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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】反射防止構造体、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/118 20150101AFI20240627BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20240627BHJP
   C23C 14/10 20060101ALI20240627BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20240627BHJP
   C03C 17/245 20060101ALI20240627BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240627BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20240627BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
G02B1/118
C23C14/34 R
C23C14/10
C23C14/08 A
C23C14/08 E
C23C14/08 F
C03C17/245 A
B32B7/023
B32B3/30
B32B9/00 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019227726
(22)【出願日】2019-12-17
(65)【公開番号】P2021096373
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】597060106
【氏名又は名称】東亜電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148862
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179811
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 良和
(74)【代理人】
【識別番号】100120570
【弁理士】
【氏名又は名称】中 敦士
(72)【発明者】
【氏名】栗原 一真
(72)【発明者】
【氏名】穂苅 遼平
(72)【発明者】
【氏名】福井 博章
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-322763(JP,A)
【文献】特開2015-1578(JP,A)
【文献】特開昭62-73203(JP,A)
【文献】特開2014-170071(JP,A)
【文献】特開2016-139138(JP,A)
【文献】国際公開第2014/006874(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/191092(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10- 1/18
B32B 1/00-43/00
C03C17/245
C23C14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦な表面(S)に対する垂直断面形状がU字形状ないしV字形状の穴(Hn)が複数形成されていて、該穴(Hn)の形状は、開口部の平均直径(m)が50~300nm、隣接する開口部との間のそれぞれの中心点の平均間隔(k)が100~400nm、及び表面(S)を基準とした各穴(Hn)の深さ(dn)が80~250nmの範囲である、透明な基材(B)に、
金属酸化物膜がその表面(S)に薄膜として配置され、かつ穴(Hn)の底部から上部方向の各空間部(Cn)に前記薄膜とは異なる構造の柱状膜として配置された、反射防止構造体であって、
各空間部(Cn)に配置された金属酸化物の柱状膜の厚さ(tn)が、各穴(Hn)の深さ(dn)が深くなるほど増加していることにより、
前記表面(S)に配置された金属酸化物の薄膜の最表面(Sm)から各空間部(Cn)内に配置された金属酸化物の柱状膜の表面までの各穴(Hn)間の深さ(fn)の差が減少していることを特徴とする反射防止構造体。
【請求項2】
前記基材(B)の表面(S)に配置された金属酸化物膜は薄膜であり、
前記穴(Hn)の底部から上部方向の空間部(Cn)に配置された金属酸化物膜は繊維状柱状膜である、請求項1に記載の反射防止構造体。
【請求項3】
前記基材(B)の平坦な表面(S)の「算術平均粗さ(Ra)」が50nm以下であり、該表面(S)における開口部の面積割合(開口率)(r)が50~80面積%である、請求項1又は2に記載の反射防止構造体。
【請求項4】
前記基材(B)の表面(S)に配置された金属酸化物の薄膜の厚さ(p)が20~60nmである、請求項1から3のいずれか1項に記載の反射防止構造体。
【請求項5】
前記基材(B)の表面(S)に配置された金属酸化物の薄膜の厚さ(p)が20~40nmであり、
前記表面(S)に配置された金属酸化物の薄膜の最表面(Sm)から、穴(Hn)の底部から上部方向の空間部(Cn)内に配置された金属酸化物の柱状膜の表面までの各穴(Hn)の深さ(fn)が下記式(i)で示される範囲である、請求項1から4のいずれか1項に記載の反射防止構造体。
fn=[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×0.90~[(0.195dn+95.5) +(p-25)]×1.10・・・(i)
【請求項6】
前記基材(B)の表面(S)に配置された金属酸化物の薄膜の厚さ(p)が20~40nmであり、
前記表面(S)に配置された金属酸化物の薄膜の最表面(Sm)から、穴(Hn)の底部から上部方向の空間部(Cn)内に配置された金属酸化物の柱状膜の表面までの各穴(Hn)の深さ(fn)が下記式(ii)で示される範囲である、請求項1から4のいずれか1項に記載の反射防止構造体。
fn=[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×0.95~[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×1.05・・・(ii)
【請求項7】
前記金属酸化物膜を形成している金属酸化物(M)が酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、及び酸化ジルコニウムのいずれかである、請求項1から6のいずれか1項に記載の反射防止構造体。
【請求項8】
平坦な表面(S)に対する垂直方向の断面形状がU字形状ないしV字形状の穴(Hn)が複数設けられていて、各穴(Hn)の開口部の平均直径(m)が50~300nm、隣接する開口部との間のそれぞれの中心点の平均間隔(k)が100~400nm、かつ深さ(dn)が表面(S)を基準として80~250nmの範囲である、透明な基材(B)に金属酸化物膜を堆積する反射防止構造体の製造方法であって、
プラズマ源を有する真空成膜装置を用いて下記条件(a)~(c)で真空成膜を行い、
(a)ターゲットが金属酸化物(M)、又は該金属酸化物を構成する金属(K)
(b)真空チャンバー内に供給するガスが希ガス、又は希ガスと酸素ガス
(c)真空チャンバー内のガス圧力が4~6パスカル
表面(S)と各穴(Hn)の底部から上部方向の空間部(Cn)にそれぞれ金属酸化物(M)からなる薄膜と柱状膜を堆積することを特徴とする、反射防止構造体の製造方法。
【請求項9】
前記基材(B)の各空間部(Cn)に堆積される柱状膜の厚さ(tn)が、各穴(Hn)の深さ(dn)が深くなるほど増加して、
基材(B)の表面(S)に配置される薄膜の最表面(Sm)から各空間部(Cn)内に配置される柱状膜の表面までの各穴(Hn)間の深さ(fn)の差が減少する、請求項8に記載の反射防止構造体の製造方法。
【請求項10】
前記プラズマ源を有する真空成膜装置がスパッタリング装置である、請求項8又は9に記載の反射防止構造体の製造方法。
【請求項11】
前記金属酸化物膜を形成する金属酸化物(M)が酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、及び酸化ジルコニウムのいずれかである、請求項8から10のいずれか1項に記載の反射防止構造体の製造方法。
【請求項12】
前記ターゲットが酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、もしくは酸化ジルコニウムからなる金属酸化物(M)、又はケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、もしくはジルコニウム(Zr)からなる金属(K)である、請求項8から11のいずれか1項に記載の反射防止構造体の製造方法。
【請求項13】
前記真空チャンバー内に供給されるガスがアルゴンガス、又はアルゴンガスと酸素ガスである、請求項8から12のいずれか1項に記載の反射防止構造体の製造方法。
【請求項14】
前記基材(B)の表面(S)に堆積される金属酸化物(M)からなる薄膜の厚さ(p)が20~60nmである、請求項8から13のいずれか1項に記載の反射防止構造体の製造方法。
【請求項15】
前記プラズマ源を有する真空成膜装置を用いて、基材(B)の表面(S)に厚さ(p)が20~40nmの金属酸化物(M)からなる薄膜を堆積すると、
基材(B)の表面(S)に配置される薄膜の最表面(Sm)から穴(Hn)の底部から上部方向の空間部(Cn)内に配置された金属酸化物(M)からなる柱状膜の表面までの各穴(Hn)の深さ(fn(nm))が下記式(i)で示される範囲となり、
fn=[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×0.90~[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×1.10・・・(i)
