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特許7511114含フッ素エーテル組成物、コーティング液、物品およびその製造方法、並びに化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】含フッ素エーテル組成物、コーティング液、物品およびその製造方法、並びに化合物
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/02 20060101AFI20240628BHJP
   C08G 65/32 20060101ALI20240628BHJP
   C09D 171/02 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
C08L71/02
C08G65/32
C09D171/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021548887
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2020035542
(87)【国際公開番号】W WO2021060199
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019176739
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩田 英史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 祥一
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/049753(WO,A1)
【文献】特開平05-154434(JP,A)
【文献】特開平07-268280(JP,A)
【文献】特開2017-203059(JP,A)
【文献】特開2010-126607(JP,A)
【文献】特開2019-044179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 71/00- 71/14
C08G 65/00- 65/48
C09D 171/00-171/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖と、加水分解性基および/または水酸基がケイ素原子に結合した基(Y)とを有する化合物(A)と、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(ただし、オキシアルキレン基が2つ以上連続した構造を含まない。)とポリオキシアルキレン鎖(ただし、アルキレン基の炭素数は2以上である。)とが連結基を介して結合した部分構造を有し、前記基(Y)を有しない化合物(B)と、を含み、
前記化合物(B)を、前記化合物(A)の100質量部に対して1~30質量部の割合で含有し、
化合物(A)と化合物(B)の合計含有量は、含フッ素エーテル組成物の全量に対して90~100質量%であることを特徴とする含フッ素エーテル組成物。
【請求項2】
前記化合物(B)が、前記部分構造が前記連結基を1つ有し、前記ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖および前記ポリオキシアルキレン鎖が該連結基で結合された構造である化合物(B1)、前記部分構造が前記ポリオキシアルキレン鎖を1つ有し、その両端にそれぞれ前記連結基を介して前記ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖が結合された構造である化合物(B2)、または、前記部分構造が前記ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖を1つ有し、その両端にそれぞれ前記連結基を介して前記ポリオキシアルキレン鎖が結合された構造である化合物(B3)である、請求項1に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項3】
前記化合物(B)が有する前記ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖がポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、前記連結基が、-C(=O)-O-、-C(=O)-NH-、-CH-O-、-O-CH-、炭素数1~6のアルキレン基、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基を有する(ただし、-CH-O-または-O-CH-を有する場合には、炭素数1~6のアルキレン基および炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基のいずれも有しない)2価の有機基である、請求項1または2に記載の含フッ素エーテル組成物。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物と、液状媒体とを含むことを特徴とするコーティング液。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を基材の表面に有することを特徴とする物品。
【請求項6】
前記物品がタッチパネルであり、前記タッチパネルの指で触れる面を構成する部材の表面に前記表面層を有する、請求項に記載の物品。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の含フッ素エーテル組成物を用いたドライコーティング法によって基材の表面を処理して、前記含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を前記基材の表面に形成することを特徴とする物品の製造方法。
【請求項8】
ウェットコーティング法によって請求項に記載のコーティング液を基材の表面に塗布し、乾燥させて、前記含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を前記基材の表面に形成することを特徴とする物品の製造方法。
【請求項9】
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(ただし、オキシアルキレン基が2つ以上連続した構造を含まない。)と、ポリオキシアルキレン鎖(ただし、アルキレン基の炭素数は2以上である。)が連結基を介して結合した部分構造を有し、加水分解性基および/または水酸基がケイ素原子に結合した基(Y)を有しない化合物であって、下記式(2)で表されることを特徴とする化合物。
[A -(OX m2 -] j2 [-(R 50 O) m3 -A g2 (2)
ただし、式(2)中、
は、R f1 または-Q [-(R 60 O) m4 -R 61 k2 であり、
は、R 51 または-Q [-(X O) m5 -R f2 k3 であり、
、X は、それぞれ1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキレン基であり、
50 、R 60 は、それぞれ炭素数2以上のアルキレン基であり、
f1 、R f2 は、それぞれペルフルオロアルキル基であり
51 、R 61 は、それぞれ1価の飽和炭化水素基であり、
m2、m3、m4、m5は、それぞれ2~200の整数であり、
j2、g2、k2、k3は、それぞれ1以上の整数であり、
は、-C(O)O-、-C(O)N(R )-、-CH O-、-OCH -C(O)O-、アルキレン基-C(O)O-、またはアルキレン基-Si(R -フェニレン基-Si(R -であり、
は、水素原子またはアルキル基であり、
は、アルキル基またはフェニル基であり、
は、(k2+1)価の連結基であり、
は、(k3+1)価の連結基である。
【請求項10】
前記ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖はポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、
前記j2,g2,k2,k3が1であり、
記Q およびQはそれぞれ独立に、-C(=O)-O-、-C(=O)-NH-、-CH-O-、-O-CH-、炭素数1~6のアルキレン基、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1つを有する(ただし、-CH-O-または-O-CH-を有する場合には、炭素数1~6のアルキレン基および炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基のいずれも有しない)2価の有機基である、請求項9に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エーテル組成物、コーティング液、物品およびその製造方法、並びに化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素化合物は、高い潤滑性、撥水撥油性等を示すため、表面処理剤に好適に用いられる。該表面処理剤によって基材の表面に撥水撥油性を付与すると、基材の表面の汚れを拭き取りやすくなり、汚れの除去性が向上する。該含フッ素化合物の中でも、ペルフルオロアルキレン鎖の途中にエーテル結合(-O-)が存在するポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有する含フッ素エーテル化合物は、柔軟性に優れる化合物であり、特に油脂等の汚れの除去性に優れる。
【0003】
ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有し、末端に加水分解性基が結合したシリル基を有する含フッ素エーテル化合物を含む組成物を、防汚剤、潤滑剤、撥水撥油剤等の表面処理剤として用いることが知られている。
【0004】
さらに、含フッ素エーテル化合物組成物から得られる表面層に摩耗耐久性を付与するために、含フッ素エーテル化合物組成物に含フッ素オイルを含ませる技術が知られている。例えば、特許文献1には、ペルフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物と、ポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖と、カルボン酸、リン酸、スルホン酸、等の酸または、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル等の、加水分解して酸を生成する官能基を有する含フッ素オイルを含む含フッ素エーテル化合物組成物が記載されている。
【0005】
また。特許文献2には、ペルフルオロ(ポリ)エーテル変性アミドシラン化合物と、含フッ素オイルとしてのポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖を有するカルボン酸エステルを含有し、これらの総量に対する上記カルボン酸エステルの含有量が4.1~35モル%である含フッ素エーテル化合物組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2018/047695号
【文献】国際公開第2018/047686号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2では、含フッ素エーテル化合物組成物が含有する、含フッ素オイルが有する酸、またはエステルが分解して生成する酸が、ペルフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物が有するケイ素原子に加水分解性基が結合した基とガラス基板の結合を促進する作用を有することで、該組成物から得られる表面層に摩耗耐久性が付与されるとしている。しかしながら、本発明者は、特許文献1および2に記載の組成物から得られる表面層においては、摩耗耐久性が充分ではないことを確認した。
【0008】
本発明は、基材の表面に優れた撥水撥油性を付与できるとともに、撥水撥油性の摩耗耐久性に優れた表面層を形成できる含フッ素エーテル組成物および該含フッ素エーテル組成物を含むコーティング液の提供を目的とする。本発明はさらに、該含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を有する物品およびその製造方法の提供を目的とする。本発明はまた、本発明の含フッ素エーテル組成物における含フッ素オイルとして好適に使用できる化合物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成を有する含フッ素エーテル組成物、コーティング液、物品および物品の製造方法を提供する。
【0010】
[1]ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖と、加水分解性基および/または水酸基がケイ素原子に結合した基(Y)とを有する化合物(A)と、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(ただし、オキシアルキレン基が2つ以上連続した構造を含まない。)とポリオキシアルキレン鎖(ただし、アルキレン基の炭素数は2以上である。)とが連結基を介して結合した部分構造を有し、前記基(Y)を有しない化合物(B)と、を含むことを特徴とする含フッ素エーテル組成物。
[2]前記化合物(B)が、前記部分構造が前記連結基を1つ有し、前記ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖および前記ポリオキシアルキレン鎖が該連結基で結合された構造である化合物(B1)、前記部分構造が前記ポリオキシアルキレン鎖を1つ有し、その両端にそれぞれ前記連結基を介して前記ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖が結合された構造である化合物(B2)、または、前記部分構造が前記ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖を1つ有し、その両端にそれぞれ前記連結基を介して前記ポリオキシアルキレン鎖が結合された構造である化合物(B3)である、[1]の含フッ素エーテル組成物。
[3]前記化合物(B)が有する前記ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖がポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、前記連結基が、-C(=O)-O-、-C(=O)-NH-、-CH-O-、-O-CH-、炭素数1~6のアルキレン基、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基を有する(ただし、-CH-O-または-O-CH-を有する場合には、炭素数1~6のアルキレン基および炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基のいずれも有しない)2価の有機基である、[1]または[2]の含フッ素エーテル組成物。
[4]前記化合物(B)を、前記化合物(A)の100質量部に対して1~30質量部の割合で含有する、[1]~[3]のいずれかの含フッ素エーテル組成物。
【0011】
[5]前記[1]~[4]のいずれかの含フッ素エーテル組成物と、液状媒体とを含むことを特徴とするコーティング液。
[6]前記[1]~[4]のいずれかの含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を基材の表面に有することを特徴とする物品。
[7]前記物品がタッチパネルであり、前記タッチパネルの指で触れる面を構成する部材の表面に前記表面層を有する、[6]の物品。
[8]前記[1]~[4]のいずれかの含フッ素エーテル組成物を用いたドライコーティング法によって基材の表面を処理して、前記含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を前記基材の表面に形成することを特徴とする物品の製造方法。
[9]ウェットコーティング法によって[5]のコーティング液を基材の表面に塗布し、乾燥させて、前記含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を前記基材の表面に形成することを特徴とする物品の製造方法。
【0012】
[10]ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(ただし、オキシアルキレン基が2つ以上連続した構造を含まない。)と、ポリオキシアルキレン鎖(ただし、アルキレン基の炭素数は2以上である。)が連結基を介して結合した部分構造を有し、加水分解性基および/または水酸基がケイ素原子に結合した基(Y)を有しないことを特徴とする化合物。
[11]前記部分構造が、前記連結基を1つ有し、前記ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖および前記ポリオキシアルキレン鎖が該連結基で結合された構造、前記ポリオキシアルキレン鎖を1つ有し、その両端にそれぞれ前記連結基を介して前記ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖が結合された構造、または前記ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖を1つ有し、その両端にそれぞれ前記連結基を介して前記ポリオキシアルキレン鎖が結合された構造である、[10]の化合物。
