(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-06-27
(45)【発行日】2024-07-05
(54)【発明の名称】化学強化ガラス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 21/00 20060101AFI20240628BHJP
H01L 31/048 20140101ALI20240628BHJP
【FI】
C03C21/00 101
H01L31/04 560
(21)【出願番号】P 2023575959
(86)(22)【出願日】2023-11-10
(86)【国際出願番号】 JP2023040661
【審査請求日】2023-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2022182870
(32)【優先日】2022-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023054157
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023170427
(32)【優先日】2023-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤原 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】高東 洋一
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕介
(72)【発明者】
【氏名】尾関 正雄
(72)【発明者】
【氏名】森嶋 勇介
(72)【発明者】
【氏名】長廻 拓海
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/074198(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/154973(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/146063(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/262293(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/017404(WO,A1)
【文献】特開2022-170718(JP,A)
【文献】国際公開第2016/117474(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/008764(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 21/00
H01L 31/048
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚が2mm超であり、表面圧縮応力CS
0が400~1200MPa、圧縮応力層深さDOL-tailが2.7~30.0μm、表面からDOL-tailまでにおける応力プロファイルの平均傾きの絶対値が59~500MPa/μm、引張応力CTが1.0~
2.6MPaであり、引張応力の積分値(MPa・μm)が20000以下であり、酸化物基準のモル%表示で、SiO
2の含有量が60%以上、かつAl
2O
3の含有量が15%以下である、化学強化ガラス。
【請求項2】
表面から50μmの位置からDOCまでにおける応力プロファイルの平均傾きの絶対値が0.00~0.90MPa/μmである、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項3】
酸化物基準のモル百分率表示にて、表面からの深さ25~30μmにおける平均Na濃度と板厚中央部におけるNa濃度との差が1%以下である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項4】
圧縮応力層深さDOL-tailが2.7~7.1μmである、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項5】
リチウム含有アルミノシリケートガラスである、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項6】
最大アレストライン深さと最小アレストライン深さとの差の絶対値が650μm以上である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項7】
最大アレストライン深さと最大クラック深さとの差の絶対値が40μm以上である、請求項1に記載の化学強化ガラス。
【請求項8】
ISO 20567-1 Test Method Bの強度試験方法に準じて評価した割れ発生率が20%以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項9】
500gの鉄球による落球強度が64cm以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項10】
板厚が10mm以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項11】
表面粗さ(Ra)が0.20nm以上であり、
ガラスの最表面から深さXの領域における水素濃度Yを線形近似した直線が、X=0.1~0.4(μm)において下記関係式(I)を満たし、且つ、表面に研磨傷を有さない、請求項1~7のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
Y=aX+b (I)
〔式(I)における各記号の意味は下記の通りである。
Y:水素濃度(H
2O換算、mol/L)
X:ガラス最表面からの深さ(μm)
a:-0.150~0.010
b:0.000~0.220〕
【請求項12】
車載センサ用である、請求項1~7のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項13】
板厚2mm超の化学強化用ガラスに、硝酸カリウムを80質量%以上含有する無機塩組成物を接触させてイオン交換することを含む、化学強化ガラスの製造方法であって、
前記化学強化ガラスは、表面圧縮応力CS
0が400~1200MPa、圧縮応力層深さDOL-tailが2.7~30.0μm、表面からDOL-tailまでにおける応力プロファイルの平均傾きの絶対値が59~500MPa/μm、引張応力CTが1.0~
2.6MPa、引張応力の積分値(MPa・μm)が20000以下であり、酸化物基準のモル%表示で、SiO
2を60%以上、かつAl
2O
3を15%以下含む、化学強化ガラスの製造方法。
【請求項14】
前記イオン交換が、前記化学強化用ガラスに、硝酸カリウムを80質量%以上含有し、且つK
2CO
3、Na
2CO
3、KHCO
3、NaHCO
3、K
3PO
4、Na
3PO
4、K
2SO
4、Na
2SO
4、KOH及びNaOHからなる群より選ばれる少なくとも一種の塩を含む無機塩組成物を接触させて化学強化ガラスを得ることであり、さらに
前記イオン交換の後に前記化学強化ガラスを洗浄すること、
前記洗浄の後に前記化学強化ガラスを酸処理すること、
前記酸処理の後に前記化学強化ガラスをアルカリ処理すること、を含む、請求項13に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項15】
前記化学強化用ガラスはリチウム含有アルミノシリケートガラスである、請求項13又は14に記載の化学強化ガラスの製造方法。
【請求項16】
板厚が2mm超10mm以下であり、前記板厚をTとした場合に圧縮応力層深さDOL-tailが0.03T以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項17】
板厚が2mm超10mm以下であり、DOL-tailが10μm以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項18】
表面からDOL-tailまでにおける応力プロファイルの平均傾きの絶対値が50~200MPa/μmである、請求項1~7のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項19】
500gの鉄球による落球試験により測定される衝突エネルギーが3J以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項20】
氷玉試験において、直径が55mmの氷玉を33.9m/sの速度で衝突させても割れない、請求項1~7のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。但し、前記氷玉試験は下記方法により行なう。
方法:氷玉を100mm×100mmのガラスに衝突させる。
【請求項21】
HM500のPICODENTOR(登録商標)で評価した時のマルテンス硬度MHが3600N/mm
2以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項22】
受光面板と、太陽電池基板とを、受光面側から背面側に向けてこの順で積層されて含む太陽光発電モジュールであって、
前記受光面板は請求項1~7のいずれか1項に記載の化学強化ガラスであり、
前記受光面板の受光面におけるSaが10nm以下且つGloss(20°)が100%以上である、太陽光発電モジュール。
【請求項23】
受光面板と、太陽電池基板とを、受光面側から背面側に向けてこの順で積層されて含む太陽光発電モジュールであって、
前記受光面板は請求項1~7のいずれか1項に記載の化学強化ガラスであり、
前記受光面板の受光面における表面から深さ5μmまでの範囲におけるSnの含有量が、前記受光面板の前記受光面と対向する面における表面から深さ5μmまでの範囲におけるSnの含有量の10倍以上である、太陽光発電モジュール。
【請求項24】
受光面板と、太陽電池基板とを、受光面側から背面側に向けてこの順で積層されて含む太陽光発電モジュールであって、
前記受光面板は請求項1~7のいずれか1項に記載の化学強化ガラスであり、
前記受光面板の受光面におけるCS
0と、前記受光面板の前記受光面と対向する面におけるCS
0と、の差の絶対値が10MPa以上である、太陽光発電モジュール。
【請求項25】
受光面板と、太陽電池基板と、背面板とを、受光面側から背面側に向けてこの順で積層されて含む太陽光発電モジュールであって、
前記受光面板は請求項1~7のいずれか1項に記載の化学強化ガラスであり、
前記背面板は、前記受光面板より1mm以上厚みが薄いガラスである、太陽光発電モジュール。
【請求項26】
第1主面及び前記第1主面に対向する第2主面、並びに端部を有し、
前記第1主面及び前記第2主面のいずれかにおいて、4角のうち1角の形状が異なっているか又は4角の形状が互いに異なり、
前記端部がC面取り又はR面取りされた、請求項1~7のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項27】
請求項1~7のいずれか1項に記載の化学強化ガラスを外面部材として含む、建造物。
【請求項28】
引張応力CTが2.5~
2.6MPaである、請求項1~7のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【請求項29】
表面からDOL-tailまでにおける応力プロファイルの平均傾きの絶対値が100~500MPa/μmである、請求項1~7のいずれか1項に記載の化学強化ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学強化ガラスの製造方法及び化学強化ガラスに関する。特に、センサモジュール及びセンサ又は振動子を保護するガラスとして好適な化学強化ガラス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車や電車、ドローンなどの移動機器、また屋外センサ、監視カメラといった防犯装置には、多様な機能を有する複数のセンサが搭載されている。保護部材の構造や素材によっては、センサの用途を阻害することもあるため、保護部材内部に配置されるセンサの種類も保護部材の構造や素材を選択する要素となる。
【0003】
センサを保護する保護部材の素材としては、可視光を通す高透過性を有し、優れた強度を有するものを選択することが望ましい。センサを保護する保護部材としてガラスを用いたセンサモジュールが知られおり、例えば、特許文献1には、保護部材として化学強化ガラスを用いたセンサモジュールが開示されている。
【0004】
近年の省エネに対する需要の高まりから、建造物の外側(例えば、屋上又は屋根)に太陽電池アレイを設置する事例が増えている。太陽電池アレイは、複数枚のパネル状の太陽電池モジュールを平面的に配列し、直並列に接続することにより構成される。建造物の外側に設置される太陽電池モジュールには、雹及び雪などの天候や落下物などから保護するための保護部材が用いられている。特許文献2には、太陽電池モジュールの保護部材としてガラスを有する太陽電池モジュールが開示されている。
【0005】
化学強化ガラスは、ガラスを硝酸ナトリウムや硝酸カリウムなどの無機塩組成物に接触させるイオン交換処理により、ガラスの表面部分に圧縮応力層を形成したものである。該イオン交換処理では、ガラス中に含まれるアルカリ金属イオンと、無機塩組成物に含まれるよりイオン半径の大きいアルカリ金属イオンとの間でイオン交換が生じ、ガラスの表面部分に圧縮応力層が形成される。化学強化ガラスの強度は、ガラス表面からの深さを変数とする圧縮応力(以下、CSとも略す。)で表される応力プロファイルに依存する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2019/009336号
