(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】振動装置
(51)【国際特許分類】
H04R 7/02 20060101AFI20240628BHJP
H04R 7/04 20060101ALI20240628BHJP
H04R 7/08 20060101ALI20240628BHJP
H04R 7/26 20060101ALI20240628BHJP
H04R 1/28 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
H04R7/02 A
H04R7/04
H04R7/08
H04R7/26
H04R1/28 310B
(21)【出願番号】P 2021548895
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2020035598
(87)【国際公開番号】W WO2021060214
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019177814
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 順
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 研人
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/026678(WO,A1)
【文献】特表2016-516358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 7/02
H04R 7/04
H04R 7/08
H04R 7/26
H04R 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス振動板と、
前記ガラス振動板に固定され、前記ガラス振動板を振動させる振動子と、
前記ガラス振動板の前記振動子の固定位置を含む部分を囲んで内部空間を画成し、前記ガラス振動板の一端を、前記内部空間の開口部から前記内部空間の外側に露出させて成る囲い込み部材と、
前記開口部と前記ガラス振動板との間を音響的に遮蔽して、前記ガラス振動板を前記内部空間の内側の加振領域と、前記内部空間の外側の振動領域とに区分する遮蔽部材と、を備える振動装置。
【請求項2】
前記ガラス振動板は、前記内部空間の内側から外側に突出する方向を第1方向、前記第1方向に板面内で直交する方向を第2方向としたとき、
前記ガラス振動板の前記第2方向の最大幅は、前記第1方向の最大幅以上である請求項1に記載の振動装置。
【請求項3】
前記囲い込み部材の内側の一部または全ての面に垂直入射吸音率0.25以上の吸音材が貼付されている請求項1又は2に記載の振動装置。
【請求項4】
前記ガラス振動板の前記加振領域の少なくとも一方の面の一部または全ての表面に垂直入射吸音率0.25以上の吸音材が貼付されている請求項1~3のいずれかに記載の振動装置。
【請求項5】
前記ガラス振動板の前記加振領域の面積Ssと、前記振動領域の面積Svとの比Ss/Svは、0.01以上、1.0以下である請求項1~4のいずれかに記載の振動装置。
【請求項6】
前記ガラス振動板の総面積は、0.01m
2以上である請求項1~5のいずれかに記載の振動装置。
【請求項7】
前記ガラス振動板を前記囲い込み部材に支持させる支持部材を有する請求項1~6のいずれかに記載の振動装置。
【請求項8】
前記支持部材は、前記ガラス振動板を前記囲い込み部材に対して相対移動可能に支持する請求項7に記載の振動装置。
【請求項9】
前記振動子は、前記ガラス振動板の複数箇所に配置されている請求項1~8のいずれかに記載の振動装置。
【請求項10】
前記振動子は、前記ガラス振動板の片面のみに配置されている請求項1~9のいずれかに記載の振動装置。
【請求項11】
前記振動子は、前記ガラス振動板の両面に配置されている請求項1~9のいずれかに記載の振動装置。
【請求項12】
前記遮蔽部材の25℃、周波数1Hzにおける貯蔵弾性率が1.0×10
2~1.0×10
10Paである請求項1~11のいずれかに記載の振動装置。
【請求項13】
前記ガラス振動板は、平板状である請求項1~12のいずれかに記載の振動装置。
【請求項14】
前記ガラス振動板は、少なくとも一部に凹状又は凸状の曲面を有する請求項1~12のいずれかに記載の振動装置。
【請求項15】
前記ガラス振動板は、複数枚のガラス板を有し、前記ガラス板のうち互いに隣り合う少なくとも一対のガラス板の間に、液体を含有する流体層が設けられている請求項1~14のいずれかに記載の振動装置。
【請求項16】
前記ガラス振動板の前記加振領域は、単一のガラス板で構成される請求項15に記載の振動装置。
【請求項17】
前記ガラス振動板の25℃における損失係数は1×10
-3以上、且つ前記ガラス振動板の板厚方向の縦波音速値は4.0×10
3m/s以上である請求項1~16のいずれかに記載の振動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス振動板を振動させる振動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、スピーカー用の振動板の材料として、コーン紙や樹脂が広く用いられている。これらの材料は、損失係数が大きく共振振動が生じにくいため、可聴域における音の再現性能が良い。しかしながら、これらの材料では材料自体の音速値が低く、高周波で励振した際の音波周波数に材料の振動が追従しにくく、分割振動を発生しやすい。そのため、特に高周波数領域においては、所望の音圧が得られにくい。
そこで、コーン紙や樹脂に代えて、金属、セラミックス、ガラス等の、材料に伝播する音速が速い素材を振動板に用いることが検討されている。
【0003】
例えば、スピーカー用の振動板として、1枚のガラスを用いたものや(特許文献1)、2枚のガラス板の間に厚さ0.5mmのポリブチル系のポリマー層を有する合せガラス(非特許文献1)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Olivier Mal et al.,“A Novel Glass Laminated Structure for Flat Panel Loudspeakers” AES Convention 124,7343.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなガラス振動板を用いたスピーカーは、連続した1枚のガラス振動板に振動子を取り付けた構造であり、振動子が取り付けられた加振領域と、音響放射する振動領域との区分が明確ではない。そのため、加振領域の振動により生じるノイズが振動領域からの音と重畳されて、ガラス振動板の音響放射による周囲空間の音圧に強弱の分布が形成されてしまう。また、音の回り込みによる指向性の低下が発生してしまう。
【0007】
そこで本発明は、ガラス振動板を用いて加振する場合に、均一な音圧分布を形成し、良好な周波数特性を得ると共に指向性の低下を抑制できる振動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意研鑽を積んだ結果、ガラス振動板の加振領域を閉空間となる囲い込み部材内に配置して、加振領域と振動領域とを明確に区分することで、加振領域の振動が空気伝播によって周囲の空間に伝わらない構造にすれば上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
ガラス振動板と、
前記ガラス振動板に固定され、前記ガラス振動板を振動させる振動子と、
前記ガラス振動板の前記振動子の固定位置を含む部分を囲んで内部空間を画成し、前記ガラス振動板の一端を、前記内部空間の開口部から前記内部空間の外側に露出させて成る囲い込み部材と、
