(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-24
(45)【発行日】2024-07-02
(54)【発明の名称】成膜装置
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20240625BHJP
【FI】
C23C14/24 G
(21)【出願番号】P 2022026971
(22)【出願日】2022-02-24
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 由季
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-137390(JP,A)
【文献】特開2016-196684(JP,A)
【文献】特開2008-081771(JP,A)
【文献】特開2014-019954(JP,A)
【文献】特開2011-042868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜装置であって、
基板に成膜材料を放出する成膜源と前記基板との少なくともいずれかを所定の方向に移動させる第1移動手段と、
前記成膜源から前記基板への成膜材料の入射を制限する
第一の位置と、前記成膜源から前記基板への成膜材料の入射を制限しない
第二の位置との間でシャッタを移動するよう制御する第2移動手段と、
を備え、
前記第2移動手段は、前記成膜源及び前記シャッタが前記基板からみて前記所定の方向において同じ方向に位置し、前記成膜源の放出方向に前記基板が位置していない場合に、前記成膜源の前記放出方向に位置する前記シャッタを、前記所定の方向及び該所定の方向と反対方向に前記シャッタを移動するよう制御することを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
成膜装置であって、
基板に成膜材料を放出する成膜源と前記基板との少なくともいずれかを所定の方向に移動させる第1移動手段と、
前記成膜源から前記基板への成膜材料の入射を制限する
第一の位置と、前記成膜源から前記基板への成膜材料の入射を制限しない
第二の位置との間でシャッタを移動するよう制御する第2移動手段と、
を備え、
前記第2移動手段は、前記成膜源及び前記シャッタが前記基板からみて前記所定の方向において同じ方向に位置し、前記成膜源の放出方向に前記基板が位置していない場合に、前記成膜源の放出方向の基準位置に位置する前記シャッタを、前記基準位置よりも前記所定の方
向及び該所定の方向と反対方
向に往復移動させることを特徴とする成膜装置。
【請求項3】
成膜装置であって、
基板に成膜材料を放出する成膜源と前記基板との少なくともいずれかを所定の方向に移動させる第1移動手段と、
前記成膜源から前記基板への成膜材料の入射を制限する第一の位置と、前記成膜源から前記基板への成膜材料の入射を制限しない第二の位置との間でシャッタを移動するよう制御する第2移動手段と、
を備え、
前記第2移動手段は、前記基板が前記成膜源の成膜範囲外に位置する場合、前記成膜源の放出方向に位置する前記シャッタを、前記所定の方向及び該所定の方向と反対の方向に移動させることを特徴とする成膜装置。
【請求項4】
前記第1移動手段は、前記所定の方向および前記所定の方向と反対の方向のいずれかに前記成膜源が移動するよう制御することを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記第1移動手段は、前記成膜源が前記基板の下方に位置する成膜範囲から前記成膜範囲外に前記成膜源を移動させたあと、前記成膜源が再び前記成膜範囲へ進入するように制御することを特徴とする請求項4に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記第2移動手段は、前記成膜源が前記成膜範囲外に位置する間に前記シャッタの移動を制御することを特徴とする請求項5に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記第2移動手段は、前記成膜源が前記成膜範囲外から前記成膜範囲に移動することに応じて前記シャッタの移動動作を終了して前記シャッタの開閉動作を開始させることを特徴とする請求項6に記載の成膜装置。
【請求項8】
成膜装置であって、
成膜時にマスク及び基板を保持する保持部と、
前記成膜装置内を往復移動して成膜を行う成膜源と、
前記保持部に配置された前記基板への前記成膜源からの成膜材料の入射を制限する第一の位置と、前記保持部に配置された前記基板への前記成膜源からの成膜材料の入射を制限しない第二の位置との間でシャッタを移動させる移動手段と、
を備え、
前記移動手段は、前記保持部によって保持される前記基板への成膜時であって、前記成膜源の移動方向の切り替えに伴って前記成膜源が減速を開始してから加速を終了するまでの間に前記シャッタを移動させることを特徴とする成膜装置。
【請求項9】
前記移動手段は、前記成膜源の移動方向と逆の方向に前記シャッタを移動させることを特徴とする請求項8に記載の成膜装置。
【請求項10】
前記移動手段は、前記シャッタが上下方向で前記基板の少なくとも一部に重なるように前記シャッタを移動させることを特徴とする請求項8に記載の成膜装置。
【請求項11】
前記移動手段は、前記保持部によって保持される前記基板への成膜時であって、前記成膜源が移動していない状態において前記シャッタを移動させることを特徴とする請求項8から10の何れか1項に記載の成膜装置。
【請求項12】
前記移動手段は、前記保持部によって保持される前記基板への成膜時であって、前記成膜源の移動方向の切り替えに伴って前記成膜源が減速してから加速するまでの間に、前記第一の位置と前記第二の位置との間の複数の位置のいずれかで前記シャッタを停止させることを特徴とする請求項8から11の何れかに記載の成膜装置。
【請求項13】
前記移動手段は、前記成膜源の移動方向の切り替え回数に応じて前記複数の位置のいずれの位置に前記シャッタを停止させるかを決定することを特徴とする請求項12に記載の成膜装置。
【請求項14】
前記移動手段は、成膜処理の経過時間に応じて前記複数の位置のいずれの位置に前記シャッタを停止させるかを決定することを特徴とする請求項12に記載の成膜装置。
【請求項15】
