(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】無機フィラー流動性改質剤、無機フィラー含有組成物および熱伝導性シリコーンシート
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240625BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20240625BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20240625BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240625BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240625BHJP
C08G 63/16 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L67/02
C08L83/04
C08K3/013
C08J5/18 CFH
C08G63/16
(21)【出願番号】P 2023572171
(86)(22)【出願日】2023-04-06
(86)【国際出願番号】 JP2023014159
(87)【国際公開番号】W WO2023204033
(87)【国際公開日】2023-10-26
【審査請求日】2023-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2022070008
(32)【優先日】2022-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】吉村 洋志
(72)【発明者】
【氏名】田尻 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】氏原 鉄平
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/066651(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/192883(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/176901(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/049731(WO,A1)
【文献】特開平09-302083(JP,A)
【文献】国際公開第2022/185930(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08K
C08L
C08J 5/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1-1)又は(1-2)で表されるポリエステルである無機フィラー流動性改質剤であって、
前記ポリエステルの酸価が3~
100mgKOH/gの範囲であり、水酸基価が9mgKOH/g未満であ
り、数平均分子量が500~5,000の範囲にある無機フィラー流動性改質剤。
【化1】
(前記一般式(1-1)および(1-2)において、
Gは炭素原子数2~20の脂肪族ジオール残基であり、
Aは炭素原子数2~10の脂肪族ジカルボン酸残基であり、
X
1およびX
2は、それぞれ独立に、炭素原子数2~10の脂肪族多塩基酸残基又は炭素原子数6~15の芳香族多塩基酸残基であり、
Yは炭素原子数1~20のモノカルボン酸残基であり、
Zは炭素原子数2~30のモノアルコール残基であり、
pはX
1の脂肪族多塩基酸残基又は芳香族多塩基酸残基の塩基酸官能基の数から1つ減じた整数であり、
qはX
2の脂肪族多塩基酸残基又は芳香族多塩基酸残基の塩基酸官能基の数から1つ減じた整数であり、
nは繰り返し数を表す。)
【請求項2】
Gが、炭素原子数3~20の分岐構造を有する脂肪族ジオール残基である請求項1に記載の無機フィラー流動性改質剤。
【請求項3】
Aが炭素原子数4~10の脂肪族ジカルボン酸残基である請求項1又は2に記載の無機フィラー流動性改質剤。
【請求項4】
X
1およびX
2が、それぞれ独立に、炭素原子数2~10の脂肪族ジカルボン酸残基である請求項1又は2に記載の無機フィラー流動性改質剤。
【請求項5】
前記ポリエステルが、Zが炭素原子数2~30の脂肪族モノアルコール残基である前記一般式(1-2)で表されるポリエステルである請求項1又は2に記載の無機フィラー流動性改質剤。
【請求項6】
数平均分子量が1,500~5,000の範囲にある請求項1又は2に記載の無機フィラー流動性改質剤。
【請求項7】
室温で液体である請求項1又は2に記載の無機フィラー流動性改質剤。
【請求項8】
炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、タルク、チタン酸バリウム、窒化ホウ素および窒化アルミニウムからなる群から選択される1種以上の無機フィラー用の流動性改質剤である請求項1又は2に記載の無機フィラー流動性改質剤。
【請求項9】
無機フィラーおよび請求項1又は2に記載の無機フィラー流動性改質剤を含有する無機フィラー含有組成物。
【請求項10】
前記無機フィラーが、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、タルク、チタン酸バリウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素および窒化アルミニウムからなる群から選択される1種以上である請求項9に記載の無機フィラー含有樹脂組成物。
【請求項11】
可塑剤をさらに含有する請求項9に記載の無機フィラー含有組成物。
【請求項12】
ポリオレフィン、ポリエステル、ポリサルファイド、ポリ塩化ビニル、変成ポリサルファイド、シリコーン樹脂、変成シリコーン樹脂、アクリルウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリイソシアネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエステルおよび不飽和ポリエステルからなる群から選択される1種以上の樹脂を含有する請求項9に記載の無機フィラー含有組成物。
【請求項13】
請求項9に記載の無機フィラー含有組成物の成形品。
【請求項14】
シリコーン樹脂と、無機フィラーと、無機フィラー流動性改質剤とを含有する熱伝導性シリコーンシートであって、
前記無機フィラーが、酸化マグネシウム、アルミナおよび水酸化アルミニウムからなる群から選択される1種以上であり、
前記無機フィラー流動性改質剤が、下記一般式(1-1)又は(1-2)で表されるポリエステルであって、酸価が3~
100mgKOH/gの範囲であり、水酸基価が9mgKOH/g未満であ
り、数平均分子量が500~5,000の範囲にあるポリエステルであり、
前記シリコーン樹脂と前記無機フィラーの質量比[シリコーン樹脂:無機フィラー]が、50:50~1:99の範囲にあり、
前記無機フィラー流動性改質剤を前記シリコーン樹脂と前記無機フィラーの合計量100質量部に対して0.01~5質量部の範囲で含有する熱伝導性シリコーンシート。
【化2】
(前記一般式(1-1)および(1-2)において、
Gは炭素原子数2~20の脂肪族ジオール残基であり、
Aは炭素原子数2~10の脂肪族ジカルボン酸残基であり、
X
1およびX
2は、それぞれ独立に、炭素原子数2~10の脂肪族多塩基酸残基又は炭素原子数6~15の芳香族多塩基酸残基であり、
Yは炭素原子数1~20のモノカルボン酸残基であり、
Zは炭素原子数2~30のモノアルコール残基であり、
pはX
1の脂肪族多塩基酸残基又は芳香族多塩基酸残基の塩基酸官能基の数から1つ減じた整数であり、
qはX
2の脂肪族多塩基酸残基又は芳香族多塩基酸残基の塩基酸官能基の数から1つ減じた整数であり、
nは繰り返し数を表す。)
【請求項15】
前記シリコーン樹脂と前記無機フィラーの質量比[シリコーン樹脂:無機フィラー]が20:80の時のシェアA硬度をH
80とし、前記シリコーン樹脂と前記無機フィラーの質量比[シリコーン樹脂:無機フィラー]が10:90の時のシェアA硬度をH
90としたとき、H
90/H
80≦1.30を満たす請求項14に記載の熱伝導性シリコーンシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機フィラー流動性改質剤、無機フィラー含有組成物および熱伝導性シリコーンシートに関する。
【背景技術】
【0002】
建材、自動車用部材、衛生吸収物品、ストーンペーパー、放熱材等は、無機フィラーを含む組成物から成形されており、無機フィラーによって耐衝撃性、耐屈曲性、寸法安定性、透湿性、放熱性等の様々な機能が付与されている。
【0003】
上記成形品の機能性を高めるためおよび/又は増量によるコストダウンを図るため、無機フィラーの充填量をさらに増やすことが求められている。しかしながら組成物中の無機フィラーの充填量を増やした場合、無機フィラーの流動性が低下して、それとともに組成物全体の流動性も低下し、組成物の成形性が著しく毀損するという問題があった。
【0004】
例えばウレタン防水床材用途では、無機フィラーとして炭酸カルシウムが一般的に用いられるが、炭酸カルシウムの充填量を増やすことによって、粘度が上昇し、成形性およびハンドリング性が悪くなる問題があった。
【0005】
フィラー配合によって組成物の成形性が毀損する問題を解決する手段として、フィラーの流動性を改善する流動性改質剤をさらに添加することで、組成物の流動性を改善する方法が提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の流動性改質剤を用いた場合であっても、流動性改善効果は十分とは言えず、フィラーの流動性をより改善する流動性改質剤が求められていた。また、組成物の調製から実際の使用までにはある程度の時間差があるが、特許文献1の流動性改質剤を添加した場合であっても、時間経過とともに組成物の粘度が上昇し、使用時に支障が生じる場合があった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、時間経過による粘度変化を抑制し、無機フィラーの流動性を向上させる無機フィラー流動性改質剤を提供することである。
本発明が解決しようとする他の課題は、時間経過による粘度変化が抑制され、無機フィラーの流動性が向上した無機フィラー含有組成物を提供することである。
本発明が解決しようとする他の課題は、無機フィラーが高濃度に充填しても柔軟性が損なわれない成形品および熱伝導性シリコーンシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、特定の構造および特定の物性を有するポリエステルが無機フィラーに対して優れた粘度変化抑制効果および流動性改善効果を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明によれば、以下の無機フィラー流動性改質剤等が提供される。
1. 下記一般式(1-1)又は(1-2)で表されるポリエステルである無機フィラー流動性改質剤であって、
前記ポリエステルの酸価が3~400mgKOH/gの範囲であり、水酸基価が9mgKOH/g未満である無機フィラー流動性改質剤。
【化1】
(前記一般式(1-1)および(1-2)において、
Gは炭素原子数2~20の脂肪族ジオール残基であり、
Aは炭素原子数2~10の脂肪族ジカルボン酸残基であり、
X
1およびX
2は、それぞれ独立に、炭素原子数2~10の脂肪族多塩基酸残基又は炭素原子数6~15の芳香族多塩基酸残基であり、
Yは炭素原子数1~20のモノカルボン酸残基であり、
Zは炭素原子数2~30のモノアルコール残基であり、
pはX
1の脂肪族多塩基酸残基又は芳香族多塩基酸残基の塩基酸官能基の数から1つ減じた整数であり、
qはX
2の脂肪族多塩基酸残基又は芳香族多塩基酸残基の塩基酸官能基の数から1つ減じた整数であり、
nは繰り返し数を表す。)
2.Gが、炭素原子数3~20の分岐構造を有する脂肪族ジオール残基である1に記載の無機フィラー流動性改質剤。
3.Aが炭素原子数4~10の脂肪族ジカルボン酸残基である1又は2に記載の無機フィラー流動性改質剤。
4.X
1およびX
2が、それぞれ独立に、炭素原子数2~10の脂肪族ジカルボン酸残基である1~3のいずれかに記載の無機フィラー流動性改質剤。
5.前記ポリエステルが、Zが炭素原子数2~30の脂肪族モノアルコール残基である前記一般式(1-2)で表されるポリエステルである1~4のいずれかに記載の無機フィラー流動性改質剤。
6.数平均分子量が1,500~5,000の範囲にある1~5のいずれかに記載の無機フィラー流動性改質剤。
7.室温で液体である1~6のいずれかに記載の無機フィラー流動性改質剤。
8.炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、タルク、チタン酸バリウム、窒化ホウ素および窒化アルミニウムからなる群から選択される1種以上の無機フィラー用の流動性改質剤である1~7のいずれかに記載の無機フィラー流動性改質剤。
9.無機フィラーおよび1~8のいずれかに記載の無機フィラー流動性改質剤を含有する無機フィラー含有組成物。
10.前記無機フィラーが、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、タルク、チタン酸バリウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素および窒化アルミニウムからなる群から選択される1種以上である9に記載の無機フィラー含有樹脂組成物。
