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特許7511105化学強化ガラス及び化学強化ガラスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】化学強化ガラス及び化学強化ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20240628BHJP
   C03C 15/00 20060101ALI20240628BHJP
   C03C 23/00 20060101ALI20240628BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
C03C21/00 101
C03C15/00 Z
C03C23/00 D
G09F9/00 302
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021053744
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022150930
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】井本 祐司
(72)【発明者】
【氏名】藤原 祐輔
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-149628(JP,A)
【文献】特開2019-218217(JP,A)
【文献】国際公開第2017/533131(WO,A1)
【文献】特開2012-218995(JP,A)
【文献】特開2013-012283(JP,A)
【文献】国際公開第2013/046585(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 1/00-40/04
C03C 1/00-29/00
G09F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属イオンを含む化学強化ガラスであって、
厚さが0.20mm以下であり、
表面が化学強化処理された、対向する一対の主面を有し、
前記一対の主面のうち少なくとも一方は、中心ラフネス深さSkが0.90nm以下かつ、山頂部の算術平均曲率Sscが13.0×10―4(1/nm)以下である、化学強化ガラス。
【請求項2】
前記一対の主面のうち少なくとも一方は、サミット密度Sdsが125(1/μm)以下である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項3】
曲げ半径Rが20mm以下に屈曲可能な、請求項1又は2に記載の化学強化ガラス。
【請求項4】
前記一対の主面のうち少なくとも一方の圧縮応力層深さが4~30μmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項5】
前記一対の主面のうち少なくとも一方の表面圧縮応力値CSが300~1400MPaである、請求項1~4のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項6】
厚さ0.20mm以下のアルカリ金属イオンを含むガラス板を準備すること、及び
前記ガラス板の表面における前記アルカリ金属イオンを、前記アルカリ金属イオンのイオン半径よりも大きい他のアルカリ金属イオンとイオン交換処理をすること、を含む化学強化ガラスの製造方法であって、
前記イオン交換処理の前及び後の少なくとも一方で、前記ガラス板の少なくとも一方の主面を研磨し、中心ラフネス深さSkが0.90nm以下かつ、山頂部の算術平均曲率Sscが13.0×10―4(1/nm)以下とする、化学強化ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記研磨を、砥粒にコロイダルシリカを用いて行う、請求項6に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項8】
前記コロイダルシリカの平均粒子直径が1~100nmである、請求項7に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項9】
前記研磨を、砥粒に酸化セリウムを用いて行った後、さらに砥粒に前記コロイダルシリカを用いて行う、請求項7又は8に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項10】
前記酸化セリウムの平均粒子直径が0.05~5μmである、請求項9に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項11】
前記イオン交換処理を、露点温度が20℃以上の雰囲気中で行う、請求項6~10のいずれか1項に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項12】
前記ガラス板に含まれる前記アルカリ金属イオンがナトリウムイオンを含み、
前記イオン交換処理において、硝酸カリウムと、KCO、NaCO、KHCO、KPO、NaPO、KSO、NaSO、KOH及びNaOHからなる群より選ばれる少なくとも一種の融剤と、を含む無機塩組成物に、前記ガラス板を接触させることによって、前記ナトリウムイオンと前記無機塩組成物中のカリウムイオンとをイオン交換する、請求項6~11のいずれか1項に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項13】
前記イオン交換処理を行う前に、前記ガラス板を、化学エッチング又は短パルスレーザにより切断することを含む、請求項6~12のいずれか1項に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項14】
フッ酸を含む水溶液を切断箇所に接触させることで、前記切断を行う、請求項13に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項15】
前記切断を行った後、かつ前記イオン交換処理を行う前に、切断面である端面のみを化学エッチングすることを含む、請求項13又は14に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学強化ガラス及び化学強化ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンをはじめとするデバイスのディスプレイ用保護カバーとして、美観向上の観点からガラス製であるカバーガラスが求められている。ガラスは理論強度が高いものの、傷がつくことで強度が大幅に低下する。そのため、耐衝撃性等の強度が求められるカバーガラスには、イオン交換等によりガラス表面に圧縮応力層を形成した化学強化ガラスが用いられている。
【0003】
一方で、昨今の新技術、新製品に対応するため、極めて薄いカバーガラスも求められている。極薄板のカバーガラスでは、薄型化により軽量化を達成すると共に、フォルダブルデバイスのような製品にも適用可能な、優れた割れ強度と曲げ強度も求められる。
【0004】
フォルダブルデバイス、すなわち折畳式デバイス用のカバー要素として、特許文献1には、厚さ約25μm~約200μmの折畳式ガラス要素と、その第1の主表面上に配置された厚さ約10μm~約100μmのポリマー層とを備えた、特定のカバー要素が開示されている。
【0005】
特許文献2には、約25μm~約200μmの厚さ及び約20GPa~約140GPaのカバー要素弾性率を有し、かつ、ガラス組成、第1の主面、及び第2の主面を有する構成要素をさらに含む、カバー要素と、約0.01GPa~約10GPaの中間層弾性率、及び約50μm~約200μmの厚さを有する中間層と、両者を接合する約5μm~約25μmの厚さの接着剤を備えた折り畳み式電子デバイスモジュールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2019-504812号公報
【文献】特表2020-537185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のカバー要素は、ポリマー層を有しないカバー要素と比べて、少なくとも1.5倍のペン落下高さに耐える能力を備え、折畳式電子デバイス組立体は、所定の落下試験に従って、8cm超のペン落下高さに耐えるよう構成できるとされている。
また、特許文献2に記載のデバイスモジュールは、ペン落下試験でカバー要素への一連の衝撃に対して約6cm以上の平均ペン落下高さを特徴とする耐衝撃性を含むとされている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の折畳式電子デバイスは、ポリマー層を備えることで、カバー要素のペン落下高さに耐える能力を備えるものであり、ガラス要素単独でのペン落下高さに耐える能力は低い。また、特許文献2に記載のカバー要素は、ペン落下試験に対して所定の強度を有することを示すものの、ペン落下試験に用いるペンの重量やその先端の径を鑑みると、さほど厳しい試験条件とは言えない。これらのことから、フォルダブルデバイスに用いられるカバーガラスには、ペン落下試験に対する割れ強度のさらなる向上が望まれる。
【0009】
そこで本発明は、フォルダブルデバイス等のカバーガラスにも適用可能な、ペン落下試験に対して優れた割れ強度を有する化学強化ガラスとその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