前記移動手段は、前記保持部によって保持される前記基板への成膜時であって、前記成膜源が前記基板の直下を移動している間、前記シャッタが上下方向で前記成膜源と前記基板との間に位置しないように前記シャッタを移動させることを特徴とする請求項8から14のいずれか1項に記載の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜源を移動させて基板に成膜材料を成膜する成膜装置に関する。
【0002】
有機ELディスプレイ等の製造設備として、成膜室に基板を搬送して基板に対する成膜を行う装置が知られている。特許文献1には、蒸発源を移動して成膜材料の放出を行うスキャン成膜型の成膜装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、成膜材料の経路を開閉するためのシャッタには蒸発源から放出された成膜材料が付着する。また、シャッタに付着した成膜材料の厚みが大きくなると、成膜材料が落下し、ノズルに付着する場合がある。このような場合、基板に成膜材料を成膜するために必要な時間が変化したり、均一な成膜ができなくなるなど、成膜処理の品質が下がることが問題であった。
【0005】
本発明は、上記問題に鑑み、シャッタに付着した成膜材料の落下を防ぐ技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、成膜装置であって、
基板に成膜材料を放出する成膜源と前記基板との少なくともいずれかを所定の方向に移動させる第1移動手段と、
前記成膜源から前記基板への成膜材料の入射を制限する第一の位置と、前記成膜源から前記基板への成膜材料の入射を制限しない第二の位置との間でシャッタを移動するよう制御する第2移動手段と、
を備え、
前記第2移動手段は、前記成膜源及び前記シャッタが前記基板からみて前記所定の方向において同じ方向に位置し、前記成膜源の放出方向に前記基板が位置していない場合に、前記成膜源の前記放出方向に位置する前記シャッタを、前記所定の方向及び該所定の方向と反対方向に前記シャッタを移動するよう制御することを特徴とする成膜装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、シャッタに付着した成膜材料の落下を防ぐ技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る成膜システムのレイアウト図。
【
図4】(A)~(C)は成膜処理における成膜源31の移動を示す図。
【
図5】シャッタ21に付着する成膜材料の分布を示す図。
【
図6】(A)~(C)は本実施形態に係る成膜処理における成膜源31とシャッタ21の移動を示す図。
【
図7】本実施形態に係る成膜処理におけるシャッタ21の折り返し位置を示す図。
【
図8】(A)~(C)は本実施形態に係る成膜処理における成膜源31とシャッタ21の移動を示す図。
【
図10】成膜室1000の搬送ローラの配置を示す図。
【
図11】(A)~
(F)は本実施形態に係る成膜処理における成膜源1010とシャッタ1031、1032の移動を示す図。
【
図12】
(A)~(C)は本実施形態に係る成膜処理におけるシャッタ1031の移動例を示す図。
【
図13】
(A)~(C)は本実施形態に係る成膜処理におけるシャッタ1032の移動例を示す図。
【
図14】(A)は有機EL表示装置の全体図、(B)は1画素の断面構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0010】
<第一実施形態>
(システムの概要)
図1は成膜システム1のレイアウト図である。なお、各図において矢印Zは上下方向(重力方向)を示し、矢印X及び矢印Yは互いに直交する水平方向を示す。矢印θはZ軸周りの回転方向を示す。
【0011】
成膜システム1は、中間搬送装置101、成膜装置3及び中間搬送装置102がX方向に配列された構成であり、基板Wがこの順番で搬送され、処理される。中間搬送装置101は基板Wの搬送方向で上流側に位置しており、中間搬送装置102は基板Wの搬送方向で下流側に位置している。図示の例では、成膜システム1は、成膜装置3を一つ備えているが、中間搬送装置101の上流側、或いは、中間搬送装置102の下流側にも成膜装置3を設けることができる。制御装置2は、CPU等のプロセッサ、半導体メモリやハードディスクなどの記憶デバイス、入出力インタフェースを備え、成膜システム1を制御する。
【0012】
中間搬送装置101及び102は、搬送ロボット110を備える。搬送ロボット110は、ベース部上に二組のアーム及びハンドが支持されたダブルアーム型のロボットである。二組のアーム及びハンドは、ベース部上でθ方向に旋回し、また、伸縮自在である。中間搬送装置101及び102に隣接して、マスクMが収容されるストッカ104が設けられいる。搬送ロボット110は、基板Wの搬送の他、マスクMの搬送も行う。中間搬送装置102のハンドはフォーク形状を有しており、基板MやマスクMは当該ハンド上に載置されて搬送される。
【0013】
成膜装置3は、中間搬送装置101から搬入される基板Wに対して成膜処理を行い、中間搬送装置102へ搬出する装置である。成膜装置3は、基板Wの受渡を行う受渡室4と、受渡室4に隣接して配置された複数の成膜室10Aおよび10B(以下、区別せずに成膜室10と呼ぶ場合がある)とを備える。本実施形態では成膜室10は、二つ設けられており、受渡室4のY方向の両側にそれぞれ一つずつ配置されている。受渡室4及び成膜室10はそれぞれ壁部に囲まれ、気密に維持可能である。
【0014】
成膜室10では基板Wに蒸着物質(成膜材料)が成膜される。基板WにはマスクMを用いて所定のパターンの蒸着物質の薄膜を形成可能である。基板Wの材質は、ガラス、樹脂、金属等の材料を適宜選択可能であり、代表的にはガラス上にポリイミド等の樹脂層が形成されたものが用いられる。本実施形態の場合、基板Wは矩形である。蒸着物質としては、有機材料、無機材料(金属、金属酸化物など)などの物質である。成膜装置3は、例えば表示装置(フラットパネルディスプレイなど)や薄膜太陽電池、有機光電変換素子(有機薄膜撮像素子)等の電子デバイスや、光学部材等を製造する製造装置に適用可能であり、特に、有機ELパネルを製造する製造装置に適用可能である。
【0015】
(受渡室)
受渡室4は、中間搬送装置101及び102と、成膜装置3との間での基板WやマスクMの受け渡しの他、成膜室10に対する基板WやマスクMの振り分けを行う。したがって、受渡室4は仕分室と呼ぶこともできる。
