(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】液状組成物、含浸基材、ポリマー担持基材の製造方法及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 27/18 20060101AFI20240628BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20240628BHJP
C08L 1/08 20060101ALI20240628BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20240628BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240628BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20240628BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240628BHJP
C08J 3/02 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
C08L27/18
C08L69/00
C08L1/08
C08K5/00
C08K3/36
B05D7/00 B
B05D7/24 302L
C08J3/02 A CEW
(21)【出願番号】P 2020070322
(22)【出願日】2020-04-09
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】栗原 舞
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和可子
(72)【発明者】
【氏名】笠井 渉
(72)【発明者】
【氏名】山邊 敦美
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-205151(JP,A)
【文献】国際公開第2020/004339(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/131809(WO,A1)
【文献】特公昭42-017568(JP,B1)
【文献】特公昭43-019116(JP,B1)
【文献】特開平02-248484(JP,A)
【文献】特開平05-124166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
B05D
C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融温度が280~325℃である熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダー
の10質量%以上50質量%以下と、主鎖にカーボネート基又はグリコシル基である熱分解性基を含み、極性官能基を有する熱分解性ポリマー
の0.1質量%以上20質量%以下と、無機フィラー
の1~30質量%と、極性液状分散媒とを含み、前記パウダーが分散している、液状組成物。
【請求項2】
前記熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含み、極性官能基を有するポリマー、又は、全単位に対して前記ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を2.0~5.0モル%含み、極性官能基を有さないポリマーである、請求項1に記載の液状組成物。
【請求項3】
前記熱分解性ポリマーの熱分解温度が、150℃以上、かつ、(前記熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融温度+50℃)以下である、請求項1又は2に記載の液状組成物。
【請求項4】
前記熱分解性ポリマーが、ノニオン性の熱分解性ポリマーである、請求項1~3のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項5】
前記極性官能基が、ヒドロキシ基、アルコキシ基又はアミノ基である、請求項1~4のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項6】
前記熱分解性ポリマーが、ヒドロキシ基を有する脂肪族ポリカーボネート、又は、ヒドロキシ基及びアルコキシ基を有する糖鎖状ポリマーである、請求項1~5のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項7】
前記極性液状分散媒が、水、ケトン、アミド及びエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の極性液状分散媒である、請求項1~6のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項8】
前記パウダーの沈降率が、60%以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の液状組成物と多孔質基材とを含み、前記パウダーが前記多孔質基材に含浸している、含浸基材。
【請求項10】
請求項9に記載の含浸基材を加熱して、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを焼成して、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが前記多孔質基材に担持されているポリマー担持基材を得る、ポリマー担持基材の製造方法。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の液状組成物を、基材層に付与し、加熱して極性液状分散媒を揮発させ、さらに加熱して前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを焼成して、前記基材層と、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むポリマー層とを有する積層体を得る、積層体の製造方法。
【請求項12】
