(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】回転工具
(51)【国際特許分類】
B23B 51/00 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
B23B51/00 S
(21)【出願番号】P 2021027637
(22)【出願日】2021-02-24
【審査請求日】2023-06-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 優作
(72)【発明者】
【氏名】山口 哲司
(72)【発明者】
【氏名】向田 慎二
(72)【発明者】
【氏名】角谷 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】石原 朋法
(72)【発明者】
【氏名】糸魚川 文広
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-171493(JP,A)
【文献】実開昭60-175513(JP,U)
【文献】特開2002-036018(JP,A)
【文献】特開2016-002617(JP,A)
【文献】国際公開第2020/054702(WO,A1)
【文献】特開2007-050477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00、02
B23C 5/10
B23D 77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線(L1)を中心として回転して被削材を切削する回転工具であって、
前記回転工具の先端部(3)に形成され、切れ刃を形成するための切れ刃形成面(11、14)と、
前記先端部に形成され、前記切れ刃形成面との間の部位に前記切れ刃を形成するとともに、前記被削材に対して逃がしを形成する逃げ面(12)と、
前記先端部のうち前記切れ刃形成面と前記逃げ面との間の部位に形成され、前記先端部の外側から前記先端部の中心側に向かって延びる前記切れ刃(4)と、を備え、
前記切れ刃は、
面取り部で構成され、且つ、前記面取り部の少なくとも一部が平坦面であって、
前記面取り部のうち前記先端部の中心側の端の位置(P1)から前記中心側の端の位置よりも前記先端部の外側の所定の位置(P2)までの中心側範囲の全域において、前記軸線に平行な軸線方向(D1)での前記面取り部の長さである面取り幅(W1)は一定であり、前記所定の位置を縮小開始位置として、前記縮小開始位置から
前記先端部の外側の端部に至るまで、前記先端部の外側に向かうにつれて前記面取り幅は徐々に縮小されて
おり、
前記切れ刃形成面は、前記先端部の中心よりも外側に位置し、前記被削材から切り出されて除去される部分をすくう面であるすくい面(11)と、前記先端部のうち前記すくい面よりも前記先端部の中心側に位置する部分を薄くするために形成されたシンニング部(14)と、を含み、
前記切れ刃は、前記すくい面と前記逃げ面との間の部位に形成された主切れ刃(13)と、前記シンニング部と前記逃げ面との間の部位に形成され、前記主切れ刃に対して前記先端部の中心側に連なるシンニング切れ刃(15)とを含み、
前記縮小開始位置は、前記主切れ刃のうち前記先端部の中心側の端と前記主切れ刃のうち前記先端部の外側の端との間の前記主切れ刃の途中位置である、回転工具。
【請求項2】
軸線(L1)を中心として回転して被削材を切削する回転工具であって、
前記回転工具の先端部(3)に形成され、切れ刃を形成するための切れ刃形成面(11、14)と、
前記先端部に形成され、前記切れ刃形成面との間の部位に前記切れ刃を形成するとともに、前記被削材に対して逃がしを形成する逃げ面(12)と、
前記先端部のうち前記切れ刃形成面と前記逃げ面との間の部位に形成され、前記先端部の外側から前記先端部の中心側に向かって延びる前記切れ刃(4)と、を備え、
前記切れ刃は、
面取り部で構成され、且つ、前記面取り部の少なくとも一部が平坦面であって、
前記面取り部のうち前記先端部の中心側の端の位置(P1)から前記中心側の端の位置よりも前記先端部の外側の所定の位置(P2)までの中心側範囲の全域において、前記軸線に平行な軸線方向(D1)での前記面取り部の長さである面取り幅(W1)は一定であり、前記所定の位置を縮小開始位置として、前記縮小開始位置から
前記先端部の外側の端部に至るまで、前記先端部の外側に向かうにつれて前記面取り幅は徐々に縮小されており、
