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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-25
(45)【発行日】2024-07-03
(54)【発明の名称】超硬合金のろう付接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 1/19 20060101AFI20240626BHJP
   B23K 1/20 20060101ALI20240626BHJP
【FI】
B23K1/19 C
B23K1/19 K
B23K1/20 C
B23K1/20 L
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024059564
(22)【出願日】2024-04-02
【審査請求日】2024-04-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165663
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 光宏
(72)【発明者】
【氏名】時谷 政行
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特許第5385951(JP,B2)
【文献】特許第6528257(JP,B1)
【文献】国際公開第2018/199060(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 1/19
B23K 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ分散強化銅、無酸素銅、タフピッチ銅、若しくはリン脱酸銅のいずれかからなる第1部材と、超硬合金からなる第2部材とをろう付接合する接合方法であって、
(a) リンを含有し、銅を含有しないろう材を用意する工程と、
(b) 前記第1部材、第2部材で前記ろう材を挟み込み、所定の熱処理温度で所定時間加熱する熱処理工程と、
(c) 前記熱処理工程の後、接合された前記第1部材および第2部材を冷却する工程と、を備え、
前記熱処理温度は、第1部材の融点よりも低く、リンと銅との共晶反応により低下した第1部材の融点よりも高い範囲で設定されている接合方法。
【請求項2】
請求項1記載の接合方法であって、
前記超硬合金は、WC-Co系合金である接合方法。
【請求項3】
請求項1記載の接合方法であって、
前記熱処理温度は、960℃である接合方法。
【請求項4】
請求項1記載の接合方法であって、
(d) 前記熱処理工程に先だって、前記第1部材と第2部材の接合される表面を、それぞれ微鏡面に表面仕上げする工程を備え、
前記熱処理工程における前記ろう材は、1~100マイクロメートルの厚さとする接合方法。
【請求項5】
請求項1記載の接合方法であって、
前記熱処理工程において、前記第1部材と第2部材に対して、両者が接合される方向に圧力を加える接合方法。
【請求項6】
請求項5記載の接合方法であって、
相互に締結された第1、第2の端プレートと、両者間に配置される中央プレートを用意し、
前記第1の端プレートと中央プレートによって、前記第1部材と第2部材を挟み、
前記第2の端プレートと中央プレート間に弾性体を介在させることにより、第1の端プレートと中央プレート間に配置された前記第1部材および第2部材に圧力を加える接合方法。
【請求項7】
請求項6記載の接合方法であって、
前記第1、第2の端プレートおよび中央プレートは、前記第1部材および第2部材にかかる圧力分布が略均一となる厚さを有している接合方法。
【請求項8】
請求項1記載の接合方法であって、
前記工程(c)は、自然冷却である接合方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬合金のろう付接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願の発明者は、従来、酸化物としてアルミナを分散させたアルミナ分散強化銅の接合技術について検討を重ねており、ろう付接合を可能とする技術を開示してきた。
特許文献1は、アルミナ分散強化銅同士、およびアルミナ分散強化銅とステンレス鋼とのろう付接合に関する技術を開示している。特許文献2は、アルミナ分散強化銅と、フェライト相およびマルテンサイト相の一方または双方を含む鉄鋼、またはイリジウムとのろう付接合に関する技術を開示している。特許文献3は、アルミナ分散強化銅以外の銅および銅合金と無酸素銅、アルミナ分散強化銅、ステンレス、フェライト相およびマルテンサイト相の一方または双方を含む鉄鋼、タングステン、イリジウムのろう付接合に関する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6528257号公報
