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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】車両窓用の樹脂枠体付きガラス板
(51)【国際特許分類】
   B60J 1/10 20060101AFI20240628BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20240628BHJP
   B29C 45/14 20060101ALN20240628BHJP
   B29C 45/26 20060101ALN20240628BHJP
【FI】
B60J1/10 C
B60J1/00 M
B29C45/14
B29C45/26
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020150750
(22)【出願日】2020-09-08
(65)【公開番号】P2022045193
(43)【公開日】2022-03-18
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】八田 直憲
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和浩
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-230011(JP,A)
【文献】特開2013-188967(JP,A)
【文献】特開2003-025837(JP,A)
【文献】特開2014-205392(JP,A)
【文献】特開2002-046465(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0100996(US,A1)
【文献】特開平03-019817(JP,A)
【文献】特開2008-094061(JP,A)
【文献】特開平03-065428(JP,A)
【文献】特開平08-230457(JP,A)
【文献】特開2012-171392(JP,A)
【文献】特開2003-127671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 1/00 - 1/20
B60R 13/01 - 13/04
B60R 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板と、前記ガラス板の周縁部に設けられた樹脂枠体と、前記樹脂枠体に配置された加飾部材とを備え、前記樹脂枠体が前記ガラス板及び前記加飾部材と一体的に成形されている車両窓用の枠体付きガラス板であって、
前記樹脂枠体に、前記樹脂枠体の表面から凹む溝が、前記樹脂枠体と前記加飾部材の露出部との境界に沿って形成され
前記加飾部材が、前記樹脂枠体に埋没している埋没部を有し、
前記埋没部は、略厚み方向に延在する厚み方向区分と、前記厚み方向区分の先端から前記ガラス板の略主面方向に延在する主面方向区分とを備え、前記ガラス板の厚み方向に前記ガラス板を含む範囲で延在している、車両窓用の樹脂枠体付きガラス板。
【請求項2】
ガラス板と、前記ガラス板の周縁部に設けられた樹脂枠体と、前記樹脂枠体に配置された加飾部材とを備え、前記樹脂枠体が前記ガラス板及び前記加飾部材と一体的に成形されている車両窓用の枠体付きガラス板であって、
前記樹脂枠体に、前記樹脂枠体の表面から凹む溝が、前記樹脂枠体と前記加飾部材の露出部との境界に沿って形成され、
前記ガラス板の車外面に、前記樹脂枠体が配置されていない車両窓用の樹脂枠体付きガラス板。
【請求項3】
前記溝の深さが0.5~2.0mmである、請求項1又は2に記載の車両窓用の樹脂枠体付きガラス板。
【請求項4】
前記溝の幅が0.5~3.0mmである、請求項1から3のいずれか一項に記載の車両窓用の樹脂枠体付きガラス板。
【請求項5】
前記埋没部が、平面視で前記溝に重なる、請求項に記載の車両窓用の樹脂枠体付きガラス板。
【請求項6】
前記埋没部が、平面視で前記ガラス板に重なる、請求項5に記載の車両窓用の樹脂枠体付きガラス板。
【請求項7】
ガラス板と、前記ガラス板の周縁部に設けられた樹脂枠体と、前記樹脂枠体に配置された加飾部材とを備え、前記樹脂枠体が前記ガラス板及び前記加飾部材と一体的に成形されている車両窓用の枠体付きガラス板であって、