【0016】
(多方向の搬送ユニット)
受渡室4には基板W及びマスクMを搬送する搬送ユニット40が設けられている。搬送ユニット40は、中間搬送装置101から基板W又はマスクMを受け取り、保持ユニット6A~6Dに受け渡す。また、保持ユニット6A~6Dから受け取った基板W又はマスクMを中間搬送装置102へ搬出する。保持ユニット6A~6Dは基板Wを静電気力により保持する保持手段の一例である。
【0017】
本実施形態の搬送ユニット40は、X-Y平面上の多方向に基板W等を移動可能な水平多関節型のロボットであり、円筒形状のベース部と、ベース部上に支持されたアーム部と、アーム部に支持されたハンドとを備える。ベース部は駆動軸を有し、駆動軸のθ方向の回転によるZ1軸周りのアーム部の旋回と、駆動軸の上下の移動によるアーム部の昇降とを行う。アーム部の一端は駆動軸に連結され、他端はアーム部材の一端に連結されている。アーム部材はアーム部材に対してZ2軸周りに旋回可能に連結されている。ハンドはアーム部材の他端にZ3軸周りに旋回自在に連結されている。
【0018】
(スライド式の搬送ユニット)
図1に示すように、成膜装置3は、受渡室4から二つの成膜室10に渡って配置された二組の搬送ユニット5A及び5Bを備える。搬送ユニット5Aは保持ユニット6A及び6Cと、これらを独立してY方向に平行移動する移動ユニット11Aを備える。搬送ユニット5Bは、搬送ユニット5Aと同様の構造であり、保持ユニット6B及び6Dと、これらを独立してY方向に平行移動する移動ユニット11Bとを備える。
【0019】
本実施形態の移動ユニット11A及び11Bは、保持ユニット6A~6Dを磁力により移動する機構であり、特に磁力により浮上移動する機構である。
図2に搬送ユニット5Aの構造を示す。移動ユニット11A及び11Bは、それぞれ、保持ユニット6A~6DのY方向の移動軌道を規定する一対のガイド部材70を備える。各ガイド部材70はC字型の断面を有し、Y方向に延設されたレール部材である。一対のガイド部材70は互いに、X方向に離間している。
【0020】
各ガイド部材70は、Z方向に離間した一対の磁気素子71を多数備える。多数の一対の磁気素子71は、Y方向に等ピッチで配列されている。一対の磁気素子71のうちの少なくとも一方は電磁石であり、他方は電磁石又は永久磁石である。
【0021】
保持ユニット6A~6Dは、基板WやマスクMを搬送するためのキャリアである。保持ユニット6A~6Dは、それぞれ、平面視で矩形状の本体部材60を備える。本体部材60のX方向の各端部は、対応するガイド部材70に差し込まれている。本体部材60のX方向の各端部の上面、下面にはそれぞれ不図示のヨークが設けられた永久磁石61が固定されている。上下の永久磁石61は本体部材60にY方向に複数設けられている。永久磁石61は、ガイド部材70の磁気素子71と対向している。永久磁石61と磁気素子71との反発力によって保持ユニット6A~6Dに浮上力を生じさせることができる。Y方向に多数設けられた磁気素子(電磁石)71のうち、磁力を発生させる磁気素子71を順次切り替えることにより、永久磁石61と磁気素子71との吸引力によって保持ユニット6A~6DにY方向の移動力を生じさせることができる。
【0022】
なお、本実施形態では、移動ユニット11A及び11Bを、磁気浮上搬送機構としたがローラ搬送機構、ベルト搬送機構、ラック-ピニオン機構等、保持ユニット6A~6Dを移動可能な他の搬送機構であってもよい。
【0023】
保持ユニット6A~6Dは、それぞれ、基板Wを保持する保持部62を備える。保持部62は本実施形態の場合、静電気力により基板Wを吸着する静電チャックであり、保持部62は保持ユニット6A~6Dの下面に配置された複数の電極62aを含む。保持ユニット6A~6Dは、また、それぞれ、マスクMを保持する保持部63を備える。保持部63は、例えば、磁力によりマスクMを吸着するマグネットチャックであり、保持部62のX方向で外側に位置している。保持部63は、マスクMを機械的に挟持するクランプ機構であってもよい。
【0024】
ガイド部材70にはY方向に延設されたスケール72が配置されており、本体部材60にはスケール72を読み取るセンサ64が設けられている。センサ64の検知結果により、各保持ユニット6A~6DのY方向の位置を特定することができる。
【0025】
(成膜室)
成膜室10では、マスクMを用いて基板Wに対する成膜を行う。
図1に示すように、二つの成膜室10には、それぞれ、二つのマスク台15A、15B(以下、区別せずにマスク台15と呼ぶ場合がある)が配置されている。合計で四つのマスク台15により、成膜処理を行う成膜位置JA~JDが規定される。二つの成膜室10の構造は同じである。
【0026】
図3に成膜室10の構造を示す。各成膜室10には、成膜源31と、成膜源31を移動する移動ユニット34とが設けられている。
【0027】
成膜源31は、蒸着物質の原材料を収容する坩堝や、坩堝を加熱するヒータ等を備え、原材料を加熱してその蒸気である蒸着物質を開口部から上方へ放出する成膜ユニットである。移動ユニット34は、駆動源を備えるアクチュエータを備え、成膜源31の移動動作を実行するための第1移動手段として機能する。アクチュエータによって、移動ユニット34は一対の固定レール上を+Y方向および-Y方向に往復移動することができる。
【0028】
また、本実施形態では、成膜源31は1組の坩堝とヒータを備えるものとして説明しているが、坩堝とヒータとは複数設けられてもよい。また、坩堝が複数設けられる場合、坩堝ごとに種類の異なる複数の成膜材料を収容してもよい。具体的には、複数の成膜源31のうち、1つの坩堝にはホスト材料、別の坩堝にはドーパント材料を夫々収容している。なお、複数の坩堝に夫々同一の成膜材料を収容しても良い。また、本実施形態では成膜源31は蒸着源であるものとして説明を行うが、成膜材料を放出して薄膜の形成を行うスパッタなどの他の成膜源に適用することができる。
【0029】
アクチュエータの駆動により、成膜源31は、成膜位置JAの下(マスク台15Aの下)をY方向にスライドし、また、成膜位置JAの側から成膜位置JBの側へスライドし、更に、成膜位置JBの下(マスク台15Bの下)をY方向にスライドする。
【0030】
このように本実施形態では、一つの成膜源31を移動させることで、成膜位置JAと成膜位置JBの二つの成膜位置で成膜源31を共用できる。
