(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-26
(45)【発行日】2024-07-04
(54)【発明の名称】電圧測定装置、電圧測定システム、電圧測定方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A01K 3/00 20060101AFI20240627BHJP
A01M 29/24 20110101ALI20240627BHJP
【FI】
A01K3/00
A01M29/24
(21)【出願番号】P 2021002561
(22)【出願日】2021-01-12
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】平野 清
【審査官】大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3218911(JP,U)
【文献】特開2005-030770(JP,A)
【文献】特開2014-131494(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0047280(US,A1)
【文献】特開2010-064722(JP,A)
【文献】特開2020-078289(JP,A)
【文献】特開2019-176848(JP,A)
【文献】特開2013-135636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 3/00
A01M 29/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体と共に移動する物体用通信部と通信する通信部と、
所定距離以内に位置する物体を検知する物体検知部と、
前記物体検知部が前記物体を検知したことに応じて、前記通信部をオフ状態からオン状態に制御して、電気柵に印加された電圧を示す情報を、前記通信部を用いて前記物体用通信部に送信する制御部と、
を備える電圧測定装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記電気柵に印加された電圧を示す情報を検出し、検出した電圧を示す情報を前記物体用通信部に送信する、
請求項1に記載の電圧測定装置。
【請求項3】
前記電気柵に印加された電圧を示す情報を検出する電圧検出部を備え、
前記制御部は、前記物体検知部が前記物体を検知したことに応じて、前記電圧検出部をオフ状態からオン状態に制御して、前記電気柵に印加された電圧を示す情報を取得する、
請求項1に記載の電圧測定装置。
【請求項4】
前記物体検知部は、音波を発信し、発信した音波が物体に当たり反射してくる音波を受信することで前記所定距離以内に位置する物体を検知する音波センサである、
請求項1から3のうちいずれか1項に記載の電圧測定装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記電気柵に印加された電圧を示す情報を、前記通信部を用いて前記物体用通信部に送信した後、
(1)前記物体検知部が前記物体を検知しなくなった場合、
(2)前記物体検知部が前記物体を検知しなくなり、且つ所定時間が経過した場合、または
(3)前記通信部と前記物体用通信部との通信が確立した状態が解除された場合、
前記電気柵に印加された電圧を示す情報を、前記通信部を用いて前記物体用通信部に送信することを停止する、
請求項1から4のうちいずれか1項に記載の電圧測定装置。
【請求項6】
前記通信部と前記物体検知部と前記制御部との全部または一部は、前記電気柵または前記電気柵に電力を供給している電源から電力の供給を受け、稼働する、
請求項1から5のうちいずれか1項に記載の電圧測定装置。
【請求項7】
前記電源は、太陽光発電装置により発電された電力または風力発電装置により発電された電力を蓄電する蓄電池である、
請求項6に記載の電圧測定装置。
【請求項8】
請求項1から7のうちいずれか1項に記載の電圧測定装置と、
前記物体用通信部と、
前記物体用通信部が前記通信部と通信して受信した前記電気柵に印加された電圧を示す情報を表示する表示部と、
を備える電圧測定システム。
【請求項9】
コンピュータが、
所定距離以内に位置する物体を検知する物体検知部が前記物体を検知したことに応じて、物体と共に移動する物体用通信部と通信する通信部をオフ状態からオン状態に制御して、