前記樹脂枠体に、前記樹脂枠体の表面から凹む溝が、前記樹脂枠体と前記加飾部材の露出部との境界に沿って形成され、
前記加飾部材が、前記樹脂枠体に埋没している埋没部を有し、
前記埋没部が、前記ガラス板の厚み方向に前記ガラス板を含む範囲で延在し、平面視で前記溝に重なり、平面視で前記ガラス板に重なり、
前記ガラス板と前記埋没部との間に前記厚み方向にわたる挿入体を備える車両窓用の樹脂枠体付きガラス板。
【請求項8】
前記加飾部材が長尺状であり、前記露出部が10~150mmの幅を有する、請求項6又は7に記載の車両窓用の樹脂枠体付きガラス板。
【請求項9】
前記車外面側で、前記ガラス板と前記樹脂枠体とが面一になっている、請求項に記載の車両窓用の樹脂枠体付きガラス板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両窓用の樹脂枠体付きガラス板に関する。
【背景技術】
【0002】
車両窓用の部材として、ガラス板と、その周縁部に設けられた樹脂枠体とが一体化されてなる構造が知られている。このような樹脂枠体付きガラス板として、樹脂枠体の表面に、主として装飾を目的とした加飾部材をさらに設けられたものも知られている。例えば、特許文献1には、窓ガラスの周縁部に一体的に固着された樹脂製の枠体と、この樹脂製の枠体に固定される装飾モールを備えた、射出成形によって製作された構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-15555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される構造は、金型のキャビティ内に窓ガラス及び装飾モールをそれぞれ設置し、残りのキャビティの空間に熱融解させた樹脂を射出した後、樹脂を固化することによって、窓ガラスと、装飾モール(加飾部材)と、樹脂枠体とが一体化されてなる成形品を形成することで得られる。しかしながら、得られる製品においては、射出される樹脂と加飾部材との見切り位置に、すなわち製品表面における樹脂と加飾部材との間の境界に、樹脂のバリが形成されやすい。バリは意図せず形成される不要な部分であり、表面に見えるバリは製品全体の美観を損ね得る。また、バリが形成された場合には刃物等を用いて除去されることが多いが、バリは通常、薄く小さいものであるので、除去は細かい作業となるため、時間及びコストがかかる。また、作業時に、誤って加飾部材や樹脂枠体自体に不要な傷を付けてしまう可能性もある。
【0005】
よって、本発明の一態様は、加飾部材が一体化されてなる樹脂枠体付き車両窓用ガラス板の美観を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、ガラス板と、前記ガラス板の周縁部に設けられた樹脂枠体と、前記樹脂枠体に配置された加飾部材とを備え、前記樹脂枠体が前記ガラス板及び前記加飾部材と一体的に成形されている車両窓用の枠体付きガラス板であって、前記樹脂枠体に、前記樹脂枠体の表面から凹む溝が、前記樹脂枠体と前記加飾部材の露出部との境界に沿って形成され、前記加飾部材が、前記樹脂枠体に埋没している埋没部を有し、前記埋没部は、略厚み方向に延在する厚み方向区分と、前記厚み方向区分の先端から前記ガラス板の略主面方向に延在する主面方向区分とを備え、前記ガラス板の厚み方向に前記ガラス板を含む範囲で延在している
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、加飾部材が一体化されてなる樹脂枠体付き車両窓用ガラス板の美観を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1実施形態による樹脂枠体付きガラス板の平面図である。
図2図1のI-I線断面図である。
図3】従来技術による樹脂枠体付きガラス板の断面図である。
図4図2の、溝付近の部分拡大図である。
図5】別例の樹脂枠体付きガラス板の断面図の溝付近の部分拡大図である。
図6】本発明の第2実施形態による樹脂枠体付きガラス板の断面図である。
図7】本発明の第2実施形態の変形例による樹脂枠体付きガラス板の断面図である。
図8】本発明の第3実施形態による樹脂枠体付きガラス板の平面図である。
図9図8のII-II線断面図である。
図10】本発明の第4実施形態による樹脂枠体付きガラス板の平面図である。