【0031】
上述したように、マスク台15にはマスクMa、Mbが載置され、マスク台15は
図2を参照して説明した保持部63によって保持される。マスクMa、Mbの上方には
図2を参照して説明した保持部62によって基板Wa、Wbが保持される。
【0032】
また、成膜源31の上方には、成膜源31から基板Wへの成膜材料の入射を制限するか否かを切り替えるシャッタユニット20Aおよび20B(以下、区別せずにシャッタユニット20と呼ぶ場合がある)が配置される。シャッタユニット20AおよびBは、それぞれシャッタ21a、21b(以下、区別せずにシャッタ21と呼ぶ場合がある)、およびシャッタ21をY方向に移動させる移動ユニット22A、22B(以下、区別せずに移動ユニット22と呼ぶ場合がある)を有する。移動ユニット22は、本実施形態に係るシャッタを移動させる移動手段(第2移動手段)の一例である。
【0033】
シャッタユニット20は、成膜源31からの成膜材料の入射を制限するようシャッタ21がマスクMと上下方向(Z方向)で重なる閉位置(第一の位置)と、成膜源31からの成膜材料を入射させるようシャッタ21がマスクMと上下方向で重ならない開位置(第二の位置)との間でシャッタ21を移動させるシャッタの開閉動作を制御する。
【0034】
成膜源31は、成膜装置内をY方向に往復移動しながら上方向(+Z方向)へ成膜材料を放出することで、所定の放出範囲32に成膜材料を放出して基板Wへの成膜を行う。一例では、放出範囲32において、成膜源31の上方ではX方向で均一に成膜材料の放出が行われる。一方、Y方向において、成膜源31の開口の中央部の直上、すなわち放出範囲32の中央部では端部と比較してより多くの成膜材料の放出が行われる。成膜源31が移動することでY方向においても均一に成膜材料の放出を行うことができる。
【0035】
続いて、
図4(A)~
図4(C)を参照して、成膜時にシャッタ21が移動しない場合の成膜処理の流れについて説明する。なお、
図4(A)~
図4(C)の例では、基板WaおよびWbに成膜を行うためにシャッタ21Aおよび21Bが開状態に配置されている。
【0036】
図4(A)は、成膜源31が折り返し位置PaからPbに向かって移動する。
図4(B)は、成膜源31が折り返し位置Pbに到着し、折り返し位置Pbにおいて停止する。続いて、
図4(C)に示すように、成膜源31は折り返し位置PbからPaに向かって移動する。ここで、基板W上に均一な膜厚の成膜を行うために、放出範囲32がY方向で基板Wと重なる場合、成膜源31は一定の速度で移動する。そして、放出範囲32がY方向で基板Wと重ならない、すなわち放出範囲32が基板の直下から外れると、成膜源31は減速、停止、そして加速を行い、成膜源31の移動方向の切り替えを行う。
【0037】
この際、成膜源31は折り返し位置Pbでも成膜材料の放出を継続するため、シャッタ21Bには成膜材料が付着する。例えば、成膜源31が折り返し位置Pa、Pbに位置する場合に成膜源31の放出範囲32の中央部の上方に位置するシャッタ21Bの位置には、他の位置と比べてより多くの成膜材料が付着しうる。また、より長い時間放出範囲32の上方に位置する、シャッタ21A、21Bの端部にもシャッタの他の位置と比べてより多くの成膜材料が付着しうる。
【0038】
結果として、
図5に示すように、シャッタ21A、21Bに付着する成膜材料の厚みは、Y方向で偏りが生じうる。また、シャッタ21に付着した成膜材料は、その厚みが大きくなると落下しやすくなる傾向があるため、シャッタ21A、21Bの対向する辺から成膜源31の折り返し位置の直上に対応する部分までの範囲501からは成膜材料が落下しやすくなる。また、シャッタ21A、21Bの待機位置(基準位置)において放出範囲32の上方に位置する範囲502にも、待機位置において放出範囲32の上方に位置しない範囲501と比較して多くの成膜材料が付着しうる。付着した成膜材料が落下してノズルに付着すると、付着した材料によって成膜源31からの成膜材料の放出が遮られることで成膜レートが不安定になり、均一な膜厚の成膜を行うことができなくなる。
【0039】
続いて、
図6(A)~
図6(C)を参照して、本実施形態に係る成膜処理の流れについて説明する。
図6(A)~
図6(C)の例でも、基板WaおよびWbに成膜を行うためにシャッタ21Aおよび21Bが開状態に配置される。
【0040】
図6(A)は、成膜源31が折り返し位置PaからPbに向かって-Y方向に移動する。
図6(A)は
図4(A)と同様である。
図6(B)では、成膜源31が折り返し位置Pbに到着する。ここで、移動ユニット22Bは、成膜源31が減速している間に、シャッタ21Bを成膜源31の移動方向とは反対方向に移動させる。これによって、シャッタ21A、21Bの範囲501が放出範囲32の直上に位置する時間を短くすることができ、範囲501に付着する成膜材料の厚みを低減することができる。
【0041】
また、成膜源31が折り返し位置で停止している間、移動ユニット22Bはシャッタ21Bを+Y方向および-Y方向に移動させる。これによって、成膜源31が停止している間にノズルの直上に位置するシャッタ21の部位を分散させることができ、シャッタ21に付着する成膜材料の厚みの偏りを低減することができる。
【0042】
その後、成膜源31が移動方向を切り替え、折り返し位置Paに向かって加速する際に、移動ユニット22Bはシャッタ21Bを成膜源31と逆方向に移動させる。これによって、シャッタ21A、21Bの範囲501が放出範囲32の直上に位置する時間を短くすることができ、範囲501に付着する成膜材料の厚みを低減することができる。
【0043】
なお、一例では、成膜源31が停止している間に、シャッタ21Bは開位置に移動し、成膜源31が加速している間にはシャッタ21Bは移動しなくてもよい。言い換えると、シャッタ21Bは成膜源31が減速を開始してから加速を終了するまでの間に往復移動すればよい。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係るシャッタユニット20は、成膜源31が基板に成膜している場合であって、成膜源31の加減速時、および停止時にシャッタ21が成膜源31の移動方向および移動方向の反対方向に移動するように制御する。これによって、シャッタ21の特定の部位に成膜材料が付着し、シャッタ21に付着した成膜材料が落下することを防ぐことができる。
