である、請求項1に記載のエチレンジアミン四酢酸及びニッケル含有水溶液の浄化方法。
【請求項3】
前記のピペラジンと二硫化炭素とアルカリ金属水酸化物との反応生成物であるジチオカルバミン酸の塩が、ピペラジンと二硫化炭素と水酸化カリウムとの反応生成物であるジチオカルバミン酸の塩である、請求項1に記載のエチレンジアミン四酢酸及びニッケル含有水溶液の浄化方法。
【請求項4】
前記のジエチレントリアミン、又はトリエチレンテトラミンの添加量が、前記のジチオカルバミン酸の塩の添加量 100重量部に対して、100重量部以上である、請求項1に記載のエチレンジアミン四酢酸及びニッケル含有水溶液の浄化方法。
【請求項5】
前記のジチオカルバミン酸の塩と、前記の
ジエチレントリアミン、又はトリエチレンテトラミンと、前記のアルカリ土類金属化合物に加えて、さらに無機硫化物を添加することを特徴とする、請求項1に記載のエチレンジアミン四酢酸及びニッケル含有水溶液の浄化方法。
【請求項6】
前記の無機硫化物が、硫化水素ナトリウム、硫化カリウム、及び硫化カルシウムからなる群より選ばれる無機硫化物である、請求項5に記載のエチレンジアミン四酢酸及びニッケル含有水溶液の浄化方法。
【請求項7】
前記のエチレンジアミン四酢酸、及びニッケルを含有する水溶液におけるニッケルの濃度が、10mg/Lである、請求項1に記載の
エチレンジアミン四酢酸及びニッケル含有水溶液の浄化方法。
【請求項8】
前記のエチレンジアミン四酢酸、及びニッケルを含有する水溶液におけるエチレンジアミン四酢酸の濃度が、25mg/Lである、請求項1に記載の
エチレンジアミン四酢酸及びニッケル含有水溶液の浄化方法。
【請求項9】
固形物を前記水溶液から除去する前に、無機凝集剤を添加することを特徴とする、請求項1に記載のエチレンジアミン四酢酸及びニッケル含有水溶液の浄化方法。
【請求項10】
固形物を前記水溶液から除去する前に、無機凝集剤及び高分子凝集剤を添加することを特徴とする、請求項1に記載のエチレンジアミン四酢酸及びニッケル含有水溶液の浄化方法。
【請求項11】
無機凝集剤が、鉄化合物及びアルミニウム化合物からなる群より選択されるものである、請求項9又は10に記載のエチレンジアミン四酢酸及びニッケル含有水溶液の浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルと錯生成能力を持つ化合物、及びニッケルを含有する水溶液から、ニッケルを除去することを可能にする浄化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニッケルを含有した水溶液は、排水処理設備に送り、例えば、鉄イオンを添加してアルカリ性にし、ニッケルイオン等を鉄イオンやその他含有されるイオンと共に水酸化物として沈殿させるなどの処理を行い、水溶液から分離した後に放流するなどの方法が行われてきた。
【0003】
ニッケルは、化学物質排出把握管理促進法において第1種指定化学物質に指定される有害な重金属であり、水質汚濁に係る環境基準における要監視項目として設定されており、排水処理の重要性が高まっている。
【0004】
ところで、めっき工場、電子部品・機械部品製造工場、自動車工場、火力発電所、ごみ焼却場等からの排水には、クエン酸、グルコン酸などの有機酸、エチレンジアミン四酢酸(以下、EDTAと略す)、シアン、アミン、アンモニア及びポリ燐酸など、ニッケルと錯生成能力を持つ化合物が含まれ、上記のような水酸化物法では処理できない事例が多くなっている。
【0005】
これに対し、ニッケルと錯生成能力を持つ化合物を化学的に処理した後に、ニッケルを不溶化処理する方法が知られている。しかしながら、例えば、塩素系薬剤による酸化法、電解酸化法、過酸化水素-第一鉄塩法、オゾン酸化法、湿式酸化法等の化学的処理を用いても、共存する重金属元素による酸化反応の阻害、スケールの生成等の問題から、十分な浄化処理が行えない状況である。
【0006】
排水中に含まれる各種の重金属元素を除去する技術としては、例えば、無機凝集剤又は有機凝集剤の添加による凝集分離除去法、電解による除去法、活性炭、無機吸着剤又は有機高分子材料による吸着除去法、排水を加熱蒸発させる乾固法、膜を用いた逆浸透法、電気透析又は限外ろ過法等が提案されている。
【0007】
上記した諸方法を用いた場合であっても、以下のような問題が多々あり、いずれの方法もそれらに対する改善の必要性があった。例えば、
(1)凝集分離除去法ではニッケルを充分に処理できない、