前記切れ刃形成面は、前記先端部の中心よりも外側に位置し、前記被削材から切り出されて除去される部分をすくう面であるすくい面(11)と、前記先端部のうち前記すくい面よりも前記先端部の中心側に位置する部分を薄くするために形成されたシンニング部(14)と、を含み、
前記切れ刃は、前記すくい面と前記逃げ面との間の部位に形成された主切れ刃(13)と、前記シンニング部と前記逃げ面との間の部位に形成され、前記主切れ刃に対して前記先端部の中心側に連なるシンニング切れ刃(15)とを含み、
前記縮小開始位置は、前記シンニング切れ刃と前記主切れ刃との境の位置である、回転工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具と被削材との少なくとも一方が回転して被削材を切削する回転工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、回転工具としてのドリルが開示されている。このドリルでは、先端部の切れ刃の欠損防止を目的として、ドリルの先端部の切れ刃に対して面取りが施されている。これにより、切れ刃が面取り部で構成されている。
【0003】
このドリルでは、面取り部のドリルの軸線方向の長さである面取り幅は、ドリルの先端部の中心から外側に向かう所定の範囲の全域において一定である。所定の範囲よりも外側の範囲の全域において、面取り幅は、その所定の範囲の面取り幅よりも小さい値で一定である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、切れ刃が面取り部で構成されたドリルでは、切れ刃が面取り部で構成されていないドリルと比較して、切れ味が低下する。切れ味が低下すると、切削抵抗が増大し、加工精度が低下する等の様々な問題が発生する。このため、切れ刃が面取り部で構成されたドリルにおいて、切れ味を向上させることが望ましい。なお、このことは、ドリルに限らず、切れ刃が面取り部で構成された、ドリル以外の回転工具においても言えることである。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、切れ刃が面取り部で構成された回転工具であって、切れ味を向上させることができる回転工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明によれば、
軸線(L1)を中心として回転して被削材を切削する回転工具であって、
前記回転工具の先端部(3)に形成され、切れ刃を形成するための切れ刃形成面(11、14)と、
前記先端部に形成され、前記切れ刃形成面との間の部位に前記切れ刃を形成するとともに、前記被削材に対して逃がしを形成する逃げ面(12)と、
前記先端部のうち前記切れ刃形成面と前記逃げ面との間の部位に形成され、前記先端部の外側から前記先端部の中心側に向かって延びる前記切れ刃(4)と、を備え、
前記切れ刃は、面取り部で構成され、且つ、前記面取り部の少なくとも一部が平坦面であって、
前記面取り部のうち前記先端部の中心側の端の位置(P1)から前記中心側の端の位置よりも前記先端部の外側の所定の位置(P2)までの中心側範囲の全域において、前記軸線に平行な軸線方向(D1)での前記面取り部の長さである面取り幅(W1)は一定であり、前記所定の位置を縮小開始位置として、前記縮小開始位置から前記先端部の外側の端部に至るまで、前記先端部の外側に向かうにつれて前記面取り幅は徐々に縮小されており、
前記切れ刃形成面は、前記先端部の中心よりも外側に位置し、前記被削材から切り出されて除去される部分をすくう面であるすくい面(11)と、前記先端部のうち前記すくい面よりも前記先端部の中心側に位置する部分を薄くするために形成されたシンニング部(14)と、を含み、
前記切れ刃は、前記すくい面と前記逃げ面との間の部位に形成された主切れ刃(13)と、前記シンニング部と前記逃げ面との間の部位に形成され、前記主切れ刃に対して前記先端部の中心側に連なるシンニング切れ刃(15)とを含み、
前記縮小開始位置は、前記主切れ刃のうち前記先端部の中心側の端と前記主切れ刃のうち前記先端部の外側の端との間の前記主切れ刃の途中位置である。
また、上記目的を達成するため、請求項2に記載の発明によれば、
軸線(L1)を中心として回転して被削材を切削する回転工具であって、
前記回転工具の先端部(3)に形成され、切れ刃を形成するための切れ刃形成面(11、14)と、
前記先端部に形成され、前記切れ刃形成面との間の部位に前記切れ刃を形成するとともに、前記被削材に対して逃がしを形成する逃げ面(12)と、