【文献】日本国特開2007-123725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
センサや太陽電池モジュールの保護部材として用いられるガラスに望まれる強度は大きく分けて三種ある。第一に飛び石耐性である。例えば、センサを移動機器に搭載する場合、走行中に飛び石等の異物がセンサモジュールに衝突する場合がある。このように、飛び石等の衝突により外部から瞬間的な衝撃が加わると、衝突時の応力が緩和されずに集中応力が発生し、保護部材であるガラスおよびセンサが破損するおそれがある。そのため、センサを保護するガラスには、優れた飛び石耐性が求められる。第二に落球衝撃強度(以下、落球強度とも略す)である。保護部材であるガラスに物が衝突した際または該ガラスを落とした際などに簡単に破壊しない強度が必要である。第三に、飛び石等の衝突によりガラス表面に生じる傷並びに該傷により生じる割れ及び外観の悪化が問題となるため、該傷の面積及び深さを低減する、飛び石に対する耐傷性(以下、耐傷性とも略す)が求められる。
【0008】
したがって、本発明は、従来に比して優れた飛び石耐性、落球強度及び耐傷性を示す化学強化ガラス及びその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を検討したところ、板厚が2mm超の化学強化用ガラスを、硝酸カリウムを主成分とする溶融塩組成物によりイオン交換することで、特定の応力プロファイルを有する化学強化ガラスが得られ、該化学強化ガラスにより飛び石耐性、落球強度及び耐傷性を向上できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は以下の通りである。
1.板厚が2mm超であり、表面圧縮応力CS0が400~1200MPa、圧縮応力層深さDOL-tailが2.7~30.0μm、表面からDOL-tailまでにおける応力プロファイルの平均傾きの絶対値が20~500MPa/μm、引張応力CTが1.0~16MPaである、化学強化ガラス。
2.表面から50μmの位置からDOCまでにおける応力プロファイルの平均傾きの絶対値が0.00~0.90MPa/μmである、前記1に記載の化学強化ガラス。
3.酸化物基準のモル百分率表示にて、表面からの深さ25~30μmにおける平均Na濃度と板厚中央部におけるNa濃度との差が1%以下である、前記1または2に記載の化学強化ガラス。
4.引張応力の積分値(MPa・μm)が20000以下である、前記1~3のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
5.リチウム含有アルミノシリケートガラスである、前記1~4のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
6.最大アレストライン深さと最小アレストライン深さとの差の絶対値が650μm以上である、前記1~5のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
7.最大アレストライン深さと最大クラック深さとの差の絶対値が40μm以上である、前記1~6のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
8.ISO 20567-1 Test Method Bの強度試験方法に準じて評価した割れ発生率が20%以下である、前記1~7のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
9.500gの鉄球による落球強度が64cm以上である、前記1~8のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
10.板厚が10mm以下である、前記1~9のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
11.表面粗さ(Ra)が0.20nm以上であり、
ガラスの最表面から深さXの領域における水素濃度Yが、X=0.1~0.4(μm)において下記関係式(I)を満たし、且つ、表面に研磨傷を有さない、前記1~10のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
Y=aX+b (I)
〔式(I)における各記号の意味は下記の通りである。
Y:水素濃度(H2O換算、mol/L)
X:ガラス最表面からの深さ(μm)
a:-0.150~0.010
b:0.000~0.220〕
12.車載センサ用である、前記1~11のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
13.板厚2mm超の化学強化用ガラスに、硝酸カリウムを80質量%以上含有する無機塩組成物を接触させてイオン交換することを含む、化学強化ガラスの製造方法。
14.前記イオン交換が、前記化学強化用ガラスに、硝酸カリウムを80質量%以上含有し、且つK2CO3、Na2CO3、KHCO3、NaHCO3、K3PO4、Na3PO4、K2SO4、Na2SO4、KOH及びNaOHからなる群より選ばれる少なくとも一種の塩を含む無機塩組成物を接触させて化学強化ガラスを得ることであり、さらに
前記イオン交換の後に前記化学強化ガラスを洗浄すること、
前記洗浄の後に前記化学強化ガラスを酸処理すること、
前記酸処理の後に前記化学強化ガラスをアルカリ処理すること、を含む、前記13に記載の化学強化ガラスの製造方法。
15.前記化学強化ガラスは、表面圧縮応力CS0が400~1200MPa、圧縮応力層深さDOL-tailが2.7~30.0μm、表面からDOL-tailまでにおける応力プロファイルの平均傾きの絶対値が20~500MPa/μm、引張応力CTが1.0~16MPaである前記13または14に記載の化学強化ガラスの製造方法。
16.前記化学強化用ガラスはリチウム含有アルミノシリケートガラスである、前記13~15のいずれか1に記載の化学強化ガラスの製造方法。
17.板厚が2mm超10mm以下であり、前記板厚をTとした場合に圧縮応力層深さDOL-tailが0.03T以下である、前記1~12のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
18.板厚が2mm超10mm以下であり、DOL-tailが10μm以下である、前記1~12及び17のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
19.引張応力CTが1.0~4.0MPaである、前記1~12、17及び18のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
20.表面からDOL-tailまでにおける応力プロファイルの平均傾きの絶対値が50~200MPa/μmである、前記1~12及び17~19のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
21.500gの鉄球による落球試験により測定される衝突エネルギーが3J以上である、前記1~12及び17~20のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
22.氷玉試験において、直径が55mmの氷玉を33.9m/sの速度で衝突させても割れない、前記1~12及び17~21のいずれか1に記載の化学強化ガラス。但し、前記氷玉試験は下記方法により行なう。
方法:氷玉を100mm×100mmのガラスに衝突させる。
23.HM500のPICODENTOR(登録商標)で評価した時のマルテンス硬度MHが3600N/mm2以上である、前記1~12及び17~22のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
24.受光面板と、太陽電池基板とを、受光面側から背面側に向けてこの順で積層されて含む太陽光発電モジュールであって、
前記受光面板は前記1~12及び17~23のいずれか1に記載の化学強化ガラスであり、
前記受光面板の受光面におけるSaが10nm以下且つGloss(20°)が100%以上である、太陽光発電モジュール。
25.受光面板と、太陽電池基板とを、受光面側から背面側に向けてこの順で積層されて含む太陽光発電モジュールであって、
前記受光面板は前記1~12及び17~23のいずれか1に記載の化学強化ガラスであり、
前記受光面板の受光面における表面から深さ5μmまでの範囲におけるSnの含有量が、前記受光面板の前記受光面と対向する面における表面から深さ5μmまでの範囲におけるSnの含有量の10倍以上である、太陽光発電モジュール。
26.受光面板と、太陽電池基板とを、受光面側から背面側に向けてこの順で積層されて含む太陽光発電モジュールであって、
前記受光面板は前記1~12及び17~23のいずれか1に記載の化学強化ガラスであり、
前記受光面板の受光面におけるCS0と、前記受光面板の前記受光面と対向する面におけるCS0と、の差の絶対値が10MPa以上である、太陽光発電モジュール。
27.受光面板と、太陽電池基板と、背面板とを、受光面側から背面側に向けてこの順で積層されて含む太陽光発電モジュールであって、
前記受光面板は前記1~12及び17~23のいずれか1に記載の化学強化ガラスであり、
前記背面板は、前記受光面板より1mm以上厚みが薄いガラスである、太陽光発電モジュール。
28.第1主面及び前記第1主面に対向する第2主面、並びに端部を有し、
前記第1主面及び前記第2主面のいずれかにおいて、4角のうち1角の形状が異なっているか又は4角の形状が互いに異なり、
前記端部がC面取り又はR面取りされた、前記1~12及び17~23のいずれか1に記載の化学強化ガラス。
29.前記1~12及び17~23のいずれか1に記載の化学強化ガラスを外面部材として含む、建造物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の化学強化ガラスは、特定範囲の板厚及び応力プロファイルを有し、特にCTが特定範囲であることから、優れた飛び石耐性、落球強度及び耐傷性を示す。本発明の化学強化ガラスの製造方法によれば、板厚が2mm超の化学強化用ガラスを特定条件によりイオン交換することで、CTを特定範囲として、優れた飛び石耐性、落球強度及び耐傷性を示す化学強化ガラスを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1の(a)及び(b)は、本実施形態の化学強化ガラスをその一部又は全部として形成した保護部材の構成例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、引張応力CTと飛び石耐性との相関を示す図である。
【
図3】
図3の(a)~(f)は、本実施形態の化学強化ガラスの応力プロファイルの一例を示す図である。
図3の(a)及び(d)はFSMによる測定結果、
図3の(b)、(c)、(e)及び(f)はSLPによる測定結果を示す。
【
図4】
図4は、飛び石試験後のサンプルを顕微鏡により観察した結果を示す図である。
【
図5】
図5は、飛び石試験後のサンプルの破面に生じたアレストラインを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。
【0014】
本明細書において数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。また、本明細書において、ガラスの組成(各成分の含有量)について、特に断らない限り、酸化物基準のモル百分率表示で説明する。
【0015】
以下において、「化学強化ガラス」は、化学強化処理を施した後のガラスを指し、「化学強化用ガラス」は、化学強化処理を施す前のガラスを指す。
【0016】
本明細書において、ガラス組成は、特に断らない限り酸化物基準のモル%表示で表し、モル%を単に「%」と表記する。また、本明細書において「実質的に含有しない」とは、原材料等に含まれる不純物レベル以下である、つまり意図的に加えたものではないことをいう。具体的には、たとえば0.1%未満である。
【0017】
本明細書において「応力プロファイル」はガラス表面からの深さを変数として圧縮応力値を表したものをいう。応力プロファイルにおいて、引張応力は負の圧縮応力として表される。
【0018】
「圧縮応力(CS)」は、ガラスの断面を薄片化し、該薄片化したサンプルを複屈折イメージングシステムで解析することによって測定できる。複屈折イメージングシステム複屈折率応力計は、偏光顕微鏡と液晶コンペンセーター等を用いて応力によって生じたレターデーションの大きさを測定する装置であり、たとえばCRi社製複屈折イメージングシステムAbrio-IMがある。
【0019】
また、散乱光光弾性を利用しても測定できる場合がある。この方法では、ガラスの表面から光を入射し、その散乱光の偏光を解析してCSを測定できる。散乱光光弾性を利用した応力測定器としては、例えば、折原製作所製散乱光光弾性応力計SLP-2000がある。
【0020】
本明細書において「圧縮応力層深さ(DOC)」は、圧縮応力値がゼロとなる深さである。以下では、表面圧縮応力値をCS0と記すことがある。また、「内部引張応力(CT)」は、板厚tの1/2の深さにおける引張応力値をいう。
【0021】
本明細書において、割れ発生率は、ISO 20567-1 Test Method Bの強度試験方法に準じて、下記条件により評価する。
(条件)
飛び石:チルドアイアングリット
石サイズ:3.55-5mm
射出量:500g
射出圧力:200kPa
サンプル設置角度:54°
射出時間:8-12s
射出回数:2
サンプル衝突面積:40×40mm
【0022】
<応力測定方法>
近年、スマートフォンなどのカバーガラス向けに、ガラス内部のリチウムイオンをナトリウムイオンと交換し(Li-Na交換)、その後更にガラスの表層部において、ガラス内部のナトリウムイオンをカリウムイオンに交換する(Na-K交換)、2段階の化学強化を実施したガラスが主流になっている。