電気柵に印加された電圧を示す情報を、前記通信部を用いて前記物体用通信部に送信する、
電圧測定方法。
【請求項10】
コンピュータに、
所定距離以内に位置する物体を検知する物体検知部が前記物体を検知したことに応じて、物体と共に移動する物体用通信部と通信する通信部をオフ状態からオン状態に制御する処理と、
電気柵に印加された電圧を示す情報を、前記通信部を用いて前記物体用通信部に送信する処理と、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧測定装置、電圧測定システム、電圧測定方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気柵における電線の電圧を測定する電気柵用電圧測定装置であって、電線の所定の位置の電圧を測定する電圧測定部と、無線LANによる通信機能を備える無線通信部と、前記電圧測定部により測定された電圧が所定の電圧以下である場合にその測定電圧および測定時刻を前記無線通信部から送信させるとともに、その後測定電圧が所定の電圧以上に回復した場合にその測定電圧および測定時刻を前記無線通信部から送信させる送信制御部とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の技術では、装置の構成が複雑であったり、高コストであったりする場合がある。また、装置が行う処理において消費される電力量が大きくなる場合がある。このため、上記の技術は、ユーザにとって利便性が低い場合があった。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、ユーザの利便性を向上させることができる電圧測定装置、電圧測定システム、電圧測定方法、およびプログラムを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様である電圧測定装置は、物体と共に移動する物体用通信部と通信する通信部と、所定距離以内に位置する物体を検知する物体検知部と、前記物体検知部が前記物体を検知したことに応じて、前記通信部をオフ状態からオン状態に制御して、電気柵に印加された電圧を示す情報を、前記通信部を用いて前記物体用通信部に送信する制御部とを備える。
【0007】
本発明の第2の態様の電圧測定装置は、更に、前記制御部は、前記電気柵に印加された電圧を示す情報を検出し、検出した電圧を示す情報を前記物体用通信部に送信するものである。
【0008】
本発明の第3の態様である電圧測定装置は、更に、前記電気柵に印加された電圧を示す情報を検出する電圧検出部を備え、前記制御部は、前記物体検知部が前記物体を検知したことに応じて、前記電圧検出部をオフ状態からオン状態に制御して、前記電気柵に印加された電圧を示す情報を取得するものである。
【0009】
本発明の第4の態様である電圧測定装置は、更に、前記物体検知部は、音波を発信し、発信した音波が物体に当たり反射してくる音波を受信することで前記所定距離以内に位置する物体を検知する音波センサであるものである。
【0010】
本発明の第5の態様である電圧測定装置は、更に、前記制御部は、前記電気柵に印加された電圧を示す情報を、前記通信部を用いて前記物体用通信部に送信した後、(1)前記物体検知部が前記物体を検知しなくなった場合、(2)前記物体検知部が前記物体を検知しなくなり、且つ所定時間が経過した場合、または(3)前記通信部と前記物体用通信部との通信が確立した状態が解除された場合、前記電気柵に印加された電圧を示す情報を、前記通信部を用いて前記物体用通信部に送信することを停止するものである。
【0011】
本発明の第6の態様である電圧測定装置は、前記通信部と前記物体検知部と前記制御部との全部または一部は、前記電気柵または前記電気柵に電力を供給している電源から電力の供給を受け、稼働するものである。
【0012】
本発明の第7の態様である電圧測定装置は、前記電源は、太陽光発電装置により発電された電力または風力発電装置により発電された電力を蓄電する蓄電池であるものである。
【0013】
本発明の第8の態様である電圧測定システムは、電圧測定装置と、前記物体用通信部と、前記物体用通信部が前記通信部と通信して受信した前記電気柵に印加された電圧を示す情報を表示する表示部とを備えるものである。
【0014】