前記先端部のうち前記切れ刃形成面と前記逃げ面との間の部位に形成され、前記先端部の外側から前記先端部の中心側に向かって延びる前記切れ刃(4)と、を備え、
前記切れ刃は、面取り部で構成され、且つ、前記面取り部の少なくとも一部が平坦面であって、
前記面取り部のうち前記先端部の中心側の端の位置(P1)から前記中心側の端の位置よりも前記先端部の外側の所定の位置(P2)までの中心側範囲の全域において、前記軸線に平行な軸線方向(D1)での前記面取り部の長さである面取り幅(W1)は一定であり、前記所定の位置を縮小開始位置として、前記縮小開始位置から前記先端部の外側の端部に至るまで、前記先端部の外側に向かうにつれて前記面取り幅は徐々に縮小されており、
前記切れ刃形成面は、前記先端部の中心よりも外側に位置し、前記被削材から切り出されて除去される部分をすくう面であるすくい面(11)と、前記先端部のうち前記すくい面よりも前記先端部の中心側に位置する部分を薄くするために形成されたシンニング部(14)と、を含み、
前記切れ刃は、前記すくい面と前記逃げ面との間の部位に形成された主切れ刃(13)と、前記シンニング部と前記逃げ面との間の部位に形成され、前記主切れ刃に対して前記先端部の中心側に連なるシンニング切れ刃(15)とを含み、
前記縮小開始位置は、前記シンニング切れ刃と前記主切れ刃との境の位置である。
【0008】
面取り部をこのような形状とすることで、切れ味が向上することを、本発明者は見出した。面取り部をこのような形状とすることで、被削材の切削加工時に、被削材から削り出される被削材の一部を面取り部に滞留する滞留物として面取り部に付着させ続けることができる。これにより、面取り部に付着する滞留物が刃先となることで、切れ刃が面取り部で構成されたドリルの切れ味を向上させることができる。
【0009】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態におけるドリルを先端側から見たときのドリルの先端面図である。
【
図3】
図2とは異なる方向から見たとき
図1のドリルの斜視図である。
【
図5】実施例1のドリルと比較例1のドリルとのそれぞれの切れ味の比較結果を示すグラフである。
【
図6】第2実施形態におけるドリルを先端側から見たときのドリルの先端面図である。
【
図8】第3実施形態におけるドリルを先端側から見たときのドリルの先端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0012】
(第1実施形態)
図1~
図3に示す本実施形態のドリル1は、穴あけ加工に用いられる切削工具であって、ドリル1と被削材との少なくとも一方が回転して被削材を切削する回転工具である。ドリル1が回転する場合、軸線L1を中心として回転する。軸線L1は、ドリル1の中心線である。ドリル1は、
図2、3に示すドリル本体部2と、図示しないシャンク部とを備える。
【0013】
ドリル本体部2は、ドリル1のうち軸線方向D1の先端側に位置する部分である。軸線方向D1は、軸線L1に平行な方向である。ドリル本体部2は、ドリル本体部2の先端部3に、被削材を切削する切れ刃4を有する。切れ刃4は、先端部3の外側から先端部3の中心側に向かって延びている。先端部3の中心C1の位置と、先端部3のうち軸線L1が通る位置とは、一致している。ドリル本体部2は、切れ刃4によって被削材が切削されて生じる切り屑を排出するための溝5を有する。溝5は、軸線L1の周りにねじれながら、先端部3から軸線方向D1の後端側に向かって延びている。シャンク部は、ドリル1のうちドリル本体部2よりもドリル1の後端側に位置する柄の部分である。シャンク部は、工作機械の回転軸に保持される。
【0014】
ドリル1は、高速度工具鋼、超硬合金、サーメット等の素材と、素材を覆うコーティング層とを含んで構成される。ドリル1は、コーティング層を有していなくてもよい。また、ドリル1の全体が上記した素材で構成される場合に限らず、ドリル1のうち先端部3のみが上記した素材で構成されていてもよい。
【0015】
図1、2に示すように、ドリル本体部2は、すくい面11、逃げ面12、主切れ刃13、シンニング部14およびシンニング切れ刃15のそれぞれ1つずつを一組として、それらを二組有する。以下では、それらの一組について説明する。すくい面11、逃げ面12、主切れ刃13、シンニング部14およびシンニング切れ刃15は、先端部3に形成されている。主切れ刃13およびシンニング切れ刃15は、切れ刃4を構成する。
図1、
図2では、見やすさの観点により、切れ刃4に模様が付されている。このことは、