各穴(Hn)間の深さ(fn)の差が減少する、請求項8から14のいずれか1項に記載の反射防止構造体の製造方法。
【請求項16】
前記プラズマ源を有する真空成膜装置を用いて、基材(B)の表面(S)に厚さ(p)が20~40nmの金属酸化物(M)からなる薄膜を堆積すると、
基材(B)の表面(S)に配置される薄膜の最表面(Sm)から穴(Hn)の底部から上部方向の空間部(Cn)内に配置された金属酸化物(M)からなる柱状膜の表面までの各穴(Hn)の深さ(fn(nm))が下記式(ii)で示される範囲となり、
fn=[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×0.95~[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×1.05・・・(ii)
各穴(Hn)間の深さ(fn)の差が減少する、請求項8から14のいずれか1項に記載の反射防止構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学反射防止機能、親水性機能等の機能を有する反射防止構造体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガラスや樹脂等からなる光学素子において、表面反射による戻り光を減少させ、且つ透過光を増加させるために、表面処理が行われている。この表面処理の具体的な方法として、光学素子表面に微細で緻密な凹凸形状を周期的に形成する方法が知られている。このように光学素子表面に周期的な凹凸形状を設けた場合、光は光学素子表面を透過するときに回折し、透過光の直進成分が大幅に減少するが、光学素子表面に形成された凹凸形状のピッチが透過する光の波長よりも短いときには、光は回折しないために、そのピッチや深さ等に対応する波長の光に対して有効な反射防止効果を得ることができる。
更に、凹凸形状を短形とするのではなく、山と谷、すなわち光学素子材料側と空気側の体積比が連続的に変化するような、いわゆる錐形状(錐形状のパターン)とすることにより、広い波長域を有する光に対しても反射防止効果を得ることができる(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
広波長域に対して反射防止する構造を実現するためには、波長以下の微細な凹凸パターンで、アスペクト比が比較的高いナノメーターサイズの凹凸を有する構造体(以下、ナノ構造体ということがある)の形成が望ましいが、このような構造体は半導体工程によるエッチング加工やアルミ陽極酸化などを用いた加工手段で製造することができる。また、これら反射防止構造を低コストで実現するためには、アスペクト比が比較的高い凹凸パターンが表面に形成されたナノ構造体で構成された金型を用いて、プレス成形、射出成形、キャスト成形等で成形することが望ましい。ナノ構造体の凹凸パターン間隔を波長以下に保ち、(λを波長、nを構造体の屈折率とすると)その凹凸形状の高さ(又は深さ)を波長のλ/4n~λ/2n程度に制御し、転写成形により、低コストで成形できることが提案されている(特許文献3、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-272505号公報
【文献】特開2006-243633号公報
【文献】特開平8-281692号公報
【文献】特開平11-314256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術のように、ナノ構造体を用いて反射防止構造体を作製する場合、反射を防止する波長は構造体の凹形状の深さによって決定されるため、凹形状の深さを制御する必要がある。石英やシリコンなどに、凹凸を有するナノ構造体に直接加工する場合などは、エッチング工程を用いて凹凸加工を行い、また、金型を用いて転写成形すること等によって、所定の凹凸構造体を形成している。
【0006】
しかしながら、これらのナノ構造体の作製において、実際のナノ構造体の凹部の深さは、商業的な生産・加工時には誤差が発生し易く、深さ誤差は反射防止の波長特性に影響するため、深さ誤差の少ない精密な加工プロセスや成形プロセスが求められている。また、ナノ構造体形状が形成されている金型を用いて、射出成形やホットエンボス成形などを行った場合には、金型の温度分布、充填される樹脂の温度分布や圧力分布等に不均一性が生じて、ナノ構造体の転写分布にバラツキが発生すると、ナノ構造体の深さにもバラツキが発生し易くなる。その結果、ナノ構造体を用いた反射防止特性は、構造体の凹形状の深さによって決定されるため、反射防止特性が均一でかつ、低反射の成形品が作製できない問題がある。特に、大面積化した場合、又は曲面化した場合には、前述した問題は顕著にあらわれ、深さのバラツキによる誤差の充分な補正が出来ない問題も伴う。本発明は、上記問題を解決するために、加工時に凹凸形状における深さのバラツキが生じ易いナノ構造体において、より深い方の凹部に柱状膜をより厚く形成して、構造体表面から柱状膜表面までの深さのバラツキを少なくして、面内均一性の優れ、また、広波長帯域でかつ、より広入射角度の反射防止光学特性に優れた反射防止構造体、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、平坦な透明基材の表面に、反射防止の対象となる光の波長以下のナノメーターサイズの穴が、光の波長以下の平均間隔で形成されたナノ構造体に対して、その表面と穴の内部に薄膜を形成する、真空成膜法を採用して、通常用いられる真空度より低い真空度に設定すること、すなわち圧力を高目にすることで、金属酸化物粒子とガス粒子の衝突を高めて平均自由工程が短くなるようにした。その結果、薄膜形成前のナノ構造体に形成された複数の穴の深さにバラツキがあっても、薄膜形成後には穴の深さが深いほど穴部に形成される柱状膜の厚さが増加するので、各穴の深さの差は減少して反射防止特性が向上した反射防止構造体が得られる事を見出し、また基材の穴の内部に金属酸化物からなる柱状物を形成すると親水効果や防曇効果が向上する基板が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、以下の(1)~(16)に記載する発明を要旨とする。
【0008】
(1)平坦な表面(S)に対する垂直断面形状がU字形状ないしV字形状の穴(Hn)が複数形成されていて、該穴(Hn)の形状は、開口部の平均直径(m)が50~300nm、隣接する開口部との間のそれぞれの中心点の平均間隔(k)が100~400nm、及び表面(S)を基準とした各穴(Hn)の深さ(dn)が80~250nmの範囲である、透明な基材(B)に、
金属酸化物膜がその表面(S)に薄膜として配置され、かつ穴(Hn)の底部から上部方向の各空間部(Cn)に前記薄膜とは異なる構造の柱状膜として配置された、反射防止構造体であって、
各空間部(Cn)に配置された金属酸化物の柱状膜の厚さ(tn)が、各穴(Hn)の深さ(dn)が深くなるほど増加していることにより、
前記表面(S)に配置された金属酸化物の薄膜の最表面(Sm)から各空間部(Cn)内に配置された金属酸化物の柱状膜の表面までの各穴(Hn)間の深さ(fn)の差が減少していることを特徴とする反射防止構造体。
【0009】
(2)前記基材(B)の表面(S)に配置された金属酸化物膜は薄膜であり、
前記穴(Hn)の底部から上部方向の空間部(Cn)に配置された金属酸化物膜は繊維状柱状膜である、前記(1)に記載の反射防止構造体。
(3)前記基材(B)の平坦な表面(S)の「算術平均粗さ(Ra)」が50nm以下であり、該表面(S)における開口部の面積割合(開口率)(r)が50~80面積%である、
前記(1)又は(2)に記載の反射防止構造体。
(4)前記基材(B)の表面(S)に配置された金属酸化物の薄膜の厚さ(p)が20~60nmである、前記(1)から(3)のいずれかに記載の反射防止構造体。
(5)前記基材(B)の表面(S)に配置された金属酸化物の薄膜の厚さ(p)が20~40nmであり、
前記表面(S)に配置された金属酸化物の薄膜の最表面(Sm)から、穴(Hn)の底部から上部方向の空間部(Cn)内に配置された金属酸化物の柱状膜の表面までの各穴(Hn)の深さ(fn)が下記式(i)で示される範囲である、前記(1)から(4)のいずれかに記載の反射防止構造体。
fn=[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×0.90~[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×1.10・・・(i)
【0010】
(6)前記基材(B)の表面(S)に配置された金属酸化物の薄膜の厚さ(p)が20~40nmであり、
前記表面(S)に配置された金属酸化物の薄膜の最表面(Sm)(以下、「表面(S)に配置された金属酸化物の薄膜の最表面(Sm)」を「基材(B)の最表面(Sm)」ということがある。)から、穴(Hn)の底部から上部方向の空間部(Cn)内に配置された金属酸化物の柱状膜の表面までの各穴(Hn)の深さ(fn)が下記式(ii)で示される範囲である、前記(1)から(4)のいずれかに記載の反射防止構造体。
fn=[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×0.95~[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×1.05・・・(ii)
(7)前記金属酸化物膜を形成している金属酸化物(M)が酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、及び酸化ジルコニウムのいずれかである、前記(1)から(6)のいずれかに記載の反射防止構造体。
【0011】