【文献】特許第6606661号公報
【文献】特許第6852927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来、アルミナ分散強化銅と超硬合金との間のろう付接合は、実現されていなかった。同様に、無酸素銅、タフピッチ銅、リン脱酸銅、または銅合金と超硬合金との間のろう付接合も実現されていなかった。
そこで、本発明は、かかる課題に鑑み、アルミナ分散強化銅その他の銅金属と超硬合金とのろう付接合技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
アルミナ分散強化銅、無酸素銅、タフピッチ銅、若しくはリン脱酸銅のいずれかからなる第1部材と、超硬合金からなる第2部材とをろう付接合する接合方法であって、
(a) リンを含有し、銅を含有しないろう材を用意する工程と、
(b) 前記第1部材、第2部材で前記ろう材を挟み込み、所定の熱処理温度で所定時間加熱する熱処理工程と、
(c) 前記熱処理工程の後、接合された前記第1部材および第2部材を冷却する工程と、を備え、
前記熱処理温度は、第1部材の融点よりも低く、リンと銅との共晶反応により低下した第1部材の融点よりも高い範囲で設定されている接合方法。
【0006】
発明者は、リンを含有し、銅を含有しないろう材を用いてろう付接合の実験を試みた結果、上記工程および熱処理温度によれば、良好なろう付接合が可能であることを見いだした。ろう付接合が可能となる原理は、必ずしも明らかにはなっていないが、本発明では、ろう材と第1部材との間でリンと銅との共晶反応が生じ、第1部材を拡散させることによるものと考えられる。
また、熱処理温度は第1部材の融点よりも低く、第1部材が接合部分のみで溶融が生じる点も、第1部材、第2部材の良好なろう付接合を実現するために好ましいと言える。
【0007】
発明者は、従前、種々の材料について、銅を含有しないろう材を用いたろう付接合を研究してきたが、接合部分で第1部材の拡散が生じるかはどのような金属を第2部材とするかに依るところがある。今回、超硬合金を第2部材とした場合でも、有効なろう付が達成されることを実験的に確認したことにより、本発明に至ったものである。
超硬合金とは、元素周期律表IVa、Va、VIa族金属の炭化物をFe、Co、Niなどの鉄系金属で焼結した複合材料を言う。
【0008】
本発明においては、
前記超硬合金は、WC-Co系合金である接合方法とすることが好ましい。
実験により、WC-Co系合金において良好なろう付接合が得られることが確認された。もっとも、超硬合金である限り、金属としての性質は類似していると考えられるため、本発明においては、第2部材として任意の超硬合金を用いることができる。
【0009】
本発明において、ろう材のリンの含有量は、任意に決めることができるが、実験では、11%の含有量のニッケル合金、具体的にはBNi-6を用いた。
熱処理の時間は、被接合金属の種類、接合の結果を踏まえ実験的に設定することができる。実験では、10分としたが、さらに短くしても良い。
また第1部材、第2部材の形状や寸法は問わない。
【0010】
本発明において、
前記熱処理温度は、960℃である接合方法としてもよい。
もっとも、かかる温度に限定されるものではない。
【0011】
本発明では、
(d) 前記熱処理工程に先だって、前記第1部材と第2部材の接合される表面を、それぞれ微鏡面に表面仕上げする工程を備え、
前記熱処理工程における前記ろう材は、1~100マイクロメートルの厚さとしてもよい。
【0012】
ろう付の際の表面仕上げおよびろう材の厚さは、任意に決定することができるが、上記態様のように設定することにより、密着性に優れるろう付接合を実現できることが分かった。厚さは、38~76マイクロメートルとすることがより好ましく、さらに約38マイクロメートルとすることがより好ましい。
【0013】
また、本発明においては、
前記熱処理工程において、前記第1部材と第2部材に対して、両者が接合される方向に圧力を加えるものとしてもよい。
【0014】
こうすることにより、さらに接合部分の密着性を向上させることが可能となる。
圧力を加える方法は、種々の方法をとることができる。
例えば、ホットプレス、即ち熱処理炉の中に備えられたプレス機によって、第1部材、第2部材を挟んでプレスする方法としてもよい。かかる方法をとるときは、プレス機の熱容量を加味して熱処理工程を設定することが好ましい。