[12]前記ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖はポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖であり、前記連結基が、-C(=O)-O-、-C(=O)-NH-、-CH-O-、-O-CH-、炭素数1~6のアルキレン基、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1つを有する(ただし、-CH-O-または-O-CH-を有する場合には、炭素数1~6のアルキレン基および炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基のいずれも有しない)2価の有機基である、[10]または[11]の化合物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の含フッ素エーテル組成物および該含フッ素エーテル組成物を含むコーティング液によれば、基材の表面に優れた撥水撥油性を付与できるとともに、摩耗耐久性に優れることで、長期使用において撥水撥油性が低下しにくい表面層を形成できる。
本発明の物品は、本発明の含フッ素エーテル組成物から形成された表面層を有することで、優れた撥水撥油性を有し、該撥水撥油性は摩耗耐久性に優れ、長期使用においても撥水撥油性が低下しにくい。
【0014】
本発明の物品の製造方法によれば、基材の表面に優れた撥水撥油性を付与できるとともに、該撥水撥油性は摩耗耐久性に優れ、長期使用においても撥水撥油性が低下しにくい表面層を有する物品を製造できる。
本発明の化合物は、本発明の含フッ素エーテル組成物における含フッ素オイルとして好適に使用できる化合物である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、式(1)で表される化合物を化合物(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。式(2)で表される基を基(2)と記す。他の式で表される基も同様に記す。
「エーテル性酸素原子」とは、炭素-炭素原子間においてエーテル結合(-O-)を形成する酸素原子を意味する。
「ポリオキシアルキレン鎖」のアルキレン基は、フッ素原子を有しない。
【0016】
「2価のオルガノポリシロキサン残基」とは、下式で表される基である。下式におけるRは、アルキル基(好ましくは炭素数1~10のもの)、または、フェニル基である。また、g1は、1以上の整数であり、1~9であることが好ましく、1~4であることが特に好ましい。
【化1】
【0017】
「シルフェニレン骨格基」とは、-Si(RPhSi(R-(ただし、Phはフェニレン基であり、Rは1価の有機基である。)で表される基である。Rとしては、アルキル基(好ましくは炭素数1~10のもの)が好ましい。
「ジアルキルシリレン基」は、-Si(R-(ただし、Rはアルキル基(好ましくは炭素数1~10のもの)である。)で表される基である。
【0018】
含フッ素化合物の「数平均分子量」は、NMR分析法を用い、H-NMRおよび19F-NMRによって、末端基を基準にしてオキシフルオロアルキレン基の数(平均値)を求めることによって算出される。
「表面層」とは、本発明の含フッ素エーテル組成物から、基材の表面に形成される層を意味する。
【0019】
[含フッ素エーテル組成物]
本発明の含フッ素エーテル組成物(以下、「本組成物」とも記す。)は、化合物(A)と化合物(B)を含むことを特徴とする。
【0020】
化合物(A)はポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(以下、「ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)」とも記す。)と、加水分解性基および/または水酸基がケイ素原子に結合した基である基(Y)とを有する含フッ素エーテル化合物である。
【0021】
化合物(B)は、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(ただし、オキシアルキレン基が2つ以上連続した構造を含まない。以下、「ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)」とも記す。)とポリオキシアルキレン鎖(ただし、アルキレン基の炭素数は2以上である。以下、ポリオキシアルキレン鎖(b)」とも記す。)とが連結基を介して結合した部分構造を有し、基(Y)を有しない化合物である。
【0022】
本組成物は化合物(A)を含有することで硬化して硬化物となる。本組成物を用いて基材の表面に形成される表面層は本組成物の硬化物からなる。本組成物の硬化は、化合物(A)の基(Y)の反応により行われる。具体的には、化合物(A)の基(Y)がケイ素原子に結合する加水分解性基を有する場合、該加水分解性基が加水分解してシラノール基(Si-OH)を形成し、該シラノール基が分子間で縮合反応してSi-O-Si結合により硬化する。化合物(A)の基(Y)がケイ素原子に結合する水酸基を有する、すなわちシラノール基を有する場合、該シラノール基が分子間で縮合反応してSi-O-Si結合により硬化する。また、このような硬化に際して、例えば、基材がガラス基材のように表面にシラノール基を有する場合には該シラノール基と、化合物(A)が有する、または、化合物(A)から生成したシラノール基が反応してSi-O-Si結合が形成される。これにより、得られる表面層は基材に密着される。
【0023】
化合物(A)が有するポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)は、硬化後は典型的には表面層中の大気側に存在して表面層に撥水撥油性を与える、と考えられる。
【0024】
一方、化合物(B)は、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)を有することで、化合物(A)との相溶性を有し、親水性基であるポリオキシアルキレン鎖(b)を有することで、本組成物に親水性を付与できる。親水性を有する本組成物は、水分を含みやすくなり、化合物(A)における基(Y)による硬化反応を促進する。また、本組成物をガラス基材のように表面にシラノール基を有する基材上に塗布すると、基材表面が水分を含みやすくなる。その水分が、化合物(A)が有する、または、化合物(A)から生成したシラノール基と基板上のシラノール基との結合反応を促進する。このようにして、本組成物から得られる表面層は、硬化が充分になされ、さらに基材に強固に接着(化学結合)した層であり、摩耗耐久性に優れる。
【0025】
また、化合物(B)が、連結基等にエステル結合を含む場合には、エステル結合の加水分解によりカルボン酸が生成し、そのカルボン酸が、化合物(A)における基(Y)による硬化反応を促進するとともに、化合物(A)が有する、または、化合物(A)から生成したシラノール基と基板上のシラノール基との結合反応を促進する。これにより、基材上に、より摩耗耐久性に優れる表面層が形成できる。
【0026】
(化合物(A))
化合物(A)はポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)と基(Y)とを有する。化合物(A)においてポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)と基(Y)は通常、連結基(以下、「連結基(a)」とも記す。)を介して結合される。基(Y)はケイ素原子が連結基(a)と結合する。
【0027】
化合物(A)において、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)の2つの末端は、片方がフルオロアルキル基と結合していて、もう片方が連結基(a)を介して基(Y)に連結しているか、2つとも、それぞれ連結基(a)を介して基(Y)に連結している。撥水撥油性により優れる点から、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)の片方の末端はフルオロアルキル基と結合することが好ましい。
【0028】
化合物(A)の化学式において、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)は連結基(a)から遠い側に酸素原子が位置するように単位が繰り返される構造として記載する。
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)の2つの末端の片方のみが連結基(a)と結合する場合、化合物(A)の化学式は、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)を左側に、連結基(a)を右側に記載する。
【0029】
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)の2つの末端の両方が連結基(a)と結合する場合、化合物(A)の化学式において、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)は、右側の連結基(a)から遠い側に酸素原子が位置するように単位が繰り返される構造として記載する。
連結基(a)のみを化学式で記載する場合、左側がポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖に結合する形で記載する。
【0030】
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)と連結基(a)との境目は次のように考える。上記のとおりポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)の片方の末端が連結基(a)と結合する場合、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)の右側の末端が連結基(a)と結合する。ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)の右側の末端とは、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)の最も右側に位置するオキシフルオロアルキレン単位のフッ素原子と結合した炭素原子のうち酸素原子に最も遠い炭素原子である。ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)の両方の末端が連結基(a)と結合する場合、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)の右側の末端は上記と同様であり、左側の末端はポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)の左側末端に位置する酸素原子と連結基(a)が結合する。
【0031】
化合物(A)は、基(Y)を少なくとも1個有すればよい。基(Y)の数としては、表面層の摩耗耐久性がより優れる点で、2個以上が好ましく、2~10個がより好ましく、2~5個がさらに好ましく、2または3個が特に好ましい。
【0032】
連結基(a)は、1つの炭素原子、ケイ素原子、または窒素原子で分岐する構造を有する価数3~4の連結基が好ましい。複数の分岐元素を有する連結基や価数が4を超える連結基であってもよい。なお、連結基の分岐の起点となる元素を以下、「分岐元素」とも記す。
【0033】
連結基(a)としては、以下の連結基(a-1)~連結基(a-5)が挙げられる。連結基(a)としては、連結基(a-1)、連結基(a-2)および連結基(a-3)が好ましい。
【0034】
連結基(a-1):アミド結合を有する基(ただし、オルガノポリシロキサン残基およびシルフェニレン骨格基を含まない)
連結基(a-2):エーテル性酸素原子を有する基(ただし、アミド結合、オルガノポリシロキサン残基およびシルフェニレン骨格基を含まない)
連結基(a-3):炭素-炭素原子間に窒素原子またはケイ素原子を有してもよい脂肪族飽和炭化水素基
連結基(a-4):オルガノポリシロキサン残基またはシルフェニレン骨格基を有する基
連結基(a-5):連結基(a-1)~連結基(a-4)のいずれにも分類されない基
【0035】
以下、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)の右側末端が連結基(a)と結合する場合の連結基(a-1)~連結基(a-5)について説明する。
【0036】
1つの炭素原子、ケイ素原子、または窒素原子で分岐する構造を有する価数が3または4の連結基において、当該分岐元素を境にポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)側と基(Y)側に分けて考えると、連結基中の、アミド結合、エーテル性酸素原子または脂肪族飽和炭化水素基は、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)側にあっても基(Y)側にあっても、その両方にあってもよい。ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)側にあるか両方にあることが好ましい。
【0037】
連結基(a-1)において、価数が2の場合、アミド結合は-C(=O)NR-であり、炭素原子側がポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)側、窒素原子側が基(Y)側に位置する。なお、以下の表記において、C(=O)をC(O)とも記す。Rとしては、例えば、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、フェニル基が好ましい。-C(O)NR-の炭素原子は、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)に、アルキレン基を介して結合するか直接結合し、直接結合することが好ましい。-C(O)NR-の窒素原子は、例えば、炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有してもよいアルキレン基を介して基(Y)に結合する。
【0038】
連結基(a-1)において、価数が3以上の場合、基内に炭素原子、ケイ素原子、または窒素原子で分岐する構造を有し、分岐した末端が基(Y)と結合する。連結基(a-1)において、1つの炭素原子、ケイ素原子、または窒素原子で分岐する構造を有する価数が3~4の連結基は、分岐した末端が基(Y)とポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)と結合することが好ましい。アミド結合は分岐元素を境にポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)側にあっても基(Y)側にあっても、その両方にあってもよい。アミド結合は、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)側にあることが好ましい。
【0039】
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)側にアミド結合がある場合、アミド結合はその炭素原子が、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)にアルキレン基を介して結合するか直接結合し、直接結合することが好ましい。この場合、連結基(a-1)が有する分岐元素は、アミド結合の窒素原子でも、アミド結合に結合する基の炭素原子、ケイ素原子、または窒素原子であってもよい。アミド結合と分岐元素は直接結合するか、2価の連結基、例えば、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子および/またはアミド結合を有する基を介して結合する。分岐元素と基(Y)はそれぞれ2価の連結基により連結される。アルキレン基の炭素数は、1~5が好ましく、2~5が特に好ましい。炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基の炭素数は、2~5が好ましい。
【0040】
基(Y)側にのみアミド結合がある場合は、上記-C(O)NR-と同様のアミド結合が好ましい。
【0041】
連結基(a-2)において、価数が2の場合、エーテル性酸素原子のポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)側は、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)に直接結合する構造でも、2価の連結基、例えば、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基を介してポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)に結合する構造でもよい。アルキレン基の炭素数は、1~5が好ましく、2~5が特に好ましい。炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基の炭素数は、2~5が好ましい。