図6~
図9においても同様である。
【0016】
すくい面11は、先端部3の中心C1よりも外側に位置する。すくい面11は、主切れ刃13に続く面である。すくい面11は、被削材から切り出されて除去される部分をすくう面である。すくい面11は、先端部3において、溝5を構成する内壁面のうちドリル回転方向D2の前方側を向く面である。すくい面11は、逃げ面12との間の部位に主切れ刃13を形成する。したがって、すくい面11は、切れ刃4を形成するための切れ刃形成面である。
【0017】
逃げ面12は、先端部3が切り込んでいくときに、被削材との不必要な摩擦を避けるために、被削材に対して逃がしを形成する面である。逃がしは、隙間のことである。逃げ面12は、すくい面11に対してドリル回転方向D2の後方側に位置する。
【0018】
逃げ面12は、第1逃げ面121と、第2逃げ面122とを含む。第1逃げ面121は、すくい面11との間の部位に主切れ刃13を形成する。第2逃げ面122は、第1逃げ面121に対してドリル回転方向D2の後方側に連なる。第2逃げ面122は、第1逃げ面121に対して平行ではなく交差している。逃げ面12には、穴あけ加工の際に先端部3から切削油を噴出させるための油穴123が形成されている。なお、油穴123が無くても切削油の供給が可能である等の理由により、油穴123は形成されていなくてもよい。
【0019】
主切れ刃13は、先端部3において、すくい面11と逃げ面12との間の部位に形成されている。換言すると、主切れ刃13は、すくい面11の端部の位置であって、逃げ面12の端部の位置に形成されている。主切れ刃13は、先端部3の外側から先端部3の中心側に向かって延びている。
【0020】
シンニング部14は、先端部3において、逃げ面12に対してドリル回転方向D2の後方側に連なるとともに、溝5を構成する内壁面に対してドリル回転方向D2の前方側に連なる面である。シンニング部14は、先端部3のうちすくい面11よりも先端部3の中心側の部分を薄くするために形成されている。シンニング部14は、先端部3の中心側において、第1逃げ面121との間の部位にシンニング切れ刃15を形成する。したがって、シンニング部14は、切れ刃4を形成するための切れ刃形成面である。
【0021】
より具体的には、シンニング部14は、第1シンニング面141と、第2シンニング面142とを含む。第1シンニング面141は、先端部3の中心側において、第1逃げ面121との間にシンニング切れ刃15を形成する。第2シンニング面142は、その第1逃げ面121を含む逃げ面12とは別の組の逃げ面12の第2逃げ面122に連なる。第1シンニング面141は、
図2に示すように、第2シンニング面142に対して鈍角をなして連なる。第1シンニング面141と第2シンニング面142との交線143は、先端部3の外側から先端部3の中心C1に向かうにつれて、軸線方向D1でのドリル1の先端側に位置するように延びている。
【0022】
シンニング部14は、いわゆるX型である。しかしながら、シンニング部14は、X型以外の型であってもよい。
【0023】
シンニング切れ刃15は、先端部3の中心側において、シンニング部14と逃げ面12との間に形成されている。シンニング切れ刃15は、主切れ刃13に対して先端部3の中心側に連なる。主切れ刃13およびシンニング切れ刃15を含む切れ刃4は、先端部3の外周端から先端部3の中心C1まで延びている。
【0024】
シンニング切れ刃15と主切れ刃13とのそれぞれに対して、面取りが施されている。すなわち、シンニング切れ刃15と主切れ刃13とのそれぞれは、面取り部で構成されている。面取り部は、少なくとも一部が平坦面である。本実施形態では、面取り部の全域が平坦面である。しかしながら、面取り部のうち端部を除く部分が平坦面であり、面取り部のうち端部が曲面であってもよい。
【0025】
図4は、
図3のIV-IV線断面図である。
図4に示すように、軸線方向D1に対して、切れ刃4を構成する面取り部の平坦面がなす角度が面取り角度θ1である。面取り角度θ1は、面取り部の先端部3の中心側の端から面取り部の先端部3の外側の端までの全域において一定の大きさである。面取り角度θ1は、10度以上50度以下のうちいずれかの角度とされる。なお、本実施形態では、面取り角度θ1は、面取り部の全範囲で一定であるが、面取り部の全範囲で一定でなくてもよい。
【0026】
図4に示すように、軸線方向D1での面取り部の長さが面取り幅W1である。
図1~