図11図10のIII-III線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、特に説明がない限り、同一の又は対応する構成については同一の符号を付して説明を省略する場合がある。また、図面は、発明の理解を助けるための模式的なものであり、図面における縮尺は実際とは異なる場合がある。
【0010】
(第1実施形態)
図1に、本発明の第1実施形態による樹脂枠体付きガラス板100の平面図を示す。図1は、樹脂枠体付きガラス板100を車外側から見た図である。また、図2に、図1のI-I線断面図を示す。図1及び図2に示すように、樹脂枠体付きガラス板100は、ガラス板10と、ガラス板10の周縁部に形成された樹脂枠体20とを備えた、モジュールアッシーウィンドウ(Module Assy Window(MAW))(登録商標)として構成されていている。モジュールアッシーウィンドウを用いることで、窓ガラスを樹脂枠体ごと車両の窓枠に装着できるため、車両の組み立て作業を簡略化できる。
【0011】
さらに、本形態による樹脂枠体付きガラス板100には、樹脂枠体20の車外側に加飾部材(装飾部材若しくは装飾モール)30が設けられている。すなわち、本形態は、ガラス板10、樹脂枠体20、及び加飾部材30が一体化された成形品である。なお、本明細書において、「一体化」又は「一体的」とは、窓ガラスを車体に取り付ける通常の作業において各部材が分解することのない状態を指す。
【0012】
本形態による樹脂枠体付きガラス板(若しくはMAW)100は、車両用ガラスであり、フロントガラス、リアガラス、サイドガラス、ルーフガラス、フロントクォーターガラス、リアクォーターガラス等として使用され得る。このうち、フロントクォーターガラス及びリアクォーターガラスとして、特に好適に使用され得る。
【0013】
本形態による樹脂枠体付きガラス板100において用いられるガラス板10は、車両窓用のガラス板であればよく、特に限定されない。ガラス板10に用いられるガラスは、無機ガラスであってよく、より具体的には、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ボレートガラス、リチウムアルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス等であってよい。ガラス板10の成形法についても特に限定されないが、例えば、フロート法等により成形されたガラスが好ましい。また、ガラス板10は、未強化ガラスであってもよいし、風冷強化処理又は化学強化処理が施された強化ガラスであってもよい。未強化ガラスは、溶融ガラスを板状に成形し、徐冷したものである。強化ガラスは、未強化ガラスの表面に圧縮応力層を形成したものであり、物理強化ガラス(例えば風冷強化ガラス)であっても、化学強化ガラスであってもよい。風冷強化ガラスである場合、均一に加熱したガラス板を軟化点付近の温度から急冷し、ガラス表面とガラス内部との温度差によってガラス表面に圧縮応力を生じさせることで、ガラス表面を強化してもよい。化学強化ガラスである場合、イオン交換法等によってガラス表面に圧縮応力を生じさせることでガラス表面を強化してもよい。
【0014】
ガラス板10は、紫外線又は赤外線を吸収するガラス板であってもよい。ガラス板10は、透明であることが好ましいが、透明性を損なわない程度に着色されたガラスであってもよい。また、ガラス板10の一方又は両方の主面が、紫外線遮断、赤外線遮断、坊曇作用、又はその他の作用を付与するためのコーティング層で被覆されていてもよい。
【0015】
さらに、ガラス板10の周縁部には、車内面に沿って遮蔽層(黒セラともいう)が設けられていてよい。遮蔽層は、車両用ガラス板を車体に接着し保持するためのシーラント等を保護する働きを有する層であり、有色のセラミックスペースト(ガラスペースト)を塗布して焼き付けることによって形成できる。
【0016】
ガラス板10の平面視形状は、図1に示すような頂点の角度が互いに異なる四角形であってよいし、矩形であってもよい。或いは、三角形等の四角形以外の形状であってよい。また、ガラス板10の厚みは、0.2~5mmであってよく、好ましくは0.3mm~2.4mmであってよい。
【0017】