【0042】
連結基(a-2)において、価数が3以上の場合、基内に炭素原子、ケイ素原子、または窒素原子で分岐する構造を有し、分岐した末端が基(Y)と結合する。連結基(a-2)において、1つの炭素原子、ケイ素原子、または窒素原子で分岐する構造を有する価数が3~4の連結基は、分岐した末端が基(Y)とポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)と結合することが好ましい。エーテル性酸素原子は分岐元素を境にポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)側にあっても基(Y)側にあっても、その両方にあってもよい。エーテル性酸素原子は、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)側にあることが好ましい。
【0043】
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)にエーテル性酸素原子がある場合、エーテル性酸素原子は、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)に直接結合する構造でも、2価の連結基、例えば、アルキレン基を介してポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)に結合する構造でもよい。エーテル性酸素原子と分岐元素は直接結合するか、2価の連結基(例えば、アルキレン基、または、炭素数2以上の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基)を介して結合することが好ましい。アルキレン基の炭素数は、1~5が好ましく、2~5が特に好ましい。炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基の炭素数は、2~5が好ましい。
【0044】
連結基(a-3)における脂肪族飽和炭化水素基は直鎖状、分岐鎖状が好ましい。直鎖状の場合、連結基(a-3)の価数は2である。分岐鎖状の場合、連結基(a-3)の価数は3以上であり、複数の基(Y)やポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)に結合することができる。1つの炭素原子で分岐する構造を有する価数が3~4の連結基が好ましい。なお、脂肪族飽和炭化水素基の水素原子の一部は水酸基に置換されていてもよい。連結基(a-3)が窒素原子を有する場合、窒素原子が2個の基(Y)にそれぞれアルキレン基(炭素数1~5のものが好ましい。)を介して結合する構造が好ましい。連結基(a-3)がケイ素原子を有する場合、ケイ素原子が2個または3個の基(Y)にそれぞれアルキレン基(炭素数1~5のものが好ましい。)を介して結合する構造が好ましい。
【0045】
連結基(a-4)としては、例えば、後述の化合物(1)における基(11-6)中の連結基が例示できる。
【0046】
なお、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)の左側末端に位置する酸素原子に連結基が結合する場合の連結基(a-1)~連結基(a-5)については、以下のとおりにできる。すなわち、上記ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)の右側末端に連結基が結合する場合の連結基(a-1)~連結基(a-5)において、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)側に、炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有してもよいアルキレン基(炭素数1~5のものが好ましい。エーテル性酸素原子を有する場合は、炭素数2~5のものが好ましい。)を有する態様がそのまま適用できる。さらに、上記において連結基(a-1)~連結基(a-5)がポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)側に有するアルキレン基は、該基が有する水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されたフルオロアルキレン基であってもよい。ただし、フルオロアルキレン基の場合は、炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有することはなく、連結基(a-1)~連結基(a-5)はフルオロアルキレン基が-O-と結合する構造も有しない。
【0047】
化合物(A)は、化合物(1)であることが好ましい。化合物(1)において、(OXm1が化合物(A)のポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)に相当し、-Si(Rn1 3-n1が基(Y)に相当し、ZおよびQが連結基(a)に相当する。
[A-(OXm1-]j1[-Si(Rn1 3-n1g1 (1)
ただし、式(1)中、
は、ペルフルオロアルキル基または-Q[-Si(Rn1 3-n1k1であり、
は、1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキレン基であり、
m1は、2~200の整数であり、
j1、g1、k1はそれぞれ、1以上の整数であり、
は、(j1+g1)価の連結基であり、
は、独立して1価の炭化水素基であり、
は、独立して加水分解性基または水酸基であり、
n1は、独立して0~2の整数であり、
は、(k1+1)価の連結基である。
【0048】
が、ペルフルオロアルキル基である場合、ペルフルオロアルキル基中の炭素数は、表面層の摩耗耐久性がより優れる点から、1~20が好ましく、1~10がより好ましく、1~6がさらに好ましく、1~3が特に好ましい。ペルフルオロアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0049】
ペルフルオロアルキル基の具体例としては、CF-、CFCF-、CFCFCF-、CFCFCFCF-、CFCFCFCFCF-、CFCFCFCFCFCF-、CFCF(CF)-が挙げられる。ペルフルオロアルキル基としては、表面層の撥水撥油性がより優れる点から、CF-、CFCF-およびCFCFCF-が好ましい。
【0050】
(OXm1は、(OX)で表される単位(以下、「単位(1)」とも記す。)がm1個結合してなる。
は、1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキレン基である。フルオロアルキレン基の炭素数は1~6が好ましい。
フルオロアルキレン基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、本発明の効果がより優れる点から、直鎖状が好ましい。
【0051】
フルオロアルキレン基におけるフッ素原子の数としては、表面層の摩耗耐久性および撥水撥油性がより優れる点から、炭素原子の数の1~2倍が好ましく、1.7~2倍がより好ましい。
フルオロアルキレン基としては、フッ素原子の数が炭素原子の数の2倍のフルオロアルキレン基、すなわちフルオロアルキレン基中のすべての水素原子がフッ素原子に置換されたペルフルオロアルキレン基が特に好ましい。
【0052】
単位(1)の具体例としては、-OCHF-、-OCFCHF-、-OCHFCF-、-OCFCH-、-OCHCF-、-OCFCFCHF-、-OCHFCFCF-、-OCFCFCH-、-OCHCFCF-、-OCFCFCFCH-、-OCHCFCFCF-、-OCFCFCFCFCH-、-OCHCFCFCFCF-、-OCFCFCFCFCFCH-、-OCHCFCFCFCFCF-、-OCF-、-OCFCF-、-OCFCFCF-、-OCF(CF)CF-、-OCFCFCFCF-、-OCF(CF)CFCF-、-OCFCFCFCFCF-、-OCFCFCFCFCFCF-が挙げられる。ただし、m1個ある(OX)基のうち、右側末端の(OX)基において、連結基(a)と結合する基Xの最も右側の炭素原子は1個または2個のフッ素原子と結合する態様、具体的には、-CHF-または-CF-である。
【0053】
(OXm1に含まれる単位(1)の繰り返し数m1は2~200の整数であり、5~150が好ましく、5~100がより好ましく、10~50が特に好ましい。
【0054】
(OXm1は、2種以上の単位(1)を含んでいてもよい。2種以上の単位(1)としては、例えば、炭素数の異なる2種以上の単位(1)、炭素数が同じであっても側鎖の有無や側鎖の種類が異なる2種以上の単位(1)、炭素数が同じであってもフッ素原子の数が異なる2種以上の単位(1)が挙げられる。2種以上の単位(1)のそれぞれの繰り返し数は同一であっても異なっていてもよい。2種以上の単位(1)のそれぞれの繰り返し数の合計をm1とする。
【0055】
例えば(OCF)と(OCFCF)を有する場合に(OCF)に対する(OCFCF)の比率は0.1~10が好ましく、0.2~5がより好ましく、0.2~2がさらに好ましく、0.2~1.5が特に好ましく、0.2~0.85が最も好ましい。なお、2種以上の単位(1)の結合順序は限定されず、ランダム、交互、ブロックに配置されてもよい。
【0056】
化合物(1)は、-Si(Rn1 3-n1(以下、「基(Y1)」とも記す。)を少なくとも1個有すればよい。基(Y1)の数は、表面層の摩耗耐久性がより優れる点で、2個以上が好ましく、2~10個がより好ましく、2~5個がさらに好ましく、2または3個が特に好ましい。基(Y1)が1分子中に複数ある場合、複数ある基(Y1)は、同じであっても異なっていてもよい。原料の入手容易性や含フッ素エーテル化合物の製造容易性の点からは、互いに同じであることが好ましい。
【0057】
は、1価の炭化水素基であり、1価の飽和炭化水素基が好ましい。Rの炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2が特に好ましい。
【0058】
は、加水分解性基または水酸基である。Lにおける加水分解性基の具体例としては、アルコキシ基、アリロキシ基、ハロゲン原子、アシル基、イソシアナート基(-NCO)が挙げられる。アルコキシ基としては、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましい。アシル基としては、炭素数1~6のアシル基が好ましい。ハロゲン原子としては、塩素原子が好ましい。
【0059】
としては、化合物(1)の製造がより容易である点から、炭素数1~4のアルコキシ基およびハロゲン原子が好ましい。Lとしては、塗布時のアウトガスが少なく、化合物(1)を含む本組成物の保存安定性がより優れる点から、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、化合物(1)を含む本組成物の長期の保存安定性が必要な場合にはエトキシ基が特に好ましく、塗布後の反応時間を短時間とする場合にはメトキシ基が特に好ましい。
【0060】
n1は、0~2の整数である。n1は、0または1が好ましく、0が特に好ましい。Lが複数存在することによって、表面層の基材への密着性がより強固になる。n1が1以下である場合、1分子中に存在する複数のLは同じであっても異なっていてもよい。原料の入手容易性や含フッ素エーテル化合物の製造容易性の点からは、同じであることが好ましい。n1が2である場合、1分子中に存在する複数のRは同じであっても異なっていてもよい。原料の入手容易性や含フッ素エーテル化合物の製造容易性の点からは、同じであることが好ましい。
【0061】
j1は、1以上の整数であり、表面層の撥水撥油性がより優れる点から、1~5が好ましい。Aが-Q[-Si(Rn1 3-n1k1である場合、j1は1であることが好ましい。さらに、化合物(1)を製造しやすい点から、j1は1が特に好ましい。
g1は、1以上の整数であり、表面層の摩耗耐久性がより優れる点から、2~4が好ましく、2または3がより好ましく、3が特に好ましい。
【0062】
化合物(1)において、k1×j1+g1が基(Y1)の数である。この数が上記好ましい範囲となるようにk1、j1およびg1を調整する。表面層の基材への密着性の観点からは、k1が1以上であることが好ましい。表面層の撥水撥油性の観点からはAは、ペルフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0063】
化合物(1)において、Qは、(k1+1)価の連結基であり、Zは、(j1+g1)価の連結基である。式(1)に示すとおりZは、m1個ある(OX)基のうち、右側末端の(OX)基の基Xの最も右側の炭素原子に結合する連結基(a)であり、Qは左側末端の(OX)基のOに結合する連結基(a)である。Zとしては、連結基(a-1)~連結基(a-5)が適用できる。Qについては、連結基(a-1)~連結基(a-5)において、連結基が結合する(OX)基のO側に炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有してもよいアルキレン基を有する態様、または、アルキレン基の代わりに水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されたフルオロアルキレン基である態様が適用できる。ただし、フルオロアルキレン基の場合は、炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有することはなく、連結基(a-1)~連結基(a-5)はフルオロアルキレン基が-O-と結合する構造も有しない。
【0064】
なお、QとZは類似の構造を有することが好ましい。例えば、連結基(a-1)~連結基(a-5)の分類において同じ分類に属することが好ましい。以下、Zを例に説明するが、Qについては上記相違点を除いて同様にできる。
【0065】
は、本発明の効果を損なわない上記価数の基であればよい。Zの具体的な例について、基(Y1)を含む基として、基(11)および基(12)を用いて説明する。式(11)および式(12)において、Zは、基(11)、基(12)からSi(Rn1 3-n1を除いた基である。
-Q-X31(-Q-Si(Rn1 3-n1(-R31 (11)
-Q-[CHC(R32)(-Q-Si(Rn1 3-n1)]-R33 (12)
【0066】
式(11)および式(12)中の各記号の定義は、以下のとおりである。
、Lおよびn1の定義は、式(1)中の各基の定義と同義である。
【0067】
は、単結合または2価の連結基である。
2価の連結基としては、例えば、2価の炭化水素基、2価の複素環基、-O-、-S-、-SO-、-N(R)-、-C(O)-、-Si(R-および、これらを2種以上組み合わせた基が挙げられる。
2価の炭化水素基としては、2価の飽和炭化水素基、2価の芳香族炭化水素基、アルケニレン基、アルキニレン基であってもよい。2価の飽和炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状または環状であってもよく、例えば、アルキレン基が挙げられる。炭素数は1~20が好ましい。また、2価の芳香族炭化水素基は、炭素数5~20が好ましく、例えば、フェニレン基が挙げられる。それ以外にも、炭素数2~20のアルケニレン基、炭素数2~20のアルキニレン基であってもよい。
上記Rは、アルキル基(好ましくは炭素数1~10のもの)、または、フェニル基である。上記Rは、水素原子またはアルキル基(好ましくは炭素数1~10のもの)である。
【0068】
なお、上記これらを2種以上組み合わせた基としては、例えば、-OC(O)-、-C(O)N(R)-、アルキレン基-O-アルキレン基、アルキレン基-OC(O)-アルキレン基、アルキレン基-Si(R-フェニレン基-Si(Rが挙げられる。なお、上記において「アルキレン基-O」は、アルキレン基の一方の末端にO(酸素原子)が結合していることを示す。同様に、「Si(R-フェニレン基-Si(R」は、フェニレン基の両末端にSi(Rが結合していることを示す。以下の記載においても同様の意味である。
【0069】
31は、炭素原子、窒素原子およびケイ素原子から選ばれる分岐元素、単結合、または2~8価のオルガノポリシロキサン残基である。
2~8価のオルガノポリシロキサン残基としては、2価のオルガノポリシロキサン残基、および、後述する(w+1)価のオルガノポリシロキサン残基が挙げられる。
【0070】
は、QおよびX31が単結合の場合、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子および/またはアミド結合を有する基であり、それ以外の場合は単結合または2価の連結基である。アルキレン基の炭素数は、1~20が好ましく、1~10が特に好ましい。炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子および/またはアミド結合を有する基の炭素数は、2~20が好ましく、2~10が特に好ましい。
2価の連結基の定義は、上述したQで説明した定義と同義である。
【0071】
31は、水酸基またはアルキル基である。
アルキル基の炭素数は、1~5が好ましく、1~3がより好ましく、1が特に好ましい。
【0072】
31が単結合の場合、hは1、iは0であり、
31が窒素原子の場合、hは1~2の整数であり、iは0~1の整数であり、h+i=2を満たし、