化学強化ガラスが極薄板、例えば厚みが0.2mm以下である場合、ペン落下試験のように、先端が尖ったものが衝突することで、カバーガラスのペン等が衝突した面とは反対側に割れが生じる。この割れは、化学強化ガラスの厚みが十分である場合には生じない。
【0011】
極薄板である化学強化ガラスの割れについて本発明者らが鋭意検討を行った結果、化学強化ガラスの表面特性のうち表面粗さと関係があり、さらには、中心ラフネス深さSk及び山頂部の算術平均曲率Sscと特に相関があることが判明した。すなわち、化学強化ガラスの主面における中心ラフネス深さSk及び山頂部の算術平均曲率Sscを所定の範囲とすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明及びその一態様は下記[1]~[15]に関するものである。
[1] アルカリ金属イオンを含む化学強化ガラスであって、厚さが0.20mm以下であり、表面が化学強化処理された、対向する一対の主面を有し、前記一対の主面のうち少なくとも一方は、中心ラフネス深さSkが0.90nm以下かつ、山頂部の算術平均曲率Sscが13.0×10―4(1/nm)以下である、化学強化ガラス。
[2] 前記一対の主面のうち少なくとも一方は、サミット密度Sdsが125(1/μm)以下である、前記[1]に記載の化学強化ガラス。
[3] 曲げ半径Rが20mm以下に屈曲可能な、前記[1]又は[2]に記載の化学強化ガラス。
[4] 前記一対の主面のうち少なくとも一方の圧縮応力層深さが4~30μmである、前記[1]~[3]のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
[5] 前記一対の主面のうち少なくとも一方の表面圧縮応力値CSが300~1400MPaである、前記[1]~[4]のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
【0013】
[6] 厚さ0.20mm以下のアルカリ金属イオンを含むガラス板を準備すること、及び前記ガラス板の表面における前記アルカリ金属イオンを、前記アルカリ金属イオンのイオン半径よりも大きい他のアルカリ金属イオンとイオン交換処理をすること、を含む化学強化ガラスの製造方法であって、前記イオン交換処理の前及び後の少なくとも一方で、前記ガラス板の少なくとも一方の主面を研磨し、中心ラフネス深さSkが0.90nm以下かつ、山頂部の算術平均曲率Sscが13.0×10―4(1/nm)以下とする、化学強化ガラスの製造方法。
[7] 前記研磨を、砥粒にコロイダルシリカを用いて行う、前記[6]に記載の化学強化ガラスの製造方法。
[8] 前記コロイダルシリカの平均粒子直径が1~100nmである、前記[7]に記載の化学強化ガラスの製造方法。
[9] 前記研磨を、砥粒に酸化セリウムを用いて行った後、さらに砥粒に前記コロイダルシリカを用いて行う、前記[7]又は[8]に記載の化学強化ガラスの製造方法。
[10] 前記酸化セリウムの平均粒子直径が0.05~5μmである、前記[9]に記載の化学強化ガラスの製造方法。
[11] 前記イオン交換処理を、露点温度が20℃以上の雰囲気中で行う、前記[6]~[10]のいずれか1に記載の化学強化ガラスの製造方法。
[12] 前記ガラス板に含まれる前記アルカリ金属イオンがナトリウムイオンを含み、前記イオン交換処理において、硝酸カリウムと、KCO、NaCO、KHCO、KPO、NaPO、KSO、NaSO、KOH及びNaOHからなる群より選ばれる少なくとも一種の融剤と、を含む無機塩組成物に、前記ガラス板を接触させることによって、前記ナトリウムイオンと前記無機塩組成物中のカリウムイオンとをイオン交換する、前記[6]~[11]のいずれか1に記載の化学強化ガラスの製造方法。
[13] 前記イオン交換処理を行う前に、前記ガラス板を、化学エッチング又は短パルスレーザにより切断することを含む、前記[6]~[12]のいずれか1に記載の化学強化ガラスの製造方法。
[14] フッ酸を含む水溶液を切断箇所に接触させることで、前記切断を行う、前記[13]に記載の化学強化ガラスの製造方法。
[15] 前記切断を行った後、かつ前記イオン交換処理を行う前に、切断面である端面のみを化学エッチングすることを含む、前記[13]又は[14]に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、厚みが薄い場合であっても、ペン落下試験に対して優れた割れ強度を有する化学強化ガラスを実現できる。そのため、軽量化が求められるデバイスや、屈曲が求められるフォルダブルデバイス等のカバーガラスに適用した際の信頼性は非常に高い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、中心ラフネス深さSkを説明するための図である。
図2図2は、化学強化ガラスにおける主面の中心ラフネス深さSkと割れ強度との関係を示すグラフである。
図3図3は、化学強化ガラスにおける主面の山頂部の算術平均曲率Sscと割れ強度との関係を示すグラフである。
図4図4は、化学強化ガラスにおける主面のサミット密度Sdsと割れ強度との関係を示すグラフである。
図5図5は、本実施形態におけるペン落下試験の方法を示す模式側面図である。
図6図6は、曲げ試験装置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0017】
<化学強化ガラス>
本実施形態に係る化学強化ガラス(以後、単に「ガラス」と称することがある。)は、厚さが0.20mm以下の極薄板である。化学強化ガラスは、アルカリ金属イオンを含み、表面が化学強化処理された、対向する一対の主面を有する。一対の主面のうち少なくとも一方は、中心ラフネス深さSkが0.90nm以下かつ、山頂部の算術平均曲率Sscが13.0×10―4(1/nm)以下である。
【0018】
中心ラフネス深さSk(The Core Roughness Depth:DIN 4776)とは、ガラス表面の山部・谷部の凹凸のばらつき表す変数であり、図1に示すアボット曲線、すなわち高さ分布のヒストグラムの積分値におけるベアリング曲線の近似線のうち、最小の傾きになる線を引いた場合の切片となる高さが「Sk」としてコア粗さ深さを表す。
【0019】
本明細書における中心ラフネス深さSkは、下記測定方法に示すように、AFM(原子間力顕微鏡、Atomic Force Microscope)を用いた表面分析でSPIPソフトを用いて解析して得られる中心ラフネス深さSkの値を用いる。
【0020】
「中心ラフネス深さSk」の測定方法:
初めに、AFM(XE-HDM;Park systems社製)、測定モード:ノンコンタクトモード、スキャンサイズ:10μm×5μm、カラースケール:±1nm、スキャン速度:1Hz、カンチレバー:Non-Contact Cantilever(Item:PPP-NCHR 10M;Park systems社製)により形状像を取得する。その後、画像解析ソフト(イメージメトロロジー社製、SPIP6.2.6)を用い、上記形状像のレべリング処理およびL-フィルタリング処理(ISO値2.0μm)を実施し、ラフネス解析により中心ラフネス深さ(Sk)を求める。
【0021】
山頂部の算術平均曲率Ssc(The Mean Summit Curvature)とは、ガラス表面の山部の先端、すなわち山頂部の曲率の算術平均であり、下記式により算出される。
【0022】
【数1】
【0023】
上記式において、nは表面観察面内の山頂部の個数、Zは山頂部(凸部)の高さを表す。変数X、Yは観察面のX座標、Y座標であり、(X,Y)は観察面における山頂部の位置を表す。(Xi,Yi)はi番目の山頂部の座標を表す。
観察面内の算術平均曲率Sscが大きいほど面内の山頂部は尖っており、小さいほど丸みを帯びた形状であることを意味する。本明細書における山頂部の算術平均曲率Sscは、AFM(原子間力顕微鏡)を用いた表面分析でSPIPソフトを用いて解析して得られる山頂部の算術平均曲率Sscの値を用いており、上記式と同様に算出される。具体的な測定方法は下記に示すとおりである。なお、山頂部の算術平均曲率とは、平均最高曲率と称されるものと同じである。
【0024】
「山頂部の算術平均曲率Ssc」の測定方法:
初めに、AFM(XE-HDM;Park systems社製)、測定モード:ノンコンタクトモード、スキャンサイズ:10μm×5μm、カラースケール:±1nm、スキャン速度:1Hz、カンチレバー:Non-Contact Cantilever(Item:PPP-NCHR 10M;Park systems社製)により形状像を取得する。その後、画像解析ソフト(イメージメトロロジー社製、SPIP6.2.6)を用い、上記形状像のレべリング処理およびL-フィルタリング処理(ISO値2.0μm)を実施し、ラフネス解析により山頂部の算術平均曲率(Ssc)を求める。
【0025】
化学強化ガラスの少なくとも一方の主面は、中心ラフネス深さSkが0.90nm以下かつ、山頂部の算術平均曲率Sscが13.0×10―4(1/nm)以下である。厚み0.20mm以下の化学強化ガラスにおいて、上記範囲を満たすことにより、ペン落下試験による割れ強度(以下、単に「割れ強度」と称する場合がある。)が良好となる。
【0026】
