(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭
(51)【国際特許分類】
B01J 20/20 20060101AFI20240625BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20240625BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20240625BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
B01J20/20 B
B01J20/28 Z
C02F1/28 D
C02F1/28 L
G01N1/10 C
(21)【出願番号】P 2023162676
(22)【出願日】2023-09-26
(62)【分割の表示】P 2020135049の分割
【原出願日】2020-08-07
【審査請求日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2019150393
(32)【優先日】2019-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】山下 信義
(72)【発明者】
【氏名】谷保 佐知
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼阪 務
(72)【発明者】
【氏名】横井 誠
(72)【発明者】
【氏名】堀 千春
(72)【発明者】
【氏名】島村 紘大
(72)【発明者】
【氏名】浅野 拓也
【審査官】阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/063150(WO,A1)
【文献】特開2014-039912(JP,A)
【文献】特開2010-269241(JP,A)
【文献】特開2013-220413(JP,A)
【文献】特開2011-105545(JP,A)
【文献】「活性炭の活用技術について」、静岡県公害防止管理者研修会,2019年02月06日,<https://saep1972.web.fc2.com/img/20191.02.06seminar_report3.pdf>
【文献】Yue Zhi et. al.,Surface modification of activated carbon for enhanced adsorption of perfluoroalkyl acids from aqueous solutions,Chemosphere,No.144,2015年10月23日,Page.1224-1232
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/20
B01J 20/28
C02F 1/28
C01B 32/30
G01N 1/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭吸着材のBET比表面積が1474~2017m
2/gであり、
表面酸化物量が0.09~0.48meq/gであり、
細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(V
mic)が0.612~0.841cm
3/gである
水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を吸着するための
水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭。
【請求項2】
細孔直径2~60nmの範囲の細孔容積であるメソ孔容積の和(V
met)が、0.038~0.241cm
3/gである請求項1に記載の水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭。
【請求項3】
下記の試験方法によるPFOA及びPFOSの回収率が74%以上である請求項1又は2に記載の水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭。
<試験方法>
(1)PFOA及びPFOSの標準試薬を超純水に添加し、溶液濃度が10ng/ml(10ppb)となるよう試験溶液を調製する。
(2)20mlシリンジ内に活性炭吸着材を0.2g充填し、試験溶液を1滴/秒の速度で試験溶液20mlを通液する。
(3)通液後、シリンジ内の活性炭吸着材の水分を遠心分離により除去する。
(4)アンモニア濃度が0.01%のメタノール溶液14mlを、1滴/秒の速度で脱水後の活性炭吸着材に通液させて抽出液を採取する。
(5)採取した抽出液を窒素吹き付け濃縮装置により1mlまで濃縮した後、該抽出液をLC-MS/MSを用いてMRMモードで定量測定して回収率を算出する。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の吸着活性炭を保持してなることを特徴とする水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着フィルター体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水試料中に含まれるペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集するペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭に関する。
【背景技術】
【0002】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物は、高い熱安定性、高い化学的安定性、高い表面修飾活性を有するフッ素置換された脂肪族化合物類である。ペル及びポリフルオロアルキル化合物は、前記特性を生かし表面処理剤や包装材、液体消火剤等の工業用途及び化学用途等幅広く使用されている。