前記ポリマー層の厚さが、25μm以上である、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記パウダーの平均粒子径が6μm以下であり、前記ポリマー層の厚さが、前記パウダーの平均粒子径に対して2倍超である、請求項11又は12に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の液状組成物、含浸基材、ポリマー担持基材の製造方法及び積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレン系ポリマーは、離型性、電気絶縁性、撥水撥油性、耐薬品性、耐候性、耐熱性等の物性に優れており、そのパウダーを含む液状組成物は、種々の成形物(含浸基材、担持基材、層状基材等)の形成に使用できる。かかる液状組成物の物性を向上させる目的で、塗工性を向上させる観点からは増粘剤の使用(特許文献1)が、それから得られる塗膜の摺動性を向上させる観点からは特定粒径のパウダーの使用(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-048233号公報
【文献】特開2019-052211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、プリプレグ等の複合部材の分野において、テトラフルオロエチレン系ポリマーを多孔質基材に高度に担持させる課題、及び、金属コーティング等の分野において、表面平滑性が高く厚いテトラフルオロエチレン系ポリマーの層を形成させる課題が顕在化している。
本発明者らは、先行技術文献の態様にて、かかる課題を検討したが、いずれの課題においても、充分な成形物を得るには至らなかった。
【0005】
例えば、特許文献2の段落番号0030にも記載されるとおり、液状組成物から厚い層を形成する際には、パウダーの粉落ちにより層の表面平滑性が低下していた。この傾向は、溶融温度が高いテトラフルオロエチレン系ポリマーを使用して、耐熱性にも優れた層を形成する場合に顕著であった。
本発明は、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーを含む液状組成物であり、多孔質基材に前記パウダーが高度に含浸している含浸基材や、表面平滑性と耐熱性とに優れた任意の厚さのテトラフルオロエチレン系ポリマーの層を形成できる、液状組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
<1> 溶融温度が280~325℃である熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、主鎖に熱分解性基を含み、極性官能基を有する熱分解性ポリマーと、極性液状分散媒とを含み、前記パウダーが分散している、液状組成物。
<2> 前記熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含み、極性官能基を有するポリマー、又は、全単位に対して前記ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を2.0~5.0モル%含み、極性官能基を有さないポリマーである、<1>の液状組成物。
<3> 前記熱分解性ポリマーの熱分解温度が、150℃以上、かつ、(前記熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融温度+50℃)以下である、<1>又は<2>の液状組成物。
<4> 前記熱分解性ポリマーが、ノニオン性の熱分解性ポリマーである、<1>~<3>のいずれかの液状組成物。
<5> 前記熱分解性基が、カーボネート基又はグリコシル基である、<1>~<4>のいずれかの液状組成物。
<6> 前記極性官能基が、ヒドロキシ基、アルコキシ基又はアミノ基である、<1>~<5>のいずれかの液状組成物。
<7> 前記熱分解性ポリマーが、ヒドロキシ基を有する脂肪族ポリカーボネート、又は、ヒドロキシ基及びアルコキシ基を有する糖鎖状ポリマーである、<1>~<6>のいずれかの液状組成物。
<8> 前記極性液状分散媒が、水、ケトン、アミド及びエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の極性液状分散媒である、<1>~<7>のいずれかの液状組成物。
<9> さらに、無機フィラーを含む、<1>~<8>のいずれかの液状組成物。
<10> 前記パウダーの沈降率が、60%以下である、<1>~<9>のいずれかの液状組成物。
<11> <1>~<10>のいずれかの液状組成物と多孔質基材とを含み、前記パウダーが前記多孔質基材に含浸している、含浸基材。
<12> <11>の含浸基材を加熱して、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを焼成して、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが前記多孔質基材に担持されているポリマー担持基材を得る、ポリマー担持基材の製造方法。
<13> <1>~<10>のいずれかの液状組成物を、基材層に付与し、加熱して極性液状分散媒を揮発させ、さらに加熱して前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを焼成して、前記基材層と、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むポリマー層とを有する積層体を得る、積層体の製造方法。
<14> 前記ポリマー層の厚さが、25μm以上である、<13>の製造方法。
<15> 前記パウダーの平均粒子径が6μm以下であり、前記ポリマー層の厚さが、前記パウダーの平均粒子径に対して2倍超である、<13>又は<14>の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、所定の熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、所定の熱分解性ポリマーを含む液状組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「パウダーの平均粒子径(D50)」は、レーザー回折・散乱法によって求められる対象物(粒子)の体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって対象物の粒度分布を測定し、対象物の粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