【0023】
このような2段化学強化ガラスの応力プロファイルを非破壊で取得するには、例えば散乱光光弾性応力計(Scattered Light Photoelastic Stress Meter、以下、SLPとも略す)やガラス表面応力計(Film Stress Measurement,以下、FSMとも略す)などが併用され得る。
【0024】
散乱光光弾性応力計(SLP)を用いる方法では、ガラス表層から数十μm以上のガラス内部において、Li-Na交換に由来した圧縮応力を測定できる。一方、ガラス表面応力計(FSM)を用いる方法では、ガラス表面から数十μm以下の、ガラス表層部において、Na-K交換に由来した圧縮応力を測定できる(例えば、国際公開第2018/056121号、国際公開第2017/115811号)。従って、2段化学強化ガラスにおける、ガラス表層と内部における応力プロファイルとしては、SLPとFSMの情報を合成したものが用いられることがある。
【0025】
本発明においては、主に散乱光光弾性応力計(SLP)により測定された応力プロファイルを用いている。なお、本明細書において圧縮応力CS2、引張応力CT、圧縮応力層深さDOCなどと称した場合、SLP応力プロファイルにおける値を意味する。
【0026】
散乱光光弾性応力計とは、レーザ光の偏光位相差を該レーザ光の波長に対して1波長以上可変する偏光位相差可変部材と、該偏光位相差を可変されたレーザ光が強化ガラスに入射されたことにより発する散乱光を所定の時間間隔で複数回撮像し複数の画像を取得する撮像素子と、該複数の画像を用いて前記散乱光の周期的な輝度変化を測定し該輝度変化の位相変化を算出し、該位相変化に基づき前記強化ガラスの表面からの深さ方向の応力分布を算出する演算部と、を有する応力測定装置である。
【0027】
散乱光光弾性応力計を用いる応力プロファイルの測定方法としては、国際公開第2018/056121号に記載の方法が挙げられる。散乱光光弾性応力計としては、例えば、折原製作所製のSLP-1000、SLP-2000が挙げられる。これらの散乱光光弾性応力計に付属ソフトウェアSlpIV_up3(Ver.2019.01.10.001)を組み合わせると高精度の応力測定が可能である。
【0028】
本明細書において、応力プロファイルの平均傾きとは、横軸をガラス表面からの深さ、縦軸を圧縮応力とする応力プロファイルにおいて、傾きを求める深さの範囲において、応力プロファイルの傾きを1μmごとに求め、得られた傾きにおいて平均の値をいう。
【0029】
<化学強化ガラス>
<<応力プロファイル>>
本実施形態の化学強化ガラス(以下、本化学強化ガラスとも略す。)は、板厚が2mm超であり、表面圧縮応力CS0が400~1200MPa、圧縮応力層深さDOL-tailが2.7~30.0μm、表面からDOL-tailまでにおける応力プロファイルの平均傾きの絶対値が20~500MPa/μm、引張応力CTが1.0~16MPaであることを特徴とする。なお、本明細書において、DOL-tailとはFSMにより測定した圧縮応力層深さ(μm)を意味する。また「DOL-tailまでに」、「DOCまでに」、及び「板厚中心部までに」とは、DOL-tail、DOC及び板厚中心部のそれぞれを含むことを意味する。
【0030】
本化学強化ガラスは、板厚が2mm超であり、好ましくは2.5mm以上、より好ましくは3mm以上、さらに好ましくは4mm以上、特に好ましくは5mm以上である。板厚が2mm超であることにより、強度を高め、優れた飛び石耐性を示す。また、軽量化を図る観点から、板厚は好ましくは、以下順に10mm以下、9mm以下、8mm以下、7mm以下、より好ましくは6.6mm以下、さらに好ましくは6.2mm以下、特に好ましくは5.8mm以下である。
【0031】
本化学強化ガラスは、曲げ強度を向上する観点から、表面圧縮応力CS0が400MPa以上であることが好ましく、より好ましくは500MPa以上であり、さらに好ましくは550MPa以上、特に好ましくは600MPa以上である。また、圧縮応力と引張応力とのバランスを図る観点から、表面圧縮応力CS0は、1200MPa以下であることが好ましく、より好ましくは1150MPa以下、さらに好ましくは1100MPa以下である。
【0032】
本化学強化ガラスは、圧縮応力層深さDOL-tailが2.7μm以上であり、好ましくは3.0μm以上、より好ましくは4.5μm以上、特に好ましくは6.0μm以上である。DOL-tailは30.0μm以下であり、好ましくは25.0μm以下、より好ましくは20.0μm以下、さらに好ましくは15.0μm以下、特に好ましくは10.0μm以下、最も好ましくは6.0μm以下である。DOL-tailが2.7μm以上30.0μm以下であることにより、優れた飛び石耐性、落球強度及び耐傷性を示す。
【0033】
本化学強化ガラスは、落球強度をより高める観点から、板厚Tが2mm超10mm以下であり、且つ板厚をTとした場合に圧縮応力層深さDOL-tailが0.03T以下であることが好ましく、より好ましくは0.02T以下、さらに好ましくは0.01T以下、特に好ましくは0.005T以下である。
【0034】
本化学強化ガラスは、表面からDOL-tailまでにおける応力プロファイルの平均傾き(以下、表層傾きとも略す)の絶対値が20MPa/μm以上であり、好ましくは30MPa/μm以上、より好ましくは40MPa/μm以上、さらに好ましくは50MPa/μm以上、特に好ましくは100MPa/μm以上である。該平均傾きの絶対値は500MPa/μm以下であり、好ましくは400MPa/μm以下、より好ましくは350MPa/μm以下、さらに好ましくは300MPa/μm以下、特に好ましくは250MPa/μm以下、最も好ましくは200MPa/μm以下である。該表層傾きの絶対値が20MPa/μm以上500MPa/μm以下であることにより、優れた飛び石耐性、落球強度及び耐傷性を示す。また、該表層傾きの絶対値が50MPa/μm以上200MPa/μm以下であることにより、より優れた落球強度を示す。
【0035】
本化学強化ガラスは、引張応力CTが1.0MPa以上であり、好ましくは1.5MPa以上、より好ましくは2.0MPa以上、さらに好ましくは2.5MPa以上である。引張応力CTは16MPa以下であり、好ましくは13MPa以下、より好ましくは10MPa以下、さらに好ましくは5.0MPa以下、特に好ましくは4.0MPa以下である。
図2に示すように、板厚2mm超において、CTと飛び石耐性とには相関がある。引張応力が1.0MPa以上16MPa以下であることにより、優れた飛び石耐性、落球強度及び耐傷性を示す。また、引張応力が1.0MPa以上4.0MPa以下であることにより、より優れた落球強度を示す。
【0036】
本化学強化ガラスは、表面から50μmの位置からDOCまでにおける応力プロファイルの平均傾き(以下、深層傾きとも略す)の絶対値が0.00MPa/μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.02MPa/μm以上、さらに好ましくは0.04MPa/μm以上、特に好ましくは0.06MPa/μm以上である。該平均傾きの絶対値は0.90MPa/μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.80MPa/μm以下、さらに好ましくは0.70MPa/μm以下、特に好ましくは0.60MPa/μm以下である。該深層傾きの絶対値が0.00MPa/μm以上0.90MPa/μm以下であることにより、飛び石耐性、落球強度及び耐傷性をより高め得る。
【0037】
本化学強化ガラスは、表面から深さ400μmから板厚中心部までにおける応力プロファイルの平均傾きの絶対値が0.010MPa/μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.008MPa/μm以下、さらに好ましくは0.006MPa/μm以下、特に好ましくは0.005MPa/μm以下である。該平均傾きの絶対値の下限は特に制限されないが、0.000MPa/μm以上であることが好ましい。該深さ400μmから板厚中心部までの平均傾きが0.000MPa/μm以上0.010MPa/μm以下であることにより、飛び石耐性、落球強度及び耐傷性をより高め得る。
【0038】
本化学強化ガラスは、酸化物基準のモル百分率表示にて、表面からの深さ25~30μmにおける平均Na濃度と板厚中央部におけるNa濃度との差が1%以下であることが好ましい。該差はより好ましくは0.9%以下、さらに好ましくは0.8%以下、特に好ましくは0.7%以下である。該差の下限は特に制限されないが、例えば、0.02%以上であることが好ましい。該差が1.0%以下であることにより、飛び石耐性、落球強度及び耐傷性をより高め得る。Na濃度は、EPMAを用いて公知の方法により測定できる。
【0039】
本化学強化ガラスは、引張応力の積分値ICT(MPa・μm)が20000以下であることが好ましく、より好ましくは18000以下、さらに好ましくは、特に好ましくは16000以下である。引張応力の積分値ICT(MPa・μm)が20000以下であることにより、クラック進展に寄与するエネルギーを抑制できるため、飛び石耐性、落球強度及び耐傷性をより高め得る。強度向上の観点から、引張応力の積分値ICT(MPa・μm)は、500以上であることが好ましく、より好ましくは1000以上、さらに好ましくは2000以上、特に好ましくは3000以上である。引張応力の積分値ICTとは、DOCより深い領域の引張応力の積分値をいう。
【0040】
本化学強化ガラスは、第1主面及び前記第1主面に対向する第2主面、並びに端部を有し、前記第1主面及び前記第2主面のいずれかにおいて、4角のうち1角の形状が異なっているか又は4角の形状が互いに異なり、前記端部がC面取り又はR面取りされていることが好ましい。かかる形状を有することにより、太陽光発電モジュール等の部材として用いる場合に、受光面を識別し易くなる等の利点が得られ、生産効率を向上し得る。
【0041】
(水素濃度及び表面粗さ)
本化学強化ガラスは、表面粗さ(Ra)が0.20nm以上であり、
ガラスの最表面から深さXの領域における水素濃度Yが、X=0.1~0.4(μm)において下記関係式(I)を満たし、且つ、表面に研磨傷を有さないことが好ましい。
Y=aX+b (I)
〔式(I)における各記号の意味は下記の通りである。
Y:水素濃度(H2O換算、mol/L)
X:ガラス最表面からの深さ(μm)
a:-0.150~0.010
b:0.000~0.220〕
【0042】
ガラス中の水素濃度が高いと、ガラスのSi-O-Siの結合ネットワークの中に水素がSi-OHの形で入り、Si-O-Siの結合が切れる。ガラス中の水素濃度が高いとSi-O-Siの結合が切れる部分が多くなり、化学的欠陥が生成され易くなり、強度が低下すると考えられる。
【0043】
上記関係式(I)は、最表面からの深さX=0.1~0.4μmの領域において成り立つものである。イオン交換により形成される圧縮応力層の厚さは、化学強化の程度によるが、5~50μmの範囲で形成される。そして、ガラスへの水素の侵入深さは、拡散係数、温度および時間に従い、水素の侵入量はこれらに加えて雰囲気中の水分量が影響する。化学強化後の水素濃度は、最表面が最も高く、圧縮応力層が形成されていない深部(バルク)にかけて徐々に低下する。上記関係式(I)はその低下具合を規定したものであるが、最表面(X=0μm)では、経時変質により水分濃度が変化する可能性があるため、その影響がないと考えられる近表面(X=0.1~0.4μm)の領域において成り立つものとした。
【0044】
式(I)において、aは水素濃度の低下具合を規定する傾きである。aの範囲は-0.150~0.010であり、好ましくは-0.100~0.010であり、より好ましくは-0.050~0.010である。
【0045】
式(I)において、bは最表面(X=0μm)における水素濃度に相当する。bの範囲は0.000~0.220であり、好ましくは0.000~0.215であり、より好ましくは0.010~0.150であり、さらに好ましくは0.010~0.100である。
【0046】
〔水素濃度プロファイル測定方法〕
ここで、ガラスの水素濃度プロファイル(H2O濃度、mol/L)とは以下の分析条件下で測定したプロファイルである。
ガラス基板の水素濃度プロファイルの測定には二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectrometory:SIMS)を用いた。SIMSにて定量的な水素濃度プロファイルを得る場合には、水素濃度既知の標準試料が必要である。標準試料の作製方法および水素濃度定量方法を以下に記す。
1)測定対象のガラス基板の一部を切り出す。
2)切り出したガラス基板の表面から50μm以上の領域を研磨あるいはケミカルエッチングによって除去する。除去処理は両面とも行う。すなわち、両面での除去厚みは100μm以上となる。この除去処理済みガラス基板を標準試料とする。
3)標準試料について赤外分光法(Infrared spectroscopy:IR)を実施し、IRスペクトルの3550cm-1付近のピークトップの吸光度高さA3550および4000cm-1の吸光度高さA4000(ベースライン)を求める。
4)標準試料の板厚d(cm)をマイクロメーターなどの板厚測定器を用いて測定する。
5)文献Aを参考に、ガラスのH2Oの赤外実用吸光係数εpract(L/(mol・cm))を75とし、式IIを用いて標準試料の水素濃度(H2O換算、mol/L)を求める。
標準試料の水素濃度=(A3550-A4000)/(εpract・d)・・・式II
文献A)S. lievski et al., Glastech. Ber. Glass Sci. Technol., 73 (2000) 39.