【0003】
ペル及びポリフルオロアルキル化合物の一部は、非常に安定性の高い化学物質であることから、環境中に放出後、自然条件下では分解されにくい。このため、近年では、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は残留性有機汚染物質(POPs)として認識され、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)(IUPAC名:1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ヘプタデカフルオロオクタン-1-スルホン酸)が2010年より残留性有機物汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)において、製造や使用が規制されることとなった。
【0004】
なお、ペルフルオロアルキル化合物は完全にフッ素化された直鎖アルキル基を有しており、化学式(i)で示される物質である。例えば、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)やペルフルオロオクタン酸(PFOA)(IUPAC名:2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ペンタデカフロオロオクタン酸)等がある。
【0005】
【0006】
ポリフルオロアルキル化合物はアルキル基の水素の一部がフッ素に置き換わったものを示し、化学式(ii)で示される物質である。例えば、フルオロテロマーアルコール等がある。
【0007】
【0008】
このように、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は自然界(水中、土壌中、大気中)に残存し続けることから、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の定量試験方法の確立が検討されている。定量試験方法の検討の課題は、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の高い吸着及び脱離性能を有する捕集材の開発である。微量なペル及びポリフルオロアルキル化合物を含有する試料である水ないし空気を、捕集材に接触させてペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集し、捕集材に吸着された該化合物を抽出工程によって抽出液中に脱離させ、濃縮する。濃縮後、LC-MS/MSやGC-MS/MS等の装置で定量測定し、試料中に含まれるペル及びポリフルオロアルキル化合物の濃度測定を行うことが可能となる。
【0009】
既存の捕集材としては、例えば、シクロデキストリンポリマーからなる有機フッ素系化合物吸着材が提案されている(特許文献1)。この吸着材は、吸着のみに特化し、該化合物の脱離はできないため、定量測定に用いられる捕集材として使用には適していない。また、シクロデキストリンポリマーは粉状又は微粒子状であり、ハンドリングが悪く、通液ないし通気時の抵抗が高く微粉末の2次側への流出リスク等の問題がある。
【0010】
また、ペル及びポリフルオロアルキル化合物は物理化学特性に幅のある様々な形態で環境中に残存しており、既存の吸着材では十分な捕集性能がなく、正確に定量測定ができないという問題があった。
【0011】
そこで、出願人は、活性炭をペル及びポリフルオロアルキル化合物用捕集材として検討を進め、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集を可能とし、正確な定量測定に大きく寄与することを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、特に、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を捕集することが可能な水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭及びそれを用いたフィルター体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、第1の発明は、活性炭吸着材のBET比表面積が1474~2017m2/gであり、表面酸化物量が0.09~0.48meq/gであり、細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)が0.612~0.841cm3/gである水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を吸着するための水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭に係る。
【0015】
第2の発明は、第1の発明において、細孔直径2~60nmの範囲の細孔容積であるメソ孔容積の和(Vmet)が、0.038~0.241cm3/gである水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭に係る。
【0016】
第3の発明は、第1又は2の発明において、下記の試験方法によるPFOA及びPFOSの回収率が74%以上である水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭に係る。
【0017】
<試験方法>
(1)PFOA及びPFOSの標準試薬を超純水に添加し、溶液濃度が10ng/ml(10ppb)となるよう試験溶液を調製する。
(2)20mlシリンジ内に活性炭吸着材を0.2g充填し、試験溶液を1滴/秒の速度で試験溶液20mlを通液する。
(3)通液後、シリンジ内の活性炭吸着材の水分を遠心分離により除去する。