「パウダーのD90」は、同様にして測定される、対象物の体積基準累積90%径である。
「パウダーの沈降率」は、パウダー含有量が5質量%となるように調製した、パウダーと極性液状分散媒とからなる液状組成物(1.3mL)を、マイクロチューブ(内容積:1.5mL)に測り入れ、13000rpmにて5分間遠心分離させた後のマイクロチューブ中の溶液全体の高さと沈降成分の高さとをそれぞれ計測し、前記沈降成分の高さを前記溶液全体の高さで除した値のパーセント値である。
「熱溶融性ポリマー」とは、溶融流動性を示すポリマーを意味し、荷重49Nの条件下、ポリマーの溶融温度よりも20℃以上高い温度において、溶融流れ速度が0.1~1000g/10分となる温度が存在するポリマーを意味する。
「溶融温度(融点)」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度である。
「熱分解性ポリマー」とは、熱分解性を示すポリマーを意味し、ポリマーの熱質量分析において、300℃以下の温度領域に質量減少が開始する温度が存在するポリマーを意味する。
「熱分解温度」は、ポリマーの熱質量分析において、窒素雰囲気下で50℃から500℃まで10℃/分で昇温した際に質量が昇温開始時の50%となる温度であり、「5%熱分解温度」は、TG-DTA(SII社製 TG-DTA7200)分析において、窒素雰囲気下で20℃/分の速度でポリマーを昇温した際に、ポリマーが5質量%分解する温度である
「ガラス転移点(Tg)」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
「粘度」は、B型粘度計(英弘精機社製、DV2T)を用いて、25℃で回転数が6rpmの条件下で液状組成物を測定し求められる値である。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「チキソ比」とは、液状組成物を回転数が30rpmの条件で測定して求められる粘度を回転数が60rpmの条件で測定して求められる粘度で除して算出される値である。
ポリマーにおける「単位」は、モノマーから直接形成された原子団であってもよく、得られたポリマーを所定の方法で処理して、構造の一部が変換された原子団であってもよい。ポリマーに含まれる、モノマーAに基づく単位を、単に「モノマーA単位」とも記す。
【0009】
本発明の液状組成物(以下、「本組成物」とも記す。)は、溶融温度が280~325℃である熱溶融性テトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)のパウダー(以下、「Fパウダー」とも記す。)と、主鎖に熱分解性基を含み、極性官能基を有する熱分解性ポリマー(以下、「Hポリマー」とも記す。)と、極性液状分散媒とを含み、Fパウダーが分散している、パウダー分散液である。なお、液状組成物中で、Hポリマーは溶解しているのが好ましい。
本組成物は、分散性とハンドリング性とに優れており、表面平滑性等の形状に優れた、緻密なFポリマーを含む層の形成や、Fポリマーが緻密に担持された基材の形成に、好適に使用できる。その作用機構は必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
【0010】
本組成物において、Hポリマーは、極性液状分散媒と相溶しており、本組成物の液物性(粘性、チキソ性等)を高めている。さらに、極性官能基を有するHポリマーは、両親媒性であるとも言え、Fパウダーの分散を促す界面活性剤としても作用していると考えられる。つまり、本組成物においては、Hポリマーが、粘度調整剤及びチキソ性付与剤、かつ、Fパウダーの分散剤として、バランスして作用していると考えられる。
そして、かかる成分同士の間の相互作用が亢進している本組成物においては、その使用に際して、Hポリマーが結着剤かつレベリング剤としても高度に作用しやすいと考えられる。例えば、本組成物を基材に付与し加熱してFポリマーを含む層を形成する際には、Hポリマーが結着剤として作用してFパウダーの脱落を抑制できる。さらに、Hポリマーが熱分解して発生する分解ガス(炭酸ガス等)がFパウダーの流動を促し、Fパウダーがより緻密にパッキングして成形物が形成される。
かかる作用機構により、本組成物から、表面平滑性等の形状に優れた緻密なFポリマーを含む任意の厚さの層や、Fポリマーが緻密に担持された基材が得られると考えられる。
【0011】
本組成物におけるFパウダーは、Fポリマーからなるのが好ましい。FパウダーにおけるFポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
Fパウダーに含まれ得る他の成分としては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド等の耐熱性ポリマーが挙げられる。
FパウダーのD50は、6μm以下がより好ましく、4μm以下がさらに好ましい。FパウダーのD50は、0.1μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。また、FパウダーのD90は、10μm以下がより好ましく、6μm以下がさらに好ましい。FパウダーのD50及びD90が、かかる範囲にあれば、Hポリマーとの相互作用が亢進して、本組成物の分散性が向上しやすいだけでなく、Fパウダーが緻密にパッキングしやすく、かつ、Fパウダーが多孔質基材に高度に含浸しやすい。
【0012】
Fパウダーの沈降率は、60%以下が好ましく、50%以下がより好ましい。Fパウダーの沈降率の下限は、0%である。この場合、本組成物の分散性が向上しやすいだけでなく、Fパウダーが緻密にパッキングしやすく、かつ、Fパウダーが多孔質基材に高度に含浸しやすい。
本組成物におけるFパウダーの含有量は、10質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましい。Fパウダーの含有量は、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましい。Fパウダーの含有量が、かかる範囲にあれば、Hポリマーとの相互作用が亢進して、本組成物の分散性が向上しやすいだけでなく、Fパウダーが緻密にパッキングしやすく、かつ、Fパウダーが多孔質基材に高度に含浸しやすい。
【0013】