【0047】
測定対象のガラス基板と上記の方法によって得られた水素濃度既知の標準試料を同時にSIMS装置内へ搬送し、順番に測定を行い、1H-および30Si-の強度の深さ方向プロファイルを取得する。その後、1H-プロファイルから30Si-プロファイルを除して、1H-/30Si-強度比の深さ方向プロファイルを得る。標準試料の1H-/30Si-強度比の深さ方向プロファイルより、深さ1μmから2μmまでの領域における平均1H-/30Si-強度比を算出し、この値と水素濃度との検量線を、原点を通過するように作成する(1水準の標準試料での検量線)。この検量線を用い、測定対象のガラス基板のプロファイルの縦軸の1H-/30Si-強度比を水素濃度へ変換する。これにより、測定対象のガラス基板の水素濃度プロファイルを得る。なお、SIMSおよびIRの測定条件は以下の通りである。
【0048】
〔SIMSの測定条件〕
装置:アルバック・ファイ社製 ADEPT1010
一次イオン種:Cs+
一次イオンの加速電圧:5kV
一次イオンの電流値:500nA
一次イオンの入射角:試料面の法線に対して60°
一次イオンのラスターサイズ:300×300μm2
二次イオンの極性:マイナス
二次イオンの検出領域:60×60μm2(一次イオンのラスターサイズの4%)
ESA Input Lens:0
中和銃の使用:有
横軸をスパッタ時間から深さへ変換する方法:分析クレータの深さを触針式表面形状測定器(Veeco社製Dektak150)によって測定し、一次イオンのスパッタレートを求める。このスパッタレートを用いて、横軸をスパッタ時間から深さへ変換する。
1H-検出時のField Axis Potential:装置ごとに最適値が変化する可能性がある。バックグラウンドが十分にカットされるように測定者が注意しながら値を設定する。
【0049】
〔IRの測定条件〕
装置:Thermo Fisher Scientific社製Nic-plan/Nicolet 6700
分解能:4cm-1
積算:16
検出器:TGS検出器
【0050】
上記分析条件により測定したガラスの水素濃度プロファイル(H2O濃度、mol/L)から関係式〔I〕を導くには、以下の手順による。0.1から0.4μmの深さ領域の水素濃度プロファイルに対して線形近似を行う。得られた近似直線の式を関係式〔I〕とする。また、a及びbを制御する手段としては、例えば、イオン交換工程における融剤濃度、ナトリウム濃度、温度、時間等を変更することが挙げられる。
【0051】
本化学強化ガラスは、表面粗さ(Ra)が0.20nm以上であることが好ましい。表面粗さが上記数値以上であることにより、面強度の高い化学強化ガラスとすることができる。ガラス表面がある程度の表面粗さを有することで、応力集中が抑制され、強度が上がることが推測される。
表面粗さは、例えば、AFM表面観察により、測定範囲を1μm×1μmとして測定することができる。
なお、従来の研磨していない化学強化ガラス板の表面粗さは0.20nm未満である。
〔AFMの測定条件〕
装置:Bruker社製 NanoscopeV + MultiMode8あるいはDimension ICON
モード:ScanAsystモード
プローブ:RTESPA(バネ定数:40N/m)
Samples/Line:256
Lines:256
Scan Rate:1Hz
測定視野:1×1μm2(汚染のないところを狙う)
【0052】
本化学強化ガラスは、表面に研磨傷を有さないことが好ましい。ここで、本実施形態における研磨とは、砥粒を用いてガラス表面を削ることにより平滑化することをいう。また、研磨傷の有無はAFM(Atomic Force Microscope;原子間力顕微鏡)による表面観察によって判別することができ、10μm×5μm領域内に長さ5μm以上幅0.1μm以上のスクラッチが2本以上存在しない場合に、表面に研磨傷がない状態ということができる。
【0053】
<<割れ発生率>>
本化学強化ガラスは、ISO 20567-1 Test Method Bの強度試験方法に準じて評価した割れ発生率が20%以下であることが好ましく、より好ましくは18%以下、さらに好ましくは15%以下、特に好ましくは13%以下である。前記割れ発生率が20%以下であることにより、飛び石耐性をより効果的に高め得る。割れ発生率を求める場合のnは3以上とする。
【0054】
本化学強化ガラスは、ISO 20567-1 Test Method Bの強度試験方法に準じて、下記方法により測定した傷面積が6%以下であることが好ましく、より好ましくは5.5%以下、さらに好ましくは5%以下である。
(方法)
計測範囲:サンプル中央の35×35mmの範囲
画像撮影:デジタルマイクロスコープ(例えば、キーエンス社製VHX-5000)を使用し、同軸落射光源のもとで飛び石試験後のサンプルの画像を撮影する。
傷の抽出と面積:デジタルマイクロスコープ(例えば、キーエンス社製VHX-5000)を使用し、撮影した画像を輝度で二値化処理を行い、サンプル表面の傷を抽出し、傷の総面積を計測範囲面積で除したものを傷面積とする。
【0055】
<<落球強度>>
本化学強化ガラスは、下記測定試験により測定される500gの鉄球による落球強度が20cm以上であることが好ましく、より好ましくは40cm以上、さらに好ましくは60cm以上、特に好ましくは64cm以上、最も好ましくは80cm以上である。該落球強度は高い程好ましく、上限は特に制限されない。
測定試験:前記化学強化ガラスからなる板厚2.0mm以上のガラス基板に500gの鉄球を落下させて、順次落下高さを増加させて該ガラス基板が破壊するまで試験を行い、破壊した時の落下高さを測定し、5枚の試験片に対して割れた高さの平均値を落球強度とする。
【0056】
本化学強化ガラスは、上記測定試験により測定される500gの鉄球による落球試験により測定される衝突エネルギーが3J以上であることが好ましく、より好ましくは4J以上、さらに好ましくは5J以上である。該エネルギーは高い程好ましい。
【0057】
本化学強化ガラスは、氷玉試験により破壊が生じるエネルギーが46J以上であることが好ましく、より好ましくは89J以上、さらに好ましくは158J以上、特に好ましくは261J以上である。該氷玉による衝撃エネルギーは高い程好ましく、上限は特に制限されない。氷玉試験はJIS C61215(2020)に従い、下記方法により行う。
試験方法:氷玉を100mm×100mmのガラスに衝突させる。
【0058】
本化学強化ガラスの一態様としては、前記氷玉試験において、直径が55mmの氷玉を33.9m/sの速度で衝突させても割れないことが好ましい。本化学強化ガラスの一態様としては、前記氷玉試験において、直径65mmの氷玉を36.7m/sの速度で衝突させても割れないことが好ましい。本化学強化ガラスの一態様としては、前記氷玉試験において、直径75mmの氷玉を39.5m/sの速度で衝突させても割れないことが好ましい。
【0059】
<<破壊強度>>
本化学強化ガラスは、破壊強度をアレストラインの最大値、又はアレストラインの最大値とアレストラインの最小値との差で定義し得る。アレストラインとは、破壊の進行が一時停止したときにつくられる模様であり、破壊サンプルの破面観察からアレストラインを確認できる。
図5は、飛び石試験後のサンプルの破面に生じたアレストラインを示す図である。
図5において、サンプル表面51に飛び石が衝突した位置を衝突点52とし、アレストラインを破線で示し、アレストラインの最小値を最小アレストライン53、アレストラインの最大値を最大アレストライン54として示す。
【0060】
図5の破線で示すように、クラックが進展、停止を繰り返すことで複数のアレストラインが生じる。アレストラインの値は、ガラスの割断面から垂直方向のガラス表面から最も遠い位置に生じたアレストラインまでの距離として計測する。
【0061】
また、破壊強度はアレストラインの最大値と最大クラック深さとの差によっても定義し得る。最大クラック深さは、割れていない複数の化学強化ガラスの割断面のクラック深さを計測し、その平均値を最大クラック深さとする(n≧3)。すなわち、アレストラインの最大値と最大クラック深さとの差が大きいほど、破壊に至るまでの余裕があるといえる。以下、アレストラインの最大値を最大アレストライン深さ、アレストラインの最小値を最小アレストライン深さとする。
【0062】
<<マルテンス硬度MH>>
本化学強化ガラスは、HM500のPICODENTOR(登録商標)で評価した時のマルテンス硬度MHが3600N/mm2以上であることが好ましく、より好ましくは3700N/mm2以上、さらに好ましくは3750N/mm2以上である。該マルテンス硬度MHは傷つきにくさの観点から、高い程好ましい。
【0063】
<<ガラス組成>>
本明細書において、「化学強化ガラスの母組成」とは、化学強化用ガラスのガラス組成であり、極端なイオン交換処理がされた場合を除いて、化学強化ガラスの圧縮応力層深さより深い部分のガラス組成は化学強化ガラスの母組成とほぼ同じである。
【0064】
本実施形態の化学強化ガラスは、母組成が、酸化物基準のモル%表示で、
SiO2を52~75%、
Al2O3を1~20%、
Na2Oを1~20%、含有することが好ましい。
【0065】
より好ましくは、本実施形態の化学強化ガラスは、母組成が、酸化物基準のモル%表示で、
SiO2を52~75%、
Al2O3を1~20%、
Li2Oを0~18%、
Na2Oを1~20%、
K2Oを0~5%、
MgOを0~20%、
CaOを0~20%、
SrOを0~20%、
BaOを0~20%、
ZnOを0~10%
TiO2を0~1%
ZrO2を0~8%、
Y2O3を0~5%含有する。
以下、好ましいガラス組成について説明する。
【0066】
本実施形態における化学強化用ガラスにおいて、SiO2はガラスのネットワーク構造を形成する成分である。また、化学的耐久性を上げる成分である。SiO2の含有量は52%以上が好ましく、より好ましくは56%以上、さらに好ましくは60%以上、特に好ましくは64%以上である。一方、溶融性を良くするためにSiO2の含有量は75%以下が好ましく、より好ましくは73%以下、さらに好ましくは71%以下、特に好ましくは69%以下である。
【0067】
Al2O3は化学強化による表面圧縮応力を大きくする成分であり、必須である。Al2O3の含有量は好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは4%以上、特に好ましくは6%以上である。一方、Al2O3の含有量は、ガラスの失透温度が高くなりすぎないために20%以下が好ましく、18%以下がより好ましく、以下順に17%以下、16%以下がさらに好ましく、15%以下が最も好ましい。
【0068】
Na2Oは、ガラスの溶融性を向上させ、イオン交換により表面圧縮応力を形成させる成分である。Na2Oの含有量は好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上であり、特に好ましくは4%以上である。Na2Oは多すぎると化学強化特性が低下するため、Na2Oの含有量は20%以下が好ましく、18%以下がより好ましく、16%以下が特に好ましく、14%以下が最も好ましい。
【0069】
K2Oは、Na2Oと同じくガラスの溶融温度を下げるとともに、イオン交換により表面圧縮応力を形成させる成分である。K2Oを含有する場合、その含有量は、好ましくは0%以上であり、より好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.3%以上、よりさらに好ましくは0.4%以上、特に好ましくは0.5%以上である。K2Oは多すぎると化学強化特性が低下する、または化学的耐久性が低下するため、好ましくは5%以下、より好ましくは4.8%以下、さらに好ましくは4.5%以下、特に好ましくは4.2%以下、最も好ましくは4.0%以下である。
【0070】
Na2OおよびK2Oの合計の含有量Na2O+K2Oはガラス原料の溶融性を向上し、イオン交換により表面圧縮応力を形成させる観点から、1%以上が好ましく、2%以上がより好ましい。
【0071】
Li2Oは、イオン交換により表面圧縮応力を形成させる成分である。Li2Oを含有する場合、その含有量は、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは4%以上、特に好ましくは5%以上である。一方、ガラスを安定にするためにLi2Oの含有量は、18%以下が好ましく、より好ましくは17%以下、さらに好ましくは16%以下、最も好ましくは15%以下である。
【0072】
Li2O、Na2OおよびK2Oの含有量の合計(以下、R2O)に対するK2O含有量の比K2O/R2Oは0.2以下であると、化学強化特性を高くし、化学的耐久性を高くできるので好ましい。K2O/R2Oは0.15以下がより好ましく、0.10以下がさらに好ましい。なお、R2Oは10%以上が好ましく、12%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましい。また、R2Oは20%以下が好ましく、18%以下がより好ましい。
【0073】
MgOは、ガラスを安定化させる成分であり、機械的強度と耐薬品性を高める成分でもあるため、Al2O3含有量が比較的少ない等の場合には、含有することが好ましい。MgOの含有量は、好ましくは1%以上、より好ましくは2%以上、さらに好ましくは3%以上、とくに好ましくは4%以上である。一方、MgOを添加し過ぎるとガラスの粘性が下がり失透または分相が起こりやすくなる。MgOの含有量は、20%以下が好ましく、より好ましくは19%以下、さらに好ましくは18%以下、特に好ましくは17%以下である。