(4)アンモニア濃度が0.01%のメタノール溶液14mlを、1滴/秒の速度で脱水後の活性炭吸着材に通液させて抽出液を採取する。
(5)採取した抽出液を窒素吹き付け濃縮装置により1mlまで濃縮した後、該抽出液をLC-MS/MSを用いてMRMモードで定量測定して回収率を算出する。
【0018】
第4の発明は、第1又は2の発明の吸着活性炭を保持してなることを特徴とする水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着フィルター体に係る。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明に係る水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭によると、活性炭吸着材のBET比表面積が1474~2017m2/gであり、表面酸化物量が0.09~0.48meq/gであり、細孔直径1nm以下のミクロ孔容積の和(Vmic)が0.612~0.841cm3/gである水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を吸着するためのペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭であることから、これまで定量測定が難しいとされてきた該化合物を捕集することができる。
【0020】
第2の発明に係る水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭によると、第1の発明において、細孔直径2~60nmの範囲の細孔容積であるメソ孔容積の和(Vmet)が、0.038~0.241cm3/gであることから、これまで定量測定が難しいとされてきた該化合物をより効率的に捕集することができる。
【0021】
第3の発明に係る水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭によると、第1又は2の発明において、上記の試験方法によるPFOA及びPFOSの回収率が74%以上であることから、ペル及びポリフルオロアルキル化合物を効率よく捕集することができる。
【0022】
第4の発明に係る水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着フィルター体によると、第1又は2の発明の吸着活性炭を保持してなることから、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集効率を高めつつ、良好なハンドリング性を備えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭は、繊維状活性炭又は粒状活性炭よりなる。繊維状活性炭は、適宜の繊維を炭化し賦活して得た活性炭であり、例えばフェノール樹脂系、アクリル樹脂系、セルロース系、石炭ピッチ系等がある。繊維長や断面径等は適宜である。
【0024】
粒状活性炭の原料としては、木材(廃材、間伐材、オガコ)、コーヒー豆の絞りかす、籾殻、椰子殻、樹皮、果物の実等の原料がある。これらの天然由来の原料は炭化、賦活により細孔が発達しやすくなる。また廃棄物の二次的利用であるため安価に調達可能である。他にもタイヤ、石油ピッチ、ウレタン樹脂、フェノール樹脂等の合成樹脂由来の焼成物、さらには、石炭等も原料として使用することができる。
【0025】
活性炭原料は、必要に応じて200℃~600℃の温度域で加熱炭化されることにより微細孔が形成される。続いて、活性炭原料は600℃~1200℃の温度域で水蒸気、炭酸ガスに曝露されて賦活処理される。この結果、各種の細孔が発達した活性炭は出来上がる。なお、賦活に際しては、他に塩化亜鉛賦活等もある。また、逐次の洗浄も行われる。
【0026】
こうして出来上がる活性炭の物性により、被吸着物質の吸着性能が規定される。本発明の目的被吸着物質であるペル及びポリフルオロアルキル化合物を吸着する活性炭の吸着性能は、活性炭に形成された細孔の量を示す指標となる比表面積により規定される。なお、本明細書中、各試作例の比表面積はBET法(Brunauer,Emmett及びTeller法)による測定である。
【0027】
活性炭の吸着性能は、活性炭の表面に存在する酸性官能基によっても規定される。活性炭の表面酸化により増加する酸性官能基は、主にカルボキシル基、フェノール性水酸基等の親水性基である。活性炭表面の酸性官能基は、捕集能力に影響を与える。これらの酸性官能基量については、表面酸化物量として把握することができる。
【0028】
水中においては、活性炭の表面酸化物量が多くなると、水素結合により表面官能基へと強固に吸着した水分子及びこれにより生成された水分子のクラスターによって、細孔が閉塞されて目的被吸着物質が吸着点(ミクロ孔)へ物理的なアクセスが阻害されることとなると推測される。このため、活性炭の表面酸化物量は少ない方が目的被吸着物質の吸着性能が向上すると考えられる。
【0029】
活性炭の表面酸化物を減少させる手法としては、不活性ガス雰囲気下で熱処理を行う等の公知の方法を用いることができ、活性炭表面のフェノール性水酸基やカルボキシル基等の酸性官能基を減少させることができる。
【0030】
また、活性炭は細孔の孔径によっても規定される。活性炭のような吸着材の場合、ミクロ孔、メソ孔、マクロ孔のいずれの細孔も存在している。その中で、いずれの範囲の細孔をより多く発達させるかにより、活性炭の吸着対象、性能は変化する。本発明において所望される活性炭は、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の分子を脱離可能に効果的に吸着することである。
【0031】