31が炭素原子またはケイ素原子の場合、hは1~3の整数であり、iは0~2の整数であり、h+i=3を満たし、
31が2~8価のオルガノポリシロキサン残基の場合、hは1~7の整数であり、iは0~6の整数であり、h+i=1~7を満たす。
(-Q-Si(Rn1 3-n1)が2個以上ある場合は、2個以上の(-Q-Si(Rn1 3-n1)は、同一であっても異なっていてもよい。R31が2個以上ある場合は、2個以上の(-R31)は、同一であっても異なっていてもよい。
【0073】
は、単結合、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基である。アルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0074】
32は、水素原子または炭素数1~10のアルキル基であり、化合物を製造しやすい点から、水素原子が好ましい。
アルキル基としては、メチル基が好ましい。
【0075】
は、単結合またはアルキレン基である。アルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、1~6が特に好ましい。化合物を製造しやすい点から、Qとしては、単結合および-CH-が好ましい。
【0076】
33は、水素原子またはハロゲン原子であり、化合物を製造しやすい点から、水素原子が好ましい。
【0077】
yは、1~10の整数であり、1~6が好ましい。
2個以上の[CHC(R32)(-Q-Si(Rn1 3-n1)]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0078】
以下、連結基(a)としてのZについて、基(11)を例に、hの数、すなわち基(Y1)の数に応じて以下の基(11-1)~(11-6)を用いてより具体的に説明する。
【0079】
-Qa1-Qb1-Si(Rn1 3-n1 (11-1)
-Qa2-N[-Qb2-Si(Rn1 3-n1 (11-2)
-Qa3-X34(R)[-Qb3-Si(Rn1 3-n1 (11-3)
-Qa4-C[-Qb4-Si(Rn1 3-n1 (11-4)
-Qa5-Si[-Qb5-Si(Rn1 3-n1 (11-5)
-Qa6-X35[-Qb6-Si(Rn1 3-n1 (11-6)
なお、式(11-1)~(11-6)中、R、Lおよび、n1の定義は、上述したとおりである。
【0080】
基(11-1)は、基(Y1)を1個有する場合のZの例示であり、基(11-1)における各記号の定義は、以下のとおりである。
a1は、(X32s1であり、X32は、-O-、または、-C(O)N(R)-である(ただし、式中のNはQb1に結合する)。
の定義は、上述したとおりである。
s1は、0または1である。
【0081】
b1は、アルキレン基、もしくは炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間に-O-、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基またはジアルキルシリレン基からなる群から選択される基を1または2以上有する基である。
b1で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間に-O-、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基またはジアルキルシリレン基からなる群から選択される基を1または2以上有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0082】
b1としては、s1が0の場合は、-CHOCHCHCH-、-CHOCHCHOCHCHCH-、-CHCH-、-CHCHCH-、-CHOCHCHCHSi(CHOSi(CHCHCH-が好ましい。(X32s1が-O-の場合は、-CHCHCH-、-CHCHOCHCHCH-が好ましい。(X32s1が-C(O)N(R)-の場合は、炭素数2~6のアルキレン基が好ましい(ただし、式中のNはQb1に結合する)。Qb1がこれらの基であると化合物が製造しやすい。
【0083】
基(11-1)の具体例としては、以下の基(11-11)~(11-14)が挙げられる。下記式中、*は、(OXm1との結合位置を表す。なお、基(11-11)中の連結基は、連結基(a-2)に分類される。基(11-12)中の連結基は、連結基(a-1)に分類され、基(11-13)中の連結基は、連結基(a-3)に分類され、基(11-14)中の連結基は、連結基(a-4)に分類される。
【0084】
【化2】
【0085】
基(11-2)は、基(Y1)を2個有する場合のZの例示であり、基(11-2)における各記号の定義は、以下のとおりである。
a2は、(X33s2-Qa21であり、X33は、-O-、-NH-、または、-C(O)N(R)-である。
の定義は、上述した通りである。
【0086】
a21は、単結合、アルキレン基、-C(O)-、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-もしくは-NH-を有する基である。
a21で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、1~6が特に好ましい。
a21で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-または-NH-を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0087】
a21としては、化合物を製造しやすい点から、-CH-、-CHCH-、-CHCHCH-、-CHOCHCH-、-CHNHCHCH-、-CHCHOC(O)CHCH-、-C(O)-が好ましい(ただし、右側がNに結合する。)。
【0088】
s2は、0または1(ただし、Qa21が単結合の場合は0である。)である。化合物を製造しやすい点から、0が好ましい。
【0089】
b2は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間に、2価のオルガノポリシロキサン残基、エーテル性酸素原子もしくは-NH-を有する基である。
b2で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
b2で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間に、2価のオルガノポリシロキサン残基、エーテル性酸素原子または-NH-を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
b2としては、化合物を製造しやすい点から、-CHCHCH-、-CHCHOCHCHCH-が好ましい(ただし、右側がSiに結合する。)。
【0090】
2個の[-Qb2-Si(Rn1 3-n1]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0091】
基(11-2)の具体例としては、以下の基(11-21)~(11-24)が挙げられる。下記式中、*は、(OXm1との結合位置を表す。なお、基(11-21)中の連結基は、連結基(a-3)に分類される。基(11-22)、基(11-23)中の連結基は、連結基(a-2)に分類され、基(11-24)中の連結基は、連結基(a-1)に分類される。
【0092】
【化3】
【0093】
基(11-3)は、基(Y1)を2個有する場合の、基(11-2)とは別のZの例示であり、基(11-3)における各記号の定義は、以下のとおりである。
a3は、単結合、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、化合物を製造しやすい点から、単結合が好ましい。
a3で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
a3で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0094】
34は、炭素原子またはケイ素原子である。
は、水酸基またはアルキル基である。Rで表されるアルキル基の炭素数は、1~4が好ましい。
34(R)としては、化合物を製造しやすい点から、C(OH)およびSi(Rga)(ただし、Rgaはアルキル基である。炭素数1~10のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。)が好ましい。
【0095】
b3は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基である。
b3で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
b3で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子または2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
b3としては、化合物を製造しやすい点から、-CHCH-、-CHCHCH-、-CHCHCHCHCHCHCHCH-が好ましい。
【0096】
2個の[-Qb3-Si(Rn1 3-n1]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0097】
基(11-3)の具体例としては、以下の基(11-31)~(11-33)が挙げられる。下記式中、*は、(OXm1との結合位置を表す。ここで、基(11-31)~(11-33)中の連結基は、いずれも連結基(a-3)に分類される。
【0098】
【化4】
【0099】
基(11-4)は、基(Y1)を3個有する場合のZの例示であり、基(11-4)における各記号の定義は、以下のとおりである。
a4は、-[C(O)N(R)]s4-Qa41-(O)t4である。
の定義は、上述した通りである。
s4は、0または1である。
【0100】
a41は、単結合、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基である。
a41で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、1~6が特に好ましい。
a41で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
t4は、0または1(ただし、Qa41が単結合の場合は0である。)である。
-Qa41-(O)t4-としては、化合物を製造しやすい点から、s4が0の場合は、単結合、-CHO-、-CHOCH-、-CHOCHCHO-、-CHOCHCHOCH-、-CHOCHCHCHCHOCH-が好ましく(ただし、左側が(OXm1に結合する。)、s4が1の場合は、単結合、-CH-、-CHCH-が好ましい。
【0101】
b4は、-(O)u4-Qb41である。
b41は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間に-O-、-C(O)N(R)-(Rの定義は、上述した通りである。)、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基またはジアルキルシリレン基を有する基、もしくは、アルキレン基と該アルキレン基の(O)u4側末端に結合する-C(O)N(R)-、ジアルキルシリレン基または2価のオルガノポリシロキサン残基とを有する基である。
【0102】
b41で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間に-O-、-C(O)N(R)-(Rの定義は、上述した通りである。)、シルフェニレン骨格基、2価のオルガノポリシロキサン残基またはジアルキルシリレン基を有する基、もしくは、アルキレン基と該アルキレン基の(O)u4側末端に結合する-C(O)N(R)-、ジアルキルシリレン基または2価のオルガノポリシロキサン残基とを有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
u4は、0または1である。
【0103】
-Qb4-としては、化合物を製造しやすい点から、-CHCH-、-CHCHCH-、-CHOCHCHCH-、-CHOCHCHCHCHCH-、-OCHCHCH-、-OSi(CHCHCHCH-、-OSi(CHOSi(CHCHCHCH-、-CHCHCHSi(CHPhSi(CHCHCH-が好ましい(ただし、右側がSiに結合する。)。
【0104】
3個の[-Qb4-Si(Rn1 3-n1]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0105】
基(11-4)の具体例としては、以下の基(11-41)~(11-44)が挙げられる。下記式中、*は、(OXm1との結合位置を表す。なお、基(11-41)~(11-43)中の連結基は、連結基(a-2)に分類され、基(11-44)中の連結基は、連結基(a-1)に分類される。
【0106】
【化5】
【0107】
基(11-5)は、基(Y1)を3個有する場合の、基(11-4)とは別のZの例示であり、基(11-5)における各記号の定義は、以下のとおりである。
a5は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基である。
a5で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
【0108】
a5で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
a5としては、化合物を製造しやすい点から、-CHOCHCHCH-、-CHOCHCHOCHCHCH-、-CHCH-、-CHCHCH-が好ましい(ただし、右側がSiに結合する。)。
【0109】
b5は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基である。
b5で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
b5で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子または2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
b5としては、化合物を製造しやすい点から、-CHCHCH-、-CHCHOCHCHCH-が好ましい(ただし、右側がSi(Rn1 3-n1に結合する。)。
【0110】
3個の[-Qb5-Si(Rn1 3-n1]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0111】
基(11-5)の具体例としては、以下の基(11-51)~(11-52)が挙げられる。下記式中、*は、(OXm1との結合位置を表す。なお、基(11-51)中の連結基は、連結基(a-2)に分類される。基(11-52)中の連結基は、連結基(a-3)に分類される。
【0112】
【化6】
【0113】
基(11-6)は、基(Y1)をw個有する場合のZの例示であり、基(11-6)における各記号の定義は、以下のとおりである。基(11-6)中の連結基は、以下に示すとおりオルガノポリシロキサン残基を含む。したがって、基(11-6)中の連結基は、連結基(a-4)に分類される。
【0114】
a6は、-[C(O)N(R)]-Qa61である。
の定義は、上述の通りである。
vは、0または1である。
【0115】
a61は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基である。
a61で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
a61で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
a61としては、化合物を製造しやすい点から、-CHOCHCHCH-、-CHOCHCHOCHCHCH-、-CHCH-、-CHCHCH-が好ましい(ただし、右側がX35に結合する。)。
【0116】
35は、(w+1)価のオルガノポリシロキサン残基である。
wは、2~7の整数である。
(w+1)価のオルガノポリシロキサン残基としては、下記の基が挙げられる。ただし、下式におけるRは、上述のとおりである。
【0117】
【化7】
【0118】
b6は、アルキレン基、または、炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子もしくは2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基である。
b6で表されるアルキレン基の炭素数は、1~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
b6で表される炭素数2以上のアルキレン基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子または2価のオルガノポリシロキサン残基を有する基の炭素数は、2~10が好ましく、2~6が特に好ましい。
b6としては、化合物を製造しやすい点から、-CHCH-、-CHCHCH-が好ましい。
【0119】
w個の[-Qb6-Si(Rn1 3-n1]は、同一であっても異なっていてもよい。
【0120】
化合物(1)は、表面層の撥水撥油性がより優れる点から、式(1-2)で表される化合物も好ましい。