前記開口部と前記ガラス振動板との間を音響的に遮蔽して、前記ガラス振動板を前記内部空間の内側の加振領域と、前記内部空間の外側の振動領域とに区分する遮蔽部材と、を備える振動装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガラス振動板を用いて加振する場合に、均一な音圧分布を形成し、指向性の低下を抑制できる振動装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明に係る振動装置の第1構成例の外観形状を示す概略斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す振動装置の矢印Va方向から見た正面図である。
【
図4】
図4は、ガラス振動板の加振領域と、振動領域を示す説明図である。
【
図5】
図5は、振動装置の第2構成例を示す断面図である。
【
図6】
図6は、振動装置の第3構成例を示す断面図である。
【
図7】
図7は、振動装置の第4構成例を示す断面図である。
【
図8】
図8(A)は振動装置の第5構成例を模式的に示す正面図、
図8(B),
図8(C)及び
図8(D)は他の構成例を模式的に示す正面図である。
【
図9】
図9(A)及び
図9(B)は振動装置の第6構成例を模式的に示す正面図である。
【
図10】
図10は、ガラス振動板の具体的な一例を示す断面図である。
【
図11】
図11は、ガラス振動体の他の例を示す断面図である。
【
図12】
図12(A)及び
図12(B)は、それぞれガラス振動体の他の例を示す断面図である。
【
図13】
図13は、吸音材を使用しない場合、ガラス振動板に吸音材を貼り付けた場合、囲い込み部材の内側壁面に吸音材を貼り付けた場合、並びにガラス振動板及び囲い込み部材の内側壁面に吸音材を貼り付けた場合における、音響の周波数による音圧レベルを示すグラフである。
【
図14】
図14は、縁部にシール材が設けられたガラス振動体を示す断面図である。
【
図15】
図15は、ガラス板構成体の向かい合うガラス板の面の少なくとも一部にシール材が設けられたガラス振動体を示す断面図である。
【
図16】
図16(A)は縁部に段差部を有するガラス振動体を示す断面図であり、
図16(B)は
図16(A)におけるK部拡大図である。
【
図17】
図17は、湾曲したガラス振動体を示す断面図である。
【
図18】
図18(A)及び
図18(B)は縁部に段差部を有したガラス振動体を示す図であり、
図18(A)は凹状に湾曲させた状態の断面図、
図18(B)は凸状に湾曲させた状態の断面図である。
【
図19】
図19は、加振領域が単一のガラス板からなるガラス振動板に振動子を取り付けた様子を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の図面において、同一又は対応する部材又は部品には、同一又は対応する符号を付すことにより、重複する説明を省略する。また、図面は、特に指定しない限り、部材又は部品間の相対比を示すことを目的としない。よって、具体的な寸法は、以下の限定的でない実施形態に照らし、適宜に選択可能である。
【0013】
また、本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
また、本明細書において、「質量」は「重量」と同義である。
【0014】
<第1構成例>
図1は本発明に係る振動装置の第1構成例の外観形状を示す概略斜視図、
図2は
図1に示す振動装置の矢印Va方向から見た正面図、
図3は
図2に示すIII-III線の断面図である。
図1に示すように、振動装置100は、ガラス振動板11と、振動子13と、囲い込み部材15と、遮蔽部材17と、支持部材23とを備える。
【0015】
ガラス振動板11は、詳細な構成については後述するが、振動子13が発生する振動によって励振されて音を発生する。ガラス振動板11は、
図1の矢印Va方向から見た場合に、ガラス振動板11を挟んだ奥側が透けて見える透光性を有していてもよく、遮光性又は選択的な光透過性(バンドパスフィルタ等の光学フィルタや、表面が光拡散面にされた表面処理層)を有していてもよい。ガラス振動板11は、一枚の基板であってもよく、複数枚の基板を含むガラス板の構成体であってもよい。ガラス振動板11は、縦波音速値が高い材料からなることが好ましく、例えば、ガラス板、透光性セラミックス、サファイア等の単結晶等を用いることができる。本構成のガラス振動板11は、長方形の外形状を有するが、これに限らない。
【0016】
振動子13は、ガラス振動板11に固定され、入力される電気信号に応じてガラス振動板11を振動させる。例えば、図示は省略するが、外部機器と電気的に接続されたコイル部と、磁気回路部と、コイル部又は磁気回路部と連結された加振部とを含んで構成される。外部機器からの音の電気信号がコイル部へ入力されると、コイル部と磁気回路部との相互作用により、コイル部又は磁気回路部に振動が生じる。このコイル部又は磁気回路部の振動は、加振部へ伝達され、加振部からガラス振動板11に振動が伝達される。
【0017】
ガラス振動板11には、少なくとも1つ、好ましくは複数の振動子13が取り付けられる。本構成例では、2つの振動子13がガラス振動板11の一方の主面上に、ガラス振動板11の外縁の一辺に沿って互いに間隔をあけて取り付けられている。
【0018】
囲い込み部材15は、ガラス振動板11の振動子13の固定位置を含む部分を囲む箱状に形成され、振動子13とガラス振動板11の一部を含む内部空間19を画成する。ガラス振動板11の他の部分は、囲い込み部材15に形成された内部空間19の開口部21から、内部空間19の外側に露出している。つまり、ガラス振動板11の一端を、内部空間19の開口部21から内部空間19の外側に露出させている。上記したガラス振動板11の一端とは、振動子13の固定位置に近い側のガラス振動板11の端部と遠い側のガラス振動板11の端部のうち、遠い側の端部を意味する。
【0019】
囲い込み部材15の内側や外側には、図示を省略するフェルトやスポンジ等の吸音材を貼り付けてもよい。その場合、内部空間19内での消音効果が高められる。吸音材は、囲い込み部材15の内側の一部または全ての面に貼り付けられていることが好ましい。具体的には、好ましくは、吸音材として多孔質型吸音材や有孔ボード等による共鳴型吸音材を適用できるが、吸音可能な周波数帯域の観点から多孔質型吸音材を用いることが好ましい。吸音材の1kHzにおける垂直入射吸音率は0.25以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、0.75以上であることがさらにより好ましい。吸音材の厚さは0.5mm以上20mm以下であることが好ましく、厚さ1mm以上10mm以下であることがより好ましい。吸音材を貼付する面積は、囲い込み部材15の内部空間19を囲む面の面積の25%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。
【0020】
また、囲い込み部材15の開口部21には、開口部21とガラス振動板11との間を音響的に遮蔽する遮蔽部材17が設けられる。遮蔽部材17は、内部空間19を閉空間にして、ガラス振動板11を、内部空間19の内側の加振領域A1と、内部空間19の外側の振動領域A2とに区分する(
図2参照)。
【0021】
遮蔽部材17としては、炭化水素組成、シリコーン組成、含フッ素組成である高分子素材全般を用いることができる。ただし、厚さ1mmに成型したシートの動的粘弾性を25℃、周波数1Hzおよび圧縮モードで測定したときに、貯蔵弾性率G’は1.0×102~1.0×1010Paである材料が好ましく、1.0×103~1.0×108Paであるものがより好ましい。上記した遮蔽部材17による「遮蔽」とは、ガラス振動板11を完全に固定することなく、μm単位の微動を許容する程度にガラス振動板11に接している状態をいう。これにより、内部空間19からの音漏れの発生を防止している。
【0022】
本構成においては、囲い込み部材15の内部空間19の底部と、ガラス振動板11の加振領域A1の一部との間に、ガラス振動板11を囲い込み部材15に支持させる支持部材23が設けられている。この支持部材23は、クッション性を有する、例えば、ゴム、フェルト、スポンジ等の弾性シートからなることが好ましい。
【0023】