ガラス表面が研磨されることにより、ベアリング曲線の高さの高い領域の曲線は下側に、低い部分は上側に移動することにより、中心ラフネス深さSkが小さくなる傾向がある。本実施形態に係るガラス表面の中心ラフネス深さSkが0.90nm以下であるということは、ガラス表面は小さい凹凸が占める割合が大きくなっていることを表している。なお、図2は実施例及び比較例の結果であり、中心ラフネス深さSkとペン落下試験による割れ強度との間に相関性があることを見出した。ガラス表面の凹凸部が大きい場合、ペン落下試験時に凹凸部における局所応力集中が発生しやすくなる。その結果、ペン落下試験の割れ強度が低下する要因になると考えられる。逆に、本実施形態に係るガラスのようにガラス表面が小さい凹凸の占める割合が大きい場合、ペン落下試験時における局所集中応力が生じ難くなり、ペン落下試験の割れ強度が向上すると考えられる。
【0027】
しかしながら、中心ラフネス深さSkの要素のみでは、割れ強度とやや相関が見られるという程度であり、それだけで割れ強度を説明するには回帰不十分である。
そこで、非常に多数であるパラメータのうち、山頂部の算術平均曲率Sscにさらに着目したところ、図3に示すように、山頂部の算術平均曲率Sscが大きいと、ペン落下試験による割れ強度が低くなる傾向が見られ、相関があることが分かった。これは、ペン落下試験をした際に、山頂部の曲率が大きい部分において局所的に応力集中が起こりやすくなり、局所破壊の原動力になり得るためであると考えられる。なお、図3は実施例及び比較例の結果であり、中心ラフネス深さだけでは回帰不十分であったデータの割れ強度を回帰できることを見出した。このことから、ガラス表面の全体的な凹凸のサイズ分布に加えて、山頂部の算術平均曲率が小さいことで局所集中応力の発生を最も生じ難くすることで、ペン落下試験の割れ強度が向上すると考えられる。
【0028】
これらから、化学強化ガラスのペン落下試験による割れ強度を高くするためには、中心ラフネス深さSkを小さくするだけでは足らず、山頂部の算術平均曲率Sscも共に制御する必要があることが判明した。
【0029】
そこで、本実施形態に係る化学強化ガラスの主面における中心ラフネス深さSkを0.90nm以下かつ、山頂部の算術平均曲率Sscを13.0×10―4(1/nm)以下とする。
中心ラフネス深さSkは0.80nm以下が好ましく、0.70nm以下がより好ましい。中心ラフネス深さSkの下限は特に限定されないが、通常0.20nm以上である。
山頂部の算術平均曲率Sscは、12.0×10―4(1/nm)以下が好ましく、10.0×10―4(1/nm)以下がより好ましく、9.0×10―4(1/nm)以下がさらに好ましい。山頂部の算術平均曲率Sscの下限は特に限定されないが、通常4.0×10―4(1/nm)以上である。
これにより、化学強化ガラスの割れ強度を高くできる。
【0030】
中心ラフネス深さSk及び山頂部の算術平均曲率Sscは、後述するガラス主面の研磨により制御できる。研磨は、例えばコロイダルシリカを砥粒に用いて研磨することで、中心ラフネス深さSk及び山頂部の算術平均曲率Sscを小さくできる。また、コロイダルシリカを砥粒に用いた研磨の前に、酸化セリウムを砥粒に用いて研磨することで、中心ラフネス深さSkをより短時間で小さくできる。その上でコロイダルシリカを砥粒に用いて研磨することで、山頂部の算術平均曲率Sscをより好適に制御できる。
【0031】
また、上記に加え、サミット密度Sds(Density of Summits)をさらに制御することが好ましい。
サミット密度Sdsとは、ガラス表面において、単位面積1μmあたりの高さが極大となるポイント、すなわち頂点の数を表す。図4に、サミット密度Sdsと割れ強度との関係を示すが、それらには、一定の相関があることが分かった。これは、サミット密度Sdsが低いほど、ガラス表面の平坦性は高く、ペン落下試験による衝撃による応力集中の起点となりうる突出部の数が少なくなる結果、ペン落下試験による割れ強度が高くなると考えられる。なお、図4は実施例及び比較例の結果であり、詳細は後述する。また、本明細書におけるサミット密度Sdsは、AFM(原子間力顕微鏡)を用いた表面分析でSPIPソフトを用いて解析して得られるサミット密度Sdsの値を用いる。具体的な測定方法は下記に示すとおりである。
【0032】
「サミット密度Sds」の測定方法:
初めに、AFM(XE-HDM;Park systems社製)、測定モード:ノンコンタクトモード、スキャンサイズ:10μm×5μm、カラースケール:±1nm、スキャン速度:1Hz、カンチレバー:Non-Contact Cantilever(Item:PPP-NCHR 10M;Park systems社製)により形状像を取得する。その後、画像解析ソフト(イメージメトロロジー社製、SPIP6.2.6)を用い、上記形状像のレべリング処理およびL-フィルタリング処理(ISO値2.0μm)を実施し、ラフネス解析によりサミット密度(Sds)を求める。
【0033】
化学強化ガラスの主面におけるサミット密度Sdsは125(1/μm)以下が好ましく、115(1/μm)以下がより好ましく、100(1/μm)以下がさらに好ましく、90(1/μm)以下がよりさらに好ましい。サミット密度Sdsの下限は特に限定されないが、通常40(1/μm)以上である。
【0034】
サミット密度Sdsも中心ラフネス深さSk及び山頂部の算術平均曲率Sscと同様、ガラス主面の研磨により制御でき、例えばコロイダルシリカを砥粒に用いた研磨が挙げられる。また、コロイダルシリカを砥粒に用いた研磨の前に酸化セリウムを砥粒に用いて研磨することも好ましい。
【0035】
化学強化ガラスの割れ強度は、下記条件で行うペン落下試験による割れ強度である。
図5に試験方法の模式側面図を示すが、石定盤3の上にPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム2がOCA(Optical Clear Adhesive:高透明粘着)シートで接着された台を用意する。PETフィルム2の厚みは100μmであり、弾性率は4GPaである。
PETフィルム2の上に化学強化ガラス1を第1の主面1aが上方となるように設置する。化学強化ガラス1の第2の主面1bが、中心ラフネス深さSkが0.90nm以下かつ、山頂部の算術平均曲率Sscが13.0×10―4(1/nm)以下を満たす面である。
化学強化ガラス1の上方に、アクリル製の落下補助パイプ5で固定したペン4を設置し、所定の高さからペン4のみ落下させる。ペン4の先端は直径0.5mmのステンレス鋼製のボールである。ペン4の重さは12gに調整している。
ペン4を化学強化ガラス1の主面上に落下させる高さを5mm単位で高くしていき、化学強化ガラス1の第2の主面1bに割れが生じた際の、化学強化ガラスの第1の主面1aからペン4の先端までの高さhを測定する。また、ペン落下時の衝撃によりペン4の先端が変形する場合があることから、落下毎にマイクロスコープによってペン4の先端に変形が無いことを確認する。変形が見られた場合には、ペン4を先端の変形がないものに変更する。この測定を少なくとも5回以上行い、その平均値をペン落下試験による割れ高さとする。
【0036】
ペン落下試験による割れ高さの好ましい値は、化学強化ガラスの用途や構成によって異なる。例えばフォルダブルデバイスのカバーガラスとして画像表示装置の最表面に化学強化ガラスを用いる場合には、ガラス厚みが100μmの場合、10cm以上が好ましく、12cm以上がより好ましい。割れ高さの上限は特に限定されないが、ガラス厚みが100μmの場合、通常20cm以下である。
また、画像表示装置として、化学強化ガラスに樹脂フィルムを積層した構成部材に用いる場合には、割れ高さは20cm以上が好ましく、30cm以上がより好ましい。同様に、画像表示装置として、化学強化ガラスにハードコーティングした構成部材を用いた場合においても、割れ高さは20cm以上が好ましく、30cm以上がより好ましい。
【0037】
また、ペン落下試験による割れ高さは、化学強化ガラスの表面粗さに関する性質のみならず、ガラス組成や厚み、化学強化処理条件等によっても変わる。そのため、好ましい絶対的な値を定めることが困難な場合がある。
そこで、本発明の効果の検証として、ガラスに対して化学強化処理のみを行い、表面粗さに関する調整を行っていない未加工の化学強化ガラスにおけるペン落下試験による割れ高さと比較できる。本実施形態に係る化学強化ガラスの割れ高さは、未加工の化学強化ガラスの割れ高さに対して1.4倍以上が好ましく、1.6倍以上がより好ましく、1.8倍以上がさらに好ましい。割れ高さの上限は特に限定されないが、通常3.0倍以下である。
【0038】
先述したように、本実施形態に係る化学強化ガラスは、フォルダブルデバイス等のカバーガラスを用途のひとつとして想定している。その上で、ペン落下試験のように、先端が尖ったものが衝突することで、カバーガラスのペン等が衝突した面とは反対側に生じる割れを防ぐことを目的とする。この割れは、化学強化ガラスの厚みが十分である場合には生じないことから、化学強化ガラスの厚さは0.20mm以下とする。化学強化ガラスの厚さは、折り曲げた時の最小破壊曲げ半径の観点から、0.19mm以下が好ましく、0.18mm以下がより好ましく、0.17mm以下がさらに好ましい。また、化学強化ガラスは、強度の観点から、厚さが0.04mm以上が好ましく、0.05mm以上がより好ましく、0.06mm以上がさらに好ましく、0.08mm以上がよりさらに好ましい。
【0039】
化学強化ガラスは、フォルダブルデバイスのカバーガラスとして用いる場合には、厚さtが0.20mm以下で、曲げ半径Rが20mm以下に屈曲可能であることが好ましい。また、曲げ半径Rは、18mm以下がより好ましく、16mm以下がさらに好ましく、14mm以下がよりさらに好ましく、12mm以下が特に好ましいく、10mm以下が最も好ましい。屈曲可能な曲げ半径Rの下限は特に限定されないが、通常1mm以上である。