11.可塑剤をさらに含有する9又は10に記載の無機フィラー含有組成物。
12.ポリオレフィン、ポリエステル、ポリサルファイド、ポリ塩化ビニル、変成ポリサルファイド、シリコーン樹脂、変成シリコーン樹脂、アクリルウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリイソシアネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエステルおよび不飽和ポリエステルからなる群から選択される1種以上の樹脂を含有する9~11のいずれかに記載の無機フィラー含有組成物。
13.9~12のいずれかに記載の無機フィラー含有組成物の成形品。
14.シリコーン樹脂と、無機フィラーと、無機フィラー流動性改質剤とを含有する熱伝導性シリコーンシートであって、
前記無機フィラーが、酸化マグネシウム、アルミナおよび水酸化アルミニウムからなる群から選択される1種以上であり、
前記無機フィラー流動性改質剤が、下記一般式(1-1)又は(1-2)で表されるポリエステルであって、酸価が3~400mgKOH/gの範囲であり、水酸基価が9mgKOH/g未満であるポリエステルであり、
前記シリコーン樹脂と前記無機フィラーの質量比[シリコーン樹脂:無機フィラー]が、50:50~1:99の範囲にあり、
前記無機フィラー流動性改質剤を前記シリコーン樹脂と前記無機フィラーの合計量100質量部に対して0.01~5質量部の範囲で含有する熱伝導性シリコーンシート。
【化2】
(前記一般式(1-1)および(1-2)において、
Gは炭素原子数2~20の脂肪族ジオール残基であり、
Aは炭素原子数2~10の脂肪族ジカルボン酸残基であり、
X
1およびX
2は、それぞれ独立に、炭素原子数2~10の脂肪族多塩基酸残基又は炭素原子数6~15の芳香族多塩基酸残基であり、
Yは炭素原子数1~20のモノカルボン酸残基であり、
Zは炭素原子数2~30のモノアルコール残基であり、
pはX
1の脂肪族多塩基酸残基又は芳香族多塩基酸残基の塩基酸官能基の数から1つ減じた整数であり、
qはX
2の脂肪族多塩基酸残基又は芳香族多塩基酸残基の塩基酸官能基の数から1つ減じた整数であり、
nは繰り返し数を表す。)
15.前記シリコーン樹脂と前記無機フィラーの質量比[シリコーン樹脂:無機フィラー]が20:80の時のシェアA硬度をH
80とし、前記シリコーン樹脂と前記無機フィラーの質量比[シリコーン樹脂:無機フィラー]が10:90の時のシェアA硬度をH
90としたとき、H
90/H
80≦1.30を満たす14に記載の熱伝導性シリコーンシート。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、時間経過による粘度変化を抑制し、無機フィラーの流動性を向上させる無機フィラー流動性改質剤が提供できる。
本発明により、時間経過による粘度変化が抑制され、無機フィラーの流動性が向上した無機フィラー含有組成物が提供できる。
本発明により、無機フィラーが高濃度に充填しても柔軟性が損なわれない成形品および熱伝導性シリコーンシートが提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0013】
[無機フィラー流動性改質剤]
本発明の無機フィラー流動性改質剤は、下記一般式(1-1)又は(1-2)で表されるポリエステルである。以下、本発明の無機フィラー流動性改質剤であるポリエステルを「本発明のポリエステル」という場合がある。
【0014】
【化3】
(前記一般式(1-1)および(1-2)において、
Gは炭素原子数2~20の脂肪族ジオール残基であり、
Aは炭素原子数2~10の脂肪族ジカルボン酸残基であり、
X
1およびX
2は、それぞれ独立に、炭素原子数2~10の脂肪族多塩基酸残基又は炭素原子数6~15の芳香族多塩基酸残基であり、
Yは炭素原子数1~20のモノカルボン酸残基であり、
Zは炭素原子数2~30のモノアルコール残基であり、
pはX
1の脂肪族多塩基酸残基又は芳香族多塩基酸残基の塩基酸官能基の数から1つ減じた整数であり、
qはX
2の脂肪族多塩基酸残基又は芳香族多塩基酸残基の塩基酸官能基の数から1つ減じた整数であり、
nは繰り返し数を表す。)
【0015】
本発明のポリエステルは、一方の末端のカルボキシル基が無機フィラーに吸着し、他方の封止末端を含むポリエステル鎖によって、組成物に対する相溶性を担保することができ、これらによって無機フィラーの流動性を改質するものと考えられる。
【0016】
本発明において「ジオール残基」および「アルコール残基」とは、ジオールおよびアルコールから水酸基を除いた残りの有機基を示すものである。
本発明において「カルボン酸残基」とは、カルボン酸からカルボキシル基を除いた残りの有機基を示すものである。カルボン酸残基の炭素原子数については、カルボキシル基中の炭素原子は含まないものとする。
本発明において「多塩基酸残基」とは、2以上の塩基酸官能基を有する多塩基酸から塩基酸官能基を除いた有機基である。例えば多塩基酸残基がジカルボン酸残基、トリカルボン酸残基又はテトラカルボン酸残基である場合、前記ジカルボン酸残基、前記トリカルボン酸残基又は前記テトラカルボン酸残基とは、これらが有するカルボキシル基を除いた残りの有機基を示すものである。ジカルボン酸残基、トリカルボン酸残基及びテトラカルボン酸残基の炭素原子数については、カルボキシル基中の炭素原子は含まないものとする。
【0017】
Gの炭素原子数2~20の脂肪族ジオール残基の脂肪鎖は、直鎖でも分岐状でもよく、脂環構造および/又はエーテル結合を含んでもよい。また、Gの脂肪族ジオール残基の脂肪鎖は、飽和の脂肪鎖でもよく、炭素炭素不飽和結合を有する不飽和の脂肪鎖でもよい。
【0018】
Gの炭素原子数2~20の脂肪族ジオール残基は、好ましくは炭素原子数3~20の分岐構造を有する脂肪族ジオール残基であり、より好ましくは下記一般式(G-1)で表されるジオールである。
【化4】
(前記一般式(G-1)中、
pは1以上の整数であり、qは0以上の整数であり、rは1以上の整数であり、
Rは水素原子又は炭素原子数1以上のアルキル基であって、r個のRの少なくとも1つは炭素原子数1以上のアルキル基であり、
p、q、rおよびRの炭素原子数の合計が3~20の整数である。)
【0019】
前記一般式(G-1)において、Rのアルキル基は好ましくは炭素原子数7~18のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数10~18のアルキル基である。
【0020】
Gの炭素原子数2~20の脂肪族ジオール残基としては、例えばエチレングリコール残基、1,2-プロピレングリコール残基、1,3-プロパンジオール残基、1,2-ブタンジオール残基、1,3-ブタンジオール残基、2-メチル-1,3-プロパンジオール残基、1,4-ブタンジオール残基、1,5-ペンタンジオール残基、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)残基、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロ-ルペンタン)残基、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロールヘプタン)残基、3-メチル-1,5-ペンタンジオール残基、1,6-ヘキサンジオール残基、2,2,4-トリメチル1,3-ペンタンジオール残基、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール残基、2-メチル-1,8-オクタンジオール残基、1,9-ノナンジオール残基、1,10-デカンジオール残基、1,12-ドデカンジオール残基、1,2-テトラデカンジオール残基、1,2-ドデカンジオール残基等が挙げられる。
【0021】
Gの炭素原子数2~20の脂肪族ジオール残基は、脂環構造を含んでもよく、当該脂環構造を含む炭素原子数2~20の脂肪族ジオール残基としては、例えば1,3-シクロペンタンジオール残基、1,2-シクロヘキサンジオール残基、1,3-シクロヘキサンジオール残基、1,4-シクロヘキサンジオール残基、1,2-シクロヘキサンジメタノール残基、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基等が挙げられる。
【0022】
Gの炭素原子数2~20の脂肪族ジオール残基は、エーテル結合(-O-)を含んでもよく、当該エーテル結合を含む炭素原子数2~20の脂肪族ジオール残基としては、例えばジエチレングリコール残基、トリエチレングリコール残基、テトラエチレングリコール残基、ジプロピレングリコール残基、トリプロピレングリコール残基等が挙げられる。
【0023】
Gは、好ましくは炭素原子数2~14の脂肪族ジオール残基であり、より好ましくはエチレングリコール残基、ジエチレングリコール残基、1,2-プロピレングリコール残基、1,6-ヘキサンジオール残基、3-メチル-1,5-ペンタンジオール残基、1,4-ブタンジオール残基、1,3-ブタンジオール残基又は、1,2-テトラデカンジオール残基、1,2-ドデカンジオール残基である。
【0024】
Aの脂肪族ジカルボン酸残基の脂肪鎖は、直鎖でも分岐状でもよく、脂環構造および/又はエーテル結合を含んでもよい。また、Aの脂肪族ジカルボン酸残基の脂肪鎖は、飽和の脂肪鎖でもよく、炭素炭素不飽和結合を有する不飽和の脂肪鎖でもよい。
【0025】
Aの炭素原子数2~10の脂肪族ジカルボン酸残基としては、マロン酸残基、コハク酸残基、グルタル酸残基、アジピン酸残基、ピメリン酸残基、スベリン酸残基、アゼライン酸残基、セバシン酸残基、ドデカンジカルボン酸残基、マレイン酸残基、フマル酸残基、1,2-ジカルボキシシクロヘキサン残基、1,2-ジカルボキシシクロヘキセン残基等が挙げられ、好ましくはコハク酸残基、グルタル酸残基、アジピン酸残基又はセバシン酸残基である。
【0026】
Aの炭素原子数2~10の脂肪族ジカルボン酸残基は、好ましくは炭素原子数4~10の脂肪族ジカルボン酸残基である。エステル結合間の距離を炭素数4~10とすることで、水分の影響を低減することができ、後述する無機フィラー含有組成物のベース成分との反応性を抑えることができる。
【0027】
X1およびX2の炭素原子数2~10の脂肪族多塩基酸残基の脂肪鎖は、直鎖でも分岐状でもよく、脂環構造および/又はエーテル結合を含んでもよい。
【0028】
X1およびX2の炭素原子数2~10の脂肪族多塩基酸残基は、好ましくは炭素原子数2~10の脂肪族ジカルボン酸残基であり、当該炭素原子数2~10の脂肪族ジカルボン酸残基としては、コハク酸残基、グルタル酸残基、アジピン酸残基、ピメリン酸残基、スベリン酸残基、アゼライン酸残基、セバシン酸残基、ドデカンジカルボン酸残基、マレイン酸残基、フマル酸残基、1,2-ジカルボキシシクロヘキサン残基、1,2-ジカルボキシシクロヘキセン残基等が挙げられ、好ましくはコハク酸残基、グルタル酸残基、アジピン酸残基、セバシン酸残基又はドデカンジカルボン酸残基である。
【0029】
X1およびX2の炭素原子数6~15の芳香族多塩基酸残基は、好ましくは炭素原子数6~15の芳香族ジカルボン酸残基、炭素原子数6~15の芳香族トリカルボン酸残基又は炭素原子数6~15の芳香族テトラカルボン酸残基であり、これらの具体例としては、フタル酸残基、トリメリット酸残基、ピロメリット酸残基等が挙げられる。
【0030】
X1およびX2は、好ましくは炭素原子数2~10の脂肪族ジカルボン酸残基であり、より好ましくは炭素原子数5~10の脂肪族ジカルボン酸残基である。
【0031】
Yの炭素原子数1~20のモノカルボン酸残基は、例えば炭素原子数1~20の脂肪族モノカルボン酸残基、炭素原子数1~20の芳香族モノカルボン酸残基のいずれでもよく、好ましくは炭素原子数1~20の脂肪族モノカルボン酸残基である。
【0032】
Yが炭素原子数1~20の脂肪族モノカルボン酸残基である場合、当該炭素原子数1~20の脂肪族モノカルボン酸残基の脂肪鎖は、直鎖でも分岐状でもよく、脂環構造および/又はエーテル結合を含んでもよい。また、当該炭素原子数1~20の脂肪族モノカルボン酸残基の脂肪鎖は、飽和の脂肪鎖でもよく、炭素炭素不飽和結合を有する不飽和の脂肪鎖でもよい。
【0033】
Yの炭素原子数1~20のモノカルボン酸残基としては、酢酸残基、プロピオン酸残基、ブタン酸残基、ヘキサン酸残基、オクタン酸残基、オクチル酸残基、安息香酸残基、ジメチル安息香酸残基、トリメチル安息香酸残基、テトラメチル安息香酸残基、エチル安息香酸残基、プロピル安息香酸残基、ブチル安息香酸残基、クミン酸残基、パラターシャリブチル安息香酸残基、オルソトルイル酸残基、メタトルイル酸残基、パラトルイル酸残基、エトキシ安息香酸残基、プロポキシ安息香酸残基、アニス酸残基等が挙げられる。
【0034】
Zの炭素原子数2~30のモノアルコール残基は、例えば炭素原子数2~30の脂肪族モノアルコール残基、炭素原子数6~30の芳香族モノアルコール残基のいずれでもよく、好ましくは炭素原子数2~30の脂肪族モノアルコール残基である。
【0035】
Zが炭素原子数2~30の脂肪族モノアルコール残基である場合、当該炭素原子数2~30の脂肪族モノアルコール残基の脂肪鎖は、直鎖でも分岐状でもよく、脂環構造および/又はエーテル結合を含んでもよい。また、当該炭素原子数2~30の脂肪族モノアルコール残基の脂肪鎖は、飽和の脂肪鎖でもよく、炭素炭素不飽和結合を有する不飽和の脂肪鎖でもよい。