本組成物におけるFポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)に基づく単位(TFE単位)を含む熱溶融性ポリマーである。
Fポリマーの溶融温度は、280~325℃であり、300~325℃が好ましい。この場合、本組成物から形成される成形物の耐熱性が優れやすい。
Fポリマーのガラス転移点は、75~125℃が好ましく、80~100℃がより好ましい。
【0014】
Fポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、TFE単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)を含むポリマー(PFA)が挙げられ、PFAであるのが好ましい。
PAVEとしては、CF2=CFOCF3、CF2=CFOCF2CF3及びCF2=CFOCF2CF2CF3(PPVE)が好ましく、PPVEがより好ましい。
Fポリマーは、極性官能基を有するのが好ましい。極性官能基は、Fポリマー中の単位に含まれていてもよく、ポリマーの主鎖の末端基に含まれていてもよい。後者の態様としては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として極性官能基を有するFポリマー、Fポリマーをプラズマ処理や電離線処理して得られる極性官能基を有するFポリマーが挙げられる。
【0015】
極性官能基は、水酸基含有基又はカルボニル基含有基が好ましく、本組成物の分散安定性の観点から、カルボニル基含有基がより好ましい。
水酸基含有基は、アルコール性水酸基を含有する基が好ましく、-CF2CH2OH又は-C(CF3)2OHがより好ましい。
カルボニル基含有基は、カルボニル基(>C(O))を含む基であり、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH2)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)又はカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましく、酸無水物残基がより好ましい。
【0016】
Fポリマーは、PAVE単位を含み、極性官能基を有するポリマー(1)、又は、全単位に対してPAVE単位を2.0~5.0モル%含み、極性官能基を有さないポリマー(2)が好ましい。
これらのFポリマーは、そのパウダーが分散安定性に優れるだけでなく、本組成物から形成される成形物(ポリマー層等)中において、より緻密かつ均質に分布しやすい。さらに、成形物中において微小球晶を形成しやすく、他の成分との密着性が高まりやすい。その結果、表面平滑性と電気特性とに優れた成形物を、より得られやすい。
【0017】
ポリマー(1)は、TFE単位、PAVE単位及び極性官能基を有するモノマーに基づく単位を含むポリマーであるのが好ましく、全単位に対して、これらの単位をこの順に、90~99モル%、0.5~9.97モル%、0.01~3モル%、含むポリマーであるのがより好ましい。
また、極性官能基を有するモノマーは、無水イタコン酸、無水シトラコン酸又は5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(以下、「NAH」とも記す。)が好ましい。
ポリマー(1)の具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
【0018】
ポリマー(2)は、TFE単位及びPAVE単位のみからなり、全単位に対して、TFE単位を95.0~98.0モル%、PAVE単位を2.0~5.0モル%含有するのが好ましい。
ポリマー(2)におけるPAVE単位の含有量は、全単位に対して、2.1モル%以上が好ましく、2.2モル%以上がより好ましい。
なお、ポリマー(2)が極性官能基を有さないとは、ポリマー主鎖を構成する炭素原子数の1×106個あたりに対して、ポリマーが有する極性官能基の数が、500個未満であることを意味する。上記極性官能基の数は、100個以下が好ましく、50個未満がより好ましい。上記極性官能基の数の下限は、通常、0個である。
ポリマー(2)は、ポリマー鎖の末端基として極性官能基を生じない、重合開始剤や連鎖移動剤等を使用して製造してもよく、極性官能基を有するFポリマー(重合開始剤に由来する極性官能基をポリマーの主鎖の末端基に有するFポリマー等)をフッ素化処理して製造してもよい。フッ素化処理の方法としては、フッ素ガスを使用する方法(特開2019-194314号公報等を参照)が挙げられる。
【0019】
本組成物におけるHポリマーは、主鎖に熱分解性基を含み、極性官能基を有する熱分解性ポリマーである。極性官能基は、Hポリマーの側鎖にのみに含まれていてもよく、Hポリマーの末端にのみに含まれていてもよく、Hポリマーの側鎖及び末端の両方に含まれていてもよい。
本組成物におけるHポリマーの含有量は、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましい。Hポリマーの含有量は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。Hポリマーの含有量が、かかる範囲にあれば、液状組成物におけるHポリマーの作用(粘度調整作用、チキソ性付与作用、界面活性作用)と、液状組成物の使用に際するHポリマーの作用(結着作用、レベリング作用)とがバランスしやすい。
【0020】
Hポリマーの熱分解温度は、150℃以上であるのが好ましく、200℃以上であるのがより好ましい。また、Hポリマーの熱分解温度は、(Fポリマーの溶融温度+50℃)以下であるのが好ましく、Fポリマーの溶融温度以下であるのがより好ましい。
Hポリマーの5%熱分解温度は、250℃以上であるのが好ましく、275℃以上であるのがより好ましい。また、Hポリマーの熱分解温度は、(Fポリマーの溶融温度+25℃)以下であるのが好ましく、Fポリマーの溶融温度以下であるのがより好ましい。Hポリマーの熱分解温度又は5%熱分解温度が、かかる範囲にあれば、本組成物の使用に際するHポリマーの、結着剤としての作用とレベリング剤としての作用とがバランスしやすい。
【0021】
Hポリマーは、ノニオン性であるのが好ましい。かかる場合、液状組成物において、HポリマーとFパウダー及び極性液状分散媒との間の相互作用がバランスして、その分散性が向上しやすい。
【0022】
