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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】ハイドロフルオロオレフィンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/23 20060101AFI20240628BHJP
   C07C 21/18 20060101ALI20240628BHJP
   B01J 23/62 20060101ALI20240628BHJP
   B01J 23/644 20060101ALI20240628BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240628BHJP
【FI】
C07C17/23
C07C21/18
B01J23/62 Z
B01J23/644 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021543744
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2020032710
(87)【国際公開番号】W WO2021044983
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019163339
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 隆之
(72)【発明者】
【氏名】高山 大鑑
(72)【発明者】
【氏名】有山 悟史
(72)【発明者】
【氏名】山田 拓
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/031777(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/123911(WO,A1)
【文献】特表2017-514808(JP,A)
【文献】国際公開第97/011045(WO,A1)
【文献】特開平10-028865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
C07B
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム、白金、ロジウム、銅及びイリジウムからなる群より選択される少なくとも1種の第1金属と前記第1金属とは異なる第2金属とを含む金属間化合物の存在下で、下記式(I)で表される炭素数が8以下のクロロフルオロオレフィンを水素分子と反応させて、下記式(I)に含まれる塩素原子のうちの少なくともClで表された塩素原子が水素原子に置換されたハイドロフルオロオレフィンを得るハイドロフルオロオレフィンの製造方法であって、
前記金属間化合物が、Pd Bi、Pd In、Pd Sn、Pd Pb、PtBi、Pt In、Pt Sn、Pt Pb、RhBi、RhIn、Rh Sn、RhPb、IrBi及びCu Snからなる群より選択される少なくとも1種を含むハイドロフルオロオレフィンの製造方法
【化1】

(式(I)中、R~Rは各々独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子又はフッ素原子若しくは塩素原子で置換されていてもよいアルキル基を示し、式(I)中に少なくとも1つのフッ素原子を含む。)
【請求項2】
前記金属間化合物が、PdBi、PdIn、PdSn及びPdPbからなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項3】
前記クロロフルオロオレフィンが、下記式(III)で表される化合物である請求項1又は請求項2に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【化2】

(式(III)中、Xはフッ素原子又は塩素原子を示し、Yは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、Zはフッ素原子又はフッ素原子で置換されていてもよいメチル基を示す。)
【請求項4】
前記式(III)で表される化合物が、1,1-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む請求項に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項5】
前記金属間化合物が、担体に担持されている請求項1~請求項のいずれか1項に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項6】
前記担体が、カーボン材料及び酸化物材料の少なくとも1種を含む請求項に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項7】
前記金属間化合物の担持量が、前記担体に対して0.1質量%~10質量%である請求項又は請求項に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項8】
前記金属間化合物を担持した前記担体が充填された触媒層に、前記クロロフルオロオレフィンと前記水素分子とを導入して気相で反応させる請求項~請求項のいずれか1項に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【請求項9】
前記金属間化合物を担持した前記担体の存在下で、前記クロロフルオロオレフィンと前記水素分子とを液相で反応させる請求項~請求項のいずれか1項に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ハイドロフルオロオレフィンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロフルオロカーボンに含まれる塩素原子を水素原子によって置換して得られるハイドロフルオロカーボンは、冷媒や溶剤として用いられるクロロフルオロカーボンの代替化合物として有用である。
特に、ハイドロフルオロカーボンの1種であるハイドロフルオロオレフィンは炭素炭素二重結合を分子中に含むため紫外線により分解されやすく、地球温暖化係数の低いことが知られている。そのため、クロロフルオロカーボンの1種であるクロロフルオロオレフィンから、炭素炭素二重結合を維持しながら効率的にハイドロフルオロオレフィンを製造する方法が求められている。
【0003】
クロロフルオロオレフィンからハイドロフルオロオレフィンを製造する方法として、担体に担持された触媒の存在下に、特定のクロロフルオロオレフィンを水素と反応させて特定のハイドロフルオロオレフィンを得る方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1では、パラジウム及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1種の白金族元素と、マンガン、銅、アルミニウム、金、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、銀、亜鉛、カドミウム、インジウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、ヒ素、アンチモン及びビスマスからなる群より選ばれる少なくとも1種の第2の元素とを含む合金からなる触媒が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/031777号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法によれば、クロロフルオロオレフィンからハイドロフルオロオレフィンを製造する際の炭素炭素二重結合の残存率及び塩素原子の水素原子による置換反応の選択率を向上できる。しかしながら、生産性向上の観点において副生成物の低減は十分ではなく、選択率をさらに向上することのできる金属触媒が求められている。
【0006】
本開示は上記従来の事情に鑑みてなされたものであり、本開示は、クロロフルオロオレフィンからハイドロフルオロオレフィンを製造する際における、炭素炭素二重結合の残存率及び塩素原子の水素原子による置換反応の選択率に優れるハイドロフルオロオレフィンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> パラジウム、白金、ロジウム、銅及びイリジウムからなる群より選択される少なくとも1種の第1金属と前記第1金属とは異なる第2金属とを含む金属間化合物の存在下で、下記式(I)又は下記式(II)で表される炭素数が8以下のクロロフルオロオレフィンを水素分子と反応させて、下記式(I)又は下記式(II)に含まれる塩素原子のうちの少なくともClで表された塩素原子が水素原子に置換されたハイドロフルオロオレフィンを得るハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【0008】
