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特許7509352ガラスフィラーを含むポリカーボネート系樹脂組成物及びその成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】ガラスフィラーを含むポリカーボネート系樹脂組成物及びその成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20240625BHJP
   C08G 64/02 20060101ALI20240625BHJP
   C08K 3/40 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C08L69/00
C08G64/02
C08K3/40
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019514495
(86)(22)【出願日】2018-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2018016474
(87)【国際公開番号】W WO2018199033
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2020-12-10
【審判番号】
【審判請求日】2022-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2017090682
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)事業「高強度・高透明GF-PC複合材料の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願」
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】313012349
【氏名又は名称】旭ファイバーグラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山尾 忍
(72)【発明者】
【氏名】薮上 稔
(72)【発明者】
【氏名】関根 圭二
(72)【発明者】
【氏名】趙 鵬
(72)【発明者】
【氏名】早田 幸司
【合議体】
【審判長】▲吉▼澤 英一
【審判官】松本 直子
【審判官】近野 光知
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/069659(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される繰り返し単位(A-1)を含み、前記繰り返し単位(A-1)が下記一般式(a-3)で表される繰り返し単位を少なくとも有し、前記繰り返し単位(A-1)中の、下記一般式(a-1)、(a-2)及び(a-3)で表される繰り返し単位の合計含有量が80モル%以上であり、かつ一般式(2)で表される芳香族カーボネート繰り返し単位(AAR-1)を含まない脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)と、
53質量%以上70質量%以下の二酸化ケイ素(SiO2)、0質量%以上25質量%以下の酸化アルミニウム(Al23)、0質量%以上10質量%以下の酸化カルシウム(CaO)、0質量%以上15質量%以下の酸化ホウ素(B23)、0質量%以上5質量%以下の酸化マグネシウム(MgO)、0質量%以上5質量%以下の酸化ナトリウム(Na2O)、0質量%以上10質量%以下の酸化亜鉛(ZnO)、0質量%以上10質量%以下の酸化ストロンチウム(SrO)、0質量%以上10質量%以下の酸化バリウム(BaO)、0質量%以上10質量%以下の酸化チタン(TiO2)、0質量%以上10質量%以下の酸化ジルコニウム(ZrO2)、0質量%以上5質量%以下の酸化リチウム(Li2O)、0質量%以上5質量%以下の酸化カリウム(K2O)、及び0質量%以上5質量%以下の酸化セシウム(Cs2O)を含有し、かつ酸化リチウム(Li2O)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、及び酸化セシウム(Cs2O)の含有量の合計が5質量%以下であるガラスフィラー(B)と
を含み、
脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)の波長589.3nmの光に対する屈折率が1.480以上1.520以下であり、
ガラスフィラー(B)の波長589.3nmの光に対する屈折率が1.485以上1.520以下であり、
ガラスフィラー(B)のアッベ数(vd)が52.5以上62.5以下であり、
脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)とガラスフィラー(B)との屈折率の差が、
波長407nmの光に対して0.005以下であり、
波長486.1nmの光に対して0.003以下であり、
波長589.3nmの光に対して0.001以下であり
波長656.3nmの光に対して0.001以下であり、かつ
波長785nmの光に対して0.003以下であることを特徴とするポリカーボネート系樹脂組成物。
【化1】

(式中、X1は炭素数2~20の2価の脂肪族炭化水素基、又は炭素数4~22の2価の脂環式炭化水素基を示す。前記2価の脂肪族炭化水素基及び2価の脂環式炭化水素基は、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子、及び/またはフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれる少なくとも1つのハロゲン原子を含んでもよい。)
【化2】

【化3】

(式中、X2は、芳香族基を含む炭化水素残基を示す。)」
【請求項2】
前記脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)が、前記繰り返し単位(A-1)を1モル%以上99モル%以下含む、請求項1に記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ガラスフィラー(B)における二酸化ケイ素(SiO2)および酸化アルミニウム(Al23)の合計含有量が、ガラスフィラー全体に対して67.5質量%以上77.5質量%以下である、請求項1又は2に記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項4】
前記ガラスフィラー(B)が、ガラス繊維、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ミルドファイバー、ガラスクロス、及びガラスビーズからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項5】
前記脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)及び前記ガラスフィラー(B)の合計100質量%に対して、ガラスフィラー(B)を2質量%以上50質量%以下含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載のポリカーボネート系樹脂組成物からなる成形体。
【請求項7】
全光線透過率が80%以上、かつヘイズが10%以下である、請求項に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスフィラーを含むポリカーボネート系樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂からなる成形体は、高い透明性、優れた耐熱性や耐衝撃性等の機械強度を有する。そのため、工業用の透明材料として、電気、機械、自動車分野等に広く用いられている。また、光学材料用のプラスチックとして、レンズや光学ディスク等にも使用される。
【0003】
ポリカーボネート樹脂成形体は機械強度に優れる一方で、より高い機械強度を必要とする場合には、ガラスフィラー等を添加して機械強度を高めることができる。
しかしながら、一般的なガラスフィラーを含むポリカーボネート樹脂組成物の成形体は透明性が低下するという問題があった。この問題に対しては、ポリカーボネート樹脂の組成を変更すること、ポリカーボネート樹脂組成物に添加剤を加えること、またはガラスフィラーの組成を変更することにより、ポリカーボネート樹脂及びガラスフィラーの屈折率を近づける試みがなされている。
【0004】
具体的には、特許文献1は、特定構造を有するポリカーボネート系樹脂と、特定組成を有するガラスフィラーとを含むポリカーボネート樹脂組成物を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2014/069659号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、ポリカーボネート系樹脂と、ガラスフィラーとの屈折率差を、各波長(486.1nm、589.3nm及び656.3nm)で合わせることにより成形体の透明性の向上を図っている。しかしながら、より高い透明性が求められる分野においては未だ十分ではない。また、発明者らが検討した結果、耐湿熱性が不十分であることが分かった。
【0007】
本発明の目的は、極めて優れた透明性を有する成形体を提供することができる、ガラスフィラーを含むポリカーボネート系樹脂組成物、及び透明性に優れた成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定組成を有するガラスフィラーと、特定構造を有するポリカーボネート系樹脂とを含むポリカーボネート系樹脂組成物及びその成形体が、前記目的を達成することを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、下記[1]~[12]を提供するものである。
[1]一般式(1)で表される繰り返し単位(A-1)を含む脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)と、53質量%以上70質量%以下の二酸化ケイ素(SiO2)、0質量%以上25質量%以下の酸化アルミニウム(Al23)、0質量%以上10質量%以下の酸化カルシウム(CaO)、0質量%以上15質量%以下の酸化ホウ素(B23)、0質量%以上5質量%以下の酸化マグネシウム(MgO)、0質量%以上5質量%以下の酸化ナトリウム(Na2O)、0質量%以上10質量%以下の酸化亜鉛(ZnO)、0質量%以上10質量%以下の酸化ストロンチウム(SrO)、0質量%以上10質量%以下の酸化バリウム(BaO)、0質量%以上10質量%以下の酸化チタン(TiO2)、0質量%以上10質量%以下の酸化ジルコニウム(ZrO2)、0質量%以上5質量%以下の酸化リチウム(Li2O)、0質量%以上5質量%以下の酸化カリウム(K2O)、及び0質量%以上5質量%以下の酸化セシウム(Cs2O)を含有し、かつ酸化リチウム(Li2O)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、及び酸化セシウム(Cs2O)の含有量の合計が5質量%以下であるガラスフィラー(B)とを含み、脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)の波長589.3nmの光に対する屈折率が1.480以上1.520以下であり、ガラスフィラー(B)の波長589.3nmの光に対する屈折率が1.485以上1.520以下であり、脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)とガラスフィラー(B)との屈折率の差が、波長486.1nmの光に対して0.003以下であり、波長589.3nmの光に対して0.001以下であり、かつ波長656.3nmの光に対して0.001以下であることを特徴とするポリカーボネート系樹脂組成物。
