(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20240625BHJP
C30B 15/10 20060101ALI20240625BHJP
C03B 20/00 20060101ALI20240625BHJP
【FI】
C30B29/06 502B
C30B15/10
C03B20/00 H
(21)【出願番号】P 2019203916
(22)【出願日】2019-11-11
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】松村 尚
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/106247(WO,A1)
【文献】特開平08-301693(JP,A)
【文献】特開2018-043904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C30B 15/10
C03B 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラスルツボを用いて、前記石英ガラスルツボ内に収容されたシリコン融液から、チョクラルスキー法によってシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の製造方法において、
前記シリコン単結晶を引き上げに用いられる石英ガラスルツボは、不透明外層と透明内層とからなる2層構造の石英ガラスルツボであり、
引き上げるシリコン単結晶の成長軸方向の酸素濃度の傾向として、シリコン単結晶の引上げ上部の酸素濃度が下部の酸素濃度よりも低くなる傾向を有する、単結晶引き上げ条件に用いられる石英ガラスルツボにあっては、
前記石英ガラスルツボの上部における、
前記石英ガラスルツボの側壁の厚さTに対する透明内層の厚さtの比率t/Tが、石英ガラスルツボの下部における、
前記石英ガラスルツボの側壁の厚さTに対する透明内層の厚さtの比率t/Tよりも大きく設定され、
かつ、前記石英ガラスルツボ側壁の上部から下部における前記比率t/Tが、0.05より大きく0.8未満の範囲内であって、前記シリコン単結晶引き上げ中の前記透明内層が消失しない厚さを有しており、
前記予め引き上げたシリコン単結晶の引上げ条件で引き上げた際、引き上げるシリコン単結晶の結晶成長軸方向の酸素濃度のばらつきが20%以内であることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
石英ガラスルツボを用いて、前記石英ガラスルツボ内に収容されたシリコン融液から、チョクラルスキー法によってシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の製造方法において、
前記シリコン単結晶を引き上げに用いられる石英ガラスルツボは、不透明外層と透明内層とからなる2層構造の石英ガラスルツボであり、
引き上げるシリコン単結晶の成長軸方向の酸素濃度の傾向として、シリコン単結晶の引上げ上部の酸素濃度が下部の酸素濃度よりも高くなる傾向を有する、単結晶引き上げ条件に用いられる石英ガラスルツボにあっては、
前記石英ガラスルツボの上部における、
前記石英ガラスルツボの側壁の厚さTに対する透明内層の厚さtの比率t/Tが、石英ガラスルツボの下部における、
前記石英ガラスルツボの側壁の厚さTに対する透明内層の厚さtの比率t/Tよりも小さく設定され、
かつ、前記石英ガラスルツボ側壁の上部から下部における前記比率t/Tが、0.05より大きく0.8未満の範囲内であって、前記シリコン単結晶引き上げ中の前記透明内層が消失しない厚さを有しており、
前記予め引き上げたシリコン単結晶の引上げ条件で引き上げた際、引き上げるシリコン単結晶の結晶成長軸方向の酸素濃度のばらつきが20%以内であることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記石英ガラスルツボが、
石英ガラスルツボ側壁の上部から下部に向かって、複数の領域に区分され、石英ガラスルツボの側壁の厚さTに対する前記透明内層の厚さtの比率t/Tが、前記複数の領域ごとに調整されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載のシリコン単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(CZ法)によりシリコン単結晶を製造する方法に関し、結晶長方向により均一な酸素濃度を有するシリコン単結晶を製造することができるシリコン単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CZ法によるシリコン単結晶の育成は、