なお、本形態におけるガラス板10は、上述のガラス板が複数積層されてなる合わせガラスとすることもできる。合わせガラスは、上述のガラス板を複数枚、熱可塑性樹脂を含む中間膜を介して張り合わせたものであってよい。ガラス板10が合わせガラスとして構成されている場合、車外側に配置されるガラス板の厚みは、最薄部が1.1~3mm以下であることが好ましい。車外側に位置するガラス板の厚みが1.1mm以上であると、耐飛び石性能等の強度が十分であり、3mm以下であると、合わせガラスの質量が大きくなり過ぎず、車両の燃費の点で好ましい。車外側に位置するガラス板の厚みは、最薄部が1.6~2.8mm以下がより好ましく、1.6~2.6mm以下が更に好ましく、1.6~2.3mm以下がさらに好ましく、1.6~2.0mm以下がさらに好ましい。車内側に配置されるガラス板の厚みは、0.3~2.3mm以下であることが好ましい。車内側に位置するガラス板の板厚が0.3mm以上であることによりハンドリング性がよく、2.3mm以下であることにより質量が大きくなり過ぎない。
【0018】
ガラス板10は、1方向にのみ曲げ成形された単曲曲げ形状を有していていよいし、2方向(例えば所定方向と当該所定方向に直交する方向)に曲げ成形された複曲曲げ形状を有していてもよい。曲げ成形は、重力成形、プレス成形等であってよい。ガラス板が所定の曲率に曲げ成形されて湾曲している場合、ガラス板10の曲率半径は、1,000~100,000mmであってよい。
【0019】
図1及び図2に示すように、樹脂枠体20は、ガラス板10の周縁部に形成されている。樹脂枠体20は、図1に示すようにガラス板10の全周縁部に連続して設けられていてもよいし、周縁部の一部のみに形成されていて、周方向に不連続になっていてもよい。また、樹脂枠体20は、ガラス板10の端面13と、少なくとも一方の主面(車内面及び/又は車外面)とに接触して設けられていればよい。より具体的には、樹脂枠体20は、図2に示すように、ガラス板10の端面13、並びに周縁部の車外面11及び車内面12の計3面を覆うように設けられていてよいが、ガラス板10の端面13及び周縁部の車内面12の計2面を覆い、車外面11を覆わないように設けられていてもよい(後述)。図2に示すように、樹脂枠体20が、ガラス板10の周縁部の3つの面を覆うように形成されている場合、ガラス板10の周縁部が3方向から保持されるので、樹脂枠体20に対してガラス板10が安定して配置され、樹脂枠体付きガラス板100の強度が高まる。樹脂枠体20がガラス板10の主面に設けられている範囲は、車外面11においては、ガラス板10の端縁(若しくは端面13の位置)から3.0mm以上であってよく、車内面12においては3.0mm以上であってよい。
【0020】
樹脂枠体20に用いられる樹脂は、ガラス板10及び加飾部材30とともに一体化された製品を形成できるものであれば特に限定されないが、射出成形において利用できるもの、すなわち加熱溶融可能で、その後の冷却により固化可能であるものが好ましい。樹脂枠体20に用いられる樹脂は、熱可塑性樹脂であってよく、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂の他、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリスチレン系、ポリアミド系、ポリウレタン系の樹脂を用いることができる。
【0021】
加飾部材30は、主として車両窓の装飾を目的とした、樹脂枠体付きガラス板100の車外側に形成された長尺で板状の外装部材であってよい。加飾部材30の板厚は、好ましくは0.1mm~0.7mm、より好ましくは0.4~0.5mmであってよい。また、加飾部材30の表面(車外側の面)には、表面の保護のために酸化被膜又はフィルムが形成されていてよい。
【0022】
また、加飾部材30は、平面視で樹脂枠体20が設けられている範囲内に、樹脂枠体20の表面に形成されていてよい。図1に示す形態では、加飾部材30は、平面視が略四角形の一体成形体である樹脂枠体付きガラス板100の1つの辺に沿って配置されているが、2つ以上の辺に沿って配置されていてもよいし、さらに樹脂枠体付きガラス板100の全周縁に沿って連続して配置されていてもよい。
【0023】
加飾部材30は、樹脂枠体20から露出した露出部32と、樹脂枠体20に埋没した埋没部34とを有する。加飾部材30の露出部32は、ガラス板10の面方向にほぼ平行に延びる部分であるが、埋没部34は、露出部32に対して露出面と反対側に向かって曲げられ、樹脂枠体20の内部に入り込んだ部分である。図2に示す形態では、埋没部34は、加飾部材30の、ガラス板10に近い側と遠い側とに形成されている。
