(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】複合粒子、複合粒子の製造方法、液状組成物、積層体の製造方法及びフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/20 20060101AFI20240628BHJP
C08J 3/12 20060101ALI20240628BHJP
【FI】
C08J3/20 B CEW
C08J3/12 Z
(21)【出願番号】P 2022510466
(86)(22)【出願日】2021-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2021011654
(87)【国際公開番号】W WO2021193505
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-08-07
(31)【優先権主張番号】P 2020053688
(32)【優先日】2020-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020111772
(32)【優先日】2020-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020154349
(32)【優先日】2020-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】光永 敦美
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
(72)【発明者】
【氏名】笠井 渉
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/135168(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/017801(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/112017(WO,A1)
【文献】特開2019-035027(JP,A)
【文献】特表2014-502284(JP,A)
【文献】特開2016-113617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/20
C08J 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含み、極性官能基を有する、溶融温度が260~320℃であるテトラフルオロエチレン系ポリマーと、無機物とを含有し、
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーをコアとし、前記コアの表面に、前記無機物を有し、
エネルギー分散型X線分光法で測定される、前記複合粒子の表面における、フッ素元素含有量の無機元素含有量に対する比が、0.5以下である、複合粒子か、又は、
溶融温度が260~320℃であるテトラフルオロエチレン系ポリマーと、無機物とを含有し、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含み、極性官能基を有するテトラフルオロエチレン系ポリマー、及び、全単位に対してペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を2.0~5.0モル%含み、極性官能基を有さないテトラフルオロエチレン系ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種であ
り、
前記無機物をコアとし、前記コアの表面に前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを有する、複合粒子。
【請求項2】
前記複合粒子の粉体動摩擦角が、40度以下である、請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
前記無機物が、シリカ又は窒化ホウ素である、請求項1又は2に記載の複合粒子。
【請求項4】
前記複合粒子が、球状又は鱗片状である、請求項1~3のいずれか1項に記載の複合粒子。
【請求項5】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのコア及び前記無機物が、それぞれ粒子状であり、前記コアの平均粒子径が前記無機物の平均粒子径より大きい、請求項
1~4のいずれか1項に記載の複合粒子。
【請求項6】
前記複合粒子に占める前記無機物の質量は、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの質量より多い、請求項
1~4のいずれか1項に記載の複合粒子。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の複合粒子を製造する方法であって、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と前記無機物の粒子とを、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融温度以上の温度かつ浮遊状態にて衝突させて、前記複合粒子を得る、複合粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の複合粒子を製造する方法であって、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と前記無機物の粒子とを、押圧又は剪断状態にて衝突させて、前記複合粒子を得る、複合粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の複合粒子と、液状分散媒とを含み、前記複合粒子が前記液状分散
媒に分散している、液状組成物。
【請求項10】
前記液状分散媒が、水、アミド、ケトン及びエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の液状化合物である、請求項
9に記載の液状組成物。
【請求項11】
請求項
9又は
10に記載の液状組成物を基材層の表面に付与し、加熱して、ポリマー層を形成し、前記基材層と前記ポリマー層とを有する積層体を得る、積層体の製造方法。
【請求項12】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の複合粒子とフルオロオレフィン系ポリマーとを溶融混練した後、押出成形してフィルムを得る、フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のテトラフルオロエチレン系ポリマーと無機物とを含有する複合粒子及びその製造方法、並びに、かかる複合粒子を使用した液状組成物、積層体の製造方法及びフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカとテトラフルオロエチレン系ポリマーとの複合粒子としては、特許文献1や特許文献2の態様が知られている。しかし、テトラフルオロエチレン系ポリマーは、極性が極めて低く、他の成分との親和性が低いため、シリカとも高度に相互作用しにくい。そのため、上記文献の複合粒子は、充分な量のシリカを取り込みにくい。
また、上記文献の複合粒子は、シリカとテトラフルオロエチレン系ポリマーとの相互作用の低さのため、それ自体の安定性も充分ではなく、複合粒子からシリカが脱落しやすい。このため、シリカとテトラフルオロエチレン系ポリマーとの相互作用を確保する必要があり、シリカの選択の幅(シリカの水酸基の量等)が制約されやすい。
さらに、この制約により、上記文献の複合粒子は、その使用態様を制限されてしまう。例えば、複合粒子の液状媒体への親和性を高めにくく、複合粒子が分散した液状組成物の調製の際には、泡立ちが激しく、その分散安定性も確保しがたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-124729号公報
【文献】国際公開2018/212279号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、鋭意検討した結果、所定のテトラフルオロエチレン系ポリマーを使用すれば、これらの課題が解決される点を知見し、本発明を完成した。
本発明の目的は、任意量の無機物を含有するとともに、高極性等の所望の物性を有する複合粒子の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
<1> 溶融温度が260~320℃であるテトラフルオロエチレン系ポリマーと、無機物とを含有し、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含み、極性官能基を有するテトラフルオロエチレン系ポリマー、及び、全単位に対してペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を2.0~5.0モル%含み、極性官能基を有さないテトラフルオロエチレン系ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種である、複合粒子。
