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特許7511106含フッ素化合物の製造方法及び共重合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】含フッ素化合物の製造方法及び共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/278 20060101AFI20240628BHJP
   C07C 19/16 20060101ALI20240628BHJP
   C08F 14/02 20060101ALI20240628BHJP
   C08F 14/18 20060101ALI20240628BHJP
   C08F 14/24 20060101ALI20240628BHJP
   C08F 14/26 20060101ALI20240628BHJP
   C08F 293/00 20060101ALI20240628BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240628BHJP
【FI】
C07C17/278
C07C19/16
C08F14/02
C08F14/18
C08F14/24
C08F14/26
C08F293/00
C07B61/00 300
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021545522
(86)(22)【出願日】2020-09-07
(86)【国際出願番号】 JP2020033767
(87)【国際公開番号】W WO2021049455
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019166182
(32)【優先日】2019-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大倉 雅博
(72)【発明者】
【氏名】渡貫 俊
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-504446(JP,A)
【文献】XU, Tianchi et al.,Step Transfer-Addition and Radical-Termination (START) Polymerization of α,ω-Unconjugated Dienes u,Macromol. Rapid Commun.,2017年,Vol.38, No.13, 1600587,[retrieved on 2020.10.21], Retrieved from the Internet: <URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/tjsai/33/2/33_F-H72/_pdf/-char/ja>,ISSN 1022-1336
【文献】BRACE, Neal O.,Syntheses with F-Alkyl Radicals from F-Alkyl Iodides: Amine and Amine Salt Induced Addition to Alken,J. Org. Chem.,1979年,Vol.44, No.2,pp.212-217,ISSN 0022-3263
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/278
C07C 19/16
C08F 14/02
C08F 14/18
C08F 14/24
C08F 14/26
C08F 293/00
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオンと対カチオンとからなるイオン性触媒の存在下、下記式(1)で表される部分構造を有する化合物(10)に対する、下記式(20)で表される化合物の挿入反応により、下記式(3)で表される部分構造を有する化合物(30)を製造する方法であって、
前記アニオンが、ヨウ素、窒素及び硫黄からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む1価のアニオンであり、
前記対カチオンが、窒素及びリンの少なくともいずれか一種の元素を含むカチオン、アルカリ金属イオン、又はプロトンである、化合物(30)の製造方法。
【化1】

(式中、*は結合手を表す。X及びR~Rはそれぞれ独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基を表し、かつ、R ~R のうち少なくともいずれか1つがフッ素原子又は塩素原子である。
【請求項2】
前記式(20)で表される化合物が、下記式(21)で表される化合物である、請求項1に記載の製造方法。
【化2】

(式中、X11~X13はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は-CX151617を表し、X15~X17はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。X14は、フッ素原子又は塩素原子を表す。)
【請求項3】
前記式(20)で表される化合物が、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン、塩化ビニリデン、塩化ビニル、1-クロロ-1-フルオロエチレン、又は1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記化合物(10)が、下記式(11)で表される化合物、又は下記式(12)で表される化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【化3】

(式中、R11は炭素数1~4のペルフルオロアルキル基を表す。R12は炭素数1~4のペルフルオロアルキレン基を表す。X21~X23はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は-CX242526を表し、X24~X26はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。)
【請求項5】
前記化合物(10)が、下記式(4)で表される単位を複数含む化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【化4】

(式中、X31~X34はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は-CX353637を表し、X35~X37はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。)
【請求項6】
前記化合物(10)のフッ素含量が50質量%以上である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記式(20)で表される化合物が、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン又は1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンであり、
前記化合物(10)に対する、前記式(20)で表される化合物の前記挿入反応を2回以上行う、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
得られる前記化合物(30)が重合体であり、前記重合体の多分散度が2.0以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
下記式(20)で表される化合物を二種以上用いた共重合による共重合体の製造方法であって、
前記式(20)で表される化合物のうち少なくとも一種が下記式(22)で表される化合物であり、イオン性触媒の存在下、下記式(1)で表される部分構造を有する化合物(10)に対し、前記式(22)で表される化合物を挿入する反応と、
前記化合物(10)とは異なる化合物であるラジカル発生剤を用いて、前記式(20)で表される化合物を、C-I結合に対して挿入する反応と、を含み、
前記イオン性触媒は、ヨウ素、窒素及び硫黄からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む1価のアニオンと、対カチオンと、からなり、前記対カチオンが、窒素及びリンの少なくともいずれか一種の元素を含むカチオン、アルカリ金属イオン、又はプロトンである、共重合体の製造方法。
【化5】

(式中、*は結合手を表す。X及びR~Rはそれぞれ独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基を表し、かつ、R ~R のうち少なくともいずれか1つがフッ素原子又は塩素原子である。X41~X43はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は-CX454647を表し、X45~X47はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。)
【請求項10】
前記共重合がブロック共重合である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記共重合がランダム共重合である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項12】
前記共重合が交互共重合である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項13】
前記式(20)で表される化合物のうち少なくとも一種が、エチレン、プロピレン、イソブチレン、アルキルビニルエーテル、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、トリアリルイソシアヌレート、1,4-ジビニルオクタフルオロブタン、1,6-ジビニルドデカフルオロヘキサン、スチレン、又はアクリル酸ブチルである、請求項9~12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
得られる前記共重合体の多分散度が2.0以下である、請求項9~13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記イオン性触媒の前記1価のアニオンがヨウ素アニオンである、請求項1~14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
前記イオン性触媒がテトラフェニルホスホニウムヨージドである、請求項1~15のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ヨウ素化合物におけるC-I結合へのオレフィンの挿入反応による、含フッ素化合物を製造する方法に関する。また、当該挿入反応を用いた共重合体の製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ラジカル重合反応は、モノマー汎用性に優れ、水などの極性媒体中でも簡便に行うことができるため、工業的に広く用いられている。得られる重合体の末端にC-I結合を導入するために、連鎖移動剤または重合開始剤として有機ヨウ素化合物が使われる。
【0003】
モノマーとしてハロオレフィン、特にフルオロオレフィンを用いた場合、末端にヨウ素が導入されたハロオレフィン重合体が合成できる。この重合体は、低反応性溶剤、熱媒体、医農薬中間体、消火剤、界面活性剤、表面処理剤、低摩擦摺動材、離型材料、樹脂成型添加剤、耐薬品グリース、低屈折率材料、低誘電率材料、耐熱エラストマー、熱可塑性エラストマー、難燃材料、耐薬品アイオノマー、フォトレジスト材料などの原料として用いられる。