【0024】
加飾部材30に用いられる材料は、金属、硬質樹脂等の硬質材料であってよいが、剛性が高く光沢を付与しやすいことから金属、特にステンレススチールであると好ましい。ステンレススチールは、オーステナイト系、フェライト系であってよく、具体例としては、NK-430MA、NK-436L-NB、SUS430、SUS304等が挙げられる。金属製の加飾部材30用いることで、樹脂枠体付きガラス板100に、デザイン性の高い洗練された印象を与えることができ、また樹脂枠体20を周縁に沿って補強することもできる。
【0025】
本形態による樹脂枠体付きガラス板100は、射出成形によって形成できる。より具体的には、ガラス板10及び加飾部材30を金型のキャビティ内の所定位置に配置して、さらにキャビティ内に加熱融解された樹脂を圧入し、冷却して樹脂を固化して金型を外すことによって形成できる。このような射出成形においては、樹脂と、加飾部材の見切り位置(表面における樹脂枠体と加飾部材との境界)バリができやすい。バリは、成形加工によって生じた製品の残留部分若しくは不要部分であり、その形状(厚みや輪郭)も不規則であるので、製品にバリが残っていてバリが見えると、製品の外観を損ね得る。例えば、従来の車両窓用樹脂枠体付きガラス板100aにおいては、樹脂枠体20aと加飾部材30との間にバリBRが形成され得るが(図3)、バリBRは、車外側から見たときに、加飾部材30の表面に付着しているのが視認され、加飾部材30の美観を損ね得る。
【0026】
これに対し、本形態においては、図1及び図2に示すように、樹脂枠体20と加飾部材30との見切り位置に、すなわち樹脂枠体20と加飾部材30の露出部32との境界に沿って、樹脂枠体20に溝25が形成されている。図4に、図2に示す樹脂枠体付きガラス板100の溝25付近の部分拡大図を示す。図4に示すように、溝25は、樹脂枠体20の表面(車外側の表面)から厚み方向に凹んだ部分であり、所定の深さt及び幅wを有する。別の言い方をすると、加飾部材30の露出部32と埋没部34との境界の位置が、厚み方向中央にずれている、或いは、加飾部材30の露出部32に厚み方向に延在する部分が追加される。そのため、車外側から見た場合、露出部32と埋没部34との境界が目立たない。
【0027】
よって、樹脂のバリが生じたとしても、例えば、図5に模式的に示すように、バリBRは溝25の底部近くに形成されることになる。そのため、樹脂枠体付きガラス板を車外側から見た場合であっても、バリは見えにくい。特に光の当たり具合によっては、溝25には、加飾部材30又は樹脂枠体20の影ができるので、溝25内が見えにくくなる又は見えなくなるので、バリが生じてもより一層見えにくくなる又は見えなくなる。
【0028】
また、バリが生じた場合、刃物などで除去できるが、バリの除去工程において刃物等を用いて除去する場合、加飾部材30又は樹脂枠体20に不要な傷を作ってしまう可能性がある。このような傷の形成は、加飾部材30の表面に酸化被膜又はフィルムが設けられている場合には特に回避することが好ましい。本形態によれば、バリが見えにくくなる又は見えなくなるため、バリの除去工程を省略することができ、製品が傷付く可能性を低減できる又はなくすことができる。よって、本形態は、バリ取り処理が行われていない樹脂枠体ガラス板であってよい。本形態による樹脂枠体付きガラス板100は、美観により優れ、また従来バリの除去のために要していたコスト及び時間も低減できるため、より安価に提供できる。
【0029】
なお、比較的大きなバリが生じた場合等にバリを除去することもあるが、製品に傷を付けてしまうことがある。そのような場合であっても、傷ができる場所は主として溝25内となるので、傷が目立ちにくい又は目立たない。よって、本形態によれば、バリの除去工程を経ない場合でも、バリの除去工程を経た場合であっても、美観に優れた樹脂枠体付きガラス板100を得ることができる。
【0030】