また別の方法として、熱間等方圧加圧(HIP:Hot Isostatic Pressing)という方法をとってもよい。熱間等方圧加圧は、圧力を等方的に掛けることができるため、複数方向に接合する必要がある場合などに有用である。
【0015】
圧力を加える方法は、例えば、
相互に締結された第1、第2の端プレートと、両者間に配置される中央プレートを用意し、
前記第1の端プレートと中央プレートによって、前記第1部材と第2部材を挟み、
前記第2の端プレートと中央プレート間に弾性体を介在させることにより、第1の端プレートと中央プレート間に配置された前記第1部材および第2部材に圧力を加えるものとしてもよい。
【0016】
かかる方法によれば、板状の第1、第2の端プレートおよび中央プレートを介して圧力を加えるため、第1部材、第2部材に比較的均一に圧力を加えやすい利点がある。また、比較的、低コストで圧力を加えることができ、ホットプレスや熱間等方圧加圧のように特別な装置を使用する必要がない点で、比較的適用しやすいという利点もある。
プレートの素材は任意に選択できるが、剛性の高い素材を選択することが好ましい。
また弾性体も種々の選択が可能であるが、熱処理工程においても弾性力を加え得る素材であることが好ましく、例えば、カーボンばねを利用することができる。
圧力の大きさも任意に決定可能であるが、有意な効果が得られる圧力として、例えば、0.54MPaとすることができる。
また、弾性力による方法の他、プレートもしくは部材に重りを載せる方法によって圧力を加える態様をとることもできる。
【0017】
また、上記態様の場合、
前記第1、第2の端プレートおよび中央プレートは、前記第1部材および第2部材にかかる圧力分布が略均一となる厚さを有しているものとすることが好ましい。
【0018】
こうすることにより、第1部材、第2部材に均一に圧力を加えることができ、偏りのない接合を実現することができる。
第1、第2の端プレートおよび中央プレートの具体的な厚さは、これらの素材および圧力の大きさによって実験的または解析的に定めることができる。
また、上述の均一な圧力分布を達成するためには、第1、第2の端プレートおよび中央プレートが平行を保つことができるような機構となっていることが好ましい。
【0019】
本発明において、
前記工程(c)は、自然冷却としてもよい。
【0020】
熱処理温度が非常に高温であるため、自然冷却の場合、数時間~48時間など非常な長時間をかけて第1部材、第2部材は冷却されることになる。このように長時間をかけて冷却することにより、熱処理によって生じた熱応力を緩和することが可能となる利点がある。冷却にかける時間は、被接合金属の種類に応じて決定できる。例えば、銅と熱膨張係数が比較的近い金属の場合には、8時間程度の冷却時間でも問題ないことが確認されている。
自然冷却によって100℃など、両部材の熱膨張が十分に緩和されたと考えられる程度の温度まで冷却された後は、冷媒を用いた強制冷却を施しても良い。
【0021】
本発明は、接合相手となる第2部材が一種類の場合のみならず、複数存在する場合も適用可能である。複数の第2部材が、種類の異なる超硬合金で形成されていてもよいし、超硬合金による第2部材と、超硬合金以外の金属による第2部材が混在していてもよい。
このように種類の異なる複数の第2部材が存在する場合に、どのような順序で接合するかは任意に決定できるが、
例えば、
複数種類の金属からなる複数の前記第2部材が存在するとき、
前記第1部材に熱膨張係数が近い金属で形成された第2部材から順に接合するものとしてもよい。
【0022】
複数種類の被接合金属を順次、接合する場合、最初に接合された金属には、繰り返し熱処理が施されることになる。第1部材、第2部材間の熱応力は、部材間の熱膨張係数の差によって生じるから、上記態様のように熱膨張係数が近い順に接合するものとすれば、繰り返し施される熱処理によって生じる熱応力を緩和することができる。
【0023】
以上で説明した本発明の種々の特徴は、必ずしも全てを備えている必要はなく、本発明は、適宜、その一部を省略したり、組み合わせたりして構成してもよい。
また、本発明は、接合方法としての構成のみならず、かかる接合方法を踏まえた構造体として構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】ろう付接合処理の工程を示すフローチャートである。
図2】接合結果を示す説明図である。
図3】接合時に加える圧力の影響を示す説明図である。
図4】ろう材の厚さによる影響を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、ろう付接合処理の工程を示すフローチャートである。この工程では、まず接合する部材の準備をする(ステップS10)。本実施例では、アルミナ分散強化銅、無酸素銅、タフピッチ銅、若しくはリン脱酸銅のいずれかからなる第1部材と、超硬合金からなる第2部材とをそれぞれ準備するものとした。接合する部材の形状は、任意であるが、接合面が相互に平面となっていることを要する。