【化1】

(式中、X1は炭素数2~20の2価の脂肪族炭化水素基、又は炭素数4~22の2価の脂環式炭化水素基を示す。前記2価の脂肪族炭化水素基及び2価の脂環式炭化水素基は、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子、及び/またはフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれる少なくとも1つのハロゲン原子を含んでもよい。)
[2]前記脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)が、前記繰り返し単位(A-1)を1モル%以上99モル%以下含む、上記[1]に記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
[3]前記繰り返し単位(A-1)が下記一般式(a-1)、(a-2)及び(a-3)で表される繰り返し単位からなる群より選ばれる一つ以上である、上記[1]または[2]に記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
【化2】

[4]前記繰り返し単位(A-1)に占める、前記一般式(a-3)で表される繰り返し単位の割合が40モル%以上である、上記[3]に記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
[5]前記ガラスフィラー(B)における二酸化ケイ素(SiO2)および酸化アルミニウム(Al23)の合計含有量が、ガラスフィラー全体に対して67.5質量%以上77.5質量%以下である、上記[1]~[4]のいずれか一つに記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
[6]前記ガラスフィラー(B)が、ガラス繊維、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ミルドファイバー、ガラスクロス、及びガラスビーズからなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記[1]~[5]のいずれか一つに記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
[7]前記ガラスフィラー(B)のアッベ数(v)が52.5以上62.5以下である、上記[1]~[6]のいずれか一つに記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
[8]前記脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)及び前記ガラスフィラー(B)の合計100質量%に対して、ガラスフィラー(B)を2質量%以上50質量%以下含む、上記[1]~[7]のいずれか一つに記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
[9]前記脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)と前記ガラスフィラー(B)との、波長407nmの光に対する屈折率の差が0.005以下である、上記[1]~[8]のいずれか一つに記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
[10]前記脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)と前記ガラスフィラー(B)との、波長785nmの光に対する屈折率の差が0.003以下である、上記[1]~[9]のいずれか一つに記載のポリカーボネート系樹脂組成物。
[11]上記[1]~[10]のいずれか一つに記載のポリカーボネート系樹脂組成物からなる成形体。
[12]全光線透過率が80%以上、かつヘイズが10%以下である、上記[11]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、非常に優れた透明性を有する成形体を提供することができる、ガラスフィラーを含むポリカーボネート系樹脂組成物、及び透明性に優れた成形体を提供することができる。このような成形体は、自動車や建物等の窓等を含めた透明な構成部品の材料として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者等は鋭意検討の結果、ポリカーボネート系樹脂とガラスフィラーとの屈折率差を各波長においてさらに近づけることにより、高い透明性を得ることを見出した。屈折率差はわずかな組成や構造の変化で大きく変化し、その取扱いは困難を極める。ポリカーボネート系樹脂の構造をさらに特定の構造に絞り、ガラスフィラーの組成をさらに検討することで、優れた透明性を有する成形体を提供できるポリカーボネート系樹脂組成物を見出した。以下、詳細に説明する。
【0012】
本明細書において、「各波長における屈折率」及び「アッベ数」とは、JIS K 7142:2014,B法に準拠して測定及び算出される値である。
本明細書において、「XX~YY」の記載は、「XX以上YY以下」を意味する。また、本明細書において、好ましいとされている規定は任意に採用することができ、好ましいもの同士の組み合わせはより好ましい。
【0013】
<ポリカーボネート系樹脂>
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、一般式(1)で表される繰り返し単位(A-1)を含む脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)を含む。具体的には、当該繰り返し単位(A-1)は、後述する脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する。
【0014】
【化3】

(式中、X1は炭素数2~20の2価の脂肪族炭化水素基、又は炭素数4~22の2価の脂環式炭化水素基を示す。前記2価の脂肪族炭化水素基及び2価の脂環式炭化水素基は、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子、及び/またはフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれる少なくとも1つのハロゲン原子を含んでもよい。)
【0015】
1における、ヘテロ原子を含む2価の前記脂環式炭化水素基としては、例えば、酸素若しくは窒素を含有する炭素数4~20の2価の飽和複素環式基等が挙げられる。
1で示される2価の基の具体例としては、後述する脂肪族ジヒドロキシ化合物から2つの水酸基を除いた2価の基が挙げられ、中でも下記一般式(11)で示される脂肪族ジヒドロキシ化合物から2つの水酸基を除いた2価の残基が好ましい。
【0016】
前記繰り返し単位(A-1)としては、下記一般式(a-1)、(a-2)及び(a-3)で表される繰り返し単位からなる群より選ばれる一つ以上を有することが好ましい。
【化4】
【0017】
前記繰り返し単位(A-1)中の、一般式(a-1)、(a-2)及び/または(a-3)で表される繰り返し単位の合計含有量は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは100モル%である。中でも、前記繰り返し単位(A-1)に占める、一般式(a-3)で表される繰り返し単位の割合が40モル%以上であることが特に好ましい。一般式(a-3)で表される繰り返し単位の割合が40モル%以上であれば、各波長における屈折率差を小さくすることができるとともに耐熱性にも優れたものになる。
【0018】
(脂肪族ジヒドロキシ化合物)
一般式(1)で表される繰り返し単位(A-1)は、脂肪族ジヒドロキシ化合物から誘導される。
脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、下記一般式(11)で表される化合物が挙げられる。前記脂肪族ジヒドロキシ化合物は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【化5】
【0019】
上記一般式(11)において、R1は炭素数2~18、好ましくは2~10、より好ましくは3~6のアルキレン基、炭素数4~20、好ましくは5~20のシクロアルキレン基、又は炭素数4~20、好ましくは5~20の2価の酸素若しくは窒素含有飽和複素環式基であり、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子及びフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれる少なくとも1つのハロゲン原子を含んでもよい。aは0または1の整数を示す。
【0020】
炭素数2~18のアルキレン基としては、例えば、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、n-ペンチレン基、n-ヘキシレン基、n-ヘプチレン基、n-オクチレン基、2-エチルヘキシレン基、n-ノニレン基、n-デシレン基、n-ウンデシレン基、n-ドデシレン基、n-トリデシレン基、n-テトラデシレン基、n-ペンタデシレン基、n-ヘキサデシレン基、n-ヘプタデシレン基、n-オクタデシレン基等が挙げられる。炭素数4~20のシクロアルキレン基としては、例えば、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロオクチレン基、シクロデシレン基、シクロテトラデシレン基、アダマンチレン基、ビシクロヘプチレン基、ビシクロデシレン基、トリシクロデシレン基等が挙げられる。
【0021】
脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、オクタエチレングリコール、ジプロピレングリコール、N-メチルジエタノールアミン、p-キシリレングリコール等の鎖式脂肪族炭化水素基を有するジヒドロキシ化合物;1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,6-デカリンジオール、1,5-デカリンジオール、2,3-デカリンジオール、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール、2,3-ノルボルナンジオール、2,5-ノルボルナンジオール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-プロパン、1,3-アダマンタンジオール、1,3-アダマンタンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール等の脂環式炭化水素基を有するジヒドロキシ化合物;イソソルビド等の縮合多環式エーテルジオール;3,9-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジエチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジプロピルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等のヘテロ環スピロ化合物;1,4-アンヒドロエリスリトール等の環状エーテルジオール;2-(5-エチル-5-ヒドロキシメチル-1,3-ジオキサン-2-イル)-2-メチルプロパン-1-オール等の環状アセタールジオール;3,4-ピロリジンジオール、3,4-ジメチルピペリジンジオール、N-エチル-3,4-ピペリジンジオール、N-エチル-3,5-ピペリジンジオール等のN-ヘテロ環状ジオール;デオキシチオフルクトース等のS-ヘテロ環状ジオールなどが挙げられる。
【0022】
これらの脂肪族ジヒドロキシ化合物のうち、製造の容易さ、性質、用途の幅広さの観点から、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、1,3-アダマンタンジメタノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-プロパン、3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、2-(5-エチル-5-ヒドロキシメチル-1,3-ジオキサン-2-イル)-2-メチルプロパン-1-オール、イソソルビド、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールが好ましい。中でも耐熱性、屈折率の観点から1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、イソソルビドがより好ましい。
【0023】
本発明に用いる脂肪族ジヒドロキシ化合物の精製方法については特に限定されない。好ましくは、単蒸留、精留または再結晶のいずれか、もしくはこれらの手法の組み合わせにより精製してもよい。ただし、該脂肪族ジヒドロキシ化合物の市販品には安定剤や、保管中に生成した劣化物が含まれていることがあり、これらがポリマー品質に悪影響を与える可能性がある。該脂肪族ジヒドロキシ化合物を用いてポリマーを得る際には、再度精製を行い直ちに重合反応に使用するのが好ましい。やむを得ず精製後、しばらく保管してから使用する際は、乾燥、40℃以下の低温、遮光および不活性ガス雰囲気下で保管しておいて使用することが好ましい。
脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)は、繰り返し単位(A-1)を1モル%以上99モル%以下含むことが好ましい。
【0024】
脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)は、上述した一般式(1)で表される繰り返し単位(A-1)の他に、下記一般式(2)で表される芳香族カーボネート繰り返し単位(AAR-1)を有していてもよい。
【化6】
【0025】
上記一般式(2)において、X2は、芳香族基を含む炭化水素残基を示す。
2における芳香族基を含む炭化水素残基としては、芳香族炭化水素基がX2に隣接する酸素原子に結合する構造を有するものが好ましい。X2における芳香族基を含む炭化水素残基の中に、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子から選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子;フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれる少なくとも1つのハロゲン原子;炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、炭素数5~20脂環式炭化水素基、及び炭素数6~20の芳香族炭化水素基から選ばれる1種以上の基を含んでいてもよい。
2で示される芳香族基を含む炭化水素残基の具体例として、後述する芳香族ジヒドロキシ化合物(二価フェノール)から2つの水酸基を除いた残基等が挙げられる。
【0026】
(芳香族ジヒドロキシ化合物)
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、様々なものを挙げることができる。中でも、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、4,4’-ジヒドロキシジフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、及びビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン等を挙げることができる。この他、ハイドロキノン、レゾルシン及びカテコール等を挙げることもできる。これらは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン系が好ましく、特にビスフェノールAが好適である。
【0027】
(組成比)
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物に含まれるポリカーボネート系樹脂(A)が上記芳香族カーボネート繰り返し単位(AAR-1)を含む場合には、組成比が以下となることが好ましい。すなわち、脂肪族カーボネート繰り返し単位(A-1)と芳香族カーボネート繰り返し単位(AAR-1)のモル比(A-1/AAR-1)が、好ましくは99/1~0.5/99.5である。より好ましくは95/5~20/80、さらに好ましくは95/5~40/60である。
脂肪族カーボネート繰り返し単位(A-1)の比率をより高くすると樹脂のアッベ数が大きくなりやすい。つまり色収差の少ないアッベ数領域とすることが出来る。
【0028】
脂肪族カーボネート繰り返し単位(A-1)を含むことで、各波長におけるガラスフィラーとの屈折率差と小さくすることができ、透明性に優れる成形体を得ることができる。
脂肪族カーボネート繰り返し単位(A-1)及び芳香族カーボネート繰り返し単位(AAR-1)を有する共重合ポリカーボネート系樹脂を1種単独、または2種以上を適宜組み合わせてブレンドすることにより、所望の組成比率に調整することができる。
【0029】
本発明に係るポリカーボネート系樹脂(A)の組成は、前記繰り返し単位(A-1)及び(AAR-1)の他に、効果を失わない程度に他のジヒドロキシ化合物に由来する繰り返し単位を含有してもよい。割合としては前記繰り返し単位(A-1)及び(AAR-1)の合計モル数に対して10モル%以下が好ましい。前記モル比は、1H-NMRにて測定して算出する。
【0030】
本発明に係るポリカーボネート系樹脂(A)の粘度平均分子量は、好ましくは10,000~50,000である。この範囲内であると、機械物性と流動性のバランスが優れている。より好ましくは12,000~35,000、さらに好ましくは15,000~22,000である。粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ型粘度計を用いて、20℃における塩化メチレン溶液(濃度:g/L)の粘度を測定し、これより極限粘度[η]を求め、下記Schnellの式にて算出する。
【数1】
【0031】
本発明に係る脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)の屈折率は、波長589.3nmの光に対して1.480以上1.520以下であることを要する。当該範囲に屈折率を設定することで、後述するガラスフィラーとの各波長における屈折率差を限りなく小さくすることができる。
脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)の波長589.3nmの光に対する屈折率は、好ましくは1.500以上1.519以下、より好ましくは1.501以上1.516以下、さらに好ましくは1.510以上1.515以下、特に好ましくは1.510以上1.514以下である。
【0032】
ポリカーボネート系樹脂(A)の波長486.1nmの光に対する屈折率(nF)と波長656.3nmの光に対する屈折率(nC)との差(nF-nC)は、0.013以下であることが好ましく、0.011以下が好ましく、0.010以下がさらに好ましい。
【0033】
本発明に係る脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)のアッベ数(Vd)は、好ましくは45以上、より好ましくは48以上、さらに好ましくは51以上である。脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)のアッベ数が上記範囲にあると、得られる成形体の色収差を小さくすることができる。
【0034】
本発明に係る脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)のガラス転移温度としては、75~150℃が好ましく、80~140℃がより好ましく、100~130℃が更に好ましい。脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)のガラス転移温度が低すぎると使用できる用途が限られてくる。高すぎると成形する際の溶融流動性に劣り、ポリマー分解が少ない温度範囲で成形できなくなる。
なお、本発明に係る脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、2種類以上の樹脂の混合物であってもよい。
【0035】
脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)の製造方法に特に制限はない。例えば界面重縮合法や、溶融法(エステル交換法)を挙げることができる。すなわち、末端停止剤の存在下に、ジヒドロキシ化合物とホスゲン等のカーボネート前駆体を反応させる界面重縮合法、又は末端停止剤の存在下に、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換法等により反応させて製造されたものを用いることができる。本発明に係る脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)は、エステル交換法により製造されることが好ましい。