(2)吸着除去法等は、例えニッケルを吸着できたとしても処理後に多量の固形成分が発生する、
(3)逆浸透法、電気透析又は限外ろ過法等は、排水中に有機物を含有すると除去が困難であり、また、その処理コストが高い、
(4)加熱蒸発による乾固法は、処理法が煩雑かつ処理コストが高い、
等である。
【0008】
ところで、ジチオカルバミン酸の塩を排水中の重金属処理剤として使用する方法が提案されている(例えば、特許文献1~4参照)。しかしながら、これら特許文献に記載の方法では、重金属と錯生成能力を持つ化合物を含むニッケル含有排水からの、当該重金属の浄化処理効果が十分なものではなかった。
【0009】
また、分子内に三つ以上のアミノ基を有するポリアミンと、アミンのカルボジチオ酸塩を含む重金属処理剤が提案されている(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、特許文献5に開示されている方法では、ニッケルの浄化処理効果は不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2009-249399公報
【文献】特開2011-074350公報
【文献】特開2014-088477公報
【文献】特開2002-177902公報
【文献】特許第5272306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記した背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、ニッケルと錯生成能力を持つ化合物、及びニッケルを含有する水溶液のニッケル濃度を低減する浄化剤、及びそれを用いたニッケル含有水溶液の浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明で示す新規なニッケル含有水溶液の浄化方法を用いることにより、ニッケルと錯生成能力を持つ化合物、及びニッケルを含有する水溶液を簡便な方法で、ニッケル濃度を低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の要旨を有するものである。
【0014】
[1]ジチオカルバミン酸の塩100重量部に対し、窒素原子を3~8有するポリアミンを20重量部以上、及びアルカリ土類金属化合物を含んでなることを特徴とするニッケル含有水溶液用浄化剤。
【0015】
[2]ジチオカルバミン酸の塩100重量部に対し、窒素原子を3~8有するポリアミンを20重量部以上、アルカリ土類金属化合物、及び無機硫化物を含んでなることを特徴とするニッケル含有水溶液用浄化剤。
【0016】
[3]無機硫化物が、硫化水素ナトリウムであることを特徴とする上記[2]に記載のニッケル含有水溶液用浄化剤。
【0017】
[4]ジチオカルバミン酸の塩が、1級アミノ基及び2級アミノ基からなる群より選ばれるアミノ基を少なくとも1つ有するアミン化合物と、二硫化炭素と、アルカリ金属水酸化物との反応生成物であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のニッケル含有水溶液用浄化剤。
【0018】
[5]ジチオカルバミン酸の塩が、1級アミノ基及び2級アミノ基からなる群より選ばれるアミノ基を2つ以上有するアミン化合物と、二硫化炭素と、アルカリ金属水酸化物との反応生成物であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のニッケル含有水溶液用浄化剤。
【0019】
[6]ジチオカルバミン酸の塩が、ピペラジン又はテトラエチレンペンタミンと、二硫化炭素と、アルカリ金属水酸化物との反応生成物であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のニッケル含有水溶液用浄化剤。
【0020】
[7]ニッケル含有水溶液に、上記[1]~[6]のいずれかに記載のニッケル含有水溶液用浄化剤を添加した後、生成した固形物を除去することを特徴とするニッケル含有水溶液の浄化方法。
【0021】
[8]ニッケル含有水溶液が、さらにニッケルと錯生成能力を持つ化合物を含むことを特徴とする上記[7]に記載のニッケル含有水溶液の浄化方法。
【0022】
[9]ニッケルと錯生成能力を持つ化合物が、カルボキシル基及びアミノ基からなる群より選ばれる官能基を分子内に有する化合物であることを特徴とする上記[8]に記載のニッケル含有水溶液の浄化方法。
【0023】