)平坦な表面(S)に対する垂直方向の断面形状がU字形状ないしV字形状の穴(Hn)が複数設けられていて、各穴(Hn)の開口部の平均直径(m)が50~300nm、隣接する開口部との間のそれぞれの中心点の平均間隔(k)が100~400nm、かつ深さ(dn)が表面(S)を基準として80~250nmの範囲である、透明な基材(B)に金属酸化物膜を堆積する反射防止構造体の製造方法であって、
プラズマ源を有する真空成膜装置を用いて下記条件(a)~(c)で真空成膜を行い、
(a)ターゲットが金属酸化物(M)、又は該金属酸化物を構成する金属(K)
(b)真空チャンバー内に供給するガスが希ガス、又は希ガスと酸素ガス
(c)真空チャンバー内のガス圧力が4~6パスカル
表面(S)と各穴(Hn)の底部から上部方向の空間部(Cn)にそれぞれ金属酸化物(M)からなる薄膜と柱状膜を堆積することを特徴とする、反射防止構造体の製造方法。
【0012】
)前記基材(B)の各空間部(Cn)に堆積される柱状膜の厚さ(tn)が、各穴(Hn)の深さ(dn)が深くなるほど増加して、
基材(B)の表面(S)に配置され薄膜の最表面(Sm)から各空間部(Cn)内に配置される柱状膜の表面までの各穴(Hn)間の深さ(fn)の差が減少する、前記()に記載の反射防止構造体の製造方法。
10)前記プラズマ源を有する真空成膜装置がスパッタリング装置である、前記()又は()に記載の反射防止構造体の製造方法。
11)前記金属酸化物膜を形成する金属酸化物(M)が酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、及び酸化ジルコニウムのいずれかである、前記()から(10)のいずれかに記載の反射防止構造体の製造方法。
12)前記ターゲットが酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、もしくは酸化ジ
ルコニウムからなる金属酸化物(M)、又はケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、もしくはジルコニウム(Zr)からなる金属(K)である、前記()から(11)のいずれかに記載の反射防止構造体の製造方法。
【0013】
13)前記真空チャンバー内に供給されるガスがアルゴンガス、又はアルゴンガスと酸素ガスである、前記()から(12)のいずれかに記載の反射防止構造体の製造方法。
14)前記基材(B)の表面(S)に堆積される金属酸化物(M)からなる薄膜の厚さ(p)が20~60nmである、前記()から(13)のいずれかに記載の反射防止構造体の製造方法。
15)前記プラズマ源を有する真空成膜装置を用いて、基材(B)の表面(S)に厚さ(p)が20~40nmの金属酸化物(M)からなる薄膜を堆積すると、
基材(B)の表面(S)に配置される薄膜の最表面(Sm)から穴(Hn)の底部から上部方向の空間部(Cn)内に配置された金属酸化物(M)からなる柱状膜の表面までの各穴(Hn)の深さ(fn(nm))が下記式(i)で示される範囲となり、
fn=[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×0.90~[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×1.10・・・(i)
各穴(Hn)間の深さ(fn)の差が減少する、前記()から(14)のいずれかに記載の反射防止構造体の製造方法。
【0014】
16)前記プラズマ源を有する真空成膜装置を用いて、基材(B)の表面(S)に厚さ(p)が20~40nmの金属酸化物(M)からなる薄膜を堆積すると、
基材(B)の表面(S)に配置される薄膜の最表面(Sm)(以下、「基材(B)の表面(S)に配置される薄膜の最表面(Sm)」を「基材(B)の最表面(Sm)」ということがある。)から穴(Hn)の底部から上部方向の空間部(Cn)内に配置された金属酸化物(M)からなる柱状膜の表面までの各穴(Hn)の深さ(fn(nm))が下記式(ii)で示される範囲となり、
fn=[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×0.95~[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×1.05・・・(ii)
各穴(Hn)間の深さ(fn)の差が減少する、前記()から(14)のいずれかに記載の反射防止構造体の製造方法。

【発明の効果】
【0015】
本発明の反射防止構造体には、基材(B)の表面(S)と、その表面(S)に設けられた深さ(dn)のナノメーターサイズの複数の穴(Hn)の底部から上部方向の空間部(Cn)に、反射防止機能を有する金属酸化物がそれぞれ薄膜、柱状膜として配置されているので、該反射防止構造体は優れた反射防止効果と親水性を有している。更に、該穴(Hn)の空間部(Cn)に配置された各柱状膜の厚さ(tn)は、基材(B)に設けられた穴(Hn)の成膜前の深さ(dn)が深くなるほど、増加しているので、基材(B)の最表面(Sm)を基準とした、各穴(Hn)間の深さ(fn)の差が減少して、その結果、該反射防止構造体は顕著な反射防止効果を発揮することができる。
【0016】
また、本発明の反射防止構造体の製造方法により、ナノメーターサイズの複数の穴(Hn)が設けられた基材(B)に、プラズマ源を有する真空成膜装置を使用して、特定の条件下で真空成膜を行うことにより、その表面(S)と各穴(Hn)の底部から上部方向の空間部(Cn)に、反射防止機能を有する金属酸化物(M)からなる薄膜、柱状膜をそれぞれ堆積すると、得られる反射防止構造体は優れた反射防止効果と親水性を有している。更に、好ましい態様において、前記真空成膜により、穴(Hn)の空間部(Cn)に堆積される各柱状膜の厚さ(tn)は、基材(B)に設けられた穴(Hn)の成膜前の深さ(dn)が深くなるほど、増加しているので、基材(B)の最表面(Sm)を基準とした、各穴(Hn)間の深さ(fn)の差が減少して、その結果、得られる反射防止構造体は顕著な反射防止効果を発揮することができる。
以下、金属酸化物(M)を単に金属酸化物ということがある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1において、(a)は基材(B)、(b)は基材(B)の表面と穴の内部に金属酸化物膜が配置された公知の反射防止構造体、(c)は、基材(B)の表面(S)と穴(Hn)の空間部(Cn)にそれぞれ金属酸化物からなる薄膜、柱状膜が配置された本発明の反射防止構造体の概念図である。
図2図2は、(a)に示す射出成形用金型を用いて、(b)に示す射出成形工程により基材(B)を成形し、(c)に示す真空成膜プロセスで、本発明の反射防止構造体を作製するプロセスの概念図である。
図3図3において、(a)、(b)、(c)は参考例1、実施例1、比較例1でそれぞれ作製した試験片(A-2)、(B-2)、(C-5)を表面上側から観察した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図4】試験片(A-2)に設けられた各穴(Hn)の深さに対応する、本発明のプロセスで得られた成膜後の試験片(B-2)、及び公知のプロセスで得られた成膜後の試験片(C-5)の各穴の深さを示すグラフである。(図4中、試験片(A-2)、試験片(B-2)、試験片(C-5)は、それぞれ試験片(A)、試験片(B)、試験片(C)と記載する。)
図5】参考例1で作製した試験片(A-2)の各穴の深さと光線反射率との関係を示すグラフである。(図5中、試験片(A―2)は試験片(A)と記載する。光の入射角度は5度である。)
図6】実施例1で作製した反射防止構造体である試験片(B-2)について、成膜前の各穴(Hn)の深さ(dn)に対応させた成膜後の各穴の深さ(fn)と、光線反射率との関係を示すグラフである。(図6中、試験片(B―2)は試験片(B)と記載する。光の入射角度は5度である。)
図7】比較例1で作製した反射防止構造体である試験片(C-5)について、成膜前の各穴の深さに対応させた成膜後の各穴の深さと、光線反射率との関係を示すグラフである。(図7中、試験片(C―5)は試験片(C)と記載する。光の入射角度は5度である。)
図8】参考例1で作製した試験片(A-2)を用いて、光入射角度を5度から70度まで変化させたときの、波長と反射率との関係を示すグラフである。(図8中、試験片(A―2)は試験片(A)と記載する。)
図9】実施例1で作製した反射防止構造体である試験片(B-2)を用いて、光入射角度を5度から70度まで変化させたときの、波長と反射率との関係を示すグラフである。(図9中、試験片(B―2)は試験片(B)と記載する。)
図10】比較例1で作製した反射防止構造体である試験片(C-5)を用いて、光入射角度を5度から70度まで変化させたときの、波長と反射率との関係を示すグラフである。(図10中、試験片(C―5)は試験片(C)と記載する。)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を〔1〕反射防止構造体、と〔2〕反射防止構造体の製造方法、に分けて説明する。
図1(a)~(c)において、(a)は表面に対して垂直断面形状がU字形状の穴12が設けられた基材11の概念図であり、(b)は該基材11の表面と穴部に公知の方法で薄膜13が堆積された構造体の概念図であり、(c)は、前記基材11の表面(S)に金属酸化物からなる薄膜14が配置され、穴(Hn)の空間部(Cn)12に金属酸化物からなる柱状膜15が配置された、本発明の反射防止構造体の概念図である。
【0019】
図2(a)~(c)は、基材(B)を作製するプロセスと、該基材(B)から反射防止構造体を作製するプロセスを示す概念図である。図2(a)は、射出成形用の上金型16と下金型17の概念図であり、(b)は射出成形機にこれらの金型がセットされた空間に基材11を形成する溶融樹脂が射出される射出成形プロセスの概念図であり、(c)は前記射出成形プロセスで形成された基材(B)に、本発明の真空成膜プロセスにより、その表面(S)に薄膜14を堆積し、穴の空間部(Cn)に柱状膜を堆積するプロセスを示す概念図である。
【0020】