水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を脱離可能に吸着する活性炭の吸着性能は、後述の実施例により導き出されるように、比表面積を800m2/g以上又は表面酸化物量が0.20meq/g以下とすることにより発揮される。活性炭の表面に存在する酸性官能基により、水素結合によって吸着した水分子及びこれにより生成された水分子のクラスターによって細孔が閉塞されると考えられることから、表面酸化物量が少ない場合は、比表面積が小さく細孔の量が少ない活性炭であっても一定以上の該化合物の吸着が可能となる。逆に、表面酸化物量が多く該化合物の細孔への吸着が阻害される場合であっても、比表面積が大きく細孔の量が多い活性炭であれば、一定以上の該化合物の吸着が可能となるのである。
【0032】
また、比表面積が一定以上であるとともに、表面酸化物量が一定以下であれば、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物はより効率よく脱離可能に吸着できる。後述の実施例に示される通り、活性炭吸着材のBET比表面積が800m2/g以上であるとともに、表面酸化物量が0.50meq/g以下とすることにより、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能をさらに高めることができる。
【実施例】
【0033】
[使用活性炭吸着材]
発明者らは、ペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭を作成するため、下記の原料を使用した。
・繊維状活性炭
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「CF」(平均繊維径:15μm)
{以降、C1と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3010」(平均繊維径:15μm)
{以降、C2と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3012」(平均繊維径:15μm)
{以降、C3と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3013」(平均繊維径:15μm)
{以降、C4と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3015」(平均繊維径:15μm)
{以降、C5と表記する。}
フタムラ化学株式会社製:繊維状活性炭「FE3018」(平均繊維径:15μm)
{以降、C6と表記する。}
・粒状活性炭
フタムラ化学株式会社製:ヤシ殻活性炭「CW480SZ」(平均粒径:250μm)
{以降、C7と表記する。}
【0034】
〔水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集性能の検討1〕
発明者らは下記の試作例1を用いて、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集実験1を行った。
【0035】
[試作例の調製]
<試作例1>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを、過酸化水素濃度6%溶液500mlに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させ試作例1の活性炭とした。
【0036】
[活性炭の測定1]
〔表面酸化物量〕
表面酸化物量(meq/g)は、Boehmの方法を適用し、0.05N水酸化ナトリウム水溶液中において各例の吸着活性炭を振とうした後に濾過し、その濾液を0.05N塩酸で中和滴定した際の水酸化ナトリウム量とした。
【0037】
〔BET比表面積〕
比表面積(m2/g)は、マイクロトラック・ベル株式会社製、自動比表面積/細孔分布測定装置「BELSORP-miniII」を使用して77Kにおける窒素吸着等温線を測定し、BET法により求めた(BET比表面積)。
【0038】
〔平均細孔直径〕
平均細孔直径(nm)は、細孔の形状を円筒形と仮定し、細孔容積(cm3/g)及び比表面積(m2/g)の値を用いて数式(iii)より求めた。
【0039】
【0040】
試作例1の活性炭の物性は表1のとおりである。表1の上から順に、表面酸化物量(meq/g)、BET比表面積(m2/g)、平均細孔直径(nm)、平均繊維径(μm)である。
【0041】
【0042】
[水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集効率の測定1]
ペル及びポリフルオロアルキル化合物として、今回はフルオロテロマーアルコール(以降「FTOHs」と表記する。)を用いて評価を行った。FTOHsは上記した化学式(ii)に表される物質であって、炭素数によって物質名が異なる。例えば、C8F17CH2CH2OHの場合は、8:2FTOH(IUPAC名:3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロ-1-デカノール)と命名される。
【0043】
対象物の各FTOHの標準試薬を超純水に添加し、0.5ng/ml(0.5ppb)の試験溶液を作成した。
【0044】
20mlシリンジ内に試作例1の繊維状活性炭を0.2g充填し、試験溶液を1滴/秒(1drop/second)の速度で上記試験溶液を20ml通液した。30秒間の通気脱水後、シリンジ内の吸着活性炭を15mlのジクロロメタンと酢酸エチルを主成分とする混合溶媒を用いて十分に接触撹拌した後に、遠心分離により固液分離して抽出液を採取した。
【0045】
該抽出液をGC-MS/MS(Waters社製QuatrimicroGC)を用いてMRMモードで定量測定を行い、捕集性能を確認した。
【0046】
表2に、試作例1の活性炭について対象物質ごとにFTOHsの回収率(%)を示した。対象物質は、4:2FTOH、6:2FTOH、8:2FTOH、10:2FTOHである。
