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特許7510645酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末の製造方法、及び酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末の製造方法、及び酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/117 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
C04B35/117
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020130424
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022026799
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】鴛海 太郎
(72)【発明者】
【氏名】太期 雄三
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 正
(72)【発明者】
【氏名】竹内 明史
(72)【発明者】
【氏名】長田 俊郎
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特許第6436513(JP,B2)
【文献】特開2012-148963(JP,A)
【文献】特開平05-254938(JP,A)
【文献】特開平07-053256(JP,A)
【文献】特開昭61-155261(JP,A)
【文献】特開2006-096567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス母材と、酸化活性な非酸化物と、治癒促進剤とを含む、酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末の製造方法であって、
前記セラミック母材が、酸化アルミニウム(Al )、ムライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素(Si )、およびサイアロンからなる群から選ばれる少なくともいずれかであり、
前記非酸化物が、炭化物である炭化ケイ素(SiC)、TiC、VC、NbC、B C、TaC、WC、HfC、Cr 、ZrC、金属間化合物であるTiAl、Nb-Al系合金、Si系金属間化合物であるCrSi 、FeSi、MnSi、ZrSi、VSi 、TiSi からなる群から選ばれる少なくともいずれかであり、
前記治癒促進剤は酸化マンガン及び酸化マグネシウムのうち少なくとも一種であり、
前記セラミックス母材、前記非酸化物及び前記治癒促進剤を溶媒とともに混合粉砕し、泥漿を得る第1の工程と、
前記泥漿を乾燥して原料粉末を得る第2の工程と、を有し、
前記第2の工程で得られた原料粉末を外観観察したとき、
前記セラミックス母材の粒子の円相当径が5μm未満であり、
前記治癒促進剤は、円相当径が5μmを超える治癒促進剤粒子の個数比率が0.6%以下であることを特徴とする酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末の製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程において、前記セラミックス母材、前記非酸化物及び前記治癒促進剤と前記溶媒との合計体積に対する、前記セラミックス母材、前記非酸化物及び前記治癒促進剤の合計体積の比である固形分濃度が、5%以上25%未満となるように調整されることを特徴とする請求項1に記載の酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末の製造方法。
【請求項3】
前記セラミック母材が、酸化アルミニウム(Al )、ムライト、およびサイアロンからなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項1または2に記載の酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末の製造方法。
【請求項4】
前記セラミック母材が、酸化アルミニウム(Al )である請求項3に記載の酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末の製造方法。