<2> 前記複合粒子の粉体動摩擦角が、40度以下である、上記<1>の複合粒子。
<3> 前記無機物が、シリカ又は窒化ホウ素である、上記<1>又は<2>の複合粒子。
<4> 前記複合粒子が、球状又は鱗片状である、上記<1>~<3>の複合粒子。
<5> 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーをコアとし、前記コアの表面に、前記無機物を有する、上記<1>~<4>のいずれかの複合粒子。
<6> 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーのコア及び前記無機物が、それぞれ粒子状であり、前記コアの平均粒子径が前記無機物の平均粒子径より大きい、上記<5>の複合粒子。
<7> エネルギー分散型X線分光法で測定される、前記複合粒子の表面における、フッ素元素含有量の無機元素含有量に対する比が、1未満である、上記<5>又は<6>のいずれかの複合粒子。
<8> 前記無機物をコアとし、前記コアの表面に前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを有する、上記<1>~<4>のいずれかの複合粒子。
<9> 前記複合粒子に占める前記無機物の質量は、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの質量より多い、上記<8>の複合粒子。
<10> 上記<1>~<9>のいずれかの複合粒子を製造する方法であって、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と前記無機物の粒子とを、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの溶融温度以上の温度かつ浮遊状態にて衝突させて、前記複合粒子を得る、複合粒子の製造方法。
<11> 上記<1>~<9>のいずれかの複合粒子を製造する方法であって、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子と前記無機物の粒子とを、押圧又は剪断状態にて衝突させて、前記複合粒子を得る、複合粒子の製造方法。
<12> 上記<1>~<9>のいずれかの複合粒子と、液状分散媒とを含み、前記複合粒子が前記液状分散液に分散している、液状組成物。
<13> 前記液状分散媒が、水、アミド、ケトン及びエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の液状化合物である、上記<12>の液状組成物。
<14> 上記<12>又は<13>の液状組成物を基材層の表面に付与し、加熱して、ポリマー層を形成し、前記基材層と前記ポリマー層とを有する積層体を得る、積層体の製造方法。
<15> 上記<1>~<9>のいずれかの複合粒子とフルオロオレフィン系ポリマーとを溶融混練した後、押出成形してフィルムを得る、フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、任意量の無機物を含有するとともに、高極性等の所望の物性を有する複合粒子が得られる。また、本発明によれば、複合粒子を含み分散安定性に優れる液状組成物、並びに、テトラフルオロエチレン系ポリマー及び無機物に基づく、優れた特性(電気特性、低線膨張性等)を高度に具備する積層体及びフィルムが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「平均粒子径(D50)」は、レーザー回折・散乱法によって求められる対象物(粒子)の体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって対象物の粒度分布を測定し、対象物の粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
「D90」は、同様にして測定される、対象物の体積基準累積90%径である。
「粉体動摩擦角」は、対象物を、JIS Z 8835:2016に規定される測定方法により測定して求められる値である。
「溶融温度(融点)」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度である。
「ガラス転移点(Tg)」は、動的粘弾性測定(DMA)法でポリマーを分析して測定される値である。
「粘度」は、B型粘度計を用いて、25℃で回転数が30rpmの条件下で液状組成物を測定し求められる値である。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「チキソ比」とは、液状組成物を回転数が30rpmの条件で測定して求められる粘度η1を、回転数が60rpmの条件で測定して求められる粘度η2で除して算出される値(η1/η2)である。
ポリマーにおける「単位」は、モノマーから直接形成された原子団であってもよく、得られたポリマーを所定の方法で処理して、構造の一部が変換された原子団であってもよい。ポリマーに含まれる、モノマーAに基づく単位を、単に「モノマーA単位」とも記す。
【0008】
本発明の複合粒子(以下、「本粒子」とも記す。)は、溶融温度が260~320℃であるテトラフルオロエチレン系ポリマーと、無機物とを含有する粒子である。
そして、テトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)は、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)を含み、極性官能基を有するポリマー(1)、及び、全単位に対してPAVE単位を2.0~5.0モル%含み、極性官能基を有さないポリマー(2)からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0009】
本粒子は、任意量の無機物を含有可能、かつ、極性等の物性を所望に調整可能な、安定性の高い、Fポリマーと無機物とのコンポジットである。その作用機構は必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
Fポリマーは、フィブリル耐性等の形状安定性に優れるだけでなく、単分子レベルで分子運動の制限が緩和された、自由度の高いコンフォメーションを有している。かかるFポリマーは、分子集合体レベルで微小球晶を形成しやすく、その表面には、微小な凹凸構造が生じやすい。このため、Fポリマーの分子集合体(Fポリマーの単独粒子等)は、その形状を損なうことなく安定したまま、無機物と、物理的に密に付着すると考えられる。また、密に付着した無機物間の相互作用が、さらに無機物の付着を促し、複合粒子を安定化させているとも考えられる。
その結果、本粒子は、任意量の無機物を含有しつつ、換言すれば、多量の無機物を含有しつつも、安定性が高く、Fポリマーの物性と無機物の物性とを高度に具備したと考えられる。
【0010】
本粒子におけるFポリマーは、TFE単位及びPAVE単位を含むポリマーである。
PAVEとしては、CF2=CFOCF3、CF2=CFOCF2CF3及びCF2=CFOCF2CF2CF3(PPVE)が好ましく、PPVEがより好ましい。
Fポリマーの溶融温度は、260~320℃であり、285~320℃が好ましい。
Fポリマーのガラス転移点は、75~125℃が好ましく、80~100℃がより好ましい。
Fポリマーの溶融粘度は、380℃において1×102~1×106Pa・sが好ましく、1×103~1×106Pa・sがより好ましい。
Fポリマーの溶融温度、ガラス転移点又は溶融粘度が、かかる範囲にあれば、上述した作用機構が亢進しやすい。
【0011】
ポリマー(1)が有する極性官能基は、ポリマーが含有する単位に含まれていてもよく、ポリマー主鎖の末端基に含まれていてもよい。後者のポリマーとしては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として極性官能基を有するポリマーや、プラズマ処理や電離線処理によって調製された、極性官能基を有するポリマーが挙げられる。
Fポリマーがポリマー(1)であれば、本粒子において、ポリマー(1)と無機物とが、物理的に付着しやすいだけでなく、化学的にも付着しやすくなり、上述した作用機構が亢進しやすい。
極性官能基としては、水酸基含有基、カルボニル基含有基及びホスホノ基含有基が好ましく、本粒子の分散性等の物性が高まりやすい観点から、水酸基含有基及びカルボニル基含有基がより好ましく、カルボニル基含有基がさらに好ましい。
【0012】
水酸基含有基としては、アルコール性水酸基含有基が好ましく、-CF2CH2OH、-C(CF3)2OH及び1,2-グリコール基(-CH(OH)CH2OH)がより好ましい。