【0045】
<第2実施形態>
図7を参照して、第2実施形態に係る成膜装置について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成、機能、または処理については説明を省略する。
【0046】
図7に示すように、本実施形態に係る成膜装置3は、シャッタ21の折り返し位置701~703を複数有する。折り返し位置701~703はY方向で開位置と閉位置との間に位置する。なお、
図7の例では、シャッタ21の折り返し位置は3つであるものとして説明するが、2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。
【0047】
図7に示すように、成膜源31が折り返し位置Pbで停止している間、シャッタユニット20Bは折り返し位置701~703の何れかの位置でシャッタ21Bを停止させる。
【0048】
一例では、シャッタ21の折り返し位置の数をmとして、それぞれの折り返し位置に0~m-1の識別子を関連付け、成膜源31が折り返し位置Pbに停止する回数をnとして、nをシャッタ21Bの折り返し位置の数mで割った余りn mod m の識別子に対応する折り返し位置にシャッタ21を停止させるよう決定してもよい。あるいは、成膜源31が折り返し位置Pbに停止する回数の範囲ごとに、例えばfloor(n/100) mod m の識別子に対応する折り返し位置にシャッタ21を停止させるよう決定してもよい。ここで、floor()は床関数である。
【0049】
別の例では、成膜処理の経過時間ごとに、例えば0~12時間では識別子0、12~24時間では識別子1、と対応付けて折り返し位置にシャッタ21を停止させるよう決定してもよい。
【0050】
これによって、成膜源31が複数回折り返し位置Pbに停止した場合に成膜材料が付着するシャッタの位置を分散させることができ、シャッタの特定の部位に成膜材料が付着し、シャッタに付着した成膜材料が落下することを防ぐことができる。
【0051】
<第3実施形態>
第1実施形態では、シャッタ21が開位置にある場合に、成膜源31から放出された成膜材料がシャッタ21に付着する部位が偏り、シャッタ21から成膜材料がシャッタ21から落下することを防止する実施形態について説明した。第3実施形態では、シャッタ21が閉位置にある場合に、成膜源31から放出された成膜材料がシャッタ21に付着する部位が偏り、シャッタ21から成膜材料がシャッタ21から落下することを防止する実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成、機能、処理については説明を省略する。
【0052】
図8(A)~
図8(C)に第3実施形態に係る成膜室10を示す。
図8(A)に示すように、シャッタ21Aは閉位置に位置している。このように、基板Waに成膜しない場合、成膜源31は折り返し位置PaとPbとの間より距離の短い折り返し位置Pa’とPbとの間で往復移動をしてもよい。
【0053】
また、
図8(B)に示すように、シャッタユニット20Bは、第1または第2実施形態のように、成膜源31が折り返し位置Pbの周辺で加減速または停止している際に、シャッタ21Bを移動させる。また、この際、シャッタユニット20Aは、シャッタ21Aを蒸着源31の方向に移動させる。そして、成膜源31が成膜対象の基板Wbを保持している保持ユニット6Bの直下を移動する場合には、シャッタユニット20はシャッタ21を
図8(A)に示す位置に移動させ、成膜源31から基板Wbへの成膜材料の放出を遮らないようにする。
【0054】
続いて、
図8(C)に示すように、成膜源31が折り返し位置Pbから折り返し位置Pa’に移動する際、シャッタ21Aは閉位置、シャッタ21Bは開位置に移動して成膜源31から保持ユニット6Bに保持されている基板への成膜を可能にする。続いて、成膜源31が折り返し位置Pa’の周辺で加速、減速、停止している間に、シャッタユニット20A、20Bはシャッタ21A、21Bを移動させる。この場合、成膜源31から基板Waへの入射を制限していれば、シャッタ21Aの一部は基板WaとY方向で重ならなくてもよい。例えば、
図8(C)に示すように、シャッタ21Aの一部は、成膜源31から基板Waへの入射を制限しながら、基板Wbの一部とY方向で重なるように移動してもよい。また、シャッタ21Bの一部も基板Wbの一部とY方向で重なるように移動してもよい。あるいは、基板Waの一部がY方向でシャッタ21Aと重ならないようにシャッタ21Aが移動してもよい。
【0055】
これによって、成膜源31が折り返し位置Pa’の周辺で加速、減速、停止している間に、シャッタ21に成膜材料が付着する部位が偏り、シャッタ21から成膜材料がシャッタ21から落下することを防止することができる。
【0056】
また、本実施形態に係るシャッタユニット20は、成膜源31の直上に位置する一方のシャッタ21を移動させる際に、他方のシャッタ21も移動させる。これによって、成膜源31が折り返し位置Pa’とPbのいずれの位置の周辺で減速、停止、そして加速する際であっても、シャッタ21A、21Bを左右対称に移動させることでいずれの停止位置に成膜源31が位置する場合であってもシャッタ21に成膜材料が付着する部位が偏ることを抑えることができる。
【0057】
<第4実施形態>
第1~第3実施形態では、成膜源31が移動して基板に成膜を行う実施形態について説明した。本実施形態では、成膜源は移動せず、搬送ユニットによる基板の搬送中に成膜を行う実施形態について説明する。
【0058】
図9は本実施形態に係る成膜室900の構造を示す。成膜室900は、成膜源910と、搬送ユニット920と、シャッタユニット930、および防着壁940が設けられている。成膜源910は、成膜源31と同様のため説明を省略する。
【0059】
搬送ユニット920は、マスク済み基板Wを+Y方向に搬送するための構造である。