[10]固形物を除去する前に、無機凝集剤を添加することを特徴とする上記[7]~[9]のいずれかに記載のニッケル含有水溶液の浄化方法。
【0024】
[11]固形物を除去する前に、無機凝集剤及び高分子凝集剤を添加することを特徴とする上記[7]~[9]のいずれかに記載のニッケル含有水溶液の浄化方法。
【0025】
[12]無機凝集剤が、鉄化合物及びアルミニウム化合物からなる群より選択されるものであることを特徴とする上記[10]又は[11]に記載のニッケル含有水溶液の浄化方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明のニッケル含有水溶液用浄化剤は、ニッケルの浄化処理が難しいニッケル含有水溶液(例えば、ニッケルと錯生成能力を持つ化合物、及びニッケルを含有する水溶液)であっても、ニッケル濃度を低減することができるため、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0028】
本発明のニッケル含有水溶液用浄化剤は、ジチオカルバミン酸の塩100重量部に対し、窒素原子を3~8有するポリアミンを20重量部以上、アルカリ土類金属化合物を含んでなることを特徴とする。
【0029】
ジチオカルバミン酸の塩としては、分子内にジチオカルバミル基を有する化合物であれば特に限定されない。例えば、1級アミノ基及び2級アミノ基からなる群より選ばれるアミノ基を少なくとも1つ有するアミン化合物と、二硫化炭素と、アルカリ金属水酸化物を反応させて得られる化合物が挙げられる。1級アミノ基及び2級アミノ基からなる群より選ばれるアミノ基を2つ以上有するアミン化合物と、二硫化炭素と、アルカリ金属水酸化物を反応させて得られる化合物がより好ましい。
【0030】
1級アミノ基及び2級アミノ基からなる群より選ばれるアミノ基を少なくとも1つ有するアミン化合物としては、具体的には、ジエチルアミン、ピペラジン、ジエチレントリアミン、N-(2-アミノエチル)ピペラジン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘプタエチレンオクタミン等が例示される。
【0031】
これらのうち、ニッケルの処理性能、及び化合物としての安定性の点で、ピペラジン又はテトラエチレンペンタミンと、二硫化炭素と、アルカリ金属水酸化物を反応させて得られる化合物が好ましい。ただし、テトラエチレンペンタミンのジチオカルバミン酸の塩は、原料であるテトラエチレンペンタミンが、主成分のリニア体[下記式(1)参照]以外に類縁体[下記式(2)~(4)参照]を含む組成物のみが工業的に製造されているため、得られるジチオカルバミン酸の塩も組成物となり、品質管理上煩雑になる欠点がある。一方、ピペラジンのジチオカルバミン酸の塩はこのような欠点がなく、特に好ましい。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
アルカリ金属水酸化物としては、入手が容易な点で、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが特に好ましい。
【0037】
窒素原子を3~8有するポリアミンとしては、例えば、ジエチレントリアミン、N-(2-アミノエチル)ピペラジン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘプタエチレンオクタミン、重量平均分子量300のポリエチレンイミン類が挙げられる。
【0038】
ジチオカルバミン酸の塩100重量部に対する、窒素原子を3~8有するポリアミンの添加量は、20重量部以上が好ましい。100重量部以上添加することで、十分なニッケルの処理能力を得られる。
【0039】
アルカリ土類金属化合物としては、例えば、フッ化ベリリウム、塩化ベリリウム、臭化ベリリウム、ヨウ化ベリリウム、酸化ベリリウム、水酸化ベリリウム、炭酸ベリリウム、硝酸ベリリウム、硫酸ベリリウム、硫化ベリリウム、フッ化カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫化カルシウム、リン酸カルシウム、酢酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫化マグネシウム、リン酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、フッ化ストロンチウム、塩化ストロンチウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化ストロンチウム、酸化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、炭酸ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、硫酸ストロンチウム、硫化ストロンチウム、リン酸ストロンチウム、酢酸ストロンチウム、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウム、酸化バリウム、水酸化バリウム、炭酸バリウム、硝酸バリウム、硫化バリウム、硫酸バリウム、硫化バリウム、リン酸バリウム、酢酸バリウム、塩化ラジウム、臭化ラジウム等が挙げられる。これらのうち入手が容易な点で、塩化カルシウム、水酸化カルシウムが特に好ましい。
【0040】
アルカリ土類金属化合物は、0.01g/L以上加えるとニッケル処理能力が得られ、相対的にはジチオカルバミン酸の塩100重量部に対して5重量部以上加えれば良いが、250000重量部を超えて加えてもニッケル処理能力は一定となるため、アルカリ土類金属化合物の添加量を過剰にすることは、ニッケル排水処理費用が高くなり、経済的ではない。
【0041】
無機硫化物としては、例えば、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム、硫化カリウム、硫化水素カリウム、硫化カルシウム、硫化水素カルシウム、硫化水素マグネシウム、硫化アンモニウム等が挙げられる。これらのうち経済性の点で、硫化水素ナトリウムが好ましい。
【0042】
ジチオカルバミン酸の塩100重量部に対する無機硫化物の添加量は、250重量部以上が好ましい。250重量部以上添加することにより、十分なニッケルの処理能力が得られる。
【0043】
本発明の浄化剤は、ニッケル含有水溶液の浄化処理に特に有用である。
【0044】
本発明のニッケル含有水溶液の浄化方法は、ニッケル含有水溶液に、上記した本発明の浄化剤を添加した後、生成した固形物を除去することを特徴とする。ここで、生成した固形物には、本発明の浄化剤により固定化されたニッケルが含まれる。
【0045】
本発明の浄化方法は、ニッケルの処理が難しいニッケル含有水溶液(例えば、ニッケルと錯生成能力を持つ化合物)、及びニッケルを含有する水溶液に対して特に有効である。
【0046】
ニッケルと錯生成能力を持つ化合物としては、ニッケルと錯体を形成する化合物であれば特に限定されない。例えば、分子内にカルボキシル基及びアミノ基からなる群より選ばれる官能基を有する化合物が挙げられる。具体的には、EDTA、ポリ燐酸等が挙げられ、特にニッケルと強固な錯体を形成する化合物として、EDTAが挙げられる。
【0047】
ジチオカルバミン酸の塩と窒素原子を3~8有するポリアミンとアルカリ土類金属化合物をニッケル含有水溶液中にそれぞれ別々に添加する場合、添加する順番は特に限定されない。
【0048】
固形物の除去を速やかに行うために、固形物を除去する前に、凝集剤を添加することが好ましい。凝集剤としては、例えば、無機凝集剤、高分子凝集剤が挙げられ、無機凝集剤と高分子凝集剤を併用することがより好ましい。
【0049】
無機凝集剤としては、市販されている無機凝集剤を使用でき、特に限定されない。例えば、塩化第二鉄等の鉄化合物、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム等のアルミニウム化合物、等が挙げられる。
【0050】
ニッケル含有水溶液がニッケルと錯生成能力を持つ化合物を含む場合、無機凝集剤の添加量は、ニッケル含有水溶液中に含まれるニッケル錯生成能力を持つ化合物の含有量以上とすることが好ましい。無機凝集剤の添加量をニッケルと錯生成能力を持つ化合物の含有量以上とすることで、凝集性が増し、処理後の水溶液のニッケル濃度を排水基準以下に低減することが容易になる。
【0051】
ニッケル含有水溶液中の、ニッケルと錯生成能力を持つ化合物の含有量は、ニッケル含有水溶液中のニッケル錯生成能力を持つ化合物の濃度を、例えば、HPLC、ガスクロマトグラフィー、滴定等の分析を行うことで算出することができる。
【0052】
高分子凝集剤は、市販されている高分子凝集剤を使用でき、特に限定されない。例えば、アクリル酸ポリマー、アクリルアミドポリマー、ジメチルアミノエチルメタアクリレートポリマー等が挙げられる。凝集性能の点で、弱アニオン性のアクリル酸ポリマーが好ましい。固形物を除去する前に高分子凝集剤を添加することで、除去する固形物のハンドリングが容易となる場合がある。