【請求項5】
前記非酸化物が、炭化物である炭化ケイ素(SiC)、TiC、VC、NbC、B C、TaC、WC、HfC、Cr 、ZrC、Si系金属間化合物であるCrSi 、FeSi、MnSi、ZrSi、VSi 、TiSi からなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項1または2に記載の酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末の製造方法。
【請求項6】
前記非酸化物が、炭化物である炭化ケイ素(SiC)、TiC、VC、NbC、B C、TaC、WC、HfC、Cr 、ZrCからなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項5に記載の酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末の製造方法。
【請求項7】
前記非酸化物が、炭化ケイ素(SiC)である請求項6に記載の酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末の製造方法。
【請求項8】
セラミックス母材と、酸化活性な非酸化物と、治癒促進剤と、を含む粉末であり、
前記セラミック母材が、酸化アルミニウム(Al )、ムライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素(Si )、およびサイアロンからなる群から選ばれる少なくともいずれかであり、
前記非酸化物が、炭化物である炭化ケイ素(SiC)、TiC、VC、NbC、B C、TaC、WC、HfC、Cr 、ZrC、金属間化合物であるTiAl、Nb-Al系合金、Si系金属間化合物であるCrSi 、FeSi、MnSi、ZrSi、VSi 、TiSi からなる群から選ばれる少なくともいずれかであり、
前記治癒促進剤は酸化マンガン及び酸化マグネシウムのうち少なくとも一種であり、
前記セラミックス母材の粒子の円相当径が5μm未満であり、
前記治癒促進剤は、円相当径が5μmを超える治癒促進剤粒子の個数比率が0.6%以下であることを特徴とする酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末。
【請求項9】
前記セラミック母材が、酸化アルミニウム(Al )、ムライト、およびサイアロンからなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項8に記載の酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末。
【請求項10】
前記非酸化物が、炭化物である炭化ケイ素(SiC)、TiC、VC、NbC、B C、TaC、WC、HfC、Cr 、ZrCからなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項8または9に記載の酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己治癒セラミックスに関するものであって、特に、セラミックス母材中に、酸化活性な非酸化物と、治癒促進剤を含む、酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化誘起型自己治癒セラミックスは、セラミックス母相に分散していて、高温大気中での酸化に対して高活性な非酸化物が、母材上に生じたき裂発生を引き金として、その外部に存在する大気中の酸素と高温酸化し、それにより生成した酸化物がき裂を自律的に充填及び接合して強度を完全に回復する機能、いわゆる「自己治癒機能」を有している。そのため、酸化誘起型自己治癒セラミックスは、高い性能と高度な安全性が要求される次世代の高温構造部材への適用が大いに期待されている。
【0003】
特許文献1では、酸化アルミニウムを母材に含むセラミックスに、酸化活性な非酸化物と、治癒促進剤、例えば、酸化マグネシウムもしくは酸化マンガンとを含ませることで、その自己治癒過程での強度回復に必要な速度を高速化させ、また、き裂治癒に必要な温度を低下させ、高機能化が実現する、酸化誘起型自己治癒セラミックについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許6436513号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されている、治癒促進剤に酸化マンガンを用いた酸化誘起型の自己治癒セラミックスは、その製造工程において自己治癒機能にバラつきが生じる場合があった。
【0006】
そこで本発明では、治癒促進剤を用いた酸化誘起型自己治癒セラミックスについて、優れた自己治癒機能を安定に得られる原料粉末、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、セラミックス母材と、酸化活性な非酸化物と、治癒促進剤とを含む、酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末の製造方法であって、前記セラミックス母材、前記非酸化物及び前記治癒促進剤を溶媒とともに混合粉砕し、泥漿を得る第1の工程と、前記泥漿を乾燥して原料粉末を得る第2の工程とを有し、前記治癒促進剤は酸化マンガン及び酸化マグネシウムのうち少なくとも一種であり、前記第2の工程で得られた原料粉末を外観観察したとき、前記セラミックス母材の粒子の円相当径が5μm未満であり、前記治癒促進剤は、円相当径が5μmを超える治癒促進剤粒子の個数比率が0.6%以下である酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末の製造方法である。
【0008】
この際、前記第1の工程において、前記セラミックス母材、前記非酸化物及び前記治癒促進剤と前記溶媒との合計体積に対する、前記セラミックス母材、前記非酸化物及び前記治癒促進剤の合計体積の比である固形分濃度が、5%以上25%未満となるように調整されることが望ましい。
【0009】
また、セラミックス母材と、酸化活性な非酸化物と、治癒促進剤と、を含む粉末であり、前記治癒促進剤は酸化マンガン及び酸化マグネシウムのうち少なくとも一種であり、前記セラミックス母材の粒子の円相当径が5μm未満であり、前記治癒促進剤は、円相当径が5μmを超える治癒促進剤粒子の個数比率が0.6%以下であることを特徴とする酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸化誘起型自己治癒セラミックスについて、優れた自己治癒機能を安定に得られる酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末、及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の粉末の製造方法のフローを示す図である。
図2】相当粒径を算出する方法を示す図である。
図3A】実施例における、酸化マンガン粒子の円相当径の分布について、0.1μm~1μmのときを示す図である。
図3B】実施例における、酸化マンガン粒子の円相当径の分布について、1μm~10μmのときを示す図である。
図4A】実施例1における原料粉末をSEM観察した際のSEM観察像及び元素マッピングである。
図4B】比較例1における原料粉末をSEM観察した際のSEM観察像及び元素マッピングであり、原料粉末中の酸化アルミニウム粒子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、セラミックス母材と、酸化活性な非酸化物と、治癒促進剤とを含む、酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末の製造方法であって、セラミックス母材と、非酸化物及び治癒促進剤を溶媒とともに混合粉砕し、泥漿を得る第1の工程と、泥漿を乾燥して原料粉末を得る第2の工程とを有し、治癒促進剤は酸化マンガン及び酸化マグネシウムのうち少なくとも一種であり、第2の工程で得られた原料粉末において、セラミックス母材の粒子の円相当径が5μm未満であり、治癒促進剤は、円相当径が5μmを超える治癒促進剤粒子の個数比率が0.6%以下であることを特徴の一つとする、酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末の製造方法である。
このような製造方法であれば、優れた自己治癒機能を安定に得られる酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末を製造、提供することできる。
【0013】
次に、本発明に係る構成について、詳細に説明する。
【0014】
[セラミックス母材]