図3に示すように、面取り部のうち先端部3の中心側に位置する中心側範囲の全域において、面取り幅は一定である。中心側範囲は、面取り部のうち先端部3の中心側の端の位置P1からその中心側の端の位置P1よりも先端部3の外側の所定の位置P2までの範囲である。そして、その所定の位置P2を縮小開始位置として、その縮小開始位置から先端部3の外側に向かうにつれて、面取り幅W1は徐々に縮小している。
【0027】
本実施形態では、面取り部の先端部3の中心側の端の位置P1は、シンニング切れ刃15の先端部3の中心側の端の位置であり、先端部3の中心C1の位置である。面取り部の所定の位置P2は、主切れ刃13の途中位置である。主切れ刃13の途中位置とは、主切れ刃13のうち先端部3の中心側の端と主切れ刃13のうち先端部3の外側の端との間の位置のことである。主切れ刃13の途中位置から主切れ刃13のうち先端部3の外側の端の位置P3に至るまで、面取り幅W1は徐々に縮小している。また、面取り幅W1の減少割合は、一定である。なお、面取り幅W1の減少割合は、一定でなくてもよい。面取り幅W1は、二次関数的に減少していてもよい。
【0028】
面取り幅W1の大きさは、切込みに基づいて設定される。切込みとは、ドリル1の一回転当たりに被削材が加工される切れ刃の進み方向での加工長さである。切込みは、ドリル1の送り量に基づいて算出される。送り量は、ドリル1の一回転当たりに、ドリル1が軸線方向D1に進む距離である。
【0029】
具体的には、面取り部のうち中心側範囲での面取り幅W1は、切込みに対して第1定数を掛けた大きさである。第1定数は、1.0~3.0のいずれか1つの値である。面取り部のうち先端部3の外側の端の位置P3での面取り幅は、切込みに対して第2定数を掛けた大きさである。第2定数は、第1定数よりも小さい数であって、0.3~1.0のいずれか1つの値である。
【0030】
本実施形態のドリル1は、被削材の穴あけ加工に用いられる。穴あけ加工時では、ドリル1が軸線L1を中心として回転しながら軸線方向D1の先端側に向かって送られる。ここれにより、シンニング切れ刃15と主切れ刃13とによって、被削材が切削される。シンニング切れ刃15と主切れ刃13とによって生成される切り屑は、溝5を通って軸線方向D1の後端側へ排出される。穴あけ加工時のドリル1の回転速度は、被削材の材質に応じて設定される。
【0031】
次に、面取り幅W1が上記のように設定されている理由について説明する。
【0032】
穴あけ加工時において、ドリル1によって被削材から削り出された被削材の一部が滞留物として面取り部に付着すると、この滞留物が刃先として機能する。この刃先として機能する滞留物は、構成刃先と呼ばれる。また、ドリル1が回転しているときの先端部3における径方向の各位置での切削速度は、先端部3の中心C1では0であり、先端部3の中心C1から径方向の外側に向かうにつれて大きくなる。本明細書における切削速度は、先端部3における径方向のいずれかの位置における、ドリルと被削材との相対的な円周方向の速度である。
【0033】
切削速度が所定速度を超えると、構成刃先のサイズが小さくなる。そして、先端部3のうち切削速度が所定速度となる位置を、上記した縮小開始位置とすることで、鋭い構成刃先が面取り部に滞留し続けることができることを、本発明者は見出した。これにより、切れ味が向上したものと考えられる。
【0034】
本実施形態のドリル1では、特定の材質の被削材に対して所定の回転速度で穴あけ加工を行うときに、構成刃先が鋭くなり始める切削速度は、50m/minであった。先端部3のうち切削速度が50m/minとなる位置は、主切れ刃13の途中位置であった。このため、面取り幅W1の縮小開始位置が主切れ刃13の途中位置に設定されている。
【0035】
ここで、
図5に、実施例1のドリルと比較例1のドリルとの切れ味の比較結果を示す。
図5は、実施例1のドリルと比較例1のドリルとのそれぞれを用いて、被削材に対して穴あけ加工を繰り返し行ったときに、形成された穴の数の計測結果である。実施例1のドリルは、本実施形態のドリルの一例である。比較例1のドリルでは、シンニング切れ刃と主切れ刃との全域において、面取り幅が、実施例1のシンニング切れ刃の面取り幅と同じ大きさで、一定である。他の構成は、本実施形態のドリルと同じである。
【0036】
実施例1のドリル、比較例1のドリルのどちらにおいても、直径は4mmである。先端部の外周の位置での切削速度は80m/minである。送り量は0.17mm/revである。穴あけ加工は、各ドリルに形成された油穴に切削油を流しながら行われた。各ドリルの面取り角度は、25度である。
【0037】