【0036】
Zの炭素原子数2~30のモノアルコール残基は、好ましくは炭素原子数2~10のアルキルアルコール残基又は炭素原子数5~30のポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルのアルコール残基である。
【0037】
Zの炭素原子数2~10のアルキルアルコール残基としては、エタノール残基、プロパノール残基、ブタノール残基、ペンタノール残基、ヘキサノール残基、シクロヘキサノール残基、ヘプタノール残基、オクタノール残基、ノナノール残基、デカノール残基等が挙げられる。
【0038】
Zの炭素原子数5~30のポリアルキレングリコールアルキルエーテルのアルコール残基としては、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等のポリエチレングリコールアルキルエーテル;ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノエチルエーテル等のポリプロピレングリコールアルキルエーテル;(ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール)モノアルキルエーテル等のアルコール残基が挙げられる。
【0039】
nの繰り返し数の平均値は、好ましくは0~20の範囲であり、より好ましくは0.2~15の範囲であり、より好ましくは0.5~10の範囲である。
nの繰り返し数の平均値は、本発明のポリエステルの数平均分子量から算出することができる。
【0040】
pはX1の脂肪族多塩基酸残基又は芳香族多塩基酸残基の塩基酸官能基の数から1つ減じた整数であり、qはX2の脂肪族多塩基酸残基又は芳香族多塩基酸残基の塩基酸官能基の数から1つ減じた整数である。従って、例えばX1およびX2が、それぞれ独立に、炭素原子数2~10の脂肪族ジカルボン酸残基である場合、X1およびX2が有する塩基酸官能基(カルボキシル基)の数はそれぞれ2となり、p及びqはそれぞれ1となって、前記一般式(1-1)および(1-2)は以下のようになる。
【0041】
【0042】
本発明のポリエステルは前記一般式(1-1)又は(1-2)を満たすポリエステルであればよく、互いに構造が異なる2種以上のポリエステルの混合物として使用されてもよい。
【0043】
本発明のポリエステルの数平均分子量(Mn)は、例えば500~5,000の範囲であり、好ましくは1,000~4,000の範囲であり、より好ましくは1,500~4,000の範囲の範囲であり、さらに好ましくは1,500~3,500の範囲である。数平均分子量の下限を1,500以上とすることで流動性改善効果が特に期待できる。
上記数平均分子量(Mn)はゲルパーミエージョンクロマトグラフィー(GPC)測定に基づきポリスチレン換算した値であり、実施例に記載の方法により測定する。
【0044】
本発明のポリエステルの酸価は、3~400mgKOH/gの範囲であり、好ましくは3~100mgKOH/gの範囲であり、より好ましくは3~50KOH/gの範囲である。本発明のポリエステルの酸価がこの範囲にあることによって、無機フィラーとの相互作用によって流動性改善効果が効果的に発現される。
上記ポリエステルの酸価は実施例に記載の方法により確認する。
【0045】
本発明のポリエステルの水酸基価は9mgKOH/g未満であり、好ましくは8mgKOH/g以下であり、より好ましくは7mgKOH/g以下である。本発明のポリエステルの水酸基価が9.0mgKOH/g未満であることで、後述する無機フィラー含有組成物に含まれるベース成分に対するポリエステルの親和性および反応性が低減され、組成物全体の増粘を抑制することができる。
本発明のポリエステルの水酸基価の下限は、例えば0mgKOH/g以上又は1mgKOH/g以上である。
上記ポリエステルの水酸基価は実施例に記載の方法により確認する。
【0046】
本発明のポリエステルの性状は、数平均分子量や組成などによって異なるが、好ましくは室温で液体である。
ここで「室温で液体」とは、室温25℃において本発明のポリエステルが流動性を示す性状であることを意味する。
【0047】
本発明のポリエステルは、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族多塩基酸および/又は芳香族多塩基酸、並びに、モノアルコールおよび/又はモノカルボン酸を含む反応原料を用いて得られる。ここで反応原料とは、本発明のポリエステルを構成する原料という意味であり、ポリエステルを構成しない溶媒や触媒を含まない意味である。
本発明のポリエステルの製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができ、後述する製造方法により製造することができる。
【0048】
本発明のポリエステルの反応原料は、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族多塩基酸および/又は芳香族多塩基酸、並びに、モノアルコールおよび/又はモノカルボン酸を含めばよく、その他の原料を含んでもよい。
本発明のポリエステルの反応原料は、反応原料の全量に対して好ましくは90質量%以上が脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族多塩基酸および/又は芳香族多塩基酸、並びに、モノアルコールおよび/又はモノカルボン酸であり、より好ましくは脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族多塩基酸および/又は芳香族多塩基酸、並びに、モノアルコールおよび/又はモノカルボン酸のみからなる。
【0049】
本発明のポリエステルの製造に用いる脂肪族ジオールは、Gの炭素原子数2~20の脂肪族ジオール残基に対応する脂肪族ジオールであり、使用する脂肪族ジオールは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明のポリエステルの製造に用いる脂肪族ジカルボン酸は、Aの炭素原子数2~10の脂肪族ジカルボン酸残基に対応する脂肪族ジカルボン酸であり、使用する脂肪族ジカルボン酸は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明のポリエステルの製造に用いる脂肪族多塩基酸は、X1およびX2の炭素原子数2~10の脂肪族多塩基酸残基に対応する脂肪族多塩基酸であり、使用する脂肪族多塩基酸は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明のポリエステルの製造に用いる芳香族多塩基酸は、X1およびX2の炭素原子数6~15の芳香族多塩基酸残基に対応する芳香族多塩基酸であり、使用する芳香族多塩基酸は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明のポリエステルの製造に用いるモノカルボン酸は、Yの炭素原子数1~20のモノカルボン酸残基に対応するモノカルボン酸であり、使用するモノカルボン酸は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明のポリエステルの製造に用いるモノアルコールは、Zの炭素原子数2~30のモノアルコール残基に対応するモノアルコールであり、使用するモノアルコールは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
反応原料である多塩基酸(脂肪族多塩基酸および/又は芳香族多塩基酸)が脂肪族ジカルボン酸である場合、反応原料は脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、モノアルコールおよび/又はモノカルボン酸を含めばよい。
【0051】
本発明のポリエステルの製造に用いるモノカルボン酸として、水添植物油脂肪酸を使用してもよい。当該水添植物油脂肪酸としては、水添ヤシ油脂肪酸、水添パーム核油脂肪酸、水添パーム油脂肪酸、水添オリーブ油脂肪酸、水添ヒマシ油脂肪酸、水添ナタネ油脂肪酸等が挙げられる。これらは、それぞれヤシ、パーム核、パーム、オリーブ、ヒマシ、ナタネから得られる油剤を加水分解及び水素添加して得られるものであり、いずれも炭素原子数8~21の脂肪族モノカルボン酸を含む2種以上の長鎖脂肪族モノカルボン酸の混合物である。
尚、本発明のポリエステルの製造に用いるモノカルボン酸として、本発明の効果を損なわない範囲で水素添加をしていない上記植物油脂肪酸を用いてもよい。また、植物油脂肪酸は上記に限定されない。
【0052】
本発明のポリエステルが、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族多塩基酸および/又は芳香族多塩基酸、並びに水添植物油脂肪酸を反応原料とするポリエステルの場合、得られるポリエステルは、2種以上の前記一般式(1-1)で表されるポリエステルの混合物として得られる。
【0053】
本発明のポリエステルの製造に用いる脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族多塩基酸、芳香族多塩基酸、モノアルコールおよびモノカルボン酸は、いずれもその誘導体を用いることができる。当該誘導体としては、例えばエステル化物、酸塩化物、酸無水物、環状エステル等が挙げられる。
例えば、エポキシ化合物は、カルボン酸との反応の際に開環してジオールとなるため、本発明の反応原料に用いる脂肪族ジオールの誘導体として脂肪族エポキシ化合物を用いてもよい。
【0054】
前記一般式(1-1)で表されるポリエステルは、例えば脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸と脂肪族多塩基酸および/又は芳香族多塩基酸とモノカルボン酸とを、カルボキシル基の当量が水酸基の当量よりも多くなるように設定して、一括で仕込んで反応させることによって製造することができる。また、前記一般式(1-1)で表されるポリエステルは、例えば脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸を任意の当量比で反応させた後、得られたポリエステルの末端水酸基をモノカルボン酸並びに脂肪族多塩基酸および/又は芳香族多塩基酸と反応させ、水酸基をカルボン酸残基で封止することでも製造できる。
【0055】
前記一般式(1-2)で表されるポリエステルは、例えば脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸と脂肪族多塩基酸および/又は芳香族多塩基酸とモノアルコールとを、カルボキシル基の当量が水酸基の当量よりも多くなるように設定して、一括で仕込んで反応させることによって製造することができる。また、前記一般式(1-2)で表されるポリエステルは、例えば脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸を任意の当量比で反応させた後、得られたポリエステルの末端をモノアルコール並びに脂肪族多塩基酸および/又は芳香族多塩基酸と反応させることでも製造できる。
【0056】
本発明のポリエステルの製造において、前記反応原料の反応は、必要に応じてエステル化触媒の存在下で、例えば170~250℃の温度範囲内で10~25時間の範囲でエステル化反応させるとよい。
尚、エステル化反応の温度、時間などの条件は特に限定されず、適宜設定してよい。
【0057】
前記エステル化触媒としては、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタン系触媒;酢酸亜鉛等の亜鉛系触媒;オクチル酸錫、ジブチル錫オキサイド等のスズ系触媒;p-トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸系触媒などが挙げられる。
【0058】
前記エステル化触媒の使用量は、適宜設定すればよいが、通常、反応原料の全量100質量部に対して、0.0001~0.1質量部の範囲で使用する。
【0059】
[無機フィラー含有組成物]
本発明の無機フィラー流動性改質剤は、無機フィラーを含有する組成物(無機フィラー含有組成物)の無機フィラーの流動性改質剤として機能できる。本発明の無機フィラー流動性改質剤を含むことで、組成物の無機フィラー充填量を高めることができ、ハンドリング性、成形性等も向上させることができる。
以下、本発明の無機フィラー含有組成物が含む各成分について説明する。
【0060】
(無機フィラー)
本発明の無機フィラー含有組成物が含有する無機フィラーとしては、特に限定されず、例えば炭酸カルシウム、タルク、シリカ、クレー、酸化アンチモン、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、珪酸カルシウム、酸化マグネシウム、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、酸化チタン、酸化カルシウム、二酸化マンガン、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等が挙げられる。
前記無機フィラーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
前記無機フィラーは、好ましくは炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、タルク、酸化マグネシウム、窒化ホウ素および窒化アルミニウムからなる群から選択される1種以上であり、より好ましくは炭酸カルシウム、アルミナ、水酸化アルミニウム、タルク、酸化マグネシウムからなる群から選択される1種以上である。