本発明の他の態様である電圧測定方法は、コンピュータが、所定距離以内に位置する物体を検知する物体検知部が前記物体を検知したことに応じて、物体と共に移動する物体用通信部と通信する通信部をオフ状態からオン状態に制御して、電気柵に印加された電圧を示す情報を、前記通信部を用いて前記物体用通信部に送信するものである。
【0015】
本発明の他の態様であるプログラムは、コンピュータに、所定距離以内に位置する物体を検知する物体検知部が前記物体を検知したことに応じて、物体と共に移動する物体用通信部と通信する通信部をオフ状態からオン状態に制御する処理と、電気柵に印加された電圧を示す情報を、前記通信部を用いて前記物体用通信部に送信する処理とを実行させるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の態様から第8の態様である電圧測定装置、他の態様である電圧測定方法またはプログラムは、ユーザの利便性を向上させることができる。例えば、通信部が適切にオフ状態からオン状態に制御されるため電圧測定装置で消費される電力が抑制される。
【0017】
本発明の第5の態様によれば、電圧測定装置は、電圧を示す情報を、無用に送信することを抑制することができる。
【0018】
本発明の第6の態様または第7の態様によれば、電圧測定装置は、電気柵を稼働させる電力を利用しつつ、この電力を抑制することで、電気柵の稼働に対する影響を抑制し、ユーザが電気柵の確認を容易に行うことができる機能を提供することができる。
【0019】
本発明の第7の態様によれば、電圧測定システムによれば、ユーザは、物体用通信部および表示部と共に電圧測定装置に近づくことにより、容易に電気柵の電圧を確認することができ、必要に応じて電気柵に対する対策を講じることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】電圧測定装置を含む電圧測定システム1の構成の一例を示す図である。
【
図2】太陽光発電システム10、電気柵制御装置20、電圧測定装置30、および端末装置60の機能構成の一例を示す図である。
【
図3】測定確認処理(1)について説明するための図である。
【
図4】測定確認処理(2)について説明するための図である。
【
図5】測定確認処理(3)について説明するための図である。
【
図6】端末表示部66に表示される画像の一例を示す図である。
【
図7】測定確認処理(4)について説明するための図である。
【
図8】比較例の電圧測定装置の電力の消費量の傾向と、本実施形態の電圧測定装置30の電力の消費量の傾向との一例を示す図である。
【
図9】電圧測定システム1により実行される処理の流れの一例を示すシーケンス図である。
【
図10】変形例の電圧測定装置30Aの機能構成の一例を示す図である。
【
図11】変形例の電圧測定装置30Aと端末装置60とにより実行される処理の流れの一例を示すシーケンス図である。
【
図12】ユーザが電気柵の電圧を確認する際の行動の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照し、本発明の電圧測定装置、電圧測定システム、電圧測定方法、およびプログラムの実施形態について説明する。
【0022】
[全体構成]
図1は、電圧測定装置を含む電圧測定システム1の構成の一例を示す図である。電圧測定システム1は、例えば、電気柵ワイヤW(図中、W1、W2)と、太陽光発電システム10と、電気柵制御装置20と、電圧測定装置30と、端末装置60とを含む。
【0023】
例えば、太陽光発電システム10と電気柵制御装置20とは通信線で接続され、電気柵制御装置20と電圧測定装置30とは通信線で接続されている。電圧測定装置30と端末装置60とは、Bluetooth(登録商標)などの近距離無線通信により通信可能である。電圧測定装置30と端末装置60とは、Bluetoothとは異なる他の通信規格を利用して通信してもよい。
【0024】
太陽光発電システム10は、電気柵制御装置20を介して、発電した電力を電圧測定装置30および電気柵Wに供給する。なお、電圧測定装置30は、太陽光発電システム10から直接電力の供給を受けてもよいし、電気柵Wまたは電気柵制御装置20と電気柵Wとの間に接続された電力線や機器等から電力の供給を受けてもよい。また、太陽光発電システム10に代えて(または加えて)、風力発電システムや地熱発電システムなどの他の自然エネルギーを用いた発電システムが、電圧測定システム1に適用されてもよい。例えば、電圧測定装置30(後述する通信部32と物体検知部34と処理部36との一部または全部は、電気柵Wまたは電気柵に電力を供給している電源から電力の供給を受け稼働する。