また、得られたハロオレフィン重合体をマクロ連鎖移動剤またはマクロ重合開始剤として利用することで、異なるモノマーを共重合させることも可能となる。
【0004】
ハロオレフィン重合体を医農薬中間体として用いる場合には、副生成物の少ない、非常に高純度のハロオレフィン重合体が求められる。また、含フッ素化合物は有用な化合物である一方で、特定の炭素鎖長を有するPFOSやPFOAと呼ばれる化合物は、生体蓄積性の観点から、製造や使用が制限されている。そのため、特定の炭素鎖を有しない所望する化合物のみを高純度で製造することが求められる。
【0005】
これに対し、連鎖移動剤として有機ヨウ素化合物を使う場合、ラジカル発生剤としてアゾ化合物や過酸化物が用いられるが、末端にヨウ素が導入されたポリマーだけでなくラジカル発生剤に由来する末端が導入された副生成物が生じる。また、アゾ化合物や過酸化物の反応性が非常に高いことから、意図しない加熱などにより反応が暴走する恐れがある。
【0006】
重合開始剤として有機ヨウ素化合物を使う場合、単独ホモリシスによりラジカルを発生させるためには高温が必要である。これに対して特許文献1では、含フッ素有機ヨウ素化合物を用いて末端にヨウ素が導入されたポリフルオロオレフィンを低温で合成するために、触媒として銅、助触媒としてヨウ化銅を用いることが提案されている。しかし、生成物をエレクトロニクス分野やライフサイエンス分野で用いるためには、重金属である銅の成分を高度に除去する必要があった。
【0007】
上記に対し、非特許文献1では、ペルフルオロアルキルアイオダイドに対してアミンと蛍光ランプやUVランプ、日光といった光とを用いることで、光レドックス触媒や高温の熱を用いることなく、穏やかな条件でラジカル反応が進むことが開示されている。また、非特許文献2では、アミノ複素環化合物と可視光を用いることで、同様に穏やかな条件でラジカル反応が進むことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】中国特許出願公開第101434511号明細書
【非特許文献】
【0009】
【文献】Yaxin Wang et al.,Organic Letters,2017,19,1442-1445
【文献】Damian E.Yerien et al.,RSC Advances,2017,7,266-274
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、有機ヨウ素化合物のラジカル反応による含フッ素化合物の合成に関し、反応を制御するためのあらゆる検討がなされている。
【0011】
本発明の一実施形態は、これら実情に鑑みてなされたものであって、ハロオレフィン等のオレフィンのラジカル反応にあたり、反応を制御し、所望する化合物や重合体を高純度で得ることができる新規な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定の含フッ素有機ヨウ素化合物と特定のイオン性触媒の存在下で、オレフィンの挿入反応が非常に穏やかに進行することを見出した。さらにオレフィンとして特定のハロオレフィンを用いると、当該挿入反応が繰り返され、所望するハロオレフィン重合体を高純度で得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は下記<1>~<16>に関するものである。
<1> アニオンと対カチオンとからなるイオン性触媒の存在下、下記式(1)で表される部分構造を有する化合物(10)に対する、下記式(20)で表される化合物の挿入反応により、下記式(3)で表される部分構造を有する化合物(30)を製造する方法であって、
前記アニオンが、ヨウ素、窒素及び硫黄からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む1価のアニオンであり、
前記対カチオンが、窒素及びリンの少なくともいずれか一種の元素を含むカチオン、アルカリ金属イオン、又はプロトンである、化合物(30)の製造方法。
【0014】
【化1】
【0015】
(式中、*は結合手を表す。X及びR~Rは、それぞれ独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基を表す。)
【0016】
<2> 前記式(20)で表される化合物が、下記式(21)で表される化合物である、前記<1>に記載の製造方法。
【0017】
【化2】
【0018】
(式中、X11~X13はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は-CX151617を表し、X15~X17はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。X14は、フッ素原子又は塩素原子を表す。)
【0019】
<3> 前記式(20)で表される化合物が、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン、塩化ビニリデン、塩化ビニル、1-クロロ-1-フルオロエチレン、又は1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンである、前記<1>又は<2>に記載の製造方法。
<4> 前記化合物(10)が、下記式(11)で表される化合物、又は下記式(12)で表される化合物である、前記<1>~<3>のいずれか1に記載の製造方法。
【0020】
【化3】
【0021】
(式中、R11は炭素数1~4のペルフルオロアルキル基を表す。R12は炭素数1~4のペルフルオロアルキレン基を表す。X21~X23はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は-CX242526を表し、X24~X26はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。)
【0022】
<5> 前記化合物(10)が、下記式(4)で表される単位を複数含む化合物である、前記<1>~<3>のいずれか1に記載の製造方法。
【0023】
【化4】
【0024】
(式中、X31~X34はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は-CX353637を表し、X35~X37はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。)
【0025】
<6> 前記化合物(10)のフッ素含量が50質量%以上である、前記<5>に記載の製造方法。
<7> 前記式(20)で表される化合物が、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン又は1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンであり、
前記化合物(10)に対する、前記式(20)で表される化合物の前記挿入反応を2回以上行う、前記<1>~<6>のいずれか1に記載の製造方法。
<8> 得られる前記化合物(30)が重合体であり、前記重合体の多分散度が2.0以下である、前記<1>~<7>のいずれか1に記載の製造方法。
【0026】
<9> 下記式(20)で表される化合物を二種以上用いた共重合による共重合体の製造方法であって、
前記式(20)で表される化合物のうち少なくとも一種が下記式(22)で表される化合物であり、イオン性触媒の存在下、下記式(1)で表される部分構造を有する化合物(10)に対し、前記式(22)で表される化合物を挿入する反応と、
前記化合物(10)とは異なる化合物であるラジカル発生剤を用いて、前記式(20)で表される化合物を、C-I結合に対して挿入する反応と、を含み、
前記イオン性触媒は、ヨウ素、窒素及び硫黄からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む1価のアニオンと、対カチオンと、からなり、前記対カチオンが、窒素及びリンの少なくともいずれか一種の元素を含むカチオン、アルカリ金属イオン、又はプロトンである、共重合体の製造方法。
【0027】
【化5】
【0028】
(式中、*は結合手を表す。X及びR~Rはそれぞれ独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基を表す。X41~X43はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は-CX454647を表し、X45~X47はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。)
【0029】
<10> 前記共重合がブロック共重合である、前記<9>に記載の製造方法。
<11> 前記共重合がランダム共重合である、前記<9>に記載の製造方法。
<12> 前記共重合が交互共重合である、前記<9>に記載の製造方法。
<13> 前記イオン性触媒の前記1価のアニオンがヨウ素アニオンである、前記<9>~<12>のいずれか1に記載の製造方法。
<14> 前記イオン性触媒がテトラフェニルホスホニウムヨージドである、前記<9>~<13>のいずれか1に記載の製造方法。
<15> 前記式(20)で表される化合物のうち少なくとも一種が、エチレン、プロピレン、イソブチレン、アルキルビニルエーテル、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、トリアリルイソシアヌレート、1,4-ジビニルオクタフルオロブタン、1,6-ジビニルドデカフルオロヘキサン、スチレン、又はアクリル酸ブチルである、前記<9>~<14>のいずれか1に記載の製造方法。
<16> 得られる前記共重合体の多分散度が2.0以下である、前記<9>~<15>のいずれか1に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明の一実施形態によれば、特定のイオン性触媒の存在下、特定の含フッ素有機ヨウ素化合物に対して、オレフィンの挿入反応が、非常に穏やかに進行する。オレフィンとして特定のハロオレフィンを用いると、当該挿入反応は繰り返されて重合反応となり、そのラジカル重合反応を制御することができる。
【0031】
オレフィンとして、特定のハロオレフィンを選択すると、得られる重合体(ポリマー)には、難燃性、耐薬品性等の所望する特性を付与することができる。
また、一般にハロオレフィンを原料として用いる場合は、重合体の分子量分布が狭くなりにくいとされている。しかしながら、本発明の一実施形態によれば、所望するサブユニットの数となるように反応を制御することができ、分子量分布の狭い重合体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
なお、本明細書において、「式(X)で表される化合物」のことを、単に「化合物(X)」と称する場合がある。また、「式(Y)で表される部分構造」のことを、単に「部分構造(Y)」と称する場合がある。
【0033】
炭素数とは、ある基全体に含まれる炭素原子の総数を意味し、該基が置換基を有さない場合は当該基の骨格を形成する炭素原子の数を表し、該基が置換基を有する場合は当該基の骨格を形成する炭素原子の数に置換基中の炭素原子の数を加えた総数を表す。
アリール基とは、芳香族化合物において芳香環を形成する炭素原子の内いずれか1つの炭素原子に結合した1つの水素原子を取り去った残基に相当する一価の基を意味し、炭素環化合物から誘導されるホモアリール基と、ヘテロ環化合物から誘導されるヘテロアリール基とを合わせた総称で用いる。