【0047】
【0048】
〔水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集性能の検討2〕
次に、発明者らはペル及びポリフルオロアルキル化合物として、PFOA(C8HF15O2)及びPFOS(C8HF17O3S)を用いて、下記の試作例2~13について捕集実験2を行い評価した。
【0049】
[試作例の調製]
<試作例2>
フタムラ化学製繊維状活性炭「CF」(C1)10gを試作例2の活性炭とした。
【0050】
<試作例3>
フタムラ化学製繊維状活性炭「CF」(C1)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mlに浸漬させ、220時間静置後、取り出して乾燥させ試作例3の活性炭とした。
【0051】
<試作例4>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3010」(C2)10gを試作例4の活性炭とした。
【0052】
<試作例5>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3010」(C2)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mlに浸漬させ、150時間静置後、取り出して乾燥させ試作例5の活性炭とした。
【0053】
<試作例6>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3012」(C3)10gを試作例6の活性炭とした。
【0054】
<試作例7>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3012」(C3)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mlに浸漬させ、100時間静置後、取り出して乾燥させ試作例7の活性炭とした。
【0055】
<試作例8>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3013」(C4)10gを過酸化水素濃度1.5%溶液500mlに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させ試作例8の活性炭とした。
【0056】
<試作例9>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを試作例9の活性炭とした。
【0057】
<試作例10>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを過酸化水素濃度1.5%溶液500mlに浸漬させ、40時間静置後、取り出して乾燥させ試作例10の活性炭とした。
【0058】
<試作例11>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mlに浸漬させ、70時間静置後、取り出して乾燥させ試作例11の活性炭とした。
【0059】
<試作例12>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを過酸化水素濃度14.0%溶液500mlに浸漬させ、350時間静置後、取り出して乾燥させ試作例12の活性炭とした。
【0060】
<試作例13>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3015」(C5)10gを過酸化水素濃度18.9%溶液500mlに浸漬させ、480時間静置後、取り出して乾燥させ試作例13の活性炭とした。
【0061】
<試作例14>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3018」(C6)10gを試作例14の活性炭とした。
【0062】
<試作例15>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3018」(C6)10gを過酸化水素濃度4.2%溶液500mlに浸漬させ、50時間静置後、取り出して乾燥させ試作例15の活性炭とした。
【0063】
<試作例16>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3018」(C6)10gを過酸化水素濃度14.0%溶液500mlに浸漬させ、350時間静置後、取り出して乾燥させ試作例16の活性炭とした。
【0064】
<試作例17>
フタムラ化学製繊維状活性炭「FE3018」(C6)10gを過酸化水素濃度18.9%溶液500mlに浸漬させ、480時間静置後、取り出して乾燥させ試作例17の活性炭とした。
【0065】
<試作例18>
フタムラ化学製ヤシ殻活性炭「CW480SZ」(C7)10gを試作例18の活性炭とした。
【0066】
[活性炭の測定2]
試作例2~18の表面酸化物、比表面積及び平均細孔直径は上記「活性炭の測定1」と同様に求めた。
【0067】
〔ミクロ孔容積〕
細孔容積については、自動比表面積/細孔分布測定装置(「BELSORP-miniII」、マイクロトラック・ベル株式会社製)を使用し、窒素吸着により測定した。試作例2~18の細孔直径1nm以下の範囲の細孔容積であるミクロ孔容積の和(Vmic)(cm3/g)は、細孔直径1nm以下の範囲におけるdV/dDの値を窒素ガスの吸着等温線のt-plotからMP法により解析して求めた。
【0068】
〔メソ孔容積〕
細孔直径が2~60nmの範囲におけるdV/dDの値は、窒素ガスの吸着等温線からDH法により解析した。なお、解析ソフトにおける細孔直径2~60nmの直径範囲は2.43~59.72nmである。この解析結果より、試作例6~21の細孔直径2~60nmの範囲の細孔容積であるメソ孔容積の和(Vmet)(cm3/g)を求めた。