【化1】
【0009】
(式(I)中、R~Rは各々独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子又はフッ素原子若しくは塩素原子で置換されていてもよいアルキル基を示し、式(I)中に少なくとも1つのフッ素原子を含む。)
【0010】
【化2】
【0011】
(式(II)中、R~R10は各々独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子又はフッ素原子若しくは塩素原子で置換されていてもよいアルキル基を示し、式(II)中に少なくとも1つのフッ素原子を含む。nは、0~5の整数を示す。)
<2> 前記金属間化合物に含まれる前記第1金属と前記第2金属とのモル基準の比率(第1金属/第2金属)が、1~5である<1>に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
<3> 前記金属間化合物に含まれる前記第1金属と前記第2金属とのモル基準の比率(第1金属/第2金属)が、2~4である<2>に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
<4> 前記金属間化合物が、PdBi、PdIn、PdSn及びPdPbからなる群より選択される少なくとも1種を含む<1>に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
<5> 前記クロロフルオロオレフィンが、下記式(III)で表される化合物である<1>~<4>のいずれか1項に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【0012】
【化3】
【0013】
(式(III)中、Xはフッ素原子又は塩素原子を示し、Yは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、Zはフッ素原子又はフッ素原子で置換されていてもよいメチル基を示す。)
<6> 前記式(III)で表される化合物が、1,1-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン又は1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む<5>に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
<7> 前記金属間化合物が、担体に担持されている<1>~<6>のいずれか1項に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
<8> 前記担体が、カーボン材料及び酸化物材料の少なくとも1種を含む<7>に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
<9> 前記金属間化合物の担持量が、前記担体に対して0.1質量%~10質量%である<7>又は<8>に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
<10> 前記金属間化合物を担持した前記担体が充填された触媒層に、前記クロロフルオロオレフィンと前記水素分子とを導入して気相で反応させる<7>~<9>のいずれか1項に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
<11> 前記金属間化合物を担持した前記担体の存在下で、前記クロロフルオロオレフィンと前記水素分子とを液相で反応させる<7>~<9>のいずれか1項に記載のハイドロフルオロオレフィンの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、クロロフルオロオレフィンからハイドロフルオロオレフィンを製造する際における、炭素炭素二重結合の残存率及び塩素原子の水素原子による置換反応の選択率に優れるハイドロフルオロオレフィンの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本開示を制限するものではない。
【0016】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0017】
[ハイドロフルオロオレフィンの製造方法]
本開示のハイドロフルオロオレフィンの製造方法は、パラジウム、白金、ロジウム、銅及びイリジウムからなる群より選択される少なくとも1種の第1金属と前記第1金属とは異なる第2金属とを含む金属間化合物(以下、特定金属間化合物と称することがある。)の存在下で、上記式(I)又は上記式(II)で表される炭素数が8以下のクロロフルオロオレフィン(以下、特定クロロフルオロオレフィンと称することがある。)を水素分子(以下、単に「水素」と称することがある。)と反応させて、上記式(I)又は上記式(II)に含まれる塩素原子のうちの少なくともClで表された塩素原子が水素原子に置換されたハイドロフルオロオレフィン(以下、特定ハイドロフルオロオレフィンと称することがある。)を得る方法である。
【0018】
本開示のハイドロフルオロオレフィンの製造方法によれば、クロロフルオロオレフィンからハイドロフルオロオレフィンを製造する際における、炭素炭素二重結合の残存率及び塩素原子の水素原子による置換反応の選択率に優れる。
金属触媒として知られる合金触媒は、金属の組み合わせの自由度が高く、望ましい金属の組み合わせ及び金属の配合比を選択しやすい。その一方、金属原子の混合状態が不規則になりやすく、最適な触媒構造を工業的に得ることが難しい場合がある。合金触媒が第1金属(A)と第2金属(B)とで構成される場合、合金触媒はAB(xは所定範囲で可変)で表される。
一方、本開示で触媒として用いられる金属間化合物は、パラジウム、白金、ロジウム、銅及びイリジウムからなる群より選択される少なくとも1種の第1金属と、第1金属とは異なる第2金属とを含む。金属間化合物とは、2種類以上の金属元素が簡単な整数比で結合してできた化合物をいう。金属間化合物が第1金属(A)と第2金属(B)とで構成される場合、金属間化合物はA(n及びmは整数)で表される。
金属間化合物は、同一の金属元素同士が固まって島構造を形成するバイメタリック触媒又は2種類の金属元素がランダムに混在している通常の合金触媒とは異なり、原子レベルで金属原子が規則的に配列している。そのため、パラジウム等の第1金属が第2金属の影響を均一に受け、炭素炭素二重結合の残存率及び塩素原子の水素原子による置換反応の選択率を向上させることができると考えられる。
【0019】
以下、本開示のハイドロフルオロオレフィンの製造方法に用いられる特定金属間化合物及び特定クロロフルオロオレフィン、反応生成物である特定ハイドロフルオロオレフィン、並びに、反応条件等について詳細に説明する。
【0020】
<特定金属間化合物>
本開示で用いられる特定金属間化合物は、パラジウム、白金、ロジウム、銅及びイリジウムからなる群より選択される少なくとも1種の第1金属と、第1金属とは異なる第2金属とを含むものであれば特に限定されない。
【0021】
特定金属間化合物に含まれる第1金属としては、パラジウム、白金、ロジウム及びイリジウムが好ましく、パラジウムがより好ましい。
特定金属間化合物に含まれる第2金属は、第1金属とは異なる金属であり、第1金属との間で金属間化合物を形成可能な金属が適宜選択される。第2金属としては、6族、7族、8族、11族、12族、13族、14族及び15族の金属が挙げられる。具体的には、ビスマス、インジウム、スズ、鉛、鉄、ガリウム、ゲルマニウム、亜鉛、アンチモン等が挙げられる。
第1金属の過剰な水素還元活性を低減して目的物のハイドロフルオロオレフィンを高い選択率で合成することを可能とする観点から、上述の第2金属の中でも、スズ、ビスマス、鉛及びインジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
なお、特定クロロフルオロオレフィンの水素原子による置換反応では、塩素原子の水素原子による置換反応だけでなく、炭素炭素二重結合への水添反応も進行する。本開示においては、第一金属の過剰な水素還元活性により引き起こされる炭素炭素二重結合への水添反応やフッ素原子の水素原子による置換反応を過還元反応と定義し、過還元反応による生成物を過還元体と表記する。