【0074】
CaO、SrO、BaOおよびZnOは、いずれもガラスの溶融性を向上する成分であり含有してもよい。
【0075】
CaOは、ガラスの溶融性を向上する成分であり、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。CaOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。一方、CaOの含有量が20%超となるとイオン交換性能が著しく低下するため20%以下が好ましい。CaOの含有量は、より好ましくは14%以下であり、さらに好ましくは、以下、段階的に、10%以下、8%以下、6%以下、3%以下、1%以下である。
【0076】
SrOは、ガラスの溶融性を向上する成分であり、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。SrOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。一方、SrOの含有量が20%超となるとイオン交換性能が著しく低下するため20%以下が好ましい。SrOの含有量は、より好ましくは14%以下であり、さらに好ましくは、以下、段階的に、10%以下、8%以下、6%以下、3%以下、1%以下である。
【0077】
BaOは、ガラスの溶融性を向上する成分であり、化学強化ガラスの破砕性を改善する成分であり、含有させてもよい。BaOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上であり、特に好ましくは3%以上、最も好ましくは5%以上である。一方、BaOの含有量が20%超となるとイオン交換性能が著しく低下する。BaOの含有量は20%以下であることが好ましく、より好ましくは、以下、段階的に、15%以下、10%以下、6%以下、3%以下、1%以下である。
【0078】
ZnOはガラスの溶融性を向上させる成分であり、含有させてもよい。ZnOを含有させる場合の含有量は、好ましくは0.25%以上であり、より好ましくは0.5%以上である。一方、ZnOの含有量が10%超となるとガラスの耐候性が著しく低下する。ZnOの含有量はより好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは、以下、段階的に、8%以下、6%以下、3%以下、1%以下である。
【0079】
ZrO2は、機械的強度と化学的耐久性を高める成分であり、CSを著しく向上させるため、含有することが好ましい。ZrO2の含有量は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは0.7%以上、さらに好ましくは1.0%以上、特に好ましくは1.2%以上であり、最も好ましくは1.5%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するために、ZrO2は8%以下が好ましく、7.5%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましく、6%以下が特に好ましい。ZrO2の含有量が多すぎると失透温度の上昇により粘性が低下する。かかる粘性の低下により成形性が悪化するのを抑制するため、成形粘性が低い場合は、ZrO2の含有量は5%以下が好ましく、4.5%以下がより好ましく、3.5%以下がさらに好ましい。
【0080】
ZrO2/R2Oは、化学的耐久性を高くするためには、0.02以上が好ましく、0.04以上がより好ましく、0.06以上がさらに好ましく、0.08以上が特に好ましく、0.1以上が最も好ましい。ZrO2/R2Oは、0.2以下が好ましく、0.18以下がより好ましく、0.16以下がさらに好ましく、0.14以下が特に好ましい。
【0081】
TiO2は必須ではないが、含有する場合は、好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.1%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するために、TiO2の含有量は1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.3%以下がさらに好ましい。
【0082】
SnO2は必須ではないが、含有する場合、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、特に好ましくは2%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するために、SnO2の含有量は4%以下が好ましく、3.5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましく、2.5%以下が特に好ましい。
【0083】
Y2O3は化学強化ガラスが破壊した時に破片が飛散しにくくする効果のある成分であり、含有させてよい。Y2O3の含有量は、好ましくは0.3%以上、より好ましくは0.5%以上、さらに好ましくは0.7%以上、特に好ましくは1.0%以上である。一方、溶融時の失透を抑制するために、Y2O3の含有量は5%以下が好ましく、4%以下がより好ましい。
【0084】
B2O3は、化学強化用ガラスまたは化学強化ガラスのチッピング耐性を向上させ、また溶融性を向上させる成分であり、含有してもよい。B2O3を含有する場合の含有量は、溶融性を向上するために、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは2%以上である。一方、B2O3の含有量が多すぎると溶融時に脈理が発生したり、分相しやすくなったりして化学強化用ガラスの品質が低下しやすいため10%以下が好ましい。B2O3の含有量は、より好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下であり、特に好ましくは4%以下である。
【0085】
La2O3、Nb2O5およびTa2O5は、いずれも化学強化ガラスが破壊した時に破片が飛散しにくくする成分であり、屈折率を高くするために、含有させてもよい。これらを含有する場合、La2O3、Nb2O5およびTa2O5の含有量の合計(以下、La2O3+Nb2O5+Ta2O5)は好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上であり、特に好ましくは2%以上である。また、溶融時にガラスが失透しにくくなるために、La2O3+Nb2O5+Ta2O5は4%以下が好ましく、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2%以下であり、特に好ましくは1%以下である。
【0086】
また、CeO2を含有してもよい。CeO2はガラスを酸化することで着色を抑える場合がある。CeO2を含有する場合の含有量は0.03%以上が好ましく、0.05%以上がより好ましく、0.07%以上がさらに好ましい。CeO2の含有量は、透明性を高くするために1.5%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましい。
【0087】
化学強化ガラスを着色して使用する際は、所望の化学強化特性の達成を阻害しない範囲において着色成分を添加してもよい。着色成分としては、例えば、Co3O4、MnO2、Fe2O3、NiO、CuO、Cr2O3、V2O5、Bi2O3、SeO2、Er2O3、Nd2O3が挙げられる。
【0088】
着色成分の含有量は、合計で1%以下の範囲が好ましい。ガラスの可視光透過率をより高くしたい場合は、これらの成分は実質的に含有しないことが好ましい。
【0089】
紫外光の照射に対する耐候性を高めるために、HfO2、Nb2O5、Ti2O3を添加してもよい。紫外光照射に対する耐候性を高める目的で添加する場合には、他の特性に影響を抑えるために、HfO2、Nb2O5およびTi2O3の含有量の合計は1%以下が好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、0.1%以下がより好ましい。
【0090】
また、ガラスの溶融の際の清澄剤等として、SO3、塩化物、フッ化物を適宜含有してもよい。清澄剤として機能する成分の含有量の合計は、添加しすぎると強化特性に影響をおよぼすため、酸化物基準の質量%表示で、2%以下が好ましく、より好ましくは1%以下であり、さらに好ましくは0.5%以下である。下限は特に制限されないが、典型的には、酸化物基準の質量%表示で、合計で0.05%以上が好ましい。
【0091】
清澄剤としてSO3を用いる場合のSO3の含有量は、少なすぎると効果が見られないため、酸化物基準の質量%表示で、0.01%以上が好ましく、より好ましくは0.05%以上であり、さらに好ましくは0.1%以上である。また、清澄剤としてSO3を用いる場合のSO3の含有量は、酸化物基準の質量%表示で、1%以下が好ましく、より好ましくは0.8%以下であり、さらに好ましくは0.6%以下である。
【0092】
清澄剤としてClを用いる場合のClの含有量は、添加しすぎると強化特性などの物性に影響をおよぼすため、酸化物基準の質量%表示で、1%以下が好ましく、0.8%以下がより好ましく、0.6%以下がさらに好ましい。また、清澄剤としてClを用いる場合のClの含有量は、少なすぎると効果が見られないため、酸化物基準の質量%表示で、0.05%以上が好ましく、より好ましくは0.1%以上であり、さらに好ましくは0.2%以上である。
【0093】
清澄剤としてSnO2を用いる場合のSnO2の含有量は、酸化物基準の質量%表示で、1%以下が好ましく、0.5%以下がより好ましく、0.3%以下がさらに好ましい。また、清澄剤としてSnO2を用いる場合のSnO2の含有量は、少なすぎると効果が見られないため、酸化物基準の質量%表示で、0.02%以上が好ましく、より好ましくは0.05%以上であり、さらに好ましくは0.1%以上である。
【0094】
P2O5は含有しないことが好ましい。P2O5を含有する場合は、2.0%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0095】
As2O3は含有しないことが好ましい。Sb2O3を含有する場合は、0.3%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0096】
<<用途>>
本化学強化ガラスの用途としては、例えば、車、ドローンなどの移動機器に搭載されたセンサ、屋外センサ、監視カメラなどに搭載されたセンサの保護部材、太陽光発電モジュールの受光面板、建造物の外面部材が挙げられる。本化学強化ガラスは優れた飛び石耐性を示すことから、これらの中でも好ましくは移動機器に搭載されたセンサ、より好ましくは車載センサの保護部材に用いることが好ましい。
図1の(a)及び(b)に本化学強化ガラスをその一部又は全部として形成した保護部材の構成例を示す斜視図を示す。
【0097】
図1の(a)はセンサ20を収容する円筒型の筐体(保護部材1)の蓋部に保護ガラス10を用いた構造であり、
図1の(b)はセンサ20を収容する半球体の球面にガラスを用いた構造である。保護部材1は、その一部または全部が保護ガラス10を用いて形成され、保護ガラス10に本化学強化ガラスを用い得る。
【0098】
保護部材1は、
図1の(a)に示すように、保護部材1の一部に保護ガラス10を支持する支持部2を形成してもよい。支持部2はガラスでもよいが、ステンレスやアルマイトのような金属を用いてもよい。
【0099】
保護部材1は、円筒型や半球体に限らず、円柱型や角柱形、そのほか球状の正多面体といった立体形状でもよい。また、保護部材1は、ガラスを複数枚貼り合わせて形成でき、支持部2を形成する場合は、支持部2と保護ガラス10との間に接着層を形成して、支持部2と保護ガラス10とを接着できる。
【0100】
<化学強化ガラスの製造方法>
本実施形態の化学強化ガラスの製造方法(以下、本製造方法ともいう)は、板厚2mm超の化学強化用ガラスに、硝酸カリウムを80質量%以上含有する無機塩組成物を接触させてイオン交換する工程(以下、工程Aとも略す)を含むことを特徴とする。
【0101】
ガラスの表層に圧縮応力層を形成する化学強化処理は、ガラス板を無機塩組成物に接触させて、該ガラス中の金属イオンと、該無機塩組成物中にある、該金属イオンよりイオン半径の大きい金属イオンと、を置換する処理である。
【0102】
無機塩組成物にガラスを接触させる方法としては、ペースト状の無機塩組成物をガラスに塗布する方法、無機塩組成物の水溶液をガラスに噴射する方法、融点以上に加熱した無機塩組成物の溶融塩の塩浴にガラスを浸漬させる方法などが挙げられる。これらの中では、生産性を向上させる観点から、無機塩組成物の溶融塩の塩浴にガラスを浸漬させる方法が好ましい。
【0103】
本明細書において、「無機塩組成物」とは、溶融塩を含有する組成物をさす。無機塩組成物に含まれる溶融塩としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、塩化物などが挙げられる。硝酸塩としては、例えば、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム、硝酸ルビジウム、硝酸銀などが挙げられる。硫酸塩としては、例えば、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸セシウム、硫酸ルビジウム、硫酸銀などが挙げられる。塩化物としては、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム、塩化ルビジウム、塩化銀などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0104】