溝25の深さt(図4)は、好ましくは0.5~2.0mm、より好ましく0.8~1.5mmであってよい。溝25の深さtを0.5mm以上とすることで、バリを目立たなくする効果を向上させることができる。また、バリを除去した場合に樹脂枠体20又は加飾部材30に傷ができた場合であっても、その傷を目立たなくする効果を向上させることができる。一方、溝25の深さtを2.0mm以下とすることで、枠体付きガラス板100に十分な強度を担保できる。なお、樹脂枠体20に形成された溝25の深さtは、厚み方向に沿って切った断面で見て、樹脂枠体20の頂面21又は加飾部材30の頂面31のどちらか低い方から、溝25の底面(底面が平坦でない場合には、溝25における樹脂枠体20と加飾部材30との接触位置c)までの距離とすることができる。図4に示す断面では、樹脂枠体20の頂面21と加飾部材30の頂面31とが同じ高さになっているので、深さtは、樹脂枠体20の頂面21から測定しても、加飾部材30の頂面31から測定してもよい。
【0031】
溝25の幅w(図4)は、好ましくは0.5~3.0mm、より好ましくは0.8~2.0mmであってよい。溝25の幅wを0.5mm以上することで、金型の側壁に形成される畝部の設計が容易になり、幅wを3.0mm以下とすることで、溝25自体が外観に与える影響を抑えるとともに、樹脂枠体付きガラス板100の強度を確保できる。なお、幅wは、溝25の底面における幅であるが、底面が平坦でない場合又は樹脂枠体付きガラス板100(ガラス板10)の面方向に平行でない場合には、溝25における樹脂枠体20と加飾部材30との接触位置cの高さでの幅とすることができる。
【0032】
溝25の深さtは、場所によって変化していてもよい。また、溝の幅wも、場所によって変化していてよい。溝の深さt及び/又は幅wは、例えば、樹脂枠体付きガラス板100の成形に利用される金型の構成(金型のサイズ、形状、スプルーの位置等)、加飾部材30のサイズ、形状、用いられる樹脂の性質に応じ、バリの生じやすさを考慮して設計できる。
【0033】
図1及び図2に示す例では、樹脂枠体20に形成された樹脂枠体20の表面から凹む溝は、加飾部材30のガラス板10に近い方の埋没部34の側に形成されている。しかし、加飾部材30のもう一方の埋没部、すなわちガラス板10から遠い方の埋没部34の側に形成されていても、同様の効果が得られる。
【0034】
上述のように、加飾部材30は、図1に示すように、ガラス板10の周縁に沿った長尺の部材であってよく、樹脂枠体20に形成された溝25は、この加飾部材30に沿って形成されている。溝25は、加飾部材30に沿って連続して形成されていてもよいし、不連続になっていてもよい。また、加飾部材30の全長にわたって形成されていてもよいし、一部にのみ形成されていてもよい。溝25が連続している部分の長さの上限は、加飾部材30の長さによって決められる。一方、溝25が連続している部分の長さは、3.0mm以上であると、溝25内に形成され得るバリが見えにくくなる、若しくは溝25内の部分が見えにくくなるという効果が十分に得られるので、好ましい。
【0035】
(第2実施形態)
図6及び図7に、本発明の第2実施形態による樹脂枠体付きガラス板200を示す。図6及び図7は、枠体付きガラス板の厚み方向に沿って切った断面図であり、第1実施形態を示す図2に対応する図である。
【0036】
図6に示すように、樹脂枠体付きガラス板200は、基本的な構造は樹脂枠体付きガラス板100(図2)と同じであるが、加飾部材30が補強機構を有する点で、枠体付きガラス板100(図2)と異なっている。補強機構は、樹脂枠体20のうち加飾部材30の露出部32が配置されている部分に力が掛かった場合に、樹脂枠体20(又は樹脂枠体20及び加飾部材30)がガラス板10に対してズレたり、ガラス板10から外れたりすることを防止するための機構である。図6に示す例では、補強機構は、ガラス板10に近い方の埋没部34の構造によって得られる。より具体的には、補強機構は、埋没部34が、厚み方向に深く入り込んでいることによって得られる。図6に示すように、ガラス板10に近い方の埋没部34は、厚み方向にガラス板10を含む範囲で延在していると好ましい。
【0037】
さらに、図6に示すように、埋没部34は、略厚み方向に延在する厚み方向区分34aと、厚み方向区分34aの先端からガラス板10の略主面方向に延在する主面方向区分34bとを備えていることが好ましい。埋没部34が、厚み方向区分34aと、厚み方向区分34aから屈曲又は湾曲して延在する主面方向区分34bとを有することで、補強機能はさらに向上する。
【0038】