【0036】
(炭酸ジエステル)
炭酸ジエステルとしては、炭酸ジアリール化合物、炭酸ジアルキル化合物及び炭酸アルキルアリール化合物から選択される少なくとも1種の化合物である。
炭酸ジアリール化合物は、下記一般式(14)で表される化合物、又は下記一般式(15)で表される化合物である。
【化7】
【0037】
式(14)中、Ar1及びAr2はそれぞれアリール基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよい。
式(15)中、Ar3及びAr4はそれぞれアリール基を示し、それらは互いに同一でも異なっていてもよく、D1は芳香族ジヒドロキシ化合物から水酸基2個を除いた残基を示す。
【0038】
炭酸ジアルキル化合物は、下記一般式(16)で表される化合物、又は下記一般式(17)で表される化合物である。
【化8】
【0039】
式(16)中、R21及びR22はそれぞれ炭素数1~20のアルキル基又は炭素数4~20のシクロアルキル基を示し、これらは互いに同一でも異なっていてもよい。
式(17)中、R23及びR24はそれぞれ炭素数1~20のアルキル基又は炭素数4~20のシクロアルキル基を示し、これらは互いに同一でも異なっていてもよく、D2は芳香族ジヒドロキシ化合物から水酸基2個を除いた残基を示す。
【0040】
炭酸アルキルアリール化合物は、下記一般式(18)で表される化合物、又は下記一般式(19)で表される化合物である。
【化9】
【0041】
式(18)中、Ar5はアリール基、R25は炭素数1~20のアルキル基又は炭素数4~20のシクロアルキル基を示す。
式(19)中、Ar6はアリール基,R26は炭素数1~20のアルキル基又は炭素数4~20のシクロアルキル基、D3は芳香族ジヒドロキシ化合物から水酸基2個を除いた残基を示す。
【0042】
具体的には、炭酸ジアリール化合物としては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、ビス(m-クレジル)カーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ビスフェノールAビスフェニルカーボネートなどが挙げられる。
炭酸ジアルキル化合物としては、例えば、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート、ビスフェノールAビスメチルカーボネートなどが挙げられる。
炭酸アルキルアリール化合物としては、例えば、メチルフェニルカーボネート、エチルフェニルカーボネート、ブチルフェニルカーボネート、シクロヘキシルフェニルカーボネート、ビスフェノールAメチルフェニルカーボネート等が挙げられる。
本発明において、炭酸ジエステルとしては、上記の化合物1種又は2種以上を適宜選択して用いるが、これらの中では、ジフェニルカーボネートを用いるのが好ましい。
【0043】
エステル交換法では、上記ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステル以外の原料を用いてもよい。
例えば、ジヒドロキシ化合物のジエステル類として、例えば、ビスフェノールAのジ酢酸エステル、ビスフェノールAのジプロピオン酸エステル、ビスフェノールAのジブチル酸エステル、ビスフェノールAのジ安息香酸エステルなどを挙げることができる。
ジヒドロキシ化合物のジ炭酸エステル類として、例えば、ビスフェノールAのビスメチル炭酸エステル、ビスフェノールAのビスエチル炭酸エステル、ビスフェノールAのビスフェニル炭酸エステルなどを挙げることができる。
ジヒドロキシ化合物のモノ炭酸エステル類として、例えば、ビスフェノールAモノメチル炭酸エステル、ビスフェノールAモノエチル炭酸エステル、ビスフェノールAモノプロピル炭酸エステル、ビスフェノールAモノフェニル炭酸エステルなどを挙げることができる。
【0044】
(末端停止剤)
上述するポリカーボネート系樹脂の製造においては、必要に応じて末端停止剤を用いることができる。末端停止剤としては、ポリカーボネート系樹脂の製造における公知の末端停止剤を用いればよい。例えば、その具体的化合物としては、フェノール、p-クレゾール、p-tert-ブチルフェノール、p-tert-オクチルフェノール、p-クミルフェノール、p-ノニルフェノール、及びp-tert-アミルフェノールなどを挙げることができる。これらの末端停止剤はそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
(分岐剤)
本発明では、必要に応じて、分岐剤を用いることもできる。分岐剤としては、例えばフロログルシン;トリメリット酸;1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン;1-〔α-メチル-α-(4’-ヒドロキシフェニル)エチル〕-4-〔α’,α’-ビス(4”-ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン;α,α’,α”-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1,3,5-トリイソプロピルベンゼン;イサチンビス(o-クレゾール)などが挙げられる。分岐剤はそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0046】
(エステル交換法)
脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)は、通常のエステル交換法により製造することができる。例えば、ジヒドロキシ化合物、炭酸ジエステル、及び必要に応じ末端停止剤あるいは分岐剤等を用いてエステル交換反応を行い、脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)を得ることができる。具体的には、公知のエステル交換法に準じて反応を進行させればよい。以下に、好ましい製造方法の手順及び条件を具体的に示す。
【0047】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを、ジヒドロキシ化合物に対して炭酸ジエステルが0.9~1.5倍モルになるような比率でエステル交換反応を行う。なお、状況に応じて、上記比率は0.98~1.20倍モルが好ましい。
上記のエステル交換反応に当たって、前記末端停止剤の存在量が、ジヒドロキシ化合物に対して、0.05~10モル%の範囲にあると、得られるポリカーボネートの水酸基末端が封止されるため、耐熱性及び耐水性に充分優れたポリカーボネートが得られる。このような前記末端停止剤は、予め反応系に全量添加しておいてもよく、また予め反応系に一部添加しておき、反応の進行に伴って残部を添加してもよい。さらに場合によっては、前記ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応が一部進行した後に、反応系に全量添加してもよい。
【0048】
エステル交換反応を行うに当たって反応温度に特に制限はなく、通常100~330℃の範囲、好ましくは180~300℃の範囲で選ばれる。より好ましくは、反応の進行に合わせて次第に180~300℃の温度領域まで昇温する方法がよい。このエステル交換反応の温度が100℃以上であれば、反応速度が速くなり、一方、330℃以下であれば、副反応が生じることなく、生成するポリカーボネートが着色するなどの問題が生じにくい。
また、反応圧力は、使用するモノマーの蒸気圧や反応温度に応じて設定される。これは、反応が効率良く行われるように設定されればよく、限定されるものではない。通常、反応初期においては、1~50atm(760~38,000torr)までの大気圧(常圧)ないし加圧状態にしておき、反応後期においては、減圧状態、好ましくは最終的には1.33~1.33×10Pa(0.01~100torr)にする場合が多い。
反応時間は、目標の分子量となるまで行えばよく、通常、0.2~10時間程度である。
【0049】
上記のエステル交換反応は、通常不活性溶剤の不存在下で行われるが、必要に応じて、得られるポリカーボネートの1~150質量%の不活性溶剤の存在下において行ってもよい。不活性溶剤としては、例えば、ジフェニルエーテル、ハロゲン化ジフェニルエーテル、ベンゾフェノン、ポリフェニルエーテル、ジクロロベンゼン、メチルナフタレンなどの芳香族化合物;トリシクロ(5,2,10)デカン、シクロオクタン、シクロデカンなどのシクロアルカンなどが挙げられる。
また、必要に応じて不活性ガス雰囲気下で行ってもよく、不活性ガスとしては、例えばアルゴン、二酸化炭素、一酸化二窒素、窒素などのガス、クロロフルオロ炭化水素、エタンやプロパンなどのアルカン、エチレンやプロピレンなどのアルケンなど各種のものが挙げられる。
【0050】
エステル交換法において、重合速度を速めるために、重合触媒を用いることができる。重合触媒としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、含窒素化合物、金属化合物、または含窒素有機塩基性化合物とアリール基を含む4級ホスホニウム塩との組合せ等が挙げられる。
【0051】
アルカリ金属化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸セシウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸セシウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2ナトリウム、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2セシウム塩、又は2リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、又はリチウム塩等が挙げられる。
【0052】
アルカリ土類金属化合物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、二酢酸マグネシウム、二酢酸カルシウム、二酢酸ストロンチウム、二酢酸バリウム等が挙げられる。
【0053】
含窒素化合物としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド等のアルキル、アリール基等を有する4級アンモニウムヒドロキシド類が挙げられる。また、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミン等の三級アミン類、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、ベンゾイミダゾール等のイミダゾール類が挙げられる。さらに、アンモニア、テトラメチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルアンモニウムテトラフェニルボレート等の塩基あるいは塩基性塩等が挙げられる。