図10に、搬送ユニット920の構造を示す。搬送ユニット920は、搬送方向に対して平行なマスク済み基板Wの端部を支持して搬送する複数の搬送ローラ1000を備える。搬送ローラ1000は、本実施形態に係る基板を搬送するための第1移動手段として機能する。また、搬送ローラ1000によって搬送されるマスク済み基板Wが成膜源910の上方を通過することで、搬送されるマスク済み基板Wに対して成膜処理を行うことができる。なお、本実施形態では搬送ユニット920はローラ搬送機構であるものとして説明を行うが、磁気浮上搬送機構、ベルト搬送機構、ラック-ピニオン機構等、マスク済み基板Wを搬送可能な他の搬送機構であってもよい。また、本実施形態では、搬送ユニット920は+Y方向(順方向)にマスク済み基板Wを搬送し、成膜範囲1050に進入したマスク済み基板Wに成膜処理を行うものとして説明を行うが、搬送ユニット920は、+Y方向(順方向)に加えて-Y方向(逆方向)にもマスク済み基板Wを搬送可能であってもよい。これによって、1つのマスク済み基板Wが成膜源910の上方の成膜範囲950を複数回通過することが可能になる。
【0060】
ここで、
図9に示すように、複数のマスク済み基板Wが搬送ユニット920によって搬送される場合、1つのマスク済み基板Wへの成膜が終了してから別のマスク済み基板W’への成膜が開始されるまでの期間において、成膜源910から放出された成膜材料が2つのマスク済み基板Wの間を通って成膜室内に拡散してしまい、成膜室900が汚染されうる。これを防ぐために、成膜源910から放出された成膜材料が拡散しないよう、成膜室900にはシャッタユニット930および防着壁940が設けられる。
【0061】
防着壁940は、
図10に示すように、成膜源910の上方に配置された開口941を有し、成膜源910の上方の成膜範囲950にのみ成膜材料が放出されるように成膜材料の放出範囲を規制する。シャッタユニット930は、シャッタ931およびシャッタ932の移動を制御する。シャッタ931、932は、防着壁940の開口941を覆わずに成膜源910から基板への成膜材料の放出を可能にする開位置と、防着壁940の開口941を覆い成膜源910から基板への成膜材料の放出を可能する閉位置との間を移動する。シャッタユニット930は、基板への成膜を行っていない間、シャッタ931または932を閉位置に配置することで、成膜材料が成膜室900内に拡散することを防ぐことができる。
【0062】
図11(A)~
図11(F)を参照して、マスク済み基板Wに成膜を行う処理の流れについて説明する。
【0063】
図11(A)は1枚目のマスク済み基板Wが成膜室900内に搬入された状況を示す。
図11(A)に示すように、シャッタユニット930は、シャッタ931を閉位置、シャッタ932を開位置に配置している。
【0064】
続いて、
図11(B)に示すように、マスク済み基板Wが成膜源910の上方の成膜範囲950に到達すると、シャッタユニット930はマスク済み基板Wの移動と対応させて、シャッタ931を開位置へ移動させる。一例では、シャッタユニット930は、搬送方向(+Y方向)におけるマスク済み基板Wの先端1101と、シャッタ931の後端1102とが、マージンを含めてY方向で所定の距離以下になるようにシャッタ931の移動を制御する。これによって、成膜源910から放出された成膜材料が成膜室900に拡散することを防ぐことができる。
【0065】
続いて、
図11(C)に示すように、マスク済み基板Wの搬送方向において、マスク済み基板Wの先端1101が成膜範囲950外へ退出すると、シャッタ931は開位置に移動される。
【0066】
続いて、
図11(D)に示すように、マスク済み基板Wの搬送方向(+Y方向)において、マスク済み基板Wの後端1103が成膜範囲950に進入すると、シャッタユニット930はマスク済み基板Wの後端1103とシャッタ932の先端1104とが、マージンを含めてY方向で所定の距離以下になるようにシャッタ932の移動を制御する。これによって、成膜源910から放出された成膜材料がマスク済み基板Wに成膜しながら、成膜室900内に拡散することを防ぐことができる。
【0067】
続いて、
図11(E)に示すように、マスク済み基板Wの搬送が行われ、搬送方向(+Y方向)においてマスク済み基板Wの進行方向後端1103が成膜範囲950の外へ出るとともに、次のマスク済み基板W’が搬送される。この場合、シャッタ932は閉位置に配置され、シャッタ931は開位置に配置されている。
【0068】
続いて、
図11(F)に示すように、次のマスク済み基板Wが成膜範囲950に到達する前に、シャッタ932は開位置に移動し、シャッタ931は閉位置に移動する。この際、シャッタ931とシャッタ932とは上下方向(Z方向)で一部が重なりながら移動する。これによって、成膜源910から放出された成膜材料が2つのマスク済み基板W、W’の間を通って成膜室900内に拡散することを防ぐことができる。
【0069】
ここで、
図11(A)および
図11(E)に示すように、シャッタ931、932によって成膜源910から放出された成膜材料が成膜室900内に拡散することを防ぐ場合、基板Wの進行方向(+Y方向)におけるシャッタ931の後端1102およびシャッタ932の先端1104は、成膜源910の放出範囲911に他の部分より先に進入し、他の部分より後に退出する。したがって、シャッタ931の後端1102およびシャッタ932の先端1104には成膜材料が多く付着しうる。また、シャッタ931および932が閉位置に位置する場合に成膜源910の直上に位置する
図9に示す範囲933、934にも成膜材料が多く付着しうる。
【0070】
このため、本実施形態に係るシャッタユニット930は、成膜源910から放出された成膜材料が成膜室内に拡散することを防ぐために、シャッタ931、932を閉位置に配置する。この際、シャッタユニット930は、シャッタ931、932の成膜材料が多く付着しうる範囲933、934が放出範囲911に含まれないようにシャッタ931、932の移動を制御する。
【0071】
図12(A)~
図12(C)に、マスク済み基板Wの先端1101が成膜範囲950に進入する前後の模式図を示す。
【0072】
図12(A)に示すように、シャッタユニット930は、
図9に示すシャッタ931の成膜材料が多く付着しうる範囲933を放出範囲911に含まれないように移動する。例えば、マスク済み基板Wの搬送方向と逆方向(-Y方向)に移動させる。これによって、
図9に示すシャッタ931の範囲933以外の部分に成膜材料を付着させ、シャッタ931に成膜材料が偏って付着することを抑えることができる。
【0073】
続いて、