【0025】
電気柵Wは、所定間隔で地面に設けられた支柱のガイシに張り巡らされている。電気柵Wは、管理者(ユーザ)が管理する領域を囲むように張り巡らされる。電気柵Wには、電気柵制御装置20により供給された電流が所定の電圧で供給される。動物が電気柵Wに触れると、動物に電流が流れ、電気ショックを受け、動物は電気柵Wから外に出ない。電気ショックを受けた動物は、以後、電気柵Wに近づかなくなることが期待される。
【0026】
[機能構成]
図2は、太陽光発電システム10、電気柵制御装置20、電圧測定装置30、および端末装置60の機能構成の一例を示す図である。
【0027】
[太陽光発電システム]
太陽光発電システム10は、例えば、発電部12と、制御ユニット14と、蓄電部16とを備える。発電部12は、ソーラーパネルであり、太陽の光エネルギーを電力に変換する。制御ユニット14は、例えば、発電部12が発電した電力を蓄電部に供給したり、蓄電部に蓄電された電力を電気柵制御装置20に供給したりするための回路や制御部などを含む。蓄電部16は、制御ユニット14により供給された電力を蓄電する充放電可能な二次電池である。蓄電部16は、太陽光発電システム10とは別に設けられてよいし、電気柵制御装置20に含まれてもよい。
【0028】
[電気柵制御装置]
電気柵制御装置20は、例えば、制御部22と、変換部24とを備える。制御部22は、変換部24を制御する。変換部24は、太陽光発電システム10により供給された電力の電圧および電流を、所定の電圧および電流に変換する。例えば、変換部24は、太陽光発電システム10により供給された電力の電圧を3k[v]以上の電圧に変換する。変換部24により変換された電圧および電流の電力が電気柵ワイヤWに供給される。
【0029】
[電圧測定装置]
電圧測定装置30は、例えば、通信部32と、物体検知部34と、処理部36とを備える。通信部32は、端末装置60と通信するための通信インターフェースである。
【0030】
物体検知部34は、超音波などの音波を利用して、所定距離(例えば数メートルから数十メートル)以内に存在する物体を検知する。物体検知部34は、音波を発信し、発信した音波が物体に当たり反射してくる音波を受信した結果に基づいて、物体を検知する。また、物体検知部34は、音波を発信した時刻と、反射してきた音波を受信した時刻とに基づいて、物体までの距離を導出してもよい。物体検知部34は、音波を利用するものに代えて光学的手法を用いたセンサや、他の種々の手法を用いて近距離の物体を検知するものであってもよい。例えば、物体検知部34は、レーダ装置の検出結果やカメラにより撮像された画像に基づいて、物体が所定距離に近づいたことを検知するものであってもよい。
【0031】
処理部36は、例えば、電圧検出部37と、制御部38とを備える。処理部36は、例えば、電圧検出部37の機能と制御部38の機能とを実現するMPU(Micro Controller Unit)や、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現されてもよい。これらの機能構成の一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。処理部36は、例えば、制御部38の機能を実現するMPUやCPUなどのハードウェアと電圧検出部37の機能を実現する電圧検出回路とを含む回路であってもよい。電圧の検出手法は、抵抗検出型や磁場検出型など種々の手法が用いられてもよい。
【0032】
[端末装置]
端末装置60は、例えば、端末通信部62と、端末制御部64と、端末表示部66とを備える。端末通信部62は、電圧測定装置30の通信部32と通信するための通信インターフェースである。端末通信部62と、通信部32とは、上述したようにBluetoothなどの近距離無線通信を利用して通信を行う。端末制御部64は、端末通信部62を制御して電圧測定装置30と通信したり、端末表示部66を制御して所定の情報を端末表示部66に表示させたりする。端末表示部66は、TFT液晶 (Thin-Film-Transistor liquid-crystal display)などの表示部である。端末表示部66には、電圧測定装置30により提供された電気柵ワイヤWの電圧を示す情報が表示される。
【0033】