セラミックス母材は、例えば、酸化アルミニウム(Al)、ムライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素(Si)、サイアロン等が挙げられるが、高温酸化雰囲気下で使用される汎用高温構造部材への適用に鑑みると、酸化物系で耐酸化性に優れた、酸化アルミニウムが好ましい。
【0015】
[酸化活性な非酸化物]
酸化活性な非酸化物は、酸化誘起型自己治癒セラミックスに発生したき裂を引き金として、外部に存在する酸素と接触することにより、その酸素と酸化反応を生じて酸化物を形成する能力を有する、非酸化物のことをいう。具体的には、炭化物である炭化ケイ素(SiC)、TiC、VC、NbC、BC、TaC、WC、HfC、Cr、ZrCや、金属間化合物であるTiAl、Nb-Al系合金(例えば、NbAl、NbAl)またはSi系金属間化合物であるCrSi、FeSi、MnSi、ZrSi、VSi、TiSi、及びMAX(組成式がMn+1AXで表される材料、M:遷移金属原子、A:Alなどの単純金属原子、X:CやN)相等の物質が好ましいが、特に、高温酸化雰囲気下で使用される汎用高温構造部材への適用に鑑みると、炭化ケイ素が好ましい。なお、該非酸化物は、上述のセラミックス母材とは異なる非酸化物を選択することができる。
【0016】
[治癒促進剤]
治癒促進剤は、酸化誘起型自己治癒セラミックス組成物のき裂発生を引き金としてその母材中に分散している治癒エージェントが外部に存在する酸素との接触によって生じる酸化反応を律速する物質の拡散速度を高速化する物質のことをいう。例えば、酸化活性な非酸化物を炭化ケイ素としたとき、治癒促進剤を添加することによって酸化ケイ素の粘度が低下するため、炭化ケイ素中の酸素分子やイオン又は炭酸ガスの拡散速度が著しく速くなり、炭化ケイ素の酸化反応を促進することができる。
治癒促進剤の具体例としては、例えば、酸化マグネシウムや酸化マンガン(MnO、Mn、MnO、Mn)が挙げられ、酸化アルミニウムと炭化ケイ素との複合物に添加する場合には、酸化マンガンがより好ましい。これは、発生したき裂を完全に充填してき裂面間を接合するのに寄与する治癒エージェントからの酸化物や母材との複合酸化物の粘度を、その添加によってより効果的に低下させられるからである。
【0017】
[組成比]
セラミックス母材と酸化活性な非酸化物との組成比としては、本発明の目的を達成できる限り特に制限はなく、例えば、セラミックス母材中に酸化活性な非酸化物が、30vol%含まれている、Al-30.0vol%SiC複合材を用いることができる。
【0018】
治癒促進剤の添加量としては、本発明の目的を達成できる限り特に制限はなく、微量でも最大限の治癒速度向上を達成することができる。具体的には、セラミックス母材中に、0を超えて、10.0vol%以下が好ましい。下限は、より好ましくは、0.01超、さらに好ましくは0.2vol%、上限は、より好ましくは、9.0vol%以下、さらに好ましくは3.0vol%以下、よりさらに好ましくは、1.0vol%以下とすることができる。
【0019】
粒径としては、酸化アルミニウムが0.1~0.5μm、炭化ケイ素が0.3μm~0.5μm、酸化マンガンが5~10μm程度のものを用いることができる。
【0020】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、本発明に係る酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末の製造方法の実施形態を説明し、次に、その原料粉末の実施形態を説明する。但し、本発明が以下の実施形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0021】
<自己治癒セラミックス製造用の原料粉末の製造方法>
まず、酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末の製造方法の一実施形態について説明する。図1は、酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末の製造工程を示すフロー図である。
【0022】
(第1の工程)
本発明でいう第1の工程は、セラミックス母材と、酸化活性な非酸化物及び治癒促進剤を溶媒とともに混合粉砕し、泥漿を得る工程である。
【0023】
[泥漿]
泥漿とは、スラリーやスライムとも呼ばれる懸濁体を意味し、本実施形態では、セラミックス母材と、酸化活性な非酸化物と、治癒促進剤と、溶媒とが混合されたものである。
【0024】
[溶媒]
粉末を混合する際に用いる溶媒としては、例えば、有機溶媒のイソプロパノールを用いることができる。