Hポリマーの熱分解性基は、カーボネート基又はグリコシル基であるのが好ましい。この場合、本組成物におけるHポリマーの作用と、本組成物の使用に際するHポリマーの作用とがバランスしやすく、本組成物を加熱して層状に成形した際の表面平滑性に優れやすい。また、本組成物を多孔質基材に含浸させた場合、Fポリマーが緻密に担持されやすい。
Hポリマーの極性官能基は、ヒドロキシ基、カルボキシ基、酸無水物残基、イミド基、アルデヒド基、アルコキシカルボニル基、カルバメート基、シリケート基、イソシアネート基、アルコキシ基、ヒドロキシアルコキシ基、フェノキシ基、アセタール基、アミノ基又はアミド基であるのが好ましく、ヒドロキシ基、アルコキシ基又はアミノ基であるのがより好ましい。この場合、本組成物におけるHポリマーの作用と、本組成物の使用に際するHポリマーの作用とがバランスしやすく、本組成物を加熱して層状に成形した際の表面平滑性に優れやすい。また、本組成物を多孔質基材に含浸させた場合、Fポリマーが緻密に担持されやすい。
Hポリマーは、ヒドロキシ基を有する脂肪族ポリカーボネート、又は、ヒドロキシ基及びアルコキシ基を有する糖鎖状ポリマーであるのが好ましい。
【0023】
脂肪族ポリカーボネートとしては、二酸化炭素の存在下、アルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等)を開環反応させて得られる、主鎖にポリカーボネート基を含み、末端にヒドロキシ基を有する脂肪族ポリカーボネートが挙げられる。
かかる脂肪族ポリカーボネートは、末端封止剤(カルボン酸、酸無水物、酸ハロゲン化物、イソシアネート、有機シリケート、アルデヒド等)によってヒドロキシ基を部分的に封止してもよい。また、ベンジル基等で保護されたアミノ基を有するアルキレンオキシドを共に重合に供し、脱保護して、さらにアミノ基を側鎖に有する脂肪族ポリカーボネートを調製してもよい。
脂肪族ポリカーボネートは、2種以上の混合物であってもよく、末端にヒドロキシ基を有する脂肪族ポリカーボネートと、末端にヒドロキシ基以外の極性官能基を有する脂肪族ポリカーボネート又は末端にハロゲン置換基を有する脂肪族ポリカーボネートとの混合物であってもよい。
【0024】
糖鎖状ポリマーとしては、主鎖にグリコシル基を含み、側鎖にヒドロキシ基及びアルコキシ基を有するポリマーであるのが好ましい。
糖鎖状ポリマーの主鎖は、アミロース構造、アミロペクチン構造、グリコーゲン構造、セルロース構造又はキチン構造を有するのが好ましく、セルロース構造を有するのがより好ましい。
糖鎖状ポリマーの側鎖は、側鎖にヒドロキシアルコキシ基及びアルコキシ基を有するのがより好ましい。
ヒドロキシアルコキシ基の具体例としては、ヒドロキシメトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、ヒドロキシプロポキシ基が挙げられる。
アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基が挙げられる。
【0025】
糖鎖状ポリマーとしては、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース(側鎖にヒドロキシアルコキシ基及びアルコキシ基を有するセルロース)が好ましい。ヒドロキシアルキルアルキルセルロースのヒドロキシアルコキシ基の置換度は5~12質量%が好ましい。ヒドロキシアルキルアルキルセルロースのアルコキシ基の置換度は28~30質量%が好ましい。
なお、置換度とは、糖鎖状ポリマーの糖鎖構造が有する極性官能基が置換された割合であり、J.G.Gobler,E.P.Samsel,and G.H.Beaber,Talanta,9,474(1962)に記載されているZeisel-GCによる手法に準じて測定できる。
【0026】
糖鎖状ポリマーの好適な具体例としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロースが挙げられ、より好適な具体例としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースが挙げられる。
糖鎖状ポリマーは、2種以上の混合物であってもよく、ヒドロキシアルキルアルキルセルロースと、アルキルセルロース(メチルセルロース)との混合物であってもよい。
糖鎖状ポリマーの具体例としては、「メトローズ」シリーズ(信越化学工業製)が挙げられる。
【0027】
本組成物は、液物性を調整する観点から、さらに、ポリビニルピロリドン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸のナトリウム塩、ポリアクリル酸のアンモニウム塩、ポリアクリルアミド、ポリビニルピリジン、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール及びポリビニルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリマーを含んでいてもよい。かかるポリマーの具体例としては、「ジュリマー」シリーズ(東亞合成株式会社製)が挙げられる。
【0028】
本組成物における極性液状分散媒は、25℃で液体の極性化合物であり、Fポリマー及び液状組成物のいずれとも反応しない化合物である。極性液状分散媒は、2種以上を併用してもよい。
極性液状分散媒の沸点は、80℃以上、かつ、熱分解性ポリマーの熱分解温度以下であるのが好ましく、80~150℃であるのがより好ましい。この場合、本組成物におけるHポリマーの作用と、本組成物の使用に際するHポリマーの作用とがバランスしやすい。
極性液状分散媒は、水、ケトン、アミド及びエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましく、水、ケトン又はアミドであるのがより好ましい。
極性液状分散媒としては、水、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、乳酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンが挙げられ、水、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン又はN-メチル-2-ピロリドンであるのが好ましい。
【0029】