カルボニル基含有基としては、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、アミド基、イソシアネート基、カルバメート基(-OC(O)NH2)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)及びカーボネート基(-OC(O)O-)が好ましく、酸無水物残基がより好ましい。
【0013】
ポリマー(1)がカルボニル基含有基を有する場合、ポリマー(1)におけるカルボニル基含有基の数は、主鎖の炭素数1×106個あたり、500~5000個が好ましく、600~3000個がより好ましく、800~1500個がさらに好ましい。なお、ポリマー(1)におけるカルボニル基含有基の数は、ポリマーの組成又は国際公開2020/145133号に記載の方法によって定量できる。この場合、ポリマー(1)と無機物の化学的な相互作用も高まり、ポリマー(1)の分子集合体の表面に、無機物が、物理的にも化学的にも密に付着しやすい。
【0014】
ポリマー(1)は、全単位に対して、TFE単位を90~99モル%、PAVE単位を0.5~9.97モル%及び極性官能基を有するモノマーに基づく単位を0.01~3モル%、それぞれ含有するのが好ましい。
また、極性官能基を有するモノマーとしては、無水イタコン酸、無水シトラコン酸及び5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(以下、「NAH」とも記す。)が好ましく、NAHがより好ましい。
ポリマー(1)の具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載されるポリマーが挙げられる。
【0015】
ポリマー(2)は、TFE単位及びPAVE単位のみからなり、全単位に対して、TFE単位を95.0~98.0モル%、PAVE単位を2.0~5.0モル%含有するのが好ましい。
ポリマー(2)におけるPAVE単位の含有量は、全単位に対して、2.1モル%以上が好ましく、2.2モル%以上がより好ましい。
かかるポリマーは、分子のコンフォメーションの自由度がより高く、上述した作用機構が亢進しやすい。
なお、ポリマー(2)が極性官能基を有さないとは、ポリマー主鎖を構成する炭素原子数の1×106個あたり、ポリマーが有する極性官能基の数が、500個未満であることを意味する。上記極性官能基の数は、100個以下が好ましく、50個未満がより好ましい。上記極性官能基の数の下限は、通常、0個である。
【0016】
ポリマー(2)は、ポリマー鎖の末端基として極性官能基を生じない、重合開始剤や連鎖移動剤等を使用して製造してもよく、極性官能基を有するポリマー(重合開始剤に由来する極性官能基をポリマー鎖の末端基に有するポリマー等)をフッ素化処理して製造してもよい。
フッ素化処理の方法としては、フッ素ガスを使用する方法(特開2019-194314号公報等を参照)が挙げられる。
【0017】
本粒子は、Fポリマー以外の他のポリマーを含んでいてもよい。ただし、本粒子に含まれるポリマーに占めるFポリマーの割合は、80質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
Fポリマー以外の他のポリマーとしては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド等の耐熱性樹脂が挙げられる。
【0018】
本粒子における無機物としては、酸化物、窒化物、金属単体、合金及びカーボンが好ましく、酸化ケイ素(シリカ)、金属酸化物(酸化ベリリウム、酸化セリウム、アルミナ、ソーダアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等)、窒化ホウ素、及びメタ珪酸マグネシウム(ステアタイト)がより好ましく、アルミニウム、マグネシウム、ケイ素、チタン、亜鉛から選択される元素の少なくとも1種を含有する無機酸化物、ステアタイト及び窒化ホウ素がさらに好ましく、シリカ及び窒化ホウ素が特に好ましく、シリカが最も好ましい。また、無機物は、セラミックスであってもよい。無機物は、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。2種以上の無機物を混合する場合、2種のシリカを用いてもよく、シリカと金属酸化物とを用いてもよい。
【0019】
かかる無機物は、Fポリマーとの相互作用が亢進しやすく、本粒子は、より多くの無機物を含有できる。また、本粒子から形成される成形物(例えば、後述するポリマー層及びフィルム)において、無機物に基づく物性が顕著に発現しやすい。
本粒子における無機物は、シリカを含むのが好ましい。
無機物におけるシリカの含有量は、50質量%以上が好ましく、75質量%以上がより好ましい。シリカの含有量の上限は、100質量%である。
【0020】
無機物は、その表面の少なくとも一部が、表面処理されているのが好ましい。
かかる表面処理に用いられる表面処理剤としては、多価アルコール(トリメチロールエタン、ペンタエリストール、プロピレングリコール等)、飽和脂肪酸(ステアリン酸、ラウリン酸等)、そのエステル、アルカノールアミン、アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン等)、パラフィンワックス、シランカップリング剤、シリコーン、ポリシロキサン、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、スズ、チタニウム、アンチモン等の酸化物、それらの水酸化物、それらの水和酸化物、それらのリン酸塩が挙げられる。
【0021】
シランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン及び3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0022】
無機物の比表面積(BET法)は、1~20m2/gが好ましく、5~8m2/gがより好ましい。この場合、無機物とFポリマーとの相互作用が亢進しやすい。また、成形物(ポリマー層等)において、無機物とFポリマーとがより均一に分布して、両者の物性がバランスしやすい。
【0023】
無機物の具体例としては、シリカフィラー(アドマテックス社製の「アドマファイン(登録商標)」シリーズ等)、ジカプリン酸プロピレングリコール等のエステルで表面処理された酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製の「FINEX(登録商標)」シリーズ等)、球状溶融シリカ(デンカ社製の「SFP(登録商標)」シリーズ等)、多価アルコール及び無機物で被覆処理されたルチル型酸化チタン(石原産業社製の「タイペーク(登録商標)」シリーズ等)、アルキルシランで表面処理されたルチル型酸化チタン(テイカ社製の「JMT(登録商標)」シリーズ等)、中空状シリカフィラー(太平洋セメント社製の「E-SPHERES」シリーズ、日鉄鉱業社製の「シリナックス」シリーズ、エマーソン・アンド・カミング社製「エココスフイヤー」シリーズ、日本アエロジル社製の疎水性AEROSILシリーズ「RX200」等)、タルクフィラー(日本タルク社製の「SG」シリーズ等)、ステアタイトフィラー(日本タルク社製の「BST」シリーズ等)、窒化ホウ素フィラー(昭和電工社製の「UHP」シリーズ、デンカ社製の「デンカボロンナイトライド」シリーズ(「GP」、「HGP」グレード)等)が挙げられる。
【0024】
無機物の形状は、粒子状であるのが好ましく、球状、針状(繊維状)、又は、板(柱)状であるのが好ましい。無機物の具体的な形状としては、球状、鱗片状、層状、葉片状、杏仁状、柱状、鶏冠状、等軸状、葉状、雲母状、ブロック状、平板状、楔状、ロゼット状、網目状、角柱状が挙げられ、球状及び鱗片状が好ましい。かかる形状の無機物を用いれば、成形物(ポリマー層等)中での無機物の分布の均一性が向上して、その機能を高めやすい。無機物は、球状のシリカ及び鱗片状の窒化ホウ素が好ましい。
【0025】
球状である無機物は、略真球状であるのが好ましい。略真球状とは、粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した際に、長径に対する短径の比が0.5以上である、球形の粒子の占める割合が95%以上であることを意味する。この場合の無機物の粒子において、長径に対する短径の比は、0.5以上が好ましく、0.8以上がより好ましい。上記比は、1未満が好ましい。かかる高度な略真球状の無機物の粒子を用いれば、成形物(ポリマー層等)において、無機物とFポリマーとがより均一に分布して、両者の物性がよりバランスしやすい。
【0026】
無機物の形状が鱗片状の場合、成形物において無機物がパスを形成しやすく、成形物が熱伝導性に優れやすい。
鱗片状である無機物のアスペクト比は、5以上が好ましく、10以上がより好ましい。アスペクト比は、1000以下が好ましい。