【0062】
前記無機フィラーの粒径、繊維長、繊維径等の形状は特に限定されず、目的とする用途に応じて適宜調整するとよい。また、前記無機フィラーの表面処理状態も特に限定されず、目的とする用途に応じて例えば飽和脂肪酸等で表面修飾をしてもよい。
【0063】
無機フィラーの含有量は、特に制限されないが、無機フィラー含有組成物の固形分全体の例えば40~98質量%であり、好ましくは45~95質量%であり、さらに好ましくは55~95質量%である。
ここで「固形分」とは、水、溶媒等の揮発する物質以外の無機フィラー含有組成物中の成分のことをいう。尚、固形分は、25℃付近の室温で液状、水飴状又はワックス状のものも含み、必ずしも固体であることを意味するものではない。
【0064】
本発明の無機フィラー流動性改質剤の含有量は、特に限定されないが、例えば無機フィラー100質量部に対して本発明の無機フィラー流動性改質剤0.01~30質量部の範囲であり、好ましくは無機フィラー100質量部に対して本発明の無機フィラー流動性改質剤0.05~10質量部の範囲であり、より好ましくは無機フィラー100質量部に対して本発明の無機フィラー流動性改質剤0.1~5.0質量部の範囲である。
【0065】
(可塑剤)
本発明の無機フィラー含有組成物は、好ましくは可塑剤を含む。
前記可塑剤としては、例えば、ジエチレングリコールジベンゾエート等の安息香酸エステル;フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ジウンデシル(DUP)、フタル酸ジトリデシル(DTDP)等のフタル酸エステル;テレフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOTP)等のテレフタル酸エステル;イソフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOIP)等のイソフタル酸エステル;ピロメリット酸テトラ-2-エチルヘキシル(TOPM)等のピロメリット酸エステル;アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、アジピン酸ジイソデシル(DIDA)、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOS)、セバシン酸ジイソノニル(DINS)等の脂肪族二塩基酸エステル;リン酸トリ-2-エチルヘキシル(TOP)、リン酸トリクレジル(TCP)等のリン酸エステル;ペンタエリスリトール等の多価アルコールのアルキルエステル;アジピン酸等の2塩基酸とグリコールとのポリエステル化によって合成された分子量800~4,000のポリエステル;エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化エステル;ヘキサヒドロフタル酸ジイソノニルエステル等の脂環式二塩基酸;ジカプリン酸1.4-ブタンジオール等の脂肪酸グリコールエステル;アセチルクエン酸トリブチル(ATBC);パラフィンワックスやn-パラフィンを塩素化した塩素化パラフィン;塩素化ステアリン酸エステル等の塩素化脂肪酸エステル;オレイン酸ブチル等の高級脂肪酸エステル;ペンタエリスリトールエステル、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジブチルカルビトールアジペート等のエーテルエステル系等が挙げられる。
使用する可塑剤は目的とする用途に応じて決定すればよく、上記可塑剤を1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0066】
前記可塑剤の含有量は、特に限定されないが、例えば無機フィラー100質量部に対して可塑剤5~300質量部の範囲であり、好ましくは無機フィラー100質量部に対して可塑剤10~200質量部の範囲である。
【0067】
本発明の無機フィラー含有組成物が含有する添加剤は、本発明の無機フィラー流動性改質剤、前記可塑剤に限定されず、これら以外のその他添加剤を含んでもよい。
前記その他添加剤としては、例えば、減粘剤、難燃剤、安定剤、安定化助剤、着色剤、加工助剤、充填剤、酸化防止剤(老化防止剤)、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、架橋助剤等を例示することができる。
【0068】
(ベース成分)
本発明の無機フィラー含有組成物は、ベース成分として樹脂を含有するとよく、当該樹脂としては、特に限定されず、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリサルファイド、ポリ塩化ビニル、変成ポリサルファイド、シリコーン樹脂、変成シリコーン樹脂、アクリルウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリイソシアネート、アクリル樹脂、ポリエステル、不飽和ポリエステル等が挙げられる。
使用する樹脂は目的とする用途に応じて決定すればよく、上記樹脂を1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
本発明の無機フィラー含有組成物が含有する樹脂がポリイソシアネートである場合、本発明の無機フィラー流動性改質剤の流動性改善効果が特に期待できる。
ポリイソシアネートは分子中にイソシアネート基(-N=C=O)を有する樹脂の総称である。イソシアネート基は水酸基との高い反応性を有するが、本発明の無機フィラー流動性改質剤はイソシアネート基との反応性が低減されているので、組成物の増粘を抑えることができる。
【0070】
本発明の無機フィラー含有樹脂組成物のベース成分は樹脂に限定されず、ひまし油、アスファルト等の粘性化合物であっても本発明の無機フィラー流動性改質剤を好適に使用することができる。
【0071】
前記ベース成分(樹脂および/又は粘性化合物)の含有量は、特に限定されないが、例えば無機フィラー100質量部に対して2~150質量部の範囲であり、好ましくは無機フィラー100質量部に対して5~85質量部の範囲である。
【0072】
本発明の無機フィラー含有組成物は、使用の際に流動性を必要とするペースト状樹脂組成物として好適に使用できる。
本発明の無機フィラー流動性改質剤は、組成物の粘度を低減し、且つ、無機フィラーの充填量を高めることができることから、塗料、接着剤、構造材等に適用することができ、フィラー含有率の増加が望まれている構造材(建材)や、フィラーの含有率が特に高いポリサルファイド系シーリング材に好適である。
【0073】
以下、本発明の無機フィラー含有組成物をペースト状樹脂組成物として使用する場合の用途別の組成例について説明する。
【0074】
(構造材)
前記構造材に用いる無機フィラー含有組成物が含有する樹脂としては、ポリオレフィン、ポリウレタン、不飽和ポリエステル等が挙げられる。
構造材(建材)に用いる樹脂は用途によって異なり、例えば防水材であれば樹脂成分はポリウレタンが主に使用され、人工大理石であれば不飽和ポリエステルが主に使用される。
【0075】
構造材が防水材である場合、防水材に用いる無機フィラー含有組成物(以下、単に「防水材組成物」という場合がある)は、例えばイソシアネート基含有化合物を含む主剤成分と、芳香族ポリアミン、ポリオール、水および湿分からなる群から選択される1種以上を含む硬化剤成分とを含有するポリウレタン組成物であると好ましい。
【0076】
主剤成分が含むイソシアネート基含有化合物としては、ジフェニルメタンジイソシアネート構造を有するポリイソシアネートと、ポリオールとを反応させて得られるイソシアネート基末端ポリウレタンプレポリマーが好ましい。
上記ポリイソシアネートとしては、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネートが挙げられる。なかでも、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートと、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートおよび/または2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネートとからなるイソシアネート混合物が好ましい。
上記ポリオールとしては、ポリオキシプロピレンポリオールが好ましく、ポリオキシポリプロピレンジオール単独もしくはポリオキシプロピレンジオールとポリオキシプロピレントリオールの混合物がより好ましい。
【0077】
上記イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーにおける、ポリイソシアネートとポリオールとの比は、イソシアネート基と水酸基とのモル比(NCO/OH)で1.8~2.5の範囲が好ましい。また、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーにおける、イソシアネート基含有量(NCO基含有率)は、2~5質量%の範囲が好ましい。
【0078】
硬化剤成分が含む芳香族ポリアミンとしては、4,4’-メチレンビス(2-クロロアニリン)、ジメチルチオトルエンジアミン、ジエチルトルエンジアミン等が挙げられる。これらのうち、4,4’-メチレンビス(2-クロロアニリン)は、「MOCA」として知られ、広く利用されている。
【0079】
硬化剤成分が含むポリオールとしては、ポリエーテルポリオールが好ましく、ポリオキシプロピレンポリオールが特に好ましい。このポリオールの官能基数は2~4の範囲が好ましく、2~3の範囲がより好ましい。
【0080】
ポリウレタンが二液硬化型である場合、主剤と硬化剤の混合比は、主剤が含むイソシアネート基と硬化剤が含む活性水素含有基とのモル比(NCO/(NH2+OH))が、例えば1.0~2.0の範囲であり、1.0~1.8の範囲が好ましくは、1.0~1.3の範囲がより好ましい。
【0081】
硬化剤成分は、無機フィラーを含むとよく、当該無機フィラーとしては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、カーボン等が挙げられる。
ポリウレタン組成物における無機フィラーの含有量は、例えば樹脂成分100質量部に対して10~60質量部の範囲とするとよく、20~50質量部の範囲とすると好ましい。無機フィラーの含有量を当該範囲とすることで、組成物の硬化性と得られる防水材の性能とのバランスを良好とすることができる。
【0082】
二液硬化型ポリウレタンの場合、通常、主剤と硬化剤の粘度がいずれも高く(主剤:例えば7~10Pa・Sの範囲、硬化剤:例えば10~30Pa・Sの範囲)、気温が下がる冬場は粘度がさらに上昇することから、無機フィラーの分散性を向上させ、含有量を向上させることができる本発明の無機フィラー流動性改質剤は有用である。
本発明の無機フィラー流動性改質剤は、防水材用組成物に含まれていればよい。例えば上記二液硬化型ポリウレタンである場合、本発明の無機フィラー流動性改質剤は、主剤成分および硬化剤成分の少なくとも一方に含まれればよい。
【0083】
ウレタン化反応を促進するため、硬化剤成分は公知の硬化触媒を含んでもよい。当該硬化触媒としては、有機酸鉛、有機酸錫、3級アミン化合物等が挙げられる。
【0084】
硬化剤成分は、無機フィラーおよび硬化触媒のほかに、前記減粘剤、前記可塑剤、酸化クロム、酸化チタン、フタロシアニン等の顔料;酸化防止剤、紫外線吸収材、脱水剤等の安定剤等を含んでもよい。
【0085】
防水材用組成物を成形して得られる防水材としては、例えば屋上用防水材が挙げられる。
上記屋上用防水材は、例えば主剤成分と硬化剤成分を混合した組成物を所望の箇所に塗布して塗膜を形成し、反応硬化させることにより得られる。
【0086】
(シーリング材)
前記ポリサルファイド系シーリング材に用いるポリサルファイド系樹脂は、分子内にスルフィド結合を有する樹脂であれば特に制限されるものではなく、例えば、スルフィド結合にアルキル基のような炭化水素基が結合しているものが挙げられる。ポリサルファイド樹脂は、骨格中に例えば、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、イミド基を有していてもよい。
【0087】
ポリサルファイド系樹脂が骨格内にエーテル結合を有する場合、ポリサルファイドポリエーテル樹脂となる。ポリサルファイド樹脂は片末端または両末端に、例えば、チオール基、ヒドロキシ基、アミノ基等の官能基を有していてもよい。
【0088】
ポリサルファイド系樹脂としては、例えば、主鎖中に-(C2H4OCH2OC2H4-Sx)-(xは1~5の整数である。)で表される構造単位を含有し、かつ末端に-C2H4OCH2OC2H4-SHで表されるチオール基を有するものを挙げることができる。
【0089】
ポリサルファイド系樹脂は室温、具体的には25℃で流動性を有するのが好ましい。ポリサルファイド樹脂の数平均分子量(Mn)は通常100~200,000であり、好ましくは400~50,000以下である。
【0090】
また、前記ポリサルファイド系樹脂としては、ポリサルファイドポリエーテル樹脂も挙げられる。ポリサルファイドポリエーテル樹脂としては、具体的には、チオール基含有ポリサルファイドポリエーテル樹脂が挙げられ、例えば、主鎖中に、(1)「-(R1O)n」(R1は炭素原子数2~4のアルキレン基を表し、nは6~200の整数を示す。)で表されるポリエーテル部分と、(2)「-C2H4OCH2OC2H4-Sx-」および(3)「-CH2CH(OH)CH2-Sx-」(前記xは1~5の整数である。)で示される構造単位を含み、かつ、末端に、(4)「-C2H4OCH2OC2H4-SH」又は「-CH2CH(OH)CH2-SH」で表されるチオール基を有するもの等が挙げられる。