[ワイヤの電圧の測定およびユーザが電圧を確認する処理(測定確認処理)]
電圧測定装置30がワイヤWの電圧を測定し、測定された電圧を、ユーザが確認する処理について説明する。以下の説明では、端末装置60は、ユーザが乗車した車両のインストルメントパネルに設けられた設置部(例えばフォルダ)に取り外し可能に取り付けられている。以下のように、ユーザは、車両に乗って電圧測定装置30に近づくことで、電気柵ワイヤWの電圧を確認することができる。
【0034】
図3は、測定確認処理(1)について説明するための図である。電圧測定装置30は、音波を発信することを継続する。物体が検知されていない場合、電圧測定装置30は、通信部32を休止状態に維持する。通信部32が休止状態であるため、通信部32の稼働により消費される電力が抑制される。
【0035】
図4は、測定確認処理(2)について説明するための図である。車両が電圧測定装置30から所定の距離に近づいたものとする。この場合、電圧測定装置30は、車両により反射された音波に基づいて物体を検知する。物体を検知した場合、電圧測定装置30は、通信部32を起動させる。
【0036】
図5は、測定確認処理(3)について説明するための図である。電圧測定装置30は、電圧検出部37により検出された電圧を示す情報を、起動させた通信部32を用いて、端末装置60に送信する。端末装置60は、通信部32により送信された電圧を示す情報を受信し、受信した電圧を示す情報を端末表示部66に表示させる。
【0037】
図6は、端末表示部66に表示される画像の一例を示す図である。端末表示部66には、上述したように電圧測定装置30により送信された情報が表示される。端末表示部66には、例えば、電圧測定装置30、電気柵ワイヤW、または電気柵制御装置20の識別情報や、電気柵ワイヤWに印加されている電圧を示す情報、電気柵ワイヤが通常通り(異常なく)作動しているか否かを示す情報などが表示される。例えば、電圧測定装置30が、電気柵ワイヤWに印加されている電圧を示す情報に基づいて、電気柵ワイヤが通常通り作動しているか否かを示す情報を生成してもよいし、電圧測定装置30に代えて、端末装置60が、この情報を生成してもよい。
【0038】
図7は、測定確認処理(4)について説明するための図である。ユーザが、端末表示部66に表示された情報を確認し、車両が電圧測定装置30から離れ、電圧測定装置30が物体を検知しなくなると、電圧測定装置30は、通信部32を休止状態に制御する。これにより、通信部32で消費される電力が抑制される。
【0039】
上述したように、電圧測定装置30は、物体の検知の有無に応じて通信部32の稼働状態を制御することで、電圧測定装置30で消費される電力を抑制することで、ユーザが負担するコストの抑制に貢献することができる。
【0040】
図8は、比較例の電圧測定装置の電力の消費量の傾向と、本実施形態の電圧測定装置30の電力の消費量の傾向との一例を示す図である。
図8の縦軸は電力を示し
図8の横軸は時間を示している。比較例の電圧測定装置は、例えば、物体検知部を有さず、通信部が常時起動している状態であるものとする。このため、比較例の電圧測定装置30が消費する電力の消費量は
図8に示す傾向となる。
【0041】
本実施形態の電圧測定装置30は、物体が近づいた場合に通信部32を起動させる。通信部32を起動させている時間(図中、P)では、比較的電力の消費量が大きくなるが、他の時間においては通信部32を休止させるため、比較的電力の消費量が小さい傾向となる。また、物体検知部34は稼働を継続するが、物体検知部34の稼働により消費される電力は、通信部32を継続的に稼働させる電力よりも小さい。このため、本実施形態の電圧測定装置30が消費する電力は、比較例の電圧測定装置が消費する電力よりも小さい傾向となる。
【0042】
また、電圧測定装置30は、端末装置60と共にユーザが近づいた場合に、端末装置60に電気柵ワイヤWの電圧を示す情報を提供することで、ユーザは容易に電気柵ワイヤWの状態を確認することができる。上記のように、電圧測定装置30は、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0043】
[シーケンス]