図8に示すようなチャンバ50内に設置した石英ガラスルツボ51に原料であるポリシリコンを充填し、石英ガラスルツボ51の周囲に設けられたヒータ52によってポリシリコンを加熱して溶融し、シリコン融液Mとした後、シードチャックに取り付けた種結晶(シード)Pを当該シリコン融液Mに浸漬し、シードチャックおよび石英ガラスルツボ51を同方向または逆方向に回転させながらシードチャックを引上げることにより行う。
【0003】
一般に、引上げ開始に先立ち、シリコン融液Mの温度が安定すると、種結晶Pをシリコン融液Mに接触させて種結晶Pの先端部を溶解した後、ネッキングを行う。ネッキングとは、種結晶Pとシリコン融液Mとの接触で発生するサーマルショックによりシリコン単結晶に生じる転位を除去するための不可欠の工程である。
このネッキングによりネック部P1が形成される。また、このネック部P1は、例えば直径300mmの結晶の場合、直径が5mm程度で、その長さが30~40mm以上必要とされている。
【0004】
また、引上げ開始後の工程としては、ネッキング終了後、直胴部直径にまで結晶を広げる肩部C1の形成工程、製品となる単結晶を育成する直胴部C2の形成工程、直胴部形成工程後の単結晶直径を徐々に小さくするテール部(図示せず)の形成工程が行われる。
【0005】
ところで、石英ガラスルツボ51の内側面はシリコン融液Mと接触して溶解するため、石英ガラスルツボ51に含まれる酸素がシリコン融液M中に溶け出し、シリコン融液Mと反応してSiOxとなる。このSiOxの大部分は、融液の自由表面から蒸発し、単結晶引上装置内に導入された不活性ガス(Ar等)とともに排出される。
【0006】
ここで、一部のSiOxは、育成中の単結晶に取り込まれ、シリコン単結晶に取り込まれた酸素は、半導体デバイス製造過程で酸素析出物による重金属のゲッタリングやスリップ転位の抑制といった効果をもたらす。
しかしながら、半導体デバイス製造過程において前記酸素析出物が活性層に存在すると電気的特性に悪影響を与える虞があった。そのため、半導体デバイスの種類に応じて適正な酸素濃度のウェーハを製造することが求められている。
【0007】
また、引上初期に成長した直胴部の上部は、石英ガラスルツボ内のシリコン溶融量が多く、ルツボ内壁面とシリコン融液との接触面積が大きいため、石英ガラスルツボからの酸素の溶出量が多い状態で引き上げられる。単結晶の引き上げが進むにつれ、ルツボ内のシリコン融液量が減少していくため、ルツボ内壁面とシリコン融液との接触面積がより小さくなり、石英ガラスルツボからのシリコン融液への酸素の溶出量が少なくなる。
【0008】
そのため、シリコン融液中における酸素濃度が安定せず、単結晶の成長方向における酸素濃度分布が不均一となる傾向があった(例えば、上部ほど酸素濃度が高く下部ほど低くなる等)。この単結晶の育成工程では、歩留りを向上させるため、結晶育成軸方向の酸素濃度を均一とする制御が望まれていた。
【0009】
前記課題に対し、特許文献1(特開平6-56571号)には、シリコン融液の上方に逆円錐台形状又は円筒状の熱遮蔽治具を配置し、シリコン融液面と前記熱遮蔽治具の下端との隙間を調整することによって、単結晶の酸素濃度を制御する方法が開示されている。
特許文献1に開示された方法によれば、前記熱遮蔽治具の上方から融液面に供給された不活性ガスによる融液面の冷却、及びルツボから融液面に放射される熱の遮蔽程度を正確に制御でき、その結果融液中にある酸素の拡散蒸発が制御され、単結晶への酸素供給量を制御することができる。
【0010】
また、特許文献2(再公表WO2001/063027)には、炉内に流す不活性ガスの流量及び圧力を引上げ量に応じて変化させることで酸素濃度を制御することが開示されている。
特許文献2に開示された方法によれば、炉内の不活性ガス流量あるいは圧力を変化させることにより、結晶育成界面近傍の融液表面から酸化物として蒸発する酸素の量を容易に調整することが可能となり、シリコン融液中に含まれる酸素量を容易に制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平6-56571号
【文献】再公表WO2001/063027