次に接合面を微鏡面仕上げ処理する(ステップS11)。一般に表面仕上げは、粗い順に粗仕上げ、並仕上げ、微鏡面仕上げ、鏡面仕上げという段階に分かれるが、この中の微鏡面仕上げである。微鏡面仕上げとするのは、次の理由による。ろう付接合を行う際、鏡面仕上げにしてしまうと、接合面が過剰に滑らかとなり、強い接合が実現できない場合がある。一方、表面仕上げが粗いと、極端に言えば、部材同士が面ではなく点で接合するのに近い状態となり、やはり強い接合が実現できない場合がある。発明者は、種々の表面仕上げで接合を検討した結果、微鏡面仕上げとすることが好ましいことを見いだした。
【0026】
次に、ろう材を準備する。本実施例では、ニッケルにリンが11%含有されたニッケル合金であるBNi-6を用いた。ろう材は、リンが含有され、銅が含有されていないものであれば、種々の選択が可能である。
そして、接合する部材の間に、ろう材を挟み込み、圧力を加える(ステップS13)。図中に、圧力を加える方法を示した。本実施例では、3枚の鋼性のプレートを用意する。下側から第1の端プレート(または下プレート)、中央プレート(または中プレート)、第2の端プレート(または上プレート)と称するものとする。そして、第1の端プレートと中央プレートとの間に接合部材を挟み込む。また、中央プレートと第2の端プレートとの間にカーボンばねを挟み込む。第1、第2の端プレートは、ボルトで締結されている。かかる構造を用いることにより、カーボンばねの弾性力は、中央プレートを介して圧力として接合部材にかけられることになる。また、第1、第2の端プレート、中央プレートを相互に平行に保った状態で、接合部材に均一に圧力を加えることができる利点もある。圧力は、任意に決めることができるが、本実施例では、0.54MPaであった。
本実施例においてカーボンばねを用いたのは、後述する熱処理に耐えられる素材を選択したからである。他の素材であってもよい。
また、圧力を加えることは、必ずしも必要という訳ではなく、圧力をかけずに熱処理を行っても差し支えない。ただし、接合面の気密性を確保するためには、圧力を加えることが望ましい。
【0027】
次に、圧力を加えたまま、この接合部材を熱処理する(ステップS14)。図中に熱処理のシーケンスを示した。
フェーズAは予熱のための昇温フェーズである。目標となる予熱温度まで、速やかに昇温すればよい。
フェーズBは予熱フェーズである。本実施例では、860℃で60分とした。予熱温度および時間は、熱処理をする炉装置、接合部材の寸法、熱処理の温度などを踏まえて決定すればよい。
フェーズCは、熱処理温度までの昇温フェーズである。目標となる熱処理温度まで、速やかに昇温すればよい。
フェーズDは、熱処理フェーズである。本実施例では、960℃で10分間の熱処理を行った。960℃という熱処理温度は、次のように決定できる。本実施例の第1部材は、アルミナ分散強化銅、無酸素銅、タフピッチ銅、若しくはリン脱酸銅のいずれかであり、部材の溶融を回避するため、熱処理温度は、第1部材の融点(例えば、アルミナ分散強化銅の場合は1085℃)よりも低くなくてはならない。本実施例において、ろう付接合が実現される原理は、ろう材に含まれるリンと銅との共晶により第1部材の融点が低下する結果、接合部材の極表面が溶融することで実現されるものと考えられる。従って、熱処理温度は、共晶反応時の第1部材の融点よりも高くする必要がある。本実施例では、かかる温度範囲の中から960℃を熱処理温度として選択した。熱処理時間も、任意に決定できる。本実施例では、10分としたが、2~3分程度でもろう付接合は可能である。
フェーズEは、冷却フェーズである。このフェーズでは、熱応力を緩和するため、長時間かけて徐々に冷却する。本実施例では、炉内で約8時間かけて概ね100℃まで自然冷却を行った。冷却時間は、被接合材料の材質などを考慮して数時間~48時間などの範囲で任意に決定できる。
フェーズFは、急冷フェーズである。フェーズEの冷却によって両部材の熱膨張が十分に緩和されていると判断されるため、その後は、部材を急冷しても差し支えない。本実施例では、部材の酸化を防止するため窒素ガスによる冷却を行った。急冷フェーズは、必ずしも設ける必要はなく、常温までフェーズEの冷却を継続してもよい。
以上の各工程により、本実施例のろう付接合は実現される。
【0028】
本実施例では、熱処理および冷却は、ともに、真空熱処理、真空中での冷却とした。ここで言う真空とは、真空ポンプで排気をし、十分に炉内の圧力を低減させた状態をいい、完全な真空に限られるものではない。極低圧と換言してもよい。このように真空または極低圧にすることにより、接合部材の酸化を抑制することができる。もっとも、熱処理および冷却を、大気圧下で行うものとしても差し支えない。