【0025】
[混合方法]
混合方法としては、例えば、硬質な球石(メディア)が入った容器に、セラミックス母材と、酸化活性な非酸化物と、治癒促進剤と、溶媒としてイソプロパノールを入れて混合する、ボールミリング法などを用いることができる。ボールミリング法を用いる際には、一定の回転速度で、一定の時間回転させる(混合時間)ことができ、例えば、回転速度は、臨界回転数Nc(Nc=42.3/√D D:容器の直径)の55%~85%の範囲に設定し、混合時間としては、例えば、特許文献特許6436513号に記載されているように、6~24時間程度行うことができる。
【0026】
ここで、原料となる各粉末と溶媒の合計体積が、容器の容積に対して、体積百分率で30%以上、80%以下であることが好ましい。
【0027】
[固形分濃度]
固形分濃度は、混合する各粉末と溶媒との合計体積に対する、各粉末の合計体積を体積百分率(%)で示したものである。ここで、発明者らは、酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末としては、その粒子の粒径や粒径ばらつきが、自己治癒機能に対して大きく影響を与えることを見出した。例えば、母材セラミックス及び治癒促進剤の粒子径が大きくなり、粒子径ばらつきが大きくなると、自己治癒機能が低下することを見出した。このため、母材セラミックス及び治癒促進剤の粒子径をより細かくし、粒径のばらつきを小さくする(粗大な粒子の存在を減らす)ことが、自己治癒機能の向上に寄与することを見出した。
【0028】
発明者らは、さらに鋭意研究の結果、各材料の混合時の固形分濃度が、混合後の各粒子の形態に大きく影響を与えることを知見した。例えば、混合時の調製において、有機溶媒中における原料濃度、すなわち固形分濃度は、高すぎない方が良い。製造効率を高めるために、固形分濃度を高めると、混合時間を長くしても、各粒子が細かくなりにくく、粒径ばらつきも大きくなる。このように、製造効率が多少低下しても、固形分濃度を所定以下に低く抑えることで、適切な混合及び破砕が行われて、泥漿の相当粒径を安定して小さくすることができ、自己治癒性能の向上が期待できる。なお、自己治癒性能を発揮できれば、固形分濃度の下限を限定しないが、固形分濃度が低すぎると、粉末同士の接触頻度が減り、粒径が細かくなりにくくなるため望ましくない。
【0029】
より具体的には、安定した自己治癒機能を発揮させるために、適切な粒径及び粒径ばらつきの粉末を得るためには、例えば、固形分濃度を、5%以上25%未満の範囲で調整することが望ましい。このように調整することで、原料となる粉末が破砕されやすくなったり、溶媒中に各粉末が分散して、凝集体の発生を抑制できたりする。なお、より適切な粒径及び粒径ばらつきの粉末を得るためには、固形分濃度は、10%以上20%以下であるとさらに好ましく、10%以上13%以下であることがよりいっそう好ましい。
【0030】
(第2の工程)
本発明でいう第2の工程は、第1の工程で混合された泥漿を乾燥する工程である。
乾燥の条件はこれを限定するものではないが、例えば、第1の工程で混合された泥漿を、室温より高い温度で一定時間だけ撹拌させた後、さらに高温にして静置乾燥させ、静置乾燥させたることが好ましい。室温より高い温度とは、イソプロパノールを揮発させやすい温度以上であればよい。具体的には、25℃(室温)~90℃程度とすることができる。乾燥後は適宜解砕等を行うことができる。
【0031】
<酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末>
まず、本発明に係る酸化誘起型自己治癒セラミックス製造用の原料粉末の一実施形態を説明する。
本発明に係る実施形態の原料粉末は、その原料粉末を走査電子顕微鏡(SEM)及びエネルギー分散型X線分析(EDX)を用いて観察した視野を対象領域としたとき、セラミックス母材の粒子(粒子が凝集した凝集体も含む)の円相当径が、5μm未満である。また、その対象領域の総和面積に対して、円相当径が5μm以上のセラミックス母材の粒子の面積率は、好ましくは3.5%以下であり、より好ましくは2.0%以下であり、さらに好ましくは1.0%以下とすることができる。