【0091】
前記ポリサルファイドポリエーテル樹脂の数平均分子量は通常600~200,000であり、好ましくは800~50,000である。
【0092】
前記ポリサルファイド系樹脂は製造方法に制限はなく、種々の公知の方法により製造したものを用いることができる。また、ポリサルファイド系樹脂は市販品を使用することもできる。ポリサルファイド樹脂の市販品としては、例えば、「チオコールLP-23、LP-32」(東レ・ファインケミカル株式会社製)、「THIOPLASTポリマー」(AKZO NOBEL社製)等が挙げられる。ポリサルファイド系樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0093】
本発明の無機フィラー流動性改質剤を含むポリサルファイド系シーリング材には、その他各種添加剤等を併用することができる。添加剤としては、例えば、前記減粘剤、前記可塑剤、接着性付与剤、顔料、染料、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、粘着付与樹脂、安定剤、分散剤等が挙げられる。
【0094】
前記接着性付与剤としては、例えば、アミノシランなどのシランカップリング剤が特にガラス面への接着性を向上させる効果に優れ、更に汎用化合物であることから好適に挙げられる。
前記アミノシランとしては、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルエチルジエトキシシラン、ビストリメトキシシリルプロピルアミン、ビストリエトキシシリルプロピルアミン、ビスメトキシジメトキシシリルプロピルアミン、ビスエトキシジエトキシシリルプロピルアミン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルエチルジエトキシシラン等が挙げられる。
【0095】
前記顔料としては、アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料等の有機顔料等が挙げられる。
【0096】
前記染料としては、例えば、黒色染料、黄色染料、赤色染料、青色染料、褐色染料等が挙げられる。
【0097】
前記老化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物等が挙げられる。
【0098】
前記酸化防止剤としては、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が挙げられる。
【0099】
前記帯電防止剤としては、例えば、第四級アンモニウム塩;ポリグリコール、エチレンオキサイド誘導体等の親水性化合物等が挙げられる。
【0100】
前記難燃剤としては、例えば、クロロアルキルホスフェート、ジメチル・メチルホスホネート、臭素・リン化合物、アンモニウムポリホスフェート、ネオペンチルブロマイド-ポリエーテル、臭素化ポリエーテル等が挙げられる。
前記粘着性付与樹脂としては、例えば、テルペン樹脂、フェノール樹脂、テルペン-フェノール樹脂、ロジン樹脂、キシレン樹脂、エポキシ樹脂、アルキルチタネート類、有機ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0101】
前記安定剤としては、例えば、脂肪酸シリルエステル、脂肪酸アミドトリメチルシリル化合物等が挙げられる。
【0102】
分散剤は、固体を微細な粒子にして液中に分散させる物質をいい、ヘキサメタリン酸ナトリウム、縮合ナフタレンスルホン酸ナトリウム、界面活性剤等が挙げられる。
【0103】
前記ポリサルファイド系シーリング材は通常、使用直前に硬化剤と混合し使用される。硬化剤としては、例えば、金属酸化物、金属過酸化物、有機無機の酸化剤、エポキシ化合物、イソシアネート化合物等、一般にポリサルファイド樹脂系シーリング材に用いられる硬化剤が使用できる。なかでも二酸化鉛や二酸化マンガン等の金属過酸化物が好ましく、二酸化マンガンがより好ましい。本発明の流動性改質剤は、この硬化剤中に混合して用いることが好ましい。
【0104】
前記硬化剤として二酸化マンガンを使用する場合、その使用量は主剤として用いるポリサルファイド樹脂100質量部に対し、硬化が十分となり、且つ、適性な弾性を有する硬化物が得られることから、2.5~25質量部の範囲であるのが好ましく、3~20質量部の範囲であるのがより好ましい。
【0105】
前記硬化剤にはその他の充填剤、可塑剤、硬化促進剤、シランカップリング剤を含有することもできる。
【0106】
シーリング材として用いる場合の硬化条件としては、主剤と硬化剤を混合させた後、通常20~25℃である。また、硬化時間は通常24~168時間の範囲である。
【0107】
本発明の無機フィラー含有組成物は、上記ペースト状樹脂組成物に限定されず、射出成形、押出し成形等をする成形用樹脂組成物としても好適に使用できる。
成形用樹脂組成物の性状は様々で、成形前の段階(常温)で液状であったり、成型時の加熱によって液状としたりするが、本発明の無機フィラー流動性改質剤は、無機フィラーの流動性を向上させることができるので、無機フィラーを含むことによる過度な粘度上昇を抑制することができ、溶融混練等をスムーズに行うことができる。
【0108】
本発明の無機フィラー流動性改質剤は、無機フィラーの添加量を増やすこともできることから、無機フィラーの添加量を増やして物性を向上させることが望まれている、自動車用部材、衛生吸収物品、建材、ストーンペーパー、放熱部材等の成形用樹脂組成物に好適に使用できる。
【0109】
以下、本発明の無機フィラー含有組成物を成形用樹脂組成物として使用する場合の用途別の組成例について説明する。
【0110】
(自動車用部材)
自動車用部材に用いる成形用樹脂組成物(以下、単に「自動車部材用樹脂組成物」という場合がある)が含む樹脂成分としては、例えば熱可塑性樹脂であり、当該熱可塑性樹脂のなかでも優れた成形性、高い機械的強度、経済性などの特徴を有するポリプロピレン樹脂が好ましい。
上記ポリプロピレンは、特に限定されないが、MFR(230℃,2.16kg)が60~120g/10分のポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0111】
自動車部材用樹脂組成物は、樹脂成分としてオレフィン系熱可塑性エラストマーをさらに含んでもよい。当該オレフィン系熱可塑性エラストマーは、特に限定されないが、エチレン-α-オレフィン共重合体を含むものが好ましい。
【0112】
自動車部材用樹脂組成物が含む無機フィラーとしては、タルク、炭酸カルシウム、ウィスカ(前記ウィスカの材質としては、グラファイト、チタン酸カリウム、アルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ムライト、マグネシア、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、酸化亜鉛、ホウ化チタン等)、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブ、カオリンクレー、マイカ等が挙げられる。
【0113】
自動車部材用樹脂組成物は、本発明の無機フィラー流動性改質剤および無機フィラー以外の各種添加剤を含んでもよく、当該添加剤としては、前記減粘剤、前記可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃剤、着色剤等を挙げることができる。
【0114】
自動車部材用樹脂組成物が含む樹脂成分、無機フィラー、無機フィラー流動性改質剤等の組成比は特に限定されないが、下記物性のうち1つ以上を満たすような組成に調整すると好ましい。
自動車部材用樹脂組成物のMFR(230℃,2.16kg,JIS-K7210-1)は、20g/10分以上であることが好ましく、20~30g/10分の範囲であることがより好ましい。
自動車部材用樹脂組成物の線膨張係数(JIS-K7197)は、5.0×10-5/K以下であることが好ましく、4.0~5.0×10-5/Kであることがより好ましい。
自動車部材用樹脂組成物の引張弾性率(JIS-K7161)は、2.5GPa以上であることが好ましく、2.5~3.0GPaの範囲であることがより好ましい。
自動車部材用樹脂組成物のシャルピー衝撃値(JIS-K7111)は、30kJ/m2以上であることが好ましく、30~40kJ/m2の範囲であることがより好ましい。
【0115】
自動車部材用樹脂組成物を成形して得られる自動車用部材としては、ボンネットフード、フェンダー、バンパー、ドア、トランクリッド、ルーフ、ラジエータグリル、ホイールキャップ、インストルメントパネル、ピラーガーニッシュ等が挙げられる。
これらの自動車用部材は、自動車部材用樹脂組成物を射出成形することにより製造できる。
【0116】
(衛生吸収物品)
衛生吸収物品に用いる成形用樹脂組成物(以下、単に「衛生吸収物品用樹脂組成物」という場合がある)が含む樹脂成分としては、例えばポリオレフィンであり、当該ポリオレフィンのなかでも、ポリエチレンおよびポリプロピレンからなる群から選択される1種以上が好ましく、ポリエチレンがより好ましい。
樹脂成分としてポリエチレンを使用する場合、例えば密度が異なる2種以上のポリエチレンを使用してもよい。
【0117】
衛生吸収物品用樹脂組成物の樹脂成分であるポリオレフィンは、特に限定されないが、MFR(190℃,2.16kgf)が0.1~20g/10分の範囲が好ましく、0.5~5g/10分の範囲がより好ましい。
MFRを0.1g/10分以上とすることで、薄膜フィルムの成形性を十分に保持することができ、20g/10分以下とすることで、十分な強度を有することができる。
【0118】
衛生吸収物品用樹脂組成物は、樹脂成分としてポリスチレン系エラストマーをさらに含んでもよい。
上記ポリスチレン系エラストマーとしては、スチレン-オレフィン系(SEP,SEBCなど)、スチレン-オレフィン-スチレン系(SEPS,SEBSなど)、スチレン-ジエン系(SIS,SBSなど)、水添スチレン-ジエン系(HSIS,HSBRなど)のスチレンブロックを含むエラストマーが挙げられる。
これらポリスチレン系エラストマーにおけるスチレン成分は10~40質量%の範囲が好ましく、20~40質量%の範囲がより好ましい。
【0119】
衛生吸収物品用樹脂組成物が含む無機フィラーとしては、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、酸化チタンなどが挙げられ、炭酸カルシウムおよび硫酸バリウムからなる群から選択される1種以上であると好ましい。
これら無機フィラーの形状は特に限定されないが、粒子状であると好ましく、平均粒子径が0.1~10μmの範囲の微粒子であるとより好ましく、平均粒子径が0.3~5μmの範囲の微粒子であるとさらに好ましく、平均粒子径が0.5~3μmの範囲の微粒子であると特に好ましい。
【0120】
衛生吸収物品用樹脂組成物における無機フィラーの含有量は、例えばポリオレフィン:無機フィラー=60~20質量部:40~80質量部であると好ましく、ポリオレフィン:無機フィラー=55~25質量部:45~75質量部であるとより好ましく、ポリオレフィン:無機フィラー=50~30質量部:50~70質量部であるとさらに好ましい。
無機フィラーの含有量が上記範囲であれば、得られる衛生吸収物品の透湿性、通気性および耐透液性の全てを十分に担保することができる。
【0121】
衛生吸収物品用樹脂組成物は、本発明の無機フィラー流動性改質剤および無機フィラー以外の各種添加剤を含んでもよく、当該添加剤としては、前記可塑剤、減粘剤、相溶化剤、加工助剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、艶消し剤、界面活性剤、抗菌剤、消臭剤、帯電防止剤、撥水剤、撥油剤、放射線遮蔽剤、着色剤、顔料等を挙げることができる。
【0122】
衛生吸収物品用樹脂組成物を成形して得られる成形品は、紙おむつ、生理用ナプキン等の衛生吸収物品で使用されるバックシート(通気性および透湿性を有するが、液体は通さないシート)として好適に用いることができる。
上記バックシートは、例えば衛生吸収物品用樹脂組成物を溶融混練後、Tダイ法又はインフレーション法によってシートとした後、得られたシートを一軸または二軸延伸することにより製造できる。
【0123】
(ストーンペーパー)
ストーンペーパーとは、石灰石に由来する炭酸カルシウムとポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)を含んでなるシートであって、シートの成形に水および木材を必要とせず、原料である石灰石は地球上にほぼ無尽蔵に存在するため、持続可能性に優れるシートである。
ストーンペーパーは、炭酸カルシウムを多量に含むが、本発明の無機フィラー流動性改質剤により炭酸カルシウムの流動性を高めることができるので、シート物性を高めることができる。
【0124】
ストーンペーパーは、例えば炭酸カルシウム、ポリオレフィンおよび本発明の無機フィラー流動性改質剤を含むストーンペーパー組成物を溶融混練して、インフレーション成形又は押出し成形することにより製造することができる。
【0125】