図9は、電圧測定システム1により実行される処理の流れの一例を示すシーケンス図である。 まず、電圧測定装置30は、物体検知部34が物体を検知したか否かを判定する(S10)。 物体を検知した場合、電圧測定装置30は、通信部32を起動させて(S12)、通信部32を用いて端末装置60に通信の確立を要求する確率要求信号を送信する(S14)。端末装置60が、確立要求信号に応じることを示す応答信号を送信すると(S16)、電圧測定装置30は、電気柵ワイヤWの電圧を示す情報を端末装置60に送信する(S18)。例えば、端末装置60は、電圧を示す情報を受信した場合、情報を受信したことを示す情報を電圧測定装置30に送信する。次に、端末装置60は、S18で送信された電圧を示す情報を端末表示部66に表示させる(S20)。
【0044】
上記のS14の処理において、電圧測定装置30が、確立要求信号を送信した後、所定時間以内に、応答信号を取得することができない場合、通信部32を休止状態に制御してもよい。また、電圧測定装置30が、確立要求信号を送信した後、所定時間以内に、応答信号を取得することができない場合、応答信号を取得するまで、所定間隔で所定回数、確立要求信号を送信してもよい。この処理においても、応答信号を取得できない場合、電圧測定装置30が、通信部32を休止状態に制御してもよい。例えば、端末装置60を保持するユーザとは異なる物体(例えば動物など)が近づいた場合であっても、通信部32が適切に制御されるため、電圧測定装置30において消費される電力が抑制される。
【0045】
電圧測定装置30は、端末装置60が送信する応答信号を受信するのを待機している間に、物体検知部34が物体を検知しなくなった場合、通信部32を休止状態に制御してもよい。これにより物体が離れたにもかかわらず、通信部32が起動している状態を抑制し、電圧測定装置30において消費される電力を抑制することができる。
【0046】
上記のS18の処理において、電圧測定装置30は、電圧を示す情報を、一回、複数回、または所定間隔で送信してもよい。また、以下のように、物体の検出状態と通信の確立状態との一方または双方に基づいて、電圧を示す情報が所定間隔で送信されてもよい。
【0047】
[通信部を休止状態に制御するタイミングについて]
電圧測定装置30は、例えば、継続的、所定間隔、または所定回数、上述したS18で電圧を示す情報を端末装置60に送信する場合、以下のうち一または複数の条件が満たされた場合、通信部32を休止状態に制御してもよい。
(1)物体検知部34が物体を検出しなくなったこと。
(2)物体検知部34が物体を検出しなくなり、且つ所定時間が経過したこと。
(2)電圧測定装置30の通信部32と、端末装置60の端末通信部62との通信が確立できない状態となったこと(通信が確立した状態が解除されたこと)。例えば、電圧測定装置30と端末装置60とは、一度通信が確立すると、その後、所定間隔で所定の信号を送受信し、通信の確立を維持し、この維持ができなくなった場合、確立できない状態となったと判定される。
【0048】
以上説明した実施形態の電圧測定装置30によれば、物体を検知したことに応じて、通信部32をオフ状態からオン状態に制御して、電気柵ワイヤWに印加された電圧を示す情報を、通信部32を用いて端末通信部62に送信することにより、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0049】
<変形例>
以下、変形例の電圧測定装置30Aについて説明する。変形例の電圧測定装置30Aは、電圧検出部37Aと、制御部38Aとが独立して構成されている。電圧測定装置30との相違点を中心に説明する。
【0050】
図10は、変形例の電圧測定装置30Aの機能構成の一例を示す図である。電圧測定装置30Aは、例えば、通信部32と、物体検知部34と、電圧検出部37Aと、制御部38Aとを備える。
【0051】
電圧検出部37は、例えば、電圧を検出する回路等である。制御部38Aは、MPUや、CPU、各種処理を実行する回路等である。電圧検出部37と、制御部38Aとは、それぞれ独立して起動したり、処理を実行したりする。
【0052】
[シーケンス]
図11は、変形例の電圧測定装置30Aと端末装置60とにより実行される処理の流れの一例を示すシーケンス図である。
図9の処理と異なる処理を中心に説明する。電圧測定装置30Aが物体を検知した場合、電圧測定装置30Aは、電圧検出部37と通信部32とを起動させる(S12#)。S14およびS16の処理後、電圧測定装置30Aは、起動させた電圧検出部37Aが検出した電圧を示す情報を、起動させた通信部32を利用して端末装置60に送信する(S18)。
【0053】