アリーレン基とは、アリール基の炭素原子のうちいずれか1つの炭素原子に結合した1つの水素原子を取り去った残基に相当する二価の基を意味する。
反応性炭素-炭素二重結合とは、オレフィンとして各種反応しうる炭素-炭素二重結合を意味し、芳香族性の二重結合は含まない。
(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸の総称である。(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートの総称である。(メタ)アクリルアミドとは、アクリルアミド及びメタクリルアミドの総称である。
有機基とは、少なくとも1個の炭素原子を有する基である。
【0034】
<挿入反応>
本発明の第一実施形態は、特定のイオン性触媒の存在下、下記式(1)で表される部分構造を有する化合物(10)に対する、下記式(20)で表される化合物(化合物(20))の挿入反応により、下記式(3)で表される部分構造を有する化合物(30)を製造する方法に関する。
前記イオン性触媒は、1価のアニオンと対カチオンとからなり、前記1価のアニオンは、ヨウ素、窒素及び硫黄からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む。また、前記対カチオンは、窒素及びリンの少なくともいずれか一種の元素を含むカチオン、アルカリ金属イオン、又はプロトンである
式中、*は結合手を表す。X及びR~Rは、それぞれ独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基を表す。
【0035】
【化6】
【0036】
化合物(10)に対し、特定のイオン性触媒の存在下、化合物(20)を反応させると、下記スキームに示したように、Bで表されるイオン性触媒により化合物(10)の部分構造(1)におけるC-I結合が切れて炭素ラジカルが生成する。末端の炭素に不対電子を持つ炭素ラジカルと、反応性炭素-炭素二重結合を有する化合物(20)とが反応する。一方、化合物(10)由来のIについて、イオン性触媒との結合は可逆反応であり、前記化合物(20)との反応後の炭素ラジカルに対して再結合することにより、部分構造(3)を有する化合物(30)が得られる。すなわち、化合物(10)に対する化合物(20)の挿入反応が起こる。
【0037】
【化7】
【0038】
上記反応により得られる化合物(30)について、部分構造(3)におけるR及びRがそれぞれ、部分構造(1)におけるX及びFに相当する場合、上記挿入反応は繰り返されることから、重合体が得られることとなる。
【0039】
イオン性触媒は、イオン結合が強すぎると、アニオンが束縛されるために部分構造(1)のヨウ素を引き抜くことが困難となる。そこで、アニオンが露出しやすくなる対カチオンを選択する必要があり、当該対カチオンは、窒素及びリンからなる群から少なくとも1種の元素を含むカチオン、アルカリ金属イオンまたはプロトンに限られる。
【0040】
化合物(10)はラジカル発生剤として機能するものであるが、従来ラジカル発生剤として用いられる化合物としてアゾ化合物や過酸化物等が挙げられる。これらを上記反応に用いると、反応が激しく一気に反応が進むことから、反応を制御することが難しい。
これに対し、本発明では、化合物(10)を用いることにより、ラジカル発生剤として機能しつつ、当該反応が非常に穏やかに進むことから、反応を制御できることを見出したものである。
【0041】
例えば、化合物(10)の部分構造(1)に相当する部分が-CHIなる構造であると、ラジカル発生剤として機能するか否かは、化合物(20)の構造によって様々である。しかしながら、化合物(10)が、部分構造(1)、すなわち-CFXIというように、炭素原子にフッ素原子が直接結合した構造を有すると、ヨウ素が容易に外れ、化合物(20)の構造に関わらず、ラジカル発生剤として機能するようになる。
【0042】
かかる化合物(10)と特定のイオン性触媒とを用いることによって、光や熱を与えることなく、化合物(20)の挿入反応が進行し、ひいては重合反応が進行する。化合物(20)が挿入される量は、その反応の穏和性により反応時間で制御することができる。すなわち、適切な反応時間を選択することで、所望する構造を有する化合物(30)を高純度で得ることができる。また、化合物(30)が、化合物(20)の挿入反応が2回以上繰り返されて得られる重合体である場合には、分子量分布の狭い化合物(30)を得ることができる。
【0043】
[イオン性触媒]
イオン性触媒は1価のアニオンとその対カチオンとからなる。1価のアニオンは、ヨウ素、窒素及び硫黄からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む。対カチオンは、イオン結合が強くなりすぎないカチオンを選択する必要があり、窒素及びリンの少なくともいずれか1種の元素を含むカチオン、アルカリ金属イオンまたはプロトンである。
1価のアニオンのうち、ヨウ素を含むアニオン(以下、ヨウ素アニオンと称することがある。)としては、例えば、ヨウ化物イオン(I)、三ヨウ化物イオン(I )が挙げられる。他のアニオンとしては、例えば、アジ化物イオン(N )、シアン化物イオン(CN)、シアネートアニオン(OCN)、チオシアン酸イオン(SCN)が挙げられる。
中でも、部分構造(1)のヨウ素原子との相互作用の点から、ヨウ素アニオンが好ましく、ヨウ化物イオンがより好ましい。
【0044】
対カチオンのうち、窒素を含むカチオンとしては、例えば、テトラブチルアンモニウム((C)のような第四級アンモニウムカチオンが挙げられ、リンを含むカチオンとしては、例えば、テトラフェニルホスホニウム((C)のような第四級ホスホニウムカチオンが挙げられる。
アルカリ金属イオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオンが挙げられる。
中でも、耐熱性の点から、リンを含むカチオンまたはアルカリ金属イオンが好ましく、反応性の点から、第四級ホスホニウムカチオンがより好ましく、テトラフェニルホスホニウムがさらに好ましい。
【0045】
イオン性触媒としては、テトラフェニルホスホニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド、ヨウ化セシウム、ヨウ化リチウム等が好ましく、テトラフェニルホスホニウムヨージドがより好ましい。
【0046】
[化合物(10)]
化合物(10)は下記式(1)で表される部分構造を有する含フッ素有機ヨウ素化合物である。
式中、*は結合手を表し、Xは水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基を表す。
当該有機基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、カルボン酸基、スルホン酸基、1,3,5-トリアジントリオン骨格、アルキル基、アルコキシアルキル基等を挙げることができる。当該有機基の置換基としてのアルキル基、アルコキシアルキル基及びアルコキシ基は、フッ素原子、塩素原子等で置換されていてもよい。
【0047】
【化8】
【0048】
化合物(10)は上記部分構造(1)を有していればよく、化合物全体の構造は何ら限定されるものではない。すなわち、*で表される結合手は、炭化水素基等の有機基に限定されず、ヒドロキシル基やアミノ基などの各種官能基、ハロゲノ基(ハロゲン原子)や水素原子と結合していてもよい。また、有機基はヘテロ原子を含んでいてもよく、その価数や分子量も特に限定されない。
で表される置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20の炭化水素基が好ましく、置換基を有していてもよい炭素数1~20の含フッ素炭化水素基がより好ましく、炭素数1~20の含フッ素アルキル基がさらに好ましい。
で表される置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基の炭素数は、1~10が好ましく、1~6がより好ましい。
が置換基を有していてもよい炭素数1~20の含フッ素炭化水素基である場合、そのフッ素原子含有率は、50モル%以上が好ましく、75モル%以上がより好ましく、100モル%(ペルフルオロ炭化水素基)がさらに好ましい。ただし、フッ素原子含有率とは、炭化水素基に含まれる水素原子がフッ素原子に置換されている割合である。
としては、フッ素原子、塩素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基が好ましく、フッ素原子、塩素原子、又は炭素数1~10の含フッ素アルキル基がより好ましい。
また、Xは、-CXを表し、X~Xはそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す基であってもよい。
*で表される結合手の結合先が、置換基を有していてもよいアルキル基又はハロゲン原子若しくは水素原子である場合、化合物(10)は部分構造(1)を一つ有するモノヨード含フッ素有機化合物となる。また、*で表される結合手の結合先が、置換基を有していてもよいアルキレン基やエーテル結合のように2価結合基となる場合には、化合物(10)は部分構造(1)を二つ有するジヨード含フッ素有機化合物となる。さらに、*で表される結合手の結合先が、未加硫フルオロエラストマーのような高分子の部分構造である場合や、置換基を有していてもよいアルキレン基やエーテル結合のような2価結合基を介して部分構造(1)がポリシロキサンと結合している場合には、化合物(10)は部分構造(1)を多数有するポリヨージド含フッ素有機化合物となる。ここでポリシロキサンは、シリコーンであっても、シランカップリング剤の縮合反応により生じる生成物であってもよい。
【0049】
(モノヨード含フッ素有機化合物)
化合物(10)のうち、モノヨード含フッ素有機化合物は、一般的に下記式で表される構造を有する。式中、R10は置換基を有していてもよいアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、又は水素原子、フッ素原子若しくは塩素原子が好ましい。X20は水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は-CXを表し、X~Xはそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。
【0050】
【化9】
【0051】
10のうち、置換基を有していてもよいアルキル基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~7の直鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルキル基が好ましい。
炭素数1~7のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基、n-ヘプチル基等が挙げられる。これらの中でも、炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基がさらに好ましい。
【0052】
炭素数1~7の置換アルキル基としては、任意の位置にフッ素原子、塩素原子、アルコキシ基、フルオロアルコキシ基等の置換基を有するアルキル基を挙げることができる。これらの中でも、フッ素原子を2~15個有するアルキル基がより好ましく、ペルフルオロアルキル基が、ラジカルによる水素原子引き抜き反応の抑制の観点からさらに好ましく、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基がよりさらに好ましく、生体蓄積性を低減する観点から炭素数1~4のペルフルオロアルキル基が特に好ましい。