ストーンペーパー組成物において、炭酸カルシウムの含有量は、ポリオレフィンと炭酸カルシウムの質量比(ポリオレフィン:炭酸カルシウム)で、例えば85:15~20:80であり、好ましくは85:15~30:70であり、より好ましくは85:15~35:65であり、さらに好ましくは80:20~40:60である。
【0126】
ストーンペーパー組成物は、前記可塑剤、減粘剤、発泡剤、色剤、滑剤、カップリング剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、帯電防止剤等を補助剤としてさらに含んでもよい。
【0127】
前記発泡剤としては、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素化合物;シクロヘキサン、シクロペンタン、シクロブタン等の脂環式炭化水素化合物;トリフルオロモノクロロエタン、ジフルオロジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素化合物等が挙げられる。
【0128】
前記滑剤としては、例えば、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、複合型ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸系滑剤;脂肪族アルコール系滑剤、ステアロアミド、オキシステアロアミド、オレイルアミド、エルシルアミド、リシノールアミド、ベヘンアミド、メチロールアミド、メチレンビスステアロアミド、メチレンビスステアロベヘンアミド、高級脂肪酸のビスアミド酸、複合型アミド等の脂肪族アマイド系滑剤;ステアリン酸-n-ブチル、ヒドロキシステアリン酸メチル、多価アルコール脂肪酸エステル、飽和脂肪酸エステル、エステル系ワックス等の脂肪族エステル系滑剤;脂肪酸金属石鹸系族滑剤等を挙げることができる。
【0129】
前記酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ペンタエリスリトール系酸化防止剤等が使用できる。
リン系酸化防止剤としては、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト等の亜リン酸のトリエステル、ジエステル、モノエステル等の亜リン酸エステル;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、2-エチルフェニルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル等を挙げることができる。
フェノール系の酸化防止剤としては、α-トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネイト、2-tert-ブチル-6-(3’-tert-ブチル-5'-メチル-2'-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネイトジエチルエステル、およびテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタン等が挙げられる。
【0130】
(放熱部材)
パソコン、スマートフォン、テレビ等の電子機器では高性能化に伴って発熱量が増加しており、発生した熱を効率よく放熱するために熱伝導性フィラーを含む放熱部材がよく用いられている。また、電気自動車、ハイブリッド車といった自動車も電子機器を多く備えており、熱伝導性フィラーを含む放熱部材が多く用いられている。
【0131】
放熱部材に用いる成形用樹脂組成物(以下、単に「放熱部材用樹脂組成物」という場合がある)が含む樹脂成分としては、例えば熱硬化性樹脂、活性エネルギー線硬化性樹脂、熱可塑性樹脂である。
【0132】
放熱部材用樹脂組成物の熱硬化性樹脂としては、公知の熱硬化性樹脂を用いることができ、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;未変性のレゾールフェノール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油等で変性した油変性レゾールフェノール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂;ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;脂肪鎖変性ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、ポリアルキレングルコール型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂;ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環を有する樹脂;(メタ)アクリル樹脂やビニルエステル樹脂等のビニル樹脂:不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂等が挙げられる。
【0133】
上記熱硬化性樹脂は、硬化剤ととも用いるとよい。
熱硬化性樹脂とともに用いる硬化剤としては、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、イミダゾ-ル、BF3-アミン錯体、グアニジン誘導体等のアミン系化合物;ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂等のアミド系化合物;無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等の酸無水物系化合物;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂(ザイロック樹脂)、レゾルシンノボラック樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂、ビフェニル変性ナフトール樹脂、アミノトリアジン変性フェノール樹脂、アルコキシ基含有芳香環変性ノボラック樹脂等のフェノ-ル系化合物等が挙げられる。
【0134】
放熱部材用樹脂組成物の熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂を用いることができ、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、フッ化樹脂、液晶ポリマー、オレフィン-ビニルアルコール共重合体、アイオノマー樹脂、ポリアリレート樹脂、アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体等が挙げられる。
【0135】
放熱部材用樹脂組成物が含有する熱伝導性フィラーとしては、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、ベリリア、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、水和金属化合物、溶融シリカ、結晶性シリカ、非結晶性シリカ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化チタン、ダイヤモンド等が挙げられる。
上記熱伝導性フィラーは、シラン系、チタネート系およびアルミネート系カップリング剤などで表面処理をしたものを用いてもよい。
【0136】
熱伝導性フィラーの形状は特に限定されず、球状、針状、フレーク状、樹枝状、繊維状のいずれでもよい。
【0137】
放熱部材用樹脂組成物における熱伝導性フィラーの含有量は用途により適宜調整でき、樹脂成分100質量部に対して、熱伝導性フィラーを30~5,000質量部の範囲とすることが好ましい。
【0138】
放熱部材用樹脂組成物は、本発明の無機フィラー流動性改質剤および熱伝導性フィラー以外の各種添加剤を含んでもよく、当該添加剤としては、染料、顔料、酸化防止剤、重合禁止剤、消泡剤、レベリング剤、イオン捕集剤、保湿剤、粘度調整剤、防腐剤、抗菌剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤等を挙げることができる。
【0139】
放熱部材用樹脂組成物が熱硬化性樹脂を含有する場合、放熱部材用樹脂組成物を加熱することで放熱部材を成形することができる。放熱部材用樹脂組成物が活性エネルギー線硬化性樹脂を含有する場合、紫外線や赤外線等の活性エネルギー線を照射することで硬化成形することができる。放熱部材用樹脂組成物が熱可塑性樹脂を含有する場合、射出成形、押出成形、プレス成形等の公知の成形方法により放熱部材を得ることができる。
【0140】
放熱部材用樹脂組成物を成形して得られる放熱部材は、ヒートシンクとして用いることができる。放熱部材用樹脂組成物を成形して得られる放熱部材は、放熱させたい部位と金属製放熱部材とを接合する放熱接合部材としても用いることができる。
【0141】
放熱部材用樹脂組成物は半導体封止材料としても用いることができる。
【0142】
(熱伝導性シリコーンシート)
上記放熱部材のなかでも、シリーン樹脂を用いた熱伝導性シリコーンシートは、その軽量さと高い熱伝導性から、電気自動車、モバイル端末、ウェラブル端末等の放熱部材に盛んに用いられている。当該熱伝導性シリコーンシートでは無機フィラーを高充填とした場合にシートの柔軟性が損なわれ、実装が困難になる問題があった。この問題について、本発明の無機フィラー流動性改質剤を用いることで、熱伝導を担う無機フィラーを高充填した場合であっても、無機フィラーの流動性が維持されてシートの柔軟性を保持することができ、熱伝導性が高く柔軟性に優れるシートを得ることができる。
【0143】
本発明の熱伝導性シリコーンシートは、シリコーン樹脂と、無機フィラーと、本発明の無機フィラー流動性改質剤とを含有する熱伝導性シリコーンシートであって、前記無機フィラーが、酸化マグネシウム、アルミナおよび水酸化アルミニウムからなる群から選択される1種以上である。
また、本発明の熱伝導性シリコーンシートにおいて、シリコーン樹脂と無機フィラーの質量比[シリコーン樹脂:無機フィラー]は、50:50~1:99の範囲にあり、無機フィラー流動性改質剤は、シリコーン樹脂と無機フィラーの合計量100質量部に対して0.1~5質量部の範囲で含有する。
【0144】
本発明の熱伝導性シリコーンシートは、無機フィラーが高充填であっても高い柔軟性を保持することができ、シリコーン樹脂と無機フィラーの質量比[シリコーン樹脂:無機フィラー]が20:80の時の熱伝導性シリコーンシートのシェアA硬度をH80とし、シリコーン樹脂と無機フィラーの質量比[シリコーン樹脂:無機フィラー]が10:90の時の熱伝導性シリコーンシートのシェアA硬度をH90としたとき、H90/H80≦1.30を満たすことができる。
尚、H90/H80の下限は例えば1.0であり、上記シェアA硬度の測定は、実施例に記載の方法で測定する。
【0145】
本発明の熱伝導性シリコーンシートのシリコーン樹脂は、熱伝導性シリコーンシートに用いられる公知のシリコーン樹脂を用いることができ、例えばアルケニル基含有オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンをヒドロシリル化反応により付加して得られるシリコーン樹脂が挙げられる。
【0146】
上記アルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、好ましくはケイ素原子に結合したアルケニル基を1分子中に2個以上有するオルガノポリシロキサンであり、シリコーン樹脂の主剤となるものである。主鎖部分が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなるのが一般的であるが、これは分子構造の一部に分枝状の構造を含んだものであってもよく、また環状体であってもよいが、硬化物の機械的強度等、物性の点から直鎖状のジオルガノポリシロキサンが好ましい。
【0147】
上記アルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等の炭素原子数2~8のアルケニル基が挙げられ、これらの中でもビニル基、アリル基が好ましく、ビニル基がより好ましい。
【0148】
アルケニル基含有オルガノポリシロキサンのケイ素原子に結合するアルケニル基以外の基としては、例えば炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~18のアリール基が挙げられ、これらアルキル基およびアリール基はさらにハロゲン原子および/又はシアノ基が置換していてもよい。
アルケニル基含有オルガノポリシロキサンのケイ素原子に結合するアルケニル基以外の基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、シアノエチル基、フェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基が挙げられる。
【0149】
アルケニル基含有オルガノポリシロキサンは、好ましくはアルケニル基が、1分子中に2個以上存在するオルガノポリシロキサンであり、得られる硬化物の柔軟性をよくする観点から、より好ましくは分子鎖末端のケイ素原子にのみにアルケニル基が結合しているオルガノポリシロキサンであり、さらに好ましくは下記一般式(2)で表される構造を有するオルガノポリシロキサンである。
【0150】
【化6】
(前記一般式(2)において、
R
2は、それぞれ独立に、炭素原子数1~3のアルキル基又はフェニル基であり、