本組成物は、上述した作用機構のとおり、液状組成物におけるHポリマーの作用(粘度調整作用、チキソ性付与作用、界面活性作用)により、Fパウダーの分散安定性に優れている。
本組成物は、界面活性剤を、実質的に含まないのが好ましく、特に、フッ素系界面活性剤(親水性部位と含フッ素基を含む疎水性部位とを有する化合物)を含まないのが好ましい。ここで、界面活性剤を実質的に含まないとは、界面活性剤の含有量が、0.1質量%未満であることを意味する。本組成物が界面活性剤を含まなければ、本組成物から形成される成形物において、界面活性剤の残渣による成形物の物性の低下を抑制できる。
なお、本組成物が界面活性剤を含む場合、界面活性剤はノニオン性であるのが好ましい。
界面活性剤の親水部位としては、オキシアルキレン基(オキシエチレン基等)、アルコール性水酸基が挙げられる。
界面活性剤の疎水部位としては、アセチレン基、ポリシロキサン基、ペルフルオロアルキル基、ペルフルオロアルケニル基が挙げられる。
【0030】
本組成物は、Hポリマーの作用により分散安定性に優れ、その使用に際するHポリマーの作用によりFポリマーの緻密な成形物(含浸基材、担持基材、層状基材等)を形成できるため、さらに、Fパウダー及び熱分解性ポリマー以外の他の成分を含んでいてもよい。
【0031】
本組成物は、成形物の低線膨張性、電気特性を一層向上させる観点から、さらに無機フィラーを含むのが好ましい。
無機フィラーは、窒化物フィラー又は無機酸化物フィラーが好ましく、窒化ホウ素フィラー、ベリリアフィラー(ベリリウムの酸化物のフィラー)、ケイ酸塩フィラー(シリカフィラー、ウォラストナイトフィラー、タルクフィラー)、又は金属酸化物(酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等)フィラーがより好ましく、シリカフィラーがさらに好ましい。
無機フィラーにおける、シリカの含有量は、50質量%以上が好ましく、75質量%がより好ましい。シリカの含有量は、100質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。
【0032】
無機フィラーは、その表面の少なくとも一部が、表面処理されているのが好ましい。かかる表面処理に用いられる表面処理剤としては、多価アルコール(トリメチロールエタン、ペンタエリストール、プロピレングリコール等)、飽和脂肪酸(ステアリン酸、ラウリン酸等)、そのエステル、アルカノールアミン、アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン等)、パラフィンワックス、シランカップリング剤、シリコーン、ポリシロキサンが挙げられる。
シランカップリング剤は、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン又は3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0033】
無機フィラーの平均粒子径は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。平均粒子径は、0.1μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。
無機フィラーの形状は、粒状、針状(繊維状)、板状のいずれであってもよい。無機フィラーの具体的な形状としては、球状、鱗片状、層状、葉片状、杏仁状、柱状、鶏冠状、等軸状、葉状、雲母状、ブロック状、平板状、楔状、ロゼット状、網目状、角柱状が挙げられる。
無機フィラーの具体例としては、シリカフィラー(アドマテックス社製の「アドマファイン」シリーズ等)、ジカプリン酸プロピレングリコール等のエステルで表面処理された酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製の「FINEX」シリーズ等)、球状溶融シリカ(デンカ社製の「SFP」シリーズ等)、多価アルコール及び無機物で被覆処理された(石原産業社製の「タイペーク」シリーズ等)、アルキルシランで表面処理されたルチル型酸化チタン(テイカ社製の「JMT」シリーズ等)が挙げられる。
本組成物における無機フィラーの含有量は、1~30質量%が好ましい。Fポリマーの含有量に対する無機フィラーの含有量の比(質量比)は、0.1~1が好ましい。
【0034】
本組成物は、さらに、他の樹脂(ポリマー)を含んでもよい。他の樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。
他の樹脂としては、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド、ポリアミック酸、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド、液晶ポリエステル、Fポリマー以外のフルオロポリマーが挙げられる。
他の樹脂の好適な具体例としては、マレイミド樹脂、ポリイミド、ポリアミック酸が挙げられる。この場合、本組成物から成形物を形成する際に、Fパウダーの粉落ちが一層抑制されやすい。また、成形物の接着性もより向上しやすい。また、これらのポリマーが芳香族性であれば、本組成物からなる成形物のUV加工性も向上しやすい。
この場合の本組成物における、これらの樹脂の含有量は、0.1~10質量%が好ましい。Fポリマーの含有量に対するポリイミドの含有量の比は、0.01~0.5がより好ましい。
【0035】
他の樹脂の好適な具体例としては、Fポリマー以外のフルオロポリマーが好ましく、溶融温度が325℃超の非熱溶融性のポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。この場合、その成形物において、非熱溶融性のポリテトラフルオロエチレンに基づく物性(低誘電正接性等の電気特性)が顕著に発現しやすい。
この場合の本分散液における非熱溶融性のポリテトラフルオロエチレンの含有量は、1~30質量%が好ましい。Fポリマーの含有量に対する非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレンの含有量の比は、0.1~1がより好ましい。
【0036】
本組成物は、上述した成分以外にも、チキソ性付与剤、消泡剤、シランカップリング剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、難燃剤等の添加剤を含んでいてもよい。