図12(B)に示すように、マスク済み基板Wが成膜範囲950に近づく。この際、シャッタユニット930は、シャッタ931をマスク済み基板Wの搬送方向と同じ方向(+Y方向)に移動させる。これによって、マスク済み基板Wが成膜範囲950に進入する際に、マスク済み基板Wの搬送方向において、シャッタ931の後端1102の位置とマスク済み基板Wの搬送方向における先端1101の位置とがY方向で所定の距離の範囲内となるように調整することができる。
【0074】
続いて、
図12(C)に示すように、マスク済み基板Wが成膜範囲950に進入すると、シャッタユニット930は、マスク済み基板Wの搬送方向における先端1101の位置とシャッタ931の後端1102の位置とが所定の距離の範囲内となるようにシャッタ931の移動を制御する。これによって、成膜源910から放出された成膜材料がマスク済み基板Wに成膜しながら成膜室900内に拡散することを防ぐことができる。
【0075】
次に、
図13(A)~
図13(C)を参照して、マスク済み基板Wが成膜範囲950から退出した後のシャッタユニット930の制御について説明する。
【0076】
図13(A)は、マスク済み基板Waが成膜範囲950から退出した直後の図である。マスク済み基板Waが成膜範囲950から退出すると、シャッタユニット930はシャッタ932を閉位置に移動させる。
【0077】
続いて、
図13(B)に示すように、シャッタユニット930はシャッタ932を閉位置からマスク済み基板Waの搬送方向と同じ方向に移動させる。これによって、シャッタ932の成膜材料が多く付着する
図9に示す範囲934のうち成膜源910の放出範囲911に含まれない範囲を大きくすることができ、シャッタ932の一部に成膜材料が偏って付着することを防ぐことができる。
【0078】
続いて、
図13(C)に示すように、シャッタユニット930はマスク済み基板Waの後続のマスク済み基板Wbが成膜範囲950に到達する前に、シャッタ931および932をマスク済み基板の搬送方向とは逆方向(-Y方向)に移動させる。
【0079】
以上説明したように、本実施形態によれば、基板からみて成膜源およびシャッタが成膜源の移動方向において同じ方向に位置し、基板が成膜源から成膜材料が放出される放出範囲内に位置しない場合に、放出範囲内に位置するシャッタを搬送方向および搬送方向と逆の方向に往復移動させる。これによって、シャッタの部位ごとに、当該部位に付着する成膜材料の量の偏りを抑えることができる。
【0080】
また、以上説明したように、本実施形態によれば、基板からみて成膜源およびシャッタが成膜源の移動方向において同じ方向に位置し、基板が成膜源から成膜材料が放出される放出範囲内に位置しない場合に、放出範囲内に位置するシャッタを、基準位置から搬送方向にある第1の位置と、第1の位置から搬送方向と逆の方向にある第2の位置との間で往復移動させる。これによって、シャッタに付着する成膜材料の偏りを抑えることができる。
【0081】
また、以上説明したように、本実施形態によれば、基板が成膜源の放出範囲外に位置する場合、シャッタが成膜源の上方で往復移動する。これによって、板が成膜源の放出範囲外に位置する場合に成膜材料の拡散を防ぐためのシャッタの部位ごとに、当該部位に付着する成膜材料の量の偏りを抑えることができる。
【0082】
<電子デバイスの製造方法>
電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成及び製造方法を例示する。
【0083】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図14(A)は有機EL表示装置1400の全体図、
図14(B)は1画素の断面構造を示す図である。
【0084】
図14(A)に示すように、有機EL表示装置1400の表示領域1401には、発光素子を複数備える画素1402がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。
【0085】
なお、ここでいう画素とは、表示領域1401において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。カラー有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子1402R、第2発光素子1402G、第3発光素子1402Bの複数の副画素の組み合わせにより画素1402が構成されている。画素1402は、赤色(R)発光素子と緑色(G)発光素子と青色(B)発光素子の3種類の副画素の組み合わせで構成されることが多いが、これに限定はされない。画素1402は少なくとも1種類の副画素を含めばよく、2種類以上の副画素を含むことが好ましく、3種類以上の副画素を含むことがより好ましい。画素1402を構成する副画素としては、例えば、赤色(R)発光素子と緑色(G)発光素子と青色(B)発光素子と黄色(Y)発光素子の4種類の副画素の組み合わせでもよい。
【0086】
図14(B)は、
図14(A)のA-B線における部分断面模式図である。画素1402は、基板1403上に、第1の電極(陽極)1404と、正孔輸送層1405と、赤色層1406R・緑色層1406G・青色層1406Bのいずれかと、電子輸送層1407と、第2の電極(陰極)1408と、を備える有機EL素子で構成される複数の副画素を有している。これらのうち、正孔輸送層1405、赤色層1406R、緑色層1406G、青色層1406B、電子輸送層1407が有機層に当たる。赤色層1406R、緑色層1406G、青色層1406Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。
【0087】
また、第1の電極1404は、発光素子ごとに分離して形成されている。正孔輸送層1405と電子輸送層1407と第2電極1408は、複数の発光素子1402R、1402G、1402Bにわたって共通で形成されていてもよいし、発光素子ごとに形成されていてもよい。すなわち、
図14(B)に示すように正孔輸送層1405が複数の副画素領域にわたって共通の層として形成された上に赤色層1406R、緑色層1406G、青色層1406Bが副画素領域ごとに分離して形成され、さらにその上に電子輸送層1407と第2電極1408が複数の副画素領域にわたって共通の層として形成されていてもよい。
【0088】
なお、近接した第1の電極1404の間でのショートを防ぐために、第1の電極1404間に絶縁層1409が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層1410が設けられている。