Xは、それぞれ独立に、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基又はシクロヘキセニル基であり、
nは1以上の整数である。)
【0151】
アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの分子量は、25℃における動粘度が10~100,000mm2/sとなる分子量であればよく、好ましくは動粘度が300~50,000mm2/sの範囲となる分子量である。
尚、上記動粘度はオストワルド粘度計を用いた場合の25℃における値である。
【0152】
上記オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中に2個以上、好ましくは2~100個のケイ素原子に直接結合する水素原子(Si-H基)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンの架橋剤として作用する。即ち、オルガノハイドロジェンポリシロキサンのSi-H基とアルケニル基含有オルガノポリシロキサンのアルケニル基とをヒドロシリル化反応させることで、3次元網目構造のシリコーン樹脂とすることができる。
【0153】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、例えば下記一般式(3)で表される構造を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。
【0154】
【化7】
(前記一般式(3)において、
R
3は、それぞれ独立に、水素原子又は脂肪族不飽和結合を含まない1価の基であって、Rの少なくとも2つは水素原子であり、
nは1以上の整数である。)
【0155】
脂肪族不飽和結合を含まない1価の基としては、例えば炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~18のアリール基、炭素原子数7~18のアラルキル基が挙げられ、これらアルキル基、アリール基およびアラルキル基はさらにハロゲン原子および/又はシアノ基が置換していてもよい。
脂肪族不飽和結合を含まない1価の基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、クロロメチル基、ブロモエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、シアノエチル基、フェニル基、クロロフェニル基、フルオロフェニル基が挙げられる。
【0156】
前記一般式(3)のnは1以上の整数であればよく、好ましくは1~200の範囲の整数である。
【0157】
アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンとをヒドロシリル化反応によりシリコーン樹脂とする場合において、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンの反応比は、オルガノハイドロジェンポリシロキサンのSi-H基が、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンのアルケニル基1個に対して0.2個から2.0個となる量とすればよく、好ましくは0.3~1.5個となる量であり、さらに好ましくは0.5~1.0個となる量である。
【0158】
アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとオルガノハイドロジェンポリシロキサンとをヒドロシリル化反応する際に、必要に応じて白金族金属系硬化触媒を用いてヒドロシリル化反応を促進してもよい。
白金族金属系硬化触媒は公知の触媒を用いることができ、H2PtCl4・nH2O、H2PtCl6・nH2O、NaHPtCl6・nH2O、KaHPtCl6・nH2O、Na2PtCl6・nH2O、K2PtCl4・nH2O、PtCl4・nH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・nH2O(nは0~6の整数)等を用いることができる。
【0159】
本発明の熱伝導性シリコーンシートは、シリコーン樹脂成分(例えばアルケニル基含有オルガノポリシロキサンおよびオルガノハイドロジェンポリシロキサン)と、無機フィラーと、本発明の無機フィラー流動性改質剤とを含有するシリコーンシート組成物を、100~150℃、1~20分間、プレスしながら硬化することにより製造することができる。
【0160】
シリコーンシートの硬化は、2枚の樹脂フィルムでシリコーンシート組成物を挟持しながら実施することができ、当該樹脂フィルムとしては、貼り合わせ後の熱処理に耐えうる、熱変形温度が100℃以上のもの、例えば、PET、PBT、ポリカーボネート製のフィルムから適時選択して用いるとよい。
【0161】
シリコーンシート組成物は、シリコーン樹脂成分と、無機フィラーと、本発明の無機フィラー流動性改質剤とを含有すればよく、本発明の効果を損なわない範囲で、反応制御剤、内添離型剤、着色材、酸化防止剤等を配合してもよい。
【0162】
シリコーンシートの厚みは用途に応じて適宜設定すればよく、例えば0.1~10mmの範囲で適宜設定するとよい。
【実施例】
【0163】
以下、実施例と比較例とにより、本発明を具体的に説明する。
尚、本発明は下記実施例に限定されない。
【0164】
本願実施例において、酸価および水酸基価の値は、下記方法により評価した値である。
[酸価の測定方法]
JIS K0070-1992に準じた方法により測定した。
[水酸基価の測定方法]
JIS K0070-1992に準じた方法により測定した。
【0165】
本願実施例において、ポリエステルの数平均分子量は、GPC測定に基づきポリスチレン換算した値であり、測定条件は下記の通りである。
[GPC測定条件]
測定装置:東ソー株式会社製高速GPC装置「HLC-8320GPC」
カラム:東ソー株式会社製「TSK GURDCOLUMN SuperHZ-L」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM-M」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM-M」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ-2000」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ-2000」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「EcoSEC Data Analysis バージョン1.07」
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.35mL/分
測定試料:試料7.5mgを10mlのテトラヒドロフランに溶解し、得られた溶液をマイクロフィルターでろ過したものを測定試料とした。
試料注入量:20μl
標準試料:前記「HLC-8320GPC」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
【0166】
(単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A-300」
東ソー株式会社製「A-500」
東ソー株式会社製「A-1000」
東ソー株式会社製「A-2500」
東ソー株式会社製「A-5000」
東ソー株式会社製「F-1」
東ソー株式会社製「F-2」
東ソー株式会社製「F-4」
東ソー株式会社製「F-10」
東ソー株式会社製「F-20」
東ソー株式会社製「F-40」
東ソー株式会社製「F-80」
東ソー株式会社製「F-128」
東ソー株式会社製「F-288」
【0167】
(合成実施例1:流動性改質剤Aの合成)
温度計、攪拌器、および還流冷却器を付した内容積2リットルの4つ口フラスコに、グリコール成分として3-メチル-1,5-ペンタンジオール(以下「3MPD」と略す)358g、ジカルボン酸成分としてアジピン酸(以下「AA」と略す)496g、アルコール成分としてイソノニルアルコール(以下「INA」と略す)58gおよび触媒としてテトライソプロピルチタネート(以下「TIPT」と略す)0.03gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃になるまで6時間かけて段階的に昇温し、220℃になったところで16時間反応させた。水酸基価が9.0mgKOH/g未満となったことを確認後、減圧下200℃にて未反応原料および低揮発成分を除去することでポリエステルである流動性改質剤Aを得た。
得られた流動性改質剤Aは、常温で淡黄色液体であり、酸価が33mgKOH/g、水酸基価が4mgKOH/g、数平均分子量が2,430であった。
【0168】
(合成実施例2:流動性改質剤Bの合成)
温度計、攪拌器、および還流冷却器を付した内容積3リットルの4つ口フラスコに、グリコール成分として3MPD556g、ジカルボン酸成分としてセバシン酸(以下「SebA」と略す)1102g、アルコール成分としてINA116gおよび触媒としてTIPT0.05gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃になるまで6時間かけて段階的に昇温し、220℃になったところで12時間反応させた。水酸基価が9.0mgKOH/g未満となったことを確認後、減圧下200℃にて未反応原料および低揮発成分を除去することでポリエステルである流動性改質剤Bを得た。
得られた流動性改質剤Bは、常温で淡黄色液体であり、酸価が40mgKOH/g、水酸基価が6mgKOH/g、数平均分子量が2,200であった。
【0169】
(比較合成例1:流動性改質剤A’の合成)
温度計、攪拌器、および還流冷却器を付した内容積2リットルの4つ口フラスコに、グリコール成分として3MPD561g、ジカルボン酸成分としてSebA809g、および触媒としてTIPT0.04gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃になるまで5時間かけて段階的に昇温し、220℃になったところで12時間反応させた。この時、反応物の酸価は2以下であり、水酸基価は58であった。温度を125℃まで降温し、反応系に無水マレイン酸67gを加えた。125℃で3時間反応させ、無水マレイン酸の消失をIRで確認して、ポリエステルである流動性改質剤A’を得た。
得られた流動性改質剤A’は、常温で淡黄色液体であり、酸価が33mgKOH/g、水酸基価が27mgKOH/g、数平均分子量が2,450であった。
【0170】
(合成実施例3:流動性改質剤Cの合成)
温度計、攪拌器、および還流冷却器を付した内容積0.5リットルの4つ口フラスコに、流動性改質剤A’300g、無水酢酸22gを仕込み、100℃で6時間反応させた。その後、60℃でイオン交換水15gを加え、1時間反応させた。その後に減圧を開始して、120℃へ段階的に昇温して脱水を完了させることで、ポリエステルである流動性改質剤Cを得た。
得られた流動性改質剤Cは、常温で淡黄色液体であり、酸価が34mgKOH/g、水酸基価が6mgKOH/g、数平均分子量が2,520であった。
【0171】
(合成実施例4:流動性改質剤Dの合成)
温度計、攪拌器、および還流冷却器を付した内容積5リットルの4つ口フラスコに、グリコール成分として1,4-ブチレングリコール676g、ネオペンチルグリコール782g、ジカルボン酸成分としてアジピン酸2,456g、アルコール成分としてイソノニルアルコール260gおよび触媒としてテトライソプロピルチタネート0.13gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃になるまで5時間かけて段階的に昇温し、220℃になったところで21時間反応させた。水酸基価が9mgKOH/g未満となったことを確認後、減圧下200℃にて未反応原料および低揮発成分を除去することでポリエステルである流動性改質剤Dを得た。
得られた流動性改質剤Dは、常温で淡黄色液体であり、酸価が35mgKOH/g、水酸基価が7mgKOH/g、数平均分子量2,200であった。
【0172】
(合成実施例5:流動性改質剤Eの合成)
温度計、攪拌器、および還流冷却器を付した内容積2リットルの4つ口フラスコに、ジカルボン酸成分としてアジピン酸479g、グリコール成分として2-デシルオキシラン298gおよび2-ドデシルオキシラン234gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら155℃で3時間反応させ、エポキシ官能基を消失させた。グリコール成分として2-メチル-1,3-プロパンジオール25g、アルコール成分としてイソノニルアルコール72g、および触媒としてテトライソプロピルチタネート0.03gをさらに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら230℃になるまで3時間かけて段階的に昇温し、230℃になったところで17時間反応させた。水酸基価が9mgKOH/g未満となったことを確認後、減圧下220℃にて未反応原料および低揮発成分を除去することでポリエステルである流動性改質剤Eを得た。
得られた流動性改質剤Eは、常温で淡黄色液体であり、酸価が32mgKOH/g、水酸基価が1mgKOH/g、数平均分子量2,100であった。
【0173】
(比較合成例2:流動性改質剤B’の合成)