屈曲可能な曲げ半径Rは、ガラスの端面のみを化学エッチング等することにより、平滑性を高めることで小さくできる。また、化学強化処理により表面圧縮応力値CSを高めることや化学強化処理後に、酸処理及びアルカリ処理をすることによって、ガラスの主面や端面に存在するクラックや潜傷を除去することによっても、屈曲可能な曲げ半径Rを小さくできる。
【0040】
本明細書における化学強化ガラスの曲げ半径Rは、曲げ試験装置を用いた曲げ試験方法により得られる値である。
図6に示すように、曲げ試験装置100は、本実施形態の化学強化ガラス1を湾曲させる装置である。湾曲させる化学強化ガラス1にクラックが発生するか否かを調べることで、化学強化ガラス1の耐久性を判断できる。
【0041】
曲げ試験装置100は、図6に示すように、ベース12、第1の支持盤(上側支持盤)14、第2の支持盤(下側支持盤)16、移動部200、調整部300、検出部40、支持部50、および載置部60を備える。
【0042】
第1の支持盤14は、化学強化ガラス1の端部1αを支持する。第1の支持盤14の支持面14aは、下向きの平坦な面であり、化学強化ガラス1の端部1αを固定する面である。
【0043】
第2の支持盤16は、第1の支持盤14と同様に、化学強化ガラス1の端部1βを支持する。第2の支持盤16の支持面16aは、上向きの平坦な面であり化学強化ガラス1の端部1βを載せる載置面である。第1の支持盤14と第2の支持盤16は、第1の支持盤14の支持面14aと第2の支持盤16の支持面16aとが互いに対向するように平行に配置される。化学強化ガラス1の他端部は重力で第2の支持盤16の支持面16aに押し付けられ、摩擦力で固定される。第2の支持盤16の支持面16aには、化学強化ガラス1の位置ずれを防止するため、化学強化ガラス1の端部1βと当接するストッパ17が設けられている。
【0044】
移動部200は、互いに平行な第1の支持盤14の支持面14aと第2の支持盤16の支持面16aとの間隔Dを維持した状態で、第1の支持盤14に対する第2の支持盤16の位置を移動させる。移動部200は、第1の支持盤14に対する第2の支持盤16の位置を移動させるため、ベース12に対して第2の支持盤16を平行でかつ化学強化ガラス1の湾曲方向を変えない方向に移動させる。なお、ベース12に対して第2の支持盤16を紙面に垂直な方向に移動させると、化学強化ガラス1の湾曲方向が変わるため正確に曲げ試験を実施できない。
【0045】
なお、移動部200は、ベース12に対して第2の支持盤16を平行に移動させるが、ベース12に対して第1の支持盤14を平行に移動させてもよく、第1の支持盤14および第2の支持盤16の両方を平行に移動させてもよい。いずれの場合でも、第1の支持盤14に対する第2の支持盤16の位置が移動する。
【0046】
移動部200は、昇降フレーム21、モータ22、ボールねじ機構23、スライダブロック24などで構成される。昇降フレーム21は、ベース12に対して移動自在とされる。モータ22は、昇降フレーム21に取り付けられる。ボールねじ機構23は、モータ22の回転運動を直線運動に変換してスライダブロック24に伝える。スライダブロック24は、第2の支持盤16と連結され、第2の支持盤16と共にベース12に対して平行に移動する。モータ22は、マイクロコンピュータなどで構成されるコントローラによる制御下で、ボールねじ軸23aを回転させ、ボールねじナット23bを移動させる。ボールねじナット23bの移動に伴って、スライダブロック24および第2の支持盤16がベース12に対して平行に移動する。
【0047】
調整部300は、互いに平行な第1の支持盤14の支持面14aと第2の支持盤16の支持面16aとの間隔Dを調整する。調整部300は、例えばパンタグラフ式のジャッキで構成される。
【0048】
検出部40は、化学強化ガラス1にクラックが発生するときに生じる弾性波、例えばAE(Acoustic Emission)波を検出するセンサ、例えばAEセンサで構成される。第1の支持盤14および第2の支持盤16で支持されたままの状態で化学強化ガラス1にクラックが発生するか否か判断できる。化学強化ガラス1のクラックは、化学強化ガラス1に存在する欠陥、すなわち傷、付着物、内包物等を起点として発生する。なお、本実施形態の曲げ試験装置100では、検出部40は、化学強化ガラス1を支持する第2の支持盤16に取り付けられるが、第1の支持盤14に取り付けられてもよい。
【0049】
支持部50は、ベース12に対して固定され、蝶番などの連結部52を介して、第1の支持盤14を回動自在に支持する。第1の支持盤14は、第1の支持盤14の支持面14aが第2の支持盤16の支持面16aに対して平行となる試験位置(第1の位置)と、第1の支持盤14の支持面14aが第2の支持盤16の支持面16aに対して斜めになるセット位置(第2の位置)との間で回動自在とされる。第1の支持盤14が試験位置からセット位置に回動する間、第1の支持盤14および第2の支持盤16で支持された化学強化ガラスの湾曲部の曲率半径が徐々に大きくなる。
【0050】
載置部60は、ベース12に対して固定され、第2の支持盤16よりも上方に配設される第1の支持盤14を載せる。第1の支持盤14は、試験位置(図6の位置)にあるとき、載置部60の上端面に載せられる。第1の支持盤14の姿勢が安定化するように、第1の支持盤14は複数の載置部60に載せられてよい。各載置部60にはボルト62の軸部62bを螺合するボルト孔が形成される。また、第1の支持盤14にはボルト62の軸部62bを貫通させる貫通孔が形成される。ボルト62の頭部62aと各載置部60とで第1の支持盤14が挟まれ、第1の支持盤14の姿勢が安定化できる。
【0051】
このような曲げ試験装置を用いて、下記の曲げ試験方法に基づく試験を行う。
(曲げ試験方法)
第1の支持盤と第2の支持盤は、第1の支持盤の支持面と第2の支持盤の支持面とが互いに対向するように平行に配置され、第1の支持盤と第2の支持盤とにそれぞれ化学強化ガラスの端部を支持させ、第1の支持盤の支持面と第2の支持盤の支持面との間隔が下記式(1)で求められる間隔D[mm]となるように維持する。この状態で、第1の支持盤に対する第2の支持盤の位置を、第1の支持盤の支持面及び第2の支持盤の支持面に平行でかつ化学強化ガラスの湾曲方向を変えない方向へ100mm往復移動させ、第1の支持盤と第2の支持盤との間で湾曲させる化学強化ガラスにクラックが形成されるか否かを調べる曲げ試験方法である。なお、曲げ半径Rは下記式で求められる。また、曲げ半径Rを求めるDは下記式より算出される値に相当する。
R=D/2
D=(A×E×t/σ)+t
R;化学強化ガラスの曲げ半径(単位[mm])
D;第1の支持盤の支持面と第2の支持盤の支持面との間隔(単位[mm])
A=1.198
E;化学強化ガラスのヤング率(単位[MPa])
t;化学強化ガラスの厚さ(単位[mm])
σ;曲げ応力(単位[MPa])
【0052】
化学強化ガラスの表面圧縮応力値CSは、曲げ強度の観点から300MPa以上が好ましく、500MPa以上がより好ましく、800MPa以上がさらに好ましい。また、破砕時の飛散防止の観点から表面圧縮応力値CSは1400MPa以下が好ましく、1300MPa以下がより好ましく、1200MPa以下がさらに好ましい。なお、本明細書における表面圧縮応力値CS及び圧縮応力層深さDOLは、EPMA(electron probe micro analyzer)または表面応力計(例えば、折原製作所製FSM-6000)等を用いて測定できる。
【0053】
化学強化ガラスの圧縮応力層深さDOLは、表面応力計での測定下限値の観点から4μm以上が好ましく、4.5μm以上がより好ましく、5μm以上がさらに好ましい。また、破砕時の飛散防止の観点から圧縮応力層深さDOLは30μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。
【0054】
<化学強化ガラスの製造方法>
化学強化ガラスの製造方法は、厚さ0.20mm以下のアルカリ金属イオンを含むガラス板を準備する工程、及び上記ガラス板の表面における上記アルカリ金属イオンを、上記アルカリ金属イオンのイオン半径よりも大きい他のアルカリ金属イオンとイオン交換処理をする工程を含み、上記ガラス板の少なくとも一方の主面を研磨する工程をさらに含む。
上記研磨する工程は、イオン交換処理をする工程の前及び後の少なくとも一方で行われればよく、これにより、得られる化学強化ガラスの主面の中心ラフネス深さSkを0.90(nm)以下かつ、山頂部の算術平均曲率Sscを13.0×10―4(1/nm)以下とする。
【0055】
研磨する工程は、イオン交換処理する工程の後で行われることが、イオン交換処理工程までにガラス表面に付与される微細な傷を除去できる観点から好ましい。
【0056】
ガラス板を準備する工程とイオン交換処理をする工程の間には、ガラス板を化学エッチング又は短パルスレーザによって切断する工程をさらに含むことが好ましい。研磨する工程がイオン交換処理をする工程の前で行われる場合には、ガラス板を準備する工程と切断する工程の間に、上記研磨する工程を含んでいてもよく、切断する工程とイオン交換処理をする工程との間に、上記研磨する工程を含んでいてもよい。
【0057】
以下、各工程について順に説明する。
(厚さ0.20mm以下のアルカリ金属イオンを含むガラス板を準備する工程)
本実施形態で使用されるガラス板はアルカリ金属イオンを含んでいればよく、成形、化学強化処理による強化が可能な組成を有すれば、種々の組成のものを使用できる。中でもナトリウムを含むものが好ましく、例えば、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラス、鉛ガラス、アルカリバリウムガラス、アルミノボロシリケートガラス等が挙げられる。