図3は、は参考例1、実施例1、比較例1でそれぞれ作製した試験片(A-2)、試験片(B-2)、試験片(C-5)を表面上側から観察した走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
図4は、試験片(A-2)に設けられた各穴の深さに対応する、本発明のプロセスで得られた成膜後の試験片(B-2)、及び公知のプロセスで得られた成膜後の試験片(C-5)の各穴の深さを示す。
図5~7は、参考例1、実施例1、比較例1で作製した試験片(A-2)、試験片(B-2)、試験片(C-5)について、光の入射角度が5度おける光線反射率をそれぞれ評価した結果を説明する図面である。図8~10は、参考例1、実施例1、比較例1で作製した試験片(A-2)、試験片(B-2)、試験片(C-5)について、光の入射角度が5~70度おける光線反射率をそれぞれ評価した結果を説明する図面である。尚、図3~10について、詳細は実施例、比較例の項で説明する。
【0021】
〔1〕反射防止構造体
本発明の反射防止構造体は、平坦な表面(S)に対する垂直断面形状がU字形状ないしV字形状の穴(Hn)が複数形成されていて、該穴(Hn)の形状は、開口部の平均直径(m)が50~300nm、隣接する開口部との間のそれぞれの中心点の平均間隔(k)が100~400nm、及び表面(S)を基準とした各穴(Hn)の深さ(dn)が80~250nmの範囲である、透明な基材(B)に、
金属酸化物膜がその表面(S)に薄膜として配置され、かつ穴(Hn)の底部から上部方向の各空間部(Cn)に前記薄膜とは異なる構造の柱状膜として配置された、反射防止構造体であって、
各空間部(Cn)に配置された金属酸化物の柱状膜の厚さ(tn)が、各穴(Hn)の深さ(dn)が深くなるほど増加していることにより、
前記表面(S)に配置された金属酸化物の薄膜の最表面(Sm)から各空間部(Cn)内に配置された金属酸化物の柱状膜の表面までの各穴(Hn)間の深さ(fn)の差が減少していることを特徴とする。
【0022】
(1)基材(B)
基材(B)は、平坦な表面(S)に対する垂直断面形状がU字形状ないしV字形状の穴(Hn)が複数形成されていて、該穴(Hn)の形状は、開口部の平均直径(m)が50~300nm、隣接する開口部との間のそれぞれの中心点の平均間隔(k)が100~400nm、及び表面(S)を基準とした各穴(Hn)の深さ(dn)が80~250nmの範囲である、透明な構造体である。
【0023】
(イ)基材(B)の材質
基材(B)に使用可能な有機材料としては、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリシクロオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアリレート系樹脂等が挙げられるが、これらに限定されない。使用可能な無機材料としては、ガラス、シリコン、石英、セラミック材料等が挙げられるが、これらに限定されない。上記材料の中でも、穴(Hn)を形成する際の加工性などを考慮すると、有機材料の使用が好ましい。上記ポリカーボネートは、透明性、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性、燃焼性に優れているためより好ましく、ポリエチレンテレフタレートは、耐熱性、機械的強度、寸法安定性、耐薬品性、光学特性等、および表面の平滑性やハンドリング性に優れているためより好ましい。
【0024】
(ロ)基材(B)の構造
基材(B)の表面(S)は、平坦な形状で、その表面粗さがJIS601に基づく算術平均粗さ(Ra)で50nm以下が好ましい。尚、該平坦な形状には、緩やかな曲率をもって湾曲している形状も含まれる。基材(B)の厚さは特に制限はない。基材(B)の表面(S)に設けられる穴(Hn)の形状は、図1(a)の概念図等に示すように、表面(S)と垂直方向の断面構造でU字形状ないしV字形状である。このような形状とすることにより、後述する穴(Hn)の空間部(Cn)に、金属酸化物からなる柱状膜を形成し易くなると共に、光線に対する反射防止効果が向上する。
【0025】
基材(B)の表面(S)に設けられる各穴(Hn)の開口部の平均直径(m)は、可視光線の反射防止効果等を考慮すると50~300nmであり、80~300nmが好ましい。隣接する穴(Hn)の開口部の中心点の平均間隔(k)は、光線の反射防止効果等から100~400nmであり、100~350nmが好ましい。基材(B)の表面(S)における穴(Hn)の開口部の面積割合(開口率)(r)は50~80面積%が好ましい。各穴(Hn)の深さ(dn)は、基材(B)の表面(S)を基準として、反射防止機能、後述する薄膜の配置等を考慮すると80~250nmの範囲であり、基材(B)の屈折率が1.46の場合には、90~230nmが好ましい。
上記各穴(Hn)の開口部の平均直径(m)、開口部の中心点の平均間隔(k)における平均値は、測定値の正規分布から求められる中央値であり、上記穴(Hn)の深さ(dn)の範囲は、多少のバラツキがある場合には測定値の内の70%以上が含まれていればよい。
上記基材(B)の構造は、図2(a)に示す射出成形用上金型16と射出成形用下金型17を用いて、図2(b)に示す、射出成形機にこれらの金型がセットされた空間に基材を形成する溶融樹脂が射出されるプロセスで形成することが可能であるが、ナノ構造物で構成された金型を用いて射出成形の他に、キャスト成形、プレス成形等で成形することができる。
【0026】
(2)基材(B)に金属酸化物膜が配置された反射防止構造体
本発明の反射防止構造体は、透明な基材(B)の表面(S)に金属酸化物が薄膜として配置され、各穴(Hn)の空間部(Cn)に金属酸化物が柱状膜として配置されている。
従来、基材に反射防止の機能を発揮させるための手段として、基材の表面に反射を防止する光源の波長以下のナノサイズの穴に、金属酸化物からなる反射防止膜を配置した構造体が知られていた。しかし、基材に形成された穴の深さにバラツキがある場合には、基材表面と穴の空間部に同じ厚さの金属酸化物膜を配置しても必ずしも十分な反射防止効果を発揮することはできなかった。
【0027】
本発明の反射防止構造体の特徴の1つは、図1(c)に示すように構造体の表面(S)に金属酸化物からなる薄膜が配置され、かつ穴(Hn)の空間部(Cn)に前記薄膜とは異なる構造で、同じ金属酸化物からなる柱状膜が配置されて、反射防止機能を発揮することにある。
また、本発明の更なる特徴は、各穴(Hn)の空間部(Cn)に配置されている金属酸化物からなる柱状膜の厚さ(tn)が、後述するように、各穴(Hn)の成膜前の深さ(dn)が深くなる程増加して、各穴(Hn)間の成膜後の深さ(fn)の差が減少して、反射防止機能を更に向上していることにある。尚、公知の反射防止構造体では図1(b)に示すように構造体の表面と穴の内部に共に一定の厚さの反射防止構造体が配置されていた。
【0028】
(イ)金属酸化物膜
基材(B)の表面(S)及び穴(Hn)の空間部(Cn)に薄膜、柱状膜としてそれぞれ配置されて反射防止効果を発揮しうる金属酸化物膜を形成する無機の金属酸化物(M)の具体例としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム(アルミナ)、ケイ酸ジルコニウム、ルチル型酸化チタン、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アンチモン、五酸化ニオブ、酸化銅等が挙げられるがこれらの中でも屈折率の低い酸化ケイ素、酸化アルミニウム、その他酸化チタン、酸化ジルコニウム(ジルコニア)が好ましい。
【0029】
(ロ)基材(B)の表面(S)に配置された金属酸化物の薄膜
基材(B)の表面(S)に配置される金属酸化物膜の薄膜の厚さ(p)は、穴の空間部(Cn)に配置する柱状膜の厚さ(tn)、反射防止機能等を考慮すると、20~60nmが好ましく、20~40nmがより好ましい。
上記反射防止構造体の表面(S)に配置されている金属酸化物からなる薄膜は、その厚さ(p)が数十nm程度である場合には、例えば、本明細書の実施例1で作製した反射防止構造体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である図3(b)及び従来技術等から配向性は高くなく、密度が比較的高い薄膜状であると判断される。
【0030】
(ハ)基材(B)の穴(Hn)の空間部(Cn)に配置された金属酸化物の柱状膜
基材(B)の穴(Hn)の空間部(Cn)に配置された金属酸化物からなる柱状膜の構造は、例えば、本明細書の実施例1で作製した反射防止構造体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である図3(b)とソーントン・モデル(国際公開第2008-071906号、J. A. Thornton, J Vac. Sci. Technol. 11, p666 1974参照)から配向性があり、繊維状で全体形状が柱状膜であると判断される。また、穴(Hn)の空間部(Cn)で、柱状膜が、薄膜が配置された基材(B)の最表面(Sm)を基準として、120nm~250nmの深さの範囲に配置されていることが好ましい。柱状膜の好ましい厚さ(tn(nm))は後述する。
【0031】
(ニ)反射防止構造体
本発明の反射防止構造体は、上記特定のナノメーターサイズの穴(Hn)が複数設けられた透明な基材(B)の表面(S)に金属酸化物からなる薄膜が配置され、かつ穴(Hn)の空間部(Cn)に前記薄膜とは異なる構造の柱状膜が配置されているので反射防止機能を発揮し、更に、該柱状膜が繊維状であることにより、反射防止効果、親水効果、及び防曇効果が向上する特徴を有する。
また、本発明の好ましい態様では、穴(Hn)の空間部(Cn)に配置されている金属酸化物からなる柱状膜の厚さ(tn)は、基材(B)に設けられた各穴(Hn)の深さ(dn(nm))が深いほど増加している状態で配置されている結果、基材(B)の最表面(Sm)から穴(Hn)の空間部(Cn)に配置されている柱状膜の表面までの各深さ(fn)の差が下記の式(i)又は式(ii)に示すように減少して反射防止機能を更に向上している。