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1、2に開示された方法にあっては、いずれも結晶成長軸方向の結晶酸素濃度を均一にできるが、以下の問題を抱えていた。
具体的には、特許文献1に開示された方法にあっては、シリコン融液面と熱遮蔽治具との隙間によってシリコン融液面の温度が変化し、結晶の高さ方向の温度分布が変化するため、ボイド状欠陥(COP)や酸素析出物(BMD)といった結晶欠陥の形成に影響し、結晶欠陥の分布が不均一になるという問題があった。
【0013】
また、特許文献2に開示された方法にあっては、不活性ガスの流量と圧力とで融液からのSiOガスの蒸発量を調整するものであり、不活性ガスの流量が多い場合は排気ポンプに高排気性能の真空ポンプが必要になり、コストが高くなるという問題があった。一方、不活性ガスの流量が少ない場合は、炉内の汚れが排気されず単結晶化率が低下するという問題があった。
【0014】
本発明者は、特許文献1に開示された方法のように熱遮蔽治具を用いるものでなく、特許文献2に開示された方法のように、不活性ガスの流量と圧力とで融液からのSiOガスの蒸発量を調整するものでもなく、新たな方法を検討した。
その結果、石英ガラスルツボの高さ方向に沿って、前記石英ガラスルツボの壁の厚さTに対する前記透明内層の厚さtの比率t/Tを調整することによって、引き上げるシリコン単結晶の結晶成長軸方向の酸素濃度を制御できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明は、前記したような事情の下になされたものであり、石英ガラスルツボの壁の厚さTに対する前記透明内層の厚さtの比率t/Tを調整することによって、シリコン結晶長方向に、より均一な酸素濃度分布を有するシリコン単結晶を製造できるシリコン単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係るシリコン単結晶の製造方法は、石英ガラスルツボを用いて、前記石英ガラスルツボ内に収容されたシリコン融液から、チョクラルスキー法によってシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の製造方法において、前記シリコン単結晶を引き上げに用いられる石英ガラスルツボは、不透明外層と透明内層とからなる2層構造の石英ガラスルツボであり、引き上げるシリコン単結晶の成長軸方向の酸素濃度の傾向として、シリコン単結晶の引上げ上部の酸素濃度が下部の酸素濃度よりも低くなる傾向を有する、単結晶引き上げ条件に用いられる石英ガラスルツボにあっては、前記石英ガラスルツボの上部における、前記石英ガラスルツボの側壁の厚さTに対する透明内層の厚さtの比率t/Tが、石英ガラスルツボの下部における、前記石英ガラスルツボの側壁の厚さTに対する透明内層の厚さtの比率t/Tよりも大きく設定され、かつ、前記石英ガラスルツボ側壁の上部から下部における前記比率t/Tが、0.05より大きく0.8未満の範囲内であって、前記シリコン単結晶引き上げ中の前記透明内層が消失しない厚さを有しており、前記予め引き上げたシリコン単結晶の引上げ条件で引き上げた際、引き上げるシリコン単結晶の結晶成長軸方向の酸素濃度のばらつきが20%以内であることに特徴を有する。
また、前記課題を解決するためになされた、本発明に係るシリコン単結晶の製造方法は、石英ガラスルツボを用いて、前記石英ガラスルツボ内に収容されたシリコン融液から、チョクラルスキー法によってシリコン単結晶を引き上げるシリコン単結晶の製造方法において、前記シリコン単結晶を引き上げに用いられる石英ガラスルツボは、不透明外層と透明内層とからなる2層構造の石英ガラスルツボであり、引き上げるシリコン単結晶の成長軸方向の酸素濃度の傾向として、シリコン単結晶の引上げ上部の酸素濃度が下部の酸素濃度よりも高くなる傾向を有する、単結晶引き上げ条件に用いられる石英ガラスルツボにあっては、前記石英ガラスルツボの上部における、前記石英ガラスルツボの側壁の厚さTに対する透明内層の厚さtの比率t/Tが、石英ガラスルツボの下部における、前記石英ガラスルツボの側壁の厚さTに対する透明内層の厚さtの比率t/Tよりも小さく設定され、かつ、前記石英ガラスルツボ側壁の上部から下部における前記比率t/Tが、0.05より大きく0.8未満の範囲内であって、前記シリコン単結晶引き上げ中の前記透明内層が消失しない厚さを有しており、前記予め引き上げたシリコン単結晶の引上げ条件で引き上げた際、引き上げるシリコン単結晶の結晶成長軸方向の酸素濃度のばらつきが20%以内であることに特徴を有する。