本組成物の25℃における粘度は、100mPa・s以上が好ましく、250mPa・s以上がより好ましい。本組成物の25℃における粘度は、5000mPa・s以下が好ましく、1000mPa・s以下がより好ましい。
本組成物の25℃におけるチキソ比は、1.0~2.0が好ましい。
上述した作用機構により、本組成物は、かかる粘度及びかかるチキソ比に容易に調製しやすい。
【0037】
本組成物は、FパウダーとHポリマーと極性液状分散媒とを混合して製造できる。製造に際しては、Fパウダー及びHポリマーを含む組成物と、極性液状分散媒とを混合してもよく、Fパウダー及び極性液状分散媒を含む組成物と、Hポリマー及び極性液状分散媒を含む組成物とを混合してもよく、Fパウダーと、Hポリマー及び極性液状分散媒を含む組成物とを混合してもよい。
Hポリマー及び極性液状分散媒を含む組成物は、Hポリマーの均一性を高める観点から、撹拌かつ温調した極性液状分散媒に、Hポリマーを逐次添加して調製するのが好ましい。
Hポリマーが糖鎖状ポリマーである場合、Hポリマーと極性液状分散媒とを含む組成物は、撹拌、かつ、0℃~極性液状分散媒の沸点以下の温度に温調した極性液状分散媒に、Hポリマーを複数回に分けて混合して調製するのが好ましい。また、混合後の組成物は、撹拌しながら冷却するのが好ましい。
また、Hポリマーが糖鎖状ポリマーである場合、Hポリマーと極性液状分散媒とを含む組成物は、撹拌、かつ、0℃~極性液状分散媒の沸点以下の温度に温調した極性液状分散媒に、Hポリマーを複数回に分けて混合して調製するのが好ましい。また、混合後の組成物は、撹拌しながら冷却するのが好ましい。
なお、他の成分を含む場合の本組成物は、本組成物と他の成分とを直接混合して製造してもよく、本組成物と他の成分とを含む液状組成物(ワニス等)とを混合して製造してもよい。
【0038】
本組成物を多孔質基材に含浸させると、マトリックス樹脂としてFポリマー及び熱分解性ポリマーを含む、含浸基材(以下、「本含浸基材」とも記す。)が得られる。
多孔質基材としては、無機繊維、金属繊維、有機繊維等が挙げられる。多孔質基材は、表面処理が施されていてもよい。
無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、シリコンカーバイト繊維、シリコンナイトライド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維等が挙げられる。
金属繊維としては、アルミニウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維等が挙げられる。
有機繊維としては、芳香族ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維等が挙げられる。
多孔質基材としては、ガラス繊維及び炭素繊維が好ましい。
本含浸基材におけるマトリックス樹脂の含有量は、50~90質量%が好ましい。
本含浸基材の厚さとしては、1~300μmが好ましい。
【0039】
本含浸基材を加熱して、Fポリマーを焼成すると、Fポリマーが多孔質基材に担持されたポリマー担持基材(以下、「本担持基材」とも記す。)が得られる。
本担持基材は、本含浸基材のみを用いて形成してもよく、本含浸基材とプリプレグ等の部材とを用いて形成してもよい。
上記部材としては、ポリアリールエーテルケトン、含フッ素エラストマー等を含むプリプレグ、金属部材(金属箔等)、ポリアリールエーテルケトン、含フッ素エラストマー等のフィルム等が挙げられる。
金属部材の材質としては、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、黄銅、ニッケル、亜鉛が挙げられる。
【0040】
本担持基材は、本含浸基材を加熱加圧による成形処理によって製造するのが好ましい。加熱温度としては、Fポリマーの溶融温度以上かつ熱分解性ポリマーの熱分解温度以上の温度が好ましい。加熱時の圧力としては、1~20MPaが好ましく、処理時間は3~10分間が好ましい。
本担持基材の厚さとしては、1~300μmが好ましい。
本担持基材の用途としては、国際公開第2015/182702号に記載された用途、スマートフォンの筐体、送電線の芯材、燃料(水素、ガソリン等)、オイルの保管用圧力容器、トンネル、道路等の補修又は補強シート、航空機部材、風車の羽根、自動車外板、電子機器の筐体、トレイ、シャーシ、スポーツ用品(テニスラケットのフレーム、バット、ゴルフシャフト、釣竿、自転車のフレーム、リム、ホイール、クランク等)が挙げられる。
【0041】
本組成物を基材層に付与し、加熱して極性液状分散媒を揮発させ、さらに加熱してFポリマーを焼成すると、上記基材層と、上記テトラフルオロエチレン系ポリマーを含むポリマー層(以下、「F層」とも記す。)とを有する積層体(以下、「本積層体」とも記す。)が得られる。
前者の加熱における温度は、120℃~200℃が好ましい。後者の加熱における温度はFポリマーの溶融温度かつHポリマーの熱分解温度以上の温度が好ましく、具体的には300~380℃がより好ましい。かかる場合、Hポリマーが充分に分解し、F層が平滑性と電気特性とに優れやすい。
それぞれの加熱の方法としては、オーブンを用いる方法、通風乾燥炉を用いる方法、赤外線等の熱線を照射する方法が挙げられる。
【0042】
基材層としては、金属基板(銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、それらの合金等の金属箔等)、ポリマーフィルム(ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン、ポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリールエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミド等のフィルム)、プリプレグ(繊維強化樹脂基板の前駆体)又は本担持基材が好ましく、金属箔又はポリマーフィルムがより好ましい。
基材層への液状組成物の付与は、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアオフセット法、ナイフコート法、キスコート法、バーコート法、ダイコート法、ファウンテンメイヤーバー法、スロットダイコート法等の塗布法によって行うのが好ましい。
【0043】