【0069】
試作例2~18の活性炭の物性は表3~5のとおりである。表3の上から順に、表面酸化物量(meq/g)、BET比表面積(m2/g)、平均細孔直径(nm)、ミクロ孔容積(Vmic)(cm3/g)、メソ孔容積(Vmet)(cm3/g)である。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
[水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の捕集効率の測定2]
ペル及びポリフルオロアルキル化合物として、PFOA及びPFOSを用いて評価を行った。
【0074】
対象物質のPFOA及びPFOSの標準試薬を超純水に添加し、PFOA及びPFOSの溶液濃度が10ng/ml(10ppb)となるよう調整し、試験溶液とした。
【0075】
20mlシリンジ内に上記の試作例を0.2g充填し、試験溶液を1滴/秒(1drop/second)の速度で通液させて試験溶液20mlを通液した。通液後、シリンジ内の試作例の活性炭の水分を遠心分離により除去した。その後、0.01%のアンモニア濃度に調整したメタノール溶液14mlを用い、1滴/秒(1drop/second)の速度で脱水後の試作例に通液させて抽出液を採取した。
【0076】
採取した抽出液を窒素吹き付け濃縮装置により1mlまで濃縮した後、該抽出液をLC-MS/MS(「LCMS―8030」、株式会社島津製作所社製)を用いてMRMモードで定量測定を行い、捕集性能を確認した。
【0077】
表6~8に、試作例2~18について対象物質ごとの回収率(%)を示した。対象物質は、PFOA及びPFOSである。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
[結果と考察]
試作例3,5は、PFOA及びPFOSの両者において回収率が低い結果となり、対象物質の吸着が不十分であった。比表面積が小さく、さらに表面酸化物量が多いため、対象物質を吸着可能な細孔が不十分となり、吸着性能が発揮されなかったと推察される。
【0082】
これに対し、比表面積が小さい試作例2は、対象物質を十分に吸着可能であった。これは、表面酸化物量が少ないため、活性炭表面の官能基に水素結合により水分子が吸着したり、これにより生成された水分子のクラスターによる細孔の閉塞が生じにくく、比表面積が小さくとも対象物質を吸着可能な細孔が十分に存在したと考えられる。このため、活性炭の吸着性能が良好に発揮されたと考えられる。
【0083】
表面酸化物量が多い試作例12,13,16,17についても対象物質を吸着していることを示した。これは、表面酸化物量が多く水分子やクラスターによる細孔の閉塞が生じたとしても、比表面積が大きいため、対象物質の吸着に必要な細孔が十分に存在していたと考えられる。このため、活性炭の吸着性能が発揮され、ペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能を示したと考えられる。これらのことから、比表面積が一定以上大きいこと又は表面酸化物量が一定以下であることが、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能を確保する条件であることが理解される。
【0084】
同一の活性炭を用いて表面酸化物量を変更した例である試作例9~13及び14~17の結果をみても理解される通り、酸化処理を施して表面酸化物量を増加させた試作例においては、酸化処理がされていないないしは酸化処理がされていても表面酸化物量が少ない試作例よりも吸着性能が劣る傾向がある。このため、上述のように水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能については、表面酸化物量は少ない方が好適であることが理解される。
【0085】
表面酸化物量が同程度の試作例2,6,9,14を対比すると、比表面積が一定以上であると水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着が良好であることが示された。特に、表面酸化物量が少ない場合はBET比表面積が800m2/g以上であれば十分な吸着性能が発揮され、表面酸化物量が多い場合には、比表面積はより大きい方が良好な吸着性能を示す傾向があると考えられる。
【0086】
比表面積が大きいかつ表面酸化物量が少ない活性炭とすると、PFOA及びPFOSのいずれについても吸着性能がさらに向上することも示された。比表面積が一定以上大きいことかつ表面酸化物量が一定以下であることにより、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着性能がさらに向上し良好な回収率を示すことがわかった。なお、対象物質と活性炭との接触効率の観点から、繊維状活性炭とするとより効率よくペル及びポリフルオロアルキル化合物の吸着が可能であると考えられる。
【0087】
また、上記の条件を満たしたうえでミクロ孔が発達した活性炭とすると、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物についての吸着性能がさらに高くなると推察できる。なお、メソ孔が発達していると、対象物質の分子が活性炭の細孔内にスムーズに導入され、優れた吸着性能が発揮されると推察できる。また、ミクロ孔内に対象物質の分子を吸着後、抽出操作時においてスムーズに細孔外へと脱離されやすいため、良好な回収率となると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物吸着活性炭は、水試料中のペル及びポリフルオロアルキル化合物を吸着することができるため、既存の捕集材では不可能であった該化合物の定量測定を可能とした。このことから、残留性有機汚染物質を効果的な定量評価を可能とした。