実施例1のドリルでは、縮小開始位置である所定の位置P2での面取り幅W1は、切込み×1.6である。実施例1のドリルでは、先端部3の外側の端の位置P3での面取り幅W1は、切込み×0.6である。比較例1のドリルでは、面取り幅W1は、切込み×1.6である。
【0038】
図5に示すように、比較例1のドリルでは、穴数が1000を超えると、切れ刃に欠損が生じ、加工継続が不可となった。これに対して、実施例1のドリルでは、穴数が3000を超えても、切れ刃に欠損が生じることなく、加工継続が可能であった。
図5に示す結果より、比較例1のドリルと比較して、実施例1のドリルでは、切れ味が向上していることが確認された。
【0039】
比較例1のドリルでは、切れ刃全体で面取り幅が均一であり、面取り幅の大きさが本実施形態の面取り幅W1の最大値と同じ大きさである。比較例1のドリルでは、実施例1のドリルと比較して、切れ刃のうち先端部の外側の部位において、面取り幅が大きいので、切れ刃の切れ味が低下し、切削抵抗が大きい。また、切れ刃のうち先端部の外側の部位において、面取り幅が大きいので、面取り部に滞留物が付着しない領域が生じていたことが推測される。
【0040】
これに対して、実施例1のドリルでは、切れ刃のうち先端部の外側の部位において、先端部の外側に向かうにつれて面取り幅が徐々に小さくなっている。このため、比較例1のドリルと比較して、切れ刃の切れ味の低下が抑制されている。また、比較例1のドリルと比較して、面取り部の全面に対して、滞留物がほど良く付着する。この結果、
図5に示すように、実施例1のドリルの切れ味が向上したことが考えられる。
【0041】
ところで、特開2004-268230号公報に、切れ刃が面取り部で構成されたドリルが開示されている。このドリルでは、シンニング切れ刃の全域で、面取り幅が一定である。主切れ刃とシンニング切れ刃との境の位置から先端部の外側に向かうにつれて、面取り幅は先徐々に大きくなっている。
【0042】
このドリルのシンニング切れ刃の面取り幅を、本実施形態と同じ大きさとした場合、主切れ刃の面取り幅が本実施形態よりも大きい。このため、この場合では、本実施形態と比較して、主切れ刃の切れ味が低下し、切削抵抗が大きい。また、この場合では、上記した比較例1のドリルと同様に、面取り部に滞留物が付着しない領域が生じることが推測される。この結果、この場合では、本実施形態よりも切れ味が劣ることが推測される。
【0043】
また、図示しないが、比較例2のドリルとして、切れ刃全体で面取り幅が均一であり、面取り幅の大きさが本実施形態の面取り幅W1の最小値と同じ大きさのドリルを本発明者は用意した。このドリルの他の形状は、本実施形態と同じである。比較例2のドリルの切れ味は本実施形態のドリルよりも悪いことが、本発明者が行った実験により確認されている。この比較例2のドリルでは、本実施形態と比較して、面取り部が狭いため、面取り部に付着する滞留物が少ないことが原因であることが推測される。
【0044】
また、特許文献1に記載のドリルでは、シンニング切れ刃の全域で、面取り幅が一定である。主切れ刃の面取り幅は、シンニング切れ刃の面取り幅よりも小さい値で一定である。
【0045】
特許文献1に記載のドリルのシンニング切れ刃の面取り幅を、本実施形態のシンニング切れ刃と同じ大きさとする。このドリルの主切れ刃の面取り幅を、本実施形態の主切れ刃の面取り幅の最小値と同じ大きさとする。この場合、本実施形態と比較して、主切れ刃の面取り部が狭い。このため、主切れ刃の面取り部に付着する滞留物が少ないことが推測される。よって、特許文献1に記載のドリルの切れ味は、本実施形態よりも劣ることが推測される。
【0046】
以上の説明の通り、本実施形態によれば、面取り部のうち中心側範囲の全域において、面取り幅W1は一定である。面取り部のうち中心側範囲よりも先端部3の外側において、所定の位置P2を縮小開始位置として、その縮小開始位置から先端部3の外側に向かうにつれて、面取り幅W1は徐々に縮小している。面取り部がこのような形状であることで、被削材の切削加工時に、被削材から削り出される被削材の一部を面取り部に滞留する滞留物として面取り部に付着させ続けることができる。これにより、面取り部に付着する滞留物が刃先となることで、切れ刃4が面取り部で構成されたドリルの切れ味を向上させることができる。
【0047】
(第2実施形態)
図6、
図7に示すように、本実施形態では、切れ刃4を構成する面取り部のうち面取り幅W1の縮小開始位置である所定の位置P2は、シンニング切れ刃15と主切れ刃13との境の位置である。ドリル1の他の構成は、第1実施形態と同じである。