【0054】
金属化合物としては亜鉛アルミニウム化合物、ゲルマニウム化合物、有機スズ化合物、アンチモン化合物、マンガン化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物等が挙げられる。これらの化合物は1種単独でもまたは2種以上併用してもよい。
【0055】
含窒素有機塩基性化合物とアリール基を含む4級ホスホニウム塩との組合せとしては、例えばテトラメチルアンモニウムヒドロキシドとテトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートとの組合せが挙げられる。
【0056】
これらの重合触媒の使用量は、ジヒドロキシ化合物1モルに対し好ましくは1×10-9~1×10-2当量、より好ましくは1×10-8~1×10-2当量、更に好ましくは1×10-7~1×10-3当量の範囲で選ばれる。
【0057】
反応後期に触媒失活剤を添加することもできる。使用する触媒失活剤としては、公知の触媒失活剤が有効に使用されるが、この中でもスルホン酸のアンモニウム塩、ホスホニウム塩が好ましい。更にドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩等のドデシルベンゼンスルホン酸の塩類、パラトルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩等のパラトルエンスルホン酸の塩類が好ましい。
【0058】
スルホン酸のエステルとして、ベンゼンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸エチル、ベンゼンスルホン酸ブチル、ベンゼンスルホン酸オクチル、ベンゼンスルホン酸フェニル、パラトルエンスルホン酸メチル、パラトルエンスルホン酸エチル、パラトルエンスルホン酸ブチル、パラトルエンスルホン酸オクチル、パラトルエンスルホン酸フェニル等も好ましく用いられる。
【0059】
中でも、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩またはパラトルエンスルホン酸ブチルが最も好ましく使用される。
これらの触媒失活剤の使用量はアルカリ金属化合物及び/またはアルカリ土類金属化合物より選ばれた少なくとも1種の重合触媒を用いた場合、その触媒1モル当たり好ましくは0.5~50モルの割合で、より好ましくは0.5~10モルの割合で、更に好ましくは0.8~5モルの割合で使用することができる。
【0060】
エステル交換法における反応は、連続式、およびバッチ式のいずれで行ってもよい。溶融重合に用いられる反応装置は、アンカー型攪拌翼、マックスブレンド攪拌翼、もしくはヘリカルリボン型攪拌翼等を装備した縦型反応装置、またはパドル翼、格子翼、もしくはメガネ翼等を装備した横型反応装置のいずれでもよい。更にスクリューを装備した押出機型であってもよい。連続式の場合は、かかる反応装置を適宜組み合わせて使用することが好ましい。
【0061】
(界面重縮合法)
脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)を通常の界面重縮合法により製造する場合には、例えば、塩化メチレンなどの不活性有機溶媒中において、公知の酸受容体や分子量調節剤の存在下、さらに必要に応じて触媒や分岐剤を添加し、ジヒドロキシ化合物及びホスゲン等のカーボネート前駆体を反応させる。
【0062】
界面重縮合法における触媒としては、相間移動触媒、例えば三級アミン又はその塩、四級アンモニウム塩、四級ホスホニウム塩などを好ましく用いることができる。三級アミンとしては、例えばトリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、ピリジン、ジメチルアニリンなどが挙げられ、また三級アミン塩としては、例えばこれらの三級アミンの塩酸塩、臭素酸塩などが挙げられる。四級アンモニウム塩としては、例えばトリメチルベンジルアンモニウムクロリド、トリエチルベンジルアンモニウムクロリド、トリブチルベンジルアンモニウムクロリド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミドなどが、四級ホスホニウム塩としては、例えばテトラブチルホスホニウムクロリド、テトラブチルホスホニウムブロミドなどが挙げられる。これらの触媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記触媒の中では、三級アミンが好ましく、特にトリエチルアミンが好適である。
【0063】
不活性有機溶剤としては、例えば、ジクロロメタン(塩化メチレン);トリクロロメタン;四塩化炭素;1,1-ジクロロエタン;1,2-ジクロロエタン;1,1,1-トリクロロエタン;1,1,2-トリクロロエタン;1,1,1,2-テトラクロロエタン;1,1,2,2-テトラクロロエタン;ペンタクロロエタン;クロロベンゼンなどの塩素化炭化水素や、トルエン、アセトフェノンなどが挙げられる。これらの有機溶剤はそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中では、特に塩化メチレンが好適である。
【0064】
<ガラスフィラー>
本発明に係るガラスフィラー(B)は、その組成が、53質量%以上70質量%以下の二酸化ケイ素(SiO2)、0質量%以上25質量%以下の酸化アルミニウム(Al23)、0質量%以上10質量%以下の酸化カルシウム(CaO)、0質量%以上15質量%以下の酸化ホウ素(B23)、0質量%以上5質量%以下の酸化マグネシウム(MgO)、0質量%以上5質量%以下の酸化ナトリウム(Na2O)、0質量%以上10質量%以下の酸化亜鉛(ZnO)、0質量%以上10質量%以下の酸化ストロンチウム(SrO)、0質量%以上10質量%以下の酸化バリウム(BaO)、0質量%以上10質量%以下の酸化チタン(TiO2)、0質量%以上10質量%以下の酸化ジルコニウム(ZrO2)、0質量%以上5質量%以下の酸化リチウム(Li2O)、0質量%以上5質量%以下の酸化カリウム(K2O)、及び0質量%以上5質量%以下の酸化セシウム(Cs2O)を含有し、かつ酸化リチウム(Li2O)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、及び酸化セシウム(Cs2O)の含有量の合計が5質量%以下であることを要する。
ガラスフィラー(B)は、脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)の機械特性を強化するために用いる。
【0065】
上記のガラスフィラーの組成において、二酸化ケイ素(SiO2)の含有量は53質量%以上70質量%以下である。二酸化ケイ素(SiO2)が53質量%未満であると、所望の屈折率への調整が困難となるおそれがある。また70質量%を超えるとガラスにする際の溶解性が低下することがある。この観点から、二酸化ケイ素(SiO2)の含有量は好ましくは55質量%以上、より好ましくは56質量%以上であり、好ましくは65質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0066】
酸化アルミニウム(Al23)の含有量は0質量%以上25質量%以下である。酸化アルミニウム(Al23)が25質量%を超えると溶解性が低下し、得られるガラスフィラーが不均質になりやすい。この観点から、酸化アルミニウム(Al23)の含有量は好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上であり、好ましくは24質量%以下、より好ましくは23質量%以下である。
ガラスフィラー(B)における二酸化ケイ素(SiO2)および酸化アルミニウム(Al23)の合計含有量は、ガラスフィラー全体に対して67.5質量%以上77.5質量%以下であることが好ましい。
【0067】
酸化ホウ素(B23)は任意成分であり、0質量%以上15質量%以下含有される。酸化ホウ素(B23)を含有させることによりガラスの溶解性が向上し、ガラスの耐水性などを向上させることができる。酸化ホウ素(B23)の含有量が15質量%を超えるとガラスフィラーとしての強度が低下するおそれがある。この観点から、酸化ホウ素(B23)は、0質量%以上10質量%以下含有することが好ましく、0質量%以上9質量%以下含有することがより好ましい。
【0068】
酸化マグネシウム(MgO)は任意成分であり、0質量%以上5質量%以下含有する。酸化マグネシウム(MgO)を含有させることにより、ガラスフィラーの引張強度等の物性を向上させ、化学耐久性を向上できる。酸化マグネシウム(MgO)の含有量が5質量%を超えるとガラスとしての溶解性が低下するおそれがある。この観点から、酸化マグネシウム(MgO)は、0質量%以上3質量%以下含有することが好ましい。
【0069】
酸化カルシウム(CaO)は任意成分であり、0質量%以上10質量%以下含有する。酸化カルシウム(CaO)が10質量%を超えると所望の屈折率への調整が困難となるおそれがあり、またガラスが結晶化し易くなるおそれがある。この観点から、酸化カルシウム(CaO)は、好ましくは0質量%以上5質量%以下含有される。
【0070】
酸化亜鉛(ZnO)、酸化ストロンチウム(SrO)、及び酸化バリウム(BaO)は任意成分であり、それぞれ0質量%以上10質量%以下含有する。
酸化亜鉛(ZnO)、酸化ストロンチウム(SrO)、及び/または酸化バリウム(BaO)を酸化カルシウム(CaO)に置き換えて含有することにより、ガラスの溶解性が向上し、またガラスの結晶化を抑制することができる。しかしそれぞれの含有量が10質量%を超えると、液相温度が上昇し、結晶化し易くなるおそれがある。この観点から、酸化亜鉛(ZnO)、酸化バリウム(BaO)、酸化ストロンチウム(SrO)は、それぞれ0質量%以上5質量%以下含有することが好ましい。
【0071】
酸化カルシウム(CaO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化バリウム(BaO)、酸化ストロンチウム(SrO)の合計は0質量%以上25質量%以下であることが好ましい。その合計が25質量%を超えると所望の屈折率への調整が困難となるおそれがある。酸化カルシウム(CaO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化バリウム(BaO)、酸化ストロンチウム(SrO)の合計は5質量%以上25質量%以下であることがより好ましい。その合計が5質量%以上であると、ガラスの溶解性が向上する。
【0072】
酸化ナトリウム(Na2O)は任意成分であり、0質量%以上5質量%以下含有される。酸化ナトリウムが5質量%を超えるとガラスの耐水性が低下し、アルカリが溶出し易くなる。溶出したアルカリ成分によってポリカーボネート系樹脂が加水分解し、分子量の低下を引き起こし、成形体の物性低下の要因となるため好ましくない。この観点から、酸化ナトリウム(Na2O)は、0質量%以上5質量%以下含有することが好ましい。