図2に示すように、ガラス振動板11が内部空間19の内側から外側に突出する方向を第1方向Ax1、第1方向に板面内で直交する方向を第2方向Ax2としたとき、ガラス振動板11の第2方向Ax2の最大幅Lwは、第1方向Ax1の最大幅Lh以上(Lw≧Lh)であることが好ましい。これにより、ガラス振動板11の振動領域A2において、ガラス振動板11の加振領域A1に配置される振動子13からの距離が、振動領域A2の全面にわたって過度に長くならず、振動子13からの振動が十分な強度で振動領域A2に伝播される。
【0024】
上記構成の振動装置100によれば、
図3に示すように、ガラス振動板11は、振動子13が取り付けられ、囲い込み部材15の内側の内部空間19に配置される加振領域A1と、内部空間19の外側に配置され、音響放射する振動領域A2とが、遮蔽部材17によって区分される。そのため、振動子13からの振動によって加振領域A1から発生する音は、内部空間19内で減衰される。また、内部空間19の開口部21は、遮蔽部材17によってガラス振動板11との間が音響的に遮蔽されており、内部空間19内で発生した加振領域A1からの音が内部空間19の外側に漏れることが防止される。
【0025】
すなわち、加振領域A1の振動子13の振動が振動領域A2に伝播され、振動領域A2から音響放射される際に、加振領域A1において発生する音(ノイズ)を、振動領域A2からの音に重畳されることを防止できる。つまり、連続した1枚のガラス振動板11を加振領域A1と振動領域A2とに区分して、加振領域A1を囲い込み部材15と遮蔽部材17によって内部空間19内に画成する。こうして、加振領域A1から発生するノイズを内部空間19に閉じ込め、内部空間19から漏れなくすることで、振動子13の振動によって加振領域A1から生じる無用なノイズが、空気伝播音として受音者に伝わることを防止する。その結果、音の回り込みによる指向性の低下を防止できる。また、ガラス振動板11の振動領域A2のみから周囲に音響放射されるため、音響放射による音圧分布を均一にできる。
【0026】
図4はガラス振動板11の加振領域A1と、振動領域A2を示す説明図である。
ガラス振動板11の加振領域A1の面積をSs、振動領域の面積をSvとしたとき、面積比Ss/Svは、0.01以上、1.0以下が好ましい。より好ましくは0.02以上、0.5以下、更に好ましくは0.05以上、0.1以下である。
【0027】
加振領域A1の面積が振動領域A2の面積と比較して広すぎると、音圧の発生能率が低下し、狭すぎると効率的な加振駆動ができなくなる。そのため、面積比を上記範囲にすることで、振動子13の振動に応じた振動領域A2からの音響放射が、高効率で行えるようになる。
【0028】
また、ガラス振動板11の総面積は、0.01m2以上であることが好ましい。より好ましくは0.1m2以上、更に好ましくは0.3m2以上である。ガラス振動板11の総面積を上記面積以上にすることで、加振領域A1と振動領域A2に区分することによる、上述した音圧分布の均一化と、指向性の低下防止の効果が得られやすくなる。
【0029】
<第2構成例>
図5は振動装置の第2構成例を示す断面図である。
図5は
図2に示すIII-III線の断面に相当する。
本構成の振動装置200では、振動子13が、ガラス振動板11の両面に配置されている。他の構成は前述の第1構成例と同様である。
これによれば、ガラス振動板11の一方の主面と他方の主面との双方に振動子13を配置することで、ガラス振動板11を更に強く励振させることができ、より高い音圧を発生できる。また、ガラス振動板11の加振領域の面積が限られる場合に、複数の振動子13を高いスペース効率で配置できる。
【0030】
<第3構成例>
図6は振動装置の第3構成例を示す断面図である。
図6は
図2に示すIII-III線の断面に相当する。
本構成の振動装置300では、ガラス振動板11Aが、ボルト31と、スリーブ33と、ナット35とを含む支持部材23Aによって囲い込み部材15Aに固定されることが好ましい。
【0031】
ガラス振動板11Aにはボルト31を挿通する貫通孔11aが形成され、囲い込み部材15Aの一方の側壁にも貫通孔15aが形成される。貫通孔11aにはボルト31が挿入され、ボルト31の軸部がスリーブ33を介して貫通孔15aに挿入される。貫通孔15aから突出したボルト31の軸部には、ナット35が取り付けられ、ガラス振動板11Aと囲い込み部材15Aとを締結する。
【0032】
この場合の囲い込み部材15Aは、内部空間19内に締結されたボルト31が配置されるため、囲い込み部材15Aを、複数の部材を組み合わせて成る箱形にして、分解状態でボルト締結する構成としてもよく、ボルトによる締結位置の付近に不図示の作業用窓を設けた構成としてもよい。また、ボルトとナットの間にブッシュゴムを配置し、ガラス振動板11Aと囲い込み部材15Aとの間で振動を絶縁することもできる。
【0033】
本構成の振動装置300によれば、ガラス振動板11をボルト31、ナット35等の締結手段によって、囲い込み部材15Aの任意の位置に固定できる。よって、振動装置300を任意の姿勢で配置でき、振動装置300の設置自由度を高められる。
【0034】
<第4構成例>
図7は振動装置の第4構成例を示す断面図である。
図7は
図2に示すIII-III線の断面に相当する。
本構成の振動装置400では、ガラス振動板11と囲い込み部材15Bとの間に内部空間19を画成している。つまり、囲い込み部材15Bとガラス振動板11とを、遮蔽部材17と支持部材23を介して固定することで、閉空間となる内部空間19が形成される。
【0035】
この構成では、ガラス振動板11の加振領域A1において、振動子13が取り付けられた面37の反対側の面39から音(背面音)が発生する。そこで、ガラス振動板11の加振領域A1を、振動装置400とは別の他部材41と一体に固定し、反対側の面39から発生する背面音を、空気を媒体として矢印Vb方向にいる受音者に伝達されないようにする。振動装置400を他部材41に固定する方法としては、例えば、ボルトやねじ等の締結部材や、接着剤を用いる方法等が挙げられる。他部材41を弾性率の低い部材とする、または面39に振動を絶縁する層を配置することにより、ガラス振動板11が振動しやすくなる。
【0036】
本構成の振動装置400によれば、ガラス振動板11の加振領域A1において、受音者側の面37を囲い込み部材15Bで囲んで内部空間19を画成することで、囲い込み部材15Bの構造を簡略化できる。
【0037】
<第5構成例>
図8の(A)は振動装置の第5構成例を模式的に示す正面図である。
本構成の振動装置500では、ガラス振動板11Bの形状が前述した長方形とは異なっている。その他の構成は、前述した第1構成例と同様である。
【0038】
ガラス振動板11Bは、振動子13が取り付けられる長方形の第1領域45と、第1領域45に接続され、第1領域45より面積が大きい長方形の第2領域47とを有する。第1領域45は、第2領域47の長方形の一辺の中央に接続され、囲い込み部材15により画成される内部空間19内に配置される。上記構成の第1領域45は加振領域A1に相当し、第2領域47は振動領域A2に相当する。
【0039】
この構成の振動装置500によれば、振動領域A2の外縁が振動子13から大きく離間することなく、振動領域A2の面積を加振領域A1よりも大きく形成できる。
【0040】
第2領域47の形状は、長方形に限らず
図8の(B)に示すように、台形であってもよい。この構成の振動装置500Aによれば、第2領域47Aを台形にすることで、長方形にする場合と比較して、振動装置500Aの周囲の部材との干渉を回避し、第1領域45Aよりも大面積の振動領域A2を容易に確保できる。さらに、第2領域47Aの形状を楕円形や多角形等の任意の形状にすることもできる。
【0041】
囲い込み部材15は、ガラス振動板の一端部に設ける以外にも、
図8の(C)に示すように、ガラス振動板11Dの長手方向の中央部に設けてもよい。この場合、ガラス振動板11Dの中央部の囲い込み部材15Cにより囲まれる第1領域45Bが加振領域A1となり、囲い込み部材15の外側に配置される第2領域47B,47Cがそれぞれ振動領域A2となる。この構成の振動装置500Bによれば、振動子13からの振動が2つの第2領域47B,47C(振動領域A2)に伝播され、それぞれから同時に音響放射できる。そのため、音の回り込みによる指向性の低下を防止しつつ、音響放射の音圧分布をより均一にできる。
【0042】
さらに、