無機塩組成物としては、硝酸塩を母体とするものが好ましく、より好ましくは硝酸ナトリウムまたは硝酸カリウムを母体とするものである。ここで「母体とする」とは無機塩組成物における含有量が80質量%以上であることを指す。
【0105】
<<工程A:化学強化用ガラスを、硝酸カリウムを80質量%以上含有する無機塩組成物と接触させてイオン交換する工程>>
硝酸カリウムを80質量%以上含有する無機塩組成物を化学強化用ガラスと接触させてイオン交換する工程においては、ガラス中のナトリウムイオンと無機塩組成物中のカリウムイオンとが交換される。該工程に用いる該無機塩組成物における硝酸カリウムの含有量は80質量%以上であり、好ましくは85質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0106】
工程Aにおける無機塩組成物は、硝酸カリウムに加えて、他の無機塩を含有してもよい。他の無機塩としては、例えば、炭酸カリウム、硫酸カリウム、塩化カリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウムが挙げられ、これらの中でも硝酸ナトリウムが好ましい。
【0107】
工程Aにおいて、化学強化用ガラスと接触させる無機塩組成物の温度は、360℃以上が好ましく、より好ましくは370℃以上、さらに好ましくは380℃以上、特に好ましくは390℃以上である。また、無機塩組成物の温度は、イオン交換後の外観品質を良好に維持した状態で、飛び石耐性、落球強度及び耐傷性を高める観点から、500℃以下が好ましく、より好ましくは480℃以下、さらに好ましくは465℃以下、特に好ましくは455℃以下である。
【0108】
工程Aにおいて、無機塩組成物に化学強化用ガラスを接触させる時間は、10分間以上30時間以下であることが好ましい。接触時間は、より好ましくは30分間以上、さらに好ましくは45分間以上、特に好ましくは1時間以上である。接触時間を10分間以上とすることにより表面圧縮応力を高め得る。また、より好ましくは24時間以下、さらに好ましくは16時間以下、特に好ましくは12時間以下である。該時間を24時間以下とすることにより、飛び石耐性、落球強度及び耐傷性を向上し得る。
【0109】
<<工程A’>>
前記工程Aの一実施態様として、前記イオン交換が、前記化学強化用ガラスに、硝酸カリウムを80質量%以上含有し、且つK2CO3、Na2CO3、KHCO3、NaHCO3、K3PO4、Na3PO4、K2SO4、Na2SO4、KOH及びNaOHからなる群より選ばれる少なくとも一種の塩(以下、該塩を「融剤」ともいう)を含む無機塩組成物を接触させて化学強化ガラスを得る工程A’を含む態様が挙げられる。
【0110】
(イオン交換)
工程A’において、前記融剤として、例えば、K2CO3を用いる場合、無機塩組成物における融剤の含有量を0.1質量%以上とし、化学強化処理温度を350~500℃とすると、イオン交換の処理時間は1分~10時間が好ましく、5分~8時間がより好ましく、10分~4時間がさらに好ましい。
【0111】
無機塩組成物における融剤の添加量は、表面水素濃度制御の点から0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上が特に好ましい。また生産性の観点から各塩の飽和溶解度以下が好ましい。過剰に添加するとガラスの腐食につながるおそれがある。例えば、融剤としてK2CO3を用いる場合には、30質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が特に好ましい。
【0112】
無機塩組成物は、硝酸カリウム及び融剤の他に、本発明の効果を阻害しない範囲で他の化学種を含んでいてもよく、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム等のアルカリ塩化塩やアルカリホウ酸塩などが挙げられる。これらは単独で添加しても、複数種を組み合わせて添加してもよい。
【0113】
本実施形態において、前記工程Aとして工程A’を行なう場合、イオン交換工程の後に前記化学強化ガラスを洗浄すること、前記洗浄の後に前記化学強化ガラスを酸処理すること、前記酸処理の後に前記化学強化ガラスをアルカリ処理すること、を含むことが好ましい。洗浄、酸処理、アルカリ処理を行う場合、工程A’とは、上記洗浄、酸処理、アルカリ処理工程を含むものとする。下記にかかる実施形態における洗浄、酸処理、アルカリ処理について説明する。
【0114】
(洗浄)
洗浄は工水、イオン交換水等を用いることが好ましく、イオン交換水がより好ましい。洗浄の条件は用いる洗浄液によっても異なるが、イオン交換水を用いる場合には0~100℃で洗浄することが付着した塩を完全に除去させる点から好ましい。
【0115】
(酸処理)
工程A’における酸処理とは、酸性の溶液中に、化学強化ガラスを浸漬させることによって行い、これにより化学強化ガラス表面のNa及び/又はKをHに置換することができる。酸処理を行うことで、ガラス表面において圧縮応力層の表層が変質した、具体的には低密度化された、低密度層をさらに有することとなる。低密度層は、圧縮応力層の最表面からNaやKが抜け(リーチングし)、代わりにHが入り込む(置換する)ことによって形成される。
【0116】
溶液は酸性であれば特に制限されずpH7未満であればよく、用いられる酸が弱酸であっても強酸であってもよい。具体的には硝酸、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、炭酸及びクエン酸等の酸が好ましく、硝酸がより好ましい。これらの酸は単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0117】
酸処理を行う温度は、用いる酸の種類や濃度、時間によっても異なるが、100℃以下で行うことが好ましい。酸処理を行う時間は、用いる酸の種類や濃度、温度によっても異なるものの、10秒~5時間が生産性の点から好ましく、1分~2時間がより好ましい。酸処理を行う溶液の濃度は、用いる酸の種類や時間、温度によって異なるものの、容器腐食の懸念が少ない濃度が好ましく、具体的には0.1~20質量%が好ましい。
【0118】
より具体的には例えば、酸処理に硝酸を用いる場合、酸処理を行う溶液における硝酸の含有量は好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.5~10質量%とし、処理温度を好ましくは20~80℃、より好ましくは40~70℃、処理時間を好ましくは1~60分間、より好ましくは1~15分間とする。
【0119】
低密度層は、後述するアルカリ処理により除去されるため、低密度層が厚いほどガラス表面が除去されやすい。したがって低密度層の厚みはガラス表面除去量の観点から5nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましい。低密度層の厚みは、イオン交換工程における融剤濃度、ナトリウム濃度、温度又は時間等により制御できる。
【0120】
(アルカリ処理)
工程A’におけるアルカリ処理とは、塩基性の溶液中に、化学強化ガラスを浸漬させることによって行い、これにより酸処理により形成された低密度層の一部又は全部を除去し得る。
【0121】
アルカリ処理に用いる溶液は塩基性であれば特に制限されずpH7超過であればよく、弱塩基を用いても強塩基を用いてもよい。具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等の塩基が好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。これらの塩基は単独で用いても、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0122】
アルカリ処理を行う温度は、用いる塩基の種類や濃度、時間によっても異なるが、0~100℃が好ましく、10~80℃がより好ましく、20~60℃が特に好ましい。かかる温度範囲であればガラスが腐食するおそれがなく好ましい。
【0123】
アルカリ処理を行う時間は、用いる塩基の種類や濃度、温度によっても異なるものの、10秒間~5時間が生産性の点から好ましく、1分間~2時間がより好ましい。
【0124】
アルカリ処理を行う溶液に含有される塩基の濃度は、用いる塩基の種類や時間、温度によって異なるものの、ガラス表面除去性の観点から0.1wt%~20wt%が好ましい。
【0125】
より具体的には、例えば、アルカリ処理に水酸化ナトリウムを用いる場合、アルカリ処理を行う溶液における水酸化ナトリウムの含有量は好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.5~10質量%とし、処理温度を好ましくは20~80℃、より好ましくは40~70℃、処理時間を好ましくは1~60分間、より好ましくは1~15分間とする。
【0126】
上記アルカリ処理により、Hが侵入した低密度層の一部又は全部が除去され、水素濃度プロファイルが上述した特定の関係式(I)を満たす表層が露出する。これにより面強度がより向上した化学強化ガラスが得られる。さらに、低密度層が除去されることでガラス表面に存在していた傷も同時に除去されるので、この点も強度向上に寄与すると考えられる。
【0127】
工程A’において、上記酸処理およびアルカリ処理の間や、アルカリ処理の終了後において、上記した洗浄を行うことが好ましい。
【0128】
本製造方法において、イオン交換処理は、一段階の処理としてもよいし、または2以上の異なる条件で2段階以上の処理(多段強化)としてもよい。本製造方法のイオン交換処理を多段強化とする場合、前記工程Aの前に、化学強化用ガラスを、硝酸ナトリウムを主成分とする無機塩組成物と接触させる工程(以下、工程Bとも略す)を含んでもよい。また、工程A’は、融剤を含まないイオン交換(工程A)の後に行ってもよい。
【0129】
<<工程B:化学強化用ガラスを、硝酸ナトリウムを主成分として含有する無機塩組成物と接触させてイオン交換する工程>>
工程Bにおける無機塩組成物としては、硝酸ナトリウムを主成分として含有し、本発明の効果を損なわない限り特に限定されない。該無機塩組成物における硝酸ナトリウムの含有量は30質量%以上であり、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0130】
工程Bにおける無機塩組成物は、硝酸ナトリウムに加えて、他の無機塩を含有してもよい。他の無機塩としては、例えば、硝酸カリウム、炭酸カリウム、硫酸カリウム、塩化カリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、硫酸リチウム、塩化リチウムが挙げられ、これらの中でも硝酸カリウムが好ましい。
【0131】
工程Bにおいて、化学強化用ガラスと接触させる無機塩組成物の温度は、360℃以上が好ましく、より好ましくは370℃以上、さらに好ましくは380℃以上、特に好ましくは390℃以上である。また、無機塩組成物の温度は、イオン交換後の外観品質を良好に維持した状態で、飛び石耐性、落球強度及び耐傷性を高める観点から、500℃以下が好ましく、より好ましくは460℃以下、さらに好ましくは430℃以下、特に好ましくは400℃以下である。
【0132】
工程Bにおいては、化学強化用ガラスと接触させる無機塩組成物の温度は、無機塩組成物に化学強化用ガラスを接触させる時間は、10分間以上24時間以下であることが好ましい。接触時間は、より好ましくは30分間以上、さらに好ましくは45分間以上、特に好ましくは1時間以上である。接触時間を10分間以上とすることにより表面圧縮応力を高め得る。また、より好ましくは12時間以下、さらに好ましくは8時間以下、特に好ましくは6時間以下である。該時間を24時間以下とすることにより、飛び石耐性、落球強度及び耐傷性を向上し得る。
【0133】
本実施形態において、上記したイオン交換処理による化学強化に加え、物理強化を行なってもよい。物理強化の条件としては一般的な加熱及び冷却する強化方法でよく、例えば、特許第6769441号公報、国際公開第2014/030682号に記載の方法が挙げられる。
【0134】
本実施形態において、前記工程Aとして前記工程A’を含まない場合、すなわち前記融剤を無機塩組成物に含有させないでイオン交換を行う場合は、工程Aの後に、エッチング処理又は研磨処理を行うことが好ましい。
【0135】
(エッチング処理)
エッチング処理は、フッ酸(HF)、又はフッ酸と他の酸(例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸など)に化学強化ガラスを接触させることにより行う。エッチング処理方法としては、例えば、浸漬法、スプレー法、シャワーリング法等、公知の方法が挙げられ、浸漬法が好ましい。
【0136】
エッチング処理液におけるフッ酸の濃度は、エッチング量の時間管理を容易とする観点から、1~10質量%が好ましく、より好ましくは2~5質量%である。エッチング処理によるエッチング量は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは3μm以上であり、好ましくは10μm以下である。
【0137】
(研磨処理)