【0053】
無機凝集剤と高分子凝集剤を併用する場合、これらの凝集剤を添加する順番は特に限定されないが、無機凝集剤を添加し、次に高分子凝集剤を添加することが好ましい。
【0054】
固形物を除去する方法としては特に限定されず、例えば、ろ過、遠心分離、及び固形物を沈降させた後、上澄み液と分離する方法等が挙げられる。
【実施例】
【0055】
以下に、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定して解釈されるものではない。
【0056】
(分析方法)
水溶液中のニッケルイオン濃度は、ICP発光分光分析装置(ICPE-9800、島津製作所社製)で測定した。
【0057】
調製例1
実施例、比較例で使用したジチオカルバミン酸の塩は、以下の方法に従って調製した。
【0058】
(ジチオカルバミン酸の塩Aの調製)
ピペラジン(東ソー社製)112gと純水386gを混合した後、25℃で、窒素気流中で攪拌しながら48重量%水酸化カリウム306g(キシダ化学社製)と二硫化炭素196g(キシダ化学社製)をそれぞれ4分割して交互に滴下した。1時間攪拌し、化学式(5)に示す化合物40重量%を含む水溶液を得た。
【0059】
【0060】
(ジチオカルバミン酸の塩Bの調製)
テトラエチレンペンタミン(東ソー社製)159gと純水331gを混合した後、25℃で、窒素気流中で攪拌しながら48重量%水酸化ナトリウム281g(キシダ化学社製)と二硫化炭素230g(キシダ化学社製)をそれぞれ4分割して交互に滴下した。1時間攪拌し、化学式(6)に示す化合物40重量%を含む水溶液を得た。
【0061】
【0062】
(ジチオカルバミン酸の塩C)
ジチオカルバミン酸の塩Cとして、化学式(7)に示す化合物N,N-ジエチルジチオカルバミド酸ナトリウム三水和物(富士フイルム和光純薬社製)に水を加え、40重量%とした水溶液を使用した。
【0063】
【0064】
(ポリアミン)
ポリアミンとして、以下の東ソー社製エチレンアミン類、日本触媒社製ポリエチレンイミン類を使用した。
【0065】
エチレンジアミン(以下、EA(2)と略す)。
【0066】
ジエチレントリアミン(以下、EA(3)と略す)。
【0067】
トリエチレンテトラミン(以下、EA(4)と略す)。
【0068】
テトラエチレンペンタミン(以下、EA(5)と略す)。
【0069】
ペンタエチレンヘキサミン(以下、EA(6)と略す)。
【0070】
ヘプタエチレンオクタミン(以下、EA(8)と略す)。
【0071】
ポリエチレンイミンの重量平均分子量300品(以下、PEI(300)と略す)。
【0072】
ポリエチレンイミンの重量平均分子量1800品(以下、PEI(1800)と略す)。
【0073】
(アルカリ土類金属化合物)
アルカリ土類金属化合物として、キシダ化学社製の以下の化合物を使用した。
【0074】
塩化マグネシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、塩化ストロンチウム、硝酸バリウム、塩酸バリウム。
【0075】
(無機凝集剤)
無機凝集剤として、以下の水溶液を使用した。
【0076】
キシダ化学社製ポリ塩化アルミニウム30gを水に加え、合計100gにした水溶液(30重量%ポリ塩化アルミニウム水溶液)。
【0077】
キシダ化学社製38重量%塩化第二鉄水溶液。
【0078】
(高分子凝集剤)
高分子凝集剤として、オルガノ社製OA-23(弱アニオンポリマー)を使用した。
【0079】
実施例1
500mLビーカーに、ジャーテスター(Jar Tester)を設置し、ニッケルイオン10mg/LとEDTA25mg/Lを含む水溶液を500mL添加した。次いで、150rpmで攪拌しながら、ジチオカルバミン酸の塩Aを500mg/L、ジエチレントリアミン[EA(3)]を400mg/L、塩化カルシウムを1g/L加え、pH11に調整し、150rpmで1時間攪拌した。次いで、30重量%ポリ塩化アルミニウム(以下、PACと略す)水溶液を1000mg/L加え、pH7に調整し、150rpmで5分間攪拌した。水溶液のpHは、微量の塩酸及び水酸化ナトリウムを用いて、常に所定のpHとなるように調整した。攪拌終了後、10分間静置し、アドバンテック社製5Aのろ紙で水溶液をろ別し、処理後の水溶液のニッケル濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0080】