すなわち、R10が置換アルキル基である場合には、化合物(10)は下記式(11)で表される化合物が特に好ましい。
【0053】
【化10】
【0054】
上記式中、R11は炭素数1~4のペルフルオロアルキル基を表し、X21は水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は-CX242526を表し、X24~X26はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。
ヨウ素原子の引き抜かれやすさの観点から、X21はフッ素原子、塩素原子又は-CX242526(X24~X26はそれぞれ独立して、フッ素原子又は塩素原子を表す。)が好ましく、ヨウ素原子の引き抜かれやすさ及び生じたラジカルの反応性の観点から、X21はフッ素原子又はトリフルオロメチル基がより好ましい。
【0055】
10のうち、アリール基としては、炭素数3~12のアリール基、炭素数3~12のヘテロアリール基が好ましく、具体的には、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、ピロール基、フリル基、チエニル基がより好ましい。
10のうち、アリールアルキル基としては、炭素数4~15のアリールアルキル基、炭素数4~15のヘテロアリールアルキル基が好ましく、具体的には、ベンジル基、2-ピリジルメチル基、3-ピリジルメチル基、4-ピリジルメチル基がより好ましい。
【0056】
モノヨード含フッ素有機化合物としては、具体的には、ジフルオロヨードメタン、トリフルオロヨードメタン、クロロジフルオロヨードメタン、1,1-ジフルオロエチルヨージド、1,1-ジフルオロ-n-プロピルヨージド、1,1-ジフルオロ-n-ブチルヨージド、1,1-ジフルオロ-イソブチルヨージド、1,1-ジフルオロ-n-ペンチルヨージド、sec-ブチルジフルオロメチレンヨージド、tert-ブチルジフルオロメチレンヨージド、1,1-ジフルオロ-n-ヘキシルヨージド、1,1-ジフルオロ-n-ヘプチルヨージド、1,1-ジフルオロ-n-オクチルヨージド、シクロヘキシルジフルオロメチレンヨージド、CI、CHFCFI、CFCFCFI、(CFCFI、CF(CFI、(CFCFCFI、CF(CFI、CF(CFI等を挙げることができる。
これらの中でも、入手が容易なことから、CF(CFI(n-ノナフルオロブチルヨージド)が好ましい。
また、モノヨード含フッ素有機化合物としては、ヨウ素原子の引き抜かれやすさの観点から、CI、CFCFCFI、(CFCFI、CF(CFI、(CFCFCFI、CF(CFI等が好ましい。
【0057】
モノヨード含フッ素有機化合物は、従来公知の方法により製造することができ、例えば、(R10CFC(=O)O)などのラジカル発生剤とIとの反応により、製造することもできる。この反応は化合物(20)の挿入反応を行う前に予め行ってもよいし、化合物(20)の存在下、当該挿入反応と同時に行ってもよい。
【0058】
(ジヨード含フッ素有機化合物)
化合物(10)のうち、ジヨード含フッ素有機化合物は、一般的に下記式で表される構造を有する。式中、R10’は置換基を有していてもよいアルキレン基、アリーレン基、アリーレンアルキレン基又はアルキレンアリーレンアルキレン基が好ましい。R10’が単結合である場合も好ましい。X20はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は-CXを表し、X~Xはそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。
【0059】
【化11】
【0060】
10’のうち、置換基を有していてもよいアルキレン基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~6の直鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルキレン基が好ましい。
炭素数1~6のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、n-ペンチレン基、n-ヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基等が挙げられる。これらの中でも、炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基がより好ましく、エチレン基がさらに好ましい。
【0061】
炭素数1~6の置換アルキレン基としては、任意の位置にフッ素原子、塩素原子、アルコキシ基、フルオロアルコキシ基等の置換基を有するアルキレン基を挙げることができる。これらの中でも、フッ素原子を2~12個有するアルキレン基がより好ましく、ペルフルオロアルキレン基が、ラジカルによる水素原子引き抜き反応の抑制の観点からさらに好ましく、炭素数1~4のペルフルオロアルキレン基がよりさらに好ましく、炭素数2~4のペルフルオロアルキレン基が特に好ましい。
すなわち、化合物(10)は、R10’が炭素数1~4のペルフルオロアルキレン基である場合、下記式(12)で表される化合物となる。
【0062】
【化12】
【0063】
上記式中、R12は炭素数1~4のペルフルオロアルキレン基を表す。X22及びX23はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は-CX242526を表し、X24~X26はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。
【0064】
10’のうち、アリーレン基としては、炭素数3~12のアリーレン基、炭素数3~12のヘテロアリーレン基が好ましい。具体的には、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基、4,4’-ビフェニリレン基、2,2’-ビフェニリレン基、2,6-ナフチレン基、2,7-ナフチレン基、2,4-ピリジレン基、2,5-ピリジレン基、2,6-ピリジレン基、ピローレン基、フリレン基、チエニレン基、1,5-フランジイル基がより好ましい。
10’のうち、アリーレンアルキレン基としては、炭素数4~15のアリーレンアルキレン基、炭素数4~15のヘテロアリーレンアルキレン基が好ましい。具体的には、ベンジレン基、2-ピリジレンメチレン基、3-ピリジレンメチレン基、4-ピリジレンメチレン基がより好ましい。
【0065】
10’のうち、アルキレンアリーレンアルキレン基としては、炭素数5~18のアルキレンアリーレンアルキレン基、炭素数5~18のアルキレンヘテロアリーレンアルキレン基が好ましい。具体的には、1,2-ジメチレンフェニレン基、1,3-ジメチレンフェニレン基、1,4-ジメチレンフェニレン基、2,2’-ジメチレンビフェニリレン基、2,4-ジメチレンピリジレン基、2,5-ジメチレンピリジレン基、2,6-ジメチレンピリジレン基、1,5-ジメチルフランジイル基がより好ましい。
【0066】
ジヨード含フッ素有機化合物としては、具体的には、1,2-ジヨードテトラフルオロエタン、1,4-ジヨード-オクタフルオロブタン、1,6-ジヨード-ドデカフルオロヘキサン等を挙げることができる。
これらの中でも、扱いやすい低揮発性液体の点から好ましくは1,4-ジヨード-オクタフルオロブタンである。
【0067】
ジヨード含フッ素有機化合物の製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法により得ることができる。
【0068】
(ポリヨージド含フッ素有機化合物)
化合物(10)のうち、ポリヨージド含フッ素有機化合物は、部分構造(1)における*で表される結合手の結合先が、未加硫フルオロエラストマーなどの含フッ素高分子の部分構造や、ポリシロキサンの部分構造である場合である。部分構造(1)における*で表される結合手の結合先がポリシロキサンの部分構造である場合、置換基を有していてもよいアルキレン基やエーテル結合のような2価結合基を介して部分構造(1)がポリシロキサンと結合している場合が挙げられる。ポリシロキサンは、シリコーンであっても、シランカップリング剤の縮合反応により生じる生成物であってもよい。
【0069】
化合物(10)は、下記式(4)で表される単位を複数含む化合物であってもよい。
化合物(10)が下記式(4)で表される単位を複数含む場合において、化合物(10)のフッ素含量は50質量%以上であることが耐熱性と難燃性の点から好ましく、60質量%以上がより好ましい。
このように、ポリヨージド含フッ素有機化合物の場合には、化合物(10)が有する部分構造(1)の数の分だけ、化合物(20)を挿入することができるが、部分的に挿入されずに残る場合もある。
ポリヨージド含フッ素有機化合物は、従来公知の方法により製造することができる。
【0070】
【化13】
【0071】
上記式中、X31~X34はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は-CX353637を表し、X35~X37はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。
【0072】
[化合物(20)]
本発明の第一実施形態では、前記化合物(10)に対して、下記式(20)で表される化合物の挿入反応を行う。式中、R~Rはそれぞれ独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基を表す。
化合物(20)はR~Rが上記で示したいずれかであれば、化合物(10)に対して、少なくとも1分子の挿入反応が進行する。
【0073】
【化14】
【0074】
~Rにおける置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基について、その炭素数は1~12が好ましい。また、当該有機基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれでもよく、また、不飽和結合を含んでいてもよい。さらに、置換基としてヘテロ原子を含んでいてもよく、置換基主鎖にヘテロ原子が含まれていてもよい。
【0075】
当該有機基としては、例えば、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルコキシ基、アリールアルキル基、ヘテロアリールアルキル基、アリールアルコキシ基、ヘテロアリールアルコキシ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アシルアミノ基、アシルオキシ基、シアノ基等を挙げることができる。
アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルコキシ基、アリールアルキル基、ヘテロアリールアルキル基、アリールアルコキシ基、またはヘテロアリールアルコキシ基といったヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれでもよく、また、不飽和結合を含んでいてもよい。
アシルアミノ基またはアシルオキシ基のアシル基としては、カルボン酸またはスルホン酸からヒドロキシ基を除いた基が挙げられる。
【0076】
置換基を有していてもよい有機基としては、例えば置換アルキル基、置換アルコキシ基、置換アルコキシカルボニル基、N-置換カルバモイル基等を挙げることができる。置換基の数は1個でも2個以上でもよい。
置換アルキル基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、カルボン酸基、スルホン酸基、1,3,5-トリアジントリオン骨格等を挙げることができる。