【0032】
実施例3の結果から、基材(B)の表面(S)に配置された薄膜の厚さ(p)を25nmとしたとき、基材(B)の最表面(Sm)から穴(Hn)の空間部(Cn)内の柱状膜の最表面までの各深さ(fn)は、下記式(iii)から求められる。
fn=0.195dn+95.5・・・・・・・・(iii)
尚、空間部(Cn)内に形成される各柱状膜の厚さ(tn)は、以下の式(iv)が求められる。
tn=(dn+p)-fn・・・・・・(iv)
上記式(iii)における傾値(0.195)が小さい値であるので、前記基材(B)の表面(S)に配置された薄膜の厚さ(p)を20~40nmの範囲にまで普遍化して、基材(B)の最表面(Sm)から穴(Hn)の空間部(Cn)内の柱状膜の最表面までの各深さ(fn)の好ましい範囲を求めることができ、この場合においても本発明の効果が期待できる。
【0033】
基材(B)の表面(S)に配置された薄膜の厚さ(p)が20~40nm、好ましくは20~30nmのときで、かつ基材(B)の各穴(Hn)の深さ(dn)が80~250nmであるとき、基材(B)の表面(S)に配置された金属酸化物の薄膜の最表面(Sm)から穴(Hn)の空間部(Cn)に配置された金属酸化物の柱状膜の表面までの各穴(Hn)の深さ(fn(nm))は、表面(S)を基準とした成膜前の各穴(Hn)の深さ(dn(nm))から求められる、下記式(i)で示される範囲であることが好ましい。
fn=[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×0.90~[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×1.10・・・(i)
尚、式(i)中、(p-25)は、基材(B)の表面に配置される薄膜の厚さ(p)が上記範囲であることを考慮したものであり、係数0.90と、1.10は図4におけるバラツキの範囲を考慮して、深さ(fn)の上限、下限を示すための数値であり、数字の単位は、ナノメーター(nm)である。本発明において、すべての穴(Hn)の深さ(fn)のうちの90%以上が上記式(i)の範囲に含まれていれば本発明の効果が発揮される。
【0034】
また、基材(B)の表面(S)に配置された薄膜の厚さ(p)が20~40nm、好ましくは20~30nmのときで、かつ基材(B)の各穴(Hn)の深さ(dn)が80~250nmであるとき、基材(B)の表面(S)に配置された金属酸化物の薄膜の最表面(Sm)から穴(Hn)の空間部(Cn)に配置された金属酸化物の柱状膜の表面までの各穴(Hn)の深さ(fn(nm))は、表面(S)を基準とした成膜前の各穴(Hn)の深さ(dn(nm))から求められる、下記式(ii)で示される範囲であることがより好ましい。
fn=[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×0.95~[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×1.05・・・(ii)
尚、式(ii)中、(p-25)は、基材(B)の表面に配置される薄膜の厚さ(p)が上記範囲であることを考慮したものであり、係数0.95と、1.05は図4におけるバラツキの範囲を考慮して、深さ(fn)の上限、下限を示すための数値であり、数字の単位は、ナノメーター(nm)である。本発明において、すべての穴(Hn)の深さ(fn)のうちの90%以上が上記式(ii)の範囲に含まれていれば本発明の効果が発揮される。
【0035】
本発明の反射防止構造体は、例えば、基材(B)の表面(S)と穴(Hn)の空間部(Cn)に金属酸化物からなる薄膜と柱状膜を配置する際に、例えば後述するスパッタリング装置や蒸着装置などの真空成膜装置を使用し、通常より真空チャンバー内のガス圧力を高めにして粒子の平均自由工程を短くし散乱効果を高めることにより、作製することが可能である。また、蒸着装置などの真空成膜装置にイオンビームや高周波などを用いたプラズマ源を組み合わせ、複合的に粒子エネルギーを高めた装置などを用いた場合においても、通常より粒子の平均自由工程を短くして散乱効果を高めることにより、作製することが可能である。また、特定の可視光線域に対して、反射率を2%以下にすることが可能になる。
【0036】
本発明の反射防止構造体は、上記特定のナノメーターサイズの穴(Hn)が複数設けられた基材(B)の表面(S)に金属酸化物からなる薄膜が配置され、かつ穴(Hn)の空間部(Cn)に前記薄膜とは異なる構造の繊維状の柱状膜として配置される事によって、穴(Hn)の空間部(Cn)に繊維状柱状膜が配置される前の構造体と比較して、より親水効果が高く持続性のある親水表面が得られる事が可能になる。これは、構造体の表面積の増大により、濡れる面がますます濡れやすくなるWenzel理論に基づき、穴(Hn)の空間部(Cn)に繊維状柱状膜が配置されることによって、表面積が増加する結果、親水性が向上するものと推定される。また、ナノメーターサイズの穴(Hn)が複数設けられた基材(B)の表面(S)に金属酸化物からなる薄膜が配置され、かつ穴(Hn)の空間部(Cn)に前記薄膜とは異なる構造の繊維状柱状膜が配置されることによって、鋳造構造と比べ、防曇効果も高める事が可能になる。
【0037】
〔2〕反射防止構造体の製造方法
本発明の反射防止構造体の製造方法は、
平坦な表面(S)に対する垂直方向の断面形状がU字形状ないしV字形状の穴(Hn)が複数設けられていて、各穴(Hn)の開口部の平均直径(m)が50~300nm、隣接する開口部との間のそれぞれの中心点の平均間隔(k)が100~400nm、かつ深さ(dn)が表面(S)を基準として80~250nmの範囲である、透明な基材(B)に金属酸化物膜を堆積する反射防止構造体の製造方法であって、
プラズマ源を有する真空成膜装置を用いて下記条件(a)~(c)で真空成膜を行い、
(a)ターゲットが金属酸化物(M)、又は該金属酸化物を構成する金属(K)
(b)真空チャンバー内に供給するガスが希ガス、又は希ガスと酸素ガス
(c)真空チャンバー内のガス圧力が4~6パスカル
表面(S)と各穴(Hn)の底部から上部方向の空間部(Cn)にそれぞれ金属酸化物からなる薄膜と柱状膜を堆積することを特徴とする。
【0038】
本発明の反射防止構造体の製造方法は、表面(S)に特定のナノメーターサイズの穴(Hn)が複数設けられた、透明な基材(B)にプラズマ源を用いたスパッタリング等の真空成膜装置を用いて、その表面(S)と穴(Hn)の空間部(Cn)にそれぞれ薄膜、柱状膜を堆積する反射防止構造体の製造方法である。
基材に特定のナノメーターサイズの穴(Hn)が設けられた上記基材(B)を作製する手段は、後述する通り、公知の方法で行うことが可能である。また、一般に基材等の表面に薄膜を形成する方法には,めっきや陽極酸化などの湿式法と,物理的方法と化学的方法等の乾式法があり、物理的方法(PVD、physical vapor deposition)としては、真空蒸着,スパッタリング、イオンプレーティング等が挙げられる。本発明の反射防止構造体の製造方法においては、基材(B)に金属酸化物からなる膜を形成する際に上記物理的方法に属する真空成膜法などのプラズマを用いた物理成膜法において、通常より金属酸化物等の粒子の平均自由工程を短くして散乱効果を高め、表面(S)に比較的緻密で平坦な、金属酸化物からなる薄膜を形成すると共に、穴(Hn)の空間部(Cn)に表面(S)に堆積される薄膜と同一材料の柱状膜を堆積することに特徴がある。
【0039】
プラズマ源を用いた真空成膜法は、コーティングや薄膜形成に広く用いられていて、材料選択の幅の広さ、制御のしやすさ等から、光学素子等の機能膜形成のほかに、工具等のコーティングや、半導体や液晶に広く用いられている。
スパッタリング等の真空成膜法は、低温下でも比較的緻密で均一な構造の薄膜を形成でき、再現性・安定性に優れ、ターゲットと基板間の距離が比較的短くできるので装置の小型化が可能であり、ターゲットの寿命が長いので生産の連続化が可能になる、という特徴を有している。
真空成膜法の中でも、スパッタリングは、ターゲットから真空中に放出される粒子のエネルギーは真空蒸着法等の他の物理的方法と比較して各段に高く、ターゲットへの入射粒子1個当たりに対し、スパッタリングにより気相中にはじき出される原子(又は分子)の数であるスパッタリング率は低いという特徴がある。また、形成される薄膜の構造と物性に粒子のエネルギーが影響を及ぼすために、ターゲット材料とスパッタリング用ガスの選択、放電条件、圧力、ターゲットと基板面間の距離等の制御条件を考慮する必要がある。
【0040】
(1)基材(B)
(イ)基材(B)の材質
真空成膜法により金属酸化物膜を形成する基板(B)の材質には特に制限はなく、基本的にはどのような材料にも成膜は可能である。該材料としては、プラスチックなどの有機材料と、ガラス、セラミックス、金属等の無機材料を使用できる。
【0041】
基材(B)に好ましい有機材料としては、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリシクロオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアリレート系樹脂等が挙げられるが、これらに限定されない。使用可能な無機材料としては、ガラス、シリコン、石英、セラミック材料等が挙げられるが、これらに限定されない。上記材料の中でも、穴(Hn)の形成などの加工性を考慮すると、有機材料の使用がより好ましい。上記ポリカーボネートは、透明性、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性、燃焼性に優れているためより好ましく、ポリエチレンテレフタレートは、耐熱性、機械的強度、寸法安定性、耐薬品性、光学特性等、および基材表面の平滑性やハンドリング性に優れているためより好ましい。
【0042】
(ロ)基材(B)の構造