【0073】
酸化カリウム(K2O)、酸化リチウム(Li2O)及び酸化セシウム(Cs2O)は任意成分であり、それぞれ0質量%以上5質量%以下含有され得る。酸化カリウム(K2O)、酸化リチウム(Li2O)及び酸化セシウム(Cs2O)を、酸化ナトリウム(Na2O)の少なくとも一部と置き換えて含有することにより、ガラスの溶解性が向上させることができる。一方、それぞれの含有量が5質量%を超えると、ガラスの耐水性が低下し、アルカリが溶出し易くなる。溶出したアルカリ成分によってポリカーボネート系樹脂が加水分解し、分子量の低下を引き起こし、成形体の物性低下の要因となるため好ましくない。またガラスが結晶化し易くなる。この観点から、酸化カリウム(K2O)、酸化リチウム(Li2O)及び酸化セシウム(Cs2O)は、それぞれ0質量%以上3質量%以下含有することが好ましい。
【0074】
本発明に係るガラスフィラー(B)においては、酸化リチウム(Li2O)、酸化ナトリウム(Na2O)酸化カリウム(K2O)及び酸化セシウム(Cs2O)の含有量の合計が、5質量%以下であることを要する。酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、酸化リチウム(Li2O)及び酸化セシウム(Cs2O)の合計が5質量%を超えるとガラスの耐水性が低下し、アルカリが溶出し易くなる。この溶出したアルカリ成分によってポリカーボネート系樹脂が加水分解し、分子量の低下を引き起こし、成形体の物性低下の要因となる。ガラスフィラー(B)の屈折率を所望の範囲に調整する事の容易性の観点から、上記アルカリ成分の合計量は0.1質量%以上であることが好ましい。
これらの観点から、酸化リチウム(Li2O)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)及び酸化セシウム(Cs2O)の含有量の合計は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4.8質量%以下、さらに好ましくは4.6質量%以下である。
【0075】
酸化チタン(TiO2)は任意成分であり、0質量%以上10質量%以下含有される。酸化チタン(TiO2)を含有することにより、ガラスの溶解性が向上させることができ、またガラスの耐水性を向上させることができる。酸化チタン(TiO2)が10質量%を超えるとガラスが結晶化し易くなる。
この観点から、酸化チタン(TiO2)は、好ましくは0質量%以上8質量%以下、より好ましくは0質量%以上7質量%以下、さらに好ましくは0質量%以上6質量%以下含有される。酸化チタン(TiO2)の含有量が8質量%以下であれば、不純物として含有される酸化鉄(Fe23)の存在下におけるガラスの着色を抑えることができる。
【0076】
ガラスフィラーの着色を抑えるために、原料中の不純物としての酸化鉄(Fe23)含有量が、ガラス全体に対して0質量%以上0.1質量%以下であることが好ましい。
ガラスフィラーの着色を抑えるために、三酸化二アンチモン(Sb23)を、ガラス全体に対して0質量%以上2質量%以下含有することも好ましい。さらにガラスフィラーの溶解性を向上させるために、フッ素(F2)を、ガラス全体に対して0質量%以上1質量%以下含有することが好ましい。
【0077】
本発明に係るガラスフィラー(B)は、屈折率の調整、ガラス物性、ガラス成形性等に悪影響を及ぼさない範囲で、さらに下記成分を含んでもよい。
例えば、ガラスフィラーの屈折率を調整する成分として、ジルコニウム(Zr)、ランタン(La)、Y(イットリウム)、ガドリニウム(Gd)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)又はタングステン(W)等の元素を含む酸化物を含有させてもよい。また、ガラスの色を調整、消色する成分として、コバルト(Co)、銅(Cu)、ネオジウム(Nd)、アンチモン(Sb)等の元素を含む酸化物を含有させてもよい。酸化ジルコニウム(ZrO2)は任意成分であり、0質量%以上10質量%以下含有することが好ましい。酸化ジルコニウム(ZrO2)が10質量%を超えるとガラスにする際の溶解性が低下することがある。
【0078】
ガラスフィラー(B)の比重は、軽量化の観点から2.75以下とすることが好ましい。
ガラスフィラー(B)として、ガラス繊維、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ミルドファイバー、ガラスクロス、及びガラスビーズからなる群より選ばれる少なくとも1種など様々な形態を採用することができるが、補強効果の点からガラス繊維であることが好ましい。
【0079】
ガラス繊維は、従来公知のガラス長繊維の紡糸方法を用いて得ることができる。例えば、溶融炉でガラス原料を連続的にガラス化してフォアハースに導き、フォアハースの底部にブッシングを取り付けて紡糸するダイレクトメルト(DM)法、又は、溶融したガラスをマーブル、カレット、棒状に加工してから再溶融して紡糸する再溶融法等の各種の方法を用いてガラスを繊維化することができる。
ガラス繊維の平均繊維径は、特に限定されないが、3μm以上25μm以下のものが好ましく用いられる。平均繊維径が3μmよりも小さい場合には、ガラス繊維とポリカーボネート系樹脂との接触面積が増大して乱反射の原因となり、成形体の透明性が低下する場合がある。平均繊維径が25μmよりも大きくなると、ガラス繊維の強度が弱くなり、結果として成形体の強度が低下する場合がある。
ガラス繊維の平均繊維長と平均繊維径との比(アスペクト比)は、2以上150以下のものが好ましく用いられる。アスペクト比が2以上であれば、機械的強度の向上効果が得られ、アスペクト比が150以下であれば、成形体の高い透明性が得られ、成形体外観が良くなる。
以上の観点から、ガラス繊維の平均繊維径は、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは7μm以上であり、好ましくは25μm以下、より好ましくは15μm以下である。また、ガラス繊維のアスペクト比は、好ましくは2以上、より好ましくは2.5以上、さらに好ましくは3以上であり、好ましくは150以下、より好ましくは120以下、さらに好ましくは100以下である。
【0080】
ガラスパウダーは、従来公知の製造方法で得られる。例えば、溶融炉でガラス原料を溶融し、得られる融液を水中に投入して水砕する、あるいは冷却ロールでシート状に成形して、そのシートを粉砕するなどして、所望する粒径のパウダーにすることができる。ガラスパウダーの粒径は特に限定されないが、1μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0081】
ガラスフレークは、従来公知の製造方法で得られる。例えば、溶融炉でガラス原料を溶融し、得られる融液をチューブ状に引き出し、ガラスの膜厚を一定にした後、ロールで粉砕することにより、特定の膜厚のフリットを得る。このフリットを粉砕することにより、所望のアスペクト比を有するフレークにすることができる。ガラスフレークの厚み及びアスペクト比は特に限定されないが、厚みが0.1μm以上10μm以下であり、アスペクト比が5以上150以下であることが好ましい。
【0082】
ミルドファイバーは、従来公知のミルドファイバーの製造方法を用いて得ることができる。例えば、ガラス繊維のストランドをハンマーミルやボールミルで粉砕することにより、ミルドファイバーにすることができる。ミルドファイバーの平均繊維径及びアスペクト比は特に限定されないが、平均繊維径が3μm以上25μm以下、アスペクト比が2以上150以下のものが好ましく用いられる。ミルドファイバーの平均繊維径は、5μm以上20μm以下がより好ましく、7μm以上15μm以下がさらに好ましい。また、ミルドファイバーのアスペクト比は、2.5以上90以下がより好ましく、3以上70以下がさらに好ましい。
【0083】
ガラスクロスは、従来公知の製造方法で得ることができる。例えば、ガラス繊維に集束剤を付与して、所望の集束本数のストランドを得る。集束剤を付着させたストランドにさらに撚りをかけて、ガラスクロスの経糸及び/又は横糸として用いる。縦糸として用いる場合には、織物設計に応じて本数、長さ、密度等を整えることが好ましい。整径された縦糸と、緯糸となるボビンを織機に装着し、製織工程によりガラスクロスを製造することができる。
【0084】
ガラスビーズは、従来公知の製造方法で得られる。例えば、溶融炉でガラス原料を溶融し、得られる融液をバーナーで噴霧して、所望する粒径のガラスビーズにすることができる。ガラスビーズの粒径は特に限定されないが、5μm以上300μm以下であることが好ましい。
【0085】
脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)とガラスフィラー(B)との親和性を増し、密着性を増大することにより、空隙形成による成形体の透明性低下を抑制するために、ガラスフィラー(B)を、カップリング剤を含む処理剤で表面処理することが好ましい。
【0086】
カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、ボラン系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤等を用いることができる。特に、ポリカーボネート系樹脂とガラスフィラーとの接着性を良好にする観点から、シラン系カップリング剤を用いることが好ましい。シラン系カップリング剤としては、アミノシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、アクリルシラン系カップリング剤等を用いることができる。中でも、アミノシラン系カップリング剤が最も好ましい。
【0087】
処理剤に含まれるカップリング剤以外の成分としては、フィルムフォーマー、潤滑剤及び帯電防止剤等を挙げることができ、これらを単独で用いても複数を併用してもよい。前記フィルムフォーマーとしては、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂又はポリオレフィン樹脂等のポリマー、もしくはこれらの変性物を使用することができる。
潤滑剤としては、脂肪族エステル系、脂肪族エーテル系、芳香族エステル系又は芳香族エーテル系の界面活性剤を用いることができる。
帯電防止剤としては、塩化リチウム、ヨウ化カリウム等の無機塩、又はアンモニウムクロリド、アンモニウムエトサルフェート等の4級アンモニウム塩を使用できる。
【0088】