図8の(D)に示すように、ガラス振動板11Eの外縁に沿って囲い込み部材15Dを配置して、ガラス振動板11Eの外縁部を加振領域A1となる第1領域45Cとし、ガラス振動板11Eの中央部を振動領域A2となる第2領域47Dとしてもよい。
【0043】
この構成の振動装置500Cによれば、ガラス振動板11Eの外縁部に配置された振動子13からの振動が、第2領域47Dに伝播され、第2領域47から音響放射される。また、第1領域45Cからのノイズは、囲い込み部材15Dにより画成される内部空間19から漏れることはない。
【0044】
<第6構成例>
図9の(A),(B)は振動装置の第6構成例を模式的に示す正面図である。
本構成の振動装置600では、ガラス振動板11Fが、囲い込み部材15Eに対して相対移動自在に設けられている。
囲い込み部材15Eは、内部空間19を画成する本体部51と、ガラス振動板11Fの外縁部に沿って配置されるフレーム部53とを備える。また、ガラス振動板11Fを支持する支持部材23Bは、ガラス振動板11Fと、囲い込み部材15Eとを相対移動可能に支持する。
【0045】
図9の(A)に示すように、ガラス振動板11Fは、内部空間19の内側に配置され、振動子13が取り付けられた第1領域45Dと、内部空間19の外側に配置される第2領域47Eとを有する。第1領域45Dと第2領域47Eとは、遮蔽部材17によって区分される。
【0046】
ガラス振動板11Fの第2領域47Eの外縁部には、囲い込み部材15Eのフレーム部53が配置される。フレーム部53は、第2領域47Eの外縁に沿った枠体であり、フレーム部53には、ガラス振動板11Fとの間にクッション材55が必要に応じて設けられる。
【0047】
ガラス振動板11Fの第1領域45Dには、板厚方向に貫通する案内孔61が形成される。案内孔61には、揺動アーム63の一端部に支持されたフォロア65がスライド自在に挿入される。揺動アーム63の他端部は、回転支軸67を介して囲い込み部材15Eに揺動自在に支持される。回転支軸67は、不図示のモータ等の駆動部に接続され、駆動部によって回転駆動される。回転支軸67の回転によって、揺動アーム63が回転支軸56を中心に揺動する。
【0048】
上記構成の振動装置600によれば、駆動部の駆動によって揺動アーム63を
図9の(A)に示す矢印P方向に揺動させると、フォロア65が案内孔61に沿って移動する。これにより、ガラス振動板11Fは、
図9の(B)に示すように矢印Q方向に移動して、加振領域A1と振動領域A2の面積が変更自在となる。
【0049】
以上説明した第1~第6構成例の振動装置は、例えば電子機器用部材として、フルレンジスピーカー、15Hz~200Hz帯の低音再生用スピーカー、10kHz~100kHz帯の高音再生スピーカー、振動板の面積が0.2m2以上の大型スピーカー、平面型スピーカー、円筒型スピーカー、透明スピーカー、スピーカーとして機能するモバイル機器用カバーガラス、TVディスプレイ用カバーガラス、スクリーンフィルム、映像信号と音声信号とが同一の面から生じるディスプレイ、ウェアラブルディスプレイ用スピーカー、電光表示器、照明器具、等に利用できる。スピーカーは、音楽用、警報音用等とすることができる。また、加速度センサー等の振動検出素子を付加することにより、マイク用の振動板、振動センサーとして用いることもできる。
【0050】
そして、振動装置は、車両等の輸送機械の内装用振動部材として、車載・機載スピーカーとして用いることができる。例えばスピーカーとして機能するサイドミラー、サンバイザー、インパネ、ダッシュボード、天井、ドア、その他、各種の内装パネルにできる。さらに、これらをマイクロフォンやアクティブノイズコントロール用振動板として機能させることもできる。
【0051】
また、振動装置は、例えば、建築・輸送機械等に用いられる開口部材として用いることができる。その場合、振動板に、IRカット、UVカット、着色等の機能を付与することもできる。
【0052】
より具体的には、振動装置は、車内スピーカー、車外スピーカー、遮音機能を有する車両用フロントガラス、サイドガラス、リアガラス又はルーフガラスに適用できる。また、音波振動により撥水性、耐着雪性、耐着氷性、防汚性を向上させた車両用窓、構造部材、化粧板として用いることもできる。具体的には、自動車用窓ガラス、ミラー、車内に装着される平板状又は曲面状の板状部材の他、レンズ、センサー及びそれらのカバーガラスとして用いることができる。
【0053】
建築用部材としては、振動板や振動検出装置として機能する窓ガラス、ドアガラス、ルーフガラス、内装材、外装材、装飾材、構造材、外壁、及び太陽電池用カバーガラス、として用いることができる。更には、銀行、病院、ホテル、レストラン、オフィス等におけるパーティションや鏡台等、としても用いることができる。それらを音響反射(残響)板として機能させてもよい。また、音波振動により上記の撥水性、耐着雪性、防汚性を向上させることもできる。
【0054】
振動装置の内部空間19の構成には、上述した囲み込み部材や、ガラス振動板自体を用いることができる他、例えば、自動車のボディ、ドアパネル、建築用部材ではサッシ部材等を用いることができる。
【0055】
また、振動子は、振動子の裏側を、裏板又はフレーム等に固定して、振動子筐体の振動を抑制し、加振力を増強することができる。
【0056】
さらに、内部空間19の内部を減圧することや、Heガスを充填することで、音波の伝播速度を低下させ、遮音性を向上させることができる。また、内部空間に遮音材や吸音材を配置し、囲い込み部材からの音の透過や内部空間内の共鳴を抑制することが出来る。
【0057】
<ガラス振動板の具体的構成例>
上述した振動装置を構成するガラス振動体は、詳細は後述するが、25℃における損失係数が1×10-3以上、且つ板厚方向の縦波音速値が4.0×103m/s以上であることが好ましい。なお、損失係数が大きいとは振動減衰能が大きいことを意味する。
【0058】
損失係数とは、半値幅法により算出したものを用いる。材料の共振周波数f、振幅hであるピーク値から-3dB下がった点(すなわち、最大振幅-3[dB]における点)の周波数幅をWとしたときに、{W/f}で表される値を損失係数と定義する。
共振を抑えるには、損失係数を大きくすればよく、すなわち、振幅hに対し相対的に周波数幅Wは大きくなり、ピークがブロードとなることを意味する。
【0059】
損失係数は材料等の固有の値であり、例えばガラス板単体の場合にはその組成や相対密度等によって異なる。なお、損失係数は共振法などの動的弾性率試験法により測定できる。
【0060】
縦波音速値とは、振動板中で縦波が伝搬する速度をいう。縦波音速値及びヤング率は、日本工業規格(JIS-R1602-1995)に記載された超音波パルス法により測定できる。
【0061】
ここで、ガラス振動板は、高い損失係数及び高い縦波音速値を得るための具体的な構成として、2枚以上のガラス板を含み、これらガラス板のうち少なくとも一対のガラス板の間に所定の流体層を含むことが好ましい。
【0062】
ここでのガラス板とは、無機ガラスおよび有機ガラスを意味する。有機ガラスとしては、一般的に透明樹脂としてよく知られている、PMMA系樹脂、PC系樹脂、PS系樹脂、PET系樹脂、セルロース系樹脂などである。
2枚以上のガラス板を用いる場合、一方のガラス板を上記無機ガラス、有機ガラスとし、他方のガラス板の代わりに、有機ガラス以外の樹脂による樹脂板、アルミニウムなどの金属板、セラミックによるセラミック板など、種々のものを採用することもできる。意匠性や加工性、重量の観点からは、有機ガラス、樹脂材料、複合材料や繊維材料、金属材料などを用いることが好ましく、振動特性の観点からは、無機ガラス、剛性の高い複合材料や繊維材料、金属材料やセラミック材料を用いることが好ましい。
樹脂材料としては、平面板状や曲面板状に成型できる樹脂材料を用いることが好ましい。複合材料や繊維材料としては、高硬度フィラーを複合した樹脂材料や炭素繊維、ケブラー繊維などを用いることが好ましい。金属材料としては、アルミニウム、マグネシウム、銅、銀、金、鉄、チタン、SUSなどが好ましく、必要に応じてその他合金材料などを用いてもよい。