基材(B)の表面(S)は、平坦な形状で、その表面粗さがJIS601に基づく算術平均粗さ(Ra)で50nm以下が好ましい。尚、該平坦な形状には、緩やかな曲率をもって湾曲している形状も含まれる。基材(B)の厚さは特に制限はない。基材(B)の表面(S)に設けられる穴(Hn)の形状は、図1(a)の概念図に示すように、表面(S)に対して垂直方向の断面構造でU字形状ないしV字形状である。このような形状とすることにより、光線に対する反射防止効果が発揮し易くなり、また後述する穴(Hn)の空間部(Cn)に、金属酸化物膜が柱状膜として堆積し易くなる。
【0043】
基材(B)の表面(S)に設けられる各穴(Hn)の開口部の平均直径(m)は、光線の反射防止効果等を考慮すると50~300nmであり、80~300nmが好ましい。隣接する穴(Hn)の開口部の中心点の平均間隔(k)は、光線の反射防止効果等から100~400nmであり、100~350nmが好ましい。基材(B)の表面(S)における穴(Hn)の開口部の面積割合(開口率)(r)は50~80面積%が好ましい。穴(Hn)の深さ(dn)は、基材(B)の表面(S)を基準として後述する薄膜の配置を考慮すると80~250nmであり、基材(B)の屈折率が1.46の場合には、90~230nmが好ましい。
【0044】
上記各穴(Hn)の開口部の平均直径(m)、各穴(Hn)の開口部の中心点の平均間隔(k)における平均値は、測定値の正規分布から求められる中央値であり、上記各穴(Hn)の深さ(dn)の範囲は、多少のバラツキがある場合には測定値の内の70%以上が含まれていればよい。
上記基材(B)の構造は、図2(a)に示す射出成形用上金型16と射出成形用下金型17を用いて、図2(b)に示す、射出成形機にこれらの金型がセットされた空間に基材(B)を形成する溶融樹脂が射出されるプロセスで形成することが可能であるが、ナノ構造物で構成された金型を用いた射出成形の他に、キャスト成形、プレス成形等で成形することができる。
基材(B)の形状が3次元の複雑構造のものは、スパッタリング等の真空成膜ではその細部に回り込んで成膜させるのが難しく、付着しなくなる面がある。このような場合には、金属酸化物等の粒子の平均自由工程を短くすることにより、いろいろな方向に粒子を散乱させることで、回り込みを増やせることができる。しかし、この回り込みには限度があって、ターゲットに対して直角程度までは粒子を付着させることは可能であるが、裏面までは困難である。
【0045】
(2)反射防止構造体の製造条件
真空成膜法には種々の方法が挙げられるが、以下にスパッタリングの例について具体的に説明する。
(イ)スパッタリング装置
(a)スパッタリング
スパッタリングは、真空チャンバー内にアルゴン(Ar)等の不活性ガスである希ガス等を導入しながら基板(陽極側)とターゲット(陰極側)間に高電圧を印加し、Ar+等のイオン化した希ガスをターゲットに衝突させて、はじき飛ばされたターゲット物質を基板に成膜させる方法である。真空中で処理を行うのは、希ガスのイオン化と、スパッタリングで飛ばしたターゲット分子を基板に届かせるため、そして不純物の少ない膜をつくるためである。
ガス供給部は、ターゲットの長手方向、すなわち基板の幅方向にガスノズルが設けることができ、反応性ガスを供給する場合にはその供給薄膜の組成に応じて適宜選択される。
利用する放電・プラズマの区分からみた代表的スパッタ装置方式として、マグネトロン方式、イオンビーム方式、DC2極方式、交流2極方式等が挙げられるが、これらの方式の中で膜の生成速度の大きいマグネトロンスパッタ方式の採用が好ましく、実際に広く使用されている。
【0046】
(b)マグネトロンスパッタ方式
スパッタリングを引き起こすための高いエネルギーを持つ粒子を得る方法としては、プラズマを発生させ、形成されたイオンを電気的に加速させることが一般的である。更に、磁場を用いてプラズマを閉じ込め、電子の使用効率を高めることができる。この方法はマグネトロンスパッタリング法とよばれる。マグネトロンスパッタリング方式は、例えばカソードの裏面に永久磁石等を配してスパッタ率を上げた方式で現在一般的に使われるようになっている。
【0047】
ターゲットの裏面に磁場発生装置を組み込むことにより、基板へのターゲット物質の堆積速度を向上させることができる。陽極と陰極との間に電圧を印加することによりグロー放電を起こし、真空チャンバー内の不活性ガスをイオン化させ、一方でターゲットから放出された二次電子を磁場発生装置で形成される磁場により捕獲し、ターゲット表面でサイクロイド運動を行わせる。電子のサイクロイド運動によりAr分子等のイオン化が促進されるため、膜の生成速度は大きくなり、膜の付着強度も高くなる。
【0048】
(ロ)ターゲット
ターゲットとしては、金属(K)、金属酸化物(M)などの材料が用いることができる。具体的には、酸化ケイ素、酸化アルミニウム(アルミナ)、ケイ酸ジルコニウム、ルチル型酸化チタン、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アンチモン、五酸化ニオブ、もしくは酸化銅等の金属酸化物(M)、又はケイ素、アルミニウム、チタン、スズ、ジルコニウム、セリウム、亜鉛、鉄、アンチモン、ニオブ、もしくは銅等の金属(K)等を用いることができる。酸化ケイ素からなる化合物を製膜する場合には、ターゲットに酸化ケイ素を用いるか、金属Siを用いてOガスを真空チャンバー内に導入して、金属とOを化合させることにより酸化ケイ素膜を形成する方法がある。後者は反応性スパッタリングといわれる。
【0049】
(ハ)スパッタ膜
基材(B)の表面(S)及び穴(Hn)の空間部(Cn)に堆積されて反射防止効果を発揮しうる無機の金属酸化物(M)の具体例としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム(アルミナ)、ケイ酸ジルコニウム、ルチル型酸化チタン、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アンチモン、五酸化ニオブ、酸化銅等が挙げられるがこれらの中でも屈折率の低い酸化ケイ素、酸化アルミニウム、その他酸化チタン、酸化ジルコニウム(ジルコニア)が好ましい。
【0050】
(ニ)スパッタリング条件
スパッタリング条件のファクターとしては、(a)電源と電圧、(b)スパッタリング用ガス、(c)ガス圧力、(d)基材とターゲットの面間隔、(e)スパッタリング温度、時間等が挙げられる。
【0051】
(a)電源と電圧
スパッタリング用の電源としては、直流電源、あるいは高周波電源のいずれを使用することも可能である。高周波スパッタ(RFスパッタ)は、電源に高周波電源を使用したスパッタであり、絶縁物を製膜するときにターゲットに絶縁物をそのまま使用することが可能になる。カソード、アノード間にスパッタを行うための電圧を印加する方法は、特に限定されるものではなく、2つのターゲット間に交流電圧を印加する方法、1つのターゲットに対してDCパルス電源で電圧を印加する方法、2つのターゲットに対し交互にDCパルス電源で電圧印加を行う所謂バイポーラ方式のDMS法などを利用することができる。例えば、一対のターゲットに交流電圧を印加した場合、各ターゲットがアノード電極、カソード電極に交互に切替わり、アノード電極及びカソード電極間にグロー放電を生じさせてプラズマ雰囲気が形成される。
【0052】
(b)スパッタリング用ガス
スパッタリングでは、通常は希ガスであるArを放電に用いるが、他の希ガスも使用することが可能である。ターゲット材料としてSiなどの金属を使用して、反応性スパッタリングにより酸化ケイ素等の化合物膜を堆積する場合には、希ガスに加えてOなどの反応性ガスを用いることができる。また、タ-ゲットに酸化ケイ素等の金属酸化物等の化合物を用いて、SiとO(酸素)の組成日が1対2であるという化学量論組成比を持つ薄膜を形成するために、放電ガス中に酸素ガスを加える必要が生じるが、この場合も反応性スパッタリングの一つである。これらのガスを真空チャンバー内に導入するには、通常ガス流量制御装置が用いられる。
酸化ケイ素等の誘電体薄膜の成膜に、金属ターゲットであるSi等を用いた反応性スパッタを採用する場合、アルゴン等の希ガスおよび酸素等の反応性ガスをスパッタ室内に導入し、金属領域と酸化物領域との中間の遷移領域となるように反応性ガスの導入量を制御することにより、酸化物薄膜を成膜することができる。スパッタリング用ガスとして希ガスにOガスを併せて用いる場合には、実験条件にもよるがガス中でOガスを15~35モル%程度の濃度とすることができる。
【0053】
(c)ガス圧力
本発明の反射防止構造体の製造方法において、基材(B)には上記の通りナノメーターサイズの複数の穴(Hn)が設けられているので、真空チャンバー内のガス圧力は通常の0.5~1パスカル(Pa)程度より高い圧力に設定するが、本発明では、平均自由工程を短くし散乱性を高めるためにスパッタリングガスの圧力は、4~6Paが選択される。また、平均自由工程は、気体原子が他の原子気体と衝突するまでの飛行距離の平均値であり、次式から求められる。
λ=3.11×10-24・T/PD
ここで、λは、平均自由工程λ(m)、ガス圧力P(Pa)、温度T(K)、及び分子の直径D(m)である。
【0054】
一般的に、スパッタリングの場合には、希ガス圧力が0.5~1Pa程度であるので、平均自由工程は、7~12.5mm程度に設定されるが、本発明の場合には、ガスの圧力は、4~6Paが選択され、平均自由工程を短くし散乱効果を高めて基材(B)の各穴(Hn)の空間部(Cn)に金属酸化物の柱状膜を形成する為、室温で平均自由工程は、1.0~1.25mm程度となる。金属酸化物の中で、例えば酸化ケイ素は、成膜中の圧力を調整することによって、膜密度を変化することができる。具体的には、成膜中の圧力を高くすると、酸化ケイ素の膜密度は相対的に低くなるので、基材(B)の形状、堆積面にもよるが、これにより穴(Hn)の空間部(Cn)に比較的密度の低い繊維状の酸化ケイ素を作製し易くなる。
【0055】
(d)基材とターゲットの面間隔及び配置関係
本発明の反射防止構造体の製造方法において、ターゲットと基材(B)との面間隔は、10~150mmの範囲が好ましい。また、材(B)の各穴(Hn)の空間部(Cn)に金属酸化物の柱状膜を形成する為に、基材とターゲットの配置関係は法線方向で60度以内にするのが好ましく、対向させるのがより好ましい。