【0058】
ガラス板の製造方法は特に限定されず、所望のガラス原料を連続溶融炉に投入し、ガラス原料を好ましくは1500~1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で溶融ガラスを板状に成形し、徐冷して製造できる。
【0059】
なお、ガラスの成形には種々の方法を採用できる。例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウン法およびリドロー法等のダウンドロー法やフロート法、ロールアウト法、プレス法等が挙げられる。
【0060】
成形したガラス板は、必要に応じて化学エッチングや研削、研磨といったスリミング処理により薄板化し、所望の厚さとしてもよい。このようなスリミング処理は従来公知の方法を適用できるが、ガラス面の微細な傷を除去しやすく、本発明の効果をより得られる点で、化学エッチング法の使用が好適である。
【0061】
ガラス板の厚さは0.20mm以下であればよいが、スリミング処理を経ることなく0.20mm以下の厚さとしてもよく、スリミング処理によって0.20mm以下の厚さとしてもよい。
【0062】
ガラス板の形状は特に限定されない。例えば、均一な板厚を有する平板形状、少なくとも一方の主面に曲面を有する形状および屈曲部等を有する立体的な形状等の様々な形状のガラス板が挙げられる。
【0063】
ガラス板の組成は特に限定されないが、いずれも酸化物基準のモル%で表示した組成で、例えば、以下の(1)~(9)の組成が挙げられる。
(1)SiOを50~80%、Alを2~25%、LiOを0~10%、NaOを0~18%、KOを0~10%、MgOを0~15%、CaOを0~5%およびZrOを0~5%を含むガラス
(2)SiOを50~74%、Alを1~10%、NaOを6~14%、KOを3~11%、MgOを2~15%、CaOを0~6%およびZrOを0~5%含有し、SiOおよびAlの含有量の合計が75%以下、NaOおよびKOの含有量の合計が12~25%、MgOおよびCaOの含有量の合計が7~15%であるガラス
(3)SiOを68~80%、Alを4~10%、NaOを5~15%、KOを0~1%、MgOを4~15%およびZrOを0~1%含有するガラス
(4)SiOを67~75%、Alを0~4%、NaOを7~15%、KOを1~9%、MgOを6~14%およびZrOを0~1.5%含有し、SiOおよびAlの含有量の合計が71~75%、NaOおよびKOの含有量の合計が12~20%であり、CaOを含有する場合その含有量が1%未満であるガラス
(5)SiOを65~75%、Alを0.1~5%、MgOを1~6%、CaOを1~15%含有し、NaO+KOが10~18%であるガラス
(6)SiOを60~72%、Alを1~10%、MgOを5~12%、CaOを0.1~5%、NaOを13~19%、KOを0~5%含有し、RO/(RO+RO)が0.20以上、0.42以下(式中、ROとはアルカリ土類金属酸化物、ROはアルカリ金属酸化物を示す。)であるガラス
(7)SiOを55.5~80%、Alを12~20%、NaOを8~25%、Pを2.5%以上、アルカリ土類金属RO(ROはMgO+CaO+SrO+BaOである)を1%以上含有するガラス
(8)SiOを57~76.5%、Alを12~18%、NaOを8~25%、Pを2.5~10%、アルカリ土類金属ROを1%以上含有するガラス
(9)SiOを56~72%、Alを8~20%、Bを3~20%、NaOを8~25%、KOを0~5%、MgOを0~15%、CaOを0~15%、SrOを0~15%、BaOを0~15%およびZrOを0~8%含有するガラス
【0064】
(ガラス板を切断する工程)
ガラス板を切断する工程は任意であるが、ガラス板を化学エッチング又は短パルスレーザによって切断することが好ましい。
ガラス板を化学エッチングにより切断する場合、まず、ガラス板の主面上にレジスト材料を塗布してレジストパターンを形成する。このレジストパターンをマスクとして、エッチャントによって露出したガラス板をエッチングする。
【0065】
ガラス板のエッチングは、ガラス板の両主面上にレジスト材料をコーティングした後、所望の外形形状を有するパターンのフォトマスクを介してレジスト材料を露光する。次に、露光後のレジスト材料を現像して、ガラス基板の被エッチング領域以外の領域にレジストパターンを形成する。そして、ガラス板の被エッチング領域をエッチングにより切断する。このとき、エッチャントとしてウェットエッチャントを使用した場合、ガラス板は等方的にエッチングされ、レジスト材料を剥離して、端面を有するガラス板が得られる。
【0066】
エッチャントは、ガラス板をエッチング切断できれば特に制限されないが、例えば、フッ酸を含む水溶液を切断箇所に接触させることで切断を行うことが好ましい。フッ酸を含む水溶液とは、例えば、フッ酸と、硫酸、硝酸、塩酸、ケイフッ酸のうち少なくとも一種の酸を加えた水溶液が挙げられる。なお、レジスト材料は、エッチャントに耐性を有するものであれば、公知の材料の中から適宜選択できる。また、レジスト材料の剥離液としては、例えば、KOHまたはNaOHなどのアルカリ溶液が挙げられる。
【0067】
また、上記の化学エッチングによる切断は、湿式エッチングを採用した例であるが、フッ素ガスを用いた乾式エッチングも採用できる。このように、ガラス板を化学エッチングにより切断すると、端面の平滑性が非常に高くなり、マイクロクラックのない表面状態を有するガラス板が得られる。
【0068】
次に、ガラス板を短パルスレーザにより切断する場合には、例えば短パルスレーザとしてピコ秒レーザ、フェムト秒レーザ、アト秒レーザ等を用い、公知の装置を用いてガラス板を切断する方法が挙げられる。ガラス板を短パルスレーザにより切断する場合でも、ガラス板の端面の平滑性が高くなり、好ましい。
【0069】
またガラス板の切断を行った後、かつイオン交換処理をする工程の前に、ガラス板の切断面である端面のみをさらに化学エッチングすることが好ましい。これにより、ガラス板の端面の平滑性がより向上し、ガラス板の曲げ強度をさらに高められる。
【0070】
ガラス板の切断面である端面の化学エッチングについて説明する。
化学エッチングによりガラス板を切断した場合、エッチング溝、即ち、区画溝が貫通した時点ではガラス板の端面は稜線の位置にて尖るような形状になることがある。このため、区画溝が貫通して複数のガラス板が得られた後も、ガラス板の端面が断面視で円弧状になるように端面エッチングを行うことがより好ましい。
【0071】
一般的に、ガラス板の端面に傷等の欠陥部分を有していた場合、端面の欠陥部分に応力が集中するとガラス板に割れが発生する。つまり、欠陥部分は、ガラス板の強度を低下させる原因となる。したがって、ガラス板の強度の低下を防ぐためには、端面に存在する傷等の欠陥部分の先端を十分に丸くすることが重要となる。なお、化学エッチング又は短パルスレーザを用いてガラス板を切断した場合、端面には、マイクロクラックと呼ばれる微細な傷が存在せず平滑であるため、高強度となりやすい。
【0072】
(ガラス板の表面におけるアルカリ金属イオンを、アルカリ金属イオンのイオン半径よりも大きい他のアルカリ金属イオンとイオン交換処理をする工程)
イオン交換処理をする工程では、アルカリ金属イオンを含むガラス板におけるアルカリ金属イオンと、該アルカリ金属イオンのイオン半径よりも大きい他のアルカリ金属イオンとをイオン交換する。これにより、ガラス板の表面にイオン交換された圧縮応力層が形成され、化学強化ガラスとなる。
【0073】
具体的には、ガラス転移点以下の温度でイオン交換によりガラス板表面のイオン半径が小さなアルカリ金属イオン、例えばLiイオンやNaイオンをイオン半径のより大きい他のアルカリ金属イオン、例えばLiイオンに対してはNaイオンやKイオン、Naイオンに対してはKイオンに置換する処理である。これにより、ガラス板表面に圧縮応力が残留し、ガラス板の強度が向上する。
【0074】
化学強化処理は、ガラスに含まれるアルカリ金属イオンのイオン半径よりも大きい他のアルカリ金属イオンを含む無機塩組成物に、先述したアルカリ金属イオンを含むガラスを接触させてイオン交換をすることにより行われる。すなわち、ガラスに含まれるアルカリ金属イオンと、無機塩組成物に含まれる他のアルカリ金属イオンとがイオン交換される。
【0075】
化学強化処理は従来公知の方法を適用できるが、ガラス板にアルカリ金属イオンとしてNaイオンが含まれる場合、無機塩組成物は、例えば、硝酸カリウム(KNO)を含有する無機塩組成物であって、さらに、KCO、NaCO、KHCO、NaHCO、KPO、NaPO、KSO、NaSO、KOH及びNaOHからなる群より選ばれる少なくとも一種の融剤を含有することが、無機塩の長寿命化の点からより好ましい。この無機塩組成物にガラス板を接触させることにより、ガラス板中のNaイオンと無機塩組成物中のKイオンとがイオン交換される。
【0076】
無機塩組成物にガラス板を接触させる方法としては、ペースト状の無機塩組成物を塗布する方法、無機塩組成物の水溶液をガラス板に噴射する方法、融点以上に加熱した溶融塩の塩浴にガラス板を浸漬させる方法などが可能であるが、これらの中では、溶融塩に浸漬させる方法が好ましい。
【0077】
溶融塩への浸漬により化学強化処理を行う場合、最初にガラス板を予熱し、溶融塩を、化学強化処理を行う温度に調整する。次いで、例えば100℃以上に予熱したガラス板を溶融塩槽の溶融塩中に所定の時間浸漬したのち、ガラスを溶融塩中から引き上げ、放冷することで化学強化ガラスが得られる。