また、前記石英ガラスルツボが、石英ガラスルツボ側壁の上部から下部に向かって、複数の領域に区分され、石英ガラスルツボの側壁の厚さTに対する前記透明内層の厚さtの比率t/Tが、前記複数の領域ごとに調整されていることが望ましい。
【0017】
このように本発明に係るシリコン単結晶の製造方法によれば、前記石英ガラスルツボの高さ方向に沿って、前記石英ガラスルツボの壁の厚さTに対する前記透明内層の厚さtの比率t/Tを調整し、引き上げるシリコン単結晶の結晶成長軸方向の酸素濃度を制御することにより、引き上げるシリコン単結晶の結晶成長軸方向の酸素濃度のばらつきを抑制し、酸素濃度をより均一にすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、石英ガラスルツボの壁の厚さTに対する前記透明内層の厚さtの比率t/Tを調整することによって、シリコン結晶長方向に、より均一な酸素濃度分布を有するシリコン単結晶を製造できるシリコン単結晶の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明に係るシリコン単結晶の製造方法が実施される単結晶引上装置の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の単結晶引上装置が備える石英ガラスルツボの断面図である。
【
図3】
図3は、
図2の石英ガラスルツボを一部拡大した断面図である。
【
図4】
図4は、本発明に係るシリコン単結晶の製造方法の流れを示すフローである。
【
図5】
図5(a)、(b)、(c)は、結晶引上に伴い変化するシリコン融液量とルツボとの関係を示す断面図である。
【
図6】
図6は、実施例(実験1)の結果を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例(実験2)の結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる工程を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るシリコン単結晶の製造方法について図面を用いながら説明する。
図1は、本発明に係るシリコン単結晶の製造方法が実施される単結晶引上装置の断面図である。
図2は、
図1の単結晶引上装置が備える石英ガラスルツボの断面図である。
この単結晶引上装置1は、円筒形状のメインチャンバ10aの上にプルチャンバ10bを重ねて形成された炉体10を備え、この炉体10内に鉛直軸回りに回転可能、且つ昇降可能に設けられたカーボンサセプタ(或いは黒鉛サセプタ)2と、前記カーボンサセプタ2によって保持された石英ガラスルツボ3(以下、単にルツボ3と称する)とを具備している。このルツボ3は、カーボンサセプタ2の回転とともに鉛直軸回りに回転可能となされている。
【0021】
ここで
図2、
図3を用いてルツボ3の構成について詳しく説明する。
ルツボ3は、例えば口径800mmに形成され、所定の曲率を有する底部31と、前記底部31の周りに形成され、所定の曲率を有するコーナー部32と、前記コーナー部32から上方に延びる直胴部33とを有する。前記直胴部33の上端には、ルツボ開口(上端開口)が形成されている。
ルツボ3は、
図2に示すように、不透明外層3A(不透明層)と透明内層3B(透明層)との2層構造である。
【0022】
このうち、不透明外層3Aは天然原料石英ガラスからなり、透明内層3Bは例えば高純度の合成原料石英ガラスからなる。
ここで不透明とは、石英ガラス中に多数の気泡(気孔)が内在し、見かけ上、白濁した状態を意味する。また、天然原料石英ガラスとは水晶等の天然質原料を溶融して製造されるシリカガラスを意味し、合成原料石英ガラスとは、例えばシリコンアルコキシドの加水分解により合成された合成原料を溶融して製造されるシリカガラスを意味する。
【0023】
そして、この製造方法では、前記石英ガラスルツボの壁の厚さTに対する前記透明内層の厚さtの比率t/Tが、ルツボ高さ方向において調整(設定)された石英ガラスルツボが用いられる。
前述したように、単結晶を引き上げる過程において、シリコン融液中における酸素濃度は安定せず、単結晶の成長方向における酸素濃度分布が不均一となる傾向がある。どのように不均一になるかは、融液中の酸素濃度の変化の他、磁場強度、磁場中心位置、不活性ガスの流量や炉内圧、石英ガラスルツボ3の回転、単結晶の回転等のパラメータに影響されて決まる。
【0024】