研磨処理は、研磨砥粒を含有する研磨スラリーを用いて行うことが好ましい。研磨砥粒としては、例えば、コロイダルシリカ、酸化セリウム、種々のガラス研磨剤(例えばスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂などの粒子)が挙げられ、コロイダルシリカが好ましい。平坦性をより高める観点から、研磨砥粒の直径は、5~300nmが好ましく、より好ましくは10~200nmである。
【0138】
研磨スラリーはいわゆる水系媒体が好ましく、スラリーは水を含有することが好ましい。また、水溶性のポリマー、オリゴマー、モノマーを含んでもよい。研磨スラリーのpHは、4~9が好ましい。研磨スラリー中の粒子の分散性を安定化させるため、各種分散剤を適宜添加してもよい。研磨スラリーの固形分濃度としては、0.0001~20質量%が好ましく、より好ましくは0.001~20質量%である。研磨処理による研磨砥粒の平均粒子径は、酸化セリウムの場合、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは以下順に1μm以上、2μm以上、3μm以上であり、また、10μm以下が好ましい。
【0139】
<<化学強化用ガラス>>
本製造方法においてイオン交換する化学強化用ガラスは、リチウム含有アルミノシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、またはソーダライムガラスである。リチウム含有アルミノシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、またはソーダライムガラスの好ましい組成としては、<化学強化ガラス>の<<組成>>の項において記載したものと同様である。すなわち、母組成が、酸化物基準のモル%表示で、SiO2を52~75%、Al2O3を1~20%、Na2Oを1~20%、含有することが好ましい。化学強化用ガラスの組成と該化学強化用ガラスを化学強化して得られる化学強化ガラスの母組成とは一致する。
【0140】
化学強化用ガラスの製造方法としては、所望の組成のガラスが得られるように、ガラス原料を適宜調合し、ガラス溶融窯で加熱溶融した後、バブリング、撹拌、清澄剤の添加等によりガラスを均質化し、所定の厚さのガラス板に成形し、徐冷する。またはブロック状に成形して徐冷した後に切断する方法で板状に成形してもよい。
【0141】
板状に成形する方法としては、例えば、フロート法、プレス法、フュージョン法及びダウンドロー法が挙げられる。特に、大型のガラス板を製造する場合は、フロート法が好ましい。また、フロート法以外の連続成形法、例えば、フュージョン法及びダウンドロー法が挙げられる。
【0142】
本製造方法により得られる化学強化ガラスは、表面圧縮応力CS0が400~1200MPa、圧縮応力層深さDOL-tailが2.7~30.0μm、表面からDOL-tailまでにおける応力プロファイルの平均傾きの絶対値が20~500MPa/μm、引張応力CTが1.0~16MPaであることが好ましい。かかる範囲を満たすことにより、優れた飛び石耐性、落球強度及び耐傷性を示す。
【0143】
また、化学強化用ガラスは、結晶化ガラスであってもよい。結晶化ガラスである場合には、ケイ酸リチウム結晶、アルミノケイ酸リチウム結晶、リン酸リチウム結晶からなる群から選ばれる1以上の結晶を含有する結晶化ガラスが好ましい。ケイ酸リチウム結晶としては、メタケイ酸リチウム結晶、ジケイ酸リチウム結晶等が好ましい。リン酸リチウム結晶としては、オルトリン酸リチウム結晶等が好ましい。アルミノケイ酸リチウム結晶としては、β-スポジュメン結晶、ペタライト結晶等が好ましい。
【0144】
結晶化ガラスの結晶化率は、機械的強度を高くするために10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましく、25%以上が特に好ましい。また、透明性を高くするために、70%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、50%以下が特に好ましい。結晶化率が小さいことは、加熱して曲げ成形等しやすい点でも優れている。結晶化率は、X線回折強度からリートベルト法で算出できる。リートベルト法については、日本結晶学会「結晶解析ハンドブック」編集委員会編、「結晶解析ハンドブック」(協立出版 1999年刊、p492~499)に記載されている。
【0145】
<太陽光発電モジュール>
上記した本化学強化ガラスは、優れた飛び石耐性、優れた雹耐性、落球強度及び耐傷性を示し、太陽光発電モジュールの部材として、好適に用い得る。本実施形態に係る太陽光発電モジュールは、受光面板と、太陽電池基板とを、受光面側から背面側に向けてこの順で積層されて含み、受光面板が本化学強化ガラスである。受光面板は、防水性や防火性、耐久性などを有する。受光面板は、太陽光に対して透光性を有する。受光面板を透過した光が、太陽電池セルに取り込まれる。
【0146】
本実施形態に係る太陽光発電モジュールの一態様としては、受光面板の受光面におけるGloss(20°)が、100%以上であり、好ましくは130%以上、より好ましくは150%以上、さらに好ましくは170%以上である。ガラスの一部に凹凸を生じるプロセスの場合、ガラスの表面に微小クラックが生じ落球強度が低下する。したがって、凹凸を生じない状態が好ましく、受光面におけるGloss(20°)が100%以上であることにより、より優れた落球強度を示す。
【0147】
本実施形態に係る太陽光発電モジュールの一態様としては、受光面板の受光面におけるGloss(60°)が、90%以上であり、好ましくは110%以上、より好ましくは130%以上、さらに好ましくは140%以上である。受光面におけるGloss(60°)が110%以上であることにより、微小クラックの発生を抑制して、より優れた落球強度を示す。
【0148】
本実施形態に係る太陽光発電モジュールの一態様としては、受光面板の受光面におけるGloss(85°)が、80%以上であり、好ましくは100%以上、より好ましくは120%以上である。受光面におけるGloss(85°)が100%以上であることにより、微小クラックの発生を抑制し、優れた落球強度を示す。
GlossはJISZ8741:1997に準じて測定できる。
【0149】
本受光面板の受光面における算術平均高さSaが、10nm以下であり、好ましくは5nm以下、より好ましくは2nm以下、さらに好ましくは1nm以下、特に好ましくは0.5以下である。受光面における算術平均高さSaが1nm以下であることにより、微小クラックの発生を抑制して、より優れた落球強度を示す。算術平均高さSaはレーザ顕微鏡により測定できる。
【0150】
本実施形態に係る太陽光発電モジュールは、受光面板の受光面における最大高さSzが好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下、さらに好ましくは1nm以下、特に好ましくは0.5nm以下である。受光面におけるSzが10nm以下であることにより、微小クラックの発生を抑制して、より優れた落球強度を示す。Szはレーザ顕微鏡により測定できる。
【0151】
本実施形態に係る太陽光発電モジュールは、受光面板の受光面における二乗平均平方根高さSqが好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下、さらに好ましくは1nm以下、特に好ましくは0.5nm以下である。受光面におけるSqが10nm以下であることにより、微小クラックの発生を抑制して、より優れた落球強度を示す。Sqはレーザ顕微鏡により測定できる。
【0152】
本実施形態に係る太陽光発電モジュールは、受光面板の受光面における山頂点の算術平均曲率Spcが好ましくは100nm以下、より好ましくは20nm以下、さらに好ましくは10nm以下、特に好ましくは5nm以下である。受光面におけるSpcが10nm以下であることにより、微小クラックの発生を抑制して、優れた落球強度を示す。Spcはレーザ顕微鏡により測定できる。
【0153】
本実施形態に係る太陽光発電モジュールは、受光面板の受光面における展開面積比Sdrが好ましくは0.02nm以下、より好ましくは0.01nm以下、さらに好ましくは0.001nm以下である。受光面におけるSdrが0.01nm以下であることにより、微小クラックの発生を抑制し、より優れた落球強度を示す。Sdrはレーザ顕微鏡により測定できる。
Sa、Sz,Sq,SpcおよびSdrはISO 25178に準じて測定できる
【0154】
本実施形態に係る太陽光発電モジュールは、受光面板の受光面におけるDOI(20)が、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは99%以上である。受光面におけるDOI(20)が70%以上であることにより、発電効率をより向上し得る。DOIはJIS K7374:2007に準じて測定できる。
【0155】
本実施形態に係る太陽光発電モジュールは、受光面板の受光面における反射ヘーズ値が好ましくは20%以下であり、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下、特に好ましくは1%以下である。受光面における反射ヘーズ値が1%以下であることにより、発電効率をより向上し得る。反射ヘーズ値は分光測色計(例えばコニカミノルタ製のRhopointIQシリーズ)を使うことにより測定できる。
【0156】
本実施形態に係る太陽光発電モジュールの一態様としては、受光面板の受光面における表面から深さ5μmまでの範囲におけるSnの含有量が、受光面板の受光面と対向する面における表面から深さ5μmまでの範囲におけるSnの含有量の10倍以上であり、好ましくは12倍以上、より好ましくは15倍以上である。上限は特に制限されないSnの含有量は、SEM-EDX(EPMA)により測定できる。受光面板の受光面における表面から深さ5μmまでの範囲におけるSnの含有量が、受光面板の受光面と対向する面における表面から深さ5μmまでの範囲におけるSnの含有量の10倍以上であることにより、落球強度を高め、雹などの天候や落下物に対し、優れた保護効果を示す。
【0157】
本実施形態に係る太陽光発電モジュールの一態様としては、受光面板の受光面におけるCS0と、受光面板の受光面と対向する面におけるCS0と、の差の絶対値が10MPa以上であり、好ましくは12MPa以上、より好ましくは15MPa以上、さらに好ましくは20MPa以上である。前記差の絶対値が10MPa以上であることにより、受光面における割れモードと受光面と対向する面における割れモードに適した圧縮応力を有し、優れた落球強度を示す。前記差の絶対値の上限は特に制限されない。
【0158】
本実施形態に係る太陽光発電モジュールの一態様としては、受光面板と、太陽電池基板と、背面板とを、受光面側から背面側に向けてこの順で積層されて含む太陽光発電モジュールであって、該背面板は、該受光面板より1mm以上厚みが薄いガラスである該背面板のガラスとしては、例えば、物理強化ガラスや化学強化ガラス、非強化ガラスが挙げられる。太陽光発電モジュールの重量や設置コストの観点から、該背面板の厚みは、該受光面板より好ましくは1mm以上薄く、より好ましくは2mm以上、さらに好ましくは3mm以上薄い。
【0159】
本実施形態に係る太陽光発電モジュールの受光面板の受光面には反射防止膜が形成されてもよい。受光面板における光反射が低減でき、太陽光の取り込み効率が向上できる。 受光面板の受光面には、反射防止膜に加えて、防眩膜が形成されてもよい。
【実施例】
【0160】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0161】
<化学強化用ガラスの作製>
酸化物基準のモル百分率表示で示した下記組成となるようにガラス原料を調合し、ガラスとして400gになるように秤量した。ついで、混合した原料を白金るつぼに入れ、1500~1700℃の電気炉に投入して3時間程度溶融し、脱泡し、均質化した。
硝材A:SiO2 66.2%、Al2O3 11.2%、MgO 3.1%、CaO 0.2%、ZrO2 1.3%、Y2O3 0.5%、Li2O 10.4%、Na2O 5.6%、K2O 1.5%
硝材B:SiO2 70.64%、Al2O3 1.08%、MgO 6.88%、CaO 8.26%、ZrO2 0.10%、Na2O 12.8%、K2O 0.2%
【0162】
表1及び2に示す例については、得られた溶融ガラスを金属型に流し込み、ガラス転移点より50℃程度高い温度に1時間保持した後、100℃/分の速度で室温まで冷却し、ガラスブロックを得た。得られたガラスブロックから、表1及び2に示す板厚(mm)×50mm×50mmのガラス板を作製した。
表3に示す例についてはフロート法により、表4に示す例についてはロールアウト法により成形したガラス板から、各表に示す板厚(mm)×50mm×50mmのガラス板を作製した。
【0163】
<化学強化処理および化学強化ガラスの評価>
上記で得られたガラス板を用いて、表1~4に示す条件で溶融塩組成物に浸漬させて、イオン交換処理を施し、以下の例1~32の化学強化ガラスを作製した。
【0164】
なお、例17、19、24、26及び30については、物理強化処理を行った後、表3又は4に示すイオン交換処理による化学強化を行った。物理強化処理はガラスの軟化点近傍まで約700℃まで温度を上昇させ、温度の安定後、風を当てて風冷強化した。
【0165】
例31については、表3に示すイオン交換処理で得られたガラスを60℃の6質量%のHNO3(硝酸)に10分間浸漬させ、酸処理を行い、その後純水で数回洗浄した後、エアブローにより乾燥した。こうして得られたガラスを60℃の4質量%のNaOH(水酸化ナトリウム)に10分間浸漬させてアルカリ処理を行い、その後純水で数回洗浄した後、エアブローにより乾燥した。