F層の厚さは、1μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、25μm以上がさらに好ましい。F層の厚さは、300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。本積層体は、上述の作用機構により、F層が厚い場合にも表面平滑性に優れやすい。
F層の厚さは、Fポリマーの平均粒子径に対し、2倍超であるのが好ましく、5倍超であるのがより好ましく、10倍超であるのがさらに好ましい。F層の厚さは、Fポリマーの平均粒子径に対して、1000倍未満であるのが好ましく、100倍未満であるのがより好ましい。かかる場合、本組成物から本積層体を成形する際に、粉落ちが抑制されやすい。また、緻密かつ平滑性に優れたF層が形成されやすい。
【0044】
本組成物は、基材層の一方の表面にのみ付与してもよく、基材層の両面に付与してもよい。前者においては、基材層と、基材層の片方の表面にF層を有する積層体が得られ、後者においては、基材層と、基材層の両方の表面にF層を有する積層体が得られる。後者の積層体は、より反りが発生しにくいため、その加工に際するハンドリング性に優れる。
かかる積層体の具体例としては、金属箔と、その金属箔の少なくとも一方の表面にF層を有する金属張積層体、ポリイミドフィルムと、そのポリイミドフィルムの両方の表面にF層を有する多層フィルムが挙げられる。
これらの積層体は、電気特性、はんだリフロー耐性等の耐熱性、耐薬品性、表面平滑性等の諸物性に優れており、プリント基板材料等として好適である。具体的には、かかる積層体は、フレキシブルプリント基板やリジッドプリント基板の製造に使用できる。
【実施例】
【0045】
1.各成分の準備
[パウダー]
パウダー1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%含み、極性官能基を有するポリマー(溶融温度:300℃)からなるパウダー(D50:2.1μm)
パウダー2:TFE単位及びPPVE単位を、この順に98.7モル%、1.3モル%含むポリマー(溶融温度305℃)からなるパウダー(D50:1.8μm)
【0046】
[熱分解性ポリマー(Hポリマー)]
Hポリマー1:ヒドロキシプロピルメチルセルロース(5%熱分解温度:300℃。「メトローズSH-15」、信越化学社製)
Hポリマー2:メチルセルロース(5%熱分解温度:300℃。側鎖にヒドロキシ基とメトキシ基を含む。「メトローズSM」、信越化学社製)
Hポリマー3:末端にヒドロキシ基を有するポリプロピレンポリカーボネート(5%熱分解温度:260℃)
Hポリマー4:末端にカルボキシ基を有するポリプロピレンカーボネート(5%熱分解温度:260℃)
Hポリマー5:極性官能基を有さないポリプロピレンポリカーボネート
【0047】
[無機フィラー]
フィラー1:シリカフィラー(D50:0.4μm)
[芳香族ポリマーのワニス]
PI1:熱可塑性の芳香族ポリイミド
[液状分散媒]
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
【0048】
(例1)分散液の製造例
パウダー1及びHポリマー1を混合して得られた粉体と、PI1のワニス(溶媒:NMP)とを、ポット中のNMPに投入した。ポットにジルコニアボールを投入し、150rpmにて1時間、150rpmにて1時間、ポットを転がして、パウダー1(33質量部)、Hポリマー1(1質量部)、フィラー1(5質量部)、PI1(1質量部)及びNMP(60質量部)を含む分散液(液状組成物)1を得た。分散液1の粘度は、400mPa・sであった。
各成分の種類と量とを、下表1に示すように変更した以外は同様にして、分散液2~6を得た。
【0049】
それぞれの分散液を容器中に25℃にて保管保存後、その分散性を目視にて確認し、下記の基準に従って分散安定性を評価した。結果を、下表1にまとめて示す。
[評価基準]
〇:凝集物が視認されない。
△:容器側壁に細かな凝集物の付着が視認される。軽く撹拌すると均一に再分散した。
×:容器底部にも凝集物が沈殿しているのが視認される。再分散には、せん断をかけた撹拌を要した。
【0050】
【0051】
(例2)成形物の製造例
長尺の銅箔(厚さ:18μm)の表面に、バーコーターを用いて分散液1を塗布して、ウェット膜を形成した。次いで、このウェット膜が形成された金属箔を、120℃にて5分間、乾燥炉に通し、加熱により乾燥させて、ドライ膜を得た。その後、窒素オーブン中で、ドライ膜を380℃にて3分間、加熱した。これにより、金属箔と、その表面にパウダー1の溶融焼成物、フィラー1及びPI1を含む、成形物としてのポリマー層(厚さ:50μm)とを有する積層体1aを製造した。
また、ポリマー層の厚さを100μmに変更した以外は、積層体1aと同様にして、積層体1bを製造した。
分散液1を、分散液2~6のそれぞれに変更した以外は同様にして、積層体2a~6a(ポリマー層の厚さ:50μm)と、積層体2b~6b(ポリマー層の厚さ:100μm)とをそれぞれ製造した。
【0052】
それぞれの積層体のポリマー層について、その表面の平滑性を目視にて確認し、下記の基準に従って表面平滑性を評価した。結果を、下表2にまとめて示す。
[評価基準]
〇:ポリマー層の表面全体が平滑である。
△:ポリマー又は無機フィラーの欠落による凹凸が、ポリマー層の表面の縁部に視認される。
×:ポリマー又は無機フィラーの欠落による凹凸が、ポリマー層の表面の全体に視認される。
【0053】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の液状組成物は、アンテナ部品、プリント基板、航空機用部品、自動車用部品、スポーツ用具、食品工業用品、塗料、化粧品等の材料として有用であり、具体的には、電線被覆材(航空機用電線等)、電気絶縁性テープ、石油掘削用絶縁テープ、プリント基板用材料、分離膜(精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、透析膜、気体分離膜等)、電極バインダー(リチウム二次電池用、燃料電池用等)、コピーロール、家具、自動車ダッシュボート、家電製品等のカバー、摺動部材(荷重軸受、すべり軸、バルブ、ベアリング、歯車、カム、ベルトコンベア、食品搬送用ベルト等)、工具(シャベル、やすり、きり、のこぎり等)、ボイラー、ホッパー、パイプ、オーブン、焼き型、シュート、ダイス、便器、コンテナ被覆材として有用である。