ガラスフィラー(B)の波長589.3nmにおける屈折率は、1.485以上1.520以下であることを要する。波長589.3nmにおける屈折率が上記範囲から外れると、上述した本発明に係る特定構造を有する脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)との屈折率差を特定範囲とすることができず、得られる成形体の透明性に未だ劣る結果となる。さらにポリカーボネート系樹脂組成物からなる成形体の透明性を向上させる観点から、ガラスフィラー(B)の波長589.3nmにおける屈折率は、好ましくは1.490以上、より好ましくは1.500以上であり、好ましくは1.515以下、より好ましくは1.514以下である。
【0089】
ガラスフィラー(B)のアッベ数(Vd)は、得られる成形体の色収差を小さくする観点から、52.5以上62.5以下であることが好ましい。ガラスフィラーのアッベ数(Vd)は、より好ましくは53.0以上60.0以下、さらに好ましくは53.0以上55.0以下である。
【0090】
<ポリカーボネート系樹脂組成物>
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、前記脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)と、前記ガラスフィラー(B)とを含有する。
【0091】
(ポリカーボネート系樹脂及びガラスフィラーの含有量)
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物中におけるガラスフィラー(B)の含有量は、脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)及びガラスフィラー(B)の合計100質量%に対して、2質量%以上50質量%以下であることが好ましい。ガラスフィラー(B)の含有量が2質量%未満の場合、機械物性の向上効果が充分に得られない傾向にある。また、ガラスフィラー(B)の含有量が50質量%を超えると、樹脂とガラスとの接触界面が増大し、成形体の高い透明性が低下し、成形時の流動性が低下するおそれがある。
ポリカーボネート系樹脂組成物中、脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)及びガラスフィラー(B)の合計100質量%におけるガラスフィラー(B)の含有量は、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは35質量%以下、特に好ましくは30質量%以下である。
【0092】
ポリカーボネート系樹脂組成物に含まれるガラスフィラー(B)の量を上記の範囲にすることにより、極めて高い透明性と良好な機械的物性とを兼ね備えた成形体が得られる。
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂が本来有する優れた透明性を保持したまま、ガラスフィラーを配合することによる弾性率などの強度向上や、低線膨張係数が実現できる。
【0093】
(ガラスフィラーとポリカーボネート系樹脂との屈折率の差)
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)とガラスフィラー(B)との屈折率の差が、波長486.1nmの光に対して0.003以下であること、波長589.3nmの光に対して0.001以下であること、かつ波長656.3nmの光に対して0.001以下であることを要する。脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)とガラスフィラー(B)との屈折率差が、波長486.1nmの光に対して0.003よりも大きくなると、極めて優れた透明性を有する成形体を得ることが困難になる。脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)とガラスフィラー(B)との屈折率差が、波長589.3nmの光及び波長656.3nmの光に対してそれぞれ0.001よりも大きくなると、成形体の透明性が不充分となる。脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)とガラスフィラー(B)との屈折率の差を上記範囲内とすることで、極めて優れた透明性を有する成形体を得ることができる。
【0094】
具体的には、波長486.1nmの光に対して、脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)とガラスフィラー(B)との屈折率の差が0.003以下であることを要し、好ましくは0.001以下、より好ましくは0.0008以下、さらに好ましくは0.0007以下である。
波長589.3nmの光に対しては、脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)とガラスフィラー(B)との屈折率の差が0.001以下であることを要し、好ましくは0.0008以下、より好ましくは0.0005以下、さらに好ましくは0.0003以下である。
波長656.3nmの光に対しては、脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)とガラスフィラー(B)との屈折率の差が0.001以下であることを要し、好ましくは0.0008以下、より好ましくは0.0007以下、さらに好ましくは0.0006以下である。
【0095】
本発明においては、上記3波長における屈折率差に加えて、以下の要件(1)及び(2)の少なくとも一方を満たすことが好ましい。
(1)脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)とガラスフィラー(B)との、波長407nmの光に対する屈折率差が0.005以下である。
(2)脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)とガラスフィラー(B)との、波長785nmの光に対する屈折率差が0.003以下である。
要件(1)及び(2)の少なくとも一方をさらに満たすことで、脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)とガラスフィラー(B)との屈折率をより一層近づけることができ、成形体の極めて優れた透明性の一層の向上を図ることができる。要件(1)及び(2)の双方を満たすことで、さらに透明性の向上を図ることができる。
【0096】
要件(1)において、脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)とガラスフィラー(B)との波長407nmにおける屈折率差は、より好ましくは0.004以下、さらに好ましくは0.003以下である。
要件(2)において、脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)とガラスフィラー(B)との波長785nmにおける屈折率差は、より好ましくは0.002以下、さらに好ましくは0.0015以下である。
【0097】
脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)と、ガラスフィラー(B)との各波長の屈折率を合わせるためには、色収差の少ない、すなわち、高アッベ値を有することが好ましい。ガラスフィラーのアッベ数(Vd)については上述の通りである。脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)のアッベ数(Vd)は、色収差を少なくする観点から、50以上であることが好ましく、より好ましくは51以上、さらに好ましくは55以上である。
【0098】
(添加剤)
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物には、屈折率等の特性を損なわない範囲で、周知の添加剤を加えてもよい。例えば、添加剤として酸化防止剤を配合すると、ポリカーボネート系樹脂組成物の製造時や成形時の樹脂の分解を抑制することができる。
用途や必要に応じて熱安定剤、可塑剤、光安定剤、重合金属不活性化剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、離型剤等の添加剤を配合することができる。
【0099】
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)と、ガラスフィラー(B)と、任意の添加物とを混合機等を用いて混合し、押出し機で溶融混練してペレット化する方法が好ましい。
【0100】
<ポリカーボネート系樹脂組成物の成形体>
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物からなる成形体は、公知の成形方法を用いて製造することができる。例えば、ポリカーボネート系樹脂組成物を射出成形、押出成形、圧縮成形、カレンダー成形等により成形して、成形体を得ることができる。樹脂フィルムまたは樹脂シートで内部の覆われた金型を用いて成形してもよい。
【0101】
成形体の厚さは用途に応じて任意に設定することができ、限定されない。特に成形体の透明性が要求される場合には、好ましくは0.2mm以上、より好ましくは0.3mm以上であり、好ましくは4.0mm以下、より好ましくは3.0mm以下、さらに好ましくは2.0mm以下である。成形体の厚みが0.2mm以上であれば、反りが生じることがなく、良好な機械強度が得られる。また成形体の厚みが4.0mm以下であれば、高い透明性が得られる。
【0102】
必要に応じてハードコート膜、防曇膜、帯電防止膜、反射防止膜の被膜を上記成形体に形成してもよく、2種類以上の複合被膜としてもよい。中でも、耐候性が良好で、経時的な成形体表面の摩耗を防ぐことができることから、ハードコート膜の被膜が形成されていることが特に好ましい。
ハードコート膜の材質は特に限定されず、アクリレート系ハードコート剤、シリコーン系ハードコート剤、無機系ハードコート剤等の公知の材料を用いることができる。
【0103】
ポリカーボネート系樹脂組成物の製造条件、及びポリカーボネート系樹脂成形体の成形条件は、適宜選択可能であり、特に限定されない。例えば、溶融混練時の加熱温度や射出成形時の樹脂の温度は、樹脂の分解を抑制する観点から、通常150℃以上300℃以下の範囲から適宜選択することが好ましい。
【0104】
成形体の最表面にガラスフィラーの少なくとも一部分が存在することで、成形体の表面粗さが大きくなり、成形体表面での乱反射が多くなり、結果として成形体の透明性を悪化する場合がある。成形体の表面粗さを小さくする方法としては、成形体の最表面に樹脂の存在比率が高い層(スキン層)を形成し、成形体の表面粗さを小さくする方法等がある。スキン層を形成させる方法としては、例えば、射出成形の場合には金型の温度を一般的な条件よりも高い温度にすることで、金型に接する樹脂が流動し易くしてスキン層を成形体の最表面に形成する方法を挙げることができる。プレス成形の場合には、成形時の圧力を一般的な条件よりも高い圧力にすることにより、成形体の最表面にスキン層を形成し、成形体の表面粗さを小さくすることができる。成形体の表面粗さを小さくすることにより、成形体表面での乱反射が少なくなり、ヘイズが小さくなり、結果として成形体の透明性をより一層改善することができる。