セラミック材料としては、例えばAl2O3、SiC、Si3N4、AlN、ムライト、ジルコニア、イットリア、YAG等のセラミックスおよび単結晶材料がより好ましい。また、セラミック材料については透光性を有する材料であることが特により好ましい。
【0063】
(流体層)
ガラス振動板は、少なくとも一対のガラス板の間に液体を含有する流体層を設けることで、高い損失係数を実現できる。中でも、流体層の粘性や表面張力を好適な範囲にすることで、損失係数をより高められる。これは、一対のガラス板を、粘着層を介して設ける場合とは異なり、一対のガラス板が固着せず、各々のガラス板としての振動特性を持ち続けることに起因するものと考えられる。なお、本明細書でいう「流体」とは、液体、半固体、固体粉末と液体との混合物、固体のゲル(ゼリー状の物質)に液体を含浸させたもの等、液体を含む流動性を有するものを全て包含する意味とする。
【0064】
流体層は25℃における粘性係数が1×10-4~1×103Pa・sであり、且つ25℃における表面張力が15~80mN/mであることが好ましい。粘性が低すぎると振動を伝達しにくくなり、高すぎると流体層の両側に位置する一対のガラス板同士が固着して一枚のガラス板としての振動挙動を示すようになることから、共振振動が減衰されにくくなる。また、表面張力が低すぎるとガラス板間の密着力が低下し、振動を伝達しにくくなる。表面張力が高すぎると、流体層の両側に位置する一対のガラス板同士が固着しやすくなり、一枚のガラス板としての振動挙動を示すようになることから、共振振動が減衰されにくくなる。
【0065】
流体層の25℃における粘性係数は1×10-3Pa・s以上がより好ましく、1×10-2Pa・s以上がさらに好ましい。また、1×102Pa・s以下がより好ましく、1×10Pa・s以下がさらに好ましい。流体層の25℃における表面張力は20mN/m以上がより好ましく、30mN/m以上がさらに好ましい。
【0066】
流体層の粘性係数は回転粘度計などにより測定できる。流体層の表面張力はリング法などにより測定できる。
【0067】
流体層は、蒸気圧が高すぎると流体層が蒸発してガラス振動体としての機能を果たさなくなるおそれがある。そのため、流体層は、25℃、1atmにおける蒸気圧が1×104Pa以下が好ましく、5×103Pa以下がより好ましく、1×103Pa以下がさらに好ましい。また、蒸気圧が高い場合には、流体層が蒸発しないようにシール等を施してもよいが、このとき、シール材によりガラス振動体の振動を妨げないようにする。
【0068】
流体層の厚さは薄いほど、高剛性の維持及び振動伝達の点から好ましい。具体的には、一対のガラス板の合計の厚さが1mm以下の場合は、流体層の厚さは、一対のガラス板の合計の厚さの1/10以下が好ましく、1/20以下がより好ましく、1/30以下がさらに好ましく、1/50以下がよりさらに好ましく、1/70以下がことさらに好ましく、1/100以下が特に好ましい。また一対のガラス板の合計の厚さが1mm超の場合は、前記流体層の厚さは、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましく、20μm以下がよりさらに好ましく、15μm以下がことさらに好ましく、10μm以下が特に好ましい。流体層の厚さの下限は、製膜性及び耐久性の点から0.01μm以上が好ましい。
【0069】
流体層は化学的に安定であり、流体層と流体層の両側に位置する一対のガラス板とが、反応しないことが好ましい。化学的に安定とは、例えば光照射により変質(劣化)が少ないもの、又は少なくとも-20~70℃の温度領域で凝固、気化、分解、変色、ガラスとの化学反応等が生じないものを意味する。
【0070】
流体層の成分としては、具体的には、水、オイル、有機溶剤、液状ポリマー、イオン性液体及びそれらの混合物等が挙げられる。より具体的には、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ストレートシリコーンオイル(ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル)、変性シリコーンオイル、アクリル酸系ポリマー、液状ポリブタジエン、グリセリンペースト、フッ素系溶剤、フッ素系樹脂、アセトン、エタノール、キシレン、トルエン、水、鉱物油、及びそれらの混合物、等が挙げられる。中でも、プロピレングリコール、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル及び変性シリコーンオイルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、プロピレングリコール又はシリコーンオイルを主成分とすることがより好ましい。
【0071】
上記の他に、粉体を分散させたスラリーを流体層として使用することもできる。損失係数の向上といった観点からは、流体層は均一な流体であることが好ましいが、ガラス振動体に着色や蛍光等といった意匠性や機能性を付与する場合には、該スラリーは有効である。流体層における粉体の含有量は0~10体積%が好ましく、0~5体積%がより好ましい。粉体の粒径は沈降を防ぐ観点から10nm~1μmが好ましく、0.5μm以下がより好ましい。
【0072】
また、意匠性・機能性付与の観点から、流体層に蛍光材料を含ませてもよい。その場合、蛍光材料を粉体として分散させたスラリー状の流体層でも、蛍光材料を液体として混合させた均一な流体層でもよい。これにより、ガラス振動体に光の吸収及び発光といった光学的機能を付与できる。
【0073】
図10はガラス振動板の具体的な一例を示す断面図である。
ガラス振動板11は、上述した流体層71を両側から挟むように、少なくとも一対のガラス板73,75を設けることが好ましい。流体層71は、ガラス板73が共振した場合に、ガラス板75の共振を防止する、又は、ガラス板75の共振の揺れを減衰させる。ガラス振動板11は、流体層71の存在により、ガラス板単独の場合と比べて損失係数を高められる。
【0074】
ガラス振動板11は、損失係数が大きいほど振動減衰が大きくなることから好ましく、ガラス振動板11の25℃における損失係数は好ましくは1×10-3以上であり、より好ましくは2×10-3以上、さらにより好ましくは5×10-3以上である。また、ガラス振動板11の板厚方向の縦波音速値は、音速が速いほど振動板とした際に高周波音の再現性が向上することから、好ましくは4.0×103m/s以上であり、より好ましくは4.5×103m/s以上、さらにより好ましくは5.0×103m/s以上である。上限は特に限定されないが、7.0×103m/s以下が好ましい。
【0075】
ガラス振動板11の直線透過率が高いと、透光性の部材としての適用が可能となる。そのため、日本工業規格(JISR3106-1998)に準拠して求められた可視光透過率が60%以上であることが好ましく、65%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。なお、透光性の部材としては、例えば透明スピーカー、透明マイクロフォン、建築、車両用の開口部材等の用途が挙げられる。
【0076】
ガラス振動板11の透過率を高めることを目的に、屈折率を整合させることも有用である。すなわち、ガラス振動板11を構成するガラス板と流体層との屈折率は近いほど、界面における反射及び干渉が防止されることから好ましい。中でも流体層の屈折率と流体層に接する一対のガラス板の屈折率との差が0.2以下が好ましく、0.1以下がより好ましく、0.01以下であることがさらにより好ましい。
【0077】
(ガラス板)
ガラス振動板11を構成するガラス板の少なくとも1枚及び流体層の少なくともいずれか一方に着色することも可能である。これは、ガラス振動板11に意匠性を持たせたい場合や、IRカット、UVカット、プライバシーガラス等の機能性を持たせたい場合に有用である。
【0078】
一対のガラス板73,75のうち、一方のガラス板73と他方のガラス板75の共振周波数のピークトップの値は異なることが好ましく、共振周波数の範囲が重なっていないものがより好ましい。ただし、ガラス板73及びガラス板75の共振周波数の範囲が重複していたり、ピークトップの値が同じであったりしても、流体層71が存在することによって、一方のガラス板73が共振しても、他方のガラス板75の振動は同期しない。これにより、ある程度共振が相殺され、ガラス板単独の場合に比べて高い損失係数が得られる。