そのため、本発明においては、ある単結晶引上装置において、引き上げた単結晶の不均一となる酸素濃度分布の傾向(例えば、結晶上部の酸素濃度が下部よりも高くなる分布など)を予め把握しておき、それに基づき前記比率t/Tが調整される。
本実施形態においては、前記酸素濃度分布の傾向が、結晶上部の酸素濃度が下部よりも高くなる分布となる場合を例に説明する。
【0025】
図3に拡大して示すようにルツボ3の直胴部33の高さ方向に沿って、例えばルツボ上部33Aとルツボ中間部33Bとルツボ下部33Cとで、ルツボ壁厚さ(不透明外層3Aと不透明内層3Bとを合わせた厚さ)Tに対する透明内層3Bの厚さtの比率t/Tが0.05より大きく0.8未満の間で設定されている。
例えば、上部33Aから下部33Cに向かって前記比率t/Tが小さい値から大きい値に設定されている。具体的には、例えば、上部33Aではルツボ壁厚さTに対する透明内層3Bの厚さtの比率t/Tが0.10とされ、中間部33Bの比率t/Tが0.3とされ、下部33Cの比率t/Tが0.6とされる。
【0026】
尚、前記比率t/Tが0.05以下の場合(透明内層3Bの厚さが薄すぎる場合)、結晶育成中に透明内層3Bがすべて溶けてしまい、気泡を含む不透明外層3Aがシリコン融液M側に露出し、微小な石英パーティクルが剥がれる虞がある。その場合、パーティクルが融液表面に到達し、有転位化率が上昇する、或いは気泡が結晶中に取り込まれてエアポケットが形成される不良が発生する等の虞がある。
一方、前記比率t/Tが0.8以上の場合(透明内層3Bの厚さが厚すぎる場合)、不透明外層3Aによる熱の均一拡散が不十分になり、温度制御が困難になる、或いは製品価格が高くなるなどの欠点がある。
【0027】
上記のように比率t/Tを規定するのは、不透明外層3Aと透明内層3Bの熱伝達率が異なることによる。不透明外層3Aは、多量の気泡を含むため、熱を均一に拡散し均一な温度分布となる。一方、透明内層3Bは、熱伝導率が高く、温度制御が難しい。
【0028】
そのため、ルツボ3の肉厚Tに対し透明内層3Bの比率t/Tが小さい場合には、熱を均一に拡散する不透明外層3Aが厚くなり、必要以上にルツボ3を加熱する必要がなく、ルツボ内表面温度を低くすることができるため、シリコン融液Mへの石英の溶解量を少なくすることができる。
一方、ルツボ3の肉厚Tに対し透明内層3Bの比率t/Tが大きい場合には、熱伝導が大きいため、ルツボ内表面温度が高くなり、石英の溶解量が多くなり、シリコン融液Mへの石英の溶解量を多くすることができる。
【0029】
結晶育成が進むとともにシリコン融液量が減少するため、育成する単結晶に対する酸素濃度の影響は、シリコン融液面M1が位置するルツボ上部33Aから中間部33B、下部33Cへと移行する。
また、上述したように石英ガラスルツボ中のシリコン融液量が多い引き上げ初期ほど、シリコン融液中の酸素量が多いため、単結晶上部ほど酸素濃度が高くなる傾向を有する。
そこで、本発明に係る実施形態にあっては、結晶酸素濃度に最も影響するシリコン融液面M1が順に移動するルツボ上部33A、中間部33B、下部33Cの比率t/Tを、一例として石英ガラスルツボの上部から下部に向かって、大きくなるように、それぞれ設定することにより結晶成長軸方向の酸素濃度が、より均一となるよう制御する構成となっている。
【0030】
次に
図1の説明に戻り、カーボンサセプタ2の下方には、このカーボンサセプタ2を鉛直軸回りに回転させる回転モータなどの回転駆動部14と、カーボンサセプタ2を昇降移動させる昇降駆動部15とが設けられている。
尚、回転駆動部14には回転駆動制御部14aが接続され、昇降駆動部15には昇降駆動制御部15aが接続されている。
【0031】
また単結晶引上装置1は、ルツボ3に装填された半導体原料(原料ポリシリコン)を溶融してシリコン溶融液M(以下、単に溶融液Mと呼ぶ)とする抵抗加熱によるサイドヒータ4と、ワイヤ6を巻き上げ、育成される単結晶Cを引き上げる引き上げ機構9とを備えている。前記引き上げ機構9が有するワイヤ6の先端には、種結晶Pが取り付けられている。
【0032】
尚、サイドヒータ4には供給電力量を制御するヒータ駆動制御部4aが接続され、引き上げ機構9には、その回転駆動の制御を行う回転駆動制御部9aが接続されている。
また、この単結晶引上装置1においては、例えば、炉体2の外側に磁場印加用電磁コイル8が設置される。この磁場印加用電磁コイル8に所定の電流が印加されると、ルツボ3内のシリコン溶融液Mに対し所定強度の水平磁場が印加されるようになっている。磁場印加用電磁コイル8には、その動作制御を行う電磁コイル制御部8aが接続されている。