また、図6に示すように、主面方向区分34bは、平面視で溝25を越えて延在していることがより好ましい。加飾部材30又は樹脂枠体20に力が掛かった場合、樹脂枠体20は溝25を基点として曲がりやすい傾向があるが、主面方向区分34bが平面視で溝25を越えて、すなわち平面視で溝25を含むように延在することで、埋没部34の、曲げに対する補強機能が向上する。
【0039】
図7は、図6に示す樹脂枠体付きガラス板200の変形例である。図7に示す例は、図6に示す例と基本的な構造は同じであるが、補強機能を有する埋没部34の主面方向区分34bが延長されている点で、図6に示す例と異なる。図7では、主面方向区分34bは、平面視で溝25を越え、さらにガラス板10に重なるように延在している。この構成により、曲げに対する補強機能は一層向上し、樹脂枠体付きガラス板200の強度を高めることができる。
【0040】
図7に示すように主面方向区分34bが平面視でガラス板10と重なる場合、ガラス板10の端縁(端面の位置)から主面方向区分34bの先端(埋没部34の先端)までの距離WOLは、3.0~10.0mmであると好ましい。
【0041】
図6及び図7に示す樹脂枠体付きガラス板200における、埋没部34の主面方向区分34bによる補強機能、すなわち主面方向区分34bの延在範囲(延在長さ)は、加飾部材30のサイズ、形状、樹脂枠体20を構成する材料、ガラス板10の材料、厚み等に応じて適宜決定できる。特に、加飾部材30の露出部32の幅Wが大きい場合には、加飾部材30に力がかかった場合に曲がりやすくなるため、主面方向区分34bの延在範囲も大きくして補強機能を向上させることが好ましい。露出部32の幅Wは、10~30mmであってよいが、デザイン性を高めるために10~150mmと幅広にする場合もある。主面方向区分34bの先端(埋没部34の先端)までの距離WOLは、3.0mm以上とすることで補強機能を向上できるが、当該範囲の距離距離WOLは、露出部32が上述のように幅広になっている場合に特に好ましい。
【0042】
なお、図6及び図7の例では、埋没部34の厚み方向区分34aは、厚み方向に沿って延びているが、厚み方向に対して角度をなして、すなわち車内側に近付くほどガラス板10に近付くように傾斜していてもよい。
【0043】
(第3実施形態)
図8に、本発明の第3実施形態による樹脂枠体付きガラス板300の、車外から見た平面図を示す。図9には、図8のII-II線断面図を示す。樹脂枠体付きガラス板300の基本的な構造は、図7に示す樹脂枠体付きガラス板200と同様であるが、樹脂枠体付きガラス板300においては、樹脂枠体20の配置が異なる点で、図7の例と異なる。
【0044】
樹脂枠体付きガラス板300においては、図8及び図9に示すように、樹脂枠体20は、ガラス板10の車外面11に実質的に設けられていない、若しくは設けられていない。ここで、「実質的に設けられていない」とは、樹脂の成形時に形成された意図せぬ樹脂部分を許容することを意味する。すなわち、本形態では、ガラス板10の車外面11にバリが形成されていてもよい。
【0045】
このように、本形態では、樹脂枠体20がガラス板10の端面13と車内面12とにのみ(2つの面にのみ)接触して配置されている。よって、ガラス板10の車外面11全体が露出し、より具体的にはガラス板10の周端縁が露出した構造となる。これにより、ガラス板10全体を大きく見せることができ、開放的なデザインとすることができる。
【0046】
本形態のように樹脂枠体20がガラス板10の車外面11に配置されていない場合、上述のようにデザイン性を向上できる一方、ガラス板10の3つの面に樹脂枠体20が配置されている構成(図2図6及び図7)に比べて強度がやや低下し得る。そのため、図9に示すように、加飾部材30の補強機構が設けられていること、すなわち、加飾部材30の埋没部34の主面方向区分34bが形成されていることが好ましい。さらに、図9に示すように、主面方向区分34bが平面視でガラス板10に重なっていると、より好ましい。車外面11に樹脂枠体20が実施的に配置されていない本形態では、主面方向区分34bの先端(埋没部34の先端)までの距離WOLを3.0mm以上とすることが好ましい。
【0047】
なお、ガラス板10の端縁は面取りされていてもよいし、されていなくてもよい。面取り部が形成されている場合、本形態では、面取り部に樹脂枠体20が配されていてもよいし、されていなくてもよい。
【0048】