変形例の電圧測定装置30Aは、電圧検出部37Aおよび通信部32を適切に制御することで消費される電力を抑制し、ユーザの利便性を向上させることができる。
【0054】
[本実施形態の電圧測定装置に関する背景と適用例]
例えば、耕作放棄地放牧は、耕作放棄地の解消とその後の農地保全にとって優れた方法であり、家畜飼養として低コストで省力的な飼養方法である。その際に利用される電気牧柵(電気柵)の、漏電による電圧低下は、牛の脱柵の主要因となる。放牧牛が脱柵すると、周辺圃場や住民に多大な被害を及ぼす可能性がある。そのため、放牧地においては毎日の見回り時に、テスターを用いて電気牧柵の電圧を測定することが推奨されている。
【0055】
しかし、現場農家レベルでは電圧の確認が行われていない事例が多くみられる。そのためテスターを用いた電圧確認の手作業を省き、見回り時に電気牧柵の電圧を知らせてくれる低コストで見える化できる装置が求められている。
【0056】
ここで、電気牧柵の状態を監視する技術または手法として、以下の(a)-(h)のような技術が考えられる。
(a)電気牧柵用のテスターを用いてユーザの手によって電気牧柵の電圧を測定する手法である。
【0057】
(b)フェンスアラートを設置する手法である。フェンスアラートは、電気牧柵に設置され、電気牧柵の電力でランプが発光させ、電気牧柵の電圧が低下するとランプが点灯させる。ユーザはランプの点灯を確認することで電圧の低下を確認する。
【0058】
(c)ライブライトを設置する手法である。ライブライトは、電気牧柵に設置され、電気牧柵の電力で発行し、ユーザは発光を確認することで通電を確認する。
【0059】
(d)電気牧柵の電圧が所定の電圧以下の場合に、その電圧と測定時刻とが無線LANを介して端末装置に送信され、その後、電圧が所定の電圧以上に回復した場合、その電圧と測定時刻とが無線LANを介して端末装置に送信される(特開2014-131494)。
【0060】
(e)Wifi機能を有する装置であって、電気柵に接続され、所定時間ごとに電気柵の電圧を測定し、測定した電圧を端末装置に送信する。
【0061】
(f)電流測定装置から受信した電流値を比較して、漏電箇所を特定する監視装置である(特開2019-176848)。
【0062】
(g)管理センターの電牧器と野獣柵に組み込まれた複数の電牧器から電牧器の情報を収集して野獣柵の状態を把握し、且つ必要に応じて個々の電牧器を遠隔操作するネットワーク式電牧器である。
【0063】
(h)長距離用特定小電力無線モジュールによる無線通信と、パルスカウンターを利用した電気牧柵の状態監視機能とによるシステムである。
【0064】
(i)野生動物用の捕獲ワナの状態を、マグネットセンサを利用して通知するシステムである。
【0065】
例えば、電気牧柵の漏電の原因としては、(A)、(B)が考えられる。
(A)電牧下草の生長に伴う漏電である。
(B)日々の作業を行うために、電気牧柵と電気牧柵を監視する監視システムの電源をオフ状態にした後、作業終了後に電源を入れ忘れていることである。
【0066】
上記の(A)については、上述した(a)-(h)で対応できる。しかし、(a)が行われる頻度が低く、(b)または(c)では具体的な電圧の低下度合は判断できない。
【0067】
(B)はヒューマンエラーであり、上述した(d)-(h)は影響を受ける。例えば、放牧地から自宅に戻ってから電圧が下がっている通知が確認できても、対応として効率が悪く、放牧地から自宅に戻る際に、電気牧柵の電圧が確認できることが望ましい。
【0068】
電気牧柵の漏電対策のための作業が実際に必要かどうかを判断するタイミングとしては、作業者が現地に到着する直前に能動的に電圧が把握できれば、対策の必要性の有無や現地での作業の順序を判断する上で有効である。遠隔地で電気牧柵の状態を確認する(d)-(h)は、適切なタイミングで電気牧柵の状態や異常が確認できるとは限らない。
【0069】
インターネット回線への接続が前提の(d)、(e)、(h)、(i)は、維持運用に回線使用料などのコストが発生するため、ユーザの利便性は高くない。
【0070】
(d)、(f)、(g)は、利用される無線通信部を日常的に車載等で利用することが困難な仕組みである。(e)、(g)は、能動的にネットワークにアクセスする必要があるため、ユーザの利便性が高くない。(i)は、物理柵用で電気牧柵用ではない。
【0071】
このように上記の技術または手法では、ユーザの利便性が低く、ユーザの満足度を向上させることができない場合があった。