セラミックス母材の粒子は、例えば、セラミックス母材が酸化アルミニウムの場合には、SEMとEDXとを用いて、原料粉末中に、AlとOとを含み、かつAlとOとに比べて相対的にSiが少ない領域によって把握することができる。観察した視野において、それぞれのセラミックス母材粒子の領域の面積からセラミックス母材粒子の円相当径をそれぞれ算出し、円相当径が5μm以上の粒子を特定することができる。また、円相当径が5μm以上の粒子の総面積を算出し、観察した領域の総和面積中に占める比から、円相当径が5μm以上のセラミックス母材の粒子の面積率を算出することができる。なお、観察する領域の総面積は500μm程度となるように倍率を調整する。
【0032】
原料粉末中の治癒促進剤は、原料粉末をSEM観察したとき、治癒促進剤の粒子のうち、円相当径が5μmを超える治癒促進剤の粒子の個数比率が、0.6%以下であり、0.3%以下であると好ましく、0.2%以下であるとさらに好ましい。
【0033】
このような特徴を有する原料粉末を用いて製造した酸化誘起型自己治癒セラミックスであれば、破壊起点になりやすい粗粒部が少ないため、例えば、曲げ応力を加えた際に、好適な強度(例えば、600MPa以上)を有し、かつ好適な自己治癒性能を発揮することができる。
【0034】
[円相当径]
本発明でいう「円相当径」は、観察した粒子の面積と同面積の真円の直径を意味する。
測定方法としては、導電性テープ上に原料粉末をまんべんなく散布し、導電性テープに接着していない余分な粉末を除去して観察試料を準備し、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、任意の領域内で粉末を観察し、観察できた粒子の面積を測定し、その面積と同面積の真円の直径を算出する方法がある。
【0035】
[個数比率]
本発明でいう「個数比率」は、円相当径を測定した粒子の総数のうち、定めた円相当径の範囲に該当する粒子の割合を示すものである。
【0036】
[治癒促進剤の円相当径の測定方法]
例えば、走査電子顕微鏡を用いて、原料粉末表面の反射電子像を取得し、その反面電子像の反射電子強度から治癒促進剤粒子を同定する。なお、一例として、セラミックス母材を酸化アルミニウム、酸化活性な非酸化物を炭化ケイ素、治癒促進剤を酸化マンガン、として説明する。
図2は、酸化マンガンの円相当径の算出方法を示す図である。図2の左図に示すように、反射電子像において、酸化マンガンの粒子は、酸化アルミニウムの粒子や炭化ケイ素の粒子よりも明るく観察できるので、原料粉末中であっても、酸化マンガンの粒子であると判別できる。
反射電子像を複数枚、例えば、100枚程度撮影する。例えば、画素分解能を約0.018μm、5000倍と決定することができる。
次に、図2の中央図に示すように、反射電子像を画像処理ソフトによって二値化処理する。
ここで、画像処理ソフトとしては、画像解析フリーソフト「ImageJ」などを用いることができるが、特に制限されない。次に、図2の右図に示すように、二値化処理後の反射電子像中に黒く表示された酸化マンガン粒子等の投影面積と同面積の真円の直径を、酸化マンガン粒子の円相当径として測定できる。
【実施例
【0037】
本実施例では、酸化アルミニウムとして平均粒径0.1~0.5μmのγ-Al粉末(住友化学社製、密度3.95Mg/m)と、炭化ケイ素として0.5μmのβ-SiC粉末(H.C.Strack社製、密度3.21Mg/m)、酸化マンガンとして5~10μmのMnO粉末(高純度化学社製、密度5.37Mg/m)を使用した。
溶媒には、イソプロパノール(富士フィルム和光純薬社製)を使用した。原料となる各粉末は、酸化アルミニウムと炭化ケイ素と酸化マンガンとの混合比が、それぞれ、69.8/30.0/0.2vol%とになるよう秤量した。
【0038】
混合条件としては、各粉末と、溶媒と、酸化アルミニウム製のメディア(ボール)とを、酸化アルミニウム製の容器に入れ、ボールミリング法にて、回転速度:79rpm、時間:24h混合した。このとき、容器中の体積比(割合)は、原料粉末と溶媒:33.7vol%、メディア:27.8vol%、空間:38.5vol%となるようにした。
次に、ボールミリングで得た泥漿を、90℃で、30分撹拌しながら乾燥させた後、加熱温度を200℃に昇温し、さらに2時間静置乾燥させて、原料粉末を得た。静置乾燥後の泥漿は、目開き500μmの篩を通して解砕した。
【0039】
溶媒の体積と原料となる粉末の合計体積に対する原料となる粉末の比(固形分濃度)が、それぞれ10%(実施例1)、15%(実施例2)、20%(実施例3)、及び25%(比較例1)になるように秤量し、上記の混合条件及び乾燥条件にて、混合・乾燥して原料粉末を得た。
【0040】
(個数比率の評価)