【0022】
特定金属間化合物は、二元性化合物、即ち2つの種類の金属を含む金属間化合物であってもよく、三元性又はそれ以上の多元性の金属間化合物であってもよい。特定金属間化合物が三元性又は多元性の金属間化合物である場合、第1金属として2種類以上の金属元素を含んでもよく、第2金属として2種類以上の金属元素を含んでもよい。
特定金属間化合物は、1種類の第1金属と1種類の第2金属とを含む二元性化合物であることが好ましい。
【0023】
特定金属間化合物に含まれる第1金属と第2金属とのモル基準の比率(第1金属/第2金属)は、第1金属と第2金属との間で金属間化合物の形成可能な比率であれば特に限定されるものではなく、1~5であることが好ましく、2~4であることがより好ましく、3であることがさらに好ましい。
【0024】
特定金属間化合物には、空孔、間隙、アンチサイト欠陥、不純物原子による置換等の欠陥が含まれていてもよい。また、特定金属間化合物に含まれる第1金属及び第2金属の全てが金属間化合物を形成していてもよいし、第1金属及び第2金属の一部が固溶体等の金属間化合物以外の組織状態を示してもよい。
金属間化合物と固溶体等の金属間化合物以外の組織状態の両方が共存する場合、X線回折法による構造解析にて得られた回折ピークのうち、回折強度が最も強いピークが金属間化合物に帰属される物質を、金属間化合物とする。
【0025】
触媒として用いられる金属成分が金属間化合物であるか否かは、X線回折法(XRD)により確認できる。XRD回折ピークより面指数を読み取ることで、金属成分の構造を同定できる。
例えば、株式会社リガクの全自動多目的X線回折装置(SmartLab)を用いて測定できる。分析条件及びX線源は、以下のとおりである。
測定範囲(2θ):20deg~60deg
走査速度:0.3deg/分
X線源:CuKα線(波長:1.54Å)
【0026】
金属間化合物に含まれる金属元素の種類及びその比率は、例えば、ICP発光分光分析装置(Inductivity coupled plasma optical emission spectrometer:ICP-OES)や蛍光X線分析装置(X-ray fluorescence:XRF)等の手法を用いて決定できる。
【0027】
特定金属間化合物の具体例としては、例えば、PdBi、PdIn、PdSn、PdPb、PtBi、PtIn、PtSn、PtPb、RhBi、RhIn、RhSn、RhPb、IrBi及びCuSnが挙げられる。これらの中でも、PdBi、PdIn、PdSn及びPdPbからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、PdBiがより好ましい。
【0028】
特定金属間化合物は、担体に担持されたものであってもよいし、非担持の状態であってもよい。担体を用いることにより、特定金属間化合物を容易に分散させることができるため好ましい。本開示においては、特定金属間化合物等の触媒が担持された担体を触媒担持担体と記すことがある。
特定金属間化合物が担体に担持されたものである場合、担体としては、活性炭、カーボンブラック、カーボンファイバー等のカーボン材料;及びアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物等の酸化物材料;の少なくとも1種が挙げられ、活性炭、カーボンブラック、カーボンファイバー、アルミナ、シリカ、チタニア及びジルコニアからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。これらの中でも、比表面積が大きく、触媒を担持させやすいことから、活性炭、アルミナ、シリカ、ジルコニアがより好ましく、過還元体の副生をより抑制できる点から、活性炭がさらに好ましい。
【0029】
活性炭としては、例えば、木材、木炭、ヤシ殻等の果実殻、泥炭、亜炭、石炭等から調製した活性炭が挙げられる。活性炭の形態としては、長さ2mm~7mm程度の成形炭の集合物、4メッシュ~50メッシュ程度の破砕炭、粒状炭等が挙げられる。これらの中でも、成形炭の集合物、又は4メッシュ~30メッシュの破砕炭が好ましい。
【0030】
アルミナとしては、α-アルミナ、γ-アルミナ、θ-アルミナ等の結晶状態の異なるものが挙げられる。結晶状態は特に制限されるものではなく、比表面積の大きなγ-アルミナから、高結晶性で比表面積の小さいα-アルミナまで幅広く使用できる。アルミナの形状については、必ずしも制限されないが、反応器に充填するときの充填性、反応ガスの流通性等が良好であることから、球状又はペレット状に成形されたものが好ましい。
【0031】
ジルコニアとしては、単斜晶、正方晶、立方晶、準安定正方晶などの結晶状態の異なる様々な結晶形のものや、非晶質状態の水和酸化ジルコニウムなどが挙げられるが、結晶状態は特に制限されるものではなく、いずれのジルコニアでも幅広く使用できる。ジルコニアの形状については、必ずしも制限されないが、反応器に充填するときの充填性、反応ガスの流通性等が良好であることから、球状又はペレット状に成形されたものが好ましい。
【0032】
金属間化合物の担持量は、担体に対して0.1質量%~10質量%が好ましく、0.5質量%~6質量%がより好ましい。担持量が0.1質量%以上であれば、特定クロロフルオロオレフィンと水素の転化率が向上する傾向にある。一方、担持量が10質量%以下であれば、反応熱による触媒層の過剰な温度上昇を抑制して、過還元体の副生を抑制しやすくなる傾向にある。
【0033】
担体の比表面積は、10m/g~2000m/gが好ましく、100m/g~1500m/gがより好ましい。担体の比表面積が10m/g以上であれば、特定クロロフルオロオレフィンと水素の転化率がより向上し、一方、2000m/g以下であれば、過還元体の副生をより抑制しやすくなる。
【0034】
触媒担持担体の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の方法により製造できる。触媒担持担体は、共含浸法又は逐次含浸法により製造されたものが好ましい。
共含浸法は、第1金属の金属塩と第2金属の金属塩とを含む金属塩混合溶液を担体に接触させ、担体の表面に第1金属の金属塩と第2金属の金属塩とを吸着させ、含浸させた担体を乾燥させた後、水素雰囲気中において担体を加熱処理して第1金属と第2金属とを含む特定金属間化合物を担体表面に担持させる方法である。
逐次含浸法は、第1金属の金属塩を含む金属塩溶液を担体に接触させ、担体の表面に第1金属の金属塩を吸着させ、含浸させた担体を乾燥させた後、水素雰囲気中において担体を加熱処理して第1金属を担体に担持させる。次いで、第2金属の金属塩を含む金属塩溶液を担体に接触させ、担体の表面に第2金属の金属塩を吸着させ、含浸させた担体を乾燥させた後、水素雰囲気中において担体を加熱処理して第1金属と第2金属とを含む特定金属間化合物を担体表面に担持させる方法である。逐次含浸法では、第2金属の金属塩を担体に担持させた後に第1金属の金属塩を担体に担持させてから加熱処理を施してもよい。
共含浸法又は逐次含浸法における、特定金属間化合物を担体表面に担持させるための加熱温度は、700℃超が好ましく、750℃以上がより好ましい。加熱温度が700℃以下であると、金属間化合物が形成されにくくなる。
担体に担持されていない特定金属間化合物を触媒に使用する場合、特定金属間化合物の製造方法は特に限定されず、溶解法等により製造されてもよい。溶解法は、金属間化合物を形成するのに適した量の第1金属及び第2金属を溶解して金属間化合物を製造する方法である。溶解法に付される金属元素の混合物中には、金属間化合物中の金属元素のモル比に対応するモル比で第1金属及び第2金属が存在する。金属の溶解は、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で実施できる。得られた金属間化合物は、必要に応じて粉砕することで、所望の粒径にできる。粉砕方法は特に限定されるものではなく、アルゴン等の不活性雰囲気下においてボールミル、スイングミル、遊星ミル等を用いて粉砕できる。
【0035】
<特定クロロフルオロオレフィン及び特定ハイドロフルオロオレフィン>
本開示のハイドロフルオロオレフィンの製造方法は、特定クロロフルオロオレフィンと水素分子とを反応させて、特定ハイドロフルオロオレフィンを製造する方法である。
以下、原料である特定クロロフルオロオレフィン及び反応生成物である特定ハイドロフルオロオレフィンについて説明する。