【0056】
(e)スパッタリング温度、時間
実際のスパッタリングにおいて、圧力が4~6Pa程度では、スパッタリングされたガスが高温になることはなく、ほぼ室温になる。成膜速度は電力に比例するので、電力密度(W/cm)により制御することが可能である。また、成膜速度は、ターゲットと基板間距離に大まかに反比例する。スパッタリング時間は、基材(B)の表面(S)上に堆積させる金属酸化物からなる薄膜の厚みを考慮して決めることができる。
【0057】
(3)スパッタリングにより得られる反射防止構造体
本発明の反射防止構造体の製造方法で得られる、反射防止構造体は、ナノメーターサイズの穴(Hn)が設けられた基材(B)の表面(S)に金属酸化物からなる薄膜が堆積され、かつ穴(Hn)の空間部(Cn)に同じ金属酸化物からなる繊維状柱状膜が堆積された構造体で、基材(B)にこのような2種類の構造からなる金属酸化物が堆積されているのが特徴である。
スパッタリングにより、基板上への薄膜の堆積は、低温で行われることが多く、非平衡プロセスである。スパッタリングにより堆積される薄膜の構造と物性については、前記ソーントン・モデルが知られている。
【0058】
(イ)基材(B)の表面(S)に堆積される金属酸化物膜
基材(B)の表面(S)に堆積される金属酸化物膜の薄膜の厚さ(p)は、反射防止機能等を考慮すると、20~60nmが好ましく、20~40nmがより好ましい。
上記反射防止構造体の表面(S)に堆積されている金属酸化物からなる薄膜は、その厚さ(p)が数十nm程度の場合には、例えば、本明細書の実施例1で作製した反射防止構造体の走査型電子顕微鏡(SEM)の観察(図3(b))、及び従来技術等を考慮すると、配向性は比較的低く、密度が比較的高い薄膜状であると判断される。スパッタリングの際に、基板(B)の表面(S)に入射してくるスパッタ粒子は、その表面で一部は反射し、一部は付着して付着したスパッタ粒子は成長していき、薄膜を形成していくと想定される。
【0059】
(ロ)基材(B)の穴(Hn)の空間部(Cn)に堆積される柱状膜
基材(B)の穴(Hn)の空間部(Cn)に堆積される金属酸化物膜の構造は、例えば、本明細書の実施例1で作製した反射防止構造体の走査型電子顕微鏡(SEM)による観察(図3(b))、前記ソーントン・モデル等から配向性を有していて、繊維状で全体形状が柱状膜であると判断される。また、穴(Hn)の底部から上部方向の空間部(Cn)における、繊維状柱状膜は、薄膜状に配置された基材(B)の最表面(Sm)を基準として、120nmから穴(Hn)の底部の範囲に配置されていることが好ましく、120~180nmの深さの範囲に配置されていることがより好ましい。
スパッタリングの際に、基板(B)の穴(Hn)の空間部(Cn)に入射してくるスパッタ粒子は基材(B)の表面(S)に入射したスパッタ粒子と比較して、他のスパッタ粒子、穴(Hn)の壁に衝突する等の機会が増加して、スパッタ粒子のエネルギーはより減少するので、スパッタ粒子が穴(Hn)の空間部(Cn)から飛び出る確率は減少する。
【0060】
すなわち、スパッタ粒子が穴(Hn)から飛び出る確率は穴(Hn)の深さ(dn)が深いほど減少して柱状膜を形成し易くなり、その結果、穴(Hn)が深いほど、堆積される柱状膜の厚さ(tn)は増加すると想定される。また、柱状物形成速度は穴(Hn)が深いほど大きいが徐々に速度の差は少なくなっていって収れん(収斂)するので、基材(B)の最表面(Sm)を基準とした各穴(Hn)間の深さの差は減少していくと想定される。その結果、得られる反射防止構造体の光の反射特性(吸収性)、親水性、防曇性の向上に寄与すると想定される。
【0061】
実施例3の結果から、基材(B)の表面(S)に配置された薄膜の厚さ(p)を25nmとしたとき、基材(B)の最表面(Sm)から穴(Hn)の空間部(Cn)内の柱状膜の最表面までの各深さ(fn)は、後述するように下記式(iii)から求められる。
fn=0.195dn+95.5・・・・・・・・(iii)
尚、空間部(Cn)内に形成される各柱状膜の厚さ(tn)は、以下の式(iv)が求められる。
tn=(dn+p)-fn・・・・・・(iv)
上記式(iii)における傾値(0.195)が小さい値であるので、前記基材(B)の表面(S)に配置された薄膜の厚さ(p)を20~40nmの範囲にまで普遍化して、基材(B)の最表面(Sm)から穴(Hn)の空間部(Cn)内の柱状膜の最表面までの各深さ(fn)の好ましい範囲を求めることができて、この場合においても本発明の効果が期待できる。
【0062】
基材(B)の表面(S)に配置された薄膜の厚さ(p)が20~40nm、好ましくは20~30nmで、かつ基材(B)の各穴(Hn)の深さ(dn)が80~250nmであるとき、基材(B)の表面(S)に配置される金属酸化物の薄膜の最表面(Sm)から穴(Hn)の空間部(Cn)に配置された金属酸化物の柱状膜の表面までの各穴(Hn)の深さ(fn(nm))は、表面(S)を基準とした成膜前の各穴(Hn)の深さ(dn(nm))から求められる、下記式(i)で示される範囲であることが好ましい。
fn=[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×0.90~[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×1.10・・・(i)
尚、式(i)中、(p-25)は、基材(B)の表面に配置される薄膜の厚さ(p)が上記範囲であることを考慮したものであり、係数0.90と、1.10は図4におけるバラツキの範囲を考慮して、深さ(fn)の好ましい上限、下限を示すための数値であり、数字の単位は、ナノメーター(nm)である。本発明において、すべての穴(Hn)の深さ(fn)のうちの90%以上が上記式(i)の範囲に含まれていれば本発明の効果が発揮される。
【0063】
また、上記と同様に、前記基材(B)の表面(S)に配置された薄膜の厚さ(p)を好ましくは20~40nm、より好ましくは20~30nmの範囲にまで普遍化して、基材(B)の表面(S)に配置される金属酸化物の薄膜の最表面(Sm)から穴(Hn)の空間部(Cn)内の柱状膜の最表面までの各深さ(fn)のより好ましい範囲を求めることができて、この場合においても本発明の効果が期待できる。
すなわち、基材(B)の表面(S)に配置された薄膜の厚さ(p)が20~40nm、好ましくは20~30nmのときで、かつ基材(B)の各穴(Hn)の深さ(dn)が80~250nmであるとき、基材(B)の最表面(Sm)から穴(Hn)の空間部(Cn)に配置された金属酸化物の柱状膜の表面までの各穴(Hn)の深さ(fn(nm))は、表面(S)を基準とした成膜前の各穴(Hn)の深さ(dn(nm))から求められる、下記式(ii)で示される範囲であることがより好ましい。
fn=[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×0.95~[(0.195dn+95.5)+(p-25)]×1.05・・・(ii)
尚、式(ii)中、(p-25)は、基材(B)の表面に配置される薄膜の厚さ(p)が上記範囲であることを考慮したものであり、係数0.95と、1.05は図4におけるバラツキの範囲を考慮して、深さ(fn)のより好ましい上限、下限を示すための数値であり、
数字の単位は、ナノメーター(nm)である。本発明において、すべての穴(Hn)の深さ(fn)のうちの90%以上が上記式(ii)の範囲に含まれていれば本発明の効果が発揮される。
【0064】
380~780nmの可視光線域に対して、本発明の反射防止構造体は、反射率を大幅に低減することが可能になり、また、本発明の製造方法で得られる反射防止構造体は、金属酸化物からなる薄膜、繊維状柱状膜が表面(S)と穴(Hn)の空間部(Cn)にそれぞれ堆積されているので、親水性、防曇性にも優れている。
【実施例
【0065】
以下に、実施例、比較例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明の範囲は下記の実施例に限定されるものではない。本実施例、比較例において、下記(1)~(4)に示す、測定装置、成膜装置、評価装置等を使用した。
(1)試験片の形状や深さの測定
走査型プローブ顕微鏡(SPM, Scanning Probe Microscope)((株)日立ハイテクノロジーズ製、型式:AFM5400)を用いた。
(2)成膜装置
マグネトロンスパッタ装置(芝浦エレクトロニクス(株)製、型式:CFS-4ES)を用いた。
電源は、高周波数交流電源(周波数:13.56MHz)、100Wである。
(3)スパッタリングで形成した薄膜、柱状膜の組織の観察
走査型電子顕微鏡(SEM, Scanning Electron Microscope)、とエネルギー分散型X線分光法(EDX, Energy Dispersive X-ray Spectroscop)を用いた。
(4)光学特性の評価
紫外可視分光光度計((株)島津製作所製、型式:SolidSpec-3700)を用いた。
【0066】
[参考例1]
参考例1において、射出成形により基材にU字形状の穴が設けられた試験片(A)を作製した。
(1)試験片(A)の作製に使用した熱可塑性樹脂
試験片(A)作製に、ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名:ユーピロンS-3000R)を用いた。
(2)評価用の試験片(A-1~3)の作製
射出成形装置に使用する金型として、平均直径200nm、高さ350nm(尚、射出成形の際に、成形温度等の条件の調製により、成形品の深さが90~230nmになるように調整した。)、隣接するU字形状の水平断面の中心点間の平均間隔250nmの逆U字の凸形状を複数有する駒金型を用いた。
【0067】