鱗片状である無機物の平均長径(長手方向の直径の平均値)は1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましい。平均長径は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。平均短径(短手方向の直径の平均値)は、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。平均短径は、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。この場合、成形物(ポリマー層等)において、無機物とFポリマーとがより均一に分布して、両者の物性がよりバランスしやすい。
【0027】
鱗片状である無機物は、単層構造であってもよく、複層構造であってもよい。
後者の無機物としては、表面に疎水層を有し、内部に親水層を有する無機物が挙げられる。その具体例としては、疎水層、親水層(含水層)、疎水層をこの順に備えた無機物が挙げられる。親水層の含水率は、0.3質量%以上が好ましい。この場合、液状組成物における本粒子の分散状態が安定しやすいだけでなく、成形物(ポリマー層等)における無機物の配向性も一層高まり、Fポリマーの物性と無機物の物性とを高度に具備した成形物(ポリマー層等)が得られやすい。
【0028】
本粒子のD50は、40μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、6μm以下がさらに好ましく、4μm以下が特に好ましい。本粒子のD50は、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。
また、本粒子のD90は、50μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましく、10μm以下が特に好ましい。
本粒子のD50及びD90が、かかる範囲にあれば、液状組成物中における本粒子の分散安定性と、液状組成物から得られる成形物(ポリマー層等)の物性とがより向上しやすい。
本粒子の粉体動摩擦角は、40度以下が好ましく、30度以下がより好ましく、20度以下がさらに好ましい。本粒子の粉体摩擦角は、5度以上が好ましい。かかる場合、本粒子は凝集し難く、液状組成物中における本粒子の分散安定性が向上しやすい。また、かかる本粒子は、より少ない力で液状組成物に分散させやすい。本粒子は、Fポリマーがポリマー(1)である場合、かかる粉体動摩擦角を発現しやすい。
【0029】
本粒子は、Fポリマーの粒子と無機物の粒子とを、Fポリマーの溶融温度以上の温度かつ浮遊状態にて衝突させる方法(以下、「乾式法A」とも記す。)、Fポリマーの粒子と無機物の粒子とを、押圧又は剪断状態にて衝突させる方法(以下、「乾式法B」とも記す。)、液中でFポリマーの粒子と無機物の粒子とを接触させて、Fポリマーの粒子を凝固させる方法(以下、「湿式法」とも記す。)等により製造するのが好ましい。
【0030】
乾式法Aでは、例えば、Fポリマーの粒子と無機物の粒子とを高温乱流の雰囲気下に供給し、Fポリマーの粒子と無機物の粒子との衝突により、それらの間に応力を付与して複合化する。かかる乾式法Aは、ハイブリダイゼーション処理と呼ばれる場合もある。
雰囲気は気体により形成される。使用可能な気体としては、空気、酸素ガス、窒素ガス、アルゴンガス又はこれらの混合ガスが挙げられる。
Fポリマーの粒子と無機物の粒子とは、予め混合した混合物として、雰囲気下に一括して供給してもよく、それぞれ別個に雰囲気下に供給してもよい。
【0031】
高温雰囲気下にFポリマーの粒子及び無機物の粒子を供給する際には、粒子同士が互いに凝集しない状態とするのが好ましい。かかる方法としては、粒子を媒体(気体や液体)中に浮遊させる方法を使用できる。なお、気体と液体との混合物を媒体として使用してもよい。
また、乾式法Aでは、高温乱流の雰囲気を準備した後、その中にFポリマーの粒子及び無機物の粒子を供給してもよく、Fポリマーの粒子及び無機物の粒子を媒体中に浮遊させた後、その媒体を加熱して高温乱流の雰囲気を形成してもよい。
前者で使用可能な装置としては、例えば、円筒状の容器内で高速で回転する撹拌体(例えば、撹拌翼)により、粒子を攪拌しつつ、容器の内壁と撹拌体との間で粒子を挟持して応力を加える装置(例えば、奈良機械製作所製、「ハイブリダイゼーションシステム」)が挙げられる。
雰囲気の温度は、Fポリマーの溶融温度以上が好ましく、260~400℃がより好ましく、320~380℃がさらに好ましい。
【0032】
なお、無機物の粒子が、その一次粒子同士が凝集した凝集体を多く含む場合、高温雰囲気下に供給するのに先立って、凝集体を解砕してもよい。
凝集体の解砕方法としては、ジェットミル、ピンミル、ハンマーミルを使用する方法が挙げられる。
【0033】
乾式法Bでは、例えば、中心軸周りに回転する筒状回転体の内周面(受け面)に遠心力により、Fポリマーの粒子及び無機物の粒子を押し付け、内周面と微小距離で離間して配置されたインナーピースとの協働により、上記粒子に押圧力又はせん断力を付与して複合化する。かかる乾式法Bは、メカノフュージョン処理と呼ばれる場合もある。
筒状回転体内の雰囲気は、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気とすることができる。雰囲気の温度は、Fポリマーの溶融温度以下が好ましく、100℃以下がより好ましい。
【0034】
筒状回転体の内周面とインナーピースとの離間距離は、Fポリマーの粒子及び無機物の粒子の平均粒子径に応じて適宜設定される。この離間距離は、通常、1~10mmが好ましい。
筒状回転体の回転速度は、500~10000rpmが好ましい。この場合、本粒子の製造効率を高めやすい。
なお、無機物の粒子が、その一次粒子同士が凝集した凝集体を多く含む場合、筒状回転体内に供給するのに先立って、上記乾式法Aで記載したのと同様にして、凝集体を解砕してもよい。
【0035】
乾式法Bは、回転軸を水平方向として配置され、楕円状(異形状)の断面を有する粉砕混合室を備える回転槽と、この回転槽の粉砕混合室内に回転可能に挿入され、回転軸を回転槽の回転軸と同心位置として配置され、楕円状(異形状)の断面を有する粉砕混合翼とを備える粉砕混合装置を用いても行うことができる。
かかる粉砕混合装置では、粉砕混合室の短径部と粉砕混合翼の長径部との間で、Fポリマーの粒子及び無機物の粒子を押し付け、上記粒子に押圧力又はせん断力を付与して複合化する。
【0036】
また、粉砕混合装置では、回転槽の回転方向と粉砕混合翼の回転方向とは、逆方向であるのが好ましく、回転槽の回転速度が粉砕混合翼の回転速度より遅く設定するのが好ましい。
かかる粉砕混合装置によれば、粉砕混合室と粉砕混合翼とを異形状の断面とし、粉砕混合室内において自重による落下で流動するFポリマーの粒子及び無機物の粒子に対して瞬間的な押圧力又はせん断力を繰り返して付与できる。このため、上記粒子に対して熱による悪影響を低減しつつ、短時間で粉砕混合できるので、目的の特性を有する本粒子を得やすい。
【0037】
湿式法では、例えば、無機物の粒子を、Fポリマーの粒子を含む分散液に添加して混合する。具体的には、無機物の粒子を液状分散媒に分散させた後、これをFポリマーの粒子を含む分散液に添加して混合する。かかる方法は、無機物の粒子とFポリマーの粒子との混合に有利である。
Fポリマーの粒子と無機物の粒子とを含む混合液を、不安定化させ、その凝固を引き起こせば、Fポリマーの粒子と無機物の粒子とが複合化される。
無機物がシリカである場合、無機物の粒子には、コロイド状シリカが好適に使用できる。
【0038】
Fポリマーの粒子を含む分散液は、無機物の粒子を添加している途中又は添加を終了した後に撹拌してもよい。
この攪拌に使用する装置としては、例えば、プロペラブレード、タービンブレード、パドルブレード、シェル状ブレード等のブレード(攪拌翼)を備える攪拌装置が挙げられる。
なお、この際の攪拌速度は、Fポリマーの粒子を含む分散液中に、無機物の粒子を効率的に分散できる程度であればよく、Fポリマーの粒子に高い剪断力を付与する必要はない。
【0039】
Fポリマーの粒子には、無機物の粒子との密着性(接着性)をより高める観点から、無機物の粒子との混合に先立って、又は、混合と同時に、表面処理を行うのが好ましい。
表面処理としては、プラズマ処理、コロナ放電処理、エッチング処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、オゾン暴露処理が挙げられ、プラズマ処理(特に、低温プラズマ処理)が好ましい。
また、乾式法A及び乾式法Bによれば、Fポリマーの粒子と無機物の粒子とを衝突させる際に、これらの粒子に熱が均一に伝わりやすく、本粒子の緻密化及び球形化が進行しやすく好ましい。この場合の本粒子の球形度は、0.5以上が好ましい。
【0040】
本粒子の好適な態様としては、Fポリマーをコアとし、このコアの表面に無機物が付着している態様(以下、「態様I」とも記す。)、無機物をコアとし、このコアの表面にFポリマーが付着している態様(以下、「態様II」とも記す。)が挙げられる。
ここで、「コア」とは、本粒子の粒子形状を形成するのに必要な核(中心部)を意味し、本粒子の組成における主成分を意味するのではない。