【0079】
すなわち、ガラス板73の共振周波数(ピークトップ)をQa、共振振幅の半値幅をwa、他方のガラス板75の共振周波数(ピークトップ)をQb、共振振幅の半値幅をwbとした時に、下記[式1]の関係を満たすことが好ましい。
(wa+wb)/4<|Qa-Qb|・・・[式1]
上記[式1]における左辺の値が大きくなるほどガラス板73とガラス板75との共振周波数の差異(|Qa-Qb|)が大きくなり、高い損失係数が得られるようになることから好ましい。
【0080】
そのため、下記[式2]を満たすことがより好ましく、下記[式3]を満たすことがさらに好ましい。
(wa+wb)/2<|Qa-Qb|・・・[式2]
(wa+wb)/1<|Qa-Qb|・・・[式3]
なお、ガラス板の共振周波数(ピークトップ)及び共振振幅の半値幅は、ガラス振動体における損失係数と同様の方法で測定できる。
【0081】
ガラス板73及びガラス板75は、質量差が小さいほど好ましく、質量差がないことがより好ましい。ガラス板の質量差がある場合、軽い方のガラス板の共振は重い方のガラス板で抑制することはできるが、重い方のガラス板の共振を軽い方のガラス板で抑制することは困難である。すなわち、質量比に偏りがあると、慣性力の差異により原理的に共振振動を互いに打ち消せなくなるためである。
【0082】
(ガラス板73/ガラス板75)で表されるガラス板73及びガラス板75の質量比は0.8~1.25(8/10~10/8)が好ましく、0.9~1.1(9/10~10/9)がより好ましく、1.0(10/10、質量差0)がさらに好ましい。
【0083】
ガラス板73,75の厚さはいずれも薄いほど、ガラス板同士が流体層を介して密着しやすく、また、ガラス板を少ないエネルギーで振動させることができる。そのため、スピーカー等の振動板用途の場合には、ガラス板の厚さは薄いほど好ましい。具体的にはガラス板73,75の板厚は、それぞれ15mm以下が好ましく、10mm以下がより好ましく、5mm以下がさらに好ましく、3mm以下がさらにより好ましく、1.5mm以下が特に好ましく、0.8mm以下が特により好ましい。一方、薄すぎるとガラス板の表面欠陥の影響が顕著になりやすく割れが生じやすくなったり、強化処理しにくくなったりすることから、0.01mm以上が好ましく、0.05mm以上がより好ましい。
【0084】
また、共振現象に起因する異音の発生を抑制した建築・車両用開口部材用途においては、ガラス板73,75の板厚は、それぞれ0.5~15mmが好ましく、0.8~10mmがより好ましく、1.0~8mmがさらに好ましい。
【0085】
ガラス板73及びガラス板75の少なくともいずれか一方のガラス板は、損失係数が大きい方が、ガラス振動板11としての振動減衰も大きくなり、振動板用途として好ましい。具体的には、ガラス板の25℃における損失係数は1×10-4以上が好ましく、3×10-4以上がより好ましく、5×10-4以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、生産性や製造コストの観点から5×10-3以下であることが好ましい。また、ガラス板73及びガラス板75の両方が、上記損失係数を有することがより好ましい。なお、ガラス板の損失係数は、ガラス振動板11における損失係数と同様の方法で測定できる。
【0086】
ガラス板73及びガラス板75の少なくともいずれか一方のガラス板は、板厚方向の縦波音速値が高い方が高周波領域の音の再現性が向上することから、振動板用途として好ましい。具体的には、ガラス板の縦波音速値が5.0×103m/s以上が好ましく、5.5×103m/s以上がより好ましく、6.0×103m/s以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、ガラス板の生産性や原料コストの観点から7.0×103m/s以下が好ましい。また、ガラス板73及びガラス板75の両方が、上記音速値を満たすことがより好ましい。なお、ガラス板の音速値は、ガラス振動体における縦波音速値と同様の方法で測定できる。
【0087】
ガラス板73及びガラス板75の組成は特に限定されないが、例えば、酸化物基準の質量%で表示した組成にて下記範囲であることが好ましい。SiO2:40~80質量%、Al2O3:0~35質量%、B2O3:0~15質量%、MgO:0~20質量%、CaO:0~20質量%、SrO:0~20質量%、BaO:0~20質量%、Li2O:0~20質量%、Na2O:0~25質量%、K2O:0~20質量%、TiO2:0~10質量%、且つZrO2:0~10質量%。ただし上記組成がガラス全体の95質量%以上を占める。
【0088】
ガラス板73及びガラス板75の組成(酸化物基準の質量%で表示した組成)はより好ましくは、下記範囲である。
SiO2:55~75質量%、Al2O3:0~25質量%、B2O3:0~12質量%、MgO:0~20質量%、CaO:0~20質量%、SrO:0~20質量%、BaO:0~20質量%、Li2O:0~20質量%、Na2O:0~25質量%、K2O:0~15質量%、TiO2:0~5質量%、且つZrO2:0~5質量%。ただし上記組成がガラス全体の95質量%以上を占める。
【0089】
ガラス板73,75の比重はいずれも小さいほど、少ないエネルギーでガラス板を振動させることができる。具体的にはガラス板73,75の比重がそれぞれ2.8以下が好ましく、2.6以下がより好ましく、2.5以下がさらにより好ましい。下限は特に限定されないが、2.2以上であることが好ましい。ガラス板73,75のヤング率を密度で除した値である比弾性率は、いずれも大きいほど、ガラス板の剛性を高められる。具体的にはガラス板73,75の比弾性率がそれぞれ2.5×107m2/s2以上が好ましく、2.8×107m2/s2以上がより好ましく、3.0×107m2/s2以上がさらにより好ましい。上限は特に限定されないが、4.0×107m2/s2以下であることが好ましい。
【0090】
ガラス振動板11を構成するガラス板は2枚以上であればよいが、
図11に示すように、3枚以上のガラス板を用いてもよい。2枚の場合はガラス板73及びガラス板75が、3枚以上の場合は例えばガラス板73、ガラス板75及びガラス板77が、すべて異なる組成のガラス板を用いてもよく、すべて同じ組成のガラス板を用いてもよく、同じ組成のガラス板と異なる組成のガラス板とを組み合わせて用いてもよい。中でも、異なる組成からなる2種類以上のガラス板を用いることが振動減衰性の点から好ましく用いられる。ガラス板の質量や厚さについても同様に、すべて異なっても、すべて同一でも、一部が異なっていてもよい。中でも、構成するガラス板の質量が全て同一であることが振動減衰性の点から好ましく用いられる。
【0091】
ガラス振動板11を構成するガラス板の少なくとも1枚に物理強化ガラス板や化学強化ガラス板を用いることもできる。これは、ガラス板構成体からなるガラス振動板11の破壊を防ぐのに有用である。ガラス振動板11の強度を高めたい場合には、ガラス振動板11の最表面に位置するガラス板を物理強化ガラス板又は化学強化ガラス板とすることが好ましく、構成するガラス板の全てが物理強化ガラス板又は化学強化ガラス板であることがより好ましい。
【0092】
また、ガラス板として、結晶化ガラスや分相ガラスを用いることも、縦波音速値や強度を高める点から有用である。特に、ガラス板構成体からなるガラス振動板11の強度を高めたい場合には、ガラス振動板11の最表面に位置するガラス板を結晶化ガラス又は分相ガラスとすることが好ましい。
【0093】
ガラス振動板11は、ガラス板構成体の少なくとも一方の最表面に本発明の効果を損なわない範囲で、
図12の(A)に示すコーティング層81や、
図12の(B)に示すフィルム83を形成してもよい。コーティング層81の施工やフィルム83の貼付は、例えば飛散防止や傷付き防止等に好適である。コーティング層81やフィルム83の厚さは、表層のガラス板の板厚の1/5以下であることが好ましい。コーティング層81やフィルム83には従来公知のものを用いることができるが、コーティング層81としては、例えば撥水コーティング、親水コーティング、滑水コーティング、撥油コーティング、光反射防止コーティング、遮熱コーティング、等が利用できる。また、フィルム83としては、例えばガラス飛散防止フィルム、カラーフィルム、UVカットフィルム、IRカットフィルム、遮熱フィルム、電磁波シールドフィルム等が利用できる。