[A-(OXm1-Q-]j3232[-Q-Si(Rn1 3-n1h32 (1-2)
式(1-2)中、A、X、m1、Q、Q、R、Lおよびn1の定義は、式1中および式11中の各基の定義と同義である。
【0121】
32は、(j32+h32)価の炭化水素基、または、炭化水素基の炭素-炭素原子間にエーテル性酸素原子を1つ以上有する炭素数2以上で(j32+h32)価の炭化水素基である。
32としては、1級の水酸基を有する多価アルコールから水酸基を除いた残基が好ましい。
32としては、原料の入手容易性の点から、基(Z-1)~(Z-5)が好ましい。ただし、R34は、アルキル基であり、メチル基またはエチル基であることが好ましい。
【0122】
【化8】
【0123】
j32は2以上の整数であり、表面層の撥水撥油性がより優れる点から、2~5が好ましい
h32は1以上の整数であり、表面層の摩耗耐久性がより優れる点から、2~4が好ましく、2または3がより好ましい。
化合物(1-2)において、例えば、Q、Qが共に単結合の場合は、基(Z-1)~基(Z-5)が連結基(a)に相当する。基(Z-3)は連結基(a-2)に分類され、それ以外は連結基(a-3)に分類される。
【0124】
化合物(A)としては、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)の片方の末端に連結基(a)、基板と結合する箇所が多いほど密着性は向上するため、好ましくは、連結基(a-1)を介して基(Y)が2個以上連結した化合物が特に好ましい。この場合、基(Y)の数としては、上記と同様に2~10個がより好ましく、2~5個がさらに好ましく、2または3個が特に好ましい。
【0125】
このような化合物(A)の具体例としては、化合物(1)において、Aがペルフルオロアルキル基であり、Z[-Si(Rn1 3-n1g1が、基(11-2)、基(11-4)、基(11-6)から選ばれ、連結基(a)であるZが連結基(a-1)に分類される化合物が挙げられる。Z[-Si(Rn1 3-n1g1としてより具体的には、基(11-24)、基(11-44)等が挙げられる。また、化合物(1-2)において、Aがペルフルオロアルキル基であり、Qが-C(O)N(R)-(ただし、Rは上記のとおりである)である化合物が挙げられる。
【0126】
化合物(A)の数平均分子量(Mn)は、表面層の摩耗耐久性の点から、500~20,000が好ましく、800~10,000がより好ましく、1,000~8,000が特に好ましい。
【0127】
化合物(A)の数平均分子量(Mn)は、NMR分析法を用い以下の方法で得られる値である。すなわち、19F-NMR(溶媒:CDCl、内部標準:CFCl)により、(OXm1の繰り返し単位を同定するとともに、繰り返し単位の数を算出し、一分子あたりの(OXm1の分子量の平均値を算出する。次に、H-NMR(溶媒:CDCl、内部標準:TMS)により、末端基の同定および定量を行い、末端基のモル数に基づいて、本組成物の数平均分子量(Mn)を算出する。以下、数平均分子量を単に「Mn」で示す場合もある。
【0128】
化合物(A)の具体例としては、例えば、下記の文献に記載のものが挙げられる。
特開平11-029585号公報および特開2000-327772号公報に記載のパーフルオロポリエーテル変性アミノシラン、特許第2874715号公報に記載のケイ素含有有機含フッ素ポリマー、特開2000-144097号公報に記載の有機ケイ素化合物、特表2002-506887号公報に記載のフッ素化シロキサン、特表2008-534696号公報に記載の有機シリコーン化合物、特許第4138936号公報に記載のフッ素化変性水素含有重合体、米国特許出願公開第2010/0129672号明細書および国際公開第2014/126064号に記載の化合物、国際公開第2011/060047号、国際公開第2011/059430号および特開2014-070163号公報に記載のオルガノシリコン化合物、国際公開第2012/064649号に記載の含フッ素オルガノシラン化合物、特開2012-72272号公報に記載のフルオロオキシアルキレン基含有ポリマー、国際公開第2013/042732号、国際公開第2013/121984号、国際公開第2013/121985号、国際公開第2013/121986号、国際公開第2014/163004号、特開2014-080473号公報、国際公開第2015/087902号、国際公開第2017/038830号、国際公開第2017/038832号、国際公開第2017/187775号、国際公開第2018/143433号、国際公開第2018/216630号、国際公開第2019/039186、国際公開第2019/039341号、国際公開第2019/044479号、国際公開第2019/049753号および特開2019-044158号に記載の含フッ素エーテル化合物、特開2014-218639号公報に記載のパーフルオロ(ポリ)エーテル含有シラン化合物、国際公開第2018/169002号に記載のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物、国際公開第2019/151442号に記載のフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物、国際公開第2019/151445号に記載の(ポリ)エーテル基含有シラン化合物、国際公開第2019/098230号に記載のパーフルオロポリエーテル基含有化合物、特開2015-199906号公報、特開2016-204656号公報、特開2016-210854号公報および特開2016-222859号公報に記載のフルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シラン、国際公開第2019/039083号および国際公開第2019/049754号に記載の含フッ素化合物。
【0129】
化合物(A)の市販品としては、信越化学工業社製のKY-100シリーズ(KY-178、KY-185、KY-195、KY-1900等)、AGC社製のAfluid(登録商標)S550、ダイキン工業社製のオプツール(登録商標)DSX、オプツール(登録商標)AES、オプツール(登録商標)UF503、オプツール(登録商標)UD509等が挙げられる。なお、本組成物が含有する化合物(A)は1種でも2種以上でもよい。
【0130】
(化合物(B))
化合物(B)は、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)とポリオキシアルキレン鎖(b)とが連結基(以下、「連結基(b)」とも記す。)を介して結合した部分構造を有し、基(Y)を有しない化合物である。なお、化合物(B)は文献未記載の新規な化合物である。
【0131】
化合物(B)の化学式において、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)およびポリオキシアルキレン鎖(b)は、連結基(b)から遠い側に酸素原子が位置するように単位が繰り返される構造として記載する。
【0132】
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)およびポリオキシアルキレン鎖(b)において2つの末端の両方が連結基(b)と結合する場合、化合物(B)の化学式において、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)およびポリオキシアルキレン鎖(b)は、いずれか一方の連結基(b)を起点として、該連結基(b)から遠い側に酸素原子が位置するように単位が繰り返される構造として記載する。ただし、連結基(b)の両側が酸素原子に結合することはない。
【0133】
連結基(b)のみを化学式で記載する場合、左側がポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)に右側がポリオキシアルキレン鎖(b)に結合する形で記載する。
【0134】
化合物(B)は、連結基(b)を介してポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)とポリオキシアルキレン鎖(b)とが結合した構造(以下、「構造(B)」とも記す。)を有すればよく、構造(B)以外の構造を有していてもよい。構造(B)としては、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)とポリオキシアルキレン鎖(b)が連結基(b)を介して直線的に繰り返し結合した構造であっても、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)とポリオキシアルキレン鎖(b)が分岐元素を有する連結基(b)を介して三次元的に結合した構造であってもよい。
【0135】
化合物(B)は直線的な構造(B)を有することが好ましい。直線的な構造(B)の場合、連結基(b)の数は1~5が好ましく、1または2がより好ましい。化合物(B)は構造(B)を少なくとも1つ有すればよく、複数有してもよい。化合物(B)は構造(B)を1つ有することが好ましい。構造(B)が有するポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)とポリオキシアルキレン鎖(b)の数は、特に制限されず、例えば、それぞれ1~4個が好ましく、1~2個がより好ましく、1個がさらに好ましい。
【0136】
構造(B)としては、次の構造(B1)~(B3)が好ましい。構造(B1)は、連結基(b)を1つ有し、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)およびポリオキシアルキレン鎖(b)が該連結基(b)で結合された構造である。構造(B2)は、ポリオキシアルキレン鎖(b)を1つ有し、その両端にそれぞれ連結基(b)を介してポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)が結合された構造である。構造(B3)は、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)を1つ有し、その両端にそれぞれ連結基(b)を介してポリオキシアルキレン鎖(b)が結合された構造である。
【0137】
化合物(B)としては、部分構造が構造(B1)である化合物(B1)、部分構造が構造(B2)である化合物(B2)、部分構造が構造(B3)である化合物(B3)が好ましい。化合物(B1)は構造(B1)を複数有してもよいが、構造(B1)の数は1が好ましい。化合物(B2)のおける構造(B2)、化合物(B3)における構造(B3)も同様である。
【0138】
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)は、化合物(A)が有するポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)と好ましい態様も含めて同様にできる。ただし、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)では、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)が含んでもよい、オキシアルキレン基が2つ以上連続した構造を含まない。ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)は、具体的には、上に説明した(OXm1と同様にできる。ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)におけるオキシフルオロアルキレン基はオキシペルフルオロアルキレン基であることが好ましい。ポリオキシアルキレン鎖(b)は、後述する化合物(2)中の(R50O)m3と好ましい態様も含めて同様にできる。
【0139】
化合物(B)は、構造(B)が有するポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)およびポリオキシアルキレン鎖(b)以外にこれら以外の繰り返し単位(以下、「その他の繰り返し単位」とも記す。)を有してもよいが、有しないことが好ましい。すなわち、化合物(B)は、好ましくは、繰り返し単位として、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)およびポリオキシアルキレン鎖(b)のみを有する。化合物(B)がその他の繰り返し単位を有する場合、化合物(B)は、必要に応じてその他の繰り返し単位とポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)またはポリオキシアルキレン鎖(b)を結合する連結基(b)以外の連結基(以下、「その他の連結基」とも記す。)を有する。
【0140】
化合物(B)が構造(B)以外に有する構成としては、その他の繰り返し単位、その他の連結基以外に、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)およびポリオキシアルキレン鎖(b)の連結基(b)と結合していない末端に結合する末端基が挙げられる。このような末端基のうちでも、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)に結合する末端基としては、フルオロアルキル基が好ましく、ペルフルオロアルキル基がより好ましい。前記末端基の炭素数は1~20が好ましい。ポリオキシアルキレン鎖(b)に結合する末端基としては、アルキル基等の1価の炭化水素基が好ましい。前記末端基の炭素数は1~20が好ましい。
【0141】
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)と連結基(b)との境目は、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(a)と連結基(a)との境目と同様に考える。ポリオキシアルキレン鎖(b)と連結基(b)との境目は、連結基(b)がポリオキシアルキレン鎖(b)の末端のオキシアルキレン基のアルキレン基と結合する場合、連結基(b)の末端は、炭素原子以外の原子、例えば、酸素原子、窒素原子、硫黄原子である。連結基(b)がポリオキシアルキレン鎖(b)の末端のオキシアルキレン基の酸素原子と結合する場合は、該酸素原子までがポリオキシアルキレン鎖(b)である。
【0142】
連結基(b)は、2価の連結基であっても、1つの炭素原子、ケイ素原子、または窒素原子等の分岐元素で分岐する構造を有する価数3~4の連結基であってもよい。分岐元素を有する場合、分岐した末端がポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)またはポリオキシアルキレン鎖(b)と結合する。複数の分岐元素を有する連結基や価数が4を超える連結基であってもよい。連結基(b)は、2価の連結基が好ましい。
【0143】
連結基(b)が、2価の連結基の場合、例えば、-C(=O)-O-、-C(=O)-NH-、-CH-O-、-O-CH-、炭素数1~6のアルキレン、炭素数1~6のフルオロアルキレンからなる群から選ばれる少なくとも1つを有する(ただし、-CH-O-または-O-CH-を有する場合には、炭素数1~6のアルキレン基および炭素数1~6のフルオロアルキレン基のいずれも有しない。)連結基が挙げられる。
【0144】
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)がポリ(オキシペルフルオロアルキレン)鎖(b)の場合、上記炭素数1~6のフルオロアルキレンは、例えば、炭素数1~6のペルフルオロアルキレンである。連結基(b)の具体例については、以下の化合物(B)の具体的な化合物とともに説明する。
【0145】
化合物(B)は、化合物(2)であることが好ましい。化合物(2)において、(OXm2、(XO)m5がポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)に相当し、(R50O)m3、(R60O)m4がポリオキシアルキレン鎖(b)に相当し、Z、QおよびQが連結基(b)に相当する。式(2)において、Rf1、Rf2およびR61、R51が末端基であり、Rf1、Rf2およびR61、R51を除いた部分が構造(B)に相当する。
【0146】
[A-(OXm2-]j2[-(R50O)m3-Ag2 (2)
ただし、式(2)中、
は、Rf1または-Q[-(R60O)m4-R61k2であり、
は、R51または-Q[-(XO)m5-Rf2k3であり、
、Xは、それぞれ1個以上のフッ素原子を有するフルオロアルキレン基であり、
50、R60は、それぞれ炭素数2以上のアルキレン基であり、
f1、Rf2は、それぞれペルフルオロアルキル基であり
51、R61は、それぞれ1価の炭化水素基であり、
m2、m3、m4、m5は、それぞれ2~200の整数であり、
j2、g2、k2、k3は、それぞれ1以上の整数であり、
は、(j2+g2)価の連結基であり、
は、(k2+1)価の連結基であり、
は、(k3+1)価の連結基である。
【0147】
化合物(2)において、AがRf1でありAがR51である化合物は化合物(B1)に相当し、末端基であるRf1およびR51を除いた部分が構造(B1)に相当する。化合物(2)において、AがRf1でありAが-Q[-(XO)m5-Rf2k3である化合物は化合物(B2)に相当し、末端基であるRf1およびRf2を除いた部分が構造(B2)に相当する。化合物(2)において、Aが-Q[-(R60O)m4-R61k2でありAがR51である化合物は化合物(B3)に相当し、末端基であるR51およびR61を除いた部分が構造(B3)に相当する。