コアの表面に付着する付着物(無機物又はFポリマー)は、コアの表面の一部にのみ付着していてもよく、その大部分乃至全面にわたって付着していてもよい。前者の場合、付着物は埃状にコアの表面にまとわり付くような状態、換言すれば、コアの表面の多くの部分を露出させた状態となっているとも言える。後者の場合、付着物はコアの表面に満遍なくまぶされた態様であるか、又はコアの表面を被覆した状態となっているとも言え、かかる本粒子は、コアとコアを被覆するシェルとからなるコア・シェル構造を有するとも言える。
【0041】
態様Iの場合、Fポリマーのコア及び無機物は、それぞれ粒子状であるのが好ましい。この場合、本粒子は、Fポリマーより硬度の高い無機物が表面に露出するので流動性が高まり、その取り扱い性が向上しやすい。
なお、態様Iの場合、Fポリマーのコアは、Fポリマーの単一粒子で構成されてもよく、Fポリマーの粒子の集合物で構成されてもよい。
態様Iの本粒子は、乾式法A又は乾式法Bにより製造するのが好ましい。この場合、Fポリマーの粒子のD50を無機物の粒子のD50よりも大きく設定し、Fポリマーの粒子の量を無機物の粒子の量よりも多く設定するのが好ましい。このような関係に設定して、乾式法A又は乾式法Bにより本粒子を製造すれば、態様Iの本粒子を得やすい。
【0042】
無機物の粒子のD50は、Fポリマーの粒子のD50を基準として、0.0001~0.5が好ましく、0.0001~0.1がより好ましく、0.002~0.02がさらに好ましい。具体的な好適な態様としては、Fパウダーの粒子のD50が20μm超、かつ無機物の粒子のD50が10μm以下である態様や、Fパウダーの粒子のD50が2μm超、かつ無機物の粒子のD50が1μm以下である態様や、Fパウダーの粒子のD50が1μm超、かつ無機物の粒子のD50が0.1μm以下である態様が挙げられる。
また、無機物の粒子の量は、Fポリマーの粒子100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。その上限は、50質量部が好ましく、25質量部がより好ましく、5質量部がさらに好ましい。
このようにして得られる態様Iの本粒子では、FポリマーのコアのD50が無機物の粒子のD50より大きく、かつ、無機粒子に占めるFポリマーの質量が無機物の質量より多くなる。この場合、Fポリマーのコアの表面は、より多量の無機物の粒子により被覆されて、態様Iの本粒子は、コア・シェル構造を有するようになる。また、この場合、Fパウダーの粒子同士の凝集が抑制され、単独のFパウダーの粒子からなるコアに無機物の粒子が付着した複合粒子(本粒子)が得られやすい。
【0043】
態様Iにおいて、無機物の粒子は、球状又は鱗片状であるのが好ましく、球状であるのが好ましく、略真球状であるのがより好ましい。この場合の無機物の粒子において、長径に対する短径の比は0.6以上が好ましく、0.8以上がより好ましい。上記比は、1未満が好ましい。ここで「球状」とは、真球状だけでなく、若干歪んだ球状も含む。
かかる高度な略真球状の無機物の粒子を用いれば、成形物(ポリマー層等)において、無機物とFポリマーとがより均一に分布して、両者の物性がよりバランスしやすい。
【0044】
態様Iにおいて、無機物の粒子のD50は0.001~10μmの範囲が好ましく、0.001~0.3μmの範囲がより好ましく、0.005~0.2μmがさらに好ましく、0.01~0.1μmが特に好ましい。D50がかかる範囲にあれば、本粒子の取り扱い性や流動性が向上しやすく、また分散安定性が高まりやすい。
また、無機物の粒子の粒度分布が、D90/D10の値を指標として、3以下であるのが好ましく、2.9以下であるのがより好ましい。ここで、「D10」は、D50及びD90と同様にして測定される、対象物の体積基準累積10%径である。粒度分布が狭いと、得られる本粒子の流動性制御が容易になる観点より好ましい。
【0045】
態様Iにおいて、無機物の粒子は、その表面の少なくとも一部が表面処理されているのが好ましく、ヘキサメチルジシラザン等のシラザン化合物や、シランカップリング剤等により表面処理されているのがより好ましい。シランカップリング剤としては、上述した化合物が挙げられる。
【0046】
態様Iにおいて、無機物の粒子は、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。2種の無機物の粒子を混合して用いる場合、各無機物の粒子の平均粒子径は互いに異なっていてもよく、各無機物の粒子の含有量の質量比は、求める機能に応じて適宜設定できる。
【0047】
また、態様Iの場合、無機物の粒子の一部は、Fポリマーのコアに埋入しているのが好ましい。これにより、無機物の粒子のFポリマーのコアへの密着性がより向上し、本粒子からの無機物の粒子の脱落がより生じにくくなる。すなわち、本粒子の安定性がより向上する。
態様Iの本粒子において、FポリマーのコアのD50は、0.1μm以上が好ましく、1μm超がより好ましい。その上限は、100μmが好ましく、50μmがより好ましく、10μmがさらに好ましい。
また、無機物の粒子のD50は、0.001μm以上が好ましく、0.01μm以上がより好ましい。その上限は、10μmが好ましく、1μmがより好ましく、0.1μmがさらに好ましい。
【0048】
また、態様Iの本粒子に占めるFポリマーの割合は、50~99質量%が好ましく、75~99質量%がより好ましい。無機物の割合は、1~50質量%が好ましく、1~25質量%がより好ましい。
また、エネルギー分散型X線分光法で測定される、態様Iの本粒子の表面における、フッ素元素含有量の無機元素含有量に対する比は、1未満であるのが好ましく、0.5以下であるのがより好ましく、0.1以下であるのがさらに好ましい。上記比は、0以上であるのが好ましい。なお、この測定における対象元素は炭素元素、フッ素元素、酸素元素及びケイ素元素の4元素とし、その総計に占める、フッ素元素及びケイ素元素のそれぞれの割合(単位:Atomic%)を、それぞれの元素の含有量とした場合である。
かかる質量比の態様Iの本粒子は、換言すれば、表面が高度に無機物で被覆された粒子であり、無機物に起因する粒子物性(液中分散性等)に優れるだけでなく、それから形成される成形物が、無機物の物性とFポリマーの物性とを高度に具備しやすい。
【0049】
態様Iの本粒子は、表面に付着した無機物の物性に応じて、さらに表面処理してもよい。かかる表面処理の具体例としては、無機物がシリカを含む態様Iの本粒子をシロキサン類(ポリジメチルシロキサン等)又はシランカップリング剤により表面処理する方法が挙げられる。
かかる表面処理は、本粒子が分散した分散液とシロキサン類又はシランカップリング剤とを混合し、シロキサン類又はシランカップリング剤を反応させ、粒子を回収して実施できる。
シランカップリング剤としては、上述した化合物が好ましい。
かかる方法によれば、上記本粒子の表面シリカ量を調整できるだけでなく、その表面物性を更に調整できる。
【0050】
態様IIの場合、Fポリマーの少なくとも一部は、無機物のコアの表面に融着しているのが好ましい。これにより、Fポリマーの無機物のコアへの密着性がより向上し、本粒子からのFポリマーの脱落がより生じにくくなる。すなわち、本粒子の安定性がより向上する。
また、無機物のコアは、粒子状であるのが好ましい。この場合、本粒子は、無機物のコアの表面がFポリマーで覆われやすく、よって、本粒子が凝集するのを防止しやすい。
態様IIの本粒子も、乾式法A又は乾式法Bにより製造するのが好ましい。この場合、好ましくは、無機物の粒子のD50をFポリマーの粒子のD50よりも大きく設定し、無機物の粒子の量をFポリマーの粒子の量よりも多く設定する。このような関係に設定して、乾式法A又は乾式法Bにより本粒子を製造すれば、態様IIの本粒子を得やすい。
【0051】
Fポリマーの粒子のD50は、無機物の粒子のD50を基準として、0.0001~0.02が好ましく、0.002~0.1がより好ましい。
また、Fポリマーの粒子の量は、無機物の粒子100重量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。その上限は、50質量部が好ましく、10質量部がより好ましく、3質量部がさらに好ましい。
このようにして得られる態様IIの本粒子では、無機物のコアのD50がFポリマーの粒子のD50より大きく、かつ、それに占める無機物の質量がFポリマーの質量より多くなる。この場合、無機物のコアの表面は、より多量のFポリマーの粒子により被覆されて、態様IIの本粒子は、コア・シェル構造を有するようになる。
【0052】
態様IIの本粒子において、無機物のコアのD50は、0.1μm以上が好ましく、1μm超がより好ましい。その上限は、30μmが好ましく、6μmがより好ましい。
また、態様IIの本粒子に占める無機物の割合は、50~99質量%が好ましく、60~90質量%がより好ましい。Fポリマーの割合は、1~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましい。
【0053】
本発明の液状組成物(以下、「本組成物」とも記す。)は、本粒子と、液状分散媒とを含み、本粒子が液状分散媒に分散した組成物である。