【0029】
以下、実施例における接合の効果を実験結果に基づいて説明する。
図2は、接合結果を示す説明図である。
図2(a)に接合前の状態を示した。リンを含み銅を含まないろう材としてBNi-6を用い、平面が一辺20~30mm程度の正方形、厚さ1~10mm程度の直方体の試験片同士を接合した。この例では、第1部材としてアルミナ分散強化銅であるGlidCop(登録商標)を用い、第2部材として超硬合金、特にWC-Co系合金を用いた。そして、図示するように、第1部材、第2部材の間に、ろう材を挟みこみ、ろう付を行う。ろう材の厚さtは、1~100マイクロメートルの範囲とした。
【0030】
図2(b)には、接合後の外観を示した。超硬合金の部分は、矢印aで示した領域に対応し、アルミナ分散強化銅の部分は矢印cで示した領域に対応する。両者の接合部分であるろう付の部分は、矢印bで示した辺り(参考までに図2(b)中に破線を付した)が対応するが、接合後はろうが溶融し、アルミナ分散強化銅と超硬合金との間で金属の拡散も生じるため、接合部分を明確に特定することはできなくなっている。
なお、超硬合金の領域に表れている濃淡の模様は、ろう材の溶融などの影響が外観に表れたものであり、内部の接合状態とは無関係である。
【0031】
図2(c)には、接合部分の超音波探傷検査の結果を示している。図2(b)の矢印V方向に検査を行ったものである。中央付近の白い矩形領域A1が、接合界面の縁部である。さらに、その中央付近に若干、陰になってみえる矩形領域A2が、良好に接合されている部分を示している。超音波探傷の結果、この試験では、接合部の中央付近の領域A2において、十分均等に接合不良なく良好に接合されていることが確認できる。
【0032】
図2に示した結果によれば、第1部材としてアルミナ分散強化銅を用い、第2部材としてWC-Co系合金の超硬合金を用いた場合には、良好にろう付接合が達成されることが確認された。このろう付は、同一発明者による従前の特許文献1~3に記載されている通り、接合部分で、ろう材に含まれるリンと、第1部材に含まれる銅との共晶反応によって、銅が溶融、拡散もしくは、溶融した銅が被接合材料表面の凹凸に馴染むアンカー効果の両方あるいはどちらかによって達成されているものと考えられる。
従って、図2と同様の結果は、第1部材として、アルミナ分散強化銅以外の無酸素銅、タフピッチ銅、若しくはリン脱酸銅を用いた場合でも、同様の結果が得られるものと考えられる。
また、ろう付は、銅の溶融、拡散もしくは、溶融した銅が被接合材料表面の凹凸に馴染むアンカー効果の両方あるいはどちらかによって達成されるものであり、超硬合金は、拡散される銅もしくはアンカー効果によって馴染む銅を受け入れることができれば良いと考えられる。かかる観点によれば、WC-Co系合金の超硬合金とその他の超硬合金で差違はないものと考えられるから、図2の結果によれば、WC-Co系合金の超硬合金に限らず超硬合金一般において、同様に良好なろう付接合が得られるものと考えられる。
【0033】
次に、圧力の影響、ろう材の厚さによる影響について、第1部材、第2部材ともにGlidCop(登録商標)を用い、BNi-6をろう材として用いた実験結果に基づいて説明する。
図3は、接合時に加える圧力の影響を示す説明図である。
図3(a)には、接合する部材の形状等を示した。部材Aは、アルミナ分散強化銅、より具体的には、GlidCop(登録商標)の部材であり、図示する流路が切削されている。部材Bは、流路に蓋をするGlidCop(登録商標)の板状部材である。流路の周囲が部材A、部材Bの接合部となる。
図3(b1)、図3(b2)には、それぞれ部材に圧力を加えた状態を示した。下プレートと上プレートはボルトで締結されており、下プレートと中プレートの間に接合部材が、中プレートと上プレートとの間にカーボンばねが挟まれている点は共通である。また、カーボンばねの弾性係数も同じである。各プレートの厚さが、図3(b2)では図3(b1)の約2.5~3.5倍となっている点が相違する。
図3(c1)、図3(c2)には、それぞれ図3(b1)、図3(b2)に対応する超音波探傷による検査結果を示している。流路の周囲を上方から見た状態を示した。図3(c1)では、流路の周囲に、多数の筋状の模様が確認できる。これは、部材A、部材Bが十分に接合されていない接合不良の箇所を表している。一方、図3(c2)では、かかる接合不良は見られない。