置換アルコキシ基の置換基としては、フッ素原子、ヒドロキシ基、アミノ基等を挙げることができる。
置換アルコキシカルボニル基の置換基としては、フッ素原子、ヒドロキシ基、アミノ基等を挙げることができる。
N-置換カルバモイル基の置換基としては、アルキル基、アルコキシアルキル基等を挙げることができる。
【0077】
上記に加え、化合物(20)は、RとRとが、RとRとが、RとRとが、又は、RとRとが結合して、環を形成していてもよい。すなわち、化合物(20)には無水マレイン酸や無水イタコン酸等も含まれる。
さらに、化合物(20)には、反応性炭素-炭素二重結合を複数有する化合物も含まれる。すなわち、化合物(20)にはジアリルアミン、トリアリルイソシアヌレート等のジアリル化合物やトリアリル化合物も含まれる。
【0078】
挿入反応における立体障害を低減させ、挿入反応を進めやすくするために、化合物(20)は、R~Rのうち少なくとも2つが、水素原子、フッ素原子、塩素原子、メチル基からなる群から選ばれるのが好ましい。
【0079】
化合物(20)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル等の(メタ)アクリル酸エステルモノマー;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸シクロドデシル等のシクロアルキル基含有不飽和モノマー;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のカルボキシル基含有不飽和モノマー;N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、2-(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の3級アミン含有不飽和モノマー;N-2-ヒドロキシ-3-アクリロイルオキシプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロライド、N-メタクリロイルアミノエチル-N,N,N-ジメチルベンジルアンモニウムクロライド等の4級アンモニウム塩基含有不飽和モノマー;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有不飽和モノマー;スチレン、α-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メトキシスチレン、2-ヒドロキシメチルスチレン、2-クロロスチレン、4-クロロスチレン、2,4-ジクロロスチレン、1-ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン、4-(クロロメチル)スチレン、2-(クロロメチル)スチレン、3-(クロロメチル)スチレン、4-スチレンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)等のスチレン系モノマー;2-ビニルチオフェン、N-メチル-2-ビニルピロール等のヘテロ環含有不飽和モノマー;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のビニルアミド;ジアリルアミン、トリアリルイソシアヌレート、トリ(2-メチル-アリル)イソシアヌレート、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン、塩化ビニリデン、塩化ビニル、1-クロロ-1-フルオロエチレン、又は1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレン、1H,1H,2H-ペルフルオロ(n-1-ヘキセン)、1H,1H,2H-ペルフルオロ(n-1-オクテン)等のα-オレフィン;イソブチレン、1,4-ジビニルオクタフルオロブタン、1,6-ジビニルドデカフルオロヘキサン、酢酸ビニル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリロニトリル、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル;ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(n-プロピルビニルエーテル)等のペルフルオロ(アルキルビニルエーテル);等を挙げることができる。
【0080】
化合物(20)において、R~Rはいずれも、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は-CX151617(X15~X17はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。)であることが、挿入反応の反応性の観点から好ましい。中でも、R~Rのうち少なくともいずれか1つがフッ素原子又は塩素原子であることが、より好ましい。
すなわち、化合物(20)は下記式(21)で表される化合物であることがより好ましい。式中、X11~X13はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は-CX151617を表し、X15~X17はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。X14は、フッ素原子又は塩素原子を表す。
【0081】
【化15】
【0082】
化合物(21)において、X11~X13のうちいずれか1つのみが-CX151617である場合、化合物(21)はプロピレン構造となる。この場合には、フッ素原子又は塩素原子であるのがX14であることを鑑みて、反応性の観点から、X11又はX12が-CX151617であることが好ましく、X12が-CX151617であることがより好ましい。
また、X11~X13はいずれも、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子であることも好ましい。X14は、フッ素原子が好ましい。
また、
【0083】
上記のような化合物(21)の好ましい具体例としては、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン、塩化ビニリデン、塩化ビニル、1-クロロ-1-フルオロエチレン、1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレン等が挙げられる。
【0084】
化合物(21)のうち、X14がフッ素原子である化合物は下記式(22)で表される。式中、X41~X43はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は-CX454647を表し、X45~X47はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。
【0085】
【化16】
【0086】
化合物(22)としては、後述する重合体を得る際の重合反応性の点から、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン、1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンがより好ましい。
【0087】
[化合物(30)]
化合物(10)に対する化合物(20)の挿入反応により、下記式(3)で表される部分構造を有する化合物(30)が得られる。部分構造(3)におけるR~Rは、挿入させた化合物(20)のR~Rにそれぞれ対応する。
【0088】
【化17】
【0089】
ここで、得られた化合物(30)の部分構造(3)において、R及びRがそれぞれ部分構造(1)のX及びF(順不同)である場合、すなわち、部分構造(3)における末端の炭素原子にフッ素原子、及び、水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基が結合した構造となる場合には、化合物(30)に対して化合物(20)の2分子目の挿入反応が進行することとなる。すなわち、重合反応が起こると言い換えることができる。
【0090】
上記重合反応は、例えば化合物(20)がフッ化ビニリデン(1,1-ジフルオロエチレン)のように、R及びRと、R及びRの一方のみがX及びF(順不同)である場合、R及びRに該当する箇所がX及びF(順不同)であれば重合反応が進む。一方、R及びRに該当する箇所がX及びF(順不同)となった場合には、それ以上挿入反応は進行せずに重合反応が停止する。また、化合物(20)が1,2-ジフルオロエチレンのように、R及びRと、R及びRのいずれもがX及びF(順不同)である場合には、重合反応は進行し続けることとなる。
ただし、化合物(20)として実際にフッ化ビニリデンを用いた場合、挿入反応における遷移状態の安定性から、R及びRに該当する箇所がX及びF(順不同)となって挿入反応が優先的に進行し、重合反応は進行する。同様のことが2,3,3,3-テトラフルオロプロピレンにも言える。このように、R及びRと、R及びRの一方のみがX及びF(順不同)である化合物の挿入反応に際し、どちらの向きで挿入反応が進行しやすいかは、有機電子論によって判断することができる。
【0091】
得られる化合物(30)が重合体となる場合、当該挿入反応、すなわちラジカル重合反応は非常に穏やかに進むことから、所望する分子量で重合反応を停止させることができる。すなわち、分子量分布の狭い、高純度な重合体を得ることができる。
上記重合反応は反応速度が遅いために、高純度なオリゴマーを製造する場合に好適に用いられる。ただし、反応時間を長くすれば重合反応は進むことから、高分子量のポリマーを製造する場合に本発明に係る製造方法を用いることを何ら排除するものではない。
【0092】
化合物(10)に対する化合物(20)の挿入反応において、化合物(20)は、1種のみを用いても、2種以上を併用してもよい。
挿入反応を2回以上繰り返して重合反応を行う場合、モノマーとなる好ましい化合物(20)としては、例えば、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、2,3,3,3-テトラフルオロプロピレン、1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンが挙げられる。
【0093】
重合反応のうち共重合を行う等、モノマーとして化合物(20)を2種以上用いる場合には、複数種の化合物(20)は混合して用いても、順次用いてもよい。なお、混合して用いる場合としては、ランダム共重合や交互共重合が考えられる。また、順次用いる場合としては、ブロック共重合が考えられる。
【0094】
(他のラジカル発生剤)
化合物(10)に対する化合物(20)の挿入反応を2回以上繰り返し、化合物(30)として重合体を得る場合において、重合速度の促進を目的として、化合物(10)とは異なる化合物であるラジカル発生剤(以下、「他のラジカル発生剤」と称することがある。)を併用してもよい。
この場合、反応が速く進む分、得られる重合体の分子量分布は化合物(10)のみを用いた重合反応の場合と比べると広くなるものの、従来のラジカル重合に比べると、当該分子量分布は極めて狭いものとなる。
【0095】
他のラジカル発生剤は、通常のラジカル重合で使用するアゾ化合物や過酸化物であれば特に制限なく使用することができる。
【0096】
アゾ化合物としては、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)(ACVA)、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチルアミド)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2-シアノ-2-プロピルアゾホルムアミド、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)が挙げられる。