本粒子は、充分に高い極性を発現可能であり、多量に液状分散媒に添加しても、安定的に分散できる。また、かかる液状組成物から形成される成形物(ポリマー層、フィルム等)では、Fポリマーと無機物とがより均一に分布して、Fポリマーによる物性(電気特性、接着性等)と無機物による物性(低線膨張性等)とが高度に発現しやすい。
本発明における液状分散媒は、本粒子の分散媒として機能する、25℃で不活性な液体化合物である。液状分散媒は、水であってもよく、非水系分散媒であってもよい。液状分散媒は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。この場合、異種の液体化合物は相溶するのが好ましい。
【0054】
液状分散媒の沸点は、125~250℃が好ましい。この範囲において、液状組成物から液状分散媒を除去する際に、本粒子が、高度に流動して緻密にパッキングし、その結果、緻密な成形物(ポリマー層等)が形成されやすい。
液状分散媒としては、本組成物中の本粒子の分散安定性を高める観点から、水、アミド、ケトン及びエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種の液体化合物が好ましく、水、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン及びシクロペンタノンがより好ましい。
【0055】
液状分散媒がN-メチル-2-ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒を含む場合の本粒子における無機物は、その表面の少なくとも一部が、アミノ基、ビニル基及び(メタ)アクリロイルオキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有するシランカップリング剤で表面処理されているのが好ましく、フェニルアミノシランで表面処理されているのがより好ましい。
液状分散媒がトルエン等の非極性溶媒を含む場合の本粒子における無機物は、その表面の少なくとも一部が、疎水化処理されているのが好ましく、アルキル基及びフェニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基を有するシランカップリング剤で表面処理されているのが好ましい。
なお、液状分散媒が水等のプロトン性極性溶媒を含む場合の本粒子における無機物は、表面処理されていないのが好ましい。
かかる液状分散媒と無機物の組み合わせの場合、本組成物が分散安定性に優れやすい。
【0056】
本組成物における本粒子の含有量は、1~50質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましい。
本組成物における液状分散媒の含有量は、50~99質量%が好ましく、60~90質量%がより好ましい。
【0057】
本組成物は、より本粒子の分散安定性を向上させ、粒子沈降を抑制する観点、ハンドリング性を向上させる観点から、さらに界面活性剤を含むのが好ましい。界面活性剤は、ノニオン性であるのが好ましい。
界面活性剤の親水部位は、オキシアルキレン基又はアルコール性水酸基を有するのが好ましい。
界面活性剤の疎水部位は、アルキル基、アセチレン基、ポリシロキサン基、ペルフルオロアルキル基又はペルフルオロアルケニル基を有するのが好ましい。界面活性剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、アセチレン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤が好ましく、シリコーン系界面活性剤がより好ましい。シリコーン系界面活性剤は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルと併用してもよい。
【0058】
かかる界面活性剤の具体例としては、「フタージェント」シリーズ(ネオス社製)、「サーフロン」シリーズ(AGCセイミケミカル社製)、「メガファック」シリーズ(DIC社製)、「ユニダイン」シリーズ(ダイキン工業社製)、「BYK-347」、「BYK-349」、「BYK-378」、「BYK-3450」、「BYK-3451」、「BYK-3455」、「BYK-3456」(ビックケミー・ジャパン株式会社社製)、「KF-6011」、「KF-6043」(信越化学工業株式会社製)が挙げられる。
本組成物が界面活性剤を含む場合、その含有量は、1~15質量%が好ましい。この場合、本組成物中における本粒子の分散安定性がより向上しやすい。
【0059】
本組成物の粘度は、50mPa・s以上が好ましく、100mPa・s以上がより好ましい。本組成物の粘度は、1000mPa・s以下が好ましく、800mPa・s以下がより好ましい。この場合、本組成物は塗工性に優れるため、任意の厚さを有する成形物(ポリマー層等)を形成しやすい。
本組成物のチキソ比は、1.0以上が好ましい。本組成物のチキソ比は、3.0以下が好ましく、2.0以下がより好ましい。この場合、本組成物は塗工性に優れるだけでなく、その均質性にも優れるため、より緻密な成形物(ポリマー層等)を形成しやすい。
【0060】
本組成物は、さらにFポリマー以外のポリマー又はその前駆体を含んでいてもよい。かかるポリマー又はその前駆体としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、TFE単位とPAVE単位とを含むポリマー(PFA)、TFE単位とヘキサフルオロプロピレンに基づく単位とを含むポリマー(FEP)、TFE単位とエチレンに基づく単位とを含むポリマー(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン、ポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミド、エポキシ樹脂、マレイミド樹脂等が挙げられる。なお、PFAは、Fポリマーであってもよく、Fポリマー以外のPFAであってもよい。
これらのポリマー又はその前駆体は、本組成物に分散していてもよく、溶解していてもよい。
また、これらのポリマー又はその前駆体は、熱可塑性であってもよく、熱硬化性であってもよい。
本組成物は、上記成分以外にも、チキソ性付与剤、粘度調節剤、消泡剤、シランカップリング剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、難燃剤、各種フィラー等の他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0061】
本発明の積層体の製造方法(以下、「本法1」とも記す。)では、本組成物を基材層の表面に付与し、加熱して、ポリマー層を形成し、基材層とポリマー層とを有する積層体を得る。より具体的には、本法1では、本組成物を基材層の表面に付与して液状被膜を形成し、この液状被膜を加熱して液状分散媒を除去して乾燥被膜を形成し、さらに乾燥被膜を加熱してFポリマーを焼成すれば、Fポリマーと無機物とを含むポリマー層を基材層の表面に有する積層体が得られる。
液状被膜の加熱における温度は、120℃~200℃が好ましい。一方、乾燥被膜の加熱における温度は、250℃~400℃が好ましく、300~380℃がより好ましい。
それぞれの加熱の方法としては、オーブンを用いる方法、通風乾燥炉を用いる方法、赤外線等の熱線を照射する方法が挙げられる。
【0062】
基材層としては、金属基板(銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、それらの合金等の金属箔等)、樹脂フィルム(PTFE、ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン、ポリアミド、ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミド等のフィルム)、プリプレグ(繊維強化樹脂基板の前駆体)が挙げられる。
本組成物の付与は、塗布により行うのが好ましい。塗布方法としては、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアオフセット法、ナイフコート法、キスコート法、バーコート法、ダイコート法、ファウンテンメイヤーバー法、スロットダイコート法が挙げられる。
【0063】
ポリマー層の厚さは、0.1~150μmが好ましい。具体的には、基材層が金属箔である場合、ポリマー層の厚さは、1~30μmが好ましい。基材層が樹脂フィルムである場合、ポリマー層の厚さは、1~150μmが好ましく、10~50μmがより好ましい。
本組成物は、基材層の一方の表面にのみ付与してもよく、基材層の両面に付与してもよい。前者においては、基材層と、基材層の片方の表面にポリマー層を有する積層体が得られ、後者においては、基材層と、基材層の両方の表面にポリマー層を有する積層体が得られる。後者の積層体は、より反りが発生しにくいため、その加工に際するハンドリング性に優れる。