【0033】
即ち、本実施形態においては、溶融液M内に磁場を印加して単結晶を育成するMCZ法(Magnetic field applied CZ法)が実施され、それによりシリコン溶融液Mの対流を制御し、単結晶化の安定を図るようになされる。
【0034】
また、ルツボ3内に形成される溶融液Mの上方には、単結晶Cの周囲を包囲する輻射シールド7が配置されている。この輻射シールド7は、上部と下部が開口形成され、育成中の単結晶Cに対するサイドヒータ4や溶融液M等からの余計な輻射熱を遮蔽すると共に、炉内のガス流を整流するものである。
尚、輻射シールド7の下端と溶融液面との間のギャップは、育成する単結晶の所望の特性に応じて所定の距離を一定に維持するよう制御される。
【0035】
また、この単結晶引上装置1は、記憶装置11aと演算制御装置11bとを有するコンピュータ11を備え、回転駆動制御部14a、昇降駆動制御部15a、電磁コイル制御部8a、回転駆動制御部9aは、それぞれ演算制御装置11bに接続されている。
【0036】
このように構成された単結晶引上装置1において、例えば、直径300mmの単結晶Cを育成する場合、次のように引き上げが行われる。即ち、最初にルツボ3に原料ポリシリコン(例えば350kg)を装填し、コンピュータ11の記憶装置11aに記憶されたプログラムに基づき結晶育成工程が開始される。
【0037】
先ず、炉体10内が所定の雰囲気(主にアルゴンガスなどの不活性ガス)となされ、ルツボ3が所定の回転速度(rpm)で回転動作された状態で、ルツボ3内に装填された原料ポリシリコンが、サイドヒータ4による加熱によって溶融され、溶融液Mとされる(
図4のステップS1)。
【0038】
次いで、磁場印加用電磁コイル8に所定の電流が流され、溶融液M内に1000~4000Gaussの範囲内で設定された磁束密度(例えば2500Gauss)で水平磁場が印加開始される(
図4のステップS2)。
また、ワイヤ6が降ろされて種結晶Pが溶融液Mに接触され、種結晶Pの先端部を溶解した後、ネッキングが行われ、ネック部P1が形成開始される(
図4のステップS3)。
ネック部P1が形成されると、サイドヒータ4への供給電力や、引き上げ速度、磁場印加強度などをパラメータとして引き上げ条件が調整され、ルツボ3の回転方向とは逆方向に所定の回転速度で種結晶Pが回転開始される。
【0039】
そして、結晶径が徐々に拡径されて肩部C1が形成され(
図4のステップS4)、製品部分となる直胴部C2を形成する工程に移行する(
図4のステップS5)。
ここで、ルツボ3から溶出した酸素が導入されたシリコン融液Mから育成される単結晶中の酸素濃度は、例えば、磁場強度、磁場中心位置、不活性ガスの流量や炉内圧、石英ガラスルツボ3の回転、単結晶の回転等のパラメータが影響する。
【0040】
結晶成長軸方向の酸素濃度分布は、上記パラメータに影響されるが、従来は、上記パラメータ制御のみで結晶成長軸方向の酸素濃度を均一にすることは困難である。
そこで、本発明に係る実施形態においては、上記パラメータ条件に加え、ルツボ3の高さ方向におけるルツボ壁厚さTに対する透明内層3Bの厚さtの比率t/Tを調整することにより結晶成長軸方向における結晶酸素濃度を制御する。
【0041】
具体的には、磁場強度、磁場中心位置、不活性ガスの流量や炉内圧、ベースとなる石英ガラスルツボ3の回転、単結晶の回転等の上記パラメータにより引き上げられた単結晶Cの成長軸方向の酸素濃度の傾向は、事前にデータとして記憶装置11aに記録しておき、それに合わせて前記石英ガラスルツボ3における比率t/Tを決定し、それに基づくルツボを製造して使用することとなる。
【0042】
直胴部C2の育成初期では、シリコン融液面M1は、
図5(a)に示すようにルツボ上部33Aに位置する。単結晶Cに取り込まれる酸素量は、シリコン融液面M1付近の融液M中の酸素濃度が最も影響する。
ここで、直胴部C2の育成初期では、シリコン融液量が多く、ルツボ内表面との接触面積が大きいために、融液中の酸素濃度は全体的に高いが、ルツボ上部33Aでは、ルツボ壁厚さTに対する透明内層3Bの厚さtの比率t/Tが例えば0.08と小さく設定されている。即ち、透明内層3Bの厚さが薄く形成されているため、不透明外層3Aが厚く、それにより熱が拡散して均一化される。それにより、ルツボ内表面の温度が低くなり、ルツボ3からシリコン融液Mへの石英の溶解量が抑制される。
【0043】
直胴部の育成が進み、