実施例2~11
添加する薬剤を表1及び2に示す薬剤に変更する以外、実施例1と同様にして、処理後の水溶液のニッケル濃度を測定した。これらの結果を表1及び2に併せて示す。
【0081】
【0082】
【0083】
実施例1~8に示すように、EDTA含有排水の処理後水溶液のニッケル濃度を0.8mg/L以下に低減することができた。
【0084】
比較例1
500mLビーカーに、ジャーテスター(Jar Tester)を設置し、ニッケルイオン10mg/LとEDTA25mg/Lを含む水溶液を500mL添加した。次いで、pH11に調整し、150rpmで1時間攪拌した。次いで、30重量%PAC水溶液を1000mg/L加え、pH7に調整し、150rpmで5分間攪拌した。水溶液のpHは、微量の塩酸及び水酸化ナトリウムを用いて、常に所定のpHとなるように調整した。攪拌終了後、10分間静置し、アドバンテック社製5Aのろ紙で水溶液をろ別し、処理後の水溶液のニッケル濃度を測定した。結果を表3に示す。
【0085】
比較例2~13
添加する薬剤を表3及び4に示す薬剤に変更する以外、実施例1と同様にして、処理後の水溶液のニッケル濃度を測定した。これらの結果を表3及び4に併せて示す。
【0086】
参考例1
500mLビーカーに、ジャーテスター(Jar Tester)を設置し、ニッケルイオン10mg/LとEDTA25mg/Lを含む水溶液を500mL添加した。次いで、150rpmで攪拌しながら、ジチオカルバミン酸の塩Aを500mg/L、ペンタエチレンヘキサミンを400mg/L加え、pH11に調整し、150rpmで14時間攪拌した。次いで、30重量%PAC水溶液を1000mg/L加え、pH7に調整し、150rpmで5分間攪拌した。水溶液のpHは、微量の塩酸及び水酸化ナトリウムを用いて、常に所定のpHとなるように調整した。攪拌終了後、10分間静置し、アドバンテック社製5Aのろ紙で水溶液をろ別し、処理後の水溶液のニッケル濃度を測定した。結果を表4に示す。
【0087】
【0088】
【0089】
比較例1は、アルミニウムイオンを添加して中和し、ニッケルイオンをアルミニウムイオンと共に水酸化物として沈殿させる処理方法の例である。処理後の水溶液のニッケル濃度は7.0mg/Lであり、ニッケルを低減することができなかった。
【0090】
比較例2及び3は、塩化カルシウムのみを添加して処理した例である。処理後の水溶液のニッケル濃度は4.7~5.3mg/Lであり、ニッケルを低減することができなかった。
【0091】
比較例4~6は、ジチオカルバミン酸の塩のみ添加した例である。処理後の水溶液のニッケル濃度は4.9~5.5mg/Lであり、ニッケルを低減することができなかった。
【0092】
比較例7は、ジチオカルバミン酸の塩Aと硫化水素ナトリウムのみ添加した例である。処理後の水溶液のニッケル濃度は5.2mg/Lであり、ニッケルを低減することができなかった。
【0093】
比較例8は、ジチオカルバミン酸の塩Aと塩化カルシウムを添加した例である。処理後の水溶液のニッケル濃度は4.3mg/Lであり、ニッケルを十分低減することができなかった。
【0094】
比較例9は、ポリアミンのみを添加した例である。処理後の水溶液のニッケル濃度は、薬剤を添加する前と同値の10mg/Lであり、ニッケルを低減することができなかった。
【0095】
比較例10は、ポリアミンと塩化カルシウムを添加した例である。処理後の水溶液のニッケル濃度は、薬剤を添加する前と同値の10mg/Lであり、ニッケルを低減することができなかった。
【0096】
比較例11は、ジチオカルバミン酸の塩Aとポリアミンを添加した例である。処理後の水溶液のニッケル濃度は3.0mg/Lであり、ニッケルを十分に低減することができなかった。
【0097】
比較例12は、ジチオカルバミン酸の塩Aと、本発明の範囲外であるEA(2)と塩化カルシウムを添加した例であるが、処理後の水溶液のニッケル濃度は、EA(2)を加えなかった比較例8と比較して、ニッケルの処理に改善効果は見られなかった。
【0098】
比較例13は、ジチオカルバミン酸の塩Aと、本発明の範囲外であるPEI(1800)と塩化カルシウムを添加した例であるが、処理後の水溶液のニッケル濃度は、3.5mg/Lであり、ニッケルを十分に低減することができなかった。
【0099】