【0078】
化学強化温度、すなわち溶融塩の温度は、ガラス板の歪点以下であればよい。なお、ガラス板の歪点は通常500~600℃程度である。また、より高い圧縮応力層深さDOLを得るためには350℃以上がより好ましく、処理時間の短縮及び低密度層形成促進のためには400℃以上がさらに好ましく、430℃以上が特に好ましい。
【0079】
ガラス板の溶融塩への浸漬時間は1分~10時間が好ましく、5分~8時間がより好ましく、10分~4時間がさらに好ましい。かかる範囲において、強度と圧縮応力層深さのバランスに優れた化学強化ガラスが得られる。
【0080】
イオン交換処理をした後に後述する酸処理を行う場合には、ガラス板を浸漬する時の溶融塩中の水蒸気量を増やすことにより、上記酸処理においてガラス板に形成される低密度層をより厚くできることから好ましい。ガラス板の低密度層の厚みを、ガラス主面および端面に存在するクラックや潜傷の平均深さ以上の厚みとできると、その後のアルカリに接触させる工程において該低密度層を除去する際に、低密度層の除去とともに、該クラックや潜傷も除去できる。そのため、化学強化ガラスのより優れた曲げ強度を達成し、曲げ半径Rが例えば5mm以下に屈曲可能なフォルダブルの特性を有する化学強化ガラスをも実現できる。
【0081】
ガラス板を浸漬する時の溶融塩中の水蒸気量を増やす条件下でイオン交換処理をする場合には、露点温度が20℃以上の雰囲気中で行うとことがより好ましく、露点温度は30℃以上がさらに好ましく、40℃以上がよりさらに好ましく、50℃以上が特に好ましい。また露点温度の上限は、イオン交換を行う無機塩組成物、例えば溶融塩の温度以下が好ましい。
【0082】
露点温度は、溶融塩の少なくとも界面近傍における露点温度が上記範囲内であればよく、界面近傍とは、溶融塩の界面から200mm以下の領域の雰囲気を意味する。露点温度は、ヴァイサラDRYCAP(登録商標) DMT346露点変換器によって測定できる。なお本明細書における露点温度とは、溶融塩と溶融塩界面近傍の雰囲気との間に平衡が成り立ったとみなした時の値である。
【0083】
イオン交換処理をする工程の前やイオン交換処理をする工程と同時に、溶融塩や界面近傍の雰囲気に水蒸気を導入することで、上記露点を達成できる。例えば、水蒸気供給部を溶融塩槽に付加することにより、溶融塩及び/又は溶融塩の界面近傍の雰囲気に水蒸気を導入できる。
【0084】
すなわち、溶融塩に水蒸気供給部により供給される水蒸気そのものや、水蒸気を含む気体、液体である水を直接バブリングしてもよく、溶融塩上部の空間に水蒸気や水蒸気を含む気体を導入してもよい。また、水蒸気爆発が起きない範囲で、液体である水そのものを溶融塩上に滴下して導入してもよい。なお、水蒸気を含む気体は、化学強化処理に影響を及ぼさない気体を使用できる。例えば、空気、窒素ガス、炭酸ガス等の乾燥した気体を加熱した水中に導入することにより得られる。
【0085】
水蒸気や水蒸気を含む気体、液体である水の導入に際し、溶融塩の攪拌は必須ではないが、平衡に達するまでの時間を短縮する点で、攪拌する方が好ましい。なお、雰囲気の露点が安定し、一定となれば平衡に達したものと判断できる。
これらを用いて露点温度を20℃以上の雰囲気とする方法は、従来公知の方法を適用できる。
【0086】
化学強化処理を行った後、ガラス板を洗浄する工程をさらに行うことが好ましい。洗浄する工程では工水、イオン交換水等を用いてガラスの洗浄を行う。工水は必要に応じて処理したものを用いる。中でもイオン交換水が好ましい。
【0087】
洗浄の条件は用いる洗浄液によっても異なるが、イオン交換水を用いる場合には0~100℃で洗浄することが付着した塩を完全に除去させる点から好ましい。洗浄する工程では、イオン交換水等が入っている水槽に化学強化ガラスを浸漬する方法や、ガラス表面を流水にさらす方法、シャワーにより洗浄液をガラス表面に向けて噴射する方法等、様々な方法を使用できる。
【0088】
化学強化ガラスはさらに、酸処理する工程及びアルカリ処理する工程を順に行うことが好ましい。
酸処理する工程とは、酸性の溶液中に、化学強化ガラスを浸漬させることで、化学強化ガラス表面のNaやKをHに置換する。これにより、ガラス表面には圧縮応力層の表層が変質した、具体的には低密度化された、低密度層をさらに有することとなる。この低密度層が続くアルカリ処理する工程で除去されることとなる。
【0089】
酸処理する工程により形成される低密度層が厚いほど、続くアルカリ処理する工程によるガラス表面の除去量が多くなる。低密度層の厚さは、クラックや潜傷の平均深さ以上とすることが、アルカリ処理で低密度層が除去される際に、それらクラックや潜傷も共に除去されることから好ましい。すなわち、ガラス表面除去性の観点から、低密度層の厚さは50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましく、150nm以上がさらに好ましい。
【0090】
また、低密度層の密度はガラス表面除去性の観点から、イオン交換された圧縮応力層よりも深い領域、すなわちバルクの密度に比べて低いことが好ましい。
なお、低密度層の厚さはX線反射率法(X-ray-Reflectometry:XRR)によって測定した周期(Δθ)から求められる。低密度層の密度はXRRによって測定した臨界角(θc)により求められる。さらに、簡易的には走査型電子顕微鏡(SEM)でガラスの断面を観察することで、低密度層の形成と層の厚さを確認できる。
【0091】
酸処理工程の後、好ましくは上記ガラス板を洗浄する工程と同様の工程により洗浄された化学強化ガラスに対して、アルカリ処理することが好ましい。
をさらに行う。
【0092】
アルカリ処理とは、塩基性の溶液中に、化学強化ガラスを浸漬させることによって行い、これにより酸処理工程で形成された低密度層の一部又は全部を除去できる。
溶液は塩基性であれば特に制限されずpH7超であればよく、弱塩基を用いても強塩基を用いてもよい。具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等の塩基が好ましい。これらの塩基は単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0093】
アルカリ処理により、Hが侵入した低密度層の一部又は全部が除去され、ガラス表面に存在していたクラックや潜傷を低密度層と共に除去し得る。なお、アルカリ処理の後にも、上記ガラス板を洗浄する工程と同様の工程により洗浄することが好ましい。
【0094】
(ガラス板の少なくとも一方の主面を研磨する工程)
上記イオン交換処理をする工程の前及び後の少なくとも一方で、ガラス板の少なくとも一方の主面を研磨する。これにより、最終的に得られる化学強化ガラスの中心ラフネス深さSkを0.90(nm)以下かつ、山頂部の算術平均曲率Sscを13.0×10―4(1/nm)以下とできる。
研磨する工程は、少なくともイオン交換処理をする工程の後に行うことが好ましい。
【0095】
研磨する工程は、コロイダルシリカを砥粒に用いて研磨する工程を含むことが好ましい。これにより、厚さが0.2mm以下の化学強化ガラスの割れ強度が、研磨する工程を行わない未処理の化学強化ガラスの割れ強度と比べて向上する。この効果は、コロイダルシリカを砥粒に用いて研磨する工程の前に、さらに酸化セリウムを砥粒に用いて研磨する工程を行った場合に顕著であった。
すなわち、研磨する工程は、酸化セリウムを砥粒に用いて研磨する工程、次いで、コロイダルシリカを砥粒に用いて研磨する工程を含むことがより好ましい。
【0096】
砥粒としてコロイダルシリカを砥粒に用いて研磨することにより、ガラス表面の凹凸のうち、特に突出した山部を削り、中心ラフネス深さSkを小さくすると共に、山頂部の算術平均曲率Sscも小さくできる。また、サミット密度Sdsも小さくできる。
【0097】
コロイダルシリカの平均粒子直径は、研磨特性維持の点から、平均二次粒子径で1nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに好ましい。一方、砥粒の濃度を一定以上とする観点から、平均粒子直径は100nm以下が好ましく、90nm以下がより好ましく、80nm以下がさらに好ましい。なお、コロイダルシリカの平均二次粒子径は、純水等の分散媒中に分散した分散液を用いて、レーザー回折・散乱式等の粒度分布計を使用して測定される。
【0098】
コロイダルシリカを砥粒に用いた研磨による研磨量は、研磨特性維持の観点から10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、30nm以上がさらに好ましい。また、ガラスの反り防止の点から、研磨量は9μm以下が好ましく、7μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。
【0099】
コロイダルシリカを砥粒に用いた研磨による研磨圧は、研磨特性維持の観点から1kPa以上が好ましく、2kPa以上がより好ましく、3kPa以上がさらに好ましい。また、基板割れ防止の点から、研磨圧は100kPa以下が好ましく、90kPa以下がより好ましく、80kPa以下がさらに好ましい。
【0100】
コロイダルシリカを砥粒に用いた研磨における研磨装置の定盤の回転速度は、研磨特性維持の観点から、最外周の周速が1m/分以上が好ましく、3m/分以上がより好ましく、5m/分以上がさらに好ましい。また、研磨スクラッチ防止の点から、回転速度は90m/分以下が好ましく、80m/分以下がより好ましく、70m/分以下がさらに好ましい。
【0101】