図5(b)に示すようにシリコン溶融液面M1が減少してルツボ中部33Bの位置になると、このルツボ中部33Bでは、ルツボ壁厚さTに対する透明内層3Bの厚さtの比率t/Tが例えば0.3に設定されている。
ここで、ルツボ内のシリコン融液量は減少しているため、シリコン融液中の酸素濃度は低下傾向となるが、シリコン融液面M1が位置するルツボ中部33Bは、ルツボ上部33Aよりも透明内層3Bの厚さが厚いため、ルツボ3からシリコン融液Mへの石英の溶解量が増加する。
【0044】
更に直胴部の育成が進み、
図5(c)に示すようにシリコン溶融液面M1がルツボ下部33Cの位置になると、このルツボ下部33Cでは、ルツボ壁厚さTに対する透明内層3Bの厚さtの比率t/Tが例えば0.6と高めに設定されている。
ここで、ルツボ内のシリコン融液量は更に減少し少量となっているため、シリコン融液中の酸素濃度は低いが、ルツボ下部33Cでは、透明内層3Bの厚さが厚く形成されているため、熱伝導率が高くなっている。それにより、ルツボ内表面の温度が高くなり、ルツボ3からシリコン融液への石英の溶解量が多くなる。
【0045】
このように直胴部C2の育成を行うことにより、直胴部C2の成長軸方向において酸素濃度が均一になるように矯正される。
そして、所定の長さまで直胴部C2が形成されると、最終のテール部工程に移行する(
図2のステップS6)。このテール部工程においては、結晶下端と溶融液Mとの接触面積が徐々に小さくなり、単結晶Cと溶融液Mとが切り離され、シリコン単結晶が製造される。
【0046】
以上のように、本実施の形態によれば、前記石英ガラスルツボの高さ方向に沿って、前記石英ガラスルツボの壁の厚さTに対する前記透明内層の厚さtの比率t/Tを調整し、引き上げるシリコン単結晶の結晶成長軸方向の酸素濃度を制御することにより、結晶成長軸方向の酸素濃度を所望の値に近づけ、且つ均一にすることができる。
また、従来一般的な単結晶引上装置の構成に対し、ルツボ3の壁厚さTに対する透明内層3Bの厚さtを調整するのみでよいため、かかるコストを抑えることができる。
また、シリコン融液面の温度は一定に保つ制御が可能であるため、結晶欠陥の分布が不均一になることを防止することができる。
【0047】
尚、前記実施の形態においては、ルツボ壁厚さTに対する透明内層3Bの厚さtの比率t/Tを、0.08、0.3、0.6と設定した場合を示したが、磁場強度、磁場中心位置、不活性ガスの流量や炉内圧、石英ガラスルツボの回転、単結晶の回転等のパラメータを変えることにより、比率t/Tを適宜変えることができる。
【0048】
また、前記実施の形態においては、石英ガラスルツボ3の高さ方向に3つの領域(33A,33B,33C)に分けて各領域に比率t/Tを設定したが、本発明にあっては、前記領域の数は限定されるものではなく、適宜設定することができる。
また各領域に分けて、特定の比率t/Tを設定するのではなく、石英ガラスルツボ3の高さ方向において、徐々に比率t/Tを変化させても良い。
【0049】
また、石英ガラスルツボ3を不透明外層3Aと透明内層3Bとの2層構造としたが、本発明にあっては、その構成に限定されるものではなく、内層が透明層であれば、層の数は限定されない。
【0050】
更に、本発明を実施するに際し、特許文献1に開示された方法のように熱遮蔽治具を用いる方法、特許文献2に開示された方法のように不活性ガスの流量と圧力とで融液からのSiOガスの蒸発量を調整する方法を併用しても良い。
【実施例】
【0051】
本発明に係るシリコン単結晶の製造方法について、実施例に基づきさらに説明する。
(実験1)
実験1では、ルツボ壁厚さTに対する透明内層の厚さtの比率t/Tをルツボ高さ方向で変化させることにより、引き上げたシリコン単結晶の引き上げ方向の酸素濃度分布に対し、どのように影響するかを検証した。
【0052】
実験1では、上述の実施形態に示した構成の単結晶引上装置において、ルツボに350kgの原料ポリシリコンを投入し、直径300mmのシリコン単結晶の引上げを行なった。シリコン溶融液の自然対流を抑制するために、引上中に印加する水平磁場の磁束密度は2500Gaussに設定した。
また、不活性ガスの流量は、90L/minとし、炉内圧を50torrとした。
更に、ルツボの回転数を1rpmとし、単結晶の回転数を10rpmとした(回転方向は互いに逆方向とした)。
【0053】
図3に示したルツボ壁厚さTに対する透明内層3Bの厚さtの比率t/Tは、実施例1、実施例2、比較例1において、表1に示すように設定した。