【0072】
これに対して、本実施形態の電圧測定装置30は、ユーザの利便性および満足度を向上させることができる。例えば、
図12に示すように放牧地(A)から(C)のそれぞれに電気牧柵が設けられているものとする。放牧地(A)には電気牧柵ワイヤW1-1(および不図示のW2-1)の電圧を検出する電圧測定装置30-1が設けられ、放牧地(B)には電気牧柵ワイヤW1-2(および不図示のW2-2)の電圧を検出する電圧測定装置30-2が設けられ、放牧地(C)には電気牧柵ワイヤW1-3(および不図示W2-3)の電圧を検出する電圧測定装置30-3が設けられている。ユーザは、端末装置60が設置された車両で放牧地に到着した場合、
図12に示すように、例えば、電圧測定装置30-1、30-2、30-3の順で、電圧測定装置30に近づき、近づいた電圧測定装置30に対応する各電気牧柵の電圧を確認することができる。そして、漏電が発生している場合、当日の漏電対策のための作業計画を立てることができる。また、ユーザは、帰宅する際にも電圧測定装置30(30-1、30-2、30-3)に近づき、各電気牧柵の電圧を確認することができる。そして、ユーザは漏電や電気柵の電源の入れ忘れを確認し、確認結果に応じた対応を行うことができる。
【0073】
上述した(B)日々の作業を行うために、電気牧柵と電気牧柵を監視する監視システムの電源をオフ状態にした後、作業終了後に電源を入れ忘れている場合においても、電圧測定装置30は、対応可能である。特に、放牧地から自宅に帰る際に車両に乗車し、電圧測定装置30に近づいたタイミングで受動的に電気柵の電圧を確認し、問題があれば直ぐに対策を行うことができる。このように、上述した能動的に電圧の確認が必要な(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(h)とは異なり、更に上述した遠隔地で電圧を知ることができるが、電気柵の監視の通知が放牧地から帰る直前にされるとは限らない(d)、(f)、(g)とは異なる。
【0074】
また、本実施形態の電圧測定装置30は、放牧地への見回りで現地に到着する直前に、具体的な電気柵の電圧を受動的に知ることができる。これにより電気柵の電圧が、直ぐに対策をすべき電圧か、もうしばらく対策を後回しにして良い電圧かを、現地での作業開始前に判断することができる。このような効果は、(a)-(i)では奏しない。
【0075】
また、(b)、(c)、(g)は、具体的な電圧が不明であり対応する必要があるかの判断を行うためには、別途電圧の測定が必要であるが、本実施形態の電圧測定装置30は、そのような能動的な行為は必要ない。
【0076】
また、本実施形態の電圧測定装置30は、インターネット回線へ接続することなく運用を行え、(d)、(e)、(g)、(h)などのように維持運用や回線使用料のコストが抑制される。また、電圧測定装置30にユーザが近づいた場合に、通信部が起動するため、簡素な機器構成であり、遠隔地で電気柵の状態を確認可能な(d)、(e)、(f)、(g)、(h)よりも低電力で稼働が可能である。
【0077】
なお、本実施形態の電圧測定装置30は、例えば、(d)、(e)、(f)、(g)または(h)と組み合わされて利用されてもよい。この場合、獣害や突発的な事故による電気牧柵の損傷が生じた場合、この事象に対する対策がしやすくなる。
【0078】
本実施形態の電圧測定装置30は、畜産業の放牧の他、中山間地などの電気柵による獣害対策をしている田畑などに適用されてもよい。
【0079】
[まとめ]
上記のように、本実施形態の電圧測定装置30は、簡易な構成で、通信部32(または通信部32と電圧検出部37A)を適切なタイミングで起動させることにより、電力の消費を抑制することができる。更に、本実施形態の電圧測定装置30は、ユーザが作業を開始前や、放牧地から帰宅する際に、受動的に電圧を確認することができ、漏電対策や電源の入れ忘れの対策を取ることができる。これにより、ユーザの利便性が向上する。
【0080】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0081】
1‥電圧測定システム、10‥太陽光発電システム、20‥電気柵制御装置、30‥電圧測定装置、32‥通信部、34‥物体検知部、36‥処理部、37‥電圧検出部、38‥制御部、60‥端末装置、62‥端末通信部、64‥端末制御部、66‥端末表示部