なお、反応生成物である特定ハイドロフルオロオレフィンには、塩素原子が含まれていてもよいし、含まれていなくともよい。但し、特定ハイドロフルオロオレフィンに含まれる塩素原子の数は、特定クロロフルオロオレフィンに含まれる塩素原子の数よりも少ない。
【0036】
下記式(I)で表されるクロロフルオロオレフィンは、分子中に炭素炭素二重結合を一つ含む。一般式(I)で表されるクロロフルオロオレフィンは、α-オレフィンであることが好ましい。すなわち、R、R及びRのいずれもが、それぞれ水素原子、フッ素原子、若しくは塩素原子であるか、又は、R、R若しくはRのいずれか1つがフッ素原子若しくは塩素原子で置換されていてもよいアルキル基であり残りがそれぞれ水素原子、フッ素原子、若しくは塩素原子であることが好ましい。下記一般式(I)で表されるクロロフルオロオレフィンの炭素数は、7以下が好ましく、6以下がより好ましい。
【0037】
【化4】
【0038】
式(I)中、R~Rは各々独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子又はフッ素原子若しくは塩素原子で置換されていてもよいアルキル基を示し、式(I)中に少なくとも1つのフッ素原子を含む。
【0039】
式(I)において、R~Rで示されるアルキル基の炭素数は、6以下が好ましく、5以下がより好ましく、4以下がさらに好ましい。
~Rで示されるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、s-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。
~Rで示されるアルキル基を構成する水素原子の少なくとも一部は、フッ素原子又は塩素原子で置換されていてもよい。R~Rで示されるアルキル基における、フッ素原子又は塩素原子で置換される水素原子の位置は、特に限定されるものではない。
【0040】
式(I)で表されるクロロフルオロオレフィンを原料として用いた場合、本開示のハイドロフルオロオレフィンの製造方法によれば、式(I)に含まれる塩素原子のうちの少なくともClで表された塩素原子が水素原子に置換されたハイドロフルオロオレフィンが製造される。式(I)で表されるクロロフルオロオレフィンが式(I)においてClで表される塩素原子以外の塩素原子(以下、その他の塩素原子と称することがある。)を含む場合、式(I)に含まれる塩素原子のうちのClで表された塩素原子のみが水素原子に置換されたハイドロフルオロオレフィンが製造されてもよいし、式(I)に含まれる塩素原子のうちのClで表された塩素原子及びその他の塩素原子が水素原子に置換されたハイドロフルオロオレフィンが製造されてもよい。
【0041】
下記式(II)で表されるクロロフルオロオレフィンは、分子中に炭素炭素二重結合を一つ含む。一般式(II)で表されるクロロフルオロオレフィンは、α-オレフィンであることが好ましい。すなわちR、R及びRのいずれもが、それぞれ水素原子、フッ素原子、又は塩素原子であることが好ましい。下記一般式(II)で表されるクロロフルオロオレフィンの炭素数は、7以下が好ましく、6以下がより好ましい。
【0042】
【化5】
【0043】
式(II)中、R~R10は各々独立に、水素原子、フッ素原子、塩素原子又はフッ素原子若しくは塩素原子で置換されていてもよいアルキル基を示し、式(II)中に少なくとも1つのフッ素原子を含む。nは、0~5の整数を示す。
【0044】
式(II)においてR~R10で示されるアルキル基の具体例等は、式(I)においてR~Rで示されるアルキル基の場合と同様である。ただし、式(II)において、R~R10で示されるアルキル基の炭素数は、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。
【0045】
式(II)で表されるクロロフルオロオレフィンを原料として用いた場合、本開示のハイドロフルオロオレフィンの製造方法によれば、式(II)に含まれる塩素原子のうちの少なくともClで表された塩素原子が水素原子に置換されたハイドロフルオロオレフィンが製造される。式(II)で表されるクロロフルオロオレフィンが式(II)においてClで表される塩素原子以外のその他の塩素原子を含む場合、式(II)に含まれる塩素原子のうちのClで表された塩素原子のみが水素原子に置換されたハイドロフルオロオレフィンが製造されてもよいし、式(II)に含まれる塩素原子のうちのClで表された塩素原子及びその他の塩素原子が水素原子に置換されたハイドロフルオロオレフィンが製造されてもよい。
【0046】
特定クロロフルオロオレフィンは、下記式(III)で表される化合物であることが好ましい。
【0047】
【化6】
【0048】
式(III)中、Xはフッ素原子又は塩素原子を示し、Yは水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、Zはフッ素原子又はフッ素原子で置換されていてもよいメチル基を示す。
式(III)で表される特定クロロフルオロオレフィンから製造される特定ハイドロフルオロオレフィンは、下記式(IV)で表される化合物である。
【0049】
【化7】
【0050】
式(IV)において、式(III)のXがフッ素原子の場合X’はフッ素原子であり、式(III)のXが塩素原子の場合X’は塩素原子又は水素原子であり、式(III)のYがフッ素原子の場合Y’はフッ素原子であり、式(III)のYが塩素原子の場合Y’は塩素原子又は水素原子であり、式(III)のYが水素原子の場合Y’は水素原子であり、Zは式(III)のZと同じである。
【0051】
式(III)で表される化合物としては、生成物が高冷却効率であり地球環境に優しい代替冷媒として期待されている点から、クロロトリフルオロエチレン、1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレン、1,2-ジクロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CFCCl=CFCl)、1,1,2-トリクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(CFCCl=CCl)、1,1-ジクロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン(CHFCF=CCl)、1,1-ジクロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CFCF=CCl)(以下、「CFO-1214ya」とも称する。)、1-クロロ-2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(CFCF=CHCl)(以下、「HCFO-1224yd」とも称する。)が好ましく、CFO-1214ya又はHCFO-1224ydがより好ましい。また、CFO-1214yaとHCFO-1224ydとの混合物も好ましい。
【0052】
例えば、原料の特定クロロフルオロオレフィンがクロロトリフルオロエチレンの場合、下記式(A)で表される反応により得られるトリフルオロエチレンが、特定ハイドロフルオロオレフィンとして反応生成物に含まれる。
CFCl=CF+H → CHF=CF+HCl ・・・(A)
【0053】
原料の特定クロロフルオロオレフィンが1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエチレンの場合、下記式(B)で表される反応により得られる1,2-ジフルオロエチレンが、特定ハイドロフルオロオレフィンとして反応生成物に含まれる。なお、特定クロロフルオロオレフィン及び特定ハイドロフルオロオレフィンがシス-トランス異性体(幾何異性体)を含む場合、下記化学式では、シス体及びトランス体の区別は示さないこととする。
CFCl=CFCl+2H → CHF=CHF+2HCl ・・・(B)
【0054】
原料の特定クロロフルオロオレフィンが1,2-ジクロロ-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンの場合、下記式(C)で表される反応により得られる1,3,3,3-テトラフルオロプロペンが、特定ハイドロフルオロオレフィンとして反応生成物に含まれる。
CFCCl=CFCl+2H → CFCH=CHF+2HCl ・・・(C)
【0055】
原料の特定クロロフルオロオレフィンが1,1,2-トリクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの場合、下記式(D)で表される反応により得られる1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンが、特定ハイドロフルオロオレフィンとして反応生成物に含まれる。