【0097】
これらのアゾ化合物は、反応条件に応じて適宜選択するのが好ましい。
例えば、低温重合(40℃以下)の場合は、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等を用いることが好ましい。中温重合(40~80℃)の場合は、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート(MAIB)、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)(ACVA)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチルアミド)、2,2’-アゾビス(2-メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]等を用いることが好ましい。高温重合(80℃以上)の場合は、1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、2-シアノ-2-プロピルアゾホルムアミド、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等を用いることが好ましい。
【0098】
[化合物(30)の製造方法]
第一実施形態では、上述したように、特定のイオン性触媒の存在下、前記化合物(10)に対する前記化合物(20)の挿入反応により化合物(30)を得る。
【0099】
上記挿入反応を繰り返し行う場合、すなわち、重合反応を行う場合には、通常、化合物(20)1molに対して、化合物(10)を0.001~1mol、好ましくは0.01~1mol使用する。なお、化合物(10)を2種以上用いる場合には、その合計量が上記範囲となるようにする。
【0100】
化合物(10)と前記他のラジカル発生剤とを併用する場合の使用割合としては、通常、化合物(10)1molに対して、他のラジカル発生剤を0.01~100mol、好ましくは0.1mol以上、また、好ましくは10mol以下、より好ましくは1mol以下使用する。
【0101】
化合物(10)として、モノヨード含フッ素有機化合物とジヨード含フッ素有機化合物とを併用する場合、その使用量としては、通常、モノヨード含フッ素有機化合物1molに対して、ジヨード含フッ素有機化合物を0.01mol以上、好ましくは0.05mol以上、より好ましくは0.1mol以上、また、100mol以下、好ましくは10mol以下、より好ましくは5mol以下使用する。
【0102】
上記挿入反応を行う方法としては、具体的には次の通りである。
不活性ガスで置換した容器又は真空減圧した容器内で、イオン性触媒、化合物(20)及び化合物(10)を混合する。なお、化合物(10)を2種以上用いる場合には、そのうちの少なくとも1種を上記で混合する。
不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウムを挙げることができる。これらの中でも、窒素又はアルゴンが好ましく、窒素がより好ましい。
【0103】
上記挿入反応は、無溶媒でも行うことができるが、一般的なラジカル重合で通常使用される有機溶媒(イオン液体を含む)又は水性溶媒を使用して行うこともできる。
【0104】
有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、2-ブタノン(メチルエチルケトン)、ジオキサン、ヘキサフルオロイソプロパオール、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、1H-ペルフルオロヘキサン、1H,1H,1H,2H,2H-ペルフルオロオクタン、トリフルオロメチルベンゼン(ベンゾトリフルオリド)、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等が挙げられる。
また、N-メチル-N-メトキシメチルピロリジウムテトラフルオロボレート、N-メチル-N-エトキシメチルテトラフルオロボレート、1-メチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1-メチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロフォスフェート、1-メチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド等のイオン液体を用いることもできる。
【0105】
水性溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1-メトキシ-2-プロパノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
【0106】
溶媒の使用量は、適宜調節すればよいが、例えば、得られる化合物(30)1000gに対して、溶媒を0.01~50L使用することができる。好ましくは0.05L以上、より好ましくは0.1L以上、また、好ましくは10L以下、より好ましくは5L以下使用することができる。
【0107】
次に、上記により得られた混合物を撹拌する。反応温度、反応時間は、得られる化合物(30)の分子量や、化合物(30)が重合体である場合にはその分子量分布により適宜調節すればよいが、通常、60~250℃で、5~100時間撹拌する。好ましくは、100~200℃で、10~30時間撹拌する。このとき撹拌は、通常は常圧で行われるが、加圧又は減圧してもよい。
【0108】
反応終了後、常法により使用溶媒や残存モノマーを減圧下で除去して目的化合物(30)を取り出したり、目的化合物(30)が不溶である溶媒を使用して再沈澱処理したりすることにより目的物(化合物(30))を単離する。反応処理については、目的物に支障がなければどのような処理方法でも行うことができる。
【0109】
上記方法により、優れた分子量制御及び分子量分布制御を、非常に温和な条件下で行うことができる。
【0110】
化合物(30)が高分子量のポリマーである場合、その分子量は、反応時間、イオン性触媒の種類と量、及び有機ヨウ素化合物である化合物(10)の量により調整可能であるが、例えば、数平均分子量(Mn)100~1,000,000のポリマーを得ることができる。特に、数平均分子量(Mn)300~50,000のポリマーを得るのに好適である。なお、この際は他のラジカル発生剤を併用することが好ましい。
本明細書における数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、SEC(Size Exclusion Chromatography;サイズ排除クロマトグラフィー)測定により求めたものであり、分子量換算用の標準物質としてポリスチレンを用いる。また分子量分布の指標である多分散度はMw/Mnにより求められる値である。
【0111】
一方、化合物(30)が医農薬中間体等として有用である、化合物(20)の一分子挿入体または二分子挿入体である場合、化合物(10)とは異なる化合物であるラジカル発生剤を併用しない方が好ましい。化合物(30)の分子量は、上記高分子量のポリマーである場合と同様、反応時間、イオン性触媒の種類と量、及び化合物(10)の量により調整可能である。この場合、高選択率で挿入体を得るのに好適である。
上記挿入反応を1回または2回行う場合、すなわち、化合物(30)として化合物(20)の一分子挿入体または二分子挿入体を得る場合には、通常、化合物(20)1molに対して、化合物(10)を0.1~100mol、好ましくは1~20mol使用する。
【0112】
化合物(30)が重合体である場合の多分散度{PD=Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)}は、他のラジカル発生剤を併用したとしても、例えば、2.0以下での制御が可能である。好ましくは1.5以下、より好ましくは1.4以下といった、非常に狭い分子量分布を有する重合体を得ることも可能である。なお、多分散度の下限値は、その定義から1.0である。
【0113】
化合物(30)が医農薬中間体として有用である、化合物(20)の一分子挿入体または二分子挿入体である場合、他のラジカル発生剤を併用せずに化合物(10)のみを用いることにより、選択率を90%以上に制御することが可能である。
【0114】
得られる化合物(30)の末端基は、有機ヨウ素化合物(化合物(10))由来の、反応性の高いヨウ素原子であることが確認されている。
従って、イオン性触媒と有機ヨウ素化合物である化合物(10)を挿入反応、ひいてはラジカル重合反応に用いることにより、従来のラジカル重合で得られる重合体よりも、末端基を他の官能基へ変換することが容易となる。これらにより、得られる化合物(30)は、マクロラジカル重合開始剤(マクロイニシエーター)又はマクロラジカル連鎖移動剤としても用いることができる。そのため、当該挿入反応を用いて、次に記載する共重合反応を行うこともできる。
【0115】
<共重合反応>
本発明の第二実施形態は、下記式(20)で表される化合物(化合物(20))を二種以上用いた共重合により共重合体を製造する方法に関し、2つの反応を含むものである。
一つ目の反応は、前記化合物(20)のうち少なくとも一種が下記式(22)で表される化合物(化合物(22))であり、イオン性触媒の存在下、下記式(1)で表される部分構造を有する化合物(10)に対し、前記化合物(22)を挿入する反応である。かかる挿入反応により、下記式(5)で表される部分構造を有する化合物が製造される。
二つ目の反応は、前記化合物(10)とは異なる化合物であるラジカル発生剤(他のラジカル発生剤)を用いて、前記化合物(20)を、C-I結合に対して挿入する反応である。かかる挿入反応により、下記式(6)で表される部分構造を有する化合物が製造される。
なお、前記イオン性触媒は、1価のアニオンと対カチオンとからなり、前記1価のアニオンは、ヨウ素、窒素及び硫黄からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む1価のアニオンである。前記対カチオンは、窒素及びリンの少なくともいずれか一種の元素を含むカチオン、アルカリ金属イオン、又はプロトンである。
前記イオン性触媒は、上記<挿入反応>の[イオン性触媒]に例示した化合物を好ましく用いることができる。
【0116】
【化18】
【0117】
上記式中、R~Rはそれぞれ独立して水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基を表す。X41~X43はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は-CX454647を表し、X45~X47はそれぞれ独立して、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を表す。*は結合手を表す。Xは水素原子、フッ素原子、塩素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1~20の有機基を表す。
【0118】
化合物(10)に対する化合物(22)の挿入反応については、上記<挿入反応>に記載したとおりであり、部分構造(1)におけるC-I結合に対して、化合物(22)の挿入反応が起こる。また、部分構造(6)におけるR及びRがX及びF(順不同)である場合には、当該部分構造(6)におけるC-I結合に対しても化合物(22)の挿入反応が起こる。