【0166】
例32については、表3に示すイオン交換処理を行った後、2質量%のフッ酸(HF)と15質量%の塩酸(HCL)の混合水溶液に浸漬させて、1μmのエッチング処理を行った。
【0167】
例3、10、14、21、22、25、29、31及び32が実施例であり、例4~9、11~13、15、16、17、18、20、23、24、27及び28は比較例である。表1~4において、「-」は未評価であることを示し、測定できないものは0として記載する。例1、2、19、26及び30は参考例である。
【0168】
得られた化学強化ガラスを以下の方法により評価した。結果を表1~4に示す。
【0169】
[散乱光光弾性応力計による応力測定]
散乱光光弾性応力計(折原製作所製SLP-2000)を用いて、国際公開第2018/056121号に記載の方法により化学強化ガラスの応力を測定した。また、散乱光光弾性応力計(折原製作所製SLP-2000)の付属ソフト[SlpV(Ver.2019.11.07.001)]を用いて、応力プロファイルを算出した。
【0170】
応力プロファイルを得るために使用した関数はσ(x)=[a1×erfc(a2×x)+a3×erfc(a4×x)+a5]である。ai(i=1~5)はフィッティングパラメータであり、erfcは相補誤差関数である。相補誤差関数は下記式によって定義される。
【0171】
【0172】
本明細書における評価では、得られた生データと上記の関数の残差二乗和を最小化することで、フィッティングパラメータを最適化した。測定処理条件は単発とし、測定領域処理調整項目は表面でエッジ法を、内部表面端は6.0μmを、内部左右端は自動を、内部深部端は自動(サンプル膜厚中央)を、そして位相曲線のサンプル厚さ中央迄延長はフィッティング曲線を、それぞれ指定選択した。
【0173】
また、同時に断面方向のアルカリ金属イオンの濃度分布(ナトリウムイオン及びカリウムイオン)の測定をSEM-EDX(EPMA)で行い、得られた応力プロファイルと矛盾がないことを確認した。
【0174】
また、得られた応力プロファイルから、上述した方法により圧縮応力CS、圧縮応力層深さDOLの値を算出した。
【0175】
各表において、各表記は以下を表す。
CS0:FSMにより測定したガラス表面における圧縮応力(MPa)
DOL:FSMにより測定した圧縮応力層深さ(μm)(直線近似)
DOL-tail:FSMにより測定した圧縮応力層深さ(μm)(曲線近似)
CTc:FSMにより測定した引張応力(MPa)
CS2:SLP-2000により測定したガラス表面における圧縮応力(MPa)
DOC:SLP-2000により測定した圧縮応力層深さ(μm)
CT:SLP-2000により測定した引張応力の最大値(MPa)
表層傾き絶対値:表面からDOL-tailまでにおける応力プロファイルの平均傾きの絶対値(MPa/μm)
深層傾き50~DOC平均値:表面からの深さ50μmからDOCまでにおける応力プロファイルの平均傾きの絶対値(MPa/μm)
深層傾き400~t/2平均値:表面からの深さ400μmから板厚中心部までにおけ る応力プロファイルの平均傾きの絶対値(MPa/μm)
ICT:引張応力CTの積分値(MPa・μm)
受光面側:ガラスを太陽光発電モジュールの受光面板として用いる場合における受光面 太陽電池側:ガラスを太陽光発電モジュールの受光面板として用いる場合における受光面に対向する面
最大クラック深さ:飛び石試験を実施し割れなかったサンプルの最も深い亀裂の表面からの位置を計測した値についてのサンプル間の平均値(μm)
最小アレストライン深さ:飛び石試験時の石衝突により亀裂が進展・停止を繰り返す中で、初めに亀裂が停止した位置(μm)
最大アレストライン深さ:飛び石試験時の石衝突により亀裂が進展・停止を繰り返す中で、最後に亀裂が停止した位置(μm)
破壊起点:飛び石がガラスに衝突地点と破壊起点が異なる場合に衝突点遠方とする。
【0176】
化学強化ガラス(例1~9)の応力プロファイルを
図3の(a)~(f)に示す。
図3の(a)及び(d)はFSMによる測定結果、
図3の(b)、(c)、(e)及び(f)はSLPによる測定結果を示す。
【0177】
[飛び石試験]
ISO 20567-1 Test Method Bの強度試験方法に準じて、下記条件にて飛び石試験を行い、割れ発生率を算出した(n≧3)。割れ発生率について、表1及び2においては下記指標により評価した。また、飛び石試験を実施したガラスを顕微鏡(キーエンス社VK-X3000及びVHX-5000)にて観察し、最大傷深さ、傷面積の割合を算出した。
(条件)
飛び石:チルドアイアングリット
石サイズ:3.55-5mm
射出量:500g
射出圧力:200kPa
サンプル設置角度:54°
射出時間:8-12s
射出回数:2
サンプル衝突面積:40×40mm
また、割れ発生率、最大傷深さ、傷面積については以下のように算出した。
(割れ発生率)
割れ発生率:飛び石試験で割れたサンプル数/全評価サンプル数
サンプル割れの判定:飛び石試験後のサンプル表面の個々の傷の範囲を超えて広がる亀裂が存在すること。
(最大傷深さ)
評価する傷の選定:飛び石試験後のサンプル表面に残った多数の傷の中から、目視で大きい傷を三点以上選定した。
傷深さ計測:白色干渉計搭載レーザ顕微鏡VK-X3000(キーエンス社製)を使用し、選定した傷の微細形状をレーザでスキャンし、最も深い場所の深さ記録した。
最大傷深さ:計測した複数の傷深さのうち、最も大きい数値を最大傷深さとした。
(傷面積)
計測範囲:サンプル中央の35×35mmの範囲
画像撮影:顕微鏡VHX-5000(キーエンス社製)を使用し、同軸落射光源のもとで飛び石試験後のサンプルの画像を撮影した。
傷の抽出と面積:VHX-5000(キーエンス社製)を使用し、撮影した画像を輝度で二値化処理を行い、サンプル表面の傷を抽出し、傷の総面積を計測範囲面積で除したものを傷面積とした。
(評価指標)
A:割れ発生率が0%かつ傷面積が6%以下
B:割れ発生率が0%かつ傷面積が6%超
C:割れ発生率が0%超20%以下かつ傷面積が6%以下
D:割れ発生率が0%超20%以下かつ傷面積が6%超
E:割れ発生率が20%超100%以下
【0178】
[破壊強度]
破壊強度は、次の方法により測定した。例2、4及び7~9の飛び石試験を実施したサンプルに対して、最大クラック深さ、最小アレストライン深さ、最大アレストライン深さをそれぞれ計測した。結果を表1及び表2に示す。
【0179】
例1、2、7、15の飛び石試験を実施したサンプル外観をデジタルカメラ(キヤノン社製EOS Kiss X6i)にて撮影した図を
図4に示す。
【0180】
[落球強度]
落球強度は、次の方法により測定した。
表1及び2については、前記化学強化ガラスからなる板厚3.2mmのガラス基板に500gの鉄球を落下させて、順次落下高さを増加させて該ガラス基板が破壊するまで試験を行い、破壊した時の落下高さを測定し、5枚の試験片に対して割れた高さの平均値を落球強度とした。落球強度の評価は、◎:平均割れ高さが60cm以上、〇:平均割れ高さが40cm以上60cm未満、△:平均割れ高さが20cm以上40cm未満、×:平均割れ高さが20cm未満、とした。
【0181】
表3及び表4については、前記化学強化ガラスからなる板厚3.2mmのガラス基板に500gの鉄球、900gの鉄球を落下させて、順次落下高さを増加させて該ガラス基板が破壊するまで試験を行い、破壊した時の落下高さを測定し、5枚の試験片に対して割れた高さの平均値を落球強度とした。また、前記ガラス基板に500gの鉄球、900gの鉄球を落下させて、5枚の試験片に対して割れた時のエネルギーの平均値を、各落球の質量×g×高さの式により求め、衝突エネルギーとした。
【0182】
表3及び表4については、前記化学強化ガラスからなる板厚3.2mmのガラス基板に下記試験方法により氷玉(直径55mm、65mm又は75mm)を衝突させた。5枚の試験片に対して試験を行い、割れ発生率を求めた。
方法:氷玉を100mm×100mmのガラスに衝突させる。
各直径の氷玉の落下速度及びエネルギーは下記の通りである。
直径55mmの氷玉:落下速度33.9m/s、エネルギー46J
直径65mmの氷玉:落下速度36.7m/s、エネルギー89J
直径75mmの氷玉:落下速度39.5m/s、エネルギー158J
【0183】
[外観特性]
Gloss、DOI(像鮮明度)、反射ヘーズ値は、アピアランスアナライザー(Rhopoint IQ、コニカミノルタ社製)を用いて下記方法により測定した。
(Gloss)
GlossはJISZ8741:1997に準じて入射角20°、60°、85°で測定した。
(DOI)
像鮮明度(DOI(20))はJISK 7374:2007に準じて測定した。
(反射ヘーズ値)
反射ヘーズ値は、コニカミノルタ製のRhopointIQシリーズを使い測定した。
【0184】
[変角光度計による評価]
は、変角光度計(GC5000L、日本電色工業社製)を用いて下記方法により測定した。
(0deg透過)
0deg透過の値は、基板に垂直に透過する輝度を測定し標準透明基板と比較した値とした。「Total」の値は-90°から+90°の範囲で受光部を変化させて輝度分布を測定し算出した。
表3及び4における解像度指標値Tの値は、日本国特許第5867649号公報に記載の方法に従い測定した。
(45deg反射)
45deg反射の値は、基板に対して45°の角度で入射する光の正反射輝度を測定し標準基板と比較した相対輝度比とした。「Total」の値は0°から+90°の範囲で受光部を変化させて輝度分布を測定し算出した。表3及び4における反射像拡散性指標値Rの値は、特許第5867649号公報に記載の方法に従い測定した。
【0185】
[双方向反射率分布関数(BRDF)]
BRDFの値は、(イメージセンサ型3D BRDF/BTDF 測定器シリーズ Mini-Diff V2、Synopsys社製)を用いて、光源色Green(中心波長525nm)にて、黒フェルト(反射率約0%)上に設置し、ガラス単体(評価面積は20mm×20mm)として裏面反射を含むようにして測定した。入射角0°、20°、40°、60°において輝度が半値を示す立体角度幅を測定した。
【0186】
[表面粗さ]
Sa、Szの値は、レーザ顕微鏡(キーエンス社、VK-X3000、レーザ顕微鏡モード)により、×10、3mm×3mmにて、下記条件により測定した。
・Zステップ=0.1nmの分解能出力データ(Zステップ=3μmで実測、RPD2モードによる補完あり)
・4mm×3mmの視野(対物レンズ×10、連結モード3×3視野を測定)
・XYステップ≒2.8umの空間分解能、約1405×1054ピクセル画像
【0187】
[マルテンス硬度]
測定装置として、HM500のPICODENTOR(登録商標)を用いて、下記条件により、ガラス板中心およびその近傍の合計3箇所について測定し、3箇所の測定値の平均を、マルテンス硬度とした。
押し込み荷重:500mN
保持時間:5秒間
負荷速度および除荷速度:100mN/秒
【0188】
[水素濃度]
前述の〔水素濃度プロファイル測定方法〕にて記載した方法に従い、水素濃度プロファイルを測定し、関係式〔I〕を導出した。例21および例31の水素濃度プロファイルを測定した結果、例21ではaが-0.166、bが0.134、例31ではaが0.003、bが0.016であった。
【0189】
[研磨傷]
研磨傷の有無はAFM(Atomic Force Microscope;原子間力顕微鏡)による表面観察によって判別した。例31について表面傷を観察した結果、10μm×5μm領域内に長さ5μm以上幅0.1μm以上のスクラッチが2本以上存在せず、表面に研磨傷がない状態であった。
【0190】
[表面粗さ(Ra)]
表面粗さRaは下記測定条件によりAFMを用いて測定した。
AFM測定条件:Atomic Force Microscope(XE-HDM;Park systems社製)、スキャンサイズ:1μm×1μm、カラースケール:±1nm、スキャン速度:1Hz。
例31についてRaを測定した結果、0.40nm以上であった。
【0191】
【0192】
【0193】
【0194】
【0195】
表1~4及び並びに
図4に示すように、実施例である
例3、10、14
、21、22、25
、29、31及び32は、比較例と比較して、優れた飛び石耐性、落球強度及び耐傷性を示した。A’工程を行なった例31、及びA工程後にエッチング処理を行った例32は、より優れた落球強度を示した。また、
参考例である例2は比較例である例7、8及び9に対して優れた破壊強度を示した。
【0196】
なお、本出願は、2022年11月15日出願の日本特願2022-182870、2023年3月29日出願の日本特許出願2023-54157、2023年9月29日出願の日本特許出願2023-170427に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0197】
1 保護部材
2 指示部
5 実装部
10 保護ガラス
20 センサ
30 カメラ
【要約】
板厚が2mm超であり、表面圧縮応力CS0が400~1200MPa、圧縮応力層深さDOL-tailが2.7~30.0μm、表面からDOL-tailまでにおける応力プロファイルの平均傾きの絶対値が20~500MPa/μm、引張応力CTが1.0~16MPaである化学強化ガラス、並びに板厚2mm超の化学強化用ガラスに、硝酸カリウムを80質量%以上含有する無機塩組成物と接触させてイオン交換することを含む、化学強化ガラスの製造方法。