CFCCl=CCl+2H → CFCH=CHCl+2HCl ・・・(D)
【0056】
原料の特定クロロフルオロオレフィンが1,1-ジクロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンの場合、下記式(E)で表される反応により得られる1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペンが、特定ハイドロフルオロオレフィンとして反応生成物に含まれる。
CHFCF=CCl+H → CHFCF=CHCl+HCl ・・・(E)
【0057】
原料の特定クロロフルオロオレフィンがCFO-1214yaの場合、下記式(F)で表される反応により得られるHCFO-1224ydが、特定ハイドロフルオロオレフィンとして反応生成物に含まれる。
CFCF=CCl+H → CFCF=CHCl+HCl ・・・(F)
【0058】
原料の特定クロロフルオロオレフィンがHCFO-1224ydの場合、下記式(G)で表される反応により得られる2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン(HFO-1234yf)が、特定ハイドロフルオロオレフィンとして反応生成物に含まれる。
CFCF=CHCl+H → CFCF=CH+HCl ・・・(G)
【0059】
また、本開示のハイドロフルオロオレフィンの製造方法により製造されるハイドロフルオロオレフィンは、塩素原子から水素原子への置換位置が異なる2種類以上のハイドロフルオロオレフィンの混合物であってもよい。ハイドロフルオロオレフィンが混合物である場合、目的の反応生成物と中間生成物との混合物であってもよい。
【0060】
塩素原子の水素原子による置換反応は、上述の金属間化合物を用いていれば、気相で行ってもよく、液相で行ってもよい。
反応方法は、下記の方法(α)又は方法(β)が挙げられ、方法(α)が好ましい。
方法(α):金属間化合物の存在下に、特定クロロフルオロオレフィンと水素とを気相で反応させる方法。
方法(β):金属間化合物の存在下に、特定クロロフルオロオレフィンと水素とを液相で反応させる方法。
【0061】
<方法(α)>
方法(α)としては、例えば、触媒担持担体が充填された反応器に、特定クロロフルオロオレフィンと水素とを導入して気相で反応させる方法が挙げられる。該方法の具体例としては、該反応器に特定クロロフルオロオレフィンガスと水素ガスとを含むガス(以下、「原料混合ガス」とも称する。)を導入して反応させる方法が挙げられる。
【0062】
触媒層は、上述の触媒担持担体を反応器に充填することにより得られる。触媒担持担体の充填密度は、0.3g/cm~1g/cmが好ましく、0.4g/cm~0.8g/cmがより好ましい。充填密度が0.3g/cm以上であれば、単位容積あたりの触媒担持担体の充填量が多く、反応させるガス量を多くできるため生産性が向上する。一方、充填密度が1g/cm以下であれば、後述する触媒層の温度が上昇しすぎることを防ぐことができ、後述する触媒層の最高温度を所望の温度以下に維持しやすい。
【0063】
反応器としては、触媒担持担体が固体で、反応流体が気体の気固不均一系触媒反応に使用される代表的な流通式反応器を用いることができる。このような流通式反応器としては、固定床反応器又は流動床反応器に大別される。固定床反応器では、反応流体の圧力損失を少なくするため、触媒担持担体の各種成型体が充填される。また、固定床反応器と同様に触媒担持担体を充填し、その重力により移動させ、反応器の下から触媒担持担体を抜き出して再生したりする方式を移動床という。
流動床反応器では、反応流体によって触媒層があたかも流体のような特性を示すような操作を行うため、触媒担持担体粒子は、反応流体中に懸濁され反応器内を移動する。
本開示では、固定床反応器及び流動床反応器のいずれも使用でき、担体の形状の選択肢が広く、担体の摩耗が抑制できる固定床反応器が好ましい。固定床反応器としては、管型反応器と槽型反応器があり、反応温度の制御しやすさから管型反応器が好ましく用いることができる。さらに、管径の小さい反応管を多数並列に配置し、外側に熱媒体を循環させる多管熱交換式反応などが採用できる。なお、反応器を複数直列に設ける場合、複数の触媒層が設けられることになる。
触媒層は、少なくとも一段あればよく、二段以上あってもよい。
【0064】
触媒層中の反応温度が下がると、原料の転化率が低下する。そのため、高い転化率を維持できるよう、触媒層中の反応温度を所望の温度に保つことが好ましい。触媒層中の反応温度を所望の温度に保つには、例えば、触媒層を熱媒等で外部から加熱する方法が挙げられる。
特定クロロフルオロオレフィンと水素とは、通常、触媒層の一部の領域(以下、「反応域」という。)で反応する。触媒層中の反応温度を所望の温度に保つ場合、通常、触媒層のうち反応域の上流側の温度を加熱により維持する。本開示では、この加熱により維持する反応域の上流側の温度を「触媒層の温度」という。
【0065】
触媒層の温度は、反応を効果的に進行させる観点から、30℃以上が好ましく、35℃以上がより好ましく、40℃以上がさらに好ましい。また、過還元体の副生を抑制する点から、350℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましく、250℃以下がさらに好ましく、200℃以下が特に好ましい。
【0066】
触媒は、通常、反応の進行に伴い経時的に劣化する。反応域は、反応開始当初、原料混合ガスの導入部から始まる。原料混合ガスの導入部の触媒が反応の進行に伴い経時的に劣化すると、反応域は、ガスの流れ方向の下流側に移動することになる。
反応域の下流側近傍には、反応域で生成した温度の高い生成ガスが流れこむため、該下流側近傍は、通常、触媒層の中でも最も高温になっている。本開示では、この最も高温になっている触媒層の領域の温度を「触媒層の最高温度」という。該下流側近傍からさらに下流側の温度は、通常、反応域から離れるにつれ、触媒層の最高温度から低くなっている。
【0067】
触媒層の最高温度の測定法としては、例えば、挿し込み型の温度計を使用した測定法が挙げられる。上述したとおり、反応域は経時的にガスの流れ方向の下流側に移動するため、触媒層の最高温度を示す領域も該反応域の移動と共に移動する。したがって、予め挿し込み型の温度計の計測部を触媒層のガス導入部に配置させておき、反応開始後、反応の進行と共に該計測部をガスの流れ方向の下流側に移動させることで、触媒層の最高温度を測定できる。
なお、本開示において「ガス導入部」とは、触媒層の原料混合ガスを導入する箇所を意味する。
【0068】
触媒層の最高温度を所望の温度に抑える方法としては、触媒層に水素を分割して導入する方法(方法(α1))が挙げられる。方法(α1)は、触媒層の最高温度を所望の温度以下に制御しつつ、生産性を高く維持しやすい。
方法(α1)において、水素の導入箇所の数は特に限定されず、2箇所であってもよく、3箇所以上であってもよい。水素の導入箇所の数が2箇所の場合としては、原料混合ガス中に含まれる水素を導入するガス導入部からの1箇所と、水素ガスのみを導入する箇所(以下、「水素導入部」という。)の1箇所の合計2箇所を設ける場合が挙げられる。
プロセスを簡略化できる観点からは、2箇所が好ましい。特定クロロフルオロオレフィンの導入量を変化させずに触媒層における反応域を分散でき、反応熱の発生が1箇所に集中することを防ぐことができ、そのため生産性を低下させずに、触媒層の局所的な過剰発熱を抑制できる観点からは、3箇所以上が好ましい。
水素を分割して導入する場合の水素を分割する割合は、反応域を分散させ、触媒層の最高温度を低く維持しやすい点からは、水素を各箇所に均等に分割して導入するのが好ましい。
【0069】
水素導入部を設ける場合の方法としては、触媒層に導入する水素の一部と特定クロロフルオロオレフィンの全量との混合ガスを原料混合ガスとして触媒層のガス導入部(ガスの流れ方向の最上流側に位置する。)から導入し、残余の水素をガス導入部の下流にある1箇所以上の水素導入部から導入する方法(α1-1)が挙げられる。これにより、上流から流れてきたガス(通常は、特定クロロフルオロオレフィンの一部が水素と反応した後の生成ガス)に、水素導入部からさらに水素が導入され、該水素が該水素導入部から下流側で未反応の特定クロロフルオロオレフィンと反応する。特定クロロフルオロオレフィンと水素とが充分に反応した生成ガスは、触媒層のガスの流れ方向の最下流側に位置するガス排出部から排出される。