【0048】
本実施形態では、被削材の材質が第1実施形態と異なる。ドリル1の回転速度は、第1実施形態よりも大きな回転速度に設定される。この場合、先端部3のうち切削速度が50m/minとなる位置は、シンニング切れ刃15と主切れ刃13との境の位置である。このため、本実施形態では、シンニング切れ刃15と主切れ刃13との境の位置が、面取り幅W1の縮小開始位置とされている。
【0049】
本実施形態においても、面取り部のうち中心側範囲の全域において、面取り幅W1は一定である。本実施形態では、中心側範囲は、シンニング切れ刃15のうち先端部3の中心側の端の位置からシンニング切れ刃15と主切れ刃13との境の位置までの範囲である。すなわち、中心側範囲は、シンニング切れ刃15の全域である。そして、面取り部のうち中心側範囲よりも先端部3の外側において、シンニング切れ刃15と主切れ刃13との境の位置を縮小開始位置として、その縮小開始位置から先端部3の外側に向かうにつれて、面取り幅W1は徐々に縮小している。このため、第1実施形態と同じ効果が得られる。
【0050】
(第3実施形態)
図8、
図9に示すように、本実施形態では、切れ刃4を構成する面取り部のうち面取り幅W1の縮小開始位置である所定の位置P2は、シンニング切れ刃15の途中位置である。シンニング切れ刃15の途中位置は、シンニング切れ刃15のうち先端部3の中心側の端とシンニング切れ刃15のうち先端部3の外側の端との間の位置のことである。ドリル1の他の構成は、第1実施形態と同じである。
【0051】
本実施形態では、被削材の材質が第1、第2実施形態と異なる。ドリル1の回転速度は、第2実施形態よりも大きな回転速度に設定される。この場合、先端部3のうち切削速度が50m/minとなる位置は、シンニング切れ刃15の途中位置である。このため、本実施形態では、シンニング切れ刃15の途中位置が、面取り幅W1の縮小開始位置とされている。
【0052】
本実施形態においても、面取り部のうち中心側範囲の全域において、面取り幅W1は一定である。本実施形態では、中心側範囲は、シンニング切れ刃15のうち先端部3の中心側の端の位置からシンニング切れ刃15の途中位置までの範囲である。面取り部のうち中心側範囲よりも先端部3の外側において、所定の位置P2としてのシンニング切れ刃15の途中位置を縮小開始位置として、その縮小開始位置から先端部3の外側に向かうにつれて、面取り幅W1は徐々に縮小している。このため、第1実施形態と同じ効果が得られる。
【0053】
(他の実施形態)
(1)上記した各実施形態では、面取り幅W1の縮小開始位置は、先端部3のうち切削速度が50m/minとなる位置である。しかしながら、50m/minは一例である。この切削速度は、構成刃先が鋭くなる速度であればよく、50m/min以外の速度であってもよい。
【0054】
(2)上記した各実施形態では、シンニング切れ刃15のうち先端部3の中心側の端の位置P1は、先端部3の中心C1の位置である。しかしながら、シンニング切れ刃15のうち先端部3の中心側の端の位置P1は、先端部3の中心C1よりも外側の位置であってもよい。
【0055】
(3)上記した各実施形態では、切れ刃4は、シンニング切れ刃15を含んでいる。しかしながら、切れ刃4は、シンニング切れ刃15を含まず、主切れ刃13とシンニング切れ刃15とのうち主切れ刃13のみで構成されていてもよい。
【0056】
(4)上記した各実施形態では、回転工具としてのドリル1に対して本発明が適用されている。しかしながら、切れ刃が面取り部で構成された、ドリル1以外の回転工具に対して本発明が適用されてもよい。ドリル1以外の回転工具としては、リーマー、エンドミル等が挙げられる。
【0057】
(5)本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能であり、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の材質、形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の材質、形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その材質、形状、位置関係等に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0058】
3 先端部
4 切れ刃
11 すくい面
12 逃げ面
13 主切れ刃
14 シンニング部
15 シンニング切れ刃