参考例1は、比較例11と同じ薬剤添加量として、薬剤添加後の撹拌時間を1時間から14時間とした例である。処理後の水溶液のニッケル濃度は、塩化カルシウムを添加した実施例4とほぼ同値だが、ニッケル濃度を低減するまでに長時間を要する。
【0100】
実施例12~16、比較例14
添加する薬剤を表5に示す薬剤に変更する以外、実施例1と同様にして、処理後の水溶液のニッケル濃度を測定した。これらの結果を表5に併せて示す。
【0101】
【0102】
実施例12~16は、ポリアミンの重量部を本発明の範囲で変化させて処理した例である。ポリアミンの重量部によらず、ニッケルの濃度を1.6mg/L以下に低減することができた。
【0103】
比較例14は、ジチオカルバミン酸の塩Aと、本発明の範囲を下回る量のポリアミンを添加した例であるが、処理後の水溶液のニッケル濃度は4.1mg/Lであり、ニッケルを低減することができなかった。
【0104】
実施例17~21
添加する薬剤を表6に示す薬剤に変更する以外、実施例1と同様にして、処理後の水溶液のニッケル濃度を測定した。これらの結果を表6に併せて示す。
【0105】
【0106】
実施例17~21は、アルカリ土類金属の種類を本発明の範囲で変更して処理した例である。アルカリ土類金属の種類によらず、ニッケルの濃度を1.0mg/L以下に低減することができた。
【0107】
実施例22~25、比較例15
添加する薬剤を表7に示す薬剤に変更する以外、実施例1と同様にして、処理後の水溶液のニッケル濃度を測定した。これらの結果を表7に併せて示す。
【0108】
【0109】
実施例22~25は、アルカリ土類金属として塩化カルシウムの添加量を変化させて処理した例である。塩化カルシウムを0.01g/L以上添加することにより、ニッケルの濃度を0.2mg/L以下に低減することができた。
【0110】
比較例15は、アルカリ土類金属として塩化カルシウムの添加量を0.001g/Lで処理した例である。比較例15に示したように、ジチオカルバミン酸の塩、及びポリアミンと併用するアルカリ土類金属の量が少ない場合、ニッケルの低減効果は低いことが分かる。
【0111】
実施例26~27
添加する薬剤を表8に示す薬剤に変更する以外、実施例1と同様にして、処理後の水溶液のニッケル濃度を測定した。これらの結果を表8に併せて示す。
【0112】
【0113】
実施例26及び27は、無機硫化物の添加量を変化させて処理した例である。どちらもニッケルの濃度を1.2mg/L以下に低減することができた。
【0114】
実施例28
500mLビーカーに、ジャーテスター(Jar Tester)を設置し、ニッケルイオン10mg/LとEDTA25mg/Lを含む水溶液を500mL添加した。次いで、150rpmで攪拌しながら、ジチオカルバミン酸の塩Aを500mg/L、ジエチレントリアミン[EA(3)]を400mg/L、塩化カルシウムを1g/L加え、pH11に調整し、150rpmで1時間攪拌した。次いで、30重量%PAC水溶液を1000mg/L加え、pH7に調整し、150rpmで5分間攪拌した。次いで、高分子凝集剤として0.1重量%OA-23水溶液を2000mg/L加え、pH7に調整し、50rpmで5分間攪拌した。水溶液のpHは、微量の塩酸及び水酸化ナトリウムを用いて、常に所定のpHとなるように調整した。攪拌終了後、10分間静置し、アドバンテック社製5Aのろ紙で水溶液をろ別し、処理後の水溶液のニッケル濃度を測定した。結果を表9に示す。
【0115】
実施例29
30重量%PAC水溶液を38重量%塩化鉄水溶液に変更する以外、実施例28と同様にして、処理後の水溶液のニッケル濃度を測定した。この結果を表9に示す。
【0116】
【0117】
実施例28は、実施例1に高分子凝集剤を添加した例である。処理後の水溶液のニッケル濃度は、高分子凝集剤を添加しない場合と同値であり、ニッケルの処理が十分であった。
【0118】
実施例29は、無機凝集剤として塩化第二鉄水溶液を用いた例である。処理後の水溶液のニッケル濃度は、0.2mg/Lであり、無機凝集剤の種類によらず、ニッケルの処理が十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明のニッケル含有水溶液の浄化方法によれば、ニッケルの処理が難しい、ニッケルと錯生成能力を持つ化合物、及びニッケルを含有する水溶液であっても、ニッケル濃度を低減できるため、新規なニッケル含有水溶液の浄化方法として、めっき工場、電子部品・機械部品製造工場、自動車工場などからのニッケル含有排水の処理に使用される可能性を有している。