方法(α1-1)において、ガス導入部と最初の水素導入部との間で、原料混合ガス中の水素の少なくとも一部が、特定クロロフルオロオレフィンと反応していることが好ましい。また、ガスの流れ方向の最下流側の水素導入部は、該水素導入部とガス排出部との間の触媒層で、該水素導入部から導入された水素と未反応の特定クロロフルオロオレフィンとを充分に反応させることができる位置に設けられることが好ましい。
【0070】
反応器内に2つ以上の触媒層を連続して設ける場合、水素を導入する方法としては、例えば、一部の水素を特定クロロフルオロオレフィンと共に最初の触媒層のガス導入部から導入し、残部の水素を2段目以降の触媒層の水素充填部から導入する方法が挙げられる。
【0071】
方法(α1)以外の触媒層の最高温度を所望の温度に抑える方法としては、特定クロロフルオロオレフィン及び水素と共に触媒層に不活性ガスを流通させる方法(方法(α2))が挙げられる。不活性ガスを流通させ、触媒層中を流通する特定クロロフルオロオレフィン及び水素の濃度を調節することで、反応熱による触媒層の過剰な温度上昇を抑制できる。また、不活性ガス以外の希釈ガスを不活性ガスの代わりに又は不活性ガスとともに使用することもできる。
不活性ガスとしては、窒素ガス、希ガス、水素化反応に不活性なフロン類等が挙げられる。不活性ガス以外の希釈ガスとしては塩化水素等が挙げられる。
【0072】
触媒層への不活性ガスの導入量は、触媒層の最高温度を低く維持しやすく、過還元体の副生を抑制しやすい点、及び触媒の劣化を抑制しやすい点から、特定クロロフルオロオレフィン1モルに対して、0.1モル以上が好ましく、0.5モル以上がより好ましい。また、不活性ガスの導入量は、該不活性ガスの回収率の点から、特定クロロフルオロオレフィン1モルに対して、10モル以下が好ましく、4モル以下がより好ましい。
【0073】
方法(α1)及び方法(α2)以外の触媒層の最高温度を所望の温度に抑える方法としては、反応器を加熱する熱媒温度を、原料混合ガスの露点を下限として、より低い温度とする方法(方法(α3))が挙げられる。熱媒の温度を低く保つことで、反応熱のより迅速な除熱が可能となり、触媒層の過剰な温度上昇を抑制できる。
方法(α3)においては、触媒層の温度は、低い温度であるほど特定ハイドロフルオロオレフィンと分離困難な過還元体の副生を抑制するのに有利である。
触媒層の最高温度を所望の温度に抑える方法は、方法(α1)、方法(α2)若しくは方法(α3)、又はこれらの方法のうち2つ若しくは3つを併用することが好ましい。
【0074】
反応圧力は、取り扱い性の点から、常圧が好ましい。
特定クロロフルオロオレフィンガスの触媒との接触時間は、0.5秒~60秒が好ましく、1秒~40秒がより好ましい。この接触時間は、反応器に導入されるガス量と触媒層体積から計算される特定クロロフルオロオレフィンガスの接触時間である。
【0075】
過還元体の副生を抑制しやすい点から、触媒層に導入する特定クロロフルオロオレフィンと水素の割合は、特定クロロフルオロオレフィン中の塩素原子のモル数と水素の総モル数との比(H/Cl)を0.7以下とすることが好ましく、0.6以下とすることがより好ましく、0.5以下とすることがさらに好ましい。また、比(H/Cl)は、反応生成物の収率の点から、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましい。
【0076】
方法(α)では、触媒層における、下記式(H)で表される特定クロロフルオロオレフィンガスの線速度uが0.1cm/秒~100cm/秒であることが好ましく、1cm/秒~30cm/秒であることがより好ましい。この線速度uは、反応器に導入されるガス量と触媒層体積から計算される特定クロロフルオロオレフィンガスの線速度である。特定クロロフルオロオレフィンガスの線速度uが0.1cm/秒以上であれば、生産性が向上する。特定クロロフルオロオレフィンガスの線速度uが100cm/秒以下であれば、クロロフルオロオレフィンと水素の転化率が向上する。
u=(W/100)×V/S ・・・(H)
ただし、式(H)中、Wは触媒層を流通する全ガス中の特定クロロフルオロオレフィンガスの濃度(モル%)を示し、Vは触媒層を流通する全ガスの流量(cm/秒)を示し、Sは触媒層のガスの流通方向に対する断面積(cm)を示す。
【0077】
方法(α)に使用する反応器としては、触媒を充填して触媒層を形成できる公知の反応器が挙げられる。
反応器の材質としては、例えば、ガラス;鉄、ニッケル、又はこれらを主成分とする合金等が挙げられる。
【0078】
反応後の生成ガスには、目的物の特定ハイドロフルオロオレフィンの他に、未反応の原料、中間生成物、及び塩化水素が含まれる。
生成ガスに含まれる塩化水素は、該生成ガスをアルカリ水溶液に吹き込んで中和することにより除去できる。アルカリ水溶液に使用するアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0079】
生成ガスからの特定ハイドロフルオロオレフィン及び未反応の特定クロロフルオロオレフィンの分離方法としては、例えば、蒸留等の公知の方法を採用できる。
反応後の生成ガスから分離したクロロフルオロオレフィンは再利用できる。例えば、分離したHCFO-1224ydは、CFO-1214yaと共に特定クロロフルオロオレフィンとして水素と反応させてもよく、CFO-1214yaとは別にHCFO-1224ydのみで水素と反応させてもよい。
特定クロロフルオロオレフィンとしてCFO-1214yaとHCFO-1224ydの混合物を使用する場合、HCFO-1224ydは上記CFO-1214yaからHFO-1234yfを得る際の中間生成物であることから、通常、HCFO-1224ydの割合の少ない混合物が使用される。よって、CFO-1214yaとHCFO-1224ydの合計量に対するHCFO-1224ydの割合は50モル%以下が好ましく、25モル%以下がより好ましい。
【0080】
<方法(β)>
方法(β)においては、媒体を使用することが好ましい。媒体としては、水、アルコール等の有機溶媒などが挙げられる。
媒体の使用量は、特定クロロフルオロオレフィン100質量部に対して、10質量部~100質量部が好ましい。
【0081】
水素の供給方法としては、触媒担持担体、特定クロロフルオロオレフィン、及び必要に応じて使用する媒体を含む液に水素ガスを吹き込む方法、予め加圧によって水素を溶解させた媒体を触媒担持担体と特定クロロフルオロオレフィンを含む液に添加する方法等が挙げられる。
方法(β)における特定クロロフルオロオレフィンと水素の反応は、回分式でもよく、連続式でもよい。
【0082】
方法(β)における反応温度は、0℃~200℃が好ましい。反応温度が0℃以上であれば、特定クロロフルオロオレフィンと水素の転化率が向上する。反応温度が200℃以下であれば、過還元体の副生を抑制しやすい。
方法(β)における反応圧力は、ゲージ圧で0.01MPaG~5MPaGが好ましく、0.1MPaG~1MPaGがより好ましい。
方法(β)における反応時間は、回分式であれば1時間~50時間が好ましく、連続式であれば1秒~60秒が好ましい。
【0083】
方法(β)における水素の供給量は、過還元体の副生を抑制しやすい点から、特定クロロフルオロオレフィン中の塩素原子のモル数と供給される水素のモル数との比(H/Cl)を0.7以下とすることが好ましく、0.6以下とすることがより好ましく、0.5以下とすることがさらに好ましい。また、比(H/Cl)は、反応生成物の収率の点から、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましい。なお、水素の供給量とは、反応液中に溶解した水素量を意味する。
【0084】
反応後の反応液には、目的物の特定ハイドロフルオロオレフィンの他に、未反応の原料、中間生成物、及び塩化水素が含まれる。反応液に含まれる塩化水素は、反応液にアルカリを添加して中和することにより除去できる。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
アルカリは、反応に使用する反応液に予め添加してもよい。
【0085】
反応液からの特定ハイドロフルオロオレフィン及び未反応の特定クロロフルオロオレフィンの分離方法としては、例えば、蒸留等の公知の方法を採用できる。
反応液から分離した特定クロロフルオロオレフィンは再利用できる。例えば、分離したHCFO-1224ydは、CFO-1214yaと共に、原料の特定クロロフルオロオレフィンとして水素と反応させてもよく、CFO-1214yaと分離してHCFO-1224ydのみで水素と反応させてもよい。