上記金型を用いて、金型温度を110℃、120℃、130℃に設定して、射出成形法により、試験片(A-1)、(A-2)、(A-3)をそれぞれ複数個成形した。上記3つの金型温度条件を選択したのは、金型転写率を変えて穴の深さがそれぞれ異なる試験片を作成するためである。該試験片(A-1~3)のサイズは35mm×35mmで厚さ1.5mmであった。試験片(A-1~3)の片側表面には上記駒金型の表面構造の逆パターンが形成された。試験片(A-2)について、その表面上側から観察した走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図3(a)に示す。
上記試験片(A-1~3)の穴の形状は、開口部の平均径(正規分布の平均直径)が200nm、隣接する開口部との間のそれぞれの中心点の平均間隔(k)が250nm、平均開口率(面積当りの開口部の割合)が60%であった。また、図4に示す通り、試験片(A-2)の最大深さ230nm、最小深さ80nm、開口部の平均径は上記の通り200nmであった。
尚、平均穴径において、開口部が真円でない場合はその穴の長径と短径の平均値を各穴の直径とした値であり、穴の平均間隔(k)において、各穴の中心点間の距離を測定した上記平均値であり、穴が円形状でない場合には、各穴の長径と短径を示す線の交差する点を中心点とした。
【0068】
[実施例1]
(1)評価用の試験片(B-1~3)の作製
上記マグネトロンスパッタ装置を用いて、下記条件下で上記試験片(A-1)、(A-2)、(A-3)の表面と、穴の空間部に酸化ケイ素の薄膜、柱状膜が形成された試験片(B-1)、(B-2)、(B-3)をそれぞれ作製した。
(a)ターゲット材料:酸化ケイ素
(b)成膜ガス:ArガスとOガスの混合ガス(Ar/O2モル比:75/25)
(c)試験片(A-1~3)とターゲットの面間隔:80mm
(d)ガス圧力:4Pa
(e)スパッタリング時間:30分(表面に膜厚25nmの薄膜が形成される時間とした。)
(f)試験片の温度:常温
【0069】
(2)評価結果
上記スパッタリング条件と結果をまとめて表1に示す。試験片(B-2)について最大深さ130nm、最小深さ110nm、開口部の平均径200nmであった。
また、上記スパッタリングで得られた、試験片(B-2)について、表面上側から上記走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真を図3(b)に示す。上記スパッタリングで得られた、試験片(B-1)~(B-3)については、前記走査型電子顕微鏡で観察した結果等から、いずれも図3(b)に示す試験片(B-2)のように表面に堆積された酸化ケイ素膜は、配向性は殆どなく、比較的密度の高い薄膜であり、穴の空間部に堆積された酸化ケイ素膜は繊維状の柱状膜と判断された。
【0070】
[実施例2]
(1)評価用の試験片(B-4~6)の作製
上記マグネトロンスパッタ装置を用いて、上記試験片(A-1)、(A-2)、(A-3)を用い、スパッタリングのガスの混合割合はそのままにして、ガス圧力を6Paに変更した以外は実施例1と同様の条件で、試験片(A-1)、(A-2)、(A-3)の表面と、穴の空間部にそれぞれ酸化ケイ素の薄膜、柱状膜が形成された試験片(B―4)、(B-5)、(B-6)を作製した。
(2)評価結果
上記スパッタリング条件と結果をまとめて表1に示す。試験片(B―4)、(B-5)、(B-6)について、最大深さ、最小深さ、及び開口部の平均径は上記試験片(B―2)とほぼ同じであった。上記スパッタリングで得られた、試験片((B―4)、(B-5)、(B-6)については、上記走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した結果等から、いずれも上記試験片(B-2)と同様に、表面に堆積された酸化ケイ素膜は、配向性は殆どなく、比較的密度の高い薄膜であり、穴の空間部に堆積された酸化ケイ素膜は繊維状の柱状膜と判断された。
【0071】
[比較例1、2]
(1)評価用の試験片(C-1)~(C-6)の作製
上記マグネトロンスパッタ装置を用いて、スパッタリングガスの混合割合はそのままにして、ガス圧力を比較例1、2において、それぞれ0.7Pa、2Paに変更した以外は表2に示す通り、実施例1と同様の条件で、試験片(A-1)~(A-3)の表面と、穴の内部にそれぞれ酸化ケイ素の膜が堆積された、比較例1で試験片(C―1)~(C-3)、比較例2で試験片(C―4)~(C-6)をそれぞれ作製した。
【0072】
(2)評価結果
上記スパッタリング条件と結果をまとめて表2に示す。また、上記スパッタリングで得られた、試験片(C-5)について、表面上側から上記走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真を図3(c)に示す。
上記スパッタリングで得られた、試験片(C-1)~(C-6)については、上記走査型電子顕微鏡で観察した結果等から、いずれも試験片(C-5)と同様に、その表面に形成された酸化ケイ素膜は、配向性は少なく、比較的密度の高い薄膜であり、穴の空間部に形成された酸化ケイ素膜も同様に配向性は少なく、比較的密度の高い薄膜と判断された。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
[実施例3、比較例3]
実施例3において、上記実施例2で作製した試験片(B-2)、及び上記比較例2で作製した試験片(C-5)について、試験片(A-2)を基準とした、深さ94nm~222nmの範囲において、最表面(Sm)からの各穴の深さを上記走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いて測定した。参考例1で作製した試験片(A-2)について、深さを測定する穴の位置を穴の開口部の形状等から、予め特定しておいて、スパッタリング後の最表面(Sm)からの各穴の深さを測定した。結果を図4に示す。
尚、以下の記載、及び図4において、試験片(A-2)は試験片(A)、試験片(B-2)は試験片(B)、試験片(C-5)は試験片(C)と記載する。図5においても同様である。
ラインB-Cは、横軸が成膜前の試験片(A)に設けられた任意箇所の各穴の深さ(nm)で、縦軸は試験片(B)における最表面(Sm)から成膜前の穴の底面までの深さである。ラインA-Dは、横軸が成膜前の試験片(A)に設けられた任意箇所の各穴の深さ(nm)で、縦軸は試験片(C)における最表面から穴の空間部に堆積された薄膜表面までの深さである。ラインB-Eは、横軸が成膜前の試験片(A)に設けられた任意箇所の各穴の深さ(nm)で、縦軸は試験片(B)における最表面から柱状膜表面までの穴の深さである。
【0076】
図4から、試験片(A)を用いて、本発明のスパッタリング条件下で成膜した試験片(B)では、成膜前の穴の深さが深いほど柱状膜の厚さが増加した結果、最表面からの各穴の深さの差が減少された構造体が作製された。
一方、試験片(A)を用いて公知のスパッタリング条件下で成膜した試験片(C)では、成膜前の穴の深さに関係なく、穴の表面と空間部に一定の厚さの薄膜が堆積されていた。
【0077】
図4において、基材(B)の最表面(Sm)から各穴(Hn)の空間部(Cn)の柱状膜の表面までの深さ(fn)、及び空間部(Cn)内の各柱状膜の厚さ(tn)は、下記の手順から求められる。
・基材(B)の最表面(Sm)を基準とした、成膜前の穴(Hn)の仮想の深さ(dn’)は、図4におけるラインB-Cであるから、dn’=dn+膜の厚さ(p)で示される。
・基材(B)の最表面(Sm)から穴(Hn)の空間部(Cn)内の柱状膜の表面までの深さ(fn)は、図4中のラインのB-Eであるから、図4からその傾きと、dn=0での縦軸との接点から、下記式(iii)が求められる。
fn=0.195dn+95.5・・・・・・・・(iii)
・柱状膜の厚さ(tn)は、ラインB-CからラインB-Eを差し引いた値になるから、下記式(vi)が求められる。
tn=(dn+p)-fn・・・・・・・(iv)
【0078】
[実施例4、比較例4]
参考例としての試験片(A)、実施例1の試験片(B)、及び比較例2の試験片(C)について、それぞれの成膜前の穴の深さ(dn)に対応する成膜後の穴の深さ(fn)について、光の入射角度が5度のときの反射率を測定した。結果を図5、6、7、に示す。
比較例2の試験片(C)を参考例1の試験片(A)と対比すると、反射率は多少低下していることが確認されたが、実施例1の試験片(B)を参考例1の試験片(A)と対比すると、380nm~780nmの可視光域において反射率は顕著に低下していることが確認された。
【0079】
[実施例5、比較例5]
参考例としての試験片(A)、実施例1の試験片(B)、及び比較例2の試験片(C)を用いて光入射角度を5度から70度まで変化させたときの波長と反射率の関係を測定した。結果を図8、9、10、に示す。
比較例2の試験片(C)を参考例1の試験片(A)と対比すると、光入射角度に対する反射率は多少低下していることが確認されたが、実施例1の試験片(B)を参考例1の試験片(A)と対比すると、380nm~780nmの可視光域において光入射角度5~60度の範囲で反射率は顕著に低下していることが確認された。
【0080】
[実施例6、比較例6]
上記実施例2で作製した試験片(B-1~3)、及び比較例2で作製した試験片(C-4~6)ついて、液滴法により静的接触角(θ)を測定した。
静的接触角の測定には、協和界面科学(株)製、接触角計DM-501を使用した。
液滴法は、純水1μmの液滴を固体表面に接触させて着滴したとき、試料面とのなす角度(静的接触角θ)を測定した。測定結果を表3に示す。表3から、実施例2で得られた試験片(B―4)、(B-5)、(B-6)はいずれも優れた親水性を有していることが確認できた。
【0081】
【表3】
【符号の説明】
【0082】
11 基材
12 穴の空間部
13 公知の方法で堆積された薄膜
14 真空成膜法で堆積された金属酸化物からなる薄膜
15 真空成膜法で堆積された金属酸化物からなる柱状膜
16 射出成形用上金型
17 射出成形用下金型
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10