【0148】
化合物(2)において、Aが、ペルフルオロアルキル基Rf1である場合の[A-(OXm2-]j2および[-(XO)m5-Rf2k3は、化合物(1)において、Aが、ペルフルオロアルキル基である場合の[A-(OXm1-]j1と、好ましい態様も含めて同様にできる。
【0149】
(R50O)m3は、(R50O)で表される単位(以下、「単位(2)」とも記す。)がm3個結合してなる。R50は、炭素数2以上のアルキレン基である。アルキレン基の炭素数は2~6が好ましく、2または3がより好ましく、ポリオキシアルキレン鎖の親水性がより優れる点から2が特に好ましい。アルキレン基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよいが、本発明の効果がより優れる点から、直鎖状が好ましい。
【0150】
(R50O)m3に含まれる単位(2)の繰り返し数m3は2~200の整数であり、2~100が好ましく、2~50がより好ましく、2~10が特に好ましい。
【0151】
(R50O)m3は、2種以上の単位(2)を含んでいてもよい。2種以上の単位(2)としては、例えば、炭素数の異なる2種以上の単位(2)、炭素数が同じであっても側鎖の有無や側鎖の種類が異なる2種以上の単位(2)が挙げられる。2種以上の単位(2)のそれぞれの繰り返し数は同一であっても異なっていてもよい。2種以上の単位(1)のそれぞれの繰り返し数の合計をm3とする。なお、2種以上の単位(2)の結合順序は限定されず、ランダム、交互、ブロックに配置されてもよい。
【0152】
51、R61はそれぞれ1価の炭化水素基であり、1価の飽和炭化水素基が好ましい。R51、R61の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましく、1~2が特に好ましい。
【0153】
化合物(2)において、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)の数は、AがR51の場合、j2の数と同じであり、Aが-Q[-(XO)m5-Rf2k3の場合、j2+k3×g2である。j2、g2、k3は、それぞれ1以上の整数であり、化合物(A)との相溶性に優れる点から、1~5が好ましい。化合物(2)を製造しやすい点から、j2、g2、k3はいずれも1であることが好ましい。また、オキシフルオロアルキレン単位の数の合計は、AがR51の場合、j2×m2であり、Aが-Q[-(XO)m5-Rf2k3の場合、j2×m2+k3×g2×m5である。化合物(2)における、オキシフルオロアルキレン単位の数の合計は、2~300が好ましく、2~150がより好ましく、2~90が特に好ましい。
【0154】
化合物(2)において、ポリオキシアルキレン鎖(b)の数は、AがRf1の場合、g2の数と同じであり、Aが-Q[-(R60O)m4-R61k2の場合、j2×k2+g2である。j2、g2、k2は、それぞれ1以上の整数であり、化合物(A)との相溶性に優れる点から、それぞれ1~5であることが好ましい。化合物(2)を製造しやすい点から、j2、g2、k2はいずれも1であることが好ましい。また、オキシアルキレン単位の数の合計は、AがRf1の場合、g2×m3であり、Aが-Q[-(R60O)m4-R61k2の場合、g2×m3+k2×j2×m4である。化合物(2)における、オキシアルキレン単位の数の合計は、2~100が好ましく、2~50がより好ましく、2~20が特に好ましい。
【0155】
化合物(2)における、オキシフルオロアルキレン単位とオキシアルキレン単位の割合は、オキシアルキレン単位1つに対するオキシフルオロアルキレン単位の数として、1~200が好ましく、2~50がより好ましく、2~30が特に好ましい。
【0156】
化合物(2)において、Zは、(j2+g2)価の連結基であり、Qは、(k2+1)価の連結基であり、Qは、(k3+1)価の連結基である。式(2)に示すとおりZは、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)の末端の炭素原子とポリオキシアルキレン鎖(b)の末端の炭素原子に結合する連結基である。
【0157】
が2価の連結基の場合、アルキレン基(好ましくは、炭素数1~20のもの)、アルケニレン基、アルキニレン基(いずれも好ましくは、炭素数2~20のもの)、2価の芳香族炭化水素基(炭素数5~20のものが好ましく、例えば、フェニレン基が挙げられる。)、2価の複素環基、-O-、-S-、-SO-、-N(R)-、-C(O)-、-Si(R-および、これらを2種以上組み合わせた基と、が挙げられる。ここで、Rは、アルキル基(好ましくは炭素数1~10のもの)、または、フェニル基である。Rは、水素原子またはアルキル基(好ましくは炭素数1~10のもの)である。
【0158】
ただし、Zの右側末端は炭素原子以外の原子である。上記の2種以上を組み合わせた基において、アルキレン基と-O-の組み合わせを含む場合のアルキレン基は、-CH-である。すなわち、-CHO-または-OCH-である。また、これらにさらにアルキレン基が直接結合することはない。それ以外の場合、アルキレン基の炭素数は1~6がより好ましく、2~6が好ましく、2または3がより好ましく、2が特に好ましい。
【0159】
2価のZとしては、例えば、-C(O)O-、-C(O)N(R)-、-CHO-、-OCH-C(O)O-、アルキレン基-C(O)O-、アルキレン基-Si(R-フェニレン基-Si(R-が挙げられる。
【0160】
が3価以上の連結基の場合、上記2価の連結基の右側にさらに炭素原子、窒素原子およびケイ素原子から選ばれる分岐元素、または2~8価のオルガノポリシロキサン残基を有し、分岐元素から直接または2価の連結基を介してポリオキシアルキレン鎖(b)の末端の炭素原子に結合する。2~8価のオルガノポリシロキサン残基としては、2価のオルガノポリシロキサン残基、および、上記(w+1)価のオルガノポリシロキサン残基が挙げられる。
【0161】
3価以上のZとしては、-C(O)N<、アルキレン基-C(O)N<、アルキレン基-C[CHO-]、等が挙げられる。なお、上記において-C(O)N<の「<」は、分岐元素であるN(窒素原子)の2本の結合手を示す。以下の記載において、元素記号の右側に記載された「<」は同様の意味である。
【0162】
は、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)の末端の酸素原子とポリオキシアルキレン鎖(b)の末端の炭素原子に結合する連結基である。
【0163】
が2価の連結基の場合、アルキレン基、フルオロアルキレン基(いずれも好ましくは、炭素数1~20のもの)、アルケニレン基、アルキニレン基(いずれも好ましくは、炭素数2~20のもの)、2価の芳香族炭化水素基(炭素数5~20のものが好ましく、例えば、フェニレン基が挙げられる。)、2価の複素環基、-O-、-S-、-SO-、-N(R)-、-C(O)-、-Si(R-および、これらを2種以上組み合わせた基と、が挙げられる。ここで、Rは、アルキル基(好ましくは炭素数1~10のもの)、または、フェニル基である。Rは、水素原子またはアルキル基(好ましくは炭素数1~10のもの)である。
【0164】
ただし、上記の2種以上を組み合わせにおいて、フルオロアルキレン基と-O-が直接結合した組み合わせは除く。上記の2種以上を組み合わせた基において、アルキレン基と-O-が結合した組み合わせを含む場合のアルキレン基は、-CH-である。すなわち、-CHO-または-OCH-である。また、これらにさらにアルキレン基またはフルオロアルキレン基が直接結合することはない。それ以外の場合、アルキレン基およびフルオロアルキレン基の炭素数は1~6がより好ましく、2~6が好ましく、2または3がより好ましく、2が特に好ましい。フルオロアルキレン基はペルフルオロアルキレン基が好ましい。
【0165】
2価のQとしては、例えば、(フルオロ)アルキレン基-C(O)O-、(フルオロ)アルキレン基-C(O)N(R)-、(フルオロ)アルキレン基-Si(R-フェニレン基-Si(R-が挙げられる。(フルオロ)アルキレン基は、フルオロアルキレン基またはアルキレン基を示す。
【0166】
が3価以上の連結基の場合、上記2価の連結基の右側にさらに炭素原子、窒素原子およびケイ素原子から選ばれる分岐元素、または2~8価のオルガノポリシロキサン残基を有し、分岐元素から直接または2価の連結基を介してポリオキシアルキレン鎖(b)の末端の炭素原子に結合する。2~8価のオルガノポリシロキサン残基としては、2価のオルガノポリシロキサン残基、および、上記(w+1)価のオルガノポリシロキサン残基が挙げられる。
【0167】
3価以上のQとしては、(フルオロ)アルキレン基-C(O)N<、(フルオロ)アルキレン基-C[CHO-]、等が挙げられる。
【0168】
は、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)の末端の炭素原子とポリオキシアルキレン鎖(b)の末端の酸素原子に結合する連結基である。
【0169】
が2価の連結基の場合、アルキレン基(好ましくは、炭素数1~20のもの)、アルケニレン基、アルキニレン基(いずれも好ましくは、炭素数2~20のもの)、2価の芳香族炭化水素基(炭素数5~20のものが好ましく、例えば、フェニレン基が挙げられる。)、2価の複素環基、-O-、-S-、-SO-、-N(R)-、-C(O)-、-Si(R-および、これらを2種以上組み合わせた基と、が挙げられる。ここで、Rは、アルキル基(好ましくは炭素数1~10のもの)、または、フェニル基である。Rは、水素原子またはアルキル基(好ましくは炭素数1~10のもの)である。
【0170】
ただし、Qの右側末端は、酸素原子以外の原子と結合する。上記の2種以上を組み合わせた基において、アルキレン基と-O-の組み合わせを含む場合のアルキレン基は、-C(O)O-アルキレン基の場合を除いて、-CH-である。すなわち、-CHO-または-OCH-である。また、これらにさらにアルキレン基が直接結合することはない。それ以外の場合、アルキレン基の炭素数は1~6がより好ましく、2~6が好ましく、2または3がより好ましく、2が特に好ましい。
【0171】
2価のQとしては、例えば、-C(O)O-アルキレン基、-C(O)N(R)-アルキレン基、-OCH-C(O)O-アルキレン基、アルキレン基-C(O)O-アルキレン基、アルキレン基-Si(R-フェニレン基-Si(R-が挙げられる。
【0172】
が3価以上の連結基の場合、上記2価の連結基の右側にさらに炭素原子、窒素原子およびケイ素原子から選ばれる分岐元素、または2~8価のオルガノポリシロキサン残基を有し、分岐元素から直接または2価の連結基を介してポリオキシアルキレン鎖(b)の末端の酸素原子に結合する。2~8価のオルガノポリシロキサン残基としては、2価のオルガノポリシロキサン残基、および、上記(w+1)価のオルガノポリシロキサン残基が挙げられる。
【0173】
3価以上のQとしては、-C(O)N[アルキレン基]、アルキレン基-C(O)N[アルキレン基]、アルキレン基-C[アルキレン基]等が挙げられる。
【0174】
なお、連結基(b)であるZ、QおよびQにおいては、いずれも上記に説明した理由からエステル結合として-C(O)O-を含むことが好ましい。
【0175】
化合物(2)としては、連結基(b)であるZ、QおよびQが2価の連結基であることが好ましい。さらに、ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖(b)とポリオキシアルキレン鎖(b)の合計数が2または3であることが好ましい。このような、化合物(2)として、以下の化合物(21)~(23)が挙げられる。化合物(21)は化合物(B1)に相当し、化合物(22)は化合物(B2)に相当し、化合物(23)は化合物(B3)に相当する。
【0176】
f1-(OXm2-Z-(R50O)m3-R51 (21)
f1-(OXm2-Z-(R50O)m3-Q-(XO)m5-Rf2 (22)
61-(OR60m4-Q-(OXm2-Z-(R50O)m3-R51 (23)
ただし、式(21)~(23)中、連結基である、Z、QおよびQが2価の連結基である以外、全ての符号は、式(2)におけるのと同様の意味であり、好ましい態様についても上記のとおりである。また、Z、QおよびQが2価の連結基である場合の態様も上記と同様にできる。
【0177】
化合物(B)の数平均分子量(Mn)は、表面層の摩耗耐久性に優れる点から、500~20,000が好ましく、800~10,000がより好ましく、1,000~8,000が特に好ましい。本組成物が含有する化合物(B)は1種でも2種以上でもよい。
【0178】
化合物(B)は、例えば、化合物(21)の場合、連結基Zの種類に応じて以下のとおり製造できる。なお、以下の説明は、Xがペルフルオロアルキレン基の場合である。
【0179】
化合物(21)において、Zが-C(O)O-である化合物(21-1)の場合、例えば、以下の化合物(21-a1)と化合物(21-b1)とを反応させることで製造できる。式(21-1)における符号の意味は、X以外は式(21)と同様である。式(21-a1)における符号の意味は、X21およびRf3以外は式(21)と同様である。XおよびX21はペルフルオロアルキレン基であり、Rf3はペルフルオロアルキル基である。(OX21m2の右末端のOX21は、O(CFn11(n11は3以上)である。(OXm2および(OX21m2の違いは、右末端のオキシペルフルオロアルキレン基において、(OX21m2の方が-CF-が1つ多い関係である。式(21-b1)における符号の意味は、式(21)と同様である。
【0180】
f1-(OXm2-C(O)O-(R50O)m3-R51 (21-1)
f1-(OX21m2-OC(O)-C(CF)F-O-Rf3 (21-a1)
HO-(R50O)m3-R51 (21-b1)
【0181】
なお、化合物(21-a1)としては、例えば、化合物(21-a11)が挙げられる。式(21-a11)におけるx1は2~80であり、3~30が好ましい。化合物(21-a11)は例えば、国際公開第2013/121984号の実施例11に記載の方法(具体的には例11-1~11-3)によって製造できる。
CF-(OCFCFOCFCFCFCFx1-OC(O)-C(CF)F-O-(CFCF (21-a11)
【0182】
また、化合物(21-b1)は、ポリアルキレン(好ましくは、炭素数2~6のアルキレン)グリコールモノアルキル(好ましくは、炭素数1~6のアルキル)エーテルであり、例えば、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、デカエチレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等の市販品を用いることができる。
【0183】
化合物(21-a1)と化合物(21-b1)との反応は、例えば、化合物(21-a1)と化合物(21-b1)とを等モル用いて、充分量の含フッ素有機溶媒中で、トリエチルアミン等の塩基の存在下に行う。反応温度は0~60℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間程度とできる。含フッ素有機溶媒としては、後述のコーティング液で示す含フッ素有機溶媒が適用できる。
【0184】
化合物(21-a1)として、例えば、化合物(21-a11)を用いた場合、得られる化合物(21-1)は、以下の式に示される化合物(21-11)である。
CF-(OCFCFOCFCFCFCFx1-1-OCFCFOCFCFCF-C(O)O-(R50O)m3-R51 (21-11)
【0185】
化合物(21)において、Zが-CHO-である化合物(21-2)の場合、例えば、以下の化合物(21-a2)と上記化合物(21-b1)とを反応させることで製造できる。式(21-2)における符号の意味は、X以外は式(21)と同様である。式(21-a1)における符号の意味は、XおよびRf4以外は式(21)と同様である。Xはペルフルオロアルキレン基であり、Rf4はペルフルオロアルキル基である。
【0186】
f1-(OXm2-CHO-(R50O)m3-R51 (21-2)
f1-(OXm2-CHO-SO-Rf4 (21-a2)
【0187】
なお、化合物(21-a2)としては、例えば、化合物(21-a21)が挙げられる。式(21-a21)におけるx2は2~80であり、3~30が好ましい。化合物(21-a21)は例えば、国際公開第2017/038830号の実施例3-2に記載の方法にしたがい製造できる。
CF-(OCFCFOCFCFCFCFx2-OCFCFOCFCFCF-CHO-SO-CF (21-a21)
【0188】
化合物(21-b1)は、上記同様の市販品を用いることができる。
化合物(21-a2)と化合物(21-b1)との反応は、例えば、化合物(21-a2)と化合物(21-b1)を等モル用いて、水素化ナトリウム等の塩基の存在下に行う。反応温度は0~100℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間程度とできる。
【0189】
化合物(21-a2)として、例えば、化合物(21-a21)を用いた場合、得られる化合物(21-2)は、以下の式に示される化合物(21-21)である。