かかる挿入反応における好ましい態様は、上記<挿入反応>に記載したものと同様である。
【0119】
他のラジカル発生剤を用いた化合物(20)のC-I結合への挿入反応とは、部分構造(5)におけるC-I結合と、部分構造(6)におけるC-I結合のいずれに対しても起こり得る。
化合物(20)は、上記<挿入反応>の[化合物(20)]に例示した化合物を好ましく用いることができる。なお、ここで用いられる化合物(20)として、前記化合物(22)を何ら排除するものではない。
【0120】
共重合反応において、C-I結合に対して化合物(20)と化合物(22)のどちらの挿入反応が起こるかは、化合物(20)及び化合物(22)の単量体反応性比等により決定される。また、投入した化合物(22)をすべて挿入反応に供した後に化合物(20)を投入することにより、挿入反応を制御してブロック共重合体を得ることも可能である。
【0121】
化合物(20)として、例示された化合物の中でも、好ましくは、(メタ)アクリル酸エステルモノマー、スチレン系モノマー、トリアリルイソシアヌレート、エチレン、プロピレン、イソブチレン、アルキルビニルエーテル、1H,1H,2H-ペルフルオロ(n-1-ヘキセン)、1H,1H,2H-ペルフルオロ(n-1-オクテン)、1,4-ジビニルオクタフルオロブタン、1,6-ジビニルドデカフルオロヘキサン、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)である。
【0122】
好ましい(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル又は(メタ)アクリル酸ブチルが挙げられる。より好ましくは、(メタ)アクリル酸メチル又は(メタ)アクリル酸ブチルである。
【0123】
好ましいスチレン系モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-メトキシスチレン、4-クロロスチレン、4-(クロロメチル)スチレン、ジビニルベンゼン、4-スチレンスルホン酸又はそのアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩)が挙げられる。より好ましくは、スチレン、4-メトキシスチレン、4-クロロスチレン又は4-(クロロメチル)スチレンである。
【0124】
好ましいアルキルビニルエーテルとしては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルが挙げられる。
好ましいペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(n-プロピルビニルエーテル)が挙げられる。
【0125】
上記の中でも、エチレン、プロピレン、イソブチレン、アルキルビニルエーテル、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、トリアリルイソシアヌレート、1,4-ジビニルオクタフルオロブタン、1,6-ジビニルドデカフルオロヘキサン、スチレン、又はアクリル酸ブチルがさらに好ましい。
【0126】
(他のラジカル発生剤)
他のラジカル発生剤は、通常のラジカル重合で使用するアゾ化合物や過酸化物であれば特に制限なく使用することができる。具体的には、上記<挿入反応>における(他のラジカル発生剤)に記載したものと同様の化合物を使用することができる。
【0127】
[共重合体の製造方法]
本発明の第二実施形態は、特定のイオン性触媒の存在下、化合物(10)に対し、化合物(22)を挿入する反応と、他のラジカル発生剤を用いて、化合物(20)を、C-I結合に対して挿入する反応とを含み、二種以上の化合物(20)の共重合により共重合体を製造する方法に関する。かかる2つの挿入反応を各々2回以上繰り返すことにより、共重合体が製造される。また、その繰り返し方により、以下に示すブロック共重合、交互共重合又はランダム共重合の形態に分類される。
本発明の第二実施形態によれば、共重合体を合成する際のかかる2つの挿入反応の繰り返し方によらず、共重合体の多分散度を2.0以下に制御することができる。
【0128】
[ブロック共重合]
共重合の一形態としてブロック共重合が挙げられるが、特定のイオン性触媒と化合物(10)を用いることにより、例えば、テトラフルオロエチレン-アクリル酸ブチル等のA-Bジブロック共重合体や、アクリル酸ブチル-テトラフルオロエチレン-アクリル酸ブチル等のB-A-Bトリブロック共重合体等を得ることができる。
【0129】
これは、特定のイオン性触媒と化合物(10)を用いることにより、種々の異なったタイプの化合物(20)の挿入反応を制御できること、また、化合物(20)の挿入により得られる化合物(30)の末端に、反応性の高いヨウ素が存在していることによるものである。
ブロック共重合体を得るに際し、他のラジカル発生剤を用いた挿入反応に用いる化合物(20)としては、トリアリルイソシアヌレート、1,4-ジビニルオクタフルオロブタン、1,6-ジビニルドデカフルオロヘキサン、アクリル酸ブチルが好ましい。
【0130】
ブロック共重合体の製造方法としては、具体的には次の通りである。
A-Bジブロック共重合体として、例えば、テトラフルオロエチレン-アクリル酸ブチル共重合体を製造する場合は次のとおりである。先述した[化合物(30)の製造方法]に記載した方法と同様に、まず、テトラフルオロエチレン、イオン性触媒、及び化合物(10)としてモノヨード含フッ素有機化合物を混合して挿入反応を繰り返すことで重合し、ポリテトラフルオロエチレンを製造する。続いてアクリル酸ブチルを混合して、テトラフルオロエチレン-アクリル酸ブチル共重合体を得ることができる。他のラジカル発生剤は、テトラフルオロエチレン等と一緒に混合しても、アクリル酸ブチルと一緒に混合してもよい。
【0131】
B-A-Bトリブロック共重合体を製造する場合には、上記A-Bジブロック共重合体の製造方法で、モノヨード含フッ素有機化合物の代わりにジヨード含フッ素有機化合物を用いる方法が挙げられる。
その他の重合に係る条件は、上記<挿入反応>に記載したものと同様の条件を用いることができる。
【0132】
上記で、ブロック共重合体の製造方法において、各ブロック(Aブロックに相当)を製造後、そのまま次のブロック(Bブロックに相当)を製造する反応を開始してもよいし、一度反応を終了し、精製した後に、次のブロックの反応を開始してもよい。ブロック共重合体の単離は通常の方法により行うことができる。
【0133】
ブロック共重合で得られるポリマーの分子量は、反応時間及び部分構造(1)の量により調整可能であるが、例えば、数平均分子量1,000~2,000,000のポリマーを得ることができる。特に、数平均分子量2,000~100,000のポリマーを得るのに好適である。
【0134】
ブロック共重合で得られるポリマーの多分散度{PD=Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)}は、例えば、2.0以下での制御が可能である。さらに、1.5以下、よりさらには1.4以下といった、非常に狭い分子量分布を有するポリマーを得ることも可能である。なお、多分散度の下限値は、その定義から1.0である。
【0135】
[ランダム共重合、交互共重合]
共重合の一形態としてランダム共重合及び交互共重合が挙げられるが、特定のイオン性触媒と化合物(10)を用いた化合物(22)の挿入反応と、他のラジカル発生剤を用いた化合物(20)の挿入反応とを、同時に行うことで、ランダム共重合体又は交互共重合体を得ることができる。
【0136】
得られる共重合体がランダム共重合体になるか、交互共重合体になるかは、モノマー(化合物(22)及び化合物(20))の単量体反応性比(種類)や相対的な量によって決定される。
【0137】
例えば、ランダム共重合体を得るには、化合物(20)としては、ペルフルオロ(メチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)、ペルフルオロ(n-プロピルビニルエーテル)が好ましい。また、化合物(22)としては、テトラフルオロエチレンが好ましい。
【0138】
また、交互共重合体を得るには、化合物(20)と化合物(22)の組み合わせとして、エチレン-テトラフルオロエチレン、プロピレン-テトラフルオロエチレン、アルキルビニルエーテル-クロロトリフルオロエチレン等が挙げられる。
【0139】
ランダム共重合、交互共重合のいずれの場合においても、その他の重合に係る条件としては、上記<挿入反応>に記載したものと同様の条件を用いることができる。
【0140】
ランダム共重合で得られるポリマーの分子量は、反応時間及び部分構造(1)の量により調整可能であるが、例えば、数平均分子量500~1,000,000のポリマーを得ることができる。特に、数平均分子量1,000~50,000のポリマーを得るのに好適である。
【0141】
ランダム共重合で得られるポリマーの多分散度{PD=Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)}は、例えば、2.0以下で制御される。好ましくは1.5以下、より好ましくは1.4以下といった、非常に狭い分子量分布を有するポリマーを得ることも可能である。なお、多分散度の下限値は、その定義から1.0である。
【0142】
交互共重合で得られるポリマーの分子量は、反応時間及び部分構造(1)の量により調整可能であるが、例えば、数平均分子量500~1,000,000のポリマーを得ることができる。特に、数平均分子量1,000~50,000のポリマーを得るのに好適である。
【0143】
交互共重合で得られるポリマーの多分散度{PD=Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)}は、例えば、2.0以下で制御される。好ましくは1.5以下、より好ましくは1.4以下といった、非常に狭い分子量分布を有するポリマーを得ることも可能である。なお、多分散度の下限値は、その定義から1.0である。
【実施例
【0144】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0145】
(実施例1)
窒素置換されたグローブボックス内で、内容積が30mLの撹拌機付きステンレス鋼製オートクレーブに、0.40g(0.87mmol)のテトラフェニルホスホニウムヨージド、30g(87mmol)のn-ノナフルオロブチルヨージドを仕込んだ。
1.0g(10mmol)のテトラフルオロエチレンを圧入したのち、内温を160℃まで昇温させながら撹拌を開始した。内温を保持したまま200rpm(毎分200回転)で撹拌を1時間行ったところ、内圧は1.1MPa(ゲージ圧)から1.0MPaまで減少した。
オートクレーブを循環させた-20℃のエチレングリコールで冷却した後、未反応のテトラフルオロエチレンをパージした。
【0146】
得られた重合体溶液をガスクロマトグラフィーで測定したところ、n-ノナフルオロブチルヨージドの転化率は1%、C13Iの選択率が99mol%だった。
算出される含フッ素重合体の多分散度(Mw/Mn)は1.1以下であり、このラジカル重合はリビングラジカル重合の特徴を示す。
【0147】
(実施例2)
窒素置換されたグローブボックス内で、内容積が30mLの撹拌機付きステンレス鋼製オートクレーブに、0.40g(0.87mmol)のテトラフェニルホスホニウムヨージド、30g(87mmol)のn-ノナフルオロブチルヨージドを仕込んだ。
0.6g(10mmol)のクロロエチレンを圧入したのち、内温を160℃まで昇温させながら撹拌を開始した。内温を保持したまま200rpmで撹拌を1時間行ったところ、内圧は0.9MPaから0.8MPaまで減少した。