砥粒は、本発明の効果を損なわない範囲において、コロイダルシリカに加えて、その他の公知の砥粒を含有してもよい。ここで含有できる砥粒としては、ナノセリア微粒子、ナノアルミナ微粒子等が挙げられる。
【0102】
コロイダルシリカは、砥粒として用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、コロイダル粒子を含む研磨粒子を、純水等の水に分散させることにより調製する方法で製造されたコロイダルシリカを使用できる。中でも高い分散性を持つことが好ましい。
【0103】
砥粒はシリカ粒子を含めばよいが、2種以上の砥粒を用いる場合には、砥粒中のシリカ粒子の含有量は1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、100質量%、すなわち他の砥粒を含まないことが特に好ましい。
【0104】
コロイダルシリカのシリカ粒子の濃度は、研磨特性維持の観点から、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。また、エロージョンおよび研磨スクラッチ防止の観点から、シリカ粒子の濃度は、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。
【0105】
コロイダルシリカには、その他、任意成分として、界面活性剤、酸化抑制剤等を必要に応じて適宜含有できる。
【0106】
砥粒として酸化セリウム粒子を用いることで、高い研磨速度でガラス板又は化学強化ガラスを研磨できる。これにより、ガラス表面の凹凸のうち、特に突出した山部を削り、サミット密度Sdsを小さくするのに好適である。このように、酸化セリウムを砥粒に用いた研磨で粗仕上げを行った後に、上述したコロイダルシリカを砥粒に用いた研磨を行うことで、コロイダルシリカを砥粒に用いた研磨による効果のうち、特に中心ラフネス深さSkの低減及び山頂部の算術平均曲率Sscの低減について、より効果的に発揮できる。
【0107】
酸化セリウムの平均粒子直径は、研磨特性維持の点から、平均二次粒子径で0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、0.5μm以上がさらに好ましい。一方、砥粒の濃度を一定以上とする観点から、平均粒子直径は5μm以下が好ましく、4μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましい。なお、酸化セリウムの平均二次粒子径は、純水等の分散媒中に分散した分散液を用いて、レーザー回折・散乱式等の粒度分布計を使用して測定される。
【0108】
酸化セリウムを砥粒に用いた研磨による研磨量は、研磨特性維持の観点から10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、30nm以上がさらに好ましい。また、ガラスの反り防止の点から、研磨量は9μm以下が好ましく、7μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。
【0109】
酸化セリウムを砥粒に用いた研磨による研磨圧は、研磨特性維持の観点から1kPa以上が好ましく、2kPa以上がより好ましく、3kPa以上がさらに好ましい。また、基板割れ防止の点から、研磨圧は100kPa以下が好ましく、90kPa以下がより好ましく、80kPa以下がさらに好ましい。
【0110】
酸化セリウムを砥粒に用いた研磨における研磨装置の定盤の回転速度は、研磨特性維持の観点から、最外周の周速が1m/分以上が好ましく、3m/分以上がより好ましく、5m/分以上がさらに好ましい。また、研磨スクラッチ防止の点から、回転速度は90m/分以下が好ましく、80m/分以下がより好ましく、70m/分以下がさらに好ましい。
【0111】
砥粒は、本発明の効果を損なわない範囲において、酸化セリウム(セリア)に加えて、その他の公知の砥粒を含有してもよい。ここで含有できる砥粒としては、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化チタン(チタニア)、酸化クロム、酸化鉄、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化マンガン等の金属酸化物、ダイヤモンド、炭化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ホウ素等からなる微粒子が挙げられる。
【0112】
酸化セリウム粒子は、砥粒として用いられる粒子であれば特に限定されないが、例えば、特開平11-12561号公報や特開2001-35818号公報に記載された方法で製造された酸化セリウム粒子を使用できる。すなわち、硝酸セリウム(IV)アンモニウム水溶液にアルカリを加えて水酸化セリウムゲルを作製し、これをろ過、洗浄、焼成して得られた酸化セリウム粒子、または高純度の炭酸セリウムを粉砕後焼成し、さらに粉砕、分級して得られた酸化セリウム粒子を使用できる。また、特表2010-505735号公報に記載されているように、液中でセリウム(III)塩を化学的に酸化して得られた酸化セリウム粒子も使用できる。
【0113】
砥粒は酸化セリウムを含めばよいが、2種以上の砥粒を用いる場合には、砥粒中の酸化セリウムの含有量は1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、100質量%、すなわち他の砥粒を含まないことが特に好ましい。
【0114】
研磨は、水又は水溶性媒体に砥粒を分散させた研磨用組成物を用いる。研磨用組成物中の酸化セリウムの含有量は、研磨特性維持の観点から、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。また、研磨スクラッチ防止の観点から、研磨用組成物中の酸化セリウムの含有量は、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。
【0115】
研磨用組成物は、水又は水溶性媒体を分散媒とすることから、必須成分として水を含有する。水は、イオン交換し、異物が除去された純水を用いることが好ましい。水溶性溶媒としては、水溶性アルコール、水溶性ポリオール、水溶性エステル、水溶性エーテルなどを使用できる。中でも、水のみからなる分散媒を用いることがより好ましい。
【0116】
研磨用組成物は、ガラス基板へのダメージ防止の点からpHを2.0~11.0とすることが好ましく、pH調整剤として、種々の無機酸、および有機酸またはそれらの塩もしくは塩基性化合物を含有してもよい。これらは従来公知のものを使用できる。
【0117】
研磨用組成物には、その他、任意成分として、防錆剤や分散剤、酸化剤、潤滑剤、粘性付与剤または粘度調節剤、防腐剤等を必要に応じて適宜含有できる。
防錆剤としては、公知の防錆剤を使用でき、例えば、含窒素複素環化合物、ノニオン性界面活性剤等が挙げられる。
分散剤としては、公知の分散剤を使用でき、例えば、陰イオン性、陽イオン性、両性の界面活性剤や、陰イオン性、陽イオン性、両性の高分子化合物が挙げられ、これらの1種または2種以上を含有できる。
酸化剤としては、熱や光等の外部エネルギーによって酸素-酸素結合が解離しラジカルを生成する酸素-酸素結合を持つ過酸化物が挙げられるが、酸化剤は含まない方が好ましい。
【実施例
【0118】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに説明するが、本発明は下記例に限定されない。なお、例1~例4が実施例であり、例5~9が比較例である。
【0119】
(例1)
300mm×210mm×厚さ0.4mmのガラス板Aを準備した。
ガラス板Aは、以下のガラス組成を有する(酸化物基準のモル%表示)。
SiO 64.45%、Al 10.5%、NaO 16%、KO 0.6%、MgO 8.3%、ZrO 0.15%、TiO 0.04%
このガラス板Aを、エッチャントによって化学エッチングし、厚さ0.10mmとなるようにスリミングした。エッチャントは、水を溶媒として、フッ酸2mol/Lと塩酸4mol/Lを加えたものである。
【0120】
次いで、厚さ0.10mmとしたガラス板Aを短パルスレーザにより切断した。これにより、ガラス板Aのサイズは、49mm×49mm×厚さ0.10mmとした。
【0121】
ステンレススチール(SUS)製のポットに硝酸カリウム40kgを加え、マントルヒーターで430℃まで加熱して溶融塩を調製した。
【0122】
上記で用意したガラス板Aを350~400℃に予熱した後、370℃の溶融塩に15分浸漬し、イオン交換処理した後、室温付近まで冷却することにより化学強化処理を行った。得られた化学強化ガラスは水洗いし、乾燥した。化学強化ガラスの両主面の表面圧縮応力値CSは950MPa±50MPa、圧縮応力層深さDOLは5μm±1μmとなった。この時、最小曲げ半径は5mmとなる。
【0123】
次に、酸化セリウム(昭和電工株式会社製、SHOROX(登録商標) NX23、平均粒子直径1~2μm)をイオン交換水に分散させた研磨用組成物Aを調製した。研磨用組成物のpHは8であり、研磨用組成物における酸化セリウムの含有量は30質量%である。
この研磨用組成物を用いて、化学強化ガラスの研磨を行った。研磨圧は5kPa、回転速度は最外周の周速が40m/分とし、研磨量が400nmとなるように研磨を行った。
【0124】
次いで、コロイダルシリカ(花王株式会社製、メモリード、平均粒子直径20nm)を用いて研磨を行った。コロイダルシリカのシリカ粒子の濃度は40質量%である。研磨圧は5kPa、回転速度は最外周の周速が40m/分とし、研磨量が100nmとなるように研磨を行った。