CF-(OCFCFOCFCFCFCFx2-OCFCFOCFCFCF-CHO-(R50O)m3-R51 (21-21)
【0190】
化合物(21)において、Zが-C(O)NH-である化合物(21-3)の場合、例えば、上記の化合物(21-a1)と以下の化合物(21-b2)とを反応させることで製造できる。式(21-3)における符号の意味は、X以外は式(21)と同様である。式(21-3)における(OXm2および式(21-a1)における(OX21m2の違いは、右末端のオキシペルフルオロアルキレン基において、(OX21m2の方が-CF-が1つ多い関係である。式(21-b2)における符号の意味は、式(21)と同様である。
【0191】
f1-(OXm2-C(O)NH-(R50O)m3-R51 (21-3)
NH-(R50O)m3-R51 (21-b2)
【0192】
なお、化合物(21-a1)としては、例えば、化合物(21-a11)が挙げられる。化合物(21-b2)は、アルキル(好ましくは、炭素数1~6のアルキル)-ポリアルキレン(好ましくは、炭素数2~6のアルキレン)グリコール-アミンであり、例えば、3,6,9,12-テトラオキサデカンアミン(または、メチル-PEG4-アミン)、3,6,9,12,15,18-ヘキサオキサノナデカンアミン(または、メチル-PEG6-アミン)等の市販品を用いることができる。
【0193】
化合物(21-a1)と化合物(21-b1)との反応は、例えば、化合物(21-a1)と化合物(21-b1)を等モル用いて、充分量の含フッ素有機溶媒中で、トリエチルアミン等の塩基の存在下に行う。反応温度は0~60℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間程度とできる。含フッ素有機溶媒としては、後述のコーティング液で示す含フッ素有機溶媒が適用できる。
【0194】
化合物(21-a1)として、例えば、化合物(21-a11)を用いた場合、得られる化合物(21-3)は、以下の式に示される化合物(21-31)である。
CF-(OCFCFOCFCFCFCFx1-1-OCFCFOCFCFCF-C(O)NH-(R50O)m3-R51 (21-31)
【0195】
化合物(21)において、Zが-OCH-C(O)O-である化合物(21-4)の場合、例えば、以下の化合物(21-a3)と上記化合物(21-b1)とを反応させることで製造できる。式(21-4)における符号の意味は、X以外は式(21)と同様である。式(21-a3)における符号の意味は、X22およびRf5以外は式(21)と同様である。XおよびX22はペルフルオロアルキレン基であり、Rf5はペルフルオロアルキル基である。(OX22m2+1の右末端のOX22は、OCFCFである。
【0196】
f1-(OXm2-OCH-C(O)O-(R50O)m3-R51 (21-4)
f1-(OX22m2+1-OC(O)-C(CF)F-O-Rf5 (21-a3)
【0197】
なお、化合物(21-a2)としては、例えば、化合物(21-a31)が挙げられる。式(21-a31)におけるx3は1~40であり、1~20が好ましい。x4は1~40であり、1~20が好ましい。化合物(21-a31)は例えば、国際公開第2017/038830号の実施例1-3に記載の方法(具体的には化合物(13-1))にしたがい製造できる。
CF(CF-(OCFx3(OCFCFx4-OC(O)-C(CF)F-O-(CFCF (21-a31)
【0198】
化合物(21-b1)は、上記同様の市販品を用いることができる。
化合物(21-a3)と化合物(21-b1)との反応は、例えば、化合物(21-a3)と化合物(21-b1)を等モル用いて、充分量の含フッ素有機溶媒中で、トリエチルアミン等の塩基の存在下に行う。反応温度は0~60℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間程度とできる。含フッ素有機溶媒としては、後述のコーティング液で示す含フッ素有機溶媒が適用できる。
【0199】
化合物(21-a3)として、例えば、化合物(21-a31)を用いた場合、得られる化合物(21-4)は、以下の式に示される化合物(21-41)である。
CF(CF-(OCFx3(OCFCFx4-1-OCH-C(O)O-(R50O)m3-R51 (21-41)
【0200】
化合物(B)の同定は、H-NMRおよび19F-NMRにより行える。
【0201】
(本組成物)
本組成物は、化合物(A)と化合物(B)とを混合することで製造できる。本組成物が含有する化合物(A)の100質量部に対する化合物(B)の含有割合は、1~30質量部が好ましい。本組成物においては、化合物(A)と化合物(B)とを上記割合で含有することで、主として化合物(A)の硬化により得られる表面層における撥水撥油性の維持と化合物(B)による摩耗耐久性の付与がバランス良く達成できる。化合物(A)の100質量部に対する化合物(B)の含有割合は、5~27質量部がより好ましく、10~25質量部が特に好ましい。
【0202】
本組成物において化合物(A)は、化合物(A)自体が含有されてもよく、化合物(A)が有する基(Y)が加水分解性基を有する場合はその一部が加水分解反応した状態、さらに基(Y)がシラノール基を有する場合はそのシラノール基が、または上記加水分解反応で生成したシラノール基が部分的に縮合した状態で含まれていてもよい。
【0203】
本組成物が含有する化合物(A)と化合物(B)の合計含有量は、組成物全量に対して50~100質量%が好ましく、90~100質量%がより好ましく、99~100質量%がさらに好ましく、99.5~100質量%が特に好ましい。
【0204】
本組成物は本発明の効果を損なわない範囲で任意成分を含有できる。任意成分としては、例えば、界面活性剤、化合物(A)が有する基(Y)の加水分解と縮合反応を促進する酸触媒や塩基性触媒等の公知の添加剤、フルオロエーテル環化体が挙げられる。酸触媒としては、塩酸、硝酸、酢酸、硫酸、燐酸、スルホン酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等が挙げられる。塩基性触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が挙げられる。
【0205】
任意成分は、化合物(A)および化合物(B)の製造工程で生成した副生成物等の不純物を含んでもよい。任意成分の含有量は本組成物全量に対して50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が特に好ましい。
【0206】
[コーティング液]
本発明のコーティング液(以下、「本コーティング液」とも記す。)は、本組成物と液状媒体とを含む。本コーティング液は、液状であればよく、溶液であっても分散液であってもよい。
【0207】
本コーティング液における本組成物の含有量は、本コーティング液のうち、0.001~40質量%が好ましく、0.001~20質量%がより好ましく、0.001~10質量%がさらに好ましく、0.01~1質量%が特に好ましい。
【0208】
(液状媒体)
液状媒体としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒は、含フッ素有機溶媒でも非フッ素有機溶媒でもよく、両溶媒を含んでもよい。
【0209】
含フッ素有機溶媒としては、フッ素化アルカン、フッ素化芳香族化合物、フルオロアルキルエーテル、フッ素化アルキルアミン、フルオロアルコール等が挙げられる。
【0210】
フッ素化アルカンとしては、炭素数4~8の化合物が好ましい。市販品としては、C13H(AGC社製、アサヒクリン(登録商標)AC-2000)、C13(AGC社製、アサヒクリン(登録商標)AC-6000)、CCHFCHFCF(ケマーズ社製、バートレル(登録商標)XF)等が挙げられる。
【0211】
フッ素化芳香族化合物としては、ヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ペルフルオロトルエン、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等が挙げられる。
【0212】
フルオロアルキルエーテルとしては、炭素数4~12の化合物が好ましい。市販品としては、CFCHOCFCFH(AGC社製、アサヒクリン(登録商標)AE-3000)、COCH(3M社製、ノベック(登録商標)7100)、COC(3M社製、ノベック(登録商標)7200)、CCF(OCH)C(3M社製、ノベック(登録商標)7300)等が挙げられる。
【0213】
フッ素化アルキルアミンとしては、ペルフルオロトリプロピルアミン、ペルフルオロトリブチルアミン等が挙げられる。
【0214】
フルオロアルコールとしては、2,2,3,3-テトラフルオロプロパノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール等が挙げられる。
【0215】
非フッ素有機溶媒としては、水素原子および炭素原子のみからなる化合物と、水素原子、炭素原子および酸素原子のみからなる化合物が好ましく、炭化水素、アルコール、ケトン、エーテル、エステルが挙げられる。
液状媒体は、2種以上を混合した混合媒体であってもよい。
【0216】
液状媒体の含有量は、本コーティング液のうち、60~99.999質量%が好ましく、80~99.999質量%がより好ましく、90~99.999質量%がさらに好ましく、99~99.99質量%が特に好ましい。
【0217】
[物品]
本発明の物品(以下、「本物品」とも記す。)は、本組成物から形成された表面層を基材の表面に有する。
【0218】
表面層の厚さは、0.1~100nmが好ましく、0.1~50nmが特に好ましい。表面層の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、表面処理による効果が充分に得られやすい。表面層の厚さが上記範囲の上限値以下であれば、利用効率が高い。表面層の厚さは、薄膜解析用X線回折計(RIGAKU社製、ATX-G)を用いて、X線反射率法によって反射X線の干渉パターンを得て、干渉パターンの振動周期から算出できる。
【0219】
基材としては、撥水撥油性の付与が求められている基材が挙げられる。基材の材料としては、金属、樹脂、ガラス、サファイア、セラミック、石、これらの複合材料が挙げられる。ガラスは化学強化されていてもよい。ガラスとしては、ソーダライムガラス、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、クリスタルガラス、石英ガラスが好ましく、化学強化したソーダライムガラス、化学強化したアルカリアルミノケイ酸塩ガラス、および化学強化したホウ珪酸ガラスが特に好ましい。透明樹脂としては、アクリル樹脂、ポリカーボネートが好ましい。
【0220】
基材の表面にはSiO膜等の下地膜が形成されていてもよい。基材は本物品の用途に応じて適宜選択される。
【0221】
[物品の製造方法]
本物品の製造方法において、本組成物を用いて基材の表面に表面層を形成する方法は、ドライコーティング法であってもウェットコーティング法であってもよい。
【0222】
ドライコーティング法により表面層を形成する場合、本組成物を用いてドライコーティング法により基材の表面を処理する方法が好ましい。ウェットコーティング法により表面層を形成する場合、本コーティング液を基材の表面に塗布し、乾燥させて、表面層を形成する方法が好ましい。
【0223】
ドライコーティング法としては、物理的蒸着法(真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法)、化学的蒸着法(熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法)、イオンビームスパッタリング法等が挙げられる。本組成物中の化合物の分解を抑制できる点、および装置の簡便さの点から、真空蒸着法が特に好ましい。真空蒸着時には、鉄、鋼等の金属多孔体に本組成物を含浸させたペレット状物質を用いてもよい。本コーティング液と同様の本組成物の溶液や分散液を鉄、鋼等の金属多孔体に含浸させ、液状媒体を乾燥させて、本組成物が含浸したペレット状物質を用いてもよい。
【0224】
ウェットコーティング法において本コーティング液を基材の表面に塗布する方法としては、スピンコート法、ワイプコート法、スプレーコート法、スキージーコート法、ディップコート法、ダイコート法、インクジェット法、フローコート法、ロールコート法、キャスト法、ラングミュア・ブロジェット法、グラビアコート法等が挙げられる。
【0225】
表面層形成後、表面層の摩耗耐久性を向上させるために、必要に応じて、加熱、加湿、光照射等の後処理を行ってもよい。これにより、例えば、表面層中に化合物(A)の基(Y)に由来する未反応のケイ素原子に結合した加水分解性基や水酸基、または加水分解後のシラノール基等が存在していた場合に、それらの加水分解反応や加水分解性基の縮合反応が促進され、充分に硬化した表面層が得られる。
【0226】
本物品が基材上に有する表面層は、優れた撥水撥油性を有するとともに、該撥水撥油性は摩耗耐久性に優れ、長期使用においても撥水撥油性が低下しにくい特性を有する。
【実施例
【0227】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。以下、「%」は特に断りのない限り「質量%」である。
【0228】
[化合物(A)の製造]
(化合物(A-1))
国際公開第2013/121984号の例6に記載の方法と同様にして、CF-(OCFCFOCFCFCFCFx3OCFCFOCFCFCF-C(=O)OCHの10.0gを得た。続いて、ジアリルアミンの1.54g、4-ピロリジノピリジンの1.12g、AC-2000の3gを加えて0℃で200時間撹拌した。その後、シリカゲルカラムで精製して、AC-2000をエバポレータで除去することで、化合物(D-1)を得た。
【0229】
CF-(OCFCFOCFCFCFCFx5OCFCFOCFCFCF-C(O)N[CH-CH=CH (D-1)
単位数x5の平均値:13、Mn:4,790。
【0230】
次いで化合物(D-1)を用いて、国際公開第2018/043166の段落0087の方法と同様にして、化合物(A-1)を得た。
【0231】
CF-(OCFCFOCFCFCFCFx5OCFCFOCFCFCF-C(O)N[CHCHCH-Si(OCH (A-1)
単位数x5の平均値:13、Mn:5,040。
【0232】
(化合物(A-2))
国際公開第2013/121984号の例6に記載の方法にしたがい、化合物(A-2)を得た。
【0233】
CF-(OCFCFOCFCFCFCFx6OCFCFOCFCFCF-C(O)NHCHCHCH-Si(OCH (A-2)
単位数x6の平均値:13、Mn:4,858。
【0234】
(化合物(A-3))
特許第6296200号公報の合成例5~6に記載の方法にしたがい、化合物(D-2)を得た。
CF-(OCFCF20(OCF16OCF-CHCHCHSi[CH-CH=CH (D-2)
Mn:3,700。
【0235】
次いで化合物(D-2)を用いて特許第6296200号公報の合成例7~8に記載の方法にしたがい、化合物(A-3)を得た。
【0236】
CF-(OCFCF20(OCF16OCF-CHCHCHSi[CHCHCH-Si(OCH (A-3)
Mn:4,100。
【0237】
(化合物(A-4))
国際公開第2018/216404号の実施例の段落0149の化合物(2)と同様の、化合物(A-4)を得た。
【0238】
CF-(OCFx7(OCFCFx8OCF-C(OH)[CHCHCH-Si(OCH (A-4)
x7:x8=47:53、x7+x8≒43
【0239】
[例1~6]
例1~6において、本発明の化合物として化合物(B-1)~化合物(B-6)を製造した。
(例1;化合物(B-1))
<工程1>
化合物(B-1)の原料として、化合物(21-a12)を、国際公開第2013/121984号の実施例11に記載の方法(具体的には例11-1~11-3)によって得た。
【0240】
CF-(OCFCFOCFCFCFCFx9-OC(O)-C(CF)F-O-(CFCF (21-a12)
単位数x9の平均値:13、Mn:5,050。
【0241】
<工程2>
次いで、50mLの3つ口フラスコ内に、上記で得た化合物(21-a12)の10.1g、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(富士フイルム和光純薬社製)の1.0g、トリエチルアミン(東京化成社製)の0.2g、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6トリデカフルオロオクタン(AGC社製、アサヒクリン(登録商標)AC-6000)の10.0gを入れ、室温で8時間撹拌した。反応粗液の全量をエバポレータで濃縮し、粗生成物の9.8gを得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィに展開して、化合物(B-1)の8.5gを分取した。シリカゲルカラムクロマトグラフィにおいては、展開溶媒はAC-6000を使用した。
【0242】
CF-(OCFCFOCFCFCFCFx10-OCFCFOCFCFCF-C(O)O-(CHCHO)-CH (B-1)
単位数x10の平均値:12、Mn:4,907。
【0243】