また、ガラス板10の車外面11の高さと樹脂枠体20の頂面21の高さとは同じであっても、異なっていてもよいが、ガラス板10の車外面11と樹脂枠体20の頂面21とが、図9に示すように面一になっていると好ましい。ガラス板10と樹脂枠体20とが面一になっていることで、シンプルで洗練された印象を与えることができる。さらに、樹脂枠体20の頂面21の高さと、加飾部材30の頂面31の高さとが揃っていると、デザイン性を一層向上させることができる。
【0049】
(第4実施形態)
図10に、本発明の第4実施形態による樹脂枠体付きガラス板400の、車外から見た平面図を示す。さらに図11に、図10のIII-III線断面図を示す。樹脂枠体付きガラス板400の基本的な構造は、図7に示す樹脂枠体付きガラス板200と同様であるが、樹脂枠体付きガラス板400においては、樹脂枠体20に埋め込まれた挿入体50が設けられている点で、図7の例と異なる。
【0050】
挿入体50は、樹脂枠体20と異なる材料で形成されており、樹脂枠体20内で、少なくとも、ガラス板10の車内面12と加飾部材30の埋没部34の主面方向区分34bとの間に形成されていてよい。また、挿入体50は、図10に示す本例のように、ガラス板10の車内面12から厚み方向に延在し、樹脂枠体20の車内側に露出していてもよい。
【0051】
挿入体50の形状は特に限定されないが、図11に示すようにダンベル形状を有していてよい。本例では、挿入体50のダンベル形の中央部が、主面方向区分34bに形成された孔に嵌められていて、ダンベル形の一方の大径部分がガラス板10と主面方向区分34bとの間に配置され、他方の大径部分が主面方向区分34bの車内側に配置され、樹脂枠体20から露出している。挿入体50の露出面は、樹脂枠体20の車内側の面と面一になっていることが好ましい。
【0052】
また、挿入体50は、弾性体であると好ましく、例えば、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ウレタン等のゴムであってよい。これにより、挿入体50が配置されていることで、樹脂枠体20に弾性を付与できる。
【0053】
さらに、挿入体50は、樹脂枠体付きガラス板400の製造時、樹脂を注入する前に配置できる。これにより、樹脂が注入される際に、加飾部材30の主面方向区分34bを適切な位置に保持できる。別の言い方をすると、挿入体50は、ガラス板10と加飾部材30の主面方向区分34bとの間に適切な距離を維持して、主面方向区分34bを厚み方向に支持できる。
【0054】
挿入体50は、平面視で加飾部材30の長手方向に沿って、複数設けられていてよい(図10)。挿入体50の平面視でのピッチは、好ましくは30~100mm、より好ましくは40~60mmであってよい。
【0055】
なお、上述のいずれの形態(第1実施形態~第4実施形態)においても、樹脂枠体付きガラス板100、200、300、400は、ガラス板10と樹脂枠体20との間にプライマーが配置されていてもよい。例えば、製造時に、ガラス板10の、少なくとも樹脂が配置される部分にプライマーを塗布した後、樹脂を射出成形することができる。プライマーが配置されていることで、ガラス板10と樹脂枠体20との間の接着性が向上し、ひいては樹脂枠体付きガラス板100、200、300、400全体の強度が高まる。プライマーは、ガラス板10に用いられるガラスの種類及び/又は樹脂枠体20に用いられる樹脂の種類に応じて、適宜選択できる。
【0056】
また、樹脂枠体20と加飾部材30との間の結合強度を向上させるために、メカニカルロックが形成されていてもよい。メカニカルロックは、例えば、加飾部材30の表面に凹部若しくは貫通孔、又は凸部を形成しておき、当該表面に接触する樹脂枠体20が加飾部材30の凹部若しくは貫通孔に入り込むか、又は加飾部材30が樹脂枠体20の凹部に嵌り込むよう構成したものであってよい。
【符号の説明】
【0057】
10 ガラス板
11 ガラス板の車外面
12 ガラス板の車内面
13 ガラス板の端面
20 樹脂枠体
20a 従来の樹脂枠体
21 樹脂枠体の頂面
25 溝
30 加飾部材
31 加飾部材の頂面
32 露出部
34 埋没部
34a 厚み方向区分
34b 主面方向区分
50 挿入体
100、200、300、400 樹脂枠体付きガラス板
100a 従来の樹脂枠体付きガラス板
BR バリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11