【0094】
ガラス振動板11の加振領域A1の少なくとも一方の面の一部または全ての表面に図示を省略する吸音材を貼り付けてもよい。その場合、定在波の生成が抑制されることにより内部空間19内の音圧レベルを低減できる。吸音材としてはスポンジ、繊維等からなる多孔質型吸音材や有孔ボード等による共鳴型吸音材を適用できるが、吸音可能な周波数帯域や振動板の軽量化の観点から多孔質型吸音材を用いることが好ましい。
吸音材はガラス振動板11の加振領域A1の少なくとも一方の面に貼付できるが、好ましくはガラス振動板11の加振領域A1の両面に吸音材を貼付する。ガラス振動板11の振動子13のある面に吸音材を貼付する場合は、振動子13ごと吸音材で覆うことが好ましい。
【0095】
吸音材をガラス振動板11に貼付する際の面積は、加振領域A1の少なくとも一方の面の面積の50%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましい。さらに加振領域A1の1kHzにおける垂直入射吸音率は0.25以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、0.75以上であることがさらにより好ましい。吸音材の厚さは0.5mm以上30mm以下であることが好ましく、厚さ5mm以上20mm以下であることがより好ましい。
【0096】
図13は、内部空間19を模擬した内寸295mm×295mm×120mmのアクリル製容器内に、加振領域A1を模擬した100mm×100m×1.0mmの大きさのガラス振動板を設置し、ガラス振動板の中央部にインピーダンス4Ωの振動子を設置した上で出力電圧1Vの正弦波信号で加振した際の容器内の音圧レベルを示す。容器内部の壁面および振動板に吸音材を貼付しない場合、細実線で示すように、内部空間に定在波が生じ音圧レベルに急峻なピークを生じる。容器内側の壁面の全面に吸音材を貼付した場合、または容器内側の壁面の全面およびガラス振動板の両面に吸音材を貼付した場合、それぞれ一点鎖線又は太実線で示すように、周波数特性が平坦となると共に平均音圧レベルが低減する。一方、ガラス振動板の両面に吸音材を貼付し容器内側の壁面には吸音材を貼付しなかった場合、点線で示すように、平均音圧レベルは吸音材を貼付しない状態と同等であるものの、定在波の発生を妨げる効果により音圧レベルのピークを消滅させることができ、内部空間19に生じるノイズ音を効果的に低減することが可能である。
したがって音響性能の観点からは、囲い込み部材15の内側全面に吸音材を貼付することが好ましく、囲い込み部材15の内側全面かつガラス振動板11の加振領域A1の両面に吸音材を貼付することがより好ましい。そして、部材コストおよび施工コストと期待される音響効果との兼ね合いより、ガラス振動板11の加振領域A1の少なくとも一方の面に吸音材を貼付することが好ましく、ガラス振動板11の加振領域A1の両面に吸音材を貼付することがより好ましい。
【0097】
(シール材)
図14に示すように、ガラス振動板11の外周端面の少なくとも一部を、ガラス振動板11の振動を妨げないシール材87でシールしてもよい。シール材87としては、伸縮性の高いゴム、樹脂、ゲル等を用いることができる。
図15に示すように、ガラス振動板11のガラス板73,75と流体層71との界面における剥離防止等のために、向かい合うガラス板73,75の面の少なくとも一部に、本発明の効果を損なわない範囲で上記のシール材87を塗布することができる。この場合、シール材塗布部の面積は振動の支障とならないように流体層71の面積の20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることが特に好ましい。
【0098】
シール材87として用いる樹脂に関しては、アクリル系、シアノアクリレート系、エポキシ系、シリコーン系、ウレタン系、フェノール系等を用いることができる。硬化方法としては一液型、二液混合型、加熱硬化、紫外線硬化、可視光硬化等が挙げられる。熱可塑性樹脂(ホットメルトボンド)を用いることもできる。例として、エチレン酢酸ビニル系、ポリオレフィン系、ポリアミド系、合成ゴム系、アクリル系、ポリウレタン系が挙げられる。ゴムに関しては、例えば天然ゴム、合成天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレン・プロピレンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(ハイパロン)、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、エチレン・酢酸ビニルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム(チオコール)、水素化ニトリルゴムを用いることができる。シール材87の厚さtは、薄すぎると十分な強度が確保されず、厚すぎると振動の支障となる。ゆえにシール材87の厚さは10μm以上、且つガラス振動板の合計厚さの5倍以下であることが好ましく、50μm以上、且つガラス振動板の合計厚さより薄いことがより好ましい。
【0099】
図16の(A)及び(B)に示すように、ガラス振動板11は、ガラス板73とガラス板75の各々の端面がずれて配置されることにより、断面視において階段状を呈する段差部85が構成されることがある。そして、この段差部85において、シール材87が少なくとも流体層71を封止するように設けられることが好ましい。
【0100】
シール材87は、段差部85において、ガラス板73の端面73aと、流体層71の端面71aと、ガラス板75の主面75aに密着している。このような構成により、流体層71がシール材87により封止され、流体層71の漏れが防止されるとともに、ガラス板73、流体層71、ガラス板75の接合が強化され、ガラス振動板の強度が増すこととなる。
【0101】
また、段差部85において、ガラス板73の端面73a及び流体層71の端面71aが、ガラス板75の主面75aに対して垂直になるように構成されていると、シール材87は、断面視において段差部85に沿ってL字状に延びた輪郭を有する。このような構成により、ガラス板73、流体層71、ガラス板75の接合がさらに強化され、ガラス振動板の強度がさらに増すこととなる。
【0102】
さらに、シール材87がテーパー面87aを有していることが好ましい。ガラス振動板の縁部は、テーパー加工等がされることがあるが、このようなシール材87の形状を採用することにより、ガラス振動板を加工したのと同じ効果が得られる。
【0103】
しかも、
図16(A)及び(B)に示すガラス振動板11では、ガラス板73とガラス板75の各々の端面がずれて配置され、シール材87が段差部85に設けられている。したがって、このガラス振動板では、ガラス板75側から視てシール材87がガラス板75の背面側に配置されるので、ガラス板75側から視てシール材87が見えなくされている。これにより、ガラス振動板の意匠性を高められる。
【0104】
ガラス振動板は、平面状であってもよく、
図17に示すように、例えば、設置場所に合わせて湾曲(屈曲)するような曲面状であってもよい。また、図示はしないが、平面状の部分と曲面状の部分とを共に備える形状であってもよい。つまり、ガラス振動板は、少なくとも一部に凹状又は凸状に曲がった湾曲部を有する三次元形状であってもよい。このように、設置場所に合わせて三次元形状とすることで、設置場所における外観を良好にでき、意匠性を高められる。
【0105】
さらに、外縁の段差部85をシール材87で封止したガラス振動板において、
図18の(A)に示すように、ガラス板75側が凹むように曲面形状(三次元形状)に形成してもよい。この場合、ガラス板75の外縁がガラス板73よりも外側に延びている。また、
図18の(B)に示すように、
図18の(A)を反転させた曲面形状にしてもよい。この場合も、ガラス板75の外縁がガラス板73よりも外側に延びている。
【0106】