実施例1~実施例3及び比較例1の原料粉末について、走査電子顕微鏡を用いて、それぞれ反射電子像を100枚撮影し、原料粉末中の酸化マンガン粒子の円相当径を測定し、個数比率を算出した。
表1及び図3A図3Bに、実施例1~実施例3及び比較例1における酸化マンガン粒子(MnO粒子)の個数比率を示す。
円相当径を測定したMnO粒子の総数は、実施例1~実施例3及び比較例1ともに100個以上であった。そのうち、円相当径が5μmを超えるMnO粒子を観察できたのは、比較例1のみであり、その数は1個であった。
【表1】
【0041】
図4A図4Bに、SEMとEDXとを用いて、実施例1と比較例1の原料粉末を観察したときの様子を示す。図4Aに実施例1の場合、図4Bに比較例1の場合を示す。なお、SEM及びEDXの観察条件としては、加速電圧15kVとした。
比較例1は、図4Bに示すように、原料粉末中に、AlとOとを含み、かつAlとOとに比べて比較的Siが少ない領域を確認した。そこで、その領域を粗大な酸化アルミニウム粒子の領域として、観察した領域の総和面積中に占める比を算出した。
酸化アルミニウム粒子の領域について、円相当径を算出したところ、5μmであったため、観察した領域の総面積は500μmであったことから、観察した領域の総面積のうち、5μm以上の粗大な酸化アルミニウム粒子の領域が占める面積は、3.9%であった。
一方、例えば、図4Aに示すように、実施例1では、比較例1で観察されたような酸化アルミニウム粒子の領域は見当たらなかった。
【0042】
(酸化誘起型自己治癒セラミックス試験片の作製)
次に、実施例1~実施例3、及び比較例1の原料粉末を焼結し、酸化誘起型自己治癒セラミックス試験片を作成した。焼結条件は、負荷圧力:40MPa、保持温度:1550℃、保持時間:1時間、昇温速度:10℃/min、降温速度:5℃/min、雰囲気:アルゴンとして、ホットプレスし、直径50mm、厚み4mm~5mmの酸化誘起型自己治癒セラミックス試験片を作製した。
【0043】
得られた実施例1~実施例3、及び比較例1の酸化誘起型自己治癒セラミックス試験片のそれぞれを、3×4×44mm及び3×4×22mmに切断し、それを曲げ試験用試験片とした。試験片の表面は、JIS R 1601に従って鏡面研磨仕上げを施し、これら試験片を平滑材(基材)とした。この平滑材に、ビッカース硬度計を用いて表面長さ約100μmの半楕円き裂を導入し、これを予き裂材とした。き裂導入条件は、荷重:2kgf、保持時間:10秒とした。加えて、予き裂材に、加熱温度:1000℃、保持時間:10min、昇温速度:5℃/min、雰囲気:大気、という条件で自己治癒熱処理を施した自己治癒熱処理材も作製した。
【0044】
(曲げ強度評価)
JIS R 1601に従った3点曲げ試験を用いて、作製した実施例1~実施例3、及び比較例1のそれぞれの平滑材、予き裂材、自己治癒熱処理材の試験片の曲げ強度を評価した。強度評価は4回行った。表2は、実施例1~実施例3、及び比較例1から作製した、基材、予き裂材、自己治癒熱処理材のそれぞれについて曲げ強度の4回の平均値を示している。ここで、表2中の「回復率(倍)」は、予き裂材の曲げ強度に対する、自己治癒熱処理材の曲げ強度の比を意味する。
【0045】
【表2】
【0046】
基材の強度は、実施例1では、890MPa~980MPa程度であり、実施例2では、630MPa~950MPa程度であり、実施例3では、412MPa~929MPa程度であった。一方、比較例1の混合粉末を用いて作製した基材の強度は、300MPa~461MPa程度にとどまる結果となった。
したがって、表2に示すように、実施例1~実施例3の場合、好適な強度(600MPa以上)を有する酸化誘起型自己治癒セラミックスを安定的に製造できることが分かった。
【0047】
表2に示すように、実施例1~実施例3はともに、予き裂材の曲げ強度に対して、自己治癒熱処理材の曲げ強度の方が高いことから、自己治癒によって強度回復できる結果を得た。また、その回復率(倍)は、実施例1~実施例3のいずれも2.5倍以上となった。
一方、比較例1については、予き裂材の曲げ強度に対して、自己治癒熱処理材の曲げ強度の方が高いことから、自己治癒によって強度回復できる結果を得たが、その回復率は1.9倍にとどまった。
なお、治癒促進剤として酸化マンガンに代えて酸化マグネシウムとして同様の試験をおこなっても、上記と同様の傾向がみられ、同様の効果が期待できる。
【符号の説明】
【0048】
11:セラミックス母材
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B