【0086】
方法(β)で使用する反応器としては、触媒存在下に反応原料を接触させて液相反応させることができる公知の反応器が挙げられる。
反応器の材質としては、例えば、ガラス;鉄、ニッケル、又はこれらを主成分とする合金等が挙げられる。
【実施例
【0087】
以下、実施例及び比較例を示して本開示を詳細に説明する。ただし、本開示は下記実施例により限定されるものではない。
【0088】
<比較例1>
[パラジウム担持シリカの調製]
パラジウム担持シリカを含浸法で調製した。具体的な調製法について説明すれば、担体としてシリカゲル(富士シリシア化学株式会社、CARiACT G-6(比表面積:470m/g、粒径:75μm~250μm、純度>99%))に、パラジウム担持シリカの100質量部に対してパラジウムの担持量が3質量部となるように硝酸パラジウム水溶液を添加して5分間撹拌してシリカゲル分散液を調製した。撹拌後、シリカゲル分散液を24時間静置した。その後、110℃で乾燥し、130℃で1時間焼成し、続けて400℃で1時間焼成を行った。次いでその試料の一部を常圧の水素(H)ガス流通下にて400℃で1時間保持することにより還元処理した。還元終了後、直ちに流通ガスをアルゴン(Ar)ガスに切り替え室温まで放冷し、パラジウム担持シリカ(Pd/SiO)を得た。
【0089】
<実施例1>
[PdBi担持シリカ1の調製]
PdBi担持シリカ1を共含浸法で調製した。具体的な調製法について説明すれば、担体としてシリカゲル(富士シリシア化学株式会社、CARiACT G-6)に、パラジウム及びビスマスを原子比が3/1で含む硝酸パラジウム及び硝酸ビスマス五水和物の硝酸溶液を、PdBi担持シリカ1の100質量部に対してパラジウムの担持量が3質量部となるように添加して、5分間撹拌してシリカゲル分散液を調製した。撹拌後、シリカゲル分散液を24時間静置した。その後、110℃で乾燥し、次いで、常圧のHガス流通下にて800℃で1時間保持することにより還元処理した。還元終了後、直ちに流通ガスをArガスに切り替え室温まで放冷し、PdBi担持シリカ1(PdBi/SiO(1))を得た。
【0090】
<参考例1>
[PdBi担持シリカ2の調製]
PdBi担持シリカ2を逐次含浸法で調製した。具体的な調製法について説明すれば、上記の方法で調製したパラジウム担持シリカに、パラジウムとビスマスの担持量が原子比で3/1となるように、硝酸ビスマス五水和物を溶解させた硝酸溶液を添加して5分間撹拌してパラジウム担持シリカ分散液を調製した。撹拌後、パラジウム担持シリカ分散液を24時間静置した。その後、110℃で乾燥し、次いで、常圧のHガス流通下にて800℃で1時間保持することにより還元処理した。還元終了後、直ちに流通ガスをArガスに切り替え室温まで放冷し、PdBi担持シリカ2(PdBi/SiO(2))を得た。
【0091】
<実施例2>
[PdIn担持シリカの調製]
PdIn担持シリカを逐次含浸法で調製した。具体的な調製法について説明すれば、上記の方法で調製したパラジウム担持シリカに、パラジウムとインジウムの担持量が原子比で3/1となるように、硝酸インジウムn水和物を溶解させた水溶液を添加して5分間撹拌してパラジウム担持シリカ分散液を調製した。撹拌後、パラジウム担持シリカ分散液を24時間静置した。その後、110℃で乾燥し、次いで、常圧のHガス流通下にて800℃で1時間保持することにより還元処理した。還元終了後、直ちに流通ガスをArガスに切り替え室温まで放冷し、PdIn担持シリカ(PdIn/SiO)を得た。
【0092】
<実施例3>
[PdSn担持シリカの調製]
PdSn担持シリカを逐次含浸法で調製した。具体的な調製法について説明すれば、上記の方法で調製したパラジウム担持シリカに、パラジウムとスズの担持量が原子比で3/1となるように、塩化スズ二水和物を溶解させたエタノール溶液を添加して5分間撹拌してパラジウム担持シリカ分散液を調製した。撹拌後、パラジウム担持シリカ分散液を24時間静置した。その後、110℃で乾燥し、次いで、常圧のHガス流通下にて800℃で1時間保持することにより還元処理した。還元終了後、直ちに流通ガスをArガスに切り替え室温まで放冷し、PdSn担持シリカ(PdSn/SiO)を得た。
【0093】
<実施例4>
[PdPb担持シリカの調製]
PdPb担持シリカを逐次含浸法で調製した。具体的な調製法について説明すれば、上記の方法で調製したパラジウム担持シリカに、パラジウムと鉛の担持量が原子比で3/1となるように、硝酸鉛を溶解させた水溶液を添加して5分間撹拌してパラジウム担持シリカ分散液を調製した。撹拌後、パラジウム担持シリカ分散液を24時間静置した。その後、110℃で乾燥し、次いで、常圧のHガス流通下にて800℃で1時間保持することにより還元処理した。還元終了後、直ちに流通ガスをArガスに切り替え室温まで放冷し、PdPb担持シリカ(PdPb/SiO)を得た。
【0094】
<比較例2~5>
[Pd-Bi固溶体合金担持シリカ1~4の調製]
Pd-Bi固溶体合金担持シリカ1~4を共含浸法で調製した。具体的な調製法について説明すれば、常圧のHガス流通下での還元処理条件を、400℃で1時間(Pd-Bi固溶体合金担持シリカ1(比較例2))、500℃で1時間(Pd-Bi固溶体合金担持シリカ2(比較例3))、600℃で1時間(Pd-Bi固溶体合金担持シリカ3(比較例4))又は700℃で1時間(Pd-Bi固溶体合金担持シリカ4(比較例5))に変更した以外はPdBi担持シリカ1の調製の場合と同様にして、Pd-Bi固溶体合金担持シリカ1~4(Pd-Bi/SiO(1)~(4))を得た。
【0095】
<比較例6>
[Pd-Pb固溶体合金担持シリカの調製]
Pd-Pb固溶体合金担持シリカを逐次含浸法で調製した。具体的な調製法について説明すれば、上記の方法で調製したパラジウム担持シリカに、パラジウムと鉛の担持量が原子比で3/1となるように、硝酸鉛を溶解させた水溶液を添加して5分間撹拌してパラジウム担持シリカ分散液を調製した。撹拌後、パラジウム担持シリカ分散液を24時間静置した。その後、110℃で乾燥し、次いで、常圧のHガス流通下にて600℃で1時間保持することにより還元処理した。還元終了後、直ちに流通ガスをArガスに切り替え室温まで放冷し、Pd-Pb固溶体合金担持シリカ(Pd-Pb/SiO)を得た。
【0096】
[XRD測定]
触媒担持担体に担持された触媒が金属間化合物であるか否かを、XRDにより確認した。測定は株式会社リガクのSmartLabを使用して通常の粉末X線回折の測定手順に従い、CuKα線(波長:1.54Å)を用いた。測定は、下記条件にて行った。
出力:45kV、200mA
走査速度:0.3deg/分
ステップ角:0.01deg
測定範囲(2θ):20deg~60deg
【0097】
各触媒のXRD解析結果は、以下のとおりであった。
[解析結果(Pd/SiO)]
Pd/SiOの(111)面のX線回折角(2θ)は40.0degであった。
[解析結果(PdBi/SiO)]
PdBi/SiO(1)の(221)面のX線回折角(2θ)は40.8degであった。SiOに担持された触媒は、PdBiを含む特定金属間化合物であった。
PdBi/SiO(2)の(221)面のX線回折角(2θ)は40.8degであった。SiOに担持された触媒は、PdBiを含む特定金属間化合物であった。
[解析結果(PdIn/SiO)]
PdIn/SiOの(112)面のX線回折角(2θ)は39.2degであった。SiOに担持された触媒は、PdInを含む特定金属間化合物であった。
[解析結果(PdSn/SiO)]
PdSn/SiOの(004)面のX線回折角(2θ)は39.3degであった。SiOに担持された触媒は、PdSnを含む特定金属間化合物であった。
[解析結果(PdPb/SiO)]
PdPb/SiOの(111)面のX線回折角(2θ)は38.6degであった。SiOに担持された触媒は、PdPbを含む特定金属間化合物であった。
[解析結果(Pd-Bi/SiO)]
400℃で水素還元することによって得られたPd-Bi/SiO(1)の(111)面のX線回折角(2θ)は39.3degであった。SiOに担持された触媒は、特定金属間化合物ではなかった。
500℃で水素還元することによって得られたPd-Bi/SiO(2)の(111)面のX線回折角(2θ)は39.1degであった。SiOに担持された触媒は、特定金属間化合物ではなかった。
600℃で水素還元することによって得られたPd-Bi/SiO(3)の(111)面のX線回折角(2θ)は38.6degであった。SiOに担持された触媒は、特定金属間化合物ではなかった。