以上により、例1の化学強化ガラスを得た。例1の化学強化ガラスの厚さは0.10mmであった。
【0125】
(例2)
酸化セリウムを砥粒に用いた研磨を行う前にフッ酸を用いたエッチングを行い、酸化セリウムを砥粒に用いた研磨での研磨量を100nm、コロイダルシリカを砥粒に用いた研磨での研磨量を30nmとした以外は例1と同様にして、例2の化学強化ガラスを得た。
フッ酸を用いたエッチングは、水を溶媒としてフッ酸0.5mol/Lと塩酸3mol/Lを加えた溶液の条件で行い、主面の除去量は1000nmとした。
【0126】
(例3)
酸化セリウムを砥粒に用いた研磨を行わず、コロイダルシリカを砥粒に用いた研磨での研磨量を30nmとした以外は例1と同様にして、例3の化学強化ガラスを得た。
【0127】
(例4)
コロイダルシリカを砥粒に用いた研磨を行う前にフッ酸を用いたエッチングを行い、酸化セリウムを砥粒に用いた研磨を行わず、コロイダルシリカを砥粒に用いた研磨での研磨量を100nmとした以外は例1と同様にして、例4の化学強化ガラスを得た。
フッ酸を用いたエッチングは、例2と同様の条件で行い、1000nmの研磨を行った。
【0128】
(例5)
ステンレススチール(SUS)製のポットに硝酸カリウム36.490kg、炭酸カリウム3.215kg、硝酸ナトリウム296gを加え、マントルヒーターで430℃まで加熱して炭酸カリウム6mol%、ナトリウム2000重量ppmの溶融塩を調製した。溶融塩の界面近傍の雰囲気中に70℃に加熱した水中に導入した空気40L/minを流すことにより、溶融塩中に水蒸気を含ませた。
この時、乾燥した気体として空気を用い、該空気を水槽によって70℃に加熱された水中に通すことで加湿し、加湿された水蒸気を含む気体(空気)Bとした。
水蒸気を含む気体Bをリボンヒーターで加熱された経路を通して化学強化処理を行う槽の無機塩組成物である溶融塩の上部の空間に導入することで、イオン交換する工程における露点の制御を行った。この時の1cm当たりの水蒸気供給量は0.2mg/分であり、溶融塩の界面近傍の露点は55℃であった。
上記で用意したガラス板Aを350~400℃に予熱した後、370℃の溶融塩に15分浸漬し、イオン交換処理した後、室温付近まで冷却することにより化学強化処理を行った。得られた化学強化ガラスは水洗いし、乾燥した。
その後、6.0重量%の硝酸[硝酸1.38(関東化学社製)をイオン交換水で希釈]をビーカーに用意し、ウォーターバスを用いて50℃に温度調整を行った。この中に、イオン交換処理を経た化学強化ガラスを180秒間浸漬させ、酸処理を行った。その後、ガラスを水洗いした。
次いで、4.0重量%の水酸化ナトリウム水溶液[48%水酸化ナトリウム溶液(関東化学社製)をイオン交換水で希釈]をビーカーに用意し、ウォーターバスを用いて50℃に温度調整を行った。この中に、酸処理を経て洗浄した化学強化ガラスを180秒間浸漬させ、アルカリ処理を行った。その後、ガラスを水洗いし、乾燥させ、例5の化学強化ガラスを得た。なお、研磨は行わなかった。
酸処理及びアルカリ処理による主面の除去量は30nmであった。
【0129】
(例6)
例1と同様の化学強化処理の後に、例2と同様のフッ酸を用いたエッチングを行い、例6の化学強化ガラスを得た。なお、研磨は行わなかった。フッ酸を用いたエッチングによる主面の除去量は1000nmとした。
【0130】
(例7)
例5と同様の化学強化処理の後に、酸処理及びアルカリ処理を行った。その後、酸化セリウムを砥粒に用いた研磨を行わず、コロイダルシリカを砥粒に用いた研磨を行った。コロイダルシリカを砥粒に用いた研磨は、研磨量を70nmとした以外は例1のコロイダルシリカを砥粒に用いた研磨と同様にし、例7の化学強化ガラスを得た。
【0131】
(例8)
コロイダルシリカを砥粒に用いた研磨を行わず、酸化セリウムを砥粒に用いた研磨での研磨量を100nmとした以外は例1と同様にして、例8の化学強化ガラスを得た。
【0132】
(例9)
例1と同様の化学強化処理を行った後、研磨や酸処理及びアルカリ処理を行うことなく、例9の化学強化ガラスを得た。
【0133】
(中心ラフネス深さSk、山頂部の算術平均曲率Ssc及びサミット密度Sds)
化学強化ガラスの研磨された側の主面について、原子間力顕微鏡(AFM、パークシステムズ社製、WPA-100)を用いた表面分析を行った。分析結果をSPIPソフトを用いて解析することで、中心ラフネス深さSk、山頂部の算術平均曲率Ssc及びサミット密度Sdsの値を求めた。なお、研磨を行っていない場合には、化学強化処理、酸処理及びアルカリ処理は、両主面に同条件で施されることから、どちらの主面を分析対象としてもよい。結果を表1及び図2図4に示す。
【0134】
(割れ強度)
化学強化ガラスの割れ強度を、下記条件でペン落下試験を行い評価した。
図5に試験方法の模式側面図を示すが、石定盤3の上にPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム2がOCA(Optical Clear Adhesive:高透明粘着)シートで接着された台を用意した。PETフィルム2の厚みは100μmであり、弾性率は4GPaである。
PETフィルム2の上に化学強化ガラス1を第1の主面1aが上方となるように設置した。化学強化ガラス1の第2の主面1b、研磨された側の面である。なお、研磨を行っていない場合には、化学強化処理、酸処理及びアルカリ処理は、第1の主面1aと第2の主面1bの両主面に同条件で施されることから、その場合には、どちらの主面を第2の主面1bとしてもよい。
化学強化ガラス1の上方に、アクリル製の落下補助パイプ5で固定したペン4を設置し、所定の高さからペン4のみ落下させた。ペン4の先端は直径0.5mmのステンレス鋼製のボールである。
ペン4を化学強化ガラス1の主面上に落下させる高さを5mm単位で高くしていき、化学強化ガラス1の第2の主面1bに割れが生じた際の、化学強化ガラスの第1の主面1aからペン4の先端までの高さhを測定した。この測定を少なくとも5回以上行い、その平均値をペン落下試験による割さとした。ペン落下試験による割れ高さは10cm以上であれば合格であり、12cm以上がより好ましい。結果を表1に示す。
【0135】
【表1】
【0136】
表1及び図2の結果から、中心ラフネス深さSkが小さいと、ペン落下試験による割れ強度が高くなる傾向が見られた。具体的にはコロイダル研磨を実施したグループ(図2:黒塗りのプロット)において、全て中心ラフネス深さSkが効果的に低減されている。またペン落下試験割れ高さ平均値は化学強化処理のみの例9が5.45cmで割れているのに対して、コロイダル研磨を実施したグループ(図2:黒塗りのプロット)では最大13.9cmと、約2.6倍まで向上している。このことから、コロイダル研磨に起因した、中心ラフネス深さSkの低減はペン落下試験割れ高さに効くことが見出された。
【0137】
しかしながら、図2の中心ラフネス深さSkの要素のみでは、割れ強度とやや相関が見られるという程度であり、それだけで割れ強度を説明するには回帰不十分である。そこで、コロイダル研磨を実施したグループが中心ラフネス深さSkに対して、ペン落下試験割れ高さのばらついていることメカニズムを説明するため、表1及び図3に示すコロイダル研磨を実施したグループにおける山頂部の算術平均曲率Sscにさらに着目すると、山頂部の算術平均曲率Sscが大きいと、ペン落下試験による割れ強度が低くなる傾向が見られ、相関があることが分かった。これは、ペン落下試験をした際に、山頂部の曲率が大きい部分において局所的に応力集中が起こりやすくなり割れが発生しやすく、局所破壊の原動力になり得るためであると考えられる。中でもコロイダル研磨を行う前に酸化セリウム研磨を行ったグループ(図3:例1)において最も山頂部の算術平均曲率Sscが低減され、かつペン落下試験割れ強度も最高値を取ることから、これら研磨を複合化することも有効であることが見出された。
【0138】
以上の結果から、化学強化ガラスの主面が中心ラフネス深さSkが0.90(nm)以下かつ、山頂部の算術平均曲率Sscが13.0×10―4(1/nm)以下を満たすことにより、優れた割れ強度を有することが分かった。
【0139】
また、上記に加え、表1及び図4に示すように、サミット密度Sdsと割れ強度にも一定の相関があることが分かった。これは、サミット密度Sdsが低いほど、ガラス表面の平坦性は高く、ペン落下試験による衝撃による応力集中の起点となりうる突出部の数が少なくなる結果、ペン落下試験による割れ強度が高くなると考えられる。より詳細にはコロイダル研磨を行う前に酸化セリウム研磨を行ったグループ(図4:例1、例2)において最もサミット密度Sdsが低減され、かつペン落下試験割れ強度も最高値を取ることから、これら研磨を複合化することも有効であることが見出された。つまり、ペン落下試験割れ強度が全体として高いグループは中心ラフネス深さSk、山頂部の算術平均曲率Sscに加えて、サミット密度Sdsも低減されている傾向があることが見出された。
【符号の説明】
【0140】
1 化学強化ガラス
1a 第1の主面
1b 第2の主面
1α、1β 端部
2 PETフィルム
3 石定盤
4 ペン
5 落下補助パイプ
100 曲げ試験装置
12 ベース
14 上側支持盤(第1の支持盤)
14a 支持面
16 下側支持盤(第2の支持盤)
16a 支持面
200 移動部
21 昇降フレーム
22 モータ
23 ボールねじ機構
24 スライダブロック
300 調整部
40 検出部
50 支持部
52 連結部
60 載置部
図1
図2
図3
図4
図5
図6