かかる積層体の具体例としては、金属箔と、その金属箔の少なくとも一方の表面にポリマー層を有する金属張積層体、ポリイミドフィルムと、そのポリイミドフィルムの両方の表面にポリマー層を有する多層フィルムが挙げられる。
【0064】
なお、金属箔には、2層以上の金属箔を含むキャリア付金属箔を使用してもよい。キャリア付金属箔としては、キャリア銅箔(厚さ:10~35μm)と、剥離層を介してキャリア銅箔上に積層された極薄銅箔(厚さ:2~5μm)とからなるキャリア付銅箔が挙げられる。かかるキャリア付銅箔を使用すれば、MSAP(モディファイドセミアディティブ)プロセスによるファインパターンの形成が可能である。上記剥離層としては、ニッケル又はクロムを含む金属層、又はこの金属層を積層した多層金属層が好ましい。
キャリア付金属箔の具体例としては、福田金属箔粉工業株式会社製の商品名「FUTF-5DAF-2」が挙げられる。
【0065】
本法1における積層体の最表面(ポリマー層の基材層と反対側の表面)は、その接着性を一層向上させるために、さらに表面処理されてもよい。
表面処理の方法としては、アニール処理、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、エキシマ処理、シランカップリング処理が挙げられる。
アニール処理における条件は、温度を120~180℃とし、圧力を0.005~0.015MPaとし、時間を30~120分間とするのが好ましい。
プラズマ処理に用いるガスとしては、酸素ガス、窒素ガス、希ガス(アルゴン等)、水素ガス、アンモニアガス、酢酸ビニルが挙げられる。これらのガスは、1種を使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0066】
本法1における積層体の最表面には、さらに他の基板を積層してもよい。
他の基板としては、耐熱性樹脂フィルム、繊維強化樹脂板の前駆体であるプリプレグ、耐熱性樹脂フィルム層を有する積層体、プリプレグ層を有する積層体が挙げられる。
なお、プリプレグは、強化繊維(ガラス繊維、炭素繊維等)の基材(トウ、織布等)に熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を含浸させたシート状の基板である。
耐熱性樹脂フィルムは、1種以上の耐熱性樹脂を含むフィルムである。耐熱性樹脂としては、ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミドが挙げられ、ポリイミド(特に、芳香族性ポリイミド)が好ましい。
【0067】
積層の方法としては、積層体と他の基板とを熱プレスする方法が挙げられる。
他の基板がプリプレグである場合の熱プレスの条件は、温度を120~400℃とし、雰囲気の圧力を20kPa以下の真空とし、プレス圧力を0.2~10MPaとするのが好ましい。
本法1における積層体は、電気特性に優れるポリマー層を有するため、プリント基板材料として好適である。具体的には、本発明における積層体は、フレキシブル金属張積層板やリジッド金属張積層板としてプリント基板の製造に使用でき、特に、フレキシブル金属張積層板としてフレキシブルプリント基板の製造に好適に使用できる。
【0068】
基材層が金属箔である積層体(ポリマー層付金属箔)の金属箔をエッチング加工し、伝送回路を形成してプリント基板が得られる。具体的には、金属箔をエッチング処理して所定の伝送回路に加工する方法や、金属箔を電解めっき法(セミアディティブ法(SAP法)、MSAP法等)によって所定の伝送回路に加工する方法によって、プリント基板を製造できる。
ポリマー層付金属箔から製造されたプリント基板は、金属箔から形成された伝送回路とポリマー層とをこの順に有する。プリント基板の構成の具体例としては、伝送回路/ポリマー層/プリプレグ層、伝送回路/ポリマー層/プリプレグ層/ポリマー層/伝送回路が挙げられる。
かかるプリント基板の製造においては、伝送回路上に層間絶縁膜を形成してもよく、伝送回路上にソルダーレジストを積層してもよく、伝送回路上にカバーレイフィルムを積層してもよい。これらの層間絶縁膜、ソルダーレジスト及びカバーレイフィルムを、本組成物で形成してもよい。
【0069】
本発明のフィルムの製造方法(以下、「本法2」とも記す。)では、本粒子とフルオロオレフィン系ポリマーとを溶融混練した後、押出成形してフィルムを得る。
本粒子は、フルオロオレフィン系ポリマーと相互作用(相溶性)の高いFポリマーを含むため、両者は均一に溶融混錬され、得られるフィルムでは、Fポリマーとフルオロオレフィン系ポリマーと無機物とが均一に分布して、Fポリマー及びフルオロオレフィン系ポリマーによる物性(特に、電気特性)と無機物による物性(低線膨張性等)とが高度に発現しやすい。
本粒子と溶融混錬するフルオロオレフィン系ポリマーは、Fポリマーであってもよく、Fポリマー以外の、フルオロオレフィンに基づく単位を含むポリマーであってもよい。
【0070】
フルオロオレフィン系ポリマーとしては、PTFE、PFA、FEP、ETFE、PVDFが挙げられる。PFAは、Fポリマーであってもよく、Fポリマー以外のPFAであってもよい。
フルオロオレフィン系ポリマーの溶融温度(融点)は、160~330℃が好ましい。
フルオロオレフィン系ポリマーのガラス転移点は、45~150℃が好ましい。
フルオロオレフィン系ポリマーは、極性官能基を有するのが好ましい。Fポリマーとフルオロオレフィン系ポリマーは、共に極性官能基を有するのが好ましい。なお、極性官能基の種類及び導入方法は、好適な種類及び導入方法も含めて、上述したFポリマーにおけるそれらと同様である。
【0071】
本粒子とTFE系ポリマーとの溶融混練は、例えば、単軸混練機を使用して行われる。単軸混練機は、シリンダと、シリンダ内に回転可能に設けられた1本のスクリューとを有する。単軸混練機を使用すれば、溶融混練の際に、Fポリマー及びTFE系ポリマーの劣化を防止しやすい。
この場合、スクリューの全長をL(mm)とし、直径をD(mm)としたとき、直径Dに対する全長Lの比で表される有効長(L/D)は、30~45が好ましい。有効長が上記範囲であれば、Fポリマー及びTFE系ポリマーの劣化を防止しつつ、これらに対して充分な剪断応力を付与でき、溶融混練物の温度ムラを低減しやすい。
スクリューの回転速度は、10~50ppmが好ましい。
【0072】
溶融混練物は、シリンダの先端に配置されたTダイから吐出される。その後、Tダイから吐出された溶融混練物は、複数本の冷却ロールに接触して固化し、フィルム化される。得られた長尺のフィルムは、巻き取りロールに巻き取られる。
フィルムの厚さは、5~150μmが好ましく、10~100μmがより好ましい。
フィルムの形状は、長尺状であってもよく、葉用状であってもよい。長尺状のフィルムの長手方向の長さは、100m以上が好ましい。長手方向の長さの上限は、通常、2000mである。また、長尺状の短手方向の長さは、1000mm以上が好ましい。短手方向の長さの上限は、通常、3000mmである。
【0073】
得られたフィルムを基材層に重ね合わせた後、熱プレスすることにより、フィルムから形成されたポリマー層と基材層とを有する積層体が得られる。
熱プレスの条件は、温度を120~300℃とし、雰囲気の圧力を20kPa以下の真空とし、プレス圧力を0.2~10MPaとするのが好ましい。
なお、基材層、積層体を用いたプリント基板及び多層プリント回路基板の態様は、好適な態様も含めて、上述した本法1におけるそれらと同様である。
また、Tダイに代えて丸ダイを使用して、インフレーションフィルムを製造してもよい。
【0074】
以上、本発明の複合粒子、複合粒子の製造方法、液状組成物、積層体の製造方法及びフィルムの製造方法について説明したが、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されない。
例えば、本発明の複合粒子及び液状組成物は、それぞれ、上記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてよい。
また、本発明の複合粒子の製造方法、積層体の製造方法及びフィルムの製造方法は、それぞれ、上記実施形態の構成において、他の任意の工程を追加で有してもよいし、同様の作用を生じる任意の工程と置換されていてよい。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.各成分の準備
[ポリマーの粒子]
・Fポリマー1の粒子1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%含有し、極性官能基を有するFポリマー1(溶融温度:300℃)からなる粒子(D50:2.0μm)
・Fポリマー2の粒子:TFE単位及びPPVE単位を、この順に97.5モル%、2.5モル%含有し、極性官能基を有さないFポリマー2(溶融温度:300℃)からなる粒子(D50:2.6μm)
・非Fポリマーの粒子:TFE単位及びPPVE単位を、この順に98.7モル%、1.3モル%含有し、極性官能基を有さない非Fポリマー(溶融温度:305℃)からなる粒子(D50:2.1μm)
・PTFEの粒子:フィブリル性の非熱溶融性PTFEからなる粒子(D50:2.4μm)