これらのガラス振動板の場合も、ガラス板75側から見た場合に、シール材87がガラス板75の背面側に配置されるので、ガラス板75側からは、シール材87が隠れて見えない状態にできる。これにより、設置場所における外観を良好にでき、ガラス振動板自体の意匠性がより高められる。
【0107】
図10~
図12及び
図14~
図18に示すガラス振動板のように、複数枚のガラス板を用いて振動装置を構成する場合、振動子を取り付ける加振領域を単一のガラス板で構成することもできる。
【0108】
図19は加振領域が単一のガラス板からなるガラス振動板11に振動子13を取り付けた様子を示す部分断面図である。
ガラス振動板11の一対のガラス板73,75のうち、ガラス板75の外縁がガラス板73よりも外側に延びている。このガラス板73の外側の延びた部分に振動子13が取り付けられる。ガラス板73と流体層71の端部には、前述したシール材87が設けられ、流体層71を密封している。
【0109】
この構成によれば、振動子13が単一のガラス板75を振動させるため、複数枚のガラス板を同時に振動させる場合と比較して、エネルギー効率を高めてガラス振動板11を加振できる。
【0110】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0111】
上記した内部空間19は、囲い込み部材によって画成していたが、囲い込み部材の代わりに、振動装置を設置する被設置部材自体を利用して内部空間19を画成してもよい。例えば、自動車のシャーシやボディ等の構造部材を囲い込み部材として用いたり、構造部材に形成された溝や凹部を内部空間として用いたりして、振動装置を構成してもよい。
【0112】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) ガラス振動板と、
前記ガラス振動板に固定され、前記ガラス振動板を振動させる振動子と、
前記ガラス振動板の前記振動子の固定位置を含む部分を囲んで内部空間を画成し、前記ガラス振動板の一端を、前記内部空間の開口部から前記内部空間の外側に露出させて成る囲い込み部材と、
前記開口部と前記ガラス振動板との間を音響的に遮蔽して、前記ガラス振動板を前記内部空間の内側の加振領域と、前記内部空間の外側の振動領域とに区分する遮蔽部材と、を備える振動装置。
この振動装置によれば、振動子が設けられるガラス振動板の加振領域が、囲い込み部材により画成される内部空間の内側に配置され、遮蔽部材によって仕切られる。振動子の振動によって、内部空間の外側のガラス振動板(ガラス振動板の一端を内部空間の開口部から内部空間の外側に露出させている部分)の振動領域から音響放射されると、均一な音圧分布が形成される。また、内部空間からのノイズの漏れがないため、指向性の低下を抑制できる。
【0113】
(2) 前記ガラス振動板は、前記内部空間の内側から外側に突出する方向を第1方向、前記第1方向に板面内で直交する方向を第2方向としたとき、
前記ガラス振動板の前記第2方向の最大幅は、前記第1方向の最大幅以上である(1)に記載の振動装置。
この振動装置によれば、ガラス振動板の加振領域に配置される振動子からの距離が、振動領域の全面にわたって過度に長くならず、振動子からの振動が十分な強度で振動領域に伝播される。
【0114】
(3) 前記囲い込み部材の内側の一部または全ての面に垂直入射吸音率0.25以上の吸音材が貼付されている(1)又は(2)に記載の振動装置。
この振動装置によれば、周波数特性が平坦になるとともに平均音圧レベルが低減するので、消音効果が高められる。
【0115】
(4) 前記ガラス振動板の前記加振領域の少なくとも一方の面の一部または全ての表面に垂直入射吸音率0.25以上の吸音材が貼付されている(1)~(3)のいずれかに記載の振動装置。
この振動装置によれば、定在波の生成が抑制されるので、内部空間内の音圧レベルを低減できる。
【0116】
(5) 前記ガラス振動板の前記加振領域の面積Ssと、前記振動領域の面積Svとの比Ss/Svは、0.01以上、1.0以下である(1)~(4)のいずれかに記載の振動装置。
この振動装置によれば、振動子で発生させた振動に応じた振動領域A2からの音響放射による音圧の発生能率を低下させることなく、且つ、効率的な加振駆動を実現できる。
【0117】
(6) 前記ガラス振動板の総面積は、0.01m2以上である(1)~(5)のいずれかに記載の振動装置。
この振動装置によれば、加振領域と振動領域に区分することによる、均一な音圧分布を形成する効果、及び指向性の低下を抑制する効果が得られやすくなる。
【0118】
(7) 前記ガラス振動板を前記囲い込み部材に支持させる支持部材を有する(1)~(6)のいずれかに記載の振動装置。
この振動装置によれば、ガラス振動板が支持部材によって囲い込み部材に支持される。
【0119】
(8) 前記支持部材は、前記ガラス振動板を前記囲い込み部材に対して相対移動可能に支持する(7)に記載の振動装置。
この振動装置によれば、ガラス振動板を相対移動させて、加振領域と振動領域の面積を変更できる。
【0120】
(9) 前記振動子は、前記ガラス振動板の複数箇所に配置されている(1)~(8)のいずれかに記載の振動装置。
この振動装置によれば、複数の振動子からガラス振動板に振動を付与することで、振動領域における振動を、より均一な分布にできる。
【0121】
(10) 前記振動子は、前記ガラス振動板の片面のみに配置されている(1)~(9)のいずれかに記載の振動装置。
この振動装置によれば、ガラス振動板の厚さ方向に振動子の配置スペースが限られる場合に、振動子を効率よく配置できる。
【0122】
(11) 前記振動子は、前記ガラス振動板の両面に配置されている(1)~(9)のいずれかに記載の振動装置。
この振動装置によれば、ガラス振動板の面積が限られる場合に、振動子を効率よく配置できる。
【0123】
(12) 前記遮蔽部材の25℃、周波数1Hzにおける貯蔵弾性率が1.0×102~1.0×1010Paである(1)~(11)のいずれかに記載の振動装置。
この振動装置によれば、ガラス振動板の振動の減衰を抑制しつつ、音漏れを防止できる。
【0124】
(13) 前記ガラス振動板は、平板状である(1)~(12)のいずれかに記載の振動装置。
この振動装置によれば、ガラス振動板の加工が容易となり、低コスト化が図れる。
【0125】
(14) 前記ガラス振動板は、少なくとも一部に凹状又は凸状の曲面を有する(1)~(12)のいずれかに記載の振動装置。
この振動装置によれば、振動装置の設置位置や設置目的に応じて、ガラス振動板の形状を自在に設定できる。
【0126】
(15) 前記ガラス振動板は、複数枚のガラス板を有し、前記ガラス板のうち互いに隣り合う少なくとも一対のガラス板の間に、液体を含有する流体層が設けられている(1)~(14)のいずれかに記載の振動装置。
この振動装置によれば、一方のガラス板が共振した場合に、他方のガラス板の共振を防止できる。また、ガラス板の共振の揺れを減衰できる。
【0127】
(16) 前記ガラス振動板の前記加振領域は、単一のガラス板で構成される(15)に記載の振動装置。
この振動装置によれば、高いエネルギー効率でガラス振動板を加振できる。
【0128】
(17) 前記ガラス振動板の25℃における損失係数は1×10-3以上、且つ前記ガラス振動板の板厚方向の縦波音速値は4.0×103m/s以上である(1)~(16)のいずれかに記載の振動装置。
この振動装置によれば、損失係数を大きくすることで、振動減衰を高めることができ、縦波音速値を高くすることで、高周波領域の音の再現性を向上できる。
【0129】
本発明を詳細にまた特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2019年9月27日出願の日本特許出願(特願2019-177814)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0130】
11,11A,11B,11C,11D,11E ガラス振動板
11a 貫通孔
13 振動子
15,15A,15B 囲い込み部材
15a 貫通孔
17 遮蔽部材
19 内部空間
21 開口部
23,23A,23B 支持部材
71 流体層
73,75,77 ガラス板
100 振動装置
A1 加振領域
A2 振動領域