オートクレーブを循環させた-20℃のエチレングリコールで冷却した後、未反応のクロロエチレンをパージした。
【0148】
得られた重合体溶液をガスクロマトグラフィーで測定したところ、n-ノナフルオロブチルヨージドの転化率は1%、CClIの選択率が99mol%だった。
算出される含フッ素重合体の多分散度(Mw/Mn)は1.1以下であり、このラジカル重合はリビングラジカル重合の特徴を示す。
【0149】
(実施例3)
窒素置換されたグローブボックス内で、内容積が30mLの撹拌機付きステンレス鋼製オートクレーブに、0.27g(0.57mmol)のテトラフェニルホスホニウムヨージド、0.06g(0.11mmol)の1,4-ジヨード-オクタフルオロブタン、1.3g(4.8mmol)のペルフルオロ(n-プロピルビニルエーテル)、25gの1H-ペルフルオロヘキサンを仕込んだ。
1.0g(10mmol)のテトラフルオロエチレンを圧入したのち、内温を140℃まで昇温させながら撹拌を開始した。内温を保持したまま200rpmで撹拌を10時間行ったところ、内圧は2.2MPaから2.0MPaまで減少した。
オートクレーブを循環させた-20℃のエチレングリコールで冷却した後、未反応のテトラフルオロエチレンをパージした。
【0150】
得られた重合体溶液を真空乾燥させ、固体を得た。この固体を20mLのメタノール中に加えて1時間撹拌し、その後固体をろ取した。得られた固体を真空乾燥させたところ、0.26gの固体が得られたことから、高分子量体の製造が確認された。
【0151】
(実施例4)
窒素置換されたグローブボックス内で、内容積が30mLの撹拌機付きステンレス鋼製オートクレーブに、0.47g(1.0mmol)のテトラフェニルホスホニウムヨージド、0.07g(0.2mmol)のn-ノナフルオロブチルヨージド、0.02g(0.2mmol)の炭酸カルシウム、20gのベンゾトリフルオリドを仕込んだ。
1.2g(10mmol)のクロロトリフルオロエチレンを圧入したのち、内温を140℃まで昇温させながら撹拌を開始した。内温を保持したまま200rpmで撹拌を7時間行ったところ、内圧は0.5MPaから0.4MPaまで減少した。
オートクレーブを循環させた25℃の水で冷却した後、未反応のクロロトリフルオロエチレンをパージした。
【0152】
得られた重合体溶液を真空乾燥させ、固体を得た。この固体を20mLのメタノール中に加えて1時間撹拌し、その後固体をろ取した。得られた固体を真空乾燥させたところ、0.13gの液体を得た。
得られた液体をサイズ排除クロマトグラフィーで測定したところ、Mn=1,650、Mw=1,950であった。
算出される含フッ素重合体の多分散度(Mw/Mn)は1.2であり、このラジカル重合はリビングラジカル重合の特徴を示す。
【0153】
(実施例5)
窒素置換されたグローブボックス内で、内容積が30mLの撹拌機付きステンレス鋼製オートクレーブに、0.23g(0.50mmol)のテトラフェニルホスホニウムヨージド、0.1gの実施例4で得られた重合体、0.64g(5.0mmol)のn-ブチルアクリレート、20gのベンゾトリフルオリドを仕込んだ。
内温を140℃まで昇温させながら撹拌を開始した。内温を保持したまま200rpmで撹拌を5時間行った。
オートクレーブを循環させた25℃の水で冷却した。
【0154】
得られた重合体溶液を真空乾燥させ、固体を得た。この固体を50mLのベンゾトリフルオリドに加えて10分間撹拌し、固体をろ別した。得られたろ液を真空乾燥させたところ、0.4gの固体を得た。
得られた固体をサイズ排除クロマトグラフィーで測定したところ、Mn=5,500、Mw=7,450であった。
算出される含フッ素重合体の多分散度(Mw/Mn)は1.4であり、このラジカル重合はリビングラジカル重合の特徴を示す。
【0155】
得られた固体のH-NMRおよび19F-NMRを測定したところ、含フッ素共重合体中のクロロトリフルオロエチレンとn-ブチルアクリレートのモル比率は14:86と算出された。
サイズ排除クロマトグラフィーおよびNMRの結果から、ブロック共重合体の製造が確認された。
【0156】
(実施例6)
窒素置換されたグローブボックス内で、内容積が30mLの撹拌機付きステンレス鋼製オートクレーブに、0.47g(1.0mmol)のテトラフェニルホスホニウムヨージド、0.07g(0.2mmol)のn-ノナフルオロブチルヨージド、1.3g(10mmol)のn-ブチルアクリレート、0.02g(0.2mmol)の炭酸カルシウム、20gのベンゾトリフルオリドを仕込んだ。
1.2g(10mmol)のクロロトリフルオロエチレンを圧入したのち、内温を140℃まで昇温させながら撹拌を開始した。内温を保持したまま200rpmで撹拌を7時間行ったところ、内圧は0.5MPaから0.4MPaまで減少した。
オートクレーブを循環させた25℃の水で冷却した後、未反応のクロロトリフルオロエチレンをパージした。
【0157】
得られた重合体溶液を真空乾燥させ、固体を得た。この固体を20mLのメタノール中に加えて1時間撹拌し、その後固体をろ取した。得られた固体を真空乾燥させたところ、0.4gの固体を得た。
得られた固体をサイズ排除クロマトグラフィーで測定したところ、Mn=5,900、Mw=10,050であった。
算出される含フッ素重合体の多分散度(Mw/Mn)は1.7であった。
【0158】
得られた固体のH-NMRおよび19F-NMRを測定したところ、含フッ素共重合体中のクロロトリフルオロエチレンとn-ブチルアクリレートのモル比率は9:91と算出された。
【0159】
(実施例7)
窒素置換されたグローブボックス内で、内容積が30mLの撹拌機付きステンレス鋼製オートクレーブに、0.40g(0.87mmol)のテトラフェニルホスホニウムヨージド、30g(87mmol)のn-ノナフルオロブチルヨージド、0.82g(3.3mmol)のトリアリルイソシアヌレート、25gの1H-パーフルオロヘキサンを仕込んだ。
内温を140℃まで昇温させながら撹拌を開始した。内温を保持したまま200rpmで撹拌を5時間行った。
オートクレーブを循環させた25℃の水で冷却した。
【0160】
得られた重合体溶液はゲル化しておらず、高度に重合反応が制御されていることが示唆された。かかる重合体溶液を真空乾燥させ、固体を得た。この固体を50mLの1H-パーフルオロヘキサンに加えて10分間撹拌し、固体をろ別した。得られたろ液を真空乾燥させたところ、2.4gの固体を得た。
得られた固体のH-NMRおよび19F-NMRを測定したところ、含フッ素共重合体中のn-ノナフルオロブチル基とトリアリルイソシアヌレートのモル比率は63:37と算出された。
【0161】
(実施例8)
窒素置換されたグローブボックス内で、内容積が30mLの撹拌機付きステンレス鋼製オートクレーブに、0.32g(0.87mmol)のテトラブチルアンモニウムヨージド、30g(87mmol)のn-ノナフルオロブチルヨージドを仕込んだ。
1.0g(10mmol)のテトラフルオロエチレンを圧入したのち、内温を140℃まで昇温させながら撹拌を開始した。内温を保持したまま200rpmで撹拌を4時間行ったところ、内圧は0.8MPa(ゲージ圧)から0.7MPaまで減少した。
オートクレーブを循環させた-20℃のエチレングリコールで冷却した後、未反応のテトラフルオロエチレンをパージした。
【0162】
得られた重合体溶液をガスクロマトグラフィーで測定したところ、n-ノナフルオロブチルヨージドの転化率は1%、C13Iの選択率が99mol%だった。
算出される含フッ素重合体の多分散度(Mw/Mn)は1.1以下であり、このラジカル重合はリビングラジカル重合の特徴を示す。
【0163】
(実施例9)
窒素置換されたグローブボックス内で、内容積が30mLの撹拌機付きステンレス鋼製オートクレーブに、0.58g(4.3mmol)のヨウ化リチウム、30g(87mmol)のn-ノナフルオロブチルヨージドを仕込んだ。
1.0g(10mmol)のテトラフルオロエチレンを圧入したのち、内温を160℃まで昇温させながら撹拌を開始した。内温を保持したまま200rpmで撹拌を3時間行ったところ、内圧は0.8MPa(ゲージ圧)から0.7MPaまで減少した。
オートクレーブを循環させた-20℃のエチレングリコールで冷却した後、未反応のテトラフルオロエチレンをパージした。
【0164】
得られた重合体溶液をガスクロマトグラフィーで測定したところ、n-ノナフルオロブチルヨージドの転化率は1%、C13Iの選択率が99mol%だった。
算出される含フッ素重合体の多分散度(Mw/Mn)は1.1以下であり、このラジカル重合はリビングラジカル重合の特徴を示す。
【0165】
(実施例10)
窒素置換されたグローブボックス内で、内容積が30mLの撹拌機付きステンレス鋼製オートクレーブに、0.26g(0.87mmol)のテトラブチルアンモニウムチオシアナート、30g(87mmol)のn-ノナフルオロブチルヨージドを仕込んだ。
1.0g(10mmol)のテトラフルオロエチレンを圧入したのち、内温を140℃まで昇温させながら撹拌を開始した。内温を保持したまま200rpmで撹拌を7時間行ったところ、内圧は0.8MPa(ゲージ圧)から0.7MPaまで減少した。
オートクレーブを循環させた-20℃のエチレングリコールで冷却した後、未反応のテトラフルオロエチレンをパージした。
【0166】
得られた重合体溶液をガスクロマトグラフィーで測定したところ、n-ノナフルオロブチルヨージドの転化率は1%、C13Iの選択率が99mol%だった。
算出される含フッ素重合体の多分散度(Mw/Mn)は1.1以下であり、このラジカル重合はリビングラジカル重合の特徴を示す。
【0167】
(実施例11)
窒素置換されたグローブボックス内で、内容積が30mLの撹拌機付きステンレス鋼製オートクレーブに、0.25g(0.87mmol)のテトラブチルアンモニウムシアナート、30g(87mmol)のn-ノナフルオロブチルヨージドを仕込んだ。
1.0g(10mmol)のテトラフルオロエチレンを圧入したのち、内温を140℃まで昇温させながら撹拌を開始した。内温を保持したまま200rpmで撹拌を8時間行ったところ、内圧は0.8MPa(ゲージ圧)から0.7MPaまで減少した。
オートクレーブを循環させた-20℃のエチレングリコールで冷却した後、未反応のテトラフルオロエチレンをパージした。
【0168】
得られた重合体溶液をガスクロマトグラフィーで測定したところ、n-ノナフルオロブチルヨージドの転化率は1%、C13Iの選択率が99mol%だった。
算出される含フッ素重合体の多分散度(Mw/Mn)は1.1以下であり、このラジカル重合はリビングラジカル重合の特徴を示す。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本発明によれば、含フッ素化合物の重合体を、殆ど副生成物が生成することなく、非常に高純度で得ることができる。そのため、製造や使用が制限されている化合物を副生させることなく、所望する化合物のみを製造することが可能であり、環境保全性や生体安全性に優れる。また、非常に高い純度が求められる医農薬中間体の製造にも適している。さらには、従来と比して分子量分布が非常に狭いポリマーの製造が可能であり、シーリング剤、コーティング剤、分散剤、粘度調整剤など多種多様な分野に利用することができる。
【0170】
2019年9月12日に出願された日本国特許出願2019-166182号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
また、本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。