・Fポリマー1の粒子2:Fポリマー1からなる粒子(D50:25μm)
なお、、主鎖炭素数1×106個あたりのカルボニル基含有基の数は、Fポリマー1で1000個であり、Fポリマー2で40個である。Fポリマー1及びFポリマー2の380℃における溶融粘度は、いずれも1×103~1×106Pa・sの範囲にあり、Fポリマー1及びFポリマー2のガラス転移点は、いずれも80~100℃の範囲にある。
[無機物の粒子]
・シリカの粒子1:シリカからなる球状粒子(D50:0.5μm、略真球状)
・シリカの粒子2:シランカップリング剤により表面処理されたシリカからなる球状粒子(D50:0.03μm、略真球状)
・窒化ホウ素の粒子:窒化ホウ素からなる鱗片状粒子(D50:7.0μm、アスペクト比:1000以下)
【0076】
2.複合粒子の作製
(例1)
98質量部のFポリマー1の粒子1と2質量部のシリカの粒子1との混合物を調製した。
次に、内周面に受け面を有する筒状回転体と、受け面と微小距離で離間して配置されたインナーピースとを備える粉体処理装置(メカノフュージョン装置)に、混合物を投入した。その後、筒状回転体を中心軸周りに高速で回転させた。この際生じる遠心力により、粒子を受け面に押し付け、受け面とインナーピースとの間の狭幅空間(押圧空間)に混合物を導入し、粒子を剪断状態にて衝突させて処理した。なお、処理中の筒状回転体の雰囲気の温度を100℃以下に保持し、処理時間は15分とした。
得られた処理物は、微粉状のパウダーであった。また、このパウダーを、光学顕微鏡で分析した結果、Fポリマー1をコアとし、このコアの表面にシリカの粒子1が付着してシェルが形成されたコア・シェル構造の複合粒子1であった。
エネルギー分散型X線分光法で測定される、複合粒子の表面におけるフッ素元素含有量のケイ素元素含有量に対する比(以下、「F/Si比」とも記す。)は0.006であった。なお、測定における対象元素は炭素元素、フッ素元素、酸素元素及びケイ素元素の4元素とし、その総計に占める、フッ素元素及びケイ素元素のそれぞれの割合(単位:Atomic%)を、それぞれの元素の含有量とした。
複合粒子1の形状は球状であり、そのD50は20μm、粉体動摩擦角は18度であった。
なお、複合粒子1を製造し、続いて、メカノフュージョン装置を洗浄せずに、98質量部のFポリマー1の粒子1と2質量部のシリカの粒子1の混合物をメカノフュージョン装置に投入して、処理物を得たところ、上記複合粒子1と同様の粒子であった。
【0077】
(例2)
混合物の調製を、95質量部のFポリマー1の粒子1と、5質量部のシリカの粒子1とで行った以外は、例1と同様にして複合粒子2を得た。複合粒子2のF/Si比は0.337であり、そのD50は30μmであった。
(例3)
混合物の調製を、75質量部のFポリマー1の粒子1と、25質量部のシリカの粒子1とで行った以外は、例1と同様にして複合粒子3を得た。複合粒子3のF/Si比は0.672であり、そのD50は40μmであった。
【0078】
(例4)
Fポリマー1の粒子1をFポリマー2の粒子に変更した以外は、例2と同様にして複合粒子4を得た。複合粒子4のF/Si比は0.555であり、そのD50は35μm、粉体摩擦角は25度であった。
(例5)
Fポリマー1の粒子1を非Fポリマーの粒子に変更した以外は、例1と同様にして複合粒子5を得た。複合粒子5のF/Si比は1超であり、そのD50は50μm、粉体摩擦角は45度であった。
(例6)
Fポリマー1の粒子1をPTFEの粒子に変更した以外は、例1と同様にして、処理した。得られた処理物は、非粒子状の塊状物であった。
【0079】
(例7)
混合物の調製を、10質量部のFポリマー1の粒子1と、90質量部のシリカの粒子1とで行った以外は、例1と同様にして複合粒子7を得た。この複合粒子7は、光学顕微鏡で分析した結果、シリカをコアとし、このコアの表面にFポリマー1が付着してシェルが形成されたコア・シェル構造の複合粒子であった。
(例8)
シリカの粒子1をシリカの粒子2に変更した以外は、例1と同様にして複合粒子8を得た。複合粒子8のF/Si比は0.005であり、そのD50は5.5μmであり、粉体動摩擦角は16度であった。
【0080】
(例9)
まず、70質量部のFポリマー1の粒子2と30質量部の窒化ホウ素の粒子との混合物を調製した。
次に、円筒状の容器内で高速で回転する撹拌翼により、粒子を攪拌しつつ、容器の内壁と撹拌体との間で粒子を挟持して応力を加える粉体処理装置(ハイブリダイゼーションシステム)に、混合物を投入した。その後、Fポリマー1の粒子2と窒化ホウ素の粒子とを高温乱流の雰囲気下で浮遊させつつ衝突させ、それらの間に応力を付与して複合化処理した。なお、処理中の装置内は窒素雰囲気下、温度を100℃以下に保持し、処理時間は15分とした。
得られた処理物は、微粉状のパウダーであった。また、このパウダーを、光学顕微鏡で分析した結果、Fポリマー1をコアとし、このコアの表面に窒化ホウ素の粒子が付着してシェルが形成されたコア・シェル構造の複合粒子9であった。
なお、複合粒子9の形状は球状であり、そのD50は35μm、粉体動摩擦角は26度であった。
【0081】
3.評価
3-1.分散安定性の評価
各複合粒子1~5、7~9を水に分散させて分散液を調製し、さらに、所定の時間放置し、その分散安定性を、以下の基準に従って評価した。
[評価基準]
〇:調製に際して泡立ちが抑制され、調製後、25℃にて3日間静置しても、沈降物が生じなかった。
△:調製に際して泡立ちがあるが、調製後、25℃にて3日間静置しても、沈降物が生じなかった。
×:25℃にて3日間静置すると、沈降物が生じた。
その結果、複合粒子1、2、7~9は「〇」、複合粒子3及び4は「△」、複合粒子5は「×」であった。なお、複合粒子8は、沈降物が生じるまでに、最も長期間を要した。
【0082】
3-2.粉落ち及び反りの評価
まず、各複合粒子1~4、7~9のそれぞれと、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)とをポットに投入した後、ポット内にジルコニアボールを投入した。その後、150rpmにて1時間、ポットをころがして、液状組成物を調製した。
次に、長尺の銅箔の表面に、バーコーターを用いて液状組成物を塗布して、液状被膜を形成した。次いで、この液状被膜が形成された金属箔を、120℃にて5分間、乾燥炉に通し、加熱により乾燥させて、乾燥被膜を得た。その後、窒素オーブン中で、乾燥被膜を380℃にて3分間、加熱した。これにより、銅箔と、その表面にポリマーの溶融焼成物及び無機物を含むポリマー層とを有する積層体を得た。
【0083】
そして、乾燥被膜の粉落ちと、積層体の反りとを評価した。
乾燥被膜の粉落ちは、乾燥被膜の縁部を目視確認し、以下の基準に従って評価した。
[粉落ちの評価基準]
〇:乾燥被膜の縁部に欠落が確認されなかった。
△:乾燥被膜の縁部の一部に欠落が確認された。
×:乾燥被膜の縁部の広い範囲に欠落が確認された。
【0084】
また、積層体の反りは、積層体から180mm角の四角い試験片を切り出し、試験片についてJIS C 6471:1995に規定される測定方法により測定し、以下の基準に従って評価した。
[反りの評価基準]
〇:線膨張係数が±20ppm/℃未満であった。
×:線膨張係数が±20ppm/℃以上であった。
これらの結果を、以下の表1に示す。
【0085】
【0086】
4.フィルムの作製
(例10)
複合粒子1(50質量部)とFポリマー1の粒子1(50質量部)とを、ブレンダーで撹拌し、混合物を調製した。単軸押出機(700mm巾コートハンガーダイを有する30mmφ単軸押出機)を用いて、混合物をダイ温度340℃で押出成形すると、幅500mm、長さ100m、厚さ25μmのフィルム1が得られた。フィルム1は、Fポリマー1のみからなるフィルムに比較して、線膨張係数が低下していた。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の複合粒子は、液状組成物中での分散安定性に優れる。かかる液状組成物は、Fポリマーに基づく物性と無機物に基づく特性とを具備した成形物(積層体、フィルム等)の製造に使用できる。本発明の成形物は、アンテナ部品、プリント基板、航空機用部品、自動車用部品、スポーツ用具、食品工業用品、塗料、化粧品等として有用であり、具体的には、放熱部材(電子機器やモーター用放熱部材等)、電線被覆材(航空機用電線等)、電気絶縁性テープ、石油掘削用絶縁テープ、プリント基板用材料、分離膜(精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、透析膜、気体分離膜等)、電極バインダー(リチウム二次電池用、燃料電池用等)、コピーロール、家具、自動車ダッシュボート、家電製品等のカバー、摺動部材(荷重軸受、すべり軸、バルブ、ベアリング、歯車、カム、ベルトコンベア、食品搬送用ベルト等)、工具(シャベル、やすり、きり、のこぎり等)、ボイラー、ホッパー、パイプ、オーブン、焼き型、シュート、ダイス、便器、コンテナ被覆材、冷熱機器等の熱交換器(フィン、伝熱管等)の外面被覆材として有用である。