図3(b1)、図3(b2)では、カーボンばねにより加えた圧力値が同じであるから、部材にかかる圧力も等しくなるはずであるが、各プレートが厚い図3(b2)では圧力が均一に加わるのに対し、各プレートが薄い図3(b1)では圧力に偏りが生じているものと考えられる。従って、圧力を加えるために用いるプレートの厚さは、十分に厚いことが好ましいことになる。具体的な厚さは、圧力による撓みが十分に抑制されることが好ましいと考えられ、図3(b1)、図3(b2)に示すように、種々の厚さで接合を行い、接合不良の有無を確認することで実験的に定めることができる。ここでは、2種類の厚さによる結果を示したが、さらに多くの厚さで実験を行えば、接合不良を回避するために必要となる厚さを決定することが可能である。
【0034】
図4は、ろう材の厚さによる影響を示す説明図である。ろう材の厚さとは、2つの部材の間に介在させるろう材の層の厚さのことである。図4中の左側の列には、ろう材の厚さを38マイクロメートルとした場合における結果を示し、右側の列には、ろう材の厚さを76マイクロメートルとした場合における結果を示した。
図4(a1)、図4(a2)は、接合した部材を真上から見下ろした状態を示している。この例では、矩形の一定厚さの2枚の部材を接合しており、上側の部材には中央に矩形の窓が形成されている。いずれの部材も、GlidCop(登録商標)で形成されている。図4(a1)、図4(a2)に示す通り、ろう材が接合面から窓の内側に若干、はみ出していることが確認でき、ろう材が厚い図4(c2)の方が多量にはみ出していることが分かる。
図4(b1)、図4(b2)は、接合した部材を側面から見た状態である。ろう材が厚い図4(b2)の方が変色している部分が大きいことが確認される。
図4(c1)、図4(c2)は、窓の部分を斜め方向から見た状態である。ろう材が厚い図4(c2)の方が多量にろう材がはみ出していることが確認される。
図4(d1)、図4(d2)は、超音波探傷による検査結果である。窓に対応する矩形枠の内側にろう材がはみ出していることが確認される。また、ろう材が厚い図4(d2)では、窓の周囲に筋状の接合不良の部分が多数確認されるが、ろう材が薄い図4(d1)では、こうした接合不良は確認されない。
以上より、ろう材は必ずしも厚い方が好ましいとは言えないことが分かる。適したろう材の厚さは、表面仕上げの程度に応じて定まると考えられる。微鏡面仕上げの場合、76マイクロメートルよりは、38マイクロメートルの方が好ましいと言える。この例では、2段階の厚さによる結果を示したが、さらに多段階の厚さで接合および検査を行うことにより、適したろう材の厚さを決定することが可能である。また、本実施例では、超音波探傷検査による接合不良の有無を検査しているが、併せて接合の機械的強度を計測してもよい。
図3図4では、GlidCop(登録商標)同士の実験結果を示したが、超硬合金とアルミナ分散強化銅等との結果についても、同様であると言える。
【0035】
以上で説明した通り、実施例のろう付方法によれば、アルミナ分散強化銅、無酸素銅、タフピッチ銅、若しくはリン脱酸銅のいずれかからなる第1部材と、超硬合金からなる第2部材との間で良好にろう付接合することができる。
【0036】
以上で説明した種々の特徴は、必ずしも全てを備えている必要はなく、一部を適宜、省略したり組み合わせたりしてもよい。
本発明は、複数の素材間のろう付にも適用可能である。アルミナ分散強化銅等からなる部材Aと、超硬合金からなる部材B、および超硬合金以外の素材からなる部材Cをそれぞれろう付接合する場合には、部材B、Cのうち部材Aに熱膨張係数が近いものを接合し、その後、他の部材を接合することが好ましい。このように接合を繰り返し実行する場合、一旦、接合された部材同士は、次の部材を接合するために再び熱処理環境下に曝されることになる。部材同士の熱膨張係数が大きく異なる場合には、熱処理の繰り返しによって大きな熱応力を生じることになる。熱膨張係数が近い部材同士を先に接合するのは、かかる弊害を避け、熱応力の発生を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、超硬合金のろう付接合に利用することができる。
【要約】
【課題】 超硬合金について、良好なろう付接合を実現する。
【解決手段】 アルミナ分散強化銅、無酸素銅、タフピッチ銅、若しくはリン脱酸銅のいずれかからなる第1部材と、超硬合金からなる第2部材とを用意し、接合対象となる表面を微鏡面仕上げした後、リンを11%含有し、銅を含まないニッケル合金であるBNi―6のろう材を挟み込み、圧力を加える。この状態で、960℃の熱処理温度で10分間の熱処理を行う。その後、十分に自然冷却した後、窒素ガスを用いて急冷する。こうすることにより、アルミナ分散強化銅、無酸素銅、タフピッチ銅、若しくはリン脱酸銅のいずれかと、超硬合金との良好なろう付接合を実現することが可能となる。
【選択図】 図1

図1
図2
図3
図4