実施例1では、引き上げた単結晶の上部の酸素濃度が下部の酸素濃度よりも高くなる傾向を有する引上装置の条件下において石英ルツボの比率t/Tを設定した。
実施例2では、引き上げた単結晶の上部の酸素濃度が下部の酸素濃度よりも高くなる傾向を有する引上装置の条件下において石英ルツボの比率t/Tを設定した。
また、比較例1では、引き上げた単結晶の上部の酸素濃度が下部の酸素濃度よりも高くなる傾向を有する引上装置の条件下において石英ルツボの比率t/Tを変えずに実施した。
実験1の結果を
図6のグラフに示す。
図6のグラフの縦軸は酸素濃度(×10
18/cm
3)、横軸は固化率である。また、実施例1,2、及び比較例1の条件に基づき引き上げた単結晶の軸方向における酸素濃度のばらつきを、表1に示す。
【0054】
【0055】
図6のグラフに示すように実施例1では、結晶引上初期の酸素濃度が抑えられ、低酸素濃度で結晶成長軸方向に均一な酸素濃度を有する単結晶が得られた。また、表1に示すように酸素濃度のばらつきは14%に抑えられた。
また、実施例2では、結晶引上後期の酸素濃度が向上し、高酸素濃度で結晶成長軸方向に均一な酸素濃度を有する単結晶が得られた。また、表1に示すように酸素濃度のばらつきは13%に抑えられた。
また、比較例1では、結晶上部ほど酸素濃度が高い単結晶が得られた。また、表1に示すように酸素濃度のばらつきは30%と大きくなった。
この実験1の結果から、本発明によれば結晶成長軸方向に酸素濃度を、より均一に制御でき、酸素濃度のばらつきを20%以内に抑えられることが確認された。
【0056】
(実験2)
実験2では、引き上げた単結晶の上部の酸素濃度が下部の酸素濃度よりも低くなる傾向を有する引上装置の条件下において、石英ルツボのルツボ壁厚さTに対する透明内層の厚さtの比率t/Tをルツボ高さ方向で変化させ、引き上げられる単結晶の高さ方向における酸素濃度のばらつきを検証した。単結晶引き上げの条件は、実験1と同じである。
実施例3、4、及び比較例2におけるルツボ上部、中部、下部における比率t/T、及びそれらの条件に基づき引き上げた単結晶の軸方向における酸素濃度のばらつきを、表2に示す。
また、
図7のグラフに、実施例3、4及び比較例2における単結晶酸素濃度の変化を示す。
図7のグラフにおいて、縦軸は酸素濃度(×10
18/cm
3)、横軸は固化率である。
【0057】
【0058】
図7のグラフ、及び表2に示すように、実施例3、4ではルツボ上部における比率t/Tをルツボ下部よりも大きく設定することにより、単結晶の引き上げ軸方向における酸素濃度分布のばらつきが小さく(10%以下)に抑えられた。
一方、比較例2では、ルツボ高さ方向において透明内層の厚さの比率t/Tを略一定に設定したが、引き上げた単結晶の上部の酸素濃度が下部よりも低くなり(ベースと同じ)、酸素濃度のばらつきが大きく(22%)なる結果となった。
【0059】
(実験3)
実験3では、ルツボ壁厚さTに対する透明内層の厚さtの比率t/Tの適切な範囲について検証した。適切か否かの判定は、結晶の有転位化率、温度変動量の大きさにより判定した。
表3に実施例5~7、比較例3~6における条件である比率t/T、及び結果としての結晶の有転位化率、融液の温度変動量を示す。実験3の実施例5~7、比較例3~6では、引き上げた単結晶の引上軸方向の酸素濃度分布を均一とするために比率t/Tを設定した。その他の条件は、実験1と同じである。
【0060】
【0061】
表3に示すように、実施例5~7において設定した比率t/Tでは、有転位化率が10%以下、温度変動量が±3℃と良好な結果が得られた。
一方、比較例3、4のように比率t/Tが0.05と低い部位がある場合には、不透明層の気泡が露出し、微小な石英パーティクルが発生して有転位化率が上昇した。
また、比較例5、6のように比率t/Tが0.80以上の部位がある場合には、不透明外層による熱の均一拡散が不十分になり、温度制御が困難になってシリコン融液の温度変動量が大きくなった。
この結果より、ルツボ壁厚さTに対する透明内層の厚さtの比率t/Tの範囲は、0.05より大きく0.80未満であることが望ましいことを確認した。
【符号の説明】
【0062】
1 単結晶引上装置
2 カーボンサセプタ
3 石英ガラスルツボ(ルツボ)
4 サイドヒータ
6 ワイヤ
7 輻射シールド
8 磁場印加用電磁コイル
9 引き上げ機構
10 炉体
11 コンピュータ
11a 記憶装置
11b 演算制御装置
14 回転駆動部
15 昇降駆動部
C シリコン単結晶
M シリコン融液
C1 肩部
C2 直胴部