【0089】
図14(B)では正孔輸送層1405や電子輸送層1407が一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によって、正孔ブロック層や電子ブロック層を有する複数の層で形成されてもよい。また、第1の電極1404と正孔輸送層1405との間には第1の電極1404から正孔輸送層1405への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成してもよい。同様に、第2の電極98と電子輸送層97の間にも電子注入層を形成してもよい。
【0090】
赤色層1406R、緑色層1406G、青色層1406Bのそれぞれは、単一の発光層で形成されていてもよいし、複数の層を積層することで形成されていてもよい。例えば、赤色層1406Rを2層で構成し、上側の層を赤色の発光層で形成し、下側の層を正孔輸送層又は電子ブロック層で形成してもよい。あるいは、下側の層を赤色の発光層で形成し、上側の層を電子輸送層又は正孔ブロック層で形成してもよい。このように発光層の下側又は上側に層を設けることで、発光層における発光位置を調整し、光路長を調整することによって、発光素子の色純度を向上させる効果がある。
【0091】
なお、ここでは赤色層1406Rの例を示したが、緑色層1406Gや青色層1406Bでも同様の構造を採用してもよい。また、積層数は2層以上としてもよい。さらに、発光層と電子ブロック層のように異なる材料の層が積層されてもよいし、例えば発光層を2層以上積層するなど、同じ材料の層が積層されてもよい。
【0092】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。ここでは、赤色層1406Rが下側層1406R1と上側層1406R2の2層からなり、緑色層1406Gと青色層1406Bは単一の発光層からなる場合を想定する。
【0093】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び第1の電極1404が形成された基板1403を準備する。なお、基板1403の材質は特に限定はされず、ガラス、プラスチック、金属などで構成することができる。本実施形態においては、基板1403として、ガラス基板上にポリイミドのフィルムが積層された基板を用いる。
【0094】
第1の電極1404が形成された基板1403の上にアクリル又はポリイミド等の樹脂層をバーコートやスピンコートでコートし、樹脂層をリソグラフィ法により、第1の電極1404が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層1409を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0095】
絶縁層1409がパターニングされた基板1403を第1の成膜室に搬入し、正孔輸送層1405を、表示領域の第1の電極1404の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層1405は、最終的に1つ1つの有機EL表示装置のパネル部分となる表示領域1401ごとに開口が形成されたマスクを用いて成膜される。
【0096】
次に、正孔輸送層1405までが形成された基板1403を第2の成膜室に搬入する。基板1403とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、正孔輸送層1405の上の、基板1403の赤色を発する素子を配置する部分(赤色の副画素を形成する領域)に、赤色層1406Rを成膜する。ここで、第2の成膜室で用いるマスクは、有機EL表示装置の副画素となる基板1403上における複数の領域のうち、赤色の副画素となる複数の領域にのみ開口が形成された高精細マスクである。これにより、赤色発光層を含む赤色層1406Rは、基板1403上の複数の副画素となる領域のうちの赤色の副画素となる領域のみに成膜される。換言すれば、赤色層1406Rは、基板1403上の複数の副画素となる領域のうちの青色の副画素となる領域や緑色の副画素となる領域には成膜されずに、赤色の副画素となる領域に選択的に成膜される。
【0097】
赤色層1406Rの成膜と同様に、第3の成膜室において緑色層1406Gを成膜し、さらに第4の成膜室において青色層1406Bを成膜する。赤色層1406R、緑色層1406G、青色層1406Bの成膜が完了した後、第5の成膜室において表示領域1401の全体に電子輸送層1407を成膜する。電子輸送層1407は、3色の層1406R、1406G、1406Bに共通の層として形成される。
【0098】
電子輸送層1407までが形成された基板を第6の成膜室に移動し、第2電極1408を成膜する。本実施形態では、第1の成膜室~第6の成膜室では真空蒸着によって各層の成膜を行う。しかし、本発明はこれに限定はされず、例えば第6の成膜室における第2電極1408の成膜はスパッタによって成膜するようにしてもよい。その後、第2電極1408までが形成された基板を封止装置に移動してプラズマCVDによって保護層1410を成膜して(封止工程)、有機EL表示装置1400が完成する。なお、ここでは保護層1410をCVD法によって形成するものとしたが、これに限定はされず、ALD法やインクジェット法によって形成してもよい。
【0099】
ここで、第1の成膜室~第6の成膜室での成膜は、形成されるそれぞれの層のパターンに対応した開口が形成されたマスクを用いて成膜される。成膜の際には、基板1403とマスクとの相対的な位置調整(アライメント)を行った後に、マスクの上に基板1403を載置して成膜が行われる。
【0100】
<他の実施形態>
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0101】
第一実施形態では基板Wを保持する保持部62を静電チャックで構成したが、他の吸着方式であってもよい。たとえば、保持部62の下面に設けられた複数の吸着パッドの粘着力により基板Wを保持してもよい。或いは、吸着パッドはバキュームパッドであってもよい。
【0102】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0103】
10 成膜室、11A及び11B 搬送ユニット、6A~6D 保持ユニット、20A及び20B シャッタユニット、31:成膜源