得られた化合物(B-1)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(300.4MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:TMS) δ(ppm):3.3(3H)、3.5(2H)、3.6(10H)、3.7(2H)、4.3(2H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:CFCl) δ(ppm):-55.4(3F)、-81.5(2F)、-82.8(48F)、-88.0(52F)、-116.5(2F)、-124.1(2F)、-125.2(48F)。
【0244】
(例2;化合物(B-2))
<工程1>
化合物(B-2)の原料として、化合物(21-a22)を、国際公開第2017/038830号の実施例3-2に記載の方法にしたがい得た。
【0245】
CF-(OCFCFOCFCFCFCFx11-OCFCFOCFCFCF-CHO-SO-CF (21-a22)
単位数x11の平均値:13、Mn:4,700。
【0246】
<工程2>
国際公開第2017/038830号の実施例3-3において、原料として化合物(21-a22)を用い、HOCHC(CHOCHCH=CH)の代わりにテトラエチレングリコールモノメチルエーテル(東京化成社製)を用いる以外は同様の操作を行い、化合物(B-2)を得た。
【0247】
CF-(OCFCFOCFCFCFCFx11-OCFCFOCFCFCF-CHO-(CHCHO)-CH (B-2)
単位数x11の平均値:13、Mn:4,901。
【0248】
得られた化合物(B-2)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(300.4MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:TMS) δ(ppm):3.3(3H)、3.5(2H)、3.6~3.7(16H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:CFCl) δ(ppm):-55.4(3F)、-81.5(2F)、-82.8(48F)、-88.0(52F)、-122.5(2F)、-124.1(2F)、-125.2(48F)。
【0249】
(例3;化合物(B-3))
原料として化合物(B-1)と同様の化合物(21-a12)を用い、化合物(B-1)の製造の工程2において、テトラエチレングリコールモノメチルエーテルの代わりに3,6,9,12-テトラオキサデカンアミン(東京化成社製)の1.0gを用いる以外は同様の操作を行い、化合物(B-3)を得た。
【0250】
CF-(OCFCFOCFCFCFCFx10-OCFCFOCFCFCF-C(O)NH-(CHCHO)-CH (B-3)
単位数x10の平均値:12、Mn:4,909
【0251】
得られた化合物(B-3)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(300.4MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:TMS) δ(ppm):3.3(3H)、3.4~3.7(16H)、6.2(1H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:CFCl) δ(ppm):-55.4(3F)、-81.5(2F)、-82.8(48F)、-88.0(52F)、-118.5(2F)、-124.1(2F)、-125.2(48F)。
【0252】
(例4;化合物(B-4))
原料として化合物(B-1)と同様の化合物(21-a12)を用い、化合物(B-1)の製造の工程2において、テトラエチレングリコールモノメチルエーテルの代わりにデカエチレングリコールモノメチルエーテル(東京化成社製)の2.0gを用いる以外は同様の操作を行い、化合物(B-4)を得た。
【0253】
CF-(OCFCFOCFCFCFCFx10-OCFCFOCFCFCF-C(O)O-(CHCHO)10-CH (B-4)
単位数x10の平均値:12、Mn:5,171
【0254】
得られた化合物(B-4)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(300.4MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:TMS) δ(ppm):3.3(3H)、3.5(2H)、3.6(34H)、3.7(2H)、4.3(2H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:CFCl) δ(ppm):-55.4(3F)、-81.5(2F)、-82.8(48F)、-88.0(52F)、-116.5(2F)、-124.1(2F)、-125.2(48F)。
【0255】
(例5;化合物(B-5))
原料として化合物(B-1)と同様の化合物(21-a12)を用い、化合物(B-1)の製造の工程2において、テトラエチレングリコールモノメチルエーテルの代わりにトリプロピレングリコールモノメチルエーテル(東京化成社製)の1.0gを用いる以外は同様の操作を行い、化合物(B-5)を得た。
【0256】
CF-(OCFCFOCFCFCFCFx10-OCFCFOCFCFCF-C(O)O-(CHCHCHO)-CH (B-5)
単位数x10の平均値:12、Mn:4,905。
【0257】
得られた化合物(B-5)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(300.4MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:TMS) δ(ppm):2.2(4H)、2.3(2H)、3.5(3H)、3.6(8H)、3.7(2H)、4.2(2H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:CFCl) δ(ppm):-55.4(3F)、-81.5(2F)、-82.8(48F)、-88.0(52F)、-116.5(2F)、-124.1(2F)、-125.2(48F)。
【0258】
(例6;化合物(B-6))
<工程1>
化合物(B-6)の原料として、化合物(21-a32)を、国際公開第2017/038830号の実施例1-3に記載の方法(具体的には化合物(13-1))によって得た。
【0259】
CF(CF-(OCFCF(OCFx12(OCFCFx13-OC(O)-C(CF)F-O-(CFCF (21-a32)
単位数x12の平均値:21、単位数x13の平均値:21、Mn:4,550。
【0260】
<工程2>
化合物(B-1)の製造の工程2において、化合物(21-a12)の代わりに化合物(21-a32)の1.0gを用いる以外は同様の操作を行い、化合物(B-6)を得た。
【0261】
CF(CF-(OCFCF(OCFx12(OCFCFx14-OCF-C(O)O-(CHCHO)-CH (B-6)
単位数x12の平均値:21、単位数x14の平均値:20、Mn:4,407。
【0262】
得られた化合物(B-6)のNMRスペクトルは以下のとおりであった。
H-NMR(300.4MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:TMS) δ(ppm):3.3(3H)、3.5(2H)、3.6(10H)、3.7(2H)、4.3(2H)。
19F-NMR(282.7MHz、溶媒:重クロロホルム、基準:CFCl) δ(ppm):-50.8(13F)、-52.6(18F)、-54.3(8F)、-55.1(3F)、-56.8(2F)、-80.1(3F)、-82.3(3F)、-84.0(4F)、-86.5(1F)、-87.6(40F)、-89.2(42F)、-124.6(3F)、-128.4(2F)、-138.8(1F)。
【0263】
[比較例用化合物]
(化合物(Cf-1)および化合物(Cf-2))
ポリ(オキシフルオロアルキレン)鎖を有するが化合物(A)、化合物(B)のいずれでもない以下の化合物(Cf-1)および化合物(Cf-2)を比較例用に製造した。
【0264】
(化合物(Cf-1))
原料として化合物(B-1)と同様の化合物(21-a12)を用い、化合物(B-1)の製造の工程2において、テトラエチレングリコールモノメチルエーテルの代わりに2-(ペルフルオロヘキシル)エタノール(ユニマテック社製)を用いる以外は同様の操作を行い、化合物(Cf-1)を得た。
【0265】
CF-(OCFCFOCFCFCFCFx10-OCFCFOCFCFCF-C(O)O-CHCH-C13 (Cf-1)
単位数x10の平均値:12、Mn:5,063。
【0266】
(化合物(Cf-2))
原料として化合物(B-1)と同様の化合物(21-a12)を用い、化合物(B-1)の製造の工程2において、テトラエチレングリコールモノメチルエーテルの代わりにメタノール(東京化成社製)を用いる以外は同様の操作を行い、化合物(Cf-2)を得た。
【0267】
CF-(OCFCFOCFCFCFCFx10-OCFCFOCFCFCF-C(O)O-CH (Cf-2)
単位数x10の平均値:12、Mn:4,731。
【0268】
[例11~27]
上記で得られた化合物(A-1)~(A-4)、化合物(B-1)~(B-6)、化合物Cf-1~Cf-2を表1に示す組み合わせ、割合で混合して例11~27の含フッ素エーテル組成物を製造した。例11~23が実施例であり、例24~27が比較例である。例11で得た含フッ素エーテル組成物を以下「組成物(11)」と表記する。他の例により得られた含フッ素エーテル組成物も同様に表記する。
【0269】
【表1】
【0270】
[例31]
真空蒸着装置内に、基材(無アルカリガラス(イーグルXG:製品名、コーニング社製、50mm×50mm、厚さ0.5mm))を配置し、真空蒸着装置内を5×10-3Pa以下の圧力になるまで排気した。基材の一方の主面に対向するように距離1000mmの位置に組成物(11)を収容した蒸着用容器を抵抗加熱によって300℃に加熱し、組成物(11)を真空蒸着させて厚さ10nmの表面層を形成した。なお、組成物(11)の温度は、300℃であった。その後、得られた表面層付き基材を、温度200℃で30分間加熱(後処理)した。
【0271】
[例32~47]
組成物(11)の代わりに組成物(12)~(27)を用いた以外は例31と同様にして、表面層付き基材を得た。表面層の厚さはいずれも10nmとした。
【0272】
[例48]
組成物(11)と液状媒体としてのCOC(ノベック-7200:製品名、3M社製)とを混合して、コーティング液のうちの組成物(11)の含有量が0.1質量%であるコーティング液(1)を調製した。基材としては例31と同様の基材を準備した。
【0273】
基材の一方の主面にノードソン社製スプレーを用いて、コーティング液(1)を塗付量6.0g/秒でスプレーコートした後、基材上に形成されたコーティング液(1)の塗膜を120℃で10分間乾燥させ、表面層付き基材を得た。表面層の厚さは10nmであった。
【0274】
[例49~51]
組成物(11)の代わりに、それぞれ組成物(24)、(26)、(27)を用いた以外は例48と同様にして表面層付き基材を得た。表面層の厚さは、いずれも10nmであった。
【0275】
[例52]
組成物(11)を製造後、25℃、55%RHで180日間保存した。保存後の組成物(11)を用いて、例31と同様の方法で表面層付き基材を得た。表面層の厚さは、10nmであった。なお、上記例31~51において、各組成物は製造直後(製造後、48時間以内)のものを使用した。
【0276】
上記において、例31~43、例48および例52が実施例であり、例44~47および例49~51が比較例である。
【0277】
[評価]
上記例31~52で得た表面層付き基材の表面層について、以下の方法で、初期の水接触角、摩耗耐久試験後の水接触角を測定し評価した。なお、以下の評価において表面層の表面は、いずれも、表面層の空気側の表面である。結果を、各例における表面層付き基材の製造方法とともに表2に示す。
【0278】
(水接触角測定方法)
表面層の表面に置いた、約2μLの蒸留水を、接触角測定装置DM-500(協和界面科学社製)を用いて測定した。表面層の表面における異なる5箇所で測定を行い、その平均値を算出した。接触角の算出には2θ法を用いた。
【0279】
<初期水接触角>
表面層の表面について、初期の水接触角を上記測定方法で測定した。
【0280】
<摩耗耐久試験後水接触角>
(1)スチールウールによる摩耗耐久試験
表面層の表面について、JIS L0849:2013(ISO 105-X12:2001)に準拠して往復式トラバース試験機(大栄精機社製)を用い、スチールウールボンスター(番手:♯0000、寸法:5mm×10mm×10mm)を荷重:9.8N、頻度:60Hzで10,000回往復させる摩耗耐久試験を行った。摩耗耐久試験後の表面層の表面について、水接触角を上記測定方法で測定した。
【0281】
(2)消しゴムによる摩耗耐久試験
表面層の表面について、JIS L0849:2013(ISO 105-X12:2001)に準拠して往復式トラバース試験機(大栄精機社製)を用い、消しゴムRubber Eraser(Minoan社製、接触面積6mmφ)を荷重:9.8N、頻度:60Hzで10,000回往復させる摩耗耐久試験を行った。摩耗耐久試験後の表面層の表面について、水接触角を上記測定方法で測定した。
【0282】
(摩耗耐久性評価)
上記(1)および(2)について、それぞれ摩耗耐久試験前後における水接触角の変化量を算出した。摩耗耐久試験前後における水接触角の変化量(以下、「Δθ」)は、初期水接触角-摩耗耐久試験後水接触角で求められる。変化量の大きさに応じて、以下の基準で評価した。結果を初期水接触角とともに表2に示す。
【0283】
◎(優);Δθ<20°
〇(良);20°≦Δθ<30°
△(可);30°≦Δθ<40°
×(不可);40°≦Δθ
【0284】
初期の水接触角は110°以上が好ましい。摩耗耐久試験前後の水接触角は、70°以上であれば摩耗耐久性が認められる。80°以上が好ましく、90°以上が特に好ましい。
【0285】
【表2】
【0286】
表2から、実施例である例31~43、例48および例52で得た表面層付き基材の表面層については、優れた撥水性を有し、該撥水性は摩耗耐久性に優れることがわかる。また、実施例のうち例52は、化合物(B)における連結基(b)がエステル結合(-C(O)O-)を有することからこれを含有する例11の組成物(11)が貯蔵安定性にも優れることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0287】
本組成物は、撥水撥油性の付与が求められている各種の用途に用いることができる。例えば、輸送機器用物品、精密機器用物品、光学機器用物品、建築用物品または電子機器用物品に用いることが好ましい。
【0288】
輸送機器用物品の具体例としては、電車、自動車、船舶および航空機等における、外装部材、内装部材、ガラス(例えば、フロントガラス、サイドガラスおよびリアガラス)、ミラー、タイヤホイールが挙げられる。精密機器用物品の具体例としては、撮影機器における窓材が挙げられる。光学機器用物品の具体例としては、レンズが挙げられる。建築用物品の具体例としては、窓、床材、壁材、ドア材が挙げられる。電子機器用物品の具体例は、通信用端末または画像表示装置におけるディスプレイ用ガラス、ディスプレイ用保護フィルム、反射防止フィルム、指紋センサー、タッチパネルが挙げられる。
【0289】
本組成物のより具体的な使用例としては、タッチパネル等の表示入力装置、透明なガラス製または透明なプラスチック製部材の表面保護コート、キッチン用防汚コート、電子機器、熱交換器、電池等の撥水防湿コートや防汚コート、トイレタリー用防汚コート、導通しながら撥液が必要な部材へのコート、熱交換機の撥水・防水・滑水コート、振動ふるいやシリンダ内部等の表面低摩擦コート等が挙げられる。
【0290】
さらに、ディスプレイの前面保護板、反射防止板、偏光板、アンチグレア板、あるいはそれらの表面に反射防止膜処理を施したもの、携帯電話、携帯情報端末等の機器のタッチパネルシートやタッチパネルディスプレイ等人の指あるいは手のひらで画面上の操作を行う表示入力装置を有する各種機器、トイレ、風呂、洗面所、キッチン等の水周りの装飾建材、配線板用防水コーティング熱交換機の撥水・防水コート、太陽電池の撥水コート、プリント配線板の防水・撥水コート、電子機器筐体や電子部品用の防水・撥水コート、送電線の絶縁性向上コート、各種フィルタの防水・撥水コート、電波吸収材や吸音材の防水性コート、風呂、厨房機器、トイレタリー用防汚コート、熱交換機の撥水・防水・滑水コート、振動ふるいやシリンダ内部等の表面低摩擦コート、機械部品、真空機器部品、ベアリング部品、自動車部品、工具等の表面保護コートが挙げられる。
【0291】
本組成物は、上記特性を有することから、これらの用途の中でも特にタッチパネルにおいて、指で触れる面を構成する部材の該面に表面層を有するタッチパネルとすれば、効果は顕著である。
なお、2019年09月27日に出願された日本特許出願2019-176739号の明細書、特許請求の範囲および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。