700℃で水素還元することによって得られたPd-Bi/SiO(4)の(111)面のX線回折角(2θ)は38.5degであった。SiOに担持された触媒は、特定金属間化合物ではなかった。
[解析結果(Pd-Pb/SiO)]
Pd-Pb/SiOの(111)面のX線回折角(2θ)は38.7degであった。SiOに担持された触媒は、特定金属間化合物ではなかった。
【0098】
[反応試験]
(反応装置)
反応器として、ステンレス鋼(SUS316)製、内径7.53mmのU字型の反応管を用意した。この反応管には、触媒床を支持するためのSUS316製の直管及びシリカウールを充填した。温度制御のために、反応管の周囲に設置した電気炉のすぐ側に熱電対を固定して反応装置とした。
【0099】
(Pd/SiOを使用した場合の反応条件)
Pd/SiOの0.015gを上記反応管のシリカウールを充填した箇所に充填し、反応を実施した。はじめに常圧のHガス(40mL/min)流通下にて400℃で1時間保持することにより還元前処理を行った。前処理終了後、気流を25mL/minのArガスに切り替え放冷した。
その後、電気炉で反応器を90℃まで加熱し、反応器にCFO-1214yaとArとHからなる原料混合ガスを導入した。なお、原料の導入に関して、氷浴で冷却した原料にArとHの混合ガスをバブリングさせ、得られた原料混合ガスを反応器に導入した。反応は、大気圧及び下記条件にて行った。
・反応ガス組成(体積比):CFO-1214ya:H:Ar=1.0:1.0:3.4
・反応ガス全流量:39mL/min
【0100】
(PdBi/SiOを使用した場合の反応条件)
PdBi/SiO(1)の0.15gを上記反応管のシリカウールを充填した箇所に充填し、反応を実施した。はじめに常圧のHガス(40mL/min)流通下にて400℃で1時間保持することにより還元前処理を行った。前処理終了後、気流を25mL/minのArガスに切り替え放冷した。
その後、電気炉で反応器を150℃まで加熱し、反応器にCFO-1214yaとArとHからなる原料混合ガスを導入した。なお、原料の導入に関して、氷浴で冷却した原料にArとHの混合ガスをバブリングさせ、得られた原料混合ガスを反応器に導入した。反応は、大気圧及び下記条件にて行った。
・反応ガス組成(体積比):CFO-1214ya:H:Ar=1.0:1.0:3.4
・反応ガス全流量:39mL/min
【0101】
(PdIn/SiOを使用した場合の反応条件)
PdIn/SiOの0.15gを上記反応管のシリカウールを充填した箇所に充填し、反応を実施した。はじめに常圧のHガス(40mL/min)流通下にて400℃で1時間保持することにより還元前処理を行った。前処理終了後、気流を25mL/minのArガスに切り替え放冷した。
その後、電気炉で反応器を90℃まで加熱し、反応器にCFO-1214yaとArとHからなる原料混合ガスを導入した。なお、原料の導入に関して、氷浴で冷却した原料にArとHの混合ガスをバブリングさせ、得られた原料混合ガスを反応器に導入した。反応は、大気圧及び下記条件にて行った。
・反応ガス組成(体積比):CFO-1214ya:H:Ar=1.0:1.0:3.4
・反応ガス全流量:39mL/min
【0102】
(PdSn/SiOを使用した場合の反応条件)
PdSn/SiOの0.3gを上記反応管のシリカウールを充填した箇所に充填し、反応を実施した。はじめに常圧のHガス(40mL/min)流通下にて400℃で1時間保持することにより還元前処理を行った。前処理終了後、気流を25mL/minのArガスに切り替え放冷した。
その後、電気炉で反応器を150℃まで加熱し、反応器にCFO-1214yaとArとHからなる原料混合ガスを導入した。なお、原料の導入に関して、氷浴で冷却した原料にArとHの混合ガスをバブリングさせ、得られた原料混合ガスを反応器に導入した。反応は、大気圧及び下記条件にて行った。
・反応ガス組成(体積比):CFO-1214ya:H:Ar=1.0:1.0:3.4
・反応ガス全流量:39mL/min
【0103】
(PdPb/SiOを使用した場合の反応条件)
PdPb/SiOの0.3gを上記反応管のシリカウールを充填した箇所に充填し、反応を実施した。はじめに常圧のHガス(40mL/min)流通下にて400℃で1時間保持することにより還元前処理を行った。前処理終了後、気流を25mL/minのArガスに切り替え放冷した。
その後、電気炉で反応器を150℃まで加熱し、反応器にCFO-1214yaとArとHからなる原料混合ガスを導入した。なお、原料の導入に関して、氷浴で冷却した原料にArとHの混合ガスをバブリングさせ、得られた原料混合ガスを反応器に導入した。反応は、大気圧及び下記条件にて行った。
・反応ガス組成(体積比):CFO-1214ya:H:Ar=1.0:1.0:3.4
・反応ガス全流量:39mL/min
【0104】
(Pd-Bi/SiOを使用した場合の反応条件)
Pd-Bi/SiOの0.050gを上記反応管のシリカウールを充填した箇所に充填し、反応を実施した。その後の反応手順は、上記(PdBi/SiOを使用した場合の反応条件)と同様とした。
【0105】
(Pd-Pb/SiOを使用した場合の反応条件)
Pd-Pb/SiOの0.050gを上記反応管のシリカウールを充填した箇所に充填し、反応を実施した。その後の反応手順は、上記(PdBi/SiOを使用した場合の反応条件)と同様とした。
【0106】
(ガス分析条件)
株式会社島津製作所製GC-14Bを使用して気相反応による生成物の分析を実施した。カラムはAgilent Technologies DB-1301(60m×0.25mm、d.f.=1.00μm)を2本連結させ使用した。
反応器を通過したガスを連続した2本のトラップに通過させ、シリンジで捕集した。1mol/LのNaOH水溶液40mLをテフロン(登録商標)容器に入れたものをトラップとして25℃で使用した。ガスクロマトグラフを用いて組成の分析を行い、分析結果であるピークの面積から以下の式によりHFO-1234yfの選択率を求めた。
【0107】
(HFO-1234yf選択率の計算)
HFO-1234yfの選択率は、下記数式から算出した。
【0108】
HFO-1234yfの選択率=100×A1234yf/(ΣA-A-Aya) (%)
ΣA:生成ガスの成分結果における全ピークの総面積
:CFO-1214yaに元々含まれる不純物の面積
ya:CFO-1214yaの面積
1234yf:HFO-1234yfの面積
なお、各面積はいずれもガスクロマトグラフの分析結果であるピーク面積を使用した。
【0109】
(有価物選択率の計算)
有価物選択率=(HFO-1234yf選択率)+(HCFO-1224yd選択率)
HCFO-1224yd選択率=100×A1224yd/(ΣA-A-Aya) (%)
1224yd:HCFO-1224ydの面積
なお、HCFO-1224ydの面積はガスクロマトグラフの分析結果であるピーク面積を使用した。
【0110】
(有価物収率の計算)
有価物収率=(有価物選択率×CFO-1214ya転化率)/100 (%)
CFO-1214ya転化率=100-((100×Aya)/(ΣA-A))
(%)
有価物の定義:中間生成物は回収して再反応することで目的物に変換できる(過還元体は変換困難)ことから、目的の反応生成物と中間生成物を有価物とした。
【0111】
(分析結果)
CFO-1214yaと水素との反応を行った際の、CFO-1214ya転化率、HCFO-1224yd選択率、HFO-1234yf選択率、有価物選択率及び有価物収率を上述のようにして求めた。結果を表1に示す。
【0112】
【表1】
【0113】
表1から分かるように、第2の元素としてビスマスを有し、担体に担持した金属間化合物触媒を用いることにより、HFO-1234yfの選択率を向上させることができることが分かった。また、HCFO-1224ydを含めた有価物選択率及び有価物収率も良好であることが分かった。
さらに、第2の元素としてインジウム、スズ又は鉛を有し、担体に担持した金属間化合物触媒を用いることによっても、HFO-1234yfの選択率を向上させることができることが分かった。また、HCFO-1224ydを含めた有価物選択率及び有価物収率も良好であることが分かった。
【0114】
2019年9月6日に出願された日本国特許出願2019-163339号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
また、本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。