温度計、攪拌器、および還流冷却器を付した内容積2リットルの四つ口フラスコに、グリコール成分として1,3-ブタンジオールを459.3gおよびネオペンチルグリコールを48.7g、ジカルボン酸成分としてアジピン酸を616.2g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネートを0.112g仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃になるまで段階的に昇温することで、合計10時間縮合反応させた。反応後、150℃でハイドロキノンを0.056gおよび無水マレイン酸を44.2g仕込んで反応を完結させ、ポリエステルである流動性改質剤B’を得た。
得られた流動性改質剤B’は、常温で淡黄色液体であり、酸価が29mgKOH/g、水酸基価が120mgKOH/g、数平均分子量が950であった。
【0174】
(比較合成例3:流動性改質剤C’の合成)
温度計、攪拌器、および還流冷却器を付した内容積3リットルの四つ口フラスコに、グリコール成分として3-メチル-1,5-ペンタンジオールを1,214g、ジカルボン酸成分としてセバシン酸を966g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネートを0.07g仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃になるまで段階的に昇温することで、合計12時間縮合反応させた。反応後、125℃で無水マレイン酸を271g仕込み、反応を完結させることで、両末端にカルボキシル基を有するポリエステルである流動性改質剤C’を得た。
得られた流動性改質剤C’は、常温で淡黄色液体であり、酸価が55mgKOH/g、水酸基価が55mgKOH/g、数平均分子量が1,500であった。
【0175】
(比較合成例4:比較改質剤D’の合成)
温度計、攪拌器、および還流冷却器を付した内容積5リットルの4つ口フラスコに、グリコール成分として1,4-ブチレングリコール522g、ネオペンチルグリコール604g、ジカルボン酸成分としてアジピン酸1,913g、アルコール成分としてイソノニルアルコール446gおよび触媒としてテトライソプロピルチタネート0.11gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃になるまで5時間かけて段階的に昇温し、220℃になったところで20時間反応させた。減圧下200℃にて未反応原料および低揮発成分を除去することでポリエステルである比較改質剤D’を得た。
得られた比較改質剤D’は、常温で淡黄色液体であり、酸価が0.5mgKOH/g、水酸基価が10mgKOH/g、数平均分子量2,300がであった。
【0176】
(実施例1-4および比較例1-5:アルミニウムフィラー含有組成物の調製と評価)
無機フィラーとして球状アルミナ(デンカ株式会社製「DAW-07」/「DAW-45」)および水酸化アルミニウム、ベース成分としてポリプロピレングリコール(富士フイルム和光純薬株式会社製「PPG1000」)およびポリイソシアネート(DIC株式会社製「バーノックDN-980S」)、可塑剤としてエーテルエステル化合物(DIC株式会社製「モノサイザー W-260」)並びに流動性改質剤を表1に示す割合で配合し、遊星攪拌装置(THINKY ARV-310)で1,000rpmおよび0.2Paで2分間撹拌して、ペースト状の無機フィラー含有組成物を得た。
得られたペーストについて、下記方法で流動性を評価した。結果を表1に示す。
【0177】
(流動性の評価方法)
23℃において、得られたペースト0.4gを5cm×5cm×2mm厚のガラス基板上に秤取り、ガラス基板上のペーストを同じ大きさのガラス板で挟み込んだ。ガラス板上に500gの分銅を置いて荷重をかけた。この状態で1分間放置した後、荷重を除いた。2枚のガラス基板の間で流動して円形となったペーストの直径を計測した。流動性が良好なほど直径は大きくなる。
【0178】
【0179】
表中において「Bad」は、荷重後のペーストが流動せずに円形にならなかったため、直径を測定することができなかったことを意味する。
【0180】
(実施例5-7および比較例6-9:アルミニウムフィラー含有組成物の調製と評価)
無機フィラーとして球状アルミナ(デンカ株式会社製「DAW-07」/「DAW-45」)、ベース成分としてひまし油、並びに流動性改質剤を表2に示す割合で配合し、遊星攪拌装置(THINKY ARV-310)で1,000rpmおよび0.2Paで2分間撹拌して、ペースト状の無機フィラー含有組成物を得た。
得られたペーストについて、上記と同じ方法で流動性を評価した。結果を表2に示す。
【0181】
【0182】
表1および2の結果から、実施例の流動性改質剤は、ベース成分の種類に関係なく流動性改善効果が得られていることが分かる。一方、比較例の流動性改質剤は、ベース成分がひまし油の場合に流動性が大きく低下していることが分かる。
実施例の流動性改質剤について、無機フィラーの表面近傍にフィラー同士の接触を防ぐ流動性改質剤の層が安定的に存在することで流動性が改善すると推測される。ベース成分として水酸基を有する成分(例えばひまし油)である場合に、水酸基価の高い比較例の流動性改質剤では、水酸基を有するベース成分との親和性が高くなることから、フィラー近傍に偏在することができなくなり、流動性改善効果が見込めないことが分かる。
【0183】
(実施例8-11および比較例10-13:アルミニウムフィラー含有組成物の調製と評価)
無機フィラーとして球状アルミナ(デンカ株式会社製「DAW-07」/「DAW-45」)、ベース成分としてシリコーン樹脂(メチルフェニルシリコーンオイル、信越化学工業株式会社製「KF-54」)並びに流動性改質剤を表3に示す割合で配合し、遊星攪拌装置(THINKY ARV-310)で1,000rpmおよび0.2Paで2分間撹拌して、ペースト状の無機フィラー含有組成物を得た。
得られたペーストについて、上記と同じ方法で流動性を評価した。結果を表3に示す。
【0184】
【0185】
(実施例12-16および比較例14-18:アルミニウムフィラー含有組成物の調製と評価)
無機フィラーとして球状アルミナ(デンカ株式会社製「DAW-07」/「DAW-45」)、もしくは、窒化アルミニウム(Thrutek社製「AlN20AF」)、ベース成分としてビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(DIC株式会社製「EPICLON850-S」)並びに流動性改質剤を4に示す割合で配合し、遊星攪拌装置(THINKY ARV-310)で1,000rpmおよび0.2Paで2分間撹拌して、ペースト状の無機フィラー含有組成物を得た。
得られたペーストについて、上記と同じ方法で流動性を評価した。結果を表4に示す。
【0186】
【0187】
表3および4の結果から、実施例の流動性改質剤は、ベース成分の種類に関係なく流動性改善効果が得られていることが分かる。一方、比較例の流動性改質剤は、ベース成分がエポキシ樹脂の場合に流動性が大きく低下していることが分かる。
実施例の流動性改質剤について、無機フィラーの表面近傍にフィラー同士の接触を防ぐ流動性改質剤の層が安定的に存在することで流動性が改善すると推測される。ベース成分として高極性な成分(例えばエポキシ樹脂)である場合に、水酸基価の高い比較例の流動性改質剤では、フィラー近傍に偏在することができなくなり、流動性改善効果が見込めないことが分かる。
【0188】
(実施例17-20および比較例19-22:炭酸カルシウムフィラー含有組成物の調製と評価)
無機フィラーとして炭酸カルシウム(重質炭酸カルシウム、丸尾カルシウム株式会社製「スーパーS」)、可塑剤としてDINP(フタル酸ジイソノニル)、ポリウレタン化硬化成分としてDETDA(ジエチルメチルベンゼンジアミン)並びに流動性改質剤を表5に示す割合で配合し、遊星攪拌装置(THINKY ARV-310)で1,000rpmおよび0.2Paで2分間撹拌して、ペースト状の無機フィラー含有組成物を得た。
得られたペーストについて、下記方法で粘度を評価した。結果を表5に示す。
【0189】
(粘度の測定方法)
E型粘度計(東洋産業株式会社製TVE-25H)にて、標準ロータ(1°34’×R24、ずり速度[1/S]3.83×N、Nはロータの回転数[rpm])を用いて、得られたペーストの粘度を測定した。具体的には、得られたペーストを測定温度25℃および回転速度10rpmで処理を行い、3分間処理後のペーストの粘度値を読み取った。
【0190】
【0191】
(実施例21-24および比較例23-26:ポリイソシアネート含有組成物の調製と評価)
ベース成分としてポリイソシアネート(DIC株式会社製「バーノックDN-980S」)、可塑剤としてエーテルエステル化合物(DIC株式会社製「モノサイザーW-260」)並びに流動性改質剤を表6に示す割合で配合し、遊星攪拌装置(THINKY ARV-310)で1,000rpmおよび0.2Paで2分間撹拌して、ペースト状のポリイソシアネート含有組成物を得た。
得られたペーストについて、下記方法で粘度の経時変化を評価した。結果を表6に示す。
【0192】
(粘度の測定方法)
E型粘度計(東洋産業株式会社製TV-25H)にて、標準ロータ(1°34’×R24、ずり速度[1/S]3.83×N、Nはロータの回転数[rpm])を用いて、ペースト調製直後の粘度(初期粘度)および25℃のインキュベーター内で7日間放置後の粘度(7日後粘度)をそれぞれ測定した。粘度の測定値は、得られたペーストを測定温度25℃および回転速度10rpmで処理を行い、3分間処理後のペーストの粘度値を読み取った。
また、7日後粘度/初期粘度を粘度変化量として算出した。
【0193】
【0194】
表6および7の結果から、実施例の流動性改質剤は、時間経過による増粘を抑制できていることが分かる。一方、比較例の流動性改質剤は、時間の経過によって粘度が上昇していることが分かる。これは水酸基価の高い比較例の流動性改質剤は、時間の経過によってベース成分のイソシアネート基と反応して、ベース成分のみかけの分子量が増大するためと推測される。
【0195】
(使用実施例1-3および使用比較例1-9:シリコーンシートの製造と評価)
表7に示す各成分を、減圧下で1000回転および2分間混合してシート用組成物を調製し、得られたシート用組成物をプレス成型機を用いてシート状に成型した(条件:11MPa、110℃、15分間、スペーサー金枠厚み0.5mm)。このプレスにより厚さ約0.5mmのシリコーンシートを作製した。
作製したシリコーンシートについて、シェアA硬度、弾性率、伸びおよび熱伝導率をそれぞれ評価した。結果を表7に示す。
【0196】
表7の各成分は以下の通りである。
球状アルミナ:DAW-07(粒径(d50)が8.1μmの球状アルミナ、デンカ株式会社製)とDAW-45(粒径(d50)が43.3μmの球状アルミナ、デンカ株式会社製)の混合物(DAW-07/DAW-45=50/50(質量比))
シリコーン樹脂:オルガノポリシロキサン主剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製YE-5822A)とオルガノポリシロキサン架橋剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製YE-5822B)の混合物(YE-5822A/YE-5822B=90/10(質量比))
シランカップリング剤:デシルトリメトキシシラン
【0197】
(シェアA硬度の評価方法)
得られたシリコーンシートを重ね合わせて6mmの厚さのシリコーンシート積層体とし、デュロメータ(Digital durometer DD4 typeA, ASKER社製)を用いてシェアA硬度を測定した。
【0198】
(弾性率および伸びの評価)
作製したシリコーンシートを下記条件にてJISK6251:2010に従って引張試験を実施し、引張弾性率及び引張伸び率を測定した。尚、引張伸び率は、0.5mmシートが引張破断した時のチャック間距離から初期のチャック間距離20mmを引いた値をチャック間距離20mmで除して百分率で表したものである。
測定機器:株式会社オリエンテック社製「テンシロン万能材料試験機」
サンプル形状:ダンベル状3号形
チャック間距離:20mm
引張速度:200mm/分
測定雰囲気:温度23℃、湿度50%
【0199】
(熱伝導率の評価方法)
作製したシリコーンシートを22mm角に切り出して重ね、厚さ約7mmの積層体とした。23℃環境下、積層体2つを用いて熱物性測定装置(京都電子工業株式会社製「TPS 500」)を用いてホットディスク法で熱伝導率を測定した。
【0200】
【0201】
表7において、使用比較例8および9における弾性率および伸びの「-」の評価結果は、サンプルが脆いため測定機器へセットすることができず、評価できなかったことを意味する。
【0202】
表7の結果から、流動性改質剤Dを用いたシリコーンシートでは、シリコーン樹脂と無機フィラーの質量比[シリコーン樹脂:無機フィラー]が20:80の時のシェアA硬度をH80とし、シリコーン樹脂と無機フィラーの質量比[シリコーン樹脂:無機フィラー]が10:90の時のシェアA硬度をH90としたとき、H90/H80≦1.30を満たしており、低硬度を維持できていることが分かる。一方、流動性改質剤D’を用いたシリコーンシートでは、H90/H80≦1.30を満たすことができておらず、低硬度を維持できないことが分かる。流動性改質剤ではなくシランカップリング剤を用いたシリコーンシートでは、アルミナの充填量を増やすと柔軟性を喪失し、放熱材としての使用はできないシートになってしまっている。