【0105】
得られたポリカーボネート系樹脂組成物の成形体は、平板に成形した際、可視光に対する全光線透過率は80%以上であり、かつヘイズは10%以下であることが好ましい。
全光線透過率は、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは89%以上である。ヘイズは、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下である。
【0106】
前記光学物性を備えた成形体は透明性に極めて優れるため、高い透明性を要求される用途に好適である。可視光に対する全光線透過率はJISK 7361-1:1997に準じて、ヘイズはJIS K7136:2000に準じて測定することができる。
本発明の成形体は、脂肪族カーボネート繰り返し単位を含む脂肪族ポリカーボネート系樹脂(A)を用いることで、芳香族カーボネート繰り返し単位のみからなるポリカーボネート系樹脂と比べ、耐傷付性、耐候性、平行光線透過率に優れたポリカーボネート系樹脂成形体を得ることができる。
【0107】
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物の成形体は、透明性及び剛性、更には耐傷付性及び耐候性が必要とされる部材、例えば、1)サンルーフ、ドアバイザー、リアウィンド、サイドウィンド等の自動車用部品、2)建築用ガラス、防音壁、カーポート、サンルーム及びグレーチング類等の建築用部品、3)鉄道車両、船舶用の窓、4)テレビ、ラジオカセット、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダ、オーディオプレーヤ、DVDプレーヤー、電話器、ディスプレイ、コンピュータ、レジスター、複写機、プリンター、ファクシミリ等の各種部品、外板およびハウジングの各部品等の電気機器用部品、5)携帯電話、PDA、カメラ、スライドプロジェクター、時計、電卓、計測器、表示器機等の精密機械等のケース及びカバー類等の精密機器用部品、6)ビニールハウス、温室等の農業用部品、7)照明カバーやブラインド、インテリア器具類等の家具用部品等に好適に用いることができる。
【実施例
【0108】
次に、本発明を実施例及び比較例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例における特性値は、以下に示す要領に従って求めた。
【0109】
<ポリカーボネート樹脂の組成比>
核磁気共鳴(NMR)測定装置(日本電子株式会社製;JNM-AL500)を用いて、H-NMRを測定し、脂肪族カーボネート繰り返し単位(A-1)及び芳香族カーボネート繰り返し単位(AAR-1)の共重合量を算出した。
<ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量>
ウベローデ型粘度計を用いて、20℃における塩化メチレン溶液(濃度:g/L)の粘度を測定し、これより極限粘度[η]を求め、次式(Schnell式)にて粘度平均分子量(Mv)を算出した。
【数2】
【0110】
<ポリカーボネート樹脂の屈折率及びアッベ数>
屈折率の測定は以下の通り行った。屈折率測定装置としてMETRICON社製 MODEL2010/M PRISM COUPLERを用い、波長785nm、594nm、及び407nm(H線)の屈折率を測定した。この測定値を基に、コーシーの分散式による回帰曲線から波長486.1nm(nF)、589.3nm(nD)、及び656.3(nC)の屈折率を計算した。
測定試料は樹脂を130~220℃でプレス成形し、厚み1mmの板を作製、測定試験片とした。
【0111】
<ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度Tg>
ポリカーボネート樹脂を用いてティー・エイ・インスツルメント(株)製の熱分析システムDSC-2910を使用して、JISK 7121:1987に準拠して窒素雰囲気下(窒素流量:40mL/min)、昇温速度:20℃/minの条件下で測定した。
【0112】
<ガラスフィラーの屈折率、アッベ数及び比重>
ガラスフィラーの屈折率は、試験片をJIS K7142:2014,B法による浸液法に準拠して測定した値である。得られた屈折率からアッベ数を算出した。比重はアルキメデス法によって測定した。
【0113】
<ポリカーボネート系樹脂組成物の性能評価>
(1)全光線透過率及びヘイズ値
ポリカーボネート樹脂組成物成形体の光学物性である全光線透過率は、日本電色株式会社製NDHセンサーを用い、ASTMD1003に準拠して厚さ2mmのサンプルを測定した値である。ヘイズ値は日本電色株式会社製NDHセンサーを用い、ASTMD1003に準じて厚さ2mmのサンプルを測定した値である。
(2)DTUL(熱変形温度)
ASTM D 648:B法(荷重0.455MPa)に準拠して、試験片の熱変形温度を測定した。
(3)耐湿熱試験
試験片を温度65℃、湿度95%の環境で750時間放置した。放置前後の試験片の曲げ強度を、曲げ試験(ASTMD 790に準拠した方法)により測定し、放置前後での強度の変化を測定した。
【0114】
[脂肪族ポリカーボネート系樹脂の製造]
製造例1
<PC1の製造>
攪拌装置、蒸留器及び減圧装置を備えた反応槽に、モノマー原料としてイソソルビド(ISB)を30.67g(0.21mol)及び1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)を142.80g(0.99mol)、炭酸ジエステルとしてジフェニルカーボネートを269.64g(1.26mol)、15wt%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を1.44mL、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を24μL仕込んだ。系内を窒素置換した後、140℃で内容物を溶融させた。30分攪拌後、内温を180℃に昇温しつつ徐々に減圧し、13.3kPaで30分間反応させ、生成するフェノールを留去した。続いて同圧に維持しながら昇温し続け、190℃で30分間、200℃で30分間、210℃で30分間、220℃で60分間反応を行い、フェノールを留去した。ゆっくりと減圧して220℃で133Pa以下としてこの状態を30分間保持した後、さらに真空度を上げていき、1mmHg以下に到達後、4時間攪拌下で反応させた。その後、失活剤として、p-トルエンスルホン酸ブチルを10vol%含むトルエン溶液16μLを添加した後、240℃、13.3kPaで20分間攪拌し、目的の共重合ポリカーボネート(PC1)を得た。PC1の物性及び特性を表1に記載する。
【0115】
製造例2
<PC2の製造>
モノマー原料として、イソソルビド(ISB)を87.70g(0.6mol)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)を83.00g(0.576mol)、ビスフェノールA(BPA)を5.47g(0.024mol)を用いたこと以外は、製造例1と同じ条件で重合を行った。PC2の物性及び特性を表1に記載する。
【0116】
製造例3
<PC3の製造>
モノマー原料として、イソソルビド(ISB)を105.20g(0.72mol)、トリシクロデカンジメタノール(TCDDM)を47.11g(0.24mol)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)を34.60g(0.24mol)を用いたこと以外は、製造例1と同じ条件で重合を行った。PC3の物性及び特性を表1に記載する。
【0117】
製造例4
<PC4の製造>
モノマー原料として、イソソルビド(ISB)を114.00g(0.78mol)、トリシクロデカンジメタノール(TCDDM)を58.90g(0.3mol)、及び1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)を17.30g(0.12mol)用いたこと以外は、製造例1と同じ条件で重合を行った。PC4の物性及び特性を表1に記載する。
【0118】
製造例5
<PC5の製造>
モノマー原料として、イソソルビド(ISB)を114.00g(0.78mol)、トリシクロデカンジメタノール(TCDDM)を35.30g(0.18mol)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)を27.69g(0.192mol)、及びビスフェノールA(BPA)を10.94g(0.048mol)用いたこと以外は、製造例1と同じ条件で重合を行った。PC5の物性及び特性を表1に記載する。
【0119】
【表1】
【0120】
製造例6~9
[ガラス繊維の製造]
表2に示す組成(質量%)で、ガラス繊維GF1~4を製造した。
なお、ガラス繊維は、従来公知の方法により繊維径15μmで紡糸し、バインダーとしてガラス繊維に対して合計量が0.5質量%となるよう調整したアミノシランとウレタンを付着させることにより作製した。
得られたガラス繊維GF1~4の波長486.1nmの光に対する屈折率(nF)、波長589.3nmの光に対する屈折率(nD)、波長656.3nmの光に対する屈折率(nC)、各波長における屈折率詳細、及びアッベ数を測定した結果を表2に示す。
【0121】
【表2】
【0122】
実施例1~4、及び比較例1~2
[ガラス繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物成形体の製造]
製造例1~5で得られたポリカーボネート樹脂(PC)、及び製造例6~9で得られたガラスフィラー(ガラス繊維)を用いて、表3に示す組成(質量%)及び以下の条件でコンパウンドを行い、実施例1~4及び比較例1~2のポリカーボネート樹脂組成物成形体を製造した。
表3に示す割合で各ポリカーボネート樹脂及び各ガラス繊維を配合し、押出機[機種名:Micro Twin Screw compounder(DSM社製)]に供給し、押し出し温度:170~250℃で溶融混練し、射出成形機[機種名:Injection Molding Machine(Explore社製)]シリンダー温度170~250℃、金型温度30~120℃の条件で射出成形してダンベル片を得た。得られたダンベル片を、150~220℃でプレス成形し、厚み2mmの板を作製し、測定試験片とした。
【0123】
【表3】
【0124】
表3の結果より、実施例1~4の成形体は、比較例1~2の成形体に比べて、全光線透過率が高く、ヘイズ値が低いため、透明性に優れたものであることがわかる。また、耐湿熱試験後も機械強度を良好に保つことができる。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物及びその成形体は、高い透明性を有すると共に、優れた機械強度を有する。そのため、機械強度及び透明性等が要求される、例えば自動車や建物等の窓等を含めたガラス代替材料として好適に用いることができる。